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No.14323の一覧
[0] 【習作】ネギま×ルビー(Fateクロス、千雨主人公)[SK](2010/01/09 09:03)
[1] 第一話 ルビーが千雨に説明をする話[SK](2009/11/28 00:20)
[2] 幕話1[SK](2009/12/05 00:05)
[3] 第2話 夢を見る話[SK](2009/12/05 00:10)
[4] 幕話2[SK](2009/12/12 00:07)
[5] 第3話 誕生日を祝ってもらう話[SK](2009/12/12 00:12)
[6] 幕話3[SK](2009/12/19 00:20)
[7] 第4話 襲われる話[SK](2009/12/19 00:21)
[8] 幕話4[SK](2009/12/19 00:23)
[9] 第5話 生き返る話[SK](2010/03/07 01:35)
[10] 幕話5[SK](2010/03/07 01:29)
[11] 第6話 ネギ先生が赴任してきた日の話[SK](2010/03/07 01:33)
[12] 第7話 ネギ先生赴任二日目の話[SK](2010/01/09 09:00)
[13] 幕話6[SK](2010/01/09 09:02)
[14] 第8話 ネギ先生を部屋に呼ぶ話[SK](2010/01/16 23:16)
[15] 幕話7[SK](2010/01/16 23:18)
[16] 第9話[SK](2010/03/07 01:37)
[17] 第10話[SK](2010/03/07 01:37)
[18] 第11話[SK](2010/02/07 01:02)
[19] 幕話8[SK](2010/03/07 01:35)
[20] 第12話[SK](2010/02/07 01:06)
[21] 第13話[SK](2010/02/07 01:15)
[22] 第14話[SK](2010/02/14 04:01)
[23] 第15話[SK](2010/03/07 01:32)
[24] 第16話[SK](2010/03/07 01:29)
[25] 第17話[SK](2010/03/29 02:05)
[26] 幕話9[SK](2010/03/29 02:06)
[27] 幕話10[SK](2010/04/19 01:23)
[28] 幕話11[SK](2010/05/04 01:18)
[29] 第18話[SK](2010/08/02 00:22)
[30] 第19話[SK](2010/06/21 00:31)
[31] 第20話[SK](2010/06/28 00:58)
[32] 第21話[SK](2010/08/02 00:26)
[33] 第22話[SK](2010/08/02 00:19)
[34] 幕話12[SK](2010/08/16 00:38)
[35] 幕話13[SK](2010/08/16 00:37)
[36] 第23話[SK](2010/10/31 23:57)
[37] 第24話[SK](2010/12/05 00:30)
[38] 第25話[SK](2011/02/13 23:09)
[39] 第26話[SK](2011/02/13 23:03)
[40] 第27話[SK](2015/05/16 22:23)
[41] 第28話[SK](2015/05/16 22:24)
[42] 第29話[SK](2015/05/16 22:24)
[43] 第30話[SK](2015/05/16 22:16)
[44] 第31話[SK](2015/05/16 22:23)
[45] 第32話[SK](2015/05/16 22:50)
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[14323] 第11話
Name: SK◆eceee5e8 ID:89338c57 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/07 01:02
   第11話


 先生たちが図書館島で行方不明になったその放課後。
 すでに夜の帳もおり、人気のなくなった教室でわたしは隣に浮かぶ人影に話しかけた。

「そういや相坂は図書館島くらいまでならいけないのか? 人形に憑依させるとか言う話もあるわけだし、あの試作品でも使って、一時的な遠出なら出来るんじゃないのか」
「むずかしいです。人形は千雨さんたちのおかげで出来そうですけど、もともと人形が出来上がっても勝手に出歩かずに許可を取るようにって言われてますし……」
「許可って誰のだ?」
「ルビーさんのです。エヴァンジェリンさんはべつにかまわないなんていってたんでけど、ルビーさんは魔法使いのルールっていうんですか? そういうのにすごく厳しいんです。わたしが人形で勝手に動くと皆さんに迷惑がかかるそうですので。動くのはすべてが終わったあととか何とか」
「うーんまあそれはルビーが正しいかな」
「でも別にそんなにあせらなくても、大丈夫だって分かってますから。外に出るのはたしかに楽しそうですけど、人形のまま外に出て、それで迷惑をかけるのもいやですし」
「それもまあ一理あるな」

 ほんの少しだけ残念そうに相坂が言った。
 あながち間違ってもいない言葉だが、これはこいつの60年にわたる悲願のはずだ。
 もっと執着してもいいだろうに、相坂はそこまで落ち込んではいないようだ。
 まああと少し待てば解決する話だし、あせる気もないのだろうがおおらかである。
 口調にも残念そうな響きはあったが、悲壮さは欠片もない。
 そういうと相坂は当たり前のように言った。

「はい、わたしは長谷川さんとお友達になれましたから」

 そしてこの笑顔である。
 こいつはもっと自分の利益に貪欲になるべきだ。
 いつも思うが、こいつは友達を得たことを重要視しすぎている。
 わたしは一人目というだけで、2-Aの連中ならば正体を明かせばいくらでも友達になってくれるはずだ。
「わたしはこうして千雨さんといられるだけで十分ですよ」
「あー、そりゃどうも」
 相坂がにっこりと微笑んだ。
 このままいけば、わたしはこいつと結婚しそうだ。
 フラグたちすぎだろ。
 相坂の素直な好意はわたしのようなひねくれ者には効果抜群らしく、ろくに皮肉もいえないままに頷いた。
 顔を赤くして黙っていると相坂はそっと手を握ってきた。
 ルビーが同化してから得た恩恵の一つ。霊体との接触であるが、これを知ってからというもの相坂がやけにスキンシップをはかってくる。
 相坂はえへへ、と笑う。その笑顔に毒気を抜かれて、わたしもとくに拒まずに手を握り返した。
 そりゃあ数十年と人肌に触れなかったのだからわからんでもないが、素直に恥ずかしい。
 というよりシチュエーションが誤解されそうだ。

 そもそもこいつは60才じゃないのか?
 幽霊というのはそういうものなのか。すれていない。
 大人びているようなところもあるし、ところどころにガキっぽい。まあエヴァンジェリンも年寄りくさい趣味はあったが、ババくさいということもなかったし、寿命ではない年のとり方をするとこうなるのかもしれない。
 そういえばルビーも数百年レベルで生きているはずだが、その性格は欠片も落ち着いてはいないようだ。
 人とは違う時間軸を有している。

 しかし、とわたしは改めて自分の状況を眺めてみる。
 夕暮れの教室で二人きり、手を握り合って頬を染めるとか、どこのラブコメだ。
 ぶんぶんと頭を振って思考を切り替える。このままでは雰囲気に流されて相坂にキスの一つでもしちまいそうだった。
「どうしたんですか、長谷川さん」
「どうもしてない。ちょっと自分の頭がネットに毒されていることを自覚しただけだ」
 意味がわからなかったのだろう。相坂が首をかしげた。だがわたしはわざわざ自分の変態っぷりを口にすることはない。
「なんでもないよ。それよりもわたしは今回のテストくらいは勉強でもしたほうがいいかもなあ」
 委員長の熱意から見ても、適当に済ませてテストに挑めば怒られそうだ。

「先生は見つかるんでしょうか。行方不明だというのに、あんまり長谷川さんは心配していないみたいですね」
「まあな、たぶんこれって先生……ネギ先生じゃなくて魔法使いのほかの先生のことだけど、そういう人たちは事情を知ってるんだと思う」
「えっ? それってどういうことでしょうか」
「相坂は自分が幽霊なのに、あんまりそういうところに頭が回らないみたいだな。学園で先生と生徒が行方不明だぜ。この学校中がうちのクラスメイトみたいにお人よしのはずがない。騒ぎが起こる起こらない以前の問題で、これは騒ぎが起こらなきゃおかしいんだ。騒ぎが起こってないってことは誰かが火消しに回ってるってことだろ」
「ああ、なるほど」

 おそらく先生は図書館島の中なのだろう。そこで捕らえられているのか、適当に妥協して勉強しているのかはわからないが、危害を加えられているということはあるまい。
 前にルビーが司書と戦って殺されかけたなど言っていたが、ネギ先生が言うにはここの魔法使いは人の味方を自称しているらしい。ルビーのような不審人物はまだしも実習生のネギ先生や生徒であるバカレンジャーたちが危害を加えられるとは思わなかった。
 ルビーはいろいろと魔法使いのあり方に文句を言っていたし、ネギ先生も人助けを強調していたが、この学園においてはそういうものよりも単純に隠蔽と火消しについての割合が大きいように感じる。
 まあ一般人を魔法使いで囲って学園都市として経営しているのだ。問題が起こらないほうがおかしいのだろう。
 ネギにはいろいろとえらそうなことを言ってしまったが、学園側の対応を見るに、魔法による魔法外への干渉はかなり強い。
 いまこうして先生以外の人間が図書館島に魔法の本をとりに向かおうとしているなどという現状がまさにそれだ。学園側から見れば、先生が同行しているのはむしろプラスなのだろう。

「だから先生についてはたぶん心配ないな。勉強できずに拘束されてるのかもしれないけど、近衛が関わってるくらいだし、学園長あたりが悪乗りして、図書館島で個人レッスンを受けてるのかもしれないぜ」
 わたしの言葉に相坂があはは、と笑った。
「だとしたらちょうどいいですね。日曜日ですし」
「わたしは日曜が丸まる勉強づけはごめんだがな」

 よいしょと立ち上がり、窓際から自分の席まで移動した。
 カバンの中にはある程度の勉強道具が入っている。
 少しばかり勉強して委員長とネギ先生への義理を果たしたあとは、いつもどおりの週末だ。
 しかし、そんなわたしを相坂がさびしそうな目で見つめている。
 相坂は途中まではついてこれるが、寮まではついてこれない。こいつの居場所は教室だ。
 帰ろうとしていた動きが止まる。
「…………ああ、もう」
 ああわたしってこんなに甘いキャラだったか。
 今日は先生のこともあって長話をしてしまったが、相坂と放課後に別れるのは日常なのだ。一度甘さを見せれば、それを日常とする羽目になる。
 わたしは今日くらいは特別だと言い訳をしながら、持ち上げたカバンを乱暴に机に置くと、中から筆記用具を取り出した。
 相坂が目を丸くした。

「……えっ?」
「相坂は勉強得意だろ。散々通ってるんだしさ。帰って勉強するよりも効率がよさそうだ。教えてくれよ、わたしはどうも成績が悪くてね」
「あっ!? は、はいっ!」

 満面の笑顔を見せた相坂に、飛びつくように抱きつかれた。
 はあ、わたしってアホだなあ。


   ◆◆◆


「暗くなってきましたね」
「というより真っ暗だな、学園祭前でもないのに、この時間か。この様じゃあ、ばれたら不審人物確定か」
「魔法で明るく出来ないんですか?」
「出来なくもないが、やりたくない」

 夕暮れがすぎて日が隠れ、完全に教室が暗くなると、さすがに勉強は出来なくなった。
 さすがにこの時期は日が落ちるのが早い。校庭からも運動部の声は消えている。
 暗い教室で相坂とささやきあう。
 魔法使いというのは常識が狂う。魔法で非常に融通が利くから、歯止めをきかせにくいのだ。
 簡単に言えば、自制しにくい。
 明かりをつければ人が来る。人払いの結界とやらは真っ先にルビーから習った魔術の一つだが、それを相坂のためとはいえ、このようなシチュエーションで使うのはわたしの信条に反する。

「宿直の先生も来るだろうし、わたしもさすがに帰ろうかと思うんだが」
「あっ、はい。そうですね」
 そういうさびしそうな声を上げないでほしいんだがな。
 わたしの実力では相坂を外に連れ出すことはまだ出来ない。
 相坂をいま製作中の人形とやらに取り付かせるのがベストなのだが、まだもう少しかかるはずだ。

「人形が出来たらわたしの部屋に来てくれよ。歓迎する」
「あ、はい」
 だからこの程度の言葉を送るのが妥当だろう。
 ルビーがいたときに、相坂と一緒に外を回るくらいはしたが、寮の部屋に招いたことはない。
 嬉しそうに相坂が微笑んだ。わたしはこれくらいのことしか出来ない。
 次にルビーが来たときにはもう少し頑張ることにしよう。
 わたしはカバンに荷物をつめながらそんなことを考えて、


「そのときはネットアイドルというのも見せてくださいね」


 そんなことを考えていたから、この相坂の言葉は不意打ちだった。
 カバンにしまおうとしていた筆記用具が手を滑って床に落ちる。
 バシャンという派手な音を立てペンをはじめとする筆箱の中身が広がった。

「どうしたんですか?」
「いや、どうしたというか……それ誰に聞いたんだ?」
 つかみ掛かるようにして相坂に詰め寄った。
 なぜか顔を赤くしながら相坂が口を開く。
「えーっとですね。この間エヴァンジェリンさんとルビーさんとお話したときに、ルビーさんが話してくれました」
「……」
 言葉を失ってしまった。あのアホはなにを話してるんだ。
 雑談中のつまみのつもりだったのだろうが、これだからアナクロなやつらは困る。
 ネットアイドルの身元ばれがどれほどの問題か知らないのか。
「でもルビーさんはすごいほめてましたよ。エヴァンジェリンさんに向かって、千雨の可愛さを教えてあげるわー、とか叫んで……あっ、いえ、ごめんなさい。えーっと、長谷川さんがすごいかわいいってことを一晩中……」
「いや、別に千雨でいいけど……えっ、マジ? ほんとかよ、おい……」

 エヴァンジェリンにまでばれているという状況に頭を抱えた。深刻すぎる。
 というよりあいつはそんなキャラだったのか。おかしいだろ。わたしの前じゃあシリアス系の魔女っぽいことばっか言ってたくせに。
 それにエヴァンジェリンには魔法なんかより百倍やばい弱みを抱えられた気がする。
 やばいちょっと涙出てきた。

「それっていつだ? わたしがいなかったってことは作業中だったってことだよな。つい最近のことか?」
「いえ、結構前ですよ。魔法世界とやらの服装の話から始まってコスプレでしたっけ? それの話を……」
「……結構前から、ねえ」
 深刻すぎる。つんでるじゃねえか。
 だが結構前からばれていたとは意外だった。エヴァンジェリン一家とはそれなりに会話をするが、あいつらはおくびにもだしていない。善意で黙っていたということはないだろうからワザとだろう。
 それでなにも言われていなかったのは一応は大丈夫なのか?
 胃がキリキリと痛んだ。まあエヴァンジェリンの性格から言って面白半分に脅迫することはあっても、面白半分に人にばらしたりはしまい。
 ルビーと違ってわたしがそれを知られたくないと思っていることにも気づいているはずだ。というかルビーだって気づいていただろ、絶対。何してくれてんだ、あのやろう。
 エヴァンジェリンのことだ。きっとどこぞの場面で脅迫の材料にでもつかう気だろう。
 安心は出来ないが、現状で深刻になる必要はないが、なんともやるせない気分だ。

「いえ、ルビーさんもエヴァンジェリンさんにはあまり話さないようにといってましたけど」
「結局言ってるんなら意味ねーだろ」
 この深刻性は当事者以外には笑い話なのだろう。
 当事者としては笑えない。
 わたしは心に深い傷を負いながらも、相坂に文句を言うわけにもいかずに、乾いた笑いだけを示して、教室をあとにする羽目になった。


   ◆


 天気もよい月曜日の朝。
 月曜の朝になっても先生とその他の六名はあらわれなかった。

 結局金曜日の夜以降、先生からの電話はなかった。
 あの先生のことだ、土曜、日曜に帰ってこれたのなら連絡の一つでも入れるだろう。
 楽観的に見て、真夜中に帰還してわたしに気をつかったという可能性もあるが、

「ま、妥当にまだ行方不明中ってところだろうけど」
 そうつぶやいたわたしの声に言葉が返った。
 隣に浮かぶ相坂の声だ。こいつは最近ここが定位置になっている。
「でも千雨さんが言ってたみたいに、この学校の魔法使いの人たちが先生のことを知っているなら、帰る手助けをしてくれるはずじゃあないんですか?」
「……いや」

 すこし違う、と首を振った。
 先生や近衛たちが怪我をしていたら手助けをするだろう。
 だが、全員が健康体で、とくに助ける必要がなければ助けはそうそう送られない気がする。
 確証はない。これまでの経験からみた、わたしの想像である。
 だがまあ先生が自分で解決できない場合、魔法使いが助けに行くのは確実だ。そこまで非道でもあるまい。

 わたしはざわめくクラスメイトを横目に、こっそりと相坂としゃべっていた。
 もっとも人気があるので、基本的には相坂がしゃべっているだけだ。
「魔法の本どころじゃなくなってますね」
「見つかったからこうなったんじゃないのか?」
 心配そうな顔をした相坂の言葉にそう答える。
 えっ、と驚いた顔をして相坂が飛び上がった。比ゆではなく、わたしの上まで飛んだ相坂が肩口に降り立つ。

「図書館島はおかしなところだが、べつに厄介ごとを闇から闇へって感じじゃない。ただ隠してるだけだ。探検部があるくらいだしな。それに綾瀬だってバカレンジャーなんていわれてるけど、成績悪いだけでバカじゃない。無駄骨だったら帰ってくるだろうし、本が見つかりそうにでもならない限り暴走はしないだろ」
 綾瀬ゆえならば確実に退路を考えているはずだ。腐っても探検部である。地図もなく進んで帰ってこれなくなるようなバカはしまい。帰ってこれないならば、それは常識ハズレの事態に巻き込まれたからだ。

「――もう予鈴が鳴ってしまいましたわよ! あのバカレンジャーはまだ来ませんの!?」
「来ないですー、もー駄目かもー」

 試験が始まるのか担当教師が現れる。
 さすがに無理か。先生はこれで退校となるのだろうか。
 状況としては教育実習を円満に解決してさよならということになるのだろう。以前の展開よりはよほど良いが、少しさびしいと感じた自分に少し驚く。
 金曜の電話を聞く限り、ネギ先生もバカレンジャーに無理やり連れて行かれたはずだ。
 これで魔法教師としては――――

「ああ、そうか」
「? どうしたんですか、千雨さん」
「肝心なこと思い出した。先生は帰ってこれるかもな」

 そういえば先生は言っていた。月曜日の朝まで魔法を封印していると。
 魔法の万能性はわたしも見せ付けられている。図書館島がいくら魔境でも、一般人である探索部が活動できるレベルである以上、魔法使いが帰ってこれないわけはないのだ。
 ネギ先生が帰ってこないのは、あいつが自分の魔法を封印していたのが原因か。恥ずかしながら完全に忘れていた。
 それを説明すると相坂も顔色を明るくした。

「でしたら、ネギ先生が辞めてしまうということもなさそうですね」
「いや、それとこれとは話が別だろ。もともとウチはドンケツなんだぜ。先生とバカどもが帰ってきてやっとスタート地点なんだよ」

 相坂は忘れているようだが、そもそもやつらの目的は頭を良くすることだ。
 帰ってくるのは最低条件であって、勉強してなきゃ意味がない。
 帰ってこれても勉強していなかったら順当に最下位となるだろう。

「みなさん! 今回は一人15点増しでよろしく!」
「ムリだってー」
「あれ? よく見たら図書館探検部の3人もいないよ」
「わーもーダメやー」

 そんなことを話していると、委員長が開き直ったのか、あほなことを言い出した。
 15点上げろねえ。そもそも当日朝にそんなことをいわれてもな。
 それで点が上がるなら苦労はしない。世界中の予備校が潰れるだろう。

「さすがに15点は難しいですよね、千雨さんでも」
「上方向に15点あいてないようなのもそろってるけどな」

 委員長ならネギ先生からじきじきに頼まれればやれてしまいそうではあるが、あいつの場合は上に十五点もあいていない。
 委員長や葉加瀬に超、いまはいない近衛や宮崎は平均90点以上を維持している。はっきり言ってあの二人が来なければビケを脱出するのは確実に不可能だ。

「千雨さんは今回がんばりましたからきっと大丈夫ですよ」
「ああ、まあそれにわたしの場合は、やろうと思えば十五点くらい絶対あげられるわな」

 まあ、わたしはのり代が上に15点以上ある。
 上げようと思えば、簡単に点は上げられる。
 ぶっちゃけたところ、満点を取ればいいだけだ。
 そういって肩をすくめた。

「えっえー!? どうしてですか? どうやってですか!? まさか今までのテストではわざと手をぬいていたとかですか!? 魔法使いとして目立つわけには行かなかったとか! かっこいい!」
 それはどこの主人公だ。
 なぜか、ものすごく驚く相坂にわたしはあきれる。
「……んなわけねえだろ。エヴァンジェリンじゃあるまいし、わざと悪い点取るほど余裕はねえよ」
 魔法使いにあれだけ関わっといて、何でこいつが驚いてんだ。
 ちなみにエヴァンジェリンの話はわたしの想像だ。だがあれだけ大口を叩いておいて、本気で中学生の試験に平均点しか取れないということはなかろう。
 そんなことを考えながら、ふと思いついたが、今回のテストであいつは本気を出すのだろうか? ネギを狙っているということだし、あいつが帰ってしまうのはエヴァンジェリンも望んではいないはずだ。

 と、思考を戻し、考えにふけって顔を上げると、わたしの周りをひょろひょろと飛び回りながら、相坂がまだ驚いていた。
 うーん、なんで思い当たらないものかと口を開く。
「お前がわたしに答えを教えてくれりゃあいいじゃん」
 誰にも見えない教師役。
 勉強を教えてもらったが、こいつはテストを何度も受けているだけあって要領をつかんでいる。
 いや、そもそも相坂がわからなかろうが、最悪の場合は葉加瀬や超の答案をカンニングすればいいのだ。
 善悪抜きにすれば一番簡単である。
 これくらい一番最初に思いつくだろ、と思いながら口にすると、なぜか相坂は非常に怒った。善人である。

「それはカンニングですよ!」
「いやいや、だからべつにそれを前から頼みはしなかっただろ。非常時というかいきなり平均15点あげろなんていわれて、その解決策って言ったらこんなのとか魔法の本くらいしかないだろ」
「魔法の本は勉強法ですが、わたしが教えたらカンニングですっ、そういうのはいけないと思います!」
「わかってるって、やる気はないよ」

 悪事を行わないのは善人だが、悪事を想定できない魔術師はただの無能だ。わたしは言い訳を口にしながら、怒る相坂にむかい肩をすくめる。
 ちなみに魔法の本についてはわたしも相坂もべつだん悪いものだとは思っていない。
 アメリカでは短期記憶を長期記憶にシフトさせる薬品……つまるところドラえもんの暗記パンのようなものだが、そのようなものも開発が行われているらしい。
 それと同様に魔法の本というのが実際にあったとしても、先生の言い分からすると、知識を与えるか、脳を活性化させるような代物のはずだ。
 テスト中に誰にも見られずに念話をするほうがよほど悪事だろう。
 徹夜でノートと格闘するのも、頭に電極差し込むのも、徒党を組んで魔法の本のためにダンジョンを攻略するのも結果を見れば同じベクトルに位置する行為である。
 そりゃあ勉強してる横で、かばんから飲み薬を取り出して満点取れるような展開なら不快感も味わうだろうが、それはわたしにはどうしようもない。それに今回はネギもバカレンジャーのお供で苦労していることだろうし、腹がたつどころか同情すらわいているくらいだ。
 今回はバカレンジャーたちの発案ということだが、学園側も魔法に関わっていない生徒の介入にはやはりおおらかなのだ。
 わたしは初めての印象が最悪だったから、悪印象ばかり持っていたが、やはりマギステル・マギとかいう建前はきちんと働いているのだろう。ルビーの世界に比べれば万倍は健全である。
 まあつまり、わたしにとって魔法の本は特殊ではあるが違法ではない。同様に魔術や催眠、薬などで知識を叩き込むのもずるくはあるが、まあ合法なのだろう。いや、薬品はだめなのだったか?
 そんなことを相坂とわたしがいいあっていると、窓側から声が上がる。

「あっ、見て!」

 声の主は村上だった。
 窓にべったりと張り付く村上の言葉に皆が外を見る。
 ふむ、とあごに手を当てた。
 これはやはり――――

「バカレンジャーたちが来たー!!」

 まあ、そういうことだろう。
 はてさて、これでスタートライン。結末はいったいどうなるか。
 わたしは最低限の義理を果たすため、相坂と分かれてテスト用紙に向かい合うことにした。



   ◆◆◆



 とまあそんな騒動の決着はというと、

「フォフォフォ、みんなにも一応紹介しておこう。新年度から正式に本校の英語科教員となるネギ・スプリングフィールド先生じゃ」

 このようなことになったわけだ。
 滞りなくどころか学年一位という奇跡を成し遂げた期末試験の後、春休みに入る直前の三学期終了式で、学園長はそういってネギ・スプリングフィールドをわたしたちに改めて紹介した。
 これから楽しい春休みというその朝礼の席で、学園長とネギ先生が全校生徒を前に朝礼台の上に立っている。
 事前にネギから話はあったし、おそらくそうなるのではないかなと思っていた。
 教員になると聞いていた。おそらく英語科教員になるだろうと思っていた。
 でも、

「ネギ先生には4月から「3-A」を担任してもらう予定じゃ」

 まあやっぱりこうなるか、と息を吐く。
 絶対仕組まれているよなあ、これ。
 顔を上げれば、うれしそうに笑う先生の姿がみえる。
 ハア、とため息を吐くわたしに相坂が心配そうな顔を向けてくるが、さすがにこんな人に囲まれた場所ではわたしは返事を口に出来ない。
 まあ、いやってわけじゃないけどさ。
 なんなんだろうなあ、いったい全体。このどうしようもない精神的な疲れはさ。

「…………クッ」

 小さな小さな笑い声。エヴァンジェリン・マクダウェルが笑っているのを視界から外しながら、わたしは誰にも気づかれないように息を吐く。
 地に魔法使いがはびこって、この世はすべてコトだらけ。
 いまはただ、わたしが巻き込まれないことだけを祈りたい。





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