「ホントにこんなトコに泊まれるの? カーメンマン」
「マジだって」
横島と玄関付近の土産物屋を冷やかしていたら、聞き覚えのある名前、というか声。
思わず振り向くとミイラとジェイソンっぽいのとうさぎのぬいぐるみが受付で手続きしていた。
…フロシャイム海鳴支部ってあるのか? もしかして。
「はー、静香ちゃん怪人っすよ怪人。海鳴じゃ珍しいっすね」
海鳴じゃって事は日本全国普通に存在する訳かあいつら。という事はサンレッドとかサキューンとかアバシリンとかもいる訳か。
どうせいるならゴルゴムとRXにして欲しかったがあいつらはマジでヤバいので(今更と言えば今更だが)いなくてもいいや。
「俺が小学校の頃大阪に住んでたんすけど、ヤスシーンとかロッキーマンとか結構いましたよ、色々と」
その名前は色々ヤバいんじゃないのか。
「海鳴にはいないのは何故だ?」
「さあ?」
怪人が住むには危険な街とかか。まあ分からんでもないが。
しかしその割には普通に温泉に来てるとかよく分からんな、まああれらは原作からしてよく考えると訳分からん設定だったが。
しかしアレだな。ぬいぐるみが普通に怪人と一緒に動いてる姿を見ると実にシュールだ、こんな世界では本当に今更だが。
「まあ良い。ぶらつくか。近くに足湯が湧く川があるらしい」
「了解っす」
あいつらは本当に悪事とはほど遠い悪の組織だからなぁ。
****
「足湯もなかなか気持ちが良い」
「そーっすね」
と言いつつ胸元に視線釘付けなのは…もういいや。熱くなってきたから一つ上脱いでキャミソールだけな俺も悪いんだし。
俺の巨乳でキャミ着ると凄いぞー薄着だとバーンって感じ。いや何のことだか分かりませんが。
そして胸の下、臍の上辺りがすーすーするんだよね、裾を仕舞いきれなくて。無理に仕舞うと伸びるし。旅行から帰ったら服を大量購入するかなぁ等という事は兎も角、俺も前世じゃ巨乳には釘付けだった事だし、見るくらいは許してやるから鼻の下を伸ばすなみっともない。
しかし見る側から見られる側にシフトチェンジとかどんなギャグだ全く。
「らぁい」
足湯に身体全体浸すように仰向けで寝てるライキ。気持ち良いのは良いんだがこれはどうなんだろうな公序良俗的には。
温泉に猿が入るのは認められてるんだからポケモンも有りなのか? そもそも「足湯」というカテゴリー付けだって人間が勝手に決めたもんだしなぁ。
とりあえず俺ら以外が来たらボールに仕舞えは良いか。
川の一部を石で囲ってるだけあって動物が入る分には誰にも文句言われなさそうだしな。
感電に対しては十分気をつけないといけないが。
「少しは強くなったか?」
「全然強くなった気しないっす。恭也はおろかなのはちゃんにも負けてますよ、俺」
「なのはのは魔法だからな、文字通りの意味で土俵が違う」
「でも徹は教えてもらったっすよ。なかなか上手く出来ないけど」
「ふむ」
やっぱ才能あるんじゃねーか。
もう徹とかどんな冗談だ。
「あと飛針は兎も角、鋼糸は結構上手く使えるっぽい」
「鋼糸の方が扱い難しいと思うんだがな」
「どうも威力が出すのが難しくて、飛針は」
「ライライ!」
がばっと跳ね起き、大きく天を仰ぎ耳を立てるライキ。
同時に俺が勢いよくバックステップで足湯から抜け、横島がびりびりと痺れる。ライチュウが臨戦態勢に入ると空気中の静電気を吸収して電気をため込むのだよ。
「ぎゃあ!」
叫びながら転げる馬鹿は置いておいて空を見上げると、真っ白いハングライダーが落ちてくる!
ってよく見るとアレは――シルクハットにタキシードが真っ白、モノクルだと!?
そーいやルパン三世もいるらしいねこの世界! あれは間違いなくアレだろうけど!
黍団子を放りライキが食べると同時に練!
「チートブースト黍団子」
素早さも跳ね上がってるライキの行動は、その全身が光り輝いてる事もあってまさに電光石火!
同時に試作品のフワライド人形三匹に周!
世界で一番お姫様(でアレを撃墜した奴の出方を探る! ひゅんっとフワライドらしからぬ速度でハングライダーの飛んできた方向へ飛ぶフワライド人形。
「ライキ! 身代わり!」
「ライ!」
念で出来た人形のような『身代わり』が四つ足で大地を蹴って前方十数m先に墜落せんとするハングライダーを受け止め――
「電磁浮遊!」
「ライ!」
飛び上がりハングライダーの搭乗者――キッドを受け止めると、そのまま『身代わり』が浮遊し勢いを殺す!
そして同時に俺の側でふよふよと宙に浮かぶライキ。尻尾をプロペラ回転する事でゆっくりと動く事が可能らしい、高速移動する時はリニアの如く電磁力を操作してかっ飛ぶように動けるらしいが、浮遊中でも。
まあゲームのように浮いてる時と浮いてない時とで全く同じ行動が出来る訳ではないという事か。
勢いを殺し切ったらハングライダーの装着ベルトを全て『身代わり』の尻尾から放つアイアンテールでぶった切ると、どさりとハングライダーが河原へ落ちた。
「そのまま連れてこい!」
「ライ!」
それこそあっという間に宙を滑るようにキッドを運んでくる『身代わり』。
俺の目の前で止まり『身代わり』が消えると、とさっとキッドの身体が河原に落ちる。
足切れかかってますな、これ。そのせいだろうが意識も失ってる。
何という非現実感溢れる光景。キツく縛ってるせいか出血は殆どないけど、これそうとう上手く縛ってる、のか?
そして俺を扇の要にセンター、ライト、レフト方向へ200m程まで飛ばしたが動植物以外反応なし。川を隔てた向こう側の森の方から飛んできたんだと思うんだが…
「うわ!? 何すかこれ!!」
驚くのは分かるが隣のクラスの奴だぞ、とは言わんでおく。
あーもー仕方ない。
「ライキ、喰わせろ!」
練状態で俺が近づくと精孔開いちゃうかも知らんからね、ライキに黍団子を投げ、ぷっくりお手々(ただし発光している)で器用に受け取るとそのまま手ごと食べろと言わんばかりに、ライキの手が黍団子を口に突っ込む。
「チートブースト黍団子(」
横島の前で見せるのもなぁ、とは思うが仕方ない。
キッド――黒羽快斗の身体が練状態になるのと同時にもう一つライキに黍団子を放る。
そしてもう一度口に手を突っ込むように食べさせるライキ。どうでもいいけど直径2㎝ほどの黍団子を丸呑みってのもなかなか難儀な気がする。大きさ方が纏まりやすい作りやすいからなんだが、こういう時は小さい方が良いかもな。
「おおお!?」
横島が驚いてるがそれも当然か。切れかけてた足が繋がったんだからな。
練を解くと同時にライキとキッドの状態も元に戻る。
「ライキ、騒ぐ!」
「ライライ♪ ラーイ♪」
俺ですら思わず耳をふさぐ程大音量で『騒ぐ』ライキ! てかマジ五月蠅い!
「のぉぉぉ!?」
耳を押さえて叫ぶ横島、だが気にしない!
「――っっ!?」
余りの五月蠅さに跳ね起き、俺達の姿を見るや大きく跳躍するキッド。
起きると同時にライキをボールに戻す俺。ポケモンは騒ぎ始めると数分騒ぎ続けるからな。
一度ボールに戻せば落ち着くらしい。
元々、ボールに入るのは生命危機に陥った時の緊急避難なんだってな、ポケモンの生態研究者が手違いでポケモンを瀕死に近い状態にしてしまった時、たまたま側にあった箱だかにちっちゃくなって入ったのがポケットモンスターの名前の由来だとかなんとか。だからか大概のポケモンはボールに収めてしまえば大人しくなるんだよね。
「怪我なら治しておいた、速く逃げるんだな、キッド」
「え!? こいつが怪盗キッド?!」
横島気付いてなかったんかい。
「ハングライダー自体は壊れてなさそうだからな、飛ばしてやる」
あ、世界で一番お姫様(に反応あり。人、なのかこれは? 明らかに3mはある人型とその肩に座る子供、だろうな。
やけにゆっくり歩いてるな、尤も歩幅がでかいから遅いって訳でもないんだが。
まあ片足千切れかけててあんなので飛び上がったからって逃げ切れるもんでもないって分かってるって事か。実際、気絶して落ちたみたいだしな、ハングライダー自体は特に損傷ないみたいだし。
「追っ手が迫ってるぞ、早くしろ。ライキ!」
もう一度ボールから出し、ハングライダーを取りに行かせる。
「ライ!」
たたっと四つ足で走るライキ。可愛いのぅ、こんな時だが。
「え、捕まえないんすか?!」
そういや犯罪者だっけ、キッドは。
まあそんな事はどうでもいい。と、念弾をふよふよとキッドの前へ飛ばす。
「知り合いなんでな、怪我人でもあるし捕まえる気はない」
「っ!――失礼、美しいお嬢さん。
貴方の言う通り追われているのです。お礼もせずに消える事、心苦しく思いますが――ではっ!」
ぽんっと煙玉がはじけたかと思うとその場から消えるキッド。すげぇ、とっさに目に凝をした俺でもどうやって消えたか分からなかったぜ。
「ライキ、戻ってこい」
軽々とハングライダーを頭の上に担いだライキが、ぽいっとハングライダーを投げ捨て戻ってくる。
アレ、誰が処理するんだろうな? 俺は知らんぞ。
「けっ、きざな奴」
横島の一番嫌いそうなタイプだよな、特にキッド状態の快斗って。まあ幼なじみの彼女持ちってだけで横島としては不倶戴天なんだろうが。
まあ兎も角、 『念能力者ではない対象が、この能力(チートブースト黍団子()によって念に目覚める事はない』という事はほぼ確定だな。
文字通り目の前を念弾がちらちら飛んでて視線すら動かないとか、目覚めたばかりならまずあり得ん。
制約掛けた時はすっかり忘れてたんだよね、『非念能力者に黍団子喰わせた場合』の事。まあ無意識にでも『むやみに念能力者を増やすべきではない』と考えたんだろうけどな、俺的に。
「しっかしキッドがなんでこんなトコに落ちてきたんや?」
「それはこれから来る追っ手が説明してくれるだろうよ」
そろそろ川向こうの森から姿を現すころだ。
もう調べる必要もないので大きく迂回させるようにフワライド人形たちを戻るよう操作する。
「追っ手?」
「盗みに入って成功したのか失敗したのかは兎も角、警備に反撃されたからああなったんだろうさ
――兎も角…足湯という気分でもなくなったな」
「っすね」
「らぁい」
ライキも良い気分だったのを害されたのが残念そうに口元に手をやる。
そしてライキが身体をぶるぶると震わせて水を払った時、川向こうの森から姿を現したのは――
「あら、なのはのお姉様だったかしら? 御機嫌よう」
川のこちら側からあちら側まで十数mあり、しかもあちらは土手の先がそのまま森になっているような高さ、対してこちらは川辺である。自然見上げるような形で、その少女を見やる。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。なのはの同級生で――恐らく腰掛けてる巨大な物体、バーサーカーのマスターであろう少女。
そーかー…こんなのに迎撃されてよく生きてたな、怪盗キッド。流石だぜ。