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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その七・性格の悪い友人たち
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:0a4e3c4d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 00:49
 マリア像の前で目を閉じ、手を合わせる。
 最初こそ違和感のあったこの時間も、半年近く経った今ではさすがに慣れてしまった。祐麒は今日も心の中で呟く。
(どうかマリア様、そろそろわた……じゃない、俺を元の世界に戻してください)
 マリア様が実在するのかどうかは分からないけれど、何らかの超常的な力が働いてこの状況にいるのは確かである。別段信心深いというわけではない祐麒だったが、お祈りをする時間は自然と長くなる。
 かすかに空気が揺らいで、隣に人の立つ気配がした。
 待たせてしまったかと、祐麒は慌てて目を開ける。マリア像の前から中々動かない祐麒に業を煮やしたのだろう。
 そのまま校舎へと歩き出した祐麒は、背後から呼び止められた。
「お待ちなさい」
 凛とした声は高圧的なわけではなく、人の上に立つ者が自然と持つことになる張りがあった。
 祐麒が体を緊張させたのは、一瞬だけ。声に怒りの色は含まれていなかった。淑女らしく、身体全体で振り返る。
「さ……」
 声の主を目に入れたと同時に、祐麒の体は凍りついた。紅薔薇のつぼみがそこに立っていた。祥子さんと言いかけた喉は、運の良いことに体と一緒に凍ってくれた。上級生だから、祥子さまと呼ばなければならないのだった。
「ご、ごきげんよう。祥子さま」
 うっかりと名前を呼んでしまったけれど、祥子さまは有名人である。初対面の一般生徒に名前を呼ばれたことを気にもせず、さらりと微笑んだ。
「ごきげんよう。ちょっと持っていてくれる?」
 自然な動作で差し出された、祥子さまの鞄を受け取ってしまう。祐麒にはなんで鞄を渡されたのか訳が分からない。
「あなた。タイが曲がっていてよ」
 固まったままの祐麒の胸元に、祥子さまの手が伸びる。布の擦れる音と共にタイがほどかれ、結びなおされる。
 キュ、と音を立てて結ばれたタイは、祐麒が毎朝結んでいるのと同じものだとは思えないほど綺麗な形をしていた。
「身だしなみは、いつもきちんとね。マリア様が見ていらっしゃるわよ」
 祥子さまは祐麒から鞄を取り戻すと、もう一度「ごきげんよう」と言って校舎へと歩いていった。
 その背中に向かって、祐麒はなんとか声を絞り出した。
「あ、ありがとうございます。ごきげん、よう……」
 たぶんもう聞こえていないだろうお礼と挨拶を口にした祐麒は、マリア像をゆるゆると見上げた。
「見てくれていたら、こんなことにはなってないと思うんだけどなぁ」



【マリア様がよそみしてる ~その七・性格の悪い友人たち~】



「なるほど、そういうこと」
 重々しくうなずいた桂さんは、弁当箱の上にお箸を置いてから、人差し指をぴんと立てた。
「つまり祐希さんは、憧れの祥子さまの前で恥をかいて落ち込んでいる、と」
「どう聞いてたらそうなるのか、私には分からないよ」
 昼休み、本日は珍しく桂さんと二人での昼食である。蔦子さんはチャイムが鳴ると同時に、慌ただしく教室を飛び出して行った。何か用事があるのだろう。
「え、だってタイが曲がっていたことに気づかず、それを紅薔薇のつぼみに指摘された上、お手を煩わせてタイを結びなおさせてしまったわけでしょ?」
 今日は朝からなんだかぼーっとしてたけどどうしたの、と桂さんに尋ねられて、今朝あったことを説明した祐麒だった。確かに、桂さんが復唱したことに関しては間違っていない。
「そこじゃなくて。憧れの祥子さま、の部分に対して言ったつもりなんだけど」
 姉の祐巳は高等部入学時からの祥子さまファンだったが、祐麒は別にそこまでは行っていない。祐巳の姉である人として尊敬はしているが、それ以上ではないのだ。
「自覚なしだったの? 祐希さん、行事のときはいつも祥子さまを目で追っかけてるじゃない。この間廊下ですれ違ったときも、振り返って後姿を見送っていたし」
「なっ」
 桂さんの指摘に、祐麒はうろたえた。慌てて反論する。
「いや、それは違うってば。祥子さまって、蔦子さん言うところの真正のお嬢様じゃない。歩き方とか、すごく綺麗だから、参考にしたくてつい見てることが多いだけで」
 祐麒の言い分を最後まで聞いた桂さんは、チェシャ猫のように口をゆがめて笑った。
「普通、そういうのを憧れていると言うのよ」
「うぐ……」
 お見事な切り返しだった。祐麒は純粋にお手本を見るつもりでいるのだが、他の人にはそう取られてしまうだろう。
「でもまあ、そんなに深く気にすることないんじゃない?」
「一応聞くけど、なんで?」
「だって相手はリリアン女学園のスターよ。スターは素人のことなんか、いちいち覚えてやしないわよ」
 スターと素人。
 確かに、普通に考えればそのとおりだろう。けれど、祐麒は知っている。素人の中の素人、ミス凡人であったはずの姉は、なぜかそのスターの妹になってしまったのだということを。
「そうそう、祥子さまと言えば、聞いた?」
「聞いたって、何を」
「志摩子さんの話」
「志摩子さんの話?」
 最近あった話題になりそうな志摩子さんの話というと、白薔薇さまの妹になったことくらいではないだろうか。
「祐希さんは、白薔薇さまが志摩子さんを教室から連れ出したところ、見てたんだよね」
 桂さんの言葉に、こくりとうなずく。
「でも実はそれよりも前に、祥子さまが妹にならないかって志摩子さんに声をかけていた、という話なのよ」
「ええっ?」
 思わず声を上げた祐麒だった。もう少しタイミングが悪かったら、桂さんの顔はご飯粒だらけになっていただろう。
「お姉さまから聞いたことだから、確かな話よ」
 桂さんの姉はテニス部の先輩で、クラスは二年松組。祥子さまと同じだ。確かに信頼できるルートの情報だった。
 祐麒は頭の中で白薔薇さまと志摩子さんを並べてみた。その後で、白薔薇さまを祥子さまに置き換える。
「……しっくりこない」
 もう一度白薔薇さまを志摩子さんの隣に連れ戻した祐麒だった。やはり、こちらの方がしっくり来る。
「あのねえ、そういう話じゃないでしょう」
「でも、志摩子さんが紅薔薇のつぼみの妹になってるところは想像できないよ」
「じゃあ、祐希さんは誰だったらしっくりくるわけ」
「そりゃあ」
 祥子さまの隣で能天気に笑っている、姉の姿を思い浮かべる。うん、これ以外の組み合わせは考えられない。
「ゆ」
「ゆ?」
「ゆ……ゆっくり考えてみないと、分からない、かな」
 危うく祐巳と言いそうになって、かなり苦しく言い逃れる。桂さんは盛大にため息をつくと、お箸を持ち直した。
「まあ、なんでも良いけどね。私たちからしたら雲の上のお話、ってことよ」
 そう言うと、桂さんはお箸をミートボールに突き刺した。
 それを見ながら、祐麒はぼんやりと考える。でもたぶん、この話はこれだけで終わってくれない。どういう経緯を辿ってかは分からないが、祐麒はもう一度祥子さまの前に立つことになるのだろう。

「祐希さん、お時間良いかしら」
 放課後、音楽室の掃除を終えて廊下に出た祐希は、蔦子さんに声をかけられた。
「あれ、蔦子さんは教室の掃除当番じゃなかったっけ。もう終わったの?」
「ええ、もちろん。祐希さんに用事があったから、少し早足で来たけどね。このまま帰るつもりだったでしょう?」
「うん、まあ」
 蔦子さんの視線の先には、祐希の学生鞄がある。音楽室は教室から遠いので、掃除当番のときはそのまま帰ることにしているのだ。
 同じ掃除当番の三人が祐希に近寄ってきて、鞄と一緒に持っていた掃除日誌を取り上げた。
「祐希さん、日誌は私たちが職員室に返しておきますから、ゆっくりお話してくださいな」
「あ、ありがとう」
「お気になさらないで。いつもは祐希さんばかりにお任せしてしまっているのですもの。たまには私たちがやらないと、罰が当たってしまうわ」
「まあ、それを言うなら天罰が下るじゃないかしら」
「あら、そう簡単に天罰は下るものではありませんわ。いつでも見守ってくださっているからこそ、恥じることのないように生活しないといけないのよ」
 三人は口々にしゃべり合った後、声をそろえて「ごきげんよう」と微笑み、職員室の方へと歩き去っていった。
 それを見送った祐麒は、蔦子さんに改めて声をかける。
「ああいう会話って、やっぱりリリアンならではだよね」
「まあ普通は罰が当たると天罰が下るの違いについてなんか気にしないわね。というか、私には良く違いが分からない」
 蔦子さんも祐希と同じく幼稚舎からのリリアン生のはずなのだが、生来の気質がそうさせるのか、発想の仕方が外からやってきた祐麒に近い。おかげで今では、桂さんに並んで話しやすい友人となっている。
「っと、そういう話をしに来たわけじゃないのよ。今日はちょっと、祐希さんの喜ぶようなものを持ってきたつもり」
 そう言うと、蔦子さんは二枚の写真を祐麒に差し出した。
「写真?」
 それが何を写したものなのかを理解した瞬間、祐麒は動きを止めた。
「こ、これ……」
 思い出した。そう、祐麒はこの写真とまったく同じ構図の写真を、見たことがある。祐巳が祥子さまの妹になった年の学園祭、その写真部展示で大きなパネルになって飾られていた写真と、同じものだ。
 祐麒の中で、情報が一本の線に繋がった。一般人である祐巳と、紅薔薇のつぼみである祥子さまの接点は、まさにこれだったのだ。
「ふっふっふ。私には、それを祐希さんに引き渡す準備がある。二つほど、条件を飲んでもらうけどね」
 蔦子さんがものすごく悪い顔で笑う。はまり過ぎていて、ちょっと怖い。
「条件、というと」
「一つ目。この写真を学園祭の写真部展示コーナーにパネルで飾らせること」
 やはり、それが条件になるらしい。祐麒は写真に目を落としたまま、次の言葉を促す。
「もう一つ。祥子さまがパネル展示に同意してくれるよう、説得工作を手伝うこと」
「は?」
「祐希さんが来てくれた方が、話がスムーズに進む気がするのよね」
「本気で言ってるの? 私が断る可能性とか考えようよ」
 祐麒が言うと、蔦子さんは意外そうな表情をした。
「あれ、じゃあこの写真いらないの?」
「……もしかして、蔦子さんも私が祥子さまに憧れてるって思ってるクチ?」
 そう尋ねてみると、さらに蔦子さんは不思議そうな表情をした。違うの、とでも言わんばかりだ。
「祥子さまは尊敬してる。けど、それは紅薔薇のつぼみとして頑張っていることとか、完璧に淑女らしい振る舞いのお手本としてであって、そういうのじゃない」
「たぶん桂さんあたりにも同じ言い訳をしたんだと思うけど、私は突っ込ませてもらう。そういうのを憧れって言うのよ」
「か、桂さんと同じこと言わないでよ」
 蔦子さんは目を細めて笑った。
「なんだ、もう言われてるんじゃない。認めなさいよ」
 祐麒は写真を持ったまま「うー」と唸る。蔦子さんはますます楽しそうに笑う。
「分かった、分かった。百歩譲って、祐希さんは祥子さまを尊敬しているだけだと認めよう」
 祐麒の睨み付け攻撃が効いたのか、蔦子さんは何度かうなずいた。
「それじゃあ、友人として個人的にお願い。さすがの蔦子さんでも薔薇の館に一人で行くのは怖いから、付き合ってよ。お礼にその写真を上げるから」
「……蔦子さんって性格悪いと思う」
「祐希さんはとても素直で可愛いと思うわ」
 結局、祐麒は蔦子さんに付き合って薔薇の館へ行くことに同意した。なんだかんだ言っても、祐麒は蔦子さんのことを良い友人だと思っているので、頼まれると嫌とは言えないのである。
「あ、万が一祥子さまが駄目って言ったら、残念だけどその写真はネガごと廃棄するから、上げられないの。そのときはごめんね」
「だから、私はこの写真自体は別にいらないってば」
 祐麒の抗議に対して、蔦子さんはにんまり笑いながら「はいはい」とうなずくだけだった。

   <性格の悪い友人たち・了>




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