とりあえず、着替える。
ここがハンター×ハンターな世界でくじら島だというなら、とりあえず安全だからだ、危険な念能力者がいないという意味で。
あととりあえずミトさんに会うつもりだからだ。
着替えながらゴンに訊いてみたが、未だ8歳らしいゴン=フリークス。
あ、勿論横島はふんじばって外放り出したぜ、上で覗いてるけど。
まあゴンはこういう事は気にしなさそうだし、実際8歳ならこんなもんだろう、多分。
で、8歳って事は、だ。
原作のハンター試験が12歳の時の奴(のハズ)だから、受けようと思えば都合三回は受けられるのか。
受ける気はないが、今年の試験は既に終わってるので受けられないのだ、今は9月らしいからな。しかしこの世界は新年早々血なまぐさいよなと思わんでもない、毎年1月が試験だもんな。
受けるしても試験内容が大部分分かっている、第何回か忘れたがゴンが合格するハズの試験を受けるのが正解だろう、原作知識有りのオリ主としては。
つまり約3年と3ヶ月の間に試験合格する為の準備をしなければならない。勿論平行して帰る方法(最低でも何故異世界転移してしまったかの理由)を探らねばならない。前者に比率を置かない為に原作試験を狙うつもりだが、折角時間に余裕がある以上鍛えたいんだよな、こんな危険な世界だし。
で、それまでの足がかりというか生活の場というか、ぶっちゃけ金を稼ぐまでの当座の凌ぎをミトさんに相談させてもらおうという訳だ。
勿論、稼ぐには天空闘技場だ、今更戦いがイヤだのという性格も神経も育ちもないからな。
というか、こんな世界に放り出されて天空闘技場如き嫌がってたら帰るモンも帰れないと思うんだが。
部屋も貸してもらうなり紹介してもらうなりしたいな。
俺の部屋の荷物だけでもどっか避難させたい、大した私物がある訳でもないが。
使ってるパソはノートだし、本の類は高町家の書庫に纏めて突っ込んであるし。
私服関係とベッド、学校の教材位か。
…はあ。
なんでこんな事になったんだろうな…全く。
何が原因であれ――特に念能力の暴走とかだと――一年やそこらで帰れる気がしないから困る。
「シズカ、どうかしたの?」
早速ライキと仲良くなってしまったゴンが、ライキを抱っこしたまま声をかけてくる。
「いろいろあるんだ」
ホントにな。
「らぁい」
こてんと首をかしげるライキ。可愛いけどそんな気分でもないぜ…
****
あの後ゴン少年の案内で、ミトさん(28)の家、つまりゴン少年の自宅へ行き、横島と二人で事情を説明した。
この世界の住民だからか――何が起こってもおかしくない世界であるからかミトさんもゴンも納得してくれたみたいだ。勿論正直に全てを話した訳ではないにせよ、お人好しだなとは思う。有り難い上に他人の事は決して言えんが。
出稼ぎの漁師どもが集まり季節が過ぎれば帰るというくじら島ゆえに、唐突に現れた旅人二人も余裕で受け入れてくれたのかも知れないが、これは本当に有り難かった。
ミトさんに飛び掛かる前に撃墜しておいて本当によかった、何をとは言わんが。
それにしてもあの馬鹿はその辺り、なかなか進化しないな…もう22にもなるというのに。他は大分成長してるが。具体的には恭也と互角。その恭也も父士郎と美由希を同時に相手にして引き分けまで持って行ける化け物ぶり。ちなみに俺では、念能力使わない(せめて練状態)限りもう美由希にも横島にも勝てん。
まあ俺の本領は複数ポケモンを同時使役する事による独り軍隊だから悔しくないけどなっ!
ライキなんか特に強くなったぞ、対人戦。ポケモンに何教えてんだと言われても俺の環境ではポケモンバトルよかVs人間の方が多かった訳で。
兎も角、それだけ付き合ってても未だに忠夫ではなく横島と言いそうになる辺り、俺もなかなか慣れないもんだなとは思うが。
とりあえず色々ミトさんと話し合った結果、ミトさんの家業である酒場を手伝う事で食住を手に入れられた。有り難い事だ、主にミトさんに対する横島のセクハラだけが心配だが。
そもそも純粋な島民というのが100人もいないからなぁ。過疎地域まっしぐらだ。まあ出稼ぎの受け入れ先としての面を持つ性質上、人がいなくなるという事はなさそうではある。
ちなみに俺の衣に関しては既に部屋から運送済みである、ポケモン達ありがとう。横島の服はまあ買い足せば良いし、ジーンズとかは殆ど体型変わらんからお互い着回せるしな。
そして今、森の中に放り出された俺の部屋からめぼしいモノは宛がわれたミトさんの家の一部屋に収納し終わったところだ。大体昼過ぎか…
ぼふん、とベッドに体を投げ出す。外からライキと横島とゴンのはしゃぐ声が聞こえる。
多少古ぼけてはいるが、清潔さがそこそこに漂う良い部屋だ。ミトさんの人柄が偲ばれるね。
横島といえばあいつ、順応性高いよなぁ…開き直ってるだけかも知れんが。
ゴンと楽しげに遊び回ってる、まあ本能的にゴンと仲良くしなきゃ不味いと感じてるのかも知れんが。そういう勘は無駄に凄いよな、なんだかんだ言ってバッドエンドに行く選択肢は絶対に選ばないというか。
「らぁい!」
ぼすっ
…お前どこから…ああ窓からか…
というか腹に飛び乗るな、お前体重30㎏あるんだから大分重いんだぞ。
まあとっさに凝したけどな。
この手の修行は我流だが大分こなしたし今や熟睡中でも円しつつ、何かが飛び込んできたら凝に切り替えるという器用な事も出来るようになってしまった。
「昼寝ですか?」
いつの間にか部屋の入り口に突っ立っている横島。
こいつも22歳という事で随分大人びた顔するようになったよな…精神年齢的にはどうだろうといったトコだが。
「色々考えざるを得ないからな、こんな事になって」
なんでこんな事になったかも不明だが、どうやって帰るかも不明だしなぁ。
「大丈夫、何とかなりますって」
どうでも良いけどこいつ、微妙に敬語だよな、俺に対して。
てくてくと歩いてきて、俺の横、ベッドに腰掛ける横島。
そのまま俺の腹の上のライキを自分で抱き抱え、話しかけてくる。
「ユーノだって異世界からやってきたって話だし、なんとかなるっすよ」
まあ確かにそういう考え方もある、か。
ここが第いくつか知らんが管理外世界という解釈もありではある。尤もその可能性は薄いと思うが。
念なんて質量兵器や魔力なんて目じゃない程の汎用兵器に成り得るからな。
「だから、泣くなら俺の胸でぇぇぇ!」
ぽいっとライキを放り出して俺の上に覆い被さる横島。
ぐにっと俺の胸が横島の胸で潰れぎしりと古そうな木製のベッドが反抗の声を上げた。
「…あれ?」
「…気遣いは感謝してやる」
別に泣いてないけどな。
「デレキター!」
誰がツンデレだ、誰が。
まあ…これまでの数年間一番側にいた他人ではあるし、その…なんだ、転生前に割と好きなキャラだった事もあって、うん、俺も大分女らしくなってしまった訳だが。
どうも――こいつとそういう風に振る舞うのは、その、なんだ。
照れる。
人前でいちゃつく趣味は前世の頃からない。みっともないからだ。
というか人前でいちゃついてる奴って顔偏差値がアレな奴らが多かった気がするんだが、前世では。
海鳴市は美形のバーゲンセールだからそんな事もなかったがな。
とはいえエクセレン日本史教諭と南部体育教師や遠野とアルクェイドetcのように人前でいちゃつく趣味はない、繰り返すが。
「とりあえず離れろ馬鹿者」
横島の奴は気にもせず俺を抱きしめ、胸や尻を揉んだり頬ずりして俺を堪能している。横島の背中の上で同じように、横島に頬ずりしたりしているライキを乗せたまま。
まあ、なんだ。
こういう事されて嫌じゃないって事はやはりそうなんだろうと、今更といえば今更ながら冷静に自分を俯瞰していると、
「何してるの、タダオ、ライキ」
で、いつの間にか――俺は気づいてたけど――部屋の入り口に立っているゴン。
「子供は――いつぅっ!?」
「ああ、ちょっと私がホームシックにかかってしまったのでな、慰めてくれたんだ」
言うと同時にライキに視線を合わすと、横島の上でバチィっと弾けるライキの体毛。
「わっ! ライキが光った!」
ああ、電気鼠はいないんだっけ、この世界。
ぐったりした横島を自分の上からどかして床に転がし身体を起こし、飛びかかってくるライキを抱きしめる。
「電気ネズミのライキだ。全力で放つ電撃でクジラ位でかい生物をも焼き殺す事も出来る」
「らぁいっ!」
ベッドに腰掛ける俺に抱き抱えられながら、胸を張って息巻くライキ。
「へー! 凄いね、ライキ!」
はっきりと人間くらい焼き殺せるって言ったのにこの反応。分かってないのか天然なのか。
まあ天然なのだろうが。
「らいっ」
ぴょんっとゴンの胸に飛び込むってーかゴンに飛びかかるライキ。
ライキは80㎝、ゴンは大体120㎝前後か。でかいペットといった風情で実に可愛らしい。
うーむ、なのはがこの位の時を思い出してしまって、気持ちが下降しそうだ。
今じゃなのは達も中学生だからな…なのはもユーノもフェイトもはやても皆制服姿が可愛らしかった事。
予想通りなのはとフェイトの将来の夢はお嫁さんでユーノは学者として既に管理局のある世界へ論文を発表したりして博士号取ってたり。
しかし、どうしたもんかねぇ……文殊はどう考えてもメモリが足らん上に、念能力は他人から教えてもらったのをそのままってのは酷く相性悪いんだよな(良くなりようがないというべきか)…いくら俺が横島=文殊って概念を持ってたとしても、横島本人がソレをもってなきゃ意味ないし――
「考えて無駄な事は考えない方が良いですって」
「…ふん」
長いポニーをくすぐったそうに避けて俺の肩を抱き寄せる横島。横島の胸元にこてんと頭を寄せる俺。
自然な成り行きと言わんばかりに抱き寄せている方の手で胸を揉むのはどうかと思うが。
「さて、仕込みの手伝い位してくるか」
「えー――いえすまむ」
横島の腕を払い立ち上がり、部屋を出る俺。追従する横島、ゴン、ライキ。
一抱えはあるであろライキを抱っこしながら歩くゴンもなかなか可愛いぜ。
****
「はーっ疲れたぁ」
「さすがにな…」
ミトさん宅の居間でソファーに体を投げ出す俺と横島。
ヒント1:この島の住民はとても少なく入れ替わりも殆ど無い。
ヒント2:若くて美人な女給さんが登場
ヒント3:飲みに来るのは殆ど出稼ぎの漁師とこの島在住のおっさん
うん、どこから聞きつけてきたのか新しい女給が来ると知ってわんさか押し寄せてきたわ。
急遽、横島とゴンで外に古いテーブルを並べて立ち飲みさせた程にな。ミトさん曰く自分が切り盛りするようになってから初めての大売り上げだそうだ。ちなみにミトさんのお祖母ちゃんも料理作るのを手伝ってた。ネイさんというらしい。
いやはや…さすがに慣れない店でこの仕事量は堪えた。島中の男が集まった感すらあるぞ。
横島を彼氏と若干照れながら紹介したせいか多くは無かったが、セクハラもされたし。
まあ目の前で口の開いていないビール瓶二本を手刀ですぱっと切って、目の前のコップに注いでやったらセクハラは止んだけどな。
「お疲れ様ー。今日はもう休んで良いわよ。明日からも宜しくね」
何が嬉しいのかにこにこと、疲れてるのに爽やかな笑顔のミトさんの声を受けて部屋に戻る俺たち。
ゴンはライキを連れてとっくに夢の中さ。
あー、疲れた…風呂入って汗流さないとな…服もタバコくさいし…なんで酒飲む奴は煙草を吸いたがるんだ、煙に巻かれて噎せて死ねっ、全く。
とりあえず給料もらったら空気清浄機を一台お店に設置してやるぜ。
****
番外編シリーズその2の続き。
その場のノリで書いてますので静香22歳とか横島と恋人状態とか、この話を書いてる最中に決まりました、異論は認めますが反論は認めません。
本編で恋人同士になるかどうかは別ですね、いわゆるIFモノとして読んでください。
横島の念系統について意見ください。
原作の能力だけ見れば具現化系だと思うんですが、サイキックソーサーは思い切り放出系、栄光の手は変化系、文殊は具現化or特質…どうしろと。
そして性格判断的には(個人的には)強化系なんじゃないかと…悩んでます。