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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢
Name: ゴンザブロウ◆27d0121c ID:d73d82b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/19 16:37
「あー、いい天気だな……」
 今日はトリステイン魔法学院の進級試験を兼ねた使い魔召喚の儀式の日だ。もっとも、僕は既に使い魔を召喚済みのため、それは免除されているのだ。ゆえに、この寮の一室を改造して作り出した研究室で、新型のホムンクルスの研究を行っている。
 二体以上の動物型ホムンクルスを組み合わせて、新たな個体を作り出す実験。今までの実験体は、二体の動物が互いに自我を混濁させて精神崩壊に陥ってしまったのだが、少しばかり糸口が見えてきたところで、ひとまず休憩だ。
 ああ、今日はルイズが平賀才人を召喚する日だっけ。つまり今日から原作一巻の事件が始まるのだ。ああ、それから、タバサにシルフィードの鱗を分けてもらうように交渉してみなければ。
 脇机に置いてある紅茶を啜りながら窓の外を見る。そして、僕は思わず口の中の紅茶を噴き出していた。
「……何だ何だあの馬鹿魔力は!?」
 びっくり仰天して椅子から飛び上がると、研究室から飛び出して寮の階段を駆け降りる。恐ろしいほどに強大で禍々しい魔力の塊が近づいてくる。
 急いで確かめるべきだ。僕は取り留めもなく考えながら校門へと向かう。


「っ、ぅうわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 僕は思わずベッドから跳ね起きた。
「あ、う、ぅう、こ、ここは……」
 恐る恐る周囲を見回すと、少しずつ冷静な判断力が戻ってくる。まだ魔法学院にも通っていないのに、寮の研究室なんてあるわけもない。第一、水の精霊の知覚で判断しても、僕の肉体は十一歳のままだ。
 ……夢だ。
 荒い息を吐いて、震えの止まらない体を無理やり押さえつけるようにして、僕は自分の体を抱き締めた。少しずつ、先程まで見ていた夢の記憶が蘇ってくる。痛覚といい恐怖感といい、随分とリアルな夢だったと思う。最悪だ。


 濁流のフェルナン/第六段


 考えまいとすればするほど、頭は夢の内容を辿ってしまう。
「イル・ウォータル・クラウディ……」
 トリステイン魔法学院の学生寮を飛び出した僕は、念のため、周囲に魔法で微弱な霧を展開して光を屈折させる光学迷彩を展開、次いで体の周囲を巡らせるようにして水の防御結界を展開する。もっとも、この程度、あの超魔力に対しては気休めにしかならないが。

 姿を隠して様子を見ていると、使い魔召喚に出ていった生徒たちが帰ってきたようだ。生徒どもの群れのなかにモグラやらカエルやらが混じっていることからして間違いはない。だが、何やら様子がおかしい。男子生徒たちは一様に血走った目つきをしているし、女生徒たちはやはり一様に頬を上気させて心ここにあらずといった様子だ。まさか、全員そろって麻薬でも服用しやがったのだろうか?
 どうやら魔力の源はその生徒たちの中にいるらしい。おそらく、化け物を召喚した生徒でもいたのだろう。まさかヴァリエールのヤツ、平賀才人の代わりにダークシュナイダーでも召喚しやがったのか!? さすがはゼロ、黒の騎士団を率いるだけの事はある……ってそれは違うか。

「おい、一体何があったんだ!?」
 さすがに情報が無ければどうしようもない。ひとまず霧による光学迷彩を解除して、女子生徒達は明らかに上の空なので、手近な男子生徒を捕まえて聞いてみる事にする。
「化物だ……ゼロのルイズが、化け物を召喚しやがった!!」
 やはり。 ま た ル イ ズ か 。ヤバいのは虚無だけにしておけばいいものを……などと思っていると、

「違うわ! あの方の事を悪く言うなんて許さないわ!」
「そうよ! あの方はとても素晴らしい方よ! 貴方達ごときが話題にするなんて許される事じゃないわよ!」
「そうよ!」
「そうよ!」
「きゅいきゅい!」
 女生徒たちが口々に叫ぶ。何だか集団洗脳にでも遭ったかのような感じだ。
 にしても、あの方……と来やがったか。こいつら、そいつに精神汚染でもされたのか。というか、こいつら見ていて妙にイラつくのは気のせいだろうか?
「あー、ちなみに、君たちの言う『あの方』ってのは…………」
「ほら、ルイズが召喚した『あの方』よ」
 まさか、再構成とかの最強系主人公でも出てきたのか……とか思ったのだが、どうやら甘かったらしい。

「ええ。平賀・才人・スプリングフィールド・マクダウェル・近衛・桜咲・神楽坂・衛宮・シュバインオーグ・ペンドラゴン・七夜・ブリュンスタッド・遠野・横島・上条・碇・高町・八神・テスタロッサ・ハラオウン・ヴィ・ブリタニア・皇様よ!!」

 ……どう見ても多重クロスオーバーです。本当にありがとうございます。
 にしても、よくそんな長い名前を一口で言えるものだ。さすがに覚えきれないと思うのだが……。というか、ハルケギニア人の癖になぜ漢字が分かる?
 あまりに長い上に心当たりがビシバシありまくる名前を並べながら陶酔する女生徒。つまりこの惨状は例の平賀・才人・スプリング(ryの能力か何かによるものということ……なのか? にしては、どうも不自然な気がするが……。

 とにかく、思案してみるが何も分からない。さすがにこの情報不足の現状ではどうしようもない。いや、見当はつくのだが、ぶっちゃけ信じたくない。仕方ないので、怖いもの見たさ半分に人混みをかき分けて真ん中へと向かってみると……いたよ。
 何か、顔立ちは普通なのになぜか美形と断言したくなるような矛盾した顔立ちの少年。その隣にしなだれかかるようにして侍っているのはヴァリエールとツェルプストーとタバサと、あと顔は知らないが青い髪に全裸のナイスバディの美人なので多分アレがシルフィードだろう。あと、メルセデスもいた。
 一応念の為、近くにいた女生徒に声を掛けてみる。金髪縦ロールの確かモンモランシーとか言ったか、確か青銅のギーシュの……。
「…………いけない、私にはギーシュが、私にはギーシュが、ギーシュが……才人様、ポッ」
 まさに瞬殺。昨日までは確かに青銅のギーシュに御執心だったはずなのに、驚くほど神速の心変わりである。話しかけても返事が返ってくる様子もない。ただのしかばねのようだ。

 そんなこんなで、可能な限り直視しないようにしていた諸悪の根源に、僕はようやく目を向ける事にして、そして愕然とした。ちょっと待て、何で……何でリーラとシャーリーがあの中にいるんだ!? どうして!
 ヴァリエールやツェルプストーと並んで彼にしなだれかかる二人のメイド。平賀・才人(ryがニコッと微笑むと、彼の周りにいる少女たちが、そして僕の周囲にいる少女たちが、ポッ、と擬音を漏らす。……これは、異常だ。ここにいるのは『数十人の少女たち』ではなく、『平賀才人のハーレム』という集合体、平賀才人という女王蜂によって統率される、一種の群体生物だ。
 そして、僕が唯一信頼していた二人も、もはやどこにもいない。あまりといえばあまりの出来事に、何の感動も覚える事ができなかった。

 そして、呆然と二人を見る僕と、ハーレムの中心にいた少年の視線がぶつかった。それと認識していながら、憎悪も殺意も湧いてこない。あまりの出来事に感情すら追随して来れていない、と、理性は冷静に僕の感情の流れを把握、だがこれは人が殺意を持つのに必要十分な状況だと冷静に判断し、袖口に仕込んだ杖を引き抜こうとして、しかし僕の手は空を切った。杖が無い!
 どうすればいいのか分からず混乱する僕をそう言って僕を思いっきり指差したのは、平賀・才人・(ry様だった。
「見つけたぞ、世界の歪みを!」
「えっ!? ちょっ、待ッ……!?」
 こちらを指差して叫ぶ平賀才人の体から、禍々しい漆黒の魔力が膨れ上がる。一体何が起こっているのか、何が何だか訳が分からない。いや、理解したくもない。
「いくぞ、エセルドレーダ!」
「イエス、マスター!」
 平賀・才人・(ry様は、何の脈絡もなく現れた本が変身した少女と共に何やら全身タイツっぽい格好に変身すると(女生徒達から「キャー才人サマー!」と歓声が上がる。)、やはり何の脈絡もなく召喚した真っ赤な巨大ロボにパイルダーオンしてこっちに迫ってくる。

 空に浮かぶ巨大ロボが左手に何やら凍気のようなものを纏い、こっちに向かって突っ込んでくる。
「ハイパーボリア・ゼロドライブ!!」
「がっ、……ぎ、ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 僕の体は容赦なく宙に吹き飛ばされ…………
「何勘違いしているんだ? まだオレのバトルフェイズは終了してないぜ! 速攻魔法発動、バーサーカーソウル!」
 は……? 吹き飛ぶ僕は状況のあまりの理不尽さに思わず天を仰いだ。この期に及んでカードゲームとは、僕を馬鹿にしているのか? 確かに、僕は馬鹿にされるような人間かもしれない。だが、だとしても、こんな結末はあんまりじゃないか?

「手札を全て捨て、効果発動! コイツはモンスター以外のカードが出るまで、何枚でもカードをドローし、墓地に捨てるカード。そしてその数だけ、攻撃力1500以下のモンスターは追加攻撃できる!」
 下半身を焼き尽くされて上半身だけになった僕は、何の反撃も出来ずに地面に血反吐をぶちまける。
「嫌だ……嫌だ、せっかく生き返ったのに、せっかく思い通りに生きられたはずなのに、嫌だ! まだ死にたくない!」
「お前は、そんな風にお前に命乞いした人々を見逃したのか!?」
 嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ! こんな風にして終るのは嫌だ。こんな風に終わってしまいたくなんてない。こんな事があっていいはずがない。

 だが、叫んでみても現実は変わる事はない。僕は何度も何度も叫びながら這いずって逃げて、そして周囲にいた少女達からも無数の魔法が僕に向かって降り注いだ。土が、水が、火が、風が、虚無の力が、節操も何もなく一つの力の塊と化して僕に向かって襲い掛かる。心を一つにして絶え間なく呪文を詠唱する少女たちの中にリーラの、シャーリーの姿を見つけて、僕は絶望的な気分に囚われた。
「さあ行くぜ! まず一枚目、ドロー! モンスターカード『青眼の究極龍』を墓地に捨て、追加攻撃! 二枚目ドロー! モンスターカード! 三枚目、モンスターカード!」
 いつまでも終わらない連続攻撃。モンスターカードをドローされた回数が一千を超えた辺りで、僕は考えるのをやめ…………。



 夢だ。全て夢だ。
 ああそうだ、あんなものは夢に決まっている。
 第一、夢の最初の方で研究していたキメラホムンクルスの研究にしても、今ちょうど研究しているところの技術じゃないか。僕が魔法学院に通うような頃には、もうとっくに完成しているはずだ。
 そうだ、そうだよな。あれはただの夢だ。……ただの夢だ。そうだ。そのはずだ。

「……ご主人さま、大丈夫ですか、ご主人様!?」

 そうやって、初めて、横から心配そうにこちらを覗き込むリーラの姿に気がついた。
 わざわざ心配してこちらに気を使ってくれるリーラの顔に、夢の中で見た、僕に向かって呪文を唱える彼女の顔が重なって見えて、僕は吐き気をこらえながら彼女の肩を押し戻した。
「ああ、リーラか。大丈夫だ、少し嫌な夢を見ただけだから、気にしないでくれ」
「でも……! 少し熱があるみたいですから、今日はお休みください。今、シャーリーが水を汲みに行って……戻ってきたみたいですね」
 ドアが開き、水を汲んだ桶を持ったまま、シャーリーはベッドに歩み寄ると、タオルを絞って僕の額に当ててくれる。過熱した頭にひんやりとしたタオルの温度が気持ちいい。

「なあ、リーラ、シャーリー」
「はい」
「何でしょうか?」
 ベッドに横たわったまま天井を見上げる。いつも通り、いつもと何も変わらない、見慣れた部屋の風景だ。
「君たちは、僕から離れてどこかに行ったりは……しないよな……?」
 彼女達の言葉でも、僕は安堵する事ができなかった。僕の立つ世界の足元はまるで演劇の書き割りのようで、恐ろしいほど薄っぺらかった。



 病み上がりの僕は、父に呼び出されて再びあの執務室に向かっていた。どんな(性的な)阿鼻叫喚状態になっているのか少しばかり不安ではあるのだが、まあいつものことだろう。
 そんなこんなで、少しばかり逡巡してから、僕はいつも通り執務室のドアをくぐった。
 今回は、どうやらメイド長のエマさんを相手にしているようで、エマさんの下腹部が大きく膨らんでいる事から、僕が倒れる前に製造した新型のアクアガーゴイルを使用しているらしい。
 父の使い魔である触手生物から採取した媚薬成分入り油脂をベースに製造した触手型アクアゴーレムを自律タイプにしたもので、適切に水分を補給すると遠隔操作で女性の体内で膨張し、疑似異種出産プレイが可能になるという代物であるが、色々と生々しい代物でもあるので描写は割愛する。

「病み上がりのお前にいきなりこんなことを言うのは悪いとは思うのだが、モルセール侯爵家から、ちょうど手紙が届いてな。お前との婚約の話は破棄するという事だ」
 今、何と言った……?
 返す言葉もない僕を見て気遣わしげな表情になった父は、一言ずつ言い含めるようにしてもう一度同じことを言った。
「モルセール侯爵家からの通達だ。お前とメルセデス嬢の婚約を破棄する、と」
 何故だ?
 何故だ?
 何故だ!?
 脳髄の奥で、今までの情景が一つ一つ蘇ってくる。舞踏会の会場で金に飽かせたと僕を罵ったメルセデス。トリスタニアで僕の知らない恋人と談笑するメルセデス。
 彼女との思い出はほとんど思い出せない。思い出すほどの何かを積み重ねたわけでもない。彼女自身に何かの価値を見出しているわけですらない。
 だが、奪われた。それは事実。
 しかし、なぜこうも急に事態が動く? 父に相談するほどだ。モルセール侯領の財政は、一朝一夕にどうにかなるほどのものではないはずだ。メルセデスの婚約は、彼等の数少ない命綱のはず────

 ────ふと、彼女と同じトリスタニアで出会った相手の影が脳裏によぎる。
 アイツの名前。ギーシュ・ド・……
「……グラモン」
「おお、知っていたのか? 何でも、東方の新しい茶の生産拠点を作るのと引き換えに、グラモン領から多額の援助を受けたらしくてな。わざわざ彼女を結婚させる必要もなくなったということだ」
 そう言って父が差し出した封書を、僕は何も言わずに受け取った。
 封はすでに切られている。父が目を通した後なのだろう。そんな下らない推測に気を回せるくらい、僕の感情は不思議なくらい冷静だった。ああ、そうとも、僕は冷静だ。冷静だとも。どうでもいい女一人のために取り乱すほどに人生諦めているわけでもない。僕は冷静だ。
 その手紙には、おそらくそれを書いた本人であろうモルセール侯爵の想いが綴られていた。いくら家のため、領民のため、また長年続いてきた家の伝統の為だとあっても、そのために娘を犠牲にするべきではなかった、と、そんな不器用な父親の愛情が描かれていた。
 そんなものがあるのなら、そもそもの最初からあの男と添い遂げさせてやればよかったのだ。彼はそれをしなかった。今メルセデスが自由の身になったのは、グラモン家から金を貰ったからだろう。衣食足りて礼節を知る、まったく反吐が出る愛情だ。偽善者め。
「まあ、そうあまり気に病むな。こちらとしても、お前をあの娘と結婚させるのは気が咎めていたところだからな。モルセール家との結婚には利点もないし、お前だってあの娘を好いていたわけではないようだしな」
「……確かに、モルセール家の婚約は百害あって一利なし……ではありますが、これではまるでグラモンに負けたようで、あまりいい気分はしませんね」
 ハルケギニアにおける貴族の恋愛観はきわめて独特なものだ。貴族の子女は確かに家同士で婚約を結び、同盟関係を盤石なものとする。そのために婚約という儀式が存在する。だが同時に、貴族の間にはそれとは別に自由恋愛の観念というものが存在するのだ。
 つまり、早い話が、トリステイン貴族の子女なら誰でも通うトリステイン魔法学院で恋人を見つければ、婚約よりも恋愛結婚の方が優先されるのだ。別に、貴族の家にとってもそう悪い話ではない。
 例えば、ぱっとしない下級貴族の娘ケティ・ド・ラ・ロッタが、武家の名門グラモン伯爵家の息子と結ばれたとする。すると、ロッタ家は名門グラモン家の縁戚に加えられ、下級貴族の間にさえ存在する派閥闘争においてもグラモン家の名を背景に、抗争を有利に進めることができる。
 一方で、グラモン伯爵家の息子がアンリエッタ王女と結ばれれば、それはグラモン家が王家の末席に連なることができるという事をも意味している。多分原作で王女が学院に通っていなかったのも、既にゲルマニアへの縁談が決まっていて、学院で悪い虫を連れてこないようにというトリステイン側の思惑が入っていたのだろう。
 そんなわけで、こちらが婚約しようがどうしようが、実はメルセデスの意志が向こうにある限り彼女はあの婚約者のものであり、なおかつこっちは婚約を盾にモルセール侯爵家に金をせびられる。そういう意味で、これ以上ないほどの馬鹿馬鹿しい話ではあったのだ。
「ふむ。まあ、確かにその通りではあるのだが、あまり対抗心を持ち過ぎるのも考えものだぞ。いざという時に判断を誤ることになるからな」
「ええ、分かっています」
 分かってはいる。分かってはいるのだが。
 喉の奥でどろどろと何かが沸騰し、どす黒い水面から酸混じりの泡が噴き上がって肺を焼く。ちょうど喫煙者の末期の肺がそんな感じなのだろうか、とも思うが、前世でも僕は煙草を吸わなかったのでよく分からない。ただ、喉に焼けつくような不快感を感じている。

「おお、そうそう近くの領地から催し物の招待が来ていてな」
 話題をそらすように、父はそんな事を言った。
「催し物……ですか? 舞踏会などではなく」
「うむ。何やら王女殿下の肝煎りで画期的な新兵器を開発した、などという話でな。ちょうど招待状が来ておるので、気分転換にどうかと思ってな」
 一応、僕も男である。前世でもロボットアニメとか、他の色々なものに憧れたこともある。だからこそ、兵器と聞けば、それが無数の犠牲と惨劇を生み出すものだ、という認識以前に、素直に格好いいと感じてしまう。
 ……ぶっちゃけ、それが間違いの元だったのだが。
 だが、そんな事になるとは露知らず、僕は何も考えずに、父の誘いに乗って、グラモン領へと向かう羽目になったのだった。



「グラモン領……豊かなところですね」
「そうだな。中々に栄えているようだ」
 まさか、招待先がよりにもよってグラモン領だとは思ってもいなかった。いやまあ、アンリエッタ王女の肝煎りだと聞いた時点で予想しておいて然るべきだった話ではあるのだが。この状況で妙な発明をやらかす奴なんざ、ギーシュ以外にいないに決まっているだろうに。婚約破棄に伴うあれこれで頭が回らなくなっていたようだ。
 にしても、昨日今日でギーシュと顔を合わせるというのは少しばかりいただけない話だ。できるだけ、顔を合わせないようにしたいものだ。
 馬車の窓から見渡してみても、農民たちの使っている農具の質が我がモット伯領よりも数段高く、また、見た感じ働いている平民たちの顔も明るいようだ。
 まあ、確かにグラモン領が繁栄した分のノウハウは我がモット伯領にも流れ込んでいて、その分モット伯領も繁栄しているのだが、それでも、それがまるで、あのギーシュに餌を投げ与えられているようで不快感を感じている自分もいる。
 つまり、何もかも不快にしか感じないのだ。
「……フェルナン、気分でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です父上」
「そうか。それならいいのだが、あまり根を詰め過ぎるでないぞ。お前は、我がモット伯家の次期当主でもあり、既に我がモット伯家を支える柱の一角でもあるのだからな。それに……その、何だ、私も心配ではある」
 照れたような様子で呟く父の様子に、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「いえ、ありがとうございます、父上」
 たとえ周りがどうあろうが、この人は僕の父なのだ。それが確認できただけでも十分だ。グラモン領もメルセデスもギーシュも、不愉快な何もかもが僕の意識から遠のいていった。



「紳士淑女の皆様、本日は、我がグラモン家の催しに集まって頂いてまことにありがとうございます。つきましては、我が息子が開発した新兵器をお目に掛けましょう」
 グラモン元帥の宣言に従って、重々しい足音を立てて巨大な人型の影が歩み出してくる。

 グラモン家製重機動型野戦ゴーレム“ザメル”。全高五メートルほどの、鋼鉄製のゴーレムだ。いや、メイジ個人の制御に頼らず自立駆動するそれは、ゴーレムというよりもガーゴイルと呼ぶべきだろう。
 だが、名前がよくない。ホバーで走らなければ、ザメルと名乗る資格はない。細かいところにこだわりたい性格なのだ、僕は。別名、神経質。
 そいつを特徴づけるのは両肩に装備した合計二門の巨砲。グラモン家の私設軍で開発された新型の艦載砲をゴーレムに搭載し、さらに背中から生えた二本の補助腕で砲弾の自動装填を行うらしい。ハルケギニアで主流となっている火縄銃もどきの前装式大砲ではなく、砲身の後部から装填する新方式を採用しているようだ。
 装填が楽は後装式になっている分、連射速度ではロマリアなどで主流になっている砲亀兵をやや上回り、鈍重な亀ではなく人型のゴーレムに搭載した分、亀よりも軽快に動き回るのだ。

「にしても、球形の砲弾じゃなかったな」
 僕はやや目を細めて呟く。英霊の反応速度を持っていたから見切ることができた。
 “ザメル”が装備した新型砲が発射した砲弾は流線型をしており、しかも回転しながら発射していた。従来のような球形の鉄製砲弾よりも命中率も射程距離も桁外れに違う……らしい。威力は上がらないんだっけか……いや、射程距離だっけ? まあ、どっちでもいいや。とにかく、新型大砲TUEEEE!ということか。
 まあ、どちらにせよ、技術には熟練した技師が必要だ。グラモン家は軍事の家系だ。農業のノウハウならともかく、兵器の製造技術をそう簡単に渡してくれるわけがない。技師がいないんでは再現は無理か。

 もっとも、あの程度の代物であるのなら、ホムンクルスで簡単に倒せる……と思う。まあ、ホムンクルスは基本的に系統魔法でも倒せないようなので楽勝だ。一応、念のため土魔法の錬金も使ってみたが、やはり効かなかった。原理が良く分からないのだが、基本的にあの魔法は生物に効かないようなのだ。肉にせよ金属にせよ所詮同じ物質だと思うのだが、何が違うのか。ともかく、武装錬金の錬金術と土魔法の錬金は、名前が同じでもやはり別物らしい。
 ちなみに、同じホムンクルスに錬金ではなくその上位技の石化を掛けてみると、その部分の細胞が死滅して再生できなかった。おそらく、完全に石化させれば死亡するだろう。

「ふむ、なかなかどうして、大したものだな」
 グラモン家の私兵団の練兵場を縦横に走り回るガーゴイルの動きに素直に感嘆して、父が呟く。
「ええ。ガーゴイル自体は量産にコストが掛かり過ぎるかと思いますが、新型砲自体は強力です。技術が普及すれば、確実にトリステインの力になるでしょうね」
 まあ、その前にゲルマニアやガリアの力にもなりそうなのだが。なってしまいそうなのだが。
「砲亀兵を上回る攻撃力と機動性。惜しむらくは、製造にも維持にもそれなりのメイジが必要だという点でしょうか」
 つまり、コストが掛かり過ぎる。大砲自体にも相当の技術者が必要になるため技術者には今までにない技術を教え込んで一から養成しなければならず、ゴーレムにも補助腕などの機構を作るためだけにメイジの方にも大砲の装填作業を覚えさせなければならない。工業製品として、またマジックアイテムとして、二重にコストが掛かるのだ。
 亀を集めて育てなければならない砲亀兵は増産しづらいという欠点があるが、元々人口が少なく金もないトリステインではあまり巨大な軍隊を維持する事が出来ないため、砲兵を亀に乗せるだけで済む砲亀兵の方がよほど安上がりで済む。むしろ、伝統がなくとも金だけは唸るほど抱えているゲルマニアや、ガーゴイルのような魔法技術が発達しているガリア向けの技術といえるだろう。

「まあ、それは仕方あるまい。それはそうと……む?」
「これは、モット伯ではありませんか。その節はどうも」
 僕と父に話しかけてきたのは、金髪碧眼の青年だ。年の頃を言うならばそろそろ成人間近、あるいは成人してまだ間もない辺り、その辺だ。ちょうど例のギーシュとよく似た顔立ちをしているが、ギーシュと比べてどこか存在感というか風格と呼ぶべきものが抜けているような気もしないでもない。つまり、ああこいつはこういう立ち位置なんだなぁといった程度の存在である。
 彼の名はギョーム・ド・グラモン────グラモン家の三男だ。ギーシュのちょうど一つ上の兄に当たる。我がモット伯家に対して、ギーシュによる現代知識利用のノウハウを提供し続けてくれる、とてもありがたい存在である。これからも互いにとって有益な関係を続けていきたいものだ。

「先日はどうもお世話になりました。サツマイモでしたか、あの作物は実に有益です。これで我がモット伯領も飢饉の備えは万全というものです」
 ……と、言うほどの事でもない。サツマイモはあくまでも保存食、僕のチート能力を合わせれば、現状、モット伯領が飢えることはまず、ない。
 本当は金がなくて困っていたのは向こうの上に、正直ギーシュは嫌いだが、役に立つのは事実なのだ。故に頭を下げておく。
「何、私とて誇り高きグラモン家の家名を担っているのだ。同じトリステイン王家に仕える貴族として、この程度は容易いことだよ」
 百合の花の形状を模した銀製の杖を見せびらかすようにして、彼はふんぞり返るように言う。この程度の社交辞令で有頂天になれるとは、安いものだと思う。だが、安上がりで済むのはありがたいことだ。故に、そんな感情はおくびにも出してやらない。

「つきましては、あまり大したものではないのですが、これをお受け取りください」
 少しばかり洒落たデザインのクリスタルガラスの瓶を差し出す。中に入っているのは薄蒼く燐光を放つ液体だ。
「ふむ、香水のようだね。これは?」
「僕が新しく作ってみた簡単な秘薬です。誓いを司る精霊が住まうラグドリアン湖の湖水を使用した香水です。子供の手習い程度の価値しかない代物ではありますが、“白銀”のギョーム卿の魅力を引き出す一助となる事でしょう」
 などと言うと可愛らしく聞こえるが、その実体は御禁制の惚れ薬を数百倍にまで希釈した代物である。ついでに微妙に媚薬も混ざっているため、女性をベッドに誘い込むのにも有効だ。
 しかし、効果はあくまでもさりげなく無意識に働きかける程度の代物であり、対象にはっきりと目に見える効果を与えない。具体的には、ギョームを見た女性が彼のことをなかなか魅力的に感じられて、かつベッドに連れ込まれた時に理性の抑制が働きづらくなる程度の効果しか持たない。
 したがって、正体が惚れ薬だなんてことは、顧客と製造元が揃って口を噤んでしまえば、もはや誰にも分からない。
 ちなみに、惚れ薬の原材料=水の精霊の涙=水精霊の一部=ラグドリアン湖の湖水なので、別に嘘は一言も言っていないのがポイントである。
 などということをギョームにそっと耳打ちすると、驚いたような、そして感心したような目でこちらを見る。
「貴方のような武人は滅多にいませんからね。是非とも、末永いお付き合いをしていただきたいものです」
「うむ、私の人脈にも君のような人材は稀だからね。これからも期待しているよ」
 社交辞令はさりげなく言うのがポイントだ。わざとらしければ聞く方の気分も萎える。その観点からすると、どうやら今回は上手くいったらしい。今後も、彼とは末永い付き合いにしたいものだ。



「申し訳ありません!」
 ギョーム卿と分かれて僕がぼんやりしていると、いきなり背後から声を掛けられた。見ればメイドがワイングラスを零していて、僕の着ていたマントの裾にワインが掛かってしまっているようだ。
 ここがグラモン領だという事もあり、この間のアレを思い出してどこか不快感を感じる。まさか試されてでもいるのか、と思うが、平身低頭する目の前の少女の様子を見るに、まあ偶々だろうと判断するが、目の前のコレはまるでこの前の焼き直しだ。やはり不愉快であるに越したことはない。
「……舐めてるのかお前」
「ひぃっ……申し訳ありません、申し訳ありません!」
 意味もなく漏れた呟きに少女が過剰反応を起こして震え上がるのがどこまでも苛立たしい。こいつらは一体どこまで僕に対して不快な思いをさせれば気が済むのか。目の前の少女だけではない、ギーシュという人間の存在によって演出されている何もかもが不愉快だ。
 杖を抜いて軽くルーンを唱えると目の前のメイドは真っ青になって怯えるが、僕はそれを無視して、水魔法でマントに付着したワインを抜き取って窓の外へと放り出し、その場を後にする。いい加減、その場から立ち去りたかったのだ。
 だというのに。
 ホールから抜け出した僕の前には、ギーシュ・ド・グラモンが立っていた。



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後書き的なもの
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 フェルナン は にげだした !
 しかし まわりこまれた !

 ……やってしまった。
 なんというか、更新に随分穴が開いてしまった。
 ギーシュ書きにくい。
 おおまかな話の流れはできているのに、どうしてもギーシュのセリフだけ頭の中に浮かんでこない。前回の更新分の時も上条さんの言動をトレースするので精一杯だったし、今回はそれもできなかったし。厄介な。


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