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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱
Name: ゴンザブロウ◆27d0121c ID:d73d82b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/19 16:43

「よ」
 逃げ道を塞ぐかのように僕の前に立ったギーシュは、仲のいい友人に対してするかのように片手を上げて僕を呼び止めた。その態度だけ見れば、何も知らない相手ならば僕たちを仲のいい友人同士だと思うのだろう。
「思ったより、成長してるみたいじゃないか」
 成長? 何だその上から目線は。反射的に嫌悪感が脊髄を走り抜ける。

「……何の話だ?」
「だから、成長したじゃないか、って話だよ。ネリーに当たらなかっただろ」
 ネリー、というのは先程人のマントにワインを被せてくれたメイドの名前だろう。だがそんなことはどうでもいい。
「勘違いするなよ。僕は何も変わっていないし変わらない。あの時も、今も、ずっと昔から、そしてこれからも、だ。成長なんて糞喰らえだ」
 先天的な気質と後天的なトラウマが二重奏で不快感を合唱する。何より不愉快なのは、こいつが、自分の言葉で人を動かせると考えているという、その事だ。


 濁流のフェルナン/第七段


「大丈夫だって。お前だって努力すればいくらでも変われるって。報われない努力なんてないんだぜ」
 脳裏に取りとめもなく反論が走る。報われない努力なんて存在しない、何故なら報われなかったやつは努力ではなく徒労というのだ、そんな感じの、確かラノベの言葉だったと思う。だが、そんなことはどうでもいい。
「僕は、努力なんていう言葉が大嫌いだ。他の何より、一番嫌いだ。努力なんて言葉を吐く人間は死んでしまえばいいと思うね」

 昔から努力という言葉が嫌いだった。いや、嫌いなのは言葉ではなく行為、でもない。ドリョクという言葉の響き自体はさほど嫌いでもない。
 ただ、昔から、何となく、努力という行為が出来なかったのだ。集中力が無いのか、同じ事を続けていられない。心の底から打ち込んで続けられたのはラノベを読むことくらいだ。真剣に夢中になったのは、物語を手繰ることくらいだ。他に楽しいと思える事がなかったわけではない。しかし、他に真剣になれることもなかったのだ。
 で、ある時、こんな言葉を聞いた。

 ────努力の天才。

 なるほど、と思った。長年の疑問が腑に落ちた、と思った。それこそ、暗闇に光が差し込んだかのように、腹の底から、すとんと理解できたのだ。
 ああ、努力という行為にも、才能が必要だったんだ、と。
 簡単な話だ。僕に一番タリナイ才能は、努力という行為に対する才能だったのだと。
 無論、理解はできている。「努力の才能」の本質を持っていない自分自身が、何より最低だっていうことくらいは、だ。
 つまるところ、だからこそ許せないのだ。十中八九溢れんばかりの「努力の才能」を持っている目の前のこいつが、だ。要は嫉妬だ。だからこそ不愉快だ。

 そんな下らない葛藤をよそに、ギーシュ様の御高説は続いているようだ。
「おいおい駄目だぜそんなんじゃ。せめて最低限、貴族の義務くらいは果たせるようにならないと」
「貴族の義務? 何だよそれは? 肥え太ることか? だったら簡単だ。父の遺伝があるからな」
 まあ、あまりやりたくないが。太るよりはむしろ痩せていた方がいい。見た目的に。まあ僕の前世は随分と痩せ過ぎな感じだったが。今の僕はランスロットの能力辺りがいい感じに作用しているらしく、結構理想的な筋肉の付き具合である。それこそギリシャ彫刻みたいな感じに。チート万歳。
「だから、そういう話じゃなくて、だ」
「じゃあ何だよ?」
 どうしても力説したいらしいので、仕方なく相槌を打ってやる。そんなことより、僕はさっさと抜け出したいのだが。そんな風に思っていると、ギーシュはやたら真剣な表情で口を開いた。

「平民を守ることだ」
「馬鹿馬鹿しい」

 思わず口が滑った。ギーシュが白い目で見てくる。ウザい。
「どうしてだよ。貴族も平民も同じ人間なんだ。貴族が平民を一方的に見下すのはおかしいって思わないのか?」
 それこそ下らない。平民が貴族を一方的に利用するというのはおかしくないのか?
 確かに貴族は、収入として税を搾り取る。だが、その分の仕事は、領地経営という形できっかりと還元しているのだ。それ以上を求められる義理はない。

 まず、ハルケギニアにおける国家というのは端的に言ってしまえば、魔法という力でもって領民という家畜を飼育することで利益を収集する企業団体である“貴族”の連合体であり、その頂点に立って利害調整を行うことこそ、王家や王族の責務に他ならない。
 名誉も忠誠も何もかも、貰って嬉しいということを別とすれば、その企業連合体内部における派閥間抗争で有利なポジションを獲得するための道具に過ぎないのだ。
 つまり、王家に従うことが不利益になるなら、むしろ積極的に反旗を翻すべし。レコン・キスタとかがいい例だろう。

 逆に、貴族が領民のために命を賭けるとか、これは姫様に忠義を尽くすとかそんな領域を超えてさらにナンセンス。
「よく言うだろ? 民にとって上に誰が立つのかはさして重要ではない、ただ治安が良くて経済も発展する、そんな風に連中に都合のいい政治をしてくれれば、誰が王様領主様になるのかなんて大した問題じゃないんだ、ってさ」

 つまり、簡単なことだ。
「民は僕たち貴族に忠誠を持たない。連中にとって僕らはその程度のものでしかないんだ。なら、僕たちも民に忠誠を誓う必要なんてどこにもないってことさ」
 そりゃ、確かに平民こそが貴族の財源であり、貴族の繁栄は平民の繁栄の上にこそある。だが、それはそれだけだ。それ以上の事にはならない。
 僕のために命を賭けようとしない奴らのために、どうして僕が命を捨てなきゃならんのだ。

 それなら、貴族が民のために命を賭ける意味なんてないってことだ。
 連中は何も感謝しない。貴族が民のために命を賭けたところで、その犠牲に救われた民はそいつを殺した次の支配者を万歳三唱して受け入れるだけだ。かくして貴族は美談となる────そして物言わぬ屍体になって忘れ去られるのだ。
 民が貴族のために命を賭けるなんて、そんな話は物語の中でしか聞いたことがない。まあ逆もまた然りなのだが。

 まあ、要するに貴族にとって、どこまでいっても民は税金なんかの牛乳を搾るための家畜でしかない、ということだ。乳牛を人間と対等に扱うなどナンセンス。家畜は大事な財源であるのだから大事にするのは当たり前、だがそれだけだ。それ以上は駄目だ。畜産業はしょせん生活のための収入源でしかないのだ。そのために命を捨てるなんて、それ自体が間違っている。
 豊臣秀吉だっただろうか、もはや前世知識なんて漫画やアニメくらいしか覚えていないんだが、確か家畜は……じゃない、農民は生かさず殺さず。頭のいい人間は上手いことを言うものだ。

 だというのに、貴族は民のために死ぬべし、なんて理想は一見美しいが馬鹿げている。民にとって貴族はいくらでも換えが効くのでわざわざ命を賭ける必要性はどこにもない。だが貴族は民のために死ななければならない。なんて不公平。
 だったら姫様に忠義を誓った方がまだマシだ。少なくとも、ゼロ魔原作におけるアンリエッタ姫様はトリステインの存続のために泣く泣くゲルマニアに嫁いだのだ。結局その話はおじゃんになったが。というか、今のギーシュハーレムの一員になったアンリエッタ姫がそこまでやるのかどうかは疑問だが。


「お前、そんな考え方だとそのうち友達なくすぞ」
「……」
 ギーシュは心底呆れた、といった調子で呟いた。
 友達なくす、と来たか。あいにくと、生来の引きこもりのせいで、僕に友達と呼べる人間は一人もいない。────だが、決して最初から欲しくなかったわけではないのだ。


 そう、昔から。前世から。


 最低だ、こいつは。コイツの行動といい言動といい何もかもが僕のトラウマを、触れられたくない心の暗部を抉り出して晒し出す。
「どうでもいいさ。もうお前とは分かり合える気がしない。というわけでさようならだ」
 僕はさっさと身を翻して立ち去ろうとする。その肩を、ギーシュの手ががっしりと掴んで離さない。その体温が、まるで毒々しいメタン混じりの汚泥か何かのように感じられて、僕は思わずその足を止めて振り返った。

「何だよ? 用があるならさっさと済ませてくれ」
「ああ。男が分かり合うなら、これしかないだろ?」
 そう言って、ギーシュは自信ありげに笑いながら拳を持ち上げていた。握られた拳を見た瞬間に前世の記憶が蘇り、反射的に不快感がフラッシュバックする。
 委縮。恐怖。不愉快。拳を交えれば理解し合える、なんてそんな都市伝説。
 そんなものは錯覚に決まっている。何より、僕自身を理解されるというのが何よりも何よりも許せない。赦せない。殺意を覚えるほどに赦せない。僕自身の卑小さ矮小さを僕自身が誰より理解しているから、誰にも見せたくない。誰にも理解されたくない。赦せない。
 何て不愉快。何て不愉快。

「あのな、僕は貴族だぞ?」
 拳で殴り合うような野蛮な真似はお断り、と言外に言い張りながらギーシュの手を振り払う。
「なら、杖でも何でもいいさ。とにかく、決闘だ」
 ああ。何て不愉快。殺したい殺したい殺したい。いや。殺す。殺す。殺意がノイズのように思考を走り回る。さすがに殺したらまずいだろ、と冷静な一部が警告を上げるが、それこそが冷静さを喪失している証拠、それを理解してなおゴボゴボと湿った音を立てて湧き上がる敵意と殺意は止まらない。

「なら、いいや。決闘だ」
 冷静な思考ができなくなっているようだ。思考の水面を、水底から湧き上がった殺意という名のボウフラが埋め尽くし、やがて水面を埋め尽くして水中の酸素を消費し尽くし、窒息して腐臭を上げながら自己崩壊を起こすヴィジョン。
「決闘。相手になってやるよ」
 やがてボウフラは決壊し、ブチブチと音を立てて蟲になって羽音で脳味噌を埋め尽くす。


 それなりの距離を取って向かい合う。決闘の作法だ。
「グラモン家次期当主、ギーシュ・ド・グラモン」
「同じく、モット家次期当主、フェルナン・ド・モット」
 名乗りを挙げてみれば、互いの立場がいかに似通っているのかが分かる。同じ伯爵家の次期当主。神童の称号。転生者。現代知識。チート能力。だというのに、この差は何だ?
 ギーシュの澄んだ蒼い瞳の中に、憎々しげに表情を歪める僕の顔が映り込んだ。彼の瞳に映った僕の表情に、毒々しいというほどの眼力はない。ただガラス玉のように安っぽい、薄っぺらい赤だ。

「錬金!」

 ギーシュの掛け声と同時に地面の土が鋼の輝きを帯びて噴き上がり、彼の杖に絡みつき、また一部が分離して、白黒の双剣の形を作り上げる。
 形状こそ明らかに干将莫邪を模した代物だが、ギルガメッシュの蔵で本物を知っている僕の目から見れば、所詮そんなものは無様なレプリカ────そんな風に思い、だが、そんなものはしょせん借り物の力、そういう意味ではあっちの不格好な干将莫邪こそが本物の刃だ。
「イル・ウォータル・シュトローム────ウォーター・スパイラル!」
 ギーシュに対抗して僕の杖の周囲にも水の渦を巻き起こす。風魔法エア・ニードルの水バージョン、杖の周囲に水の渦を巻き起こす近接戦闘呪文。

 ギーシュの握る干将莫邪レプリカは確かに奴の努力と才能の積み重ねによる、いわば本物の力だ。しかし、だから本物の赤い弓兵と完全に同じものか、と問えばそれは違う。ギーシュと弓兵、主人公属性という意味合いにおいてその方向性はある意味同一、しかしそれが別人別物である以上、それらが持つ存在が同一であり得るわけがない!
「────行くぞ!」
 あえてフェイント、必要以上の無駄な気合を込めて僕が突き出した杖に対して、ギーシュは双剣を交差させた防御の構えを繰り出す。僕の中の無窮の武錬スキルはその構えを努力の積み重ねによって鍛え上げられた守備力特化の刃と判断、無理のない受け流しから反撃の刃を叩き込む一手と分析、それすら赤い弓兵と同一だが、僕は既にその差異を見切っている!

 僕が突き出した杖の纏った水の渦に触れた刹那、ギーシュの構えた双剣は渦に巻き込まれてギーシュの手を離れ、あらぬ方向へと吹き飛ばす。これこそが水の近接戦闘呪文のウォーター・スパイラルの真骨頂、風のドリルによる殺傷呪文であるエア・ニードルとは違い、受け流しによる防御、そして武器落としによる無力化を狙った防性、非殺傷の格闘呪文だ。
 そして、おそらく武器を振るいながら魔法を使う工夫なのだろう、ギーシュが杖を核として双剣を形作ったのを僕は見ている。つまり双剣を飛ばせば杖も飛ぶということ、オリジナルの弓兵のように何度剣を飛ばされても再構築するような芸当は無理。

 杖を飛ばされたギーシュはとっさに予備の杖を引き抜いたのだろう、剣の柄に似た質実剛健な杖、あるいはこちらが彼の本来の杖か。錬金によって身長をも上回る大剣の刃を展開したその杖は、彼我の重量差により水流で跳ね飛ばすような小技は無効、その剣を振るう膂力は、ギーシュの拳を腕を胴体を全身を鎧のように覆っていくパワードスーツ仕様のゴーレムが生み出すもの。
 精緻な剣技を使うゴーレムというだけでも面倒なのに、コモンスペルに過ぎないフライの呪文を唱えるだけでもゴーレムとしてあり得ない俊敏性を発揮、強力な魔法に対しては地面を錬金した鋼の壁などの防御呪文で対処、あるいはこの状態で周りに雑魚ゴーレムを生み出せば、対ゴーレム戦のセオリーである本体狙いも難しい。

「っ、厄介な……!」
 金属には電気とばかりにライトニング・クラウドを撃ち込むが無効、おそらくは何らかの非導体を仕込んだ複合装甲、これだから現代知識持ちは面倒なのだ。
 魔法によるパワードスーツの錬金に、少々の小細工など力押しで叩き潰す破壊力、そして魔法。正面からの潰し合いにおいてこれほど有効に働く魔法はないだろう。水流を纏った杖で敵の斬撃を受け流せば、おそらく刃を落としているのだろう、鈍器の爆砕、地面は斬れずに砕け散る。

 だが、正面から勝てないのなら、正面から戦わなければいいのだ。足元に水流を生み出し加速して距離を取り、手元の魔法の球体を生み出す。アクア・ボム、着弾と同時に爆裂する水の弾丸。
「我がモット家伝来の奥義! 受けてみよ!」
 なんちゃって、モット伯家にそんな正面突破な技はない。だがその掛け声に引っ掛けられたのか、ギーシュは杖と同化した大剣を振るい、地面を錬金して巨大な鋼の壁を生み出して、爆裂水弾は虚しく飛沫を挙げて壁の表面で砕け散る。
 だが、それこそが次に繋げる布石だ。飛び散った爆殺水弾の飛沫を触媒にクリエイト・ミスト、効果時間でも切れたのか崩れ落ちる鋼の壁を後目に霧を生み出して相手の視界を閉ざす。そこから何らかの手段で脱出される前に撃ち込むのがこっちの本命である練成呪文だ。
 練成とは要するに錬金の液体バージョンである水呪文、しかし前世において特殊な知識を持たなかった僕は、ニトログリセリンもサリンガスも生み出す事は出来なかった。だが、そんな僕にもできる事がある。
 僕の呪文を受けてギーシュを包む霧が漆黒に染まり、霧から飛び出してくるギーシュの甲冑も漆黒に濡れている。闇属性なんて厨二病チックな能力では有り得ないただの練成、僕が生み出したのは墨汁だ。小学校の書道の時間にさんざん使ったあれこそが、僕の切り札。
 頭から墨汁を被ったその状態で、マトモに視界が効くものか。顔面にワイパー一つつけなかった自分の不測を悔みやがれ!

「イル・ウォータル・アクア・ウィターエ……!!」
 生み出すのはアクア・ゴーレム、呪文を唱えた僕の声に反応してギーシュがこちらに向かってくる。その足取りには欠片の淀みもなく、おそらく気配だけで動いているのだろう。だが、無窮の武錬スキルがあれば、本職の気配遮断には及ばなくても、武人の嗜みとして気配なんてある程度は消せるのだ。そう、生命を持たないアクア・ゴーレムと同じ程度には。

 人型のアクア・ゴーレムがギーシュを回り込むように疾走し、素早く間合いを詰める。その攻撃に瞬時に対応し、ギーシュは渾身の斬撃を叩き込んだ。だが液体ボディのアクア・ゴーレムに物理攻撃は無効、そんなこと目が潰れたギーシュには分からないだろうがな!
 飛沫を挙げて切断されたアクア・ゴーレムが触手の塊のような形状になり、ギーシュの身体を拘束する。殺った。ひとまずこの鎧を貫通しなければ、勝利とは言うまい。僕は手持ちの杖にブレイドを発動させ、ギーシュに向かって振り上げる。


 その刹那。
 そう、勝った────確信が神経を走る、その刹那だ。
「お兄様……!」
 横合いから轟いた爆裂が僕の体を殴り飛ばした。


「っ……ぐ……ぁ……!?」
 何が起きた!?
 驚愕に身をひきつらせながら体を起こす。脇腹の傷口から発する激痛は脳に届く前に水の精霊が停止させ、損傷は肋骨三本と右肺と横隔膜と腸、全ての機能は精霊で代行可能。

「ルイズ、何をやっている!?」
「ギーシュお兄様、大丈夫ですか!? お怪我は!?」
 見れば、ギーシュに向かって見覚えのある桃色がかった金髪の少女が駆け寄っている。となると、さっきの爆発は虚無によるものか。
 確か、命中精度の劣悪ささえ克服できれば最短の溜めで最高の威力を発揮できる、最高クラスの戦闘手段、とかくあらゆる二次創作で指摘されている失敗魔法の利点を最大限に生かすべく精度を向上させたのは、おそらくギーシュの指導によるものだろう。

「ああ、なるほど、そういうことか……そうかそうか、なるほどなるほど……ははっ」
 最低だ。最悪だ。気持ち悪い。僕は無様に地面に転がったまま、込み上げてくる衝動を喉の奥で押さえつけた。喉の奥が震えているのが分かる。そうかそうか、そういうことか。
 ああ、これが仲間というものか。僕に仲間はいない。いるのは手駒だけ。だから、肝心なところで邪魔が入った。誰も信用できないと考えて、だから他人なんていらないと考えた。
 どこで聞いたかなんて忘れたが、本当の強さというのは、物理的なパワーではなく、人を信じる心だって言う話だ。つまり、どうして負けたかなんて簡単なことだ。早い話が、弱いから負けたということだ。なんて簡単な話だ。糞。どこまでも皮肉。

「ルイズ、何をやっている! これはお互い納得づくの決闘なんだ! 邪魔をするんじゃない!」
「でも、お兄様があんな奴に負けるところなんて見たくありません! そんなこと!」

 だが。
 それでいてなお、嗤いが込み上げてくる。
「くくっ、ぁあははっ、はっ! げぼごぼっ、あっははははははははははははは!! がはっ、あぁはははぁ!! いやいや、まさか伏兵とは考えたなギーシュ」
 肺に溜まった血を吐き出しながら嘲笑う。吐き捨てた血は、びちゃべちゃと音を立てて地面にどす黒い華のような跡を咲かせ、それがまるで僕を心の底から祝福しているように見える。
 実に愉快、愉快なのだ。
「あっははははっはははははっはははははは!! となると、小細工無しの戦いと最初に言ったのも全てがこれに至る布石だったということか! なるほど、大した策士ぶりだよギーシュ!!」
「違う! 俺は……!!」

 ギーシュは今、故意だろうがそうで無かろうが、己の意志を、その無尽の強さの源を裏切った!! どうしようもなく、そう、どうしようもなくだ。
 例えその一瞬後には奴が再び立ち上がってより強くなるのだとしても、それでも。アイツに一矢報いてやった。白紙のように清らかだったヤツの行為に、一滴の泥を落としてやった!!

「そうだ、ああそうだな悪かった、確かに僕が悪かったなギーシュ・ド・グラモン、グラモン家の次期当主殿、弱冠十二歳にして才能に恵まれた土のスクエア、伯爵である父上殿にも領地経営を任されて領地改革に成功し、アンリエッタ姫の覚えもめでたく、トリステインの大貴族の筆頭たるヴァリエール家の庇護まで受けたグラモン家の神童様が、まさかそんな卑怯な真似をしでかすわけがない、つまり僕が悪かったと、そうだなそういうことになるわけだなハハハハゲホグハハァッ」
 地面に血反吐を吐きながら嘲笑う。

 まずい。これ以上はまずい。というか、ここまで行ってしまっているということそれ自体がすでに最悪なまでにまずい。ギーシュの立場ってのは僕が言った通りの物騒な代物で、それを公衆の面前で罵倒する、それこそが最悪の行為だ、っていうのに、何という快楽か、あいつの精神を苛むというたったそれだけの行為が、止められないのだ。
 ああ、つまり、これはまずい。わずかに冷静な心の片隅で、体内の水の精霊を操作、脳内の伝達物質やら何やらを堰き止めて、一時的に冷静な状態を作り出す。
 何より精神を埋め尽くしていた狂喜と狂乱が一瞬で揮発して、そこに生まれた落差が空隙となり、その上で恐怖と混乱と何より自己嫌悪がそれこそ濁流よろしく襲い掛かってきて爆発して崩壊して、精神が硬直する。つまりこれがよく言うパニック状態というものなのだろう、と現実逃避して逆に冷静な心の一部が考えて、しかし有効な手段なんて何も考え付かずに再び狂乱し────

 脳に水精霊の制御を回した分、内臓機能や損傷部位の保護に力が回らなくなったらしい。要するに全身の傷口からどっと血が噴き出して────僕は気絶した。


 やってしまった。何てことだ。
 ギーシュに、僕がギーシュに勝利し得る可能性を見せてしまった。……いや、そんなことはどうでもいい。何であんなに目立ってしまったんだ僕は!? これでギーシュに要注意人物としてマークされでもしてみろ!! 洒落にならない事になるぞ!?
 いや、それよりも何よりも、あんな無様を晒してしまったこの身が情けない……糞。
 失敗だ。それも大失敗だ。
 どうにかチート能力は見せずに戦えたが、それを差し引いても失敗だ。
「気がつきましたか?」
 思わず歯噛みした僕の耳朶を、柔らかな声が打った。
「リーラか」
「はい」
「そう、か」
 少しだけ力が抜ける。
「旦那様が心配なさってました。一体何が起きたのか、と。グラモン家の私設軍や使用人が殺気立った様子でいて、さすがに放っておけなかった、と言っておられました」
「そうか」
 それはまた、あいつはよっぽど人望があるようだ。糞、やっていられない。何が楽しくて、そんな簡単に人を信じられるのか。
「……他人なんて、どうせすぐに裏切るのにさ」



 グラモン領から帰ってきた僕が最初に考えたのは、これでは足りない、という事だった。夢に出てきたあの化け物に対抗するためには、今の僕が持つ力だけではとてもではないが足りない。もっともっと、強くならなければならない。
「だからといって、火竜山脈などに行くのは自殺行為です! いくらご主人さまでも生きて帰るのは……」
「大丈夫だ。チートの僕なら行ける。何より、今の力じゃ足りない」
 熱で臥せっている間、ギーシュに勝てないかもしれない、殺されるかもしれない、あるいは、予想だにしない圧倒的な不確定要素に足をすくわれるかもしれない、と、不安が日増しに膨れ上がっていた。そして、それに対してどうする事も出来ず、何度も何度も魘されては飛び起きた。あんな目に遭うのは御免だ。少なくとも、ハルケギニアにあんなバケモノがうろついているだけでも恐ろしくて眠れない。
 ……否、もしこちらに来るかもしれない。そんな仮定の話だけで、僕は恐ろしくて溜まらなくなる。



 だから、力を。あの化け物に対抗できるような強い力が欲しい。



 暑い。いや、熱い。
 “王の財宝”から取り出したヴィマーナの甲板で、僕は乾燥した風が頬を撫でていくのを感じ、喉に砂埃を吸い込んで咳き込んだ。
 ここは火竜山脈……ゲルマニアの北端の辺境地帯に存在する火山帯。北の端にあるというのに、地熱によってやたらと気温が高い。ごつごつとした岩肌を剥き出しにした山脈であるが、この地熱効果のせいか、それとも怪しげな精霊的な何かでも働いているのか、この土地には雪も雨も降らない。

「……力」
 話す相手がいないと、独り言の癖がつくらしい。前世でもそうだった。
 ヴィマーナの甲板から僕は一息に地面に向かって跳び下りた。

「……力」
 地表に向かって落下しながら、取り留めもなく僕は呟く。
 力が欲しい。今のままのこれじゃ足りない。力が欲しい。
 ジョゼフ。教皇。もしかしたら出てくるかもしれない未知なる虚無の使い魔。世界は敵ばかりだ。力が欲しい。

「……力」
 足りない。アレに対抗可能な力なんて、このハルケギニアには存在しないのではないかと思う。いや、一つだけある。虚無だ。もしかしたら虚無であれば何とかなるのかもしれない。四の四を集めれば何とかなる。四人の虚無の使い手を結集させれば、もしかしたら対抗する事ができるかもしれない。

「……力だ」
 その力を手に入れるためにも、今の力では足りない。もっと力が必要だ。だから────。
「……力を、力を寄越せぇええええええええええええええええええええ!!」
 叫びに反応するかのように飛び出してくる巨大な影。咆哮を上げ、炎を噴く。この火竜山脈の名前の由来、火山地帯特有の気候か何かを好み、数知れない火竜の巣窟となっているのだ。
 僕を囲む無数の減衰結界が火竜のブレスを防ぎ、外套の下から迸る無数の水の槍が、蛇のようにうねりながら火竜に向かって襲い掛かる。
 ドスドスと音を立てて突き刺さった水の槍/水精霊の一部は、指に嵌めたアンドヴァリの指輪を通して先住魔法の効果を伝導、外套の下の空間を歪めてラグドリアン湖と直結した水流を通して、火竜の体を流れる水の流れを、水精霊の本体へと繋げ、火竜の肉体を浸食していく。

 やがて火竜は苦しげな呻き声を上げて僕へと屈した。その全ての体組織、脳を含めた神経組織は、体液そのものである水精霊の分体によって完全に掌握され、もはや火竜はこの完全に僕の肉体の一部だ。
 生物を自らの端末に変える能力。これが、水メイジにして、今やラグドリアン湖の水の精霊そのものである僕の、新たな能力であった。

「こんなものじゃ足りない……もっと、もっとだ、力を、力を寄越せ!」
 掌握した火竜に仲間を呼び出す合図である鳴声を上げさせる。さしたる時間も経たない内に、無数の火竜がこちらに向かって舞い降りてくる。
「っぎゃぁははははははははははぁっ!! 足りないぞ! もっと出て来い!!」
 渦巻く水が無数の槍となって火竜の群に撃ち込まれる。回避されれば槍は途中で弾け、無数の楔に分裂して回避した竜に背後から喰らいつく。一撃でも当たれば十分。後は十分に浸食が進めば、それでそいつはこちらの手駒だ。
 十分数が揃ってくれば、そいつらも戦闘に参加させる。僕の端末として水の先住魔法が使えるし、水の精霊の力を使えば傷を負っても再生が可能という疑似韻竜、通常の竜が相手ならどちらが勝つかは言うまでもない。

 牙や爪を通して水精霊の一部を撃ち込み、あるいは切り裂かれて飛んだ返り血すらも浸食の足がかりに変える。こいつらの全身の体液は水の精霊という名の毒だ。そして、毒が全身に回った時点でそいつはこちらの駒になる。少しずつ駒を増やしていき、気がつけば一帯の火竜は全て僕の支配下に置かれていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
 足りない。火竜の群を端末にした僕だから分かる。こんなものでは足りない。火竜など、単なる猛獣に翼が生えただけの代物でしかない。しかし……いや、だが……。
 要は、物は使いようというべきだろう。だが、やはり足りない。

 力が足りない。

 再びヴィマーナに乗り、無数の火竜の群を率いて飛ぶ。どこへ向かうか……ひとまず、アルビオンだ。あそこのオグル鬼などの亜人などには興味があるし、少しばかり試してみたい事もある。そう考えると、竜群を駆って僕はアルビオンへと飛ぶ。




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後書き的なもの
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 ……やってしまった。
 ラスト超展開どーん。本日のフェルナンは狂乱気味です。微妙に性格変わってないか、って気もする。ヒステリーとパニックのダブルアタックでこんな感じ。
 ギーシュはお兄様。
 しかし、そろそろストックも減少してきた今日この頃。どうしたものかと。ストックに加筆修正する形で投稿しているため、通常の連載の弱点も背負うことに。

 ちなみに、決闘のルールは杖を落とされた時点で負けが確定するため、実は最初にウォーター・スパイラルで干将莫邪(偽)を弾いた時点で勝負は決まっているはず、ということに突っ込んではいけない。



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