「釣れねぇなぁ、おい」
ざばーん
波打ち際に腰掛けた、割とイケてる青い彼。
「カッカッカ、釣りとは己との戦いよ、焦り乱れた心では釣れる物も釣れなくなるわ」
「そうは言うがな……てめぇの針じゃ釣れるもんも釣れねぇだろーが」
「良いんじゃよ、ワシは生臭は食わぬからの」
「じゃあなんで糸垂らしてんだよ――っと来たぜぇ!」
「うむ、釣りというのは考え事をするのにちょうど良いからの。黙然としていても誰も文句言わぬし、自然の気を身体で取り込めるというものよ」
「そういうもんかねぇ……けっ、雑魚か」
「雑魚という魚はない(キリ」
「やかましい」
「む、そろそろ行かねばならん。では達者での、光の御子よ!」
「……空飛んで行きやがった……にしても何モンだあいつ。
俺の正体を知ってやがった事もそうだが……このご時世にどうやってあれほどの神性を溜め込んでやがった…?
金ぴかより上だったぞ、確実に――ん?」
「あのー、ちょっといいッスか?」
「……おいおい、今度は空飛ぶカバかよ。何の幻獣だ?」
「失礼な! 見れば分かるように竜ッスよ!」
「見て分かんねーから突っ込んだんだろうが……で、何の用だよ」
「師匠見かけませんでしたか? こういう人なんですけど」
「仙人、いや天然か? どちらにせよ俺も含めて、そういう類が写真だの現代技術にどっぷりってのもアレな話だな……
そいつなら今し方、向こうの方へ飛んで行ったぜ」
「またしても出し抜かれたッス!」
「今なら追いつける! いくよ四不象! 情報提供ありがとうございました!」
「おう――ってはええなおい。
あの蛇の天馬よか速ぇんじゃねーかあれ――お、来たぜっと。急に来だしたな」
「釣れますか?」
「おぅ、美人のねーちゃんが一人、な――っと」
「相変わらず口だけは上手いのですね、ランサーは」
「ま、今日の晩飯には困らんぜ」
「それは重畳」
「ンだよ…また面接落ちたのか?」
「いえ、落ちるというか……
キャスターとセイバーがバイトしている翠屋という喫茶店へ行ったのですが。
壊れ物が増えるから雇ってはいけないと二人にオーナー殿へ嘆願されてしまい……
嫌われているのでしょうか、私は。セイバーを雇うようなお店なら私も雇ってもらえると思ったのですが」
「割と妥当な判断だと思うがな――別に嫌われてるって意味じゃねぇよ」
「…はあ…日本は就職不況です…」
なら本国へ帰れば良いじゃねーか、とは言わないランサー(五次)であった。
尤も帰ったところでまともな仕事があるとも思えないが。
****
「これで良しっと」
美由希が何か悪戯していた。
「なんだそのポスターは? あまみはるか?」
所謂アイドルという奴か?
うちの窓にポスターなんぞ貼るなよ。
「ん、最近売り出しのアイドルで、私の同学年。クラスは違うし話した事はないけどね。
地元の星って奴? うちの商店街だけじゃないよ、海鳴市全体で推していくみたい」
ある意味晒しもんじゃね? いやまあアイドルなんて自分から晒し者になるようなもんだが。
「まあ良い。
店頭販売行くぞ」
「はーい」
そして、ヒーローに出会った。
店先で美由希とシュークリーム他の店外販売中だった。
「サンレッド――だと?」
額の黄色い太陽のマークや緑のバイザー、赤のマスク、そして妙に良いガタイ。
隣りにいる妙齢の佳人はかよ子さんであろうか。
普通に店冷やかしたり飲み食いしたり、商店街をぶらぶらしてるんだが……
ヒーローがいないここ静岡県ではやはり珍しいからだろう、かなり注目度が高い。
そのせいかかよ子さんは兎も角、サンレッド本人は居心地が悪そうである。
しかしTシャツの文字『かわさきだいし』ってなんなんだ?
いや川崎大師なのは分かるんだが。
「凄いねー、ヒーローって初めて見たよ私」
「東京では普通に街歩いてたぞ」
怪人もな。
俺の知ってる東京はもはや過去と平行世界に消え去ったわ。
と言う訳でシュークリームやらケーキやらの街頭販売しつつ、目の端でサンレッドを観察する俺と美由希。
視線を動かさず対象を観察するなんざ基本技能だしな。
暗殺技能を平和に無駄使いだ。
「うむ、一護。シュークリームを買ってくれ、ここのシュークリームは実に旨いのだよ」
「自分の金で買え」
「泣きながら警察駆け込むぞ」
「…誰だこいつに変な知恵付けた馬鹿は」
面白い漫才だなオレンジ頭、店先ですんな。
「はい、六つで1080円になります」
「おう、ありがとよ」
オレンジ頭って斬新だよな……根本まで黒い部分ないし、きっと地毛。
遺伝子仕事しろ。
「あの、翠屋ってここかしら?」
「あ、ヒーローの人――あいた」
「失礼、ここが翠屋ですが、何か御用でしょうか?
お食事と休憩なら中でどうぞ」
「あ、いえ。友人に美味しいお店だって聞いたものですから。
さ、入りましょ」
「おう」
友人ねぇ……んー、アレか。
フィアッセとラクスがこないだ合同のCD出したから、その辺りか?
天然同士ウマが合うらしいぞ、俺としては種死のイメージが強いんで何考えてんのかわかんねー感情だけで動く女ってイメージしかねーけど。
というか、種も種死も基本的に敵側の方が言ってる事正しいようにしか聞こえないんだよな、言い過ぎとやり過ぎはあっても。
まあ、この地球はあんな沸点の低い世界じゃないみたいだし、別に戦争が起こってる訳でもないし宇宙にコロニーが浮いてる訳でもないからな、案外普通に暮らしてるのかも知れんが。
ふむ、ヴァンプ将軍と一緒に仕事してる=かよ子さんと仲が良いってのは単純過ぎるか?
からんからん
「馬鹿か」
こっちでは珍しいからっていきなりヒーローの人はないだろうに。
「うう…だって珍しいじゃない」
「そうかも知れんが考えて喋れ」
全く美由希は抜けてるな。
高良んちのみゆきも天然で抜けてるトコあるし、そういう名前なんだろうかね。
「あの、シュークリーム残ってますか」
「いらっしゃいませ、まだ残ってますよ」
俺が敬語使って、出来る限り柔らかい声で返事するだけでうわって顔する妹には後でキツいお仕置きをせずばなるまい。
具体的には洗濯前の美由希の下着を横島にプレゼントしてやる。
って、シンジ君ではないですか。
中等部だから確か、こなたの妹分とかと同級生なハズ。
そして側にいるアルカイックスマイルはカヲルか、流石の美形コンビだわ。
横島は普通の顔つきだね、こうやって見ると。
恭也も普通寄りかね、ユーノは美少年。
「あの…?」
「失礼、おいくつですか?」
「何個買っても全部食い尽くすと思うけどね」
やはりカヲルはそうなのだろうか、言葉に刺があるぞ。
「まあ、確かにアスカも綾波も食べる方だけどね――じゃあ20個下さい」
「はい、ありがとうございます」
買いすぎだろ、いやうちも大家族だから何とも言えんが。
「おじさんが一番食べるんだけどね、翠屋のシュークリームは」
「父さん甘い物好きだから」
……似合わねぇなぁ、誰得だそれは。
まあおまけ位してやろう、チェーン店では出来ないサービスという奴だな。
「はい、お待たせしました」
「いつもありがとう、ちょっと多め目に、ね?」
「あ、ありがとうございます」
ふふん、ちょっとウィンクしたら顔を赤くしおって、可愛いじゃないか。
顔が良いと言うのは実に得だな、それだけで人生イージーモードって訳にはいかんが。
妬み嫉みがひどいからなぁ、おまけに俺の場合はスタイル良すぎだし。
「静ちゃんって可愛い子に弱いよね…」
失礼な。
「うん、シンジ君は可愛いからね」
「カ、カヲル君ってば…」
なんだこのイチャラブは。
BLにハマる腐女子の気持ちがちょっと分かったぞ。
つーか普通に女顔だな、シンジは。
「こんちわー、先輩、シュークリームおくれ」
「ああ、こなたか。幾つだ?」
「では失礼するよ、行こうシンジ君」
「うん、ありがとうございました」
「やー、先輩は可愛い子好き? ショタ?」
「誰がショタコンか」
こなたが買い物袋ぶら下げて登場。
私服だとホント小学生でも通じそうだなこなたは。
「いや割と本気で心配なんだけど…大丈夫?」
こいつとは一回決着を付けるべきか?
というか美少年・美少女が嫌いな奴はおらんだろうに。
「うるせぇ。で、幾つだ?」
「あ、六個ください」
「うむ、1080円な」
「どーもー。あ、うちで作った肉じゃがどうぞ」
「夕飯は決まってるのか?――ふむ、じゃあカレー持ってけ」
「ああ、昨日食べた羊のカレーね。美味しかったなぁ――はいはい、取ってくるね」
からんからん
「羊? 珍しいですねぇ、ご馳走様です」
月村経由で結構上等なマトンを手に入れたからな、割と贅沢なカレーだぞ。
「羊肉って臭くないんですか?」
「ラムは普通に旨いが、マトンは臭いぞ? だから一工夫は必要だな」
美味しんぼでもやっていた、ぱさぱさになるまで火で炙ったのだ、ある程度脂を掃除してからだけど。
で、肉汁を漉したり色々してカレールーに混ぜた。
マトンの脂と肉汁を冷凍して分離して凝固した後の脂を切り外し、肉汁とマトンをルーに突っ込んで煮込んで冷凍して一晩放置する。
そして解凍した後のルーに新鮮な野菜と一緒にラムを突っ込んだりな、肉らしい食感を出す為にラムの方もサイコロステーキ状態にした後の奴を入れる、こっちも普通に旨かったぞ。
パサパサな肉にパルミジャーノ・レッジャーノを多めに溶かし込んだルーがよく絡んでかなり旨かった、自画自賛である。
まあチーズのせいで若干甘めになってしまったので、男連中はソースなりタバスコなり入れてたが、子供達には好評だったぞ。
蛇肉も有名だが、臭いがキツい肉はカレーで誤魔化すのが一番手っ取り早いのは確かだな、うむ。
俺の調理は漫画の知識から構成されています。
何が良いって絵付き、かつかなり簡潔な文で説明と分かり易いんだよね、下手な料理本が文字ばっかりで写真も殆どないとか地雷かって位なのに比べれば、よほど分かり易いわ。
実際に作ってみるとツッコミ所しかない料理もあるけどな……
粒胡椒そのまま山ほどくっつけたパン包みの串焼きハンバーグとかな。
普通に粒胡椒を粉に挽いてから、適量に調整したら旨かったけどさ。
トマトの味噌汁……は実は旨かったが南部煎餅が……
トマトの味噌汁は普通に美味しく作れたが、南部煎餅入れる位なら麩とかクルトン入れるわってレベルだった。
あとバナナソースのハンバーガーな、アレはどう考えても日本人の舌には合わないと思うんだが……
怖くて作る気にもならんが。
「さすが先輩、手間かけてますな~」
「ま、趣味の範囲だから出来る事だな、正直。
普通の主婦がここまでやってたら怖いぞ、エンゲル係数的に」
「確かに。最近は野菜が高くて困りますよねぇ」
しかしうちのエンゲル係数はそれなりだったりする
月村んトコから食材のお裾分けもらったり、そもそも業務用――要は翠屋で客に出す奴――のカレーと纏めて作ったり、色々経費削減してる。
そもそも翠屋の経費として落とせたりするから色々一般家庭とは金銭の使い方が違うってのもあるしな。
それなりに儲かってる喫茶店な上に親父の昔の稼ぎが貯金として残ってるから、金銭的には不自由してないってのもあるんだろうが。
そして他人事ながら山岡さん家はエンゲル係数高すぎだよな……こっそりツンデレ爺が嫁に金回してても驚くに値しないが。
んー、もう少し家庭を預かる主婦としてはエンゲル係数削減を考えるべきか、金使って旨い料理作るのは大概誰でも出来るし。
ゲームみたいなもんだと思えばこれも楽しという奴だな。
からんからん
「はい、お待たせ」
「おう、ありがとーみゆ吉」
「ところでこなたって敬語使えたんだね」
「先輩! みゆ吉が失礼です!」
「安心しろ、後でお仕置きしてやる」
「ひどっ?!」
「あの、シュークリームありますか?」
「いらっしゃいませ、大丈夫ですよ」
「じゃ、先輩、ご馳走様でしたー」
「おう」
さー商売商売と。
****
久々の休日にて、郊外に出来た巨乳専門と横島が言っていた下着屋、正確には服装関連の総合ショップに足を運んだ俺と北川と忍。
あと下着の必要はないだろうがノエルが運転手として付いてきた。
「最高品質を貴女に、ねぇ」
測定室と書かれた部屋から出て、如何にも男性立ち入り禁止的な雰囲気の店内に入る。
それこそ手に入らない服はないんじゃないかという位種類があるな、案内板を見る限り。
「会員登録するのにスリーサイズから体重身長まできっちり計られるとは思わなかったわね」
気に入った服があり、サイズが合わなかった場合、その服を店員に渡すと会員証のQRコードで店員がスタイルを確認し、身体に合うサイズの同じ服を用意してくれるらしい。
勿論オーダーメイドもやってるぞ。
そして二階はカフェとエステ『スマイリー熊本・海鳴支店』が営業している。
……まあ良いけどね、腕は確かなのは確かだろうし。
「北川はちょっと大きくなった?」
「96㎝のままよ?」
忍も91㎝のGカップだけどな。
「羨ましい話だな、私は胸がでかすぎる。AV女優かっての」
100㎝ってなんだ、もはや1mと言えてしまうぞ、全く。
「そこはグラビアモデルかって言っておきなさいな、というかそこまで行ったら北川も静香も大差ないわよ」
「ま、うちの学校だけでも同じ位スタイルの良い子や胸がおっきい子はいるけどね」
「まあな」
一年の大谷姉妹とかな。
双子なのに妹は俺と同じ位、姉は板という何のイジメかって言う姉妹である意味有名なのがいるし、外国人教師連中は軒並みモデル級の美形とスタイルばかりだし。
ななこ先生だって正直見た目とスタイルはかなり上の方のレベルだしな、シエル先生もそうだし、鷹城先生もな。
見た目で教師選びすぎだろ、男性教師も南部先生とかイケメン過ぎる、無愛想なのがマイナス点だが。
「あ、城西の織姫も来てるわね」
ぶらぶらと服を見たり試着したりしながら広い店内を練り歩いてると、北川が声を上げた。
「ああ、ミス城西か」
「そ。それなりに流行りそうね、ここは。ま、ちょっとお高いけど、正直私達が買う大きさだとむしろ安い位だし」
「そういえばミカ先生は連れてこなかったの?」
「法事だって」
「まあ私はどうでも良いが――水着も売ってるのか、何でもありだな、全く」
「去年はビキニタイプだったし、今年はワンピにしようかしら」
「このブラジリアンタイプは誰が着るんだ…?」
裸の方がましってのも普通に並んでるんだが…
つーかこっちのVの字の殆どヒモ……水着の機能は何処行った。
「あら、横島君とか喜びそうじゃない?」
「あいつは何を着てようが喜ぶだろ」
「可愛いわね」
「ならやるわ」
「私は先生一筋だから」
「北川もよく分かんないわよね……まあ同性愛がどうのとは言わないけど……」
「そう意味では月村の方がよく分かんないわよ、高町――恭也君、恋人にして楽しいタイプじゃないんじゃない?」
「言えてる、アレは無口無愛想だからな、私と同じで」
「良いのよ、ああ見えて優しいし面白いんだから」
「まあ趣味が盆栽と釣りと散歩ってのは面白いな、おっさんくさくて」
「釣りは兎も角、盆栽って面白いわね」
「横島が修行中に盆栽の枝折った時は鬼神かって位怒ってな、アレは見物だった」
おっと、名前で呼び忘れた。まあいないからいいや。
「あらら…横島君もご愁傷様ってトコね」
「あ、こっちのスカート、静香に似合わない?」
「待て、スカートは買わんぞ」
「貴女ね、一枚や二枚は持ってないと不便でしょ」
力入れると筋肉えくぼが出来るんですが俺の太もも。
二の腕とか腹筋も似たようなもんだが。
「高町も足太い訳じゃないんだから、スカート位平気でしょうに。
関なんて常時スカートよ?」
「あんなイカれてる奴と一緒にされても困る」
「そうねぇ…こういうワンピースタイプの方が似合うかも。
髪も降ろして首の後ろで結うだけにして」
「良いわね、麦わら帽子とかと似合いそう」
白いワンピースに麦わら帽子とか何処のお嬢様だ。
「この目付きの悪さをどうにかしない限り、似合うもんでもないと思うがな」
「伊達眼鏡でもかけたら? 雰囲気大分変わるわよ」
「そこまでしてワンピースなぞ着る気はない」
「勿体ないわね、高町は綺麗なのに」
「まあ素材が良いから適当でも見栄えはするけどね」
「お前らと家族位だがな、そんな事言うのは」
まあ綺麗は綺麗だと自分でも思うけど、目付き悪ぃし雰囲気も悪いし。
「こっちのハーフパンツはなかなか涼しそうだな」
黒地に黄色のラインが入ってるシンプルなデザインで、汗が蒸発しやすい、ユニクロとかで売ってる新素材の奴。
TシャツもYシャツも、腕の長さはM~Lなのに胴体部分はLL~XLという巨乳用としか思えない、需要があるんだかないんだか分からんのばっかりだ。
逆にズボンやスカートは普通なのばかりだな。
乳袋――まあ要するにブラジャーのように胸に沿って形作られている上着の事だが、それもオーダーメイドで作ってくれるらしいぞ、需要は知らん。
だが、正直最初からそういうデザインで作ってくれた方が、セーターも胸の部分だけ伸びるという事もなくなるし、Yシャツのボタンが糸が切れて弾けたりボタン自体が割れたりする事もなくなるんだよな。
そもそも普通の服だと胸に合わすと腕や丈がだぼだぼで腕や丈に合わすと胸の部分が伸びるというのがなぁ……
ホント巨乳というのは不便だ。
特に制服のブレザーやらスーツみたいに、上着をもう一枚着るような服ならむしろ最初から胸の部分だけ特別製の服の方が長持ちしそうだな。
「下着はさすがにお高いわねぇ」
「通販で買うよか安いわ、ボりすぎだろって位のもあるし。海外のはまだ安いんだが、色々面倒だしな」
マジでたけーからなぁ…サイズのでかい下着は。
まあ安いのはデザインがババくさいってのもあるんだが。
「ところでノエル、その山はなんだ」
「はい、お嬢様と静香様、北川様の試着用の衣服ですが」
おい、一抱えってレベルジャネーゾ。
一番でかいゴミ袋二つ分くらいはあるな、いやこいつは前が見えようが見えまいが関係ないのは知ってるけど。
一応スーパーのカートのようなモノに積んであるんだが、よく崩れないな……
「というか俺はまだ何も選んでないんだが」
「はい、お嬢様がどうせ決め打ちで試着もせずに買おうとするからこっちで選んでおくと仰ってました」
「おい」
「試着するのが楽しいんじゃない?」
「そうよねぇ」
俺はちっとも楽しくないぞ。
服を脱いだり着たり面倒だろうに、どうせ何着ても胸しか誰も見んわ。
しかし反論はしない俺、どうせこの手の言い合いで勝てる訳がないからな、女ってめんどい。
……ショーツの試着はしないよね?
つか水着の試着ってどうするんだろう……あんまり人の着たのって着る気にならんが…
店を練り歩きながら試着する服を増やしながら、試着用の箱? が並んだブースに到着。
トイレの個室の入口がカーテンになってるような感じ?
それがいくつも並んでいた。
当然と言えば当然だが、各コーナーごとにいくつか試着室は用意されている。
忍みたいにいくつも纏めて試着する人用にブースを設けてあるんだろうな。
「試着室もちょっと広めに取ってあるわね」
室って言うか、天井が抜けてる箱が幾つも並んでる感じだけどな。
『水着や下着の試着の際はご用命下さい、紙ショーツをご提供します』の注意書き。
なるほど、その上から履けばとりあえず問題ないのか。
ブラと水着は兎も角、そこまでしてショーツを試着する必要があるのか謎だ。
「さっ、試着するわよー」
「高町は化粧も覚えないと駄目よね」
「じゃこの後はコスメ行かないとね」
「要らんわ」
「駄目よ勿体ない」
「そうそう、折角綺麗なんだからね」
「鏡見て言え」
「だから化粧くらいしないとね」
「聞け」
「さ、まずは試着よ」
こいつら人の話聞かないにも程があるだろ……
試着に午前中いっぱい使って、午後も化粧品屋で遊ばれて、散々な休日だったぜ、全く……
俺は着せ替え人形じゃねーっつーのに。
まあ化粧に関しては助かったけど。
いや個人的には化粧なんて要らんと思うよ、若さ的にも美貌的にも。
だが、化粧してないってのは社会人女性的にはすっげー駄目な事らしいからなぁ。
女ってめんどくせぇ…
****
新しい服やら化粧品やら抱えて帰宅すると、アルフとフェレット三匹だけがいた。
まあ横島達はシフト入ってる時間だし当然か。
「シズカー、届け物が来てるよー、部屋に置いておいた」
「ああ、ありがとう――で、お前ら何してるんだ?」
「躍ってみた動画の作成だってさ」
「らい?」
荷物を背中に括ったライキが声を上げる。
翠屋からの帰り道に買い物をして家に戻ると、居間でフェレット三人が二足立ちで躍っていた。
それを椅子に腰掛けながらほねっこを囓りつつ眺めているアルフ。
なるほど、サーチャーが空に浮いてるが。
「結構な人気なんだってさ」
「……そうか」
フェレットが三匹、息を合わせて躍ってる動画とか割と人気になりそうな気はするけどさ……
サーチャーからステージライトのようなレインボービームも出てる上に、余計な背景を映さないよう屏風のようなモノを背中に置いて、小学生のやる事とは思えない程手間が掛かっているな。
まあフェイトも楽しそうだし、いいけどね。
ユーノはほら、大人だしね、中身は。
「それ終わったら夕飯の支度するぞ」
返事はない、録画最中だからだろうか、集中しているからか。
「らい」
ライキもテーブルに乗っておやつを食べ始めた、俺に荷物を押し付けてからな。
太るぞ、全く。
まあ良い、部屋に戻って片付けついでに荷物とやらを確認するか。
おお、ポケモンの卵か。
オーキド博士が送ってくれたみたいだな、感謝。
お礼のメールを送っておかないとな……
うむ、ヒトカゲ。名前はイチローで決定だな。
しかしポケモンの卵を孵すってどうやるんだ?
ゲームだと手持ちに入れた状態で歩き回り、一定数の歩数を稼ぐと孵化。
漫画だとどうだったかなぁ……ポケスペ位しか覚えてないが、アレもゴールドが特殊能力で孵化させてたようにしか覚えてねーし。
とりあえず、肌身離さず動いてるしかなさそうだな。
……廃人ロードは海鳴にはないよなぁ……いやゲームと同じ事して孵化するか分からんが。
懐かしいな、シンオウのズイロードは何度駆け抜けた事か。
ま、兎も角。
問題は大きさだな、バレーボール位の大きさだからちょっと携帯に不便だわ。
腰に巻き付けておく、ウェストポーチ状態のは邪魔だな…背負うしかなさそうだ。
重さは大した事ないんだがな。
登下校、朝の修行、家事の最中は兎も角、ウェイトレスの最中にこれを携帯するのは無理があるか。
孵化にどれだけ時間かかるやら。
休みの日はサイクリングに精を出すかねぇ?
というか、これ……
重さが大した事ないって、ホエルコとかどうなってんだろうな……いや考えてはいけない部分か?
学校にこれ持ってって良いのかな?
まあ鞄にしまっておけばバレないか、うちの学校に持ち検はないしな。
……冷静に考えると制服に仕込んでる飛針や鋼糸の方が問題な気もするがスルーしよう。
「デイパックかなにか、なかったかな…?」
「らい!」
「む、どうしたライキ?」
居間で甘酒啜ってたハズのライキが俺の部屋へ侵入してきた。
「ライ!」
「いや、別に暖めなくても孵化するぞ?」
机によじ登って、卵を抱っこするライキは可愛いな。
「卵を孵化するには四六時中トレーナーの側に在る事、トレーナーが出来る限り歩き回る事、と博士の手紙には書いてあるが」
「らい!」
ドンと胸を叩くライキ。
これはあれか、自分が面倒見るぞって意味か?
「まあ良いけどな。学校行ってる間は兎も角、翠屋で働いてる時や家事してる時は頼むぞ」
「ライ!」
鼻息荒いライキが可愛いなぁ、全く。
****
お待たせしました。
感想ありがとうございます、牛歩とは言えエタらずに済んでいるのも皆様の感想のおかげです。
この服屋さんは、登録した会員情報から欲しい服を購入者に合わせてサイズ変更してくれるサービスとかしてくれます。
採算とれるとは思えませんが。
それにしても日常生活前面に出そうとするとこなたが便利過ぎる。
おキヌちゃんが出てこない理由としては、色々あるけどファーストインプレッションに失敗したのが……
普通に電波な出会いでしたしね……なかなか絡ませづらいキャラだったりします、特に静香と一緒に出しづらい。
いっそ横島の日常編とか……うーむ……これ以上手を広げるのも…
あと今回、ハンター編の方の予定でしたが、余りにヒソカ戦の描写を手間取っていたため本編の方を掲載させて戴きました、ハンター編の方を期待してくださった方には申し訳ありません。