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No.14434の一覧
[0] 【ネタ・習作・処女作】原作知識持ちチート主人公で多重クロスなトリップを【とりあえず完結】[ここち](2016/12/07 00:03)
[1] 第一話「田舎暮らしと姉弟」[ここち](2009/12/02 07:07)
[2] 第二話「異世界と魔法使い」[ここち](2009/12/07 01:05)
[3] 第三話「未来独逸と悪魔憑き」[ここち](2009/12/18 10:52)
[4] 第四話「独逸の休日と姉もどき」[ここち](2009/12/18 12:36)
[5] 第五話「帰還までの日々と諸々」[ここち](2009/12/25 06:08)
[6] 第六話「故郷と姉弟」[ここち](2009/12/29 22:45)
[7] 第七話「トリップ再開と日記帳」[ここち](2010/01/15 17:49)
[8] 第八話「宇宙戦艦と雇われロボット軍団」[ここち](2010/01/29 06:07)
[9] 第九話「地上と悪魔の細胞」[ここち](2010/02/03 06:54)
[10] 第十話「悪魔の機械と格闘技」[ここち](2011/02/04 20:31)
[11] 第十一話「人質と電子レンジ」[ここち](2010/02/26 13:00)
[12] 第十二話「月の騎士と予知能力」[ここち](2010/03/12 06:51)
[13] 第十三話「アンチボディと黄色軍」[ここち](2010/03/22 12:28)
[14] 第十四話「時間移動と暗躍」[ここち](2010/04/02 08:01)
[15] 第十五話「C武器とマップ兵器」[ここち](2010/04/16 06:28)
[16] 第十六話「雪山と人情」[ここち](2010/04/23 17:06)
[17] 第十七話「凶兆と休養」[ここち](2010/04/23 17:05)
[18] 第十八話「月の軍勢とお別れ」[ここち](2010/05/01 04:41)
[19] 第十九話「フューリーと影」[ここち](2010/05/11 08:55)
[20] 第二十話「操り人形と準備期間」[ここち](2010/05/24 01:13)
[21] 第二十一話「月の悪魔と死者の軍団」[ここち](2011/02/04 20:38)
[22] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」[ここち](2010/06/25 00:53)
[23] 第二十三話「私達の平穏と何処かに居るあなた」[ここち](2011/02/04 20:43)
[24] 付録「第二部までのオリキャラとオリ機体設定まとめ」[ここち](2010/08/14 03:06)
[25] 付録「第二部で設定に変更のある原作キャラと機体設定まとめ」[ここち](2010/07/03 13:06)
[26] 第二十四話「正道では無い物と邪道の者」[ここち](2010/07/02 09:14)
[27] 第二十五話「鍛冶と剣の術」[ここち](2010/07/09 18:06)
[28] 第二十六話「火星と外道」[ここち](2010/07/09 18:08)
[29] 第二十七話「遺跡とパンツ」[ここち](2010/07/19 14:03)
[30] 第二十八話「補正とお土産」[ここち](2011/02/04 20:44)
[31] 第二十九話「京の都と大鬼神」[ここち](2013/09/21 14:28)
[32] 第三十話「新たなトリップと救済計画」[ここち](2010/08/27 11:36)
[33] 第三十一話「装甲教師と鉄仮面生徒」[ここち](2010/09/03 19:22)
[34] 第三十二話「現状確認と超善行」[ここち](2010/09/25 09:51)
[35] 第三十三話「早朝電波とがっかりレース」[ここち](2010/09/25 11:06)
[36] 第三十四話「蜘蛛の御尻と魔改造」[ここち](2011/02/04 21:28)
[37] 第三十五話「救済と善悪相殺」[ここち](2010/10/22 11:14)
[38] 第三十六話「古本屋の邪神と長旅の始まり」[ここち](2010/11/18 05:27)
[39] 第三十七話「大混沌時代と大学生」[ここち](2012/12/08 21:22)
[40] 第三十八話「鉄屑の人形と未到達の英雄」[ここち](2011/01/23 15:38)
[41] 第三十九話「ドーナツ屋と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:22)
[42] 第四十話「魔を断ちきれない剣と南極大決戦」[ここち](2012/12/08 21:25)
[43] 第四十一話「初逆行と既読スキップ」[ここち](2011/01/21 01:00)
[44] 第四十二話「研究と停滞」[ここち](2011/02/04 23:48)
[45] 第四十三話「息抜きと非生産的な日常」[ここち](2012/12/08 21:25)
[46] 第四十四話「機械の神と地球が燃え尽きる日」[ここち](2011/03/04 01:14)
[47] 第四十五話「続くループと増える回数」[ここち](2012/12/08 21:26)
[48] 第四十六話「拾い者と外来者」[ここち](2012/12/08 21:27)
[49] 第四十七話「居候と一週間」[ここち](2011/04/19 20:16)
[50] 第四十八話「暴君と新しい日常」[ここち](2013/09/21 14:30)
[51] 第四十九話「日ノ本と臍魔術師」[ここち](2011/05/18 22:20)
[52] 第五十話「大導師とはじめて物語」[ここち](2011/06/04 12:39)
[53] 第五十一話「入社と足踏みな時間」[ここち](2012/12/08 21:29)
[54] 第五十二話「策謀と姉弟ポーカー」[ここち](2012/12/08 21:31)
[55] 第五十三話「恋慕と凌辱」[ここち](2012/12/08 21:31)
[56] 第五十四話「進化と馴れ」[ここち](2011/07/31 02:35)
[57] 第五十五話「看病と休業」[ここち](2011/07/30 09:05)
[58] 第五十六話「ラーメンと風神少女」[ここち](2012/12/08 21:33)
[59] 第五十七話「空腹と後輩」[ここち](2012/12/08 21:35)
[60] 第五十八話「カバディと栄養」[ここち](2012/12/08 21:36)
[61] 第五十九話「女学生と魔導書」[ここち](2012/12/08 21:37)
[62] 第六十話「定期収入と修行」[ここち](2011/10/30 00:25)
[63] 第六十一話「蜘蛛男と作為的ご都合主義」[ここち](2012/12/08 21:39)
[64] 第六十二話「ゼリー祭りと蝙蝠野郎」[ここち](2011/11/18 01:17)
[65] 第六十三話「二刀流と恥女」[ここち](2012/12/08 21:41)
[66] 第六十四話「リゾートと酔っ払い」[ここち](2011/12/29 04:21)
[67] 第六十五話「デートと八百長」[ここち](2012/01/19 22:39)
[68] 第六十六話「メランコリックとステージエフェクト」[ここち](2012/03/25 10:11)
[69] 第六十七話「説得と迎撃」[ここち](2012/04/17 22:19)
[70] 第六十八話「さよならとおやすみ」[ここち](2013/09/21 14:32)
[71] 第六十九話「パーティーと急変」[ここち](2013/09/21 14:33)
[72] 第七十話「見えない混沌とそこにある混沌」[ここち](2012/05/26 23:24)
[73] 第七十一話「邪神と裏切り」[ここち](2012/06/23 05:36)
[74] 第七十二話「地球誕生と海産邪神上陸」[ここち](2012/08/15 02:52)
[75] 第七十三話「古代地球史と狩猟生活」[ここち](2012/09/06 23:07)
[76] 第七十四話「覇道鋼造と空打ちマッチポンプ」[ここち](2012/09/27 00:11)
[77] 第七十五話「内心の疑問と自己完結」[ここち](2012/10/29 19:42)
[78] 第七十六話「告白とわたしとあなたの関係性」[ここち](2012/10/29 19:51)
[79] 第七十七話「馴染みのあなたとわたしの故郷」[ここち](2012/11/05 03:02)
[80] 四方山話「転生と拳法と育てゲー」[ここち](2012/12/20 02:07)
[81] 第七十八話「模型と正しい科学技術」[ここち](2012/12/20 02:10)
[82] 第七十九話「基礎学習と仮想敵」[ここち](2013/02/17 09:37)
[83] 第八十話「目覚めの兆しと遭遇戦」[ここち](2013/02/17 11:09)
[84] 第八十一話「押し付けの好意と真の異能」[ここち](2013/05/06 03:59)
[85] 第八十二話「結婚式と恋愛の才能」[ここち](2013/06/20 02:26)
[86] 第八十三話「改竄強化と後悔の先の道」[ここち](2013/09/21 14:40)
[87] 第八十四話「真のスペシャルとおとめ座の流星」[ここち](2014/02/27 03:09)
[88] 第八十五話「先を行く者と未来の話」[ここち](2015/10/31 04:50)
[89] 第八十六話「新たな地平とそれでも続く小旅行」[ここち](2016/12/06 23:57)
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[14434] 第二十二話「正義のロボット軍団と外道無双」
Name: ここち◆92520f4f ID:29c8f907 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/25 00:53
ナデシコとアークエンジェルが美鳥達と交戦を開始し、その状況を玄米茶と豆大福を片手に観戦していた俺は、ある一機の挙動に釘づけになった
所々色の剥げたベルゼルートの改造機。
荒々しく苛烈な戦い方で雑魚を蹴散らし、遂にはフーさんのラフトクランズへと喰らい付くまでの一連の動き。
フーさん自体、死体を複製して生き返らせる段階で神経系と脳の作りを弄ってあるから、まともな反応速度では戦いにすらならない。
だが、今ラフトクランズのカメラをジャックして見ているこの映像!

『ぶっ殺しに来たんですよおぉぉぉっ!』

「おぉ」

優秀だ。 設定上は試作機であるベルゼルートから、まさかこれ程までの性能を引き出す事が出来るとは。いやいや中々どうして侮れない。
これならこっちで組み直したクストウェルもいい感じの働きをしてくれるかもしれないな。
ああいやでもあれはあれか、まず出さなきゃいけない状況が必要になってくるし、何の脈絡も無しに出してもつまらないよな。
うん、でもあれはいいな。性能の向上もさることながら、燃え尽きる前の蝋燭のような輝きはそれなりに惹きつけられるものがある。
しかし、トランザムもどきかF91もどきのような感じのあれは、余裕を持って機体を組み運用する俺では再現する事が難しい。追い詰められたり激情に駆られたりする前に戦闘は終わってしまうものだからだ。
確かにあのベルゼルートと同じ状態に機械的に持って行く事自体は容易い。
リミッターカット的な機能なら幾らかサンプルがあるし、ナデシコに残してきた量産型の残骸に組み込まれていたものよりも効率のいい補助機械は幾らでも作れる。

「でも、あれは間違いなく機体に酷く負担が掛かるな。ボウライダーに組み込む程のモノでも……」

言いつつ、手に持っていた豆大福を一口。餡子の中に混ぜ込まれたこの豆の食感が好きな人には堪らないのだろう。何の変哲も無い豆大福、作りたてという訳でも無ければ特に大好物という訳でもない。
甘味という括りの中だけで言えば、苺などの果物が入った物の方が好みではある。アップルパイとかも捨てがたいが、ブルーベリーのタルトなども嬉しい。
だが、どこをどう取り繕ってもやはりお茶に合うのはこういった和菓子系統だろう。これは揺るがす事の出来ない大前提とも言える。
それなら間を取って苺大福などもいいのかもしれないがそこはそれ、好きなものを制限する事で生まれる楽しみというものも存在するのだ。溜め撃ち的なものだと思ってもらえればいい。
茶を啜る。ミルフィーユとかミルクレープとかも合わない訳では無いが、口に残った餡子をお茶で流す瞬間は日本人的に心にすとんと落ち付くものがある。

「ふぅ……」

落ち着いた。頭の中を元に戻そう。
つまり何が言いたいのかといえば、ぱっと見の印象で面白そうだからと言って、あれもこれも自分の使う機体に採用するのはいけないということだ。
確かに俺は戦闘中にリアルタイムで機体の構造をまるきり作り替えることが可能ではあるが、だからといって使い処の無い、役に立たない機能を搭載するのは完全に無駄としか言いようがない。
戦闘行動を行う以上は当然、最低限度敵を殲滅可能な程度の装備や機能は必要だ。
その必要最低限の性能を備えた機体で、更に必要に応じて機能や武装をその都度追加、不要な機能を消去していくのが、少なくとも俺にとっては正しい戦闘方法。
ああいった緊急で無理やり出力を上げる機能はそれこそ必要の無いもの筆頭である。
むしろ限界を超えたはずみで機体が故障したら、それを修復する手間の分だけ隙が生まれる。必要なのは限界を超えて戦う機能ではなく、限界を超える必要の無い戦い方なのだ。

「どっちかって言えば、あのワイヤーとか、面白そうではあるな」

ナデシコを離れてからの地球圏や火星での放浪の旅の合間に見た、傭兵やジャンク屋の連中も似たような事をやっていた気がする。
ありものの装備で戦わなければならないからこそ生まれる発想というのはとても勉強になる。
結局二年近くこの世界で戦い続けたというのに、俺はそういった発想はあまりしてこなかった。必要なものは大体その場で揃える事が出来てしまうからだ。
そういった小細工の仕方などを学ぶ為にも、過去に戻ってこの世界をナデシコとは違う場所から違う立場で見て回ったというのに、これほど進歩が無いとなると少し落ち込んでしまう。
まぁ、この身体がそういうモノだから仕方がない事ではあるのだが。
そこら辺は追々、元の世界に戻ってからどうにか制限を付けた状態で戦う術を学んでみよう。

『今このガウ=ラを支配している、『お兄さんを殺すこと』さもなきゃ、地球はおしまいだ』

そうこう考えている内に、機関部での戦闘が終わったらしい。
ああ、いいなぁ美鳥。俺もそういうのやりたかったなぁ。
こういう展開はスパロボ世界に来てからずぅっと憧れていたものだし、部隊の連中からも思ったよりも疑われる機会が少なかったから、謎の味方っぽいキャラとしてのイベントも演出出来なかったし。
いや、そのお陰でナデシコの中ではトントン拍子で機体を取りこめたから文句を言うのは筋違いなんだろうけども。

戦闘の終了した機関部の映像をシャットダウン。
これ以上あいつらのリアクションを見たら、この後のメインイベントの楽しみが減ってしまう。
しかし気になる。これからナデシコの中ではどんな話し合いがされるのやら。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

鳴無卓也は生きている。この戦艦の奥で待っている。
鳴無美鳥の言っていた事は、余分な部分を省き掻い摘んで言えばそういうことになる。
メルア・メルナ・メイアは震え初めている手に、笑い出しそうな膝に、だらしなく綻びそうな頬に、緩む涙線に活を入れ、誰よりも早くガウ・ラの中枢へと続いているだろう道へベルゼルートを飛翔させる。

『メルアさん、待って下さい! まずは一旦艦に戻って──』

聞こえない、聞いていられない。そんな時間がある筈が無い。
この先に居る。言われみれば確かに分かる鳴無卓也の気配。
考えるだけで体中の血液が沸騰し、咽喉がカラカラと乾き、心臓が破裂しそうな勢いで脈打ち、子宮がきゅうきゅうと音を立てて下に降りてくる。
機体を整備している暇なんてない。そんな事に時間は割けない。
早く速くとメルアの身体の細胞全てが、精神を構築する総ての要素が急かしてくる。
あの人に逢いたい、近付きたい、話がしたい、抱きしめて貰いたい!
しかし、逸る気持ちにベルゼルートが付いてこない。先ほどのオーバーフロウによって機体にはそれなりのダメージが残っていたのだろう。
メルアは瞬時に機体の状況を確認、煙を吹き今にも動かなくなりそうな部分へのエネルギー供給をカット。更に機体の装甲他、移動には不要なパーツを片っ端からパージ。
中枢までに接敵する可能性もあるが、当然そんな事は考えてもいない。
今はただ、ただこの先へ、待っている人の所へ。

「これで!」

機体の調整完了。
武装はほぼ死んでいるし、無茶な動きも出来ないがそれでもただ早く空を駆けるだけならこれで充分。
案内は要らない。この身体の蕩ける様な疼きが、全身の細胞のざわめきが、メルアに鳴無卓也の居場所を教えてくれる。
全身の装甲を剥がし、巨大な骨格を曝け出したベルゼルートが空を駆け、一直線にガウ・ラの中枢へ飛んで行く。

―――――――――――――――――――

「メルア? メルア応答しなさい!」

「落ち着けカティア、一旦ナデシコに戻ろう」

通信機に向かって呼びかけるカティアを統夜が静かにたしなめる。

「なんでそんなに落ち着いているんですか!? 今のベルゼルートで敵陣の真ん中に行っても、いえ、そもそもメルアが卓也さんと戦える筈がありません!」

「だからだよ」

カティアの問いに答えながらもB・ブリガンディをナデシコの格納庫へと移動させる統夜。
機体の冷却と整備を同時進行で忙しなく行う整備班に心の中で頭を下げる。連戦になるが、それでも整備や補給をおろそかにする訳にはいかないのだ。

「え?」

「メルアもベルゼルートも、今の状態じゃあ満足に戦えない。だから、卓也さんは手出ししない」

紫雲統夜は思考を巡らせ、冷静に現状を、敵の狙いを予想する。伊達に一年半も戦争をしていない。
そして今敵対している人物は、その中でずっと同じ艦で寝食を共にしてきた仲間だったのだ。敵対した場合、敵側、つまり自分達に何を望むか程度の事は簡単に予想が付く。

「どういうことだよ。なんでメルアが戦えない事が、鳴無が手を出さない事に繋がるってんだ」

理解しきれず困惑するリョーコの通信に返事を返そうとし、遮られる。

「新しい主は、全力の貴方たちとの戦いを望んでいる……」

ぽつりと、ミーティアと合体したフリーダムの中のキラが呟く。
フューリーの指揮官であったフ=ルーという女が戦闘を始める前に言った言葉だ。
戦闘後の展開のショックで多くの者が忘れていたその言葉。

「なるほどねぇ、彼は完全な状態のこちらと、全力で戦いたいという訳か」

苦虫を噛み締めるような声のエターナルブリッジのバルドフェルト。
ナチュラルとコーディネイターの戦争はその性質上、裏切り者、スパイというモノが極端に少なかった。
だが、地上での軍事行動の中、アマチュアの集まりであるザフトでは学べなかった多くの事を実践の中で学んでいたバルドフェルトは、そういったモノに対する理解が深い。

「そう、恐らく彼等は最初からこうなることを見越していたのだろう」

今一つ理解出来ていないクルーの注目を一身に浴びるフリーマン。
ナデシコのブリッジに立つ彼は、神妙な顔が映る多くのウィンドウを前に、ゆっくりと口を開く。

「思えば何もかもがおかしかったのだ。例えば彼等はいとも容易くフューリーの技術を解析し、自分達の機体へとその技術を組み込んでいた」

そう、ナデシコが回収したフューリーの機動兵器の残骸は、何も格納庫の中で案山子になっている訳では無い。
修理の完了した機体のうち幾つかはネルガル本社に送られ解析が進められている。
ラースエイレムなどの異星技術を一企業が独占するのは危険かもしれないが、そもそも回収された機体にはオルゴンエクストラクターなどの基本的な技術のみが使われているだけ。
悪用しようにも、あれらの量産機からはラースエイレムのヒントすら見つけることは出来ないのだ。
それならば本社の方でも解析を進め、ラースエイレムへの対抗手段を探って貰おうと、クルーの同意を得た上で会長の部下の元へと送り出されたのである。

だが、結果は芳しくないモノだった。
一部技術に火星文明の技術と似た理論が用いられており、ネルガルの技術をもってすれば量産する事も可能だが、パイロットに求められる適性が特殊過ぎて実用には程遠い。
単純にオルゴンエクストラクターやサイトロンコントロールユニットを搭載した所で、パイロットに適性が無ければ結局機体は動かせず、動かないただの的として出撃するはめになる。

「それをナデシコの中の機材だけで改造して出来るようにした、という事は……」

「サイトロンの適性があった。さもなければ、余程フューリーの技術に対して造詣が深かった、という処か」

「それだけではない。彼等の経歴にも疑問点があった」

ネルガルはナデシコのクルーとして選ばれた人材の経歴を、その情報網を持って徹底的に洗っている。
ナデシコは火星の遺跡から得た最新技術の塊である。選んだクルーの中に他企業のスパイが潜り込んでいないか確かめるのは極自然な事だろう。

「我が社の方で、彼等の経歴に怪しい所は無いと確認済みなのですがねぇ」

当然、飛び入りで参加した鳴無兄妹の経歴も調査済み。
彼等が幼少期を過ごした研究所、これまで戦ってきた戦場、それらすべてにネルガルの調査の手は伸びている。

「研究所の研究員は散り散りになり行方知れず、行く先々の戦場では同じ部隊の仲間とも交流せず、彼等を深く記憶している者は居ない」

「それって……」

ナデシコ、アークエンジェルでの彼らからは想像もつかない。
あの兄妹はあちこちに頻繁に首を突っ込み、パイロットの間ではそれなりに親しい者も居た。整備班の連中とは技術関係で話し合った事も多い。
その職業から一部クルーには好かれていなかったが、大概のクルーは彼と何らかの交流を持っている。

「ここで重要なのは彼等の振る舞いではない。今まで彼らに関わった者の中には、ただの一人も、彼等を良く知る人物が存在していなかったのだ」

個人としての交流が少なくとも、彼等の経歴が嘘で無いこと、どこの企業とも繋がりが無いという事を証明する最低限の情報だけが、何故か彼等の頭の中に記憶として存在していた。
あまりにも不自然。個人的な交流が少ないにも関わらず、思い出したかのように唐突に『鳴無兄妹の身の潔白を証明する発言』が飛び出してくる。
個人的な交流があり、性格などを熟知した上で彼等を庇うのであればおかしな点は無い。
だが、調査対象となった者達は、鳴無兄妹の事を『そういえばそんな連中も居たな、あまり話をした覚えは無いが』といった程度にしか覚えていない。
どういう人物か覚えていないのに、その人物が潔白だった事だけは記憶している。

ネルガルも本来ならば多少は怪しむ不自然さだ。だが、鳴無兄妹の経歴の調査を行った調査員達もまた『それが不自然である事に気付けなかった』ことが判明している。
ネルガルの調査員達は、彼等の証言の不自然さを報告書に記すことなく、潔白であるという証言が取れたという事実だけを報告書にまとめて提出してしまった。
これらの事実は、ナデシコとアークエンジェルがオーブを脱出した後にフリーマンが派遣した調査員が初めて発見した。
フリーマンの調査員に当時の事を聞かれたネルガルの調査員は、何故あの不自然な証言を間に受けてしまったのかしきりに首を傾げていたという。

「彼等がその不自然さに気付くことが出来たのは丁度、鳴無兄妹がオーブで別れた後、つまり──」

「鳴無卓也と鳴無美鳥がナデシコに残る必要が無くなったから、彼等はその不自然さを認識する事ができるようになった、と?」

フリーマンの言葉をイネスが引き継ぎ、それにフリーマンが頷く。

「それ以外にも、彼等が進入禁止区域の監視カメラに映っているのにも関わらず、誰もそれに気づくことが出来なかった。という証言も方々で出始めたよ。当然、あのオーブ脱出以降に限られるがね」

つまりフリーマンはこう言いたいのだ。
『彼等は人の精神に作用する何らかの技術、技能を用いてナデシコに潜り込んでいた』
ナデシコとアークエンジェルの双方に沈黙が流れる。
精神操作や記憶操作の技術は各陣営に多くはないがそれなりに存在していた。
だがフリーマンの言う事が正しければ、彼等はそれを、何の準備も無くその場その場で気安く多用していたという事になってしまう。
そして、その記憶操作の対象となってしまったであろう事が明らかな人物が存在している。
ナデシコのブリッジで俯いたまま沈黙を保っている、青い髪の少女。フューリーの皇女であるシャナ=ミア・エテルナ・フューラ。
彼女がガウ・ラとフューリーの現状を話す際、彼女には当然嘘発見器も使用されていた。だが、発見機の判定は白。
その上で起こった、彼女の証言と、ガウ・ラの現状の食い違い。現在ガウ・ラを支配しているという鳴無卓也の存在を知らなかったという事実。
それこそが、鳴無兄弟が記憶を操作する技術や技能の類を持ち合わせている何よりの証拠となっているのだ。

「でも、どうしてあの二人はナデシコに乗り込んだんでしょう」

「さて、思いつく目的はいくつもあるが、それは直接彼等に聞いてみるのが早いのだろうな」

ナデシコとアークエンジェルは進む。疑念を残したまま、最終決戦の場へと。
決戦まで、あと僅か。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

ここまでの道のりで、時折現れる前に進むのに邪魔になる敵を片端から薙ぎ倒してきた。
お陰で、今度こそベルゼルートはスクラップ寸前。オルゴンライフルの予備カートリッジも使い切りショートランチャーも弾切れ、とても戦えるような状態ではない。
だが、メルアの駆るベルゼルートは遂に開けた場所に出る。
ベルゼルートの計器が、ガウ・ラ中のエネルギーがこの場所へ向けて集まっているのを感知している。ここがガウ・ラの中央区画、間違いなくここに居る。
50メートル級の機体が数百体飛び跳ねて戦闘機動を行っても余裕だろう広さを持つ部屋を見渡す。
膨大なサイトロンエナジーの流れ込む先、幾つもの巨大な柱のようなものが並ぶ先に鎮座する、ラフトクランズを尖らせて巨大化させたような機動兵器。
その機動兵器からの通信。
ナデシコとアークエンジェルのクルーしか知らない筈の周波数での通信。これを知っているという事は──

「おや、ベルゼルート一機だけか」

──聞こえた。
確かに聞こえた。もう何年も聞いて無かったような気さえする懐かしい声。

「卓也、さん」

声が震える。目の奥が熱い。視界が滲む。

「ん? ……ああ、メルアちゃんか」

映像が繋がる。
ベルゼルートのコックピットのモニタに新しくウィンドウが開き、懐かしい顔を映し出す。
短く纏め、艶の少ない黒髪。優しい顔つきに、全体の作りの中で一か所だけ浮いている鋭い眼差し。
最後に、あのオーブで見た時と、何一つ変わらない。
その顔が、どこか申し訳なさそうな、しょうがないなぁとでも言いたそうな表情を形作る。

「久しぶり、元気にしてたか?」

「──っ!」

堪え切れない。
オルゴンライフルをその場に放り捨て、ブースターを全開で吹かし、メルアのベルゼルートが巨大な機動兵器、ズィー・ガディンへ向けて加速する。
ズィー・ガディンがその手に携えていた剣のような武器を少し構えるが、それにも構わずただ真直ぐに突き進むベルゼルート。
そのコックピットが開き、メルアが空中へと飛び上がる。ベルゼルートの加速に乗り、ズィー・ガディンへ向け放物線を描きながら飛んで行く。
操縦者を失い、しばらくふらふらと飛んだ後に地面に墜落するベルゼルート。
メルアが激突する直前、その巨体に似合わぬ軽快な動きで後方へと下がるズィー・ガディン。コックピットが開き、中のパイロットがメルアを両腕で受け止める。
自分を受け止めた人物を、決して放すまいと強く抱きしめるメルア。

「た、くや、さん、たくや、さん、だぐやざぁん……!」

泣きじゃくり、涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしたまま、確かめるように繰り返し名を呼びかける。
そんなメルアの頭を、ズィー・ガディンのパイロット──鳴無卓也の手が、短く刈られた金髪を梳くように優しく撫でる。
その掌の感触に、オーブで別れてからずっと凍えたように堅く強張りざらついていた心が、温かさと柔らかさを取り戻していくような安らぎを感じ、メルアは目を細める。

「髪、切っちゃったんだな」

顔を上げ、えづくのを堪えながら、メルアはふと我に返り身を慌てて離した。
そういえば、ここ最近はまともに髪の毛のケアをしていない。そもそも、見せる相手が居なくなったからケアする必要も無いだろうと、洗い易くする為にバッサリやってしまったのだった。
戦闘後のシャワーでも身体を洗うのは適当だし、食事も短い時間で済ませる事の出来るジャンクフードとサプリメントばかりだったから肌もだいぶ荒れていると思う。

「あ、あのあの、わたし、えっと、その……!」

「うん」

みっともない姿を見せていると思い、頬を赤く染めわたわたと手を振り慌てるメルアを急かさず、ゆっくりと聞く態勢で待つ卓也。
その様子を見て、少し落ち着き、ゆっくりと頭の中を整理して言いたい事を考えるメルア。
しかしいざ思考を纏めようとすると、言いたい事が多すぎて一つに纏まらない。言葉が泡のように浮かんでは消えていくような感覚。

メルアはそれらを、纏まらないままに、思いつくままに話した。
オーブで別れた後、散々泣いた後しばらく塞ぎ込んでいたこと。
それから仇を討とうと機動兵器の訓練を始めたこと。
動かせる機体が無くて、辛うじて適性があったベルゼルートを改造したこと。
来る日も来る日も、ベルゼルートのコックピットと食堂と自室の間だけを往復したこと。
白兵戦になっても戦えるように、ネルガルのスタッフやミスリルの人達に銃の使い方を教わったこと。
実戦に出て、だんだんまともに戦えるようになってきたこと。
そして──

「死んじゃったんだって、思ってました」

ずっと、死んでしまったこの人の仇を討つ為だけに戦ってきた。フューリーでなくとも、自分の前に立ちふさがる相手はリクレイマーもコーディネイターもナチュラルも関係なく、片端から殺して進んできた。
それに文句を言うつもりはない。自分ひとりで戦うのは初めてでも、統夜のサブパイロットとして散々人を殺してきたのだから。今さらそんな事をどうこう言う資格は無いし、言うほど気にもしていない。
だが、だがしかし、だ。

「なんで、生きてるって、教えてくれなかったんですか……?」

そのメルアの問いに、困ったような表情の卓也が口を開く。

「美鳥から聞いているだろ?」

そう、デビルガンダムに乗った鳴無美鳥は確かに言った。鳴無卓也を殺さなければ地球は終わる、と。
このフューリーの母艦であるガウ・ラ=フューリアを機動させれば月の外殻は恐ろしい速度で外に飛び散り、地球の生態系を確実に完膚なきまでに破壊し、進化の歴史をリセットする。
それを止めるには、鳴無卓也を殺すしかない。
冗談は言うが、意味の無い嘘は吐かないのが鳴無美鳥という少女だ。
そして、目の前のこの人は確かにフューリーの総大将が乗るべき機体に乗っている。
いや、そんなものよりも確実な証拠がある。彼がガウ・ラの膨大なサイトロンエナジーを操っているという事を、サイトロンの適合率の上昇したメルアは肌で感じ取っているのだ。
彼はその気になれば、今この瞬間にも地球を破壊し尽くす事ができる。
彼は、鳴無卓也は、紛れもなく人類の敵対者なのだ。

「それでも! それでもわたしは、貴方のそばに居たかったんです! 地球が滅んだって、人間が一人も居なくなっても、わたし、私は……」

よく耳を澄まさなければ聞こえないような小さな声で、今度こそ自らの思いを告げるメルア。
そんなメルアを抱き寄せ、背を優しくぽんぽんと叩き落ち着かせる。
しばしそのままの姿勢で抱きしめられるままだったメルアだったが、その内に小さな声で問いかけた。

「わたしに、何かお手伝いできることはありますか?」

そう問われた卓也は、一瞬呆気にとられたが、直ぐに優しげな笑みを浮かべ頷き、メルアに一つの頼みごとをした。

―――――――――――――――――――

「これでよし、と」

俺は、その生き物の臓のような生々しさを持つコックピットと、その中で死人のように静かに眠っている金髪の少女を一瞥し、その場から飛び降りた。
100メートル級の巨大機動兵器の胸部コックピットから飛び降りる。言葉にすると簡単だが、実際は想像しにくいものだろう。スカイダイビングと例えるには少し高さが足りないか。
どんな気分かてっとり早く知りたければ、ちょっとした高層建築物の屋上から飛び降りてみればいい。
勿論、着地出来るだけの技量か頑丈さがある事が前提になる。
そういった特殊技能無しに飛び降りて、万が一潰れたトマトのような何かに進化してしまったとしても当方は一切の責任を取れない。
適切な技能のお勧めとしては魔戒騎士あたりを推したい。これなら高層ビルから飛び降りてもどうにか減速できるし、『凄い、あの人落ちながら戦ってる……!』とギャラリーを沸かす事も可能だ。
今なら戦闘中に指輪が主題歌を熱唱してくれるサービスも付いてくる。もちろん嘘だ。

重力を操り落下速度を落とし、その場で後ろを振り向く。
メルアを乗せた巨大機動兵器、ズィー・ガディンだったものは既にその身を深く壁に潜り込ませ、趣味の悪いオブジェのようなものへと変化を始めている。
いや、潜り込ませているというよりは、壁と、ガウ・ラと融合を始めていると言った方が適切だろう。
いい感じだ。上手い具合に上半身だけが突き出てるあたりとか、いかにも囚われてますって感が出ていて素晴らしい。自画自賛だがな。
うんうん頷きながらゆっくりと地面に向けて落下していると、思ったよりも早く着地した。
いや、未だ地面には遠い。ズィー・ガディンの膝よりも少し下あたり。地上まで20メートルはある。

「戻ったか」

ターンXの上半身に、逆さにしたデビルガンダムジュニアの下半身を持つ微妙なデザインの機動兵器が地面に直立し、俺をその肩に乗せている。
頭部コックピットから、ここでは無い月の御大将のような衣装に身を包んだ美鳥が、気だるげに這い出てきた。

「今戻ったんじゃなくて、空気を読んで裏側の空間から見守ってたんだけどね。お兄さんが金髪巨乳を甘やかしてる時もじっと我慢で見守っていたんだけどねぇぇ……」

不満げにジト目をこちらに向ける美鳥に、俺はその場に座り込みながら肩を竦めて言葉を返す。

「甘やかしていた訳じゃないぞ、あれはメメメの体内のナノマシンに働きかけて、メメメの身体がどんな進化を遂げたかを調査させてたんだ」

最近は意識する事も少なかったが、あのナノマシンは宿主の生体データを俺に報告する機能が存在している。
それを使って、メメメがベルゼルートで戦えるようになった原因を探ろうとしたのだ。
そんな俺の言葉に、座り込んだ俺の肩にしな垂れかかりながら、ほんの少しの好奇心を滲ませた声で美鳥が訊ねる。

「ふぅぅん。で、なんか面白い結果は出た?」

「体内に潜伏していたナノマシンが極端に減って、八割方肉体と脳細胞に同化している」

そして、ナノマシンとの融合を果たした部分の肉体の組成が、サイトロンをコントロールするに相応しい形へと変貌を遂げていたのだ。
フューリーを、身近に居た統夜を模している部分もあったが、恐らくベルゼルートでサブパイロットを行っていた時に対応しきれなかった部分を補おうとしたのもあるのだろう。
サイトロン制御の機体で戦った場合、機動制御に関しては統夜を上回る可能性がある。
本来ならば思考の誘導と生体データの観察だけに特化させたナノマシンが生体組織との融合を行う事は有り得ない筈なのだ。これはメルアの身体とナノマシンの相性が良かったのか、それともメルアの思考にナノマシンが引っ張られたのか。
もしかしたら、俺の身体を構成するナノマシンの新たな進化の可能性なのかもしれない。
そんな俺の説明を聞き終えた美鳥が、ほんの少しだけ憐れむような感情を含んだ視線を、ズィー・ガディンのコックピット辺りに向ける。

「それで、あれ?」

「おう。なんか問題でもあるか?」

恐らく、俺がメルアに頼んだ『お手伝い』の内容も聞いていたのだろう。
サポートAIだなんだと言いつつも、何だかんだでお人よしなところもあるのだ。

「んにゃ、望み薄ではあるけど、金髪巨乳にも希望が無い話じゃねぇし。いいんじゃねぇの?」

お人よしな部分もあるが、この様にあくまでもサポートに支障を来さないレベルのお人よしだ。
毒にも薬にもならない、心の余裕的な意味合いしか持たない同情しかしない。
コイツはトリップ先の全ての存在に生温いようでいて、結果的にはとても冷たく薄情な感情で持って切り捨ててみせる。
頼りになる奴だ。こいつが居るからこそ安心して力を取り込んでいく事が出来る。

「ん、お前が俺のサポーターで良かった」

「ふしし、照れるぜ」

ぐしぐしと荒っぽく頭を撫でると、甘える猫のように体を擦り付けてくる。
俺はナデシコとアークエンジェルの到着まで、身を寄せる美鳥の喉を人差し指で擽りリアクションを楽しむ事で時間を潰した。

―――――――――――――――――――

……………………

…………

……

塞ぎ込むシャナ=ミア皇女を説得し、サイトロンエナジーの流れ込むガウ・ラ中央の広間へと辿り着くナデシコとアークエンジェル。
この広間はかつて、フューリーの聖騎士団の練兵場などを兼ねた講堂のようなものだったという。
しかし、今この広大な広さを持つブロックには、ただ一機の機動兵器だけが佇んでいる。
MFデビルガンダム。
全高約20メートル程度のその機動兵器の肩の上に、彼等の見知った人物が二人。

「遅かったじゃないか……」

ナデシコとアークエンジェルを歓迎するかのように、超然とした笑みを浮かべる男。
ガンダムファイターに拮抗する身体能力を持ち、あらゆる技術系統を無節操に学び、自らの機体を際限なく強化する頭脳をも併せ持つ超人。鳴無卓也。

「ラストダンスだ。ドレスの準備は万端かぁ?」

彼に身を寄せしな垂れかかり、僅かに幼さの残る顔に蟲惑的な笑みを浮かべる少女。
兄である鳴無卓也と同じく、人間を超えた身体能力と頭脳を併せ持つ超人。鳴無美鳥

機関部からこの中央ブロックへ向かう中で何度か軽い戦闘をこなし、最終的に整備が完了した機体数は、僅かに20にも届かない。
しかし、撃墜数、損耗の少なさ、機体性能などの要素から優先的に整備と補給の行われたそれらの機体は、まさしくナデシコ、アークエンジェルの誇る最強の戦力と言っても過言では無い。
連携の取れない、あるいは取り難い機体。または性能、パイロットの腕のお陰で足を引っ張る機体が外れた事で、出撃している機体達はその性能を存分に性能を発揮する事が出来るだろう。
ここに、地球圏最強の部隊が集結したのだ。
鳴無美鳥と鳴無卓也の望む、彼等を倒す為だけの力が。

「卓也さん……」

既に整備と補給を完了し、ナデシコから出撃していたB・ブリガンディのコックピットで、統夜が眉を顰めた険しい表情で、苦しげに呟いた。
その呟きが聞こえていたかのように、MFデビルガンダムの肩の上の卓也がB・ブリガンディの方へ顔を向け、幼い弟の成長を実感した兄のような喜びを含んだ声で語りかけた。
あの肩の上の声をMFデビルガンダムのコックピットのマイクが拾っているのか、それとも服に小さいマイクでも忍ばせているのか、その声は確かに通信から聞こえてくる。

「統夜か。B・ブリガンディを上手に使いこなしているようで何より。それでこそ倒しがいがある」

だが、その内容は残酷そのもの。
統夜に託された新しい力ですら、最終的に戦う相手を倒す価値のある強さにする為の、高みへと連れて行く為のモノだった。そんな意味合いを含む卓也の言葉に反応したのか、他のパイロットが食ってかかる。

「卓也さん! あんたはなんでこんな真似を!」

マジンカイザーの兜甲児。ナデシコに乗る前、ベルゼルートが地上に降りた時からの付き合いであり、部隊の中でもそれなりに長い付き合いである。
甲児もまた、一年半に渡るナデシコでの転戦の中で鳴無兄妹と交流を深め、この戦いに疑問を、そしてそれを上回る怒りの感情を持っているのだ。
そんな甲児の問いに、顎に指を当てしばし考え、ゆっくりと語りだす卓也。

「そうだな。まずは、俺が何故ナデシコに乗り込んだか、という所から説明するべきか」

「ナデシコに乗り込んだ理由。やはり君は最初から何らかの目的を持ってナデシコに乗り込んだという事か」

ナデシコのブリッジに控えるフリーマンに、大きい頷きを返す。

「といっても、それほど複雑な理由があった訳じゃあない。あそこに地球圏の最新兵器が集まることは最初から知っていたからな。機体のデータを手に入れる為には整備員かパイロットとして入り込むのが面倒が少なくて良かったってだけの話さ」

「最初から、知っていた? ……まさか」

B・ブリガンディのコパイシートに座るカティアが驚きの声を上げる。
あらかじめ未来の事象を近くする技術に心当たりがあったから、いや、統夜を除けば部隊で彼女を含む三人娘が一番その技術に深い関係を持っていたから。
サイトロン。未来から過去に情報を運ぶ性質も持つその粒子とそれらを扱う科学技術。
だが、その呟きに卓也は首を横に振り否定する。

「残念ながらハズレ。その頃はまだフューリーの技術は持っていなかったんだ。だからこそ、真っ先に君達とベルゼルートに接触した訳だが」

あの頃は時間停められたら抵抗のしようも無かったからなぁ、としみじみ語る卓也に、ナデシコのブリッジからテニアの震える声が掛けられる。

「じゃあ、あたし達があの日、あそこに落ちてくる事も、その前に統夜のお父さんが宇宙で殺される事も」

「知っていたよ。あのタイミングで助太刀に入れば、多少なりとも信頼を得ることが可能だと思ったからな。自分達を助けてくれた人物が死んで、不安に駆られている時ならなおさらだ」

マジンカイザーと並び立つグレートマジンガーのコックピットで怒りに震える剣鉄也が。

「ならば、光子力研究所で最初に顔を合わせた時に一人だけ遅れてきたのも!」

「察しがいいな。当然、光子力研究所でも思う存分技術を盗ませて貰ったよ。警備がザルで助かった。弓教授にも礼を言っておいてくれ」

真剣な表情のドモン・カッシュが、コックピットの中で腕を組み仁王立ちで。

「なるほどな、デビルガンダムやマスターガンダムに率先して接近していったのも」

「その通り。デビルガンダムの三大理論と、マスターガンダムのDG細胞に残された流派東方不敗のモーションと運用理論を手に入れる為だ。もっとも、MF搭乗時の動きしか手に入らなかったから、中途半端な猿真似じみた動きになってしまったがね」

フリーダムのコックピットで、キラが愕然と。

「じゃあ、オーブでフリーダムの整備に手を貸していたのも」

「うむ。他の連中に悟られぬようにNJキャンセラーを解析する程度朝飯前だった。もっとも、そんな真似をしなくともあちこちに製造法はばら撒かれたようではあるがな」

ブレンの中の宇都宮比瑪が何かを思い出したかのように。

「もしかして、あのプレートを奪っていったのも?」

「そうそう。因みにあれはあの時点から見て未来から来た俺と美鳥だな。そこまでで手に入れた技術の確認もしておきたかったから丁度良かった。アンチボディは使い減りしないから良い的になるんだこれが」

ナデシコのブリッジ、艦長であるミスマルユリカが、驚愕に顔を歪め。

「じゃあ、じゃあ! これまでの事は全て、貴方の思い通りだったってことですか!?」

「いかにも、いかにも、いぃかにもぉっ! ナデシコへの潜り込み方から、どんな事件が起こるか、各陣営との戦闘の順番、タイミング、何処でどの技術を盗むかまで、すべて俺の予定通りということよぉ!」

超然とした、優雅とすら取れる表情を壊し、歯を剥き出し破顔する鳴無卓也。
地が揺れる。彼の感情に呼応するように、腹を抱えて笑っているかのように、脈打つようにガウ・ラが脈動する。
その揺れに怯まず、B・ブリガンディの統夜が静かに問う。

「……メルアは、メルアはどうした。ベルゼルートで先行したメルアがここに来ている筈だ」

もはや敬語ではない。あの南海の孤島でボウライダーを見た時のざわめきは現実のものとなったのだと、騎士の血が告げている。
鳴無卓也は、もはや、完膚なきまでに、自分達の敵対者なのだと。
メルアがどうなったのか、嫌な予感しかしない。当たって欲しくも無いのに確実に当たると分かる類の予感。

「メルアちゃんは、あそこだ」

表情を正し、顎をしゃくるようにして指し示した先、壁にめり込むようにして存在する超巨大兵器。その表面は生き物のように蠢きうねり、常にその形を変化させ続けている。

「あれは、ズィー・ガディン……?」

「フューリーの創世神話に登場する神を模した、フューリーの最高指揮官機か」

ナデシコのブリッジで呆然と呟くシャナ=ミアと、ゼオライマーのコックピットでマサキの記憶を手繰りよせるマサト。

「それに、デビルガンダムのものと同等のレベルまで進化したDG細胞を掛け合せ、ガウ・ラと融合させたもんだ。メルアは、晴れてそのコア・パーツとして組み込まれたっつう訳さ!」

目を細め、口の端を釣り上げて酷薄に笑う美鳥が叫ぶ。
ギリ、と歯を食いしばる音が通信から聞こえる。
B・ブリガンディのコパイシートのカティアが、苦しげな表情で、無理矢理に喉から搾りだすような声で、弱々しく呟く。

「メルアは、貴方の事を、貴方に、好意を抱いていました」

「うん、だからこそ、『何か手伝えることはありませんか、手伝わせて貰えませんか』というメルアちゃんの願いをかなえてあげたんじゃあないか。彼女はつくづくいい実験体だ、向いているのかもわからんね」

平然と返す卓也に、この会話を聞いていた全員が血液を沸騰させるほど怒り、次の瞬間に響いた叫び声で我にかえった。

「い、いやぁぁぁぁっ!」

ガウ・ラと一体化したDGズィー・ガディンの表面が一際大きく蠢くとともに、ナデシコブリッジのシャナ=ミア皇女が膝をつき悲鳴を上げていたのだ。

「ど、どうかしました?」

困惑しながら問いかけるユリカに、震える声でシャナ=ミア皇女が告げる。

「ガウ・ラの全エネルギーが、あのズィー・ガディンに向けて流れ込んでいます! 民たちの時を繋ぎとめているサイトロンエナジーが、吸い取られているのです!」

「えぇ! な、なんで今そんな事を!?」

フューリーの民を殺すことになる事も驚きだが、この状況で戦える状態には見えないズィー・ガディンにエナジーを集める理由が分からないのだ。
サイトロンエナジーの流れを操っているだろう鳴無卓也に、シャナ=ミア皇女が必死に懇願する。

「やめて、やめてください! すべての未来が滅んでしまう!」

必死の形相の皇女を眺め、鳴無美鳥が無邪気に、あるいは酷く残酷な子供のように笑う。

「なぁに言ってんのさぁ、消えるのは月の、それも本当は何十億年も昔に滅んでいた筈のフューリーだけ。一人も残さず滅んでも未来は無くならないし、明日も世界は回ってるぜぇ? ああなんか今の名言っぽくね? ひひひぐぇ」

「ちょっとはしゃぎ過ぎだ。少し落ち着け」

そんな美鳥の頭を軽く小突き窘め、元の表情に戻った卓也が説明を始める。

「悲しむ事はありませんよシャナ=ミア皇女。心配せずとも、ステイシスベッドには最早一人も貴女の民たちは眠っていないのですから」

優しげですらあるその言葉に、少しだけ落着きを取り戻すシャナ=ミア皇女。
だが、次の瞬間に思いついた問題点を、嫌な予感を感じつつもついつい声に出して聞いてしまう。

「お待ちなさい、ステイシスから目覚めてもすぐに動くことが可能になる筈がありません」

凍結させる代わりに時間を止めることで時を超えるステイシスも、やはり完全では無い。
何十億年にもわたり時を止められていた身体は、その時代の宇宙空間に含まれるエネルギーの密度に馴れるのにそれなり以上に時間が必要になる。
膨張を続け、熱量が少なくなっていく宇宙。
数百年、数千年程度ならば問題無いが、数十億年も時間が経過すれば宇宙は大分膨張し、一定の空間に含まれるエネルギー量は大幅に変化しているのだ。
その違いに肉体が変調を起すのを防ぐため、ステイシスから目覚めた者はまず専用のリハビリを受けるか、さもなければ何らかの肉体改造処置を受ける必要がある。
卓也はその問いに鷹揚に頷き、答える。

「ええ。どうやら皆さんだいぶ身体が弱っている様でしたので、僭越ながらこちらで勝手に処置を行わせて貰いました。皆さんとても元気になられましたよ」

笑顔で告げられた予想よりも幾分まともなその言葉に、胸を撫で下ろす皇女。
しかし、その答えにまたも疑問が投げかけられる。
ミスリルから出向の、ASアーバレストに乗るプロの傭兵、相良宗助。

「……鳴無、その処置を行った連中は、いったい何処に居る」

その問いに、口の端を裂けるのではないかと思うほど釣り上げ、笑みを深める。

「おや、ここに来る途中で大量にすれ違わなかったかい軍曹。何だかんだ言って病み上がりみたいなもんだから、今までの連中に比べてだいぶ動きが鈍いし、直ぐに見分けが着くと思うんだが」

『肉体改造』『大量に』『すれ違う』『今までの連中と比べて』『動きが鈍い』
これらのキーワードから答えを一早く導き出したのは、当然と言えば当然、その肉体改造技術に深く関わっている、同じ改造を施された者だった。
ペガスに乗ったDボウイ──テッカマンブレードが、ランサーを折りかねない力で握りしめ、叫ぶ。

「まさか、ここに来るまでに出てきたテッカマンは──!」

「いかにも、肯定、おめでとう、予想通りで大当たり。あれらは一人残らず、一欠けも余さず、この月で眠っていたフューリーの一般人をベースに作り上げたテッカマンだ!」

悪戯が成功した事を喜ぶ童のように、無邪気で、残酷で、心底愉快で堪らないといった愉悦に浸った表情で楽しげに手を叩く。
そして、三日月のように吊りあがった口から、くつくつという引き攣る様な笑い声と共に、決定的な言葉が放たれる。

「で、どんな気分かな? 助けようとした相手を、自分達の手で始末した気分は」

全てを言い終えるよりも早く、卓也の真横一メートルも無い至近距離を、オルゴンの結晶弾が通り抜けた。
その弾丸を放ったのはB・ブリガンディ。
コックピットの中、操縦艦を握りしめた統夜は義憤に震える騎士の血を燃やし、怒りに満ちた眼差しで、MFデビルガンダムの肩に乗る二人を見据える。

「俺、ここに来るまで、もしかしたらと思っていた。もしかしたら、まだ話し合いでどうにか出来るんじゃないかって。一緒に戦ってきた、かつての仲間なら、もしかしたらって、どこかで考えてたんだ」

「馬鹿馬鹿しい話だな。いや、馬鹿じゃないか? お前」

卓也の、かつて自らを導いた者の無情な言葉を聞き、くっ、と、何かを堪えるような音が統夜の喉から漏れる。

「……本当にそうだ。もう貴方を、いや、お前を許しはしない。見逃せもしない!」

B・ブリガンディの前腕に備え付けられたオルゴンラグナライフルから、結晶で構成されたブレードが展開する。
その剣の尖端を突き付け、紫雲統夜は、騎士トーヤ=セルダ・シェーンは、静かに、しかし重々しく宣言する。

「この剣に誓い、お前はここでヴェーダの闇に返す。騎士の情けだ、自分の機体を喚べ、鳴無卓也!」

―――――――――――――――――――

この瞬間を、この展開を、この戦いを、俺はずぅっと待っていたんだ。
見せつける時が来た、この世界で得た力を。
証明する時が来たのだ、俺がこの世界で得た力は、オリジナルの持ち主をも容易く蹂躙し得る程のものである事を。
故に、俺はその誘いを断る言葉を、意思を持たない!

「応!」

MFデビルガンダムの肩から、跳ぶ。数百メートルを一瞬で飛びあがりナデシコとアークエンジェルを、その周りに展開するかつての仲間達の機体を見下ろす。
人間では有り得ない跳躍力。だが、これは前の世界でも出来た事、誇るべきものでも無いもはや当たり前のものと化した俺の力。
だからこそ、続けて見せる。この世界で得た力、その集大成を。
宙を駆け上がり、空に浮かび、掌は上に広げ、広げた掌を力強く、天を掴み取るように握り締める。
空間が入れ替わる。この時の為に、凝りに凝って作り上げた、この世界で最強の名を冠するに相応しい機体が、俺の身体を中心にこの世界に顕現する。

「見よ、これが──」

初期数値を自重せず、機体の20段改造を自重せず、PP振りを自重せず、強化パーツを自重せず、精神コマンドも当たり前のように自重しない。
どれだけ周回を重ねても倒す事の出来ない、プレイヤーとキャラの心を圧し折る為だけに生み出されたラスボス!

「これこそが、貴様らに、覆しようのない敗北を齎すモノの姿だ!」

―――――――――――――――――――

宙へ飛んだ鳴無卓也の身体を鎧うように出現したそれは、一見して少し人型を歪めただけの、何の変哲も無い機動兵器であった。
ナデシコ搭乗時に使用していたボウライダーがベースなのか、各部に緩やかな曲線と直線を含んだ装甲。
純白だったその機体色は今、宇宙の色を吸いこんだ様な深い黒色で塗りつぶされている。
全体に歪さを残しながら、より人体の構造を忠実に模したシルエットへと変化したそれは、格闘戦を考慮してのモノか。
機体胸部と手首には仄かに光る用途不明の球体が埋め込まれ、そこから全身に複雑な模様を描くように光のラインが走っている。
ボウライダーのメインウェポンだった電磁速射砲は存在せず、前腕部側面には四基のコネクタが付いている。
換装で付け替えが利いた大型クローは存在せず、後方には数機程の黒い立方体が数十基、ふわふわと浮かびながら消えたり現れたりと、蜃気楼のように不安定にその姿を見せている。

全高は、おそらく15メートルほど。
ボウライダーよりは一回り大きいが、それでもMSなどと比べても小型と言っても過言では無いサイズ。
しかし、その機体からは言い表しようの無い、まるでこの世の存在では無いかのような威圧感が溢れている。
十五メートル程の機体が存在する空間に、無理矢理大隊規模のスーパーロボットを押しこんで人型に纏め上げたような圧倒的な存在密度。
だが、ナデシコもアークエンジェルも幾多の戦場を乗り越えてきた精鋭。その異様な雰囲気に呑まれることなく迎撃の指示を出す。
先ずは得体のしれない未知の敵よりも、既知の驚異から取り除く。

「艦尾ミサイル全弾照準! ヘルダート用意、バリアント、狙え!」

艦橋後方の16門艦対空ミサイル発射管にミサイルが装填され、艦側面に配置されたリニアガンが棒立ちのMFデビルガンダムを狙い打つ。
未だ搭乗者である鳴無美鳥が乗りこんでいないMFデビルガンダムは、しかし当然のようにその卵型の前腕部で打ち出された弾体を払いのけ、肩に乗る自らの搭乗者を守る。

「鈍い鈍い、鈍過ぎて欠伸がでるぜぇ」

連続で迫る弾体を気にも留めず悠々と頭部コックピットへと戻る鳴無美鳥。
コックピットの中に搭乗者が戻ると、攻撃を防ぐ時もどこか機械的だったMFデビルガンダムの動きに、生物的な躍動感が生まれる。
次いで、MFデビルガンダムが重さを感じさせない軽やかな歩みでアークエンジェルへと接近。二歩、三歩と歩む内に、映像をコマ落とししたかのように急速に距離を詰める。
一人だけ時間の流れの外に居る様な、時間すら飛び越えるフットワーク。

「やらせるかよ!」

アークエンジェルから出撃したバスターガンダム、ストライクガンダム、デュエルガンダムAS、ストライクルージュがビームライフルや対装甲散弾、レールガンなどをMFデビルガンダム目掛け放つ。
だが、ビームは全て紙一重で避けられ、散弾やレールガンなどの実体弾は全てMFデビルガンダムの巨大な五指によって摘まみ取られ、接近を止める事すら出来ない。
MFデビルガンダムはアークエンジェルまであと一歩という処まで迫り、そこで急停止、一足飛びにデュエルガンダムASの懐に飛び込み、光を湛えたその五指をコックピットの下、下腹部の辺りに押し付ける。

「元競技用ごときがぁ!」

しかし、イザークとて伊達に高い金を費やして遺伝子調整を行われた訳では無い。
即座にビームサーベルを抜き放ち、押しあてられたマニュピレーターを切り落とさんと振るう。

「やっぱりさぁ」

「ぐッ」

が、ビームサーベルを構えた両腕が、肩関節から爆発する。
いつの間にかMFデビルガンダムの脚部から切り離されていた四天王ビットの一つが、PS装甲に守られていない関節部にニードルを突き刺し、そのまま自爆して腕を破壊したのだ。
角度的に懐の敵にレールガンは当てることが出来ない。ミサイルポッドは自分も巻き込まれる。イーゲルシュテルンは今まさに当て続けているがダメージになっていない。

「これで潰す相手は、ドモンか相良、さもなきゃてめえしか居ねえよなぁ? これが──」

軽く当てられていただけだったマニピュレーターの五指は今や下腹部を鷲掴みにし、逃げる事も敵わない。
五指の間に湛えられていた光は遂に、破壊的な熱量を伴いデュエルガンダムASの装甲を熔解させる。

「こんな、こんな事が……」

「シャイニングフィンガーというものかぁ!」

追加装甲をも容易く貫くビームの熱量によって、呆気なく撃破されるデュエルガンダム。
爆発寸前のそれを、ゴミをごみ箱にでも放り投げるかのような気安さで明後日の方向に投げ捨てるMFデビルガンダム。

「イザーク! てんめぇ!」

「落ち着け、パイロットは無事だ」

「お前、これ以上好き勝手出来ると思うなよ!」

残りの三機が陣形を組み直す。二機のストライクが前衛、バスターが後衛に回り援護を行うといった陣形なのだろう。
投げ捨てられたデュエルの残骸を射線上に入れないように考えられているのか、ストライク、ストライクルージュは片手にサーベルを構えつつビームライフルを連続で発射しながらMFデビルガンダムへ迫り、バスターも収束火線ライフルで援護に入っている。
だが、連携を組み迫る三体のMSを前にMFデビルガンダムは余裕たっぷりに両腕を広げ、もはや避けることすらせずにバリアを張りその全てを無効化する。

「手前ら雑兵を片付けるのがあたしの役目なのは確かだけどさ、だからってそんな手間をかけてやるつもりは無ぇんだ」

「手間掛けたくないなら、さっさとやられちゃくれんかな」

効果が無いと見るやビームライフルを戻し、両の手にサーベルを構え直すストライク。そのパイロットであるムウ・ラ・フラガの半ば以上本音の軽口を美鳥は軽く鼻で笑い飛ばす。

「いんや、手前ら程度の雑魚にやられてやるよりぁあ、こっちの方がよっぽど簡単ってもんよ。──暴食せよ、『スターヴァンパイア』!」

MFデビルガンダムの全身から、辺り一帯、それこそ後方に回っていたバスターガンダムまで巻き込むような量の煙が溢れ出す。
しかし防がれたのは視界だけで、レーダーには未だMFデビルガンダムの位置がハッキリと映し出されている。

「ふん、何を出してくるのかと思えば、ただの煙幕だなんて……」

「……いかん! お前ら、早くこの煙の中から出ろ!」

「え? あ、あれ、なんだこれ、バッテリー残量が!」

ムウの注意に疑問符を返すカガリだったが、ふと目に入ったバッテリーの状況に目を剥く。
今さっきバッテリーを完全に充電して出撃したばかりなのに、もはやPS装甲を展開するどころかその場に立っていることすら困難な量の電力しか残されていないのだ。
装甲の色を灰色に染め、その場にくず折れる三機のMS。
力無く倒れるストライクルージュの頭部を踏みつぶしながら、MFデビルガンダムの美鳥が嘲るように笑う。

「アスハのガキがサハクの技術で落とされるとか、ミナ様ファンにはたまんねぇ光景だよなぁ。ひひひ」

ミラージュコロイドを高濃度で散布しバッテリに蓄えられた電力を放電させ、同時に自らの力とする。
使用されている技術はゴールドフレームに搭載されたマガノイクタチのモノの発展形。
現時点でのアマノミハシラの技術力では接触した相手にしか行えないが、鳴無兄妹がこれまで蒐集してきた様々な技術により、最初に目指していた武装を完全に再現してみせたのだ。
倒れ伏す三機のMSの手足を、武装を、武器を使うまでも無くただ踏みつぶして破壊していく。

三機の無力化を終えたMFデビルガンダムはアークエンジェルの方に向き直る。
アークエンジェルは今、三機の四天王ビットによる襲撃を受けている。
そう、MFデビルガンダムはデュエルガンダムへ向かい方向転換をする直前ビットを切り離しアークエンジェルの攻撃へと向かわせていたのである。
切り離されたビットは即座にECSのよりその姿を肉眼、レーダー双方から消し、MFデビルガンダムが注意を惹きつけている間にアークエンジェルに接近。
ミラージュコロイド粒子と共に散布された、量子コンピュータを操るコンピュータウイルスの乗せられたナノマシンが残る三機のMSに取りつき、アークエンジェルからの救援要請が来ていないように見せかけていたのである。
後にディスティニーアストレイでも同系列の量子コンピュータ用ウイルスが使用されるが、それと同じくレーダーやカメラの映像を操らなかったのは鳴無美鳥の余裕かけれんみか。
ともかく、主人公機の名前繋がりでスターヴァンパイアなどと言いつつ同時にバッド・トリップ・ワインでもあるこの厄介極まりない攻撃は、見事にアークエンジェルとMS部隊を一ターン以内に無力化してしまったのである。

「まだ整備の終わってないM1アストレイが居るみてぇだが、いちいち相手すんのもたりぃんだよなぁ」

艦に取りつき攻撃を繰り返す四天王ビットを落とそうとイーゲルシュテルンを放ち抵抗を続けるアークエンジェルに、再び光を宿した腕を向けるMFデビルガンダム。

「まとめて消えっちまいな」

腕に、五指の間に収束した光が指向性を持たされ解放される。
アークエンジェルのラミネート装甲が、直撃したビームの熱量を艦表面に拡散させダメージを和らげる。
しかし、排熱処理が終わるよりも早く更に二射目三射目のビームを喰らい、遂にはMSハッチと格納庫を熔解、貫通。

「ヒュウ♪」

整備途中のMSや弾薬が誘爆し、予想以上のダメージが入ったのに気を良くしたのか、次々とアークエンジェルの各部にビームを放ち、四天王ビットに指示を出し搭載されている武装を次々と破壊していく。
なるべく人が居ないブロックを狙った攻撃はしかし決して手心を加えている訳では無く、武装を奪い無力化する事を第一に考え、第二に『武装を破壊し終わったら殺される』という恐怖をクルーに植え付けて遊んでいるのだ。
つい最近まで仲間として接し積み上げてきた人間関係を自らの手で破壊するその行為は積み木崩しにも似たカタルシスとなる。
ナデシコ程では無いが、アークエンジェルのクルーにもそれなりに顔見知りの居る美鳥は、その記憶の中にある顔や声を思い浮かべながら心底楽しげに引き金を引く。
未だ精神の本質的な部分で幼く、子供ならではの残虐性をその心に秘めた美鳥にとってはこの上ない快感であった。
子供が生きた虫の脚や羽根を毟り取るように、次々にアークエンジェルの武装を潰していく。その攻撃の矛先が、遂にブリッジへ向き、超高熱の奔流が放たれんとした、その時。

「やめろおおおおぉ!」

叫び声と同時、高出力のビームが空からMFデビルガンダム向けて降り注ぐ。
バリアの出力を僅かに上回り貫通可能なそれと、僅かに間をおいて降り注ぐ電磁加速された弾丸。
しかし、着弾する直前に突如としてMFデビルガンダムの姿がその場から掻き消え、攻撃の主──フリーダムのキラは素早くレーダーを確認。
先ほどまでアークエンジェルとMS部隊以外が束になって鳴無卓也の駆る黒いボウライダーと交戦していたのだが、アークエンジェルの救援要請を受け、急いで此方に駆け付けたのだ。
間一髪のところで間に合った。とはいえ、アークエンジェルは既に戦闘行動が取れる状況では無く、被害の状況から見て戦死者も決して少なくは無い。
少なく見積もっても、整備を行っていた整備班、アストレイ専属のパイロットは無事ではないだろう。非戦闘員が乗って居ないのが救いと言えば救いだが、それは何の慰めにもならないだろう。

「どうして、どうしてこんな……!」

キラは顔見知りの人間の死に、顔を泣きそうな表情に歪め、しかし突如背後から放たれたビームの斬撃に反射的に対応する。
既にボウライダーとの僅かな戦闘で大破寸前だったミーティアとの合体を解除、大質量の火器の塊であるそれを斬撃の放たれてきた方向目掛け自動操縦で吶喊させる。

「君は、どうしてこんな真似が出来るんだ!」

そして、半壊のミーティアを一瞬で細切れに切り裂き、爆炎を抜けて現れたMFデビルガンダムの手から伸びるビームサーベルをラケルタ・ビームサーベルで斬り払う。

「そりゃこっちのセリフだっつうの。なんで只の人類があのタイミングの攻撃に全部対応できんだよ。これだから『よめがかんがえたちょうつよいいけめん』は嫌いなんだ……」

苦い声でキラの問いとは関係無い事に愚痴を零す美鳥。
ボソンジャンプで僅かに出現のタイミングをもずらした時間、空間転移攻撃。
並のエースでも対応する事が難しいそれを、種割れで極限まで精神を集中させていたキラはひらめきのみで回避、反撃を繰り出してみせたのである。
文字通り、同作品内の他のパイロットとは次元の違う強さに、さしもの美鳥も呆れ返る。

「パイロットを殺さなかったのは迂闊だったな、ディアッカから攻撃の種は聞いた。俺達は不用意にお前の霧の中で立ち止まらないし、アークエンジェルの方に居たドラグーンも潰させて貰った。ここで落ちろ!」

同じくアークエンジェルの援護に駆け付け、今まで四天王ビットの処理をしていたアスランのジャスティスが、フリーダム反対側に現れMFデビルガンダムを挟み込むようにしてサーベルを構える。
MSのビームライフルが出力の関係で効かないのは確認済み、恐ろしい話だがレールガン程度の弾速では全て見切られて受け止められるか回避されるかのどちらか。
もしかしたら通用したかもしれないミーティアの攻撃はフリーダム、ジャスティス共にミーティアを破棄してしまった為に勘定に入れることもできない。
だが、それでもこれ以上放置する訳にも行かない。それをしてしまったが最後、自分達が戻る船が破壊されてしまう。
そんな悲壮な覚悟のキラとアスランをあざ笑うかのように、二機の間のMFデビルガンダムは自然体。
MFデビルガンダムは手から伸ばしたビームサーベルでフリーダムの胴体を指し示す。そこに攻撃が来るぞ、とでも予告するかの如く。

「あたしに夢中なのは構わねえけど、そんなんじゃ足元掬われるぜ?」

「そんな御託──キラ、後ろだ!」

「え、うああああああああぁっ!」

フリーダムの背面、PS装甲に守られていないブースターが爆発する。どこからか加えられた攻撃、しかもその攻撃の主は──

「馬鹿な、あのドラグーンは全機破壊した筈」

そう、フリーダムに攻撃を加えたのは、先ほどジャスティスが破壊した筈の四天王ビット。
しかもその数は倍に増え、更に電撃を放つ銀色の球体までもがフリーダムへの攻撃に加わっている。
心なしか色の薄くなったそれらは、脱皮したての昆虫か、あるいは、ロールアウトしたばかりで塗装もされていない量産機を連想させた。

「あたしの乗ってる『コレ』が、デビルガンダムの系譜だって忘れたかぁ?」

そう、破壊された地に落ちた四天王ビットの残骸は、地面を構成する金属を取り込み自らの欠損部分を瞬く間に修復、数と種類を増やして主の敵に自らの意思で攻撃を加えたのである。
接触するまで気取られぬようECSを掛けたまま慎重に近づき、フリーダムの機動力を削いだのである。

「か゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ────!!」

そして、銀色の球体から絶え間なく放たれる超高圧電流により全身の筋肉を焼かれ、絞め殺される鳥のような絶叫を上げるキラ。
如何にフリーダムが優れた機体でも、如何にスーパーコーディネイターが常識はずれな身体能力を有していようとも、全身の細胞を余さず高圧電流で焼かれたままでは抵抗のしようも無い。

「キラ!」

フリーダムに纏わりつく銀の球体と四天王ビットを破壊せんとするジャスティスを、MFデビルガンダムが道を塞ぎ妨害する。

「おいおい、あたしの相手もしろよヅラホモ野郎」

「この、邪魔だぁ!」

ファトゥムー00に乗り、ビームサーベルですれ違いざまにMFデビルガンダムを切り捨てフリーダムの救援に向かおうとするジャスティス。
そのファトゥムー00を、フリーダムに纏わりついていた四天王ビットの内の一機がピンポイントで翼の片方の先端を粒子弾で狙い打つ。
バランスの崩れるファトゥムー00からよろける様に転げ落ち、しかし瞬時に姿勢を立て直したジャスティスにMFデビルガンダムのビームサーベル、いや、溶断破砕マニピュレーターが迫る。
眼前に迫る破壊の光、しかし、この距離ならばまだ受け切ることができるとアスランはジャスティスにビームサーベルを構えさせる。
そんなジャスティスを『前方を除く全ての方向から貫く無数の溶断破砕マニピュレーター』
目の前のMFデビルガンダムのジャスティスに向けられた腕は、『肘から先が虚空に融けるように消え失せている』

「あ、え?」

その異様な光景に、既にコックピットの中が小規模な爆発を起こしているにも関わらず、呆けた声をあげるアスラン。
ノイズ混じりの通信がカガリの悲鳴と、鳴無美鳥のしてやったりと言いたげな顔を見せる。

「獅子神吼が闘法『跳空殺手』のアレンジ、なんて言ってもわかんねぇよなぁ、マイナーだし。旅の扉とか言った方が若い子には理解しやすいか? MFっぽい外見してっから格闘戦は真っ向勝負なんて思いこみが手前の敗因だろうよ」

その美鳥の言葉が終わるのを皮切りに、溶断破砕マニピュレーターがビームの出力を上げ、更に深くジャスティスのボディを抉り、

「じゃあな」

爆発すらすることなく呆気なく蒸発させ、ジャスティスをこの世から消滅させた。

「アスラァァァァアァン!」

悲痛なカガリの叫びを聞き流し、MFデビルガンダムのコックピットの中で美鳥は状況を確認する。
アークエンジェルは戦闘能力、艦載機を全て消失。
ジャスティス撃破、フリーダムは──確認した、コックピットの中に人間大の炭の塊を確認。パイロット消失及び電装系の破壊により無力化完了。
通信からカガリやら何やらの非難が聞こえる、相手側の通信機能を掌握、遮断。

「これであたしの担当分は終了かな」

あとは、お兄さんの予想が正しかった時の事を考えて、アレの出撃準備を済ませておこう。
そう考え、美鳥のMFデビルガンダムは虚空へと融ける様にその場から消え失せた。

―――――――――――――――――――

それは、圧倒的な破壊だった。
攻撃という言葉では容易過ぎる。弾幕という表現は優し過ぎる。爆撃という分類では温過ぎる。
豪雨のように降り注ぐ特殊金属の弾丸はその進路上のモノを容易く抉り貫き、様々な金属で構成されている機械の巨人の質量を減らしていく。
空から射す光はそれに触れたモノを余さず焼き熔かし、曲がる筈の無いその光は意思を持つ生き物の様に追いすがり、遍くその場に居るモノへと喰らい付く。

この恐るべき密度の弾幕を形成するのは、黒いボウライダーの周囲に無数に展開する黒い立方体(キューブ)。
この立方体は細かく蠕動するように変形を繰り返し、表面に走った亀裂から追尾式の熱光線を、サイの目のように空いた銃口から実体弾を吐き出す。
この立方体は蜃気楼のように不安定に出現と消滅を繰り返し、撃ち落とそうにもタイミングを合わせなければ命中させる事も難しい。
そしてそれらの吐き出す攻撃の脅威は、その身の巨大なモノほど抗う事が難しい。

「くっそお、サーメットの装甲を紙みたいに破りやがって」

「これ以上はまずいですよ豹馬さん!」

「お兄ちゃん、もうだめだよぉ」

「いや、まだだ。まだボルテスは戦える!」

全高50メートルのコンバトラーとボルテスは、まさに恰好の的といっても過言では無い。
これがまだ分離した状態であれば一気に距離を取って攻撃の範囲外に逃げる事も出来たかもしれない。
だが、ボルテスとコンバトラーは逃げるよりも黒いボウライダーに先制攻撃を放つ事を優先した。
初手から全力という訳には行かなかったが、コンバトラーはビックブラスト、ボルテスは超電磁コマを、それぞれ威力と射程、弾速から見て最良の選択であった。
だが、それはあくまでもボルテスとコンバトラーの機体性能の中での最良最善。
ビックブラストは目標への道程を半分も進むことなく撃墜され、超電磁コマもまたあっさりと高密度の弾幕によって撃ち落とされてしまった。
そして、スーパー系機体の中でこの二機だけが回避する事もままならず、今も苛烈な攻撃に曝されているのだ。
しかし、この二機の超電磁ロボが未だ生き残っているのが、鳴無兄妹が何となく置いて行った超電磁フィールド技術により使用可能時間が大幅に延長された高圧超電磁バリアがあったからというのはどういった皮肉か。
そのバリアも、変形を解除した状態では使用できない。今この場から逃げる為に合体を解除すれば、一瞬にして全マシンが粉々に粉砕されてしまう。
絶体絶命、万事休す。
しかし、豹馬の目にも健一の目にも絶望の色は無い。
二人は互いに目配せをし、起死回生の一打を放たんとする。

「行くぞ、豹馬!」

「おうよ、俺達の底力見せてやるぜ!」

ボルテスが天空剣を構え、コンバトラーがボルテスの背目掛け超電磁タツマキを放つ。
タツマキと反発する磁極の高圧超電磁バリアを全身に纏うことにより加速度を上げ、更に竜巻によりボルテスを超威力の弾幕から保護しているのだ。
タツマキに覆われていない正面から迫る攻撃を威力を上げた超電磁ボールで防ぎ、天空剣を構えたボルテスはそのまま天高く跳び上がる!
そして、遂にボルテスは弾幕の向こう、黒いボウライダーよりも高い位置に到達。

「天空ゥ剣!」

更に、ボルテスの後方からタツマキの中を抜けて、スピン状態のコンバトラーが追撃を掛ける。

「超電磁ィ……」

空から必殺の剣が、地から身を顧みない決死の突撃が、黒いボウライダー目掛け同時に放たれる。

「必殺、Vの字斬りぃぃぃっ!」

「スピィィィィィィィィィンッッ!」

高圧の超電磁ボールと超電磁タツマキを受け、黒いボウライダーは両者の攻撃を前に身じろぎ一つ見せること無く、二つの過剰殺傷攻撃をその身に直撃させた。


―――――――――――――――――――


直撃させた筈だった、あのタイミングでの回避は間に合いようがない。
如何に身軽なボウライダーといえども、あの状態から取れる防御ではこの必殺の合体攻撃は防ぎきれるものでは無い。コンバトラーチームとボルテスチームは、勝利を確信してもいい筈だったのだ。

「いやいや、御見事。流石は同系統の技術で作られた超電磁ロボット、見事な連携といったところか」

目の前で、天に掲げた左手で天空剣を、地に下ろした右手でクリスタルカッターをそれぞれ軽々と受け止める、黒いボウライダーの姿を見るまでは。
超電磁ボールは直撃した、今のボウライダーの装甲は分子構造を破壊されスカスカの発泡スチロールのような有様の筈。
超電磁タツマキで張りつけにされ、こちらの攻撃を受けるような動きは取れない筈。
そんな疑問を、そんな当たり前の結末を、黒いボウライダーはいとも容易く覆してしまったのだ。
50メートル級のスーパーロボットの持つ、15メートル級の機体からすれば自らの身の丈以上の長さの凶器を、50メートル級の機体そのものを使った突進を、ボルテスとコンバトラーから見れば小枝に例えても不自然では無いボウライダーの腕が、指が、しっかりとホールドしている。
黒いボウライダーが手に力を込めると、天空剣とクリスタルカッターが音を立ててひび割れた。スカスカでも無ければ磔にもされていない。未だその力は健在。

「超電磁加重砲、右手」

黒いボウライダーの右腕側面、四基のコネクタにボルテスに搭載されたものよりも格段に小型化された超電磁加重砲が実体化、装填される。

「ウルトラマグコン、左手」

更に左腕のコネクタにも、四基のマグコンが実体化し装填される。
右手の加重砲はクリスタルカッターを掴まれ逃れられないコンバトラーを、右手のウルトラマグコンは天空剣を放しその場から逃れようとしているボルテスを狙う。
間髪入れず、超電磁ボールが四発コンバトラーに叩きこまれ、四重の超電磁タツマキにボルテスが飲み込まれる。

「くそ、こんな所で負けられるか! 動け、ボルテス!」

「このぉぉ、放せ、放せよテメェ!」

しかし、通常の数倍の出力の超電磁タツマキを四重に喰らい、当然ボルテスは動けないし、分子構造を破壊され、形はとどめながらもスクラップ同然のコンバトラーは黒いボウライダーの手から逃れることができる程のパワーを出す事も出来ない。
黒いボウライダーの手首に設置された青い球体が、低い虫の羽音のような振動音を鳴らしながら紅く変色する。それは、低出力稼働から超過稼働へと移行した証。攻撃の予兆でもある。

「超電磁組、リタイア」

紅く染まった球体から、眼を焼く眩い閃光が走る。
その閃光は磔にされたボルテスを、腕を捕えられたままのコンバトラーを貫き、その向こうに出現した黒い立方体に受け止められ増幅、他の立方体に転送され、異なる角度から再び二機の超電磁ロボを貫く。
更にそれを他の立方体が受け止め増幅し転送し再発射、貫き、更に他の立方体が受け止め増幅転送再発射、更に更に更に……。
何時終わるともしれない再攻撃の嵐は、二機の超電磁ロボがバラバラになるまで繰り返され、唐突に終わりを告げた。
黒いボウライダーが、天空剣と砕けたクリスタルカッターを手から放す。

「ほら、放してやったぞ」

黒いボウライダーの手からこぼれおちた二つの武器は地面に落ち、涼やかにすら聞こえる音を立て粉々に砕け、超電磁ロボの完全敗北を確定した。

―――――――――――――――――――

「そんな、コンバトラーとボルテスの合体攻撃で無傷だなんて……」

B・ブリガンディのコパイシートのカティアが呆然と呟く。嵐のような攻撃が始まる直前、サイトロンで危機を察知した統夜はオルゴンクラウドでその場を離れていたのだ。

「どうなってるってのさ、あいつの装甲は!」

ビーストモードのランドクーガーで、弾幕の濃い薄い外側を駆け回り回避行動を続ける沙羅が愚痴を零す。
獣戦機隊のパイロットはその野生の勘により戦闘開始と同時に即座に分離、一番速度の速く小回りの利くビーストモードで逃げ回り反撃の機会を窺っている。

「いや、無傷ではない。攻撃を受けた瞬間に、僅かに装甲が削れていた」

同じくビッグモスのビーストモードで逃げ、しかし巨体故に回避しきれない攻撃で僅かにダメージを追っている亮が冷静に分析する。
が、亮の指摘した装甲のダメージは既に修復され跡形もない。

「重装甲な上に、ダメージを受けると同時に回復しているという事か」

超電磁ロボの攻撃で僅かに傷が付く程の重装甲で、しかも二機の攻撃を手で受け切った事から考えて機動性も悪くない。
挙句の果てに、ダメージは即座に再生されてしまう。
最初から距離を取って対峙していたアーバレストの宗助が、絶望的とも言える敵機の性能を改めて確認し、その上で打倒する策を考える。

「再生に関しては、どうにか出来るかもしれないわ」

「どういうことだよ美久ちゃん」

ゼオライマーの中に次元連結システムとして組み込まれている美久の言葉に、ナデシコの防衛を行っているアキトが聞き返す。
そのアキトの問いに、ゼオライマーのパイロットであるマサトが答え、それに美久が補足する。

「あの自己再生は、デビルガンダムよりも僕のゼオライマーと似た理論で行われているんだ。多分、次元連結システムの発展型のようなものを搭載している。だから、ゼオライマーの次元連結システムでボウライダーと他の次元の連続性を断絶することが出来れば、少なくとも再生能力を無くす事は出来る」

「でも、それを行うにはゼオライマーをボウライダーに一度接触させる必要があるの。それに再生能力を封じるまで、ゼオライマーは攻撃にも防御にも次元連結システムを使う事が出来ない」

それは、この弾幕の中を裸で走るも同然。

「なら、ボウライダーに触れるまでは俺達が盾になるとしよう」

「一発ぶちかましてやろうぜ!」

グレートマジンガーとマジンカイザーがゼオライマーを守るように一歩前に出る。
超合金ニューZとニューZα製のこの二機ならば、この攻撃の中でもゼオライマーを送り届ける事ができる。

「俺の方でも敵の攻撃を逸らすことが出来るかもしれない。アル、やれるか」

「肯定です」

アーバレストが更に後ろに下がり、ラムダドライバの全能力でもってゼオライマーの前面に強力な斥力の壁を形成する。

「よし、行こう!」

ゼオライマーが、二体の魔神が空を飛ぶ。
熱光線と音速を超える弾丸の雨にその身を晒し、それでも二体の魔神はひるまずゼオライマーをボウライダーに接触させる為に壁になる。
二体の壁を抜けた攻撃も、ラムダドライバの生み出す斥力場が逸らすことでゼオライマーには届かない。
三機は進む。黒いボウライダー目掛け、地球の命を守る為に、命を弄ばれた者達の無念を晴らす為に。

―――――――――――――――――――

いい、いいね。
正に団結、最終決戦。立ちはだかる巨大な壁を、愛と努力と友情で打ち砕き乗り越える正統派の正義の味方。この世界における主人公。
負けという結果は無かった事(リセット)にされ、歩む道(ストーリー)は常に正道。用意された結末はハッピーエンドで、勝ちを義務付けられた予定調和の勝者達。
そう、お前らにはそれがある。プレイヤーの操る主人公として、絶対勝利と不屈の意思の具現、主人公補正というモノが。
この世界で勝ちを義務付けられた連中を完膚なきまでに打倒し、勝利をこの手に掴み取る。
それが、俺がこの世界で得られる強さを全て手に入れたという証になる!

「重力加速式速射砲、両手」

ナナフシの重力レールガンを小型化し組み込み再設計した速射砲を両腕に形成する。
弾体は超合金ニューZαの発展形超合金と、着弾と同時に発生、蒸発するマイクロブラックホール弾頭。
弾幕は俺のボウライダーに近づけば近付くほど密度が上がる。耐えきれずに減速した所で狙い撃ちにして、ゼオライマーとマジンガー二機を一網打尽だ。

「だめだ、後一歩、あと一歩の距離が足りない」

マサトの泣き言が聞こえる。
人格の融合でマサキの冷静さも持ち合わせているあいつが泣き言を言うんだから、どうしようも無いのだろう。
さぁ、ここからだ。どうなる、どうする。
このままでは俺の予想通りゼオライマーとマジンガーは減速を開始し、あと一歩の所で届かない。
お前らは主人公だ、こんな絶体絶命の状況でも、何か、何か手があるんだろう?
さぁさぁさぁ、さぁ、さあ! 見せてみろよご都合主義!

「その一歩、詰めさせて貰う!」

少しだけ聞き覚えのある叫び声と、背後に朧げな敵の気配。
この気配にキューブどもが反応しない。キューブどものセンサーでは確認できないのか?
いや、そうか、これは実体化の途中、ジャンプアウトする前兆。
ボソンジャンプ、このタイミングで狙い澄ましたように、背後にボウライダーを押し込めるだけの出力を持った機体が。

「遅かったじゃないか、いや、時間通りか?」

騎士機ラフトクランズの黒、アル=ヴァン・ランクス。あの日あの時、オーブで俺とは違う次元に飛ばされた機体が、危機に駆け付けるように現れた。
振り向けない、今からでは間に合わない。いや、ここは殊勝に受けるのも悪くないか。
一撃、オルゴンソードFモードの刃が叩きつけられ、僅か十数メートルだが確かに存在していたゼオライマーと俺の距離をゼロに縮めた。

「あの日、貴様とは違う時間の流れに乗った私は、遥か数万年前の火星に飛ばされたのだ」

「なんやかんやあって遺跡の文明人どもに送ってもらったという訳ですね、分かります」

ル・カイン様じゃねぇか!という突っ込みはどこからも入らない。
いや、これぞまさにご都合主義。
最終回でスポット参戦は原作であった流れだが、俺と同じく時間と空間の果てに飛ばされたと思ったこいつが、同一世界の高々数万年前に送られるだけで済んだとは。
出現と同時にあんな真似が出来たのは、遥かな過去でサイトロンによる未来視が働いたのだろう。こいつらを勝たせる為に。

「でも、お前の同胞はもう姫様一人だけ。それを踏まえた上で問おう。守るべき民亡き今、騎士であるお前は何をする、何ができる!」

斬艦刀の如く長大に伸びていた刀身が砕け、折りたたまれたソードライフルがオルゴンソードを再形成する。
その剣先を向け、フューリー聖騎士団ただ一人の生き残りは突きつけるように雄々しく宣言した。

「多くの同胞の仇を討ち、シャナ=ミア様の未来をお守りする」

面白い。既にフューリーの視点で言えば勝利は無く、これからは地球人との交配を重ね血は薄れただ地球人にまぎれ消えていくだけだというのに、それでも勝負を捨てていない。
そうでなければ、そうでなければいけない。戦うのなら、全力の意思と意地の潰し合いで無ければ!

「遊んでやるぞ、ドン・キホーテ!」

そういう強い意志で無ければ、叩き潰しがいも無い!
片腕の武装を消し、無手になったボウライダーの指が音を立て鳴らされる。

「ただし、手前の相手はこいつ」

ラフトクランズの背後の空間が裂け、一体の機動兵器が出現する。
既にエンジンはフルスロットル。オルゴンエクストラクタの回転率も機械によって底上げが完了済み。
サイトロン適合体專用超格闘戦偏重機動兵器、クストウェル・ブラキウム。
搭乗パイロットは、サイトロン適合率は生体改造にて騎士団長並みに強化された、ある人物。

「アァァァぁル、ヴァアぁァぁぁぁァンッッッッッ!」

「っ!?」

元連合宇宙軍少尉、ホワイトリンクスの異名を誇る天才アーマー乗り、更に元アシュアリークロイツェル所属のテスト機の運用評価及び教導官でもある──

「本日のスペシャルゲスト、白猫ことカルヴィナ・クーランジュ。暫くぶりの恋人との再会だ、思う存分語り合ってくれ」

巨大なオルゴンナックルによるチョッピングを受け、その場から離脱するラフトクランズとクストウェル・ブラキウム。
そして何時の間にやらゼオライマーは距離を置き、両脇にはグレートとカイザー。
まぁ次元連結システムの無いゼオライマーとか木偶同然だし、当然の判断か。

「ここまでだな卓也さん。今まで騙されてた分、きっちりぶちのめしてやるぜ!」

「次元連結システムを封じられた今、先ほどまでのような無茶は出来まい。覚悟しろ!」

セリフと共にマジンガーブレードとカイザーブレードが同時に振り下ろされる。

「ブレード、両手」

残る片手の速射砲も捨て、電動鋸型ブレードをコネクタから直接生成。グレートとカイザーのブレードを力任せに弾き返す。
が、相手もこういったガチンコの格闘戦を考慮したスーパーロボット、弾き返されても何度も切りつけてくる。
超電磁フィールドはあえて展開していないが、それでもこのブレードの刃に使われている金属は二体の装甲を遥かに上回る強度を持っているし、リアルタイムで新品同然の状態に更新され続けている。
だというのに、カイザーブレードどころかマジンガーブレードにも一向に折れたり削れたりする様子が無い。
剣の扱い方に特殊な要素は見いだせないというのにこれだ。ヒーロー補正というものだろうか。
こうなると打ち合いを止めることはできない、そうなるとどうにもこうにも抜けられ無い。
肩のクローアームがあればどうにでもできたのだが、かっこつけて肩の武装を全部キューブに代用させるのは流石にまずかったか。
この状況でキューブを呼び出せば警戒されて迎撃される。相手は二体、片一方が俺と打ち合いを続け、片一方がキューブを迎撃する程度の分業はできるはずだ。

手首と胸部の球体からは光が消えている。次元連結システムは復旧に少し掛かるか。流石は開発者とオリジナル、性能が劣る旧式でこんな真似が出来るとは。
次元連結システムが無ければキューブ共の性能もガタ落ち、しばらくすれば他の連中もキューブを処理してここまでやってくるだろう。
とはいえ、マジンガー系列はあれで倒そうと思っていたし丁度いい、まとめて掛かってきてくれるなら面倒が少なくて済むのも確かだ。
と、何時の間にかグレートが二刀でこちらに斬りかかり、カイザーが距離を取ってブレストプレートを赤く光らせている。
グレートが力の限りブレードを振り抜き俺を弾き飛ばす、その先に、カイザーが狙いを定めていたらしい。
これは、どうだろう、耐えられるか? いや考えるだけ無駄だな、避けようが無い。
ここは文字通り、不屈の精神で堪えさせて貰おうか。

「一気に片付けるぜ、ファイヤーブラスター!」

―――――――――――――――――――

マジンカイザーのブレストプレートから放たれた熱光線が黒いボウライダーに直撃し、爆発する。
爆炎に呑み込まれる黒いボウライダー。

「やったか?」

やや出現と消失の間隔が長くなった立方体を処理していたアーバレストの宗助が撃墜の成否を誰にともなく確かめる。
レーダーでは確認のしようも無い。
黒いボウライダーとその周りの立方体はレーダーの上では同一の反応を見せる為、肉眼で確認するしかないのだ。
今現在、黒いボウライダーは再生能力を封じられている為、ダメージを負ったのであれば戦い易くなるのだが……。

「いくらボウライダーでも、あの距離からのファイヤーブラスターを喰らえば一溜まりも、うわぁっ!」

「何、どうした甲児くん! ぬおぉ!」

爆炎の中から黒く巨大な鉤爪の様なものが突き出し、カイザーとグレートの胴体を鷲掴む。
かつてナデシコに居た時、ボウライダーが換装パーツとして使用していたクローアームに酷似しているが、ボウライダーに合わせて一回り巨大になり、そのシルエットはより骨太になり、引き裂くよりもただ力強く掴む事を優先したものとなっている。
その姿はまさしく、マジンガーなどのスーパーロボットを相手にする事を考えて作りなおされた、ボウライダー第二の腕。

「温うございます」

煙が晴れ、機体表面を赤熱させながら、どこのパーツにも欠損の無いボウライダーが現れる。

「そんな、ファイヤーブラスターも効かないのかよ!」

理不尽だ! と、余りのボウライダーの強度に悲鳴を上げる甲児。
カイザーをクローアームから引きはがそうともがかせるものの、カイザーのボディが軋むだけでクローには何の変化も与えられない。
パワーで劣るグレートは言わずもがな、逆にミシミシと音を立ててボディにクローが減り込み始めている。
そんな二機の目の前で、赤熱していたボウライダーの装甲が見る見るうちに元の黒に染まっていく。ファイヤーブラスターで貰った熱量を、この短時間で全て処理して機体を冷却してしまったのだ。

「カイザーのブレストプレートは、ファイヤーブラスターを発射する毎に融けて壊れたりするか? つまりはそういうことだ」

そして、次元連結システムの停止と同時に光を失っていた胸部と手首の球体に、仄かに白く、それでいて眼を焼く炎のように激しい光が灯っているのを二人は目撃する。
次元連結システムが再起動した訳ではない、別のエネルギーだ。
そしてそれは二人にも馴染み深いエネルギーであり、世界で唯一兜甲児にのみ託された筈のエネルギーでもある。

「光子力エネルギー、フルチャージ」

マジンガーのパワーの源である光子力エネルギー。
黒いボウライダーに搭載された光子力反応炉発展型が全力稼働を開始。
この世界の兜甲児が未だ扱う事の出来ない力、光子力反応炉の文字通りの全パワー解放。
本来ならば魔神皇帝こそが放つべき破滅の光。

「冥途の土産という訳じゃあ無いが、一つ、良いものをお見せしよう、これが──」

黒いボウライダーの全身から光が溢れる。それは限界を超えた光子力反応炉が生み出す力の顕現。
カイザーノヴァ。
超合金ニューZαを超える強度のボディと、エネルギー変換効率を上昇させた強化型の反応炉より放たれる破滅的ですらある超常のエネルギー。
黒いボウライダーより放たれしその力は──

「く、くっそぉ……」

「この、程度のダメージで、グレートは……」

偉大な勇者に、そして本来の使い手である魔神皇帝に、敗北の二文字を与えた。
全身の装甲を熔解され、熱で骨格の歪んだ内部構造をさらけ出す、上下に分断されたグレートマジンガー。
グレート程では無いが、禍々しくも雄々しいそのシルエットを崩れさせ、溶けた装甲により関節を固定されてしまったマジンカイザー。
もはやまともに立つ事も出来なくなった二体の魔神を投げ捨て、淡々と宣言する。
いや、淡々と、とは言えない。
黒いボウライダーの中、その言葉を紡ぐ卓也の口は、確かに笑みを湛えている。

「マジンガーシリーズ、リタイア」

重々しい音を立てて、二体の魔神の骸が墜落する。
奇跡的にパイロットは無事だが、機体はこの戦闘中に修理する事は不可能だろう。
歴戦の戦士であり、魔神に選ばれた者達をその手で下したという、達成感にも似た感情が、鳴無卓也の胸に溢れていた。
しかし、その達成感を手にしても戦いは未だ終わらない。
未だ、敵の殲滅は完了していないのだ。

ゆっくりと高度を下げつつ、黒いボウライダーは周囲を見渡す。
分離状態のダンクーガ、ラムダドライバ発動済みのアーバレスト、次元連結システムを使えないゼオライマー、立方体を迎撃しナデシコを守るテンカワエステ、無傷だが、せわしなく動き回るB・ブリガンディ。
全機出撃している訳では無いが、これがナデシコとアークエンジェルの今出せる最大戦力。
出撃数は奇しくもゲームと同じ。だが、未だナデシコの中では機体の整備が、機体の『説得』が行われている。
そして、視界の、レーダーの外からボウライダーに迫る気配も存在する。ここから増援が増える可能性は十分あるのだ。
だがそれでいい、余力を残して全滅されては困る。全力を出しつくして貰わねば困るのだ。
全力を出し切った原作主人公達を倒さなければ、鳴無卓也は胸を張って姉に強くなって帰って来たと言い切れない。
だからこそ、迫りくる嘗ての仲間に、今の敵に容赦はしない。

「次はお前か、ドモン!」

―――――――――――――――――――

速度の面で優れる機体が多いので隠れがちではあるが、ゴッドガンダムは決して鈍足では無い。
地上(ギアナ高地)から飛び立ち僅か十秒足らずで大気圏外まで脱出する程度の速度を出し、更にまた地球の裏側(香港)まで一日と掛からずに到達することが可能なのである。
そのゴッドガンダムが今、持てる最高速度を持って黒いボウライダーへと迫り、その拳を振るう。

「歓迎するぞ、チャンピオン!」

歓喜を含む卓也の叫びと共に、黒いボウライダーのシルエットが変化を開始した。
肩から巨大な、悪魔の翼にも見えるクローアームを分離させる。
本体であるボウライダーから分かたれたそれは更に複雑怪奇な、三次元的な説明が不可能な超次元的な変形を繰り返し数個の立方体へとその姿を変え、周囲の他の機体へと向かって行く。
そして、歪さを残していた黒いボウライダーがみしりと音を立て、更に人型へと近づく。
もはや元のボウライダーの面影は、その鳥の嘴のように鋭角な頭部を残すのみ。
変形を終えると同時、地面に到達。拳法の独特な構えを取る。その姿勢、動き、呼吸、全てがドモンに覚えのある動き。

「この後に及んで、まだその技を使うつもりか! 盗み取ったその技を!」

流派東方不敗。この世界において並ぶ物の存在しない、究極と言って差し支えない格闘術。
そして、黒いボウライダーのその動きは、その流派を極め、究極奥儀を編み出した偉大なる格闘家そのもの。
ドモンの怒りを乗せたゴッドガンダムの拳を、流水の様な動きでいなし、逸らす。

「当たり前でしょう。使う為に盗んだのに使わない馬鹿がどこに居ると?」

せせら笑う。
鳴無卓也は格闘家ではない、ただ力を求めているだけであり、拳法も刀剣も銃砲火器も技術も何もかも、彼に力を与える為にツールとしか捉えていない。
格闘家の心構えも、彼にとっては拳法という武器の運用理論の一部でしか無い。
その事を理解し、ドモンは攻撃の手を緩めず、しかし自らの怒りを鎮める。
この相手は、冷静に冷酷に平静に拳法を、流派東方不敗を武器として振るう。それもマスターアジアにも匹敵する的確さでもってだ。

「だが、どんなに正確に技をトレース出来たとしても、所詮キサマはファイターに非ず!」

怒りに濁った拳では届かない。綺麗な手で無ければ届かない。
怒りに煮えた頭では予測できない。冷静に、鏡のように静かな水面の如きイメージを持たなければ。
ドモンの頭の中に、鏡のような水面に一滴の水が落ちるイメージが浮かぶ。
明鏡止水。格闘技、拳法における窮極の境地の一つ。
荒々しさが先行していたゴッドガンダムの動きが目に見えて滑らかに、無駄の無い洗練された動きになる。

「だからどうした、だからどうする。ええ、どうしたいか言ってみなよ、ガンダムファイター、キングオブハート、ドモン・カッシュ!」

鏡合わせのように拳を打ち合わせるボウライダーとゴッドガンダム。両者は一見して互角。威力と正確さはゴッドガンダムが、手数と一撃の鋭さはボウライダーが上回っている。
これは純粋な機体性能差、人間の動きを全て再現できるMF、だが黒いボウライダーはそれを上回る柔軟性を見せる。
技の威力は生粋の武道家と、動きと運用理論をトレースしただけの者の違いだろう。

手数で上回る黒いボウライダーの拳や蹴り脚が幾度となくゴッドガンダムを捕えるが、身のこなし一つでダメージを軽減している。
装甲を削られようとも、内部のメカにダメージが無ければ格闘戦は続ける事が出来る。
押されているようでいて、不利になるダメージは一度も受けていない。紙一重で致命傷を避け続ける神業。

対してゴッドガンダムの拳や蹴りが黒いボウライダーに当たる時は、その一撃一撃が確実にダメージを与えている。
が、数発も喰らえば動けなくなる筈の攻撃を幾度も喰らっているにも関わらず、未だボウライダーは戦闘を続行している。
受けた機体内部のダメージを即座に修復している。
次元連結システムを封じられても、黒いボウライダーは他の自己再生機能が存在している。DG細胞しかり、搭乗者の身体を構成するナノマシンしかり。
一撃で機体をバラバラにされなければ幾らでも戦闘が続行可能なのだ。

どちらの攻撃も、相手に致命傷を与えるに値しない。
が、小競り合いでは決着がつかない事はドモンとて承知していた。デビルガンダムを利用している以上、少なくともその機体にDG細胞が使用されている事は予測済み。
故に──

「決まっている。師匠が愛した地球の為にも、そして、流派東方不敗の誇りに賭けて、貴様を倒す! 貴様が見たがっていた、この技でな!」

蹴りと蹴りが交差し、距離を取るゴッドガンダムと黒いボウライダー。
腰を低く落とし、精神を統一する。ゴッドガンダムのその身が、端から次第に黄金色に染まる。
向かい合う黒いボウライダーも同じ姿勢、しかし、こちらはそれ以外に変化無し、いや、闘気とでもいうエネルギーがその身に充実し、周囲の空気を歪ませている。
互いに、必殺必倒の心構えで放つその技は、

「石!」

「破!」

「天驚けえぇぇぇぇぇぇん!」

「天驚けえぇぇぇぇぇぇん!」

流派東方不敗最終奥儀、石破天驚拳。
鏡合わせのように同時に放たれる気の塊。
一方が放つそれは武道家としての積み重ね、技への誇り、そういったモノが詰まった重い一撃。
そしてぶつかり合うもう一方のそれは、形を真似ただけの紛い物。
正面からぶつかり合ったその技のどちらが相手に届くかは明白だった。

「な」

「ん」

「て」

「な」

正し、それは、正面から一対一での、拳法と拳法のぶつかり合いであった場合の話だ。
ドモン・カッシュは忘れていた。
いや、正確には覚えていた記憶に引き摺られ、判断を誤った。
かつて拳を合わせた記憶が、彼、鳴無卓也が、正面からの拳法による勝負を受けると、思い違いをさせたのだ。

「鳴無、貴様ぁ!」

「悪いね」

「正直な話」

「お前に殴り合いで勝てると思えるほど」

「俺は自信過剰じゃないんだな、これが」

石破天驚拳を放つゴッドガンダムの周囲を取り囲む、四体の黒いボウライダー。
それらはすべて、石破天驚拳とは異なる、しかし必殺の一撃を放つ寸前。
石破天驚拳を中断し避けようとすれば、未だ消えていない正面の黒いボウライダーの石破天驚拳に身を晒す事になる。
四体の黒いボウライダーの手には、太陽の如き灼熱の塊。叩きつけるモーションは既に止められる事も無く。

「そんな、馬鹿な!」

「鳴無卓也はファイターに非ず」

「ドモン、お前が言ったんだ」

「実に正鵠を射ている。そして、ファイターでないなら」

「こういう手を、使わない理由も無いだろう?」

四つの光の塊がゴッドガンダムに叩きつけられる。
超級覇王日輪弾。
かつて東方不敗マスターアジアが、ネオジャパン代表のガンダムファイター、シュウジ・クロスとして戦っていた頃に使われていた、石破天驚拳に次ぐ威力を誇る必殺奥義。
並みのガンダムならば一撃で蒸発させる事の出来る威力を誇る超高熱の気弾が、過たず、全弾ゴッドガンダムに叩きこまれた。

―――――――――――――――――――

ゴッドガンダムの石破天驚拳が消滅したのを確認し、俺は自らの分身を消滅させ、ボウライダーを格闘形態から元の姿に戻す。
更に内部機構のチェックを終え、俺はようやく溜息を吐いた。
真っ向勝負に見せかけて、相手の動きを封じた所でブラスレイターの力による分身四体の必中直撃の奇襲。
一応作戦勝ちではあるが、ドモンに実力で勝ったとは言えないな。格闘戦においては要練習と言った処か。

「しかしまぁ、どんだけ頑丈なんだMFってのは」

残骸を確認するまでも無く蒸発させる事ができると思ったら、ゴッドガンダムは未だ原形をとどめていた。過去大会の時のガンダム達とは強度が違うのだろうか。
まぁ、ガンダムでカンフー映画やってるようなもんなんだし、どっちかと言えばGの影忍辺りに近い訳で、これくらいの強度はあってしかるべきなのかもしれない。
錆びた刀でシュピーゲルの刀を受け切るシーンも、変装したシャアがMS忍者のビームサーベルを真剣白刃取りするシーンに似ているしな。
この分だとドモンは死んではいないと思うが、予備のMFなぞ存在しないので気にする必要も無いか。

「さて」

次は誰が、どの機体が掛かってくるか。
キューブ共の反応は消えた。構わない、ここからはまとめて相手になってやるつもりだった。武装はキューブを使わなくても直接生成してやればいい。
テッカマン兄妹はいいとして、まだアンチボディ組は出撃すらしていない。
ラムダドライバへの対抗策も思いついているからアーバレストで試しておきたいし、念動力で貫けるかも実験の価値があるだろう。
SPTはどうだ、そろそろ修理が完了して出撃してくれてもよさそうなものだが。
折角原作よりも強化してやったB・ブリガンディの性能も確かめていないのも心残りだ。
それに、ゼオライマーを下さないとどうにもJ世界を制覇したとは言えない気がする。
が、このままではゼオライマーは不完全。先ずは、次元連結システムの能力戦闘に使用させなければ。
ボウライダーと俺の身体の強化型次元連結システムをフル稼働させ、ゼオライマーが封じる他次元への接続を無理矢理に取り戻す。

「ふむ」

かなりの力技だから何かしらのリアクションがあるかとも思ったが、どうにも予想の範疇だったらしい。ゼオライマーは普通に戦闘態勢に移行している。
傍受した通信からもそんな内容の会話が聞こえる、少しでも時間稼ぎが出来ただけでも上出来だと。
時間稼ぎ、なるほど。確かに時間をかけ過ぎたかもしれない。

「ヒュウ♪ これはこれは、いやいやこりゃまた、頑張るもんだ」

隣に降り立つMFデビルガンダム。辺りを見渡し、美鳥が口笛を吹いた。
主戦力とも言える機体は尽く潰した、しかし、目の前の連中は未だ闘志を失っていない。
マジンガーが出撃している。頭部のスクランダーだけがカイザーの物に入れ替わっている。動かない新機体を捨て、旧機体で出撃とはさすが甲児、お約束を分かっている。
しかも、何故かラフトクランズとクストウェル・ブラキウムがエレメントを組んでいる。あの短時間でヨリを戻したとは、催眠暗示も浅くしか使ってなかったから、愛の力でも働いたか。原作でも同じ速度でヨリ戻してやれよ。

「お兄さん、愉しいかい?」

美鳥の通信、いや、念話だな。
しかし、何を当たり前の事を聞いているのか。

「楽しいねぇ」

当然の話だ。
楽しくない訳がない。嬉しくない訳がない。喜ばしくない訳がない。

これぞまさにご都合主義。
これぞまさにラストバトル。
これこそがラスボスの醍醐味。

俺という強敵を殺す為に、地球を守る為に、あらゆる力が、運命が主人公に味方している!

「さあ、生き足掻いてみせろ、ヒーローども!」

その力、その運命、その命。
一つ残らず踏み台にして、更なる高みに登ってやろうじゃないか!




続く
―――――――――――――――――――

ド ワ ォ !
あるいは
紫雲統夜の勇気が地球を救うと信じて……!
な、打ち切りエンドのスパロボJ編最終回をお送りしました。
大分前にトマト予告したし、そんなに怒らないでね?

苦情が来たら戦闘シーンとか追加するかもですが、そもそもシリアスな戦闘シーンを読む人は居ないんじゃなかろうか……。
因みに今回、戦闘シーンと胡散臭いフリーマンの説明シーンを消すと四分の一程度しか残りません。だから戦闘シーンとか説明シーン無駄だから消したら? とかできれば言わないで欲しいなと。言いたいなら謹んでお聴きしますが。
ネタもほぼ無しです。というかネタとか、仮にもシリアスな最終話でどう挟めと言うのか。
それ以外にもいろいろ突っ込み、あると思います。

↓以下来そうな突っ込み予想。
・かっこよく啖呵切った統夜との戦いは?
・原作キャラ、殺しちゃったね……
・回収してない複線(月面都市の連中とか)は?
・無双し過ぎじゃね?
・むしろ無双してなくね?
・笑い取りにいけよ
・謎の超理論
・セーフティーシャッター!
・貴様が倒したキラ・ヤマトはカーボンヒューマンの中で最も格下!
・原作主人公勢の対応とか思考とかおかしくね?
・主人公が外道過ぎる……
・主人公の頭とテンションおかしくね?
・よくもこんなキチガイ主人公を!

色々言い訳ありますが、一つ一つの説明が長くなるので実際に来た質問にのみ答えます。
でも例外的に最初と最後にだけ言い訳。

・かっこよく啖呵切った統夜との戦いは?
答え・出撃機体分の無双シーンを書こうとして力尽きた。要望があれば他の機体を全て沈めた後の一騎討ち的なエピソードを書けたら書くかも。
一対一っぽい戦いがゴッドガンダム戦だけなのはシーンの数を減らそうとした跡。
まぁ、あれ以上一方的な戦闘シーンもとい蹂躙シーン書いても助長になってたし、仕方無いね……。ね!
ああ、あとこれだけは言っておきたい。
も う 二 度 と キ ャ ラ 数 多 い 作 品 に は ト リ ッ プ さ せ ね ぇ … … !

・よくもこんなキチガイ主人公を!
答え・お許しください! とでも、言ってやれればよかったのかもしれんがね(by南極のリ・テクノロジスト)。
嘘ですごめんなさい。今回の主人公のコンセプトが
『読者をドン引きさせるレベルの外道ラスボス』
なので予定調和なんです。仲良くなり過ぎた原作主人公勢と全力で戦う為に挑発している部分もあったり。
しかし実際外道過ぎて読者減るかもと内心ビクビク。
でも仕方ないのです、中盤の実は全て掌の上的発言がやりたいが為だけにスパロボ編始めた部分もある訳ですし。
次のトリップでは善行を積ませるべきだろうか……。


ここで一つアンケにご協力お願いします。
スパロボ編を一区切りと考えて、ここまでのオリジナル登場人物、および主人公達の搭乗機体、主人公の影響で原作とは違う何かを得たキャラクターや機体などの説明を纏めるか纏めないか悩んでいます。
正直な話、SS書くなら設定とかも書いて見たかったりするのですが、そういうのは本物のチラシの裏に書けよ、という方もいらっしゃると思うので。
これまで作品内に出た情報を纏めるべきか、それともそういうのは胸に秘めておくべきか、よろしければご意見ください。


今回は戦闘シーン途中で打ち切り終了だったけど、次回はフィナーレですからちゃっかりしっとり綺麗におわらせますよー。
そんな訳で初心に帰り、誤字脱字の指摘、分かり難い文章の改善案、設定の矛盾、一行の文字数などのアドバイス全般、そして、一音節でも長文でも散文でも詩でも怪文書でもいいので作品を読んでみての感想、心よりお待ちしております。





次回、スーパーロボット大戦J編メルアルートエピローグ。
バッドエンド兼ノーマルエンド兼トゥルーエンド
「遠い世界の貴方へ」
たとえこの恋が、嘘でも幻でも。


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