世は全て事も無し。
平和だ。
日常的にセクハラされたり横島ぶっ飛ばしたり、翠屋を手伝ったりと色々忙しないが平和だ。
****
「プールか」
「み・な・ぎっ・て! キター!!」
「やかましいわ」
六月も半ばに入ると体育の授業に水泳が加わる。
男女別じゃないんだよな、うちの学校は。
つまり男子の視線が鬱陶しいという訳だ、鬱だな、全く。
茹だるような熱光線を浴びながら、翠屋への帰り道。
横島と恭也、忍と四人で連れ立って歩く。
「今年は水着どんなのにしようかな」
「む」
忍の独り言のような科白に反応する恭也。
うちの学校は何年前からか水泳での授業の水着は自由になったからな、布面積に制限はあるが。
つまりあんまり露出が激しいのは駄目だという位で、柄やワンピース、ビキニなどの制限はないのだ。
昨今のスタイルが良すぎる女子に対する配慮らしく、男はトランクス型のスク水一択である、然もありなん。
とは言えデザインは自由だしビキニもありだ、恭也としては心配なんだろうな。
横島ほどではないにしろ、男って奴ぁなぁ。
いや解るけどね、チラ見してたよ、俺も。
女の立場になって、見られる側になってよく解る。
見られる方にはバレバレだから、俺の胸元に視線釘付けだから。
こっそり見ててもバレてるからな? というか男のチラ見って殆どガン見なんだよ、女からすると。
巨乳の女性が男に苦手意識持つのもよく分かるってもんだ、俺はそういうもんだと流せるけどさ。
そして存外、横島の方がましなんだよ、気分的に。
チラチラ見ながら見てませんよってフリしてる奴よか、ガン見された方がましだわ。
TPOさえ弁えればな、小突いても、かなり力入れて殴っても文句言わないし。
「やれやれ。毎年の事だが面倒な話だな」
主観的には余り恒例という気はしないんだが、高町静香としては毎年の事だからなぁ。
ややこしいわ。
水着を買い換えるのもそうだが、プール自体も面倒だ。
泳ぐのは構わんが髪の毛が重くて洒落にならんのだ、あんな小さな帽子に入りきる訳ないのだ。
こちとら腰まで伸ばしてるというのに。
アニメだと水泳帽被ってない事多いけど、見た目の問題なんだろうな。
「毎年同じ水着なんて恥ずかしいでしょ」
その感覚は分からん、が女性としては普通の感覚らしい。
さっぱりだ。
まあ去年の水着は無理矢理着たら壊れそうだしな……主に胸が。
買い換えざるを得んわ。
「今度の日曜にでもみんなで買い物したらええんちゃうか。
なのはちゃん達も買うだろ」
「小学生は流石にスク水だろうに」
「海とか遊びにいくっしょ」
「まあ横島、お前が夏休みに遊びに行けるとは思わん事だ」
「なんでじゃ」
「毎年恒例、山ごもりでの修行だからな、楽しいぞ」
一応川があるから泳げるけどね、夏でもかなり冷たいが。
勿論鍛えてる俺らには普通に泳げる程度だが慣れてないと拷問だろうな、あの水温は。
「いやじゃ!」
「強制参加だ、当然だな」
父士郎と恭也、美由希と横島の四人だな、今年は。
そして持って行くのは恐らく、各人ナイフ一本ずつというガチ仕様だろう。
マラリアの予防接種とかも受けてから行く辺り本気度が伺える。
親父楽しそうなんだよなぁ、横島鍛えるの。
アレだ、息子は才能ない方だし――ないのにあの強さとか怖い話ではあるが――俺はやる気がないし。
美由希は恭也が育ててるようなもんで横から口出す位だし。
なにより横島の場合は叩けば叩く程伸びる上に俺という餌ぶら下げれば幾らでもついてくるからな。
こんな面白い素材はそうはないわ。
翠屋としてはバリスタの親父がいなくなるから珈琲の売り上げは落ちるんだが、毎年の事だし仕方ない。
学生と剣士を両立させようとすると長期休みが犠牲になるわ。
「毎年の事ながら遊ぶ時間が減って悲しいな」
彼女としては然もありなん、忍が嘆くのは同情できる。
この世界では高校一年の頃から付き合ってるらしいので交際三年目だってさ。
「ま、帰ってきてから遊べば良かろう。
夏休みはそれなりに長いさ」
流石に疲労抜きもあるため、夏休み全て山に籠もっている訳ではない。
大体夏休みが終わる一週間前には帰ってくるのだ。
親父抜きで行かせるとギリギリまで帰ってこない修行馬鹿ばかりだがな、全く。
「そうね、とりあえず今度の休みに子供達誘って買い物かな」
「うむ」
「お供します!」
「要らん」
女の買い物に付き合っても楽しくないだろうに。
俺は違うが、買いもしないのに試着しまくったり見て回ったり当たり前だからな。
****
その日の夕方。
「ふふん、よく似合うぞ」
「あ、ありがとう」
「や、照れますね、流石に」
明日からなのはと同じ聖祥付属に通う事になっているユーノとフェイトの制服、初お目見えである。
フェイトのトコの家族もうちに来て、ちょっとしたパーティだな。
「フェイトちゃん可愛い!」
プレシアがフェイトを抱き締めて窒息させんとばかりに胸の谷間に顔を埋めさせるのはイジメではなかろうか。
オーフェンも呆れているが止める気はないらしい、リニスに至ってはビデオ回して録画中だしな。
「ユーノ君もフェイトちゃんも可愛いの!」
「あんまり嬉しくないよそれは」
「えー?」
「ほら、晩ご飯食べるんだから、着替えてきなさい」
「はーい」
母に言われて素直に部屋に戻る三人。
良い子だわ、全く。
「さ、プレシアさんもオーフェンさんもどうぞ」
と注ぎ始める親父。
良いけどね、こいつらは酔ってもべたべたとバカップルするだけだし。
しかしまあこういう時はさらっと裏方に回れるうちの兄妹達も年不相応に大人であるな。
俺は反則みたいなもんだが。
美由希達が酒だの皿だの用意してる間に、酒のつまみを作る俺。
ヴァンプ将軍のさっと一品も便利だがネットの情報もあなどれんよ。
AAスレとかで紹介されてる奴とか、ホント手軽と美味しいからなぁ。
ネットと言えばVIPでスレ立て。
『生まれ変わったら黒の長髪爆乳長身の美人になったんだけど質問ある?』とか。
速攻荒らされてDAT落ちだな、確実に。
そして最近気に入ってるのは『女難の相を持つ者集まれ』スレだな。
超電磁砲ぶっぱなされる男とか宇宙改変機能付きの女に振り回される男とかの苦労話をつらつらと書き込むスレなんだが。
さて、ヴァンプ将軍のさっと一品で生レバーがどうので紹介された奴。
鰹にゴマ油絡めるアレはがちで旨いぞ、全く。
今出してるが、大人どもに大好評だ。
っと、子供達の料理も用意しないとな、もうできあがってるようなもんだが。
カレーって便利だよね、作り置きしておいて旨くなるし一週間に一度のペースなら平気で出せるし。
そして今焼いてるハンバーグを皿に盛ってハンバーグカレーだぜ。
ハンバーグ入れる分だけ香辛料とか足してっと…子供と俺ら高校生と味付けの配分は変えないとな。
特になのはは辛いの好きじゃないし。
後から細かい味付けを変えやすいのもカレーの利点だよな。
「静香お姉ちゃんごはーん」
「なのは、お父さん達が食べ終わった皿片付けて来い」
「はーい」
「フェイトは冷蔵庫からビール持ってこい」
「うん」
「ユーノはアルフに肉与えておけ」
「肉肉ー」
「野生の欠片もないねアルフは」
「肉が食べられるなら何でも良いさね」
転がってお腹見せるアルフ可愛いなぁ。
リニスの足下で転がってるので、お腹を足で撫でられているぞ。
っと、ハンバーグが焦げるぜ。
二度挽きの柔らかハンバーグだから、気をつけてっと。
「カレー皿並べたけどこれで良い?」
皿出しをしながら、横島の声。
「おう――恭也、これ持ってけ」
大根おろしで煮た豚肉を深皿に盛って恭也へ。
メニュー考えるのメンドイ時の味方すぎるだろヴァンプ将軍。
フロシャイムが日本征服する日は近いな。
世界征服と言えばショッカーだが、昔国民背番号制度とかショッカーが計画してた奴。
あれまんま現代日本の住基ネットだよな。
日本はいつの間にかショッカーに征服されていたらしい。
冷静に考えると怪人なんぞ量産してないで、国の要人誘拐しまくって脳改造だけして放出を繰り返せば日本くらい征服出来たんじゃなかろうか。
ま、どうでも良いけどさ。
「はい、アルフ」
「んむ、くるしゅうないぞユーノ」
尻尾全力で振りながら骨付きの生肉に齧り付くアルフ。
「全く、アルフはたるんでますね」
「はっ、四六時中フェイトの動画ばかり見てる猫に言われたくないね」
「失礼な! 生のフェイトを見る為に遠視の魔法も使ってます!」
聞き捨てならん科白を聞いた気がするが無視。
美由希がご飯をよそった皿にハンバーグを載せていく俺。
続けて横島がカレールーを掛けていく。
「恭也ー、酒切れたぞー」
「叫ぶな」
「お父さん、はい」
「オーフェンもビール」
なのはもフェイトも可愛いなおい。
酔ってるせいか二人の頭を撫でまくる馬鹿親。
まあフェイトの方はオーフェンじゃなくプレシアな訳だが、うちの桃子さんもプレシアも普通にジーンズにトレーナー着てるだけなのになんであんなエロいのか、横島の鼻息荒くなる位には。
そして綺麗に谷間に収まるフェイトの頭。
死因は過度の抱擁による窒息死ですってか。
「ほら、飯喰うんだからこっち来い」
大人どもはリビングで飲み会、俺らは台所の前のテーブルで夕食だ。
「はーい」
「フェイトーハンバーグだけおくれー」
「え、駄目だよアルフ。私も食べたいもん」
「ユーノーハンバーグだけおくれー」
「玉葱だけ上げようか?」
「静香ー」
「うるさい」
ますます駄目犬化してるな、どうも俺らが家にいない昼間はひなたぼっこで昼寝してるらしいし。
いやまあ掃除とか洗濯物、洗い物とかは終わらせてからっぽいから文句言うつもりはないんだけどな。
おかげでうちはかなり綺麗だし俺も料理以外の家事に時間取られなくて助かってるんだけどさ。
「ほれ」
「ありがとよー」
食い終わってもなお囓ってた骨を放り出し、俺の差し出したハンバーグの皿に食い付くアルフ。
ちゃんとアルフの分作ってやる辺り俺って優しいなと自画自賛する事にしよう。
そもそも使い魔って飯喰う必要あるのか? フェイトから魔力もらってるから喰わなくても生きて行けそうなイメージがあるが。
…今その疑問を口に出すとアルフをイジメてるように受け取られるな、後で訊こう。
アルフ可愛いから喰う事自体は別に良いんだけどさ。
「さ、私達も食べちゃおう」
「ああ」
「ケーキも用意してあるからな」
「お姉ちゃんありがとー!」
「静香、ありがとう」
「あ、はい、ありがとうございます」
中身が大人だから気持ちは分かるが子供らしくしとけってんだ。
****
「静香ーほねっこ何処だい?」
「ほら、アルフ」
「お、美由希ありがと」
「うーん、もふもふ」
ほねっこ囓ってるアルフを抱っこしている美由希がもふもふしている。
そうやって甘やかすから駄犬化が進むんだ、まったく。
「ご馳走さまー」
「ご馳走様」
「ご馳走様でした」
食べ終わったケーキ皿を台所の洗い場まで持って行くなのは達。うむ。
うちでは余りケーキが売れ残らないから、デザートに出すのは珍しいんだよね。
まあ今日のは俺が練習として作った奴だけど。
厚さ1㎜のスポンジと2㎜の生クリームのミルフィーユだぜ。
あえてクレープ生地ではなく普通のスポンジで作る辺り、俺の技術が冴えるぜ。
「忠夫お兄ちゃん、はい」
「お願いします」
「ん、そっち置いとけ」
「はい」
洗い場に立つ横島。
うちの男どもは言わんでも家事やってくれるから有り難いね、躾が出来てるとも言う。
俺はその隣りで肴作ってるんだけどな、たまにしか飲まないから飲む時は鯨飲馬食なんだよ、うちのどもは。
「ユーノ君宿題手伝ってね」
「それは良いけど、フェイトの学力確認しておかないとね」
「ちゃんと通信教育受けてたもん、大丈夫だよ」
「いや流石に歴史と国語は難しいと思うよ」
ちゃんと自分から宿題やる子供とか理想的過ぎる良い子だ。
相変わらず大人どものつまみを作りつつ眺めていた俺であった。
仲良い子供達とか見てるだけで和むな、全く。
どたどたと音を立てて自分達の部屋へ戻って行くと台所が少し広くなった。
そーいや翻訳魔法とか使ってるんだっけ? 英語とかも大丈夫かね?
「洗い物終わったっすよ、とりあえず」
「ご苦労。恭也、これ持ってけ」
「ああ」
「さて、始めるか」
皿を拭き終えた恭也に作った肴を持って行かせて、どんっと小麦粉の袋を取り出す俺。
「…? 何してんの?」
「明日の朝のパンを作ってるのだ」
小麦粉と水と、あと何を入れれば良いのかなっと。
人数が人数だからそれなりに大量に使うな。
「ああ、月村のトコの試作品、また貰ってきたんすか」
いわゆる家庭用パン製造機だが、これを手作りと言って良いものかどうか悩むところである。
「…気をつけろよ」
そんな心配そうにしなくても良いだろうになぁ、恭也も。
たかが家庭用電源で動く機械が爆発した程度じゃ何ともないし。
まあそもそも爆発する方が基本的には珍しいんだが。
前世の頃から使いたくてさぁ。
でも一人暮らしだったから流石に手を出すの躊躇われてた訳で。
こんだけ家族がいるなら容赦なく使えるというものだ。
「…では父さん達の面倒は任せたぞ」
「ああ、行ってこい」
毎日頑張るね、こいつらも。
「めんどくせぇー」
「なんだ辞めるのか?」
「見てくださいこのヤる気に満ちあふれた瞳!」
性欲に満ちあふれてるようにしか見えんがな。
「美由希、行くぞ」
「はーい」
「行ってらっしゃい――はぐはぐ」
「アルフ、人型になって手伝え」
主に酔っぱらいの相手を。
「へーい」
ぽんっと音を立てて女性の姿になるアルフ。ほねっこを咥えたままというのは如何なものか。
さて、これでスイッチを入れれば朝には食パンができあがってるハズ。
新しい玩具はわくわくするねぇ。
「静香ー、ツマミだってさー」
酔っぱらいどもめ。
酒に弱いこの身体では付き合えもしないし、ちっとも楽しくないぞ。
ライキも寝てるし、明日の朝飯の支度して風呂入ってとっとと寝るか。
横島が修行で外出てる時は覗かれないしな。
食パンを作ってるんだから、ヨーグルトに――んー、苺が中途半端にあるな、ジャムにしてしまうか。
後は、ハンバーグの種(焼く前の状態)が残ってるから肉団子でも…量が足らんな。
うーん、今度大量に放り込んだ方が良いかな、大分すかすかな冷蔵庫だ。
野菜室に入ってるの全部ぶった切ってサラダにする、いや適当に鍋に突っ込んでポトフにしてしまうか。
ふむ、……牛乳が賞味期限近いな。
恭也と横島の奴に明日の朝飯喰う前にバター作らせるか。
ホーロー鍋を用意して苺の水洗い開始っと。
「静香ー、日本酒何処だい?」
「そこの戸棚の奧だ」
リニスも結構飲むなぁ、猫の癖に。アルフは肉と骨だけあれば良いって感じだが。
オーフェンも喰えれば良い飲めれば良いって感じか。
最近アレの中身が実は俺と同じ本物のオーフェンじゃないような気がしてるんだがどうだろうか。
どうでも良いと言えば果てしなくどうでも良いんだけどね、俺に迷惑かかる訳でなし。
「アルフ、風呂の準備してくれ」
「あいよー」
すっかり高校生主婦してるな、俺は。
いやすげー充実してるけどね。
あんな可愛い妹どももそうだが、自分自身超美人だしな、胸が大きすぎるのと目付き鋭いのが欠点っちゃ欠点だが。
あと女は得だねー、買い食いとかも店員が男だとサービスしてくれる事多いし。
なにより嫌な上司とか使えない部下とか足引っ張るかうわさ話しか能のない同僚しかいない会社で働かないでも良いって実に清々しい気分だね、うむ。
バイトも実家だから気心知れてるし、実家の手伝いとは思えない程度には給料もらってるし。
なにより高校生は自由時間多すぎワロタって感じ?
翠屋で働く時間と家事――と言っても買い物と料理位だが、アルフのおかげで――に費やす時間を差っ引いても暇が出来る。
念に関しては本読みながら練とかでも十分修行になるしね。あれ、やればやるほど素の体力も増えるっぽい。
なによりライキ可愛いだしなー、転生してよかった。
前世は身内の縁が薄くて孤独だったし、友人もそれなりにいたけど深い仲って程でもなかったし、恋人もいたりいなかったりだしなぁ。そういや死んだ後の貯金とかどうなるんだろう? 血の繋がった身内はいなかったハズだし、国や銀行に接収されるのかな。
今更どうでも良い事だけどさ。
今なら神様に感謝してやれるぜ、性転換以外は。
いつか折り合いつくんだろうけどな、つーか付かなきゃストレスでぶっ壊れそうでもある。
あと視線がなぁ、横島ほどではないが――あいつはかぶりつかんばかりのガン見だ――男も女もじろじろ見てくるし。
睨んでやると大抵視線逸らすんだよな、ンな怖いなら最初から見るなってんだ。
「風呂のスイッチ入れてきたよ」
「すまんな」
「アルフ~、おビール様ちょ~だぁい」
おビール様ってなんだよ。
「全く酔っぱらいは仕方ないねぇ」
愚痴は言ってもちゃんとビール運んであげるアルフはマジ忠犬だな。
さて、朝飯の支度も終わったし、風呂入るかね。
「ではアルフ、風呂入ってくる」
「あいよ」
****
さてさて。
家族全員から大好評だった朝食を終え、ユーノとフェイトが初登校を送り出して学校へ向かう。
まー、イジメられたりはしないだろうとは思うが、どうであろうか。
唯一の懸念と言えば、なのはとフェイトがべったりしすぎて、ユーノが男子からイジメられるパターンかな。
年齢が二桁になる頃から男女差を意識して、イジメとまでは行かなくてもちょっかい出したり無視したりと、当たり前だしな。
そういう意味ではなのはが自重すると良いんだが…さて、どうなる事やら。
その日の昼。
「タカマチさん、くのいちってホントですカ!?」
昼休み、恭也と忍と三人で飯を食べている所に来た金髪の学生。
鈴木先生のトコの留学生のアンソニーだな、割とディープなオタクで、漫研の眼鏡と仲が良いハズ。
まあ漫研つながりでひより達とも仲が良い、パティともな。
そしてどうでも良いがパトリシアの愛称はパットじゃないのかスパロボ的に考えて、と最初らきすたで読んだ時は思ったものだ。
さらっと思い出せるだけの情報を思い出してから、興奮に頬染めている外国人を見る。
「アンソニー、それは誰から聞いたのかしら?」
呆れている忍。
恭也も似たようなものだ、当然俺もだが。
教室に残ってる連中からも注目浴びてるぞ、なんだこのイジメは。
「キタガワさんから聞きました! くのいち!」
思春期真っ盛りの中学生を風俗に連れてっても此処まで興奮しないだろって位はしゃいでるな。
外人の忍者に対する盛り上がり方は異常じゃね?
まあ聖剣だのドラゴンだのに騒いでる日本人に言われたくはないのかも知れんがな。
そして俺の中で最高の忍びは甲斐の六郎(原作版)、異論は認める。
SAKONだとなんかもうアレな事になってたが、超能力バトル漫画にしなきゃ気が済まなかったのかねアレは。
「それで私が忍者だったとしてお前に何の得があるんだ?」
「忍術が見てみたいデス!」
「アホか」
いやホント、アホか。
念能力使えば操作系も得意な方だし、心の一方は出来そうだけどさぁ。
「とりあえず帰れ」
「そんな、ひどい――で、くのいちなんデスか? 忍法使えマスか?」
「なんでそんなネタ知ってるんだ」
「ニンテンドーはアメリカでも人気デシタよ?」
ファミコンで良いものを何故ニンテンドーとか言う名称になったんだろうか。
「ったく…仕方ないな」
箸を置いて立ち上がる俺。
飯の途中だと言うのに迷惑な野郎だ。
ちらりと恭也に視線を送ると、恭也もおもむろに箸を置いた。
椅子を引き、動く準備をする。
窓までの距離は約3歩。窓際という訳でもないからな。
ただ一番後ろの席ではあるので、途中に邪魔な机はない。
パァン!
ッ――!
足にオーラを集めて一歩で窓の外へ飛び出し、周で覆った一番太い鋼糸で上の窓枠を引っかけ身体を持ち上げ、ロッククライミングの要領で一気に屋上まで上り、屋上の柵の上に腰掛ける。
うーん、絶景だぜ。ちなみに柏手打ったのは恭也だぜ、以心伝心。
麻雀でコンビ打ちとか出来るかもね、俺の場合円で相手の手牌だの探った方が速いだろうが。
そして円で教室の様子を探ると、アンソニーらしき人型と教室のクラスメート数名が慌てている様子が窺える。
悪戯成功だぜ、ふふん。
ホントなら後ろからこっそり髪の毛好いてトリートメントしてるかって言いたいトコだが、周りに人がいるとあんまり驚異度が低いかなと教室から消えてみたのだが。
まあこんなトコだろう。
いや超人的な身体能力手に入れたら一度はやってみたいよね、きっと。
おー、外国人はいちいちオーバーアクションだな。腕振り回してなんか騒いでるわ。
……冷静に考えたら快斗の奴ならこの程度簡単なんだよな……
そして志貴とかでも余裕そうだな……
人外連中は言うに及ばず。テンション下がるなぁ、別に俺より強い奴に会いたい訳でもないんだが。
「……静香ちゃんあにしてんすか?」
「ん?」
首だけ後ろを向くと、柵の下、向こう側に横島の姿。
「ああ、ちょっと遊んでみただけだ」
よっと柵から飛び降りる、船の縁からダイバーが落ちるように背中から。
くるりと一回転して着地。
ま、男だった頃は考えても出来なかった事が出来るってのも得した事だよね、うむ。
…厨二病は早めに治そうな、俺。
「おお、黒――っ痛っ! 殴らんでもええやないか」
「黙れ」
一瞬だったろうによく見たもんだね、全く…
とりあえず横島を小突いてから伊達、タイガー、ピートの三人のトコまで連れ立って歩く。
ち、屋上で飯喰ってた他の生徒達にも見られたか……まあ仕方ないね、やってみたかったんだから仕方ない。
「よお、高町。
ハデな登場だったな」
「まあな」
伊達――そういやリュウセイもダテだったな。どうでも良いが伊達って名字の奴ぁ厨二病患者ばかりだわ、初代伊達藩主からして。
で、伊達雪之丞が弁当箱を抱えつつ声を掛けてきた。
とりあえず横島と共に腰を降ろす。
…そーいや飯の途中だったな、昼休みは――あと30分はあるから大丈夫か。
恭也にすぐ戻るとメール打ってっと。
「なんでまた外から上ってきたんです?」
「ちょっと忍者ごっこを強要されてな――もう喰い終わったのか?」
「あ!? 俺の飯が無くなってる?!」
「ゴチソーサマじゃー横島サン」
「おう、高町の弁当はうめぇな」
「僕は止めたんですけどね」
なるほど、俺の方へ向かってる間に食い尽くされたか。
イナゴかこいつらは。
「てめぇぇぇらぁぁぁ!?」
「いやホント高町サンは料理上手デスノー」
「そりゃどうも――まだ私の弁当が残ってるから食わせてやる。
とっとと教室戻るぞ」
「静香ちゃん愛してる!」
「はいはい」
「それじゃ僕らも教室戻りますかね」
「ソージャノー」
「おう」
なんかアレだな、ドロンジョ様とボヤッキー・トンズラーみたいな。
美形の三人目が出てくるのはなんだっけ、トンマノマントだっけ?
教室に戻るとテンションageageなアンソニーをいなしつつ、横島に半分弁当を分けてやった。
泣いて感謝されたので殴っておいた。
やれやれだぜ。
その後、何処から聞き付けたか神社の裏手での修行を覗きに来たアンソニーが、美由希を見てサムラーイとか美少女剣士とかやかましかったらしい。
エクセレン先生とかはそこまでじゃないんだが……なんなんだろうか、あのテンション。
こんな世界でもサムライ・ニンジャは大人気なんだなぁと変な感心をしてしまった。
****
静香にとって「ハルヒ」と言えば「藤岡春日」の方。
そして超電磁砲も禁書目録もも知らない人。
元の中身が30代後半の社会人なので小説やゲームに割けるリソース自体が少なかったという、無意味にリアルな裏設定。
実際、社会人になってからは積みゲー積み本を崩す暇がない……
意外と早く仕上がりました、書き始めてからは。
はい、お待たせしました本編です。
ネタ的には本編の方が結構ストックされてるんですけどねぇ…
そこに到達するまでが時間かかるというか…
本編・番外編ともに書き溜めが尽きているので次回は未定です。
ネタというかプロットはあるんですが…年末だし。
大掃除は夏やりたい陣でした。
12/04
前話までと大きく矛盾する部分を修正×2