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No.13944の一覧
[0] 【ネタ】ベルセルクで逆行[六甲](2009/11/16 15:11)
[1] その2[六甲](2009/11/16 15:09)
[2] その3[六甲](2009/11/17 20:05)
[3] その4[六甲](2010/10/14 18:15)
[4] その5[六甲](2010/10/14 18:07)
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[13944] 【ネタ】ベルセルクで逆行
Name: 六甲◆1dc66705 ID:9e4acc1f 次を表示する
Date: 2009/11/16 15:11
「意識をしっかりと保ってください!」
(シー……ルケ)

 精神に響くシールケの声にガッツは朦朧とした意識を戻す。

(……何がどうなった。俺はあの野郎に一撃をくれてやって――)
「ガッツさんがあのゴットハンドに剣を叩きつけた瞬間、凄まじい力の波動が起こって私達の幽体はそれに飲み込まれたんです」
(くそが……)

 渾身の一撃を叩きつけた彼の姿を思い、憎しみがガッツの心を焦がす。

 いつもシールケは彼が憎悪に心を囚われようとすれば、それを制止してきた。
 だがその彼女が今はガッツを止めずにいた。

「憎しみこそが、貴方の拠り所なのでしょうか」
(……)
「何時も私はそれを押しとどめようとしてきました。だからこそ知っています。貴方がその憎悪を支えに戦ってきたことを」
(いきなり何が言いてえ)
「貴方がそれほどの憎しみを抱えることになったのは、理由があるはずです。とても大事な……魂を焼けつかせるほどの……」
(……)
「忘れないでください。それを心に抱いて離さぬように」

 ぎりりとガッツは歯を鳴らす。

(忘れられる……ものかよ)

 ガッツの脳裏に、失った右目に最後に焼きついた光景が浮かびあがる。
 憎悪が燃え上がり、彼の魂を焦がす。それをシールケは悲しそうに見つめた。

「ガッツさん、周りをみてください」

 シールケの言葉に無理やりに心を抑えつけ、周りを見渡す。
 そこは見渡す限りの闇、上も下もない深淵の世界だった。

(どうなってる)
「ここは幽界の深層、この光景は闇の領域(クリフォト)のものとも違う、光も闇も形作られない原初の領域の光景……だと思います」
(おいおい、頼りねえな)
「仕方ないでしょう!魔道の者でもここまで深く幽界に潜って戻ってきた者はいないのですから」
(戻ってきた奴がいねえだと?)
「はい。私達の帰還も絶望的と言わざるを得ません」
(ふざけろ、俺は諦めるってのだけはしねえぞ。何か手はねえのか!)

 牙を剥くガッツにシールケは小さく微笑んだ。
 彼女の知識で判断する限り絶望的である状況にあってもまるでいつもと変わらぬ風なガッツに。
 そう、今までも彼はシールケが絶望的だと判断する状況を、そんなことは知らないとばかりに立ち向かい、切り開いてきた。
 そんな彼の姿と、そのガッツに自分が頼られ必要とされていると言う事に、不安に押しつぶされそうになるシールケの胸は温まるのだった。

「今は私の魔術で辛うじて幽体を保っていますが、いくらもしない内にこの魔術も解け、私達の幽体はこの領域に四散して飲み込まれるでしょう」
(……)
「強い思いです……ここは時間にも空間にも縛られない場所。全ての根源へと私達の意識が溶け消えても、核となる思いがあればもしかして再び現世で幽体を形造れるかも知れません」
(それであんなことを言い出したってわけだ)
「はい……」

 そう言ってシールケは悲しそうな表情を見せた。

「貴方が憎悪に飲み込まれても、私が必ずそれを払ってみせます。だから」(俺のことはいい)「えっ?」
(自分の身ぐらい自分でなんとかするさ。要は気合いだろ)
「そんな単純なことでは……」
(お前はお前のことを考えろ)
「それは」

 ガッツにはある。決して忘れられない思いが。逃れられない記憶、身を焦がす衝動がある。
 だが目の前の年端もいかぬ少女が、それに匹敵するようなものを抱えているとは思えなかった。

「私には魔術があります」
(だがお前はさっき)「それだけじゃありません」

 ガッツの言葉を遮ってシールケは声を張る。

「私はガッツさんの半分も生きてないかもしれません。でも私だって、胸に抱える思いがあるんです」

 そう言ってシールケはガッツを見つめ、精一杯わらってみせた。
 ガッツもそれに笑みを浮かべて応える。

(まぁ俺が手助け出来るもんでもねぇからな。テメェのケツはテメェで拭くしかないってわけだ)
「けっ!? 下品な言い方をしないでください!」
(その意気だぜ嬢ちゃん。気合い入れろよ)
「茶化さないでください!そんな次元の話じゃないんです。もう魔術が解けますよ」
(ああ)
「良いですね。思いを強く持つんです」
(わかってるよ)
「私も……」

 そう言ってシールケは目をつぶり震える手で強くガッツを抱きしめた。
 闇の中ではぐれまいとする子供の様に。
 ガッツが苦笑を浮かべると共に、二人の意識をかろうじて留めていた魔術が解ける。

 即座に気を締めるガッツだが、むき出しの幽体に触れる闇の感触は予想していたような圧迫感ではなかった。
 それはむしろ安らぎに似て、まどろみの様に二人の意識を溶かしていく。
 慌てて意識を強く持とうとするガッツだったが、すぐさま全てが曖昧になって行く。
 なぜ自分が意識を強く持とうとしているのかすらわからなくなって行くように。
 
 湯に角砂糖を入れたように溶け広がっていく心のなか、いくつもの思いが浮かんでは消えて行く。
 そうして闇の中で崩れて行くガッツの幽体はいつしか狗の様な形へと変わっていた。

 憎しみの形。
 憎悪のための憎悪し。
 愛も情も、何もかも喰らって餓え続け、獲物を追い続ける狂犬の如き心。
 ただグリフィスだけを追い続け憎み続ける。
 それがガッツの持つ力。
 この世とあの世の狭間で戦い続け、その為に手に入れた力の源。
 それすら深淵は溶かし消し去って行く。

 敵だ。
 烙印が引き寄せる。
 悪霊ども、使途、憎しみを糧にしてそいつらと戦ってきた。
 敵を殺して生き残る。
 ずっとそうやって生きてきた。
 俺は、何も変わっちゃいねえのか?

 あの日、あの雨の中。
 烙印が無かったなら。
 悪霊どもが襲ってこなかったなら。
 俺は憎しみを燃やし続けることができたのか。

 憎しみの最後の芯。
 グリフィス。

 血の涙を流して振り向いたあいつの姿。

 ジュドー。ここなら俺の居場所が見つかると言ったあいつ。キャスカのことをどう思うのかと俺に聞いた。

 コルカス。いつも俺を嫌ってやがったあいつ。俺のことを認めねえと言った。

 ピピン。無口なでかづらで、俺に酒を差し出して飲めと言った。肩を並べて戦ったあいつ。

 斬り込み隊。俺を信じて、俺に付いてきたあいつら。この隊が家族だと言った。

 鷹の団。キャスカ。グリフィス。

 死んだ。
 みんな死んだ。
 なんでああなっちまったんだ。

 なんで、こうなっちまったんだ。

 悲しかった。

 狗が溶け消えて、剣も鎧も無いガッツはただ、泣いていた。

 失ったもの。失われたもの。

 敵がいれば、そいつらを憎むだろう。
 ジュドーの、コルカスの、ピピンの、隊の、皆の仇共。
 許すことなど出来はしない。
 憎しみを燃やしてやつらに挑むだろう。

 常に目の前にいた敵という存在が取り払われて残ったもの。
 ガッツの胸に最後に残る思い。

 悲しみ。
 後悔。
 やり切れぬ思い。

 一番大切だったもの。

 あの日々のかがり火が、まだ胸を焦がしてる。



 夢だのなんだの、知ったことか。
 真の友なんぞ、関係ねえ。
 俺の大切なものは、仲間だ。
 仲間を守るために剣を振う。それの何が悪い!
 グリフィスは俺のダチだ。
 野郎が理屈をこねようが知ったことかよ!
 あんな顔してささげるだなんて、言わせねえ!
 絶望なんぞ、させねえ。
 守ってやる。俺が守ってやる!
 それが俺の夢だ!
 眩しかった。
 強くて、高くて、俺が守るだなんてとてもじゃないが言えやしなかった。
 剣を振るしか脳のない野郎が、仲間を、ましてやグリフィスを守るだ?
 何様だ。
 一人で剣を振りまわすしかない狂犬野郎が。
 それでも、そう言いたかった。
 そのために剣を振うと。
 それが俺の夢だと。一番大事な物だと。
 言ってやりたかった。
 言ってやりたかったんだ。 



 闇の中、慟哭を響かせてガッツは溶け消えたガッツの心の向く先は――











(グリフィス……)

 目の前にグリフィスがいる。
 変わってねえ、昔のまんまだ。
 不思議と憎しみが湧いて来ねえ。むしろ……俺が憎まれてるみてえに、睨んで来やがる。
 敵でも見る見てえに。

 ん。
 なんだこりゃ。
 なんで俺は剣を構えてんだ。
 妙に軽ぃ。
 感触も変だ。
 視界もおかしいぜ。

 そうガッツが呆けた瞬間、グリフィスは一足飛びに飛びかかる。
 剣を振り上げ、ガッツへと襲いかかる。
 ガッツは咄嗟に防ごうとするが、圧倒的に遅い。

(狙いは肩口)

 剣では間に合わない。
 反射的にガッツは鋼鉄の義手を盾代わりにしようとする。

 そうしてグリフィスの振り下ろした剣先は。
 ガッツの左腕を。
 斬り飛ばした。


「「「ガッツ!!」」」

 左腕を肘先から斬り飛ばされたガッツを見てリッケルト達が叫んだ。
 吹きあがる血しぶきの中、凍った表情で剣を振り下ろしたグリフィスを眼前にして、ガッツは自然に右腕を振った。

「ぐっ!?」

 鎧の下履さえない平服姿のグリフィスの脇腹に風切り音を鳴らしてガッツの剣の腹が突き刺さる。
 ぎりとガッツが噛みしめた歯に力がこもり、腕の筋肉が脈動する。
 脇腹に剣を打ちつけた勢いに、さらに力を込め剣が振り抜かれた。
 グリフィスの身体が剣に持ち上げられておもちゃの様に跳ね飛ばされる。
 冗談のように身体が宙に持ちあがり、重力に引かれて雪の積もる地面へと叩きつけられた。

「がはっ!」
「「グリフィス!!」」

 ガッツは左腕から血を流して足もとの雪を紅く染めながら無造作に近付き、立ちあがろうとするグリフィスに剣を突き付けた。
 二人の視線が絡み合い、沈黙が訪れ――

「もうやめようよ!決着はついたろ?はやく手当てしなきゃ!」

 リッケルトが叫んで二人に駆け寄る。
 ガッツは不思議そうにつぶやいた。

「リッケルト?」
「なに?それより早く止血しなきゃ!」
「あ、ああ……」

 グリフィスに突きつけていた剣を手放し、右手で左腕の動脈を抑える。
 リッケルトはガッツの腰からナイフを抜き取り、自分の服の裾を裂いて手早く止血用の紐を作っていく。
 他の4人も3人へ駆け寄った。
 ジュドーがグリフィスに手を貸して身体を起こし、コルカスはガッツを睨みつける。
 ピピンは黙って皆を見下ろし、キャスカは泣き出しそうな瞳でガッツとグリフィスの間で視線を揺らした。

「……へっ!腕一本でグリフィスが勘弁してやろうとしたってのに暴れやがって、腕一本落とされても目が覚めねえのかよ!」
「と言っても命の取り合いだったら生き残ってたのはガッツだしな。勝ったって言ってもいいと思うが……どうすんだい?」
「ジュドー?……どうするって、何がだ」
「おいおい、どうしたんだよガッツ。出て行くの出て行かせないのって斬り合いまでしたんだろ?」
「そんなこと言ってる場合じゃないよぅ!重症何だよ?まず怪我を治さなきゃ」

 グリフィス、キャスカ、ジュドー、コルカス、ピピン、リッケルト。
 皆がガッツの周りに居た。

「なんの冗談だ、こりゃあ……」

(こいつは夢か?苦い記憶だったあの雪の日に、今俺は立ってる)

 ここは時間にも空間にも縛られない場所……核となる思いがあれば……
 シールケの言葉が脳裏をよぎる。

「くっ……」

 堪え切れずにガッツは笑いを漏らす。
 その声に皆がガッツを見つめ、ガッツも皆を見つめた。

「笑えるじゃねえか。自分の未練がましさによ」
「……」
「こいつが俺の一番の心残りってわけだ
 鷹の団を、抜けたことが。ここでお前らと道を違えちまったことが」
「……ガッツ」
「なぁ、どうすりゃいい。どうすりゃ取り消せる?俺は、鷹の団に……」

 慟哭するようなガッツの言葉に、ジュドー達は困ったように顔を合わせ、そしてグリフィスを見た。
 グリフィスは僅かに思案し、そして口を開いた。

「わからないな……こんなに何かがわからないと思った事は覚えがない」

 そうして頭を振った後、グリフィスの瞳がじっとガッツを見つめた。

「出て行きたくないんだな?」
「ああ」
「鷹の団を抜ける気はないんだな?」
「ああ」
「そうか……なら、残れ」
「ああ」
「俺の側にいろ」
「ああ」
「鷹の団で居続けろ」
「ああ」
「……」
「……」

 そして二人は大きく息を吐いた。
 安堵のように。疲れのように息を吐き、小さく笑いあった。

「ガッツ!結局出て行くのは止めたんだね?鷹の団に残るんだね?」
「あ、ああ」
「おいおい、それでいいのかよ。まぁ……お前がそう決めたんなら良いけどよ」
「い、いいわけあるかよ!こんなバカ騒ぎ起こした揚句、やっぱり止めるだァ?おいキャス――」

 コルカスが振り向くとキャスカは俯いて、身体を震わせていた。
 その雰囲気にコルカスは言葉を飲むと、彼を押しのけてキャスカはガッツへ一歩近づく。

「……キャスカ」

 キッとガッツを睨みつけ、素早く拳を握るとガッツの腹へと思い切り叩きつけた。
 僅かに眉をよせてガッツはその痛みに耐え、キャスカをみる。

「こんなこと……」

 眼尻に涙を滲ませて、震える声でキャスカは言葉を絞り出す。

「こんなこと、もう二度とするな」
「……あぁ」
「こんな馬鹿なこと……」

 キャスカの視線が落ちたのを追って、ガッツは自分の左腕を見る。

「あ~、腕のことなら気にすんな。グリフィスもな……
 こいつはなんつーか、つい左腕で剣をとめようとしちまっただけだ」
「ついってお前さん……」
「っていうかそんなこと言ってる場合じゃないよー!話がまとまったんなら早く隊舎に戻ってちゃんと治療しないと!」
「そうだな。話があるなら戻ってからにしよう」
「グリフィス……」
「わかった。抜けるのは無しだが、話さなきゃならねーことがある」
「治療したあとゆっくり聞こう」

 頷いて、丘の上からウィンダムへと帰路につく。
 帰り道だ。
 自分の居場所へ、やっと戻ることが出来る。

 ガッツはこれが夢や幻なんじゃないかと言う不安と、それをかき消す痛みを感じて帰路を歩いた。
 ずきりと響く首筋の痛み。
 それが彼に、これがただ都合のいい夢などではないと言うことを知らせていたから。


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