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「こんなのってないよー(棒)」
「何が?」
「お約束という奴だ」
まあ光ちゃんランド(命名:○錯)に行こうとは思ってないけど。
というわけで東京タワー、カフェテリアである。
まあ別段騒ぐ程旨くもなし不味くもなし。
ただポケモン――ピンクの悪魔ラッキーとハピナスが店員やってる事位か。
金銀時代からこっち本当にアレなポケモンだったなぁ…現実なこの世界じゃどうか知らんが。
「ランティス、こっちだよ」
「ああ」
うーん…この世界やっぱおかしいわ、うん。
お下げの女子中学生? 高校生か? が、明らかに2m近くある長身の男の腕に、ぶら下がるかのように腕組んで歩いていた。
「でけー…」
「アレと並んで歩けば私でも小柄に見えそうだな」
「むっ」
横島が唸るが無視無視。
俺は女のくせに身長175㎝もあるからなー、別段コンプレックスなど持ち合わせていないが、それでもねぇ。
しかしまあ、相変わらず呼吸と同じ位自然に『誰か』とすれ違う世界だよ、全く。
「カップルか家族連ればっかっすねー」
「独りでここに来ても楽しくなかろうよ」
まあ基本的には景色楽しむだけだしな。
あ、プテラが外飛んでる。
ん? プテラって化石からの復元だよな、普通は。
まあもしかしたらレッドさんが繁殖成功させただけかも知れんが。
古代ポケモンも一般人にゃ伝説並の遭遇率な気がするが、どうなんだろうな。
「しかしまあ、凄い光景っすよね、ビル乱立の中、トキワの森だけは鬱蒼と茂って」
「まあな」
元の世界だと神宮の森がトキワの森に当たる。
あそこはピカチュウとかいるんだろうか。
「ポケセンは凄かったっすねー、ポケモンだらけで」
「なのは達と来れば良かったな、アレは」
ポケセンの周囲何百mだか知らんがポケモンを外に出してて良いスペースらしく、野良試合とかやってる奴もいた。
イーブイ初めて見たけど可愛いなアレは。
エーフィとか可愛いんだろうなぁ…ブースターはカワイソスなんだろうか…
見た目だけなら一番好きなんだけどな、暖かそうだし。
新作じゃもう少し優遇されたんだろうか、前世の地球に残した未練。
「そーいやポケモン増やさないんすか?」
やたらと懐かれた店員のラッキーの頭を撫でながら、横島。
雌のみだっけ、ラッキーとかは。
「増やすつもりはあるがね」
帰りはマサラ町によるつもりだし。
「む。またメールか」
「ポケモン喫茶とやらで飯を食ってるらしい」
「ここと似たようなもんすかね」
「ルカリオとかラルトス、キルリアみたいな比較的人間に近い体型のポケモンがメインみたいだな」
ほれ、と送られてきた写真を見せる。
「なのはちゃん達楽しそうっすね」
「ふむ」
パシャっと横島とラッキーを写してメール、と。
「まあアレだな、なのは達が楽しんでくれてればそれで良いんだが。
帰った後どれだけ修羅場っているかね…」
今年も海鳴に向かう観光客は右肩上がりだからな、緩いけど。
うちはどれだけ混雑してるやら。
「後で考えましょーよ、そういう事は」
「トキワの森でも行ってみるか」
「ういういー」
最後の一口を呷り、私たちは席を立つ。
どーでも良いけど、仕事しろよラッキーども。
いや子供と戯れるのも仕事のうちなのか?
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「すげぇ…」
「ああ…」
今、トキワの森にいる。
当然というか何というか一般人立ち入り許可区域だが。
よく考えてみましょう、ポケモンと対話し心を通じ、癒し、そして能力を引き出し増幅させる事が出来る「トキワの子供」が生まれてくるような場所である。
この世界のワタルが悪役かどうか知らんが、サカキは間違いなく悪役だろう、ロケット団のボスだし。
イエローはまだしも、その二人が力を持てた原因であると言える場所。
俺がポケモン協会の責任者なら間違いなく一般人を入れるなんて真似せんわ。
まあ一部でも開放されてるのは有りがたいけどね。
そういやシルバーはサカキと仲直り出来たのかねぇ?
「なんつーか、神社とかお寺とか…そんな感じっすね」
「ああ、神聖なんて言葉がチープに感じる程にな」
この感覚は、良いな。
自分より遙かに大きいモノに包まれているような錯覚すら覚える。
そして涼しい。
周りが木々で覆われ空も薄暗く翳る程だからか、五月にしては暑い陽気だった東京とは思えない程、快適に涼しい。
てくてくと歩いていると、バタフリーが目の前を横切って行った。
「でけー」
「あのサイズだとちとビビるな、流石に」
慣れれば、まあポケモンだし、平気なんだろうが。
「ライキの親戚っぽいのも見えるね、隠れてるけど」
「あいつらは基本警戒心の塊だからな」
そのくせ都市部に遊びに来ては悪戯するという。
可愛いというのは得である。
ポンっとライキを外に出す。
「らぁい」
「ピカ!」
流石同族。横島の背中に負ぶさったライキの声にわらわらと出てくるピカチュウども。
何処から湧いたんだ――大体10匹ほどか。
横島と二人木陰に寄ると、わらわらとカルガモの親子のように後ろからついてくるピカチュウ。
なにこれ可愛い。
手頃な大木に背を預けて座ると、
「やめっ! 嘗める噛むな!」
ピカチュウの群れに集られる横島に、ピカチュウ数匹と寝転がったり頬擦り合ったりするライキ。
何という桃源郷、まさになにこれ可愛い。
おおう、胡座かいた俺の膝上にピカチュウが。
あ、こら。俺のポニーで遊ぶな。
「ピカ!」
ドヤ顔かそれは。なんだそのしてやったりみたいな顔は。
というか旨くないだろ髪の毛は、噛むな。
俺達は忍に作らせた特製の対静電気対策の服を着てるから平気だが、これ普通にしてたら相当痛いんだろうなぁ。
しかし可愛い。
頭を撫でて顎を掻いて尻尾の付け根を掻いて。
気持ちよさそうに目を細めるとかもうね。
パシャ
「撮る時は一言言え」
「いや自然体が一番っすよ」
横島のデジカメは耐電仕様らしい、月村重工パネェ。
と言うかよくあんだけ趣味に金注ぎ込めるよな、全く。
「らぁい!」「ピカ!」
「おおう!?」
ライキにのしかかられ更にピカチュウどもに追撃され押し倒される横島。
電気ネズミの山の下からデジカメをひったくって写してやる。
うむ、ピカチュウの貴重な生態を明らかにしたぞ。
見渡せばのそのそとキャタピーが這っていたりコクーンがぶら下がってたり。
ポケモンだらけだ、全く。
それらをゲットしにきたトレーナーもちらほらいるが、流石珍しいのかガン見したりひそひそと語り合っていた。
流石に話しかけてくる程度胸もないようだが、確かに珍しい光景には違いない。
「どけー!」
「おお、ピカの山が吹き飛んだ」
勢いよく起き上がった横島に、その上から転がり落ちるピカ達。
起き上がる前にライキが俺の方へ移動していたので、横島は起き上がる事が出来たのだ、重いからな。
まあピカチュウも大概だが。平均6㎏だからな。
明らかにポケモンは体重設定がおかしいわ、ホエルオーとか張りぼてか中身って感じだし。
「ピカ」「ピカ」「ピカ」「ピカ」
「ピカチュウは警戒心の強いポケモンなハズなんだがな」
横島登り選手権と言わんばかりにピカチュウ達が横島の身体にくっついていく。
フェロモンでも出してるんじゃね? 動物限定で。
「ちっと離れろっ」
ちぎっては投げちぎっては投げ。
だが遊びだと思ってるのか楽しそうに投げ飛ばされては空中で姿勢制御し着地し、横島に駆け寄ってくるピカチュウ。
「らぁい」
ライキも可愛いなぁ。頭を撫でてやる。
なんでポケモンがいる地方といない地方があるんだ、不公平な話だ、全く。
「そろそろなのは達と合流するぞ」
写メ送ったり送られたり返信したりされたりしつつ、小一時間ほどピカチュウ達と戯れていたが流石にそろそろな。
「うーっす…」
「お疲れだな」
笑ってやる。
随分懐かれたせいで、ピカチュウの毛だらけだった、俺も横島も。
森を出る為歩き始めた俺ら、の後ろを並んで歩くピカチュウ達。
「ライキ、ちょっと説得しろ。いくら何でも連れていけない」
「らぁい」
横島の背中が気に入ったのか、ずっと負ぶさってたライキが降りてピカチュウ達を説得し始めた。
少し距離を取り足を止め、ウェストポーチからコロコロ(粘着シートのアレ)のちっちゃいのを取り出し、服の上をコロコロする。
動物飼ってたら当たり前の用意だよな、うむ。
「デッパイの上を下をコロコロコロコロ…!」
「やかましい」
俺がマッサージローラーで胸揉んでるみたいだろうがそれじゃ!
まあ俺くらいでかいと普通にへこんだり変形したりするけどな、コロコロ押し付ければっ!
「おまえには貸してやらん」
「ひどっ?!」
横島の方が遙かに毛だらけだからな、ざまぁ。
髪の毛に絡んだのは櫛通さないとな…やれやれ。
よっと。
ポニーの後ろ毛を前に持ってきて、ブラシをかける。
こういうさ、ブラシだのウェットティッシュだの持ち歩くのって女の子っぽいよなぁ。
てぃもてーてぃもてーって昔アニメでこなたがやってたような。
まあそんな感じでブラシをかけてピカチュウ達の毛を外していく。
「忠夫、背中の毛を取ってくれ」
「うい」
コロコロと背中の毛を取らせる。
ちょっとこそばゆいがマッサージって程じゃないよな。
む、頼みもしないのに腰から尻まで――
「誰が尻に頬寄せろと言った」
「この尻がいかんのや! 俺を誘ってるんやぁ!」
叫びながら腰に手を回し尻に頬ずりする横島。
がすっ
拳を落とす。
「ってーっ!」
直接手を出してくるセクハラは久しぶりだから油断してしまったな、全く。
「らぁい!」
説得が終わったのかライキが飛びかかって抱きついてきた。
それを受け止めて、頭を一撫で。
「分かってくれたか?」
「らい!」
頷くライキに一列になって寂しそうな顔――なんだと思う――をするピカチュウ達。
可愛いがこればかりはな…
「また来る」
「らぁい!」
手を挙げ挨拶。ぴかぴか大合唱を背中に、俺達はトキワの森を後にしたのであった。
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東京来たらアメ横で買い物しないとなぁ?
買うかどうかは兎も角、この混雑具合が良い。
人混みって結構好きなんだな、俺は。
そろそろ動物園からなのは達が出てくる頃なので、先んじてウィンドーショッピングに興じている訳だ。
「静香ちゃん歩くの速っ!」
お前が遅いだけだ。
俺は円で人混みの流れを読んで隙間を縫うように歩いているから速いのは当然だが。
うん、円は便利だな。こんな使い方する奴は俺くらいかも知れないが。
仕方ないので、魚屋の前で足を止める。
うーん、旨そうだ。肉も良いけど魚も良い。
好き嫌いする奴は人生損してるね、全く。
「ねーちゃん、良いタコあるよタコ!」
威勢の良い濁声。
確かに旨そうなタコだが、流石に生ものを買うのはな。
「カレイも旨いぜ、ねーちゃんは美人だから大負けしちゃうよ!」
「有り難いが旅行客なのでな。生ものは無理だ」
美人てな得だね、全く。
「人大杉」
「遅いわ」
俺の側までやってきて一息吐く横島。
「おお兄ちゃん、美人な彼女捕まえたじゃねーか」
「いやいやそれほどでも!」
「彼女じゃないし彼氏でもないな」
「酷っ!」
「ほら、行くぞ」
店先で値引き交渉とかするのも楽しいけど仕方ないな。
チョコレート1000円の店とかなら買っても良いかな。
後はケバブでも久しぶりに喰うかなー、こんな事になってから食べてないし。
海鳴にもケバブ屋出来ないかね? 好きなんだけどな、ヨーグルトソース。
砂漠の虎は任せろーバリバリ。
よく分からん電波を受信したようだ、なんだっけ虎って?
「む」
「はぐれるといけないからねっ!」
鼻息荒く俺の手を握ってきた横島。
こいつはスカート捲る度胸はある癖にこういう事する度胸はない奴だと思ってたんだが。
まあ手を繋ぐ位良いか。
俺も昔は恋人でもない友人の女性と手を繋いで街を歩いたもんだ。
振り払われないかドキドキなのだろう、顔を赤くしてこっちを見ている横島。
ガキだなぁ。
たかが手を繋ぐ位にな。
「行くぞ」
「うっす!」
やれやれ。
尻尾が幻視できる程喜んでるわ。
これ位普通だと思うんだけどな、別に嫌いな相手でもないんだから。
あー、年代的に高校生と30代じゃ感覚違うのかも? 俺が男だった頃は30半ばだったしな。
「ケバブ買うぞ」
まあそんな風に手を繋いで雑踏をかき分けて。
ケバブ喰ったりアイス喰ったりパイナップル食ったりチョコレート買ったり服にアクセ見て回ったりして、なのは達と合流したのであった。
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ポケモンは四国地方や東北地方その他をやってからイッシュ地方やるべきだったと思いませんか。
あと分量的にどうでしょうかね、短い? 長い?