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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第五話「帰還までの日々と諸々」
Name: ここち◆92520f4f ID:943f9794 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/25 06:08
さて、少女――美鳥との戦いから暫く、市街地の中の使われていない倉庫に拠点を移した俺たちの周りでは特に事件は起きなかった。

ゲルトがブラスレイター化し不死鳥のごとく復活、世間でデモニアックから市民を救う救世主ともてはやされている時、俺は美鳥の補助を受けながら飛行訓練と下級デモニアック支配の訓練を並行して行っていた。

崖から飛び降りるという行為は飛行ではなく落下であるという見事に論理的な説明により、今までの俺の努力がまるっきり無駄だったと証明されたが、まぁ正直意味がないのではと薄々感じ初めていたのでショックは少ない。

飛行訓練の方法は単純、ブラスレイターもどきに変身した俺がマルコ・ブラスレイターに変身した美鳥を体内に取り込み、翼の具現化と制御を美鳥に身体で教えてもらうというもの。

身体の一部が自分の意思とは無関係に動くというのはなかなかに気持ちの悪い体験だったが、御蔭で今ではサーカス、もとい空中戦も板に付いてきたと思う。

因みに翼から光弾を発射するのはすぐに出来た。やはり直接的な攻撃能力は直感的に使える。実は俺、脳筋なのだろうか、少し悩ましい。

下級デモニアックの支配は飛行に比べれば格段に容易だった。今まで試してみようという気さえ起きなかったからできなかっただけで、やってみればまさに手足の如く操ることができてしまった。

それもこれも飛行を覚える段階で躓いていたからか。しかし練習を重ねた今では普通のブラスレイター達に出来ない芸当すらたやすく行える。

そう例えば――支配したデモニアックの強化なんてことも。

―――――――――――――――――――

今、あたしはお兄さんの指示でマグロ女――ベアトリスの足止めを行っている。

いや、足止めを行っているのは正確にはあたしじゃなく、三体の『元』下級デモニアック達であたしはその監督役。今回は戦わせるつもりが無いのはあたしに荷物の詰まった旅行鞄を持たせている時点で丸わかり。

別に過保護とかそんなんじゃない。というか、お兄さんはあたしにそんな気を使わない。こないだもプラズマ火球で身体を半分焼滅させられたしね。強化した下級デモニアックの性能試験もかねてるのかな?

本来なら下級デモニアックではどれだけ束になってもブラスレイターに太刀打ちできない。しかし、今あたしの目の前にはその常識を真っ向から否定する光景が繰り広げられていた。

「こいつら、私の支配を受け付けない!?」

焦りの声を上げる、スカートを纏った道化師のようなシルエット、ブラスレイターのタイプ29『アスタロト』ベアトリス・グレーゼの変じた姿。

遠距離、近距離共にバランスよく戦える上に空戦では最強、もちろん下級デモニアックの支配もお手の物っつーかなり上位のブラスレイター。しかもそれなりに修羅場を潜っている強敵だけど、それがたった三体のデモニアックによって見事におさえつけられている。

当然あの三体のデモニアックは全部お兄さんの支配を受けている。支配と言っても単純に行動の支持を受けているだけのただのデモニアックじゃあない。

お兄さんによれば細胞の一片、ナノマシン『ペイルホース』の一つに至るまで完全に支配され、普通の下級デモニアックには発現しない様々な能力を得、運動性や力、全身の強度に至るまで限界まで強化されてるとか。

デザインはグチャグチャだ。腕部はウォルフ隊長の変身するタイプ31『フォラス』の分厚い装甲に包まれた剛腕、脚部はマレク・ウェルナーの変身するタイプ62『ウァラク』の俊敏な動きを可能とする蹄の付いた脚、胴はザーギンの変身するタイプ1『バアル』を軽装甲にした戦士風の鎧姿、背中にはこの間あたしも変身したタイプ25『グラシャ=ラボラス』と同じ翼。

のっぺりとした目も鼻も口も無い顔だけが下級デモニアックの名残りを見せているが、戦っているベアトリスからしてみれば何の慰めにもならねーわな。

原作ではこの時点でジョセフ相手にずっとマグロのターン!な感じの強さを見せつけていたベアトリスがたった三体のデモニアックに苦戦している。

お兄さんの出した『俺の用事が終わるまで足止めよろしく』という少しあいまいな指示を忠実にかつアドリブを利かせながら見事に遂行している。

遊んでいる。逃げられないように退路を塞ぎ、決して致命傷を与えないように力をセーブして、相手の闘志も萎えさせないように多少攻撃も受けてみせて。

「このっ、目障りよ!」

宙を舞う一体のデモニアックに向けてベアトリスが触手のようなエネルギー弾を放つ。デモニアックは分厚い装甲に覆われた両腕でガード、そのまま押しこまれビルに激突するかというところで一体のデモニアックがベアトリスに翼から光弾を発射してけん制してそれを阻止。

光弾から逃れたベアトリスに、残りの一体が空を飛ばずビルの壁を足場に高速で駆け上がり迫る。手には具現化した武器、巨大なハンマーが握られている。ベアトリスが回避しようとした瞬間、五体に分身して回避を阻み、振り上げたハンマーで豪打。ベアトリスを地面に向けて叩き落とした。

落下の衝撃でできたクレーターの底で苦しげにベアトリスが呻き、呻きながらも立ち上がる。その体からは怒りの、屈辱の感情が滲みでているかのようだ。しかし、そのベアトリスの気迫を受けてなお、三体のデモニアックは微塵も揺るがない。

一体のデモニアックは輝く翼を羽ばたかせながら空に浮かび、地に落ちたベアトリスを見下ろしている。一体のデモニアックはその剛腕を打ち鳴らしながら地面に立ち、地を這うベアトリスを見下ろしている。一体のデモニアックは巨大なハンマーを片手に掴み雑居ビル中に潜み、立ち上がろうとするベアトリス窓の中から見下ろしている。

顔の無い悪魔三体に見下ろされ、ベアトリスが立ちあがる。挫けない。ザーギンに心酔するこの女は最後の瞬間まで絶対に諦めない。

……ナレーション入れると間違いなくあたしらが悪人だなこれ。デモニアック達は簡単な連携までとってるし、プレッシャーまでかけてる。正直こっちはこいつらだけでいいような気もするけど、いざという時を考えると勝手には抜けられないんだよねぇ。どうしよ。

お兄さんの方は上手くいってるかな?ま、今のお兄さんなら心配するだけ無駄かぁ~。

―――――――――――――――――――

今日は休日、テレビ版と小説版で確認できたデモニアックの特殊能力はほぼ使いこなせるようになったので特訓もなし。朝のニュースでXATに新兵器が配備されたと報じられていたので、時間つぶしにちょっと見に行ってみようと美鳥を伴い散歩がてらXAT本部のある区域に。

しかし歩いていると無駄に特徴的なカラーリングの髪を靡かせた黒人女性が、市営体育館に向かって歩いているのを発見してしまったのだ。

「怪しいな」

「怪しいね。ところでお兄さん、これ、原作六巻目突入の合図かもしれないよ?」

言われて何となく思い出すプールのシーン。どうやって固定しているのかいまいち分からない変態的なセクシー水着を着たベアトリスが、プールでデモニアックを量産しているシーンが確かにあった。

なるほど、つまり今日がこの町の最後の日。今日の内にこの町はデモニアックで溢れ返り、日が沈む頃には秘密組織ツヴェルフの最新鋭機スケールライダーが地味に登場、町に気化爆弾を落としていくということか。

しかし、バイオハザードを起こしたらとりあえず爆発オチみたいな風潮はなんとかならないのだろうかと思わないでもない。そのまま感染が拡大するよりはましだが。

リンゴは地面に落ちる、コーラを飲むとげっぷが出る、住人が化け物になった街は爆発する、惨劇が繰り広げられた屋敷は焼け落ちる、雷様の右端の席は壊れる、鈍感主人公とその周りの女性達はハーレムを建設する。

世界の基本法則だ。これがなければ地球は回らないと言っても過言では無い。もちろん、原則には必ず例外があるという先人の言葉をないがしろにするつもりは無いが、原則あっての例外だ。

まあこの町にはもう用事は殆ど無いので爆発オチに対して不満は無い。なんとなくバイト先の店長に急いで街から脱出しろとメール。これでバイトとして雇ってくれた恩義に報いた。生き残れるかは店長の運次第だろう。

ダッシュで隠れ家に戻り荷物を纏める。ほとんどの荷物は身体に取り込めるので荷物は最初に持ってきた旅行鞄だけだ。バイクは……、今日は走って移動し放題な状況になるので必要なし。これも体に取り込む。

認識阻害の魔法をかけて屋根から屋根へ跳び移り移動。とりあえずは最初の目的地であるXAT本部へ向かったが、XAT本部に到着する前に大型のバイクが数台どこかへ向かっていくのを発見。

間違いなくXATの新兵器パラディンのバイク形体、このタイミングで出てくるということは遂にデモニアックが大量発生したのだろう。今日のターゲットはこの新兵器、方向転換しバイクの後を追うことにした。

―――――――――――――――――――

現状の再確認という名の回想完了。XAT本部の方に向かったパラディンは無害なので放置。こっちの四体のうちのどれかを取り込もうと思うが、そのままだとベアトリスが乱入してくるので足止めの為にデモニアックの複製を作り出し、デモニアックの体内のペイルホースを操作し強化、足止めを命じた。

強化したデモニアックが三体も居れば足止め程度は出来るだろうが念のために美鳥にも監督を頼んだ。旅行鞄は美鳥に預けてあるので手ぶら、これでゆっくりパラディンの相手ができる。

認識阻害の魔法を解き物陰から出る。見ためだけは人間の姿のまま、広場にゆっくりと、もったいつけるように一歩一歩足を踏み入れる。

脚元にはまだ崩れていない大量のデモニアックの残骸と、おびただしい量の血溜まり。その広場に無骨なシルエットのロボット――パラディンのロボット形体が四体佇んでいる。

その中の一体、灰色の中に赤いペイントが施されたパラディンがこちらに右腕の銃を向けてきた。

この地域一帯に生存者は居ないと判断されている以上、人間の姿をしたものが出てきてもそれは警戒対象ということか。まぁ、デモニアックだけでもジルにマシュー、ブラスレイターならゲルトにマレクなどの生きた人から変じるケースを知っている以上当然の判断だろう。

この世界なら小説版のマルコもそのサンプルの一つに数えられるか? 死んでからブラスレイターになったタイプだったと思うが、人間体があることを示すサンプルには違いあるまい。

赤いペイントの機体が左腕のレーザーダガー(ダガーと言っても刃渡り一メートルはある)を展開すると、それに続く形でその他の三体も銃を構えてきた。デザイナーさんは『鋼鉄の棺桶』などと言っていたが、これはこれでカッコいいと思う。リアルロボット的というか何と言うか。

「止まれ! ここは……」

ここは、の次に何を言おうとしているのか。それはもう永遠に分からない。警告を発していた赤いペイントのパラディンは、搭乗者をコックピットごと俺の触手に貫かれ動きを止めている。

ブラスレイターの具現化した武器と同等の強度を持つ触手の外殻は、薄く鋭く刃物のように研ぎ澄まされており、ブラスレイターとの肉弾戦すら可能なパラディンの装甲を安々と貫く。

何が起こったか分からないといった風情で一瞬呆ける残り三体のパラディン。その三体に歩みよりながら、触手をパラディンから引き抜き、二三度振って血を掃い体内に格納する。

よし、ほとんど無傷で無力化。綺麗に搭乗者だけ潰せたな、こいつを取り込んだらどうしようか、どう強化できるか、どう強化するか。

期待に胸が膨らむ。変身した方がよっぽど強いなんて野暮な突っ込みは全く聞こえない。こういうものを生身で操縦して戦わなければいけない状況もあるだろうし、手に入れておくに越したことはない。

「貴様!」

三体のパラディンから放たれた無数の銃弾は、俺の身体に届く前に見えない壁に遮られ空中で停止した。

ザーギンも使っていたバリア――というか念動力のようなもの。変身しないでも使えるのでかなり便利だ。いつか変身し辛い世界観の作品に行ったときにも使うことになるかもしれない。

さて、このまま搭乗者の死んだパラディンを持ち去って逃げるのもいいが、状態の好いパラディンを手に入れることもできて機嫌が良いし、無改造パラディンの性能も見ておきたい。

とはいえ、このままではあまりにも単調過ぎる。ブラスレイターもどきに変身したら当然楽勝、プラズマはクローも火球も火力過剰、たまには攻撃魔法なんかも――駄目だ、認識阻害とかしか使わないから攻撃魔法の加減がわからん。

特殊能力無し触手無しブラスレイター化無しの縛りが妥当か。

銃弾を空中に停めた未知の敵――俺に警戒しつつも敵意を向けるXATのパラディン三体に手招き。口元に意識して笑みを浮かべながら、告げる。

「来なさい。遊んであげましょう」

―――――――――――――――――――

三体のパラディンは俺から距離を取りつつけん制として射撃を仕掛けてきた。

仲間を殺されたのだから激情にかられて突撃してくる機体があってもいいかなと思っていたが、予想以上に慎重。流石はプロ、しかも選りすぐりのエリート揃いなだけはある。

数十発の弾丸が迫る。この一発一発がデモニアックをたやすく吹き飛ばすほどの威力を持っている。しかし、ブラスレイターもどきに変身しなくても、ペイルホースを取り込んだ俺の性能は格段に向上しているのだ。横に軽くステップして回避。軽い軽い。

「消えた!?」

驚愕の声を上げるXAT隊員。なるほど、常人には今の動きが目に映らない訳か。ネギまとかブリーチとかその辺にそんな移動技法があったが、それと似たような感じに見えるのだろう。

何度か避けてみるが、その度に一瞬俺の姿を見失っているようだ。……普通に避けただけでこれでは、肉弾戦縛りでもワンサイドゲームになるかもしれない。楽しむためにもう少し奇抜なこともやってみるか。

考えていると三体の内の一体がダガーを構え吶喊してきた。横薙ぎに振るわれたダガーをギリギリの距離で避け、そのまま懐に入り正面のコックピットの装甲を軽く拳で小突く。パラディンは後ろに数メートル吹き飛び、装甲が拳大ほど凹み、凹みの周囲にひび割れが走っている。

複製を作る時は装甲を何か別のものに変えるのが無難かな。デザインは好きなんだが、いかんせん量産機だからか相手をするのが下級デモニアックを想定しているからか、意外と脆い。余程搭乗者の腕が良くなければブラスレイターの相手は難しいだろう。

と、吹き飛ばされたパラディンの左右から残りのパラディンが回りこみつつ銃撃。バリアを張らずにダガーを回避したから、バリアが永続的なものでは無いと踏んだのかもしれない。

まぁ張ろうと思えばいつまでも張り続けられるが、バリアは張らないでおく。何でもかんでもバリアで防いでは芸が無いし戦闘の訓練にもならない。なにより簡単すぎてつまらない。

迫る弾丸。一発一発の弾丸の回転まで見える。当たらない弾丸は無視、直撃コースの弾丸に、デコピン。デコピン。デコピン。

ひたすらデコピンで弾き返す。数十発のうち数発は見事撃ってきたパラディンに直撃した。なかなか銀星号のようにはいかないものだ。その内デコピンで弾丸を弾き返す訓練でもしてみよう。

大体の性能は分かった。まあこんなものだろう。無改造ではいまいちだけど、改造の幅は広そうだ。逃げて応援を呼ばれるのも面倒臭いし、ここらで終わらせるか。

「今から貴方達を始末させて頂きます。逃げても構いませんが、その場合は追いかけて背中から叩きつぶしますので」

それだけ告げ、突撃。一瞬で最初に殴り飛ばしたパラディンの目の前に移動、手は指先をそろえ手刀の形にし、大上段で思い切り振りおろす。避けきれないと見て咄嗟にダガーを翳して防御しようとする辺りは見事!

見事だが、しかし一瞬遅い。ダガーを掻い潜り、搭乗者ごと綺麗に真っ二つに両断されるパラディン。血を浴びないようにサイドステップで他のパラディンの横にさっさと移動。

慌ててダガーを展開し振り抜こうとするパラディン。遅い。ダガーを展開する側の腕を内部のレーザー発振機ごと掴み握り潰し、そのまま少し跳躍して頭の上に登る。

右腕の銃で撃とうとしているが、その機体は残念なことにスナイパータイプ(右腕の銃が長砲身になっているタイプのこと。右腕がマシンガンなのがコマンダータイプらしい)、射角の関係で頭の上はお留守なのだ。

手刀で肩口から右腕を斬り飛ばし、次いで機体両サイドのウェポンラックを引きちぎり、両腕を無くした足下のパラディンに叩きつけ即座に離脱。

俺が一瞬で十数メートル離れた場所に降り立つと同時、ウェポンラックに収まっていたミサイルにより二機目のパラディンが爆散した。残り一体。

「な、なんで、なんでだぁ!なんでぇ!?」

錯乱している。あぁ、そういえばそうだったな。装甲に電圧かけてデモニアックの融合を気にせず戦えるというのがパラディンの売りの一つ。なのに俺ときたら平気で殴るは掴むは乗っかるわ。

「その機体、故障してるんじゃないですかぁ?」

嘲るように言う。裏切り者のウォルフ隊長の手によりXATに配備されたパラディンの帯電装甲は破壊されている。なまじ普通の下級デモニアックは近寄ることさえできなかった為に、きちんと機能しているか確かめられなかったのだろう。

最も、俺の身体は電気に対する防御性能が異常に高い。ある程度は受けた電撃をエネルギーに転換して使うことすら可能なのだ。帯電装甲が機能していたとしてもなんら問題は無い。

「くそっ、くそっくそっ!犬死にしてたまるか!」

パラディンをバイク形体に変形させ逃げだした。逃げるの?戦闘のプロじゃないの?選りすぐりのエリートじゃないの?強壮で勇敢な兵士じゃないの?なんなの?

おかしい、XATと言えば自らが融合体になる恐怖と闘いながら、最後まで生き残りを脱出させる為に戦う猛者達。あ、通信が途絶しているから、俺の情報を直接届けに行くのか? じゃあ仕方ないな。時には引く勇気も必要だって聞いたこともあるし。

と、脚元に先ほど切り落としたスナイパータイプの腕が転がっている。爆発の際に吹き飛ばされてきたのか、砲身は拉げて煤けているジャンク同然のありさま。

拾い上げ、取り込む。取り込んだパーツを解析、改造、改正、複製。腕と一体化した生物的なフォルムの砲身。その砲口を逃げるパラディンに向ける。

照準、初弾装填、発射、命中。パラディンと搭乗者の部品をまき散らしながら盛大につんのめるように吹っ飛ぶ。

? 何かおかしい。撃つ直前に電力が砲に引っ張られてる。構造を再確認…………、完了。再検証の為パラディンの残骸に再び砲口を向ける。

次弾装填、発射、命中。次弾装填、発射、命中。次弾装填、発射、命中。次弾装填、発射、命中。次弾装填、発射、命中。

「なるほど」

再検証終了。ついでに真っ二つになったパラディンの残骸にも連射。証拠隠滅。

撃つ度に砲口から眩い光が迸る。後に残ったのはぐずぐずのスクラップとこれまた悲惨な壊れ方をしているパラディンの向こうの建物。

「ふぬ、平均速度は秒速5、6キロメートルってところかな?」

取り込んだパラディンの銃腕は、皆大好きレールガンと化していた。ペイルホースの力(正確にはペイルホースの力を取り込んだ俺の身体を構成するナノマシンの力だが)をもってすればなんの変哲も無い狙撃銃をビームライフルやレールガンにする程度は造作も無いことらしい。

XATのアルがブラスレイター化した際に使うブラッドの形見の狙撃銃は、融合強化によってビームライフルになっているとのこと。どのような理屈で強化後の能力が決まるかは分からないが、わりと無茶な強化でもまかり通ってしまうらしい。

まぁ、これが主力になることも無いだろう。せいぜい変身できないような状況でパラディン程度のサイズの機体で行動しなければならない場面でしか出番は無いはず。羽根ミサイル(光弾のことな)のが全体的に性能が上だし。

ああ、でもこうなるとウェポンラックのミサイルがどう強化されてしまうかが少し不安だ。まさか一足飛びに反応弾とかになる筈は無いと思いたいが、せめてTPOを弁えた威力に収まって欲しい。具体的には追尾性能と威力が単純に上がってサーカスできる程度の強化具合で。

そんなことを考えながら最初に仕留めたパラディンを取り込む。帰ったらこのガーランドもどきを田圃道で乗り回そう。あ、でもこれ構造的に二人乗りが出来ない。姉さんを乗せて走るならガルムで行くしか無いか。

融合同化完了。搭乗者の死体はいらないので取り込まずにぺいっと吐き出す。XATのスーツは実はハイテク満載なので取り込んだため死体は全裸。身元が割れると面倒なのでこれも証拠隠滅。とりあえず顔と手を焼いておけば判別できないだろう。

プラズマ発生装置を生成するのもめんどうなので、試しに魔法でなんとかしてみる。何気に認識阻害だの人避けだの視線避けだの以外の魔法を使うのはこれが初めて。

「火よ灯れ」

ジャッ!という音と共に白い炎の塊が指先から吹き出し、XAT隊員の死体は一瞬にして人型の炭になった。XAT隊員の死体があった場所の下の石畳は真っ赤に赤熱している。――手と顔を焼くなんてレベルじゃない火力だ。こういうのは火が灯るとは言わない。

火を出すだけでこれか、魔法とは意外と調節が難しいものだったんだな。認識阻害とかしか使わなかったから気付かなかった。帰ったら姉さんにその辺の調節方法を教えてもらおう。

さて、パラディンを取り込んだ以上この町にはもう完全に用が無い、美鳥を呼び戻してさっさとこの町から脱出するか。

―――――――――――――――――――

パラディンを取り込み証拠隠滅も終え、認識阻害の魔法をかけた俺は再び建物の屋上を飛び移りながら美鳥のもとに向かう。

するとそこでは、俺の強化したデモニアック三体組VSベアトリスVSジョセフという訳の分からないバトルが繰り広げられていた。

美鳥は少し離れた高い建物の屋上で、旅行鞄を膝の上で抱えてにやにやしながらその戦いを観戦している。何故か手には様々な菓子やケーキが乗った大皿、足元には甘い香りの漂う大量の箱、ジンジャーエールも数本置いてある。

「あ、お兄さんおかえりー。首尾はどう?」

「ペルフェクティオだぜ美鳥。ところでこれはどんな状況?」

「いやー、途中でジョセフが乱入してきてベアトリスに『ザーギンはどこだ!』とかやり始めてねー。デモニアック達も敵が二人に増えたから本気出してこんなありさまさぁ」

いやそれもだが。その状況も確かに無茶だが。周囲の建物も大分崩れてきてるが。

「こんな状況でもジョセフとベアトリアスは共闘しないんだねぇ」

二体の強化デモニアックから具現化したチェーンで縛られているジョセフ、そこにベアトリスが空中から急降下、すれ違いざまに蹴りを放ち、その瞬間隠れていた残り一体がジョセフとベアトリスに纏めて大量の光弾を叩きこむ。

ベアトリスが空中に逃げれば二体の強化デモニアックが翼を羽ばたかせそれを追い、一体は地上でジョセフを相手に格闘戦。ベアトリスは二体分の光弾の雨に、ジョセフは剛腕からの強烈な一撃と素早いフットワークにそれぞれ翻弄され、時折地上から撃ちあがってくるズームパンチと空から降り注ぐ光弾にそれぞれ神経を削られる。

ベアトリスとジョセフは一人で四体を相手取らなければならないのに対してこちらの強化デモニアックは三体一を二通りこなせばいいだけ。強化デモニアックとブラスレイターの間にスペックで大きく差が無い以上こちらの楽勝である。

「スパロボの青軍赤軍黄軍みたいなもんだな。そうじゃなくて、その大量の菓子類はどうしたんだよ」

「当然、火事場どろぼー」

「弁明すらしないのか……」

堂々と言い切られたらどうにも続けようが無い。まぁ、殺人犯が泥棒に説教するのも道理に叶わないとは思うが。

「ここはあのデモニアック達に任せておけばいいかなーって。で、暇潰しにその辺うろついてたら、無人のケーキ屋さんの店内に取り残されたかわいそうなケーキ達があたしに、助けてー、助けてー、と目で訴えてたのだよ」

「目ねえよ」

どんなグロケーキだ。

「比喩だよ比喩。あむっ。らっ出ついれに色んなみへ回っへうっ色してこーへー」

「もの食いながら喋るな」

喋りながら大皿の上のクッキーやチョコを数枚纏めて口に放り込み、町を出る途中での寄り道として火事場泥棒を推奨する美鳥。しかし、爆撃までまだ時間があるな。行ってみるか。

「ほら、荷物半分寄越す」

「ふへへ、お兄さんも悪よのぉ」

「大皿は置いてくこと。邪魔だからな」

「えー、もったいない……」

ケーキが八箱もあれば十分だろうに、まだ欲張るかこいつは……。あきれながらもケーキ四箱を縦に積み細い触手でラッピング。吊るしてゆっくりと高々度を飛んで行けばケーキの形も崩れないだろう。

「嫌なラッピングだなぁ」

変身し翼を具現化した美鳥が微妙な視線をケーキの箱に送っている。触手で可愛らしくリボンが結ばれたケーキの箱は酷くシュールだ。

俺は支配している強化デモニアックに『ここを通るブラスレイターをひたすら足止めし続けて、日が沈んで夜になったら自壊しろ』と命令を送り、未だ戦い続けるベアトリスとジョセフを尻目にその場所を後にした。

―――――――――――――――――――

街を出る際に無人の電気屋に忍び込み、適当に家電を物色しながら見て回り遊ぶ。

「お兄さんお兄さん、ちょっと耳貸してみ?」

美鳥が手招きされ、言われるままに顔を寄せると、ふーっと息を吹きかけられた。

「……なにそれ?」

「マイナスイオン含有送風機能~♪ど~よこの癒し機能!」

「またおまえはどうでもいいものを取り込んだな……」

などというじゃれ合いを挟みつつ、最終的に俺はミンチも作れる洗い易いハンドミキサー、業務用の大型電子レンジ、そして姉さんが通販番組で見て欲しがっていたドイツ製の掃除機の後継機を取り込んだ。

「お兄さん。最後のはお姉さんへのお土産だとしても、最初の二つからは激しく惨劇の予感を感じるんだけど……」

「俺に言えるのは二つだけ。ボンボンのガンダムはどれも名作、そして敵はみな電子レンジの中のダイナマイトだ」

家の電子レンジを新しくしたいという目的もあるし、家電を元にして武器ができるかどうかの実験も兼ねている。そしてSDガンダムフルカラー劇場全11巻好評発売中。

まだ時間が余る。少し移動してこれまた無人のホームセンターにも寄って適当に電動工具を漁り、更に無人の本屋で観光雑誌に料理本などを物色。それでも時間が余ったので無人のレストランで食材を漁って勝手に厨房を借り、遅めの昼ごはんを作成。

料理本を見ながら四苦八苦してそれっぽい独逸料理完成。美鳥と差向いで食べつつ今後の予定を話す。

「で、次の目的地へはどうやって進む?」

「しばらくはバイクで移動だな。途中からはツヴェルフ本部行きのバスが出てる筈だからそれに乗っていく」

本部の中ではIDカードが必要だが、これは適当にその辺の神父さんシスターさんから借りて複製、指紋と網膜認証は警備ロボに触手突き刺して融合、認証は完了したと信号を送ってクリア。ブラスレイターの能力を使っても変身しなければ基本警報はならない不思議警備体制なので侵入は簡単だ。

「秘密組織行きのバスが出てるってのも間抜けな話だよねぇ」

中途半端な出来栄えの料理をつまみながら苦笑する美鳥。

「表の顔があるのは大変ってことだね」

ベツレヘム実験都市。端的に言ってクリスチャンの人らが修行する為に解放されている瞑想場?のような場所。外部に依存しない自給自足のコミュニティーとして半世紀以上の実績を誇っているとかどうとか。

ちなみにここ、基地内部に潜り込むまで身分証を提示する必要すらない。侵入は簡単。堂々と正面玄関から入り、目当ての物をコピー、これまた堂々と帰っていけるのである。

「神父服とかが必要になるわけだねお兄さん!かっこいい改造神父服を用意するぞー!」

「美鳥のシスター服はスカート切り放しで露骨なミニスカになるよう小細工してあげよう」

無論本気だ。似非キリシタンに化ける以上本物の神父やシスターの格好などしていられない。他の敬虔なクリスチャンの方々に咎められても軽い認識阻害かけて『親の形見なんです』とか言えば納得してくれるだろう。

適当な教会の神父さんにお願いしてシスター服と神父服を借り、いったんこっそり取り込んでしまえば複製は作り放題な訳だし。これ以降使う機会があるか無いかはともかく。

しかし今はそれよりも優先しなければならないことがある。

「で、これはどうする?」

言いながら山積みのケーキの箱を指差す。保冷材も入れているのでまだ大丈夫だが帰還まであと一週間はある。それまでには余裕で腐るだろう。

「お兄さんが取り込んでくれれば何の問題も無いよ!」

「ちょ、おま……」

その発想は無かった。材料を取り込むことは既に試してみたし問題なく複製できたが、調理済みの料理を取り込むのはやったことが無い。

「大丈夫大丈夫、箱ごと取り込めば見ため気にならないって」

確かに懐からむき出しのケーキを取り出すのと箱に入ったケーキを取り出すの、どっちも基本アウトだがどっちがマシかと言われれば後者――かな?

どちらにしても人前でできるわけじゃないし、気にするだけ無駄なのかもしれないが。

「棒付きキャンディーとかなら分かるけど、ケーキ丸ごとワンホールは難易度高いなぁ」

「仰向けになってお腹出して、そこにケーキを箱ごと乗せれば簡単だよー」

そういう話じゃ無くて、なぁ?

―――――――――――――――――――

俺はやればできる男、無事ケーキの取り込みに成功。ジンジャーエールもボトルごといけた。しかし美鳥が適当にギッてきたケーキは半分以上種類がダブっていたので、ケーキ丸々五つ程を処理することに。

無人のレストランで向かい合い、山積みになったケーキを黙々と食べる俺たち。美味いっちゃあ美味いが、これだけ量があると流石に飽きる。

「ねぇ、お兄さん」

味を変える為に思い切って醤油でもかけてみようかと考えていると、ケーキ二ホール目をそろそろ食べ終えそうな美鳥がこちらに声をかけてきた。

「うん?」

外道食いは最後の手段だと心の中で結論付け、再びケーキの山を切り崩しながら答える。異世界とはいえドイツくんだりまで来てやることがチョコケーキの一気食いとは……。

「その袖、どうしたの?」

と、フォークで俺の右腕を指し示す。肘先辺りから服の袖が無くなり、右腕だけ半袖になってしまっている。

「ああ、パラディンをチョップでぶった切った時に千切れたんだな」

ブラスレイターもどきに変身しておけばそうそう服が壊れることも無いのだが、その辺はまるで考えて無かった。手加減云々の問題以前にその辺を考慮すべきだったか、失敗失敗。

「へぇ……。じゃ、パラディンは全部撃破したんだ。パイロット諸共」

「そだな。てか、搭乗者だけ残すとか難しいだろ」

俺の二ホール目はシンプルなチョコレートケーキ。正式な名称は知らないがドイツ語だからかっこいいんだろうなぁ。

俺の答えに美鳥が真顔になり、こちらに問いかけてくる。

「……お兄さんが撃破した、いや違う、お兄さんが殺したパラディンのパイロットにも家族が居て人生があって、未来の可能性があったと思うんだ。作品世界の中の話とは言ってもね」

「うんうん」

聞きながらもナイフを走らせケーキを切り分ける。一回、二等分。二回、四等分。三回四回、八等分。斬り分ける。

「……なんとも思わないの?」

一切れにフォークを突き刺し、口に入れ、咀嚼。やはり甘い。茶が欲しい。コーヒーは砂糖入れても飲めない派なのだ俺は。ミルクを入れたらそれはあくまでもコーヒー牛乳として扱います。

「何を?」

「何を? と聞いちゃいますかそこで」

表情が崩れ、猫っぽいにやけ顔になる美鳥。

「今のセリフ、お姉さんが聞いたら感激するよ。『さすが卓也ちゃん♪』とか言って、さ」

「? なんで?」

聞きながら飲み物――ペットボトルのジンジャーエールを複製。いける、これでケーキを一気に流し込む!

「お兄さんが紛れも無く、お姉さんの弟だって話。上着貸してみ、直しておくから。それと――」

「なん?」

上着を脱ぎ手渡すと、美鳥は上着を体内に取り込みながら厨房に向かって歩いて行く。

「お茶淹れてあげるからジンジャーエールはやめとこーぜ? 甘いもの食べながら甘い飲み物なんて奈落だよ?」

キシシと笑いながらそんな事をのたまった。――これしか飲み物を持ってこなかったのはお前だろうが。そう思いつつも、厨房から茶葉を探すという発想がぽっかりと抜け落ちていた俺は言い返すことができないのであった。

―――――――――――――――――――

そして街を脱出しまだ被害の及んでいない少し遠い町にたどり着きホテルで一泊。翌日、小さな教会を訪ねた俺たちは、人の良さそうな神父さんを拝み倒し、どうにかこうにか神父服とシスター服を借りることに成功。

借りるついでにベツレヘム実験都市へ行くバスにはどうやって乗ればいいのか尋ねると、ちょうど近場の教会の人たちと一緒に行くので急遽相乗りさせてもらえることになった。

しかも神父さんとシスターさんのIDカードまで貸してくれた。まさに望外の好運、これも普段の行いがいいからに違いない。天は自らを助くる者を助く、だっけ? あんな感じで。

「拳大の金塊をほいと投げ渡してのお願いは拝み倒したとは言わねー。札束で頬ひっぱたくより効くっしょあんなん」

後々の資金調達の為、実験的にパソコンの基盤に使われている金だけをひたすら大量に複製し溶かし固めて作った金塊。純度の高さは折り紙つきである。

軽く投げ渡したら予想外の重さに神父さんの手首が脱臼しかけたがそれも笑顔で許してくれた。物欲に弱い修行不足な神父様で助かった……。

「右の頬を打たれたら左の頬も差し出せとはよく言ったものだよな。つまり基本相手の提示額の倍額要求しろってことだろ?」

「お兄さん、それ以上いけない」

見事なミニスカシスターと化した美鳥が真剣に止めてくるのでこの話題は終了。俺は窓の外を眺めた。巨大な湖の中心の浮き島、そこに巨大な城のような建築物が見える。

ベツレヘム実験都市、ツヴェルフの根城である。窓の外から視線をバス内に戻せば通路を挟んで隣の席にヘルマンが座っている。前回食堂で見た時と違うのは外見では片目を潰し顔の一部まで痕の残る火傷に――

「感染してるな」

「だね」

体内からペイルホースの反応。ヘルマン・ブラスレイターの誕生はもうすぐ。しかし立ち会いもしなければ介入もしない。だってアポカリプスナイツの機体をコピーするのに忙しいだろうし。興味も無いし。

そうこう話しをしている内にバスが目的地に到着したらしい。他の神父やらシスターやらに紛れてバスを降りる。と、降りて伸びをして身体を解していると背後から誰かがぶつかる。ヘルマンだ。ふらついて倒れそうになったらしい。

「大丈夫ですか?乗り物酔いしたならエチケット袋がありますけど」

とりあえず礼儀として聞いておく。多分年上だったと思うので一応敬語風に。しかしやはり自動翻訳なのでいまいちその辺のニュアンスが伝わっているかは不明だ。ドイツ語に敬語の概念があるかは知らないし。

「――っ、く――」

聞こえていない。――こいつこんなんで本当にアマンダのところにたどり着けるんだろうか? 仕方ない、少し手を貸してやろう。

指先に極小の注射針を作り出し、中にペイルホースを改造して作った、ペイルホースのプログラムに更新パッチを当てるナノマシンを生成、素早く首筋に打ち込む。

「っつ!」

「大丈夫ですか? 袋いりますか? ゲロリますか?」

針がチクリと刺さった瞬間少し声を上げるヘルマンに素知らぬ顔で声をかける。

「あ、あぁ、大丈夫だ。ありがとう」

先ほどよりは大分まともな答えを返し立ち去っていった。プログラムのアップデートは無事終了したようだ。今日からヘルマンの中のペイルホースはペイルホースバージョン1,1といった感じのものに。

まぁ、幻覚を見ないで済むとか凶暴化の度合いが少なくなるとか回復が多少早くなるとかその程度のものだが、無いよりはマシだ。元から血の気が多い方だから多少凶暴化の割合が減っても弱体化には繫がるまい。

立ち去るヘルマンから目を外すと、美鳥が変なものを見る顔でこっちを見上げている。

「お兄さんってさー、器用だよねー」

「あの程度なら美鳥にも余裕でできるだろ」

質量保存の法則を大幅に無視できない、ダメージの回復が俺より大幅に遅いなどといったことを除けば美鳥のボディはほぼ俺と同性能。服や食べ物の取り込みと複製などはこいつの方が上手ですらある。

「そうじゃなくて。救う気も無い相手にそんな手助けよくできるよなってさ」

よくわからん、よくわからんがこれだけは言える。

「俺はな美鳥、野良猫に餌をやる時いちいち『餌を貰うのに慣れ過ぎて自分で狩りができなくなったらどうしよう』だとか考えないタイプなんだよ」

気まぐれの行動にまでいちいちそんな細かいことを考えるほど、俺は繊細じゃない。

―――――――――――――――――――

「で、お兄さんが強化したデモニアックの試験の為に――」

「あら、貴方の兄はそんな真似までできるの?あそこまでの力を持ちながら、まだ出し惜しみを――」

「後から覚えたんですよ。あの時は正真正銘の本気、ではないにしても能力はほとんど全部――」

ここはツヴェルフ基地内部の空き倉庫の一つ。美鳥、警備ロボのモニタに映るエレアさん、俺の順に会話が進む。これまでの事をそれぞれ話合って談笑している。

ヘルマンの暴走に巻き込まれないためにしばらく外の一般向け施設を冷やかして時間を置いてからツヴェルフの基地に潜り込んだ。まぁ潜り込んだと言うには語弊があるか、堂々と入口から入ったのだから。

警備ロボに手を当てて指紋を認証する際に手を触れたモニターから融合し乗っ取り、アポカリプスナイツの機体がある場所を知れたはいいものの、タイミング悪くしばらく前に空軍基地に出撃して出払っているらしく、戻るまで待たなければならなくなってしまった。

確か夕方には戻るかなと記憶していたため、基地のコンピュータをハッキングして適当に時間を潰すことにしたのだが、ハッキング中にエレアさんに見つかってしまった。

しかし何故か武装した警備部隊的な連中が現れる様子も無く、エレアさんも俺が侵入している事に問題を感じていないご様子。美鳥の自己紹介もつつがなく終了して今はこんな感じである。

「ていうかですねエレアさん」

「あら、なにかしら?」

「ジョセフさんの方はいいんですか?」

このタイミングでアポカリプスナイツが出撃したとなればウォルフ隊長による航空基地占拠。となると姉に首輪をつけられて興奮しすぎでバーサーカー状態になっているジョセフも出撃している。ガルム改でサポートする必要は無いのだろうか。

姉に首輪をつけられて暴走、なんだろう、どことなくジョセフに親近感を感じたような。しかも姉の元恋人のことを思い出して怒りのあまり心拍数3000オーバーというそのシスコンぶり。君の姿は俺に似ている。

俺も姉に恋人なんていたら怒りのあまり縮退起こしてしてブラックホールになりかねない。寝盗られとかマジで勘弁。まぁ姉さんは恋人を作ったことが無いらしいからその辺りは安心だな。

しかし俺ジョセフと違って性癖はシスコンだけだから弩Mじゃないんだよなぁ。首輪をつけるのは流石に無い。でも逆に犬耳付けて裸Yシャツに首輪で『くぅ~ん』とかやってる姉さんを想像したら――やめておこう。ジョセフだけじゃ無く俺まで暴走してしまう。ああ、早く帰って姉さんとちゅっちゅしたい。くんずほぐれつ弄りあいたい。

そうだ、そういえば俺今回のトリップで結構強くなれたよな。今ならあのネギ幼少時の村襲撃に出てきた悪魔とか全部余裕で潰して捏ねて燃やして、焼き過ぎて焦げたハンバーグみたいにできる自信がある。

これもしかして褒めて貰えるんじゃあるまいか。『よくやったわ卓也ちゃん!』とか言って思いっきり抱きしめてもらえたりあわよくば出がけのキスの続きがもらえたりなんかしてもうああなんだか堪らなくなってまいりましたよ!

ああ、こう考えると姉さんのトリップに巻き込まれる前の俺のなんと常識的なことか! しかし俺は常識に縛られ過ぎていたようだ。こんな身体になってまで人間の常識に自分の思考をあてはめる必要は無い!

「ジョセフだって子守が必要な子供じゃあないわよ。というか、今は手伝うだけ無駄みたいだし――、……ねえ、聞いているのタクヤ?」

「あー、ごめ。お兄さん今ちょっとトリップしてるから認識できてないと思う。おーいお兄さーん、頭だいじょぶかー?」

あ、なんか凄い失礼なこと言われてる。異世界トリップ中にトリップなんてするもんじゃない。ていうかトリップとトリップでややこしいな、後者は解脱とか呼ぶと分かりやすいかもしれない。

「まだわからないのか、俺は常識を凌駕した!」

叫んだ瞬間、頭を光弾で撃ち抜かれた。いつの間にか美鳥が翼だけを具現化してこちらに向けている。

「落ち着け。お兄さん今の話聞いてた? ちょっと重要な話だったぜ?」

「大丈夫落ち着いた。つまりジョセフが無双して、でも止まる気配すら無いんだろ? そろそろアポカリプスナイツには撤退命令が出る頃合いかな?」

穴が開いた頭を修復しながら返答。帰還まで残り二日を切ったからか姉さんへの思いが溢れ出してきてとんだ醜態を晒してしまった。自重しなければなるまい。

「はぁ……。貴方って、つくづく奇妙で興味が尽きないわ。他の人間とはまた別の意味で」

呆れたような口調で言うエレアさん。

「貴女もですよ、エレアさん」

「だな」

主にデザイン的な意味で。聞こうとは思わないが興味津津である。俺の意見に美鳥も頷く。――は!まさか日本製なのはガルムではなくエレアさんのデザイン!?ジャパニメーションによる文化的な侵略というやつか、恐ろしいな我が祖国。

「……何故かしら、不思議と馬鹿にされているような気がするのだけど」

恨むならキャラデザを恨めばいいんじゃないかなと思う。エロメインの人ゆえ致し方なし。

―――――――――――――――――――

あの後アポカリプスナイツの帰還を知らせると同時、エレアさんは警備ロボの支配を切り、他の用事を済ませに行ってしまった。エレアさんジョセフのサポートとバイクの操作以外にやることあんの? とか聞いてはいけない、作中に描かれなくともそういうものは確かに存在するのだ。たぶん。

そんな訳で俺と美鳥は改めてアポカリプスナイツの機体が整備されている区域に移動を開始した。歩くこと数分、厳しい警備とかチェックはやはり存在せず到着してしまった。

「本気でこの組織どうかしてる……」

「気にしない気にしない、お兄さんにはむしろ好都合でしょ?」

そんな会話をしつつ整備されている途中のアポカリプスナイツの機体を見上げる。

アポカリプスナイツとは、ツヴェルフの誇る超科学を用いて建造された、『スケールライダー』『ボウライダー』『ソードライダー』の三機のことである。と説明があるが、チーム名なのか機体の種別なのかはいまいち分からない。

しかしなかなかにデカい。砲撃形体のボウライダーを見上げる。俺、生まれて初めて実用に耐えうる本物の巨大ロボ見てるんだな……、感激だ!写メ撮らなきゃ!

座って荷電粒子砲を構えた状態でさえ前高6メートルはある。立てば10メートル前後か、リアル系の機体だと考えたらなかなかデカい部類になるな。

砲撃戦特化の人型可変機体であるボウライダー。今持っている荷電粒子砲は真ん中から二つに割って短くすると速射砲に化ける嬉しい機体。荷電粒子砲を撃つ際には座り込むような砲撃形体に変形しなければならないが、スケールライダーに搭載されている時は空中戦の最中にガンガン撃っている。

これは恐らく可変翼戦闘機であるスケールライダーに搭載されている反重力システムが関係していると思うのだが事実は不明である。反重力システムっていうより重力制御装置のようなものだとは思うのが、まあ空を飛ぶのと砲撃の反動を消すのに使えるのならどちらでも構わないだろう。

「お兄さんお兄さん!」

美鳥が目をキラキラと輝かせながら俺に手招きしている。

「ほらゾイド!ゾイドがいるよゾイド!」

と言いながらアポカリプスナイツの一体である四足獣型兵器であるソードライダーを指差して腕をぶんぶん振っている。

四足獣型兵器のソードライダー。格闘戦特化の――まぁゾイドみたいなものだ。尻尾の先にアンカーをつけたり前足にブレードが付いていたりといかにもゾイド臭い。ボウライダーの荷電粒子砲といいこれといい、スタッフは絶対に狙ってやっている。

そしてアポカリプスナイツ最後の機体、可変翼戦闘機のスケールライダー。反重力システム搭載、武装はなかなか弾切れしないミサイルとバルカン。しかもレーザーっぽい武装まで持っていて、挙句の果てにボウライダーを搭載中は使えないが、降着装置でもある近接戦闘用クローアームで格闘線までやってしまえる超戦闘機だ。

こちらも脚とか羽根とかがゾイドっぽいと言えなくも無い。ついでに言えばこの機体、ソードライダーとボウライダーを上下に搭載する輸送機モードと、単体でサーカスする戦闘機モードを使いこなすことで幅広い運用が可能になるとか。万能である。

壮観だ。これが異世界の技術、たまらない。整備が終わるのが待ち遠しい。といっても今回の出撃ではそれほど派手な損傷はできなかったようだし、二時間と待たずに整備は完了するだろう。

―――――――――――――――――――

念のため認識阻害の魔法をかけ直し、整備が完了したアポカリプスナイツの機体に近寄り手に平でぺたりと触る。俺が今触れているのは砲撃戦特化のボウライダー、美鳥は可変翼戦闘機のスケールライダーの方に行っている。

掌と機体が触れた辺りからグジュリと融合を開始する。しばし待ち……、融合完了。これで自由自在にこのボウライダーを操ることができる。

ここまでがペイルホース式の、普通のデモニアックやブラスレイターが行う融合。俺は更に融合し掌握したこの機体の情報を事細かに身体の中に取り込んでいく。

ここは仮にもツヴェルフの総本山、ただの融合や武器、翼などの具現化では気付かれなかったが、いきなり格納庫から10メートル級の機体が消えたら瞬く間に警報が鳴り響くだろう。

最初から俺が出来る融合捕食は融合する対象を完全に肉体に取り込まなければならない、しかしペイルホースの方の融合は対象に自分の身体の一部を浸食させてコントロールを奪う、あるいはそのまま作り替えるといったものだ。

このペイルホース式の融合方式を上手く使うことにより、体内に対象を丸ごと飲み込むことなく、対象の内部構造に自らを浸食させて相手のすべてを取り込むことができるようになった。

なんだか分かりにくいな、つまり最初から俺が出来たのはカービィ方式の融合、今はアプトム方式の融合ができると考えれば分かりやすい。といっても相手はロボット、DNAを採取できればいいという訳では当然なく、隅々まで融合するには少し手間がかかる。

……そういえば、今時間は航空基地で漫画版からゲスト出演のスノウが暴走ジョセフを止めようと奮闘したり、どこぞの教会でアマンダとヘルマンがウォルフ隊長と死闘を演じたりしているんだなぁ。

ご苦労な話だ。まぁ、そんなやつらが細々した事件を勝手に解決してくれているからこそ、こんなゆっくりと融合できるのだが。

――終わった。ボウライダーの隅済みにまで浸食、融合し、完全にこの機体と融合した感触を得る。なんだかんだでそれほど時間はかからなかった。何も気にせずゆっくりと融合に専念できたからか? まぁもともと装甲車と融合するのにも一瞬とかからないのだ、十メートル級の機体でも一分とかからないのは当然なのかもしれない。

「お兄さん、そっちは?」

と、スケールライダーの融合が完了したのか美鳥がこちらに近づいてきた。心なしか顔が紅い。機能不全だろうか。スケールライダーを取り込んでナノマシンの組成が書き変わったせいかもしれない。

そういえばジョセフからペイルホースのログを盗んだ時も眠っていたな。俺がペイルホースを初めて取り込んだ時も眠くなったし、それと似たようなモノか。

「今終わったところ。ソードライダーの融合が終わるまで少し休んでな」

「あ……、うん、ありがと」

言いつつその場に座り込む美鳥を尻目に、俺はソードライダーの融合を開始した。

―――――――――――――――――――

ソードライダーとの融合を終え、アポカリプスナイツの機体全てを複製できるようになりいざ脱出という時になっても、美鳥は顔を紅く染めたままだった。

「大丈夫か?背負うか?」

「だ、だいじょぶだいじょぶ。それより、これからの予定は?最終回は明後日だよね?」

丸一日以上時間があるのだ。最終日にペイルホース感染者を問答無用で消滅させるアンチナノマシン『イシス』を奪取するにしても、明日は本気でやることが無い。いや――

「うまくいけば明日で全部手に入るな」

名案かもしれない。最終日のジョセフVSザーギンを観戦していれば勝手に手に入るとはいえ、わざわざ最終決戦場まで出向くのは面倒臭い。この案ならまだ手近なところで終わらせることが出来る。

明日の予定が決まった。早速美鳥にも伝えようと思い振り返ってみると、座り込んでいた美鳥がぐったりと地に伏せ倒れている。

「おいおいおい、本当にどうしたんだよ。俺もお前もウイルスにやられるような作りじゃないだろ?」

倒れている美鳥を抱き起こし揺さぶる。……反応が無い。意識が無いのかそれとも反応を返すだけの余力が無いのか。どちらにしてもここで回復を待つというのは危険か。

美鳥を背中に背負い外に向かい歩き出す。意識が無いせいか普段よりも重いような気がする。いや、気のせいじゃない。元の重量は見ための通りの軽さだが、今は金属の塊でも背負っているかのような重みだ。

――本気で異常事態だ。本人の意思にかかわらず人間の擬態が解けかけている。こんな時の為のサポートAIだろうに、本人が異常をきたしてたら全く意味がなかろうが。

ずり落ちそうになる美鳥を何度も背負い直しながら、ツヴェルフの基地から脱出した。

―――――――――――――――――――

「う……ん。おにー、さん……?」

ツヴェルフの本拠地が存在するベツレヘム実験都市から遠く離れた町の安ホテルに宿を取り、一泊。翌朝になってようやく美鳥は目を覚ました。

「起きたか。今度はいったいどんな不具合だ?」

ベッドの枕もとに座る俺の問いかけに、パジャマ姿でふらふらと身体を揺らしながら身体を起こし、まだ顔の紅い美鳥が口を開く。

「んー……、お兄さんの身体と違ってこっちは色々と制限があるから。この身体の記録容量を使い切ったんじゃない、かな? 取り込んだデータをお兄さんに移譲すれば元に戻るよ」

「なるほど――、ってちょっと待った。お前そんなに大量に融合同化してないよな?」

スケールライダーを除けばせいぜいが電気屋で送風機を取り込んだ程度、それだけで容量が一杯一杯になってしまうなら、これから他のトリップで手に入れたい超兵器とかは全部自分で融合しなければならないのか?正直な話、俺では接近し辛いモノとかはこいつに任せようと思っていたんだが……。

などと考え込んでいると、俺の表情から何を考えているのか察したのか苦笑しながら説明を付け加えた。

「だいじょぶだいじょぶ、問題無い無い。お兄さんがバージョンアップし続ければこっちの記録容量も増えるし、複雑な作りの物でもサイズ自体が小さければそれほど容量は食わないから。じゃあ、データ渡すぜー」

そう言うと、美鳥は俺の肩を引っ張り、唇を押しつけてきた。カチッという固い音をたてて前歯がぶつかり合う。あ、やっぱりこれなんだ。

「んぅ?」

どう?という視線を至近距離から送りながら唇は離さない美鳥。首に両腕を廻しがっちりと固定してきた。抵抗しない俺の唇をこじ開け、口内に侵入してくる美鳥の舌。

舌で縦横無尽に歯を、歯茎をなぞられる感覚に背筋がゾワリと震える。美鳥はいつの間にかベッドの上に膝立ちになり、座ったままの俺を押し倒すように覆いかぶさっている。

「ん――む、ふ――」

鼻息が色っぽい。そもそも呼吸自体が擬態だから息をする必要すら無いのだが。――誘っているのか?というか、この方法でなければデータは移譲できないのか?

美鳥の舌が俺の上下の歯の門を押しあけて侵入してくる。上顎も下顎も念入りに舌で突き這わせ舐めずり、口内で触れていない個所を無くさんとするかのように蹂躙する。

思うさま口内を舐め回し小突きまわした後は、こちらの舌をからめ取り、舌と舌を擦り合わせながら唾液を送り込んできた。飲み込むと同時、スケールライダーの機体情報が流れ込んでくる。これでデータの移譲は完了したんだが、どうにも美鳥の様子がおかしい。

「ふ、はぷっ……ん、じゅ……ちゅる……」

放してくれない。なんというか、瞳のハイライトが消えているというか眼が虚ろというか、正気の顔じゃない。

首が折れるんじゃないかというほどがっちりと首に抱きつき、身体を押しつけるように胸を擦りつけてくる。体温が高く、汗で服がじっとりと湿っている為かパジャマが身体に張り付き、細い身体のラインがくっきりと見える。

「んぅ、ふっ、ふっ……」

完全に俺を押し倒し、太ももに跨り息も荒く股間を擦りつけている美鳥。そのこめかみにそっと手を触れて、放電。

「ぎゃんっ!」

バヂィッ! という音と共に俺の上から吹っ飛び床に転がる美鳥。手間をかけさせる、本当ならこれ立場が逆なんじゃ無いか?俺が与えられた情報の量に耐えきれずに暴走して押し倒す感じのエロシーンでCG回収的な意味で。

「正気に戻ったか? それで、今回の言い訳は?」

俺の問いに、プスプスと頭から煙を上げている美鳥が苦しげに弁明する。

「き、記録領域にいきなりおっきな空白ができたせいで、その直前のキスのことで頭がいっぱいになって、つい……。ていうかお兄さん……」

「何?」

「あれだけやられて押し倒し返さないって、不能?」

床に転がる美鳥に指を向け、放電。再び尻尾を踏まれた犬のような悲鳴が上がる。

「姉さんともまだしたことが無いからな、操を立ててるって訳じゃないが」

「だからってあの止め方は無いんじゃないかなぁ~なんて思うんだけど」

そこら辺は仕方がない。こいつは見ため姉さんに似ているから、あれ以上放っておくと本気で流されてしまったかもしれない。

ああいや、だからといった姉さんとした後ならこいつとヤッってもいいのかと言われるとそれもまた複雑な感情があって、当然節操というものもあってしかるべきではあるし、それ以前にこいつは言ってみれば俺と姉さんの子のようなものでもあり、いやいや、そもそも俺の一部とも言えるような存在で、あれ?じゃあこいつとヤッても半ば自慰行為みたいなもんだからオッケーなのか?

いかん、この件は考えれば考えるだけ泥沼になりそうだ。結論は保留保留。気を取り直して今後の予定だ。まずは美鳥の状態を確認せねば。

「とにかく、もう問題は無いんだな?」

「さっきの電撃のダメージが抜ければね。それと、昨日なんか言ってたよね?明日――もう今日だね、で全部手に入るって」

「ああ、それはもういいんだ。どっちにしても最終日を待った方が効率いいし。ダメージ抜けるまでゆっくりしとけ」

結局、美鳥が回復するのに夕方まで時間がかかった。電撃は生身の人間には使えないな……。

―――――――――――――――――――

翌朝、俺と美鳥はペトラというシスターが運営する孤児院を、認識阻害をかけて上空から見下ろしていた。下では今まさに灰髪の巻き毛の少年――マレク・ウェルナーがごっついバイクに乗ってザーギンとの戦いに向かった所だ。

しばらくそのまま観察していると、孤児院から赤いXATスーツに身を包んだピンクブロンドのグラマラスな女性――アマンダが飛び出してくる。手には紙切れ――マレク少年の置き手紙。

そう、このタイミングだ。ジョセフは起きておらず、ここには武装は拳銃だけのアマンダただ一人。ジョセフの姉――サーシャから託されたアンチナノマシン『イシス』の設計データが収まった記録媒体を奪取する絶好の機会。

しかし、ここで問題になるのが奪取の仕方だ。イシスがあればペイルホースの再開発も難しくは無い、そのため信頼できる人物に託す。という流れでアマンダの手に渡っている以上、貸してくださいと言って素直に渡してくれるわけも無く。

かといってスタンガン的に電気ショックで気絶させるとそのまま記録媒体まで電気が回ってイシスのデータがお釈迦になってしまう可能性が高い。そして都合のいい眠らせるだけの薬品も思いつかない。

つまりこれから行われる一連の行為は消去法で導き出されたベストではないがベターな選択であり、決してやましい感情がある訳では無いのである。そんな自分への言い訳を思い浮かべつつ作業開始。上空から一気にアマンダの前へ急降下。

「なっ、融合体!?」

「いえ、通りすがりの農家です」

「あたしは生後数カ月の赤ん坊さぁ!」

答えつつ気付く。今から数時間後には元の世界に帰る予定なのに、本編メインキャラの一人であるこの人とは一言も会話を交わしたことが無い。というか、まともに会話した登場人物がジョセフとエレアさんだけという驚異!もうこのタイミングなら名前が広まっても問題ないし、ここはひとつ自己紹介も同時進行で行こう。

「初めまして」

太く強靭な触手を射出、武器を取り出さないように両手首を縛りあげる。

「俺はジョセフ君の知り合いで」

更に触手を射出、逃げださないように両足首を縛りあげる。

「鳴無 卓也という者です」

更に触手を追加、暴れないように胴体を縛りあげる。

「この度、一身上の都合により」

駄目押しの触手、騒がないように猿轡にする。

「アンチナノマシン『イシス』の設計データを貰い受けに参りました」

ジャスト六秒で自己紹介も終えてしまった。ちなみに拘束自体は自己紹介の真ん中あたりで完了している。見事な触手捌きだ、これなら今すぐにでもエロい悪の秘密結社で働けるだろう。

「ンッ、ンー!」

「うっへっへ、ボディチェックの時間の始まりだぜー?」

全身を拘束されながらももがくアマンダさんに、手をわきわきさせながらブラスレイター形体の美鳥が近づく。化け物然とした姿の少女が卑猥でコミカルな動きで拘束されたグラマラスな女性ににじり寄る姿はかなりシュールで緊迫感が感じられない。

「うおっ!こ、これはぁー!」

アマンダの服の中をまさぐり始めた美鳥が突如として奇声をあげる。

「す、すっげぇ筋肉、カッチカッチじゃんか……!」

「――いいから早く探せ」

そりゃ軍だの警察だのから集まったエリート部隊に所属していたんだから筋肉が無い方がおかしい。というか、いちいち実況すんな。

「こりゃヘルマンに膝枕する時も硬くて寝辛いんじゃないかなぁ~」

「――っ!」

羞恥に顔を赤く染めるアマンダ。流石に遊び過ぎなので注意しようとした、その時。

「てめぇら、アマンダになにしてやがるっ!」

石突に鎌の付いた戦斧を構えた赤いブラスレイター、タイプ35『マルコシアス』ヘルマン・ザルツァがこちらに突進して来た。斧の狙いはアマンダを縛りあげる触手、美鳥はアマンダと密着しすぎている為か狙えないらしい。

しかし俺の触手をそこらの一山幾らの木端触手と一緒と考えちゃあいけない。振り下ろされた斧は触手の装甲を削ることすらできずに弾かれ、触手の途中から分岐して新たに生えてきた触手の鞭のような一撃により、ヘルマンは数メートル吹き飛ばされて壁に激突した。

はて、原作の展開を考えればヘルマンは昨夜の内にベアトリスとの死闘の末にお亡くなりになっている筈なのだが、これはいったいどういうことか。

「お兄さん……、後先考えずに行動するからだよ」

と、考えている内に美鳥がアマンダから離れてこちらに寄って来た。手にはこの世界特有のメモリーカードのような記録媒体。どうやら遊びつつも目当ての品は確保していたようで、俺に手渡しつつ説明を続ける。

「あれだよきっと。お兄さんが酔い止め代わりに投与したペイルホースのアップデートプログラム」

記録媒体を取り込みデータをコピー、複製を作り出しながら思い出す。ああー、そういえばそんなこともあったな。忘れてた忘れてた。

アマンダを触手から解放、記録媒体の複製を投げ渡し、再び高速で空に舞い上がる。666はマレクが乗っていったので無い、そして飛行能力を持たないヘルマン・ブラスレイター単体では空を行く俺達を追ってこれない。普通の人間であるアマンダも同上。

「この、待ちやがれぇ!」

光る鎖に繋がれた斧がこちらに飛んでくる。おお、これがヘルマンの具現化する武器か。どういうイメージをすればこんな奇天烈な武器が出てくるのか。荒くれ者は一味違うな。こんなラフファイトが出来るならレーサーとしても十分やっていけたんじゃあるまいか。

「お断りします」

迫る鎖付き斧を平手でぺしっと叩き落とし、軽い口調でしかしきっぱりと断言。それに続いて美鳥もポーズを決めつつ、

「お断りします」

腕を斜め下に伸ばし手は平手で掌を下に向け、顔を相手に向けたまま歩くような動きを見せつつの意思表示。伝統と信頼のお断りしますのポーズ。これ以上無いほどの否定の意思が伝わっただろう。

これでここにはもう用事が無くなった。ジョセフが起きてきたら面倒な事になるし、さっさとずらかることにしよう。

「さぁ、行くぞ美鳥」

「うん、あ、ちょ、速……」

一瞬美鳥が出遅れるが無視。垂直に飛びそのまま超高々度に退散、超音速で駆け巡る。スタートの瞬間からトップスピード、バリアの外側でやたら衝撃波が発生しているが気にもならない。

何もかも置いてきぼりにする程の急展開だが、これで地上で手に入るものは全て手に入ったのだから後は知ったことじゃあないな。

―――――――――――――――――――

音すら置き去りにした世界を航(か)け抜ける。衝撃波避けのバリアはとっくの昔に空気との摩擦で赤熱し、世界を紅く、燃えるような彩りに見せつける。

赤い、紅い、朱い。地の果ては不思議な光景で、紅く輝く地球の表面から暗黒の空への境界は淡く例え様の無い美しさ。漆黒の宙には星が煌めいて見える。

地球の色は、妖しく光る淡い橙で、光の無いひたすらに広い空間へと続く境目は、とても艶やかな曲線に見えた。

地球は真紅のナイトドレスに身を包んだ情婦のようだ。そんな言葉が頭に浮かぶ。

気の向くままに飛び続け、気付けば独逸を遥か遠くに見下ろすような場所にたどり着いていた。宇宙と地球の境界、そこで速度を落とし、ゆるやかに静止する。

「くふ、ふふ、ふふふふっ」

自然と笑い声が漏れる。楽しい。嬉しい。喜ばしい。力をつけることが、身体の作りを更新することが、他者を贄に高みに登る行為が。俺を姉さんの居るステージへと押し上げてくれる全てが!

「御機嫌だね」

少し出遅れた美鳥がようやく合流。これで心おきなくこの世界からおさらばできる。

「ああ、見ての通り、凄い機嫌が良いんだ。今なら世界平和だって願えるな!」

「じゃあ、人助けでもやってみたらどうよ?」

言いつつ下を指し示す。こんな高さからでも地上の光景がはっきりと見える山岳地帯を駆けながら戦闘機と戦う満身創痍のソードライダー、ミサイル迎撃の為なら荷電粒子砲の連続使用も厭わないだろうボウライダー。

デモニアックの汚染率が高くなった独逸を焼き払う為に国連軍が新型爆弾を大量に打ち込もうとしている。原作のストーリーだとそんな感じだったか。

なるほど、まぁこの程度の手間で土産話が増えるならそれもいいかな。翼を、触手を、両腕を大きく広げ、複製開始。

あらゆる物理法則を無視し、翼の、触手の、両手の先から、強化デモニアックが、アポカリプスナイツの機体が次々と溢れ出す。数えるのが馬鹿らしくなる程の死者の群れ、魂の無い機械の群れが、群雲の如く俺の身体から湧き出でる。

生み出されたモノたちはその身の限界を超える速度で地上に急降下、ミサイルが光弾がレーザーが速射砲が荷電粒子砲が豪雨のように放たれ、独逸に発射されたミサイルや戦闘機や爆撃機に降り注ぐ。

「…………お兄さん」

声が届かないので互いの身体に通信機を生成しての会話。宇宙的だ。

「なんだ美鳥」

「地上の被害、余計に増してるんじゃない?」

戦闘機や爆撃機やミサイルを迎撃した攻撃は当然、そのままその下の地上への攻撃にもなる。しかし――

「馬鹿にするなよ。そんな事態は織り込み済みだ。機体やデモニアックどもは地面に激突する前に急停止、着地と同時に自壊して塵になるし、そも市街地に届く前に迎撃したんだから無人の山や森が少し更地になる程度、人的被害は一切無い。見ろ」

遥か地表を見下ろすと、そこには塵の海に埋もれながらも未だ自爆もせず形を保っているソードライダーの姿が!

「あー、まぁ、生きているだけ丸儲けだよねー」

なにやら投げやりな返事だ。提案したのはこいつだというのにこの反応はあんまりではなかろうか。まぁ機嫌が良いので追及はしないでおいてやる。

更に人助けパートⅡ、周囲一帯の衛星にハッキング、各機の情報を検索……見つけた。ミサイル満載の衛星、片っ端から自爆自爆自爆!

「よっし、一丁あがり!」

「まだだよお兄さん、地上から高速で接近する機影あり、速度マッハ23!取り残し、正真正銘、この世界で手に入る最後の力だよ!」

そういえばそうだ、イシスに気を取られてたからすっかり忘れていた。第七世代ICBMディスターブドミラージュ、タキオン粒子制御技術で超電磁フィールドを張る最新鋭の機体!エネルギー兵器に強いバリアに、Vの字斬りの要!

瞬時に加速、しかし流石にブラスレイターもどきになっていても並走出来ない、どんどん引き離される。かなり遠くにスケールライダーの姿、このままだと迎撃されて全部おじゃんだ。

背中の翼を切り離す。よく考えればベアトリスの飛行法をマスターしている以上翼は不要、換わりにスケールライダーの反重力推進システムを生成、再加速!

強烈なGに耐える為に身体がより強靭な構造に作り替えられていく。ミシミシと音を立てながら変形する肉体、それを無視してICBMに追いすがる。

手が触れそうな距離に達した瞬間、ICBMから迎撃ミサイルが放たれる。翼の光弾、いや今切り離したばかりだろう。肩部にウェポンラック生成、同じくミサイルで迎撃。

撃ち漏らしが迫る。右腕にパラディンのマシンガンを生成、弾幕を張る。この時点でなんとか全弾迎撃に成功したがまた距離が開いた。マシンガンを排除。

再び加速、手が届かない、あと一メートルも無いのに。帰還の時刻まであと30秒を切った。間に合わない?届かない?いや間に合う、届かせる。

掌から触手。曲りうねる普段の触手ではなく、間接も無い完全に隙間なく装甲に覆われた固くまっすぐな触手。槍のような棘のようなそれを掌からまっすぐに伸ばし続け――触れた。

ICBMに接触、融合開始。コンピューターの乗っ取りとかは省略、超電磁フィールドの発生装置だけを狙う。機体の隅済みまで枝葉を伸ばすように侵食……発見。

推進装置もミサイルもバルカンも何もかも無視して融合を進める。対象の構造、機能を把握。取り込み完了。超電磁フィールド生成能力取得完了。

融合を完了し、あとは離脱するのみという段階でスケールライダーのバンカーバスターが追加ブースターに直撃、危ういところで離脱。しかし地球の重力に捕まり落下開始。

どうせ大気圏突入も離脱も自由自在、バリアも張ってこれで焼け落ちる心配も無い。片腕に荷電粒子砲を生成、人間サイズに小型化したがそれでも俺の身長よりも大分長い。チャージ――発射。

見事命中。ICBM本体を貫いて爆散させる。落ちながらガッツポーズ。ざまぁみろ、手こずらせた罰が当たったんだ。いや当ててやったんだけどな!

「お兄さん、ご満悦のところ悪いけど――」

「時間か。やれやれ、やっと姉さんに会える」

背中から美鳥に抱きかかえられ、地上を見る。焼けるバリアのせいでやはり地球は紅く見えた。

「紅いなぁ」

「……今度はもっとゆっくり、宇宙船の中からとか、青い地球が見られるといいねー」

異世界を股にかける多重トリッパー。次の世界は過去か、未来か……。いや、少なくともこの世界より技術的に発展してる世界に行かないと意味がないんだけども。

結局、取り込んだアポカリプスナイツの機体はほとんど使わなかったな。せっかくの巨大ロボ(人間視点で見れば10メートルは十分に巨大である)も出番が無かったし、次のトリップ先はそういうのを率先して使える世界を選ぼう。

大気が焼ける紅い色に混じって青白い光が溢れる。俺の目の前に現れたこれが帰還用の魔法陣。ぶっちゃけた話し、来る時にくぐったものと何一つ変わらない。

懐かしい。こんな分かりやすいテンプレ感満載の魔法陣からでさえ姉さんの気配を感じる気がする。感慨深く手を突っ込むと、思い切り釣り上げられるような上昇感。

水では無い何かに満ちた空間を――ってモノローグする暇も無い!元の世界側の魔法陣に頭から突っ込むと同時、柔らかい腕に、胸に抱きしめられる。

顔を上げる。目の前には数か月ぶりに見る、姉さんの満面の笑み。この世で一番大切な人の顔。帰るべき故郷の象徴。

「おかえりなさい、卓也ちゃん♪」

「ただいま、姉さん」

こうして、俺の人生初の武者修業的トリップは幕を閉じた。




続く

―――――――――――――――――――

以上、超駆け足でブラスレイター編最終回をお届けしました。原作的な話としてはこの主人公たちの話の裏で14話分ぐらい進んでます。原作に絡まずに好き勝手やればこのようなものになってしまうんです。自分の構成力だと不可抗力なんです。納得してくれないでもないですよね?ね、ね?

あとラストシーン、主人公と姉が抱きしめ合ってお互いを確認しあっている間、サポートAIは後ろで所在無さげに突っ立ってます。寂しいですね悲しいですね。でもそんなもんです。

因みに突っ込みを先読みして「なんでいちいち美鳥は不具合起こすの?サポートAIじゃないの?サポートされるAIなの?」「なんで唐突にエロシーン挿入しようと思ったの?猿なの?発情期なの?」「なんでレールガン?流行を追ったつもりなの?尻軽なの?」「戦闘シーン雑だね?滑稽だね?」「反重力システムってその高度で意味あんの?」とかそんな感じでしょうか。

美鳥が不具合を起こす理由としては四話で本人が言っていた「無理やり身体を構成した」「おかげでこんなチンチクリン」という言葉が答えです。はっきりいって不具合バッチ濃い(非誤植)な感じのちぐはぐボディなんですね。

更に今回発情して主人公に襲いかかった辺りもこれが原因になっていて、主人公の身体に融合し直して身体を完全体にしようというサポAIとしての本能が、姉にあたえられた心によって『再融合=エロ合体』みたいに誤認させられているわけです。

まぁこれ以外にもエロに至ったの理由はあるんですが、これも本編で語りようが無い設定の一部なので言えません。言った所でどうにかなるような設定でもありませんし。

一番の理由は書いてる途中で唐突にキスシーンが書きたくなったってのが一番大きいですしね。そんなもんです。作品タイトル見ればわかりますよね?そんなもんだって。しかしキスシーンとかの資料無いかなぁ。もっとねちっこい描写がしたいです。

で、武器腕取り込んでレールガンは昔立ち読みした漫画のパワードスーツの武器腕がレールガンで印象に残ってたから。嘘じゃないですよほんとですよ。なんとなくパワードスーツの切り札的なイメージが頭にこびりついてるんですよ。

戦闘シーンは……、アドバイスお待ちしております。手元に参考資料(パンツァーポリス1935とか)が全然無いんです。全部親戚の家に預けたままなんです。

反重力システムはまぁ、実は反重力推進システムとかそんなものの略称だったとかそんなオチかとも思うんですが、本篇で誰が反重力システムって言ってたかわかんないのです。見なおしてもどこで言ってるかわかんないっつう。そんな訳で、理屈はともかくそういう名前の推進システムなんだと思っていただければ。

ついでに飛んでる時にバリア張ってるのはまぁオリジナルというかなんというか、そんな設定は原作には無いですがやってそうだよなぁ、と。

今上げた以外にもおかしいところありますよね?なんだか説明しきれないほどです。大体はそういう風に書きたかったからとかそんな理由ですが、思いついた突っ込みがあったらどしどし感想をお願いします。

因みにそうそう無いとは思いますが展開希望とか何処の世界に行くかの希望も聞けません。リクエストに応えるだけの技量がありませんのし、手元の資料も限られてますので。

それでも「なんとなく斜め読み程度はしてやるよ」または「ほら、早く続きを書きなさぁい!」という愉快で寛大なお方は、作品を読んでみての感想とか、諸々の誤字脱字の指摘、この文分かりづらいからこうしたらいいよ、一行は何文字くらいで改行したほうがいいよ、みたいなアドバイスとかよろしくお願いします。


次回、ブラスレ編エピローグを短めに。お楽しみに。


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