世界には裏がある。世界には裏がある。世界には裏がある。
それは、幽霊が存在する事実だったり、
それは、妖怪・精霊・悪魔・天使が存在する事実だったり、
それは、氣や魔力を用いる秘術。魔法・魔導・陰陽術・呪術・仙術が存在する事
実だったり……
世界には秘密がある。世界には秘密がある。世界には秘密がある。
埼玉県麻帆良市に存在する『麻帆良学園都市』。ここも世界の裏、世界の秘密に関わる場所。
そこにぽつんとお店が一つ。
麻帆良学園中央駅から徒歩10分。立地はそれほど悪くは無い。
レンガ造りのクラッシックな雰囲気だが、やや薄暗く、食欲を刺激する香りの漂う店内。
開店時間は存在せず、遇に臨時休業をするが、24時間365日開いているという脅威のお店。
ニット帽にゴーグルという、あからさまに怪しい格好の亭主曰く、「気合で案外何とかなる」らしい。
怪しい店主の怪しいお店。客層も怪しく、頭部の長いご老人から褐色朱眼チビシ
スターまで。もともと客もあまり来ないので、客層も何も無いのであるが。
そんな怪しい店主の怪しいお店、一応喫茶店の『八百万』。
のらりくらりと経営していた。
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有線放送が引かれた古びたステレオから店内流れる音楽。
かん。という石と木をぶつける音がなると同時に、むむむ。と、カウンター越しの翁が唸る。ふんどし一枚で。
ぱちん。という木と木を打った音がなると同時に、くそ。と、店内に響く様な苦悶をカウンター越しで少女が鳴らす。毛布一枚で。あ、それと頭部に人形一つ。ケ
ケケと笑う。不気味である。
一連の音を出し、出させた厨房に座るニット坊にゴーグル姿の青年程の容姿の店主。唸る翁と顔を歪ます金髪の少女を一瞥し、退屈そうにあくびを一つ。
外は桜が舞う3月下旬。ウグイスやヒバリの声がちらほらと聞こえる、そんな陽気。春休み真っ只中な事もあり、店内は閑古鳥の泣く有様(誤字にあらず)。そんな店内は、異質な雰囲気で包まれていた。
ふんどし一丁のぬらりひょん翁。毛布の下は下着姿の金髪少女。ケケケと笑う人形。ニット帽にゴーグルの店主。『差し押さえ』の書かれた札付きのゴスロリと男性用着物。
一部――特に金髪少女――あたりはあっち系の人が見たなら、血涙血潮を振りまきながら狂乱舞。へっ見てくれよ奥さん、ウチのは生きが良いダロ? 見たいなレベルである。
店主は再び翁と少女を一瞥し、時計を確認。最低10分で一手を打つルール。既に11分経過。大きなため息を一つ。
「……もう止めないか?」
「ま、まだだっ!! 次は勝てるっ!!」
「つ、次こそわしの実力がっ!!」
どん。
カウンターに先の戦役の賭けの対象であった魔法発動体の指輪と高価な転移符を叩きつける敗者の翁と少女の両名。再びため息をつく青年。
ギャンブルに何故はまるのか? 次は勝てると信じるから☆サ。
翁と青年は囲碁を、少女と青年も将棋を。実質2対1、戦績は客に勝ち無し負け多し。
……いい加減、暇潰しどころじゃなくなったから止めさせたいんだが――藪蛇か。
苦笑を浮かべながらやれやれと首を振りながら青年は、二人の空いたコップにそれぞれの注文した緑茶とコーヒーを追加で注ぐ。喫茶店『八百万』、一度注文した飲み物のお代わり自由。
掛け囲碁・賭け将棋のきっかけは簡単。店主に仕事の依頼をした客二人、暇つぶしに丁度良いと店主がゲームで勝てたら無償でやろうと言い出し、客が各々得意なゲームでの勝負。負けに負けた二人はプライドガタガタ。闘争本能に火が付き、賭けたほうが燃えるとのことで、賭けをして再開。
現実はいつも無情。賭けるものが少なくなり、リアルで身包みはがされた二人。「賭けるモノが無ければ、服賭ければ良いんじゃね?」店主の言である。店長、混沌の原因はてめぇだ。
「つ、次はチャチャゼロを賭けて!!」
「が、学園長の椅子をっ!!」
「待て、超待て。どっちも超待て」
店主戸惑う。戸惑うどころじゃネェよ。
前後不覚とはこの事か。そろそろ二人の癖を教えたほうが良いのか? それとも面白いのでこのまま放置するべきか……悩みどころである。
「――――放置かなぁ」
ポツリと零れた一言も、ぶつぶつと戦術を練っているのか般若心経を唱えているのか区別の付かない二人には聞こえないのか。店主に反応するものは今この店には居な――――
「……放置スンナ」
居た。喋る動けないキリングドールことチャチャゼロ氏。見え隠れするナイフがとってもシュール。
「ん~、学園長のポストはいらんが、チャチャゼロは借りてぇな」
「ソウカ、オ前ニハ人形趣味ガ」
「ネェよ、腐れ人形。ヒヒイロコガネとか言う異界の金属が入ったから、それで新
しい槍こさえるから手伝え」
「報酬ハ?」
「材料余るから、それで作るナイフ数本と酒だな。良い泡盛が入った」
「ノッタ」
ぱん。
店長からの一方的なハイタッチ。動けない故の所業。ハタから見たら、何この変態、ニヤニヤしながら人形とハイタッチしてるよ~。
ふと、視線を感じた。さっきまで般若心経(?)を唱えていた金髪少女:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがこちらを見ながら笑い出した。悪役も真っ青な良い感じの悪人面で笑い出した。は~っはははは!! 勝てる勝てるぞ~。椅子の上で仁王立ち。どこからとも無く風が吹いて毛布を靡かせる。どうでもいいが、下着丸見え。
「そろそろ負けてやるか」
「バレタラキレルゼ?」
「ば~か。徴兵をケガ人のモノマネだけで乗り切った小生の演技力舐めんな」
ふと、思念を感じた。
「(どったの?)」
「(ワシ、そろそろ勝ちたいなぁ~みたいな?)」
学園長こと、近衛近右衛門。駄目ジジイである。ふんどし一丁である。プライドどうした。
「(外国の神様は言いました、眼には眼を歯には歯を。勝負で取られたら勝負で取
り返せ)」
「(それちょっと意味違う……それに聞こえたぞ? エヴァンジェリンには勝ちを譲
るんじゃろ? ワシにだって――)」
「(女性には優しく、友人には厳しく、身内は千尋の谷へ……)」
「(エヴァンジェリンが女性? ぺっ。主にはこの言葉を送ろう)」
「(おう、言ってみろ。俺の怒りの沸点は高いz)」
「(Mr.ロリペドフィン)」
「(……男には戦わねばならないときがある)」
ごごごごごごごごごご。
荒ぶる鷹でポーズ戦闘体制に入る学園長。ふんどし一丁で。
対する店主、ブンブンと空を切る分銅。ジャラジャラ言う鎌。HAHAHA~、見てごらんマイケル。あれがジャパニーズ鎖鎌だヨ。あ、コレ学園長死んだわ。
イケイケコロセ。おう、チャチャゼロ任せとけ。あれ、マジでやるの? 死ねよ学園長。チョっ、タンマタンマ。
ぼくっぼくっ撲っ。ぶすぶすぶす。ジャラジャラ。ズルズル。
仁王立ちで爆笑する少女は放置。それの横では残虐ファイト。
喫茶店『八百万』。今日もいつでも平和である。
むしゃくしてやった。反省しかない。 by作者