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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第四十二話「研究と停滞」
Name: ここち◆92520f4f ID:190f86b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/04 23:48
○月○日(四周目開始。引き継ぎありのゲームなら、そろそろ味方が強くなり過ぎてヌルゲーになり始める頃じゃないだろうか)

『三周目も何事もなく経過し、もうこの世界に来て六年の月日が経った。六年、長い様で短い様で、やっぱりそれなりに長い時間だ』
『未だに機神招喚が上手く発動しないが、ミスカトニックに入るまでのテンプレが出来上がりつつあるのは間違いないと思う』
『とりあえず、シュリュズベリィ先生の学術調査に積極的に参加する為にはやはり現場でのスカウト待ちが一番手っ取り早い』
『三周目は二周目の様にうっかりゲートを繋げてクトゥルーの触手と生身で追いかけっこするをする事もなく、一周目をもう少し余裕を持ったやり方でトレース出来た』
『そこからの流れも、もはや俺の中ではテンプレと化しつつある』
『四年間続けてきた大学の連中との共闘、四年間見続けてきたシュリュズベリィ先生の戦い、四年間見続けてきたハヅキちゃんの臀部、四年間で見慣れつつある幾つかの邪神眷属群の拠点』
『三周目を終えて何故四年なのかと言えば、一周目は何だかんだで学術調査にはほとんど同行しなかったからだ』
『だが正直な話、このままひたすら学術調査に同行する意味があるのかは疑問だ』
『一周目は確かに収穫があった。秘密図書館の中身を片端から取り込み、科学と魔術の融合を研究し実験し、遂にはアイオーンを除くアル・アジフの記述は一つ残らず手に入れ、ラテン語版のネクロノミコンを取り込むことでその不足分も補う事ができた』
『デモンベインはこの時点で不完全だったが、オリハルコンに並ぶ硬度を持つ魔導合金ヒヒイロカネを取り込むことにより、俺や俺の作り出す機体の耐魔術防御力も生半可な物では無くなった』
『さらに言えば、魔導書の記述の制御もこの時点でほぼやり終えてしまっている』
『二年と少し前、二周目の途中の日記にも書いたが、学術調査での修行よりも、独自の研鑽の方が伸びがいいのかも知れない』
『勿論、一周目の時点で取り込んでしまえる物は取り込んでしまっているので、二周目以降の伸びが少なく見えるのは仕方が無いのかもしれない』
『だが実際、魔術の実践的な行使における様々な問題点を、俺は人間態のままでもクリアしてしまえるので、デモンベイン世界の魔術に対する適性はかなり高いのは間違い無いのだ』
『……というよりも、現実からのトリッパーにとって、デモンベイン世界の魔術はSAN値の問題さえ解決してしまえばかなり相性がいいらしい』
『なんでも、トリッパーが以前トリップした世界の魔法やスキルなどの技能を、新たなトリップ先の世界設定を無視して使用できるのも、このデモンベイン世界の魔術と似た理屈であるかららしい』
『精霊の居ない、というか、精霊が存在したとしてもまともな精霊は生き残ってい無さそうなデモンベイン世界でネギまの魔法が普通に使えたりするのはそのお陰であるらしい』
『トリッパーは自らの一部と化した他の世界の法則を用いて、トリップ先の異世界のルールを無意識に浸食する』
『終わりのクロニクルの『概念』の様なものと考えても説明が付くのだとか』
『だからこそ、そういった物の侵食を受けにくい現実世界ではトリッパーは弱体化を余儀なくされるらしい。閑話休題』
『ともかく、もうこの四年間でシュリュズベリィ先生の機神招喚の観測データは十二分に取れているし、この四周目は息抜きも兼ねて、アーカムに腰を据えてじっくりと魔術の修業に専念する事にしよう』

―――――――――――――――――――

×月▲日(ただいま修行中!)

『……というタイトルのエロゲがあった事をご存じだろうか。いや、俺はこの日記を誰に向けているつもりなのだろうか』
『それとはまったく関係なく修行の日々である。それはもう、只管ミスカトニック大学の敷地内で実験をしたり、実践の為にブラックロッジの縄張りの外の弱小魔術結社を潰したり』
『一度だけ、念のためにもう一度だけシュリュズベリィ先生の学術調査について行ったのだが、当然のごとく収穫は無かった』
『これなら今後は大十字、もとい、覇道鋼造の後押しを素直に受けて入学した方が楽かもしれない』
『大学にしっかりと腰を据えての学習は四年ぶりだ。一周目よりも知識も魔術の腕も伸びているので、かなり早い段階で秘密図書館に入り込む事が出来た』
『まぁ、秘密図書館の魔導書は漁り尽くしてしまっているが、秘密図書館はアーミティッジ博士以外ほとんど人が居ないので静かに魔術理論を練り続けるのには最適だ』
『家にいると、息が詰まる度に姉さんとの触れ合いに気をとられてしまう。俺はそういう面で意志薄弱で我慢弱いので、自戒の意味も込めて午後五時までは秘密図書館で美鳥と共に魔術理論の勉強を行う事にしている』
『さらに言えば、前の週までは大十字と出会うタイミングが原作っぽい展開の開始時期であったが、今周はもう二年に上がる前に大十字とのエンカウントを済ませている』
『何だかんだで三周目までは漫才やら世間話しかしなかったが、いざ魔術師見習い同士として語り合ってみると、これがなかなかどうして理知的で面白い意見も多く聞ける』
『大十字は俺と美鳥の知識量と検索速度に関心していたが、そんな物は精霊付きの魔導書さえあればどうにでもなってしまう』
『この世界の魔術師としてはやはり大十字の方がポテンシャルは遥かに高いのだろう。何だかんだ言っても、邪神に直々に人類側代表として選ばれているだけのことはあるというものだ』
『実際、あと数カ月もしない内にアイオーンを招喚できてしまうのだから、この時点でそれなり以上に実力があるのは当然と言えば当然なのだろう』
『そう、あと数カ月の内に、また大十字は分岐殆どなしBADエンド確定のバトル展開に巻き込まれる』
『息抜きも兼ねて少しくらい手を出しても良いかもしれないが、息抜きに戦うには破壊ロボの相手は悪目立ちし過ぎる。この時点で悪目立ちしてブラックロッジに睨まれたくはない』
『というか、大導師どのには絶対に睨まれたくはない。他の誰に睨まれても大導師どのに睨まれるのは勘弁して欲しい』
『次の周に記憶を引き継ぐ系の人に睨まれるとかマジで無い。しかも、大導師どのの実力だと普通に殺されかねない』
『どうしたってフラストレーションは溜まる。大学と家の往復が嫌だという訳でも無いが、久しぶりに思いっきり全力で暴れたい』
『もう、次の周の大十字に対する印象操作の為のダゴンと量産型破壊ロボの殲滅作業は飽きたのだ。他の敵と戦ってみたい』
『大導師どのと大十字が見て無い範囲で大暴れしたいけど、その頃には手頃な敵は残っていない』
『行き詰っている。機神招喚の研究も進まない。どこかで大きな息抜きを行いたいものだ』

―――――――――――――――――――
□月■日(実験、検証、また実験)

『相も変らぬ繰り返し繰り返し実験と検証を重ねたる日々』
『最近は鬼械神というものについて考え直すため、様々な方向からアプローチを続けている』
『今日は実用性を無視し、只管に複雑で無意味に巨大な神の力の塊で実験してみた』
『DG細胞の自己進化機能を付与した金属生命体としての金神の身体に、リョウメンスクナの属性を与えた人造の神形』
『これを真次元連結システムでより上位の次元へと移行させ、その次元に適応した形に進化させる』
『そして、その神形自身に自らの影を三次元に投射させ、自発的に鬼械神を三次元に顕現させる事が出来れば成功』
『……という構想だったのだが、思った通りにはいかなかった』
『まぁ、正直絶対に上手くいくとは思っていなかったからあまりショックではない。難易度的には二次元のキャラを三次元に実体化させるよりも数十倍難しいから仕方が無い』
『高位次元に送る途中でこちらから認識する事が出来なくなった神形は、姉さんが処理してくれたらしい。姉さんの手を借りるのは不本意だが、この処理については仕方が無いと思っている』
『上手くいけば、自力での異世界トリップの足掛かりにもなるかと思ったのだが、そこまで美味しい話では無かったか』
『だが、いくつかのデータは取れた。無駄にはならない筈、と、思いたい』

―――――――――――――――――――

■月▽日(別解釈)

『高次元の存在の影という公式解釈以外に、記述がそのまま鬼械神となるという説も存在している』
『かのネクロノミコンの源書、アル・アジフには圧縮言語を用いて人間の人生を数行の文字列に変換して留めておく機能が存在している』
『ならば、更に高圧に圧縮された言語であれば、巨大ロボを一冊の本、数十ページの中に格納する事は不可能ではないだろう、という理論らしい』
『確かに、取り込んだアル・アジフの中には歴代の主の人生が圧縮言語で記録されていた』
『内容も確認済みだ。アル・アジフから見た主の人生である為不足こそ多いが、それでも解凍してじっくりと読めば面白い人生も多い』
『欲望の赴くままに力を振るうエドガー型や復讐に身を焦がすアズラット型は大概話に起承転結が付く事が多く、結末が全てデッドエンドである事を除けば物語としてそれなりの水準ではあると思う』
『これにより、最低限の箇条書きではなく、読み物として機能する程度には連続性のある情報を圧縮できるのはこれで証明された』
『が、それでもロボットを記述として本に押し込める程の圧縮率ではない』
『そもそもこの方法では、呼び出された鬼械神は高度な情報の塊どころか、すかすかのハリボテ同然の木偶人形になりかねない』
『というか、実際にそんな感じになった』
『一冊の本にロボットを記述に変換して押し込む事は可能だが、それで呼び出されるのは普通の巨大ロボットでしかなかったのだ』
『異次元を利用しない、持ち運びに便利な『折りたたみ式巨大ロボット』とでも形容するべきものが生まれた訳だが、これは鬼械神とは全くの別物だろう』
『これはこれで何かに使えるかもしれない。が、機神招喚の研究には関係無いか』

―――――――――――――――――――
◎月●日(基本に立ち返る)

『堅実な努力こそが一番の近道である。という言葉に少しだけ希望を見出し、正攻法での機神招喚の理論をまとめ直す事にした』
『レポートにまとめ、姉さんにチェックして貰い、シュリュズベリィ先生に目を通して貰い発禁を喰らい、完成』
『よくよく考えると、ここまで難易度の高い魔術理論を文章に纏めたのは初めてかもしれない』
『美鳥の提案で、このレポートにまとめられた理論がどこまで正しいか実験してみる事になった』
『いろいろ考えた結果、ミスカトニックの学生を使うのは問題があると思ったので、使い捨てが出来る便利な人を使う事に』
『本人も喜んで承諾してくれた。前々から魔術に興味があったらしい』
『世界初のフューリーの魔術師が生まれる瞬間をこの目で確認できるかもしれない』

―――――――――――――――――――
◎月◎日(一応の成功)

『たった一人の多くの犠牲により、遂に俺の構築した理論の正しさが証明された』
『このデータは俺にいよいよもって鬼械神をもたらしてくれる。彼女には感謝してもしきれない』
『お礼として、今度呼び出す時はちんこ生やして褐色幼女をプレゼントしよう。ちんこ生やした褐色幼女でもいいかもしれない』
『彼女には性的な意味では手を付けたことが無いから、攻めなのか受けなのか分からない。両方用意するのが確実か』
『ありがとう、善意の協力者カプセル下僕Fさん(Hさんかな、アルファベットでどう書くのか分からない)貴女の事は忘れない』
『だって、まだまだ貴女には利用価値がありあまっているから』

―――――――――――――――――――
◎月▲日(今のぼくには理解できない)

『無理だった。理論は完全な筈なのに』
『脈絡が無い失敗、ではない事は理解できる。ただそれだけ』
『頭がおかしくなりそうだ。決して元からおかしい訳では無い』
『もちろん、おかしいのは世界の方だ! などと喚き出す程不安定になっている訳でも無い』
『でも今は駄目だ。少し間を置いて、それから』

―――――――――――――――――――

◆月×日(研究が進むのと成果が上がるのは全くの別問題)

『ここらで一つ纏めよう』
『鬼械神とは巨大な情報の集まりであり、本体は異次元に存在する』
『現実世界で見える巨大なロボットの姿は、異次元に存在する本体に対し影の様な存在でしかなく、それこそが鬼械神と通常の巨大ロボットを分ける大きな違い』
『シュリュズベリィ博士と糞餓鬼の鬼械神の違いもそこから来ている』
『例えば一つの彫刻から影絵を作る時、どの角度から光を当てるか、どの程度の光量を当てるか、光源は一つでいいのか、見える影をどのような形であると認識するか』
『それらの違いこそが呼び出される鬼械神の違いであり、同じ魔導書でも呼び出す術者によって姿を変えるからくり』
『だからこそ、鬼械神に決まり切った姿は存在しない。同じ姿、同じ名前、同じ性能の鬼械神が違う術者によって呼び出される事はまず無い』
『分かりやすい例は二種類のアイオーン、ロードビヤーキーとアンブロシウスか』
『理屈は簡単だ。いや、確かに難しい部類の術ではあるが、小達人(アデプタス・マイナー)にまで到達していれば割と簡単に発動できる』
『実際、理論は完璧だ。分かり易く纏めたレポートがシュリュズベリィ先生に差し止めを喰らい、説教を受けてしまう程には』
『俺の書いたレポートを最後まで『発狂せずに』熟読できれば、小達人に届かない魔術師ですら鬼械神を招喚できてしまうだろうとお墨付きを貰った』
『無論、未熟な魔術師が発動すれば、一度の招喚か数分の戦闘で魂を燃やしつくす事は確実らしいが、命を引き換えにする程度で鬼械神を召喚できてしまうのであれば、悪の魔術結社は大喜びだろう』
『そんな物を世に出す訳にはいかないと、俺の書いたレポートは秘密図書館に封じられてしまった』
『よくよく考えれば、これが俺の書いた初めての魔導書という事になるのだろうか』
『先生の魔導書が大学ノートで、その教え子の俺の魔導書はレポート用紙の束にパンチで穴を開け紐で綴じたもの。これもある意味運命か』
『だが、そんな物に意味は無い。どうせ二年と少しで終わるループだ。次の周ではそんな事実は跡形もなくなる以上、喜ぶ理由もない』
『大事なのは、俺の構築した理論は、姉さんの様な規格外のチーターではない、実際に機神招喚を行える地に足のついたレベルの魔術師から見ても間違いの無いものだという評価が貰えた事だ』
『……一つ、シュリュズベリィ先生は勘違いをしている。実際問題、発狂しようがなんだろうが、生きた状態で読み切らせて記憶させてしまえば鬼械神は呼び出せる』
『先生に見せる前、姉さんの生成した異空間で実証実験としてフーさんにやらせてみたから間違いない』
『達人級寸前まで強化できる処をあえて理論者(セオリカス)程度に抑えて造り出したフーさんは、たった91回目の蘇生で鬼械神の招喚に成功した』
『さらに、魂がすり減り切り死ぬまでの間に何と十三分もの戦闘機動を繰り広げて見せ、俺のラスボス仕様ボウライダーと互角に渡り合ってみせたのだ』
『正直フーさんは戦闘中に興奮すると死狂い状態になるので発狂しようがしまいが戦い方に違いなんて殆どない。正気を失った程度で戦い方を忘れるほど軟な戦狂いではないのだ』
『しかし、機神招喚成功時の糞便やら諸々の体液やら内臓やらを穴という穴から撒き散らしながらのエンジョイ&エキサイティングっぷりからして、読み終えた頃には殆ど正気は残っていなかったと考えてもいいだろう』
『お墨付きを貰い、実験も成功、理論は完璧だ』
『なのに、何故。何故俺は未だに機神招喚を成功させられないのだろう』
『俺の鬼械神は、俺の神は何処にいるのだろうか』

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「我が信仰は何処、ってか」

大学を休み、平日の昼間から街をぶらついている様な男が口にしていい台詞ではないのだろうな、と、そんな事を考える。
別に、信仰が必要な訳ではない。いや、邪神を信仰する事でその神に関する魔術を扱いやすくなる、という傾向は確かに存在する。
分かり易い所で言えば逆十字の糞餓鬼だろう。シュリュズベリィ先生も言った通り、あれはハスターの奴隷同然だ。
だが、それが原因では無い事は明らかだ。
アル・アジフの起源が何処であるかは分からないが、少なくとも前の周から流れ着いたアル・アジフを写して新たにネクロノミコンの原典となるアル・アジフを書いたアルハザードは、基本的にどの邪神も崇拝していなかった筈。
邪悪と戦う事を目的とした書の主が邪神崇拝者では意味が無い。
アイオーンを、ネクロノミコンを起点に呼び出される鬼械神は、どの神の属性も持たない。
構成としてはバランスタイプであり、どんな術者であっても命を削ればそれなり以上に戦える癖の無い鬼械神。
実際、他の魔導書で呼ぶ鬼械神よりも格段に招喚の条件は緩く、難易度も低い筈だ。

「ああもう、やめやめ」

頭を振り、堂々巡りになりそうな思考を頭の外に逃がす。
こうして大学を休んでぶらついているのは、姉さんと美鳥に『最近根を詰め過ぎてるから、気分転換した方がいいんじゃない?』と言われたからだ。
だというのに、街を歩きながらまでこんな事を考えていたんじゃ全く意味が無い。
とはいえ、街をぶらついたところで何か新しい発見がある訳でも無い。
これならどこか静かな場所でゆっくり読書でもした方がまだ気分転換になる。
勿論読むのは魔術とは関係無い普通の本、ラノベ辺りが適当だろうか。
しかし、今日は美鳥に代返を頼んで大学を休んでいる手前、秘密図書館にも秘密で無い図書館にも行き難い。
この時代には漫画喫茶がある訳でも無いし、公園には新原さんが居るから行きたくない。
どこか適当に、静かで豊かで、救われる感じの場所があればいいんだが……。
露店で幾つかフルーツと菓子を買い、アーカムのエアスポットを求めてのそのそと歩く。
辺りを歩く人々の足並みは早く、煩わしい。イライラする。
ここでは何もかもが過剰だ。速度も、人の多さも、騒ぎも、余りにも無駄が多すぎる。
いっそ何処かの路地裏にでも入って、適当なヤクザビルの中身を潰して静かなスペースに改装してしまおうか。
ブラックロッジと関わりの無い組織もそう無いだろうが、少し休憩する位なら痕跡を残さずに消える程度の事は可能だ。

「ん?」

短時間の間にビルの中身を綺麗に掃除する手順を考えていたら、何時の間にか大きな通りから外れていた。
そして、目の前にはかつてブラスレイター世界で住んでいた廃教会を彷彿とさせる(それも失礼な話ではあるが)質素なつくりの教会。
アーカムといえどもやはりアメリカ、適当に歩いているだけでもそれなりに教会を見つける事が出来る。
しかもこの教会、今までアーカムで見かけた中では一番繁盛していなさそうだ。雰囲気的に。
なんというか、まず風水的に駄目だ。これでは信者が集まる筈が無い。金回りも決して良くは無いだろう。
何処となく暖かな雰囲気はあるから人は住んでいるだろうが、なんかもう、全体的に幸が薄そうで仕方が無い。
如何にも、たらいまわしにされた孤児の行きつく先ですよ。みたいな空気が滲み出ている。
ここなら間違いなく他の礼拝客も居ないと確信できるし、シスターか神父か知らないが、熱心な説教も行われていないだろう。
パイプオルガンとか以ての外、あったとしても質に入れられているのは確定的に明らか。
これは、いい場所を見つけたかもしれない。
人の居ない教会なら、長椅子に寝転がってラノベを読んでも文句は言われないだろう。
俺は買い物袋を抱えたまま、ふらふらとその教会へと近づいて行った。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「ただいまー」

「お、おかえりー……」

「お帰りなさい……」

「……」

買い物を終え、教会に戻ってきたライカ・クルセイドは、遠くから聞こえる子供達の声に小さな違和感を感じていた。
何時もならばお腹を空かせて待っている子供達は、ライカの帰宅と同時にじゃれる様にしてライカに纏わりつき始める。
ここに来るまでは碌に大人に甘える事が出来なかった子供達は、最近来たばかりの一人を除いてライカにべったりなのだ。
落ち付きを持つよりも元気さが優先される年頃だから、それ自体は好ましい事ではある。
だというのに、今はその子供達がひっそりと息を殺している。
恐怖を感じているのではない。困惑から来る沈黙だろう。

「あらあら、今日は皆どうしちゃったのかし、ら?」

ライカは自分から子供達の方に近づき、声をかけようとし、不審な、見慣れないものを見つけた。
普通ならば礼拝に訪れた人々が座る、しかし滅多に礼拝客が訪れないこの教会では子供達の遊び道具と化している長椅子で一人の男が本を読んでいるのだ。
年齢はライカの友人である九郎と同じに見える。
どこにでもいる大学生風の服装に、素朴で優しげな造りの顔つき、そしてその印象を台無しにしかねない鋭い目付き。
一見して何処にでも居る大学生の様だが、その身に纏う雰囲気はどこか暗く、重い。
ここが教会である事から考えて、何か懺悔でもしに来たのかもと一瞬考えたライカではあったが、その男の両脇に積まれた大量の娯楽小説を見てそれは無いかと思いなおした。

「ライカ姉ちゃん、これ」

そう言いつつ、金髪に褐色の肌の少年、ジョージが様々な重そうな紙袋を重そうに差し出した。
紙袋から顔を覗かせるのはお菓子に果物、何に使うのか分からない玩具の様なものと脈絡が無い。

「あのお兄ちゃんがくれたんだけど」

「それ、やるから、二時間くらい静かにしてろ、って……」

コリンとアリスンの言葉に、なんだそれは、と、ライカも心の中で困惑する。
態々こんな入り組んだ場所にある小さな教会に来て、子供たちにこれほど大量に物を与えてまで要求するのが『静かにしている事』とは。
これで何かやましい事をしているというのなら分かるのだが、それなら子供達が真っ先にそれを伝えてくれるだろう。
ライカは意を決し、黙々と本を読み続ける男へ向け歩み寄り、声をかけた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

結果だけ言えば、俺はどうにもトリッパーとしての本分を果たそうとしていたらしい。
度重なる実験と検証、実証まで済ませた理論を用いてすら機神招喚が成功しない事に、俺は自分で想像していたよりも深くショックを受けていたのかもしれない。
イベント事を避けるという心構えすら消えうせてしまう程にショックを受けていたお陰で、俺は見事に原作主要人物の住まう教会へと引き寄せられていたのだ。
人は皆運命の奴隷とはよく言ったものだが、トリッパーはやはり物語の奴隷なのだろうか。
あの姉さんですら強制トリップに抗う事はせず、最短でトリップを終わらせる事を目指した戦法をとるのだ。この考え方もあながち間違いでも無いのかもしれない。

「ふむふむ、つまりあなたは大学の勉強が上手くいかなくて落ち込んでいた、と」

「ええ、まぁ、大体そんな感じですね」

目の前の金髪眼鏡のシスターを見ると、つくづくそう思う。

「……すいません、いきなり子供たちに『静かにしろ』なんて言って」

そう言い、シスターに軽く頭を下げる。
どうにも気が立っていた、というのも、この落ち込んだ精神状態では可笑しな話ではあるが。
とにかく静かな場所を確保したい、というのが自分の中で最優先だったせいか、少しばかり強引に荷物を押し付けて、買収のような形になってしまった、
いや、ここが懐かしさを感じるボロ教会でなく、町の廃ビルやらただの孤児院であれば、お菓子を与えるのではなく、煩い子供など『適当に片付けて』しまっていたであろう事を考えれば、ここで悪いことをしたなどと考えるのは変な話なのだが。
そんな内心に気付かず、シスターはころころと笑って手を振った。

「いいんですよ、ここは教会、祈りの場ならもう少し静かでもいいくらいなんですから」

と、目の前のシスターは言っているので、深くは気にしない事にする。
なんとなく、ゲームのストーリーから推測できる内面から考えれば、静か過ぎると陰鬱な気分になってド壺に嵌まって抜け出せなくなりそうなこの人は明るい雰囲気の方が好きそうではあるが、本人がそう言っているのならそういう事にしておくのが礼儀だろう。
しかしどうにも、金髪巨乳とは引き合わせがよろしくない気がする。
何と言っても、金髪で、巨乳で、おっとり天然系(擬態である可能性が非常に高いが)という三つの要素が揃っているのだ。
寄りにも寄ってオフの日に出会う原作登場人物がピンポイントでこの人とは。何か、こう、金髪持ちの女性に因縁染みたモノを感じてしまうのは仕方の無いことだろう。
折角ドーナツも控えて新原さんも避けているというのに、邪神ですら感知できない宇宙意思の様なものでも働いているのだろうか。
しかし、この宇宙の意思と言えば字祷子か、さもなければ千歳さんのどちらかという事になる。
千歳さんは金髪巨乳に思い入れは無いと思うし、多分字祷子の仕業だろう。
新説・字祷子は金髪巨乳萌え。
これは新しい。これを発表すればクトゥルフ神話学会に一大センセーションが巻き起こるのは間違いない。
個人的には迷惑極まりない話だが、個人の性的な指向は自由であるべきなので許容するしかあるまい。
ま、俺は黒髪至上主義だから金髪とか訳分からんが。

「? どうかしました?」

金髪のシスターが首を傾げる。
じっと見つめながら考え事をしていたせいで不審に思われたかもしれない。
そろそろ時刻は昼になるし、どこかに飯も食いに行きたい。
ここはひとつ、誤魔化しつつも会話を不自然なく打ち切れる様な言葉で答えよう。

「ああいや、ええと……シスターは、弟さんとか、居ます?」

「──っ」

シスターが顔をこわばらせ、息を呑んだ音がハッキリと聞こえた。
ぶっちゃけ、このシスター──ライカ・クルセイドにこの話題は鬼門だ。
何だかんだと擁護する事も出来るかもしれないが、実際にライカさんが弟を刺し、そして弟を見捨ててその場から逃げだしてしまったのは事実。
この話題を出せば、自然とライカさんの口は重く途切れ途切れになり、普段の優しげなお姉ちゃんキャラの仮面はひび割れていく。
気不味くなればあとはしめたモノ。沈黙に耐えかねた様にしてこの場からそそくさと離れる事が出来るのだ。

「あ、あの、なんで、そう思ったんですか?」

「いや、面倒見が良さそうだし、俺の姉さんも世話焼きなところがあるから。まぁ、そういうところがうちの姉さんのいいところですけど」

当然、家の姉さんの方が数無量大数倍素晴らしい姉だが。

「そう、ですか。良いですよね、姉弟って」

俺が姉を持つ弟であり、姉との仲が良好である事を察したのか、辛そうな中に何処か羨ましそうな感情を含んだ笑顔を浮かべるライカさん。
なんかもう、このまま攻め続ければ変身して何処かに逃げだすんじゃないかと思うほど辛そうな表情だ。

「ええ、いいものです。貴女も、弟さんが居るのなら大事にしてあげてくださいね」

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

あの後ひたすら仲の良い弟と姉の話、まぁつまりは姉さんと俺の日常生活の話で、ライカさんの地雷の上でブロードウェイで一山当てられる程の超高速タップダンスを小一時間踊り続けた。
無理矢理に浮かべた笑顔が崩れる寸前の、泣きだしそうな表情のライカさんと別れ教会から脱出。
時間を潰すのにちょうどいい教会から出て行く羽目になった俺は、気分を変える為にも食堂に向かう事にした。
ラノベを読みながら食べるつもりだった果物とお菓子は餓鬼三人を黙らせるのに使ってしまったので、昼飯を食べていない事に気が付いたのだ。
利用するのはもちろんニグラス亭。一周目ではかなりお世話になったが、二周目以降は学術調査などでアーカムを離れている時期が長かったため殆ど行く事が出来ず、この周に至っては初めての来店だ。
昼のピークの時間を過ぎていた為か、客は珍しい事に俺しか居ない。

「────」

「ええ、お久しぶりです」

相変わらず無口な店主だが、なにを言わんとしているのかはだいたい分かる。

「────」

「そうですね、じゃあ、唐揚げ定食って今できます?」

オーダー表を手にした店主の問いに、俺はパッと思いついたメニューを注文した。
だが、俺の注文に店主はどこか呆れた顔をしている。

「────」

なるほど、店主の言い分ももっともだ。
ここのメインはジンギスカン定食で、それ以外のメニューも大体山羊か羊が主菜。
それを無視して毎度毎度唐揚げ定食ばかり頼んでいたら、なんでこの店に来ているんだと思われても仕方が無い。

「あはは、こればっかりですいません。他のメニューも美味しそうだとは思うんですけど、ついつい頼んじゃうんですよね。シュブさんの作る唐揚げ美味しいから」

「────」

「いやいや、俺、外食で世事は言わないって決めてるんです。美味しいですよシュブさんの料理。シュブさんをお嫁さんに貰える人は幸せ者でしょうねぇ」

「────、────」

店主は顔を赤くし、触手の様なアホ毛の様な触手的な何かを犬の尻尾の様にぱたぱたと機嫌良さそうに振り回しながら、ぱこぱこと蹄の様の様な蹄を靴を鳴らしつつ、オーダー片手に厨房の方へと戻って行く。
多分に全人類に冷笑的な部分がある店主だが、どうにも褒め殺しに弱いらしい。
崇拝される事はあっても、賛美される事には慣れていないのだとか。
それにこの姿の時は人間的な感情に振り回されてしまうのだとも前の周で言っていた気がする。意味はいまひとつ理解しかねるが。
何やら会話の中に見逃してはいけない矛盾点を見つけた様な気がしたが、店主との心温まるやり取りに癒された俺にとっては些細な事。
ああ、久しぶりのペンギン肉の唐揚げ、早くじっくりと味わいたいものだ。

―――――――――――――――――――

昼飯を食べ終え、しばし公園で眠り、俺はミスカトニックの時計塔の上で夕陽を眺めている。
美鳥が一緒に帰るかと誘ってきたが、今は少しだけ一人で居たい気分なので断り、姉さんにも少し遅くなると電話を入れておいた。
高層ビルが立ち並ぶ街並みが赤く染まる。
血染めの街、と形容できないでもないが、将来的に本当に血に染まってしまうのでジョークとしてはあまり上等ではないか。
いや、この世界がその段階まで進むのかは分からないし、そもそもそのイベントが起きない世界である可能性だってある。
この世界は平行世界肯定派だし、創造主は千歳さん。続編の物語に続かない世界だったとかそんな裏設定も上等だろう。
まぁ、順当に行けばエンディング辺りで退場出来る俺からすれば関係の無い話だ。
ひゅる、と風が吹き、遠くのビルの屋上のアンテナに括りつけられたハンカチがたなびいた。
誰か狙撃でもするのだろうか、点々と斜め下に向かって様々な布が括りつけられている。
ビル街の中ではそれら目印の布が風に揺れ、空では雲がゆっくりと形を変えている。

「いい風が吹くなぁ……」

尻彦が最後に感じた風もこんな気持ちの良い風だったのだろうか。
夕暮れ時のやや冷たくなり始めた風に乗って、程良く淀んだ妖気が運ばれてくる。
スナイパーの風への苛立ちを滲ませた舌うち、マーケットの賑わい、寂れたビルの地下から聞こえてくる大量の男女が入り混じった嬌声、明日の約束をして別れる子供達の声。
それらが入り混じった混沌とした声が聞こえる。
ここにはどんな物もあり、ここに無いものはどこにもない。そんな事を妄想してしまう程に、何もかもに溢れ返った街。
長く暮らすには此処ほど良い場所も無いだろう。

「こんな所にいたのか」

渋みのある男性の声、というか、ここ八年で元の世界のサブカルで触れるよりも長時間聴き続けている人の声。
珍しくアーカムに戻り、久しぶりにアーカムで魔術の講義を教えているシュリュズベリィ先生だ。
呆れの感情を含んだその声は、内容から察するに俺の事を探していたらしい。

「ここからだと街が一望できますから」

振り返らずに返事を返す。
態々この人に探されるような事をした覚えは無いのだが、何故こんな所に居るのだろうか。
普通この時間は生徒のレポートに目を通しているか、他の陰秘学科の先生がたと色々と話し合っていたと思ったが。

「優雅だね、講義サボった癖に」

「普段は真面目にしてるからいいんですよ、偶の自主休講くらい」

セラエノ断章の精霊、ハヅキにひらひらと手を振りながら答える。
そう、今回四周目の俺は二周目三周目とは違い、学術調査は控えめにして大学での講義を重点的に受けている。
取った講義は一度たりとも休んでいないという見事な出席率だし、お茶を濁す為に提出した魔導工学のレポートも軒並み高い評価を貰っている。
ついでに、これは先生にもその魔導書にも言えないが、今日の講義に限ってはもう三度ほど受けているので内容は完全に把握している。
今までの周でも、シュリュズベリィ先生が大学で講義をする時は欠かさず出席していたし、他の講義もその流れで全部出席しているのだ。
ログを年単位で巻き戻して講義の内容を読み返すまでもなく、今日の講義で教えられる事は一つ残らず知識として吸収済み。
だが、そんな事情を知らなければただサボっただけの様に見えてしまうのだろう。
ふと、一つだけ、シュリュズベリィ先生が俺の事を探しに来るそれっぽい理由を思い出す。
というよりも、今日までそればかり考えていた。
俺は先生の真意を確かめるため、振り返り先生の顔を見ながら告げる。

「もしかして、俺がヤケ起こしてあのレポートをばら撒いたりするとか思ってました?」

やもすれば、こちらの可能性の方が高いかもしれない。
完成させ提出した時に先生はレポートの内容を確認しているし、俺がそのレポートの手順通りに魔術を行使しても機神召喚が発動しない事も、一度相談しに行ったから知っている。
目元をサングラスで隠された先生の表情は読みにくい。
先生の傍らには手の届く範囲にハヅキが佇んでいる。何時でも魔導書を用いた本格的な魔術を行使する事が出来るだろう。
もっとも、ハヅキが出ている時は大体このポジションなので、考え過ぎという事もあるかもしれないが。
一つだけ、眼に見えて先生の感情を想像できる部分がある。
口元、未だ髭に覆われていないその真一文字に結ばれた口元だけは、如実に先生の感情を表している。
この歳に似合わず明朗快活な老教授は、非常に珍しい事に返答に窮しているらしい。
本当に珍しい事だ。何だかんだで八年半ほどか? それほどこの人の教え子をしていて、初めて見る表情かもしれない。
新しい発見に、俺は思わず表情をほころばせてしまう。

「鳴無卓也君、君は──」

「大丈夫ですよ、先生」

何かを言おうとした先生を遮り、俺は夕日も沈みかけて暗くなり始めた街並みへ振り返る。
まだ、まだ四周目だ。少なく見積もってもこれまでの千倍の時間が俺の目の前には横たわっている。
この見慣れた街並みだって、まだまだ知らない事が山ほどある。
あの駅の近くの店は不定期にしか開店していないから、気にはなっているけどまだ一度も入った事が無い。そもそも何屋さんかすら分からないのが現状だ。
あのニグラス亭と反対側になる定食屋、店の表側は小汚いのに、裏手のゴミ捨て場は綺麗に整頓されている。場の見栄えではなく、食品や生ゴミの管理に重点を置いているのだろう。
あのアパートのあの部屋のベランダには何時も古めかしい軍服と軍帽、何やら魔術臭いマークの入った手袋が吊されている。誰か古い作品からクロスオーバーしているのだろうか。
まだある、まだまだある、まだまだまだある。
知らない事はたくさんある。見落としている物がたくさんある。
理論は完璧だった。足りないものは無かった。
だけど本当にそれを証明する事はできない。何しろ俺は、まだ全ての可能性を試した訳では無いからだ。
もしかしたら、俺の方にも問題があるのかもしれない。
ある朝トイレでこけて頭を打った衝撃で脳髄に電流が走り、唐突に車型タイムマシンの基礎理論が頭に思い浮かぶと共に機神招喚が出来る様になるかもしれない。
ある昼下がりに、食後のデザートに林檎を切っている最中に、細長く切られたリンゴの皮から宇宙の真理を見つけ機神招喚が出来るようになるかもしれない。
ある夜下がりに姉さんの中で果てた瞬間、恍惚の中で次々と素晴らしい魔術の新発見をして、ついでに機神招喚も出来る様になるかもしれない。
レポートは完全で完璧だが、更に向上させて完璧を超えてさらに分かり易く、お求めやすい形の内容に仕上げる事ができる。
まだまだ魔術の研鑽を初めて十年にも満たない。魔術師としての位階はまだまだ上げる事ができる。

「俺はまだ登り始めたばかりですから、この魔術坂を……!」

―――――――――――――――――――

(言葉の意味は分からないが、凄い自信だ)

両手を広げ、アーカムの街を迎え入れる様なポーズをとった自らの教え子を見て、シュリュズベリィ安堵と共に胸を撫で下ろした。
実の所を言えば、卓也の言葉はシュリュズベリィがここに居る理由を半ば以上当てていた。
シュリュズベリィは、卓也の精神状態を不安に思っていたのだ。
きっかけは、鳴無卓也の提出した機神招喚に関するレポート。
驚く程に纏まり、しかし情報に含まれる毒を薄める意図が欠片も無い簡潔な説明、そして容赦の無い直接的な描写。
僅か数十ページに満たないレポートに詰め込まれた機神招喚に関する革命的な理論。
それは科学、魔術の両面から考察に考察を重ね、魔術の秘奥の一つと名高い機神招喚の術式に一つの完全な答えを導き出していた。
その文章に指をあて、乾いたインクの感触を頼りに読んだシュリュズベリィは舌を巻き、眼球の存在しない目に鱗が詰め込まれてぼろぼろと零れ堕ちていく様な感動を覚え、背筋に怖気を走らせ、頭をふら付かせた。
常日頃から魔術に触れ、自身も並大抵では無い魔導書を執筆し所持し行使しているシュリュズベリィが、その余りにも冒涜的過ぎる内容に眩暈を覚えたのだ。
そして、次の瞬間に真っ先に思った事がある。
このレポートを、いや、この『魔導書』を世に出してはいけない、と。

(あんなものを書いたから、精神的にも危険な処まできているかと思ったが)

常人ならぬ魔術師であるシュリュズベリィですら心を情報の毒に侵されそうになる程の危険な文章の羅列、禍々しいほど理路整然として隙の無い魔術理論。
あのレポートを読み切れた時点で正気で生きていられたなら、確かにどんな素人でも機神招喚が行えるようになるだろう。
だが、あのレポートを読んで無事でいられるとしたら、それは機神招喚を行える位階の魔術師のみ。
それ程の位階に上り詰めた魔術師であるならば、あのレポートはそれほど重要でも無いだろう。後押し位にはなるかもしれないが。
だが、未だ位階の低い魔術師に読ませたらどうなるだろうか。
それこそ、どこぞの魔術結社にあのレポートが渡ったとしたら、下位の魔術師にあれを読ませ、鉄砲玉にする程度のことはしてのけるか。
シュリュズベリィは思う。あれはまともな行いに利用できない。
だから、そんな物を書き上げ、あまつさえその理論を実践した、などと言われた時にはシュリュズベリィは心臓が止まる思いだった。
思い返してみれば馬鹿馬鹿しい心配だ。何しろ、あのレポートを書き上げた本人がそのレポートを読んだと聞き、正気を失ってしまったのではないかなどと考えていたのだから。
結果として、彼の機神招喚は失敗に終わった。
術式にも術者にも何の致命的な欠陥がある訳でも無い謎の失敗。
鳴無卓也は落ち込んでいたが、それで良かったのかもしれないともシュリュズベリィは考えていた。
機神招喚を完全に物にした場合、彼が次に何を作るのか、あの猛毒の情報でいったい何を現すのか。
それを知るのが今しばらく後になるのであれば、それは世界の平和の為にも喜ばしいことだろう。

―――――――――――――――――――

そう、シュリュズベリィの心配は杞憂となる。
ガス抜きにより一時的に精神の均衡を取り戻した鳴無卓也は何事もなく旅立つシュリュズベリィを見送り、数ヵ月後に姿を晦ますまで何一つ事件を起こさなかった。
南極でクトゥルーと人類の総力戦が行われた時に、鬼械神とも破壊ロボとも異なる技術体系の巨大ロボットに乗って現れたという話をシュリュズベリィが覇道財閥から聞いたのは、何もかもが終わって数か月の時が流れてからの事だった。
ブラックロッジが壊滅し、南極の上空に現れた時空の門に大十字九郎が消え、鳴無卓也とその家族も姿を消し、壊滅状態のアーカムシティに戻ってきたシュリュズベリィ。
今彼は、秘密図書館に収蔵された一つのレポートを手に、思索を巡らせている。
そのレポートの表紙には、そっけない文字でこう記されている。

『機神夢想論』

シュリュズベリィから見ても、よく纏まった内容に見える。
機神招喚へ至るまでの様々なアプローチから、生きて招喚を行える様になる為の肉体と精神の改造法、理解が足りない術者の為の招喚補助アーティファクトの製造法に、これ以上無い程に細やかな手順が説明された機神招喚の術式。
シュリュズベリィが目を通した時点ではまだ銘も入っていなかったレポート。
今現在付けられているタイトルは、その理論を用いても自らは機神に至れなかったが故の皮肉か。
数度目を通す事によりその情報の毒に馴れたことで、シュリュズベリィはそのレポートに記された理論に一つの違和感を覚えていた。
そう、違和感なのだ。理論に間違いがある訳では無い。抜けがある訳でも無い。
ただこのレポートに記された機神招喚の理論は、自らが行使する機神招喚とは、何か、致命的な部分で違いがある。
シュリュズベリィは思う。自らの教え子はこの違和感を知覚していたのだろうか、と。
それとも、無意識であるが故に自覚できなかったのか。
肉体の反射を意識ではどうにもできない様に。自分の見た夢の内容を正確に把握できない様に。

「夢想、か」

それで良かったのかもしれない。
何処かへと消えた教え子の事を頭に思い浮かべ、彼はそう断定した。
もし、もしも彼がこの理論に沿って機神招喚を遂げていたら、何か恐ろしい事が起きたかもしれない。
漠然とした予感ではある。だが、その予感が当たっているか外れているか、もはや調べる事はできないだろう。
彼の教え子は、二度とこの秘密図書館に訪れる事は無く、自分の前に姿を現す事も無い。
そんな確信を抱きつつ、レポートを本棚の中に戻し、シュリュズベリィはその場から歩き出す。
久しぶりのアーカム、久しぶりのミスカトニックだが、今はのんびりとしている暇は無い。
拠点となるミスカトニックはアーカムという守りを失い丸裸、迫る脅威を払うのはシュリュズベリィの役目だ。
消えた教え子の心配はしない。
信じられない程に生き汚い彼等の事だ、きっと何処かでなんとかやっている。そう確信している。
何故なら彼等は、シュリュズベリィの自慢の教え子だからだ。
秘密図書館から外に出て、自らの魔導書を精霊化させるシュリュズベリィ。

「行くぞ、レディ!」

「オッケー、ダディ」

荒野と化したアーカムの空を、音を置き去りにして老魔術師が騎航る。
老魔術師──シュリュズベリィは、サングラスに隠された彫りの深い顔を歪ませ、不敵な笑みを浮かべた。






五周目に続く
―――――――――――――――――――

三分の一が主人公の日記で、しかも前の話とこの話の間に丸々三周目が収まっているという驚きの第四十二話をお届けしました。

ここで唐突に一部登場人物紹介

『フー=ルー・ムールー』
愛称であるフーさんが固定されつつある女傑。
製造される段階で刻み込まれる魔術の知識や肉体の構成物によって、新参入者から小達人に少し足りない程度までの間で魔術師の位階を与えられる様になった。
今回の話で死ぬ気で頑張れば鬼械神を招喚出来るようになったが、召喚した時点で戦闘後の死亡が確定する。
主人公作成のレポートを読む→発狂して死ぬ→主人公に取り込まれる→記憶を引き継いだ新しい個体が複製される→再びレポートを読む
のループを幾度となくというか91回ほど繰り返した挙句のパワーアップである。
発狂ついでに嬉ション属性とスカトロ属性が付いた。どこら辺の需要を見込んでいるかは不明。どこに向かっているかも不明。

『ニグラス亭の店主』
本名不明。『シュブさん』の呼び名は愛称であるらしい。
獣耳よりも獣角こそがアピールポイントであるが、本作品ではうっかり神様とロマンスに陥ったりはしない。
周毎に姿形が変わっているらしいが、それはあくまでも物の見方の違いでしかなく、本質的には同一人物。
褒め殺しに弱いというハーレム物ではありがちな落としやすいキャラ設定を持っているが、本作品では一切使用されない死に設定となっている。
この世界の大物との間に大量に子供が居たりするが、本筋の人物、団体、ストーリー、宗教、邪神とは一切関わりが無い事を明記せねばならない。
安らぎの店ニグラス亭は年中殆ど休まず営業中である。

『ラバン・シュリュズベリィ』
ミスカトニックの講師にして世界有数の邪神ハンター。
本作における主人公の恩師。
主人公の機神招喚理論はその半分程がこの人の術式発動を見て集めたデータで成り立っている。
次と次の話でもメインになる予定。


もう一週間かけてあと何千字か追加する予定でしたが、わりと綺麗に纏まったので一旦切ります。
何時も隔週みたいな速度ですけど、偶には文章短くして週刊でもいいですよね。
予告の内容が全く本編に入っていないどころか姉もサポAIも出てこないのは、この後に入る筈だったエピソードをそのまま次の話に持って行くから。
お陰で次の話も今回と同じ程度の長さに纏まってしまうかもしれません。
そんな訳で、次の話と併せて初めて真四十二話となる訳です。
実質、次の次がミスカトニック学生編の山場と考えてくれてもいいと思います。

そんな訳で、今回はゆらゆらと波の様に揺れる諸行無常な自問自答コーナーはお休みです。

今回もそんな感じで。
誤字脱字に文章の改善案、設定の矛盾への突っ込みにその他諸々のアドバイス、
そしてなにより作品を読んでみての感想、短くとも長くとも、短くも長くも無くとも、心よりお待ちしております。


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