そもそも、だ。
人が人を好きになるというのは本能である。
誰を好きになるかはその人のそれまでの人生と、それ以前の肉体的な本能に依るだろう。
しかし男が女を好きになるのも、女が男を好きになるのも本能的な欲求である。
同性愛者というのはその本能を上回る何かがそれまでの人生であったか遺伝子以上のレベルで本能が壊れてるのではないか。
動物ですら同性愛、というか同性同士の性交は認められているし、俺としても別段同性愛を否定するつもりはない。
例えば戦国時代からこっち、男性同士の同性愛は非難される類ではなかった。
現在の同性愛忌避の感情は明治時代に諸外国の影響を受けた事が大きい。
しかしそういう時代であってすら普通は男は女を、女は男を好きになるのが当然であり、社会常識であった。
でなければ社会というより人間という種そのものが維持出来なくなってしまう。
個人的には同性愛は数が増えすぎた人間という種に対する調整だと思っている。
繰り返すが普通は女は男に惹かれるのが当然である。
よく男が女の匂いを良い匂いと称して喜ぶが、同性である女から見れば単なる体臭であり良いも悪いもない、正確に言うと良い匂いであっても興奮とは無縁だ。
そして匂いを感じて本能を刺激されるというのは、ホルモンなどの肉体を維持、構成する要素に依る所が大である。
また視覚的にも女性が性的魅力を感じるのは男の裸であり、男性が性的魅力を感じるのは女の裸であるのが当たり前なのは、肉体的にそのように決められているからだ。
勿論同性として羨ましい、或いは勝ったという感情、可愛いや綺麗と思う感情は否定しないが。
実験動物に女性ホルモンを投入しつづければ雌的な行動を取るように、精神は肉体に支配されている。
そもそも男が女を好きになるのは社会常識や人生観以前に本能なのだから、仮に俺のような阿呆な程有り得ない転生とか憑依とかしても、即座にとは行かないまでもジョジョに、違う徐々に性的嗜好や趣味、或いは立ち振る舞いも変わっていって当然であろう。
前世では俺はゲイでは、同性愛者ではなかったし高町静香も同様だ。
であれば俺が同性愛者に、レズビアンになるという事は有り得ない、つか気持ち悪い、ホモもだけど。
いや他人がどうであろうと口を挟む気はない。
勿論、そうかと言って今すぐ男と付き合うとかいう気にはならんが。
正確にはセックスや性的接触をするつもりもさせるつもりもないが。
なんだかんだ言って横島と遊ぶのは楽しいからな、男友達と遊ぶ方が楽しいのだ。
まあ友達自体少ないけど、口悪いし目付き悪いしで。
うーん、怒りや困惑に任せてつらつらと考えてみたが、やはり纏まりがないな。
何が言いたいかと言うと――
「すまんがお断りする。私はレズではないのでな」
「そんなっ!?」
うん、GW開けそうそう、下級生に告られたのだ、女子生徒だけど。
久しぶりの学校、という程でもないかも知れんが、やはり高校生の今と社会人の昔とでは同じ1週間でも体感する長さが違う気がするぜ。
五月晴れな晴天の屋上に放課後呼び出されて来てみたらこれだ。
勘弁して欲しい、いや男に告白されてもそれはそれで鬱陶しいがなんで女子生徒に、ここは共学校ですよお嬢さん。
まあ女子校がレズの巣窟って訳でもないんだろうけどな。そうであるなら男子校はホモばかりでないとおかしいだろ。
レズにしろホモにしろ、その手の漫画や小説を見かけるたびに、そんなに同性愛を流行らせたいのかと思う俺であった。
って現実逃避してどうする。
うーん、泣きだしそうだ。取り立てて不細工という程でも美人という程でもないが、小柄な割にスタイルの良い、男好きのする体型の彼女。
こういう科白をスタイル抜群な俺が言うのも上から見ているようでなんだかなと思わんでもないが。
「そもそも何故、私が同性愛者だと思ったんだ?」
「北川先輩と仲良いですし、横島先輩の告白とか、その、殴り飛ばしてるじゃないですか。
格好良いなって……」
そんな殴ってるかなぁ? それにしても北川と友達だと同性愛者なら富永とか小林とかみんなレズだろうが。
それとも特別仲良いように見えたか? そこまでべたべたと馴れ合ってるつもりはないんだが。
うーん、解らん。
「北川と仲が良いのは事実だろうが、少なくとも私にそういう趣味はない。
横島に関してはセクハラに対する報復であって別段嫌いという訳ではないからな」
「えー? アレを嫌わないなんておかしいですよ」
ふん、見る目のない女なのだな。
原作ですら結構な女子に密かにモテていたというのに。
まあ目立つのは人外か規格外の女性ばかりだった気もするが。
「まあ良い。私は女性と付き合うつもりはない」
話はそれだけだと一方的に打ち切って屋上を後にする。
全く……何という無駄な時間だ。
屋上から続く階段を下りながらぼやく俺。
どうせならユーノとかエミリオとか閑丸とか、美少年に告白されるなら良いのに。
TSなんて阿呆な事になって数少ない嬉しい事だよなー、美少年を愛でても文句言われないのは。
美少年と美少女は国の宝なのだよ、うむ。
なのは達は深く狭い範囲で付き合うタイプだからなー、つかもっと男友達増やせよと言いたい。
人の事は言えないか。俺も友達多くないしな。
廊下に出て教室へ向かう途中、
「む」
避け――なくても良いか。
「わっ!?」
曲がり角から飛び出てばふっと俺の胸に顔を埋める下級生。
廊下は走るな、よそ見をするな。
まあこの程度の衝撃は喰らってから流す事すら簡単だから怪我などしようはないが。
「おい」
「はっ!?」
がばっと顔を上げて俺から距離を取る下級生。
ちなみに何故解るかと言えばうちの学校は各学年ごとにスカーフの色が違うからである。
「す、すいませんでした先輩!」
「まあ、気をつけてな――それはギターか?」
そう、背中にギターケースを背負ってぶつかってきたのだ、この女子生徒は。
俺じゃなかったら怪我してたかも知れんな、これは。
「はい! 軽音部です!」
「うちに軽音部は無かったような気がするが?」
「作りました! 正確には復活させました!」
昔あったのか? まあどうでも良いか。
「そうか。頑張ってな」
「はい!」
すげー緊張してますって顔で応対されてしまった。
別に取って喰いはしないぞ、全く。
そこで立ちすくんでいる下級生を放って教室へ向かう。
後ろから先ほどの下級生の声と他の人間が騒ぐ声が聞こえたがどうでも良かろう。
というかでかい声で人の名前呼ぶんじゃない、全く。
「おかー。なんだったん?」
「なに、つまらん事さ。とっとと仕事へ行くぞ」
「ういー」
教室に残っていた横島に声をかけて鞄を受け取る。
ちらほらと残るクラスメートを無視して、横島と連れ立って教室を出る。
うーむ、別に文句がある訳ではないがこれでは付き合ってないと言うのが嘘くさいというのは理解出来るな。
かと言ってなー、どうも友達作るの下手みたいだし。
正確に言うと近づいてきてくれないからな、近づけば逃げられるし。
うう、孤独だぜ、嘘だけど。
「そーいや知ってる? 郊外に巨乳専門の服屋が出来るんだって」
まだまだ生徒がそれなりに残っている廊下を歩く。
「……なんだそれは」
経営者は馬鹿なのか?
「会員制で体型とか審査通らないと駄目やってん」
「それは採算が見込めるのか?」
「さあ? 通販とかも展開するみたいだし、金持ちとスタイル良い美人の多いと有名な海鳴なら成功すんじゃね?」
「ふん」
「静香ちゃんもババっぽい下着はいや――あぐっ!?」
「阿呆な事口走るな」
「いきなり殴らんといて」
「黙れ」
後で北川に突っ込まれたのだが、こうやって気軽に横島を殴ってるから近寄りがたいんだと。
そらそうだわな、思い切り納得だわ、くそう。
****
「ユーノ君、フェイトちゃん、明日の予習しよー」
「良いよ、部屋戻ろうか」
「勉強って大変だね」
「外国人のくせに英語苦手って言われちゃうからね」
「大変だな、異世界人も」
「む、ユーノ君とフェイトちゃんの学校生活を聞きたかったんだが」
「あなた、転校生の外国人なんですもの。初日は物珍しさで囃し立てられるだけでしょ」
「そーだねぇ。アルフ助けてとか念話が来る位には大変だったみたいだねぇ」
「骨っこ美味しい?」
「そうなの! みんなユーノ君とフェイトちゃんに群がって大変だったの!」
「まあ、アリサとすずかもフォローしてくれましたし、大丈夫ですよ」
「ユーノ君、フェイトちゃん。なのは達以外の友達も作りましょうね」
「ああ、狭い範囲で付き合うのも良いが、学校行ってる間だけだからな。
損益関係なく幅広い関係を作れるのは」
「たまに分別臭い言い方になるのはなんで?」
「恭也、美由希、忠夫は速く修行に行ってしまえ」
「今日は俺も行こう」
「うへ、師匠が一緒っすか」
「気合い入れないとね、恭ちゃん」
「ああ」
「みんな、怪我しないようにね」
「なのは達も速く勉強終わらせてしまえ」
「はーい。いこー」
「うん」
「うう、英語大変だよ」
ぞろぞろと部屋から出て行く皆。
残った俺と母、そしてアルフの骨っこを囓る音だけが残る。
「そういえば今週末いらっしゃるみたいね、忠夫君のご両親」
「二人一緒に来られるのか、単身赴任だと聞いたが」
テーブルに座り二人で顔付き合わせて食後の紅茶を啜る。
「忠夫の親なんだからさぞ変態なんだろうねぇ」
子犬モードで俺の足下にいるアルフの背中を足で撫でる俺。
うーむ、毛がこそばゆい。
「父親に関しては否定出来んな、ただし敏腕サラリーマンでもあるが。
有能すぎて飛ばされたパターンだからな」
「あら、ご両親の事をそこまで聞いてるなんて。
やっぱり彼のご家族の事は気になるかしら?」
「そういう訳ではないが」
……俺の馬鹿!
ここまで詳しかったらそら興味あっていっぱい訊きましたって受け取られるに決まってるじゃん!
思いっきり失敗したわ!
普通ここまで知らねーわ、よく考えたら。
「まあ良い傾向よね、恭也も忍ちゃんと付き合うようになって丸くなったし」
「人間味が出てきた、というべぎたな」
修行僧の趣きがあったからな、アレは。
「貴女も同じでしょう? それは」
「そうでもない」
そう、俺が俺になったのはついこないだの予期せぬ阿呆なイベントのせいであって、横島のせいではない。
が、横島のせいでもタイミング的にはおかしくないんだよな、客観的に見ると。
というかあの朴念仁の修行狂いと同じように見られていたのか、ショックだ。
いや俺に、今の高町静香になる前なんだろうけどさ。
「まあ良いわ。先にお風呂戴くわね」
「ああ」
含み笑いムカツク!
しかし今は言い返せばそれだけ自分に跳ね返ってくるし耐えるしかない。
あれだけやかましかった居間が今はアルフの骨っこを囓る音しか響いていない。
「まー嫌な奴じゃないけど、格好良くはないよねぇ。やっぱりザフィーラみたいにがっちりしてないと」
「お前の男の趣味はよく分かった」
ぐりぐりと背中を足で撫でてやる。
きっとこいつは上腕二頭筋がどうのとか言う奴なのだな、きっと。
最近は意外と締まってきてるんだけどな、横島も。
あの修行馬鹿どもの修行は並じゃないからな。
「そーいや美由希はつがいはいないのかい?」
「本人に言うなよそれ」
うちの兄妹揃って恋人がいると想われてるのか、美由希以外。
俺だって別に横島だのアキラだのと付き合ってる訳ではないんだが、口には出すまい。
****
「では授業を始めちゃったりしますの」
相変わらず日本語がバグってるな、ラミア先生は。
この世界じゃ人造人間って訳でもないんだと思うんだが、そうでもないんだろうか。
うぐぅっとか言うキャラ付けする痛い人なんだろうか。
ちなみに担当は英語だ、姉貴分に当たるヴィレッタ先生と同じ。
エクセレン先生と三人、ハイスクール時代からの義姉妹らしい。スールとか言う奴か?
なんで日本来たのかね? エクセレン先生はまあ男――南部先生を追っかけてきたでも納得出来るが。
退屈な英語の授業を聞き流しながらくそったれな程青い空を眺める。
英語で喧嘩オッケーなサラリーマンな俺の知識を持ってすれば学校の英語など聞き流してすら満点は固い。
数学や科学・化学などの方がよほど面倒だな、公式だの覚えてなきゃ何も出来んし。
ああ、今日はこの後体育だ。胸が無駄に揺れるバレーだ。
つーか胸が邪魔でレシーブの形を作りづらいとか阿呆か。
そしておっぱいを机の上に乗せるよう腰をずらして背を丸める。
とても楽である。はああと思わずため息が出る程。
巨乳でも爆乳でもなんでも良いけど自分がなるもんじゃねぇなぁ。
GWが空けて、暫くすれば梅雨、そしてプール開きか……
はぁぁぁ……
前世では好きだったんだけどなー、スキューバとかもう一度行きたいと思ううちに死んでしまったようだが、水の中というのぱ良い。
良いがなー、この『女という性別』がなー。
じろじろ見られるの必至だわハミ乳ハミ尻に気をつけないと行けないし。
………というかスク水着られるのか? バランス良くない程度には胸が大きすぎるんだが……
後で北川に相談するか。
あいつは見られるって事に嫌悪はあんまなさそうだなー、男はカボチャってノリなのか告白する奴もいるらしいが全て玉砕だし。
同性愛なんてキモいだけだと思うんだけどねぇ、他人に強要するつもりはないが。
あーそーいや今週末はグレートマザー来襲だった、メンドイ。
敵対されるのも認知されるのも面倒だ嫌だ。
逃げたら追ってきそうだしな、逃げても仕方ないが。
そういや『両親』が来るんだっけ、大樹? だったっけ、にセクハラされんよう気をつけねば、主に横島の父親の命の心配的な意味で。
横島本人は親父も恭也もそれなりに認めてるから良いけど、その父親が俺にセクハラなんぞしたらアレだ、修羅が顕現するわ、海鳴受胎してしまう。
まあその前に両方の母親が鬼になりそうだが。
しっかし本人も色んな意味で規格外だが、両親もなぁ。
特に父親だ、原作じゃ普通に令子にモーションかけてさ、息子より年上とは言え殆ど娘みたいな年なのにね。
俺だったら考えられんわ、息子と雇い主の関係が壊れるとか全然考えないんだもんねぇ。
ま、ギャグ漫画というかコメディというかそういうのだったからだろうけど。
あのおっさんで印象に残ってるのはアスタロトの宇宙改竄機で再生悪魔いっぱいの時に百合子かばって傷だらけになってた一コマなんだよなー、そういうトコは親子なんだなと妙に印象に残ってる。
などとボーっと外を見てたら当てられてしまった。
尤もバイリンガルに英訳も英作も問題がある訳ではない、ささっと答えてまた空を見る。
校庭ではサッカーを体育の授業でやっている。
静岡だからでもなかろうが割とレベルは高いようだ。
っと。
紙縒が隣の横島から渡された、てか机の上に置かれた。
視線を送ると恭也の前に座る忍かららしい。
――なにしてんの?
放っとけ。
再び空を見る。背中の方、少し距離の開いたトコから恭也の苦笑する気配。
イタリア語でも習おうかなぁ。海外修行はやはり心惹かれるよなぁ…パティシエとして箔が付くし。
まー箔と言えば東京の帝国ホテルのパティシエ長も凄い箔だよな、うちの母親だけど。
ついでに一年で辞めたけど。最年少かつ最短記録だそうだ。
しかしま、学生ってのは幸せな身分だな。
決してブラックって訳ではないが死ぬ程忙しかった前世の死ぬ間際を思えば、バイト程度に放課後を拘束されるのなんぞ気楽なもんだわ。
なんせ貯金を使う暇がなかったからなぁ……ああ、死んだ後のお金はどうなってしまったのか。
どうにもなりはしないのは解ってるけどね。
あー、免許取り直し――もとい、免許取らないとな。
前世はMTで取ったけど、ATでも良いよなぁ、前世の教習所以外でMTを一度も触ってないし。
電気自動車も良いなぁ、後ろにライキ乗せておけばバッテリー切れはなさそうだ。
恭也も免許は必要だろうし誘ってみるかね、幸いな事に俺の貯金もその程度はあるし、年齢も19歳なら問題ない。
ついでに月村に電気自動車でも作らせるかね?
なんつうかなのはもそうだが、金持ちな兄妹だな、うちは。その割に質素だけど。
あ、授業が終わった。
やれやれ、次は体育か。
****
「シャワー浴びたい」
「あるわけないでしょ」
ウェットティッシュで脇やら乳房の下やら谷間やら、汗の溜まる場所を拭う俺と忍。
忍は自分から人を遠ざけてるのは解るが何故俺まで遠巻きにされねばならんのだ。
目付き鋭いからって差別はいかんぞ、全く。
それなりに広い更衣室でそれぞれ制汗剤だの何だのと使う為異様な匂いが漂ってる。
しかし窓開けたら流石に怒られるだろうなぁ……
部活用にはシャワールームあるんだが、体育の授業には解放されないのだ、時間的な意味で。
そんな事を思いつつ運動用のがっちがっちに固めるブラを外す。
ぽにょんっと圧迫から解放された胸が揺れて、空気に触れた開放感が心地よい。
運動する時はコレ付けてないとマジで痛いからなぁ……全く。
「次は昼飯か」
普通のブラを付けて胸を押し込みつつ、忍とだべる。
ハミ乳がなー、かと言って機能性だけ優先するとババ臭いのしかないし。
「その口の悪いの直したら? 恭也も嘆いてたわよ」
「考えておこう」
こちらも汗を拭き終わったのか、ウェットティッシュを片付けて制服を着始める。
周りをちらりと見渡せば概ね着替え終わったようだ。
しかしま、女なんて男の見てないトコじゃアレだってのがよく解る光景だこと。
異性の同性愛に幻想を抱くのはなんなんだろうねぇ。
「今日のお昼ご飯は何かなー」
「たまには自分で作れ、全く」
ちゃんと忍からは弁当代ももらってるし横島は給料から差っ引いてるので問題ないのは確かなのだが。
恭也と忍の二人前、横島、俺、美由希の分、そしてなのはとフェイト、ユーノの分と朝は大忙しなのだ。
まあ要領良くやれば大した手間ではない、特になのはとフェイトが手伝ってくれるようになったし。
どうもユーノの弁当に自分の作ったおかずを入れたくて仕方ないようだ。
ちなみに恭也と忍、なのは達三人はおかずが一緒、ごはんが人数分というもはや夫婦かというお弁当だ。
もはや何も言うまい。何という独占欲。
忍は兎も角、なのは達には一言言う必要がありそうだ。
あまり独占欲が強いと男は鬱陶しがるからな、ソースは俺。
「さ、行こう」
「うむ」
スカートのホックを止めて、体操着入れを引っかけ更衣室を後にする。
教室で忍と別れて昼時の雑然とした廊下を渡り隣の隣、北川の教室へ。つまり鈴木先生の教室へ入る。
「あら」
「おう」
シュタっと手を挙げ、北川の隣の席に座っていたチャラいのを睨むと快く席を譲ってくれた。
「こ、こんにちわ高町さん」
「――こんにちわ、鈴木先生」
マジで気付かなかった。
ちょうど入ってきた扉からだと北川の体越しで見えなかったんだな。
「飯喰おう」
「あら、高町のお弁当をご相伴頂けるのね」
綺麗に笑う北川。これでレズじゃなきゃなぁ……
まあ別に俺が対象というわけでもないから良いんだが。
「先生もどうぞ」
「あ、そんなあたし――」
「あ?」
はっきり言えはっきり。
「すいません! 頂きますぅっ!」
「あんまり先生脅しちゃ駄目よ?」
「別に脅してない」
目が思いっきり良いモノ見たって感じで言われてもな。
子犬のようなおびえ方をされても、こっちが困る。
普通にしてるだけなのに怯えられるとかもうね。
まあそれを狙って北川は呼んだんだろうが。
通称ミカクラスの連中もそれなりにこっちをちらちら見てるが、気にもしてないのは末武だけだな。
眼鏡の何とか(名前忘れたというか多分知らん)は別の意味で気にしてるようだが。アレは漫画用紙か?
「そういえば先ほど聞いたのだが」
逃げ出しそうな雰囲気の鈴木先生の前にずらっと北川に依頼された弁当三人前を広げる。
おおっと先ほどとは一変して視線を食い付かせる鈴木先生。
「何を?」
弁当を広げるのを手伝いつつ相づち打つ北川。
「郊外に巨乳専用の服屋が出来るらしいぞ」
「……便利になるのは否定しないけど、儲かるのかしらね?」
「横島の話じゃ採算取れる程度には儲かるらしいがな」
あいつの商才は親譲りだからな。
「いただきます――先生もどうぞ」
「いただきます!」
餌を与えられてない子犬のような勢いで食べ始める先生を、恍惚の表情で見とれている北川。
「開店したら一緒に行こうか」
「ええ、良いわよ。ミカ先生も一緒にね♪」
「ええ?!」
本当に好きなんだなぁ……よく解らんわ、ホント。
遠巻きにしている連中が何か言っていたのでそっちを向いて殺気を飛ばす。
ひっと悲鳴を上げて黙ったのを見てから弁当に向き合うと、北川が苦笑していた。
「大人げないわね」
「大人ではないんでな」
まだ19歳ですから。
「美味しい!」
「ほら、ミカ先生。ほっぺにご飯ついてますよ」
嬉々としてご飯を取って食べる北川。
……ちっとも心躍らんな、やはりレズは駄目だ。
他人がやる分には構わんが。
……いかんな、告白なんぞされたせいか思考がそればかりだ。
それにしても先ほどまで笑える程ビビってた先生が飯を食べ始めると、何という幸せな笑み。
北川じゃないがこれは可愛いと思えるな、三十路だけど。
なのは達に同級生扱いされるけど。
ま、料理人としては光栄と言ったところか。
****
「転校生だと?」
「そ。うちのクラスにねー」
美由希と一緒に柔軟。
週に二度位はこうして夜間訓練に俺も参加する。
運動不足は駄目だ、せっかくスタイルも良いのだしな。
側で腹筋したり背筋しようとしたりするライキの可愛さよ。
「女の子なんだけどね、名前がちっと古風なんだ」
体を伸ばしながら、世間話。
恭也と横島は奧の方でバチバチやりあってる。
実力的にはまだまだだが、意表を突くのが兎に角上手いので恭也も気が抜けないらしい。
「ふむ?」
「氷室キヌって言う子。横島先輩の事訊かれたけど、静ちゃんの事も話したよ」
――なん、だと?
****
ルシオラだと思った? 残念っ! おキヌちゃんでしたっ!!
まあ、ライバルになれるかどうか……
原作でも良いトコまで行ったのにルシオラに出番喰われてフェードアウトな印象ですからねぇ。
とは言え幽霊になった後も一緒にいる位縁は強いんでしょうが。
次はグレートマザー登場です、多分。
余計な電波を受信しなければ……