パパっと番外。
早々簡単に人間成長しませんし強くもなれませんて。普通は。
番外なんで短いです。
あと一応三人称、所謂神視点で書いてます。
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海鳴臨海公園。
下校後、バイトもない月曜日なので彼、横島はここで海風に当たりながら、盛大に落ち込んでいた。
理由は色々あるが、結局のところは――
「場違いというか…なんか世界が違うよな」
確かに幼い頃から修行をしている彼らと今まで遊び呆けてた自分とを比べるという事自体烏滸がましいのは理解している。
だが良かれと思ってやった事まで否定されるのは幾ら楽天的な彼とて辛かった。ましてや反論出来る根拠もなく、向こうが正しいのだから。
そしてその後、隣のクラスの衛宮のデートを目撃して――じゃなく、化け物をもそれを軽々と打ちのめすやくざとプレシア、そしてなのは・フェイト・ユーノを見て、壮絶に打ちのめされた。
追いつけない。魔法が使えるとかそういう次元じゃない。ついでに衛宮の彼女が可愛らしい金髪外人腹立たしいとかそういう次元でもない。
「はぁぁぁぁ……」
盛大なため息。
彼女は疲れ切ったせいが、昨日一日起き上がる事はなかった。大丈夫だと皆に言われてすごすご登校したが正直家にいたかったのが本音である。
しかし、起きた彼女と顔を合わせるのも今はキツい。
彼女の性格上、自分に対する恨みも愚痴もないだろうが、横島としては文句の一言位言ってくれた方がどれだけ気楽かと思う。
彼女は許してくれるだろう、正確には気にもしないだろう、それが非常に悔しくやるせない。
「けどなぁ、あの乳尻太もも二の腕脹ら脛は俺のもんだしなぁ」
別に横島のでもなかろうが、あの魅力的な身体を諦めるとかいう選択肢も横島の中にはない。
この期に及んでそういう事言える辺り、まだまだ余裕ありすぎる為トドメを誰かさすべきである。
「ああ! あのはち切れんばかりの巨乳! Iカップ! 抱きしめたら折れそうな腰! ポニテ萌え属性は俺にはないがあのポニテはヤバすぎる! 制服という名の凶器に包まれたおっぱい! 引き締まったカモシカのようなおみ足! あの身体は俺のもんじゃああああ!!」
「やかましい!!」
バチンっ
「痛ぅ!?」
「ちょっと! 落ち込んでますって顔してるのがいるかと思ったら何セクハラ全開な事叫んでんのよ!
せっかく遊びに来たのに気分台無しじゃない!!」
「なんでいきなりセクハラ扱いされて殴られなきゃならんのだこのクソガキ!」
弱い奴には強い男、横島忠夫。
ひっぱたいてきたのが小学生の子供と見るや強気で怒鳴り返す。
「今のがセクハラじゃなかったらこの世に性犯罪なんて存在する訳ないでしょうが!」
「やかましい! 思春期の少年の熱いパトスが迸っただけだろうが! 赤飯前のガキにがたがた言われる筋合いはねぇ!」
「せっ!? こ、この不細工…っ! 顔だけじゃなくて性格まで歪んでるようね!」
「誰が不細工じゃこのクソガキ!」
暫く小学生vs高校生による口汚くもあほくさい口論が続く。
「あの…アリサちゃん?」
「何よすずか! あんたもこの馬鹿になんか言ったげなさいよ!
全く! 恭也さんと同じ風高の生徒とはとても思えないわね!」
「あん? 恭也の事知ってんのか?」
「そこのすずかのお姉ちゃんの彼氏よ! 文句あるの?!」
「はぁ!? じゃこの子月村の妹? そーいや似てるかな…つーか美人なんだなぁ」
「あ、ありがとうございます」
「こんな奴に褒められて照れない! すずかも!」
「あの、だからね、アリサちゃん。
注目を集めちゃってるから、ちょっと静かにした方が良いと思うの」
昼下がりの海鳴臨海公園は絶好のデートスポットであり、この街を訪れる観光客にも人気の観光地でもある。時期的に旅行シーズンという訳でもないが、それでも地元の人間も含めてそれなりに人がいるのだ。
金持ち御用達とこの近辺で有名な聖祥の制服を着た小学生と、海鳴中央と合併され、近隣で一番のマンモス校となった風ヶ丘の高校生が口論していればかなり目立つ。
というか、普通に目立つ。それも大概、高校生である横島の方が悪く見られる意味で。
「……ところでここであたしが痴漢よーと大声出したら貴方どうなるのかしら」
にやり、と年に似つかぬ悪い笑顔を浮かべるアリサ。
「すずか、お腹空いたわね! あら、偶然にもあそこにタイヤキ屋さんがあるじゃない?」
偶然も何もここ、海鳴臨海公園の名物屋台である。カレーチーズたい焼きが恭也のフェイバリット。
「アリサちゃんってば…」
「こ、このクソガキゃあ…っ!」
顔中の筋肉をひくひくさせながら呻く、がどうにもならない。
「あ、逃げようとしても無駄よ。
逃げたら忍さんと恭也さんにとっつかまえてもらうから。
あんたみたいなセクハラ男、風校でもさぞ有名でしょうし」
小学生の割に強気で正確な洞察力とか、正直ホントに小学性かと言いたくなる横島であった。
下宿先のなのは・ユーノ・フェイトも含めて、であるが。
「…何味?」
「そうね、アンコとカスタード二つずつ。あ、コーラも二つね」
とぼとぼ…
哀愁漂わせながら、たこ焼きの出店に向かう横島であった。
「らっしゃい」
「えーと、あんこの奴とカスタードの奴二つずつとチーズの奴とコーラ三つください」
「はいよ! しかし兄ちゃん、あんな科白をあんなばかでかい声で叫ぶのは辞めた方がいいぜ?
全力で本音だったみたいだけどよ」
くくっと小さく笑うタイヤキ屋。
「うるへー。青少年の熱いリビドーを叫んだだけじゃ」
「ま、若いうちは馬鹿やった方がいいぜ。後悔しないようにな」
ほらよ、と紙袋に包んだたいやきとコーラのペットボトル三つを放るタイヤキ屋。
「うっす」
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「ふーん、貴方がなのはの言ってた『新しく来た面白いお兄ちゃん』ね」
「すずかちゃん達がなのはちゃんの同級生だったとは…」
「お姉ちゃんと同級生なんですか。お姉ちゃん、学校ではどうですか?」
タイヤキをいくつか買い与えて、自分もぱくつく。
この横島、どこかの平行世界と違ってちゃんと給料ももらってる為(下宿先がバイト先な為安めではある)小学生に奢る位は稼いでいるのだ。
「しかしなのはも静香さんも美由希さんもこんな変態とよく一緒に暮らせるわねぇ」
「おめーみたいな口も性格も悪いのとよく友達やってられるよな、なのはちゃんもすずかちゃんも」
げしっ! アリサの脛蹴り!
「っだぁ! なにしやがる!」
「あーらごめんあそばせ。タイヤキ美味しいわね」
「もう、アリサちゃんってば」
はぐはぐとタイヤキを啄む小学生×2。それはそれで可愛らしいのかも知れないが。
――こんなんがなのはちゃんと友達だってんだから世の中間違ってるよな、全く」
「口に出てるわよ」
「しまった!?」
「別に良いわよ、で、そのなのはなんだけど、最近付き合い悪いのよね。
なんか悩んでるかと思えば急ににたにたし出して怖かったりするし。なんか知らない?」
「アリサちゃん、なのはちゃんだって色々あるんだろうし、悩みがあるなら相談してくるよ」
「そんな事分かってるわよ! わたしはなのはが心配なだけよ!」
「悩みねぇ…ユーノと仲良すぎてにやにやしてるだけじゃねーの」
そんな事より俺の悩みをどうにかして欲しいぜ、とは流石に口にしないが。
「ユーノ?」
「なのはちゃんの彼氏」
「え、なのはちゃん…もう彼氏とかいるんだ…」
「横島……詳しく話しなさい……あたしにこれだけ心配させておいて彼氏…?」
怖さとは年齢に関係ないんだという事を今日、横島は知る。
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「ふーん、フェイトって子の事は聞いてたけど、まさか彼氏まで同居してるなんてね…」
「変な声出すな! 最近のガキは怖いなまったく」
「今週の土曜日は恭也さんがうちに来る筈だから、皆でお茶会しよう?
フェイトちゃんにユーノ君だっけ? その子達もなのはちゃんに連れてきてもらって」
大人しそうに見えて、すずかも興味津々のようである。
「よし! 横島、あんたが責任もってそのフェイトとユーノを連れてくるのよ!」
「なんで俺がそんな事を――」
「わ・か・っ・た・わ・ね?」
「いえっさー!」
横島忠夫、強気な女に逆らえない性質を持つ男。
そんな自分が嫌いじゃない18歳の春だった。
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次も番外編かな? 本編かも。
まあ書けた方をアップします。
20091205ちょっと修正。