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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」
Name: ここち◆92520f4f ID:c798043f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/23 15:38
―――――――――――――――――――
○月○日(本日晴天、怪奇指数低め)

『今日は色々あったので、体感時間で3、4年ぶりに日記をつけてみる事にした』
『しかし、以前貰った日記帳をそのまま再利用しているのだが、今改めて見るにこの日記帳の表紙、力ある魔導書の表紙では無いだろうか』
『とはいえ、魔導書で重要なのは正確な記述にあり』
『表紙も目次も奥付も精霊も言わばおまけの様なものなので気にしない方向で話を進める事にしよう』
『今日は衝撃の事実が発覚した。なんと、大十字九郎が三回生に進級しているのである』
『が、しかしである』
『魔導書閲覧でドロップアウトしない大十字九郎だと? 原作前からのスタートか!』
『などと言い出すのは少し早合点が過ぎる。まだ慌てるような時間じゃない』
『もしかしたら、魔道探偵にならずに邪神の箱庭を打ち崩す感じのシナリオかもしれないではないか』
『なにしろここは二次創作の世界、しかも創造主はあのひねくれたシナリオを描かせたら東北の同人業界では右に出る者が居ないかもしれない千歳さんだ』
『あの人なら『大学生だって、平和を守れるんだ!』とか大十字に言わせる程度の憎い演出を──』
『するだろうか。ううむ、思わず『──』までしっかり書き込んでしまう程疑わしい』
『ジャガイモ嫌いで根性性根が螺旋階段の如く曲がりに曲った捻くれ者のあの人が?』
『捻くれ者過ぎて三十路処女を守り抜き、友達以上恋人未満なんていう甘酸っぱそうな関係の相手を三十越えてまで維持し続けているあの人が?』
『そんな関係の相手まできっちり義理堅かったが為に、『恋人は魔法使い』なんて状況のあの人が?』
『声優ネタ? スパロボで『~と~の声って似てるよな』的なネタが出る度にケケケ笑いで嘲笑を送るあの人が?』
『有り得ない』
『いや、あくまでもここはあの人が作ろうとして失敗して放棄した世界だから、絶対に無いとは言えないか。猿とタイプライターとシェイクスピアのあれと同じ理屈で』
『ともかく、まだこの世界が無限螺旋最終周でないという証拠は揃っていない!』
『ので、姉さんに意見を聞いてみようと思う。』
『確か姉さんはこの世界で幾度となく強くてニューゲームするはめになったと言っていたし、似た様な状況は体験済みな筈、この疑問の解決法を知っているだろう』

追記
『帰り道ドーナツ屋に寄ったが、フレンチクルーラーは売り切れていた』
『自分で複製を作って食うのと買って食うのでは大幅に気分が違ってくるのだが、まだあそこの店員に強気に出られる程の力は持っていないので、明日の生産分に唾付けさせて貰って大人しく帰って来た』
『明日は講義に遅刻してでも昼休みの内に確保しておこう』
―――――――――――――――――――

「──という訳で、今が無限螺旋の何時頃か、分かり易い目安って無い」

「うふふ」

頬に手を当て首を傾げる姉さん。
頭にあらあらとか付けないだけましではあるが、そのリアクションでは何一つ質問の答えになっていない。
いや、姉さんの事だから、その程度のヒントは自力で見つけなさい、という事なのかもしれない。何しろ姉さん、俺のパワーアップに関してはスパルタカスの如き容赦の無さを見せてくるのだ。
どのスパルタか。勿論阿蘇山脈に鎮座するアナボリック・アカデミー形式の厳しさである。
欲しい物は自らの力で奪い取れ! これこそがトリッパーの絶対的不文律であるらしい。ジャージも能力も自らの力で手に入れてこそ。
実際、俺を即座に強化しようと思っていたのならば、姉さんのコレクションの中から適当に二三力を取り込めば良かった訳であるし、それをさせてくれなかった辺り、この法則にも意味があるのだろう。
確かに幾度かのトリップを乗り越えた時点でそれなりに戦闘経験を積む事も、補正の脅威を肌で感じ取る事も出来た。
つまり、力を手に入れるのも情報を集めるのも、その過程を自分で経験する事が重要なのである、という事。
パッケージングされた力や知識では不足なのだ。

「お兄さんも理屈は理解して実感してるし、ヒントくらいはあってもいいんじゃないかなぁ」

流石美鳥だ、何度姉さんに粉砕されても俺にフォローを入れてくれる。
これでナコト射本読みながらで無ければグンと信頼度が上がってたところなんだがなぁ。
いや、数限りないループの中ではそういう展開も無いでは無いだろうけど、だからって読み返してどうなるもんでも無いだろうに。
というか、暇があればエロ本か魔導書しか開いて無い気がするのは気のせいだろうか。

「まぁ、ヒントはともかくとして、展開次第じゃあ大十字以外に膜破られるアルアジフも出てくるんだよね」

「アルルート自体滅多に通らないだろうしな。大半は姫さんルートにしても、ほぼ置いてけぼりか」

数えられる程度しか無い展開ではあるけど、ライカさんルートだと次の周の大導師のママはライカさんなんだよな。
バランス調整の為に態とライカさんルートに誘導される大十字とかも居るんだろう。大導師を弱体化させる為に。
大導師がトラペゾ覚えてからは差が開き続けるだけになっちゃうだろうし、そういう処置も増えるのではあるまいか。

「クリアまでは絶対に負け続ける運命だもの。あ、でも憎しみが裏返ってヤンデレちゃうエセルドレーダは珍しくないの。序盤後期から中盤にかけて起こり易いイベントだから、録画機材とか用意しておくと面白いかも。終盤でからかって遊ぶのに最適ね」

「ふむ、続けて」

成るほど、流石にエロ本娘は出てこないだろうが、それ以外の再現は十分にあり得るといいう事か。
撮影機材は、うむ、ナデシコの監視カメラは精度が極上だったな。

「いやそれは気になるけど、今はヒントくれヒント」

話が脱線し過ぎた。恐るべしナコト射本、まさに外道の書と呼ぶにふさわしく、魔性の知識の集大成と言っても過言では無い。
万が一精霊化でも起こしたら危険すぎる代物である。あれ一冊からふたなりエセルドレーダ、ふたなりアルアジフ、ふたなりアナザーブラッドが生まれえる可能性を秘めているのだから。あとエンジンバイブ椅子とか。
美鳥にはあの薄い本は出しっぱなしにせず、読み終わったらしっかりと分解して塵に返すように言い含めておかなければ。

「ヒント、ヒントねぇ」

こめかみに指を当て、軽く考えるしぐさの姉さん。
しかしすぐさま何かを思いついたのか、手をパンと叩いて表情を明るくする。

「無限螺旋ってね、結局はループしてるから、一定期間の結果が常に書き変わっている様なもので、実際は一度しか起きていないの」

「伯林最終巻後の先生とヘイゼルみたいなもん?」

ヘイゼルの五行を取るか風水を取るかという選択による本人の資質と行動の変化によって、常に歴史が塗り替えられ続けている。
大十字九郎の選択、行動によって常に歴史と次の大十字九郎が変質を起こし続け、その結果歴史が少しずつ変化を繰り返す。
少し違うだろうが、まぁ似た様なものだと解釈できないでもないだろう。

「そう。でもね、この無限螺旋には最初から最後までの時間経過を体感している存在が、三つだけ存在するの。……って、これもう答えよね」

無限螺旋という物、その構造はこうだ。

①大十字九郎がブラックロッジとの闘争とか、姫さんライカさんアルさんとの恋愛やら何やらをする。
②闘争の果て、時空を超えながらの大導師との一騎討ちに敗北、過去の地球に漂着する。
③死にかけの覇道鋼造と出会い、成り変わる。
④飛ばされた先で生まれる大十字九郎は、過去に漂着した一周前の大十字九郎と同時に存在するという矛盾を解決する為に、僅かながら一周前の大十字九郎とは違う存在に変質する。
⑤変質した大十字九郎が、一周前とは違う選択を繰り返しながら①に戻る。

新たに生まれる大十字九郎は少し以前の大十字九郎とは変質している為、ブラックロッジとの戦い方から誰と恋仲になるかまで少しずつ変わり、歴史が変化する。
勿論、そこに至るまでの人生でも経験や人格に細かな違いが生まれる為、魔術師としての資質もほんの少しだけ変化する事となる。
ニャルさんはこの変質を利用して、大十字九郎を人間側代表、白の王に仕立て上げようとしている訳だ。
ここで重要なのは①~⑤の全てを経験し続けている存在。これの状態を観測する事によって、今現在が幾度目の繰り返しかを類推する事が可能となる。
真っ先に思い浮かぶのは大導師とナコト写本だろう。彼は一週に一度死に、即座に母親の腹を突き破り転生、大十字と戦い、共に過去の地球へと落ちる。
転生後も記憶は引き継がれるので、実質閉じたループの中をひたすら生き続けていると考えて良い。
が、当然ながら今の俺は善良な一般市民であるし、大導師に疑いを持たれて身を危険にさらしたくないので確認に行く事は出来ない。
大十字九郎はそも最後には覇道鋼造として確実に大導師に殺害されてしまう為ループしていないので除外。
最後に残った、今の俺でも安全に確認できるもの、それは、大十字九郎と共に過去の地球に漂着した──

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

巨大な地下トンネルを歩く。
鉄骨、コンクリート、などで建造された人工的、近代的な作りのトンネルだ。
現在地はアーカムシティ地下数百メートルの、覇道財閥の地下秘密基地の格納庫へと通じる道。
俯瞰マップでは暫くこのトンネルが続くが、行きつく先には恐ろしく広い空間が存在しているし、機体ではなくマップのコマ状態のデモンべインらしきものも見える。
適当に地下の巨大な空洞を探り当ててワープしたが、まさか一発で当たりを引くとは……。
おとめ座ならぬみずがめ座の身でありながらセンチメンタリズムな運命を感じてしまうではないか。

「ねーねーおにーさーん、やっぱり止めとこーよー」

身体をアーマー付きのライダースーツとジャケットで、顔をフルフェイスヘルメットで隠した美鳥が、ぶーぶー文句を垂れる。
文句を言いつつもしっかりと着いて来てくれている辺りはありがたいが、どうしてこうも反対されなければいけないのか。

「少し確認しに行って、ついでに新機能を手に入れに行くだけだから危険も無い。何か予定でもあったか?」

予定も何も、現在時刻は日付が変わった少し経った辺りであり、学友の類も極端に少ない俺達は尚の事予定が入っている訳も無いのだが。
もしも警備員の類が居たとしても、俺も美鳥も顔を隠しているし、地上の適当な位置に即座にワープする事ができるから脚がつく事も無い。
原作の描写を信じれば覇道財閥の地下秘密基地の警備には魔術師の類は存在せず、デモンべインの格納庫にもこのトンネルにも、何故かまともな警備システムが存在しないのだ。
正直な話、下手をしなくともスパロボ世界にトリップする前の俺でも侵入できた可能性は高い程のザル警備。美鳥に心配されるような危険は何もない筈。

「だってさぁ、ここで確認しても確認しなくてもやる事は変わんないじゃん」

「そりゃそうだけどな」

よくよく考えればこの世界は姉さんが俺を鍛える為に用意した世界。
千歳さんに注文を付ける時にある程度の修業期間を確保する為に、何回かループできそうな設定も言い含めておいたと考えれば別段ループのどの時期に降り立っていたとしてもおかしくは無い。
そもそも、どの時期に降り立つのかすら不安定な強制トリップ(作為的な物ではあるが)で、原作直前にこれたと考えるのがおかしいのである。
ある程度の魔導書を手に入れてしまっている以上、魔術の修業に関しては元の世界に帰ってからでも十分に可能であるし、正直な話、人間の魔導師に擬態した状態でなければ鬼械神の召喚も魔導書さえ手に入ってしまえばどうにでもなる筈。
この世界がループの終焉間近であってもループの初期であっても、只管に修行というか強化に明け暮れる日々である事は変わらないのだ。
まぁ、仮に変則的な最終周であったとしたら、何処かのタイミングでアルアジフなりなんなり、鬼械神を召喚できる魔導書を殺してでも奪い取る必要があるのだが……。

「お姉さんの口ぶりからして、絶対最終周じゃないだろうし、どうせよく分からない理屈であたし達もループに巻き込まれる様に出来てるだろうし」

「あの勿体ぶりからして、絶対姉さん俺の反応楽しんでたしな」

そも千歳さんに出された注文はあくまでもデモンべインの二次創作、デモンべインも大十字もアルアジフも存在しないアフター物を始める筈も無い。
あの人ならそこまでするならオリジナル物を書くに決まっている。デモベ二次と言われたからには、原作の裏や脇を通る様なストーリーを作ろうと考える。
描写されるのが無限に書き換えられる一定期間内であれば、存在しないそれ以降の時間に進む事は不可能であり、デモンべインが門の向こうに消えて暫くすれば、描写の存在するループ内に戻されると考えるのが普通だろう。
なにしろこの世界は現実来訪型の主人公を入れる筈だった世界なのだ、強化する予定の主人公には時間の余裕を持たせるに違いない。
そして一周以上余裕があるのなら、次の週の初めにインスマンスに行ってルルイエ異本の原典を掠め取ってくればいい。
人間に擬態した状態ならともかく、鬼神と金神の力を使用すれば逆十字から未契約の魔導書を強奪する程度の事は可能な筈。
この世界の創造主の作るストーリー傾向からして一桁程度のループで済むとは思わないので、そこまで焦る必要は無いが。

「だがな美鳥、万が一の事態に備えて、機械技術と魔導技術のハーフであるデモンべインを手に入れておきたい、ってのは極々自然な発想だろう」

これまでの二年と少しはこの世界の魔術に関しての習熟に力を入れていたが、曲がりなりにも自力での魔術の行使、魔導応用科学の実践が行えるだけの知識も手に入れた。
そんな今だからこそ、もう少し即物的でぱぱっと見栄えがして、何よりも憧れの巨大ロボットの一つであるデモンべインを手に入れたいと思うのは当然の発想ではないか。
デモンべインの心とかも考慮に入れるとどうなるか分からないが、機械とのハーフであればデモンペインを動かすが如く、機械的に俺の力で無理矢理に動かす事が可能。
いや、そのままの複製を作り出して使う必要すらない。機械的に作られた鬼械神の構造と、日緋色金や武装さえ手に入れてしまえば、あとは好き勝手改造した俺専用の鬼械神もどきを作ってしまえる。

「いや、お兄さんの身体的に相性がいいから、取り込むのは反対じゃないけど……」

美鳥は言葉尻を濁し、うんうんと唸り始める。
こいつは言いたい事ははっきりと言うタイプなのだが、今回は嫌に歯切れが悪い。

「なにはともあれ、姉さんの許可も貰ってるんだ。ああだこうだ言うのは、実物を目の前にしてからでも十分だろう」

「引き返した方がいいと思うなぁ。いや、勘なんだけども」

俺は未だぶつぶつ続ける美鳥を引き連れ、通路の奥へと歩みを続けた。

―――――――――――――――――――

靴音を響かせながら、冷え冷えとした薄暗がりのトンネルの中を進み続けると、前方から僅かに差し込む光が見えた。
トンネルの出口だ。俯瞰マップでも、ここから一気に広い空間になっている。
実際にマップでとてつもなく広大な空間だと分かっていても、実際に足を踏み入れるとそのスケールの大きさに驚かされた。
……こんな感じの誇張したナレーションを頭に思い浮かべながら、重たい脚を動かし先導するお兄さんの背中を追う。
そう、誇張している。確かに広いと言えば広いが、広さで言えばコンバトラーやボルテス、ゼオライマーやダンクーガが待機している状態のナデシコの格納庫も似た様な広さだった。
未だにあの不可思議な空間は忘れられない。なにせそういった巨大な機体が存在していない状態、エステバリスだけが格納されている状態の時はエステバリスに合わせた広さの格納庫だったからだ。
スパロボ世界では『そういう風に出来てる』と言われてしまえばそれで御仕舞なのだけど、何時かあの謎も解明してお兄さんに知らせてあげたいな。

「どうした、ぼっとして」

そんな事をぼんやり考えながら歩いていると、お兄さんが心配そうに、多分心配そうにあたしの顔を覗き込んで来ていた。
ヘルメットは透視で抜いているにしても、せっかくお兄さんと顔を近づけているというのにシチュエーションとしては少し奇怪過ぎる。
何故なら今のお兄さんは顔じゅうに包帯を巻き、記憶を失った都市の狂った新聞記者と同じ方法で顔を隠しているからだ。あの頭のとんがりは包帯に織り込んだ細い触手が支えているらしい。
流石にお兄さんは顔芸はしないけど、どうせ顔を突き合わせるなら素顔の時の方がお兄さんの顔を近くで見れていい気分になれただろうに。
この世界に来てからはお姉さんが何時もいるから、あたしの出番が殆ど無いのだ。たまには使ってくれないと蜘蛛の巣が張ってしまう。

「大丈夫、うん、少し考え事してただけだから」

「そか、あと少しだけど、気乗りしないなら俺の中に入っててもいいからな」

呑みこんで、あたしのバルザイの偃月刀……じゃない。
入れるよりむしろ入れて欲しい、あたしは誘い受けなんだ! でもない。
お兄さんの気遣いは嬉しいけど、ここまで来て何の収穫も無いってのは流石にシャレにならない。
魔導合金もプラモも買ってないけど、3Dモデルのデモンべインは結構好きな部類のデザインなんだ。毒を食らうなら皿までというし、せっかくだから見物していこう。

「いや、せっかくだから見てく」

「そうか、うんそうだよな、ここまで来たなら見ておきたいよな!」

何やら一言一言の間にどんどんお兄さんの興奮度が上がっている。
この興奮ぶりはブラスレイター世界で初めて十メートル級の巨大ロボであるボウライダーを見た時と似ていないでもない。
心なしか歯並びが異様に綺麗になり、口角を上げてだんだんと狂喜染みた笑顔になり始めている様な。
こんな真実を求めてやまなそうな素敵なスマイルも、嫌いじゃないわ!
そう思ってしまう程感情をむき出しにしたイイ笑顔だ。
そんなアメコミ風笑顔のまま、お兄さんは屈伸運動を始め、

「ここまで自分を勿体つける意味でも徒歩で来たけど、もう我慢ならんわ!」

跳んだ。前方、見え始めていたデモンベインらしき巨大な人型に向けた大跳躍。
着地予想地点はデモンベインの胸部コックピットの真上辺り。
……やっぱりおかしい。デモンべインは仮にも人類の切り札とも言える人造鬼械神、ここまで警備が杜撰なのはどういう事なのか。
いやでも、原作でも主人公達は何事も無く縦穴から侵入してトンネルを抜けてデモンべインに到達したし、実際地上からさっき通ったトンネルへの入り口もそうそう探せるものでも無いから問題ないのかな?
嫌な予感は消えていない。サイトロンがビジョンを運んで来ている訳でも無いのに。

―――――――――――――――――――

その物体を、一体どの様に表現するべきだろうか。
何らかの意思を持って鍛えられた鋼鉄、小さな山ほどもある鉄の塊。
全高50メートルはありそうな鋼の人型、機械の巨人。
分厚い鋼板を張り合わせ作られたかのような腕、大きく盾が張り出した脚部、堅牢さを誇示する様なボディライン。
人型二足歩行の機動兵器として見た場合、合格点をはじき出していると言ってもいい。あくまでも、ただの機動兵器であるならば。

「これが、デモンべイン……?」

唖然とする。その力強い威容にではなく、その造りの粗雑さに。
之を持って鬼械神の出来損ないと言えるのだろうか、この程度の出来で、鬼械神の出来損ないを名乗ってもいいのだろうか。
一目視ただけで理解出来てしまう程に粗悪な作りの魔術回路、しかも、その回路すら満足に全身に組み込まれている訳でも無い。
いや、粗悪、粗雑という言葉ですらこの有様を表現するには言葉が足りない。
融合同化して確認したところ、構造的に成立していない魔術回路がそのまま組み込まれている箇所すら存在する。
これでは魔導書を搭載したとしてもまともに立って歩けるかすら怪しい。ましてや戦闘機動など不可能に近い。
機械技術と魔導技術が互いの欠点を、欠陥を補いきれていない。
『不完全』なのだ! この鬼械神の『なり損ない』は!
これが、これが本当にデモンべインなのか!?
同化を解き、怒りと憤りに任せて拳をデモンべインの胸部装甲に叩きつける。
轟音、拳を中心に半径二メートル程が纏めて凹んだ。亀裂も無数に走っている。
無意識に神氣を込めていたとしても脆過ぎる。なんだそれは、それで鬼械神と戦うつもりなのか。魔導合金ヒヒイロカネの強度はその程度の物なのか。
これが、こんな物が、本当にデモンべインなのか。魔を断つ剣なのか。地獄の戦鬼も恐れる戦機なのか。

「お兄さん、落ち着いて」

「俺は十分落ち付いている」

この言葉を吐く奴は大体落ち付いていないと相場が決まっているが、俺は本当に落ち着いている。落ち付いて冷静にこのポンコツならぬジャンクを文字通りの鉄屑に変える手順を考える事が出来る。

「いいから落ち付いてって、の!」

ごづ、という鈍い音。包帯と髪と皮膚と頭蓋を貫き美鳥の手刀が脳髄に当たる部分をかき回す。
実際にそこが脳味噌の機能を果たしている訳ではないが、頭だと自覚できる部分に冷たい手が差し込まれる事によって、熱されていた思考が徐々に温度を落とす。
……最適化されていく。デモンべインの、デモンべインに届かない鬼械神もどきの、始まったばかりのデモンべインのデータを、ゆっくりと俺の身体に馴染ませていく。
処理しきれなかった情報を、確実に堅実に纏めて整理する。
手刀を引き抜きながら、美鳥が気遣わしげに声を掛けてきた。

「落ち着いた?」

「ああ、すまん。ちょっと興奮してた」

「いいよ。こういうのがあたしの仕事だもんね」

ヘルメット越しでも美鳥が苦笑しているのが分かる。
一瞬で巨大な情報体を取り込む事で思考が機能不全を起こしていたらしい。最近は取り込む時も時間をかけていたから眠くもならなければこういう事態にも成らなかったのだが、油断していた。
そう、確かにまともに動くかどうかすら怪しいものだが、確かにこのデモンべイン?には鬼械神に匹敵する量の情報が含まれている。
レムリアインパクトも、撃てば確実に暴発するレベルではあるものの実装されているし、断鎖術式も回数制限を設ければ運用できなくも無いレベルの物が搭載されている。
……こんな物を実戦で使うのか? 命懸けどころか確実に自爆技になるぞ。

「銀鍵守護神機関は、一応完成しているんだな」

武装がここまで不完全なのに心臓部のみほぼ完成しているのは、鬼械神を召喚可能な魔導書を使用する事を前提にしているからなのだろう。
鬼械神本体の代用品としてデモンべインを使用し、武装のみを流用する事により、魔術師の命を削る事無く鬼械神級の戦力を運用できる、というコンセプトか。
実際に使用する魔導書がアルアジフか機械語写本固定であれば、ぶっちゃけ柔らかいアイオーンの様な使い心地になる筈だ。

「マナウス神像も、特にデモンべインが無くても存在してるアーティファクトだからね」

ここで重要となるのはマナウス神像ではなく、内蔵されている無限の心臓である。
無限の心臓はヨグ・ソトースの影の一形態であり、例えばアイオーン等に内蔵されているアルハザードのランプと似た性質を持ちながら、異界への門を開き、事実上無限のエネルギーを得ることができる『呪術的アーティファクト』である。
大規模な儀式魔術の中核となり、周囲の空間構造を変化させる性質をもつのだという。
そう、アル・アジフに記述が存在し、これを用いた儀式魔術が行われている程度には、アーティファクトとしてメジャーな存在なのだ。
となれば、過去の事件の記憶を持ちながら過去へと降り立った大十字九郎=覇道鋼造の手にかかれば、どこかの魔術結社が起こした大規模な儀式を事前に防ぎ心臓を奪取、デモンべインに搭載することも可能。
何週目かの覇道鋼造がその魔術結社のイベントを潰した場合、次の週の大十字九郎はその魔術結社の起こした事件を知ることは出来ないだろうし、この心臓だけは連綿とループの中で受け継がれ続けているのかもしれない。
もっとも、獅子の心臓を手に入れた覇道鋼造に話を聞かない限り、どこまで行っても憶測にしかならないわけだが。

「獅子の心臓が無きゃデモンべインである必要が無いしね。術者を殺さないからこその人造鬼械神な訳だし」

「それもそうか」

術者の魂を削らないからこそ、人間の魔術師が使える鬼械神な訳だし。
これまでの周でどうにかこうにか心臓部をでっちあげるまでのノウハウが確立され、ここから武装が充実していくのだろう。
何しろ、アルアジフを魔導書に据える事で武装はどうとでもなってしまうのだ。
大十字九郎が大学生のままであれば、武装に関しては秘密図書館から写本を借りてくればバルザイの偃月刀程度なら作り出せるだろうし。
アルアジフの断章を秘密図書館からの魔導書貸出で補填してしまえる以上、武装の強化はどうしても後回しになり易いのかもしれない。
そう考えれば、この不完全な魔術兵装にも説明が付く。
恐らく、これから何周何十周、何百周何千ものループを繰り返してく内に、じわじわと完成に近付いて行くのだろう。
そう、まだまだ、この無限螺旋は続いて行くのだから。

「やっぱり、ループ初期かあ」

デモンべインの胸部に倒れこむ。空は見えない。なんだか一気に草臥れてしまった気がする。
人間とは時間感覚が段違いの神様ハーフである大導師ですら絶望する様な長い永い時間を、こんなネットもコンビニもヨドバシもアフタヌーンも存在しない世界で過ごさなければならないとは。携帯機スパロボの新作とかプレイ出来るの何十億年先なのか。
こんな長期トリップになるなら、元の世界のレンタルビデオ屋でこっそり店中のDVDやらVHSやら取り込んでおけばよかった。
頭に巻き付けていた包帯も外す。しゅるしゅると身体に巻き込まれていく包帯。
まったく馬鹿馬鹿しい。仮にここで正体が割れたからと言ってなんだというのか。
正体が割れてしまったなら、次の周になるまで身を潜めていれば良い。時間だけは腐るほどあるのだ。
いや、身を潜める必要すら無い。覇道鋼造の存在しない覇道財閥など、ある程度の力を持つ魔術師にとってはどうというものでも無い烏合の衆同然。今の俺でも軽く一捻り出来てしまう。
そうだ、いっそここでひと暴れしてしまうのも良いかもしれない。覇道瑠璃を触手でウネウネぬちょぬちょと遊ぶのも面白いか。原作には存在しない令嬢触手凌辱ルート始まるよー。
そしてその現場を撮影して保管、数周後にブラックマーケットで写真集にしてあちこちにばら撒く。ううん、今から姫さんの悲鳴が聞こえるようだ。
実の所を言えば、俺は女性の悲鳴はあまり好きではない。しかしナアカルコードを送信する為には声を出せなければいけないから、咽喉を潰す訳にもいかないし。
いや、そもそも数あるループの中ではティベリウスにあえなく凌辱される姫さんも居るのかもしれない。それならそれで触手エロのプロに任せるのが一番か。やはり凌辱ならメカ触手よりもグロ肉触手だろう純愛的に考えて……。
遊ぶのではなく実益を追うなら、教会に居る魔術の才能溢れる少女を捕食するのもいいかもしれない。成長すれば一角の魔術師として大成できる可能性を秘めているなら、取り込んで損は無いだろう。
いやいや、面白そうで、かつ実益に繋がるレクリエーションはやっぱり本格的魔術師&鬼械神を召喚できる格の高い魔導書の取り込みだろう。
今身近に一人居るし、無限螺旋には深く関わらないから取り込んだ能力を活用しても怪しまれ難い。
そもそも一回取り込んだところで次の周には何の影響も無いのだから、遠慮する必要はないだろう。そしたら何食わぬ顔で学術調査に同行してダブル鬼神召喚とかやってしまおう。
でも今の段階で鬼械神とガチンコして、魔術師の肉体も魔導書も残せるように手加減して戦うなんて器用な真似は出来ないか。
暫くは講義を受け続けて、そうだな、偶には学術調査にも同行するべきか。鬼械神を使った先生の正確な実力も測っておきたいし。

「お兄さん、悪い顔になってるよ」

いつの間にかヘルメットを脱ぎ、俺の横に寝転がっていた美鳥がクスリと笑いながら指摘してきた。
口元に手を当て確認。両端が見事に吊りあがり顔芸寸前である。言われた通りの悪い顔だ。

「悪い事考えてるからな」

まぁ、悪いことしても次の周では無かった事になるのだし、ループしないモノは適当に玩具扱いにしてしまっても問題無いだろう。
玩具、というよりは実益のある餌を探す方が優先事項なのだけど。

「水射すようで悪いけどさ、その悪事がタイタスにばれたら事だよ。次の周では覇道鋼造になるんだから」

「む」

そうか、何か実行に移すなら、覇道鋼造と大十字九郎の知れるところで事件を起こして正体バレを起こす訳にもいかないのか。
次の周でしつこく記憶していたら、ミスカトニックに入学するどころかアーカムに拠点を構える事すら難しくなってしまうものな。
そうと決まれば話は早い。

「明日は一コマ目から講義入ってたよな」

「休むの?」

「長い長い時の円環の中では、たかだか一日の講義をサボった所で大したことは無いの、だ!」

背の下のデモンべイン、その殴って凹ましてしまった装甲に触手を突き刺し補修。
寝転んだ姿勢のまま美鳥を抱き寄せ、そのまま姉さんの待つ自宅の朝方へとボソンジャンプ。
こんなタイムスケジュールを気にしない大胆な運用法が可能になるのも無限螺旋ならではだろう。
良く良く考えれば時間が無限にあるなら、何時間姉さんとイチャイチャしてても、ついでに美鳥を突いて可愛がっても何の問題も無くなるのだ。
何周何十周何百周何千周何万何億何兆周もしてる内に飽きてくるだろうけど、飽きるのはその時の俺の仕事、今の俺の仕事はほぼ無限にある時間で生の喜びを謳歌する事ではないか。
そう考えるとなんだか気分が良くなってきたぞ!
ジャンプアウトした先にはエプロンを着て目玉焼きを焼いている姉さんの後ろ姿。そして尻。
ここで唐突にネタバレ、姉さん超可愛い。そしてまロい。
やべぇ愛らしい!グゥゥんレィトォ!(褐色ではなくコーンフロスト)

「おはよう姉さん!」

「おかえり卓也ちゃん。ご飯にする? ライスにする? それともお・こ・め?」

見返り美人だ。何時もより二割増で美人に見える。
振り向き厨と呼ぶ無かれ、キャラの頭身がそれなりに高いアニメのオープニングでは必ずと言って良いほど振り向くカットが用意されている。
つまり振りかえるというアクションは人を美しく見せる効果があるのだ!

「もちろんルッズ!目玉焼きには醤油で!」

黄身が半熟とろとろの目玉焼きを熱々ご飯に乗せ、黄身を少し潰してご飯に染み込ませて醤油を垂らす。これぞ至高。
そんな素晴らしい朝食を、姉さんとそして美鳥と共に飽きるほど迎える事が出来るとは。
ああ、なんと清々しい。世界が晴れ渡って見える。俺はいったい何をうだうだと悩んでいたのか。
この瞬間なら身体からではなく魔力を練り合わせて魔銃の一丁や二丁程度合成できてしまいそうだ。
そうか、そうだったのか。時間と空間の関係は、こんなにも簡単な事だったのか……。
見える、俺にも、俺にも字祷子宇宙の構造が、手に取るように!

「お姉さん。お兄さんの頭、じゃない、様子がおかしいんだけどどうしよう」

「絶望が一回りして開き直ってる最中だし、朝ごはん食べればクールダウンするんじゃない?」

何か聞こえた気がするが何も問題ない。後でログを読み直せば済むだけの話。
さあ、まずは朝食を食べよう。食べたら影武者を大学に送り出し、姉さんと昼寝した後に皆で市街を散策だ。
時間は腐るほどある。どうせ目いっぱい講義に出ても卒業する前にループに巻き込まれる可能性の方が高いのだから、気まぐれに講義をサボるぐらい許されるに違いない。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

今現在の私、フールー・ムールーにとって、目覚めとは蘇生であり、死の否定である。
ラースエイレムによるステイシスとは違う永遠の死。
フューリーでは真の死、などと呼ばれる事もあったそれは、今や私にとっては夢を見ない睡眠の様なものとしてのみ存在している。
私は目覚める度何かしらの役目を与えられ、その役目を終えると同時に眠りに着く。
勿論、ここで言う眠りとは比喩表現であり、実際はその度に殺害され、生命活動を終えている事になる。
大概、その役目は今の主の妹君の話し相手であり、数分から数時間程度で私の役割は終わってしまう。
会話が終わる、というより、妹君の言いたいことが終わると、私は妹君から放たれる鋭い触手により心臓を射抜かれ、瞬時に絶命する。
数分から数時間の生を終える度、私の記憶は逐一回収され、次の私へと受け継がれる。
極々稀に今の主自身が呼び出す事もあるが、この時に課せられる役目は大概長時間にわたる活動が必要な場合が多く、最短で数時間、最長で数か月程の間活動する事が可能。
最初に蘇生された時、フューリア聖騎士団のまとめ役として振るまえと言われ、異形と化した部下と共に、地球圏最強の機動兵器軍団と死闘を繰り広げた。
二年程前に呼び出された私は、生きたまま焼けた鉄を身に纏い、遂にフールー・ムールーとは全く異なる存在へと生まれ変わった。
この二つを挙げれば、主から与えられる役目は大きなものに見えるかもしれない。
が、実際はその殆どが雑務、ありていに言えば農作業の手伝いに、山小屋の様な場所での売り子が殆ど。
詰まる所、私を、私達フューリーを滅ぼした今の主は、その生の大半を戦闘も何もない日常の中で過ごしているという事になる。
私を打ち負かした機動兵器軍団を、一方的に壊滅に追いやった主は、一年の大半を畑を耕して暮らしているのだという。
自分達を殺した戦士は、その実、元はどこにでもいる地方の農民なのだ。
嗚呼、あぁ、なんという馬鹿馬鹿しい話か! なんと痛快な話か!
ここまで来ると、流石に呆れも怒りも通り越して笑うしかないではないか。
何処をどう言い繕ったとしても、私は闘争の末に敗れ、屈し、彼の軍門に下ってしまったのだ。
私は、『戦わせてやる』という言葉に釣られ、悪魔の契約書にサインを押してしまった。
もう後戻りはできない。

「そんな訳で、今日は一日影武者よろしくお願いしますね。あ、これお駄賃です」

例え主が一日掛けて街をふらつきたいから、という理由で大学を休み、代返と講義の内容の記録を頼まれたとしても、今の私は断る事など出来ない。
決して、帰りに雑貨屋に寄ってこの貰ったお小遣いでぬいぐるみを買おうなどと思ってうきうきしてはいない。断る事が出来ないから仕方なく向かうのだ。雑貨屋には寄るが。
私はフールー・ムールー。
フューリア聖騎士団元幹部の、フールー・ムールー。
何処にでも居る、戦争と可愛いものが大好きな標準的な成人女性だ。

―――――――――――――――――――

録画機材とレコーダーが講義の内容を記録し続ける脇で、私は以前から妹君に頼み込んでいたとあるカタログを眺めていた。
何の事は無い、極々ありふれたヌイグルミの通販カタログ。
私に課せられた使命は講義の記録と代返であり、それを共に済ませてしまった今、一日が終わり眠りに着く(殺害される)までの時間は貴重な自由時間。
正直な話、講義の内容が全く気にならないと言えば嘘になる。今の主に拾われた世界、私の住んでいた世界にはこの様な技術は全くと言っていいほど存在しなかった。
この技術を兵器に導入したら、戦争はどの様な様相を見せてくれるだろうか。そう考えると期待に胸が膨らんで仕方が無い。
いや、胸が膨らむ、というのは禁句か。
以前妹君の前でこの言葉を発した時は、憎しみの籠った眼差しで胸を睨まれてしまった。
実際ある程度の大きさの胸は戦いにおいては邪魔になるし、可愛らしい服を着る事も出来なくなるのであまり喜ばしくも無いのだけれど、やはりそういった感想は持たざる者からすれば余裕の表れに聞こえるらしい。
私の胸も巨乳という分類には入らないものの、この星でロリータファッションと呼ばれている可愛らしい服には似合わない程度には大きさがある。
装飾で可愛らしく見せるファッションは、自己主張が激しい身体のラインには合わないというのが私の持論なのだ。
現に今着ているフリルやコットン、リボンのあしらわれた白基調のワンピースもそう。
小悪魔系リボンロリータ、などと言われるこの服の最大の特徴である筈の胸部中央のリボンは、両サイドを固めるレースを押し上げている私の胸に存在感を奪われてしまい、魅力を引き出す事が出来ずにいる。
そういった意味では、元の世界で見たまだ胸の膨らみがささやかだった妹君は特にそういった衣装が似合いそうだったのだけれど、これを言ったら今回の私が生きていられる時間は加速度的に短くなりそうなので口にはしない。
難しいものだ。そこまで卑下する程貧相な身体をしている訳では無い筈なのだけれど。
少々脱線が過ぎた。話を戻そう。
私がこうやって講義に顔を出せるのは、あくまでも主と妹君の代理としてである以上、全ての講義を受ける事が可能になる訳ではない、というのが理由の一つ。
そしてもう一つ、自分で受ける必要が無いというのが一番大きな理由。

「この内容、他の講師の講義でやりましたわね」

口から思わず呟きが漏れる。
私自身は見ていない筈の講義の内容が、何故か頭の中にしっかりと残っている。
授業内容は何の態勢も無い一般人が見聞きすると気分が悪くなり、最悪心に病を負ってしまう様な内容である為か、蘇生される段階である程度の耐性と共に知識が刷り込まれているらしい。
つまり私自身がここで講義の内容に耳を傾けなくとも、主や妹君が真面目に学習を続ける限り、自然と私の頭の中にも知識が蓄積されていくのだ。
そういうからくりがあるのであれば、私の貴重な生きていられる時間を費やす必要も無い。
ついでに言えば自分はあくまでも騎士、戦士であり、新たな技術を兵器に導入する為の知識など持ち合わせていない。
鎧──劒冑は辛うじて打てるが、ああいった強化服での戦闘は本来の戦闘スタイルとは遠いので除外させて貰う
つまるところ、私はこの講義の内容を理解できても、頭の中で魔術兵装を組み込んだラフトクランズを乗り回す程度の事しか出来ないのである。
そんな空想も面白そうではあるけれど、どちらかと言えばもう少し現実に即した、例えばこの二十ドル台のぬいぐるみなんかはサイズも丁度良いしデザインも悪くない。

「問題があるとすれば」

サンプルの写真と実物のギャップはどれほどのものか、という事だ。
この時代の写真や印刷の技術も悪くは無いが、このサンプルにのみ気合いが入っているという可能性は捨てきれない。
知性体とは良くも悪くも相手を騙す能力に長けているのだ。産まれた星が違えども、それは多くの知性体に共通する特徴である事は間違いない。
以前買ったネズミとタコを混ぜた様なクリーチャーのぬいぐるみは、サンプルと実物の間に突撃銃を構えた兵士がずらりと並んだ国境線が存在している様なあり様で酷くがっかりした覚えがある。
結局あのヌイグルミも妹君に頼んで保管して貰っているけれど、もう手に取って抱きしめる事は無いと確信している。
私に与えられる時間は少ない。その時間を、どれだけ有効に使う事が出来るか。
これからも、ヌイグルミを抱きしめる程度の時間は限りなく与えられるだろう。だが、今の、今日産まれた私には今日という日しか存在しない。
サイトロンは私に闘争のビジョンを運んでこない。今回の私は一度も戦う事無くこの命を終えるのだ。
ならば私は潔く、愛らしいものを愛でる事にのみ意識を裂く。
あと二時間もしない内に今日の講義は終了するから、日が高い内に大学を出て街に出かけよう。
カタログとのにらめっこにも飽きてきた所だ。店頭で思う存分抱き心地を確かめながら、今の私にとっての、最初で最後のヌイグルミを見つけに行こう──

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

「まぁ、明らかに姿形すら真似るつもりが無い影武者でも出席扱いにしてくれる辺り、俺達への信頼の篤さが分かる、というか」

夕刻、居間の空きスペースに置かれた椅子の上に設置された猿型ロボットのヌイグルミを前に、殺害しながら取り込んだ今日のフーさんのログを確認しながら呟く。
街の雑貨屋に都合良くボン太君のヌイグルミでも置いているかとも思ったが、やはり品揃えはニトロ世界準拠であるらしい。
いや、今回のフーさんの形見となってしまったヌイグルミのカタログを斜め読みする限りでは必ずしもニトロ世界に関連する商品ばかりという訳でも無いのだけど、まさかピンポイントでこういったグッズを手に入れてくるとは。

「この白い供物の竜のヌイグルミとか結構迫力あると思わない?」

「俺はどっちかって言うとこの肉の塊に目玉と触手が生えた怪物のヌイグルミの放つ異様なプレッシャーの方が気になるな」

「お兄さんもお姉さんも、なんでまともな商品に目を向けないの?」

趣味である。どっちも純愛系だし。
因みに、どちらも子供が抱えたら引きずってしまう程の巨大サイズであり、共に米ドルでギリギリ三桁台に踏みとどまる程の高級品である。
もう少しで四桁台に乗ろうかというこの値段で大特価だというのだから、ヌイグルミの値段というのは侮れない。
……結局、ヌイグルミの劒冑は失敗作に終わってしまったが、普通にヌイグルミを作って売ったら売れるかもしれないな。こういうのは何処に話をつければいいのだろうか。
しかし、フーさんも大分便利になってきたものだ。最初の頃は機動兵器の操縦と裁縫以外は稲作すらまともにこなせない戦馬鹿だったのに、今では代返からお買いものまでこなす万能パシリ。
ここらで一つ思う存分戦える戦場とかを提供してあげるのもいいかもしれない。

―――――――――――――――――――

○月×日(数日前から怪奇指数がウナギ登り)

『なのに、魑魅魍魎の一つも湧いて出ないとはどういう事だろうか』
『学術調査に出発する前の最後の講義だからとシュリュズベリィ先生が構外実習を慣行してくれたというのに、結局怪しげな人影すら見る事が出来なかった』
『そもそも街の妖気の質は殆ど変っていないというのに、怪奇指数だけが上がっているのだ』
『強大な力を秘めたアーティファクトが運び込まれた場合はこんな空気になるものだと姉さんは言っていた』
『が、秘密図書館周りにはそれらしき動きは無かった。つまりはミスカトニックとは関わりの無い所で怪しげなアーティファクトが運び込まれているのだ』
『この街でそんな大それた真似をする様な組織は二つしか思い当たらないが、覇道鋼造の居なくなった覇道財閥がそんなアーティファクトを手に入れられる筈も無い』
『そしてブラックロッジであったならば、街がいつも通りというのは不気味過ぎる。調子づいた下っ端が暴れる程度の事件すら起こっていない以上、ブラックロッジの仕業だとは考えにくい』
『これは明らかに何かの前触れだと思われるので、対魔術師用の兵装の用意だけしておこう』

追記
『シュリュズベリィ先生は講義が終わると同時、直ぐにアーカムシティから離れて行った』
『アーカムの怪奇指数の上昇に合わせるかのように、世界各地で様々な魔術結社や邪神眷属群の活動が活発になり始めているらしい』
『他にも、旧神を崇める過激な魔術結社が現れたとかで、その組織の実態調査もやらなければならないとか』
『何時もよりも格段に危険な調査になる為、今回の学術調査には学生は同行させられないのだとかで、単身バイアクヘーに乗って旅立っていった』
『多分、これで俺が初めて師事したシュリュズベリィ先生とは完全にお別れ』
『一瞬で空の彼方に消えていったバイアクヘーに手を振りながら、次に出会うシュリュズベリィ先生とも良き師弟関係になれればいいな、と思った』

追記の追記
『放課後、魔導書の閲覧許可をかさに着て秘密図書館に突撃し、美鳥と一緒に魔導書を並べてドミノを作って遊んでいたらアーミティッジ教授にげんこつを喰らった』
『だが、俺の頭蓋骨は平時でもテッカマンのアーマー程度には強靭に作られているのだ』
『殴った教授の拳からは木のひび割れる様な嫌な音がしたのだが、こういった場合でも慰謝料を払うべきなのだろうか』
『帰り際、手に包帯を巻いたアーミティッジ館長から、紹介したい人が居るからまた明日来なさいと言われた』
『そんな何処の馬の骨とも知らない人を紹介する暇があるなら、もう少し奥の方まで秘密図書館に踏み込ませて欲しい。今は何よりも新しい知識が欲しいのだ』

―――――――――――――――――――

と、いうような内容の日記を昨日書いた覚えがある訳だが。
前言を撤回するべきか、それともやはり魔導書の探索の方が有意義だったかは分からないが、これはこれで面白い出会いだと思う。

「あんたらが鳴無兄妹か、噂だけは聞いてたよ」

今日の講義が終わり、ようやっと立ち入りの許可が出た秘密図書館の前回よりも少しだけ奥の区画で、相も変わらず鬼械神を召喚できる程では無い位階の魔導書を漁っていた。
カモフラージュの為にまともに魔導書を手に取って机の上で読む予定だった俺達の目の前に現れたのがこの男だ。
上背もあり、服の上からでも分かる筋骨逞しい造形の肉体。
しかし、その見た目に反して体捌き自体は多少実践馴れこそしているものの戦闘術を本格的に習ったものではない。
顔面の造詣は、まぁ美系と呼ばれてもいい程度には整っており、目立つ特徴が無いのが特徴と言えば特徴。
更に服装に関しては、何処に売っているんだと聞きたくなるような不思議なカッティングの施されたワイシャツにスラックス。そして臍出しのシャツ。
言わずと知れた原作主人公──を生み出す為に無数に消費される、シャイニングトラペゾヘドロンに至れない魔術師兼大学生の大十字九郎だ。
……原作本編中に女装が似合うという描写があったが、肩の骨格からして男性である事は誤魔化せそうに無いと思うのだが、そこは覇道財閥独自のメイクアップ法で誤魔化せたりするのだろうか。

「奇遇ですね、大十字先輩。俺も先輩の噂は少しだけ聞いてますよ」

「へぇ、俺も有名になったもんだ」

鼻を指でこすり、少しだけ照れくさそうにしている大十字。少なからず自分が有名人である、という自覚はあるらしい。
まぁ、一部の人間は彼が覇道鋼造からの支援を受けている事を知っているだろうし、そうでなくとも魔術師としては才能に恵まれ努力も欠かさない。
いわゆる一つの優等生、という奴に分類される。しかもルックスは当然イケメンだ。注目されない方がおかしい。
……下手にドロップアウトして探偵になんてならなければ、人生勝ち組なのになぁ。

「あー噂ね、知ってる知ってる。あれだろ、ちんこが腕より太くて長いと評判の大十字だろ」

美鳥が、『マジで引くわ……』的に両掌を大十字に向けて手首から先を振りながら後ずさる。
他にも噂結構あったのに、そこピンポイントで選ぶのかよ。俺も真っ先にそれが浮かんだけど。

「えぇぇぇ、そっち!? どっからんな噂が流れたんだよ! ていうか、女の子がちんことか言っちゃいけません!」

コイツらちんこちんこ煩いわぁ。
まだ、精液が濃すぎて噛み過ぎたガムみたいな色だとかそんな噂が流れていないだけましじゃないか。

「美鳥、図書館でちんこちんこ言わない。先輩も、右のポケットに何突っ込んでるんですか、いやらしい」

流石自重の無かった頃のニトロ砲、収納しきれずにサイドに押し込められておるわ。
ぶっちゃけ常人に突っ込んだら間違いなく裂けると思うのだが、どういった相手を標的にしているのだろうか。
もういっそ、牛とか馬とかページモンスターとか改造人間とか魔導書の精霊とか、頑丈な人外系専用カノンにしておけばいいと思う。
いや、外から弱点の場所が丸分かりであるという部分を指摘した方がいいのだろうか。ザクのパイプ的な意味で。
数回はティトゥスにパイプカットされてショック死する大十字九郎とか居てもおかしくない気がするし。
……想像したらキャン玉がキュンッてなった、この想像はここまでにしておこう。

「いや、ポケットに突っ込んでんのは財布だから。ああもう、アーミティッジの爺さんの言ってた通りか……」

大十字は俺と美鳥のボケを聞いて、頭痛を堪える様に片手を額のあたりに当て、頭を振る。
しかし、財布か。
頭の中に俯瞰マップを開き、味方ユニット扱いの大十字の項目を選ぶ。パイロットのステータス確認……、やはり、技能欄に『貧乏』が存在しない。
分かっていたが、今度こそ確実にここがループ最終章ではない事を改めて確信した。
大十字九郎がトラペゾヘドロンを呼び出すには、『貧乏』技能が必須なのだ。姉さんが言っていたから間違いない。
姉さんは深く言及していなかったが、やはり貧乏にありがちな欠食状態が自然と断食による神経の鋭敏化を行い、それが魔術師としての爆発的な成長に繋がっていたのだと考えれば。
むむむ、つまり大十字を経済的に追い込めば、ループの終焉も近付く可能性が高くなるのか。
ううむ、高値で売りこめる道具は腐るほどあるが、いかんせんセールストークには自信が無い。
直売所で野菜とか売る時は売れなくても持ち帰って自分達で食えば良かったから、売り込む様な事はしなかったし。
そういう実用的なスキルを持っている一般人は取り込む機会が無かったし、そういう技能はグレイブヤードにも流れていなかったからな。
経済的に追い詰めるのは、そういう技能が手に入ってからで十分だろう。
そう思い、改めて俺は自己紹介をする事にした。他人からの評判だけでこちらの人格を決められるのはあまり嬉しい事では無い。
『大十字九郎』とは長い付き合いになるのだから、多少なりともまともな面を見せておいてもマイナスにはならないだろう。

「冗談はこれくらいにして、会えて光栄です、大十字九郎先輩。俺は鳴無卓也、こっちは妹の美鳥」

「自分で言う前に言われちまったけど、あたしが鳴無美鳥な。コンクリートジャングルを駆け抜け損ねた女とは一味も二味も違うから間違えんなよ?」

俺に促され、美鳥も名乗りを上げる。
駆け抜け損ねたのは俺達のせいでもあるんだけどな、金神取り込んだ挙句に患者も治しちまったせいで魔王編始まらないし。

「本っ当に聞いてた通りだなお前ら。俺が三年の大十字九郎。つっても、互いに名前だけは知ってたみたいだから、今更な名乗りだけどな」

―――――――――――――――――――

噂で聞いていたよりもまともな性格をしている。
それが、鳴無兄妹に対して九郎が抱いた印象だった。
第一印象こそ酷かったものの、或いは第一印象が悪かったからこそ、それ以降のまともな会話が深く印象に残った。
何しろ共に祖国日本から渡米してきた身であり、他の学友たちとの会話では共感を得られない様な話も多分に交わす事が出来るのだ。
スーパーに米も醤油も味噌も置いてあって助かっただとか、異様に日本的な文化が流入しており違和感なく生活出来て便利だとか、それでいて聞いた事も無い様な異国の文化が混ぜられているから見ていて飽きないだとか。
ブラックロッジの破壊ロボに関する驚きこそ何故か共感出来なかったが(鳴無兄曰く、錬金術が復活した現代、ああいった巨大ロボが群雄割拠する時代は何時来ても可笑しくないのだとか)、どことなく故郷を懐かしく感じる会話。
そう、この時点で九郎は鳴無兄妹に対する警戒心を殆ど失っていたのだ。

「へぇー、じゃあ二人とも既に本持ちなのか」

ミスカトニックからの帰り道、三人は往来では言い難い内容はぼかしながらも、互いの大学での学習状況などを世間話程度に交換しあっていた。
別段おかしな事では無い。決定的な単語や心を蝕む外道の知識を直接口に出さなければ、周りからは良く分からない会話にしか聞こえないからだ。

「本と言っても、さして位階の高い書でもありません。探せばそこそこある様なもんですよ」

そう言いながら卓也が鞄から取り出したのは一冊の文庫本。
それこそが、卓也と美鳥の持つ魔導書、偉大なる魔導書アル・アジフを祖に持つ近代魔導書、新約ネクロノミコン文庫版であり、二人が用いる魔術の源泉とも言える。
最も卓也が言った様に、基本的なアーティファクトの製造法以外は解釈が意図的に歪められているせいでまともに機能しない、言わば劣化複製品とでも言うべき代物だ。

「いやいや、普通に考えて見た目完全にただの文庫本の書なんて、そうそうそこらじゃ見かけないだろ」

魔導書というものは基本的に読んだ人間の精神や魂を蝕む性質を持つ為、写本を作るのが非常に難しい。
出来の良い写本を一冊作るのに数十人、数百人単位で犠牲者が出る事もざらであり、犠牲者を出さない様に作れば作るほど原本からの写し間違いや抜けが多くなり、粗悪な物が出来上がる。
確かにその内容の粗雑さから見れば、そこらの好事家がふとした拍子に何冊か所持してしまってもおかしくない程度の位階ではある。
だがこの魔導書は文庫本なのだ。そう、文庫本を作るに当たって、一体何人の人間が魔導書の内容に目を通す事になるのか。

「これがどんなに珍しくたってさぁ、魔導書としての機能はほとんど無いも同然、信頼できる様な内容でもないから教科書にも不向き。もうチョイまともな魔導書が欲しい、ってのがあたし達の本音だよ」

「そう言うな美鳥。こんな本でも魔導書は魔導書、あると無いとじゃ天と地ほどの差が出るし、足りない部分や間違っている部分は後々加筆修正していけばいいだけの話だ」

不満そうな表情でひらひらと手に持った文庫本で天を仰ぐ美鳥とそれを宥めつつも危険な発言をする卓也を、九郎は微笑ましげな視線を送る。
何だかんだ不満を言いつつも、この二人からはカルト宗教に嵌まる力を求める魔術師にありがちな焦りが無い。
学内で良く耳にする二人の実験や暴走も彼らなりの試行錯誤であり、まだまだあの魔導書には利用価値があると考えているからこそなのだろう。
彼等も口にはしないが、今のところは手持ちのもので満足している、というのが本当の所なのだろう。

「大体、俺達は本と契約済みなのよりも、大十字先輩が本持ちじゃない事の方がおかしいじゃないですか」

「一応、優秀な成績を収めた上に、二年に上がって直ぐに魔導書の閲覧許可は出たんだろ?」

後輩の着実な歩みに感心する九郎に、今度は逆に鳴無兄妹からの問いかけが行われた。

「あー、それは良く言われる。でもなぁ」

そっぽを向き、ガリガリと頭を掻く九郎。
沈みかけの夕日、街を赤く染める日の光に目を細めながら、九郎はぼそりと呟いた。

「なんつぅか、『違う』んだよ」

三年に上がるまでの間に、あるいは三年に上がってから、講義を行う上で必要に駆られて幾つかの魔導書を使用した事はある。
二年の時、初めての魔導書閲覧で怪異に襲われた時、アーミティッジと共にそれを撃退する為にネクロノミコンの写本と契約した事もある。
だが、それらと契約を結び、魔術を行使しても、大十字九郎に齎されるのは堪らない違和感だけだった。
何かが違う。これは自分の求めている物では無い。
そういった何処から出てくるのか理解できない感情が、三年に上がって徐々に実習に出る回数も増えてきて尚、九郎に魔導書との本格的な契約を乗り気にさせずにいた。

「へぇ」

「ほぉ」

「いや、そんな目で見るなよ頼むから。自分でも理由になって無いって分かってんだから」

興味深そうに、或いは面白そうに自分を見つめる二人の視線に、九郎は堪らず両手を上げて降参のポーズを取る。
この自分のわがままで担当教授やアーミティッジに多大な苦労を掛けている事を考えれば、おおっぴらに出来る話でもない。
だが、鳴無兄弟はその瞳に好奇心を含ませつつも、やはり真剣な瞳で九郎を見続ける。

「いやいや、魔術師の勘程重要な要素も無い。もしかしたらその内、先輩が心の底から『これだ!』と確信が持てるような魔導書の方から現れるかもしれませんよ?」

「もしかしたらそりゃ、かの死霊秘法かもしらんぜ?」

「はは、そりゃいいや。そうなったら俺は死霊秘法の主(マスター・オブ・ネクロノミコン)か!」

周囲の人影も少なくなり、もはや魔術関係の単語もおおっぴらに口にしつつ、話の内容は荒唐無稽。
違和感一つで魔導書との契約を躊躇う自分が、死霊秘法の主になるなんて、一つ下の後輩たちは面白いことを言うものだと。
夕暮れ、長い影を引きずり歩きながら、九郎は腹を抱えて笑っていた。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

さて、あの後暫くして別々の帰り道になったので大十字とは離れる事になった訳だが。

「パンツだ」

天上に輝く月をバックに、大開脚でのパンモロショットを頂いてしまった。
天上に、とは言っても真上を通って行った訳では無い。パンツの精霊は実際には一つ二つ向こうの通りのビルの上を走り抜けている。
度重なる融合同化を繰り返した俺の視力は、数キロ先のパンツの繊維に含まれた洗剤の残りカスすら視認可能なのだ。
たかだか数百メートルも離れていない場所の逆光パンツなど、視力検査で一番上のCマークの穴の方向を30センチ離れた場所から見る程度の難易度でしかない。
薄い緑色のぴったりくっきり筋が見えるパンツ。その薄布からも薄布に包まれた肉の薄い尻にも濃密な魔術の気配を感じる事が出来る。幼女のパンツなど見ても欠片も嬉しくは無いが。
まさかアロハ座長も、自分が喰い殺される事も厭わずに書き遺した邪神へ対する防衛知識の集大成が、ロリ臭い幼女になって通行人にパンツ晒す事になるとは夢にも思うまいよ。

「メインヒロインだけあって、申し訳程度にだけど穿いているんだよねぇ」

「ああ、エロシーンの無いハヅキは穿いて無いもんな」

勿論、どんな角度から見ても申し訳程度に垂れた布が運命的に隠してくれるので、教授の大学ノートは間違いなくKENZENである事は言うまでも無い。
そんな事を考えていると、一つ二つ離れた通りを覆面にストライプ柄のスーツを着込んだ集団がジープで爆走していったが、これはまぁどうでもいい。
大排気量のバイクのエンジンから生まれる爆音とギターの生み出す怪音が聞こえてきたが、今のところは関わり合いになるつもりはないので聞こえなかった事にする。

「追え、追うのであぁーるっ! 全ては我らが『ブラックロッ──」

ドップラー効果でドンドン低音になっていき最終的に聞こえなくなったたくみ声など、当然の事ながら俺の耳には聞こえないのである。
……そうなんだよな、脳味噌攪拌機できぶんがよくなる薬と一緒にかき混ぜたみたいな発現しか出来ない様でいて、それなりにまともに部下に指示も出せるんだよなぁ。
ま、空耳の正気度など俺の知った事では無いので置いておくとして。

「あっちって、大十字の居る方角だよな」

「まぁ、アーカムにやって来たあれの行きつく先なんてそれ以外にあり得ないし、仕方無いんじゃない?」

何処となく作為を感じる展開だ。
あの魔導書と魔術師が極々自然に出会う様になるまでに、何回這い寄るアレの干渉を受けたのだろうかと邪推してしまう。
極々初期のループだというのはデモンべインの状態でなんとなく確信していたつもりだけど、スムーズにスタートを切れる程度にはもう下地は整っているらしい。
ループ初期中盤、みたいな感じなのだろうか。

「ま、なにはともあれこれでようやくデモンベインの初戦闘が始まる訳だけど、どうする? 見物に行く?」

「少し待て」

懐から携帯電話を取り出し、自宅に居る筈の姉さんにかける。
因みにこの携帯電話、コミュニケやら機動兵器の通信機やら遺跡中枢の技術やらが詰め込まれている為、中継器が無くとも直で地球⇔冥王星間程度の距離なら一発で繋がる優れもの。
これがあることにより、携帯電話が普及していないこの時代でも、姉さんが起きてさえいれば何時でも姉さんとの声での何気ない日常会話を楽しむ事が可能なのだ。
可能なのだ。
可能なのだ!

『もしもし卓也ちゃん? お夕飯のリクエストならもう締めきっちゃってるから、何かあるなら明日以降のお楽しみにしてね』

「いや、今日は特にリクエストは無いからいいよ」

『そう? あ、今日はメンチカツだから早めに帰ってきてね』

「うんわかった。そろそろ戻るけど、買ってくる物とかある?」

『んー、だいじょぶ。あ、美鳥ちゃんにもあんまり買い食いとかさせちゃだめよ?』

「わかってる、それじゃ」

『ん、気を付けてね』

通話を止め、携帯を懐に戻し、美鳥に振り返る。

「急ぐぞ美鳥、早く帰らないとメンチカツの衣がしんなりしてしまう……!」

自分でも珍しいと思う真剣な口調に、美鳥の表情も自然にキリリと引き締まる。
これまでのどんな戦いでも見せた事の無いシリアスな表情だ。

「そりゃやべぇ。巨大ロボットにうつつを抜かしている場合じゃねぇやね」

いつかの銀星号戦を彷彿とさせるスピード勝負だ。急がなければ何もかもが手遅れになってしまう。
俺と美鳥は熱々カリカリジューシーなメンチカツを食べる為、即座にその場からボソンジャンプで離脱した。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

鳴無兄弟が帰宅し、姉弟妹で楽しく夕餉のひと時を過ごしているのと同時刻。
帰宅途中の大十字九郎は突如空から降ってきた謎の少女、魔導書『死霊秘法(ネクロノミコン)』のオリジナル、アル・アジフとの契約を済ませ、アル・アジフを追っていた魔術結社ブラックロッジの追撃を辛くも退けていた。
見習いとはいえ優秀な魔術師の卵である九郎はアル・アジフが魔術の障壁で銃弾を防いだ時点で魔導書の精霊である事を見抜いていたが、それがネクロノミコンのオリジナルであるとは思いもよらず、困惑を隠せずにいた。
何しろ写本ですらミスカトニック秘密図書館では最も位階の高い魔導書として分類されるのだ。
現にその写本を求めて通常時は異空間に隔離されている筈の秘密図書館に侵入した怪異すら存在するほどであり、更に質の悪い写本を相対して戦う羽目になった時は生きた心地がしなかった。
そんな物のオリジナルとの契約ともなれば、まともな教育を受けた魔術師としては恐れ多いというよりは恐ろしい、と感じてしまうのはまともな感性を残している以上当然のことだと言える。
九郎はこのループの終着点に居る最後の大十字九郎よりも上手くマギウススタイルでの戦闘をこなしながらも、より頑なに共に闘う事を拒んでいた。

「ブラックロッジと戦わなきゃいかん理由も、なんとなくはわかる。でもな、なんで魔術師って言っても駆けだしのペーペーでしかない俺なんだよ」

「運命だな」

腕を組みふんぞり返るSDアルの尊大な態度に頭を抱える九郎。かの大魔導書の精霊がこんな無茶苦茶な性格をしているなどと想像できる者は居るのだろうか。
魔導書の精霊というのは、数度だけ見た事のあるシュリュズベリィ先生の魔導書の様な、口数の少ないクールなモノが大半だとイメージしていたのだが、思いっきり当てが外れてしまった。

「即答かよ。とにかく、これからミスカトニックにいってしかるべき相手を……?」

言葉を尻すぼみに途切れさせ、九郎はあらぬ方向に耳を傾ける。
その一動作の間に既に聴覚に神経を集中させる必要も無い程に音は大きくなっていく。
いや、音だけではない。

「地響きか、こっちに近づいて来ておるな」

地面が揺れ、アスファルトのかけらやマシンガンの薬莢がカタカタと震えているのだ。
そしてその揺れはどんどんと大きくなっていく。まるで、超巨大な重量物が自分たちを目指して歩いて来ているような。
そこまで考えて、九郎は青ざめた。
この街でそんな現象を起こせるものと言ったらそれ以外存在せず、そして、今の自分達はそれが近づいてくる理由がある。
アーカムシティに引っ越してきてから三年以上の九郎に、それを理解できない筈は無かった。

「やべぇ……」

地響きと共に聞こえてくる逃げ惑う人々の悲鳴、絶え間なく響く爆音、銃声、光線の発射音。
爆砕されたビル、立ち上る煙の陰から見えるその姿。
途方も無く巨大な、40メートルはあろうかというドラム缶の様な寸胴なボディ、その上端には無数の短い砲。
胴体の下には、安定性こそありそうだがまともに歩けるとは思えないのに、何故か高速で自らの身体を運ぶ短足。
子供の玩具の様に簡単な作りの腕がドラム缶型の胴体から四つ生え、その先端には冗談の様な大きさのドリルと銃。
そして銃腕の上に申し訳程度に添えられた、それ以外のどのパーツとも均整の取れていないミニサイズの鉄拳。
子供向けのブリキの玩具をそのまま巨大化させた様な、人を小馬鹿にする為に作られたとしか思えないシルエット。
だが何の冗談か、その巨大な物体は、装甲車や戦車の放つ砲弾を容易くはじき、しかもその装甲には傷一つ付けられていない。

「なんだ、あの瓦落多は」

「ブラックロッジの破壊ロボだ! つうかお前、この状況でなんだってそんなに余裕なんだよ!」

いくらマギウススタイルとなる事で魔術師としての格が上がったとはいえ、あれほど巨大なロボットを相手取って戦えるようになった訳では無い。
慌てふためく九郎に、アルはフフン、と不敵に鼻を鳴らして笑う。

「あの様な屑鉄、今の我らにとっては取るに足らんわ」

アルの叫びと共に、九郎の身体を包んでいた漆黒のボディスーツの翼が解け、無数の紙片となった。
紙片──アル・アジフの頁の断片は複雑な紋様や魔術文字列を目まぐるしく表示しながら、戸惑いの表情を浮かべたままの九郎の周囲を円形に囲む。
そして、解けたページの幾つかが纏まり、九郎の手の中に一振りの剣を掴ませる。
バルザイの偃月刀。魔法の杖としても機能する呪術具。
手にした九郎には、その杖と周囲の魔導書のページのリンクを知覚する事ができた。

「これは……」

九郎にも理解出来た。これから何が起こるのかを、どの様にすればいいのかを。
これは『詠唱形態』、魔導書が力を発揮するのに最も適した形体だ。
そして今まさに展開されている術式こそ、魔道の窮みに達した者のみが使う事が許されるという、神を召喚、使役する為のものである事を。

「呼べ、九郎! 我らの剣の、その名を!」

その術式とは『機神召喚』、魔導書『アルアジフ』の最大最強の奥義であり──

「来いっ!『アイオーン』」

最強の鬼械神、『アイオーン』を召喚する為の、この世界でただ一つ、『アル・アジフ』にしか記されていない機械の神の記述である。





続く
―――――――――――――――――――

『この周の九郎がデモンベインで戦うと思った素直な心の持ち主の人、正直に手を上げて。先生も他の人も目をつむっていますから。ね?』
優しく生徒に語りかける、当然の様にブラウスの胸元を肌蹴させた口元に黒子のあるいやらしい程セクシーな女教師。
しかし、生徒の大半と教師の目は間違いなくうっすらとしかし確実にあけられているであろう事はもはや言うまでも無い。
そんな感じで、デモンベインがただの高価なパーツを使った置物扱いの第三十八話をお届けしました。

本当はラスト、場面転換して主人公達の食卓、街中に放った端末から送られてくる映像で一連の流れを(映像と音声の受信機をテレビに接続して)見て、主人公とサポAIが食っていたメンチカツを噴き出し、姉がにやりと笑ってエンド。みたいな感じで書こうかとも思ったんですが、これで引くのもいいかなと思ったのでやめました。
カッコいいですよねアイオーン。
因みにこの九郎ちゃんは暫くアイオーンに乗りますが、別段アイオーンの戦闘シーンみたいなのは書きません。
二話も掛けて話の中では数日しか経過して居なかったここまでの鬱憤を晴らすかのように、次回は話が恐ろしい勢いで飛びます。
シャンタクもビックリ仰天の速度で飛びます。速度が文化と言ってる人も腰を抜かす速度で飛びます。
ほのぼのラブコメ漫画を読んでいた筈なのに、途中の巻を一冊だけ飛ばしたら主人公もヒロインも全身咽るデザインのサイボーグになって地下帝国でレジスタンスやってたレベルで飛びます。
嘘です、義経の八艘飛び程度だと思います。日記無双でかなり跳びます。
詳細は以下次号、という事で。

因みに自分、仕事の時間帯変更の関係で更新速度がやや遅くなります。
二か月に四話程度のペースだったのが、三か月に五話程度のペースに落ちると思って頂ければ間違いないと思いますがご容赦を。

以下、ただ次話に流れ、疑問を全て継続する自問自答コーナー。

Q、このデモンベインは動くの? どうやって戦うの?
A、動きません。詳細は次の話。
Q、なんでタイミングよくシュリュズベリィ先生は忙しくなるの?
A、陰謀です。理由は次号。
Q、どうして未熟な魔術師の九郎がアイオーンを呼べるの?
A、陰謀です。ネェクストコナンズヒーントゥ!『三十九話参照』

疑問を全て諦めずに次の話を読むと謎が解けるかもしれません。
正し華厳の滝の滝壺に潜ったりすると、通報されてお縄になるので良い子も悪い子も真似をしてはいけません。
若さゆえの勢いで許されるなんて事はそうそう無いのです。
ラッキーアイテムは恋人をうっかり焼き殺してしまったパーカー男の後ろ姿の一言。
関東圏に住んでいるなら、関西圏にお引越しすると気分転換ができて良いでしょう。

そのような塩梅で、今回のお話はここまで。
誤字脱字に文章の改善案、設定の矛盾への突っ込みにその他諸々のアドバイス、
そしてなにより作品を読んでみての感想、短くとも長くとも、短くも長くも無くとも、心よりお待ちしております。


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