こちらの世界に来て初めての日曜は、大学部から届いた家電を運び込み、溜まっていた洗物をする事で、午前が潰れてしまった。洗濯機を回したまま、遅めの昼食を買うためコンビニに出かけていった。昼食を買いアパートに戻ると、何故かベランダに洗濯物が干されていた。(? 鍵は、掛けたよな?…まさか泥棒か!まずったな~携帯は部屋だしな~…まっいいか)何処の泥棒が、親切にも洗濯物を干してくれるのか謎である。そして、盗まれる物はほとんど無く、現金も全額持っていたので、安心して部屋に戻ろうとして、気づいた。(はっ、部屋には、茶々がいた!もし何かあったら、シバかれる~~)あえて、誰とは言及しないで置こう。それにもし、茶々に何かあっても、シバかれることは無いだろう。ただ、軽蔑の目を向けられたり、小言を言われて、精神的にきつくなるだけである。まあこの男は、肉体面は強いのだが、精神的に追い詰められると、脆い所がある。よって、精神面で圧力をかけられるほうが、ダメージが大きくなるために、シバかれたほうが幸せかもしれないのだが、気づくはずもなかった。茶々の存在に気づいた横島は、すぐさま駆け出して行った。階段を、6段抜かしで駆け上るという、常人にはキツイ行動を披露し、瞬時にアパートのドアの前にたどり着いた。鍵を調べ、中の気配を探るように、ドアに顔を近づけた。(開いている…しかも、中に誰かいる…)気を張り詰めながら慎重にドアを開け、物音を立てないように、中を進んでいった。この時、全く物音を立てずに、進むさまはさすがである。日々、覗きで鍛えられた技能はまさに、巧みであった。(ここに、いるな)閉じられたドアの向こうから、複数の気配を感じた横島は、相手の虚をつくため、部屋に突入する事を決めた。ドアを勢いよく開け、中の人物に飛び掛ろうとした横島は、ドアを開けたまま、気の抜けた顔をさらけ出した。なぜなら部屋の中には、茶々を太ももに乗せ、昼食を食べている千雨と、3台の携帯電話を操作している茶々丸がいた。「もぐもぐ…こんにちは、お邪魔してます。茶々、駄目だって怒られるから…私が」茶々が、顔を上に向け必死に千雨を見つめていた。正確には、千雨が手に持つ箸をだが。一度そのかわいらしい姿に、陥落した千雨が少量与えようとしたが、人が食べるものは猫の健康にあまり良くないため、茶々丸に怒られた。「おかえりなさい、横島さん。横島さんもどうぞ」茶々丸は、手に持っていた携帯電話を一度置き、横島の分もご飯をよそいだした。その姿は、他の者が見たら新妻のように見えたかもしれない。しかし横島は、顔に疑問符を浮かべながら、「…まあ、千雨ちゃんが飯を食ってるのはいいとしよう。茶々丸ちゃんが、携帯いじってるのも別に構わん。でも、鍵のかかった部屋にどうやって入ったの?」そう、どんなにかわいらしく見えても。2人は不法侵入者である。茶々丸が、甲斐甲斐しく横島の食事を作り待っていても、横島には不思議な状況にしか見えなかった。千雨は、若干顔を引きつらせながら、横島と目をあわせる事も無く、食事に集中しだした。茶々丸は、横島の分の仕度を終え、「私達に、開けられない扉など無いのです」「ちょっと待て!私は周りを見てただけだ!」主犯茶々丸・共犯千雨のようである。どのような状況であったか説明すると、茶々丸に誘われた千雨(アキラと朝倉も誘われたが、二人とも部活があり来れなかった)が、2人で横島宅に赴きチャイムを鳴らしても、中からの反応はなく。鍵もかかっていたために、どこかで時間を潰そうと言う千雨に、「すみませんが、少し周りを見ててください」「? わかった」茶々丸の言う通りに、周囲を見始める事数秒、『カチャ』という音が聞こえ、横島が部屋にいたのかと思いながらドアの方に意識を向けると、「…おい、どうやって開けた…」「この程度の鍵、針金二本あれば十分です。ご協力ありがとうございました」「わ、私を犯罪に巻き込むな~」二本の針金を、胸の前で見せる茶々丸に、千雨の叫びが虚しくあたりに響き渡った。「ふ、ふ~ん。大変だったね~(千雨ちゃん、大分振り回されてるな~)」「…ああ」横島の哀れみを受けた千雨は、床に手を着き力ない返事しか返せなかった。「横島さんは、本日は警備のお仕事でしょうか?」「ん、ああ、7時位にココ出るよ」「では、出る前に茶々にご飯をお願いします。それと、昼食の余りが冷蔵庫に入っているので、夕食にしてください」「ありがとう、茶々丸ちゃん!」「それと、仕事の日も教えてください。茶々のご飯のついでに、色々作って冷蔵庫に入れておきますので」横島は、その言葉に感動し、声も出せなかった。横島の食生活プランは、コンビニや外食に決めていた。それが、茶々丸のおかげで、週の何日かは手料理が食べられる事になったため、嬉し涙まで見せていた。「くぅ~やっぱりええ子や~酷い目にもあったけど、優しい子じゃ~」たしかに、酷い目には合わされている。肉体的にも精神的にも、しかし基本的には心優しい少女なのである…多分。急に泣き出した横島を、無表情ながらも首を少し傾け見つめていた茶々丸が、「横島さん、私は人工知能なので感情はないです。そのため、優しいと言うのは、不適切だと思います」「えっ、そうなの? 茶々丸ちゃんは、優しい子だと思うけどな~それにほら、最初に会ったときは、怒ってなかった?」はじめて茶々丸と、出会った時のことを思い出すと、横島にたいして彼女は怒りの感情をぶつけられていた。そのため、この男は茶々丸には感情があると結論付けていた。そして茶々丸も出会った時のメモリを再生させると、「あの時は、ただ茶々が傷つけられたと認識したら、頭部が熱くなってしまいました」「何だやっぱり感情あるじゃん。怒の感情があるなら、他の感情だってあると思うぞ。まあ難しい事は分からんが、そんな事関係なしに、俺は茶々丸ちゃんは優しいと思うよ」横島が屈託無く笑いかけると、茶々丸には一つの願いができた。(何故でしょう? この人に私はまた、『優しい』と言われたいです)この小さな願い事が、『優しい』と言われるたびに茶々丸を苦しめる事になるとは、横島はもちろん本人にも、予想などできる事ではなかった。「僭越ながら、アパートの鍵をいただけないでしょうか?」「? 別に構わないけど、どうして」急な発言に横島は目を丸くし、不思議そうに尋ねると、「今日のように、ピッキングで入るにはリスクが高いので」質問者は、その回答に口をだらしなく開け、唖然としてしまった。たしかに、毎回ピッキングで入っていたら、そのうち通報され青い制服を着た人に捕まってしまうだろう。以前によく追いかけられていた横島は、茶々丸が捕まる姿が簡単に想像できた。しかし、リスクが低かったら毎回同じ方法で、入る気であったのだろうか、謎である。さらに、茶々丸が呟いた。「私1人なら、窓から入れるのですが」メイド服を着た少女が、二階にある部屋に窓から侵入するのは、もっと異質である。どのような想像をしても、捕まる姿しか思い浮かばなかった横島は、急いで合鍵を探し、「はい、コレ使って正面から入ってくるように!」「ありがとうございます」横島から手渡された、鍵を大事そうにポケットにしまった。一方、気づかないうちに、不法侵入を手伝わされた可哀想な少女は、子猫に元気付けられていた。「茶々、お前はいい子だなー名前が似たロボ娘とは違うよ」うなだれている千雨を、鳴き声をあげながら体を擦り付けている、茶々の姿があった。他者からは慰めているように見えた。最近というかこの2~3日で、千雨の心は鑢に削られる様に、疲弊していった。そんな時に、触れてくる子猫が、千雨の心にはとても温かかった。そして今度来るときには、お土産にちょっと高めの猫缶を、買うことに決めるのであった。本日の目的を果たした、茶々丸達は横島と雑談し帰っていった。その会話で、横島が最も歓喜した事は、横島の携帯に茶々丸と千雨の携帯のデータが、登録された事だったとさ。そして本日も、タカミチと警備のルート確認を行っていた。前と違い大きな問題もなく、穏やかな雰囲気で歩きながら、「明日から、バイトだね。場所や時間は大丈夫かい」「バッチリですよ!」横島は右手の親指を立てながら、タカミチに大丈夫とアピールした。タカミチは、根本的なことを聞いた。「何で、バイトをはじめようと思ったんだい」「さっさと、お金貯め様と思ったんですよ」「警備の仕事でも、生活には十分だと思うけど?」「まあ、そうなんですけど~あのジイさんの下で、ずっと扱き使われるのが嫌なんですよ~雇い主が美女だったら、こんな好条件やめないですよ!」横島の過去を知っているタカミチは、彼らしい理由に苦笑していた。そして、学園長の元で働く大変さを、知っている身としては納得するしかなかった。「じゃあ、やめた後どうするんだい?」「う~ん、そうですね…会社でも作ってみますか」やめた後のことは、大して考えていなかったのか、少しの間悩み意外な答えを出した。この男は、元の世界で商才を発揮したため、意外と悪い案ではない。まあ元の世界では、知り合いに力を借りれたのが、成功に大きくつながったのも事実だ。知り合いの居ない世界で、成功するかは未知数である。「ほ~面白いことをしようとするね~どんな会社にするんだい?」「そうですね~何でも屋でもしようと思います。超常現象からペット探しまで、幅広くやろうかな~」今まで微笑んでいたタカミチが、少し真面目な表情になた。「なるほど…何でも依頼していいなら、僕も先にお願いしとこうかな」「タカミチさんなら、安くしときますよ~」「ありがとう。僕は出張が多くてね、学園を離れる事が多々あるんだよ。もし僕が、どうしてもその場に居る事ができない状況だった時でいいから、僕の生徒が危ない事に巻き込まれたら、助けてあげてほしいんだ」「学園を守ってくれとか、無茶な事言わないんですね?」「学園が危険になったら、他の魔法使いが動くからね。小競り合いで直ぐに動くのは難しいと思うから、願いの対象は身近な存在にしておくよ」「いいですよ(タカミチさんの生徒なら、可愛い子も沢山いそうだしな~)」タカミチの事が嫌いではないし、色々と親切にしてもらったので、少し不純な考えもあるが、そのお願いを快諾する事にした。「それで僕は何を払えばいいのかな?」「まあ~まだ会社設立してないですから、設立した後に決めますよ。作るまでは、サービスでお願い聞いときますよ~」「本当かい、じゃあお礼に今度、女の子のいる店に連れてってあげるよ」「まじっすか。嘘だったら泣きますからね!」一気にテンションを上げた横島を、宥めながら警備のルートを案内していった。月曜日の午後、はじめてのバイトに出た横島は、販売所の中でみんなの前で挨拶をしていた。「こんちゃ~す、今日からココでバイトをする横島です。よろしくお願いします」そして挨拶の終わった横島に、経営者であるおじさんが近づき、話しかけてきた。「今日は、アスナちゃんに着いて行ってもらいたいんだが、彼女がまだ来ていないから、少し待っててくれ」「はいっす(名前からして女の子か~可愛い子だといいな~)」おじさんが、横島に仕事を説明していると、頬をほんのりと染めた神楽坂明日菜が到着した。そして、彼女の後ろには、タカミチがいた。「こんにちは~すみません遅れてしまって」「すみません、僕が引き止めてしまったんで」学校が終わって、直ぐにバイトに行こうとした神楽坂を、横島のバイト初日ということもあり、心配になったタカミチが、着いて行きたいと言ったためである。走ればもっと早く到着したのだが、タカミチと少しでも長く居たい、恋する乙女が歩いていく事にしたのである。「タカミチさん、可愛い女の子侍らせおってーデートだな!ちくしょ~見せつけてんだな!羨ましくなんかないぞ~~」「そ、そんな高畑先生とデートなんて!」横島が沈み始めた太陽に向かい、タカミチに対しての羨望と、自分がもてない事に対する不満をぶちまけていた。この男は、二日前に茶々丸とデートをしたり、美少女4名を自宅にあげたことを忘れているのだろうか?一方タカミチとのデート発言により、顔を真っ赤に染めた明日菜は、頬に両手を沿えイヤンイヤンと体を振っていた。既に彼女の脳内のバラ色の妄想では、タカミチに様々な場所(船上、高層ビル、ドライブ、海等)において、愛の言葉を囁かれていた。横島の妄想といい勝負である。タカミチは、そんな二人を見て仲良くなれそうだと判断して、帰ることを伝えるため二人に声をかけたが、自分の世界に入っている二人に全く反応されなかったが、微笑みながら帰っていった。そして数分後、経営者のおじさんに声をかけられ正気の戻った。横島の配達地区を教えるため、明日菜についてまわった。もちろん、自転車などは使用せず、二人とも自分の足で走った。走りながら、「横島さん、足速いんですね」「はっはは、明日菜ちゃんコソ、無茶苦茶速いね」二人とも、原付の法廷速度をオーバーする程の、速度で駆けているが、まだまだ余裕があるようで、普通に話をしている。明日菜は、事前にタカミチから横島について話を聞いており、大分好感度は良かった。もっとも、タカミチの友人である事が、大きな要因でもあるが。そして横島のほうも、明日菜から学費などの援助を受けているため、それを返すためにアルバイトをしていると聞き、感動していた。貧乏であった学生時代、というか元の世界にいた時だが、彼女以上に極貧生活を体験したため、シンパシーを感じていた。そして、横島の配達地区の案内と同時に、明日菜の新聞も底をついた。「はい、コレで終了っと。いい汗かいた」「お疲れ様、ほい」何時の間にか、手に持っていたスポーツドリンクを一本、明日菜に投げ渡した。「い、いいんですか?」恐縮している明日菜に、ドリンクを既に飲んでいた横島は、構わない事を手で合図した。この男にとって、将来美人になる可能性の高い子への、先行投資としてはこのくらいどうとでもなかった。明日菜も、横島にお礼をいい、二人してドリンクを飲み始めた。販売所に戻るため、帰りは走ることなくゆっくりと歩き出した。販売所からの帰り道、二人並んで歩きながら雑談していると、何かに惹かれるように立ち止まった横島が空を見上げた。(今日は満月か~饅頭でも買おうかな)横島の視界には、暗くなった空にはさえぎる雲一つ無く、見事な満月が見えた。急に立ち止まり、空を仰ぎだした横島を不思議に思いながら、明日菜が口を開いた。「どうかしたんですか?」「んにゃ、満月がキレイだな~と思っただけ」「本当だ、キレイですね」「腹減ったな。明日菜ちゃん、どっかで飯でも食ってかない?」「何ですか急に、でもゴメンなさい、相部屋の子が作ってくれてるんで」顔の前で両手を合わせて、申し訳なさそうにしていた。本当にすまなさそうにしている明日菜を見ると、悪い事をしたかと思い出した横島は、気にしないようにと言い再び歩き出した。日が天にある時ならば、多くの自然に囲まれ見るものの心を穏やかにしたであろう場所も、すっかり辺りが暗くなった真夜中においては、日中とは逆の効果しか生まない。風によりざわめく木々が、より一層効果を増加させていた。そのような場所に立つ一軒の家から、暗闇に不安を感じさせない足取りで、二人の少女が出てきた。「茶々丸出かけるぞ」「何処え出かけるのですか? 明日も学校なので、あまり夜更かしは」「気にするな、お前は周囲に注意を払っていればいい」「わかりました、お母様」エヴァンジェリンが先を歩き、手持ち無沙汰になったのか、前を向きながら茶々丸に話しかけた。「茶々丸、小遣いは足りたか?」「はい、お母様。ありがとうございました」「ならいい、足りなくなったら直ぐに言うんだぞ(ジジイから、むしり取ってやるからな)」「はい」エヴァンジェリンは、母親といわれたため、少しは親らしい事をしようとしたようで、できることを思案した結果、お小遣いをあげることにした。最初は、家事も考えたが、全て茶々丸に負けていることに気がつき諦めた。まさかエヴァンジェリンも、あげたお小遣いが、男の食事に消えているなどとは、思いつきもしなかった。歩く事数十分、エヴァンジェリンも目的地があったわけではなく、ただ人気が無いほうに足を運んでいった。そして、条件に合う地点を発見し、立ち止まった。そこは、横島のアパートの近くであった。「ふむ、ココで少し待つぞ」「…はい」「どうかしたか?」「いえ、何でもありません」茶々丸の返事が、一拍遅れた事を気にし問いかけた。その問いかけには、いつも通りに返事をしたが、周囲を気にするそぶりを見せていたため、更に問いかけようとした。しかし、問いかけようとしたとき、前方から制服を着た少女が歩いてくるのが見えた。その瞬間、エヴァンジェリンの口の端が持ち上がった。その隙間からは、鋭い犬歯がのぞいていた。「そこにいるんだ」茶々丸に一言いい、前方から歩いてくる少女の方に向かっていた。近づいていくと、その少女が着ている服が、ウルスラ女子高等学校の制服である事が判明した。その少女も、エヴァンジェリンに気づいたようで、このような時間に見た目が10歳の少女が歩いている事に、不思議に思ったようで、彼女のほうもエヴァンジェリンに近づいていった。「そこの君、こんな時間に何をしてるんですの」「1人目から、活きのいい獲物がかかったようだ」エヴァンジェリンが、下を向き小声で呟いたため、彼女の耳には入らなかったようである。好みの女を捕まえられる喜びからか、エヴァンジェリンの笑みが更に深まった。獲物は、気づかぬままエヴァンジェリンの声を聞くために顔を横に向け、体を前かがみにしながら、自らの耳をエヴァンジェリンに近づけた。「もう一度言ってみなさい」頭の位置が下がり、首の高さとエヴァンジェリンの口の高さが、ほとんど同じ高さになった瞬間、エヴァンジェリンが彼女の首に手を回し、首筋に噛み付いた。「なっ…や、やめ…んっ」驚きのあまり、尻餅をついてしまったため、逃げ出す事も出来ずに、エヴァンジェリンのなすがまま、血を吸われてしまった。血を吸われ軽い酩酊間に襲われ、突き放す事もできなかった。「ゴチソウサマ。中々いい味だったぞ」ある程度血を吸い、満足し牙を首筋から開放した。エヴァンジェリンが離れても、吸血行為により血の減少と共に、心地良い快感が全身を駆け巡り、目も虚ろになり立つ事が不可能であった。そんな彼女に、今夜の記憶を消して、エヴァンジェリンはその場より茶々丸の待つ場所に戻っていった。「茶々丸、帰るぞ」「…お母様、何故あのような事を?」「面白い情報が入ったのでな、少し力を取り戻す必要があるからだ」エヴァンジェリンの元に入った情報とは、学園長が故意的に流したものであった。内容はナギ・スプリングフィールドの息子が、この地にやってくると言うものであった。息子の血を吸い、自らにかけられた呪いを解くために、少しでも力を取り戻すため、他者の血を吸うのを決めたのである。「さっさと帰るぞ」「…申し訳ありません。私はあの方を、安全な場所に移してきます」「ふん、好きにしろ」「はい」エヴァンジェリンは一足早く帰っていき、残った茶々丸は、倒れたままの少女に近づき、抱き上げた。(申し訳ありませんでした。高等部の寮はあちらでしたね)彼女を、寮の近くのベンチに横にし、掛けるものを探し、近くに捨てられていた新聞紙を彼女に被せた。(お母様を、止める事ができない私は…彼に『優しい』と言われる資格は無いです)一瞬悲しげな表情を浮かべた茶々丸は、顔を俯けながら満月の光に照らされながら家路に着いた。その日より、麻帆良にて一匹の吸血鬼が行動を開始した。そしてその従者が、満月の前後には、ある男の前での行動がおかしくなった。