一通り、被害者が発見された地点を練り歩き、情報を集める横島と和美は、全く有意義な情報が集まらずにいた。暇になった横島は、並んで歩く和美に、「ねえねえ和美ちゃん。他になんか面白い噂とかないの?」「そうだね~ あっ、高畑先生の噂ならあるよ」共通の知り合いのため、興味が出た横島は、「どんなの? まああのオッサンなら、女関係か…くそ変態オヤジめ!」「女関係じゃあないよ。…むしろウチのクラス限定だったら、横島さんの女関係の噂が流れまくってるけど」横島関係の噂になると、和美自身のことにまで言及されるため、ゴニョゴニョと口の中で、言葉を作るのみだった。「ん、何か言った?」よく聞こえなかった横島が、怪訝そうに和美に聞くと、慌てた和美が自由な手をパタパタ振りながら、「な、なんでもないわ。え、え~と高畑先生の噂だけど」何故か赤くなっている和美を、可愛いなあと思う横島は話しを聞くべく集中すると、落ち着いた和美が手帳を見ながら、「高畑先生は異様に出張が多いんだ。何でかわかんないけど、時々怪我もして帰って来るんだ」「ふ~ん、あのクソ強いタカミチさんが怪我ねえ」教師の出張で、怪我をおってくる理由が分からない和美。そして、タカミチの強さを肌で知る横島は、タカミチが負傷する事に驚いている。和美の話が続くと、「で、最近大怪我をしてた事があったんだ」「最近あったけど元気そうだったけどな。茶々の事も聞いてきたし。いつぐらいそれ?」「2月の終りくらい。高畑先生、チビちゃんの事知ってるんだ」「おう、仲いいぞ。…2月の終わり?」何か覚えがあるのか、横島が引き攣った表情をしている。ちなみに、タカミチは暇なときに、横島に食事を奢ったりしてる。そして、茶々が来てからも横島の家に上がっているため、少女達には及ばないが結構懐いていた。そして、オコジョになった時に、一時獲物と認識されてからは、何故か人間に戻っても不意に噛まれていたりする。意外な事を知った和美は、横島の微妙な表情に気がつかないまま、「うん、2月の終わり。怪我の内容だけど、頬には獣にやられた様な引っ掻き傷に、頭や腕にも包帯巻いてたんだ。噂ではお腹にも傷があるらしいよ。どうかした横島さん?」「い、いや、何でもないぞ!」途中から顔を逸らしていた横島に、どうしたのかと思った和美。噂の真実に気がついた横島は、「あっ、その怪我ならウチの猫がやった」とは言えなかった。そんな真実を知らない和美は、横島の反応に首をかしげた。だが、話が終わっていないため、「ふ~ん。でね、チャンスと思った不良集団が、高畑先生を襲撃したんだ。瞬殺されたらしいけど。何だか威圧感や迫力が前以上になってたんだって」横島がしみじみと、『あの一週間で、タカミチさん4~5回は死に掛けたからな~ 迫力も出るか』と思っている。ある魔法関係の取材でタカミチが『今迄で一番死を意識した時は』と、質問を受けたとき「友人の飼い猫に襲われたとき」と真面目に答えた。ちなみに質問者は冗談と受け取った。横島の反応に、手ごたえを感じた和美は饒舌に、「巷では、出張先で大きさや体重が数倍以上の、ホワイトタイガーに襲われたんじゃあないかって言う、噂が「ぶっ、くくく」そんなに面白かった?」腹を抱えて笑う横島に、和美が不思議そうにしていると、「まあ黒い模様はないが、白い毛並みはしてるし、同じ猫科だな」「おっ、何か知ってるの横島さん?」この噂について横島が、何か知ってると感ずいた和美の問い掛けに、軽く頷いた横島は、「まあね。そん時タカミチさんオコジョになってたんだ」「…横島さん、その冗談つまんない」冷めた目で和美が横島を見つめると、嘘をついてると思われたくない横島が、「本当だって。前に言ったじゃん。魔ほ「コラ! そこの女生徒、こんな時間になにをしている」…でけえ声だな。たしかこの声は」横島の声を遮るように、背後から大声が聞こえてきた。その声に反応した和美が、頭を掻き、スカートを少し持ち上げ、「げっ、見つかっちゃった。やっぱ制服は拙かったか」逃げようとアイコンタクトを送ってくる和美に、横島は背後の声に覚えがあり振り向くと、「やっぱガンさんか。そっかここらの担当でしたっけ」知り合いであるガンドルフィーニの登場に、安心した横島が辺りを見回した後に会釈をしている。横の和美も、背後を見て「たしか前にチビちゃん保護してくれた人だ」と呟いている。以前この二人、勘違いから殴り合いを演じていた。横島は、茶々を誘拐されたと勘違いし、ガンドルフィーニは正当防衛により手を出していた。二人の顔が変形する頃に誤解も解け、二人の怪我の手当てのため、茶々を連れガンドルフィーニ家に案内されていた。和美ばかりに注目していたガンドルフィーニの方も、和美の横にいる横島に気がつき、「ああ横島くんか。こんな時間帯に少女を連れまわすとは、感心できないな。それともまた、茶々君探しの最中かい?」「違いますよ。ちょっと噂の検証に、町をぶらついてるんです。この子はしっかり送るんで見逃してくださいよ」ヘコヘコと頭を下げる横島に、あまり好い顔をしていなかったガンドルフィーニであったが、「まあほどほどにな。所で早く茶々君の子供をくれないか?」「いやいや、早いすっよ。茶々、まだ生まれて一年たってないはずですから」「そうか、残念だ。娘が茶々君に会いたがっていて。最近はあまり言われないが、前は顔を合わすたびに「ネコさんは?」と聞かれると、辛くてね。茶々君の子供なら喜ぶと思うんだが」愛する娘の願いを叶える事が出来ず、苦悩する父親の姿があった。肩を落とす父親に、横島が笑いながらガンドルフィーニの肩を叩き、「ああ、それなら大丈夫っすよ。時々、茶々つれてガンさんの家に行ってるんで」「…なんだと。私は知らないぞ」場が少しずつ不穏な空気になっていったが、全く注意を払わない横島。空気が読める子・和美は、横島が余計な事を言わないように祈っていたが、「そういや、いつもいないっすね。飯も出してくれるんですけど、奥さん料理上手っすよね。それに、お子さんと俺『メル友』ですよ。茶々の写メール送ると喜ぶんすよ」と、火に油を注いでいる。しかし、逆に燃えすぎた所為か、一転悲しそうに、「私にはメールくれないのに。…いっそ携帯を取り上げ…ダメだ嫌われてしまう…」と、ブツブツと呟いている。傍から見ていた和美は、娘を持つ父親は大変なんだなと暢気に考えている。ガンドルフィーニが、がっくりと気落ちし寂しそうな顔で去っていた。のほほ~んとした顔で、哀愁漂う父の背を見送る横島が、「う~ん、どうしたんだ? 何か途中からガンさん元気なかったな」「まあまあ、お父さんは色々考えるんですよ」和美の意見に、今ひとつ理解していないが「なるほど~」と感心し頷く横島。そして、本題を思い出した横島が、「次、どこ行こっか?」「そですね~ 被害者が発見され場所は、ほとんど回っちゃったんだよね」和美が、これからの予定を考え悩んでいると、横島の携帯が『メールでーす』と音を発し知らせてきた。慌てる事無く横島が、携帯を手に取ると『千雨ちゃん』と表示されていた。昼に別れた時から、千雨の事が気になっていた横島は、すぐさま内容を確かめるため開くと、目を見開き息を飲み固まった。横島の只ならぬ雰囲気に、和美は原因である携帯を覗き込みながら、「変なメールで…千雨ちゃんにアキラ! 『桜通りで倒れています』な、何でこんなメールが…」友の名を叫び、目を丸めた和美の視線の先では、木に身を預け力なく頭を下げているアキラと千雨の姿が映っていた。そして、弾かれるように走り出した二人は、横島が和美のペースに合わせて走っている。焦り顔の横島は、一秒でも早く二人の下に行きたかった。が、一緒に行動する和美を置いて行くのを躊躇い、スピードが出し切れていないでいる。しかし、横島の心情を汲み取った和美が、「横島さん! さき行って」「だけど…」「私はいいから、早く!」逡巡し眉を寄せ、和美を見つめる横島に、真剣な和美の声が迷う男の背を押した。そして、トップスピードを出そうとする横島が、走り去る前に、「先に向かう。和美ちゃんも来るんだったら、なるべく人通りが多いところを!」「わかってるって」和美の言葉を聞くと、瞬く間に和美を引き離していく横島。全力で走る男を見つめながら、「はっやいな~ …二人とも大丈夫だよね」横島の身体能力に感心していたが、すぐに友人達を心配し表情を翳らた和美も、横島の言う事を聞き、人通りの多いルートを考え必死に足を回転させていた。桜の木の下にて茶々丸は、無断使用した千雨の携帯を、持ち主のポケットに戻した。そして、気絶した二人を無表情のまま見つめ、「二人ともしばらくお待ちください。直ぐに横島さんが来ます。…私は」表情を崩す事無く茶々丸が、二人から遠ざかり木の陰に隠れ、横島が来るまで二人を見守る事にした。そして、千雨の携帯を使用しメールを送ってから、10分もしない内に、「千雨ちゃーん! アキラちゃーん! どこだ!?」隠れる茶々丸の元まで、まだ姿は見えないが男の悲痛の声が聞こえてきた。男の胸を切り裂くような声に、センサーを切りたかった茶々丸だったが、男の声に安堵と同時に、何故かボロボロと滝のように涙が流れている。隠れる茶々丸の視界に、見慣れた男性の姿をおさめると、「…横島さん」横島は、茶々丸の見慣れた笑顔ではなく、切羽詰った表情をしている。そして、横島が木にもたれる、二人を見つけると、「いた!」特に外傷が見えない二人に、少しだけホッとした横島は、集中力が低下したため足をもつらせ、二人から後数mの所で転倒した。頭から転がる横島は、二人の直前で止まると、止まるときの反動でポケットの中から、一つの珠が転がり落ちている。珠に気がつかない横島は、気絶する二人の肩に手を置き、「大丈夫か… くそ! 和美ちゃんから聞いた噂どおり、牙の跡がありやがる」近くから二人に傷がないか確かめていた横島は、首筋に残る傷跡を発見した。自身も吸血鬼に噛まれた事がある横島は、恐る恐るアキラの閉じた柔らかい唇を指で押し上げ、「…良かった。吸血鬼化はしてないな。 …ほっ、千雨ちゃんも無事か」変化のない二人に、一先ず緊張から開放された横島。二人の手を握り、心の底から二人の早い目覚めを期待した。すると、横島の背後から光が放たれ、「何だ!」光に気がつき、まだ吸血鬼が近くにいたかと思い、二人の手を離し立ち上がり、慌ててハンズ・オブ・グローリーを発現させ背後を振り向いた。隠れて3人を見守っていた茶々丸は、涙が止まった目を少し大きく開けている。最初は、横島の背後の輝きに注意を払っていたが、今は横島の光る右腕に釘付けになっていた。どことなく残念そうに頷いた少女は、「やはり、魔法関係者でしたか」茶々丸は、横島が普通ではないことには、初めての出会いから気がついていたが、決して調べようとはしていなかった。本人の自覚はないが、もし横島について調べたら、彼との関係や友人達との付き合いが、変わってしまうのではないかと恐れたためである。じっと、まるで横島の姿を焼き付けるかのように凝視した茶々丸は、不意に体ごと反転し歩みだすと、「千雨さんとアキラさんのために横島さん、あなたはお母様の前に現れるでしょう。その時、あなたの横に入れたらどんなに良かったか。…たとえ負けるとわかっていても」確かめるように独白する茶々丸は、歩みを止めたが一切背後を振り向こうとはせず、息を大きく吸い込み、「次に会う時に、私は…あなたの敵です。決してお母様の前に立たせません」少女の表情は、夜のために誰にも判別がつかなかった。本人すら、自身がどのような顔をしているか、判らないままその場を去っていった。優しき少女が、1人の男性を最強の魔法使いから守るために、守るべき男性との敵対を決意した瞬間である。大切な存在である少女が、去っていったのを知る良しもない横島は、光は一つの珠から放たれている事を知覚し、「あれは確か、図書館島で俺が握ってた珠か」いぶかしむ横島が、注意して珠を見つめると、「字が書いてあんのか。 …『覚』?」恐々とソレに手を伸ばした横島は、2~3度人差し指でつっつき特に害がないとわかると、親指と人差し指で摘みあげた。何かこの珠に覚えがあるのか、悩んでいる横島だったが、二人のほうが気になった。そしてハンズ・オブ・グローリーを消し、珠を握ったまま振り向きながら、「どうすっか。1人だったら楽に運べるんだけどな」親しい少女達を肩で担ぐのは、気が引けた横島が悩んでいると、珠を握り締めた指の隙間から光があふれ出てきた。ビックリした横島が、反射的に手を開くと、眩い輝きが少女達を照らしだした。「な、何だこりゃ!」「…ううん」 「んっ」光る珠が、役目を終えたように横島の掌の上から消え去ると、気絶していた少女達から、うめき声が発せられた。覚醒しだした少女達を、肩膝を着き覗き込んだ横島は、「大丈夫か? 変な事されてないよな!」「…あっ、横島さんだ。えへへ」「へ? おお~~」何でか知らないが、トロンとした目で微笑むアキラが横島の右腕に抱きつき、動揺する横島の腕に頬をすりすりしだした。右腕の肘辺りに挟まれる幸せな感触に、目じりと頬が緩む横島に、冷たい視線と共に、「やっぱあんたも胸か! そんなに大きいのがイイのか、茶々と同じ趣味か」ニヤニヤする横島の頭上から、千雨の怒れる声が耳に突き刺さった。ビックーと背筋を伸ばした横島は、アキラの「…横島さんの部屋と同じ匂い…落ち着く…」と呟いていたが、気がつかず左手だけをあたふたと動かし、「い、いや。け、けっしてそんな事はないぞ。大きい胸には大きい胸の素晴らしさ、小さい胸には小さい胸の素晴らしさがあると思うんだ」ふらつきながらも両足で立つ千雨は、座った目つきでアキラが抱きついている横島の肘を睨んでいる。恐怖を感じた横島は、必死によくわからない説明をしている。通常なら納得するはずがないのだが、「本当か?」拙い説得に、何故か納得したらしい千雨だった。「うんうん。ぼく嘘つかない」「よしならいい。頭撫でさせろ」何度も頷く横島に、ニコリと笑い許しを与えた千雨の要望に、逆らわないほうがいいと直感した横島が、頭を直ぐに差し出し、「どうぞ『ギュッ』…ち、千雨さん?」千雨が左腕で横島の横顔をしっかり抱え込んだため、肩頬に心地良い感覚を感じている横島。困惑のあまり普段の『ちゃん』ではなく、『さん』付けで少女を呼びながら、頭を動かそうとすると、「動くなよ!? やっぱいい手触りだな」あまり命令に逆らう事を知らない横島は、千雨の言うとおり身動ぎを止めた。動かなくなった横島に満足した千雨は、横島の頭の上に置いた手を、掌で円を書くように動かしたり、軽く上下に動かしたりして横島の髪を弄んでいる。横島は、少女達の甘い匂いと柔らかい感触に包まれ、幸せを満喫しているのだが、何故こうなるか(アキラには腕を抱きつかれ・千雨には頭を抱えられている状態)全く判らず困惑していると、男を抱える二人が同時に、「落ち着くな。こういう夢も悪くねえな」 「…暖かい。夢なのに、本物みたい」二人の口から回答が飛び出してきた。二人は完璧には目覚めておらず、夢うつつの状態であった。、「…寝ぼけてんの? ま、まあ得だからいいか」横島も答えに気がついたが、役得であるからほっとく事を決めたが、「へー、急いできてみたら、随分と余裕みたいね。アキラに千雨ちゃん」その声は、とても静かであり、横島には氷のように冷たく聞こえた。頭を押さえられているため目線だけを、必死に動かした横島が見たものは、もちろん笑みを浮かべた和美である。キレイな笑顔であった。…額に青筋さえ浮かべていなければであるが。引き攣った笑顔の横島は、つかつかと歩み寄ってくる和美から、逃げ出したい気分になっている。しかし、和美の登場に気がつかない二人に、しっかりと捕まえられているため、動けないでいる。横島の脳裏には、こういう状況になると、暴力を振るわれる記憶しかなく、「か、堪忍してくれ。お、俺にも何でこうなったか、判らないんだ!」「「ふんふんふ~ん」」理不尽と思いながらも、条件反射で和美に謝る横島。ご機嫌のため鼻歌を歌いながら、夢の中と疑わない少女達。そして笑う和美が、横島達の手前で止まり、手を振り上げると、観念し目を閉じた横島の耳に、『バシィン バシィン』と軽い音が二度響いた。しかし、横島には叩かれた痛みは無く、不思議に思い目をソロソロ開けると、「いてえな、何すんだ和美! …痛い?」「……」「こ、この状況で俺が無傷だと? ゆ、夢か…いや夢でも結構ボコボコにされたよな。それに、この子達の感触は本物だ」痛がる少女達を見た横島は、意外な展開に動揺し、夢の中かと疑った。が、少女達の暖かさと柔らかさから、何とか現実と認識できている。そして、幸せ気分だった千雨は和美を睨みながら、痛覚がある事に疑問を覚えている。アキラは無言で、夢のはずなのに痛む頭を擦っている。そして、和美に見下ろされながら、嫌な予感がしてきたアキラと千雨は、お互いの目が偶然合った。そして、無言で相手の頬に手を伸ばし、頬を掴むと同時に抓った。「痛いな」 「…痛い」「そりゃあ現実だから痛いに決まってるでしょ」和美が両者を馬鹿にしたが、二人はそれ所ではなかった。二人の少女は、今の状態が夢ではなく現実であると知ると、ゆっくりゆっくりと自身が抱いている人物を見ると、「ああ~ 正気に戻った?」和美に殴られなかった事に、良かったと思う反面、どこか物足りなさを感じ本調子でない横島がいた。数秒固まったアキラと千雨は、おかれた状況に気がつくと、頬どころか首元まで赤くし両手を勢いよく開き、横島から離れようとした。そして、千雨は距離をとる事に成功したが、膝を突いていたアキラが、反動をつけ後ろに飛ぶように離れようとすると、「…つぅ」背中に痛みが走り、イメージした後退とは違う中途半端な姿勢になってしまい、後ろから倒れそうになった。真上を向いたアキラは、倒れそうになりながら満月を発見し、背中から地面に落ちそうになりながらも「…キレイ」と呟いている。そして、数秒もしないうちに、地に落ちるはずだったアキラを、「ほっと。危ないよアキラちゃん」片膝を着いた体勢の横島が、右足に力を込め一気に地面を蹴り押し、体をアキラの横に移動させた。そして、アキラの背中と膝裏に手を差し込んだ。お姫様抱っこされたアキラは、恥ずかしそうに横島の顔を見ないように俯き、「あ、ありがとう…」「どういたしまして。アキラちゃん背中でも痛めた?」「…うん。さっきまで気がつかなかったけど、動くと結構痛いかな。そ、その降ろして…」「ああ。 …大丈夫か?」平気と頷くアキラをそっと降ろした横島が、少女の怪我を心配そうにしていると、仁王立ちしている和美が、「さて、ちょっといい千雨ちゃんにアキラ」「何だ」「…何」普段通りを装うアキラと千雨だったが、内心何を言われるかドキドキしている。真剣な目で二人を見る和美が、「二人とも、身体は大丈夫? 何ともない?」「私は特に何ともないぞ」「…背中が痛いだけだから、問題ない」二人に特に害が無かったと知れると、和美は地面に腰を落とし座り込むと、「よ、良かった~ すっごい心配したんだから」ここに来るまで、襲われた友人たちが心配でたまらなかった和美である。着いたら着いたで、嬉しそうに横島に抱きついている二人を見た瞬間、頭の血管がブツンと切れてしまった。そして、気がついたら二人の頭を、結構強めに叩いていたのである。座り込み涙ぐむ和美に、目をパチクリさせている千雨とアキラ。吸血鬼に襲われたことを知っている横島は、「うう、エエ子やな~~」和美の反応に、感動した横島は滝の涙を流している。今日一日の記憶が消えているため、自身の身に何が起きたか知らない、アキラと千雨は互いに首を傾げている。しかし、和美に心配されていたことが伝わると、「よくわからんが、心配かけたみたいだな」「…すまん」「うっぐ、いい。無事だったから」二人は和美の肩に手を置いたり、背中をさすって和美を落ち着かせだした。二人のおかげで和美が落ちつくと、泣き止んだ横島が、「とりあえず、アキラちゃんの手当てのためアパートに行こうか」「…大丈…いたい」時間も遅いため、アキラが辞退するため手を振ったが、手を振る動作だけで、背に痛みが走り顔を顰めた。アキラ以外の3人が、アキラが大分背中痛めている事を心配し、「気にしなくっていいよ」「行こうよ。手当ては私と千雨ちゃんがするからさあ」「何で私まで。帰って寝たいんだよ」行く気満々の和美が千雨を巻き込むと、先程横島に抱きついてしまいまだ恥ずかしいため、一刻も早くこの場から離れたい千雨である。しかし、和美が千雨の耳元で、「横島さんとアキラが二人っきりになっちゃうし。手当てすると、場所が背中だから、どうしてもアキラは上着脱ぐわよ」「よし! さっさとアパートに行くぞ、横島さん」瞬時に意見を翻す千雨だった。こうして一行は、横島家に向かう事が決定した。ちなみにアキラは何も言えないでいたため、周囲の勢いに押され有無言うまもなく、連行されることが決まった。「さて横島さん、アキラ運んでよ」「…歩ける」和美のお願いに、当事者のアキラが否と答えたが、残念ながらこの場でアキラの主張は通らず、「だーめ。さてアキラちゃん、おんぶとお姫様抱っこどっちがいい?」「…えっと。お、おひ…おんぶで」「りょーかい。はい」どちらが言いかと言えばお姫様抱っこが良かったが、恥ずかしさと千雨と和美のニヤつきに気がつき、諦めるアキラ。そして、にこやかに屈む横島に、おずおずと横島の背中に身を預けるアキラがいた。他の二人も、羨ましそうに見ていたが、今回は怪我人に譲った。道中、横島は理由は不明であるが、必要以上に身を揺すっていた。感想をくださいまして、ありがとうございます。レス返し蒼様、横島が頑張るのは、いつだろうなぁ。吸血鬼編の最後のほうは決まっていますが、途中はまだあまり…関西弁は、以後気をつけて書いていきます。コンテナ様、横島の力はシリアスモードというか、人間として落ち着きが出ると、下がると考えています。通りすがり様、指摘ありがとうございます。老師が吹き飛んではだめですね。良様、黙ってはいません。アキラと茶々丸は、ダメージを受けましたが、千雨は今のところ忘れています。勝敗はどうしよう。ありゃりゃ様、美神流の卑怯技か… もう一度原作読み直してみようと思います。『血の味』は一応考えていますが、流すかもしれません。ミオ様、記憶と能力の復活は、申し訳ありませんが、ココでは書きません。エヴァについて書かれていますが、一応考えています。最後に読んでいただいて、ありがとうございます。