「…おはよう」「ああ」「千雨ちゃんも大河内も、ひどい顔してるよ」寮組の3人が寮のホールに集まると、和美が二人の顔を見て素直な感想を言った。アキラと千雨は、お互い寝ていないのか、目の下に隈ができており、髪もセットしていないためボサボサであった。しかし、この状態は二人だけではないらしく、「朝倉、鏡見ろ」和美も一睡もできていないのか、二人に負けず劣らずひどい顔であった。和美も確認しようとしたが、手鏡を持っていなかった為に携帯のカメラを代用し、自分の顔を映し見ると苦笑し、「あは、ダメダメだね。二人ともシャワーにでも行こっか?」「そうだな」「…うん」和美の提案に二人が同意し、眠いためか覚束ない足取りで浴場に向かおうとする背後を、「ま、まずい、寝過ごした~ 約束の時間に遅れる!?」間に合いそうにないためかクラスメートに気づくことはなく、人間の限界を軽く超える速度で、アスナが走っていった。アスナの声を聞いた3人が、ノロノロと振り向くと足を動かす度に、揺れ動くアスナの後ろ髪が目に入った。そんな姿を見送りながら、「…いいな、神楽坂さん。横島さんと買い物行くんだ」「「…・・・」」つい考えを口に出して言ってしまったアキラであったが、他の二人も同じような事を思ったのか、茶化そうとはせず小さくなっていくアスナに、羨望の眼差しを向けていた。そして、アスナが見えなくなると和美が、自分の頬を『パンパン』と叩くと、努めて明るく、「しょうがないよ、二人は付き合ってるんだから、デート位するよ~」「…そうだね」「気づかなかったな。横島さんの家に行くの迷惑だったよな」千雨は、自分達がアパートに通っていた為に、付き合う二人の邪魔をしてしまったと、思ってしまった。雰囲気が暗くなってしまったが、落ち込んでいても良くないと思ったアキラが、気分転換の為に、「…シャワー浴びたら、一緒に買い物行こ」「いいね、行こ行こ」「そうだな…ショッピングモールにでも行こぜ」「はい、決まり。今日は、じゃんじゃん買ちゃお!」「うん…」3人は気を紛らわせるために、買い物を選択したのだが、奇しくも行き先が横島と被っていた。そして、もう1人の少女・茶々丸は朝から超に呼び出されていた。茶々丸は、超の研究室に赴くと、普段以上に冷めた声で、「超、今日は何の用でしょう」「茶々丸、待ってたヨ。今日は、このボディで一日行動してほしいネ」超が用意したボディは、小学生低学年ほどの大きさの繋ぎ目のない、身体をしていた。茶々丸は、似たボディの妹を知っており、あまりその妹にいい記録がなかった。違う箇所は、ロングヘアーで体が少し大きい程度であった。だが茶々丸は、昨日のことが尾を引きずっており、正常な判断ができていないのか、「…わかりました。行き先などの指定はあるのですか?」「そうね、ここで好きに買い物をするといいネ。お金は気にしなくていいカラ」笑いながら超は、茶々丸に地図と財布を渡した。超の指定した場所は、事情を知っているのか、知らないのか表情からは一切読めないが、行き先には横島達・アキラ達が行こうとしている、ショッピングモールの地図が書かれていた。そして茶々丸が、ボディを入れ替えるため機能を一時停止させると、超が作業をしながら、「長かったヨ、お市の暴走で沢山のデータが飛んだから、作り直すのには苦労したネ」超や葉加瀬としては、龍宮や那波クラスのスタイルのボディの作成をしたかったが、多くのデータがなくなり、自身の目的のためにも、茶々丸のことだけに感けていられなくなっていた。そのため、あいた時間を使い茶々丸の新型ボディを作成していた。そして、遂に小型の身体が完成し、動作試験にたどりついたのである。こうして、横島達・アキラ達・茶々丸(小学生ver)が同じ場所に、引き寄せられるように、集まるのであった。ちなみにこの状況の元凶でありながら、身体も心も傷ついていない千鶴は、「ふんふ~ん」機嫌よく鼻歌を歌いながら、湯煎している鍋をオタマで回していた。テレビを見ていた村上が、甘い匂いに気づくと、「何作ってるの、ちづ姉?」「見ててわからない、夏美。愛の結晶を作ってるのよ」「…はあ?」「うふふ、チョコよチョコ。愛情をたっぷり込めてるのよ」「ふ、ふ~ん、そっか、明日はバレンタイデーだもんね…(い、言えない、変な薬作ってる、魔女にしか見えないなんて)」「そうだわ、私の身体でチョコの型とってみようからしら?」普段なら心すら読みそうな千鶴であったが、浮かれているためか村上の考えに気づかずに、型のとり方とポーズについて考え出したが、「動きそうで怖いから、やめて」「あらあら、そうかしら? じゃあ媚薬でも入れようかしら」「…頭大丈夫、ちづ姉…ちなみに、どこで手に入れるの、そんなの?」「そうね、あやかにお願いするか、超さんに作ってもらうのも手ね」「うっ…手に入りそう…」あやかと超の名前が出た時、その二人からなら本当に媚薬を手に入れれる可能性があるため、嫌そうに顔をしかめた。その後、村上の必死の説得のかいあり、人型チョコと媚薬入りチョコの作成は流れた。もし横島が、その人型チョコレートを見たら、過去のことを思い出し、脱兎のごとく逃げたであろう。横島は、待ち合わせ場所である麻帆良学園都市中央駅前で、アスナを待っていると、遠くから土煙があがっているのに気づいた。横島は、どんどん近づいてくる土煙に首をかしげ、「何だアレ…ん、アスナちゃん?」横島が目を凝らすと、待ち合わせ相手のアスナが必死の形相を浮かべ、土煙を発生させていた。横島の手前まで爆走し、靴底をすり減らしブレーキをかけると、「はあ…はあ…間に…合った、ぜえ、ぜえ…おはよう…ございます。さあ…行き…ましょう」「とりあえず、行く前に何か飲もっか」「は…い…お願い…します」横島が微苦笑しながら提案すると、両膝の上に両手を置き肩で息をしているアスナは、一も二もなく了承した。二人は、駅構内にある喫茶店に入り、20分程休憩してから目的地に向かった。アスナは、待ち合わせ時間には間に合ったが、結局アスナのために出発時間は遅れる事になるのだった。ひと息いれた二人は、電車に30~40分揺られ目的地近くの駅に到着した。電車から降りると横島は、腕を上げ背筋を伸ばし、「う~ん、着いたか。ショッピングモールって、こっから遠いの?」「近いですよ、歩いて5分程度ですから」「そっか、案内よろしく!」「はいはい、行きましょう」そして横島は、目的地に向かう短い時間を利用し、何を買えばいいかアスナと話し合った。「どんなのがいいかな?」「う~ん、そうですね。アクセサリーとかがいいんじゃないですか?」「なるほど、そんじゃあの子達に似合いそうなの、選ぶの手伝ってくれよ」「アドバイスはしますけど、基本は横島さんが選んでくださいよ」「ああ…自信ないな」ちょっと不安そうな表情をしている横島の背中を、アスナが「大丈夫、大丈夫」と気楽に言い、歩きながら平手で3回背中を叩き横島に気合を入れた。横島達が目的地近くの駅に着いた頃、千雨達3人は麻帆良学園都市中央駅で改札口を通り、ホームに行くと茶々丸に似た小学生位の少女が、電車の時刻表の前に佇んでいた。3人は同時に、少女に気がつくと立ち止まり、「…あの子、この前の子かな?」「どうだろ、髪型や身体の大きさが違うけど」アキラと和美は、顔を見合わせながら、悩んでいると、「多分アレ、茶々丸だ」「何で判ったの?」「あいつの雰囲気と、カンだ」「…え? カン」千雨の答えに、アキラと和美は疑わしげな目を向けたが、千雨はその視線を無視し少女に近づき、少女の真後ろに立つと、『ぺチン』と頭をはたいた。それを見ていた二人は、千雨の行動にアタフタしていたが、「何してんだ、チビロボ」千雨から暴行を受けた少女は、後頭部を擦りながら振り向くと、「千雨さん、何をするのですか?」「ほれ、茶々丸だろ」近くまで寄ってきたアキラ達に、指差しながら茶々丸と証明したが、「…いきなり、頭叩くのは良くない」「違う子だったらどうすんのよ」「ふん、本人だったからいいだろ…はぁ(やっぱ、コイツも落ち込んでんのか。いつもだったら、簡単に避けるくせに)」千雨は、グリグリと茶々丸の頭を撫でながら、言い訳の言葉を発していたが、茶々丸も調子を落としているのに気がついてしまった。通常時ならまず当たらない千雨の攻撃を、まともに受けたことで確信していた。茶々丸は、千雨の手から逃げると近くにいた、駅員のところに歩み寄ると、駅員の袖を引き何か話しかけていた。「「「?」」」3人が不思議そうに眺めていると、茶々丸と手をつないだ駅員が近づいてきて、「あの子?」と駅員が千雨を指差し茶々丸に尋ねると、「そうです」と茶々丸が頷いた。嫌な予感がした千雨が、頬を引きつらせると、駅員が千雨の前に立ち、「君、ダメじゃないか。こんな小さい子をイジメて」「い、いやその…て、てめえ、このボケロボ、卑怯だぞ!」「ちょっと駅員室に来ようか」「お、おい、やめろ」千雨は、駅員に腕をつかまれ抵抗むなしく連行されていった。和美とアキラは口を開けポカンとし、茶々丸はハンカチを振りながら見送っていた。千雨・買い物に行く事無く脱落する事はなく、10分後駅員にこってり絞られたのか、憔悴した表情で3人の元に戻ってくると、「遅かったですね」「お前の所為だろうが」千雨は、疲れているためか弱々しく返すのみであった。そして、元気のない千雨を見た、茶々丸の次の行動は、「人の胸を、揉むな。揉みたいなら、そっちのデカイのにしとけ!?」茶々丸の手は、揉むというより擦っているという方が正しかった。しかし、そのような事は千雨には関係なく、茶々丸の手を叩き落とすと、自分より大きいアキラと和美の胸を指し示した。アキラは腕で胸を隠したが、和美は笑うと胸を茶々丸の前に突き出し、「茶々丸ちゃん、揉む?」「別に胸を揉みたいわけではありません。頭を撫でたいのですが、届かなかったのです」茶々丸は、千雨に元気になってほしく頭を撫でようとしたが、今の身体では背が低く、届かなかったために胸を触っていたのである。千雨は、茶々丸の意図に気がつくと、勝ち誇るように笑っていた。千雨は、何かあるたびに茶々丸に頭を撫でられ、そのたびに千雨はその手を払いのけていたが、今回はその必要がないために、「はっはは、残念だったなチビロボ」千雨は高笑いを浮かべながら、電車を待つためにホームに描かれている枠に並びだした。茶々丸は、アキラのズボンを掴み上目遣いに、「大河内さん、肩車してください」「うん、いいよ…かわいい」茶々丸の願いに、アキラは即答し直ぐに肩車した。アキラは、一瞬で茶々丸(小学生ver)の、可愛さに屈したらしい。アキラが軽々と茶々丸を持ち上げると、「ありがとうございます。では、千雨さんの後ろに行ってください」「…うん」「面白いから、撮っておこ」茶々丸に操られたアキラが、千雨に近づくと茶々丸が手を伸ばし、千雨の頭を撫で「元気出ましたか」と問うと、千雨はプルプルと震えだし、「やめろってんだろー と言うか、どうやって…大河内テメエか!」「…だってカワイイだよ」「答えになってねぇ!?」傍から見ていると楽しそうに思えるやりとりを、和美がデジカメで撮影しながら、何の気もなしに、「面白そうだね、プリントしたら横島さんにも…あっ…」「「「……」」」和美の声が聞こえた3人は、先程までの騒がしさが嘘のようになくなり、動きを止めてしまった。口を滑らした和美も俯き、気まずそうに千雨達の後ろに並び数分待つと、「電車きたな」「…うん」「行こうか」電車が止まりドアが開くと、3人は機械的に足を動かし、アキラがドアを潜った瞬間『ゴン…ゴチン』「ぎゃ」と、鈍い音が二回なった後に短い悲鳴が聞こえた。千雨とアキラが振り向くと、「うう~」額を撫で仰向けに倒れる茶々丸と、頭を抑え蹲りながら和美が唸っていた。アキラが、茶々丸を肩車している事を忘れ、電車の中に進んでしまい電車の外壁に、茶々丸の額がぶつかり、アキラの肩から落ちてしまった。そして、正面を見ていれば気がついただろうが、残念ながら下を向き歩く和美が気づくはずもなく、落ちてくる茶々丸が頭に直撃した。起き上がった茶々丸が、和美の頭を撫でると、「大丈夫だから、乗ろ茶々丸ちゃん」「はい」和美は、頭を押さえながらも立ち上がり、アキラ達の後を追い茶々丸と一緒に電車に乗った。電車の中では終始無言で、周りの人すら気まずくなるほどの空気をかもし出していた。そして、横島達に遅れる事1~2時間、少女達もショッピングモールに到着した。既に4人は、何も買っていないが購買欲が、尽きかけていた。しかし、ショッピングモールまで来ていたので、一応見て回ることにした。そして、ある人物達を見ると、心底後悔し少女達は四つん這いになり、「…何で居るの」「ここが、デート場所だからだろ」「ばれる前に、他の店を見に行こっか」「はい」少女達が見た者はもちろん、「おっ、コレなんかどうだ?」「う~ん、こっちもいいと思いますよ」「それも似合いそうだな」横島とアスナが楽しそうにブレスレットを選んでいた。少女達は、二人に気がつかれない様に、コソコソと離れていった。「コレがいいな」「似合いそうですよね」少女達のうち誰か1人でも動転していなければ、その会話の違和感に気がついたかもしれないが、全員が一刻も早くこの場から遠ざかりたかったために、残念ながら気がつく事はなかった。横島達が、誰かの為にプレゼントを選んでいることに。そして、何故か少女達が移動するたびに、横島達が先回りをして商品を選んでいた。横島は、少女達にあげる物を選んでいるうちに、気が紛れたのか知らず知らずの内に笑顔になっていた。その嬉しそうな笑い顔を見た少女達は、あの場に自分もいたいと思ったが、二人の邪魔をしたくないため、毎回そそくさと姿を隠した。しかし、遭遇回数が増えると、一緒に楽しそうに笑うアスナに、嫉妬の念を送る少女が、少しずつ出てきた。そして、さすがに来ないだろうと思いゲームコーナーに入ったが、「あっ、この人形可愛いな。でもこういうの苦手だからな~」楽しそうなアスナの声が響くと、一斉に慌てて目の前にあった、プリクラの筐体に逃げ込んだ。転び逃げ遅れた茶々丸を、アキラが目にも留まらぬ速度で駆け寄り、抱きかかえて連れ込んだ。「何でいるんだよ!?」「知らないわよ」「あの人形、私も欲しいです」「…私も、人形欲しいな…横のイルカさんがいいな」隙間から外を覗き込むと、クレーンゲームの前でトナカイの人形を、指差すアスナが見えた。その光景を見てイラつく千雨と和美の横で、人形を欲しそうに眺めるアキラと茶々丸とにわかれた。主に前者が、全力で嫉妬の念を送り、後者はまだ弱い念を送っていた。横島が、その筐体を見回すとアスナに向けて、親指を立て歯を出し笑い、「コレなら、任しとけ!」「取れるんですか?」「はっはは、軽い軽い」ボタンを操作した横島は、楽々とトナカイの人形を獲得し、アスナにプレゼントするとアスナは、喜び横島の腕に抱きついた。それが、止めであった。茶々丸の目が据わり、アキラの額に井桁が浮かんだ。そして、全員からの嫉妬パワーをアスナが受信すると、彼女の身体が勝手に震えだした。ガタガタ震えるアスナに気がついた横島が、「アスナちゃん、震えてるけど大丈夫か?」「何か、急に寒気が」「うんじゃ、コレ着な」「ありがとうございます…何だか、着たけど…さっきより寒い」横島の上着を羽織ったが、寒気は治まるどころか更に酷くなっていた。心配した横島が、アスナの肩を抱いたがもちろん逆効果で、アスナは極寒の地にいるような感覚に襲われていた。ゲームコーナーから出てアスナをベンチに座らせると、横島が温かい飲み物を買いに行くため、アスナから離れるとその寒気はピタリと止まったらしい。…恐るべき嫉妬パワー、この力は魔法消去能力でも無効に出来ないようだ。そして、最終的には覗き見ていた少女達は、「…私達、何してるんだろう」「何一つ買ってねえな」「行こっか」「……」我に返った少女達が、プリクラの筐体の中での会話を終え、ゲームコーナーから出ると、離れていく横島達の後姿が見え、「横島さん、今日でいなくなるんだよね」「そういう話だな」「…さびしくなる」「……」3人の少女は、自然と目の端に涙を溜めていた。そして、無言だった茶々丸が、突然走り出すと、迷う事無く一直線に横島に向かっていった。気がついた他の少女が止めるまもなく、横島の背に飛びつくと、短い腕を精一杯伸ばし横島の背にしがみ付き、額を横島の背中に押し付け、「いなくなってはイヤです」横島は、急に背後から飛び掛られ、久しぶりに聞くが聞き慣れた声に驚き、首を後ろに向けながら、「茶々丸ちゃん? …ちっこい?」「イヤです、イヤです」「? へ、へ、何?」茶々丸(小学生Ver)の登場に、横島は困惑するのみだったが、茶々丸は「イヤです」しか言わず、横島が途方に暮れていると、他の少女達もおずおずと近づいてきた。そして横島が、少女達に気がつくと、「アレ? 何でみんないるの? …泣いてる?」横島は、目に涙を溜めていることを見て取ると、一瞬で青ざめると慌てながらも、「ご、ごめん、俺またなんかやった?」3人は答えず、少しずつ距離をつめていった。後数歩まで来た少女達に、気圧された横島が一歩下がるが、少女達が伸ばした手が横島の服や袖を捕まえるほうが早かった。「私まだ、横島さんの服作ってない」「…まだ恩返してません」「夜の取材また付き合ってよ」それぞれの思ったことを口にした後、「「「だから、行かないで」」」最後に願いを口にすると、茶々丸のように額を横島の身体に当てた。そして、訳がわからない横島が、口を開けポカンとしているアスナに、アイコンタクトすると、『何この状況?』『私に聞かないで…すごくいずらい』アスナは、とても居心地の悪い空気の中、何とかその場に止まった。少女達が、冷静さを取り戻し話を聞くと、「今日でいなくなるって聞いたから」「誰が?」「…横島さんが」「…はぁ!?」「最後に神楽坂とデートして、プレゼント貰うって話だ」「何で私が、デートしてプレゼントすんのよ」「付き合ってるって情報が入ったのよ」「私は、高畑先生一筋よ!」「…付き合ってないの?」「「ない」」横島とアスナの声が綺麗にハモると、少女達は安心したが、もう一つの重要事項である、「いなくなるって話は?」「まだ、その予定はないぞ」3人はホッとし力が抜けた。ちなみに、一言も話していない茶々丸は、コアラのように横島の腹にしがみ付き、離れなかった。その後、アキラと茶々丸にせがまれ、クレーンゲームで人形を取ったり、みんなでプリクラを取った後、カラオケで横島が美声を披露した。そして遊び終え食事も済ませると、横島がそれぞれの少女に、プレゼントを渡しながら、「ごめんな、この前はヒドイこと言っちまって。コレ、日ごろの感謝とお詫び。一日早いけどバレンタインデーのプレゼント」渡されたプレゼントを、4人は心の底から喜び、その場では開けず、自室に帰ってからニコニコしながら開封した。帰り道は、横島の左側で和美が腕を組み、右側では服の袖を千雨がしっかり掴んでいた。そして肩車されている茶々丸は、横島の頭に手を置いていた。アキラは数歩離れ、アスナと歩いていた。アスナは、横島を示しながら横のアキラに、「大河内さんは、くっ付かなくていいの?」「…大丈夫、ジャンケンに勝ったから」勝利のVサインを向けてくるアキラに、アスナは更に不思議に思ったため、「何で? 勝ったなら、横とれば良かったじゃん」「すぐわかる…」「ふ~ん」アスナのちょっとした疑問は、電車に乗り込むと直ぐに答えがわかった。空いていたボックス席に移動し、席に近づくと示し合わせたように千雨と和美が、残念そうな表情をしながらも潔く離れた。4人席のため遠慮していた横島を、アキラが両手で背中を押し奥に無理やり押し込んで、強制的に座らせると、「…横、失礼します」「私は、腿の上を」アキラが横島の横の席を取り、茶々丸が横島の有無を確認せず、靴を脱ぐと横島の腿に横向きで座り、左半身を横島の胴体に預け、横島の上着を握った。一方和美と千雨は、「「ジャンケンポン…あいこでショ・ショ・ショ!」」と、横島の正面に座るため、熱戦を繰り広げていた。ちなみに、勝者は千雨であった。負けた和美は、無念のため開いた右手を悔しそうに見つめていた。そして、電車は動き出して数分も経つと、座席に座れなく立っていたアスナが「くっくく」と笑いながらも、声を抑えながら横島に話しかけた。「良かったですね。仲直りできて」「…ああ」横島も安堵の笑みを浮かべながらも、身動ぎすることなく囁くように声を発した。「でも、どっかに行こうとしても、無理かもしれませんね?」「やっぱ、そう思う?」「そんな姿見たらね~」「…はは」アスナの言葉に横島は力なく笑うしかなかった。微動だにしない横島の現状は、左肩にアキラの頭が乗っかり、正面の千雨は腕を伸ばし、横島が膝に乗せていた手を自身の手で重ね掴んでいた。そして、和美は腕を伸ばし横島のズボンを掴んでいた。3人は前日、寝ていない為の疲れと、横島が傍にいる安らぎから、直ぐに「くー」「すー」と寝息を立て、眠りながらも横島を逃がさないように、しっかりと捕獲していた。そして、横島はアスナに聞こえないようにボソッと、「この子達がいるなら…こっちもいいかもな…う~でもこの子達に手を出すのは、悪者だよな…」向こうに帰る意思が大分弱まってきていた。少女達の鎖が、しっかりと横島を捕まえだした。しかし、誰にも聞かれていないと思った独白は、(いなくならないようで良かった。しかし、悪者とは何の事でしょう?)目をつぶりながらも、しっかりと起動していた茶々丸は、横島の呟きに安心していたが、最後の単語の理由がわからず、内心首を傾げた。ちなみに、麻帆良学園都市中央駅についても3人は、起きる気配を見せずにいた。茶々丸も、少しでも一緒に居たかった為に、動こうとしなかった。横島は、彼女たちを起こすのを躊躇い、動けなかったがそんな横島を尻目に、アスナは横島を裏切りさっさと、1人で帰っていった。一時間後、目を覚ました少女達は、起こさなかった事に謝る横島に、誰一人文句を言わなかった。何故なら、もう一時間以上、横島と一緒にいる大義名分が出来たためである。ちなみに、戻るための電車では、和美がジャンケンに勝利し喜んでいた。後日、学校の屋上から縄で縛られ吊るされ、悲鳴をあげるとある双子の姉妹がいたとか。あとがき今回、何となく書きたくなったので、あとがきを初めて書かせていただきます。ふう、横島戦闘しないな。戦ったのは、斉天大聖、タカミチ、不良軍団(戦ったか微妙)、茶々丸(これも微妙か)、小太郎、式神使いとその相方か。22話作って、6~7話位か。横島に武器使わせたくて書き始めたのに、全く使用しない現状。処女作って難しい。ちなみに今回、茶々丸のボディを小さくしたのは、電車の席のためだけです。それだけの理由のためです。あと少しで、吸血鬼編に入るつもりです。ドッジボールの話と、もう一話。気が向いたら、もう1~2話増えるかもしれませんが、その後、吸血鬼編だと思います。あと改訂をする必要もあるな。以上。今回は、こちらでレス返しさせて頂きます。コンテナ様、空飛ぶ箒の話は記憶にありましたが、そこまで覚えていませんでした。今度、読んで見ます。愛子も泣かしていたのか。Citrine様、千鶴は釣れたというか、釣ろうとしたが小さくって見逃したら、勝手にクーラーボックスに飛び込んできた感じです。>床屋は…申し訳ないですが、お疲れ様です、としか言えないです。良様、6人目を出す前に4人が告白したら、唯でさえ最初の4人との差がありすぎるので、こんな話になりました。ありゃりゃ様、アスナデート騒動は、今後どうなるか謎です。時系列的には、ホレ薬後です。『4時間目、キョーフの居残り授業!』の時です。朝倉は、原作でもネギを取材しだしたのは、修学旅行ですので、どうしよう。何もなしにあげるのは、あまりよくないと思うので、ちょっと追加バレンタイン当日 初期ヒロイン4名、出番なし2月14日の早朝、横島は深夜警備の仕事から帰宅し、さっさと寝るために服を脱ぎ捨て下着姿になり布団を敷いた。そして、横になり寄ってきた茶々が腹に乗り目を瞑ると『ピーンポーン』と、チャイムの音が響き渡る。眠りを邪魔したわずわらしい音に横島が、イライラしながら半目になると、「うっせえな、どうせたいした用じゃあないだろ」尋ねてきた人物を無視する事を決め、目を閉じると『ピーンポーン』と再びチャイムが耳に入ってきた。対応しなければ諦めると思った横島だったが、『ピピピピピーポーン』とチャイムが連続で押された。横島の頭から『プチ』と何かが切れる音がすると、腹部に茶々がいるのも忘れ跳ね起きた。腹部にいる茶々が転がっていくのにも気がつかず、『ドカドカ』と足音荒く玄関に突進する。そして、いまだに『ピピピピピ』と鳴る音源をとめるため、ドアを蹴り開け、「じゃかわしいわ~ 新聞の勧誘とかだっ…た…ら」怒鳴りながら表に出た横島だったが、高速で指を動かす人物を見ると、途中で言葉が喉から出なくなってしまった。驚いた横島が、その人物を指差し口をパクパクさせていると、やっと指を動かすのをやめた人物が、「おはようございます。忠夫さん」『ピーンポーン』と間抜けな電子音をBGMにし、こぼれるような笑みを浮かべた少女・那波千鶴が、挨拶と共に下着姿の男に頭を下げるというレアな光景である。驚愕のあまり怒りがどこかに飛んでいった横島は、「お、おう、おはよう…えっと、たしか那波さ「千鶴と呼んでください」」しどろもどろになった横島が、少女の名前を確認するため『那波さん』と言おうとしたが、ニコニコ顔の少女に途中でさえぎられてしまう。そして、少女の異様な迫力に押されそうになりながらも、「…那波千鶴さんだったね。んで、千鶴さ「呼び捨てで結構ですよ」…千鶴は、何でここにいるの?それに、住所はどうやって調べた?」「住んでる場所は、政樹君に聞きました。尋ねた理由は、コレを渡すためです」横島は、『あのガキなに人の住所教えとんじゃ~』と思いながら、千鶴がカバンから取り出した袋を、反射的に受け取っていた。困惑する横島が、中身を聞こうと思った矢先、「可愛い猫ですね。飼ってるんですか?」「ああ」さきほど横島に跳ね除けられた茶々が、横島を追いかけ玄関から顔を出してきているのに、気がついた千鶴がかがんで茶々を見据えた。すると、千鶴の背後を見て目を真ん丸くした茶々は、何を思ったか『コロン』と転がり、千鶴に対してバンザイし腹を見せている。横島に対してもよくやるポーズであり、その場合は構って、遊んでの意味合いが強かっのだが、今回は服従に近く『あたちは無害ですよ、何もしませんよ~』と体を使って表現していた。茶々が、千鶴の背後に何を見たかは謎。千鶴は、茶々のプニプニしたお腹を楽しそうに撫で回している。猫の毛並みとお腹を堪能した千鶴が、手と目を放した隙に茶々は、そそくさと家の奥に引っ込んでいった。手持ち無沙汰の横島が、耳元に持ち上げた袋を『ガサガサ』と揺すっていると、立ち上がった千鶴が右手を頬に当て、「今日はバレンタインデーなので、チョコを持ってきたんですよ。手作りです」「…なに~! チョ、チョコを俺に?」信じられない横島が、両手にしっかりと持った袋と千鶴を交互に何度も見比べている。横島の行動を悪戯っぽく微笑み見る千鶴が、横島から袋を一旦返してもらい袋から箱を取り出すと、千鶴は中身を横島に見えないように隠しながら、パズルのように区切られていたチョコの一部を取りだした。そして、取り出したチョコをまだ呆然とし、口を開ける横島の口に入れる千鶴。一瞬、何を入れられたかわからなかった横島だったが、口の中で広がる甘い感覚に思わず、「…ウマイな…そういえば、普通のバレンタインて初めてかも」「…? お口に合う様ですので、良かったです」横島の脳裏には、『自作自演チョコ疑惑』『等身大チョコ事件』の記憶が蘇り、彼の数多いトラウマを思い出していた。実はもう一つ『ホレ薬混入チョコ』でも酷い目にあっているのだが、幸いにして思い出せていない。チョコを食べ何故か号泣の横島にビックリした千鶴だったが、チョコの味は問題なかったようなので、ホッと胸を撫で下ろした。そして携帯で時間を確かめた千鶴が、箱を閉じ袋にしまい、「学校に遅刻してしまいそうなので、そろそろお暇させていただきます」俯きながら涙をゴシゴシと腕で拭く横島だったが、根性で顔を上げ、「おう、気をつけていくんだぞ!」「はい。それと、一つお願いしてもいいですか?」「何でも言いなさ~い。今だったら、悪霊しばいたり、嫌いな奴に呪いかけるのも、タダでしちゃるぞ!」浮かれた横島が、こちらの世界の関係者に聞かれたら拙い発言をしたが、「悪霊や呪いはわかりませんが、今度こそデートしてください」「はっはは~ そんな事か軽い軽い。でっ、いつがいい?」「日時はこちらから連絡します。では失礼します」キレイにお辞儀した千鶴が去っていくのを、手を大きく振りながら見送る横島が、「やった~ 普通のチョコじゃあ~ 人類には小さな一歩だが、ワイにはワイには、大きな飛躍じゃあ!?しっかもデートじゃデー…は? …デ・ー・ト…」驚愕の表情で動きを止めた横島は、先程軽くデートの約束をしていたが、自分の発言でやっと事の重要さに気がついたようである。その後横島は、思考と動作を停止し数十分ほど彫刻と化していた。ちなみに、横島にはわからない事であったが、横島が食したチョコには『鶴』の文字が書かれていた。そして、再び動き出すことが出来るようになった横島は、とある事を思い出していた。それは、明日菜との買い物である。「アスナちゃん、タカミチさんにチョコ渡せたんかな?」横島が、明日菜に少女達へのプレゼントを選ぶのを手伝ってもらう時に、明日菜もタカミチへのチョコを購入していたのだが、『はは、こんなの買っても渡せないんだけどね』いつも元気良く笑う明日菜が、はじめて横島の前で力なく自嘲気味に笑うのを見てしまったので、ひどく印象に残っていた。そして、この男の口から信じられない言葉が吐き出される。「渡せそうにないなら、チョコ渡すの手伝うか」モテル奴は『死んでしまえ!』と言って憚らないこの男が、男にチョコを渡すのを手助けしようとしているのだ。これは、困ったときにアドバイスをくれた明日菜と、日ごろ何かと世話になっているタカミチ、そして自身がチョコを貰えた嬉しさ、この3つが揃ったために起こった化学反応である。どれか一つでも欠けていたら、この現象は起きなかった発言だと思われる。「学校が終わったら連絡するか。それまでは、一先ず寝よ」大きな欠伸をした横島は、部屋に入って行き隅っこにいた茶々を抱き上げると、数分後には一緒の布団で寝息を立てるのであった。桜通りを並んで歩くアスナと、ニヘラ~と笑う木乃香が、「なあなあアスナ」「…何よこのか、変な顔で笑って」イヤな予感がしたアスナは、横目で木乃香を見ていると、「高畑先生に、チョコ渡したん?」「ぐっ…も、もちろんよ! すっごく喜んでくれたんだから」胸を張り腰に手をあて、「はは、はっはは」と笑い声をあげるアスナを、木乃香がちょっと気の毒そうに親友を見つめ、バックから四角形のピンク色の箱を取り出し、「えっと、じゃあコレは食べていいん?」「ぎゃー ダメに決まってんでしょ! 何であんた持ってんのよ。ああ! しかも去年のライターまで~」手早く木乃香から箱を奪い返し、目ざとく木乃香のバックの中にある、去年渡せなかった見慣れた小さな箱(シンプルなシルバーのジッポライター)も見つけていた。邪気の無い笑顔の木乃香が、「アスナの机の中に落ちてたんよ」「それは、しまってたって言うのよ!」般若の形相で親友に詰め寄るアスナに、笑みを引っ込め心配そうに、「ええの? 高畑先生にチョコわたせんでも?」親友の言葉に顔を伏せるアスナが、「…渡したいわよ」下を向き顔を赤く染めるアスナを見て、木乃香が『あっはは、かわええな~』と密かに思いながら、「じゃあ、高畑先生に電話しよ~」「え~と、急に電話しても高畑先生に迷惑でしょ」「先生なら気にせんから、大丈夫や~」やんわりと木乃香が、アスナに電話をかけるように説得するが、普段は強気の少女であったが、「で、でも、出てくれなかったら…」一転、弱気な乙女にチェンジし、何かと理由をつけては拒否している。アスナにとっては、電話をするだけでも高難易度の試練であるらしい。困りへの字口になった木乃香が、何かいい手はないか考え込んでいると、『ピロリロリロリ』アスナの制服のポケットから、着信音が響くと、「高畑先生かな?」「…そんな訳ないでしょ」否定しながらも、どこかタカミチからの電話かと期待したアスナが、本の少し緊張しながら、携帯画面に表示された名前を確かめると、「…はあ、ほら違うじゃん」残念と安心半々の気持ちのアスナは、肩の力を抜いて画面を木乃香に見せ、表示されている名前を確かめた木乃香が、「ん~と、横島忠夫さんって、たしか同じバイトの人やっけ?」「そ、何の用だろ? バイト代わってほしいのかな」何度かアスナから聞いた事があった名なので確かめる木乃香。肯定の返事と共にアスナは、内容を予測し電話に出ると、「はーい、何ですか? 横島さん」この電話を節目に、気分を入れ替えようとしたアスナだったが、『アスナちゃん、タカミチさんにチョコ渡せた?』「あんたもか!?」『へっ、何が?』挨拶もそこそこの横島の質問に、話題を変えられると思っていたアスナは、当てがはずれ携帯を両手で持ち怒鳴りつけている。大声を出すアスナに、興味を引かれ耳を携帯に近づけ会話を聞こうとする木乃香。ブスとしたアスナが、不機嫌を隠そうともせず、「渡せてないですが、それがどうかしました。度胸の無い私を、笑いたいなら笑っていいですよ!」何故こんなにもアスナが、ヤケクソ気味なのかちっともわからない横島は、軽くビビリながらも、『笑わないけど…ただチョコ渡せてないなら、手伝おうと思ったんだけど、いらないかな~?』「いりま「いりま~す。桜通りにおるんで、直ぐ来てくれないやろか?」ちょっ木乃香、あんた何勝手に」アスナが、余計なお世話とばかりに断ろうとするも、言い切る前に木乃香が援軍を頼んでしまった。焦るアスナが、木乃香から急いで離れたが、『よし、じゃあ直ぐ行くわ! …可愛い声だったな~ どっかで聞いたことあったような?』しっかりと木乃香の願いは、この男の耳に届いている。そして、アスナと共に居る少女に期待しながらも、何かが引っ掛かっている横島。「ま、待って横『プツン・ツーツー』…話は最後まで聞けー」目を吊り上げたアスナが、聞こえていないとわかっていても、イラついたため携帯に怒鳴っている。怒れるアスナに満面の笑みを浮かべた木乃香が、親友の肩を叩き、「それじゃあ、ココで待とうか」「…これで渡せなかったら、恨んでやる」「なんとかなるやろ」アスナは、恨めしい目で木乃香を見つめたが、のほほんと返されてしまう。木乃香の緩い雰囲気に、感化されためか、「まあいいわ。あんたは誰かに渡さないの?」少し毒気が抜けたアスナが、男っ気の無い友人を茶化す様に言ったが、「渡す予定やったんやけど、今年はダメだったわ」「…ほえ、こ、木乃香、チョコ渡したい人いたの?」「毎年あげとるえ。今年のはコレや」「うそ…全然知らなかった。だ、誰よ?」チョコを取り出しながら言う木乃香の予想外の答えに、友人に先を越されていると思いがっくりしているアスナ。しかし、気を取り直すと木乃香の想い人を聞くと、「おじいちゃんやー でも今年は、甘い物お医者さんに禁止されてたんよ。知らなくって今日持ってたら、しずな先生に止められてな」「ほっ、じじいか…でっ学園長の反応は?」木乃香の答えに安心したアスナが、学園長のリアクションが気になり問いかけると、「泣いとったで」「はっは…ちょっと気色悪いわね」いい年した爺さんが孫にチョコを貰えなく泣く姿を想像すると、幼少時から世話になっており感謝もしていたが、つい本音が出てしまった。そしてアスナたちが、立ち止まって話していると、「アスナちゃん、おまたせ~」「横島さん本当に来たんだ。正確な場所教えてなかったのに、早かったですね?」「ああ、桜通りを走ってれば会えると思ったからな」「いい汗かいた~」とぬかしている横島を、『場所ぐらい聞けばいいのに。私も馬鹿だけど、この人もっとアホだ』とアスナの目が語っている。呆れるアスナに気がつくことのない横島が、木乃香の顔を見ると、「おお君か、聞いたことある声と思ったよ」「あれ? 木乃香、知り合いなの」木乃香に対して嬉しそうに、手を振る横島を見たアスナが、困惑気味し友人に確認すると、「え~と…」ちょこっと首をかしげた木乃香が、「ああ~」と頷きポンと手を叩いた。木乃香が覚えていると思い、表情を緩めた横島だったが、「10年位前におおた事のある、親戚のお兄ちゃん?」「…誰じゃそら。ほら半年位前にあってるんだけどなあ。道に迷ってるときに、地図を書いてもらったんだけど、 覚えてないかな?」「ん~ すまんな、覚えてへんのや」申し訳なさそうに誤る木乃香に、気にしない気にしないと笑う横島が、「会ったって言っても、5分位だったからしょうがないか。俺が覚えてるのも、可愛い子だったし」「ややわ、お兄さん。そうそうウチは、木乃香って言うんやよろしくな」照れた木乃香が、どこからともなくトンカチを取り出し突っ込もうとしたが、「あかんあかん、おじいちゃんやないから」と呟き、トンカチをバックにしまい掌でバシバシと横島の背を叩いている。美少女とのスキンシップに笑っている横島と木乃香を、ジーと見ていたアスナが、「二人とも、これから何するかわかってるの?」「チョコ渡すんだろ」「アスナ、わかりきったこと何聞いてるん」普通に返されてしまったアスナは、無性にイラつきながらも深呼吸し落ち着くと、「…わかってるならいい」これ以降、黙ってしまったアスナをおいて、横島と木乃香はチョコの渡し方で盛り上がり、「じゃあ、この方法に決定や~」「よし、公園に移動するか。成功を祈って、ファイト!」「イッパツやー」「……」話の中心のはずであるアスナを置いてけぼりに、気合十分の二人である。二人に引っ張られ、公園に到着したアスナは、5分と経たずに後悔し、「何で私は木に縛られてるのよ!?」公園に入り1~2分ほど散策すると、木乃香がアスナの手を引き太めの気の前に立たせ、アスナが疑問に思うまもなく、横島が手馴れた動きでアスナだけを縛り付けた。木に縄で縛り付けられ、周囲の一般人から奇異の視線を集めているが、意識しないように二人に怒鳴りつけるアスナ。そのアスナの姿を携帯カメラで撮影しながら、小悪党のように笑う横島と、『演技の練習中やで~ 気にせんといてな』と書かれたプラカードを持ち、アスナに背を向け周囲に笑いかけていた木乃香が振り返り、「そういうシチュエーションやん」「どんなシチュエーションよ! 説明しなさい」わからんかな~と思った木乃香が首を振りながら、「しょうがないな。この状況は変態さんに扮する、お兄さんに捕まったアスナが、色々省いて高畑先生に救出される王道ストーリーや~」木乃香が、薄い胸を張りながら力説すると、段々と頭が痛くなってきたアスナが、「流れに任せたとはいえ、この二人を頼ったのが間違いか…横島さん、気色悪いんで、指を動かすの止めてくれません?」様々な角度からアスナを撮り終えた横島は、携帯を木乃香に渡すとアスナの目の前で、指をワキャワキャと激しく動かしている。「まあまあ、いいじゃん。それにコレ、茶々が好きなんだ。腹コレで触ると喜んで喜んで」「いや、そんな情報いらないし、猫と一緒にしないで」目つきが鋭くなってきたアスナと、卑猥に指を動かす横島のツーショットを、何枚かカメラに撮り保存した木乃香がメールを作成していると、変態に扮するお兄さんが近づいて来ると、「今からこの写真送るで」木乃香と一緒に、ツーショットの写真を見た横島は、「う~ん、ちょっとアスナちゃんの顔がわからんな。最初に撮ったアスナちゃん単品の写真も、一緒に送ろうか?」「そうやね」2枚の写真のデータを添付したメールを作ると、「行ってらっしゃ~い」と呟き送信ボタンを押す木乃香。何を喋っているかわからないが、不穏な気配を感じたアスナが、「ちょっとあんた達、何してんのよ!?」「ん? さっき携帯で撮影した写真を、タカミチさんに送っただけだぞ」「はあ~!」アスナの叫び声が、公園に木魂した。アスナの声を聞きながら、木乃香が自分の携帯でダメ押しのメールを作り、タカミチに送信している。学園長室に急遽呼び出されていたタカミチは、「木乃香がな、木乃香がな今年はチョコをくれなかったんじゃよ」「…はあ」数回同じ事を聞かされたタカミチが、へきへきしながらも返事を返している。涙ぐんだ学園長が、イスに座りながら、「医者に止められてるとはいえ、渡すぐらいいいじゃないかのう。どう思うタカミチ君」「そうですね」「話を聞いてるかね?」「そう…はい、聞いてます」間違った返事をしそうになったタカミチに、学園長が疑わしげな目を向けていると、「そ、そうだ。まだ木乃香君にお見合いさせるんですか?」無理やり話題を変えようとしたタカミチだったが、変わらない目を向ける学園長に冷や汗を掻いていると、「そうなんじゃよ。今度はこの男とさせようとするんだが、どうかの?」机の引き出しから取り出した見合い写真を、タカミチに渡しながら、「家柄、学歴、容姿、すべて高いお買い得物件じゃ」話を逸らす事に成功したタカミチが安堵し、写真の男の履歴を見て、「しかし、前も同様な男性ではありませんでしたか?」「…うむ。なにがイヤなんじゃろうな?」考えこむタカミチが、自分の脳裏に思い浮かんだ男性の顔を思い、面白そうに笑うと、「毎回同じタイプではなく、たまには違うタイプの男性はどうですか。たとえば横島くんとか?」「なんじゃと」学園長の意外な平坦な声に、調子に乗った人選に怒らしてしまったかと考えたタカミチに、「…面白そうじゃな。木乃香にとっても、色々な男性を見せるのも悪くない」本気で熟考しだす学園長に、内心ほっとしたタカミチが、「これで、木乃香君が横島君を気に入ったら、もうお見合いはしなくてよさそうですね」「君は、馬鹿かね」「…何故ですか?」「木乃香があのような男、気に入るわけなかろう。悪い見本として見合いさせるだけじゃ」「えっと、学園長は横島くん嫌いでしたっけ?」久しぶりに見る真剣な目つきの学園長に、動揺したタカミチが率直な疑問をぶつけると、「いや、横島くんは好きじゃが、孫が付き合うなら反対じゃ」最初の頃はいいかもと思ってもいたが、冷静になり横島の記憶を思い返した学園長は、女にだらしない横島が、孫娘と付き合うのは大いに反対になっていた。可愛い孫が、悪い男に捕まり悲しむ姿を見たくはないという、爺心である。単純な疑問が浮かんだタカミチは、「もしですが、木乃香君が横島くんに好意を持ったら、どうするのですか?」「むむ」厳粛に受け止めてしまった学園長が、「…引き離すか…しかし、それでは…」と呟き頭から湯気が出始めている。そんなに悩む事なのかと、呆れているタカミチだったが、ポケットの中の振動に気がつき、「学園長、失礼します…横島くんか」タカミチは、軽い気持ちでメールを開き、添付されていた写真を見た瞬間、目をコレでもかと見開き硬直した。学園長が難問に直面してる中、(…この写真は本物か…横島くんがこんな事をするはずが…しかし、もし本物なら…)タカミチも、頭から煙を上げそうになりながらも、真偽を確かめるため写真を見つめていると、『ブブブブ』再びタカミチの掌の中にある、携帯が振動し『見ろ~見ろ~』と主張している。再び横島からのメールかと思う緊張から、震える手でメールの送信者を確かめると、「…木乃香君か…くっ!」メールの題名を見た瞬間、顔色が青くなりうめき声と共に直ぐに、内容を確かめるためボタンを押すタカミチ。内容を確かめた瞬間、荒れていたタカミチの心が、瞬時に静寂を取り戻すと、「学園長、横島くんについて悩む必要はありません」「む、何故じゃ?」まだ悩んでいた学園長が、タカミチの静かな呼びかけに反応すると、穏やかな笑みを浮かべたタカミチが、「それはですね。左腕に『魔力』…右腕に『気』…合成!!!」「な、何じゃ、敵か!」何気ない仕草で咸卦法を発動させたタカミチに、驚いた学園長が敵襲かと慌てて立ち上がる。周囲に気を配りだした学園長に、「なぜなら、今から横島くんを殺してきますから」「…な、何を言っとるのじゃ!」「あの子は、師匠から託された子であり、僕にとっても大切な子だ」タカミチは、師匠から託されたとき、心を閉ざしていたアスナと徐々に打ち解けてきたとき等、過去を思い出しブツブツと呟いている。穏やかな笑みを浮かべているが、目が暗く光り逝ってることに、気がついた学園長が、「ど、どうしたのじゃ、落ち着きたまえタカミチ君。そうだ、茶でもどうじゃ? 良い葉が手に入ったのじゃ」後頭部に汗をかいた学園長が、タカミチを落ち着かせるためにお茶を誘った。しかし、タカミチと目を合わせた瞬間、心臓を鷲づかみにされるような感覚に襲われると、「邪魔しないでください。邪魔するなら、学園長といえども…ただではすみませんよ」「うむ、行ってきなさい」ただ所か、学園最強である事を自他共に認められている学園長が、死にたくないためタカミチを快く送り出した。学園長の事など、既に気にも留めなくなったタカミチが、学園長室の窓から飛び出していくのを、静かに見送る学園長が残るのであった。タカミチに送られてきた、木乃香のメール内容は、『題名:助けて、高畑先生!』『本文:アスナが、バンダナのお兄さんにさらわれたんや、助けたって。場所は○▽公園や~』何故か攫われた場所まで特定していたが、思考が危ない方向に傾いているタカミチが、気づくことはなかった。自身の最高速度を更新しながらひた走るタカミチが、途中で見つけたとある生徒を拉致…もとい協力を求めた。そして、目的の公園から1Kmほど離れたビルの上に立ち、両手をポケットに突っ込んだタカミチに、「高畑先生、急に私を連れ去った理由を教えていただこう」あんみつのただ券を握り締めた龍宮が、横に佇むタカミチにイラつきながら問いかけると、「龍宮君、ちょっとあの公園にアスナ君と横島くんがいるか見てくれないか。僕では少し遠くてね」「それだけのために私を拉致したのか?」「見てくれないか」「…わかった」タカミチの静かな気迫に押された龍宮が、「くそ、あんみつ昨日から楽しみにしてたのに」と恨み事を言いながら、魔眼を発動させて公園を観察すると、「…いた。神楽坂と横島忠夫だ…それと、近…」「アスナ君の状態は?」他の人物の名を告げようとしたが、タカミチが妨げたために正直に、「木に縛られてるが」アスナの現状を伝えると、タカミチの咸卦法の力が増したのか、受ける圧力が増大する龍宮。居づらくなってきた龍宮が、「用件は済んだな。私は失礼する」さっさと去ろうとする龍宮に、「待ってくれ、龍宮君。報酬払うから、ちょっと横島くん狙撃してくれ」タカミチは、子供にお使いを頼むかのように、簡単に依頼を出すと、「報酬は?」「そのあんみつのただ券、50枚でどうかな」「依頼成立だ」負けず劣らず龍宮も簡単に受ける。数瞬で狙撃態勢を整え仕事の顔になった龍宮が、「悪く思わないでくれ、横島忠夫。なに麻酔弾だから、数時間後には起きれるさ」「ん? ダメだよ龍宮君、ちゃんと実弾で頭を狙ってくれないと」スコープを覗き、横島の胴体に狙いをつけ、後は人差し指を引くだけだったが、タカミチのいちゃもんがつき、「…は? すまないが、何で何処を狙えと?」龍宮は、スコープから目を離し、タカミチをキョトンとこの少女にしては、珍しい表情で見つめる。困った風に笑うタカミチが、物分りの悪い元生徒に、「うん、実弾を使用し、頭を狙ってくれと言ったんだ。心臓でも構わないよ。龍宮君ならこの距離でも余裕だろ」「た、たしかに余裕だが、生徒に人殺しを依頼するのはどうかと思うぞ。しかもこんな真昼間に」狼狽した龍宮は、いまさらながらただ券50枚で、安受けあいしてしまった事を後悔しはじめる。迷いが出始めた龍宮に、「ただ券、100いや200でどうかな?」ピクと体全体を震えさせた龍宮を確認すると、「300」先程とは違う迷いが出始めた龍宮が、どうするかとアスナたちに視線をやると、「何だ? 神楽坂が泣いているな」龍宮の眼には、俯き顔は見えないが力なくツインテールの先が、地に垂れたアスナの隠れた顔から、涙が数滴落ちるのが確認できた。龍宮が呟いた刹那、タカミチの気と魔力が増大し、龍宮の髪や服がその余波でバサバサと揺れ動く。しかし数秒後には、その余波がタカミチの体の周りに収束し、今まで以上にタカミチの気配が強くなり、「僕にも見えたよ…はっきりとね。いいよ龍宮君、僕がやる…無音拳では届かないか」タカミチの目にも、縛られたアスナと憎き横島の姿を捉えていた。木乃香や周りに居た一般人は残念ながら、文字通り眼中にない。無音拳の射程距離を越えるため、攻撃手段がないタカミチだったが、「なら、今この場で限界を超えてみせる」ポケットから手を抜き、眼を閉じたタカミチは左足を一歩前に出し、腰を落とし、左手を開き前に出し、右手を胸部横まで引いた。タカミチが自然と構えた格好は、空手の正拳突きの構えに酷似している。眼を閉じ無想していたタカミチが、眼をカッと開くと曇った表情のアスナと、アスナに近づき手を伸ばす横島の笑う横顔を捉えた瞬間、足首、膝、腰と順に回転させ、力を高めていった。さらに、高めた力をロスさせることなく肩から肘を稼動させ、左手を引くと同時に右手を前に突きだした。通常の正拳突きでは手の甲が上を向くが、タカミチは腕を捻り手の甲が内側をむいている。螺旋の力を得たタカミチの突きは、一直線に横島に跳んで行ったが、着弾を確かめる前に移動を開始するタカミチ。後にこの突きは、『衝撃のファーストブリット』と呼ばれる、かは不明である。一部始終を観察していた龍宮が、「私は何のために来たんだ? …一応確かめに行くか…凄いな正確に横面にぶつかったぞ」帰ろうとも思ったが結末を見届けようと、タカミチを追い動き出そうとした龍宮には、横島が盛大に吹っ飛ぶのが見えている。タカミチに捕捉される本の少し前の横島と木乃香は、「高畑先生、とても強いけど襲われてもだいじょうぶなん、お兄さん?」「平気平気、回避力には自信があるんでね。タカミチさんがココに来て、俺を襲っても逃げ回ってるうちに、木乃香ちゃんが事情説明してよ」「了解や、頑張って逃げたって」「わっははは、任せなさ~い」横島の高笑いに、木乃香も釣られて笑っていると、暗い声が二人の耳に響き、「あんた達ね、高畑先生が来る前提で話してるよね」「タカミチさんなら来るだろ。生徒大事にする人だし」何でそんな事を聞かれるかわからない横島と、横島の意見に頷いている木乃香に、顔を伏せてしまったアスナが、「高畑先生が優しいのは、私が誰よりも知ってる…だけど…それでもここに、こ、来なかったらって思うと…わ、私」もしこのような事をしてまでも、タカミチが現れなかったことを考えると、惨めな思いになってきて涙がポロポロと、重力に従い地面に落ちていった。親友が泣き出してしまい驚く木乃香と、アスナが意外に乙女なんだと認識した横島が、「大丈夫だアスナちゃん。あの人は絶対来るから。もしあのおっさんが、何かの理由でこれなかったら、俺が引きずってでも連れてくるから。安心しな」アスナを安心させるように冗談めかして言う横島に、涙で歪んだ顔を上げたアスナが、「…来てくれるかな?」「来るさ。だから安心して、アスナちゃんは捕らわれのお姫様をやってればいいよ」「…うん」二カッと太陽のように笑う横島に、アスナも少し笑顔を取り戻すのを横島が確認すると、アスナの肩を叩こうと近づきながら、「だから、大船に乗った気で安心してればいい。わははは『ドギョン!』ぐふっ」馬鹿笑いする横島の米神に、まるで車に引かれた様な衝撃に襲われた。吹き飛び近くの池で4~5回跳ねる横島、視界から急に消えた横島を探し首を廻すアスナ、笑ったままの木乃香が、「お兄さん、凄い芸やな。人間水切りやなんて」仰向けのまま池に浮かんでいる横島は、米神を押さえながら、木乃香の声に、「ぬお~~いってええええ。くそ、こんな芸は俺にはないわ!」多大なダメージにより上手く体に力が入らない横島は、この痛みに本の少し覚えがあり、「二人は無事か? 良かった無事だ。しっかしタカミチさんの技に似とる気がするが、こんな威力あったか?それにどっから攻撃されたんだ?」何とか顔を横に向け、アスナと木乃香の無事を確認し安堵する横島。回避力には、それなりに自信を持っていた横島だったが、知覚外の攻撃に全く反応できず、木偶のように攻撃を喰らった事に愕然としている。そして、横島の視界の隅に、どんどん近づいて来る人影に気がつくと、「…げっ…やっぱタカミチさんだ…や、やばい、あのおっさん表情は笑っとるが、目が逝ってる」どんどん接近してくるタカミチに、泣きながら横島が逃げようとするが、体に力が入らず動けずにいる。一瞬一瞬近づいてくるタカミチに、横島の本能が危険を知らせると、「ひょ、ひょえ~~ き、聞いとらんぞ! あのおっさんがここまで強くて凶悪なんて!?」公園内に飛んできたタカミチが、池の上空にて魔法陣を出現させ、浮遊しポケットに両手を入れていると、周囲の一般人の中から、「あの男、浮いてないか?」「ホントだ」「アレ、デスメガネじゃあないか?」周囲がざわつき始めるた。そして、これ以上喰らってはまずいと焦った横島が、「ちょ、ちょっと待ておっさん! 秘匿はどうした!」「あの子を守れるなら、喜んでオコジョになろう」魔法の秘匿すら無視する、タカミチの本気を感じた横島は、あまりの恐怖のためションベンをちびりながら、「ス、ストップ、こ、これには訳が…」「問答無用」「た、助けて~ こ、木乃香ちゃ…」横島が、木乃香に助けを求めきる前に、タカミチが動き出した。『ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、パン、ドン、ドン……ゴン!』無音拳(咸卦法Ver)を数十発連射し、その合間にアスナのロープを細心の注意を払い、切っている。池の水が、タカミチの手により吹き飛び水煙になった頃、アスナの横に降り立ったタカミチが、優しい目に戻ると、「何もされていないね、アスナ君」「は、はい」「よし、なら逃げるんだ。僕は横島くんを仕留める」「…えっ、ええ~」アスナの無事を確認したタカミチは、目つきを鋭い物に変え、狼狽するアスナに気がつかず、水煙の中心あたりにいるであろう横島の気配を探す。そして、観客となった木乃香が、「ほら、来たやん。良かったなアスナ。それからお兄さん、どこや?」タカミチと同じように、横島を探すため目を凝らしている。ちなみにこの時になると、周囲にいた野次馬達も全員逃げ出している。「や、やってられるか~ に、逃げなければ死ぬ。ここにタカミチさんが、現れたからもういいよな、な」奇跡的に爆撃のような攻撃から生還した横島は、ボロ雑巾のようにズタボロになりながらも、逃亡するため匍匐前進している。水煙に隠れながら、タカミチがいる反対岸の木々に隠れようとした時に、「邪魔だな『ブン』」タカミチが無音拳(咸卦法Ver)を一撃振るうと、周囲の水煙が吹き飛ばされ、「見つけたよ」ゴキブリのように、カサカサと逃げる横島を発見した。タカミチの声が聞こえた横島が、静止し『ゴクリ』と唾を飲み込み、そろりと後ろを見ると嬉しそうに笑うタカミチと目が合い、「横島くん、ありがとう」お礼を言い出したタカミチに、もしかして助かるかもと希望を見出した横島が、「い、いえ、どういたしまして。た、たいした事はできませんでしたが。では、ぼくはこれで失礼します」「君のおかげで、壁を一つも二つも越えられたよ。だから君の事は忘れないから、ここで死んでくれ」「くっそ、そんなこったろうと思ったよ~ か、堪忍して、家には俺の帰りを待つ、茶々がおるんだ。俺がココで死んだら茶々が悲しむ。それにまだ千雨ちゃん達の手料理が食いたいんじゃ!」未練たっぷりの横島が、同情を引こうとしたが無言のまま構え続けるタカミチ。「…やっぱ、無理か…くそ! こんな所で死んでたまるか!」そして、逃げるのは不可能と判断した横島が、立ち上がりタカミチとにらみ合うと、タカミチのポケットに入った両手から、禍々しい気配が溢れ出しているのに気がついた。タカミチの一挙手一投足に集中しだすと、横島の握り締めた掌の中が、光だし球状の物体を生み出し始めると、「いくぞ、横島くん。これが今の僕の全力だ」タカミチが両手を引き抜こうとした時、「ダメ! タカミチ」横島を守るため、タカミチの前にアスナが飛び出してきた。久しぶりにアスナから、『タカミチ』と呼ばれた懐かしさを思いながらも、既に技を止めることができない状態のため、少女に当てないように無理やり両手を外側に放つ。放たれた拳圧は、アスナの髪を揺らしながら、横島の両側数mの地点を、拳圧が木々をなぎ倒していった。後にこの両手突きは、『瞬殺のファイナルブリット』と呼ばれる、かはこれも不明である。当たらなかった安堵から集中が切れ、掌の物が形作る前に消えるのに気がつかず、その場に座り込んだ横島は、「た、助かった~ 正直、あんなん当たったら死ぬ」「おった、おった。お兄さん、大丈夫かえ?」「おう、何とか生きとるぞ」「うわ~ ボロボロやな」バタバタと心配そうに横島に近づくと、服の埃を払ったり、ハンカチで横島の顔を拭き出す。安全地帯でタカミチの奇行を観察していた龍宮が、横島達に近寄り、「何がどうなってるか説明してくれないか?」「龍宮さん?」「君は確か、狙撃巫女じゃあないか」前触れもなく現れた龍宮に、それぞれの反応をすると、木乃香が不思議そうに、「狙撃巫女? なんやそれ?」「ふふふ、何をふざけた事を言うんだい、横島さん。前に神社で言っただろ、龍宮真名だと(貴様、撃つぞ!)」「冗談、冗談だ! そうそう真夜中の神社で聞いたな(撃たんといて、痛いのはイヤじゃあ)」青筋を浮かべた龍宮が、木乃香の反対側に回ると横島のわき腹に硬い物を当て脅すと、冷や汗を流した横島が、言い訳を言ったが、「ま、真夜中に神社…」何を想像したのか、木乃香が赤くなると『ガン』「ぐえ」と、何かの着弾音と横島の呻き声聞こえ、「どうしたん?」「くう~~ な、何でもないぞ」わき腹を押さえプルプル震え涙目の横島、知らんぷりしている龍宮が、「どういう状況か説明してくれないか」「ええよ」木乃香が、今日の経緯を龍宮に説明すると、周囲を見回す龍宮が、涸れた池と倒れた木々を見て、「…迷惑な、バレンタインデーだな。おっ、神楽坂が何か渡したぞ」龍宮が、アスナがタカミチに何かを手渡してるのに気がつくと、木乃香が目を細め自分も見ようとしたが、「よう見えるな。まあプレゼント渡せたから良かったとしよ~」「アスナちゃんが幸せそうなのはいいんだが、こんだけやってただ働きは辛いな」横島のボヤキに、木乃香の頭の上に電球が閃くと、自分のバックを漁り、学園長にあげる筈であったチョコを、「ほい、これウチからの報酬や。食べてや」「おお~ マジか! ひゃほ~ 食べていいの?」「ええよ」乱暴に包装を解いて中身を食べ始める横島を、「ええ食べっぷりやな」「…何で普通のチョコを食べて、傷が治るんだ?」美味しそうにチョコを食べる横島を、うれしそうに見つめる木乃香と、いたって普通のチョコを食べているのに、傷が治る横島を見て不思議がる龍宮。そして、チョコを食べ終えた横島に、悪戯っぽく笑った龍宮が、「ふむ、横島さん、これも食べるか?」龍宮も、ちょっとした理由で持っていたチョコを、横島に渡すと、「おう、食う食う。嬉しいな、3つも貰えるなんて! 俺、今年にも死ぬんじゃあないかな~」あまりの幸運さに、死期が近いかもと思ってしまったが、目先のチョコに心奪われた横島が、ばくついていると、「ふむ、治るか。すごい体質だな」龍宮が、横島の能力に感心していると、木乃香が龍宮の腕をちょんちょんと突き、「なあなあ、あのチョコ誰に上げる予定だったん? まさか…」むふふと笑う木乃香が、クラスメートの恋話に関心を持っていると、「ああ、大学のトライアスロン部の方に貰ってな。どうしようかと思ったところだ」「ほえ、男の人から貰ったんか。ええな」「…いや、女性の方だ。何か食べるのが恐くてな」「それは、ご愁傷様やな」冷やかそうとした木乃香だったが、龍宮の言い分に、困った表情になっていると、「しかし、近衛。この男にはあまり深入りしない方がいいぞ」「どうしてや? 面白い人やん」「そうか知らないのか。この男が、最近クラスで有名な男だ」その言葉に驚いた木乃香が、あと少しでチョコを食べ終える横島の顔を見て、「じゃあこの人が、千雨ちゃん達の」「まあ、そういう事だ」そして、最近の千雨たちの顔を思い出した木乃香が、羨ましそうに、「最近元気なかったけど、みんな今日は幸せそうな顔しとったな」「…それは、認める」そんな会話をしていると、チョコを食べ終え、指を舐めていた横島が、「美味かった~ よし、お礼になんか奢るよ。何か食べたいもんある? 向こうもどっかに行くみたいだし」「そんなわる「あんみつだ!」い?」断ろうとする木乃香だったが、喜んで受ける龍宮。龍宮が、横島の腕を引いて甘味屋に連れて行こうとし、木乃香がついて来ないのに気がつくと、「早く行くぞ。甘味は待ってくれん」「…いや、待ってるだろ」「うう~ん、じゃあ言葉に甘えるわ。アスナ頑張ってな」木乃香は、親友に声援を送り、横島達について行くのであった。ちなみに、龍宮はあんみつ5杯・お汁粉3杯とかなりの量を食べたとさ。そして、アスナとタカミチは、「危ないじゃあないか、アスナ君!」危うく限界を超えた二撃をアスナに、当てる所だったタカミチが、冷や汗を掻きながらアスナに詰め寄ると、「うう、ゴメンなさい。でも横島さん、こ、殺したらダメ。ただ私を手伝ってくれただけなの」いまさらながら、危険地帯に飛び込んだ恐怖に震えるアスナに、今の言い分に引っ掛かりを覚えたタカミチが、「どういうことだい、アスナ君?」「その、これ渡したくて。横島さんと木乃香が、無理やりセッティングして」用意していたチョコとライターをタカミチに手渡すと、プレゼントの品とアスナの顔を見比べ、「これは?」「バレンタインデーのプレゼントです」そして、アスナが事情を説明すると、うなだれたアスナの頭をタカミチがポンポンと軽く叩くと、何かと思い顔を上げたアスナに、「食べていいかな?」「…うん」横島と違って、丁寧に包装を取り、チョコをゆっくり味わって食べるタカミチ。完食すると、ハラハラしながら見守っていたアスナに向かい、「美味しかったよ、ありがとう。こっちはっと、ライターか大事に使うよ」「ど、どういたしまして、高畑先生」「戻っちゃったか」「えっ?」懐かしい『タカミチ』と言う呼び方から、いつも通りの『高畑先生』に戻り、僅かに残念そうに独り言を言うタカミチに、聞き取れなかったアスナが、声を張ったが、「なんでもないよ。さてホワイトデーには、仕事の予定が入ってたから、今から何かお礼をするよ」「…でも」戸惑うアスナに、親しく笑いかけたタカミチが、「何でもいいよ。言ってごらん」「じゃ、じゃあ、高畑先生の手料理が食べたい」恥ずかしそうなアスナに、そんな物でいいのかと思うタカミチが、「えっと、ちょっと高めのレストランとかでもいいけど?」「ううん、久しぶりに食べたいの」首を振るアスナに、照れてきたタカミチも、頭を掻きながら、「わかったよ。とりあえず、冷蔵庫の中身が心配だから、一緒に買い物に行こか」「うん」こうして二人仲良く、戦地のような惨状の公園から、去っていく。こうして色々とあったが、無事終わったバレンタインデーだったが、数日後の学園長室にて、「大変な事をしたのう、一般人の前でああも魔法を使うとは」「申し訳ありません」頭を下げるタカミチに、更に学園長が、「もみ消すには、大分労力を使ったわい。それに一部魔法先生からも、苦情が来ての」「はい」今回の事は横島達の演技であったが、もし同じ事があったらまた、同様の事をする自信があるタカミチは、堂々と答えている。困ったと頭を振った学園長が、「罰を与えなければ、他が煩いからの。本国強制送還はせんが、オコジョに2週間ほどなってもらうぞ。君ほどの人材を失うのは、勿体無いからのう」「謹んで罰を受けます」数分後、魔法陣の上に一匹のくすんだ灰色の毛色のオコジョがいた。「さて、これで完了じゃ」「では、これから僕はどうすれば?」今日から一週間どうするか尋ねると、学園長が口を開く前に、『コンコン』「失礼しまーす。学園長、俺に用ってなんすか?」ノックと同時に入ってきた横島に、ニヤリとした学園長が、「聞けば君も関わってたらしいからの、そこのオコジョを2週間、飼ってほしいのじゃ」「…かまわないっすけど、何すかコイツ」横島が、オコジョを見下ろしていると、「こいつとは、酷いな横島くん」「…ぎゃー オコジョが喋った! …てっ、あんま驚く事じゃあないか、変な生物は結構居たしな。むしろ何で俺の名前を?」瞬時に素に戻った横島に、こけるオコジョと学園長。学園長が、経験豊富な子じゃたのうと思いながら、「それは、高畑君じゃよ」「へ、まじっすか?」「大マジじゃよ」オコジョが、横島の足元から器用に上り肩に落ち着くと、「すまないが、今日から一週間、よろしくお願いするよ」「へーい。じゃあ帰りますね」「うむ、すまんが頼むの」横島とオコジョが、「本当にオコジョにされるんすね」「僕も初めてなったよ。ちょっと動きづらいな」と、会話しながら出て行った。「そういえば横島くんは、猫を飼っていた様な? …まあいいか」大丈夫だろうと思った学園長が、溜まっている書類に印鑑を押す作業を始めた。横島のアパートに着き、部屋に入った瞬間、握り締められたタカミチが、「な、なにをするんだ、横島くん!」横島が、「ふっふふ」と悪い笑みを見せると、「この前の仕返しじゃあ」「なっ、アレは謝って、許してくれたじゃあないか」「謝って済めば警察は要らんわ。茶々、遊び道具じゃあ! 好きに遊べ」「にゃあ~」公園での出来事の恨みを晴らすために、前方にオコジョを放ると、白い悪魔(オコジョ視点)が腹に齧り付かれた。嬉しそうに鳴く茶々に、「新しい友達だ。名前は…ロリ畑・L・ロリミチだ。美少女が好きすぎて、オコジョになった哀れな奴だ。でも、殺しちゃあダメだぞ茶々」「にゃ~」言葉がわかるかの様に、返事をする茶々に、名前の訂正をしようとしたタカミチが、「違うぞ僕の名前は、ぐわ! 牙が食い込んできた。や、破れる! ひ、左腕に『魔力』…み、右腕に『気』…合成!」咸卦法により間一髪、防御力を底上げし何とか耐えたタカミチだったが、「うにゃあ~~(おもしろ~い)」程よい弾力が、むしろ茶々を喜ばしていた。ちょっとやり過ぎたかと思い始めた横島が、「ほい、終了だ茶々…茶々! タカミチさん持ってったら駄目~」「た、助けてくれ、横島くん。本気で殺る気だぞこの子!」本能に目覚めし茶々が、タカミチを咥え走り回るのを、必死になって横島が追いかけだした。これからの2~3日間が、コレまでの人生で最もタカミチが死を身近に感じた時である。3~4日目辺りから、茶々とも仲良くなり一緒に寝たりもしたが、寝ぼけた茶々が噛み付いてくるたび、横島が行き付けの病院に急行するのであった。