「あけましておめでとう、静香ちゃん」
《ああ、おめでとう、忠夫》
新年の朝、1998年初の朝を繋いだ電話ごしに祝う二人。
静香の声には寂寥の感が強い。
横島もそれは感じているのだが、正直この状況を望んだのは静香なのだ。
口に出して寂しいの? 等と訊けるものではない。
「ん、お腹平気?」
代わりに自身の子供の事を尋ねる。
そろそろ四ヶ月になろうとしている。
《ああ、少し目立ってきたが、この程度ならちょっと太った程度だな》
声に嘘はなさそうだ。
静香研究家の第一人者を自称する横島には静香の嘘は通用しないのだ。
「そ。悪阻は?」
《大丈夫だ、問題ない》
ツッコミたいのを我慢する横島。
電話越しとは言え大分力ある声の調子に、安堵する。
「無理しちゃ駄目っすよ?」
《解ってるさ。で、そっちはどうなんだ?》
「ふふん。もう練出来るようになったっすよ。そのまま凝も出来たけど」
《よく出来たな?》
「エロ本をじっと見るような感覚で」
《やはり阿呆だお前は》
「その阿呆の子供がお腹にいるのだよ、ふふふふ」
《ふん。この子達は私がしっかり教育するからな》
「この子、たち?」
《ああ、双子らしい。二卵性だがな》
「マージーデー? 静香ちゃんと恭也もそうだけど、そういう遺伝っすかね」
《そうかもな。うちの一族で双子は私と恭也だけだから、母親の方の家系かもな》
「大丈夫、俺は子供捨てたりしないしさせないよ?」
既に恭也と静香の産まれや母・夏織の事は父・士郎から聞かされている横島である。
静香がその手の事に恐怖と嫌悪を抱いているのは十分理解していた。
《…ふん。試合の方はどうなってる?》
「ん。とりあえず1勝したよ。登録期限ぎりぎりに登録して、静香ちゃんのとかち合わせたんだけど、どうも静香ちゃんと戦えなくてさ。
ま、試合して勝ったから良いけど」
《そうか。無事で、良かった…》
背骨をぞくぞくと快感が駆け抜けるのを感じる。
横島の耳が、その声音に心底安堵した心根を感じ取ったからだ。
軽く首を振って話題を変える横島。
怪我はしなかったし雑魚だったが、妊婦に戦いの話などしたくない。
「それよかゴンはどうよ? ハンターになりたいって騒いでるんっしょ?」
静香がくじら島に戻ってから、実は静香以上に横島に電話かけてくるようになったゴン。
どうも横島が側にいないのが不満らしい。
自分の父親が育児放棄してるようなものなのを理解しているので口には出さないが、如何せん小学生である。
言葉の端々に横島を責めるような声が混じるのは致し方ないと言える。
尤も、横島自身が側にいないのを苦に感じている為、そう受け取ってしまうだけかも知れないが。
《騒いではいないさ。ミトさんにはバレてないつもりで、色々特訓してるし私に師事している。
まあ身体を鍛える程度に教えてるよ、余り動かないのも身体に悪いしな》
ミトさんとしては複雑だろうなと思うがゴンの意志の固さは半端ではない。
だかまあ、所詮なるようにしかならないし、今の横島としてはそんな事より静香のお腹の方が一大事である。
「無理しないでね」
《解ってる。最近はノウコちゃんという子が世話焼きに来るようになってな》
「へえ? つかあの島、ゴン以外に子供いたんだ」
《ああ、ゴンと一緒になって世話焼いてくれるよ》
「ありがた迷惑って奴っすね」
《ま、そういうな。赤ん坊なんて見た事ないんだから興味を持って当然だろう。娯楽も殆どない島だし》
「静香ちゃんは退屈じゃない?」
《退屈だ、身体も本気で動かせない。ま、悪阻自体は大した事ないし家事は出来るんだが、色々と匂いに過敏になって大変さ》
「無理しちゃ駄目っすよ」
《解ってる。お前も速く強くなってくれ。そ、の…逢いたい、からな》
「ん。俺も逢いたいよ」
《修行終わるまで駄目だからな》
「はいはい」
《じゃあ、な。また電話してくれ。修行の邪魔にならない程度にな》
「あ、そうそう」
《ん?》
「テレフォンセックスでもやらないか?」
《死ね!》
がちゃんっ!
勢いよく叩きつけられる音を避ける為に受話器を耳から離していた横島が苦笑する。
「はー…逢いてぇしヤりてぇなぁ」
嘆息と共に漏れる本音。
「本音だだ漏れだし」
横島の背後からかかる声。
「こっそり入ってくんなボケ」
「絶の修行っす」
〈気付いてて無視してた癖に何を言っているのか〉
「そういう問題じゃねーだろ、バンダナ」
静香の妊娠が発覚して暫くして纏を覚えたサダソは今は絶の修行中であった。
そもそもゴンキルや横島のように日常生活で気配を消しきる必要がある人間などそうはいないのだ。
よってサダソは絶をしながら街中や闘技場内各施設を彷徨いたりして絶の修行をしていた。
纏も意識している間は滅多な事では解けなくなっている、順調と言って良いペースである。
そしてその修行の一環として街中や闘技場内で師匠とであるシンと隠れ鬼ごっこをしている。
流石に犯罪を起こすつもりはないので、立ち入って問題ない範囲限定で、鬼を交互に努めて尾行の練習をしているのだ。
今は休憩に入ったので横島の顔を見にきたところであった。
横島の方は練と凝を可能になったので、今日から発の修行に入る所だ。
発の修行――水見式による系統判別と系統性質の発現力の強化である。
筆者の個人的には発の修行というよりは系統別修行Lv0という意味で捉えているが、これの修行が足らないと自系統に対する習得度と精度に影響するのだと思われる。
「いやー、いつ見てもシュールっすね、三つ目が喋るなんて」
「念能力ってすげーよなぁ」
〈凄いのは私ではなくおぬしと静香なのだがな〉
「そーなん?」
〈水見式をやってみれば解る〉
「いいなぁ、兄さん」
サダソは羨望と嫉妬の念を篭めてその一言を吐いた。
流石にここまで水を空けられれば何とも思わないというのが不自然だ。
〈サダソはまだまだ修行が足りん〉
「ぐっ…目玉に説教されるとはっ」
〈私は静香の知識をほぼ全て与えられているからな〉
それはシンも認めるところで、貂蝉がご主人様をベータから守らないと等と言い残して失踪した今、横島とサダソの育成に大いに役立っていた。
実の所あやふやな面もあった静香本人と違ってきっちりと知識として全てを継承している上、所謂原作で語られていない知識に関してもシンから授かっている心眼はコーチとして最適である。
「そーいやなんでそんな詳しいんだろうね、静香ちゃん
どうもこっち来る前から使えてたみたいだし」
〈それも後で教える〉
「へいへい。んじゃぶっ倒れるまで練しますか――ところで後ろ」
「う?――痛っ!?」
「気を抜きすぎじゃ」
いつの間にかサダソの後ろに立っていたシンが杖で小突いた。
「絶をしている時は周りに気を配れと言っておろうが。
どのような達人であれ絶状態では裸で立っているのと同じだと何度言えば解るのじゃ」
「うっす」
頭を摩りながらも頷くサダソ。
事実、横島に言われるまで気付けなかったという事は、シンが敵であればこの時点で死んでいるという事だ。
「ふむ、今日からは寝てる間も訓練じゃ」
「うへー」
原作のGI編でゴンキルがビスケにやらされた、気を抜くと石が落ちてくるアレをやるのだろう。
似たような修行を士郎からやらされている横島としては、お前も苦しめばえーんじゃと言ったところか。
ちなみに静香も似たような訓練は受けているので、寝てる間に円を維持しつつ何かがあれば反応して凝をするなどという芸当が可能なのだ。
「じゃ俺は師匠ともっかい修行してきます」
「おう」
「おぬしは練の修行をしておれ。午後には発の修行じゃ」
「ういー」
部屋から出て行くのを確認して、呼吸を整える横島。
「はっ!」
〈練を維持し続ける事を堅と呼ぶ。
静香は大体10時間ほど堅を維持出来るが、最低でも3時間は維持出来なければ使えん。
まあ最初は30分も出来れば御の字だが〉
「これを10時間ってとんでもないな」
オーラを吹き出しながら顔をゆがめる。
自身を過小評価する傾向にある横島としては、自分と彼女の差を明確にされて些か凹んでしまう。
〈上級以上のハンターなら当然のように出来るがな〉
「うええ――あかん」
オーラが吹き止みがくっと膝を突いて蹲る。
四つん這いのまま、荒くなった息を整え始めた。
流石に纏が解ける事はなく、薄くではあるが身体の周りをきちんと覆っていた。
〈ふむ、大体3分、覚え立てならこの程度か〉
「こ、このオーラを出し尽くした疲労感はパネェな…」
〈ところで静香が×××をされると悦ぶのは知ってるか?〉
「なぬ?!」
がばっと顔を上げて、額を見るように上を向く。
実際には自分が付けているバンダナを見る事など出来ようがないので意味はない。
〈どうもおぬしに×××されたいのだが口には出せないようでな〉
「なんと?!」
〈ふふん、静香はプライドが高いからな、口には出せないのだ〉
「じゃあ□□□とか***とかあまつさえ@@@な事とかも?!」
〈うむ、実例として静香は△△△する時は必ず×××するのだが〉
「するのだが?!」
〈続きは練をやってからだ〉
いつの間にか色々と立ち上がっていた横島に気を持たせる心眼。
「オノレ――はっ!」
再び練する横島。
この時点で異様を通り越して異常である事に気付いていない。
そう、横島は一度尽きたオーラを自力で回復したのだ。
〈ふむ。×××するのだが、その時大抵静香はおぬしに×××してもらいたがっているのだ〉
それを解っている心眼が練の最中にもエロ話を続ける。
正直、静香本人ですら触ったことのない場所を隅々まで味わっている癖にこの程度の話でと思わなくもない心眼だが、食い付いてくる以上有効利用すべきである。
「マジで?!」
〈うむ。だがしかしプライドが高く恥ずかしがり屋な静香は口に出せずにいる〉
「くぅっ! 言ってくれれば×××位してあげるのにっ!」
悔しさからか一際強く吹き上がるオーラ。
〈他にも△△△する時に○○○をしてもらいたいと思ってもいる〉
「ふぉぉぉぉ!!!――あ、あかん」
〈ふむ、今度は5分か〉
「もう指一本動かせる気がせーへんぞこれ……」
崩れ落ち床に横たわる横島。
〈師匠殿が戻ってくるまでぶっ倒れていろ〉
「へいへい」
床の冷たさを頬で感じながら、滑らかで無機質な、ロボットのような声を聞く。
「……なんで静香ちゃんはこんな念について詳しいんだ?」
〈知ってるからだ〉
「俺達がいた元の世界には、念能力者はいないんじゃねーの?」
〈静香を除いていないな、全ての人類を確認した訳ではないが〉
「なんで静香ちゃんだけ?」
〈本人から訊け。ただし、嫌われる覚悟はしろ〉
「おめーな」
〈まあ、今更おぬしが嫌われる事はないがな。むしろ盛大に泣かれる覚悟をしておけ、尋ねるならばな〉
「死ねボケ」
人一倍女性を好きで女性に甘い横島が、泣かれると解ってて尋ねる訳が無い。
それを知っていてこういう言い回しをする心眼をぶん殴ってやりたい横島だったが、生憎指一本動かすのも怠いので罵るだけに留まる。
〈そんな事より今日はこれから発の修行に入るのだろう〉
「六相図やっけ」
〈ああ、静香は放出系、師匠殿は具現化系、貂蝉殿は強化系だ〉
「俺は何系やろ?」
〈それを調べる為の水見式だ〉
「ふーん」
〈静香が死ぬ程帰りたいと願ってるというのに、のんきなものだな〉
「けっ。解ってる癖に言うなよ」
〈おぬしとしては別にここで骨を埋めても文句は無かろうからな〉
「まーな。静香ちゃんがいればどーでも良いし」
横島とてなのは達を可愛いと思うし大事であるのは間違いない。
ただし優先順位は高町静香が最上位なのだ。
無理して何もかもご破算よりは静香と二人きりで幸せになれば良い。
ただし、そろそろ事情が変わってきたのを横島も感じている。
もはや静香の中で横島が文珠を覚えて帰る事が唯一の希望だ。
その期待を感じない程横島も鈍感ではない。
別に自身は静香が側にいるなら帰らないでも何も問題はない。
しかし、戻れないと、横島が戻る為の力を手に入れられなかったと知ったらどれだけ深い絶望が静香を襲うのか、横島にすら予想が付かない。
それゆえに怖い。
よりにもよって自分が無二の彼女を悲しませてしまうかも知れないという恐怖。
その重圧に横島は耐えていた。
「で? 帰る為の能力とやらは覚えられそーなんか?」
〈我がここに在る。それが答えだ〉
「厨二乙」
もう口利く気力もないのだろう、目を閉じると程なく静かな呼吸音だけが部屋にたゆたっていた。
****
「コップに入れた水の上に葉っぱを乗せ、コップに手を近づけ練を行う」
横島を能力で回復させて味気ない昼飯を片付けた後。
一頻り六相図とそれぞれの系統の利点・欠点等を解説した後、グラスを用意するシン。
「うい」
「そして起こる水の変化によって系統を判別する」
横島、シン、サダソとテーブルの前に置かれたグラスを囲うように顔をつきあわせていた。
事実、特質系を除く5系統のオーラは『水』に反応するのであって『葉』には影響がない。
操作系は水が揺れる事によって葉が揺れるだけだ。
原作中でネフェルピトーの水見式は『葉が枯れる』であった。
ゴンキルでさえ最初は『ちょろっと水が溢れる』『微かに甘い』という変化であったのに対し、いきなり『跡形もなく葉が枯れた』というのは、ピトー達親衛隊の異様なまでの才能の証左なのだろう。
はっきり言って、ポックルを殺さず指導教官にしてたら手が付けられない程の強さになっていたのではないかと思わされる事例である。
「サダソは未だ練を修めていないから見学じゃ」
「うっす」
「まず儂がやって見せよう」
シンのオーラが充満し、翳した手からコップの水に不純物が混じる。
所謂葉形のような薄い、クッキー程度の厚さのプレート状の不純物があっと言う間にコップの中を埋め尽くした。
「おー」
「水の中に不純物が出現するのは具現化系じゃ」
「ベッド作る能力っすね」
「自分の系統に合わない能力を作ろうとすると、本来必要のない苦労を強いられる。
ゆえに自分の系統とやりたい事を一致させる事が肝要じゃ」
コップをひっくり返して中身を捨てて水を足して葉を浮かべる。
「では横島やってみせよ」
一歩前に出てグラスに手を翳す横島。
「ふー……はっ!」
吹き出るオーラにグラスが反応する――
「なんと!」
水が吸い上げられるように葉の上に集まり、小さなビーズ状の珠がいくつか葉の上に散らばる。
「……特質系か」
「あー…と?」
「具現化系でなく?」
よく分かっていない横島とサダソ。
「具現化系は『水の中に不純物が出現する』であって、『葉の上に出現』ではない。
ついでに『水が葉の上に集まる』『水が不純物に変化する』というのも五系統以外の結果じゃな、若干水かさも減っておる」
〈六相図に於ける他の五系統のうちに収まらない性質を持つのが特質系だ〉
「うむ。有名な所では100%当たる占いをする念能力者や相手の念能力を盗む能力者などが特質系だと言われておる」
ハンターなど長くやっていれば、ネオンの占いは耳に入るし、盗賊の極意によって盗まれたハンターも相当数いるのだ。
特に調子に乗った中級クラスのハンターが返り討ちに遭い能力を喪失するパターンが多い。
そしてその分だけ幻影旅団が手に負えなくなっていくという負の連鎖が起きているのが賞金首ハンターの現状である。
「ずるくね?」
この狡いは自分が特質系である事より特質系の一例として出された相手の能力を盗む能力や100%当たる占いにかかっている。
「というかずるいっしょ」
こっちは横島がそんな特殊な能力持ちだという嫉妬だ。
〈こればかりは生まれ持った才能だからな〉
一方、特質系だろうが具現化系だろうが強い奴は強いという事をよく知っている心眼の言葉に頷くシン。
「で、心眼は俺の系統がどんなもんか分かるか?」
〈当然だ。おぬしと静香を導く為に我は在る〉
「静香の才能は底が知れんな。念獣としての性能は兎も角、その人格形成に於いて他の追随を許さぬレベルじゃ」
〈その分、彼女は具現化系能力は我以外に使わないという制約を課しているからな〉
「制約ってなんじゃい」
〈自分で決めて自分で守るルールだ。例えば国士無双、或いはロイヤルストレートフラッシュ〉
「様々なゲームで作るのが難しい役程勝った時の点数が上がるように、念能力も自分の能力に制限や使用条件を加える事によって威力や範囲、効果が上がる事が多い」
「ほへー」
「とりあえず忠夫はこれから発の修行じゃ。水見式の結果がより顕著になるようにな」
「うっす」
「サダソは絶の修行を続ける。寝ながら絶が出来るようになるまでな」
「寝ながら纏も相当難しかったけどねっ!」
俺はそうでもなかったけどなーという科白は口に出さない横島。
空気を読めないで人付き合いが出来る訳がない。
「平行して横島は試合を連続して行う」
「なんで?!」
「理由は一つ。シズカがお前に強くなって欲しいと願っているからだ。
念の修行、という意味では必要ないが、強さを求めるならここ程度で発を必要としていたらこの先立ちゆかぬぞ。
ああ、ヒソカクラスは別じゃ。ありゃ儂でも勝てる気がせんな。能力的にも人の悪さがにじみ出てるような能力じゃし。
貂蝉なら勝てるかな? と言った強さじゃ」
「そーだよなっ! ありゃ絶対おかしいよなっ!」
「初めて会った時は気付けなかったっすけど、確かにあれはおかしい強さっすよね」
思い出して我が身のふがいなさに項垂れるサダソ。
あの時既にヒソカの強さにビビっていた横島に対して、サダソはビビるどころか気付く事も出来なかったのだから当然ではある。
〈ヒソカに当たる分には問題ない。これから強くなるのが解っている人材を殺したりする奴ではないからな〉
「それって強くなってから美味しく戴こうってだけやろ? ちっとも安心出来んわ!」
「安心せい。ヒソカ以外に今あのクラスの強さの選手はおらんわ」
「カストロはどうなんすか? こないだ兄さんと戦かわせろって詰め寄られたんすけど」
「あー、俺も言われたわ。男と迫られても嬉しくないっちゅーのに」
「ふむ。確かに才能はありそうだがな、タダオと同じまだまだじゃ。
今のタダオが戦う分には問題なかろう」
「戦いたくねーし! アレおかしいやろっ! トレーニングルームの人形を素手で切り裂いてんぞ!? 人間かっちゅーの!」
刃物を武器にする選手もいるため、斬る練習用の藁で作った案山子のような人形もいくつか設置されているのである。
ちなみに周しなければ普通の刃物では断てない程度には強度がある。
「だからこそ修行になるのではないか。うむ、参加登録はしておいてやろう。カストロと示し合わせてな」
「待てや爺! 余計な事すんな!」
「お前は師匠を敬うという事を知らんのか」
「ぐへっ!?」
あっと言う間に転かされてしまう。ここら辺の呼吸は流石である。
「いいじゃないっすか。強い奴と戦うのが武闘家の本望っしょ」
「おめーみてーなバトルマニアと一緒にすんな! 俺は平穏無事に静香ちゃんの上で腹上死するって決めてんだ!」
「なにサイテーな事口走ってんすか」
「全くじゃ。性根をたたき直してやらんと」
〈これでなくては横島忠夫とは言えんがな。まあ、今のカストロとなら良い勝負だ、問題なかろう〉
「てめーも止めろやバンダナ」
なし崩しでカストロ戦を決定されてしまったが、心眼としては大いに結構な流れである。
現状で最優先されるべきなのは文珠作成能力の取得だが、戦えるうちに戦っておくというのは悪い思案ではない。
旅団クラスとまともに喧嘩出来なければ危ういのだ、この世界は。
文珠を作れるようになったらすぐにでも『転移』するというならば話は別だが、キメラアントの襲来だけは何があっても潰そうとするだろう静香の事を思えば、横島がヒソカクラスと互角に戦える程度に強くなってもらわねば困る。
というのが静香の考え方だが、心眼としてはどうかと思う。
文珠さえ自由自在に作り使いこなせるようになれば、戦いを避け続ける事など容易であるからだ。
ましてや世界の流れを知っているのだ、危険など避けようと思えば幾らでも避けられる。
戦闘民族高町家などと揶揄される事もあるが、まさに血筋というか本人とて知らぬうちに思考が戦闘寄りになっているのだろう。
尤も心眼としてもここで横島が強くなれるだけ強くなる分には文句がある訳ではない。
この世界は危険だからである。
なんだかんだ言って平和で安穏とした元の世界と違い、割とあっさりと命が消えるのだ。
この心眼は静香の表層人格(の一つを使って構成されている為、やはり横島の事を大事には思っている。
よって本人の一切望まぬ所で、横島vsカストロの対戦カードが決定。
チケットは即日ソールドアウト、ダフ屋まで出る人気のカードになった。
人気の理由は高町静香の妊娠による長期休暇の原因が、誰に在るかを鑑みれば自ずと分かろう。
不運と言えば不運だが、もはや諦めるしかない横島であった。
****
おかしい、横島の特質系の説明に入る予定だったのにカストロ戦とかプロットになかった話に……
まあこういう事もありますよね。
という訳でカストロ戦です、当然ですが分身はまだ出来ないです、出来てたまるか、まだ4ヶ月も経ってないのに。
クラピカの鎖1種類(先端が十字架・鉤針・珠・短剣)でも未習得から半年前後必要とした以上、流石に師匠もなしに4ヶ月で分身は出来ない、と思いたいです。
ヒソカに語った内容から察するにヒソカ以外には分身使ってない訳で、もしかすると完成したから、作るのに2年かかったから原作の時期にヒソカ戦になったのではと思います。
才能ない人の修行シーンとか出してくれないかな、原作で…
静香の具現化能力が異様に速かった原因の一つは師匠のベッドの能力の二つ目です。
見たい夢をある程度ではあるが自由に見られる能力は具現化系の能力開発にぴったりですね。
横島が特質系な理由は『異世界の主人公』だからですね。
かなり悩みましたが、横島が特質系じゃなかったら誰が特質なんだろうと言った感じで。
文珠がいかんのです、アレは正直特質以外で再現できるとは思えません。
具現化系は『神がかったモノは具現化出来ない』と原作中で言われてますしね、文珠は簡易宇宙改変機ですよ、ズルい。
……ノヴさんの窓を開く者(って『何でも切れる刀』に相当しますよね、絶対('A')