<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.14161の一覧
[0] 【習作】麻帆良に現れたクラウン(GS美神+ネギま+その他)[クランク](2010/11/14 23:00)
[1] 落し物を拾ったのは誰?[クランク](2010/03/21 22:45)
[2] 判明[クランク](2010/03/28 15:34)
[3] 対決 横島対タカミチ[クランク](2010/10/21 21:42)
[4] 出会い[クランク](2010/10/21 22:06)
[5] ナンパ成功?[クランク](2010/10/21 22:17)
[6] 初仕事[クランク](2009/12/13 01:46)
[7] デート?(午前の部)[クランク](2009/12/18 00:14)
[8] デート?(午前の部・2)[クランク](2009/12/26 22:57)
[9] デート?(終了)[クランク](2010/03/01 22:20)
[10] はじめての自宅訪問[クランク](2010/03/14 00:04)
[11] 動き出した主人[クランク](2010/02/22 21:48)
[12] プールに行こう 前編[クランク](2010/02/22 21:49)
[13] プールに行こう 後編[クランク](2010/02/22 22:06)
[14] 秘密がばれる時はこんなもんだ[クランク](2010/06/21 21:50)
[15] 大停電 前編[クランク](2010/03/14 00:20)
[16] 大停電 後編[クランク](2010/04/29 23:03)
[17] 本文で紹介されないのでココで、名前は「お市」 これ以降出る予定なし[クランク](2010/03/28 15:51)
[18] 次回もこんな感じで、短めの話を2~3つほど[クランク](2010/04/04 17:45)
[19] あと1人出す予定だが、5人でやめようかと思う今日このごろ[クランク](2010/04/11 00:30)
[20] 原作主人公来訪  だが出番なし[クランク](2010/04/29 22:15)
[21] またもや、出番なし。 次は出ると思われる  追加分完成[クランク](2010/09/05 20:53)
[22] 黒百合  出番あったが、今回は主人公が出番なし[クランク](2010/05/23 16:05)
[23] この二人の技の前に、作戦など不要[クランク](2010/05/23 16:26)
[24] 猫の友達はまだいます[クランク](2010/07/11 22:31)
[25] この話は今回では終わりません。申し訳ありません。[クランク](2010/07/11 22:29)
[26] スフィンクスは、ちょっと苦手(作者の趣味で申し訳ないですが)[クランク](2010/08/08 16:05)
[27] 見合い (前編) …前編では、全く見合いしません[クランク](2010/10/19 22:26)
[28] 見合い(後編)…題名に偽りあり。後編でも、見合いしませんでした。[クランク](2010/10/19 23:03)
[29] 母、張り切り 娘、悲しむ  (ちなみにアキラはバーサーカーモードです)[クランク](2010/11/13 23:00)
[30] 1人だけシリアスなお話[クランク](2010/12/05 23:00)
[31] お泊り (千雨が玄関に座ったら、ボディブローをくらい悶絶でした)[クランク](2011/03/24 23:37)
[32] 次回予告 『横島、少女に襲われる』[クランク](2011/02/13 22:36)
[33] 申し訳ありません、嘘つきました。違う話が出来てしまいました。[クランク](2011/03/24 23:53)
[34] 全く関係のない少女が、色々知ってしまう。(次回予告 関係のない少女、進路決まる)[クランク](2011/11/16 21:44)
[35] 一名と一体、参戦決定(別題:出席番号28の子は、どうなってしまうのだろう)[クランク](2011/12/28 17:03)
[36] 娘の友人には激甘な吸血鬼   (次回予告:原作より一話早く小動物登場)[クランク](2011/12/28 17:32)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14161] またもや、出番なし。 次は出ると思われる  追加分完成
Name: クランク◆6c156288 ID:6104f186 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/05 20:53
「…おはよう」

「ああ」

「千雨ちゃんも大河内も、ひどい顔してるよ」

寮組の3人が寮のホールに集まると、和美が二人の顔を見て素直な感想を言った。アキラと千雨は、
お互い寝ていないのか、目の下に隈ができており、髪もセットしていないためボサボサであった。
しかし、この状態は二人だけではないらしく、

「朝倉、鏡見ろ」

和美も一睡もできていないのか、二人に負けず劣らずひどい顔であった。和美も確認しようとしたが、
手鏡を持っていなかった為に携帯のカメラを代用し、自分の顔を映し見ると苦笑し、

「あは、ダメダメだね。二人ともシャワーにでも行こっか?」

「そうだな」

「…うん」

和美の提案に二人が同意し、眠いためか覚束ない足取りで浴場に向かおうとする背後を、

「ま、まずい、寝過ごした~ 約束の時間に遅れる!?」

間に合いそうにないためかクラスメートに気づくことはなく、人間の限界を軽く超える速度で、
アスナが走っていった。アスナの声を聞いた3人が、ノロノロと振り向くと足を動かす度に、
揺れ動くアスナの後ろ髪が目に入った。そんな姿を見送りながら、

「…いいな、神楽坂さん。横島さんと買い物行くんだ」

「「…・・・」」

つい考えを口に出して言ってしまったアキラであったが、他の二人も同じような事を思ったのか、
茶化そうとはせず小さくなっていくアスナに、羨望の眼差しを向けていた。そして、
アスナが見えなくなると和美が、自分の頬を『パンパン』と叩くと、努めて明るく、

「しょうがないよ、二人は付き合ってるんだから、デート位するよ~」

「…そうだね」

「気づかなかったな。横島さんの家に行くの迷惑だったよな」

千雨は、自分達がアパートに通っていた為に、付き合う二人の邪魔をしてしまったと、
思ってしまった。雰囲気が暗くなってしまったが、落ち込んでいても良くないと思ったアキラが、
気分転換の為に、

「…シャワー浴びたら、一緒に買い物行こ」

「いいね、行こ行こ」

「そうだな…ショッピングモールにでも行こぜ」

「はい、決まり。今日は、じゃんじゃん買ちゃお!」

「うん…」

3人は気を紛らわせるために、買い物を選択したのだが、奇しくも行き先が横島と被っていた。
そして、もう1人の少女・茶々丸は朝から超に呼び出されていた。

茶々丸は、超の研究室に赴くと、普段以上に冷めた声で、

「超、今日は何の用でしょう」

「茶々丸、待ってたヨ。今日は、このボディで一日行動してほしいネ」

超が用意したボディは、小学生低学年ほどの大きさの繋ぎ目のない、身体をしていた。
茶々丸は、似たボディの妹を知っており、あまりその妹にいい記録がなかった。違う箇所は、
ロングヘアーで体が少し大きい程度であった。だが茶々丸は、昨日のことが尾を引きずっており、
正常な判断ができていないのか、

「…わかりました。行き先などの指定はあるのですか?」

「そうね、ここで好きに買い物をするといいネ。お金は気にしなくていいカラ」

笑いながら超は、茶々丸に地図と財布を渡した。超の指定した場所は、事情を知っているのか、
知らないのか表情からは一切読めないが、行き先には横島達・アキラ達が行こうとしている、
ショッピングモールの地図が書かれていた。そして茶々丸が、ボディを入れ替えるため
機能を一時停止させると、超が作業をしながら、

「長かったヨ、お市の暴走で沢山のデータが飛んだから、作り直すのには苦労したネ」

超や葉加瀬としては、龍宮や那波クラスのスタイルのボディの作成をしたかったが、
多くのデータがなくなり、自身の目的のためにも、茶々丸のことだけに感けていられなく
なっていた。そのため、あいた時間を使い茶々丸の新型ボディを作成していた。そして、
遂に小型の身体が完成し、動作試験にたどりついたのである。

こうして、横島達・アキラ達・茶々丸(小学生ver)が同じ場所に、引き寄せられるように、
集まるのであった。


ちなみにこの状況の元凶でありながら、身体も心も傷ついていない千鶴は、

「ふんふ~ん」

機嫌よく鼻歌を歌いながら、湯煎している鍋をオタマで回していた。テレビを見ていた村上が、
甘い匂いに気づくと、

「何作ってるの、ちづ姉?」

「見ててわからない、夏美。愛の結晶を作ってるのよ」

「…はあ?」

「うふふ、チョコよチョコ。愛情をたっぷり込めてるのよ」

「ふ、ふ~ん、そっか、明日はバレンタイデーだもんね…(い、言えない、変な薬作ってる、
魔女にしか見えないなんて)」

「そうだわ、私の身体でチョコの型とってみようからしら?」

普段なら心すら読みそうな千鶴であったが、浮かれているためか村上の考えに気づかずに、
型のとり方とポーズについて考え出したが、

「動きそうで怖いから、やめて」

「あらあら、そうかしら? じゃあ媚薬でも入れようかしら」

「…頭大丈夫、ちづ姉…ちなみに、どこで手に入れるの、そんなの?」

「そうね、あやかにお願いするか、超さんに作ってもらうのも手ね」

「うっ…手に入りそう…」

あやかと超の名前が出た時、その二人からなら本当に媚薬を手に入れれる可能性があるため、
嫌そうに顔をしかめた。その後、村上の必死の説得のかいあり、人型チョコと媚薬入りチョコの
作成は流れた。もし横島が、その人型チョコレートを見たら、過去のことを思い出し、
脱兎のごとく逃げたであろう。


横島は、待ち合わせ場所である麻帆良学園都市中央駅前で、アスナを待っていると、
遠くから土煙があがっているのに気づいた。横島は、どんどん近づいてくる土煙に首をかしげ、

「何だアレ…ん、アスナちゃん?」

横島が目を凝らすと、待ち合わせ相手のアスナが必死の形相を浮かべ、土煙を発生させていた。
横島の手前まで爆走し、靴底をすり減らしブレーキをかけると、

「はあ…はあ…間に…合った、ぜえ、ぜえ…おはよう…ございます。さあ…行き…ましょう」

「とりあえず、行く前に何か飲もっか」

「は…い…お願い…します」

横島が微苦笑しながら提案すると、両膝の上に両手を置き肩で息をしているアスナは、
一も二もなく了承した。二人は、駅構内にある喫茶店に入り、20分程休憩してから目的地に向かった。
アスナは、待ち合わせ時間には間に合ったが、結局アスナのために出発時間は遅れる事になるのだった。

ひと息いれた二人は、電車に30~40分揺られ目的地近くの駅に到着した。電車から降りると横島は、
腕を上げ背筋を伸ばし、

「う~ん、着いたか。ショッピングモールって、こっから遠いの?」

「近いですよ、歩いて5分程度ですから」

「そっか、案内よろしく!」

「はいはい、行きましょう」

そして横島は、目的地に向かう短い時間を利用し、何を買えばいいかアスナと話し合った。

「どんなのがいいかな?」

「う~ん、そうですね。アクセサリーとかがいいんじゃないですか?」

「なるほど、そんじゃあの子達に似合いそうなの、選ぶの手伝ってくれよ」

「アドバイスはしますけど、基本は横島さんが選んでくださいよ」

「ああ…自信ないな」

ちょっと不安そうな表情をしている横島の背中を、アスナが「大丈夫、大丈夫」と気楽に言い、
歩きながら平手で3回背中を叩き横島に気合を入れた。


横島達が目的地近くの駅に着いた頃、千雨達3人は麻帆良学園都市中央駅で改札口を通り、
ホームに行くと茶々丸に似た小学生位の少女が、電車の時刻表の前に佇んでいた。3人は同時に、
少女に気がつくと立ち止まり、

「…あの子、この前の子かな?」

「どうだろ、髪型や身体の大きさが違うけど」

アキラと和美は、顔を見合わせながら、悩んでいると、

「多分アレ、茶々丸だ」

「何で判ったの?」

「あいつの雰囲気と、カンだ」

「…え? カン」

千雨の答えに、アキラと和美は疑わしげな目を向けたが、千雨はその視線を無視し少女に近づき、
少女の真後ろに立つと、『ぺチン』と頭をはたいた。それを見ていた二人は、千雨の行動に
アタフタしていたが、

「何してんだ、チビロボ」

千雨から暴行を受けた少女は、後頭部を擦りながら振り向くと、

「千雨さん、何をするのですか?」

「ほれ、茶々丸だろ」

近くまで寄ってきたアキラ達に、指差しながら茶々丸と証明したが、

「…いきなり、頭叩くのは良くない」

「違う子だったらどうすんのよ」

「ふん、本人だったからいいだろ…はぁ(やっぱ、コイツも落ち込んでんのか。いつもだったら、
簡単に避けるくせに)」

千雨は、グリグリと茶々丸の頭を撫でながら、言い訳の言葉を発していたが、茶々丸も
調子を落としているのに気がついてしまった。通常時ならまず当たらない千雨の攻撃を、
まともに受けたことで確信していた。茶々丸は、千雨の手から逃げると近くにいた、
駅員のところに歩み寄ると、駅員の袖を引き何か話しかけていた。

「「「?」」」

3人が不思議そうに眺めていると、茶々丸と手をつないだ駅員が近づいてきて、「あの子?」と
駅員が千雨を指差し茶々丸に尋ねると、「そうです」と茶々丸が頷いた。嫌な予感がした千雨が、
頬を引きつらせると、駅員が千雨の前に立ち、

「君、ダメじゃないか。こんな小さい子をイジメて」

「い、いやその…て、てめえ、このボケロボ、卑怯だぞ!」

「ちょっと駅員室に来ようか」

「お、おい、やめろ」

千雨は、駅員に腕をつかまれ抵抗むなしく連行されていった。和美とアキラは口を開けポカンとし、
茶々丸はハンカチを振りながら見送っていた。



千雨・買い物に行く事無く脱落



する事はなく、10分後駅員にこってり絞られたのか、憔悴した表情で3人の元に戻ってくると、

「遅かったですね」

「お前の所為だろうが」

千雨は、疲れているためか弱々しく返すのみであった。そして、元気のない千雨を見た、
茶々丸の次の行動は、

「人の胸を、揉むな。揉みたいなら、そっちのデカイのにしとけ!?」

茶々丸の手は、揉むというより擦っているという方が正しかった。しかし、そのような事は
千雨には関係なく、茶々丸の手を叩き落とすと、自分より大きいアキラと和美の胸を指し示した。
アキラは腕で胸を隠したが、和美は笑うと胸を茶々丸の前に突き出し、

「茶々丸ちゃん、揉む?」

「別に胸を揉みたいわけではありません。頭を撫でたいのですが、届かなかったのです」

茶々丸は、千雨に元気になってほしく頭を撫でようとしたが、今の身体では背が低く、
届かなかったために胸を触っていたのである。千雨は、茶々丸の意図に気がつくと、
勝ち誇るように笑っていた。千雨は、何かあるたびに茶々丸に頭を撫でられ、そのたびに
千雨はその手を払いのけていたが、今回はその必要がないために、

「はっはは、残念だったなチビロボ」

千雨は高笑いを浮かべながら、電車を待つためにホームに描かれている枠に並びだした。
茶々丸は、アキラのズボンを掴み上目遣いに、

「大河内さん、肩車してください」

「うん、いいよ…かわいい」

茶々丸の願いに、アキラは即答し直ぐに肩車した。アキラは、一瞬で茶々丸(小学生ver)の、
可愛さに屈したらしい。アキラが軽々と茶々丸を持ち上げると、

「ありがとうございます。では、千雨さんの後ろに行ってください」

「…うん」

「面白いから、撮っておこ」

茶々丸に操られたアキラが、千雨に近づくと茶々丸が手を伸ばし、千雨の頭を撫で「元気出ましたか」と
問うと、千雨はプルプルと震えだし、

「やめろってんだろー と言うか、どうやって…大河内テメエか!」

「…だってカワイイだよ」

「答えになってねぇ!?」

傍から見ていると楽しそうに思えるやりとりを、和美がデジカメで撮影しながら、何の気もなしに、

「面白そうだね、プリントしたら横島さんにも…あっ…」

「「「……」」」

和美の声が聞こえた3人は、先程までの騒がしさが嘘のようになくなり、動きを止めてしまった。
口を滑らした和美も俯き、気まずそうに千雨達の後ろに並び数分待つと、

「電車きたな」

「…うん」

「行こうか」

電車が止まりドアが開くと、3人は機械的に足を動かし、アキラがドアを潜った瞬間

『ゴン…ゴチン』「ぎゃ」

と、鈍い音が二回なった後に短い悲鳴が聞こえた。千雨とアキラが振り向くと、

「うう~」

額を撫で仰向けに倒れる茶々丸と、頭を抑え蹲りながら和美が唸っていた。アキラが、
茶々丸を肩車している事を忘れ、電車の中に進んでしまい電車の外壁に、茶々丸の額がぶつかり、
アキラの肩から落ちてしまった。そして、正面を見ていれば気がついただろうが、
残念ながら下を向き歩く和美が気づくはずもなく、落ちてくる茶々丸が頭に直撃した。
起き上がった茶々丸が、和美の頭を撫でると、

「大丈夫だから、乗ろ茶々丸ちゃん」

「はい」

和美は、頭を押さえながらも立ち上がり、アキラ達の後を追い茶々丸と一緒に電車に乗った。
電車の中では終始無言で、周りの人すら気まずくなるほどの空気をかもし出していた。


そして、横島達に遅れる事1~2時間、少女達もショッピングモールに到着した。既に4人は、
何も買っていないが購買欲が、尽きかけていた。しかし、ショッピングモールまで来ていたので、
一応見て回ることにした。そして、ある人物達を見ると、心底後悔し少女達は四つん這いになり、

「…何で居るの」

「ここが、デート場所だからだろ」

「ばれる前に、他の店を見に行こっか」

「はい」

少女達が見た者はもちろん、

「おっ、コレなんかどうだ?」

「う~ん、こっちもいいと思いますよ」

「それも似合いそうだな」

横島とアスナが楽しそうにブレスレットを選んでいた。少女達は、二人に気がつかれない様に、
コソコソと離れていった。

「コレがいいな」

「似合いそうですよね」

少女達のうち誰か1人でも動転していなければ、その会話の違和感に気がついたかもしれないが、
全員が一刻も早くこの場から遠ざかりたかったために、残念ながら気がつく事はなかった。
横島達が、誰かの為にプレゼントを選んでいることに。

そして、何故か少女達が移動するたびに、横島達が先回りをして商品を選んでいた。
横島は、少女達にあげる物を選んでいるうちに、気が紛れたのか知らず知らずの内に笑顔になっていた。
その嬉しそうな笑い顔を見た少女達は、あの場に自分もいたいと思ったが、二人の邪魔をしたくないため
、毎回そそくさと姿を隠した。しかし、遭遇回数が増えると、一緒に楽しそうに笑うアスナに、
嫉妬の念を送る少女が、少しずつ出てきた。

そして、さすがに来ないだろうと思いゲームコーナーに入ったが、

「あっ、この人形可愛いな。でもこういうの苦手だからな~」

楽しそうなアスナの声が響くと、一斉に慌てて目の前にあった、プリクラの筐体に逃げ込んだ。
転び逃げ遅れた茶々丸を、アキラが目にも留まらぬ速度で駆け寄り、抱きかかえて連れ込んだ。

「何でいるんだよ!?」

「知らないわよ」

「あの人形、私も欲しいです」

「…私も、人形欲しいな…横のイルカさんがいいな」

隙間から外を覗き込むと、クレーンゲームの前でトナカイの人形を、指差すアスナが見えた。
その光景を見てイラつく千雨と和美の横で、人形を欲しそうに眺めるアキラと茶々丸とにわかれた。
主に前者が、全力で嫉妬の念を送り、後者はまだ弱い念を送っていた。

横島が、その筐体を見回すとアスナに向けて、親指を立て歯を出し笑い、

「コレなら、任しとけ!」

「取れるんですか?」

「はっはは、軽い軽い」

ボタンを操作した横島は、楽々とトナカイの人形を獲得し、アスナにプレゼントするとアスナは、
喜び横島の腕に抱きついた。それが、止めであった。茶々丸の目が据わり、アキラの額に
井桁が浮かんだ。そして、全員からの嫉妬パワーをアスナが受信すると、彼女の身体が勝手に
震えだした。ガタガタ震えるアスナに気がついた横島が、

「アスナちゃん、震えてるけど大丈夫か?」

「何か、急に寒気が」

「うんじゃ、コレ着な」

「ありがとうございます…何だか、着たけど…さっきより寒い」

横島の上着を羽織ったが、寒気は治まるどころか更に酷くなっていた。心配した横島が、
アスナの肩を抱いたがもちろん逆効果で、アスナは極寒の地にいるような感覚に襲われていた。
ゲームコーナーから出てアスナをベンチに座らせると、横島が温かい飲み物を買いに行くため、
アスナから離れるとその寒気はピタリと止まったらしい。…恐るべき嫉妬パワー、この力は
魔法消去能力でも無効に出来ないようだ。

そして、最終的には覗き見ていた少女達は、

「…私達、何してるんだろう」

「何一つ買ってねえな」

「行こっか」

「……」

我に返った少女達が、プリクラの筐体の中での会話を終え、ゲームコーナーから出ると、
離れていく横島達の後姿が見え、

「横島さん、今日でいなくなるんだよね」

「そういう話だな」

「…さびしくなる」

「……」

3人の少女は、自然と目の端に涙を溜めていた。そして、無言だった茶々丸が、突然走り出すと、
迷う事無く一直線に横島に向かっていった。気がついた他の少女が止めるまもなく、
横島の背に飛びつくと、短い腕を精一杯伸ばし横島の背にしがみ付き、額を横島の背中に押し付け、

「いなくなってはイヤです」

横島は、急に背後から飛び掛られ、久しぶりに聞くが聞き慣れた声に驚き、首を後ろに向けながら、

「茶々丸ちゃん? …ちっこい?」

「イヤです、イヤです」

「? へ、へ、何?」

茶々丸(小学生Ver)の登場に、横島は困惑するのみだったが、茶々丸は「イヤです」しか言わず、
横島が途方に暮れていると、他の少女達もおずおずと近づいてきた。そして横島が、
少女達に気がつくと、

「アレ? 何でみんないるの? …泣いてる?」

横島は、目に涙を溜めていることを見て取ると、一瞬で青ざめると慌てながらも、

「ご、ごめん、俺またなんかやった?」

3人は答えず、少しずつ距離をつめていった。後数歩まで来た少女達に、気圧された横島が一歩下がるが、
少女達が伸ばした手が横島の服や袖を捕まえるほうが早かった。

「私まだ、横島さんの服作ってない」

「…まだ恩返してません」

「夜の取材また付き合ってよ」

それぞれの思ったことを口にした後、

「「「だから、行かないで」」」

最後に願いを口にすると、茶々丸のように額を横島の身体に当てた。

そして、訳がわからない横島が、口を開けポカンとしているアスナに、アイコンタクトすると、

『何この状況?』

『私に聞かないで…すごくいずらい』

アスナは、とても居心地の悪い空気の中、何とかその場に止まった。


少女達が、冷静さを取り戻し話を聞くと、

「今日でいなくなるって聞いたから」

「誰が?」

「…横島さんが」

「…はぁ!?」

「最後に神楽坂とデートして、プレゼント貰うって話だ」

「何で私が、デートしてプレゼントすんのよ」

「付き合ってるって情報が入ったのよ」

「私は、高畑先生一筋よ!」

「…付き合ってないの?」

「「ない」」

横島とアスナの声が綺麗にハモると、少女達は安心したが、もう一つの重要事項である、

「いなくなるって話は?」

「まだ、その予定はないぞ」

3人はホッとし力が抜けた。ちなみに、一言も話していない茶々丸は、コアラのように
横島の腹にしがみ付き、離れなかった。

その後、アキラと茶々丸にせがまれ、クレーンゲームで人形を取ったり、みんなでプリクラを取った後、
カラオケで横島が美声を披露した。そして遊び終え食事も済ませると、横島がそれぞれの少女に、
プレゼントを渡しながら、

「ごめんな、この前はヒドイこと言っちまって。コレ、日ごろの感謝とお詫び。
一日早いけどバレンタインデーのプレゼント」

渡されたプレゼントを、4人は心の底から喜び、その場では開けず、自室に帰ってから
ニコニコしながら開封した。


帰り道は、横島の左側で和美が腕を組み、右側では服の袖を千雨がしっかり掴んでいた。
そして肩車されている茶々丸は、横島の頭に手を置いていた。アキラは数歩離れ、アスナと歩いていた。
アスナは、横島を示しながら横のアキラに、

「大河内さんは、くっ付かなくていいの?」

「…大丈夫、ジャンケンに勝ったから」

勝利のVサインを向けてくるアキラに、アスナは更に不思議に思ったため、

「何で? 勝ったなら、横とれば良かったじゃん」

「すぐわかる…」

「ふ~ん」

アスナのちょっとした疑問は、電車に乗り込むと直ぐに答えがわかった。空いていたボックス席に移動し、
席に近づくと示し合わせたように千雨と和美が、残念そうな表情をしながらも潔く離れた。
4人席のため遠慮していた横島を、アキラが両手で背中を押し奥に無理やり押し込んで、
強制的に座らせると、

「…横、失礼します」

「私は、腿の上を」

アキラが横島の横の席を取り、茶々丸が横島の有無を確認せず、靴を脱ぐと横島の腿に横向きで座り、
左半身を横島の胴体に預け、横島の上着を握った。一方和美と千雨は、

「「ジャンケンポン…あいこでショ・ショ・ショ!」」

と、横島の正面に座るため、熱戦を繰り広げていた。ちなみに、勝者は千雨であった。
負けた和美は、無念のため開いた右手を悔しそうに見つめていた。

そして、電車は動き出して数分も経つと、座席に座れなく立っていたアスナが「くっくく」と
笑いながらも、声を抑えながら横島に話しかけた。

「良かったですね。仲直りできて」

「…ああ」

横島も安堵の笑みを浮かべながらも、身動ぎすることなく囁くように声を発した。

「でも、どっかに行こうとしても、無理かもしれませんね?」

「やっぱ、そう思う?」

「そんな姿見たらね~」

「…はは」

アスナの言葉に横島は力なく笑うしかなかった。微動だにしない横島の現状は、左肩に
アキラの頭が乗っかり、正面の千雨は腕を伸ばし、横島が膝に乗せていた手を自身の手で
重ね掴んでいた。そして、和美は腕を伸ばし横島のズボンを掴んでいた。3人は前日、
寝ていない為の疲れと、横島が傍にいる安らぎから、直ぐに「くー」「すー」と寝息を立て、
眠りながらも横島を逃がさないように、しっかりと捕獲していた。

そして、横島はアスナに聞こえないようにボソッと、

「この子達がいるなら…こっちもいいかもな…う~でもこの子達に手を出すのは、悪者だよな…」

向こうに帰る意思が大分弱まってきていた。少女達の鎖が、しっかりと横島を捕まえだした。
しかし、誰にも聞かれていないと思った独白は、

(いなくならないようで良かった。しかし、悪者とは何の事でしょう?)

目をつぶりながらも、しっかりと起動していた茶々丸は、横島の呟きに安心していたが、
最後の単語の理由がわからず、内心首を傾げた。

ちなみに、麻帆良学園都市中央駅についても3人は、起きる気配を見せずにいた。茶々丸も、
少しでも一緒に居たかった為に、動こうとしなかった。横島は、彼女たちを起こすのを躊躇い、
動けなかったがそんな横島を尻目に、アスナは横島を裏切りさっさと、1人で帰っていった。

一時間後、目を覚ました少女達は、起こさなかった事に謝る横島に、誰一人文句を言わなかった。
何故なら、もう一時間以上、横島と一緒にいる大義名分が出来たためである。ちなみに、
戻るための電車では、和美がジャンケンに勝利し喜んでいた。

後日、学校の屋上から縄で縛られ吊るされ、悲鳴をあげるとある双子の姉妹がいたとか。



あとがき

今回、何となく書きたくなったので、あとがきを初めて書かせていただきます。
ふう、横島戦闘しないな。戦ったのは、斉天大聖、タカミチ、不良軍団(戦ったか微妙)、
茶々丸(これも微妙か)、小太郎、式神使いとその相方か。22話作って、6~7話位か。
横島に武器使わせたくて書き始めたのに、全く使用しない現状。処女作って難しい。

ちなみに今回、茶々丸のボディを小さくしたのは、電車の席のためだけです。
それだけの理由のためです。

あと少しで、吸血鬼編に入るつもりです。ドッジボールの話と、もう一話。気が向いたら、
もう1~2話増えるかもしれませんが、その後、吸血鬼編だと思います。あと改訂をする必要もあるな。

以上。

今回は、こちらでレス返しさせて頂きます。

コンテナ様、空飛ぶ箒の話は記憶にありましたが、そこまで覚えていませんでした。
今度、読んで見ます。愛子も泣かしていたのか。

Citrine様、千鶴は釣れたというか、釣ろうとしたが小さくって見逃したら、
勝手にクーラーボックスに飛び込んできた感じです。

>床屋は…申し訳ないですが、お疲れ様です、としか言えないです。

良様、6人目を出す前に4人が告白したら、唯でさえ最初の4人との差がありすぎるので、
こんな話になりました。

ありゃりゃ様、アスナデート騒動は、今後どうなるか謎です。時系列的には、ホレ薬後です。
『4時間目、キョーフの居残り授業!』の時です。朝倉は、原作でもネギを取材しだしたのは、
修学旅行ですので、どうしよう。






何もなしにあげるのは、あまりよくないと思うので、ちょっと追加

バレンタイン当日 初期ヒロイン4名、出番なし


2月14日の早朝、横島は深夜警備の仕事から帰宅し、さっさと寝るために服を脱ぎ捨て下着姿になり布団を敷いた。
そして、横になり寄ってきた茶々が腹に乗り目を瞑ると『ピーンポーン』と、チャイムの音が響き渡る。
眠りを邪魔したわずわらしい音に横島が、イライラしながら半目になると、

「うっせえな、どうせたいした用じゃあないだろ」

尋ねてきた人物を無視する事を決め、目を閉じると『ピーンポーン』と再びチャイムが耳に入ってきた。
対応しなければ諦めると思った横島だったが、『ピピピピピーポーン』とチャイムが連続で押された。
横島の頭から『プチ』と何かが切れる音がすると、腹部に茶々がいるのも忘れ跳ね起きた。腹部にいる茶々が
転がっていくのにも気がつかず、『ドカドカ』と足音荒く玄関に突進する。そして、いまだに『ピピピピピ』と
鳴る音源をとめるため、ドアを蹴り開け、

「じゃかわしいわ~ 新聞の勧誘とかだっ…た…ら」

怒鳴りながら表に出た横島だったが、高速で指を動かす人物を見ると、途中で言葉が喉から出なく
なってしまった。驚いた横島が、その人物を指差し口をパクパクさせていると、やっと指を動かすのをやめた人物が、

「おはようございます。忠夫さん」

『ピーンポーン』と間抜けな電子音をBGMにし、こぼれるような笑みを浮かべた少女・那波千鶴が、
挨拶と共に下着姿の男に頭を下げるというレアな光景である。驚愕のあまり怒りがどこかに飛んでいった横島は、

「お、おう、おはよう…えっと、たしか那波さ「千鶴と呼んでください」」

しどろもどろになった横島が、少女の名前を確認するため『那波さん』と言おうとしたが、ニコニコ顔の
少女に途中でさえぎられてしまう。そして、少女の異様な迫力に押されそうになりながらも、

「…那波千鶴さんだったね。んで、千鶴さ「呼び捨てで結構ですよ」…千鶴は、何でここにいるの?
それに、住所はどうやって調べた?」

「住んでる場所は、政樹君に聞きました。尋ねた理由は、コレを渡すためです」

横島は、『あのガキなに人の住所教えとんじゃ~』と思いながら、千鶴がカバンから取り出した袋を、
反射的に受け取っていた。困惑する横島が、中身を聞こうと思った矢先、

「可愛い猫ですね。飼ってるんですか?」

「ああ」

さきほど横島に跳ね除けられた茶々が、横島を追いかけ玄関から顔を出してきているのに、
気がついた千鶴がかがんで茶々を見据えた。すると、千鶴の背後を見て目を真ん丸くした茶々は、
何を思ったか『コロン』と転がり、千鶴に対してバンザイし腹を見せている。横島に対しても
よくやるポーズであり、その場合は構って、遊んでの意味合いが強かっのだが、今回は服従に近く
『あたちは無害ですよ、何もしませんよ~』と体を使って表現していた。

茶々が、千鶴の背後に何を見たかは謎。

千鶴は、茶々のプニプニしたお腹を楽しそうに撫で回している。猫の毛並みとお腹を堪能した千鶴が、
手と目を放した隙に茶々は、そそくさと家の奥に引っ込んでいった。手持ち無沙汰の横島が、
耳元に持ち上げた袋を『ガサガサ』と揺すっていると、立ち上がった千鶴が右手を頬に当て、

「今日はバレンタインデーなので、チョコを持ってきたんですよ。手作りです」

「…なに~! チョ、チョコを俺に?」

信じられない横島が、両手にしっかりと持った袋と千鶴を交互に何度も見比べている。
横島の行動を悪戯っぽく微笑み見る千鶴が、横島から袋を一旦返してもらい袋から箱を取り出すと、
千鶴は中身を横島に見えないように隠しながら、パズルのように区切られていたチョコの一部を
取りだした。そして、取り出したチョコをまだ呆然とし、口を開ける横島の口に入れる千鶴。
一瞬、何を入れられたかわからなかった横島だったが、口の中で広がる甘い感覚に思わず、

「…ウマイな…そういえば、普通のバレンタインて初めてかも」

「…? お口に合う様ですので、良かったです」

横島の脳裏には、『自作自演チョコ疑惑』『等身大チョコ事件』の記憶が蘇り、彼の数多いトラウマを
思い出していた。実はもう一つ『ホレ薬混入チョコ』でも酷い目にあっているのだが、幸いにして思い出せていない。

チョコを食べ何故か号泣の横島にビックリした千鶴だったが、チョコの味は問題なかったようなので、
ホッと胸を撫で下ろした。そして携帯で時間を確かめた千鶴が、箱を閉じ袋にしまい、

「学校に遅刻してしまいそうなので、そろそろお暇させていただきます」

俯きながら涙をゴシゴシと腕で拭く横島だったが、根性で顔を上げ、

「おう、気をつけていくんだぞ!」

「はい。それと、一つお願いしてもいいですか?」

「何でも言いなさ~い。今だったら、悪霊しばいたり、嫌いな奴に呪いかけるのも、タダでしちゃるぞ!」

浮かれた横島が、こちらの世界の関係者に聞かれたら拙い発言をしたが、

「悪霊や呪いはわかりませんが、今度こそデートしてください」

「はっはは~ そんな事か軽い軽い。でっ、いつがいい?」

「日時はこちらから連絡します。では失礼します」

キレイにお辞儀した千鶴が去っていくのを、手を大きく振りながら見送る横島が、

「やった~ 普通のチョコじゃあ~ 人類には小さな一歩だが、ワイにはワイには、大きな飛躍じゃあ!?
しっかもデートじゃデー…は? …デ・ー・ト…」

驚愕の表情で動きを止めた横島は、先程軽くデートの約束をしていたが、自分の発言でやっと事の重要さに
気がついたようである。その後横島は、思考と動作を停止し数十分ほど彫刻と化していた。

ちなみに、横島にはわからない事であったが、横島が食したチョコには『鶴』の文字が書かれていた。


そして、再び動き出すことが出来るようになった横島は、とある事を思い出していた。それは、
明日菜との買い物である。

「アスナちゃん、タカミチさんにチョコ渡せたんかな?」

横島が、明日菜に少女達へのプレゼントを選ぶのを手伝ってもらう時に、明日菜もタカミチへの
チョコを購入していたのだが、

『はは、こんなの買っても渡せないんだけどね』

いつも元気良く笑う明日菜が、はじめて横島の前で力なく自嘲気味に笑うのを見てしまったので、
ひどく印象に残っていた。そして、この男の口から信じられない言葉が吐き出される。

「渡せそうにないなら、チョコ渡すの手伝うか」

モテル奴は『死んでしまえ!』と言って憚らないこの男が、男にチョコを渡すのを手助けしようと
しているのだ。これは、困ったときにアドバイスをくれた明日菜と、日ごろ何かと世話になっているタカミチ、
そして自身がチョコを貰えた嬉しさ、この3つが揃ったために起こった化学反応である。
どれか一つでも欠けていたら、この現象は起きなかった発言だと思われる。

「学校が終わったら連絡するか。それまでは、一先ず寝よ」

大きな欠伸をした横島は、部屋に入って行き隅っこにいた茶々を抱き上げると、数分後には一緒の布団で
寝息を立てるのであった。



桜通りを並んで歩くアスナと、ニヘラ~と笑う木乃香が、

「なあなあアスナ」

「…何よこのか、変な顔で笑って」

イヤな予感がしたアスナは、横目で木乃香を見ていると、

「高畑先生に、チョコ渡したん?」

「ぐっ…も、もちろんよ! すっごく喜んでくれたんだから」

胸を張り腰に手をあて、「はは、はっはは」と笑い声をあげるアスナを、木乃香がちょっと気の毒そうに
親友を見つめ、バックから四角形のピンク色の箱を取り出し、

「えっと、じゃあコレは食べていいん?」

「ぎゃー ダメに決まってんでしょ! 何であんた持ってんのよ。ああ! しかも去年のライターまで~」

手早く木乃香から箱を奪い返し、目ざとく木乃香のバックの中にある、去年渡せなかった見慣れた
小さな箱(シンプルなシルバーのジッポライター)も見つけていた。邪気の無い笑顔の木乃香が、

「アスナの机の中に落ちてたんよ」

「それは、しまってたって言うのよ!」

般若の形相で親友に詰め寄るアスナに、笑みを引っ込め心配そうに、

「ええの? 高畑先生にチョコわたせんでも?」

親友の言葉に顔を伏せるアスナが、

「…渡したいわよ」

下を向き顔を赤く染めるアスナを見て、木乃香が『あっはは、かわええな~』と密かに思いながら、

「じゃあ、高畑先生に電話しよ~」

「え~と、急に電話しても高畑先生に迷惑でしょ」

「先生なら気にせんから、大丈夫や~」

やんわりと木乃香が、アスナに電話をかけるように説得するが、普段は強気の少女であったが、

「で、でも、出てくれなかったら…」

一転、弱気な乙女にチェンジし、何かと理由をつけては拒否している。アスナにとっては、
電話をするだけでも高難易度の試練であるらしい。

困りへの字口になった木乃香が、何かいい手はないか考え込んでいると、

『ピロリロリロリ』

アスナの制服のポケットから、着信音が響くと、

「高畑先生かな?」

「…そんな訳ないでしょ」

否定しながらも、どこかタカミチからの電話かと期待したアスナが、本の少し緊張しながら、
携帯画面に表示された名前を確かめると、

「…はあ、ほら違うじゃん」

残念と安心半々の気持ちのアスナは、肩の力を抜いて画面を木乃香に見せ、表示されている名前を確かめた木乃香が、

「ん~と、横島忠夫さんって、たしか同じバイトの人やっけ?」

「そ、何の用だろ? バイト代わってほしいのかな」

何度かアスナから聞いた事があった名なので確かめる木乃香。肯定の返事と共にアスナは、
内容を予測し電話に出ると、

「はーい、何ですか? 横島さん」

この電話を節目に、気分を入れ替えようとしたアスナだったが、

『アスナちゃん、タカミチさんにチョコ渡せた?』

「あんたもか!?」

『へっ、何が?』

挨拶もそこそこの横島の質問に、話題を変えられると思っていたアスナは、当てがはずれ携帯を両手で持ち
怒鳴りつけている。大声を出すアスナに、興味を引かれ耳を携帯に近づけ会話を聞こうとする木乃香。

ブスとしたアスナが、不機嫌を隠そうともせず、

「渡せてないですが、それがどうかしました。度胸の無い私を、笑いたいなら笑っていいですよ!」

何故こんなにもアスナが、ヤケクソ気味なのかちっともわからない横島は、軽くビビリながらも、

『笑わないけど…ただチョコ渡せてないなら、手伝おうと思ったんだけど、いらないかな~?』

「いりま「いりま~す。桜通りにおるんで、直ぐ来てくれないやろか?」ちょっ木乃香、あんた何勝手に」

アスナが、余計なお世話とばかりに断ろうとするも、言い切る前に木乃香が援軍を頼んでしまった。
焦るアスナが、木乃香から急いで離れたが、

『よし、じゃあ直ぐ行くわ! …可愛い声だったな~ どっかで聞いたことあったような?』

しっかりと木乃香の願いは、この男の耳に届いている。そして、アスナと共に居る少女に期待しながらも、
何かが引っ掛かっている横島。

「ま、待って横『プツン・ツーツー』…話は最後まで聞けー」

目を吊り上げたアスナが、聞こえていないとわかっていても、イラついたため携帯に怒鳴っている。
怒れるアスナに満面の笑みを浮かべた木乃香が、親友の肩を叩き、

「それじゃあ、ココで待とうか」

「…これで渡せなかったら、恨んでやる」

「なんとかなるやろ」

アスナは、恨めしい目で木乃香を見つめたが、のほほんと返されてしまう。木乃香の緩い雰囲気に、
感化されためか、

「まあいいわ。あんたは誰かに渡さないの?」

少し毒気が抜けたアスナが、男っ気の無い友人を茶化す様に言ったが、

「渡す予定やったんやけど、今年はダメだったわ」

「…ほえ、こ、木乃香、チョコ渡したい人いたの?」

「毎年あげとるえ。今年のはコレや」

「うそ…全然知らなかった。だ、誰よ?」

チョコを取り出しながら言う木乃香の予想外の答えに、友人に先を越されていると思いがっくりしているアスナ。
しかし、気を取り直すと木乃香の想い人を聞くと、

「おじいちゃんやー でも今年は、甘い物お医者さんに禁止されてたんよ。知らなくって今日持ってたら、
しずな先生に止められてな」

「ほっ、じじいか…でっ学園長の反応は?」

木乃香の答えに安心したアスナが、学園長のリアクションが気になり問いかけると、

「泣いとったで」

「はっは…ちょっと気色悪いわね」

いい年した爺さんが孫にチョコを貰えなく泣く姿を想像すると、幼少時から世話になっており感謝もしていたが、
つい本音が出てしまった。そしてアスナたちが、立ち止まって話していると、

「アスナちゃん、おまたせ~」

「横島さん本当に来たんだ。正確な場所教えてなかったのに、早かったですね?」

「ああ、桜通りを走ってれば会えると思ったからな」

「いい汗かいた~」とぬかしている横島を、『場所ぐらい聞けばいいのに。私も馬鹿だけど、
この人もっとアホだ』とアスナの目が語っている。呆れるアスナに気がつくことのない横島が、木乃香の顔を見ると、

「おお君か、聞いたことある声と思ったよ」

「あれ? 木乃香、知り合いなの」

木乃香に対して嬉しそうに、手を振る横島を見たアスナが、困惑気味し友人に確認すると、

「え~と…」

ちょこっと首をかしげた木乃香が、「ああ~」と頷きポンと手を叩いた。木乃香が覚えていると思い、
表情を緩めた横島だったが、

「10年位前におおた事のある、親戚のお兄ちゃん?」

「…誰じゃそら。ほら半年位前にあってるんだけどなあ。道に迷ってるときに、地図を書いてもらったんだけど、
覚えてないかな?」

「ん~ すまんな、覚えてへんのや」

申し訳なさそうに誤る木乃香に、気にしない気にしないと笑う横島が、

「会ったって言っても、5分位だったからしょうがないか。俺が覚えてるのも、可愛い子だったし」

「ややわ、お兄さん。そうそうウチは、木乃香って言うんやよろしくな」

照れた木乃香が、どこからともなくトンカチを取り出し突っ込もうとしたが、「あかんあかん、
おじいちゃんやないから」と呟き、トンカチをバックにしまい掌でバシバシと横島の背を叩いている。
美少女とのスキンシップに笑っている横島と木乃香を、ジーと見ていたアスナが、

「二人とも、これから何するかわかってるの?」

「チョコ渡すんだろ」

「アスナ、わかりきったこと何聞いてるん」

普通に返されてしまったアスナは、無性にイラつきながらも深呼吸し落ち着くと、

「…わかってるならいい」

これ以降、黙ってしまったアスナをおいて、横島と木乃香はチョコの渡し方で盛り上がり、

「じゃあ、この方法に決定や~」

「よし、公園に移動するか。成功を祈って、ファイト!」

「イッパツやー」

「……」

話の中心のはずであるアスナを置いてけぼりに、気合十分の二人である。


二人に引っ張られ、公園に到着したアスナは、5分と経たずに後悔し、

「何で私は木に縛られてるのよ!?」

公園に入り1~2分ほど散策すると、木乃香がアスナの手を引き太めの気の前に立たせ、アスナが疑問に思うまもなく、
横島が手馴れた動きでアスナだけを縛り付けた。

木に縄で縛り付けられ、周囲の一般人から奇異の視線を集めているが、意識しないように二人に怒鳴りつけるアスナ。
そのアスナの姿を携帯カメラで撮影しながら、小悪党のように笑う横島と、『演技の練習中やで~ 気にせんといてな』と
書かれたプラカードを持ち、アスナに背を向け周囲に笑いかけていた木乃香が振り返り、

「そういうシチュエーションやん」

「どんなシチュエーションよ! 説明しなさい」

わからんかな~と思った木乃香が首を振りながら、

「しょうがないな。この状況は変態さんに扮する、お兄さんに捕まったアスナが、色々省いて
高畑先生に救出される王道ストーリーや~」

木乃香が、薄い胸を張りながら力説すると、段々と頭が痛くなってきたアスナが、

「流れに任せたとはいえ、この二人を頼ったのが間違いか…横島さん、気色悪いんで、
指を動かすの止めてくれません?」

様々な角度からアスナを撮り終えた横島は、携帯を木乃香に渡すとアスナの目の前で、指をワキャワキャと
激しく動かしている。

「まあまあ、いいじゃん。それにコレ、茶々が好きなんだ。腹コレで触ると喜んで喜んで」

「いや、そんな情報いらないし、猫と一緒にしないで」

目つきが鋭くなってきたアスナと、卑猥に指を動かす横島のツーショットを、何枚かカメラに撮り保存した木乃香が
メールを作成していると、変態に扮するお兄さんが近づいて来ると、

「今からこの写真送るで」

木乃香と一緒に、ツーショットの写真を見た横島は、

「う~ん、ちょっとアスナちゃんの顔がわからんな。最初に撮ったアスナちゃん単品の写真も、一緒に送ろうか?」

「そうやね」

2枚の写真のデータを添付したメールを作ると、「行ってらっしゃ~い」と呟き送信ボタンを押す木乃香。
何を喋っているかわからないが、不穏な気配を感じたアスナが、

「ちょっとあんた達、何してんのよ!?」

「ん? さっき携帯で撮影した写真を、タカミチさんに送っただけだぞ」

「はあ~!」

アスナの叫び声が、公園に木魂した。アスナの声を聞きながら、木乃香が自分の携帯でダメ押しのメールを作り、
タカミチに送信している。



学園長室に急遽呼び出されていたタカミチは、

「木乃香がな、木乃香がな今年はチョコをくれなかったんじゃよ」

「…はあ」

数回同じ事を聞かされたタカミチが、へきへきしながらも返事を返している。涙ぐんだ学園長が、
イスに座りながら、

「医者に止められてるとはいえ、渡すぐらいいいじゃないかのう。どう思うタカミチ君」

「そうですね」

「話を聞いてるかね?」

「そう…はい、聞いてます」

間違った返事をしそうになったタカミチに、学園長が疑わしげな目を向けていると、

「そ、そうだ。まだ木乃香君にお見合いさせるんですか?」

無理やり話題を変えようとしたタカミチだったが、変わらない目を向ける学園長に冷や汗を掻いていると、

「そうなんじゃよ。今度はこの男とさせようとするんだが、どうかの?」

机の引き出しから取り出した見合い写真を、タカミチに渡しながら、

「家柄、学歴、容姿、すべて高いお買い得物件じゃ」

話を逸らす事に成功したタカミチが安堵し、写真の男の履歴を見て、

「しかし、前も同様な男性ではありませんでしたか?」

「…うむ。なにがイヤなんじゃろうな?」

考えこむタカミチが、自分の脳裏に思い浮かんだ男性の顔を思い、面白そうに笑うと、

「毎回同じタイプではなく、たまには違うタイプの男性はどうですか。たとえば横島くんとか?」

「なんじゃと」

学園長の意外な平坦な声に、調子に乗った人選に怒らしてしまったかと考えたタカミチに、

「…面白そうじゃな。木乃香にとっても、色々な男性を見せるのも悪くない」

本気で熟考しだす学園長に、内心ほっとしたタカミチが、

「これで、木乃香君が横島君を気に入ったら、もうお見合いはしなくてよさそうですね」

「君は、馬鹿かね」

「…何故ですか?」

「木乃香があのような男、気に入るわけなかろう。悪い見本として見合いさせるだけじゃ」

「えっと、学園長は横島くん嫌いでしたっけ?」

久しぶりに見る真剣な目つきの学園長に、動揺したタカミチが率直な疑問をぶつけると、

「いや、横島くんは好きじゃが、孫が付き合うなら反対じゃ」

最初の頃はいいかもと思ってもいたが、冷静になり横島の記憶を思い返した学園長は、女にだらしない横島が、
孫娘と付き合うのは大いに反対になっていた。可愛い孫が、悪い男に捕まり悲しむ姿を見たくはないという、
爺心である。単純な疑問が浮かんだタカミチは、

「もしですが、木乃香君が横島くんに好意を持ったら、どうするのですか?」

「むむ」

厳粛に受け止めてしまった学園長が、「…引き離すか…しかし、それでは…」と呟き頭から湯気が出始めている。
そんなに悩む事なのかと、呆れているタカミチだったが、ポケットの中の振動に気がつき、

「学園長、失礼します…横島くんか」

タカミチは、軽い気持ちでメールを開き、添付されていた写真を見た瞬間、目をコレでもかと見開き硬直した。
学園長が難問に直面してる中、

(…この写真は本物か…横島くんがこんな事をするはずが…しかし、もし本物なら…)

タカミチも、頭から煙を上げそうになりながらも、真偽を確かめるため写真を見つめていると、

『ブブブブ』

再びタカミチの掌の中にある、携帯が振動し『見ろ~見ろ~』と主張している。再び横島からの
メールかと思う緊張から、震える手でメールの送信者を確かめると、

「…木乃香君か…くっ!」

メールの題名を見た瞬間、顔色が青くなりうめき声と共に直ぐに、内容を確かめるためボタンを押すタカミチ。
内容を確かめた瞬間、荒れていたタカミチの心が、瞬時に静寂を取り戻すと、

「学園長、横島くんについて悩む必要はありません」

「む、何故じゃ?」

まだ悩んでいた学園長が、タカミチの静かな呼びかけに反応すると、穏やかな笑みを浮かべたタカミチが、

「それはですね。左腕に『魔力』…右腕に『気』…合成!!!」

「な、何じゃ、敵か!」

何気ない仕草で咸卦法を発動させたタカミチに、驚いた学園長が敵襲かと慌てて立ち上がる。
周囲に気を配りだした学園長に、

「なぜなら、今から横島くんを殺してきますから」

「…な、何を言っとるのじゃ!」

「あの子は、師匠から託された子であり、僕にとっても大切な子だ」

タカミチは、師匠から託されたとき、心を閉ざしていたアスナと徐々に打ち解けてきたとき等、
過去を思い出しブツブツと呟いている。穏やかな笑みを浮かべているが、目が暗く光り逝ってることに、
気がついた学園長が、

「ど、どうしたのじゃ、落ち着きたまえタカミチ君。そうだ、茶でもどうじゃ? 良い葉が手に入ったのじゃ」

後頭部に汗をかいた学園長が、タカミチを落ち着かせるためにお茶を誘った。しかし、タカミチと
目を合わせた瞬間、心臓を鷲づかみにされるような感覚に襲われると、

「邪魔しないでください。邪魔するなら、学園長といえども…ただではすみませんよ」

「うむ、行ってきなさい」

ただ所か、学園最強である事を自他共に認められている学園長が、死にたくないためタカミチを快く送り出した。
学園長の事など、既に気にも留めなくなったタカミチが、学園長室の窓から飛び出していくのを、
静かに見送る学園長が残るのであった。


タカミチに送られてきた、木乃香のメール内容は、

『題名:助けて、高畑先生!』

『本文:アスナが、バンダナのお兄さんにさらわれたんや、助けたって。場所は○▽公園や~』

何故か攫われた場所まで特定していたが、思考が危ない方向に傾いているタカミチが、気づくことはなかった。


自身の最高速度を更新しながらひた走るタカミチが、途中で見つけたとある生徒を拉致…もとい協力を求めた。
そして、目的の公園から1Kmほど離れたビルの上に立ち、両手をポケットに突っ込んだタカミチに、

「高畑先生、急に私を連れ去った理由を教えていただこう」

あんみつのただ券を握り締めた龍宮が、横に佇むタカミチにイラつきながら問いかけると、

「龍宮君、ちょっとあの公園にアスナ君と横島くんがいるか見てくれないか。僕では少し遠くてね」

「それだけのために私を拉致したのか?」

「見てくれないか」

「…わかった」

タカミチの静かな気迫に押された龍宮が、「くそ、あんみつ昨日から楽しみにしてたのに」と恨み事を言いながら、
魔眼を発動させて公園を観察すると、

「…いた。神楽坂と横島忠夫だ…それと、近…」

「アスナ君の状態は?」

他の人物の名を告げようとしたが、タカミチが妨げたために正直に、

「木に縛られてるが」

アスナの現状を伝えると、タカミチの咸卦法の力が増したのか、受ける圧力が増大する龍宮。
居づらくなってきた龍宮が、

「用件は済んだな。私は失礼する」

さっさと去ろうとする龍宮に、

「待ってくれ、龍宮君。報酬払うから、ちょっと横島くん狙撃してくれ」

タカミチは、子供にお使いを頼むかのように、簡単に依頼を出すと、

「報酬は?」

「そのあんみつのただ券、50枚でどうかな」

「依頼成立だ」

負けず劣らず龍宮も簡単に受ける。数瞬で狙撃態勢を整え仕事の顔になった龍宮が、

「悪く思わないでくれ、横島忠夫。なに麻酔弾だから、数時間後には起きれるさ」

「ん? ダメだよ龍宮君、ちゃんと実弾で頭を狙ってくれないと」

スコープを覗き、横島の胴体に狙いをつけ、後は人差し指を引くだけだったが、タカミチのいちゃもんがつき、

「…は? すまないが、何で何処を狙えと?」

龍宮は、スコープから目を離し、タカミチをキョトンとこの少女にしては、珍しい表情で見つめる。
困った風に笑うタカミチが、物分りの悪い元生徒に、

「うん、実弾を使用し、頭を狙ってくれと言ったんだ。心臓でも構わないよ。龍宮君ならこの距離でも余裕だろ」

「た、たしかに余裕だが、生徒に人殺しを依頼するのはどうかと思うぞ。しかもこんな真昼間に」

狼狽した龍宮は、いまさらながらただ券50枚で、安受けあいしてしまった事を後悔しはじめる。
迷いが出始めた龍宮に、

「ただ券、100いや200でどうかな?」

ピクと体全体を震えさせた龍宮を確認すると、

「300」

先程とは違う迷いが出始めた龍宮が、どうするかとアスナたちに視線をやると、

「何だ? 神楽坂が泣いているな」

龍宮の眼には、俯き顔は見えないが力なくツインテールの先が、地に垂れたアスナの隠れた顔から、
涙が数滴落ちるのが確認できた。龍宮が呟いた刹那、タカミチの気と魔力が増大し、龍宮の髪や服が
その余波でバサバサと揺れ動く。しかし数秒後には、その余波がタカミチの体の周りに収束し、
今まで以上にタカミチの気配が強くなり、

「僕にも見えたよ…はっきりとね。いいよ龍宮君、僕がやる…無音拳では届かないか」

タカミチの目にも、縛られたアスナと憎き横島の姿を捉えていた。木乃香や周りに居た一般人は残念ながら、
文字通り眼中にない。無音拳の射程距離を越えるため、攻撃手段がないタカミチだったが、

「なら、今この場で限界を超えてみせる」

ポケットから手を抜き、眼を閉じたタカミチは左足を一歩前に出し、腰を落とし、左手を開き前に出し、
右手を胸部横まで引いた。タカミチが自然と構えた格好は、空手の正拳突きの構えに酷似している。
眼を閉じ無想していたタカミチが、眼をカッと開くと曇った表情のアスナと、アスナに近づき手を伸ばす
横島の笑う横顔を捉えた瞬間、足首、膝、腰と順に回転させ、力を高めていった。さらに、高めた力をロスさせることなく
肩から肘を稼動させ、左手を引くと同時に右手を前に突きだした。通常の正拳突きでは手の甲が上を向くが、
タカミチは腕を捻り手の甲が内側をむいている。螺旋の力を得たタカミチの突きは、一直線に横島に跳んで行ったが、
着弾を確かめる前に移動を開始するタカミチ。


後にこの突きは、『衝撃のファーストブリット』と呼ばれる、かは不明である。


一部始終を観察していた龍宮が、

「私は何のために来たんだ? …一応確かめに行くか…凄いな正確に横面にぶつかったぞ」

帰ろうとも思ったが結末を見届けようと、タカミチを追い動き出そうとした龍宮には、横島が盛大に吹っ飛ぶのが見えている。




タカミチに捕捉される本の少し前の横島と木乃香は、

「高畑先生、とても強いけど襲われてもだいじょうぶなん、お兄さん?」

「平気平気、回避力には自信があるんでね。タカミチさんがココに来て、俺を襲っても逃げ回ってるうちに、
木乃香ちゃんが事情説明してよ」

「了解や、頑張って逃げたって」

「わっははは、任せなさ~い」

横島の高笑いに、木乃香も釣られて笑っていると、暗い声が二人の耳に響き、

「あんた達ね、高畑先生が来る前提で話してるよね」

「タカミチさんなら来るだろ。生徒大事にする人だし」

何でそんな事を聞かれるかわからない横島と、横島の意見に頷いている木乃香に、顔を伏せてしまったアスナが、

「高畑先生が優しいのは、私が誰よりも知ってる…だけど…それでもここに、こ、来なかったらって思うと
…わ、私」

もしこのような事をしてまでも、タカミチが現れなかったことを考えると、惨めな思いになってきて涙がポロポロと、
重力に従い地面に落ちていった。親友が泣き出してしまい驚く木乃香と、アスナが意外に乙女なんだと認識した横島が、

「大丈夫だアスナちゃん。あの人は絶対来るから。もしあのおっさんが、何かの理由でこれなかったら、
俺が引きずってでも連れてくるから。安心しな」

アスナを安心させるように冗談めかして言う横島に、涙で歪んだ顔を上げたアスナが、

「…来てくれるかな?」

「来るさ。だから安心して、アスナちゃんは捕らわれのお姫様をやってればいいよ」

「…うん」

二カッと太陽のように笑う横島に、アスナも少し笑顔を取り戻すのを横島が確認すると、
アスナの肩を叩こうと近づきながら、

「だから、大船に乗った気で安心してればいい。わははは『ドギョン!』ぐふっ」

馬鹿笑いする横島の米神に、まるで車に引かれた様な衝撃に襲われた。吹き飛び近くの池で4~5回跳ねる横島、
視界から急に消えた横島を探し首を廻すアスナ、笑ったままの木乃香が、

「お兄さん、凄い芸やな。人間水切りやなんて」

仰向けのまま池に浮かんでいる横島は、米神を押さえながら、木乃香の声に、

「ぬお~~いってええええ。くそ、こんな芸は俺にはないわ!」

多大なダメージにより上手く体に力が入らない横島は、この痛みに本の少し覚えがあり、

「二人は無事か? 良かった無事だ。しっかしタカミチさんの技に似とる気がするが、こんな威力あったか?
それにどっから攻撃されたんだ?」

何とか顔を横に向け、アスナと木乃香の無事を確認し安堵する横島。回避力には、それなりに自信を持っていた
横島だったが、知覚外の攻撃に全く反応できず、木偶のように攻撃を喰らった事に愕然としている。
そして、横島の視界の隅に、どんどん近づいて来る人影に気がつくと、

「…げっ…やっぱタカミチさんだ…や、やばい、あのおっさん表情は笑っとるが、目が逝ってる」

どんどん接近してくるタカミチに、泣きながら横島が逃げようとするが、体に力が入らず動けずにいる。
一瞬一瞬近づいてくるタカミチに、横島の本能が危険を知らせると、

「ひょ、ひょえ~~ き、聞いとらんぞ! あのおっさんがここまで強くて凶悪なんて!?」

公園内に飛んできたタカミチが、池の上空にて魔法陣を出現させ、浮遊しポケットに両手を入れていると、
周囲の一般人の中から、

「あの男、浮いてないか?」

「ホントだ」

「アレ、デスメガネじゃあないか?」

周囲がざわつき始めるた。そして、これ以上喰らってはまずいと焦った横島が、

「ちょ、ちょっと待ておっさん! 秘匿はどうした!」

「あの子を守れるなら、喜んでオコジョになろう」

魔法の秘匿すら無視する、タカミチの本気を感じた横島は、あまりの恐怖のためションベンをちびりながら、

「ス、ストップ、こ、これには訳が…」

「問答無用」

「た、助けて~ こ、木乃香ちゃ…」

横島が、木乃香に助けを求めきる前に、タカミチが動き出した。

『ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、パン、ドン、ドン……ゴン!』

無音拳(咸卦法Ver)を数十発連射し、その合間にアスナのロープを細心の注意を払い、切っている。
池の水が、タカミチの手により吹き飛び水煙になった頃、アスナの横に降り立ったタカミチが、優しい目に戻ると、

「何もされていないね、アスナ君」

「は、はい」

「よし、なら逃げるんだ。僕は横島くんを仕留める」

「…えっ、ええ~」

アスナの無事を確認したタカミチは、目つきを鋭い物に変え、狼狽するアスナに気がつかず、
水煙の中心あたりにいるであろう横島の気配を探す。そして、観客となった木乃香が、

「ほら、来たやん。良かったなアスナ。それからお兄さん、どこや?」

タカミチと同じように、横島を探すため目を凝らしている。

ちなみにこの時になると、周囲にいた野次馬達も全員逃げ出している。


「や、やってられるか~ に、逃げなければ死ぬ。ここにタカミチさんが、現れたからもういいよな、な」

奇跡的に爆撃のような攻撃から生還した横島は、ボロ雑巾のようにズタボロになりながらも、
逃亡するため匍匐前進している。水煙に隠れながら、タカミチがいる反対岸の木々に隠れようとした時に、

「邪魔だな『ブン』」

タカミチが無音拳(咸卦法Ver)を一撃振るうと、周囲の水煙が吹き飛ばされ、

「見つけたよ」

ゴキブリのように、カサカサと逃げる横島を発見した。タカミチの声が聞こえた横島が、静止し『ゴクリ』と
唾を飲み込み、そろりと後ろを見ると嬉しそうに笑うタカミチと目が合い、

「横島くん、ありがとう」

お礼を言い出したタカミチに、もしかして助かるかもと希望を見出した横島が、

「い、いえ、どういたしまして。た、たいした事はできませんでしたが。では、ぼくはこれで失礼します」

「君のおかげで、壁を一つも二つも越えられたよ。だから君の事は忘れないから、ここで死んでくれ」

「くっそ、そんなこったろうと思ったよ~ か、堪忍して、家には俺の帰りを待つ、茶々がおるんだ。
俺がココで死んだら茶々が悲しむ。それにまだ千雨ちゃん達の手料理が食いたいんじゃ!」

未練たっぷりの横島が、同情を引こうとしたが無言のまま構え続けるタカミチ。

「…やっぱ、無理か…くそ! こんな所で死んでたまるか!」

そして、逃げるのは不可能と判断した横島が、立ち上がりタカミチとにらみ合うと、タカミチのポケットに入った両手から、禍々しい気配が溢れ出しているのに気がついた。タカミチの一挙手一投足に集中しだすと、横島の握り締めた掌の中が、光だし球状の物体を生み出し始めると、

「いくぞ、横島くん。これが今の僕の全力だ」

タカミチが両手を引き抜こうとした時、

「ダメ! タカミチ」

横島を守るため、タカミチの前にアスナが飛び出してきた。久しぶりにアスナから、『タカミチ』と呼ばれた
懐かしさを思いながらも、既に技を止めることができない状態のため、少女に当てないように無理やり両手を
外側に放つ。放たれた拳圧は、アスナの髪を揺らしながら、横島の両側数mの地点を、拳圧が木々をなぎ倒していった。


後にこの両手突きは、『瞬殺のファイナルブリット』と呼ばれる、かはこれも不明である。


当たらなかった安堵から集中が切れ、掌の物が形作る前に消えるのに気がつかず、その場に座り込んだ横島は、

「た、助かった~ 正直、あんなん当たったら死ぬ」

「おった、おった。お兄さん、大丈夫かえ?」

「おう、何とか生きとるぞ」

「うわ~ ボロボロやな」

バタバタと心配そうに横島に近づくと、服の埃を払ったり、ハンカチで横島の顔を拭き出す。
安全地帯でタカミチの奇行を観察していた龍宮が、横島達に近寄り、

「何がどうなってるか説明してくれないか?」

「龍宮さん?」

「君は確か、狙撃巫女じゃあないか」

前触れもなく現れた龍宮に、それぞれの反応をすると、木乃香が不思議そうに、

「狙撃巫女? なんやそれ?」

「ふふふ、何をふざけた事を言うんだい、横島さん。前に神社で言っただろ、龍宮真名だと(貴様、撃つぞ!)」

「冗談、冗談だ! そうそう真夜中の神社で聞いたな(撃たんといて、痛いのはイヤじゃあ)」

青筋を浮かべた龍宮が、木乃香の反対側に回ると横島のわき腹に硬い物を当て脅すと、冷や汗を流した横島が、
言い訳を言ったが、

「ま、真夜中に神社…」

何を想像したのか、木乃香が赤くなると『ガン』「ぐえ」と、何かの着弾音と横島の呻き声聞こえ、

「どうしたん?」

「くう~~ な、何でもないぞ」

わき腹を押さえプルプル震え涙目の横島、知らんぷりしている龍宮が、

「どういう状況か説明してくれないか」

「ええよ」

木乃香が、今日の経緯を龍宮に説明すると、周囲を見回す龍宮が、涸れた池と倒れた木々を見て、

「…迷惑な、バレンタインデーだな。おっ、神楽坂が何か渡したぞ」

龍宮が、アスナがタカミチに何かを手渡してるのに気がつくと、木乃香が目を細め自分も見ようとしたが、

「よう見えるな。まあプレゼント渡せたから良かったとしよ~」

「アスナちゃんが幸せそうなのはいいんだが、こんだけやってただ働きは辛いな」

横島のボヤキに、木乃香の頭の上に電球が閃くと、自分のバックを漁り、学園長にあげる筈であったチョコを、

「ほい、これウチからの報酬や。食べてや」

「おお~ マジか! ひゃほ~ 食べていいの?」

「ええよ」

乱暴に包装を解いて中身を食べ始める横島を、

「ええ食べっぷりやな」

「…何で普通のチョコを食べて、傷が治るんだ?」

美味しそうにチョコを食べる横島を、うれしそうに見つめる木乃香と、いたって普通のチョコを食べているのに、
傷が治る横島を見て不思議がる龍宮。そして、チョコを食べ終えた横島に、悪戯っぽく笑った龍宮が、

「ふむ、横島さん、これも食べるか?」

龍宮も、ちょっとした理由で持っていたチョコを、横島に渡すと、

「おう、食う食う。嬉しいな、3つも貰えるなんて! 俺、今年にも死ぬんじゃあないかな~」

あまりの幸運さに、死期が近いかもと思ってしまったが、目先のチョコに心奪われた横島が、ばくついていると、

「ふむ、治るか。すごい体質だな」

龍宮が、横島の能力に感心していると、木乃香が龍宮の腕をちょんちょんと突き、

「なあなあ、あのチョコ誰に上げる予定だったん? まさか…」

むふふと笑う木乃香が、クラスメートの恋話に関心を持っていると、

「ああ、大学のトライアスロン部の方に貰ってな。どうしようかと思ったところだ」

「ほえ、男の人から貰ったんか。ええな」

「…いや、女性の方だ。何か食べるのが恐くてな」

「それは、ご愁傷様やな」

冷やかそうとした木乃香だったが、龍宮の言い分に、困った表情になっていると、

「しかし、近衛。この男にはあまり深入りしない方がいいぞ」

「どうしてや? 面白い人やん」

「そうか知らないのか。この男が、最近クラスで有名な男だ」

その言葉に驚いた木乃香が、あと少しでチョコを食べ終える横島の顔を見て、

「じゃあこの人が、千雨ちゃん達の」

「まあ、そういう事だ」

そして、最近の千雨たちの顔を思い出した木乃香が、羨ましそうに、

「最近元気なかったけど、みんな今日は幸せそうな顔しとったな」

「…それは、認める」

そんな会話をしていると、チョコを食べ終え、指を舐めていた横島が、

「美味かった~ よし、お礼になんか奢るよ。何か食べたいもんある? 向こうもどっかに行くみたいだし」

「そんなわる「あんみつだ!」い?」

断ろうとする木乃香だったが、喜んで受ける龍宮。龍宮が、横島の腕を引いて甘味屋に連れて行こうとし、
木乃香がついて来ないのに気がつくと、

「早く行くぞ。甘味は待ってくれん」

「…いや、待ってるだろ」

「うう~ん、じゃあ言葉に甘えるわ。アスナ頑張ってな」

木乃香は、親友に声援を送り、横島達について行くのであった。ちなみに、龍宮はあんみつ5杯・お汁粉3杯とかなりの量を食べたとさ。




そして、アスナとタカミチは、

「危ないじゃあないか、アスナ君!」

危うく限界を超えた二撃をアスナに、当てる所だったタカミチが、冷や汗を掻きながらアスナに詰め寄ると、

「うう、ゴメンなさい。でも横島さん、こ、殺したらダメ。ただ私を手伝ってくれただけなの」

いまさらながら、危険地帯に飛び込んだ恐怖に震えるアスナに、今の言い分に引っ掛かりを覚えたタカミチが、

「どういうことだい、アスナ君?」

「その、これ渡したくて。横島さんと木乃香が、無理やりセッティングして」

用意していたチョコとライターをタカミチに手渡すと、プレゼントの品とアスナの顔を見比べ、

「これは?」

「バレンタインデーのプレゼントです」

そして、アスナが事情を説明すると、うなだれたアスナの頭をタカミチがポンポンと軽く叩くと、
何かと思い顔を上げたアスナに、

「食べていいかな?」

「…うん」

横島と違って、丁寧に包装を取り、チョコをゆっくり味わって食べるタカミチ。完食すると、
ハラハラしながら見守っていたアスナに向かい、

「美味しかったよ、ありがとう。こっちはっと、ライターか大事に使うよ」

「ど、どういたしまして、高畑先生」

「戻っちゃったか」

「えっ?」

懐かしい『タカミチ』と言う呼び方から、いつも通りの『高畑先生』に戻り、僅かに残念そうに独り言を
言うタカミチに、聞き取れなかったアスナが、声を張ったが、

「なんでもないよ。さてホワイトデーには、仕事の予定が入ってたから、今から何かお礼をするよ」

「…でも」

戸惑うアスナに、親しく笑いかけたタカミチが、

「何でもいいよ。言ってごらん」

「じゃ、じゃあ、高畑先生の手料理が食べたい」

恥ずかしそうなアスナに、そんな物でいいのかと思うタカミチが、

「えっと、ちょっと高めのレストランとかでもいいけど?」

「ううん、久しぶりに食べたいの」

首を振るアスナに、照れてきたタカミチも、頭を掻きながら、

「わかったよ。とりあえず、冷蔵庫の中身が心配だから、一緒に買い物に行こか」

「うん」

こうして二人仲良く、戦地のような惨状の公園から、去っていく。



こうして色々とあったが、無事終わったバレンタインデーだったが、数日後の学園長室にて、

「大変な事をしたのう、一般人の前でああも魔法を使うとは」

「申し訳ありません」

頭を下げるタカミチに、更に学園長が、

「もみ消すには、大分労力を使ったわい。それに一部魔法先生からも、苦情が来ての」

「はい」

今回の事は横島達の演技であったが、もし同じ事があったらまた、同様の事をする自信があるタカミチは、
堂々と答えている。困ったと頭を振った学園長が、

「罰を与えなければ、他が煩いからの。本国強制送還はせんが、オコジョに2週間ほどなってもらうぞ。
君ほどの人材を失うのは、勿体無いからのう」

「謹んで罰を受けます」


数分後、魔法陣の上に一匹のくすんだ灰色の毛色のオコジョがいた。

「さて、これで完了じゃ」

「では、これから僕はどうすれば?」

今日から一週間どうするか尋ねると、学園長が口を開く前に、

『コンコン』「失礼しまーす。学園長、俺に用ってなんすか?」

ノックと同時に入ってきた横島に、ニヤリとした学園長が、

「聞けば君も関わってたらしいからの、そこのオコジョを2週間、飼ってほしいのじゃ」

「…かまわないっすけど、何すかコイツ」

横島が、オコジョを見下ろしていると、

「こいつとは、酷いな横島くん」

「…ぎゃー オコジョが喋った! …てっ、あんま驚く事じゃあないか、変な生物は結構居たしな。
むしろ何で俺の名前を?」

瞬時に素に戻った横島に、こけるオコジョと学園長。学園長が、経験豊富な子じゃたのうと思いながら、

「それは、高畑君じゃよ」

「へ、まじっすか?」

「大マジじゃよ」

オコジョが、横島の足元から器用に上り肩に落ち着くと、

「すまないが、今日から一週間、よろしくお願いするよ」

「へーい。じゃあ帰りますね」

「うむ、すまんが頼むの」

横島とオコジョが、「本当にオコジョにされるんすね」「僕も初めてなったよ。ちょっと動きづらいな」と、
会話しながら出て行った。

「そういえば横島くんは、猫を飼っていた様な? …まあいいか」

大丈夫だろうと思った学園長が、溜まっている書類に印鑑を押す作業を始めた。


横島のアパートに着き、部屋に入った瞬間、握り締められたタカミチが、

「な、なにをするんだ、横島くん!」

横島が、「ふっふふ」と悪い笑みを見せると、

「この前の仕返しじゃあ」

「なっ、アレは謝って、許してくれたじゃあないか」

「謝って済めば警察は要らんわ。茶々、遊び道具じゃあ! 好きに遊べ」

「にゃあ~」

公園での出来事の恨みを晴らすために、前方にオコジョを放ると、白い悪魔(オコジョ視点)が腹に齧り付かれた。
嬉しそうに鳴く茶々に、

「新しい友達だ。名前は…ロリ畑・L・ロリミチだ。美少女が好きすぎて、オコジョになった哀れな奴だ。
でも、殺しちゃあダメだぞ茶々」

「にゃ~」

言葉がわかるかの様に、返事をする茶々に、名前の訂正をしようとしたタカミチが、

「違うぞ僕の名前は、ぐわ! 牙が食い込んできた。や、破れる!  ひ、左腕に『魔力』…み、右腕に『気』…合成!」

咸卦法により間一髪、防御力を底上げし何とか耐えたタカミチだったが、

「うにゃあ~~(おもしろ~い)」

程よい弾力が、むしろ茶々を喜ばしていた。ちょっとやり過ぎたかと思い始めた横島が、

「ほい、終了だ茶々…茶々! タカミチさん持ってったら駄目~」

「た、助けてくれ、横島くん。本気で殺る気だぞこの子!」

本能に目覚めし茶々が、タカミチを咥え走り回るのを、必死になって横島が追いかけだした。
これからの2~3日間が、コレまでの人生で最もタカミチが死を身近に感じた時である。
3~4日目辺りから、茶々とも仲良くなり一緒に寝たりもしたが、寝ぼけた茶々が噛み付いてくるたび、
横島が行き付けの病院に急行するのであった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03230094909668