無限に広がる大宇宙。
星々の瞬きは美しく、黒いビロードに散りばめられた数えきれない宝石のように、漆黒の宇宙を彩る。
そして、その広大な宇宙に比べれば狭いが、それでもとても広範囲に渡って、大小無数のデブリが散乱している。
資源衛星ヘリオポリス、そのコロニーがザフトと連邦または連合──正確にはナデシコとアークエンジェル──の戦闘によって崩壊し、このような光景を作り出しているのだ。
「ふぅ……」
などと、ナレーション風に言ってみたが、俺の言いたい事は只一つ。
「宇宙──さいっこぅ……!」
ビッグ、ワイルド、クール、ダークマター。地上駄目、俺としてはナンセンス。
目の前には、数時間前に完全に崩壊したヘリオポリスの残骸。俺はザフトのジンに似せた通常のMSよりも少し小柄な機体でその残骸の内の一つに近づいている。
ECSを展開し、重力推進によって移動する俺のジンもどきは何者の目にも映らない。
「俺、思うんだけど、宇宙のモノ、誰のものでもないって」
レーダーに感あり。
目標は、もうチョイ先、いや、あの衛星か。
「ってことは、逆に誰のものでもいいんじゃないかって、思うの」
モルゲンレーテから持ち出したデータでは、確かにこの辺り。
なにしろ未来のデータだ、信頼性は高い、いや、むしろバツ牛ンだろう。
「ってことは何? 俺が頑張ったら、独占?」
勿論、独占するつもりはない。
最低でも赤と青の二機が無ければ伝説の傭兵とジャンク屋が死んでしまうのだから。
何を隠そう、俺は無印のアストレイは大好きなのだ。
だが、だがしかし。だがしかしである。
「あーもーいいから早く行こうぜぇ?」
「ノリが悪いなおい、せっかく念願のアストレイが手に入るってのに」
俺の機体の隣をゆっくりと飛ぶ、メカニカルなパワードスーツ。
ソルテッカマンの改造機のようなそれに乗った美鳥がぼやいているのだ。
「お兄さん、アストレイのデータ、モルゲンレーテで手に入れてたじゃん。なんでまたわざわざ、一年以上遡ってまで……」
ぶちぶちと愚痴をこぼす美鳥。
そう、何故俺と美鳥がそれぞれの機体、スケールライダーとボウライダーを降り、わざわざ違う機体で活動しているか。
それは、この時代に居る俺と美鳥との接触の可能性を減らすためだ。
オーブでナデシコを降り、フューリーを全機撃破した俺達は、廃墟と化したオーブから未完成の趣味の悪い金色ビーム反射MSを掘り出した後、ボソンジャンプで過去に跳んだ。
時期は、丁度火星からボソンジャンプで戻ってきた頃。
「夢(ロマン)だよ、夢(ロマン)。俺はこの世界に来たら、とりあえず性能面は度外視でアストレイのオリジナルに触れてみたかったんだ」
「そういうもんかねぇ」
そういうもんだ。
しかし懐かしい、あの頃は空気の読めていないザフトとかどうとか言って怒っていた。
そういえば、何だかんだでザフト軍にはそれほど大打撃を与えられなかったんだよな。
しいて言うなら、異名付きのエースパイロットを落としたくらいか。海でノーマルなジンに乗って出てきた間抜け。名前もしまじろうが言ってた気がするが、誰だったか。
「西川、いや違う。そう、ハイネだハイネ。ハイネ・ヴェルタース」
なんとも語呂の悪い名前である。せめて名前の最後にオリジナルと付ければ化けると思うのだが。
「何が? 特別な存在?」
「ああほら、大分前に俺が落としたザフトのエース。確か黄昏の魔弾とかいう」
「ぬ、前々から言おうと思ってすっかり忘れてたんだけどさ、多分それ、人違いだよ?」
「なんと」
流石にエースパイロットが未改造のジンで出撃とか無いとは思っていたが、やはりあれは声が西川声なだけの赤の他人。
駄目だなしまじろうは、間違った情報をパイロットに与えるとかマジで下手をすれば死んでしまうようなミスだ。
まぁ、ナデシコは実質あの娘一人で動かしているようなもんだし、そういう細かい所にまで気が回らないのは仕方がないのかもしれない。
「せめてミスマルが艦長職をしっかりこなしていればなぁ」
「何かものすごい勢いで勘違いしてそうだけど、面倒臭いから突っ込むのは無しにするね」
「うむ」
ぶっちゃけ、ザフトの異名持ちなんて腐るほど居るから興味無いし。
―――――――――――――――――――
隔壁解放用のレバーを回し、おそらく資材搬入用であろう通路を封じる隔壁が開く。
巨大な岩の塊──つまり、天然の衛星に偽装された、あるいは天然の衛星を加工して作られたと思しき格納庫。
が、その通路の広さはMSが通れるほどの広さは無い。
当然と言えば当然か、資材搬入用である以上、ここを通るのはあくまでもMSのパーツ。防犯の意味でもMSがそのまま通るような広さの通路である必要はない。
完成したMSを外に持ち出す為の通路は別の場所に存在し、当然セキュリティも厳重なのだろう。
そんな訳でこの搬入路は狭い。ジャンク屋ギルドのキメラあたりなら余裕だろうが、多少サイズを縮めているとはいえ、俺のジンもどきが通れるような広さは無い。
ついでに、他のジャンク屋連中がやってきて面倒な事になる前に、オリジナルのアストレイを舐め回すようにじっくりと隅から隅まで味わいたい。
「お兄さん、どうする?」
「こうする」
美鳥の問いに答えると同時に、乗っていたジンもどきをコックピット内部から侵食する。
見る見るうちに俺の身体に取り込まれていくジンもどき。
適当に乗り捨てて行けばいいと思われるかもしれないがそうも行かない。
宇宙船のカタログなどを読んでいて気付いたのが、ナデシコなどで使われている重力制御技術は、この世界ではネルガル含む一部企業が売りにしている高級な技術なのだ。
更に言えばECSはミスリルの誇る超技術の一つ、少なくともこの世界ではミラージュコロイドよりも高性能な迷彩技術だ。下手に乗り捨ててはどこの誰に利用されるかわかったものでは無い。
そんな訳で取り込みを完了。ついで、作業用の機体を作り出す。
美鳥と同様にソルテッカマンをベースに、とも考えたが、ここはもう一捻りが欲しいところだ。
そして、一捻りが利いたパワードスーツと言えば、個人的に思い入れがあるのはこれしか無い。
宇宙でも使えるように気密性や推進をいじり、更にスペースデブリへの対策で装甲を取り換え、これから始まるジャンク漁りの為に腕部も頑強なモノに変え、生成。
「ボン太くんじゃない……!?」
「あれは軍曹がまともだったお陰で手に入んなかったろ」
美鳥のオーバーなリアクションを軽く流し、俺はバイクタイプのコックピットの中に飛び込む。
造り出したパワードスーツは『パラディン』の改造機。
パワードスーツではなく大型可変バイクのロボット形態だが、物としてはパワードスーツとほとんど変わらないので気にしないでおくこと。
改造機と言っても戦闘用の改造ではない。武装はミサイル迎撃用のガトリング・ガンをウェポンラックに左右一対装備しているだけで、それ以外はすべてジャンク回収用の改造だ。
掌部には廃材や隔壁を焼き切る為の高出力レーザーカッター、マニピュレーターは本来のパラディンのものよりも分厚く頑強に、それでいて巨大な物体を持ち上げることができるように馬力を上げられている。
背部には回収したジャンクをまとめておくためのワイヤーが収納され、最大でMS四機分のジャンクを搭載できる。
宇宙空間で三次元機動をするようには出来ていないので、重力制御装置を搭載。
さっき乗り捨てられない理由でどうこう言ったばかりだが、このパラディンを乗り捨てるつもりは欠片も無いし、この時期には連邦もそれなりにエステバリスを配備している。
万が一このパラディンをどこかで解析されたとしても、連邦とザフトや木星蜥蜴との戦闘跡でジャンクを拾って搭載したとか、そんな言い訳はいくらでもできる。
俺はパラディンの二本指のマニピュレーターをガシャガシャと動かし動作を確認する。
まぁ、いざ動かないとなって生身で宇宙に放り出されても、別に死ぬわけじゃないので気にする必要も無いのかもしれんが。
「おー、ごついごつい」
確かに戦車に手足生やしました、見たいなデザインのパラディンは、美鳥が着込むソルテッカマンもどきと比べると余りにもゴツゴツしている。
俺のパラディンと美鳥のソルテッカマンがブースターを吹かし通路を進む。
あまりにもデザインラインが違う二機が並んでいる姿は、この場にこの世界の原作キャラが誰一人居ないにも関わらず、まさに多重クロス、といった光景だろう。
「しかし美鳥。お前のそれ、明らかにジャンク拾うつもりの無い装備だよな」
美鳥のソルテッカマンもオリジナルとは違うアレンジを施されてはいるが、それはあくまでも戦闘用の武装が追加されている形でのアレンジだ。
着込むタイプで人型であるから、手を使ってジャンクを拾う程度の事はできるが、それ以外にはワイヤーすら付いていない。
「アストレイの上に乗っかってる瓦礫を吹き飛ばすくらいならできるよ」
肩の上に備え付けられているミサイルポッドを揺らし答える美鳥。
貴重なアストレイを吹き飛ばすのは止めて欲しい、あれは装甲が発泡金属だからそんなに頑丈ではない、ミサイルなんて受けたら一発で本物のジャンクになってしまう。
一年越しにようやく手に入れることができそうなのに、目の前で吹き飛ばされたらかなわない。
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通路を抜け、工場跡と思しき所に出た。
所々に爆破された跡があるが、これはヘリオポリス崩壊の時に機材が巻き込まれて爆発した痕なのだろう。
「ここ?」
「いや、違うな」
少なくとも、P02(レッドフレーム)やP03(ブルーフレーム)、ましてやP01(ゴールドフレーム)のあった場所じゃあない。
記憶が正しければ、いくつかの階層に分かれた上の階層にゴールドフレームが安置されており、その下の階層にレッドフレーム、ブルーフレームがある筈なのだ。
この工場跡にもそれっぽいジャンク品が無い訳では無いが、逆にそれは、ここがハズレである可能性を高めていた。
秘密工場を放棄する癖に、それっぽい証拠を残しておくものだろうか。
まぁ、ギナ様がゴールドフレームを持ち出すのですらギリギリだったから、証拠隠滅をする暇が無かったとも取れるんだが……
「お、エロ本はっけーん。この袋とじの開け方が無駄に綺麗なのは、まさにオーブ住人特有の几帳面さ……!」
「お前はいいね気楽で」
その場にしゃがみ込み、地面に落ちているいかにも洋モノっぽいエロ本をそのヒーローチックなデザインの装甲に包まれた手で嬉々として捲っているソルテッカマン。
橋の下のお宝に群がる中学生男子の様な恰好のソルテッカマン。
中身が美鳥だという事を鑑みても、これはテッカマンファンには見せられない残念な光景である。
まあいい、ぶっちゃけ瓦礫の撤去作業なら俺一人で充分。
仮にここが金赤青のアストレイの工場で無かったとしても、そうすれば逆にサーペントテールに襲われる心配がないという事。ゆっくりじっくり探索が出来る。
俺は気合を入れ直し、瓦礫の山に挑み始めた。
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…………
……
十数分掛けてじっくりとエロ本を読み終わった美鳥が途中で合流したお陰で、探索はそれなりに捗った。
ジャンク拾いには向かないソルテッカマンだが、そこら辺は念動力でしっかりカバーしていたので何ら問題は無いらしい。なんだか気合い入れてパラディンを改造したのが馬鹿みたいだ。
美鳥の合流から数時間が経過し、俺達はようやくアストレイ一機分のパーツを発見した。
そう、完成したアストレイを見つけられた訳では無い。あくまでも、アストレイのパーツを発見しただけなのだ。
アストレイのパーツ、その筈なのだが、どうにも様子がおかしい。
俺と美鳥の中には、今までナデシコとアークエンジェルに搭載された事のある機体の情報が全て存在する。
それに照らし合わせてみると、このアストレイはどうにも胡散臭い。
「むぅ、この間接部分の構造、明らかにあれだよな」
「ん、でもアストレイって基本フレーム部分はオーブの独自開発なんだよね?」
「連邦のものよりも、より人間に近い動きが可能な奴をな。確かに、条件的には合ってるが」
この発見したアストレイのパーツを組み合わせている内に、俺達はとある機体に似た構造を発見した。
そう、このアストレイのフレームは、MSではなく、明らかにMFの規格で作られているのだ。
そもアストレイシリーズは連合のPS装甲技術を盗めなかったが為に、オーブ独自の素材である発泡金属を使っているため非常に機体が軽い。
そしてその軽さを生かす為に機動性を上げる形の設計思想で作られている。
つまるところ、アストレイの肝となる部分はその装甲とフレーム部分にあると言っても過言では無いはずなのだが……
「これは、マック、いや、シャイニングかな? 微妙にカモフラしてるっぽいけど、元が特徴的な形してるからぜんぜん誤魔化せてないねぇ」
「だな。まぁ、カモフラ部分以外はかなり本気で似せてるから、性能的には申し分ないんだろ」
フレームの構造がほぼシャイニングそのものなのである。
勿論、シャイニングはオーブ製でも無ければ大西洋連邦製でもない。
つまり、このアストレイに込められているオーブの技術は、被装甲箇所をギリギリまで削られた発泡金属の装甲だけなのである。
「どっから持ってきたんだよ、MFの技術なんて……」
コックピットの中でぐったりと身を伏せる。
こんな、こんな本編に出ない部分でこんな微妙なクロスをされても嬉しくはない。
はっきり言って脱力した。俺が欲しかったアストレイじゃないよ姉さん……。欲しかったのはこれじゃ無い、コレジャナイアストレイ……。
俺の心に渦巻く悲しみ、これぞまさに裏切りのプレゼント。
このままではパラディンから降りて、このパーツ状態のアストレイに愛の鉄拳を叩きこみかねない。いや、叩きこむべきではないか。
「乗り越えられるか、愛の鉄拳……!」
具体的にはバッテリ充電マックスのPS装甲搭載MSを二発で撃墜できるパンチを。
一撃でPS装甲をダウンさせ、二撃目で衝撃波含むパンチでもって打ち砕く。二撃必殺だが別に肩と背中を露出するつもりはない。貴様にはまだ早い(キリッ
そういえば高校の帰りに立ち読みしたジャンプで、なんとなく開いたページがあの人の全裸で、それが俺の鰤の初ページだったんだよな。何時斬魄刀出すんだろうかあの人。
「とりあえず落ち着こうぜ」
パラディンのコックピットの天板がゴンと叩かれ、俺は自分の腕が半ばパラディンに融合しているのに気付いた。
俺の怒りに呼応したのかパラディンのメカメカしい腕が妙にボスキャラ臭い半生体メカっぽいモノに変化している。
これはいかん、俺はとりあえず自分を落ち着かせる事にした。セルフコントロールセルフコントロール。
瞬時に落ち付いた、この間僅か千ミリ秒。
結局ドモンと戦っても明鏡止水の境地の理屈はさっぱり理解出来なかったが、俺は身体の構造上、感情の制御が容易になっているのだ。
一々モノに当たってもしょうがない。
もう王道じゃないどころの騒ぎでは無い技術盗用の仕方だが、それは指示を出した偉い連中や盗みしか出来なかった技術者どもが悪いのであって、このアストレイっぽいものには何一つ責任は無い。
それにほら、塗装すら施されていない癖に、結構な男前ではないか、この機体。
SEEDは本編よりもアストレイのMSの方がイケメン多い気がするがあれだな、多分人間をイケメンにするのにイケメンポイント使い過ぎたんだな。
外伝にもイライジャが明らかなイケメンキャラとして登場しているが、あいつは親がMS操縦の才能とか身体能力をイケメンポイントに振り替えた結果だからノーカン。
「うむ、とりあえず組み立てるか」
「んじゃ、まずは散らかったゴミをどうにかしないとねー」
アストレイのパーツを探している間に見つけた明らかに必要無いジャンク、崩れた壁や天井の破片を美鳥がミサイルで吹き飛ばし集め、重力制御によって生み出された高重力によって圧搾していく。
整備用の設備はナデシコやアークエンジェルに居た時に全て取り込んであるので出し放題。
今必要なのはそれらを置く場所だけなので、関係無いジャンクをまとめて消す事でスペースを作る。
その辺の事を、説明するまでも無く始めてくれる辺り、まさに以心伝心と言ったところだろう。
俺は未組み立てのMSを組み立てるのに必要な機材を、適当に思いつくまま複製した。
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…………
……
そんな訳で、モルゲンレーテでB・ブリガンディを仕上げた時に使った設備を忠実に再現し、工場内の発電施設が動かなかったので更に発電機を作り、組み立てを開始した。
と言っても、俺と美鳥だけで組み立て作業をする訳では無い。
一ダースほど下級デモニアックを複製し、そいつらを操ってパーツを組み立てていく。
下級デモニアックはペイルホースに働きかけ念動力と飛行能力を与えているので、工作機械を動かして組んでいくよりも早いのだ。
しかもデモニアック、ブラスレイター共通の融合能力によって工具と一体化させる事で作業効率は更に上がっている。
無論、微妙にスパロボアレンジが施されているとはいえ憧れのアストレイ、重要な部分の組み立ては俺自身がやっている。
「なんか、作った設備を半分も使っていないような気がするよ?」
「少なくともフレーム組む役には立ったろ?」
全身本気でバラバラだったため、パーツを宙吊りにして組み上げていかねばならない。
宙吊りと言っても無重力なので、正確には吊り下げている訳では無くふわふわと何処かに漂って行かないように固定しているというのが正確なのだが。
内部の機械部分が剥き出しで、まるで巨人の骸のようなアストレイ。
フレーム部分だけ見て、パチモノじゃねーかとか思ってしまったが、肉付けしていくにつれて明らかにMFとはかけ離れたモノに、つまりはMSへと近づいて行くのが分かる。
どうやら、あくまでもMFの技術を採用しているのはフレームだけであり、それ以外は何の変哲も無いMSの技術で作られているらしい。
「しかし、見事に無着色」
「たぶんグリーンかミラージュの元になる予備パーツだったんだろうが、これじゃ何色でもないな」
これから装着する予定の装甲を見てぼやく。
そこにある装甲パーツはどれも見事に灰色の金属色剥き出し。ゴールドとかレッドとかブルーとか言い出す以前に、ホワイト部分すら塗られていない。
これを装着するとなると、かなり地味というかなんというか、微妙なカラーリングになると思う。
でもこう、なんと言ったら良いのか、これはこれでありな気がするな。
何しろ、これが後にグリーンやミラージュになるにしろ、少なくともこの世界では俺がこの場で組み上げたアストレイだ。
データを元に複製を作りだした訳では無く、あくまでもこの工場で手に入れたオリジナルのパーツでくみ上げた、俺だけのアストレイ。
なんというか、そそるものがある。
「お」
「む」
アストレイを見上げながら感慨にふけっていると、俺と美鳥の体内のレーダーに反応。
この工場とは少し離れた位置に、何やら戦艦が接近している。
多分オーブだろう、他所の国の輸入品の戦艦を使ってるが、今この場に来るならオーブでしか有り得ない。
このアストレイを組み立てている最中にも民間船が近づいていた。
で、ここにはアストレイの予備パーツが転がってたから、ここに無かった組み立て調整済みのアストレイは近くの衛星にカモフラされた工場にある筈。
つまり、民間船=ホーム、戦艦=アストレイを消しに来たオーブの連中。
戦艦はまだ大分遠くにいるが、それでも一時間もせずにここに到着するだろう。
つまり、そろそろ無印アストレイ第一話の戦闘パートが始まる訳だ。
「急ぐか」
あとは装甲だけ。それからバッテリを充電済みのモノに入れ替えて、ちゃんと起動するか確認して、それで大体十分かかるかどうか。
適当にアストレイを始末に来た連中を片付けるのを手伝って恩を売り、少しの間、ぶっちゃけガーベラ作り終えるまでどうにか乗せておいて貰う、と。
うむ、一年以上この世界で暮らしておいて、発想が最初の頃と変わっていない。
無理なら後々グレイブヤードに自力で向かうしかないが、そうなると色々と面倒だなぁ。
「武装は?」
そう、実はこのアストレイ、碌に武装が無い。
予備パーツを組み合わせて作ったばかりだから当然と言えば当然。
まぁ、適当に既存のMSの武装を複製して持たせればいいだけの話ではある。ストライカーパックもできるし、無理をすればバスターの装備も使えないじゃないだろう。
コネクタが共通では無いが、アストレイの方のコネクタに合わせた規格に装備の方を作り替えれば十分どうにでもなる。
どうとでもなるのだが、なんというか、面白味がない。使って楽しそうなのが選択肢の中だとビームブーメランくらいしか思いつかない。
やっぱ後々連邦の基地を襲って三馬鹿の武装を奪取するべきなんだよなぁ。ハンマーとか大鎌とか振り回したいぜ。
まぁ、とりあえず急場をしのげればいいんだからビームライフルとビームサーベルだけあればいいか。
「んふ、微妙な表情のお兄さんに朗報があるよ」
美鳥のソルテッカマンが右手を上げると、奥から何かが運び込まれてくる。
「お、おおぉ」
思わず唸る。
SEED本編では使われなかった、というよりPGモデルオリジナルっぽい、実用性的にどうなんだとそれ言いたくなるような非公式のロマン武装。
武骨で無駄に長大なそれを、重機と融合した下級デモニアック数体がえっちらおっちら運んでくる。
「正直さ、ビームライフルにサーベルなんて標準的な装備より、いっそこれだけで出撃した方がインパクトあるよね?」
「間違いねぇなそりゃあ」
というか、いざとなればコックピットから次元連結砲を発動する事が出来るから飛び道具はあまり必要ではない。
「実は両肩にビームブーメランとかそんな逆転の発想も考えたんだが」
「余ったパーツとカラミティを合体させてソードカラミティにするんですねわかります」
予備のストライカーパックがここに二つあるのも不自然だから、それは後々作ればいいだろう。
とりあえず今は組み立て作業の続きだ。戦闘開始には間に合う必要はないけど、戦闘終了までには終わらせなきゃな。
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……………………
…………
……
「あたしは出なくていいのー?」
「お前はパラディン見張っててくれ、後々使うかもしれんし、流されたらたまったもんじゃない」
「あーい」
美鳥にパラディンを任せ、指向性を与えたメイオウ攻撃で工場の天井を抜き、軽く地面を蹴り外に出る。
バイク形体のパラディンに座ったソルテッカマンがこちらに手を振っている。ここから見ると小さい。ここまで来て初めて気付いたが、いつもよりかなり視界が高い。
そういえば何だかんだで20メートル級の機体で戦闘行動を取るのは多分これが初めてか。しかし相手は動きの鈍いメビウス、訓練代わりに丁度いい。
レーダーを確認する。何やら微妙に動きのぎこちないジンがメビウスの大群相手に奮闘している。
イライジャ・キールだな。確か今はホームを守ってる筈だし、ここで助ければどっちにも借りを作れる。美味しい状況だ。
背面に追加したメガブースター四基を吹かし、爆発的な加速でメビウスの群れに突っ込む。
肉眼では芥子粒ほどのサイズにしか見えなかった大量のメビウスの群れ、その中に一秒掛からずに到達する。移動力+8は伊達じゃ無い。
メビウス数機とすれ違う、こちらはすでに武器を構えている、すれ違うだけで充分敵を破壊できる武器を。
両手に構えた大剣がジンに迫る二機のメビウスをすれ違いざまに撫で斬り、真っ二つに両断する。
「ううん、我ながらスプレンディッドなクリティカル」
技量はそれなりに高い方だと自負している。
高速振動で切れ味が上がったりもしない何の変哲も無い実体剣だが、加速と斬り方に気を付ければこんなもんだ。
これが、今の俺のアストレイ唯一の武装、『XM404グランドスラム』
なんやかんや紆余曲折があった末にストライクの公式の武装ではなくなってしまった悲劇の武装だが、そんな経歴をものともしない面白い使い心地の武器だ。
今まで普通のブレードで何かを切る時はほぼ例外なく超電磁フィールドでコーティングして斬っていたから気付かなかったが、この鋼を切り裂く感触ときたら!
「素晴らしい、上の上ですね」
恥ずかしい話だが、ふふふ、勃起、しちゃいましてね。
でもそんな事言ったら、じゃああたしが処理してやんよ! とか美鳥が言い出しそうでなぁ。
この興奮はエロい気分では無くこの敵を叩き切る感触が快感であり、あでも剣を男性の性のイメージとして捕えるならあながち間違っていないというかそうなると美鳥とエロいことするのもありかなとかそういえば最近美鳥なんか微妙にエロいというか我ながらなんという不貞! 許せん!
落ち着こう。1、2、3、はい落ち着いた。
気を取り直し更に強引に方向転換、ジンを囲むメビウスの大群、その外周を回るようにして飛ぶ。飛びながら切る。後ろにはメビウスのジャンクしか残らない。
誰も俺のアストレイに追いつけない。
いや、それどころかメビウスもジンも文字通り止まって見える。
分かる、分かるぞ。これが、速度の先、何もかもを置いてきぼりにする、世界の尖端……!
俺は世界の時間を置いてきぼりに──
「って、これクロックアップじゃねえか」
一気に冷めた。
これまた急いでいたお陰で久しぶりに勝手にクロックアップしてしまったようだ。
このままではそもそも援護したかどうかを理解して貰えないし、乗艦の交渉もできない。
クロックオーバー。
俺に叩き切られたメビウスが全機同時に爆発する。
通常の時間の流れに戻り、今度こそ人間でも視認でき、しかし迎撃するには早すぎる程度の速度でメビウスの群れを掻きまわす。
「な、なんだ、お前は」
通信が開くと、マイクからイケメンヴォイスが響き、モニタにはイケメンフェイスが映し出された。あまりの清々しい程のイケメンぶりに少し撃墜したくなってしまう。
そういえば、俺って結構こんな感じの『誰お前?』的な質問受けること多いな。
あーいや、どっちかって言えば『何だお前は?』みたいな感じだったか?
どっちでもいいか。
「ふむ」
しかし、俺が何か、か。哲学的でもあり、現実的に見て大変答えにくい内容ではある。
例えば元の世界での本職はと聞かれれば、俺は間違いなく農家だと答える。それで生計を立てているのだから文句は言わせない。
しかし、常識的に考えてこの状況でMSで助太刀に参上する農家なぞ有り得ないだろう。
しかるにこの世界での仮の職業を答えるべきなのかもしれないが、それも今となっては微妙な肩書きである。
傭兵を名乗っているがナデシコを降りた今は実質無職、そう気軽に『今ちょっと失業中で』とか言うのはかなり気が引ける。
更にこの問いが本当に哲学的な問いであったならば、間違いなく俺は答えることができない。生憎と俺が通っていた高校では授業で哲学なぞ学ばせてくれなかったからだ。
図書室で斜め読みした哲学の入門書の言葉を真に受けるなら、そもそも哲学を人から学ぼう、という考え自体がおかしいというものらしいのだが、正直俺には理解できない世界の話だと思う。
なにしろ人に聞いてはいけない癖に、自分の中だけで完結するのは余りにも子供だましだとか。
とにかく、考えごとが好きな連中の学問だということくらいにしか理解できない。
「あなた、よく面倒臭いやつだって言われません?」
「は、はぁ!?」
何を言ってるんだこいつは、といった顔と声だが、それは間違いなくこちらのセリフだろう。
こんな切羽詰まった時にこんな面倒臭い問いかけをしてくるあたり、全く状況が理解できていないのはそちらなのだから。
常識的に考えて、この状況で問うべき事は一つしかない。
それ以外の余計な事は、戦闘が終わってからでも膝を向け合ってじっくり話し合うべきなのは確定的に明らか。
俺はアストレイにグランドスラムを振らせ、無造作に近場のメビウスを一機串刺しにし、もう一度振るって他のメビウスの未来位置に投げ飛ばす。
これで更に二機撃破、だがまだまだ居る。メビウスはスペースを取らないから戦艦に大量に搭載できるのだ。
「じゃあ面倒臭くない話はどう?」
通信が開き、胸元を肌蹴た白衣の美女が映る。
ホームのプロフェッサー、この人はときた版だとひたすら影が薄いが、もし戸田版ならかなり『粋(いき)』というものを分かっている人物の筈。
まぁ、同一人物だから描写の違いなんだろうが。
「大歓迎ですね」
「報酬払うから、あの連中を片付けて貰えるかしら」
こういう受け答えしてると分かるが、この人はサバサバしてて結構いい女だと思う。姉さんや美鳥程では無いが魅力的だ。
「諒解ですよ。値段交渉はまた後ほど」
身を捻りメビウスの機銃を紙一重で回避しながら、縦横無尽に飛び回る。
如何にクロックアップしていないとはいえ、通常の人間の戦闘速度は俺にはスロー過ぎる。
これが取り回しのいいアーマーシュナイダーなら全弾斬り落して防いでいた所だ。
身を捻る動きを利用し、そのままグランドスラムを全身で振り回し、更にメビウスを叩き落とす。
「聞いてましたよね? これからそっちもまとめて援護しますんで、誤射とか無しの方向でおねがいします」
「わかった」
いつの間にかジンと背中合わせで戦っていたブルーフレーム。
この人が伝説の傭兵、サーペントテールの叢雲劾!
やっべたまんね、サインとか欲しい、いや貰うべき、でも大の大人がサイン下さいとか恥ずかしいな。
そうだ、美鳥辺りにサインのおねだりをさせよう。それが一番それっぽい!
今の今までりりなのトリッパーが白い悪魔に異常に反応したり、ネギまトリッパーが金髪ロリ婆に異常に好意的に迫ったりするのを馬鹿にしてたけど、これは興奮せざるを得ないわ。
これぞまさにファン心理……!
などと考えていると、最後の一機がホームに向けて突撃している。
少し遊び過ぎたか。流石にここからだと接近して斬るには遠すぎる。
そんな訳で重力レール形成、投げるモーションから不自然の無いレベルでグランドスラムをメビウス向けて投擲する。
メビウスに向けて敷かれたやや緩めの加速を与える重力レールにより打ち出された大剣は、ホームに接近するメビウスに『どこからか投げ付けられたシールドと同時に』命中。
「…………え?」
なんだろうあのシールド、このシーン、多分原作にあったよな、凄い、嫌な予感が……。
「俺の船に──」
ビームサーベルを構えた、みんなの憧れのレッドフレームが、グランドスラムの突き刺さったメビウスに突撃する。
ん? いや待った、待て、それはマジで待て!
「ちょ、待……」
「手ェ出すなァぁぁぁぁ!」
慌てて止めようと通信を繋ぐ。しかし当然のように間に合わない。
「ぐ、グ……」
高出力のビームサーベルによって、既に爆発寸前のメビウスと、それに突き刺さったグランドスラムが、見事に焼き切られた。
「グランドスラムぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!」
つづく
―――――――――――――――――――
まさか、もう第三部が始まるとでも?
残念、スパロボJ編、サイドストーリーで延長戦、始まります。
そう、これが現実……、新作ではなく、スパロボ編のあれやこれやと言った辻褄合わせが始まるのが、現実……!
そんな訳で、スパロボJの要素が少し混じっただけのアストレイ&零れ技術蒐集編見切り発車の第二十四話をお届けしました。
なんかここ最近はクライマックス近くだったりメメメがヤンデレたりフー=ルーさんが男らしくモツ出したりエピローグでテニアがいい女に見えたりで慌ただしかったけど、これから暫くはまったり侵攻(進行より先にこれが出たのはきっと運命)でお送りします。
なんかこう、十何話か前に戻ったみたいなヌルっとした雰囲気で進むと思うので、激動の展開とか望むと間違いなく肩透かしを食らうと思うのでそこら辺だけご注意を。
ついでに、暫くは一万字前後で出していくつもりなので二十二話みたいに無駄に頑張っちゃった感丸出しな文章量を期待してる人もご注意を。
クライマックス近くの感想の内容とか鑑みるに、こういった盛り上がりの無い話だと感想数が少なくなりそうではあるんですが、まぁ仕方ないね。
アストレイ編ずっと書きたかったし。ラストバトルで使ったアストレイ関連の技術も集める話書きたいし。
セルフ突っ込みはお休み。サクサク進みますぞ。
そんな訳でいつも通り、誤字脱字の指摘、分かり難い文章の改善案、設定の矛盾、一行の文字数などのアドバイス全般、そして、短くても長くても一言でもいいので作品を読んでみての感想、心よりお待ちしております。
内容が変更される可能性が高い次回予告
出会って早々にメイン武装であるグランドスラムを熔かされてしまい、実質非武装にされてしまった卓也のアストレイ。
無駄に落ち込む卓也と、彼を宥める美鳥を見かねたロウ達は、護衛の報酬も兼ねて代わりの武装を見繕ってやる事に。
しかし、新しく見つけた武装にロウ本人が惚れ込んでしまい……。
次回
「知識の墓と枯れた菊」
お楽しみに。