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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第五十四話「進化と馴れ」
Name: ここち◆92520f4f ID:190f86b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/31 02:35
ティベリウスの腐ったイカ臭い肉の塔にうっとりとした表情で頬擦りする稲田比呂乃を見て、俺は積年の疑問を考えていた。
それは、『何故多くのニトロ作品には姿形は違えど、稲田比呂乃が存在しているのか』という問いである。
簡単に見えて、奥の深い問題だ。
『スタッフの遊び心だ』などと、当たり障りない答えを口にして悦に浸る人間もいるが、
それは思考停止に他ならず、知性の敗北以外のなにものでもない。
『スターシステム』という表現のスタイルが存在する。
漫画、アニメなどにおいて、同一の作者や監督、制作スタジオなどが同じデザインのキャラクターを俳優の様に扱い、異なる作品の様々な役割で登場させるというシステムだ。
つまり、他のニトロプラス作品の登場する稲田比呂乃と、今目の前で俺直々の洗脳を受け、
ティベリウスに心からの愛情を注ぎ奉仕している稲田比呂乃が同じデザインをしていれば、この稲田比呂乃は他作品からのデザインと名前流用という事になるはずなのだ。
目の前で、フーさんが用意したフリルを多用し布面積も多いにも関わらず大事なところは徹底的に『隠れていない』魔改造メイド服を着た稲田比呂乃は、ニトロ作品共有稲田比呂乃か否か。
それは、他のニトロ世界で採取した稲田比呂乃の肉体構造と比較してみれば分かる。

※他のニトロ作品は装甲悪鬼の世界だけだが、トリップ終了までの放浪期間中、パンピー(トリッパー専門用語・取り込んだり仲間に入れる必要のない、平凡なスペックの作品世界住人の事)を襲っていた所を発見。
※暇つぶしに強襲して俺と美鳥の触手でぐずぐずになるまで玩具にした覚えがある。

―――――――――――――――――――

そんな訳で。

「ティベリウス様、ちょっと俺と美鳥にもヤらせてもらっていいですか?」

駄目ならバインド・スペル使うけど。
ていうか、スパZから名前取ったけど、バインド・スペルって普通に名無しさんの術式に存在してるなぁ。
特に珍しい言葉使ってる訳でも無いから、名前の被りとかしょうがないんだけどな。

「アラ、アンタが姉と妹以外に興味持つなんて、意外ねぇ」

言いつつ、ティベリウスは拒否をするどころか、少し腐れた腸で稲田比呂乃の身体をからめ取り、俺と美鳥の方に尻を向けさせた。
何だかんだでブラックロッジルートに入ってからええと、まだ百周は行ってないけど、結構な時間付き合いがあるしな。
ティベリウスが此方の事を毎度忘れても、こちらはティベリウスの最短攻略法を知っている。
美鳥ともどもティベリウスと同じく触手凌辱のエキスパートである事を伝え、そこらの奇麗どころをタイミングを見計らって献上すれば、この程度の仲になるのは用意なのである。

「お兄さんは、ただ犯すだけなら必要とあればお姉さん以外ともするよー。…………劇薬入りのトゲトゲ触手で壊す事前提だけど」

カットジーンズのジッパーから、成人男性の二の腕程もある触手を生やした美鳥が、俺に流し目を送りながら言う。
ティベリウスもその美鳥に習い、俺の方をにやにやと眺めている。
こっちみんな。

「そういうのは、その掘削ドリルみたいな触手を納めてから言えよ。どこを削るつもりだ」

美鳥の生やした触手は、亀の頭で例えられている部分に無数の棘を生やし、突っ込んだだけで普通の女性ならショック死しかねない代物である。
しかもミンチドリルか乖離剣かという程に、溝の刻まれたパイプ部分が互い違いに回転している。
お前は一体どんな化け物の相手をするつもりなのか。

「そういうお兄さんは何で少年誌対応みたいな柔らかめで表面とぅるっとぅるの触手生やしてんの? カマトトぶってんの」

「必要になれば内部で変形させて枝分かれもさせるし、肉体計測用だからこれでいいんだよ。十分実用に耐える」

言いながら、突っ込む前に美鳥の頬をぺちぺちと触手の先端で叩く。
当然色はホワイトカラー。ベタ塗りもトーンも必要無い作業効率に優しい週刊誌向けの触手でもあるのだ。

「あ、あ、あ……、ちょ、ちょっとまっておにいさん、そんなのずるいよぉ……」

俺の触手を非難する小生意気な表情から一転、ぺちゃぺちゃと飛び散る触手液を舌で舐め取りながら恍惚の表情の美鳥。
だが、そんな美鳥の股間の触手は美鳥の興奮に合わせる様にパイプ部分のスピナーの回転速度を加速させ、隙間から白い煙を吐き出している。
摩擦と熱によって、触手に染み込んでいた美鳥の触手液が蒸発し始めているのだ。

「あんたたち、ホントに仲がいいわねぇ……」

ティベリウスの呆れる様な声。
蒸発しても触手液の効果が損なわれる事は無く、蒸気を吸った稲田比呂乃は、こちらに向けた尻を振り、受け入れ体制は万全とでもいうかの様にパクパクと二つの穴を開閉している。
試しに計測用触手を一本、後ろの穴に先端だけ押し付けてみた。
ひくひくと動く後ろの穴は通常ではありえない程の蠕動で、まるでそれ自体が吸引力を持っているかのように俺の触手を呑みこんでいく。

「っ──────、っっっっ♪」

ティベリウスのモノを舐めながら喉を震わせ、声にならない嬌声を上げ、全身を痙攣させる。
まるで母の母乳を求める赤子の如く触手を吸い上げる後ろの穴。
更に、痙攣に合わせる様にティベリウスのモノを舐める舌使いも激しくなり、蓮コラの様なグロいそれに何度も何度も愛おしげにキスをする。
口に咥えようとして、サイズの違いから僅かにしょんぼりとした表情を見せもしたが、それでも奉仕を休めるつもりはないようだ。

「あーん、いい吸いつきネ☆ ──ォホっ!」

稲田比呂乃の奉仕に、ティベリウスのモノから濁った白と黄色の中間の色合いの粘液が噴出。
稲田比呂乃はその、最初のゲル状だった頃から比べると大分薄くなった粘液を、まるで美酒でも味わうかのように恭しく口に含み、うっとりとした表情でこくり、こくりと喉を鳴らしながら飲み干していく。
ゲルと粘液の水溜りで四つん這いのままの彼女の頭を掴み直したティベリウスが、改めて残った粘液を吸いださせる為に、口にモノの先端を無理矢理に押しつける。
稲田比呂乃は押し付けられたモノを、じゃれついてくる小動物でも相手にするかの様に掌で撫でまわし、ちゅうちゅうと音をたてながら改めて吸い付く様にキスを再開した。

「仲良し兄妹ですから。美鳥、まずはこっちの触手で全身の形状とか、筋肉の付き方とか、内臓の状態とかを調べるから、美鳥はその後な」

「ふぅ……、ん、ふぅ…………仕方ないね。これ、突っ込んだら間違いなくぶっ壊れるだろし」

―――――――――――――――――――

全身隈なく触手で探ってみたところ、装甲悪鬼世界の稲田比呂乃とはあまり共通点を見つけられなかった。
よってこのデモベ世界の稲田比呂乃は、少なくとも装甲悪鬼世界の稲田比呂乃と同一人物では無いと言える。

「ほらほら見て見てお兄さんにティべやん。ケツから口まで触手貫通ぅー☆」

「いいアヘ顔ダブルピースだ。感動的だな」

「……でも、殺しちゃ意味が無いんじゃなかったの? 大導師サマの命令で」

「あ」

美鳥に渡してから二時間、心停止から一時間ほど経過していたが、ド・マリニーの時計で何事も無く復活した。
見聞を広めるには、時には犠牲が付きものである。
少なくとも、アヘ顔ダブルピースの死後硬直とか、普通に生きていたらとても見られるものではないだろう。
直接見ると、別の意味で見られたものではないが。

なお、装甲悪鬼の稲田比呂乃の方が、ティベリウスさん辺りにとっては使い心地はいいと推測できる。
武者の騎航を行うには水泳などにも似た全身運動が必要になるので、必然的に肉体の造りが引き締まり、締め付けが柔軟かつ引き締まった具合になるのだろう。
献上品に使えそうだし、生きたまま取り込まず、せめて首から下だけでも殺してから取り込めば良かったかな、と思った。

―――――――――――――――――――
◆月◇日(パターン入った)

『ブラックロッジに入社して一周目は、何を成すでもなくループを迎えた』
『二周目からは積極的に手を加えていく事になり、手始めにアイオーンの完全破壊を大導師に進言した』
『思えば、大導師が確実にアイオーンを破壊できるようになったのは五周目を数えた頃だったか』
『なまじアイオーンの性能が高く、大導師が未熟で、なおかつある程度の補正が入るので、上手いやり方を見つけなければ、どうしても一定の確率でアイオーンは残ってしまうのだ』
『だが、もはや大導師は術者なしのアイオーンの完全な攻略法を身に付けたので、この点は最早問題無い』

『次に、大十字の心を折れる限界まで痛めつける系のスケジュールも確立したと言っていい』
『何パターンかのナノポマシンが必要ではあるが、その使い分けによって大十字がどの女とくっ付くかも既に理解している』
『先日の稲田比呂乃は攻略こそ難しいが、大十字との仲を引き裂いた場合の大十字の成長率で言えば、他のナノポマシンさえ盛ればチョロい三人のメイドとさして変わらない』
『百周近い試行錯誤の内、タイミングをずらしながらの出会いのパターンやらイベントの違いやらによる微細な変化を観測してみたが、得られた物はそんなデータだけ』
『一応、レア率で言えばシスターライカよりははるかにましだが、わざわざ狙ってくっつける程のものでも無いだろう』

『ここ百周程(いろいろ寄り道もしたので曖昧になってる)で、アーカムシティは大きく様変わりした』
『ブラックロッジに入る前までのアーカムシティが地方都市に見えるほど、とまではいかないが、眼に見えて巨大で堅牢な都市に変化を始めているのだ』
『覇道財閥の地下秘密基地の防衛力も、ハイスクールのロッカールームレベルから、駅のコインロッカー程度の物に進化していると思う』

『ここまで自動化すれば、後は暫く分のナノポマシンを用意しておけば、俺がブラックロッジやミスカトニックに居る必要も無いだろう』
『というか、わざわざメイドを狙わなくとも、大十字とくっ付いた覇道瑠璃を確実に破滅させる方法も確立しているので、ナノポマシンも余り必要では無くなってしまった』
『やっぱり、二百年近く大十字を鍛える事ばかり考えてると効率が違う』
『メイドとくっつけて破滅させた場合の伸び率の計測の片手間だったのに、その計測結果すら不必要になってしまった。』
『ここ最近は実験や大十字の強化ばかりしていたし、おろそかになり始めていた自己の強化を、ここらで再開してみようと思う』

―――――――――――――――――――

「そのような訳で、お暇を頂きたいのです」

夢幻心母の中心、毎度おなじみ玉座の間にて、大導師にお伺いを立てる。
御伺いを立てるとか言いつつ、もう俺の中では暇を貰って自己の強化を再開する事は決まった事だ。
いざとなれば大十字を戦力的に只管甘やかし、ここ暫く分の強化を無かった事にするぞと脅しをかけて無理矢理にでも抜けさせて貰う。
というか、大導師は別に反対はしないだろう。
元々、俺と大導師との間で相互に利益が上がるからこそ協力関係が成り立つ訳だし。
……俺、利益あったかなぁ。ずっと下っ端改造したり、ティベリウスが浚ってきたメイドの洗脳ばっかりしてた気がする。
やっぱ、ここは先延ばしにしてた自己強化を最優先だな。

「……貴公がブラックロッジに入団して、今回でどれほどの長さになるか」

椅子に座り、髪の毛を弄りながらこちらに虚ろな視線を向ける大導師。
発言の意図が分からないが、問われたからには何か意味があるのだろう。
……いや、本気で何の意味も無い時もあるが。
この大導師偶に唐突にボケるし。天然入ってるし。

「正確に数えていた訳ではありませんが、二百年前後程ではないかと」

ブラックロッジに即座に入社した事もあれば、ミスカトニックで一年ほど過ごした後に大導師に直接スカウトされた周もある。
二年と半年かそこらでループ、それを役百周だから、大体その程度。
正確な数値も出るのだが、大導師は正確な数値が知りたい訳でも無い筈だ。

「二百年……、常人ならば長き時と思えるか。──だが、余や貴公達の様に永き時を生きる存在にとっては、瞬きの様な時間だ」

「いや正直結構長かったですよ。社員改造してメイドを洗脳して凌辱するだけみたいなものでしたし」

「瞬きはあそこまで長くないだろ常考」

大導師のあんまりと言えばあんまりな発言に、思わず少しだけ素の口調で本音を漏らす俺と美鳥。
大導師は何だかんだで馴れているのかも知れないが、俺と美鳥はこれまでデモベ世界でまっとうに自己強化を図っていた時間の倍以上の時間を過ごしてきたのだ。
しかも、自己の強化とは余りにも関係の無い方向で、だ。
何が悲しくて覇道のメイドなぞ犯さなきゃならんかったのか、もうメイドは暫くご勘弁、って気分になるのも仕方が無い事だろう。
そういう意味で言えば、大十字が彼女を作るまでの時間は割と息抜きタイムだったなぁ。
鉄男スーツとか鉄猿スーツとかサンダルフォンスーツとか再現できたし、意味の無い趣味の時間だったにしても、こっちの方がいくらか実りがあるし趣味にも合う。

「はぁ……」

俺と美鳥の大導師への突っ込みを聞き、エセルドレーダが深々と溜息を吐く。
最初の頃であれば、先ほどの突っ込みの時点でエセルドレーダがガタッと音を立てながら立ち上がり此方を睨みつけてきた事だろう。
だが見て欲しい、このエセルドレーダの表情。
親愛が無いのは当然にしても、こめかみに指を当て、呆れても物も言えない、という雰囲気剥き出し、注意する素振りすら見せないではないか!
これが好感度上昇の結果ってやつだよな。
初期なら今頃美鳥か俺がエセルドレーダの魔術発動前にディスペルしてドヤァ……してた筈だし。

美鳥と共に、ブラックロッジ内部(大導師とエセルドレーダ限定)からの評価の上昇率を考えにやにやと笑う。
と、次の瞬間、我々は衝撃的な光景を目撃する事となる。

「ふ……」

だ、大導師が微笑を……!
何時も気だるげな表情か、決め顔である亀裂の様な笑みしか見せなかった大導師が!

「少なくとも、余にとっては瞬く間に過ぎた時間だった、という事だ」

「それは、どの様な、意味で」

俺の問いに答えず、大導師が椅子から腰を上げ、ゆっくりと此方に、もっと言うなら片膝を付いている俺と美鳥の内、明らかに俺の方へ向けて近付いて来ている。
五メートル、四メートル、三メートル、二メートル、一メートル。
ぜ、零メットール……。これ以上はロックバスターでも破壊できない。
やたら近い。この大導師はパーソナル・スペースという概念を知らないのだろうか。
一メートル未満、五十センチ以上といったところだろうか。
大導師が手を伸ばせば即座に届く距離。
俺は決して伸ばそうとは思わないが。

「理解できぬか?」

「は……」

今の状況を整理しよう。
大導師どのは俺から見て六十センチ程前方に立ち、頬笑みを絶やさぬままプレッシャーをかけてきている。
キーワードは、『距離』『微笑み』『プレッシャー』の三つか。
ここから導き出される答えは……。

《ガチホモの臭いがするよ! するよ!》

(うるせぇ)

美鳥がにわかに興奮している。
確かに、立ち膝の俺から見ると立っている大導師の股間が眼前に来る訳ではあるが、大導師も『なぁ……、スケベしようや……』などと言いたい訳ではあるまい。
そんな事を言われた日には俺は全てのエネルギーを燃焼させ尽くしてでも、大導師と母体であるネロ、予備のシスターライカを殺害し、一気にこの無限螺旋を脱出しなければならなくなる。
それはともかく、正解は、威圧感か。

「お強くなられました。初めてお会いした時とは見違える様です」

初期の似非プレッシャーに比べれば格段の成長だろう。
だが、まだまだ威圧感だけで動けなくなる程でも無い。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、大導師は少しだけ笑みの表情を強くする。

「貴公の指導の賜物だ。貴公の言う通り、大十字が強くなればなるほど、余は高みへと上り詰める事ができた」

その言葉と共に、こちらの伸ばされた大導師の手が、俺の、顎に、添えら、

「気が向いたなら、時には顔を見せに来るがよい。貴公は、余にとって──」

「はい気が向いたらまた参加させていただきますそれでは失礼しますまたあう日まで!」

れる前に、美鳥の手を引っ掴み、立ち膝の姿勢のまま後方に瞬動で退避。
そのまま超速で別れの挨拶を済ませ、短距離ワープと長距離ワープを繰り返して夢幻心母から退避した。

―――――――――――――――――――

通常の魔術師では覗き見る事すら困難な亜空間を経由し、ミスカトニック大学の時計塔の上に降り立ち、一息。

「まさか、俺がIKE-MENの耽美アクションに巻き込まれそうになるとは……」

美少年に顎を摘ままれて上を向かされるとか、流石に怖気が走る。
ていうか、背筋が汗でびっしょりだ。キモくて。
顔が綺麗な分、ああいう距離に来られるとキモさが乗算されて、正直勘弁願いたい。

「うぅん、あのまま放置したらどうなったか見てみたかった様な気もするし、よりにもよって男にお兄さんの唇が奪われるような事態にならなくて良かった気もする……」

俺に手を握られたままの美鳥が、片手で悩ましげに顔半分を隠し懊悩している。

「見たかった様なほっとした様な、このアンビバレンツな感情を、あたしはどう解消すればいいんだ。教えてお兄さん!」

「死ねばいいと思うよ」

割とマジで。

「ま、冗談はともかくとして。せっかくミスカトニックに来たんだし、先生達とゼミの連中にも挨拶していかない?」

冗談にしては真に迫った興奮ぶりだったが、JIHIとKANNYOの心で見逃してやる事にした。
もう一週間もしない内にアルアジフがアーカムに現れ、大十字とエンゲージ。
もう休学届は提出しているが、別れの挨拶くらいはしても罰は当たらないだろう。

―――――――――――――――――――

「そんな訳で、少しばかり休学です」

「なんつうか、お前らは毎度毎度やる事成す事唐突だよなぁ」

午後の講義が終わった大十字と、大学近くのカフェテラスで軽食を食べながら顔を付き合わせる。

「毎度毎度と言いますけど、俺ってそれほど唐突に何か始めたりはしてないですよ?」

大体、何かやらかすのはループ初期でかなりやり尽くしてしまった感がある。
そもそも、ループ自体がそろそろ二百周に届きそうなのだ。
無限螺旋という音の響きと、原作で大導師が味わった永劫とも感じられる時間の牢獄とは比べ物にならないかもしれないが、単純に二倍して四百年近くこのループに身を置いている計算になるのだ。
正直な話、最近の俺と美鳥はミスカトニックではかなりの優等生で通っている、と思う。
勿論、突発的に発明品や新理論を思いついて実践する時もあるが、それにしても極々稀。

「ありゃ、そうだったか。……でもなぁ」

大十字は俺の言葉に首をひねり、何かを思い出そうとするかの様に考え込む。

「うーん……、言われてみれば、お前らは確かに大体何時もエセ優等生してたっけか」

エセって何だよ。

「でもなぁ、何か、お前らにはかなりの回数悩まされたというか、トラブルに巻き込まれたというか、そんな気もするんだよ」

コーヒーをスプーンでかき混ぜ、苦笑いを浮かべながら、可笑しいか? という大十字の言葉に、俺は少しだけ思考を巡らせる。

有り得ない話では無い、と思う。
この世界は基本的に、大十字と大導師が過去に遡る度に作り替えられ、幾つもの平行世界を生み出している。
それだけであれば、ループを抜け切っていない大十字が平行世界の記憶を呼び起される事は無い筈だ。

だが、この世界にはとびきりの異物として、俺と姉さん、美鳥というトリッパーが存在している。
基本的に俺達は、千歳さんの作り出した二次創作であるこの世界の不備を基点にしてループしている。
タイムトラベルというのも違う。何と説明するべきか、

『オリジナル主人公は無限螺旋で気の遠くなるような時間をかけて成長する』
『オリジナル主人公は無限螺旋を大導師やエセルドレーダ、デモンベインの様に能力引き継ぎで巡り続ける』
『先の二つの設定が存在しているが、どうやってオリジナル主人公がループするかは設定されていない』
『が、先の二つの設定は確定しているので、オリジナル主人公は理由が無くとも確実にループする』

で、設定不備の為に生まれる事の出来なかった主人公の代わりに、トリッパーである俺達がこの世界にやってきた。
当然オリジナル主人公の代わりである俺達は、オリジナル主人公を演じ切る為に『理屈は無いがループする』というルールに従って、訳も無くループしているのだ。

「まっさかー。前世であたしらに迷惑掛けられたとかじゃあるまいにー」

「だよなぁ」

けらけらと笑い飛ばす美鳥に、どこか困った風に後頭部を掻きながら頷く大十字。
だが、今の大十字の仮説というか、冗談は、決して笑い飛ばせるものではない。
『よく分からないけどループしている』という状態は、『どのような理屈でループしていてもいい』と言い換える事もできる。
つまり、俺達は単純に能力を引き継いでゲーム的にループしているとも言えるし、あいとゆうきのおとぎばなしの如く、時間の遅れている平行世界に記憶と状態をコピペしているとも言える。
つまり、なんでもありな状態になっていると言い換えてもいい。

で、そんな状態の中、俺は毎周毎周、飽きもせずにミスカトニックに通い、大十字とそれなりにつるんできたのだ。
ブラックロッジ関連で表立って味方に付いた事は無いが、ヒーロー物に付きものの博士的に新装備を与えた事もあれば、特訓に付き合ってやったこともある。
実戦民族学の講義で手助けした事もあれば、レポートを手伝ってあげた事もある。
となると当然、ゼミの連中と悪乗りして大十字を女装させたり、服着たまま海にダイブさせたり、盗んだバイクに括りつけて共に風になったり、新兵器や新薬の被験者にしたり、うっかり大十字の自宅を吹き飛ばしたりもした訳だ。

軽く二、三十周ほど触手凌辱した程度の付き合いであるメイドどもならばともかく、大十字であれば、これまでのループ、つまり書き換えられて存在しなかった事にされた平行世界の出来事の記憶が流入していてもおかしくは無い。
……当然、そんな事態はそうそう起きる筈も無いし、それこそ記憶の流入的な事が起きるのも、大十字の時間がこの無限螺旋の中で完結しているからこそだとも言えるのだが。
他に記憶を引き継いでいそうな存在といえば、こちらがループしている事を既に知っている連中ばかりだから、警戒には値しない。と、思う。
ぶっちゃけ、ニャルさんが本気で何か企んだとして、どう防ぐかなんて思いつかないしな。

「でも、そっか、寂しくなるな」

少しだけ、大十字の顔が暗くなる。
別にこの周の大十字は鼻に付くエリート様で、碌に友人の一人もいないぼっちという訳では無い。
が、それでも大学に同郷の人間は俺と美鳥くらいしか居ない。
俺達視点からあまり絡んでいない様に見えても、他の学生と比べて親密さはそれなりに育っているのだ。

大十字が忙しい時にはトーストとコーヒーで済ますアメリカかぶれの糞オサレ臍出し野郎である事に嘆きを覚え、思わず食事を振る舞いに行ってやる事もある。
二年半で無理矢理にアメリカかぶれを解消させようと尽力した周もあったか。
あの時は最終的に私服が和服になったのだが、驚くほど似合わなかったなぁ……。

「一年もしない内に戻ってきますよ。先輩の卒業論文も読んでみたいですしね」

まぁ、ループを抜け出すには基本大十字がドロップアウトしないといけないし、俺達はどっちにしろ二年半くらいの間隔でループするから、卒論なんて読みようが無いのだけど。

「そーそー、あたしらだってそんなしみったれた顔で送り出されたくないしさー」

笑え笑えー、と言いながら、大十字の両頬を掴んで無理矢理笑顔の形に整える美鳥。

「いて、ちょ、こらやめ……、おい卓也も見てないで止めろって」

「後輩の悪戯くらい多めに見て下さいよ。翻訳手伝ってあげたでしょう?」

「ありゃ、手伝ったんじゃなくて乗っ取ったつうんだよ。途中から完全に独自解釈全開だったろうが」

やっとの事で美鳥の手から頬を開放された大十字が、草臥れた様にツッコミを入れた。
そのまま大きく後ろに仰け反り、ぐでっと背もたれに身を預ける。
まだ大十字もアルアジフと契約していないし、話すにしても内容としてはこの程度。
どうせループすれば無くなる関係ではあるが、裏話ばかりでプレッシャーを無視するのも面倒臭い大導師との会話に比べれば、これも息抜きの一種だろう。
今回の強化が終わったら、強化の為の虐待とか関係なく、久しぶりに何の変哲も無い大学の先輩後輩として付き合うのも悪くないかもしれない。

―――――――――――――――――――

暫く大十字と談笑し、家に帰る前にニグラス亭へと足を運ぶ。

「ここをトリに持ってくるあたり、お兄さんは無意識の内に色々な事を把握し過ぎだよね」

「何を言っているか、俺にはさっぱりわからんね」

ニグラス亭とシュブさんは、今までのループで大十字と同じレベル、いや、下手をすればそれ以上の付き合いの長さと深さを誇る場所と相手だ。
家に帰り、自己強化を始める前に最後に挨拶をするとすればここ以外はありえないだろう。

「先生にはなんも無いの?」

「アーミティッジの爺様に、シュリュズベリィ先生宛てでちゃんと餞別を渡しておいたぞ」

サングラスの代わりになりそうなものとして、スパロボJ世界で手に入れた葎の仮面コレクションから、クルーゼやネオの仮面に良く似たモデルの物を選別して渡しておいた。
あのサングラスも戦闘で良く外れるからな。MSの戦闘でもそうそう外れないあの珍妙な仮面であれば、きっとシュリュズベリィ先生も気に入ってくれる筈だ。デザイン以外は。

因みに、アーミティッジの爺様には日緋色金の金属球をブラックジャックが三つ四つ作れる程渡しておいた。
これで面倒臭い学生が現れた時でも、容赦なく脳天をかち割る事が可能になる事だろう。
一番高くつく様に見えるが、結局はどちらも複製なのでどちらもタダ。

そうこうしている内に、ニグラス亭の前に到着した。
ブラックロッジに所属してからも通い続けていたが、生活時間帯が異なる為か、この店でドクターとはち合わせた事は無い。
というか、ドクターがニグラス亭の事を知っているか知っていないかはループ毎に異なる様で、少なくともこの周はドクターはニグラス亭の存在を認知していない。
まぁ、変な所を見られないという点ではあり難いのだが。

「じゃ、あたしは外で待ってるね」

美鳥が繋いでいた手を解き、隣のビルの非常階段に腰掛ける。

「お前は挨拶してかないのか?」

「あたしは大導師への挨拶もお兄さんに任せる程の女だよ?」

少なくともそれは平均的な胸を張って言う所では無いな。
少なくとも二百年かけて欠片も成長しない平凡な隆起の胸を張る所では無いな。
大事な事なので二回思ったが、念のため口にも出して言っておく。

「揉んでも大きくならないものな……」

基本的にこの町、大きいか小さいかのどちらかしか居ないから、美鳥の様な平均胸は希少だ。
希少価値などと言う言葉は、少なからずそのマイノリティに価値を見出せる者が居なければ欠片も説得力が無いという事をよく教えてくれる、良い街だと思う。

「あたしを言葉と心の両面から嬲り者にする暇があるなら、早く挨拶しに行って欲しいなぁ」

あと、嬲り者にするなら肉体的にも嬲ってよ。という美鳥の言葉を華麗にスルーしつつ、ニグラス亭へ。
扉の前には準備中の意味を含む、人類とは意思の疎通が困難な、外宇宙に存在する未知の文明が使っていそうな文字が筆書きで書かれた看板が吊るされていた。
が、当然ニグラス亭限定燃える炎の熱血アルバイターである俺は、気にすることなく合鍵を使い扉を開け入店。
ニグラス亭とそこに連なるシュブさんの自宅の扉に関しては、バイト開始から五十周ほどした頃にシュブさんから残らず合い鍵を渡されているので、自由に出入りできる。

……しかし、シュブさんももう少し警戒心を持った方がいいと思うのだが、どうだろうか。
俺が雇い主を毒牙にかける様な恩知らずの狼野郎であったなら、今頃シュブさんの寝室の鍵を最大限に利用し、R-18でダンツィドゥムァ的展開になっていた可能性だってあるというのに。
信用されていると思えば、決して悪い気分では無いのだけど。

「シュブさーん」

店内を見渡しながら、どこかに居る筈のシュブさんに声をかける。
食材は昨日の内に大量に買い込んで、特製冷蔵庫に突っ込んでいた筈なので、少なくとも食材の買い出しではないだろう。
店内にシュブさんが居ない事を確認し、カウンターの後ろに回り込む。
シュブさんの自宅は、ニグラス亭内部と直結している為、自宅との間のドアの鍵があれば、容易に侵入が可能なのだ。

「おじゃましまーす。シュブさーん、居ないんですかー?」

ここで、良くあるギャルゲエロゲの迂闊で粗忽な主人公共であれば、意味も無く腹の調子を崩してトイレに向かい、鍵を掛けずに用を足していたシュブさんとバッタリ、とか、
身体が勝手にシャワー室に向かった挙句、着替え中のシュブさんとバッタリ、などという、訴えられたらかなりの確率で敗訴するだろう状況を生み出すのだろう。
だが、俺は違う。

「ここは、居間かシュブさんの自室に向かうのが安牌か」

勿論、部屋に入る時はノック、しばらく間を置いて返事が返ってくるのを待ってから開けるのだって忘れない。
先ずは居間。ノックをして声をかけ、十秒ほど待ってからドアを開ける。
部屋の中は、極々一般的な何処にでもある居間だ。
しいて普通とは異なる点を挙げるなら、ここに住んでいる人はまめな人なのだなと一目で分かる整頓具合か。
いや違う、何と言えばいいのか、埃が被っている訳では無いが、頻繁に整理されている訳ではなさそうだ。
使用頻度が低いというのだろうか。シュブさんはあまりこの部屋を使用しないらしい。
その証拠に、以前お邪魔した時と、部屋の内装の位置がまるきり変わっていない。
俺が定位置から退かしたクッションが、俺が退かした位置から殆ど移動していない。
本気で、来客時にしか使用しない可能性もあるか。
ともかく、ここにシュブさんは居ないのは確認できた。
部屋を出て扉を閉め、廊下を歩く。

決して広々としている訳でも無駄に長い訳でも無いが、壁には所々精霊崇拝などに用いられる器具に、なんとも言えない、肉の塊から触手を生やした何かのレリーフが刻まれた石板などが飾られていた。
……時折、高度に魔術的な意味を含む霊装までもが飾られている。
常々思う事なのだが、やはりシュブさんは謎の多い女性だ。
女は謎や秘密を纏って美しくなるというが、彼女もその例に漏れないのだろう。
もしも姉さんが居なければ、俺も少なからず彼女に惹かれていたかもしれない。
まぁ、姉さんが居なければ、この世界は存在すらしていないし、俺だっている筈も無いのだが。

廊下の先にある一番奥の部屋、シュブさんの私室の前に立ち、ドアをコンコンと軽く叩く。

「──」

誰何の声も無く、入室を促される。

「おじゃましてます」

「────」

いらっしゃい、か。
今日はどうしたの、でもなく、何か用事があるのかという問いでもなく、お茶でもしていかない? という誘いでもない。
ああいや、お茶というか、飲み物は用意されている。
テーブルにはお茶受けのケーキに、謎の白い液体。
シュブさんの目の前にワンセット、向かいには、シュブさんが以前俺用に買っておいたというクッションが置かれ、その前にもワンセット。

「────、──────?」

着席と、休憩を勧められる。
ニュアンス的には、話を始める前にお茶でもしない? みたいな感じか。
ニュアンスが正確に捉えきれているかが少し不安だ。
なんだか今日のシュブさんは、何時もよりも訛りが強い。

「では、失礼して」

一言断りを入れてからクッションに腰を下ろし、白い液体の入ったカップを手に取り、口に運ぶ。
温度は、熱くも無く冷たくも無く。人肌よりも少し高め、しぼりたての牛乳がこの程度の温度だったか。
温めのそれを、ゴクゴクと呑むのではなく、一口だけ口に含み味を口の中でしっかりと確かめる。
濃厚ではないが複雑で、どこか霊薬にも似ている。
乳製品の様だが、物としては少し前に日本で旅の魔術師(蟲に関わる仕事を専門にしているらしい)から一口だけ譲って貰った光酒(こうき)にも似た性質がある様に思える。
不思議な味わいだ。今まで口にしてきた飲み物の中では味わった事の無い感覚だと思う。
生き物ではなく、あらゆる生き物に含まれる命そのものを取り込んでいる様な……。

「──」

「ええ、美味しいです。でも、いや、本当に美味しい……。シュブさん、これは一体……」

一瞬、その余りに複雑で豊か、神秘性すら感じる味わいに、ここに来た目的も忘れシュブさんに問う。

「────」

俺の感嘆の表情と言葉に、シュブさんは僅かに嬉しそうにはにかみながら、白い液体の正体を教えてくれた。

「特殊な山羊のミルクでしたか。いや、これなら毎日飲んでいたいものですね」

「──、────……」

俺の言葉を聞き、シュブさんは顔を耳まで赤く染め、机の上に自分の分のカップを置き、もじもじと両手の指先を遊ばせ初めてしまう。
何やら、俺がこの特殊な山羊のミルクを気に入った事がとても嬉しいとの事らしい。
続いて、ケーキにも手を伸ばす。
レアチーズケーキだ。だが、店に一時期出していたモノとは異なり、少しだけオシャレっぽさが抜けた素朴なデザインに落ち付いている。

「────、──」

「なるほど、先ほどの山羊のミルクを使って」

実に興味深い。
こういう時で無ければ、どのような山羊からとれるミルクなのかを問いただしたいし、このレアチーズケーキも一度取り込んでから複製して何度も食べたいところなのだが。

「───」

「や、それはありがたい」

勿体なくて手を出しあぐねていたら、シュブさんが後で土産用に包んでくれるらしい。
心おきなくケーキをフォークで切断し、ちびりちびりと食べる。
美味しいし、先の山羊のミルクの味を殺さない絶妙に素材の味を生かしたケーキ。
何故かシュブさんは嬉しそうに此方の事を見つめているが、まぁ、食堂を経営している以上、自分の作った物を美味しく食べて貰えるというのは普通に嬉しいものなのだろう。
そんな感じで、シュブさんに見つめられながらも不思議な味わいのレアチーズケーキは食べ終えた。

―――――――――――――――――――

すっかり落ち付いた(元から落ち付いていなかった訳ではないが)所で、本題に入る。
と言っても、話す内容はこれまでとほぼ同じ、少しばかり旅に出るからとか、そんな感じの理由ではぐらかして終了。

「────」

終了、の、筈だったのだが。
何故か速攻でばれた。

「何故、嘘だと?」

ばれる要素は無い筈だ。
確かにこの周では唐突な行いはしていないが、それでもシュブさんとは長い付き合いだ。

「──────、──────────」

シュブさんが言うには、俺は普段はそれなりに冷静な癖に、時たま錯乱しているのではないかと思うほど唐突な行動を取るらしい。
だが、それを差し引いて考えても、このタイミングで世界を見て回る、というのは違和感があるのだそうな。
未だに、畑仕事を応援に行った時に足を舌でじっくりねっとり舐められた事を根に持っているとも言っている。
ああいや、あれは違う周だ。
違う周であれば過去とは言えないし、そもそもシュブさんがループ前の記憶を引き継ぐ理由が──

「──」

思考を遮る様に、溜息を吐かれた。
まるで出来の悪い生徒を受け持ち困っている教師か、やんちゃな子供の行動に頭を抱える保母さんか、練習を始めたばかりの後輩の覚えの悪さに苦労する先輩か。
だが、呆れ以外の感情も伝わってくる。


──そう、伝わる。霊薬でトランス状態になった訳でも無いのに、俺の魂とシュブさんの魂が滲む様にその一部を重ね合わせている。

「────、」

滲んでいる
部屋の中に、シュブさんと俺が居て、でも、境界線が曖
昧で部屋の中、

か違う、外の内で

「──、」

ぐにゃ
り、と、  歪む俺、おと無た
くやを形成する記憶知識自我情報の影
が、形
 火花 
       虹

「───、───」


を失

たらし
かたち    かた
 べ

  泡

ノ ズィ  な






仮留め
目の前には不
鮮明な景色が
映り込みそこ
には食い荒ら
された大地と
人類から数え
て五番目の地
球の支配者で
ある彼等の迎
える文明最後
の光景だ邪神
崇拝ではない
極度に存在と
して尖り続け
ていた彼等は
既に邪神を制
御しえるのだ
と思いこむと
いう邪神の計
略により見事
追ってはいけ
ない科の外殻
表面の輪郭を
目で追う彼等
は半数がかの
山羊の蹄を持
つ大いなる神
の生贄にすら
ならず魂を砕
かれその一部
に還元される
というのは栄
誉ある事なの
だと教えられ
てきここは室
内で目の前に
は本性を現し
たシュブ・■
■■■胸元を
はだけ白濁の
生温かい液体
を器に注ぐ姿
は慈愛とはか
け離れた宇宙
的なまでの役
割分担の失敗
であ旅に出お
土産何が尋ね
彼女の配役果
日が来ない事
をいまだに半
ば確信させて
くれたらしい
蟲が飛ぶ空で
虹色のシャボ
が泡立つたび


「『あのミルクは美味しかった?』」


【再起動します】
―――――――――――――――――――

──っと、一瞬眩暈を起こしていたらしい。
ええと、なんだっけ、出されたものの味を聞かれたんだったか。

「ええ、あんな良い物を御馳走になってしまって」

「────」

修行の旅にでるなら、精を付けておかないと、か。
毎度毎度、シュブさんには世話になりっぱなしだ。

「────────?」

「そう、ですね。結構長い事空けると思います」

なにしろ、取り込む相手の規模が違う。
月一つ取り込んだ事もあったが、それと比べるのも馬鹿馬鹿しくなるスケールなのだ。
百年や千年では効かないだろう。
俺のループが二年半として数百から数千周掛かってもおかしくは無い。
流石に長くなる理由までは話せないが、シュブさんはどうにか納得してくれた。

「───、─────」

ああ、もうそんな時間か。
何時の間にか数時間が経過し、窓から見えるアーカムの空は茜色に染まっていた。
ちくたくちくたくと時を刻む壁掛け時計は、すでに時刻が五時に迫っている事を教えてくれる。
どうにも、シュブさんとの会話が弾んでしまったらしい。
何を話していたかは、あまりにも会話の内容がくだらなさ過ぎて覚えていないが。
シュブさんもそろそろ夕方の営業を始めなければいけない頃合いだろう。
今日はバイトの日では無いし、邪魔にならない様に帰らなければ。

「じゃあ、俺はこれでお暇させていただきます。ケーキと山羊のミルク、ごちそうさまでした」

その場から立ち上がり部屋を出て、食堂の中まで歩き、途中で厨房に立ち寄ったシュブさんからケーキの入った紙の箱を渡される。

「今日はお邪魔しました。戻ってきたら、またバイトさせてください」

シュブさんの自宅からニグラス亭に出て、店の入り口から出る直前に、シュブさんに頭を下げる。
罪滅ぼし的な意味で初めたバイトではあるが、このバイトは生活に張りを出すのには持ってこいの仕事だと思う。
頭を上げ、入口のドアを開けて外に出る俺に、シュブさんは軽く手を振りながら口を開いた。

「────────ね」

少しだけ、ほんの少しだけ、はっきりと通常の言語として聞き取れた部分がある。
『無理はしないでね』
見目に違わない、綺麗な声。
あんな綺麗な声なら、普段からもっと普通に喋ればいいのに。
向かいのビルの非常階段に腰を下ろしてアイスキャンディを舐めている美鳥に歩み寄りながら、俺はそんな事を考えていた。

―――――――――――――――――――

×月×日(憎悪の空より来りて)

『という言葉に始まるデモンベインの招喚呪文だが、結局のところあれは虚数展開カタパルトの遠隔操作用の術式でしかない』
『覇道鋼造も小説版で使用していた口結ではあるが、あの呪句自体にはさして魔術的な要素が含まれている訳では無い』
『一般的な術者の機神招喚時の口結がどんなものかと言えば、これもまた千差万別』
『普通の言語で招喚する連中は大概正気度の高い、いわゆる人間寄りの連中だけ』
『大概はふんぐるいとかむぐるうなふとか、そんなありきたりな呪文で呼び出される』
『かと思えば大した詠唱も無く、ヒーローものストーリー中盤変身シーンの如く省略される事もしばしば』
『ある程度の腕さえあれば、それこそ詠唱する必要すらないというのが定説だ』
『翻って、俺はどうか』
『喜ばしい事に、俺は招喚に詠唱を必要としない程度の位階に届いているらしい』

『だが、実の所を言えば前々から不思議でならなかった』
『何故、一々招喚するというプロセスを踏まなければならないのか』
『それは余分でしかない』
『可逆変身機構を備えた改造人間にも通じる無駄な一手間』
『隙を無くすと言うのであれば、鬼械神を招喚するのではなく、鬼械神に匹敵する力を術者が直接手に入れた方が良いに決まっているのだ』

『この日の為に、俺は大十字やブラックロッジの闘争には欠片も気を向けず、只管に精神と肉体を安定させ続けてきた』
『何かを取り込むために、ここまで準備を整えたのはこれが初めてかもしれない』
『遂に計画は最終段階に移行した』
『成功したら、しばらく何も考えずに普通に生活してみよう』
『大十字辺りとは、積極的に友人関係を築くのもいいかもしれない』

―――――――――――――――――――

太陽系、第三惑星、地球。
そこはかつて水と緑に包まれ、無数の生き物たちがその生を謳歌していた。
暗黒の宇宙の中にあって、希望と奇跡に溢れた星。

「成功、したの?」

「勿論よ」

だが、今の地球には、奇跡や希望と謳われた様々な超自然的構造物は存在していない。
水は涸れ緑は失せ、生き物に至ってはたったの一人しか存在していなかった。
大地に至ってはその全てがガラス質に覆われ、いや、地球と呼ばれた惑星は、一つの欠けも無い超巨大なガラス玉に生まれ変わっている。
辛うじて、空だけは青い。

遥か遠くの地平線の彼方まで延々続くなだらかなガラス質の荒野。
その一点に、巨大な足跡が存在した。
ガラス質を貫き、横幅十数キロ、深さも数キロ程にも達しようかという、巨人の足跡。

今なお崩落を続けているガラス質の穴の上、宙に浮かぶ二人の人影。
良く似た容姿の女が二人。
百人見れば百人が彼女達の事を姉妹か何かと思う事だろう。

「なんか、前よりよっぽど大きく無かった?」

冷や汗を浮かべる、蒼褪めた表情の吊り目がちの少女。
ぷかぷかと重力を無視して浮かぶ彼女は、もう一人の女性に襟首を後ろから掴まれたまま呟く。

「二百年近く足踏みしてたけど、それでも修行をしてなかった訳じゃないもの。液体人間作製とかは、魔術を理解するなら中々勉強になるしね」

少女の襟首を掴み牽引する手の持ち主。
おっとりとした口調で目の前の巨大な穴を見下ろしながら喋る、垂れ目気味の女性。

「どゆこと?」

「理解してきてるってこと」

二人は澄み切った大気の中をふわりと飛び、巨大なガラス質の球体と化した地球から見る見るうちに離れていく。
遠ざかるガラスの大地を振り返りもせず、女性は少女の襟首を掴んでいない方の手を、勢いよく虚空に突き刺す。
この宇宙の初めから終わりまでに発せられるあらゆる音に似ない破砕音と共に、空間が引き攣れ、割れた。

時空の法則が乱れ、一瞬にしてガラス質の地球はどろりと融け、周囲の正常な引力に従い周囲の惑星へと零れ堕ちていく。
零れ堕ちる瞬間にも変質は続き、融けたガラスが他の惑星に衝突するよりも早く、風化、字祷素へと還元される。

地球を完全に消滅させたのは異世界の法則だ。
女性の引き寄せた、数百次元にも達する超高次元から漏れ出した僅かな情報が、地球という惑星の正気を失わせたのである。
時間、空間などという概念、時間を無視するという概念すら超越した異界の果て。

「さて、ここを経由すれば、直ぐにでも最適化の完了した卓也ちゃんの元に辿り着けるんだけ、ど……」

何時の間にか、女性の手に襟首を掴まれていた少女の姿が消えていた。
いや、確かに居るには居る。
その姿は酷くコンパクトに、三センチ四方の超立方体へと姿を変じさせているが。

「死ななかっただけ成長してる、ってことよね。偉い偉い♪」

女性は僅かに嬉しそうな表情で、掌の中の超立方体を指先で数度撫でる。
女性程に高位次元への肉体、精神的耐性の無い少女は、自らを非ユークリッド幾何学的に可能な限り高次元な存在へと擬態させ、その命を繋いだのである。
こうでもしなければ少女は置き去りにされ、たった一人で数百年、数千年の時を過ごさなければ行けなくなる。少女は必死だったのだ。

「それじゃ、先回りして、おめでとうパーティーの準備をしておかないとね」

掌の中の超立方体少女を肩から提げたバッグの中に放り込むと、女性は空間に生まれた次元の断層をまるで濡れた手で薄紙でも破るかの様な気易さで広げ、神智すら超越する超高次元へとその身を躍らせた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

──あれから、どれほどの時間が過ぎたのだろう。
カップ麺の完成を待たされていた様でもあり、惑星が生まれてから死ぬまでをじっくりと観察させられた様でもある。
俺はコレを取り込みながら、絶えず変化を続けていた気もするし、永遠不変を体現していた気もする。

だが、理解出来た事が幾つもある。
これと同一になる事が無ければ、この事実に気が付くのにどれほどの時間を要したか。
時間、空間。
その無限の広がりと最果てを見た。
理解した。はっきりと。
そうだ、こんな事は、単純な事なのだ。
時間と空間と俺の関係は、こんなにも簡単なことだったのだ!

身体が軽い。
腕を一振りするごとに、何もかもが新しく生まれ変わったかの様な爽快感を与えてくれる。

伸ばした爪先が銀河系の誕生した頃の時間を蹴り飛ばし、それによって歪んだそれ以降の時間を脚が、胴が、顔が、無理矢理に押し戻し矯正する。

時間の概念が崩壊し、途中で途切れた切り株の様な平行世界に腰掛け、逆行者か何かが絶えず歴史を書き換え続ける不安定な平行世界を背もたれにして、身体を解す。
蠢く世界線がまるでマッサージチェアの様なうねりを再現している。

全身のコリを取る様に動かし続け、俺の身体はみるみる内に縮んでいく。
超次元的に折畳まれていく体。
時間にしてマイナス七時間と十九分と五十八秒を掛け、何時の間にか何時かの元の俺の姿へと戻っていた。

「さぁ、次は逆招喚だ……」

三次元的な時間の流れに逆らわずに喋るのも久しぶりな気がする。
あれ、でもつい最近だったような。
少し前に身体のどこかが元の次元の時間に触れたのかもしれない。
思い浮かべるまでも無く、身体には逆招喚の術式がスタンバイしている。
最適化中も容赦なく招喚されていたからな。
世の中の魔術師は揃いも揃って、俺の事をバキュームカーとでも勘違いしているのではないだろうか。
だが、そのお陰で招喚関連の術式もはや反射レベルで発動可能。

最後に、普通の魔術師が招喚できなくなると色々問題があるので、ぷりっと軽く取り込んだモノの複製を作り出し邪魔にならない位置に投げ捨てておく。
これで、ここでやれる事はやり尽くした。
やる事を全てやり切ってしまったからか、緊張感が消し飛んでしまった。

でもそれでいい。
帰ったら、姉さんにご飯を作って貰おう。
ジャガイモと大根のお味噌汁が飲みたい。
筑前煮もいいかな、ループした直後なら二日目の朝に裏山でタケノコが楽に取れるし。
タケノコを手に入れるなら、タケノコご飯も捨てがたい。
いっしょに買い物にも行こう。

そんな事を頭に思い浮かべながら、俺は元の次元へと滑り落ちる様に戻って行った。

―――――――――――――――――――
○月◎日(あれから一年──)

『などと言うモノローグは良くあるが、この日記とはまったく無縁のものだ』
『さて、結果だけを言うのであれば、俺の能力は以前の俺とは比べ物にならない程に強化され』
『以前ブラックロッジとミスカトニック、ニグラス亭の三つの場所に身を寄せていた周から数えて、実に千百十二周ほど経過している、らしい』
『らしい、というのも、姉さんも時間が一定で流れない次元を横切ってこのループに現れたため、正確な経過時間は記録していなかったのだ』
『一桁台まで言い当てているという事はほぼ数に間違いは無い筈だし、そこまで経過したなら一桁二桁の誤差とか気にする意味も無いだろう』

『あの仄かに忌まわしい記憶は今も俺の中で息衝いている』
『だが、千周も経過すれば流石に大導師殿だって俺の事は記憶から薄れている筈』
『正直ブラックロッジ側から大導師の為に出来る事とか全部言い切った感じがするし』
『もう下手打って大導師の好感度が無闇に上がる様な事にはなりはすまい』
『汁見のエシュターではないのだから、同性に告白されたり過剰なスキンシップで喜んだりはしないのだ。エシュターも喜んではいなかったが』
『まったく、ベーコンレタスはイケメン同士、大十字あたりをひっ捕まえてやってろっての』

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そんなこんなで、久しぶりのアーカムシティに、久しぶりの夢幻心母である。
別にブラックロッジよりも先にミスカトニックに行っても良かったのだが、前の周に居なかったお陰で覇道鋼造からの推薦状が無い。
ミスカトニックに入るにはしばらく後に遺跡にやってくるシュリュズベリィ先生と接触する必要があるので、あちらは暫く保留させて貰う事にした。
因みに、美鳥は再構築した肉体にまだ馴染めていないのでお留守番だ。
留守番と言えば、個人的にははじめてのおるすばんを思い出す。

あれはそう、中学の頃であったか。
思春期特有のもやもやを解消する為に、親戚のおじさんから貰った小遣いを握りしめ、俺は十八歳以上は立ち入り禁止のゲームコーナーに足を運んでいた。
狙いはもちろん姉系のゲーム。
実姉とのエンディングがあるゲームであればなお良しと狙いを定めていた俺は、パソゲコーナーで思わぬ人物と鉢合わせる事になった。
そう、クラスでは品行方正な人格者で通っている委員長(♀)の年上の幼馴染の高校生(♂)が、その手に二本の大きくかさばるパッケージを手に取り、苦しげに呻いていたのだ。
当然、困っている人を放っておく訳には行かないし、何やら面白嫌らしい葛藤の香りがしたので、俺は躊躇う事も無くその高校生に声をかけた。
彼が手にしていたゲームこそ、後に『はじるす』と呼ばれる事になる、典型的な幼子を標的にしたロリエロゲ。
そして、もう一つのゲームは、妹萌え勢力の中で静かに持て囃されていた『Natural』の続編、『Natural2 -DUO-』という、これまたよくある妹エロゲ。
彼の葛藤はこうだ。

『僕はロリコンであると同時に、妹萌えでもある。でも、この二つの属性は相性がいい様でいて、決して堅実な組み合わせであるとは言い難い』
『僕はね、妹分とロリ分を補給する時、できる限りそれらの供給元を分けて考えるべきだと思っているんだ』
『でも、ロリと妹が組み合わさった時に稀に産まれる美しいハーモニーは、その矜持を曲げるに値する価値があるとも思っている』
『……こんな事を言うと、君には笑われるかもしれないね』

笑いはしなかったが、ゲームショップのパソゲコーナーで妹的存在である委員長のクラスメイトである俺と言う中学生相手に真顔で語る事では無かったと思う。
笑いはしなかった。が、心の中で『これからは街で見かけても話しかけないようにしよう』と思ったのはここだけの話だ。
そんな彼の葛藤を断ち切る為、俺はある秘策を──

「む」

そこまで考えて、おかしな事に気が付いた。
先ほどまでの回想シーンの最中も、勿論侵入者を排除する為にブラックロッジの下級社員達が命がけで俺を食い止めに掛かって来ていた。
当然、俺はそれらの襲撃をさして意識することなく流れ作業的に処理していった。
魔術や科学的武装を使用するまでも無く、袖口から伸ばした金属触手を鞭の如く操り、群がる下級社員を死なない程度にホムーランしてきた訳だが、どうにも様子がおかしい。

ぶちのめした時の感触に、やたらと女性の物が多いのだ。
勿論、ブラックロッジにも女性社員は存在する。数が少ない訳でも無い。
疑うなら、原作の大導師がエセルドレーダに股間のトラペゾをぶち込むシーンの少し前を確認して頂きたい。
ブラックロッジの定める法はただ一つ、法の言葉は意思なり。そこに男も女も魔術的な役割意外に変わりは無い。
が、やはり男女の比率で言えば圧倒的に男性の方が多く、こういう場面で女性社員が出張ってくる確率は、チョコボールの銀のエンゼル程度でしかない。

改めて、通路の壁に打ちつけられて呻いている下級社員達を確認する。
スーツを着て、マスクを装着し、帽子を被っていても一目瞭然。
彼等、いや、彼女達の大半は間違いなく女性。
耳の集音率を上げてうめき声を拾っても、やはり間違いなく女性の声ばかりが聞こえてくる。

……何故だろうか。俺の中の第七勘辺りが警戒を促している。
こんな状況、少なくともブラックロッジに来てからは体験した事は無かった筈だ。

身体を、外から察知できないレベルで隠蔽しつつフルスペックに。
これで仮にブラックロッジの社員が一人残らずアズラッドのアイオーンレベルの鬼械神を招喚して一斉に襲い掛かってきても蹴散らせる。
俺は強い、とは言わない。が、決して弱い訳では無いのだ。
勝てない相手も居るだろうが、負けない戦いならば幾らでも手はある。
新生鳴無卓也は、文字通り世界が敵に回っても戦い抜ける男!

「ここが大導師のハウス、感じる、大導師の強大な魔力を……」

死屍累々と気絶した下級社員達があちこちに倒れている廊下を背に、玉座の間への扉を前に気合いを入れ直す。
先手必勝。
時間を開けてしまった事への詫びとして、俺が姉さんの手料理以外で心底リスペクトしている食べ物を用意してある。
その名も高き『萩の月』、至高の甘味である。
チョコレートタイプの『萩の調』も存在しているが、内部のクリームの独特の風味を味わうのであれば断然ノーマルな『萩の月』だろう。
元の世界で取り込み、いざという時の為に取っておいた、俺の切り札(ジョーカー)。
この夢のパスポートを持ってすれば、如何に大導師が危険な変化を起こしていても、何の問題も無く元の関係に戻る事が出来るだろう。

玉座の間に大導師殿が居る事も俯瞰マップで確認している。
俺がこの周では何処にも所属していないからか、大導師のアイコンは黄色。
何故かステータスが見られないが、四桁のループで別ユニットと認識されるレベルにまで進化したのだろう。

入室したらまず、可能な限り爽やかに挨拶。
お久しぶりです、お元気でしたかなどの挨拶を織り交ぜつつ、その後の自体の推移を一旦尋ね、最後にお土産を渡す。
それが駄目なら、リベルレギスの招喚を妨害しつつアーカム巻き込む形でぶっぱ、あとはひたすら逃げ続ける。
非の打ちどころの無い、完璧な計画だ。

意を決して、『萩の月』の入った紙袋を手に、玉座の間へと続く両開きの扉を開ける。
玉座の間には、見たところ誰も居ない様に見える。
少なくとも物陰に身を潜める輩も、亜空間から覗き見ている輩もいない。
広々とした空間には所々魔術的な装飾が施されているが、今は照明が点いていないのか全体的に薄暗い。
暗闇、暗黒。
その中にぽつんと一点、金色の輝きを湛えた闇が存在していた。
その金色の闇は、以前に俺が見た時と同じく玉座に座り、漆黒のドレスを着た幼子を足元に侍らせ、気だるげに椅子の肘かけに頬杖を突いている。

遠目に一見して、何の変哲も無いブラックロッジの大首領、大導師マスターテリオンと、その魔導書『ナコト写本』の精霊、エセルドレーダ。

──そう、遠めに一見して。
人間の視力であれば、その誤解を受ける事ができたのだろう。
何しろ、辛うじて彼等だけが暗闇の中にうっすらと見える様な状態なのだ。
だが、困った事に、俺の視力は果てしなく優れている。
『鷹の目』?『千里眼』?
馬鹿を言ってはいけない。せめて宇宙基準で喋ってくれ。
そんな視力では、宇宙万国ビックリ人間ショーでは書類審査で落とされてしまう。
俺なら決勝戦辺りまでなら進める。決勝戦の試合内容は、広がり続ける宇宙の外が見えるか否か。
つまり、それ程の俺の視力を持ってすれば、この闇はスパロボの謎キャラの顔の上に掛かった影ほどにも障害にならないという事だ。

「久しいな、鳴無卓也よ」

大導師の『薄紅色の唇』から、『迦陵頻伽にも似た声』が男を誘う娼婦の様な響きを伴い、零れ堕ちる。
決して、風の魔装機神に乗っていそうなイケメン声ではない。

「この永き螺旋の世界において、あれほどまでに誰かと共にあり、あまつさえ、再会の約束を果たす事さえできようとは」

その美声を発するのは、人外染みた美しさを持つ、中性的な容姿、金髪金眼の──

「とても、とても長い間、考えてきた。この喜びを、『感謝』を、どう貴公と分かち合うべきか」

──美少女!
その、余りにも余り過ぎる、テンプレートな状況に、俺は入室前に考えていた口上を全て頭の中から放り投げてしまっていた。

「そんな時だ。余は、再びこの身体に生まれ付いた」

この身体、という言葉と共に、大導師の手が自らの首から鎖骨、胸へと輪郭をなぞる様に降りて行く。
伝統のニトロ砲の代わりとでも言う様に、巨大な山脈と化したその胸、強調する様にその膨らみを撫で降ろし、僅かに見える下乳から剥き出しの腹部、下腹部へと指先が当てられる。
見せつける様なアクション。なんとあの服装は、女性大導師が着ても様になるデザインだったのだ。

「この礼をする時、貴公らの世界でなんと言うか、余は知っている」

まだあどけなさの残るその美しい顔に妖しい笑みを浮かべ、真っ赤な舌がちろりと唇を舐める。
……そうか、そうだったのか。
首元から、下腹部までを指先で撫で降ろす様な、あの動作、
あれは、『ファスナーを降ろす動作の模倣』!

「────やらないか」

うほっ、いい女……!

「やらないよ」

金髪女は苦手なんだ。
玉座をベンチ代りにする大導師(♀)に突っ込みながら、俺は今ここに逆十字の連中が居ない事を、公園でドーナッツを売っているのとは別の神様に感謝した。





続く
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稲田比呂乃の凌辱? 訳の分からないシリアス? いつの間にか地球滅亡? 意味も無い最強描写?
そんな物はこの話の飾りだ!
わしが真に願って止まぬものはただ一つ!
TSしたデモベ男衆と主人公による、ギャルゲ的展開そのものだ!

つまるところその何もかもがTS回の前振りに過ぎない第五十四話をお届けしました。
そして、即座に次の話を作りたいので、自問自答に代わり本編とは全く関係無い豆知識を一つ!


今日の豆知識
【シュブ・ニグラスの乳は非常に優れた特質を持つらしい】


本編の内容とは欠片も関係無いけどね!
搾りたてはきっと美味しいんだろうね!

そんな訳で誤字脱字の指摘に即座にできる文章の改善案や矛盾している設定への突っ込みに諸々諸々のアドバイス、
そしてなにより、このSSを読んでみての感想など、心からお待ちしております。







久々の予告
世界全体で起こったTSにより、片端からキャラ崩壊を起こしている逆十字。
精神の平和を守るため、TSしてもキャラが変わりそうにない人々を目指し、主人公は久しぶりにミスカトニック大学に入り浸る。
アーミティッジ御婆ちゃんの作る美味しいクロケットをサポAIと仲良く摘まみながら、主人公はミスカトニックで見かけた一つの癒しと向き合う。
女として生まれても何故か変わらぬファッションセンスに、初期のエリート気取りっぷり、叩き潰された後のサバサバとした気易さ。
男であった頃と変わる所の少ない彼女の存在は、主人公の心に平穏を齎していた。

第五十五話
『ミスカトニックの才女』

夏の日差しが暑いから、ラブコメ始めます。


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