「♪~」
風呂は良いねぇ、リリンが産んだ文化の極みだよ。
そんな渚カヲルもうちの中学に通ってる辺りこの世は本当に有り得ない事ばかりだ。
漸く一日を乗り切った。
酔っぱらいどもの後始末を横島と恭也、美由希に押し付け、洗い物や朝食の仕込みを済ませた俺はゆっくりと湯に浸かってる最中。
なのは達はとっくに寝たし、気楽に独りで風呂で身体を伸ばすのも良いものだ。
ライキも入れればいいんだが、自殺願望はないしなぁ。
うちの風呂は親父の趣味で無意味に広いので、俺が大の字になって浮かぶ事すら可能なのだ。
流石に両手両足を広げれば縁に触れなくもないが、まっすぐにしてぷかぷか浮かぶ分には問題ない。
浮かばないけどね、やりたいけど。
髪の毛が悲惨な事になるのだ、今はタオルで一纏めにしてるが重い重い。
具体的にはライキが乗ってるんじゃねって位重い。
腰までの長さの長髪だから仕方ないんだけどね、アニメの主人公とかよくあんな軽々動けるなと感心するわ。
ポニーにしてると首が重いんだぞ、アレ。
支点力点作用点の関係で、ストレートに降ろしてる時は大して重く感じないのにポニーにすると倍率ドンで重く感じるという。
しかし切る気にならないのはアレか、神様的な力なのか単にポニーフェチなのか。
女性の髪型で一番なのはポニーテールというのは譲れんし、単なるフェチかな。
……しまったな、美由希でも連れ込まないと髪の毛洗うのが面倒だ。
いつもは誰かと一緒に入るからなぁ、たまに独りで入るとこれだ。
なのは達と一緒に入ればなのは達がやってくれるんだが。
……流石にこの髪の毛を自分で洗うのはしんどいんだが……うーむ。
仕方ないから洗うか、面倒だな全く。
ざばーっと音を立てて湯船から上がる俺。
うーむ。
大分見慣れたとは言え、下を向いてもおっぱいで足下が見えないとか巨乳過ぎる。
一応谷間のトコは見えるけどさ。
腰もくびれてるし足も長いし。
スタイルの比率が日本人体型じゃないよな、これ。
鏡に映る俺は大層美人でため息が出るわ、全く。
「ホント、若いって良いわねー」
「……武術か何か嗜んでましたか? おば様」
「いいえ?」
不思議そうな顔をされてしまった、突然現れた百合子さんに。
勿論裸なのだが……年不相応に若々しいな全く。
勿論、母桃子より大分年が上な事もあって、それなりに年を感じさせなくもないが、平均値より遙かに若い身体である。
確かに鏡に映る自分の姿を注視していたのは否定しないが、それでも俺に気付かれる事なく風呂場に侵入するなんてどういう技能だ?
おかしすぎるだろ……
「シャワー貸してくださる?」
「どうぞ」
シャワーヘッドを渡して、風呂の椅子――ケロタンを譲る。
もう一度湯船に浸かって、何しに入ってきたのか解らん百合子さんをポーっと眺めていた。
身体を洗う百合子さんをぽーっと眺める。
異性じゃあるまいし目を逸らしたり身体を反転させるのは変だしねぇ。
「忠夫の事、ありがとうね」
「はい?」
身体を洗いながら独り言のように呟きが漏れた。
「最初はね、とっとと泣きついてくるかと思ったのよ。
アパート代と光熱費、学費以外は入れてあげなかったからね」
ナルニアだかに飛ばされた時の話か。
「売り言葉に買い言葉でねぇ。
もう少し下手に出てくれれば金銭的に余裕あげられたかも知れないんだけど。
あの時は宿六がハメられて腸が煮えくりかえってた時だったし……」
「一つ疑問なんですが。
おば様なら、おじ様が飛ばされるのが決定しても、いくらでもひっくり返せたのでは?」
紅百合子なら、あの影響力なら出来そうだと思えるんだよね、正直。
なんせ一つ書類に目を通しただけで億単位の金が出てくるんだぞ? 錬金術か、全く。
「……忠夫の喧嘩に助太刀するかしら? 貴女なら」
「……しませんね。修行つけてやる程度なら、まあ」
要するに男のプライド守る方選んだという事か。
手を出せばひっくり返せた盤面をそのままにして、それで日本からみたら地の最果てのような辺境までついてきてくれるんだから果報者だな、大樹さんは。
「話を戻すけど、それで高校での2年間は割と苦労してたでしょ、あの子は」
「苦労している割にセクハラされましたが」
「そういうトコ父親そっくりで嫌になるわね、全く」
ざぱーと泡を流して、湯船に入ってくる百合子さん。
「旦那の部下のクロサキ君にも調べさせたけどその日暮らしというか、バイトも日雇いのような仕事、短期で稼げるのばかりで長続きしないようなのばっかり選んでたみたいなのよね。
勿論生活レベルは最低な感じ。
まあ、それはそれで良いんだけどね、若い頃の苦労は年取ってから身になるものだし」
何という厳しさと優しさの融合体。
今時の親ではあり得ん態度だな。
「で、今年の春になっていきなり女の家に引越、バイトも変えて更に武術の修行。
これで出席率が下がらない上に成績まで上がった。
クロサキ君から報告聞いた時はどれだけ吃驚したかわかってもらえるかしら?」
「……おじ様にそっくり、という事でしょうか」
「そうね、女の為なら何でも出来る辺りは血筋ね。
流石に不破ちゃんの息子と曲がりなりにも打ち合える程強くなってるっていうのは驚いたわ」
まだまだ恭也は手加減してるけどね。
「それだけではなく、翠屋の売り上げも2割は引き上げてます、忠夫の販売戦略で」
元々黒字経営だったうちの売り上げを上げるんだから実は大した経営コンサルタントになれるんじゃね?
と言ったところか。
「あの子は商才あるもの。
ふとした一言に驚かされる事が多いわ。
普段は父親そっくりの馬鹿な行動しか取らないけど」
「血は水より濃いというか……遺伝子にでもみ組み込まれてるんでしょうかね、女好きという」
「亡くなられたお義父様もそういう人だったらしいわ」
前世の高島も女問題で処刑されそうになる位阿呆だったしなぁ。
然もありなんと言ったところか。
「まあ、そういう訳でね。
静香ちゃんには感謝してるの」
「私は別に何もしてませんが」
「そうかしら? クロサキ君からの報告だと、この春からの貴女は少し忠夫に優しくなったようだけど、何かあったんじゃないの?」
ぎくぅっ
うーん、前世の記憶が蘇って融合合体なんて電波な事は信じてもらえんだろうなぁ。
言う気もないが。
「……特に何かあった訳ではないです。むしろ同居したから、ではないでしょうか?」
同じ飯喰って仕事して寝起きすれば、多少なりとて情が移るのは当然だよね、多分。
事実を言えば、前世でのGS横島忠夫に対する好意が多分に影響したのだろう。
俺の世代でポップと横島を嫌いな男はそうはいないハズだと信じているのだ。
「長くいれば情も移るかしらね?」
疑わしそうだなぁ。
追求はされないと思うが。
「……気付くと懐にいるのがあの親子の怖い所だと思います」
「……そうかもね」
思うところがあるのか、黙ってしまう百合子さん。
まーこの人も最初は大樹さんとくっつくとか考えてもいなかったろうしなぁ。
………ちゃんと反面教師としなければ。
****
翌日は何を気に入られたのか、百合子さんの買い物に連れ回された俺と横島。
翠屋の方は俺と横島は休みにされたので、横島はぶつぶつと文句言いながらも荷物運びを行い、俺は始終百合子さんの話し相手やら着せ替え人形やらを勤めた。
これが一番疲れたよ……服なんて見苦しくない程度に着られればそれで良いと思わんかね?
横島としても久しぶりの親子の付き合いだし、口で言う程嫌がってる訳でもないのだろう。
ちなみに大樹さんの方はとっとと仕事へ向かったようだ。挨拶回りとからしいが。
「静香ちゃん。忠夫の事、宜しく御願いね」
「なに、頑丈だから壊れるまで殴ってくれても全然構わんですよ!」
「親父は黙っとけ!」
海鳴駅でお見送りである。
ぞろぞろと家族全員で来る訳にも行かないので俺と横島、子供達のみだが。
夕方の海鳴駅、改札前の広場はそれなりに人通りも多い。
雑然とした騒音の中、なのは達が横島の両親に挨拶していた。
「また来てね」
「お土産ありがとうございました」
「またね」
「なのはちゃん達も忠夫の事宜しくね?」
「大丈夫なの! お仕事とか意外と真面目だし」
「手を抜くのは上手いですけど、サボったりはしないんですよね、横島さんは」
「タダオと遊ぶの楽しいよ?」
「全く子供にだけはモテるんだな、忠夫は」
「っかましいわボケ親父! とっとと帰れ!」
「そろそろ時間でしょう」
「そうね。じゃあまた会いましょうね」
「おじ様、おば様も息災で。次は本社重役の椅子に座ったらお会いしましょう」
「おお、なんと出来た嫁! 忠夫には勿体ない!」
「いえ、嫁じゃないです」
「照れなくても良いよ静香ちゃん」
「いえ照れてないです」
……転校でもしようかな、東京で独り暮らしとか。
あーでもなのは達に会えないのは嫌だなぁ、かと言って今更横島追い出せないだろうし。
「静香お姉ちゃんは頑固なの」
「お前にだけは言われたくないぞ、なのは」
頑固者の代名詞だからな、管理局の白い悪魔は。
うちのなのはが管理局入りする事はなさそうだが、というか管理局が地球に来る事もなさそうだが。
この場合、ゆりかごで攻撃受けたりするのかなぁ?
プレシアにスカの事訊いておくか? 確かプロジェクト・フェイトで付き合いがあったような気がするんだが。
ま、後回しだな。
「忠夫もこんな可愛い妹と弟が出来て良かったわね」
「あー……」
お、照れてる。
「キモイな忠夫」
「どやかましいわっ!」
「横島さんはお父さん似ですね」
「コピーかって位に似てるな」
「「似てない!!」」
「新幹線来ちゃうよー」
「そうね。ほら、行くわよ」
「こっコラ!? 首根っこ掴むな! みんなありがとーな!」
百合子さんに引き摺られて改札の向こう側へ消える大樹さん。
嵐は去った、か。
「ああいうのをカカア天下って言うんだよ」
「へー」
ユーノはホント変な事を知ってるな、全く。
「シズカ、これから帰るの?」
「今日は一日休みで良いと言われてるからな、何処か行きたいか?」
と言ってももう夕方だが。
「カラオケ!」
「からおけ?」
こてんっと首を傾げるフェイトがらぶりー。
「歌を歌う場所、だな。
アニメの歌やドラマの主題歌、軍歌に演歌、民謡など万を超える歌が選べる」
「ストロンガー!」
「あるぞ」
うちの子達は平成より昭和ライダー好きなんだよな、主にスピリッツのせいで。
何処かの金持ちが阿呆みたいな金額出したとかアニメーター達の給料を倍上げしたとか真しやかに噂が流れているが。
個人的な予想というか妄想だと、俺と同じような立場の金持ちに産まれた、或いは金儲けしたオタクな誰かが金出してやらせてるんじゃね? というものだが如何なものか。
特撮ファンとして、村枝ファンとして、俺フィとスピリッツのアニメ化はまさに夢だったからなぁ、前世の俺も。
あんな素晴らしいアニメを見てファンにならない子供はおらんわな、俺も毎回楽しみにしてるし。
ちなみになのははV3、ユーノはライダーマン、フェイトはストロンガーが贔屓である。
俺? RXしかないだろ常識的に考えて。
横島もRXなんだよなー変なトコで気が合うから困る。
「ふ、この美声で静香ちゃんを酔わせる時が来たか」
「吹いてろ馬鹿が」
歌が上手いのは否定しないがな、なにげにこいつは器用だし。
思えばカラオケも前世から併せて随分久しぶり、という訳で子供三人連れてカラオケへゴー。
カラオケ屋で吉永サリーが店員してたが掛け持ちだそうだ、大変だね。
****
「む?」
「お、高町か」
久しぶりに独りで帰宅する為に下駄箱で靴を履き替えていた俺。
そして声を掛けてきた遠野志貴。
「ふむ、そちらは妹さんか」
「ああ、秋葉だ。こっちは同じクラスの高町」
「初めまして、兄がいつもお世話になっておりますわ」
「こちらこそ八神の件では世話になった」
下駄箱で繰り広げられる社交辞令。
というか、秋葉さん、人の胸元凝視するのは辞めて下さい。
日本人形みたいで綺麗なんだから良いじゃんねー?
胸なんて大きくても男が喜ぶ位だろ、全く。
口には出しませんが。
「翠屋の跡取りなんだぜ」
「跡取りはなのはだと思うがな」
なんとはなしに歩き始める。
「まあ。翠屋のケーキやシュークリームはいつも戴いてますわ。とても美味しいです」
猫かぶってるなぁ?
「ありがとう。今度遠野と――兄貴と一緒に来るが良い。サービスさせてもらう」
まあ猫かぶってるのは俺もだが。
女って怖いねー、今では俺も女だが。
「ああ、今度寄らせてもらう」
「ああ、ではな」
さらっと交差点で逆方向へ。
後ろの方から聞こえてくる巨乳がどうとかはきっと幻聴。
そんな劣等感コンプレックス抱かなくてもねぇ? シエル先生もアルクェイドも巨乳だが。
今日は横島が雪之丞達と遊びに行ってるので独りなのだが。
どうでも良いが伊達雪之丞って凄い名前だよな、タイガー寅吉もアレだが。
さて、どうするかな。
たまには独りゲーセンでも行くか。
というかこう、高町静香として自覚してからこっち、独りの時間が少ない気がするな。
前は孤独な独身貴族だったのになぁ。
変われば変わるものだ。
と言う訳でゲームセンター、その名もゲームセンター嵐山。
……海鳴市にあっても嵐山。別に店長はぼっちじゃないし火も出せない。
単に嵐山出身のおっさんだという話だ、訳が分からん事に。
良いけどね、別に。
という訳でプライスゲームコーナーへゴー。
俺の中でビデオゲームコーナーは95で終わってます。
コマンド入力が面倒過ぎるだろ最近の格ゲーは……
この『なめこシリーズ』は誰得なんだろうね、可愛くないんだけど。
定番のポケモンや青いハリネズミ、ピンクの悪魔などこのゲーセンのラインナップ自体誰得って感じだな。
ぷらぷらと筐体を眺めて――お?
「こら、帰りにゲームセンターに寄るのは不良の始まりだぞ」
と小学生集団に声を掛ける俺。
「あ、静香お姉ちゃん」
「こんにちわー」
なのは、フェイト、すずか、アリサにルリ、イリヤである。
「ユーノはどうした?」
「図書館でお勉強だって」
「担任の鵺野先生といきとーごーしちゃったの」
「そ。私たちみたいな美少女の誘い断ってね」
「女の子ばかりだから嫌がるのが普通な気もしますが」
「……そうか」
………担任ぬーべーなんだ……
ま、なのはとフェイトは魔法があるから何とかするだろ、アリサはアレだ、きっと炎とか出すよ。
すずかとイリヤは心配するだけ無駄だしルリはきっと黒いのが守るさ、何かあっても。
まあ冷静に考えればぬーべーの生徒でどうにかなかった奴はいない、きっちり守ってるから心配するだけ無駄か。
しっかしおキヌちゃんに続いてぬーべーか。
そのうち鬼太郎や悪魔くんが引っ越してきそうだな、全く。
「静香お姉ちゃん、これ取れる?」
と、筐体に張り付いたなのはが指さすのはドラゴンボールのマスコット、プーアルの人形だ。
ちなみにちゃんとアニメ化も単行本化もしてるのでこの世界にドラゴンボールとかサイヤ人とかは存在しないハズである、多分。
しっかし、ウーロンの人形とか誰得だこれは?
「取れるぞ」
100円入れてスタート。
そして周!
クレーンのパワーを強化、更に操作性も倍率ドン! 更に倍!
クイズダービーとかはらたいらさんに3000点とかいい加減知らない世代もいそうだなぁ?!
「あっ取れた!」
「静香さん凄い」
「おかしいです、このUFOキャッチャーがこんなパワーを出せる訳がないんですが」
「なんか変な力の流れが……」
ルリとイリヤは細かい事を気にしすぎだ。
見ろ、フェイトとなのはなど感動の余り常識外の事が起きているのにスルーだ。
まあキャッチャーのアームのパワーが強すぎるのが常識外かどうかは議論が待たれる所ではあるが。
「やったっありがとっお姉ちゃん!」
取り出し口からプーアルを取り出して抱き締めるなのは。
「シズカシズカ、あたしにも取って!」
「はいはい」
「あ、あたしも欲しい」
「御願いします」
「以下どーぶーん」
「お願いしまーす」
よってそれぞれ一個ずつ人形をゲットするまで続けた、大した手間ではないし、一個100円だしね。
二個取りとか昨今珍しい技術まで披露してしまったぜ。
最近はヒモすら出してないトコ多いしねぇ。
それにしても人形の種類がよく分からんな。
前世ではアニメとかで人気だったようなのがこの世界だと普通に存在してて、そういうのが人形として存在していない上に、スピリッツのような向こうではアニメ化していないのがしていて、人気になっていると――
「V3人形取ってー」
「ストロンガー……」
「スーパー1お願いね」
「1号お願いします」
「アーマーゾーン」
「いっそ全部取ってもらったら?」
「そうしよう!」
「……良いけどね」
大人気だなスピリッツ。
この後、ライダー全種類集めた後にカイバーランドの人形、まあ要するにデュエルモンスターのデフォルメ人形と店にあったポケモン人形も全種揃えてなのは達と買い物しつつ帰宅したのであった。
なのはとフェイトは大喜びである。女の子はいつまでも人形という物が好きらしい。
俺は欲しかったのが特になかったからなぁ……ライチュウの人形くらい置いておけよな、全く。
****
昼休み。
「呼び出されても話すような事はないと思うのだがな? 氷室キヌさん」
「高町先輩は、横島さんの事どう思ってるんですか?」
そんな必至な顔して訴えられてもねぇ。
ついでにらきすた四人組と那美と美由希が屋上の入口から覗いてる上に、誰だか知らんが階段ホールの屋根の上に誰かいるし。
こんな覗き魔が多いトコで何を言えと。
訊かれて困る関係ではないのは確かだが、別に惚れてはいないしねー。
友人的な意味で仲が良いのは否定しないが。
「何とも? 友人としてそれなり?
むしろうちの家族が気に入ってる感じだな、美由希以外」
ま、美由希が気に喰わない理由も理解出来るけどな。
最近は気配消すのが上手くなったのか、察知仕切れてないからな、美由希は。
親父公認で横島の覗きが修行になってる辺り、なのは以外は女扱いしてねーよ、あのヴォケ親父は。
確かに敵が護衛対象の入浴中に襲ってくるってシチュエーションは有り得なくはないんだけどね。
「まあ、横島本人は私に惚れてるのは確かだな」
別に鈍感系主人公ではありませぬ故。
勿論、それに付き合ってやる義務はないが。
というか打算的なんだよな、俺自身の横島と仲良くしている理由が。
商売関係に強くて俺がどんだけ怖がられてても気にせず馴れ馴れしくしてくるトコとか、交友関係が無意味に広くて割と好かれてるトコとか。
俺の為に頑張って修行してるトコなんかねー、割と好感度高いよね、客観的に見たら。
「じゃあなんでバイト断ったりするんですか!」
「涙目にならなくても良かろうに。
単純に高校生のバイトはもう必要ないからだ」
衛宮とアルトリア、俺達三兄妹に横島の六人だ、十分過ぎる。
うちの兄妹は兎も角、衛宮もアルトリアもある意味規格外の優秀さだし、横島は言わずもがなだし。
「むしろ午前中に働けるバイトなら即採用だろう」
役立たずなら即切られるだろうがな。
うちの母はそういうトコは本気で厳しいのだ。
午前中といえば、衛宮が葛木メディアさんを雇ってくれないかと言ってきたがどうなるかね。
旦那が学校行ってる間に花嫁修業として料理覚えたいんだそうだ。
うちの母の判断次第だがどうなるかねぇ。
「じゃあ学校辞めて働きます!」
「よし、まずは落ち着こうじゃないか」
なにこの近視眼的即断即決。
「そもそもなんで転校してきたんだ? 地元の高校で十分だろうに」
風高は別に有名進学校という訳ではないからな。
尤も、割とスポーツも進学率も優秀な部類ではあるが。
「ええと、六道女学院に入学したんですけど」
ああ、あるんだ。
という事はあの式神娘もいるんだ、迷惑な事に。
「占いの得意な子が同級生にいたんですけど」
誰だ? 占いというとネオンしか思いつかないんだが。
「横島さんがここにいるって解ったんです」
何という無意味に積極的に行動力。
「……はあ、ご両親は一体なんて仰ってたのかね?」
「サイポリスのお仕事で転勤しないと駄目だと言ったら納得してくれましたよ」
サイポリス………あ、鬼になる主人公の漫画……だっけ?
俺が――前世で小学校くらいの時の漫画だった気がするんだが……
それは兎も角、この世界の霊能事情ってどうなってんだ?
近所にオレンジ髪の死神代行はいるし、ここで覗き魔してる神咲家の人間もいるし、なのは達の担任はぬーべーだし。
訳分からん。
「それで、どうする? 別段邪魔はせんぞ、横島をどうしようと」
既に電波扱いされてるからまともに対応されるとも思えないがな。
「手伝ってくれないんですか?!」
なにその図々しい思考は。
おキヌちゃんってこんな性格だったっけ?
「手伝ってやる義理はないな、邪魔されないだけ有り難く思え」
ちょっと練して脅すと涙目になって後ずさった。
やはり霊感が強いとオーラに反応しやすいみたいだな。
「で、いつまで出歯亀してるつもりだ?」
くるりと身体を回して出入り口とその天井へ向けて声を掛ける。
「バレテーラ」
ぞろぞろと出てくるらきすた四人と美由希と那美、そして上から降ってきた北川。
お前何してんの? と訊けば上に鈴木先生を連れて行って高い所に昇って喜ばせた後に置き去りにして涙目計画だそうだ。
阿呆か、いや確認せんでも阿呆だった。
何となく流れでその場の全員で異性関係論議をしながら屋上で昼飯を食べましたとさ、階段の屋根の上に鈴木先生を乗せたまま。
北川が腕を広げて飛び降りて来てってなぁ、なんて良い笑顔だ
鈴木先生も子供みたいに泣くし、全くもう……アレで三十路だってんだから親御さん涙目だな。
****
オチが弱い!