時系列的には七月半ば。
本編が五月GW最中なので、こちらの方が進んでますが気にせずお楽しみください。
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ユーノの一日は早い。
朝四時過ぎには目を覚まし、自身の両腕を抱いて寝ている二人の少女、なのはとフェイトを起こさぬよう、そっとベッドから抜け出す所から始まる。尤も本日は休日なので現在時刻は朝の六時頃だが。
元々漂泊民族スクライアの出であり発掘調査などで地面に雑魚寝やハンモックに慣れているユーノは、両腕拘束されていても問題なく安眠できる。基本的に腕枕は寝返り出来ないので、眠りが浅くなったり寝られなかったりする事もあるのだ。
そして窓を開け空気を入れ換え、二人を起こす。
「おはよう、なのは、フェイト」
「ふぁ…ユーノ君、おはよー」
「おはよう、ユーノ」
二人とも寝起きは良い方なので助かっている。
そして三人で着替える。未だ九歳のなのはとフェイトに異性に対する羞恥心など殆どなく――『好き』という感情に対する照れはあるが――中身が大人のユーノにしても今更小学生の真っ平らな身体なんて見ても何の感慨もない。至って普通に、ただしなのは達に背を向けるようにしてユーノは着替えていた。
そもそも年齢が二桁にも到達していないような男子女子が、それも当人同士が気にもかけていないのに一緒に風呂入ったり着替えたりする事に騒ぐ方がどうかしている。父親が騒ぐならまだしも。
これでユーノが横島並にセクハラでもすれば話は変わるだろうが、元より礼儀正しく気の優しいユーノにそのような思考パターンは存在しない。よって三人が同じ部屋で寝泊まりする事には誰も気にしておらず、三人は仲良く日々を過ごしていた。
「今日はお休み! 映画見に行くの!」
ごそごそと着替えながら、今日の予定を話し合う三人。
「映画、楽しみ」
「アリサとすずかも誘ってるんだろう?」
「うん! 皆で行くの!」
♪女のなかぁにー男がひとぉりー
という奴である、今更だが。この街、海鳴は男女比率が少々おかしいのだ。
「お揃いなの」
「まあこれなら」
「お揃い♪」
三人ともジーンズの短パンにハイソックス、ジージャンにTシャツ(ただし色は桃・緑・黒)と同じ服を揃えて着ていた。
なのはも大概美少女だが、ユーノとフェイトは西欧系の顔立ちをしている事もあって殆どファッションモデルの如し。
横島が嫉妬の炎を燃やすのも宜なるかな。
「あ、ユーノ君、おはようのチュー」
「私も…」
勿論、なのはは両親の真似をしているだけである。そしてフェイトはなのはがやってるからやってるだけであり、やるのが当たり前的ななのはの表情と比べ、フェイトの顔は全力で赤かった。
両方の頬にキスを受け赤く染まったユーノも、お返しとばかりになのはとフェイトの頬に軽く口づける。
「ちくしょおー! ちくしょおー!」
どたどたどた…
「また忠夫お兄ちゃんが叫んでる」
鏡台の前に座り、髪の毛をユーノとフェイトに梳かしてもらいながらなのはがぼやく。
「何なんだろうね」
同じ男として、そして精神年齢的には横島より上のユーノは横島の叫びが何処に由来するのか分からないでもないが、どうにもしようがないので無視するしかなかった。
まさか静香におはようのチューくらいさせてやれとも言えまい、言ってもやらないだろうが。
「はい、おしまい」
「次はフェイトちゃんね」
鏡台の前の椅子をフェイトに譲るなのは。
「たまにはポニーテールにしてみたいな」
料理上手で強くて誰にでも強気で接する事が出来て綺麗で格好良い静香は、気の弱い所があるフェイトに取って理想の女性なのだ。
「じゃあ私もポニーにするの!」
「君たちね…」
どうして女の子はすぐ周りに同調するのかなぁ、等と考えても無駄な事を考えつつフェイトの髪をポニーに纏めるユーノ。
この辺り、髪の扱いが異様に上手いのは色々あったからであろう。色々。
「はい、次はなのはね」
「ありがと、ユーノ」
「はーい」
再び場所を交換すると、手早くなのはの髪もポニーにまとめ上げるユーノ。慣れた手つきである。
「ユーノ君、どぉ? 似合う?」
「うん、可愛いよ。なのはもフェイトも」
「ありがとう」
実際可愛いのだから他に言いようもないとも言う。
だが好きな相手に褒められればテンション上がるのが世の常。
一日の始まりを最高の気分でスタートする二人であった。
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朝から高町家は騒々しい。十人も住民がいれば当然であるが、朝は居間に誰かが入るたびにおはようの連呼である。
厨房に立つのは桃子と静香。基本的にはこの二人が高町家の食事係である。尤も美由希以外は多少の差異はあれど皆、料理は出来るのだが。
「今日は髪型を弄ってるんだな、二人とも」
原作、アニメなどで髪型を弄らないのは記号的な意味があるからであろう。
普通に生活していれば、ましてや女の子が気分に合わせて髪型やアクセを変えるなど当たり前の事である。
イラストにしてお見せできないのが筆者的にも非常に残念である。
「うん! ユーノ君にやってもらったの!」
「静香とお揃いなんだ」
「ああ、可愛いぞ。二人とも」
「なのは、ユーノ君、フェイトちゃん、顔洗ってらっしゃい」
「はーい」×3
「なのは達は今日は映画行くそうだな」
士郎が新聞に目を通しながら、誰ともなく呟く。
勿論、自営業な大人組は全員仕事である。
「今日は月村もシフトに入るんだろう?」
「ああ」
「衛宮君達が休みだからな」
「ちくしょー! ちくしょー!」
「朝から五月蠅いねぇ、横島は。
あ、静香、朝飯は肉かい?」
「朝から肉を喰う程、日本人の胃は丈夫に出来ていないのでな」
朝食はトーストとビーフシチュー、シーザーサラダとバターやジャムなどである。
朝から肉などと言いつつビーフシチューにかなりでかい肉が入っているのは内緒だ。
「映画行くんだっけ? なのは達は」
「うん! アリサちゃんとすずかちゃんと一緒にポケモンの映画見るの!」
アニメではなく実写版ドラマに近い。なんせトレーナーの手持ちつかえば特殊撮影など要らないのだから。
「伝説の帝王サトシ、だっけ。ポケモン映画も長いよね」
「父さんが仕事中、三人で映画行った事もあったな」
「美由希が泣いて騒いだからな、私も恭也もそういうのは興味なかったが」
「なのは達より小さかった頃の話じゃない…」
「まあ、ユーノ、頼むぞ」
静香からの信頼は厚い。まあ中身を知っていれば当然だが。
「はい」
「なのは達も気をつけてね」
「はーい×2」
「静香ちゃん俺らもデートしよう!」
「仕事だ馬鹿者」
高町家の朝は慌ただしく過ぎて行く。
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続く。