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No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
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[14098] その五・過大評価
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:04b03c8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 00:48
 四月は、ただ毎日を乗り切るだけで精一杯だった。五月に入って、ようやく周りを見る余裕ができた。そして六月、祐麒はもしかしたらもう戻れないんじゃないか、と今さら不安に思い始めていた。
「どうしたの、祐希さん。ため息なんかついて」
 向かいに座る桂さんが聞いてきた。なんでも、今日のお弁当は何品か自分で料理した自信作とのこと。
「あ、えっと、昨日も一昨日も雨だったでしょう。明日も明後日もずっとそうなのかな、って思ったらつい」
 本当のことを言えるはずもなく、祐麒は天気の話でごまかす。
「そりゃあ、梅雨だからね。しばらくはこんな感じなんじゃない?」
「どうせ半月もしたら、今度は毎日晴ればかり、って嘆くことになるわよ」
 桂さんに続いて、からかうようなことを言ったのは、蔦子さん。最近のお昼ご飯は、この三人の面子で取ることが多い。
「分かってはいるんだけどね」
 そう、ものが梅雨なら明けないわけはない。けれど、異世界に迷い込んだ場合、その内戻れるという保障はどこにもないのだった。
 祐麒はもう一度ため息をつく。瞬間、パシャリとシャッターを切る音が鳴った。
「蔦子さん、私の憂鬱そうな表情なんて撮って面白い?」
 食事中なのにカメラを手放さないのはどうなのかという突っ込みは、随分前に諦めた。蔦子さんはそれこそ、授業中以外は常にと言って良いほどカメラを携帯している。
 祐麒の皮肉に少しも堪えた風もなく、蔦子さんは笑う。
「面白いわよ。祐希さんの素の表情って貴重だもの」
「貴重?」
「あ、それ分かる」
 祐麒本人が疑問符を浮かべたのに対し、桂さんは貴重という発言に同意した。
「高校生になってからだけど、祐希さんってすごく頑張ってる感じがする」
「が、頑張ってる?」
 さらにわけが分からない。たしかに女らしく振舞おうと四苦八苦してはいたが、まさか外から見るとばればれだったのだろうか。
 蔦子さんがにやにや笑って解説を始めた。
「そうだね。例えば、志摩子さんとか、紅薔薇のつぼみである小笠原祥子さまとか、あの二人は根っからのお嬢様。動作の一つ一つが優雅で上品。分かる?」
「それは分かる」
 祐麒はうなずく。自分のように淑女らしく振舞おうとするのではなく、全ての動作に育ちの良さが染み付いているのだ。
「でも、いかなリリアンと言えど、そういう人ばかりじゃないわけよ。私とか、桂さんとかみたいに。私たちは必要に応じてお嬢様なふりをできる、っていうだけ。そりゃあ、普通の高校に通ってる人たちよりは長く、上手く猫を被ってられるかもしれないけどね」
「否定はしませんけど、それはちょっと失礼だと思いますわ。蔦子さん」
 桂さんが抗議の声を上げた。わざわざ丁寧な口調で言ったのは、ただの嫌みだろう。
 蔦子さんはごめんごめん、と軽く言って、話を続けた。
「祐希さんもどちらかというと私たちより。でも決定的に違うところがある。私たちは作ってるけど、祐希さんは律してる」
 律してる。祐麒は口の中で蔦子さんの言葉を繰り返した。
「歩き方、立ち方、動作の端々に気を使っている。祐希さんはいろんなものの理想をちゃんと持ってて、それに近づくことをいつも自分に課しているように見える。しいて言うなら、紅薔薇さまに近いかもね」
「ろ、紅薔薇さまに? 蔦子さん、眼鏡の度を強くした方が良いのと違うかな」
 蔦子さんの過大評価に、祐麒はうろたえた。単純に女らしくしようとしているだけで、三薔薇さまの一人に近づけるというのなら、リリアン生全員がそうするだろう。
 しかし、祐麒の否定の言葉とは裏腹に、桂さんはうんうんとうなずいている。
「さすがは写真部のエース。いい所を見てる」
「任せなさい。でも、律しているじゃあ、硬すぎると思ってたのよ。頑張ってる、か。単純だけど、祐希さんにはその方が合ってるわ。やるじゃない桂さん」
 二人は顔を見合わせて笑いあっている。話の主である祐麒は置いてけぼりだ。
「そういうの、ほめ殺しって言うんだよ。知ってた?」
 祐麒が情けない表情で呟くと、二人はさらにおかしそうに笑ったのだった。



【マリア様がよそみしてる ~その五・過大評価~】



 音楽室の掃除を終えた祐麒は、掃除日誌の返却を買って出た。部活動にも委員会にも所属していない祐麒は、放課後の時間の使い方に割と余裕があった。今日は図書館に行って、料理の本でも借りてくることにしようか。
 母さんが最近祐希がご飯の準備を手伝ってくれない、と寂しそうにしていたのを思い出す。姉である祐巳も、心得程度ではあるが料理を母さんから習っていた。きっと祐希もそうだったのだろう。もっとも、今すぐに手伝ったらすぐにぼろを出してしまうので、この計画はもう少し調理実習で腕を磨いてからにした方が良さそうだ。
 それにしても……。
 祐麒は心の中で自嘲する。随分と女の子のふりが板についてきてしまった。最近では、ふとした瞬間に心の中でまで「私」で考え事をしている自分に驚くこともある。
「あら」
 職員室へと向かう階段を下りていると、踊り場で大荷物を抱えた志摩子さんに会った。
「ごきげんよう、祐希さん」
「志摩子さん。ごきげんよう。薔薇の館に持っていくの?」
 五月のマリア祭以降、志摩子さんは山百合会の手伝いに借り出されることが多くなった。まだ白薔薇さまと姉妹になったという話は聞かないが、きっとその内ロザリオの授受を行うのだろう。
「いいえ、これは職員室まで。今日は環境整備委員の仕事なの」
 志摩子さんはやわらかく微笑んでそう答えた。山百合会に委員会、二足のわらじを履いて、両方の仕事をこなす志摩子さんだが、忙しそうな印象は受けない。蔦子さん言うところの、根っからのお嬢様気質のせいで、そういった苦労を表に出すことをよしとしていないのかもしれない。
「じゃあ、半分持つよ。私も掃除日誌を職員室に持っていくところだから」
 祐麒はそう言うと、志摩子さんの持つダンボールの上に重ねられたプラスチックのパネルをひょいと抱え上げた。
 元男の子としては、志摩子さんにだけ荷物を持たせて、隣を歩くという選択肢はありえない。
 志摩子さんは驚いたように目を丸くしたあと、元通りに微笑んだ
「ごめんなさい。ありがとう」
「良いって、良いって。目的地は同じなんだし。ところで、これって何に使う物?」
 祐麒は階段を下りながら、腕に抱えた白いパネルを目で示す。
「ああ、それは花壇に咲いている花や、木の名前を書くのに使うのよ」
「あ、なるほど」
 言われてみれば、公園なんかで目にするものと同じだ。
 他愛も無い話をしながら歩いていると、ふと志摩子さんが呟いた。
「祐希さんは」
「え?」
「祐希さんは聞かないのね」
 目的語が抜けていて、祐麒には何のことだか分からない。首をかしげる祐麒を見て、志摩子さんは小さく笑った。
「気にしないで、私が過剰に意識しているだけだわ」
 気にするなと言われると気になるのが人情である。目的地と、パネルの用途は聞いたけれど、他に何か聞くことがあっただろうか。
 何を聞けば良いのか考えている祐麒に、志摩子さんの方から質問をしてきた。
「祐希さんは入学式のことを覚えているかしら」
 入学式と志摩子さん。そのキーワードで思い出されるのは、マリア像の前での出来事。
「場違い?」
 短く聞くと、志摩子さんはうなずいた。
「今でも、そう思ってる?」
 どきりとした。
 場違いである自分。違う世界で、性別の異なる自分として暮らす時間。常に意識していたはずなのに、最近それが薄れてきている。
「ちょっと、忘れかけてたかもしれない。本当はずっと場違いなままなのに」
「……そう、私と同じね」
 志摩子さんが呟いた。
「え? 志摩子さんの場所は薔薇の館じゃないの」
 その言葉に含まれた寂しそうな響きを受けて、祐麒はぽろりと言ってしまった。志摩子さんと言うと、山百合会の白薔薇さまというイメージがあったせいだ。
 志摩子さんは呆気に取られたという表情で祐麒を見る。
「そう、祐希さんにはそう見えていたの。それじゃあ、何も聞かないのも当たり前ね」
「それ。誰かに何か聞かれたの?」
「何で誰の妹でもないのに薔薇の館へ出向いているのかって、ね」
 今度は祐麒が呆気に取られる番だった。花寺の生徒会室は、入れ代わり立ち代わり誰かが訪ねて来ていたので、そういうことには気が回らなかった。
「薔薇さまとその姉妹じゃないと生徒会の仕事をしちゃいけないってことは無いと思うけど」
 なにしろ生徒会なのだ。生徒であるなら誰にでも参加資格があるのではないだろうか。
 そんなことを話している間に、二人は職員室についた。祐麒がプラスチックパネルを志摩子さんに返すと、お礼を言われた。
「ありがとう。祐希さんのおかげで、随分軽くなったわ」
「これくらいのことなら、いつでも言って。力仕事くらいしか手伝えないかもしれないけど」
 祐麒が言うと、志摩子さんは笑顔で首を振る。
「祐希さんは、もっと自覚した方が良いわ」
「それ、前に蔦子さんにも言われた。そんなに頼りないかな、私」
 これでも一応、元男の子なのだけれど。
 そうじゃなくて、と志摩子さんはもう一度首を振った。
「祐希さんは、自分で思っているよりもっと素敵な人だってことよ」
 志摩子さんは、祐麒にそう言い置くと、失礼しますと職員室の中に入っていった。
 後に残されたのは、志摩子さんの言葉の意味をはかりかねて、頭を悩ませる祐麒だけだった。

   <過大評価・了>



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