<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.14098の一覧
[0] 【習作】マリア様がよそみしてる(マリみて 祐麒逆行・TS)[元素記号Co](2011/03/15 17:55)
[1] その一・たぶんお釈迦様もよそみしてる[元素記号Co](2010/07/28 20:55)
[2] その二・昔取った杵柄[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[3] その三・いつかきっと[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[4] その四・後悔しない選択[元素記号Co](2010/07/27 00:47)
[5] その五・過大評価[元素記号Co](2010/07/27 00:48)
[6] その六・契りを結んだ人[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[7] その七・性格の悪い友人たち[元素記号Co](2010/07/27 00:49)
[8] その八・薔薇と会った日[元素記号Co](2010/07/27 00:52)
[9] その九・悪事でなくとも千里を走る[元素記号Co](2010/07/27 00:50)
[10] その十・薔薇はつぼみより芳し[元素記号Co](2010/07/27 00:40)
[11] その十一・知らぬは本人ばかりなり[元素記号Co](2010/07/28 21:24)
[12] その十ニ・遠回りする好意[元素記号Co](2010/09/14 18:21)
[13] 後書き(随時更新)[元素記号Co](2010/09/14 21:09)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[14098] その四・後悔しない選択
Name: 元素記号Co◆44e71aad ID:eb529912 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/27 00:47
 お腹が減った。
 退屈な数学の授業を受けながら、祐麒は空腹に耐えていた。
 体と一緒に胃のサイズまで小さくなったのか、すぐに満腹になる代わり、お腹が減るのも早い。朝ご飯はちゃんと食べてきたのだが、三限目の休み時間には、既に胃袋が空腹を訴えはじめていた。
 眉尻が下がって情けない表情になっているだろうと自覚してはいるけれど、それくらいは見逃して欲しい。ミルクホールと呼ばれる購買に行けば何かしら買えることを分かっていながら、我慢しているのだ。何故かと言えば、祐希のためである。
 一応、財布の中に買い食いするくらいの余裕はある。けれど、問題となるのは別のことだ。祐希が元の世界に戻ってきたとき、体重が数キログラムも増えていました、では恨まれてしまうだろう。
 そういう風に、祐麒が自分に義務付けたことは間食制限以外にもいくつかある。例えば、授業のノートをできるだけしっかり残しておくこともその一つだ。
 自分で決めたこととはいえ、既に習った範囲の、しかも基礎知識レベルの授業だ。いまさら有理数や無理数の説明では、さすがに退屈である。日本史や現国なら教師ごとの個性が出やすいので、もう少し楽しむこともできると思うのだが。
 板書が一段落したところで、祐麒は少しだけ息抜きをすることにした。こっそりと別のノートを開き、昨日メモした座席表を見る。端から順に、顔と名前を確認する。自己紹介で受験組だと言っていた人の優先度は低いと言えば低いが、この際だから一緒に覚えてしまうことにした。
 みゆきさん、慶子さん、冴子さんと、頭の中で名前を呼んでいく。祐麒がまともに名前を覚えているのは、隣近所と志摩子さんを除けば、今のところ蔦子さんと桂さんくらいである。
 そう、桂さんへの対応も考えなければならないのだった。中等部時代の祐希のことを、良く知っているだろう相手。
 女性としての生活に慣れるだけでも手一杯だというのに、問題はそれ以外にも山積みなのだった。
 祐麒は小さくため息をつくと、座席表の書いてあるノートを閉じた。数学教師が板書を再開したので、ノートを取る作業に戻らなければならないのだった。



【マリア様がよそみしてる ~その四・後悔しない選択~】



 今日から一週間はクラブ活動の見学期間だと聞いてはいたが、祐麒はどの部活にも所属するつもりは無かった。
 しかし、放課後になると何人かの生徒が寄ってきて、祐麒に話しかけた。
 曰く、一緒にクラブ活動の見学にいかないか。曰く、陸上なら肘を使わないから大丈夫。曰く、運動部に入る気がないのなら日舞などはどうだろうか。
 蔦子さんの言葉の意味がわかった。善意の慰め攻勢。なるほど、こういうことか。
 祐麒は最初から一貫して部活動には入らないと主張している。しかし、それらの言葉は全国区の実力でありながら怪我で引退した悲劇の少女というフィルターを通すと、どれも痛ましい対応として変換されてしまうらしい。
 彼女たちの態度や口調を見れば、掛け値なしの善意で言ってくれていることは分かる。けれど、過去に同じく故障による引退を経験している祐麒は、放っておくこと、触れないことが最良の対応と言える時期があると知っている。そして、祐麒の過去に照らし合わせるなら、高校一年の四月はまさにそういう時期だったはずだ。
 ただ見学の誘いをしているだけなら、まだ良かった。けれど、他にも楽しいことはいくらでもあるとか、そういう誘い方は、やめて欲しかった。他などなかったのだ。祐麒が中学時代の大部分をつぎ込んだのは野球であって、他のもので代わりになるようなものではない。
 もしもここで対応しているのが祐希だったら、どうしただろう。放っておいてくれと叫んだだろうか。それとも、触れられたくない話題に付き合わされて、涙を流しただろうか。
 祐麒にはそのどちらもできない。テニスに対する感情は祐希のもので、祐麒が代弁できるものではない。
 いっそのこと、蔦子さんと一緒に写真部の見学に行くから、とでも言ってやろうかと思ったけれど、生憎と蔦子さんは掃除当番で教室にいなかった。彼女たちが諦めてくれるまで、祐麒は当たり障りの無い言葉で断り続けることしかできない。
「祐希さん」
 延々と行くの行かないのと繰り返していた祐麒たちは、横合いから声をかけられた。振り向いてみれば、ラケットケースを肩に提げた桂さんが立っていた。あまり穏やかとは言えない雰囲気を発する桂さんを見て、祐麒に話しかけていた生徒たちが一歩下がる。
「お邪魔してごめんなさい。私、少し祐希さんに話があるのですけれど、お借りしても良いかしら」
 桂さんは困ったような表情で笑う。
「え、ええ。どうぞ」
 祐麒を取り巻いていた中の一人が答える。主導権は、完全に桂さんのものだった。この場で最も祐希と親しい人間が誰かと言えば、同じ部活に所属していた桂さん以外にあり得ないのだから。
「行きましょう、祐希さん」
 困惑する祐麒の手を掴むと、桂さんは有無を言わさず教室から連れ出した。

 桂さんは無言で祐麒の手を引き続け、校舎の裏手に向かう渡り廊下でようやく解放してくれた。
 祐麒はどんな話があるのかと、桂さんを見る。話題によっては、難しいことになるかもしれないと身構えた。しかし桂さんもまた、祐麒の目を見つめたまま、動きを止めた。
 沈黙の時間はほんの少し。先に動いたのは桂さんだった。
「この辺りなら、滅多に人も来ないよ。二十分も時間を潰せば、あの人たちもそれぞれ行きたいクラブへ見学に行くと思う。……じゃあ」
 早口でまくしたてると、桂さんは祐麒の横を抜けて今来た道を戻ろうとした。助けてくれたのだと分かって、祐麒は口を開く。
「あ、あの、ありがとう」
「やめてよ、お礼なんか言わないで」
 桂さんは立ち止まって首を振る。
「昨日、蔦子さんの話しかけるタイミングがもう少し遅かったら、私も同じことをするところだった」
 祐麒から目をそらして、桂さんは言う。
「善意であれば気付かなくても許されるというものじゃないわ。だからお願い。お礼なんか、言わないで」
 教室で祐麒に話しかけていた少女たちは、触れられることすら嫌な話題があると分からなかった。蔦子さんは、そういうものがあると分かっていても、自分の目的のためにあえて踏み込んだ。そして桂さんは、分かってしまったからこれ以上祐希に踏み込めなくなった。
 ラケットケースを見れば分かる。桂さんは高等部でもテニスを続けるのだろう。それならば、桂さんはただそこにいるだけで、祐希にテニスを思い起こさせる存在になってしまう。だから離れる。必要以上に祐希の視界に入ってしまわないように。
 今日だって、祐麒が彼女たちに捕まらなければ、さっさとテニス部へ入部届けを出しに行っていたに違いない。
「でも、桂さんは私を教室から連れ出してくれた。私にとってはそっちの方が大事だよ。だって、そんなことをしても桂さんには何の得もないもの。ただ私が助かっただけ。だから、ありがとう」
 桂さんの目が涙で潤んだ。それを振り切るように、もう一度首を振って、桂さんは笑顔を作った。
「祐希さんが変わってなくて、安心した。こっちがお礼言わなきゃ。……ありがとう」
 なんだかお互いにお礼を言いあう流れになってしまって、二人はどちらからともなく笑った。
「じゃあ私、行くね。あと、そう、これだけは善意を押し付けさせて。いつでも私を頼ってくれて良い。私は今でも祐希さんの友達のつもりだから、ね」
 そう言うと、桂さんはラケットケースを抱え直して歩き出した。
 祐麒の横を通り過ぎるとき、少し大またになった桂さんのセーラーカラーが、ふわりと翻った。
 つられて振り返り、祐麒はそのままセーラーカラーを掴んだ。
「うげっ」
 昨日の蔦子さんと同じように、乙女らしからぬ声を上げる桂さん。あ、いや、祐麒は何も聞いていない。蛙か何かが鳴いたのだろう。
 祐麒は、心の中で祐希に謝ってから口を開いた。
「私だって、今も桂さんの友達のつもりだよ」
 桂さんは振り返らない。ただ、その耳が、どんどん赤くなっていった。
「馬鹿。……そういう不意打ち、やめてよ。もう、馬鹿」
 上ずった声でそう呟くと、桂さんはいきなり駆け出した。祐麒は廊下の向こうに遠ざかっていく背中を見送る。ぱたぱたと翻るスカートやセーラーカラーは、淑女からは程遠い。けれど、乙女としてはそれが正しいのかもしれなかった。
「あー、本当馬鹿みたいだ。何言ってるんだよ、もう」
 祐麒の顔もまた、真っ赤だった。

 数日後の昼休み。祐麒は桂さんと一緒にお弁当を食べていた。
 そこに、蔦子さんが弁当箱を片手に寄ってきた。
「ご一緒しても良い?」
「ええ、もちろん」
 答えたのは桂さん。祐麒もまた、うなずいた。
 蔦子さんは隣の席から椅子を引っ張ってくると、向かい合わせにくっつけられている机の横に腰を下ろした。
 しかし、弁当を広げるよりも先に、蔦子さんはポケットから一枚の写真を取り出す。
「いやあ、我ながらどうかと思うんだけど、またやっちゃった。この写真、どう?」
 そこには、困惑顔の祐希の手を引っ張って、ずんずんずんと歩いていく桂さんが写っていた。
「いつの間にこんなもの……」
「掃除を終わらせて戻ってきてたら、ちょうど二人が教室から出てきたところだったのよ」
 で、シャッターを切ったと。祐麒は桂さんと顔を見合わせる。はあ、とため息をついたのは同時だった。
 桂さんが顔を上げて、偉そうに口を開いた。
「まったくもう、こういうのは事務所を通してもらわないと困るわね。撮影料、払ってもらうわよ」
「ええー」
「もう一枚、焼き増ししてよね」
 軽くウインクする桂さんだった。蔦子さんがにっこりと笑い返す。
「もちろん、喜んで」

   <後悔しない選択・了>




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023420810699463