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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」
Name: ここち◆92520f4f ID:81c89851 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/08 21:39
「あの、青瓢箪め!」

ドクターの怒声と共に突き出された拳が、壁に嵌め込まれたモニターに突き刺さる。
ドクターは研究や開発の時、機材をかなりの割合で自分で運ぶ為、この時代の分厚いガラスモニターをパンチ一発で叩き割る事が可能なのだ。
まぁ、大型機械の組み立てなどの時は自作のオートマトンを使用してるので、それほど異常な腕力を持っている訳でも無いのだが。

「荒れてるねぇ」

俺の隣でキーボードをべしべし叩いていた美鳥の言葉に肩を竦める。

「何時も何らかの理由で荒ぶりっぱなしな気もするがな」

ここでのドクターの怒りは、実はあまり理解できない。
ドクターはアルアジフの断片集めを雑用と斬って捨てているが、C計画の要となる魔導書を完全な物にする作業ともなれば、ブラックロッジの一大プロジェクトの中枢も同然。
結局の所アルアジフの役目は大導師とナコト写本が代役を務める事になるのだが、その未来を知らなければ大役を任されたと喜んでも良い程だろう。

「この恨みは百倍、千倍、いやいや万倍にして返してやるのであーるっ! 利子も十一程度では決して済まさない所存、返済方法はもちろん賭博。孤立という沼にズブズブと嵌まって行くが良いわっ!」

全身で怒りの感情を表現し、手にしたギターで周囲の機材に八つ当たり。
因みに今ギターの強度に負けて真っ二つになったタワータイプのマシン、この世界のこの時代では普通に人生が買えちゃう値段の高級機である。
流石大天才ともなると八つ当たりの規模も違う。あとギターの強度も違う。
が、これ以上暴れられると新しい機材を運び込む下っ端の皆さんが可哀想なので、軽くフォローを入れておく事にする。

「だったら丁度いい任務じゃないですか」

「ワッツ? 貴様は何を言っているのであるか? よりにもよって古本どころか古本の切り抜きスクラップ集めなど、この大天才にやらせるまでも無く雑誌の切り抜き以外に趣味の無い可哀そーうな貧乏学生にでもやらせるべき雑用ではないか!」

予備のモニターに突き刺さったギターを引き抜こうとする姿勢のまま振り返り首をぐりんぐりん廻して荒ぶるドクター。
ドクター程の天才であればさっさと気付いてもいいと思うのだが。
ていうか、暇な大学生である大十字も断片集めには参加してるけどな、覇道財閥側だけど。
大体ドクターの貧乏学生のイメージはおかしい。
普通の貧乏学生の経済状況なぞ知らんが、少なくとも大十字は雑誌の定期購読とか無理だったから、たぶん貧乏学生の趣味で雑誌のスクラップは難しいぞ。

「どうせ、連中も戦力アップの為に断片の回収を始めている事でしょう。となれば、任務の途中で鉢合わせて敵対するは自明の理、というもの」

「む」

言いたい事は分かるけど、もうちょっとkwsk、みたいな顔のドクターに、美鳥が俺の言葉の後を継ぐ。

「断片巡って戦闘となりゃ、ドクは破壊ロボ出すだろ? んで勿論街は壊れる。そうすりゃ、正義感の強い連中は嫌でもデモンベインを出してくるって訳さ」

「ほうほう、ふふん、なるほどなるほど?」

興味を引かれた風のドクター。
言いたい事も続きも分かるけど、あえて俺達に言わせたい的な雰囲気。

「そこでドクターの破壊ロボが徹底的にあのデモンベインを破壊してやれば、連中はまともに戦えなくなってアルアジフの回収も楽になるし、雪辱も晴らせる。挙句の果てに大導師に見直して貰えて超お得」

「そんな超重要な任務を任されちゃうなんて、さすが天才だなーあこがれちゃうなー」

「んふっ、やはりそう思うであるか? んっんうん。まぁ? 我輩程の天才ともなればあの青瓢箪の様な哀れな凡人に妬まれて捻くれた伝言ゲームをされてしまうのも仕方の無い事ではあるな!」

美鳥と連携して次々とドクターを囃し立てると、ドクターは鼻の穴をひくひくと広げ、ニヤケ笑いを堪える事も無く気持の悪い吐息と共に何時もの調子を取り戻した。
やっぱりこういうタイプの人は煽てて調子に乗らせる方が使いやすくていいなぁ。

「と、そういえば、調整はどの程度まで進んでいる?」

一瞬、ほんの少しだけまともな表情に戻るドクター。
調整とは手っ取り早く言えば、現在進行形で製造中の人造人間に搭載されるAIのバグ取りだ。
勿論ドクターはソフトの面でも天才ではあるのだが、デモンベインに雪辱を晴らす為に破壊ロボの改造に力を入れている為、俺達がヘルプに入っている。
初めはドクターも此方の腕を疑って渋ったのだが、レイやフォロン、オモイカネにペガスなどのAIを『自作です』と偽って見せた所、背に腹は代えられないと了承してくれたのだ。
これでAIの方にちょちょいと細工を施しておいて、俺のメカポが通り易くしておけば、後々正体を隠して活動する時もやり易くなるというもの。

「叩けば叩く程バグが吐き出されてくる感じですね」

「人格面だけで言えばそっちの方が味わい深くもあるんだけど、ボディの制御関連にまでバグがあったら死活問題だしな」

ぶっちゃけ、バグが無くてもドクターを殴り殺す程度の事はしてのけるんだけど、そこはドクターの希望通りの設定なので何一つ問題ありません。

「ふむ、精々この天才の為に働ける事を誇りに思うがいい。どうせ貴様等兄妹は矢面に立つ積もりはないのであろう?」

「鱒照りの指示がありゃアメリカ大陸だってふっ飛ばしてみせるけどなー」

「生憎と、俺達は現状休暇を頂いているようなものですからね。裏方としてサポートさせて頂きますよ」

―――――――――――――――――――

宙に投影された映像が途切れ、玉座の間には常の通り、闇の気配が薄暗く胎動する気配が戻る。
松明のみが照らす薄暗闇。

「本当に宜しいのですか?」

冷たい空気の中、ドクターウェストにスクリーン越しに指示を出していた、白い肌に紫のスーツを身に纏った黒髪赤目のグラマラスな女性──アウグストゥスが、玉座に座る大導師に振り返る。

「構わぬ。案ずるなアウグストゥス、貴公が思うよりも、ウェストは仕事を上手くこなす女だ」

ウェストに指示を出すアウグストゥスと、スクリーンの向こうで唾を飛ばして激昂していたウェストに愉快そうな視線を送っていた大導師が、膝に凭れ掛ったエセルドレーダの頭を撫ぜながらウェストを弁護する。
だが、アウグストゥスも不満の色を隠さない。

「確かに、科学者として見れば。破壊ロボの製造に関して、彼女は良くやっています。ですが彼女は狂人です」

ドクターへの侮蔑すらこめたアウグストゥスの言葉。
選民思想のあるアウグストゥスからすると、ウェストの品性はその才能で補うには余りにも下劣過ぎるのだ。

「あははははは!」

だが、そんなアウグストゥスの心根を鑑みる事も無く、大導師は目元に涙さえ浮かべ、天を仰いで笑い出した。
暫く笑った後、子供の様な手つきでごしごしと涙をぬぐい、ようやくアウグストゥスに視線を合わせる。

「魔術師が人の事を指して狂人だなど、あははっ、貴公も中々に愉快な冗談が言えるではないか」

「からかわないでください、大導師。この任務はドクターには不向きです。せめて、鳴無兄妹をお目付け役に」

アウグストゥスが知る限り、鳴無兄妹は上からの命令以外で唯一ドクターの行動指針を調整できる稀有な人材である。
特に何処の部署に所属している訳でも無く、また、大導師直々にその自由な立場を許されているだけあって顔も広く、逆十字の一部とも交流がある。
結社に入り二年程度の新人ではあるが、その能力の高さを評価する者は逆十字を含めて多く存在する。
本人達は手柄を立てずに人のサポートに回る事で消極的に実力を隠しているが、いざという時にドクターを確実に止められるだけの力がある事は一部では知れ渡っており、ともすれば親しい人物の殺害も躊躇わない人間性も匂わせる。
ブラックロッジの中でも高い位階に居る者の多くからは、有用な駒として評価が高い。

「いや、卓也と美鳥には、余が既に別命を下してある」

きっぱりと断言する大導師に、アウグストゥスは僅かな驚きの籠った視線と声を投げかける。

「大導師が、直々に?」

それは、滅多に有り得ない事だ。
大導師から直接の命令ともなれば、今回のアルアジフの捜索任務の様な、ブラクックロッジの一大プロジェクトに関わるものばかり。
その様な命令を、逆十字にすら知らせずに、秘密裏に新人の団員に下すなど。

「そうだ。あの二人はとても、とても重要な任務の最中だから、決して邪魔をしないように。──わかったな? アウグストゥス」

「──は」

有無を言わせぬ微笑に、アウグストゥスはただただ頭を下げて頷く事しか出来ないのであった。

―――――――――――――――――――

△月×日(所詮)

『シスコンはシスコン、シスターリューカもまた、ブラックロッジの戦士として戦い続けるメタトロン(たぶんライガとかライガーとかそんな名前なのだろう。村正世界で食べた文明堂のカステラの味を思い出す名前だ)への執着は消えまい』
『常のループではシスターライカ事メタトロンが大十字をブラックロッジとの闘争から遠ざけようと襲いかかる確率は割と低いが、ここのシスターリューカであれば、確実に大十字に警告を与えてくれるだろう』

『ここで何故ブラックロッジと戦うのかとか、そういう決意を固める事で大十字はより強く逞しく生まれ変わる』
『アーカムを守る機械天使の殺人予告のお陰で、貧弱だったボディがムキムキに、背も80センチ伸び、ついでに成績も大幅アップ、女の子にもモテモテ!』
『む、つまりはレズか。同性愛はいかんぞ同性愛は、非生産的な』
『サンダルの説教はともかく、そこら辺はきっちり大十字にそれとなく言い聞かせておかなければなるまい』
『どうせ過去に降りてからも生涯独身だろうけどな』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

アーカムシティ、大十字の修業の帰り道。
俺の隣に美鳥、その向こうに大十字、そのぴったりすぐ後ろにアルアジフ。
他の通行人の邪魔にならない程度に纏まって歩いている。
一見して、俺達はどの様な集まりに見えるだろう。
俺と大十字であれば同年代に見えるから、まぁ学校の同級生か友人か。
が、そこにアルアジフだ。ロリだろうがショタだろうが、大学生程度の年齢の男女の後ろにぴったりとくっついて歩いているのは目立つだろう。
美鳥もいい加減最適化が進んでハイティーン程度には見えるサイズになったが、日本人らしい顔のつくりをしているのでだいぶ幼く見える。アメリカ的に大学生として見られるかは微妙なところだ。
実に奇妙なパーティーである。周囲の通行人が絶妙な距離感でこちらから距離を取っているのは決して気のせいでは無いだろう。
ふと、頭にある考えが浮かぶ。
日も沈みかけ、赤に近い橙色に染まった空を見上げ、溜息を吐く。

「なぁ美鳥、バズの魔法はバズーカで、サーベの魔法はサーベルだよな。……ルフィラーって何だ?」

「ごめん、めちゃくちゃどうでもいいから記憶の隅にすら存在しないよ。調べた記憶も無いし」

そりゃそうか、姉さんも魔法の効果は覚えてても由来を知ってるとは限らないものな。
美鳥に至っては調べる切っ掛けすら無いだろうし。

「先輩はどう思います?」

「すまん、私にはそもそもお前が何を言ってるのかビタ一わからん」

二人とも首を横に振る。困った話だ。
こんな些細な疑問、元の世界ならネットでちょちょいと検索すればすぐに答えが手に入るのに。
この世界じゃ、きっと答えは手に入らないだろう。
そして気になって夜も眠れず、一晩中姉さんの寝顔を観察し続ける甘美な時間を味わえる。
一晩中、姉さんの愛らしくも蟲惑的な寝顔を、じっくりと、しかし決してぺろぺろしたりせず、眺めるだけ。

「そう考えると、やっぱりこの世界は……最高ですよね」

元の世界じゃ、よっぽど時間がある時でもなきゃ手が伸びちゃうものな。
でも、エロい事するのはちゃんと姉さんが起きてる時だけにしている。
だってリアクション在った方が嬉しいじゃないか!
いや、眠ってる時に身体の局部を触った時の寝ぼけたリアクションも子供っぽくて好きなんだけど、それでもやっぱりコミュニケーションの一貫でもある訳だし。
自分以外に対するあらゆるアクションってのは、例外無く対象のリアクションを求めてのものだろう?

そんな事を考えていると、大十字は自らの口元を手で押さえ、何かに気付いたかのような表情で呟いた。

「……まさか卓也お前、黄金の蜂蜜酒の飲み過ぎで頭が……?」

霊酒や霊薬は用法容量を守って正しくお使い下さい。

「てめーは今すぐシュリュズベリィ先生の居る方角目掛けて全裸土下座するべき」

美鳥が平手で大十字の頭を軽く叩き、明後日の方向(多分今シュリュズベリィ先生が居る方向だろう)を指差す。
まぁ常用して無い俺が中毒起こすなら、シュリュズベリィ先生とか脳味噌スカスカになってないとおかしいもんな。

「いえ、別にアル中とかじゃないんで安心してください。ちょっと予想外の展開で思考が逸れてたもので……」

俺の言葉に、大十字は『あぁ……』と納得した顔を見せる。

「確かに、修行中にサンダルフォンが現れるなんて、普通は想像もしないよな。普段は破壊ロボが出た時位しか姿を見せないし」

「あの恰好でごく自然に街中を闊歩されても困るけどなー。羽根邪魔だし」

「あれ、でもあの羽根って飛んで無い時は消えてないか?」

「ありゃ魔術文字に分解して体内に格納しているんでしょう」

「お主、良くそんな事が分かるな」

「一応、羽根つうかスラスターを隠す時に魔術文字の形に分解されて、実体は字祷素に還元されるのが目視できますよ」

宇宙刑事の変身ポーズがちゃんと十秒前後に見える程度の動体視力が必要だけど。

……そう、確かに、修行を続ける俺達の前にサンダルフォンは現れ、忠告を残して行った。
だが、それは大十字が戦うのを止めるものではなく、あくまでも大十字がブラックロッジと戦う事を前提としたものだったのだ。

―――――――――――――――――――

突然、ミスカトニックの時計塔の上で修業していた私達の目の前に現れたサンダルフォン。

『私と同じタイプの白い改造人間、奴には気をつける事だ。……あれは、下手をすれば、ドクターウェストよりも話が通じない』

彼女の残した幾つかの情報は、役に立つのか立たないのか、非常に判断に困る内容のものだった。
いや、情報を渡したというよりも、私達に対する忠告だったのかもしれない。

『だから、あれは私が倒す。君は、手を出さないでいた方がいい』

本人がそれを自覚していたかと言われると、少し疑問だ。
黒い仮面に覆われた彼女の表情は読めなかったけど、それでも、彼女が白い天使、メタトロンを倒す事に対して強い執着を持っている事だけは伝わってきた。
同時に、私の身を案じて忠告してもいるのだと感じた。

彼女はたぶん、とても優しい人なのだろう。
卓也が言うには、武道家というのはえてして不器用な生き物で、戦う事でしか己の感情を表現する事ができないのだという。
メタトロンの事を語るサンダルフォンの佇まいには、怒りの感情とは別に、何か、後悔にも似た後ろ暗さがあった。
抱きしめたいけど、もう抱きしめてはいけない、抱きしめる事は出来ない。
向ける先の無くなってしまった特別な優しさが、彼女の中で渦を巻き、淀み、複雑で混沌とした何かに変わってしまった。
優しさを、愛情を向けたかった、向けていた相手に、今は拳を向ける事しかできない。

……勿論、ここまでのサンダルフォンとメタトロンの間に渦巻く感情とかは全て私の想像にすぎない。

修行中、高速回転する鋸の刃が目前まで近づいたと思っていたらベンチに寝かされていただとか、
鋼鉄の糸に絡み取られて呼吸が難しくなり、気が付いたら卓也達の持ってきた枕に頭を乗せて寝かされていたとか、
赤いロボにマグラッシュされたと思ったら、卓也がほぼ全裸の私の身体に治療用のお札をぺたぺた張り付けていたとか、
確実に実になるけどリターンが釣り合わないリスクに溢れた修行を中断し休ませてくれたサンダルフォンがリアル天使に見えて、脳内で設定捏造して美化しているだけとも言える。

うん、ぶっちゃけた話、サンダルフォンの忠告とか、休むのに忙しくて半分くらい聞き逃してたと思う。
何が言いたいかって言うと、

「でもさ、予想外ではあったけど、あのタイミングで休憩を挟むのはありだと思わないか?」

これに尽きる。
アルも卓也も美鳥も、基本的に修行が始まったらそう長くは休憩時間を取らせてくれないのだ。
そんな私の修業はこうだ。
朝、大学なら最初の講義が始まる時間に時計塔の屋上に集合。
先ず準備運動も兼ねて、アルが平均的な修行を施す。
やや本気のナイトゴーントと午前中一杯組手。
最終的にスタミナの差でボコボコにされるので、お昼ごはん(卓也と美鳥が作って来てくれる。ありがたい)を食べながら治癒術式を使用して貰う。
お昼ごはんを食べ終え、卓也と美鳥がページモンスターや逆十字を想定したやや強烈な修行。
これは基本的にほぼ負ける。というか、午前中の修業が私がギリギリ勝てない程度の修業なら、午後のこの修業は私のレベルをあまり考慮しない修行なのだ。
この修行の途中『あ、私死んだ』みたいな予感と共に、回避できない仮想敵の攻撃を前に意識が飛ぶ。
で、基本的に次に目が覚めた時は寝かされてるから青空が見えるんだけど、偶に、

『おお、やはり科学の力は偉大、細胞賦活ナノマシン経過良好、魔法よりも科学こそ上等。無事生き返りもとい、眼を覚ましましたね先輩。ご無事で何よりです』

とか微妙に韻を踏む台詞を呟く卓也の顔とか、

『んん~? 間違えたかな……お、成功した成功した。流石KAIHATURYOKUともなると5秒で作った蘇生魔法でも効果が違うね。お早うネオ大十字、命の恩人たるあたしを存分に褒め称えるといい』

明らかに確信犯、といった表情で首を傾げる美鳥の顔が見えたりもするのだ。
……戦いよりも先に修行中に命が散っている気がするのだが、本来なら止めるべきアルまでもが、

『ふむ、これほどまで高度な治癒魔法が可能とは。修行のペースを上げても大丈夫そうだな』

などと言い出す始末。
身体が持たない訳では無い。修行が終わった後の体調は何故かすこぶる良い。
かといって、治療の時に卓也やアルに裸を見られるのが恥ずかしい訳でも無い。その手の羞恥心はフィールドワークで掻き捨てている。
が、しかし。しかし、だ。

「ほら、なんつうかさ、あるだろ? こう、人間としてというか、乙女としての尊厳というか」

恥を忍んで情けを買えるだけ買う為に、自分が女であるという主張もしておく。
すると、一秒の間も置かずに全員が反応した。

「ほう、乙女とな。…………乙女のう」

真偽を疑う眼差しのアル。
何か文句でもあるのかこいつは、自慢じゃないが男との交流とか殆ど無いぞ。
いや、むしろ男と交流無さ過ぎてホルモンバランス崩れてるのではないか?とか言いたいのか、って、被害妄想はやめよう。

「乙-HiME? 乙式はともかく、普通の高次物質化能力は大十字なら頑張れば真似できるんじゃね? こう、招喚した神性の分霊をぎゅってして適当な形に固めてだな……」

身ぶり手ぶりを加えながら高次物質化能力なるものの説明をする美鳥。乙女は何処行った。
少なくとも乙女の定義に高次物質化能力なんてややこしそうな専門用語は必要無いだろう。
あれか、私の口から乙女という単語が出てくるとは思わなかったのかちくしょう。

「酔ってないと言い張るのは酔っ払いで、自称天然は計算高い。あくまでも一般論ですが、先輩はどう思います?」

生暖かい視線を送りながら遠まわしに鼻で笑う卓也。
うん、おーけーおーけー、お前が私の事をどう見てるかはよくわかった。

「よしわかった、一番殴られたいのはお前だな?」

腕まくりをして拳を振り上げる。三人の中で一番直な事を言ったのは間違いなく卓也だろう。
が、振りあげた拳はやんわりと私の手首を掴む卓也の腕力のせいで一向に振り下ろす事ができない。

「先輩、どうどう」

「私は馬か!」

「落ち着け、あまり騒ぐと無駄に周囲の視線を集める事になるぞ」

アルに窘められ、私は拳を緩めて乱暴に卓也の手を振り払う。
私が拳を振るわないと決めた時点で力は緩められていたのか、卓也の指は簡単に私の手首を解放した。
絶妙な力加減だったのか、手首に痕の一つも残っていないのが逆に腹立たしい。
ああ、もう、人が恥を忍んで可能な限りの乙女アピールをしたってのに。

「や、実際問題、乙女と修行を嫌がる事のどこら辺が繋がるかとか、さっぱりわからんのよ」

手首を擦りながらぶちぶち愚痴をこぼしていると、美鳥が珍しく本気で理解できないといった口調でそんな事を口にする。
私はさするまでも無く痛みも無い手首を撫でるのを止め、両手の指を組んで人差し指だけを互い違いに廻し、美鳥と同じく理解できないといった風の表情の卓也とアルからも視線をそらしそっぽを向いて、休憩を挟みたい理由を告げた。

「別に、修行自体を嫌がってる訳じゃない。……普通、見られたくないもんなんだよ。切り傷の断面だの、全身ケロイド火傷だの、そういう姿、女ってのは」

しかも傷の具合を見ながらじっくり治療をされている訳だ。意識が無い状態で。
考えようによっては裸を見られるよりもよほど恥ずかしい。
美鳥ならまだいい。変態ではあるけど、一応同性だし、変態性も卓也に向けられるだけで私に害がある変態じゃない。
アルも別に構わない。正直脱いで股間のガネーシャを直視しない限り間違っても男には見えないので、気にならない。
が、卓也は駄目だ。
私がちらりと脇目に視線を卓也に向ける

「卓也、確かにお前は先輩に対する礼儀とか欠如してる以外は割かし紳士的だし、男の中では珍しく私に一切、欠片も、不能かって疑う程に嫌らしい視線を向けないさ。傷を見ても顔をしかめもしないってのも、在り難い。でもな」

「でも?」

私が一旦言葉を区切ると、卓也は理解できない、といった風の間抜けな表情で続きを促した。
向けられるのは鋭くも邪気の無い視線だ。
だけど、この先の答えを言いあぐねている私からすれば、その邪気の無さは逆に堪える。

「だからな、なんつうか、あれだよ」

「どっれっだっよっ」

美鳥うるさい。黙れ指差して笑うな。

「結局何なんです?」

ほんの少し、何時もよりもほんの少しだけ面倒臭そうな卓也の声。
ああ、糞っ!

「だから! 歳が近いお前に! 裸くらいならともかく! ああいうとこ見られるのは! そっちが気にしなくてもこっちが恥ずかしいって話なんだよ! 言わせんな恥ずかしい!」

通り一体に響く声で叫ぶ。喉が痛い。
私の叫び声に反応してか、一瞬だけ通りの喧騒がぴたりと止んだ。
数秒もすると、また通りは夕暮れの喧騒に包まれる。道行く人は知らんぷり。
いや、知らんぷりしているか?
あちこちから『アラヤダ』『チワゲンカカシラ』『アラヤダ』『アラアラ』『ウフフ』などと此方を噂する声が聞こえ、好奇の視線も集まっている気がする。
やっちまった……。顔が熱い。

「ええと、落ち付きました?」

「う」

気遣わしげな卓也の声に小さく頷く。
フォローを期待してアルに視線を送ると、やれやれといった顔で肩を竦め首を振った。

「つまり我が主は、修行中に気絶したなら一旦修行を中断して、お主ではなく妹の方に治療をさせて欲しい、と言いたいのだろうよ」

なるほど、確かに乙女だ。
そんなアルの言葉に、私は女としては高い背を縮こませ、ますます小さくなるしか無い。

確かに、卓也は自分から率先して私の修業を見てくれている。
が、それは私にとっても渡りに船の美味しい話だったし、修行を付けて貰っている側である私が『修行を緩めてくれ』というのは、些か筋が通らない話になってしまう。
しかも、修行がきついとかそういう理由ではなく、私の羞恥心から来るお願いなのだ。
言うなら今しかない、とは思いつつ、勢い任せに恥を欠いた言動をしてしまったのではないか。そんな考えが少しだけ頭に浮かぶ。

「駄目、か?」

上目使い気味に卓也に視線を向ける。
基本的に修行に関しては卓也が主導、美鳥は卓也に倣って私に修行を付けているも同然。
アルも卓也の修業に反対こそしていないが、元を正せば自分一人で私に修行をつけるつもりだったらしいから、きっと特に反対もしないだろう。
つまり、キツくて治療が恥ずかしい方の修業に関しては、あくまでも卓也の管轄になるのだ。

「ふむぅ」

顎に手を当て、考え込む表情の卓也。
卓也と美鳥が持参した修行道具の乗せられた台車を引く音が、喧噪に呑み込まれる事も無く嫌に良く響く。

「正直なところを言えば、今の速度で詰め込んでも、ブラックロッジと敵対しつつページの回収をすると考えると、十分とは言い難いのですが……」

卓也はちらりと視線を美鳥とアルに向ける。
二人はもう慣れた物で、向けられた視線の意図を察し、口々に自分の意見を言い出した。

「だが、修行で変にストレスを溜めこんで調子を崩されても困る。休息の時間として、魔術理論の基礎の復習と応用の触りの部分の講義時間を作ればいいのではないか?」

アルは実に建設的な意見を出す。
最初は二人に対して警戒していたのに、今ではある程度二人を信用しつつ、こうしていざという時に常識的な提案を入れてストッパーになってくれている。
本当に、良い魔導書と契約できたもんだ。

「お兄さんが良いならあたしは別に構わんよー。いざとなりゃ顔隠して助太刀とかしてもいいんだし」

警戒されない程度に手は抜くけどなー、と笑いながらの美鳥。
相変わらずの兄至上主義だけど、何だかんだで力を貸してくれるのはありがたい。
後は、卓也が二人の意見をどう捉えるか。
二人から視線を外し、卓也の表情を窺う。
難しそうな顔で考え込んでいた卓也は、暫くして視線を真っ直ぐに私の顔に向け、口を開いた。

「じゃあ先輩、一つ約束です。……これから、街で偶然ブラックロッジや魔導書の断片と接触する可能性が増えていくと思いますが、もしもそれらしい物を見つけても、決して無闇に深追いしないでください」

「私の実力じゃ無謀だってか」

これでも、修行を始めてからかなり実力は付いてきたと思うんだけど。

「無謀って訳でもないですが、修行の密度を減らす訳ですから、念には念を入れたいんですよ。安全の為にもね」

「安全の為じゃ仕方無いな。深追いするまでもなくどうにか出来そうだったら?」

「少し手を出して『苦戦するかな?』と少しでも思ったら全速力で逃げてください」

ま、安全を考慮すればそんなもんだろう。
そんな、注意されるまでも無く守れそうな約束を守るだけで恥ずかしい姿をじっくり見られる事がなくなるなら、悪い話じゃあ無い。

「わかった、約束する。だから明日からの修業は」

「ええ、ちょっとカリキュラムを弄って、怪我をしたらちゃんと美鳥が治療できるように休憩の時間として座学も挟む感じで進めましょう」

「おっしゃ」

ガッツポーズを取った所で、丁度雑居ビルやアパートが立ち並ぶ区域に差し掛かった。
引っ越ししたお陰で前よりは近くなったとはいえ、卓也達の家と私の家の位置はそれなりに離れたままなので、帰り道は途中で別れる事になる。
卓也と美鳥は、分かれ道で私達とは別の道へと身体を向け、一度私達の方を振り返る。

「では先輩、また明日。夜更かしして遅刻とかしないで下さいね」

「またなー。ちゃんと歯ぁ磨いてから寝ろよー」

軽く手を挙げ、背を向け歩き出す卓也と美鳥。

「そっちこそ、修行つける方が遅れてきたりすんなよ!」

「うむ、さらばだ」

私とアルも、二人の背に向け声をかけ、自宅へと続く道を歩き始めた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

家に帰ると、机の上に書き置きが置いてあった。
美鳥がメモ用紙を取り、中身を確認する。

「『昨日夜ふかししちゃったので、少しお昼寝してるね』だって」

内容の真偽を確認する為に脇からメモの内容を覗き込む。
なるほど、文字が後半になるにつれてだんだんと崩れてきて、『ね』に至っては最後の一角がひたすら右にぐにゃぁと伸びてメモの端からはみ出している。
筆跡もそうだが、夜ふかししただけでここまで意識が朦朧とするのは姉さん程度のものだろう。

「無理して深夜ラジオなんて生で聴こうとするから……」

居間から姉さんの部屋に移動し、音を立てないように静かに戸を開け、姉さんの様子を確認する。
幸せそうな寝顔だ。食べてしまいたくなる。
いやさ、むしろ舐め回したくなる。ぺろぺろしたい。
そしてそういった劣情を超越して純粋に抱きしめたい。

「にゅ……あと、五時か、んぅ……」

寝言を言う口もプリティだ。尻みたいな口しやがって……愛してます姉さん。
昼寝としては長いと思われるかもしれないが、姉さんの体質とかを考えれば実にリアルな時間である。
蹴飛ばしていた布団を肩まで掛けなおし、起こさない程度に軽く頭を撫で、頬にキス、静かに部屋から出て再び居間に戻る。

「おか。お姉さん起きそう?」

美鳥は椅子に座り、PSPでゲームをしていた。
画面に映っているのはアトラスから発売され、特に話題になる事も無かった感情入力システム搭載の学園ジュブナイルADV+ダンジョン探索RPGゲーム。
OP曲の間抜けな感じが従来のアトラスファンには受けなかったのは実に印象深い。
むしろ旧来の魔人や九龍ファンにもあの主題歌は受けなかった。
個人的にはアトラスのゲームのOPと考えなければ悪くなかったと思うのだが、そこら辺はオサレOPに慣れてしまった人とは共有できない感覚だと諦めるしかない。
やや柔らかく、元の色を残しながら可能な限り今風にアレンジした絵柄や、感情入力システムの時間切れの廃止などを考慮するに、もしかしたら御新規様を招く為の造りだったのだろう。
耳に残り易いものよりも、歌が下手でも歌い易くしたと考えればあのOPも頷ける。
ゲームとしてはPS2で出た九龍とストーリー面で比較されがちだが、システム回りはほぼ変わりないので違和感なくプレイできるし、戦闘も少し考えて花札を使えばそう苦戦する事も無い。
ADVパートでは個性が強いキャラ達が織り成すストーリーを楽しむ事も出来、主人公自体感情入力システムのお陰で実にスムーズに感情移入が可能。
……個人的に姉枠の保険教師の様なキャラが居なくなってしまったのが悲しいが、その点を除けば繰り返しプレイ可能な名作である。
まぁ、今画面を見た所、美鳥はあらゆる人物に激怒し続けるキレ系主人公で通そうとしているようではあるが、好きに主人公の態度を決められるのもこの作品の醍醐味だと思えば、これもさして捻くれたプレイでもない。

「あと五時間だとさ」

「んー」

PSPから目を離さず、テーブルの上に置いたコップからストローでゼロカロリージュースを啜りながら唸る美鳥。
ぷっ、とストローから口を放し、少し不満そうな顔で改めて口を開く。

「それ、朝まで起きないんじゃね? 昨日は何時もよりだいぶ遅かったし」

「まぁそんな日もある。夕飯どうする?」

美鳥に聞きながら冷蔵庫の中を確認。

「あれ、お姉さん起きるの待たないの?」

「待つにしろ食べるにしろ、メニューは考えないとだろ」

野菜は、葉っぱ系も根っこ系もまともな品種が揃ってる。
肉も、何故かヤケクソみたいな量が時間を止められた状態でむりやり詰め込まれている。
静養中のシュブさんが実家から送ってくれたラム肉と、シュブさんに電話で仕入れ先を教えて貰って大量購入したアルビノペンギンの肉。で、豚肉少々。
ラム肉は適当に調理してもいい感じに脳が蕩けそうな美味っぷりを発揮してくれるが、ペンギンはまだ調理に手間取る。要修行だろう。
最終的には市販の豚肉が選択肢としては一番ベターな気がする。
調味料も万全、米の備蓄もオーケー。
最後に、極普通の鶏の卵の脇に、見慣れない中途半端なサイズの卵複数。

「なんだこりゃ」

少なくとも、これまでトリップした中では類似する卵を見た事は無い。
ダチョウの卵ほど大きくも無いが、決して鶏の卵とは間違えようの無い大きさはある。

「あ、それこないだミスド行ってドーナツのおまけでニャルさんに貰って来たやつだよ。ペットが大量に産んだからお裾分けだって」

「ああ、シャンタクの無性卵か」

シャンタクの首から下の肉があれば親子丼なんだが、流石に市販してないからな。
某邪神ラブコメの主人公は頑なに食べるのを拒んでいたが、こういうものは意外と食べてみれば普通に美味しい食材だったりするのだ。
味は知らないが食いではありそうだから、味の確認も兼ねてシンプルに卵焼きや目玉焼き、卵かけごはんってのもありだろう。
卵かけごはんならドンブリ飯でも行けそうなサイズだし、うん、美味しかったら取り込んでおこう。

「選択肢が多くて迷うな。なんかリクエストあるか?」

「ジュエルミートの刺身かなー。レア気味のステーキでも可」

「単行本持ってきてりゃなんとかなったかもしれんが」

まともに答えないってことは、美鳥自身特に食べたい物が思い浮かばないのだろう。
かく言う俺も、今は特に何かを食べたい気分でも無い。
食事時になれば腹を空かせる事も可能といえば可能なのだが、姉さん寝てるしなぁ。

「別に、今直ぐ考える必要も無くね? 最短で五時間は間があるんだしさ」

「かな」

冷蔵庫の扉を閉める。
さて、そうなると姉さんが起きるまでの五時間、もしくは姉さんが明日の朝まで起きなかった場合は明日の朝まで暇になる訳だ。
微妙な時間である。記憶封印でラノベやゲームってには短い気がするし、今手元にある魔導書は読み尽くしてしまったので、勉強もしようがない。
魔術の実践をするにも短過ぎる。こんな短い時間で可能なものであれば、この周までの散々にやり尽くしてしまっている。

「今頃、大十字は蜘蛛男と戦ってる頃合いか」

多分、ちんこデカいイケメンなんだろうなぁ。
いや、逆転の発想でショタって手もあるか。蜘蛛に限らず野生動物は雄の方が体格小さいものだし。
いや、アルアジフのサイズとの兼ね合いがあるからな、ちんこサイズは未知数か。
とりあえず、間違いなく母体である(男の娘だが)アルアジフのものよりは大きいだろう。

「なに、見物行ってくんの?」

「んー、でもな、正直夕方の時点で大十字の帰り道に断片の反応あったし、もう流石に片付け終わってるだろ」

修行を付けたこの周の大十字は、他の周のエリート大十字と比べても間違いなく強い。
それが一地方のマイナー神性の記述が暴走して生まれたモンスターに負けるとか、余程大十字が油断しなければ有り得ないのだ。

「いやぁ」

美鳥はジュースが飲み干されたコップからストローを口で取り出し、銜えたままぷらぷら揺らしつつ唇の端を吊り上げる。

「間違いなく油断するっしょ。『私勢いに乗ってます』みたいな感じだし、最近」

「そうか? ……いや、言われてみれば、確かに」

全身の出来たばかりの傷を見られたくないという羞恥があったとはいえ、未だ修行が完了していない、それこそ本来なら一分一秒を無駄にできない状況で『休憩時間を作ってくれ』なんて言ってのけたのだ。
表面上どう思っているかはこの際抜きにして考えると、大十字は内心、それこそ深層心理のレベルで『私はある程度修行を緩めてもまぁまぁ戦えるだけの実力が付いて来ている』と考えている節がある。
つまり、だ。敵のレベルを見誤り『この程度の敵なら楽勝!』とか考えて突っ込むのは十分にあり得る。

「で、いかにも油断し始めました、みたいな状況で最初に遭遇する敵はアトラック=ナチャの記述から生まれたページモンスター。原作では真っ先にエロシーンを生み出した驚異のエロモンスターだよ、エロモンスターだよ」

「大事な事なので二回言いたくなるほどエロモンスターなんやな」

思わず関西弁で頷く。
なるほど、原作の大十字が蜘蛛に襲われてぺろぺろされたのだから、TSした大十字がぺろぺろされているのは極々自然な流れなと言えるだろう。

「まぁ、当然アルアジフが助けに来るから一線越えられる事は無いにしても、一応顔見せる程度には助けに行く素振りをするのもいいんじゃない?」

「それもいいかなぁ」

何せ、一度大十字とアルアジフが合流すれば破壊ロボ殲滅までは流れ作業、特に手を出さなければいけない場面も無い。
少し顔を出して『大丈夫でしたか』とでも言っておけば一応の義理は立つ。
そうだな、タイミング的には、大十字とアルアジフが合流した後、アトラック=ナチャを叩き潰す場面でバルザイの偃月刀でも投げておけば『なにしに来たんだお前』みたいな感じで印象を悪くする事も無いだろう。

「じゃ、ちょっと散歩ついでに蜘蛛の涎でべたべたになった大十字に濡れタオル渡してくる」

「んー、撮れたら写メ取って送ってねー」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

アーカムが外部からの侵攻を防ぐために張り巡らせた結界によって生まれる魔力溜まり。
これは都市を作る上でどうしても消し去る事の出来ないものであり、街にとって重要じゃないブロックに分散されている。
街に魔力や想念の吹き溜まり、怪奇指数の上がり易い土地が分散しているのは陰秘学科の講義でも教えてくれる。
が、街の重要度の低い施設が押し込められていたり、民間に卸されて激安で取引されているという事実は卓也と美鳥からの受け売りだ。
教会を被せて散らそうみたいな試みもされているけど、それだけで済まないのがアーカムシティの凄い所で、
一部は意図的に貧乏学生向きの学生アパートとして利用され、魔術師としての素養の高い若者を事件に関わらせる事で新たな人材として取り込むことに利用される造りになっているらしい。
覇道鋼造なる人物もまた、ブラックロッジに限らず人類に敵対的な種族との戦いに人生を捧げた戦士だが、こういう造りの街を作るまでには多くの葛藤があったのだろう。
だが、それでも最終的にこういう形の都市になった以上、その効果は確実に現れる訳で。

「だから、安っぽい造りのヤクザビル街とか貧民街とか、日当たりも良い上に部屋は広いのに妙に部屋代が安かったりする学生アパート周りってのは、基本的にそういう『よくないもの』が生まれやすいんだと」

学生とかの間で妙にオカルト系の話題が多いのもそのおかげなのだとか。
前の持ち主が自殺したとか、一家心中したとかも、そういった『よくないもの』の影響である事が多いらしい。
そういう場所でも陰秘学科で場を清める方法を学んでいれば特に問題なく使えるので、一学年に一人はそういう部屋を借りる貧乏性の陰秘学科の学生が居るのだとか。
もちろん今代は私だ。
なんと最初に住んでいたアパートも今回引っ越したアパートもそういう類の物件なのだから、我ながら筋金入りだと言える。

「自分の住んでおる部屋を貧民街と同列扱いとか、悲しくはならんのか」

「いや、私の引っ越した部屋はあくまでも部屋代安い学生アパートであって、分類的にはヤクザビルとか貧民街とは一線を画している」

肩の上に浮かぶジト目のちびアルにきっぱりと言い返す。
そりゃ、結局部屋を選ぶ時に風呂場の広さの次に優先したのは部屋代の安さだったけど。

「それに、そのお陰でこうしてさっそく断片を見つける事ができたんだぜ?」

我ながら実に運がい、じゃなくて、アルの断片探しまで考慮に入れた実に堅実な部屋のチョイスだろう。

アルの断片は周囲に魔術的な影響を引き起こす。
周囲への魔術的な影響、それはとりもなおさず、アーカムのあちこちに淀む人の想念や魔力溜まりとも呼べるへの影響に他ならない。
その為、魔力と想念の淀みに反応する事で、魔導書の断片はアクティブな活動を開始する可能性が高い。
故に、魔導書の断片は開けた明るい場所ではなく、こうした暗くてあまり街灯の無い物騒な場所──
そう、『私がこないだ引っ越してきたばかりのアパートの裏手の路地』で実体化し、『路地いっぱいに張り巡らされた蜘蛛の巣』の基部の一つを『私の部屋の窓を塞ぐように』張ったりするのだ。
……家を出る時に干しておいた洗濯物が蜘蛛の巣でべとべとになってるけど、これも絶対私の戦略の内だし。ぜんぜん泣いて無いし。

「は、早く、助けてぇぇぇ────」

と、落ち込んでる場合じゃなかった。
巨大な蜘蛛の巣の中央には、羽虫の様にからめ取られ、身動きがとれずにいるスーツ姿の女性。
必死に大声で助けを求めながらじたばたと足掻いているが、蜘蛛の巣はびくともしない。

さもありなん。女性の身体を縛る蜘蛛の糸の太さは荒縄程もある。
たかだか蜘蛛の糸と侮るなかれ、蜘蛛の糸の強度は一般に、同じ太さの鋼鉄の五倍、伸縮性能はナイロンの二倍という驚異の強靭さを誇るのだ。
しかも、これは一般的な、怪異とは全く関係無い、普通の何処にでも居る蜘蛛の生成する糸の強度でしかない。
故に──

「あぶねっ」

あの太い蜘蛛の糸に捕まる訳にはいかない。
身を横に傾け、寸での処で上空から飛ばされてきた蜘蛛の糸の束を避け、

「そりゃ、花の大学生活だってのに恋人の一人もいねぇけどな!」

蜘蛛の糸の射線とは反対側から跳びかかってきた人型の何かを殴り飛ばす。
が、マギウススタイルになる事で強化された腕力で遠慮なく殴りつけたにも関わらず、人型の何かは空中で即座に体勢を立て直し、器用に壁に四つん這いに着地した。

「蜘蛛男のエスコートを受けるほど、プライド捨てちゃいないのさ」

私の言葉の意味が通じたかは分からないが、壁に貼り付いた人型がにやりと妖しく笑う。
やはりというかなんというか、この蜘蛛の巣の主は蜘蛛女ではなく蜘蛛男だった。
顔立ちだけを見るなら、文句なしの美男。
しかし、闇の中に輝く銀の短髪、爛々と紅く光る瞳が男が異形の存在である事を雄弁に物語る。
アルの外見を成長させて、少し精悍な顔立ちにすれば、こんな感じになるだろうか。そんな事を考える。

蜘蛛男が私の顔を見て、笑いながら小さく舌を出し、唇を舐める。
妖艶な仕草。
最近感じなかった『女を見る目』だ。
少なくともこの仕草はアルには出来ないし、この視線も送って来ないだろう。

此方を獲物と認識したか、壁から一旦蜘蛛の巣に跳躍し、蜘蛛の巣の中央に捕まったOLには目もくれず、路地に降り立つ。
蜘蛛男の全身を観察する。
黒に近い青に赤色の斑がベースで、蜘蛛の巣を模ったような意匠が施されたボディスーツ。
観察をしていると、後頭部から湧き出す様に蜘蛛の糸が絡みつき、完全に顔を覆い尽くすマスクを装着した。
やはり蜘蛛の糸に似た装飾に、瞳を白で隠した赤いマスク。
アメコミに出てくるヴィランの様な、これでもかという程に蜘蛛を意識したデザイン。
ぴったりと身体に張り付くスーツが、蜘蛛男のしなやかでたくましい肉体を強調している。

「アル」

視線をそらさずにアルに指示を飛ばす。
数秒と掛からずに、アルは答えを返した。

「──索引の検索完了、おそらく、『アトラック=ナチャ』に関する記述が含まれる章をベースに実体化したのだろうが……」

「アトラック=ナチャ?」

「ヴーアミタドレス山の地底に広がる、底なしの深淵に巣を張り巡らせる蜘蛛神の名だ。詳しい内容は……目の前の記述を取り戻さない事にはわからん」

「んじゃ、取り戻して調べるしかねえよな」

名前は初めて聞いたが、巨大な蜘蛛との戦い方は卓也と美鳥に叩きこまれている。
対処法は、一般的な蜘蛛の怪異と同じ。蜘蛛の糸を射出と、設置された蜘蛛の糸に気を付けるだけ。
弱点らしい弱点も無い代わりに、これと言って特に強い部分は持っていない、基本的な戦い方を守っていれば勝てる相手。
曰く『敵の攻撃は避けて、自分の攻撃は当てろ。そうすりゃその内勝てる。無理なら尻尾巻いてさっさと逃げろ。そうすりゃ死なない』頭の悪い小鬼(ゴブリン)でもわかる戦闘のセオリー。
これができそうにない相手なら一目散に逃げるべきだけど、さっきの突進も蜘蛛の糸も避けられない攻撃じゃ無かったし、攻撃も余裕で当てられる速度だった。
逃げる必要性の無い、今の私でも十分どうにか出来る相手だ。

「私は、とりあえず痛め付ければいいのか?」

「うむ、弱らせて魔力を削ってやれば、妾が術式に介入して、妾の式に書き換えて正常化できる。妾は頭脳労働で、お主は肉体労働だ。適材適所だろう?」

「はっ、言ってろ!」

拳に魔力を漲らせ、目の前の蜘蛛男に殴り掛かる。
私の拳はギリギリの所で蜘蛛男の顔面を捉え損ね、蜘蛛男は大きく跳躍し、壁を数度蹴り再び間合いを開けようと試みている。
でも遅い。修行で戦った赤い大蜘蛛はもっと素早く、動きも読みにくかった。
人型であるせいで、蜘蛛独特の機動力を完全に生かしきる事が出来ていないのか?

ウイングを広げ、壁に張り付く蜘蛛男に追撃を仕掛ける。
再び避けられる。機動力を生かしきれないのは此方も同じだ。飛び道具も無く、武器が手足とウイングだけな為に、どうしても敵の陣地で戦わなければならない。

でも、そんな不便もあと少しで終わる。蜘蛛男が此方の攻撃を徐々にかわしきれなくなってきているのが見て分かる。
ビルの壁を幾度か削りながら、遂に蜘蛛男が拳を避けきれない距離にまで届──

「──っ、九郎!」

──かない。
私の拳は、蜘蛛男のマスクに覆われた鼻先に届く事なく静止した。
アルの声に反応して、などという事では無い。
身体が動かないのだ。
目の前の蜘蛛男がマスクの下で唇を歪ませて嗤う。
動かない身体を見下ろすと、脚に、腕に、腰に、マギウススタイルのスカート部分に、普通の蜘蛛の糸と変わらない細さの蜘蛛男の糸が無数に巻き付いていた。
こいつ、今まで避け続けてたのは、この為……!
動くのに殆ど邪魔にならない程度の量の糸を数回にわたり貼り付け、今この瞬間、私の突進力を押さえつけられる程の拘束力を持たせる事に成功したのだ。
驚愕に思わず動きを止めた隙を狙われ、一本、また一本と太い蜘蛛の糸を吹き付けられ、手足の自由が奪われていく。

「糸を焼き切れ! 早く!」

「分かってるけどよ……ぐぇ!」

身体を覆う魔導書のページに魔力を通し、術式を走らせようとすると、首に絡まっていた数本の細い糸が強靭さを増し締め付け、集中力を途切れさせる。
術式が頭の中で霧散した瞬間、私はふわ、と宙を舞い、一瞬で地面に向けて加速させられた。
地面に叩きつけるつもりか!
でも、この程度の高さからなら、気合いで──

「がっ!」

「びっ!」

唐突に、余りにも唐突に私の身体を稲妻が貫く。
備えていた衝撃とは余りにもかけ離れた種類のダメージ。
その神経を焼き焦がす一撃に続けて、頭から地面に叩きつけられ脳を揺さぶられる。
限界だ。
痛みから脳と神経を守るため、肉体が私から無理矢理に意識を奪う。
そして、舞台の暗転の様に、私の意識は断絶した。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

閉店間際の肉屋でメンチカツを買い、ポケットから取り出す素振りと共に複製したペットボトルのお茶を手に、食べ歩きながら適当に怪奇指数の高い路地裏をうろついていると、

「魔導書が主と別行動とか、失礼ながら大爆笑ですね」

案の定というかテンプレ乙というか、衣装が焦げたアルアジフがヤムチャい感じで路地裏に倒れこんでいた。
これ、倒れているのが女装美少年だから分かり難いけど、戦闘があった場所にメインの武器がポツンと置き去りにされているような物で。
つまり戦いに負けた武器の持ち主が敵に連れ去られたっていう目印である。

「う……」

アルアジフが苦しげな呻き声を上げるが、俺の声に反応してのものでは無いようだ。
どうやら強い衝撃を受け、完全に意識を失っているらしい。
けどまぁ、これだけ周回すれば魔導書の扱いもいい加減慣れた物である。
ペットボトルとメンチカツの包み紙をポケットの中で取り込み、アルアジフの頭に触れ、

「ほら、主の(貞操の)危機でしょう。さっさと起きてください」

魔導書としての俺の記述を、アルアジフの破損した記述部分に割り込ませ、強制的にアルアジフの精霊部分の意識に介入して整調。
ついでにボディにも手を加え、衣装の破損も修復。
しかしアトラック=ナチャ相手にここまで破損するとか、今回のアルアジフはポンコツなのか?

「ぬ……お主は……」

割り込ませた記述を引き抜くと同時に、アルアジフが目を覚ました。

「どうも、さっきぶりですね。早速ですが、ピンチですか?」

ふらふらと立ち上がろうとするアルアジフの手を貸し、一応形だけ現状を訊ねておく。
魔導書が主から離れて、しかも結構な破損具合だったのだ。何かあったと思わない方がおかしい。
手を取り立ちあがりながら、悔しそうな顔で頷くアルアジフ。

「っ、ああ、九郎が浚われた。ページモンスター、アトラック=ナチャの記述にな」

「今の先輩なら、倒せない敵でも無いでしょうに」

とりあえず嫌味を一つ。
どうせ大十字が調子に乗ったのだろうけど、それを魔導書が止められないってのはどうなんだろうか。

「違う、あれは……いや、今はこんな事をしている場合ではない! 力を貸せ!」

「いいですけど、どっちに浚われてったか、とか、分かります?」

「ぬぐ……すまん」

先ほどまでの勢いを失い、しおしおと萎れながら謝るアルアジフ。
ふむ、まぁ、気絶してたならそんなんだろう。

「大丈夫ですよ。これでダウジングもちょっとしたものなのです」

発信機の類を付けるほど注意を向けていた訳では無い(どちらにせよ大十字は生き残るので、そこまで気を配る必要が無い)にせよ、大十字の反応を探る程度なら機械的な機能を頼るまでも無く可能だ。
ダウジング用の錘付きの紐に魔力を通し、俺とアルアジフは大十字の浚われたビルへと走り出した。

―――――――――――――――――――

じめっとして、肌にまとわりつく夜の空気。
耳には遠く街の喧騒が微かに届き、鼻を砂埃と生き物の生臭さが刺激する。
嫌な気配と、生理的嫌悪感を催す臭いに、私の意識は覚醒させられた。
朦朧とする頭とあちこちが軋む身体を叱咤しながら、私は現状を確認するべく瞼を開けた。

……暗い。
窓の外からは街の灯り一つ届かず、室内を照らすのは壊れた天井から差し込む月光だけ。
暫く気絶していたからだろうか、私の眼は既に室内をある程度見渡せる程度に暗闇に順応していた。
割れたガラス窓、壊れた天井。
砂ぼこりの溜まったコンクリ打ちっ放しの床に、所々罅の入った壁。
アーカムでは珍しくも無い、放置された廃ビルの一室。
身を起こそうとして、私はようやく自分の身体が蜘蛛の糸で床と壁に接着されている事に気が付いた。
そうだ、私は蜘蛛男の糸に捕まって、なんでかいきなり感電して、そのまま地面に叩きつけられて……。
で、蜘蛛の糸に拘束されたまま、って事は、自体は好転はしていない、か。

状況を確認する為、首だけを動かして周囲を見回す。
あちこちに張り巡らされている巨大な蜘蛛の巣、路地に張られていた物と比べても規模が大きく、一目でここがあの蜘蛛男の拠点だと理解できる。
餌は外敵の来ない安全な巣に持ち帰り、時間をかけてゆっくりと、って魂胆なんだろう。
まったく頭の良い事だ。蜘蛛なら餌を捕まえたその場で食えばいい物を。
いや、実際にその場で食われてたら死んでるから、少なくとも現時点では頭の良さに感謝しないといかんのか。

マギウススタイルが解けているし周囲にアルの姿は見えない。
あの場に置き去りにされたのであれば、少なくともアルは助けを呼びに行ける、という事になるから、それだけが頼り。
でも、私はアルが居なければ完全にただの見習魔術師、それどころか無力な大学生も同然なのだから、助けが来るまではこの窮地をいかにして乗り切るかを考えなければならない。

「……ん?」

耳が僅かに音を拾う。
息を詰まらせ、しかし熱の籠った、嬌声にも似た女の嗚咽。
それに重なる様に響く肌を打つ破裂音に、くぐもった水音。
嫌な予感に、音の聴こえてくる方角に顔を向ける。
幾重にも重なった蜘蛛の巣の奥、暗闇の中に、蠢く二つの影。
影の一つは、異形然とした仮面を外しその甘いマスクを晒す蜘蛛男。
蜘蛛男は嗜虐の愉悦に歪んだ顔で、もう一つの陰に腰を打ちつけていた。
蜘蛛男が手で押さえつけているのは、

「ひっ、っ、あ、あぁ……!」

──先程巣に捕まっていたスーツ姿の女性。
私と同じような姿で地べたに拘束された女性の上に覆いかぶさり、腰を幾度もストロークさせている。
当然、今更言うまでも無い事だけど、互いの『其処』は、ばっちり繋がっていた。
彼女は蜘蛛男に組み伏せられ、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、しかし細められ涙で揺れる瞳は快楽に歪む。

「ひぃっ、うそ、うそよ、こんなの、こんなのでぇ……」

蜘蛛男が腰を振る。
蜘蛛男の肉槍が女性自身から引き抜かれる度、押し込まれる度、女性は切なげな声を上げながら、いやいやをする様に力無く首を振っていた。
蜘蛛男の行為と、その行為で生まれる決して少なくない快楽に抗いきれない自分への拒絶。
しかし、彼女はその態度とは裏腹に、拘束されたままの不自由な体で蜘蛛男の動きに合わせる様に腰をくねらせている。
だが、その動きも声も随分と弱々しく、酷く衰弱した様子である。

「う……」

予想はしていた。
実習で『こういう状況』に出くわさなかった訳でも無い。
馴れさせる為だろうか、シュリュズベリィ先生も他の教授も、実習を行う時、被害者への対処法なども教えられもした。
こういう場面に出くわしても、私は平静で居られると思っていた。
が、違う。
圧倒的で、余りにも、違う。
何が違うのか、距離か? 臭いか? 音か?

いや、違う。
今の私は、この場所で、仲間も無く、手足も動かせず、対抗する手段もない。
邪悪を狩る者じゃ無い。
獲物。
今の私は、自分では何一つ出来ず、唯嬲られるのを待つしかできない、獲物……!

「ぁ、ぁ、あぁぁぁ────!」

蜘蛛男に一際強く、深く貫かれ、女性がその眦から涙を流しながら喉を震わせる。
蜘蛛男が恍惚の表情でびくりびくりと身体を震わせる度に、暗闇の中でもはっきりと分かる程に、ぼこり、と女性の下腹部が肥大化していく。
中に出されると同時、女性の顔から見る見るうちに生気が失われていく。
嫌悪感だけの問題じゃあ無い。たぶん、生命力を吸われているのか?
なるほど、餌場で、苗床って訳だ。

考えていると、かちかちと堅い物をぶつけ合う小さな音が聞こえてきた。
なんて事は無い。私の歯が打ち合う音だ。
冷静に判断しているつもりでも、うん、駄目だ。
怖い。

瞳から光の消えた女性から、蜘蛛男が身体を放す。
ずるりと蜘蛛男のそれが抜け落ちた女性の陰部からは、ごぶりと音を立てて粘性のある白濁が溢れ出す。
その光景を女性も目にしてしまったのか、女性は気がふれた様に乾いた笑い声を上げ始めた。
そんな壊れてしまった女性には目もくれず、蜘蛛男は剥き出しのそれを隠す事すらせず、ゆっくりと私の方に近づいてくる。

「ひ」

喉から間抜けな声が漏れた。
ゆっくりと覆いかぶさる蜘蛛男の端整な作りの顔が、逆に私の嫌悪感を大きく煽りたてる。
形の良い舌で、ぺろりと頬を舐め上げられながら、蜘蛛の糸に包まれた服の上から胸をやんわりと揉みほぐされる。
蜘蛛男の指の形が分かるほど指が胸に沈みこんでいるのに、決して痛みを与える様な強さはない。
こわばった身体を解していく、マッサージにも似た優しい手付き。
嫌な優しさだ。まるで、食べる前の調理か、調理の前の下ごしらえの様な優しさ。
全力で身体を動かし逃れようとしても、動けば動く程に蜘蛛の糸の拘束は強固なものへと変わっていく。
揉み続けられる内、私の胸には仄かな火照りが生じ始める。

「やめ、や」

ちがう、こんなので、気持ち良くなんて、なりたくないのに……!
恐怖と羞恥のあまり、瞼を閉じ、覆いかぶさる蜘蛛男からぎりぎりまで顔を背ける。
蜘蛛男のもう一方の手が私のジーンズへ伸び、鋭利な爪がベルトや金具諸共に頑丈な生地を切り裂き、その下にある素肌を露わにしていく。
じっくりと、弄る様な早さでジーンズを切り裂かれながら、時折皮膚を切り裂かれる痛みを感じる。
傷口が、痛み以外の熱を帯びる。
ふと、鋭い爪では無く、しなやかな指先で傷口の周りをなぞられ、

「ふぁっ」

軽く、達してしまう。
そうだ、相手が蜘蛛の怪異なら、毒の一つも持っていて当然だ。
じゃあ、何の毒だ? どういう毒を使う?
決まっている。こういう場面で使う、こういう類の毒。
さっきの女性は、貫かれ、感じる自分を否定していた。
それはむりやりされたという事実とは別に、こういう理由もあったんじゃないか。
じゃあ、これから私も、あんな風にされてしまうのか。

……もう、ジーンズはまともに衣服として機能しないレベルまで切り裂かれ、ジーンズの下に穿いていたお気に入りのショーツに至っては何かの切れ端にしか見えなくなってしまった。
身体もだいぶ毒が回ったのか、酷くじんじんして、少し触られただけで達してしまいそうになっている。
太腿に、何か、とても熱く、硬い物が擦りつけられた。
瞼を恐る恐る開け滲む視界に映ったのは、案の定露わになった太腿に添えられた、蜘蛛男の肉槍。
ゆっくりとショーツに守られていた部分に近づけられるそれに、身が委縮する。

ほんとうに、本当に、『されて』しまうのか?
何か手は無いのか、逃げる事も、戦う事もできないのか。
そんな事を考えながら身を丸めると、眼を背け続けていた蜘蛛男の顔が、視界に映り──

「……くす」

──頭の中が、一瞬で沸騰した。
今、間違いなく、蜘蛛男は笑った。嗤ったのだ。
嬲り者として、なすがままになり、身を丸め、震えて怯える私を見て。
嬲り者にした相手を、白濁に塗れたスーツの女性を、私を、笑い『やがった』──!

蜘蛛男が、その綺麗な笑みを崩さぬままに、しかし私の恐怖心を煽る為か、片手で口元を掴み、身体を押さえつける。
怯える私の表情を、リアクションを、全て楽しむつもりなのだろう。
此方を見下す視線は、獲物を弄る獣のそれと全く同じ。

……なら、これから私は、絶対に怯えてやらない。悦んでもやらない。苦痛に叫びもしない。
確かに今の私は何の抵抗も出来ない、殴り返す事すら出来なくて、嬲られるままになるしかないかもしれない。
でも、それでも。
それでも、絶対に屈しない。
戦う力が無い。でもそれは、決して戦えないって事じゃあ無い。
絶対に、こんな悪趣味な化け物なんぞに、思い通りにされてたまるかよ──!

笑う蜘蛛男のなまっちょろい顔面をぶち抜くつもりで、思い切り睨みつける。
蜘蛛男はそれに僅かに戸惑うも、しかしゆっくりと私を貫かんと、その肉槍を近付け──

「先輩! のけぞれ!」

空間を歪ませながら飛んできた衝撃波に横合いから殴り飛ばされた。
言われるがままに、僅かしか無かった背と床の間をゼロにしたのが幸いしてか、衝撃波は私にかすりもせず、覆いかぶさっていた蜘蛛男だけを吹き飛ばす。
轟音と共に蜘蛛男が廃ビルの内壁に叩きつけられ、巨大な掌の形に蜘蛛男とその周囲の壁が陥没する。
掌の形の中心、磔にされた蜘蛛男の丁度上に浮かび上がる『驚』の朱文字。
この嫌に趣味的な技は!

「卓也!」

ついさっき別れたばかりの後輩が、廃ビルの階段から『そこまでよ!』のポーズで現れた。
続けて、その背後から息を切らしたアルが駆け寄ってくる。

「アル!」

「九郎、無事か!」

駆け寄り、私を拘束する蜘蛛の糸を発火の魔術で焼き切るアル。
卓也は壁に張り付いたままの蜘蛛男への警戒を緩めぬままゆっくりと歩み寄ってきた。
手を構えたままの卓也から大判のタオルが投げ渡される。

「アルさん、先輩の治療を。蜘蛛は俺が」

「うむ、任せるがいい」

蜘蛛男と私の間に立ち、再び闘気を纏い始める卓也と、私を蜘蛛男の視線から隠すように庇いながら、魔術で切り傷の治療と解毒を始めるアル。
確かに、私も無傷では無いし、正直毒のお陰で満足に動けやしない。
でも、それでも、今、この状況に至ったなら、やることは一つだろう。

―――――――――――――――――――

「待った。……あの蜘蛛野郎は私がやる」

アルの治療により半ば程解毒の終った九郎は、そう二人に告げながら、ゆっくりと立ち上がる。
卓也は蜘蛛男に身体を向けたまま、ちらりと九郎に視線を送る。

「戦えるんですか?」

「戦うんだよ」

気難しそうな仏頂面のアルが、脚の傷を塞ぎながら窘める。

「怪我が治っておらん。無茶をするな」

「無茶じゃねぇ」

極々短い単純な返答。
まだ力の戻り切っていない九郎にとって、それは精いっぱいの返答であると同時に、多くの部分を隠したままの返答だ。
戦えるか。
戦えるに決まってる。戦う為に力が戻って、目の前にはぶちのめしたい糞蜘蛛野郎が居る。
無茶をするな。
無茶でもなんでもない。頼りになる後輩と相棒が居て何をすれば無茶になるのか。

「卓也、アル」

三人の眼前では、壁にめり込んでいた蜘蛛男が壁の一部と共に落ち、四精を立て直し始めている。
ワンアクション毎に蜘蛛男の身体が崩れ、蜘蛛神の本性である異形の姿が露わになる。

「ふん、流石に我が主なだけはある」

不敵に笑いながら、アルが光と共に魔導書のページに分解し九郎の身体を包みこむ。
マギウススタイルへと変じる九郎。
困った顔で九郎に視線を送る卓也の肩を、九郎はぽんと掌で叩いた。
肩に乗った手を見て苦笑いを浮かべる卓也。

「吹いたからには、きっちり勝って下さい」

皮肉を言いながら、卓也は九郎と蜘蛛男の間から身体を退ける。

「任せとけよ」

力強く頷き、蜘蛛男に向かい合う九郎。
蜘蛛男は既に人間の皮を捨て去り、醜悪な八本足の蜘蛛のクリーチャーへと完全な変貌を遂げていた。
こんな物に犯されそうになったのかと思い、しかし九郎の心には恐れは欠片も無い。
あるのは、怒り。
無様に蹂躙されそうになった怒り。
一緒に浚われた女性が無残に犯された事への怒り。
人を嬲り者にして笑う異形への怒り。

蜘蛛男が、人間形態とは比べ物にならない程太く強靭な糸を噴出し、九郎を再び捕えんと動きだす。
至近からの攻撃でなく、避けようと思えば避けられる攻撃だ。
だが、九郎はその糸を避けるでもなく、ゆっくりと歩きながら、手すら動かす事なく完全に迎撃する。
蜘蛛の糸を撃ち落とすのは、九郎の翼だ。
マギウススタイルを構成するページが変じた翼からページ一枚分飛び出、薄く延ばされた刃の如き翼でもって、直撃せんとする蜘蛛の糸を一つ残らず切り落としている。
余りにも鋭く、速い翼の動きに、斬り飛ばされた糸は翼に粘りつく間もなく弾かれていく。
集中力が段違いだ。
周囲の細い糸が、僅かに動いて九郎の身体に絡みつこうとするも、

「!?!?」

一瞬で『炎に包まれて』細い蜘蛛の糸は燃え尽きる。
マギウススタイルのスーツに接触した途端、そのスーツの接触部分のみ発火の術式が起動し、蜘蛛の糸を焼き払ったのだ。
蜘蛛の糸の燃えカス、火の粉を浴びながらゆっくりと蜘蛛に近づいていく九郎。
その口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。

本能的に危険を察知した蜘蛛男は割れた窓ガラスを突き破り廃ビルの外へと逃れる。
人間体の時とは比べ物にならない八本足の機動性によって、ビルとビルの間の壁面を滑る様にして逃げまわる蜘蛛男。
更に周囲の廃ビルには隈なく自らの糸で巣を張り巡らせてある。
ここは人間ではなく、壁を自在に這いまわれる蜘蛛の領域。蜘蛛男にとっての安全圏。

「逃げてんじゃねえ!」

安全圏『だった』
かつてその蜘蛛にとって安全圏だったその空間を、翼を生やした九郎が蹂躙する。
精密な空中機動を行う今の九郎にとって、周囲の蜘蛛の巣など障害にもなりはしない。
だが、それは蜘蛛男にとっても好期だ。
翼を用いて空を飛ぶなら、飛んでいる間は糸を迎撃する事はできない。
対して、壁を歩いているだけの自分には何の制約も無い。
生意気な獲物を再び捕まえんと、蜘蛛男が糸を噴出し──

「馬鹿か」

斬り飛ばされ、燃やされる。
何故、と困惑する蜘蛛男の目の前に、その疑問への答えは浮かんでいた。
翅だ。
空を飛ぶ九郎の翼。
その翼に重なる様にして、後ろの光景が透けて見える程の赤熱した薄い翅が、僅かにずらされながら幾重にも展開している。

翅の一枚一枚の厚みは、魔導書のページの半分程も無い。
だが、これだけの量を展開すればマギウスウイング自体の構成ページ数が減るのは当然だろう。
更に翅と発熱、発火の魔術を併用する事で、飛行する為の術式にかけるリソースが少なくなっているのだ。
だが、九郎はそれを見事に制御しきっている。

怒り。
身体が熱くなる程の燃え盛る様な怒りに、敵を追い詰める道筋を導き出す為の冷徹な思考。
これが合わさる事により、九郎はまた一段、魔術師としての位階を上り詰めたのだ。

「さっきはよくも好き勝手やってくれたな!」

九郎の怒号。
それに反応し、八本の脚を生かした機動力で逃げようとする蜘蛛男。
だが、九郎は決して逃がしはしない。

「おらぁっ!」

ざくり、ざくり、ざくざくざくざくざくざくざくざくざく。
逃げる蜘蛛男の背を、壁にひっかけられた脚を、腕を、頭を貫く九郎の翅。
ぶすぶすと翅が刺さった部位から焼け焦げる様な音と煙が溢れ出し、蜘蛛男の声にならない絶叫が響く。
生きながらにして全身を余す所なく貫かれ、内側から燃やされる地獄の苦痛を味わい、見る間に実体化が解け始める蜘蛛男──アトラック=ナチャのページモンスター。

「まだまだぁ!」

突き刺された翅が輪郭の崩れ出したアトラック=ナチャの内部を貫きながら伸展し、刃を滑らせるように内側から斬り進み、

「ぶちまけろ!」

五体を引き裂く!
もはや蜘蛛型かどうかも怪しい、ページ混じりの肉片と化したアトラックナチャ。
その肉片に九郎が再び飛びかかろうとする寸前、マギウスウイングがひとりでに動き、地面に向けて落下を始めた肉片を、横殴りに叩き潰した。
廃ビルの壁面に突き刺さるウイングの変形した拳。
その光景に、先までの怒りに表情とは打って変わって、意表を突かれたといった風の顔で目をぱちくりさせる九郎。

「落ち着け九郎、記述を破壊するつもりか」

ちびアルの叱責。
そう、確かにアルアジフの記述が通常の紙切れとは一線を画する強度を誇る。
しかし、こうも立て続けに実体化した所を魔術的な攻撃で責め立てられ、実体が薄れ通常の記述に戻った所を攻撃されては、アイオーンの記述の様に使用不能なレベルにまで破壊されかねない。
言われ、ハッとする九郎。

「わ、わりぃ、ちょっと頭に血が上ってた」

バツの悪そうな表情で頭を掻く九郎。
そんな九郎に、ちびアルはうむ、と頷いてみせる。
ウイングの拳が壁面から引き抜かれ、壁との間からはほのかに光る数枚のページ。

「まぁ、あのように記述は無事だからな、次から気を付ければ良い」

そういうなり、ちびアルはうっすらと明滅するアトラック=ナチャの記述に両手を向けた。

「接続! アエテュル表に拠る暗号解読! 術式置換! 正しき姿へ還れ、我が断片!」

アルが呪句を唱えると、紙片は吸い込まれる様にして九郎のマギウススタイルのスーツに吸い込まれるように張り付く。
貼り付いたページの形は残さず、一瞬だけ魔術文字の輝きを見せた後、完全にスーツと一体化した。

「蜘蛛神・アトラック=ナチャの記述、回収完了だ。やったな九郎」

ウイングを消し、ビルの屋上に降り立つ九郎。

「なんだかんだあったけど、油断しなけりゃこんなもんだ。……あとは」

振り向く。
少し先のビル街の中、頭と四つの腕にこれでもかとドリルを搭載した破壊ロボが暴れている。
別に、破壊ロボとドクターは出待ちをしていた訳では無い。
魔力探知機『教えて! ダウジン君!』の反応に従いアルアジフの断片を探していたはいいものの、途中で部下ともどもアトラック=ナチャがあちらこちらにしかけていた蜘蛛の巣に引っ掛かり立ち往生していたのだ。
蜘蛛の糸から逃れようと躍起になっている所に、空を飛び巨大蜘蛛と戦う九郎を発見したドクターは居ても立ってもいられず、破壊ロボをコール。
周囲の部下数名を巻き込みながら(ドクターの部下なので当然死んでいない)も破壊ロボに乗り込んだドクターは、今まさに九郎に襲いかからんとしているのだ。

「行けるか? 九郎」

「当然だろ」

不敵に笑いながら九郎は廃ビルの屋上、その端に辿り着く。
廃ビルでありながら、このビルの屋上はデモンベインの全高よりも少し高い。
ここからならば、九郎は建物を無駄に破壊する事なく、デモンベインを招喚する事が可能なのである。

「わりいなドクター、今の私は気が立ってるんだ。いきなり現れて街を破壊するそっちは十分に悪党だし────思う存分、八つ当たりさせて貰うぜ!」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

そんな訳で、今日も一つの事件が幕を下ろした。
幸いにして、というか、浚われた女性には最悪にタイミングが悪かったと言わざるをえないが、ページモンスター・アトラック=ナチャの被害者は彼女一人、街にもさしたる被害は無い。
アルアジフの断片が巻き起こす事件の中では、ロイガーとツァールに次いで街への被害が少ないのではなかろうか。
え、破壊ロボ?
最初からアトラックナチャを使いこなしているデモンベインに完封されましたが、何か。

「どうぞ」

「おう」

公園のベンチに座る大十字にペットボトルのコカコーラを渡す。もちろん元の世界で取り込んだモノの複製である。
ビンの物もその辺の自販機を探せばあるのだが、正直そこまで手間をかけたくないというのが本音だ。
アルアジフの分は用意していない。
アルアジフは戦いが終わった後、俺に大十字の心のケア諸々をしておくように言い渡すと、さっさと魔導書形態に戻ってブックホルダーに収まってしまったのだ。
ぷしっ、と炭酸の抜ける爽やかな音と共に蓋を捻り開け、飲み口に口を付けて煽る様に飲み干す。
500mlの内半分程を一息に飲み干し、くあーっ! と溜息を吐く大十字。

「んまい!」

勿論、この年代でもコカコーラは市民の間で大人気だ。
普段嗜好品にあまり手を出さない大十字もこれはかなり好きな部類に入るらしい。
一息吐いた大十字はふとペットボトルを目の前に持ち上げ、しげしげとその表示を眺める。
カロリーでも気にしているのだろうか。
何しろコカコーラは日本でも高カロリー飲料として名高い。
100mlで45キロカロリーは伊達では無い。大十字の生命線を繋ぐのには持ってこいだろう。
まぁ、今はまあまあ食えているからそこまで気にする必要も無いと思うが。

「これ、日本語表記か。味もなんか少し違うし」

「日本製ですからね、成分も大分違いますよ」

「そっか、でもやっぱ美味いな」

「ですね」

会話が途切れる。
しばし、互いにコーラをちびちび煽るだけの無言の時間。

「あの、さ」

ふと、コーラを飲みながらもぼうっとした表情で遠くを見つめていた大十字が口を開き、ぽつりとそう呟く。

「ジーンズ、直してくれて助かった」

「いえ、流石にあの恰好のままでは問題がありましたからね。お気になさらず」

「そっか、なんか、悪いな」

今大十字が穿いているジーンズは、大十字がアトラック=ナチャのページモンスターに襲われた時に切り刻まれていたのを修復して穿ける様にしたものだ。
俺も美鳥も大十字とはサイズが合わないし、姉さんの服を大十字なぞに着せるのはもったいなさ過ぎるので、ささっとナノマシンで修復した。
複雑な人間の身体ですら修復可能なのだから、パーツが揃っている状態であれば特に何の問題も無く切断面を繋げる事ができる。

「あー、違うんだよ。私が言いたいのは、あれだ、本当はそれじゃなくて」

残り四分の一程になったコカコーラのボトルを両手で持ち、膝の上で指先を互い違いにくるくるとまわし、そっぽを向いて十数秒うーうー唸る。
言いたい事が纏まったのか、大十字はゆっくりと口を開いた。

「た、助けてくれて、ありがと。……あの時、お前が来てくれなかったら、たぶん、酷い事になってた」

だから、ありがとう。
そう告げる大十字。
蜘蛛男に襲われた時の事を思い出し、今更ながらに暴行への恐怖がぶり返してきた、その唇は細かく震えている。
普段とまるで変わりないように振舞っているが、それでも精神的に堪える部分があったのだろう。
大十字がTS前も美系である事を差し引いて考えても、こんな表情を女性にされたら陥落してしまう男は非常に多いのではなかろうか。
戦う戦士でありながら、同時に守ってあげたくなるか弱い一面も併せ持つ……実にあざとい。

だが、俺の頭の中には、ある別の事が浮かんでいた。
────タイミングが、良すぎる。
まるで映画の爆弾解体シーンさながら、時限装置が残り一秒を刺した時点で解除される様に。
廃ビルに突入し蜘蛛男と大十字を発見し、俺は警告と共に即座に石破天驚拳(狼も死なない手加減バージョン)を放った。
放たれた石破天驚拳は、大十字が貫かれるほんの一瞬前、ギリギリの所で蜘蛛男を吹き飛ばしていたのだ。
恐らく、あのタイミングではアルが駆け付けた時には既に大十字は貫かれていた事だろう。
そんな事が、在り得るのか?
トリッパーは原作のイベントに遭遇しやすいとはいえ、それでもこのタイミングは正直異常の一言に尽きる。

「大学生は助け合いでしょう。特に陰秘学科ともなればなおさらです。……ところで先輩、アトラック=ナチャのページモンスターと戦った時の話なのですが──」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

結局、あの後姉さんは次の日の朝まで起きる事は無く、破壊ロボ戦を観戦しながら考えていた献立は翌日の夕食に回される事となった。
そして、更に数日後。俺と美鳥は再び夢幻心母に訪れていた。

「ドクター、破壊(され)ロボでの活動お疲れ様です」

「へいドク、ロボ破壊乙。もう安全を考えて遠隔操縦でいいんじゃね?」

美鳥、多分それをやったらドクターは破壊ロボの顔に手すりを付けて、それに掴まったまま外から遠隔操作するぞ。

「やかましい。今の我輩は精密かつ重要な作業中であるからして、用が無いならさっさと帰るがいいのであるぞ」

振り返りもせずに答える、予想外に真面目なトーンのドクターの声。
ドクターの目の手術台には、機械的なパーツの含まれた人体標本の様な物が置かれ、ドクターは様々な器具を使いそれを完全な形へと近付けている。
目にも止まらぬ、という程早い訳では無いが、ドクターの手の動きは手慣れている。
なんというか、無駄が無い、というのとも違う。
精妙だ。

「ボディの最終調整ですか」

「いかにも。この吾輩の最高傑作さえ完成すれば、あの頑固でしつこい油汚れのごときにっくきデモンベインと大十字九郎など、ちょちょいのぱっぱでオレンジピールの香り漂う洗いたての清潔感に!」

「ドク、手元手元」

「おおっと」

なんかドクターだと塩素系と酸性混ぜたみたいな惨状しか思い浮かばないけどな。
しかし、改めてボディを見るに、実に精巧な作りだ。
人間を超え、高い位階の魔術師とすら渡り合える程の戦闘能力を持ちながら、人間の持ちうる能力は全て備えているのだろう。
ほら、身体の男性特有のあの部分とかあの部分、『え、オリエント工業って女性向けのドールも作ってたの?』と聞きたくなるような、聞きたくなるような、精巧さ、で……。

「お兄さん、はい」

「すまん」

美鳥に渡されたハンカチで涙を拭く。
なんていうんだろ、見るからに才女って感じの美女が、一心不乱に『理想の男性像』を形作っていると言えば、まぁまだ聞こえはいいと思うんだけど。
設計段階で『自分に合うサイズを考えて試行錯誤してる姿』を想像すると、涙線に来るものがある。
あれだ、使い心地の良いオナホを作ろうとしてる人を見たとき、その人が嫌にイケメンだった時にもこんな気持ちになれるのだろうか。
何時もならこのリアクションを見た瞬間にドクターが沸騰するのが鉄板なのだが、生憎とドクターは集中している為か此方の状態に気付いていないらしい。
好都合だ。今回の本題はそこじゃあないのだから。

「ドクター、先日の破壊ロボで出撃した日なのですが、大導師殿に何かお変りはありませんでしたか?」

「? あの日は、何時も通りに玉座の間から一歩も動かずにいたとの事であるが……」

「そうですか、ありがとうございました。仕上げ頑張ってくださいね」

「うむ」

―――――――――――――――――――

「大導師さまの様子?」

所変わって、蓮蓮食堂のカウンター席。
仕事をさぼりラーメンを啜っていたかぜぽを発見し、間食ついでに聞いてみる。
夢幻心母内部には、なぜか話を聞ける相手が下っ端しか居なかった上、下っ端連中がまともに情報を持って居なかったので、わざわざ外で会いたくないこの人の所にやって来たのだ。

「そうです。こないだアルアジフが記述を一つ回収したのは知ってますよね。あの日の大導師殿は、どんな感じでしたか?」

「んー……」

ずるずると麺を啜りながら考え込むかぜぽ。
このTSクラウディウスであるかぜぽは、自分が知らない事であれば考えるまでも無く知らないと即答する。
つまり、何か知っている、という事だ。

「そうだね、なんだか、チャーシューと替え玉を食べたら思い出せそうな気がするよ」

「店主、こっちに替え玉とチャーシュー、あと半熟卵追加で」

俺のオーダーに即座に応え、かぜぽのどんぶりにそれらを投下していく店主。
えへへと笑いながら替え玉を啜り始めるかぜぽ。

「覚えてる限りだとあの日の大導師さま、珍しく魔術の気配がしてたんだ。流石にどんな魔術を使ったかまでは知らないけどね。──おじさん! チャーハンと餃子お願い!」

楽しげに追加注文をするかぜぽを尻目に、俺は手に入れた情報から推理を始める。
このTSクラウディウスことかぜぽには、ブレンパワードの連中の『オーガニック的な感覚』と似た様な、ステータスや能力では説明しきれない独特の感覚がある。
能力的にTSしていないクラウディウスとどちらが優れている、という事は無いが、少なくともこの特殊な感覚はあてになる。
トリッパーにとって恐ろしい物の一つが、この説明不能な超感覚だ。
だが、今はそれが役に立つ。

……雷を使い、今の大十字のマギウススタイルの守りを貫通して感電させる。
ブラックロッジでそんな強力な魔術が使える魔術師には、二人しか心当たりが無い。
そして、俺のセンサーに引っかからず、遠くの地から遠隔でそれほどの魔術を発動させる事が出来る人間は、ブラックロッジの中でも、たった一人。

だが分からない。
そうする事ができる、それだけの実力がある、それは確かだ。
だが、動機が無い。
あの場で大十字に隙を作り出す事に、アルアジフの救助を遅らせる事に、どれほどの意味がある?
アルアジフとて、ダウジングの一つや二つは軽いだろう。
だが、あそこで修復されずに自然回復を待っていたら、今頃大十字は心に少なからぬ傷を負っていた筈。
……俺に大十字をタイミングよく助けさせるのではなく、大十字の心にダメージを与えるのが目的?
確かに辻褄は合いそうな気がするが……。

「へい、お待ち」

俺の思考を遮る様に、かぜぽが俺の前にチャーハンと餃子を置いた。
隣を見ると、にこにこと嬉しそうな笑顔のかぜぽ。

「あの、ハイパボレアを歩むものさん?」

「難しい顔してないで、食堂なんだから、美味しいご飯食べようよ」

「いや、これだと、俺が注文した替え玉とチャーシューと半熟卵、打ち消しでむしろマイナスになりませんか?」

日本円にして、約二百円程かぜぽが多く支払う事になる。
というか、追加注文できるだけの金があるなら、俺の奢らせる必要はないだろうに。
俺の問いに、かぜぽはふふんと鼻を鳴らしながら、チャーシューを摘まんだ箸を振る。

「知りたい事を知る為に即座に打てる手を打つ事が出来る奴って、群の中でも有能になれる素質を持っている事が多いんだ」

「は、はぁ」

「それに、上司の言う事を素直に聞く素直な部下には、ご褒美の一つもあげたくなっちゃうでしょ? ────手元に置いておく為に」

「さようでございますかぁ……」

満面の笑みで仄かに黒いかぜぽに生返事を返すしかない。あと部下じゃないから。
なんてこった。奢らされるとか色気の無いイベントだと思ったら、また意味も無く印象を良くしてしまった。
まぁ、別に困る事でも無いか。かぜぽとはこういう場面でしか接触する機会は無いし。

大導師が何を考えているか、今のところこうと決めつけるのは難しい。
だが、少なくとも現状では俺に災難が降りかかるタイプの謀略では無いようなので、放置しても問題は無い。
何しろ、このTS周になるまでに、大導師は千回と少しのループを経験しているのだ。
何の意味も無くこんな真似をするとも思えない。
大導師が言いだすか、俺に何らかの損害が出るまでは、様子見で済ませておく事にしよう。
そう思いながら、俺は餃子を付ける醤油に、大量のラー油を落とすのであった。





続く
―――――――――――――――――――

浚われた一般市民の女性のナニがあれしたけど、別に嫌らしい一発でアウトになる言葉を使った訳では無いので当然セーフな、何かしらの陰謀が浮かび上がりそうな第六十一話をお届けしました。

自己保身の為の、自問自答コーナー。
Q,ブラックロッジ内部での評価が高い?
A,かぜぽがラーメン屋で魔術をディスペルされたことを言いふらしたりしてるとかそんな感じで。
Q,修行中の大十字が息して無い。
A,無呼吸症候群です。死者蘇生のスキルがあれば何事も無く起こせます。でもリアルに死んでる訳では無いのであーんしん。
Q,大十字が恥ずかしがる部分おかしくね?
A,それこそ、大学の外で泊まり込みの実戦民族学とかするときは、男女のプライベートとか羞恥心とか気にしてられないと思うんですよ。
Q,アーカムシティの結界による淀みって、ループが進むごとに消えていくんじゃないの?
A,むしろ、ループでどう変質するかによっては、淀みを有効活用する覇道鋼造も出てくると思うんですよ。今回はそんな覇道鋼造でした。
Q,キノコ狩りで、いたいけなOLを凌辱する男!
A,アトラック=ナチャ!(この商品にレオパルドンは同梱されておりません)
Q,で、今回はどうして十八禁じゃないと言えるの?
A,直接的な単語を出さなければ確実にセーフです。肉槍? 触手なら非エロでもよくある武器ですね。白濁液? 木工用ボンドだって白濁液ですよ。
Q,破壊ロボェ……。
A,特にデモンベインの招喚に制限がありませんので原作の様にマジギレさせて名言を言わせられません。マジギレはアトラック=ナチャにしてるのでそれで。
Q,コカコーラ?成分が違うってもしかして……。
A,ググれば分かる事なので一々書くのもあれですが、デモンベインの舞台となる1920年代から1930年代の頃には、既にコカインは成分に含まれておりません。ボトルと瓶だと成分が少し違うよって話で。
Q,ドクターの扱いが毎度酷い。ドクターはキチガイの変態だけど、精神が修復不可能な程にあちら側である事を除けば可哀想な部分なんて無い!
A,イメージしてください。男っ気の無い美人が女性向けエロゲのインストール待ちをしながら、クールな表情で黙々とラバーを削って自分専用のバイブを作っている姿を……!
あ、上のセリフを言ってるのはめでたくPSYクオリアに目覚めた黒アイチでお願いします。
Q,かぜぽはなんでこんなに主人公に好意的なの?
A,一応複線だけど、このTSクラウディウスは主人公程度の態度を取ってれば大体こんな感じです。
Q,企みとは?
A,TS編のラストで分かるます。

ここ最近は無数の神姫のマスターだったり呪言花札と契約した封札師だったりリトルウイングの新入社員だったりもしたけど、今回は無事に二週間くらいで投稿出来ました。
やはりあれですね。どの時間帯になら集中して文章が書けるかを把握して、その通りに書ければどうとでもなりますね。
あ、因みに今のは多分『投稿遅れました。いやーやっぱそうそう集中して文章書ける時間なんて確保できるわきゃないですよねー』とか次の投稿で言うフラグなので、次回投稿も気長にお待ちください。

それでは、今回もここまで。
当SSでは引き続き、誤字脱字の指摘、分かり難い文章の改善案、設定の矛盾、一行の文字数などのアドバイス全般、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております。


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