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No.14161の一覧
[0] 【習作】麻帆良に現れたクラウン(GS美神+ネギま+その他)[クランク](2010/11/14 23:00)
[1] 落し物を拾ったのは誰?[クランク](2010/03/21 22:45)
[2] 判明[クランク](2010/03/28 15:34)
[3] 対決 横島対タカミチ[クランク](2010/10/21 21:42)
[4] 出会い[クランク](2010/10/21 22:06)
[5] ナンパ成功?[クランク](2010/10/21 22:17)
[6] 初仕事[クランク](2009/12/13 01:46)
[7] デート?(午前の部)[クランク](2009/12/18 00:14)
[8] デート?(午前の部・2)[クランク](2009/12/26 22:57)
[9] デート?(終了)[クランク](2010/03/01 22:20)
[10] はじめての自宅訪問[クランク](2010/03/14 00:04)
[11] 動き出した主人[クランク](2010/02/22 21:48)
[12] プールに行こう 前編[クランク](2010/02/22 21:49)
[13] プールに行こう 後編[クランク](2010/02/22 22:06)
[14] 秘密がばれる時はこんなもんだ[クランク](2010/06/21 21:50)
[15] 大停電 前編[クランク](2010/03/14 00:20)
[16] 大停電 後編[クランク](2010/04/29 23:03)
[17] 本文で紹介されないのでココで、名前は「お市」 これ以降出る予定なし[クランク](2010/03/28 15:51)
[18] 次回もこんな感じで、短めの話を2~3つほど[クランク](2010/04/04 17:45)
[19] あと1人出す予定だが、5人でやめようかと思う今日このごろ[クランク](2010/04/11 00:30)
[20] 原作主人公来訪  だが出番なし[クランク](2010/04/29 22:15)
[21] またもや、出番なし。 次は出ると思われる  追加分完成[クランク](2010/09/05 20:53)
[22] 黒百合  出番あったが、今回は主人公が出番なし[クランク](2010/05/23 16:05)
[23] この二人の技の前に、作戦など不要[クランク](2010/05/23 16:26)
[24] 猫の友達はまだいます[クランク](2010/07/11 22:31)
[25] この話は今回では終わりません。申し訳ありません。[クランク](2010/07/11 22:29)
[26] スフィンクスは、ちょっと苦手(作者の趣味で申し訳ないですが)[クランク](2010/08/08 16:05)
[27] 見合い (前編) …前編では、全く見合いしません[クランク](2010/10/19 22:26)
[28] 見合い(後編)…題名に偽りあり。後編でも、見合いしませんでした。[クランク](2010/10/19 23:03)
[29] 母、張り切り 娘、悲しむ  (ちなみにアキラはバーサーカーモードです)[クランク](2010/11/13 23:00)
[30] 1人だけシリアスなお話[クランク](2010/12/05 23:00)
[31] お泊り (千雨が玄関に座ったら、ボディブローをくらい悶絶でした)[クランク](2011/03/24 23:37)
[32] 次回予告 『横島、少女に襲われる』[クランク](2011/02/13 22:36)
[33] 申し訳ありません、嘘つきました。違う話が出来てしまいました。[クランク](2011/03/24 23:53)
[34] 全く関係のない少女が、色々知ってしまう。(次回予告 関係のない少女、進路決まる)[クランク](2011/11/16 21:44)
[35] 一名と一体、参戦決定(別題:出席番号28の子は、どうなってしまうのだろう)[クランク](2011/12/28 17:03)
[36] 娘の友人には激甘な吸血鬼   (次回予告:原作より一話早く小動物登場)[クランク](2011/12/28 17:32)
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[14161] 動き出した主人
Name: クランク◆6c156288 ID:6104f186 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/22 21:48
こちらの世界に来て初めての日曜は、大学部から届いた家電を運び込み、溜まっていた洗物をする事で、午前が潰れてしまった。
洗濯機を回したまま、遅めの昼食を買うためコンビニに出かけていった。昼食を買いアパートに戻ると、何故かベランダに
洗濯物が干されていた。

(? 鍵は、掛けたよな?…まさか泥棒か!まずったな~携帯は部屋だしな~…まっいいか)

何処の泥棒が、親切にも洗濯物を干してくれるのか謎である。そして、盗まれる物はほとんど無く、現金も全額持っていたので、
安心して部屋に戻ろうとして、気づいた。

(はっ、部屋には、茶々がいた!もし何かあったら、シバかれる~~)

あえて、誰とは言及しないで置こう。それにもし、茶々に何かあっても、シバかれることは無いだろう。ただ、軽蔑の目を向けられたり、
小言を言われて、精神的にきつくなるだけである。まあこの男は、肉体面は強いのだが、精神的に追い詰められると、脆い所がある。
よって、精神面で圧力をかけられるほうが、ダメージが大きくなるために、シバかれたほうが幸せかもしれないのだが、
気づくはずもなかった。

茶々の存在に気づいた横島は、すぐさま駆け出して行った。階段を、6段抜かしで駆け上るという、常人にはキツイ行動を披露し、
瞬時にアパートのドアの前にたどり着いた。鍵を調べ、中の気配を探るように、ドアに顔を近づけた。

(開いている…しかも、中に誰かいる…)

気を張り詰めながら慎重にドアを開け、物音を立てないように、中を進んでいった。この時、全く物音を立てずに、
進むさまはさすがである。日々、覗きで鍛えられた技能はまさに、巧みであった。

(ここに、いるな)

閉じられたドアの向こうから、複数の気配を感じた横島は、相手の虚をつくため、部屋に突入する事を決めた。

ドアを勢いよく開け、中の人物に飛び掛ろうとした横島は、ドアを開けたまま、気の抜けた顔をさらけ出した。

なぜなら部屋の中には、茶々を太ももに乗せ、昼食を食べている千雨と、3台の携帯電話を操作している茶々丸がいた。

「もぐもぐ…こんにちは、お邪魔してます。茶々、駄目だって怒られるから…私が」

茶々が、顔を上に向け必死に千雨を見つめていた。正確には、千雨が手に持つ箸をだが。一度そのかわいらしい姿に、
陥落した千雨が少量与えようとしたが、人が食べるものは猫の健康にあまり良くないため、茶々丸に怒られた。

「おかえりなさい、横島さん。横島さんもどうぞ」

茶々丸は、手に持っていた携帯電話を一度置き、横島の分もご飯をよそいだした。その姿は、他の者が見たら新妻のように見えたかもしれない。
しかし横島は、顔に疑問符を浮かべながら、

「…まあ、千雨ちゃんが飯を食ってるのはいいとしよう。茶々丸ちゃんが、携帯いじってるのも別に構わん。
でも、鍵のかかった部屋にどうやって入ったの?」

そう、どんなにかわいらしく見えても。2人は不法侵入者である。茶々丸が、甲斐甲斐しく横島の食事を作り待っていても、
横島には不思議な状況にしか見えなかった。

千雨は、若干顔を引きつらせながら、横島と目をあわせる事も無く、食事に集中しだした。茶々丸は、横島の分の仕度を終え、

「私達に、開けられない扉など無いのです」

「ちょっと待て!私は周りを見てただけだ!」

主犯茶々丸・共犯千雨のようである。


どのような状況であったか説明すると、茶々丸に誘われた千雨(アキラと朝倉も誘われたが、二人とも部活があり来れなかった)が、
2人で横島宅に赴きチャイムを鳴らしても、中からの反応はなく。鍵もかかっていたために、どこかで時間を潰そうと言う千雨に、

「すみませんが、少し周りを見ててください」

「? わかった」

茶々丸の言う通りに、周囲を見始める事数秒、『カチャ』という音が聞こえ、横島が部屋にいたのかと思いながらドアの方に意識を向けると、

「…おい、どうやって開けた…」

「この程度の鍵、針金二本あれば十分です。ご協力ありがとうございました」

「わ、私を犯罪に巻き込むな~」

二本の針金を、胸の前で見せる茶々丸に、千雨の叫びが虚しくあたりに響き渡った。


「ふ、ふ~ん。大変だったね~(千雨ちゃん、大分振り回されてるな~)」

「…ああ」

横島の哀れみを受けた千雨は、床に手を着き力ない返事しか返せなかった。

「横島さんは、本日は警備のお仕事でしょうか?」

「ん、ああ、7時位にココ出るよ」

「では、出る前に茶々にご飯をお願いします。それと、昼食の余りが冷蔵庫に入っているので、夕食にしてください」

「ありがとう、茶々丸ちゃん!」

「それと、仕事の日も教えてください。茶々のご飯のついでに、色々作って冷蔵庫に入れておきますので」

横島は、その言葉に感動し、声も出せなかった。横島の食生活プランは、コンビニや外食に決めていた。それが、茶々丸のおかげで、
週の何日かは手料理が食べられる事になったため、嬉し涙まで見せていた。

「くぅ~やっぱりええ子や~酷い目にもあったけど、優しい子じゃ~」

たしかに、酷い目には合わされている。肉体的にも精神的にも、しかし基本的には心優しい少女なのである…多分。

急に泣き出した横島を、無表情ながらも首を少し傾け見つめていた茶々丸が、

「横島さん、私は人工知能なので感情はないです。そのため、優しいと言うのは、不適切だと思います」

「えっ、そうなの? 茶々丸ちゃんは、優しい子だと思うけどな~それにほら、最初に会ったときは、怒ってなかった?」

はじめて茶々丸と、出会った時のことを思い出すと、横島にたいして彼女は怒りの感情をぶつけられていた。そのため、
この男は茶々丸には感情があると結論付けていた。そして茶々丸も出会った時のメモリを再生させると、

「あの時は、ただ茶々が傷つけられたと認識したら、頭部が熱くなってしまいました」

「何だやっぱり感情あるじゃん。怒の感情があるなら、他の感情だってあると思うぞ。まあ難しい事は分からんが、
そんな事関係なしに、俺は茶々丸ちゃんは優しいと思うよ」

横島が屈託無く笑いかけると、茶々丸には一つの願いができた。

(何故でしょう? この人に私はまた、『優しい』と言われたいです)

この小さな願い事が、『優しい』と言われるたびに茶々丸を苦しめる事になるとは、横島はもちろん本人にも、
予想などできる事ではなかった。


「僭越ながら、アパートの鍵をいただけないでしょうか?」

「? 別に構わないけど、どうして」

急な発言に横島は目を丸くし、不思議そうに尋ねると、

「今日のように、ピッキングで入るにはリスクが高いので」

質問者は、その回答に口をだらしなく開け、唖然としてしまった。たしかに、毎回ピッキングで入っていたら、
そのうち通報され青い制服を着た人に捕まってしまうだろう。以前によく追いかけられていた横島は、
茶々丸が捕まる姿が簡単に想像できた。しかし、リスクが低かったら毎回同じ方法で、入る気であったのだろうか、
謎である。さらに、茶々丸が呟いた。

「私1人なら、窓から入れるのですが」

メイド服を着た少女が、二階にある部屋に窓から侵入するのは、もっと異質である。どのような想像をしても、
捕まる姿しか思い浮かばなかった横島は、急いで合鍵を探し、

「はい、コレ使って正面から入ってくるように!」

「ありがとうございます」

横島から手渡された、鍵を大事そうにポケットにしまった。一方、気づかないうちに、不法侵入を手伝わされた可哀想な少女は、
子猫に元気付けられていた。

「茶々、お前はいい子だなー名前が似たロボ娘とは違うよ」

うなだれている千雨を、鳴き声をあげながら体を擦り付けている、茶々の姿があった。他者からは慰めているように見えた。
最近というかこの2~3日で、千雨の心は鑢に削られる様に、疲弊していった。そんな時に、触れてくる子猫が、
千雨の心にはとても温かかった。そして今度来るときには、お土産にちょっと高めの猫缶を、買うことに決めるのであった。

本日の目的を果たした、茶々丸達は横島と雑談し帰っていった。その会話で、横島が最も歓喜した事は、
横島の携帯に茶々丸と千雨の携帯のデータが、登録された事だったとさ。


そして本日も、タカミチと警備のルート確認を行っていた。前と違い大きな問題もなく、穏やかな雰囲気で歩きながら、

「明日から、バイトだね。場所や時間は大丈夫かい」

「バッチリですよ!」

横島は右手の親指を立てながら、タカミチに大丈夫とアピールした。タカミチは、根本的なことを聞いた。

「何で、バイトをはじめようと思ったんだい」

「さっさと、お金貯め様と思ったんですよ」

「警備の仕事でも、生活には十分だと思うけど?」

「まあ、そうなんですけど~あのジイさんの下で、ずっと扱き使われるのが嫌なんですよ~雇い主が美女だったら、
こんな好条件やめないですよ!」

横島の過去を知っているタカミチは、彼らしい理由に苦笑していた。そして、学園長の元で働く大変さを、
知っている身としては納得するしかなかった。

「じゃあ、やめた後どうするんだい?」

「う~ん、そうですね…会社でも作ってみますか」

やめた後のことは、大して考えていなかったのか、少しの間悩み意外な答えを出した。この男は、元の世界で商才を発揮したため、
意外と悪い案ではない。まあ元の世界では、知り合いに力を借りれたのが、成功に大きくつながったのも事実だ。
知り合いの居ない世界で、成功するかは未知数である。

「ほ~面白いことをしようとするね~どんな会社にするんだい?」

「そうですね~何でも屋でもしようと思います。超常現象からペット探しまで、幅広くやろうかな~」

今まで微笑んでいたタカミチが、少し真面目な表情になた。

「なるほど…何でも依頼していいなら、僕も先にお願いしとこうかな」

「タカミチさんなら、安くしときますよ~」

「ありがとう。僕は出張が多くてね、学園を離れる事が多々あるんだよ。もし僕が、どうしてもその場に居る事ができない状況だった時でいいから
、僕の生徒が危ない事に巻き込まれたら、助けてあげてほしいんだ」

「学園を守ってくれとか、無茶な事言わないんですね?」

「学園が危険になったら、他の魔法使いが動くからね。小競り合いで直ぐに動くのは難しいと思うから、
願いの対象は身近な存在にしておくよ」

「いいですよ(タカミチさんの生徒なら、可愛い子も沢山いそうだしな~)」

タカミチの事が嫌いではないし、色々と親切にしてもらったので、少し不純な考えもあるが、そのお願いを快諾する事にした。

「それで僕は何を払えばいいのかな?」

「まあ~まだ会社設立してないですから、設立した後に決めますよ。作るまでは、サービスでお願い聞いときますよ~」

「本当かい、じゃあお礼に今度、女の子のいる店に連れてってあげるよ」

「まじっすか。嘘だったら泣きますからね!」

一気にテンションを上げた横島を、宥めながら警備のルートを案内していった。


月曜日の午後、はじめてのバイトに出た横島は、販売所の中でみんなの前で挨拶をしていた。

「こんちゃ~す、今日からココでバイトをする横島です。よろしくお願いします」

そして挨拶の終わった横島に、経営者であるおじさんが近づき、話しかけてきた。

「今日は、アスナちゃんに着いて行ってもらいたいんだが、彼女がまだ来ていないから、少し待っててくれ」

「はいっす(名前からして女の子か~可愛い子だといいな~)」

おじさんが、横島に仕事を説明していると、頬をほんのりと染めた神楽坂明日菜が到着した。そして、彼女の後ろには、タカミチがいた。

「こんにちは~すみません遅れてしまって」

「すみません、僕が引き止めてしまったんで」

学校が終わって、直ぐにバイトに行こうとした神楽坂を、横島のバイト初日ということもあり、心配になったタカミチが、
着いて行きたいと言ったためである。走ればもっと早く到着したのだが、タカミチと少しでも長く居たい、恋する乙女が歩いていく事にしたのである。

「タカミチさん、可愛い女の子侍らせおってーデートだな!ちくしょ~見せつけてんだな!羨ましくなんかないぞ~~」

「そ、そんな高畑先生とデートなんて!」

横島が沈み始めた太陽に向かい、タカミチに対しての羨望と、自分がもてない事に対する不満をぶちまけていた。
この男は、二日前に茶々丸とデートをしたり、美少女4名を自宅にあげたことを忘れているのだろうか?

一方タカミチとのデート発言により、顔を真っ赤に染めた明日菜は、頬に両手を沿えイヤンイヤンと体を振っていた。
既に彼女の脳内のバラ色の妄想では、タカミチに様々な場所(船上、高層ビル、ドライブ、海等)において、愛の言葉を囁かれていた。
横島の妄想といい勝負である。

タカミチは、そんな二人を見て仲良くなれそうだと判断して、帰ることを伝えるため二人に声をかけたが、
自分の世界に入っている二人に全く反応されなかったが、微笑みながら帰っていった。

そして数分後、経営者のおじさんに声をかけられ正気の戻った。横島の配達地区を教えるため、明日菜についてまわった。
もちろん、自転車などは使用せず、二人とも自分の足で走った。走りながら、

「横島さん、足速いんですね」

「はっはは、明日菜ちゃんコソ、無茶苦茶速いね」

二人とも、原付の法廷速度をオーバーする程の、速度で駆けているが、まだまだ余裕があるようで、普通に話をしている。

明日菜は、事前にタカミチから横島について話を聞いており、大分好感度は良かった。もっとも、
タカミチの友人である事が、大きな要因でもあるが。

そして横島のほうも、明日菜から学費などの援助を受けているため、それを返すためにアルバイトをしていると聞き、感動していた。
貧乏であった学生時代、というか元の世界にいた時だが、彼女以上に極貧生活を体験したため、シンパシーを感じていた。

そして、横島の配達地区の案内と同時に、明日菜の新聞も底をついた。

「はい、コレで終了っと。いい汗かいた」

「お疲れ様、ほい」

何時の間にか、手に持っていたスポーツドリンクを一本、明日菜に投げ渡した。

「い、いいんですか?」

恐縮している明日菜に、ドリンクを既に飲んでいた横島は、構わない事を手で合図した。この男にとって、将来美人になる可能性の高い子への、
先行投資としてはこのくらいどうとでもなかった。

明日菜も、横島にお礼をいい、二人してドリンクを飲み始めた。販売所に戻るため、帰りは走ることなくゆっくりと歩き出した。

販売所からの帰り道、二人並んで歩きながら雑談していると、何かに惹かれるように立ち止まった横島が空を見上げた。

(今日は満月か~饅頭でも買おうかな)

横島の視界には、暗くなった空にはさえぎる雲一つ無く、見事な満月が見えた。

急に立ち止まり、空を仰ぎだした横島を不思議に思いながら、明日菜が口を開いた。

「どうかしたんですか?」

「んにゃ、満月がキレイだな~と思っただけ」

「本当だ、キレイですね」

「腹減ったな。明日菜ちゃん、どっかで飯でも食ってかない?」

「何ですか急に、でもゴメンなさい、相部屋の子が作ってくれてるんで」

顔の前で両手を合わせて、申し訳なさそうにしていた。本当にすまなさそうにしている明日菜を見ると、悪い事をしたかと思い出した横島は、
気にしないようにと言い再び歩き出した。


日が天にある時ならば、多くの自然に囲まれ見るものの心を穏やかにしたであろう場所も、すっかり辺りが暗くなった真夜中においては、
日中とは逆の効果しか生まない。風によりざわめく木々が、より一層効果を増加させていた。

そのような場所に立つ一軒の家から、暗闇に不安を感じさせない足取りで、二人の少女が出てきた。

「茶々丸出かけるぞ」

「何処え出かけるのですか? 明日も学校なので、あまり夜更かしは」

「気にするな、お前は周囲に注意を払っていればいい」

「わかりました、お母様」

エヴァンジェリンが先を歩き、手持ち無沙汰になったのか、前を向きながら茶々丸に話しかけた。

「茶々丸、小遣いは足りたか?」

「はい、お母様。ありがとうございました」

「ならいい、足りなくなったら直ぐに言うんだぞ(ジジイから、むしり取ってやるからな)」

「はい」

エヴァンジェリンは、母親といわれたため、少しは親らしい事をしようとしたようで、できることを思案した結果、
お小遣いをあげることにした。最初は、家事も考えたが、全て茶々丸に負けていることに気がつき諦めた。
まさかエヴァンジェリンも、あげたお小遣いが、男の食事に消えているなどとは、思いつきもしなかった。


歩く事数十分、エヴァンジェリンも目的地があったわけではなく、ただ人気が無いほうに足を運んでいった。
そして、条件に合う地点を発見し、立ち止まった。そこは、横島のアパートの近くであった。

「ふむ、ココで少し待つぞ」

「…はい」

「どうかしたか?」

「いえ、何でもありません」

茶々丸の返事が、一拍遅れた事を気にし問いかけた。その問いかけには、いつも通りに返事をしたが、周囲を気にするそぶりを見せていたため、
更に問いかけようとした。しかし、問いかけようとしたとき、前方から制服を着た少女が歩いてくるのが見えた。
その瞬間、エヴァンジェリンの口の端が持ち上がった。その隙間からは、鋭い犬歯がのぞいていた。

「そこにいるんだ」

茶々丸に一言いい、前方から歩いてくる少女の方に向かっていた。近づいていくと、その少女が着ている服が、
ウルスラ女子高等学校の制服である事が判明した。その少女も、エヴァンジェリンに気づいたようで、このような時間に見た目が
10歳の少女が歩いている事に、不思議に思ったようで、彼女のほうもエヴァンジェリンに近づいていった。

「そこの君、こんな時間に何をしてるんですの」

「1人目から、活きのいい獲物がかかったようだ」

エヴァンジェリンが、下を向き小声で呟いたため、彼女の耳には入らなかったようである。好みの女を捕まえられる喜びからか、
エヴァンジェリンの笑みが更に深まった。獲物は、気づかぬままエヴァンジェリンの声を聞くために顔を横に向け、
体を前かがみにしながら、自らの耳をエヴァンジェリンに近づけた。

「もう一度言ってみなさい」

頭の位置が下がり、首の高さとエヴァンジェリンの口の高さが、ほとんど同じ高さになった瞬間、
エヴァンジェリンが彼女の首に手を回し、首筋に噛み付いた。

「なっ…や、やめ…んっ」

驚きのあまり、尻餅をついてしまったため、逃げ出す事も出来ずに、エヴァンジェリンのなすがまま、血を吸われてしまった。
血を吸われ軽い酩酊間に襲われ、突き放す事もできなかった。

「ゴチソウサマ。中々いい味だったぞ」

ある程度血を吸い、満足し牙を首筋から開放した。エヴァンジェリンが離れても、吸血行為により血の減少と共に、心
地良い快感が全身を駆け巡り、目も虚ろになり立つ事が不可能であった。そんな彼女に、今夜の記憶を消して、
エヴァンジェリンはその場より茶々丸の待つ場所に戻っていった。

「茶々丸、帰るぞ」

「…お母様、何故あのような事を?」

「面白い情報が入ったのでな、少し力を取り戻す必要があるからだ」

エヴァンジェリンの元に入った情報とは、学園長が故意的に流したものであった。内容はナギ・スプリングフィールドの息子が、
この地にやってくると言うものであった。息子の血を吸い、自らにかけられた呪いを解くために、少しでも力を取り戻すため、
他者の血を吸うのを決めたのである。

「さっさと帰るぞ」

「…申し訳ありません。私はあの方を、安全な場所に移してきます」

「ふん、好きにしろ」

「はい」

エヴァンジェリンは一足早く帰っていき、残った茶々丸は、倒れたままの少女に近づき、抱き上げた。

(申し訳ありませんでした。高等部の寮はあちらでしたね)

彼女を、寮の近くのベンチに横にし、掛けるものを探し、近くに捨てられていた新聞紙を彼女に被せた。

(お母様を、止める事ができない私は…彼に『優しい』と言われる資格は無いです)

一瞬悲しげな表情を浮かべた茶々丸は、顔を俯けながら満月の光に照らされながら家路に着いた。

その日より、麻帆良にて一匹の吸血鬼が行動を開始した。そしてその従者が、満月の前後には、
ある男の前での行動がおかしくなった。


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