「茶々丸ちゃん、今日休みなんだね」「…そうみたい。どうしたんだろう?」「さあなあ。気分でも悪いんじゃあねえのか?」下着姿のアキラ・和美・千雨が、身体測定の合間に集まり、休みの茶々丸について話し合っていた。周囲の少女達が、巷で噂になっている、吸血鬼の話で盛り上がる中、この場にいない友人を心配していた。そんな中、和美が千雨の顔を見ながら、楽しそうに笑っていた。和美が笑った理由は、以前の千雨だったら、ガノノイドである茶々丸に対して、体調不良の心配などしない思考を、持っている事を理解しているためである。それを、千雨自身の口から、心配する言葉が出たため、少女が変わったことに対して、嬉しくなって笑ってしまったのであった。和美に笑われてることに気がついた千雨が、軽く睨みつけながら、「人の顔見て笑ってんじゃあねえよ」「いやいや、何でもないよ~」和美のふざけた態度にいらっときた千雨が、頬でも抓ってやろうと手を近づけたが、「甘いわ千雨ちゃん」「待ちやがれ和美!?」「千雨ちゃんじゃあ、私を捕まえるのは無理よ」不穏な気配を感じた和美が、教室を逃げ回り始めた。両手を振り上げ、笑顔の和美を追いかける千雨を、アキラがぼーと眺めていた。そうしていると、アキラの周りにチアリーダー部の面子が集まってきた。そして、追いかけっこをする二人に苦笑しながら、「千雨ちゃんもここ半年で変わったわ」「そうだね。あんな感情的な行動なんて、しなかったのにねぇ」「前までは冷めた目で周り見てたよね。まあ私は、今の長谷川ほうが好感持てるからいいけど」各々が好き勝手に千雨の話をしていると、アキラが同意のため無言で頷いていた。アキラも横島と出会う前は、千雨との交流など皆無であった事を、思い出していた。彼と出会え、さらに今まであまり接点のなかったクラスメートと、仲良くなれ本当に良かったと思っている。そんな思いから頬が緩むアキラに、柿崎が昨夜の詳しい事を知りたいため、アキラの肩を突っつきながら問いかけた。「ねぇねぇ、昨日は本当に何もなかったの?」「…?」「ほらほら、誰にも言わないから喋っちゃいなよ」柿崎は、横島について尋ねたのだが、いまいち判っていないアキラが、昨日何かあったか考え出した。そして、唯一の心当たりに行き着くのである。アキラ本人としては、全く覚えていない事であったが、「…昨日は、噂になってる吸血鬼に襲われたくらいかな」「………マジで…どんな奴だった? もしかして倒しちゃったとか?」アキラの的外れな答えに、数瞬意味がわからなかった柿崎であったが、直ぐに意味に気がつくと、唖然としながら詳しい話を聞きだしにかかった。他の二人も、意外な方向に進む会話に耳を傾けている。「…覚えてないんだ。私や千雨は、横島さんが見つけたときには気絶してたから」「千雨ちゃんも襲われたの! 二人とも、その大丈夫なの?」暴走したときのアキラの力を、身を持って体験した柿崎が、アキラが負けたことに戦慄しながらも、二人の身を案じた。柿崎の声が自然に大きくなっていくと、物騒な言葉を聞いた少女達が心配そうに集まりだした。集まってきた少女達に、心配させまいとアキラが、手を振りながら、「…大丈夫だ。私が背中を少し痛めただけだから」少女達の目には、アキラの背に張られたシップの隙間から覗いた肌が、青くなっているのが見え、口を閉ざしてしまった。アキラの周囲にいる少女達が、気落ちする中、「困りましたわ」「どうしたの、いいんちょ体重でも増えてた?」「ひゃあ! 夏美さん、やめなさい。それに増えてませんわ」悩み顔のあやかに、村上がわき腹を摘みながら話しかけた。くすぐったさから悲鳴を上げ、身体を捩じらせたあやかが、村上の手から逃げ出た。そして、胸を張ったあやかが、村上に対して悩みを打ち明け始めた。「横島さんと、朝倉さんたちのことですが」「…ああ、うん。…聞かなきゃダメ?」「はい、聞いてください」横島の名を聞き、朝の事を思い出してしまった村上が、嫌そうな顔をしたが、あやかに押し切られ、聞くはめになってしまった。肩を落とした村上に、あやかが真剣な表情で、「困った事に、日本では重婚が認められてないんですわ」「…え、えーと、そんな当たり前のことで困られても…しかも本気っぽいし」あやかの表情から、村上は冗談で言っていないと理解すると、自分では助言など出来ないと悟ってしまった。村上は、あやかが何故このような、アホなことで悩んでいるのか判らずにいると、「いいですか、このままではあの方達は、一人しか幸せになれないのですよ。あの方達を見れば、横島さんに好意を抱いているのがわかりますわね?」「…それはまあわかるけど…だから重婚なの?」「そうですわ。重婚が可能なら、幸せになれる可能性が広がりますわ! 幸いな事にあの方達は仲が良さそうなので、他の方を蹴落としてまで、横島さんを独占するとは考えにくいですし」力説するあやかに、早くこの話が終わらないかと思っている村上だったが、更に話をややこしくする人物が、あやかの背後から現れた。その人物を見た瞬間、村上は嫌な予感から、表情を曇らせるのであった。そして、あやかの背後に立った人物が、少女の肩を叩きながら、「あらあら、あやかそんなの簡単よ。重婚が可能な国に渡ればいいのよ」「なろほど! その手がありましたわ。さすがですわ、ちづるさん」「ああ~予想通り話が変な方向に。しかもいいんちょも納得してるし。 …絶対にちづ姉もその中に入って、外国行く気だし」千鶴の意見に、村上は頭を抱えぶつぶつと小さく呟くため、誰も内容に気がつく者はいなかった。そして、色々な人間関係を知る村上が、心労から身体がだるくなってきていた。村上の状態に気がつかず、重婚について真剣に話し合う、千鶴とあやかに対して、ストレスが溜まる一方の少女が、「もういっそ、日本の法律変えちゃえばいいのに」その適当な呟きを聞いた千鶴とあやかが、勢いよく村上の顔を覗き込んだ。二人の反応にびっくりした村上が、「ど、どうしたの?」「それですわ。夏美さん」「いい事を言ったわ。夏美ちゃん」「え、え、な、何が?」突然二人から肯定された村上が、困惑していると、「法律を変えてしまえばいいのですわ」「夏美ちゃん、すばらしいアイデアよ。今晩のおかずは、夏美ちゃんの好きな物を作ってあげるわ」「ありが…へ? ほ、本気?」好きなものが食べれると一瞬喜んだ村上だが、二人の会話の意味に気がつき、放心状態になってしまった。思考が停止する村上の目の前で、千鶴達が本格的に話し始めていた。放心状態の村上の耳に、「私たちは、裏で…」「表はこの子にまかせ…」「今から、ある程度の立ち振る舞いなど…」「それから、資金とコネを…」二人の未来設計の話し合いに、興味を持った超が、「楽しそうな事を話してるネ。私も混ぜてほしいヨ」超の参加したいという言葉に二人は、直ぐに頷き超を仲間に引っ張り込んだ。『麻帆良の最強頭脳』に二人が、計画を話すと、「村上を政治家にするのカ。それは面白そうネ」「え!? どうしたらそういう話になるの!」聞き捨てならない言葉を聞いた村上が、大声を上げ説明を求めると、「大丈夫よ。夏美ちゃんは、原稿を覚えて喋るだけでいいから。演劇部だから、役作りは得意でしょうし」「そうですわ。ちょっと息苦しいバイトと思ってください。あっ副業が政治家で、本業を持って別に構いませんから」「任せるネ。いろんな裏の情報を手に入れて、最速で政治家になれるようにするヨ」笑顔を浮かべた3人に、親指を立てられた村上が、「無理だよ~~」絶叫したが、既に計画は動き出しているのであった。将来、『豪腕』『暴君』『支配者』と呼ばれる政治家が、誕生した瞬間である。全く持って、この少女に似合わない字であった。騒がしいクラスメートを壁際で見ていた、龍宮と刹那が小声で、「吸血鬼だとさ。全くクラスメートを襲うとは」「…お嬢様に手を出さなければ、私からは干渉しない」犯人の想像がつき呆れ顔の龍宮と、我関せずの姿勢を貫く刹那。そして、まだ測定が全て終わっていない刹那が、離れていくと、窓から外を眺めた龍宮が、「しかし、よりによって長谷川と大河内か。また犯人も、面倒なことになりそうな奴らの血を吸ったものだ」被害者の名を聞いたとき、ある男の間抜け顔が浮かんだ龍宮。あの男が関わると、碌な事にならないだろうなと、思った龍宮が少しだけ唇を持ち上げると、「気が向いたら、どうなるか見てみるのもいいか。あの人が勝つ事はないだろうが、少しは楽しめるか?」龍宮の予想では十中八九、横島が負けると思っている。それでも、万が一が起こるかもしれないと、興味が引かれる対決になると感じていた。下着姿で逃げ回る和美が、余裕の表情を見せながら、顔を下に向け追いかけてくる千雨に、「いい加減諦めなよ」「ゼェゼェ、ま、まちや…がれ…」日ごろの運動不足がたたり千雨は、息を切らせ青くなりながらも、和美を追いかけていた。既に走るというより、歩く速度に近くなっている千雨が、「…な、何で私…追いかけ…てる…んだ…ハァハァ…ぎゃ!」「千雨ちゃん!」疲れから追いかける虚しさを感じてきた千雨が、諦め立ち止まろうとした。が、止まろうとしたが体力の消耗から、足がもつれフラつき、近くの机に足を取られてしまった。そして、こけた千雨に驚いた和美が、反射的に手を出し助けようとしたが間に合わず、千雨は転げまわると、教室のドアに激突し止まった。そして、かなりの衝撃だったのか、ドアがハズレゆっくりと倒れ、千雨の身体が教室の外に出て行ったのである。教室のドアの前にて待機しているネギが、中の騒々しさを聞きながら、「みなさん、楽しそうですね。僕も元気に一年間頑張っていこう!」これから一年、頑張ろうと気合をいれるネギ。そんな少年の感覚に、教室の中から微弱な魔力を感知すると、「あれ? いま本の少し魔法の」教室に背を向けていたが、振り向いたネギが教室の中の気配に、感覚を研ぎ澄ませ探ろうとしていると、突然ドアがネギ目掛けて倒れてきた。逃げようとした時には、すでに目の前までドアが迫っていたため、反射的に手で押さえにかかったネギであったが、「わ、うぐ。ぎゃふん!」ドア+千雨の重さにネギの細腕では、全く耐える事が出来ず、ドアに押し倒されてしまった。ドアの下でもがくネギが、「く、苦しい…こ、これ重すぎです」ドアを挟んで、千雨が乗っていると思ってもいないネギが、ドアを退かそうと悪戦苦闘している。しかし、ネギの腕力では動かすことが叶わず、上に乗る千雨が身体を動かす度に、ドアが動きネギの身体に苦痛を与えていた。ドアの上にて、頭を振りながら上体を起こす千雨に、追いかけてきた和美が手を差し出しながら、「はい、千雨ちゃん」「わるい」差し出された和美の手を、素直に千雨が取ると、和美が手に力を込め千雨を引っ張った。千雨もタイミングを合わせ、ドアの上に一気に立ち上がると、「うっう、い、いふぁいへす」「何か聞こえたような」転がった影響からふらつく千雨が、何処からかくぐもった声が聞こえたため、周りを見回した。しかし、目の前にいる和美しか見つけられず、気のせいと判断しようとした。すると目の前の和美が、千雨の踏んでいるドアを指差しながら、「千雨ちゃんの下から、声が聞こえたけど。誰かそのドアの下にいるみたいよ。退いてあげたら、千雨ちゃん重そうだし」「ば、ばっきゃろう、重くねえよ!」和美の軽口に、目を吊り上げ千雨が反論した。体重はともかく、身体測定の結果を和美達と見比べたら、アキラとウエストが同じであった。3人の中で背が一番低い千雨が、一番高いアキラと同じという事実が、ショックな千雨であった。そんな為、体型が少し気になりだしている千雨に、下にいるネギが苦しいために、「お、重い~ は、はやく、ど、いて」「重くねえって言ってるだろうが! 退くから少し我慢してろ!?」言いながら千雨が、ドアの上から退避すると、ドアの下から潰れ気味のネギが、はい出してきた。ヨロヨロのネギに、和美がネギの背を擦りながら、「ネギ君、大丈夫?」「な、何とか大丈夫です」顔を顰めるネギだったが、和美に介抱してもらい、気分的に楽になっている。そして、押しつぶしていた千雨も、年下相手に悪い事をしたと思い、「悪かったな」そっぽを向きながら、素直に謝罪の言葉をかけた。落ち着き、二人に目線をやったネギが、「いえどう…ブッ…ふ、二人とも、な、何で下着で…」下着姿で廊下に立つ二人に、驚きのあまり息を噴出し、赤くなりながら目線を逸らした。ネギの反応に目の前に立つ二人は、「下着なのは、身体測定の最中だからね。別に、子供に見られても平気よ」「ガキがませた反応すんな」余裕な態度をとる二人である。元々肌を露出させる服をよく着る和美は、特定の人物以外から、見られることに耐性がついていた。千雨は、本当は少し恥ずかしかったが、先程押しつぶした負い目から、少しは我慢する気になっていた。二人が平気な言葉を発していたが、いまだに視線を逸らしているネギに、「くす、こういう反応も可愛いわね」ネギの初々しい反応に、和美の琴線に触れる物が合ったのか、ネギの頭を撫でだしている。下着姿を見ないように顔を上げないネギは、和美にいいように弄くられている。そんな、生徒にされるがままのネギの感覚に、再び魔力が感知された。意外なほど近くから感じたため、自然とそちらに目線を向けた。目を大きく広げ見つめる、ネギの視線に気がついた少女が、「どうしたネギ先生? …あんまり見るようなら、学校に訴えちまうぞ?」見つめていた千雨からの苦情に、慌てふためいたネギが、「わっわわわ、ご、ごめんなさい…やっぱり、長谷川さんから?」謝りながらもネギは、千雨から微弱な魔力を感じ確信を得た。千雨とネギを、交互に見た和美が、ネギのつぶやきに気がつき、「ネギ君、千雨ちゃんがどうかしたの?」「い、いえ。 …あ、あの最近、長谷川さんに、何かありませんでしたか?」会話にてさりげなく聞くスキルがないネギは、直球で千雨に問いかける事を試みた。質問された千雨は、質問の意図がわからなかったが、「何だ急に。まあいいけど、最近かあ」ネギの謎な質問に、律儀に考え出した千雨は、(こいつの質問は、多分春休み中についてだよなあ。寮ではみんなで宿題やって、飯食ったな。横島さんのところじゃあ、飯作ったり、茶々と遊んだぐらいか…いつも通りだな…え、ええと、『ア~ン』は、私だけ出来なかったしな。あいつらよく出来るよな。恥ずかしくねえのかよ。全く人前で。べ、別に、う、羨ましくなんかないからな!)違う方向に思考が傾きだした千雨が、表情を様々に変化させていると、大人しく待つネギに、和美が楽しそうに目を細め、「何々ネギ君、千雨ちゃんみたいなのがタイプなの? 顔もスタイルも、もっといいのがいっぱいあっちにいるのに。ほらほらアレなんて凄いよ~」和美は、ネギの頭を掴みドアが外れ中が丸見えの教室に、強制的に向けた。色鮮やかな下着姿の少女達が、不意に視界に入ってきたネギが、「あわわ~」と呟きながら、目を手で隠した。ちなみに、ネギの視線の先では、外の様子に気がついていた千鶴が、ニコニコしながらネギに手を振っていた。残念ながらあやかは、村上に集中しているため、ネギには気がついていない。和美にムカつく発言をされた千雨が、額に血管を浮かべ、「黙れヘタレ女! エロイ事平気そうなこと言うくせにチキンな、エロチキが」ヘタレと言われ和美は、ちょっと神経がざわついたが、ここで怒ったらヘタレである事を認めてしまうため、いつも通り軽い感じで、「私のドコがヘタレなのかな~ あとエロチキって何よ?」「ふん。前々からそうじゃあねえかと思ってたけど、朝の行動で確信したぞ。お前、口じゃあ『誘惑する』とか言うけど全然しないだろ。そう言うのを、口だけのヘタレって言うんだよ。エロチキってのは、エロいこと言うのは平気だけど本番になったらチキンになるやつ、略して『エロチキ』だ。いま作った言葉だ、反論したければしろ!」「……」千雨の言葉に、沈黙しネギの頭に手を置いたまま、考え込みだした和美。そして、身に覚えがあったのか、頬から一粒の汗が流れ落ちた。そして、肩を落としながら、「…私、ヘタレかも…だ、だって横島さんと、キ、キスとか、か、考えるだけで、キャー!」「う、うわ、く首が~~」恥ずかしがり出した和美が手近にあった、ネギの頭を両手で廻しだした。ネギは、首の稼動限界まで、動かされ痛みが走り出している。そして、和美の反応に満足した千雨は、「ふん」と鼻で息を出すと、さきほどのネギの質問に答えるため、口を開いた。「最近というか昨日だけど、吸血鬼に襲われたらしい。アキラと二人で桜通りに倒れてたよ。…聞こえてるか先生?」いまだに和美に、頭を廻されてるネギに声が聞こえてるか、気になった千雨が声をかけると、「…ふゃ、ふゃい、ひゅ、ひゅおえま、し、た…」あまり言葉になっていないネギの返答に、千雨が首を傾げたが、「答えたし、まあいいか。さて教室に戻るか。おい和美、お前も来い。先生の首をねじ切るきか」「あ。ゴメンネ、ネギ君。千雨ちゃんあんまり引っ張んないでよ」自身の手で和美の手を止めた千雨が、そのまま和美を引っ張って、教室に戻っていった。和美の手から解放されたが、首が廻るのが止まらないネギが、「きゅ、吸血鬼…さ、桜通りですね。こ、今夜、にでも…」と呟いたかと思うと、目を廻しながら倒れてしまった。余談であるが、和美がはじめてキスするときは、さほど問題もなく済ませれた。が、初体験時にとても恥ずかしがり、「こ、怖い」や「は、初めてだから、や、優しくね」と涙目で訴えたらしい。ちなみに、アキラは正反対に「…初めてだから、痛くしたらゴメン」と、相手を気づかったとさ。こんな未来もある…かも。探し回り見つけた茶々を膝に乗せた横島が、喫茶店にてコーヒーを飲みながら、呼び出した知り合いを待っていた。ウェイトレスの揺れるお尻を眺め、時間を潰す横島の耳に、ドアに取り付けられた鈴の鳴る音が聞こえた。反射的に目を向けると、横島は会釈をしながら、「タカミチさん、すんません呼び出してしまって」キョロキョロと周りを見渡すタカミチに、声をかけた。呼ばれたタカミチも横島に気がつくと、穏やかな表情のまま片手を挙げながら、「気にしなくていいよ。しかし珍しいな、僕に相談したいことがあるなんて、どうしたんだ?」タカミチが横島の対面のイスに腰掛け、接客のため近づいたウェイトレスにコーヒーを頼んだ。横島の元を離れた茶々が、タカミチの膝に飛び乗ると、タカミチが茶々の耳の付け根を撫で始めた。茶々を撫でながら、横島の言葉を待つタカミチ。珍しく真剣な表情を見せる横島に、タカミチが怪訝そうにしていると、「昨日のこと何すけど、アキラちゃんと千雨ちゃんが襲われたんすよ」「な… 二人は無事なのか?」」予想外の単語に驚き、茶々を撫でる手を止めるタカミチ。タカミチの元には、何ら情報が入ってないため、最悪な状況ではないと予想したが、念のため二人の安否を確認した。「アキラちゃんが怪我したくらいで、一応無事ですよ。学校にも出てますから」「そうか」横島の話を聞き、安心したタカミチが息を吐いた。それと同時にタカミチは、アキラが傷つけられた事に、横島が大分気が立っていることに気がついた。そしてタカミチは、横島の相談が犯人の情報を欲して、自分を呼び出したと思い至った。携帯を取り出したタカミチが、情報を集めようとした瞬間、横島の口が開くと、「犯人は、『吸血鬼』らしいんすけど。何か情報ないっすか?」「…まさか、エ」吸血鬼という言葉に、呆然としたタカミチが無意識の内に、脳裏に思い浮かんだ人物に対して、言葉を発してしまった。途中で目の前に横島がいるのを思い出し、慌てて口を閉じたが、目を見開いた横島が、「何か知ってるんすね!」タカミチの反応に、何らかの情報を持っている事を確信した横島が、身を乗り出しながら詰め寄った。そんな興奮する横島を、タカミチが宥めるため、両掌を目の前に掲げながら、「…少し待っててくれ。その話をする事は、僕の一存では決められない」そして、確認をとるため席を離れようとするタカミチが、膝に陣取る茶々を持ち上げた。手にじゃれ付く茶々を、タカミチが優しく横のイスに移動させると、携帯を片手に外に出て行った。タカミチを待つ横島は、落ち着かないためか、テーブルを指で叩いている。数分間、そわそわしていた横島の元に、電話を終えたタカミチが席に戻ってきた。タカミチから、有力な情報が得られると思っている横島が、タカミチからの言葉を待っている。しかし、中々口を開かないタカミチに、横島が怪訝に思いだした。そして、やっとタカミチが重い口を開きだした。「横島くん。学園長に確認をとったんだが… 君はこの件に関わるな、とのことだ」「…は…どういうことっすか!」茫然とした次の瞬間、語気を荒げる横島が、タカミチを睨みつけていた。学園長の真意までは、わからないタカミチであったが、睨みつけてくる横島から目を逸らさず、「学園長の指示を抜きに考えても、吸血鬼を追うのはよせ。 …僕程度に勝てないようでは、その者に触れることすらままならないぞ」「…そいつは、本気を出したタカミチさんより強いんですか?」「ああ」「……」首肯するタカミチに、手加減状態のタカミチに圧倒された横島は、無言のまま前を見つめている。しばらく無言のまま、視線を絡ませあう二人だったが、空気を読めないニャンコが横島の頭に飛び乗り、横島の頭をペシペシ叩いている。気を抜かれた横島が、タカミチに向かい、「さて、そろそろ帰りますわ」笑顔になり言葉短く言うと、伝票を取り立ち上がると会計を済ませるため、レジに向かいだした。横島が、タカミチの横を通り過ぎると、「待て、横島くん。学園長も考え合っての事だと思うから、大人しくしててくれ」タカミチの声に、横島が立ち止まった。自身の知り合い同士が、ぶつかるかもしれない状況に、苦悩するタカミチが、横島を説得にかかった。そして、立ち止まった横島から、「タカミチさん、痛いのが嫌いな俺が、そんな危ない奴に、手を出すわけないじゃないっすか」「……」「情報のお礼に、ここの代金は俺が払っとくすよ。いや~ 危なかった危なかった。あやうく死に掛けるところでしたよ」陽気な横島の声を聞いたタカミチであったが、横島の記憶を知り、半年以上横島を見ていた彼は、理解していた。横島忠夫という男が、自身の大切な者達を傷つけられ、大人しく傍観するはずがないと。横島が店を出て行った後、一人残されたタカミチは、一口も飲まず冷えてしまったコーヒーに視線を合わせながら、「力の大半を封印されたエヴァとはいえ、横島君ではきついだろう。…何より彼女の従者は…」弱体化しているとは言え、最強を誇った魔法使いが、襲われたときの対策がないとは考えられなかった。そしてなにより、エヴァの側には横島と、とても親しくしている少女がいるというのが、一番のネックだと思った。ポケットからタバコを取り出し、慣れた動作で口に咥え火をつけ吸ったタカミチが、不味そうに息を吐き顔を顰めながら、「…それに、学園長の指示もあるから……横島くんが、戦うなら…僕もエヴァの側か…」さきほど、連絡を取った学園長からの、指示を思い出していた。タカミチへの大まかな指示は二つ。一つ、横島にエヴァの情報をあまり与えない事二つ、この件に横島を関わらせないようにする事特に、この二つ目がタカミチを苦しめていた。この内容には、タカミチの実力行使も認められていたためである。この日から、学園長の指示のもと古くからの友につくか、それとも新しき友の為に力を貸すか、苦悩するのであった。学校に行かず、時間が余った茶々丸が普段行う一通りの家事を終えると、「…地下も整理しましょうか」地下に移動した茶々丸が、所狭しと並べられている人形を見回した。「どこから手をつけましょうか」効率よく片付けれるように、茶々丸が計算していると、人形の群の中から、「ヨー我ガ妹、マタ刃物デモ借リニ来タノカ?」計算中の茶々丸に、声をかける者がいた。声に反応した茶々丸が、視線を向けると横に倒れた70cmほどの人形を発見した。静かに近づいた茶々丸が、その喋る人形の姿勢を直した。そして、一礼したあと、「チャチャゼロ姉さん。刃物は要りません」声を発した人形は、茶々丸と同じエヴァンジェリンの従者・チャチャゼロであった。茶々丸が、不要と答えると、場を静寂が支配した。元々茶々丸も、お喋りなタイプではなく、自分から話題を振る事はなかった。そしてチャチャゼロの方は、じっと茶々丸を観察している。観察を終えたチャチャゼロが、「ケケケ、イツモ無表情ナオ前ガ、今日ハ更ニ雰囲気モ暗イナ。全ク辛気臭エッタラネエゼ」「申し訳ありません」いきなり毒を吐くチャチャゼロに、特に気分を害さなかった茶々丸が、素直に頭を下げた。そして、頭を上げると、「それでは、失礼します」チャチャゼロの機嫌を損ねる前に、この場を去る選択をした茶々丸が、背を向け歩き去ろうとしている。そして歩き出した茶々丸に、「マア待テ、少シ話相手ニナレヨ」「…ですが」「暇ダカラヨ、何ガアッタノカ話セ。時々、ココニ来テタ時ト雰囲気ガ違イスギルゾ」稀に地下に訪れる茶々丸と、目の前にいる茶々丸では、何となく違う様に見えたため、チャチャゼロの興味を引いてしまった。そして引きとめの言葉により、振り向いてしまった茶々丸と、チャチャゼロと目が合った。話していいのか判断に迷っている茶々丸を、チャチャゼロが静かに見つめている。数分が過ぎたとき茶々丸が、「姉さんは、人をどう思いますか?」「特ニ何モ思ワナイナ。ダガ、強イ奴ナラ斬リタイ」素直に自分の意見を語るチャチャゼロに、無表情のままの茶々丸が、「そうですか。私は、あの人ともっと一緒に居たいと思いました。あの人と他愛無い事を話たり、作った食事を食べてもらい、おいしいと言ってほしかったです」茶々丸の紡ぐ言葉に、簡単なことに何を悩んでるのかと、チャチャゼロは馬鹿馬鹿しいと思いながら、「ダッタラ、ソノ人間ト居レバイイダロ」チャチャゼロの言葉に、茶々丸は静かに首を左右に振り、否定を表すと、「無理です。なぜならその人はお母様と…マスターと敵対するはずですから」「ン、何ダソイツハ、魔法使イカ? 御主人ヲ倒シテ、名デモ上ゲタイ馬鹿カ?」「魔法使いかどうかわかりません。名を上げたいわけでもないです。ただ、マスターが…あの人にとって、許せない事をしただけです」そして茶々丸は、チャチャゼロにエヴァの吸血行為に、自身の友人であり、横島にとって大切な人を傷つけた事を語った。更に茶々丸が、横島をエヴァに会わせないため、横島の前に立ちはだかる事を決めたことを話した。誰かに話をぶつけたかった茶々丸にとって、動けず誰かに会うことのない、チャチャゼロは格好の相手であった。茶々を入れるでもなく、静かに茶々丸の話を聞いていたチャチャゼロは、「面白クモナイ話ダッタナ。モウイイゾ、上ニモドレ。アア、チナミニ男ノ名前ハ何テ言ウンダ」「横島忠夫さんです。では、失礼します」茶々丸に向かい、早く去れと目線を送るチャチャゼロ。茶々丸が去った後、一体残されたチャチャゼロが、「機械ノ妹ニ、好キナ奴ガ出来ルカ。アンナ奴デモ妹ハ妹ダカラナ、俺ガ動ケタラ御主人ニ会エナイヨウニ切ルカ」妹が思い人と敵対しては、哀れと思ったチャチャゼロが、行動が出来たら横島を妹の代わりに切ってしまおうと決めた。ただただ、怪しく笑う人形が、その場に残っていた。物騒な人形に、狙われてるのを知らない横島は、アパートへの帰り道を、頭の上の猫を撫でながら、「ごめんな茶々。もしかしたら俺、仕事がダメになるかもしれないんだわ。そしたら、お前のエサのランクちょっと下がるかも知れないけど、我慢してくれ」学園長の指示を、無視する気満々の横島は最悪の場合、仕事をやめることもあると考えていた。律儀に飼い猫に謝っているが、茶々は横島の手に自分から摺り寄せ、甘えきっている。この猫としては、横島と少女達が遊んでくれれば、幸せであるためご飯は食べられれば良かった。腕を組み悩みながら歩く横島が、「ここにいる吸血鬼は、タカミチさんよりも強いのかぁ。そんな奴に、ニンニクとか効かないよな」元の世界では、友人の吸血鬼ハーフの友人に、効果覿面の物が効果がないと予想し、困り果てる横島である。学園長室にてイスに座り、タカミチから連絡を受けてから、手の者に調べさせた報告書に目を通した学園長が、「ふむ、被害者と思われるのはこの5名と、昨夜襲われた2名か」学園長が持つ書類には、少女達の顔写真と、プロフィールが載っていた。その中に、アキラと千雨の写真も覗いている。書類を机に置いた学園長が、「エヴァめ、このような行動に移るとは、思わなかったわ。被害者には、何か詫びなければな」頭を痛め、ため息をついた学園長だったが、一転して笑みを浮かべると、「ふぉふぉふぉ、不謹慎じゃが、楽しみじゃのう。ネギ君は、少しでも実戦を経験できるだろうしのう。そして、彼らがどのような選択をするか。横島くんは、おそらくエヴァと対するだろうが、動かなければ扱いやすい人物だとわかるな」学園長としては、横島がどのような決断をしても構わなかった。動いたら動いたで好ましい人間であるし、動かなければ指示を聞く、扱いやすい人間であることが証明されるためである。そして、最も気になる人物は、「タカミチは、どういう決断をするかな。彼がどのような判断をするか、気になるのう。最近は壁にでもぶつかったのか、力も増えておらんし、これを気に成長の兆しが出るといいの」若者達が、困難にあったときに、どのような判断と答えを出し、そしてどう成長するのかが、楽しみな学園長であった。感想をくださいまして、ありがとうございます。レス返しコンテナ様、今回も和美が、恥ずかしがりますが、原作とキャラ変わっちゃいすぎてるので、徐々に修正していこうかと思います。誤字報告ありがとうございました。トマト様。横島の記憶は、まあそのうち。和美の記憶だったら、もうチョイ先の予定です良様。裕奈は、これからもちょいちょい暴走する予定ですが、どこかでフォローでもしてみます。ミオ様。印象の良し悪しは、そのうち何名か書いていきますが、悪い印象もまあまあいますよ。最後に読んでいただき、ありがとうございます。