桃缶を抱きしめて泣き濡れたオーフェンに最後の質問。
「重要な質問なんだが、スウェーデンボリーの力はどうなった?
正直、魔王の力があれば自力でキエサルヒマ大陸にも戻れそうな気がするんだが」
「……消失した。詳しくは言う気はない」
何かを思い出したのか、暗い……違うな、喜びたいけど躊躇ってる?
「じゃあ単なるオーフェンな訳だな、今は」
「ああ」
うーん、郷愁漂ってるな。魔王の力なら何とか戻れそうな気もするけど。
まあ別にオーフェンが戻れようと戻れまいと俺の人生には影響ない…といいな。
ないと言い切れない俺の人生が悲しい。
話し合いが終わったので、涙を拭きつつ歩くオーフェンと連れだって翠屋に戻った俺。
( ゚Д゚)ポカーン
あ、ありのまま起こった事を話すぜ。
オーフェン×フェイトとかプレシア×オーフェンでプレオーフェンとかアホな事考えてたらなのは×ユーノ×フェイトだった。
何を言ってるのか分からないと思うが(略
どうでもいいけどこのフレーズ便利すぎる。荒木先生もまさかポルポルの名台詞がここまで流行るとは思わなかったに違いない。まああり得ない事が起こりすぎるこの世界が一番間違ってる訳だが。
「…どうしてこうなった?」
既にclosedの札は下がっているので、店に残ってるのは身内とフェイト一家、そして横島くらいである。
で、ユーノの右腕をなのはがこれでもかといわんばかりに抱きしめ、頬染めつつユーノの左手をそっと握っているフェイト。
「酷いんだよユーノ君! フェイトちゃんにキスしたんだよ!」
ぷんぷんと怒ってますと言わんばかりの表情でなのはが吼える。そして言ってる割には怒ってないのは多分――
「なのはだってキスしたじゃない……ユーノは私の旦那様なのに」
「違うもん! ユーノ君はなのはの王子様なの!」
何らかのラッキースケベ発生→ユーノとフェイトがキス(単に倒れ込んだ先にたまたま唇が触れた程度じゃね?)→なのは激怒→なのはから、もしくは怒りを宥める為ユーノからなのはにキス→現在に至る。
詳しい話を聞かなきゃ分からんが概ねこんなトコだろう。
付け加えるとプレシアかリニス辺りが貞女は二夫に見えずをおもしろおかしく適当に教えてたみたいな事が化学変化起こしてこの結果とかだろうな。
オーフェンも呆れてた顔して、肩を竦めた。まあ子供の恋愛なんてある意味こんなもんかもね。
プレシアは高町母と気があったのか士郎も交えて談笑している。もはや俺の知ってるプレシアじゃないのは確定的に明らかだな。
美由希と恭也は並んでユーノ達を肴に食事を楽しんでいるようだ。オーフェンが恭也のトコに合流したか。
神速の事をさっき俺に訊いてきたから、恭也に訊けと振ってやったフラグをさっそく回収かね。
リニスは何故かビデオを回してる、対象はフェイト。
…このリニスも性格変わってるんだろうか。正直アニメはそれなりに覚えてるがリニスがまともに出たトコは覚えてないからどうとも言えん。しかしこのリニスは間違いなくフェイト好きだろう。口元をにやけさせながらビデオ回す位だしな。
アルフは店の隅で狼モードで寝てる。口の周りの汚れ具合から相当食べたんだろう。後でもふもふせねば。もふもふ。
……横島は何処だ?
「…何をしてる?」
「はっ!? え、いやその、おかえりなさいっす」
柱の陰からこっちを覗いてたから何かあるのかと思ったが…?
まあ良い。適当に残ってる料理を持ってくるよう頼んで、ユーノ達の前の椅子に座る。
「助けて…」
涙目のユーノ。ちょっと可愛いじゃないか。
「事情は知らんが自業自得だと判断する。自分でどうにかしろ」
「酷い!」
「はい、ユーノ君、あーん」
「ユーノ…その、あーんして」
全力全開と言わんばかりのなのはに、照れはあるが頑張ります的なフェイト。
微笑ましい情景だね、本人は兎も角。
「で、プレシアとの話し合いはどうなったんだ?」
「頭痛くなりましたがまあ何とか…
とりあえず共闘・協力です」
なのはとフェイトから出されるスプーンを交互に銜えながらこちらに報告するという器用な真似。
「分かった」
つまり他人に聞かれたくない話で頭が痛くなるような事があったと。
あのプレシアなら問題なさそうだけどなぁ。
……大人組は酒飲んで騒いでやがる…明日も仕事――じゃないな、サッカーの試合だわ。
あ、オーフェンも巻き込まれたぞ。あんまり酒飲んでるイメージないのは貧乏のせいだな。
実際は強いのか弱いのか…とりあえずプレシアに抱き抱えられるようにされてるのは羨ましいと言えば良いのか? 元男として。
あんまり暴力ふるわないオーフェンというのも違和感があるが、これはアレだな、無能警官とかのせいであってオーフェン自体は別に暴力的じゃないという証左? うん、無理がある。なんか弱みでも握られてるのかね?
ま、見てて楽しいといえば楽しいが助けてやるか。
もう八時回ってるし子供はそろそろ寝る時間だ。
「なのは、そろそろ帰るぞ。明日はサッカーの応援行くんだろう?」
「はーい」
そう、明日はジュエルシードカツアゲ作戦……オーフェンにやらせれば完璧じゃね?
通報されてしまう事請け合いだが。
「父も明日二日酔いでグラウンドに出るつもりか? いい加減きりあげろ」
「もう静香のイケズ」
「いけずぅ~」
プレシアさんマジ勘弁してくたざい。
あと高町母も33歳なんだからいい加減可愛い子ぶるのはどうかと。似合うのがまたアレだ。
「横島、構わんから片っ端から片付けろ」
「イエス・マム!」
ホント便利な奴だなこいつ。
いやいやそういう風に人を見るのはいかん、いかんぞ俺。
ギブアンドテイクという事で後でなんかしてやろう。
「リニスさんもカメラ回してないで帰る支度してください」
「今日は良いシーンが撮れたし、切り上げ時ね。分かったわ」
ホームビデオの録画と編集に命賭けてる人なんだろうか。
「アルフ、起きろ。起きないと逆モヒカンに刈り上げるぞ」
御神の一族として刃物の携帯は基本ですよ?
「アルフ、起きて」
自分の食べた食器を片付けた後、アルフを起こしに来るフェイト。
何という良い子。ホントにプレシアの子か、これ。
「父母共に使い物にならんか。
仕方ない、私達が片付けをしておく。
ユーノ、なのはを頼む」
恭也と美由希に視線を送るとやれやれと言った風ではあるが頷く。
父と母は酔ってても家に帰る位出来るだろ、ユーノもいるし。
「なのはずるい!」
いきなり何ですかフェイトさん。
そしてすかさずビデオを回さないでくださいリニスさん。
「ずるくないもん! なのははユーノ君と一緒の布団で寝るって決まってるんだもん!」
「最近、妙にユーノの部屋が静かだと思ったら…」
美由希のあきれ顔。恭也・士郎の忌々しげな顔。
桃子・プレシアはあらあらとでも言いたげなニコニコ笑顔。怖いよ色んな意味で。
「ずるい! わたしもユーノと一緒に寝たい!」
一歩間違えるととんでもない台詞ですね、年齢的に間違ってる気がしないでもないけど。
「あらあら。じゃあ、プレシア達もうちに泊まればいいじゃない」
高町母…
「おお、それは良い。うちに帰ってから飲み直そうじゃないか」
父…
「旨いモン喰えるなら付きあうぜ」
金欠魔術士め…
「仕方あるまい」
「恭也と美由希で部屋用意してやってくれ。
フェイトはなのはの部屋で良いだろ、ユーノが使ってる部屋をプレシアとリニスで使ってもらえ。
アルフは私の部屋だ」
もふもふでもしないとやってられん。
「え? 僕は?」
「当然なのはとフェイトと一緒の部屋だ」
「うー…」
不満だけどお泊まりに来た友達を邪険に扱うのも嫌という葛藤、と言ったところか。
「フェイト、なのはちゃんにお礼はぁ?」
酒臭いですよプレシアさん。
「なのはありがとう!」
満面の笑顔。コレは堕ちるだろ常識的に考えて、男ならな。
もはや俺には可愛いという愛玩的な感情しか浮かばんが。
大分女的になってきたという訳か? あんまりぞっとせんな。
「もう、仕方ないなぁ、フェイトちゃんは」
相好崩れてますよ、なのはさん。
「仕方ないのはなのはもだろう…?」
そんな小さな声じゃ誰にも届かんよ、ユーノ。
「横島、片付け付き合え。恭也と美由希、ユーノは皆連れて早く帰れ」
「ああ、分かった」
「ごめんね、静ちゃん」
「静香ちゃんと二人きり! フラグKtkr!!」
「殺すぞ?」
キタコレとか言うな。というかまさか2chでスレ立ててないだろうな。
【同級生】惚れた女性の家に下宿させてもらった【同居】とか。
…とりあえず家帰ったらネットに繋がねば。
「すいませんすいません」
今の動き、まるで見えなかったぞ…土下座だから意味はないけど。
全く、こんなんだったら最初から自宅に呼んでおけば良かったぜ。
いやしかしあんなプレシア誰が予想するというのだ…全く。
しかもまだなんかあるみたいだしなぁ、ユーノの話じゃ。
しかも真夜中に起こすのもアレだな…明日のジュエルシード片付けてからになるか。
やれやれだぜ。
****
「ふう…便所掃除も終わったっすよ」
「ご苦労」
22時である。
つい気合い入れて掃除してしまった。まあ衛生管理しっかりしてるから、基本的に綺麗なんだが細かいトコとか気になってたんだよね。で、横島もいるしついつい熱が入ってしまった。
しかし薄情な奴らだな、恭也と美由希め。酔っぱらいと子供達を家に置いてきたら手伝いに戻ってくる位してもよかろうに。
まあこの時間なら既に深夜の修行に出かけてるんだろうが。
窓も拭いたしテーブルも椅子も拭いた、床もモップかけたし窓のさんも掃除した。観葉植物や展示物も埃を落とした。
流石に食器の類まで洗うのは時間かかりすぎるから辞めたが、まあこんなもんだろう。
あ、勿論さっきまで飲み食いした分のは洗ってあるぞ。
「じゃあ掃除用具片付けてこい。軽く作ってやる」
流石に明日休みだけあってあんまりモノがないな…
ああ、桃缶が残ってたか。買いすぎたな、桃缶。
んじゃこれで手抜きピーチパイでも作るか。
「手料理!」
「いいから早くしろ」
こいつはホントにわかりやすいな。
とりあえず小麦粉を捏ねてと。
「旨いっす! 感激っす!」
「黙って喰え」
珈琲を啜る俺。紅茶の方がうちは有名だが珈琲もあるのだ。
俺はどちらかというと珈琲党なので自分で淹れて、飲んでるというわけ。
まあ横島は紅茶だろうが紅ヒーだろうが気にしないんだろうが。
「あの、オーフェン?とか言うやくざと何話してたんすか?」
「否定はせんが本人には言うなよ、命が惜しければな」
まあ控え目に言ってやくざだしな、アレは。
プレシアと腕組んで歩くオーフェンとか始めて見たわ。いや色んな意味で。
オーフェンの方ももしかしてまんざらでもないのか? よく分からんな。
「で、何の話してたんすか!」
うるさいなこいつは。
こいつホントに俺に惚れてんのか? 別に今更男とは嫌だなんて言うつもりはないけど、率先して誰かと付き合いたいとかいう気持ちはこっちにはないんだが。
あ、でもトレーズ閣下(GW)かカトル様なら今すぐこちらからお願いしたいところな。
でもガンダム系はいなさそうだよね、この世界。まあ基本未来の話だからかな。
しかしホント男が少ない気がする、男女比が問題だ。一夫多妻制がそのうち施行されるんじゃないか?
まあ桜蘭高校みたいな学校があるのかも知れんが…
「…何故胸を揉む」
横島の手では収まらない我が巨乳。重いだけだが。
「あ、考え事してたみたいだからリラックスしてもらおうかと…」
正直呆れるよか感心するわ、自分が男だった頃を鑑みてもこんな行動、間違えてもとれん。
しかもまだ胸から手を離さないとか動きが止まらないとか。
どれだけ下半身の命令に忠実なんだこいつは。ちょっと気持ちよいのが腹立たしい。
「遺言は聞いてやろう」
「すいませんすいません」
土下座早いよ。
意識してなかったけど、凄む時どうも練やってたみたいだ。道理で横島がビビる訳である。H×Hのゴンキルですらビビり入ってたしな、念使えない頃は。
あ、ぶん殴るか? 今。
しかし、そうするとこいつと二人きりで修行とかになるんだよな…
ちなみに念発動から今まで描写はしなかったが修行続けた結果、纏、絶、練、発(水見式の結果が顕著になるようにって言う修行)に加えて凝、陰、周、円、堅、硬、流と一通り出来るようになった。
比較的簡単だったのが円と周、逆にキツかったのが陰だな。絶も上手いとは言えない。堅は一時間前後が限度。
そろそろ発を完成させる時期という訳だ。
たかだか一週間とちょっとでなんという上達速度。やはり俺は最強系なのか。今更どうでも良いが。どうせオーフェン辺りにも負ける。
閑話休題。
別に嫌いじゃないけどこいつと二人きりはなんかな…まだ俺も男としての意識が、ちょっとは残ってるという事か?
別に今胸揉まれたのだって気持ち悪いという感覚は薄いが……何処か他人事と言ったような……よく分からんな。
誰か相談出来る人がいればいいんだが、TS経験者とか。
………いたらいたで嫌だな、それも。
保留しよう。
とりあえずこの馬鹿に今喰った手抜きピーチパイと珈琲の片付けをさせるとして。
明日のジュエルシードの事でも考えておくか。
****
「どうしてこうなった!?」
もう半ば口癖になってるのかも知れない。しかし悪いのは世界であって俺ではないぞ!
「な、なんすかこの化け物!?」
あーもー! 鍛え始めたとは言えまだ足手まといなんだからどっか逃げろ!
そう、帰り道にシードモンスターが現れたのだ!
しかも「明日のサッカーの試合」に出てくるタイプじゃなく、記憶漏れがないなら俺の知らない奴!
あーでもこの世界で「あんな目立つ」事されたらどうなる事やら――ってそんな事考えてる場合じゃない!
「短縮番号3番!
恭也の携帯につながる! 呼べ!」
懐から取り出した携帯を横島に放る。
そして「周」で覆った飛針!
「ぐぉぉ!?」
よし、きっちり刺さってダメージもあるみたいだな。
人型、だな。大きさは3mもあるが。
というか!
斬!
速い! 練使って凝使って身体能力アップしてる筈の俺がギリギリとか!
こいつ人が発動させたタイプだろ、中身透けて見えるしな!
「殺す殺す殺す殺す――」
快楽殺人者か?!
とりあえず避け続ける! 飛針を飛ばす! 同じく周で強化された鋼糸で動きを縛る!
速いわ強いわ! なんでこういう時に限ってオーフェンとかいないんだよコンチクショー!
文珠覚えてないとごろか修行始めたばかりの横島じゃ足手まといにしかならん!
ユーノ達魔法使い組は発動を察知出来たろうから、そのうち来ると思うが!
それにしても何で俺の周りばかりでこいつらは発動するんだ馬鹿たれ!
視界の端に携帯に怒鳴っている横島を捉えつつ、そちらへ意識を向かないよう飛針と鋼糸で牽制し続ける。
人間に取り付いて「殺人願望」の発動とかヤバいにも程がある。助かった点は手に持ったナイフで殺したいという願望があるのか、魔法じみた方法では攻撃してこない点か。
速さも強さも尋常じゃないが対応出来ない程でもない。周りに人外じみたのばかりだからこの程度、というわけだ、ちっとも嬉しくないが!
そしてやばい! めちゃくちゃ疲れてきた!
修行時の一時間の堅=実践の十分ってマジっぽいな!
しかし防御の堅や移動時に足に集める凝は兎も角、飛針と鋼糸は正直周で覆わなきゃ通用しないんだが!
あとご近所の皆さんが通報しないか怖いぞ!
そもそもなんでこんな強いんだよ!? どう考えてもアニメの五割増しは強いだろ?!
そういや人に取り憑いた例はサッカーのアレ位かよく考えたら?! そりゃ殺人願望とか黒い願いを魔法少女モノ(笑)で出すわけないですよねぇ!
「まだか!?」
飛針も尽きたしいい加減疲れて――
ズルっ!
足を取られた! ヤバい!!
避けられん! 凝――いや拳に硬で迎撃する!
「静香ちゃん!」
ちょっおまっ!? この状況で俺に覆い被さるとか脳みそに皺がないのか!?
あーもー左手じゃどかせないけど右手だといくら何でも横島死ぬし!
「ストラグル・バインド!」
おお、頼もしき水橋かおりヴォイス。
「ディバイン・バスター!」「フォトンランサー!」
そして続けて妹とその友達の声。
ふぅ、助かった……
この時点で気が抜けた俺の意識は闇に堕ちた――
****
冒頭のアレは魔王オーフェンだと正直異世界にとどまってる理由も思いつかないし冗談抜きに強すぎるのであんな感じ。
脱魔王化の理由とかもちゃんと考えてます、けど出てくるかは謎。
そして若干短いけどバトル入ってるし良いよね(・∀・)
それにしても一週間で念の殆ど使えるようになった割に弱いですねぇ。
余所に持って行ったら一週間で念(笑)とか言われてしまうような設定ですがw
あ、今回新たなクロス先は出てませんね、そういえば。