『一人増えた程度で……!』『状況は変わらない、ですか? お生憎さま、私とワルド子爵とでは、天と地ほども力の差がありますもの。一緒にしてもらっても困ります。それに────』 ワルドと入れ替わるようにして戦線に現れたティファニアは、その地力だけでギーシュを圧倒していた。天と地ほどの力の差、というのも誇張でも何でもない。クトゥルーから供給される魔力もワルドのロードビヤーキーの受けていたそれと比べると十倍近く、何より。『────陛下は、私より強いですし』 アルビオンの大地から突き出した塔のような何かが、ギーシュの竜戦士を殴り飛ばした。一撃で吹き飛んだ竜戦士の機体はその装甲を大きく歪ませ、鋼の破片を撒き散らしながら地平線の彼方へと吹き飛んでいく。 塔。強靭な鋼の曲面装甲で覆われたそれが握り締めていた五指を開く。あまりに巨大に過ぎて建造物にすら見紛うそれは、刃金で構成された腕だった。 空をゆく雲を握り締めるほどに巨大な腕を覆う刃金の色は赤。 傷口から流れ出る原始的な血液の色。時の終焉を示し沈みゆく落日の色。膨張して自らの質量に耐え切れず燃え尽きていく年老いた赤色巨星の色。狂気と熱情の色。破滅の色。 濁流のフェルナン/第二十六段 神の肉に侵蝕されたアルビオン大陸は、さらなる変容を遂げようとしていた。 空を穢し瘴気を吐き出し続ける巨大な肉塊が大きく膨れ上がる。それはさらなる混沌の膨張のように見えて、しかしその実態は違っていた。 沸騰する。アルビオン大陸を覆う、それ自体が絶大な魔力を孕んだ肉の塊が沸騰していた。ゴボゴボと濁った音を立てながら肉塊の表面に灼熱のガスを内包した無数の気泡が生まれては弾け、有毒ガスを立ち上らせる。肉の各所に開いた眼窩から眼球が弾け飛び、空中で破裂して沸騰した汚液を撒き散らす。無数の口から猛毒の体液が溢れ出し、その体液の持つ物理法則を越えた熱にクトゥルーの体表が焼かれていく。 蹂躙されていた。 凌辱されていた。 世界を穢す大神、大いなるクトゥルーが、その猛毒の肉すら浸食する猛毒に身をよじって慟哭していた。 王様の計画が最終段階を迎えたのだ。 大いなるクトゥルーを召喚し、クトゥルーの力によって世界を支配する。それこそが『デモンベイン』におけるC計画の目的である。ただし────表向きの。 その真なる目的は、召喚したクトゥルーをそのまま生贄へと転用し、最大級の邪神ヨグ=ソトースを召喚し、それを門として外宇宙の邪神群を地上へと呼びよせ、世界を滅ぼすこと。 すなわちC計画とは、神を生贄により強大な神を召喚するという超儀式。 アルビオン大陸の、クトゥルーの肉の表面を無数の術式が疾走し、膨大な輝きが世界を白い闇へと塗り潰していく。アルビオンの中央に生まれた絶大な魔力がクトゥルーの肉が持つ許容量を凌駕して、空間そのものを爆砕しながら外の世界へと溢れ出す。 沸騰する神の肉で構成された大地を割り裂いて深紅の刃金が生み出され、赤く輝く刃金は神の肉すらパーツとして自らの構造に取り込みながら成長し、巨大な、あまりにも巨大なその存在を作り上げる。 『機神召喚』。それが、王様の計画の最終段階として召喚される術式の正体。魔術によって建造され、魔術によって構成され、魔術によって駆動され、魔術によって存在する、紛い物の神の召喚。 召喚対象の力は、儀式の規模と魔力によって決定される。ならば、クトゥルーという最も強大な旧支配者を生贄に召喚される鬼械神は、間違いなく理論上可能な最大級の力を有し、その規模、最大級の邪神たるヨグ=ソトースに匹敵する。 鬼械神リベル・レギス=アルビオン。 それこそが、この世界のこれからの守護者となる存在だ。 大陸そのものに匹敵する巨体を雲海に浮かべる鬼械神は、空を覆い尽くすほどに巨大な深紅の翼をマントのように纏い、その機体の全容を覆い隠している。だが翼の端から垣間見える巨体だけでも、絶大なその力の一端を見知るのには十分過ぎた。 実際、絶大なのだ。 リベル・レギスは一見、僕のクラーケンやワルドのロードビヤーキーのような他の鬼械神と同じように見えて、しかし根本的に違う存在なのだ。その動力源はヨグ=ソトースの影である“無限の心臓”であり、その必滅奥義はその熱量を根こそぎ攻撃力として敵にぶつけるハイパーボリア・ゼロドライブ。最上の格を有する“外なる神”であるヨグ=ソトースを内包し、ヨグ=ソトースそのものの攻撃力を有する。その特性はヨグ=ソトースに魔導合金の殻を被せ、コクピットを配したに等しい。 だからこそ、クトゥルーを生贄に召喚されたリベル・レギスは格の上でも規模の上でもクトゥルーを遥かに上回る、最上級の邪神そのもの。 その全身を覆う翼が鋼の軋みを上げながらゆっくりと広がり、三対六枚の巨大な翼が花開くようにして展開する。その内側に羽毛のように無数の砲門を生え揃わせた巨大な翼が優雅に羽撃き、大陸にも匹敵する巨体の横腹に、小さくハッチが展開するが見えた。おそらく、そちらへ向かえということか。 リベル・レギス=アルビオンの内部通路は二体の鬼械神が並んで歩けるほどに広かった。何の装飾もないただの通路だというのに神殿のような荘厳さと重厚さを放つその場所は、その広さと相まってそれ自体異界そのものに迷い込みでもしたかのような感覚を受ける。 壁や床を覆って赤く輝く構造材は、刃金でありながら生物的に脈動し、無数の光の筋が明滅と拍動を繰り返しながら神経網のように壁面を走っていく。通路に漂う瘴気と重圧はクトゥルーにも匹敵するか上回るほどに濃く重く、常人であれば一呼吸の刹那の内に瘴気に冒されて深きものにも似た異形の奉仕種族へとその形を変えてしまうだろう。「……たとえば、火星人とか」『? カセイジン? 何ですかそれは?』 横に並ぶサイクラノーシュから、通信機越しに疑問が返ってくる。「リベル・レギスの奉仕種族。火星って惑星に住んでいる人間っぽい連中だから火星人。見た目は人間というかタコだけど」 某学園都市の地下でロボ作りに精を出している美少女火星人は、僕からすれば偽物である。異世界巡りで『ネギま』の世界を訪れた時に遠目に見かけたが、やはりアレを火星人と呼ぶのには抵抗がある。『カセイ? 地球ではないのですか?』「ああ。地球のすぐ隣にある惑星だ。地球より少し寒くて、地球より少しだけ重力が軽い」 今は少し違うけど、と心の中だけで付け加える。 ティファニアの鬼械神サイクラノーシュ、蜘蛛に似た円盤状の機体は、楯か墓石に似た形状を持つ四本の脚を床につけることなく空中に浮揚しながら通路を進む。一見破壊力とは無縁に見える無機質な形状であるが、そこに秘められた圧倒的な魔力はワルドのロードビヤーキーの数十倍を優に超え、そこから放たれる攻撃はどれほどの威力を誇るのか想像すらつかない。 僕のクラーケン、タバサのレガシー・オブ・ゴールド、ワルドのロードビヤーキー、ティファニアのサイクラノーシュ、そして王様のリベル・レギス。おそらく二人、他にもいるんだろう。「そういえば、ギーシュはどうなった?」『それは貴方の方が詳しいんじゃないですか? 陛下はこのリベル・レギス=アルビオンの掌握で忙しいですし、他の面々にしても直接戦闘能力だけで、探索能力がさほどあるわけでもなし。探索に戦力を割けるなんて貴方くらいなものですよ』「まあ、それもそうか。ギーシュの機体はあのまま吹っ飛んで、北極海の辺りに水没したみたいだ。現在、雑兵級の一連隊を向かわせて捜索中」『……そうですか。まあ、死んではいないでしょうが、あの程度の実力なら陛下の敵ではありませんし、私としては、こちらはこちらの用事に専念しておいても問題はないと思いますね』 クラーケンとサイクラノーシュの二体が肩を並べて進んでいくと、やがて足元の通路に膨大な量の血液が流れ始める。ごうごうと唸りを上げて渦を巻きながら流れる血流は、水中戦に優れた機体であるクラーケンでも気を抜けば押し流されそうになる。「っ……!」 この流れに沈むのは正直ごめんこうむりたい。僕はクラーケンの機体を空中に浮かべて荒れ狂う血液の濁流から離脱する。『あら、やっぱり大変なんですか?』「そりゃあ、ね」 いつも空中に浮かんでいるサイクラノーシュには、この苦労は分からないようだ。 のんびりと進んでいるようでいて、飛翔術式によって空中を進む鬼械神はハルケギニア基準で行けば相当な速度を持つ。お世辞にも高機動とは言い切れない鈍足のクラーケンやサイクラノーシュであっても、その巡航速度はフネや風竜の最大加速を余裕で上回る。当然、それなりの時間をかければそれなりの距離を進むことができるのだ。 入り口から既に数十リーグも進んだだろうか。もはや大河にも等しい規模となった血の水路を進んでいけば、果てしなく続いているようにも見える水路の向こう側から、立て続けに轟音のようなものが聞こえてくる。音というよりも精神と次元を揺るがせる衝撃に等しいそれは、爆発でも地震でもなく“鼓動”であった。「……そろそろか?」『ええ。陛下もお待ちですよ』 やがて、果てしなく続いていると思えた血の大河にも終着点が見えてくる。通路を進んだ先には巨大な大広間があり、その中央にはあまりにも巨大な何かが浮かんでいる。近づくにつれて、観音開きに開け放たれた鋼の大扉の向こうに鎮座する巨塊の輪郭がはっきりとしてくる。 肉塊。そしてそれと機械との混合体。それが無数の血管と触手によって、この大広間の天井と連結されている。赤く血肉の色をした心臓と、紅い刃金の色をした中枢機関とが複雑に絡み合い、規則的に収縮を繰り返している。 その内側に垣間見える大理石で構成された建造物は、かつてアルビオン復興計画によって中枢儀式塔として再建されたハヴィランド宮殿に他ならなかった。大広間それ自体が巨大であるためなかなかに気づきにくいが、内側に取り込まれたハヴィランド宮殿のサイズから判断して、あの心臓の直径はおよそ数リーグもあるのだろう。「……っ!?」 鼓動の度に心臓を形作る肉と機械の合間から流れ落ちる血流の滝の合間に、奇妙なものが見えた。 蜘蛛に似た、円盤状の鬼械神。 ────鬼械神サイクラノーシュ。「……嘘だろう?」 冗談は存在そのものだけにしてくれ。僕はクラーケンのすぐ隣に滞空するサイクラノーシュを確認する。僕をこの場まで連れてきたサイクラノーシュは、己の存在を誇示するかのように滞空しながら、僕の隣に佇んでいる。心臓の下に滞空しているのと全く同じ機体が、だ。 ────機神召喚術式の複数同時機動、及び鬼械神の遠隔制御。 心臓の下のサイクラノーシュの中枢部から顔を出して微笑むティファニアがやったことだ。並みの使い手が行えば命を削るどころかその場に投げ捨てるに等しい暴挙を、この少女は顔色一つ変えずにやってみせたのだ。 付け加えるのならば、遠隔操作されている方のサイクラノーシュは魔術師と魔導書を欠いた、いわば脳と心臓の欠け落ちた抜け殻の肉塊に過ぎない。それだけのハンディを負ってワルドを遥かに上回る力を発揮してみせたその技量。 決してワルドが弱いわけではない。鬼械神が召喚できるというだけでも魔術師としては一流の部類に属するのだ。その鬼械神を自在に操ってあれほどの戦いができるということ自体が、ワルドが超一流の座にあるに相応しいほどの術者であったことの証明となる。それを易々と凌駕してみせるこの存在は、一体何者なのか。「……なんて、私に気を取られていていいんですか?」「ああ、それもそうか」 ティファニアに諭されて気付く。この場にはティファニア以上の怪物が存在する。その事実に思い当たると同時、血肉と赤鋼の軋む轟音を上げて、頭上に浮かぶ心臓が花開くように展開する。 開花していく鋼と肉の入り混じった深紅の花弁の合間から、膨大な質量の血液が滝となって流れ落ちる。目測で見ても地球のナイアガラすら軽く上回る鮮紅色の大瀑布だ。 その荒れ狂う濁流の内側に見える色彩────純白。 永劫の氷河よりも灼熱に、灼熱の太陽よりも冷厳に、あまりにも眩く燦然と輝く純白の刃金。 鬼械神ネームレス・ワン。 人を模していながらも人型をしていない異形のフォルム。宇宙的恐怖そのものを象って建造された神殿のごとき魔術構造。通常の鬼械神に数倍する純白の巨躯。歪んだ天使とも、神聖な悪魔ともつかない異貌の機体。邪悪にして神聖、荘厳にして歪曲。 全体的なフォルムは巨人に近い。両脚を持たないスカート状の下半身を持った巨人型の巨体の頭部に当たる部分に、通常の鬼械神の上半身を乗せた異形の神像。巨人部分の腕は砲身とも巨剣とも魔杖ともつかない不可解不可思議な魔術兵装であり、その肩から真上に張り出したシールドが、頭部である上半身の両側を覆うことで大天使の翼のようなイメージを醸し出す。 ティファニアのサイクラノーシュがその術者の能力によって別格の性能を実現しているのであれば、このネームレス・ワンは術者の実力などといった余計なパーツに頼ることなく別次元の格を有し、だからこそ術者に異常なまでの実力を要求する。 ネームレス・ワンのコクピットハッチが硬い金属音を立てて展開すると、そこから深紅の金属で構成された無数の触手が濁流のように溢れ出し、その内側に垣間見える何か。 それは宇宙的恐怖に匹敵する刃金に凌辱される四人の少女、内三人は魔導書の精霊。残り一人は制御中枢『Cの巫女』。 あの虚ろな目をした蒼い少女だ。アンドヴァリの指輪によって操られた動く死体の少女。おそらくは狂死したと言われるイザベラ王女で、同時にこの世界にデモンベイン世界の魔導書を持ち込んだ転生者。 そして、その奥に見える姿。 そこだけ取ってつけたかのように豪奢な玉座に腰掛けた人影。焼け付くように冷え切った真紅の刃金の渦の中にあって、なお鮮烈な光輝を放つ蒼の闇黒。燃え滾るように凍てついた異常な気配が、ただ存在するだけでも空間に横溢し荒れ狂う静寂が、世界を覆い尽くす夜の闇のように暴力的な勢いで押し寄せてくる。 その威圧感の中で、ティファニアの声が僕の耳元にくすぐるように届いた。『さっきも言ったはずですが────』 嫌な予感が脳裏に疼く。能力だけは英霊と同一の第六感が放つ最大級の警戒警報。その直感に逆らわず、僕は────『────何があっても貴方は絶対に死んではいけませんよ? タバサが壊れてしまいますからね。…………まあどう見ても無駄でしょうけれど』『術種選択:魔砲(カノン・スペル)』 リベル・レギス=アルビオンの心臓部となっている純白の鬼械神ネームレス・ワン、その右腕から放たれた閃光は咄嗟の回避機動を行ったクラーケンの左半身を抉り飛ばし、リベル・レギスの内部構造をわずかに抉り崩落を引き起こす。『ふん、避けたか。これでもよく狙わせた心算なのだがな』 蒼い闇が面白がるような呟きを漏らす。圧倒的な気配が細かい造作を塗り潰し、その姿を認識できないほどの威圧感の中で、嗤いと共に開かれた口元が三日月型に吊り上がるのが、なぜかそこだけ認識できた。 半分くらいは予測できていた事態。 そして、考えられる限りで最悪な事態だ。まさか、このタイミングで首を切りに出てこられるとは予想外だ。モット伯家が旧トリステイン領を平定し終わった辺りになると踏んでいたのだが、少々計算外だ。「……まあ大体予想は付きますが、一応理由は聞いておきましょうか?」『転生者は例外なく異世界人だ。この世界の事はこの世界の存在によって決めるべきだ、と、まあそんなところだ。一応貴様も転生者には変わりはあるまい』 ああ、まずい。 すごくまずい。 何がまずいって、どこまでバレているのか分からないのが一番まずい。 この最強王様の相手をせにゃならないという最低最悪の状態で、賭けの要素に保険を付けられないというのが何よりまずい。 なら、もう少し話を伸ばそう。「そっちの理由じゃなく、もっと根本的な理由が聞きたいのですが? ……そこまで転生者を敵視する理由」『ふん……別に大した理由があるわけじゃないがな。昔、原作知識を知ったシャルルが、俺を殺しに来た。泣きながらな。転生者だったイザベラが遺したノートを俺より先に読んだらしくてな。それで俺も仕方無しに抵抗したら、シャルルが死んだ。寸前でシャルルが手を止めて、俺が止めなかったからな。まあ、それだけの話だ。だが、いずれ殺し合うしかなくなるにしても、貴様らがいなければもう少しだけ、奴と笑い合っていられる時間が延びたかもしれん。それだけだ』 ああ、なるほど。それなら仕方ない。それなら殺す。殺すよな。どうしようもない。 あらかじめ破局が約束されたような、本当に束の間の幸福であっても、この人にとっては命を賭けるにも踏み躙るにも値する、大切な理由なのだ。他に何もなかったから。『他に、単純に気に入らんというのもあるがな。転生者ども、どいつもこいつも判で押したようにシャルルの気持ちを考えろシャルルはそんなこと望まないシャルルはシャルルはシャルルはと、正直喧しいのだ。本で読んだ聞きかじりの知識の癖にまるで全てを知ったように見下し顔で。まあお前は言わなかったが』 ……要するに、巻き添えで殺しにかかられるのか。本当にロクでもないな。「……僕に、この世界をどうこうするような野望はありませんが? ガラヴェンタとかとは違って」『野望があろうが無かろうが、貴様の存在それ自体が十分に危険なのだ。貴様は何も信用しないし信頼もしない。そんな貴様がこの世界で満足に生きていきたいと思うのなら、完全に引き籠もるか、さもなくば見渡す限りの何もかもを人形に変えるしかあるまい。元より引き籠もって生きていけるほど甘い世界でもない。特に我が姪御は貴様にとっては抱え込んでいるだけで敵を引き寄せる危険物だからな。つまりそれを手放せない貴様は────』 言うな。 その先を言うな。 でなければ。『────存在するだけで有害なのだ』 でなければ。 こいつを殺さなければならないじゃないか。「殺す」 殺すと口に出した。 「ブッ殺した」以外を言ってはいけない、などとどこぞの兄貴が言っていたが、などと脈絡もない思考が脳裏を過る。本当にどうでもいいことだ。 とにかく殺す。 なぜなら、昔。 前世のことだ。 似たようなことを、昔誰かに言われたはずだ。その誰かの顔も名前も覚えていないが、その時の感情だけは覚えている。それだけでも、殺す理由には十分過ぎる。 殺意に反応したクラーケンの機体が自己再生機能を発現、急速に損傷を復元していく。だが、敵はそれまで待ってはくれまい。 敵はジョゼフ王。そしてティファニアも彼の味方だ。シェフィールドと執事服の男もじきにこちらに来るだろうし、状況が動くのを待っていても何の意味もない。『術種選択:魔剣(ソード・スペル)』 ネームレス・ワンの巨腕から展開した光の刃の振り下ろしに回避は間に合わない。屍人形にしても速過ぎるし鋭過ぎる。無事な右腕にチェーンソーを展開して受け止めるが、それでもじりじりと押されていく。 さすが王様。 このタイミングで仕掛けてくるその思い切りが恐ろしい。 僕の利用価値を天秤にかけてもう少し遅くなると予測していた。せめてもう数日遅れていれば、『オーバーフロウ』が完成していた。 そのたった数日の間隙、この僕を守る計画という鎧に針穴のように開いたほんのわずかなベストタイミングを、この王様は何の容赦も躊躇も無く掴み取ったのだ。『残念だ。貴様の事は結構気に入っていたのだがな。中々便利に使えたしな』「それはどうでしょうか? 今この場にいる僕が、複製能力による分身では在り得ないと?」『ああ、在り得んな。貴様の複製能力は完璧だ。故に貴様にとっては自分と同じ存在など単なる敵でしかあるまい?』「………………なるほど」 水魔法で肉体を制御して表情筋を凍結、込み上げてくる笑いの衝動を表に出さずに覆い隠す。そこまでしないと、膨れ上がる嗤いの衝動に呑まれて、ついついボロを出してしまいそうだ。 ああ、そうだ。 僕は賭けに勝った。 全てはこのため。 複製能力で無数の兵隊を作り上げ、複製能力の存在を見せつけたのも。 ティファニアの分身をわざわざ目立つように量産して、ロマリアとガリアの双方にバラ撒いたのも。 全てはこのため。この勝利の為だ。 後は戦い、此処で死ぬ。ただし……この肉体は。僕がやるのはそれだけだ。それで終わり。 どうせ殺すけど、それは後で。それをするのは今じゃない。 クラーケンの両掌に巨大なチェーンソーが収まり、内蔵された次元連結システムが唸りを挙げて稼働する。メイオウ攻撃のエネルギーをそのままクトゥルーの魔水へと転化して全方位に放つ。 一瞬ではあるが、噴き上がる水と熱量がこのリベル・レギス中枢部に溢れる瘴気を押し返す。 そして。 戦闘はわずか三度の轟音によって決着した。=====番外編:事後=====「思ったよりは長く持ちましたね。まあ、よく頑張ったと褒めてあげるべきでしょうか」 サイクラノーシュの操縦席でティファニアは溜息混じりの声を漏らした。 このタイミングでフェルナンを片付けるようにジョゼフに示唆したのはティファニアだ。フェルナンの態度に違和感を抱いたからである。 フェルナンにしては、ジョゼフ王の計画に妙に協力的だった。それだけが違和感だ。フェルナンの性格なら、計画の存在を知れば反対や妨害を行う事は決してあり得ないが、積極的に協力してくることも決してあり得ない。 ゆえに、フェルナン自身が計画によって得られる何かを狙っている、とティファニアは判断した。 フェルナン本人がジョゼフ王に取って代わって計画を乗っ取ろうとすることはまずあり得ない。無限の生産能力を持つフェルナンであれば、そんなことをするくらいならば、後から見つからないように同じ事をして同じ力を得ることを選ぶだろう。この場合、フェルナンに取って計画自体の実行に実験以上の意味はない。 ならば、おそらくフェルナンの狙いは、計画に際して副産物的に得られる別の何か。 ティファニアには、フェルナンに対する恨みやそれに類する感情は一切存在しない。一面においては感謝してすらいる。むしろ、その在り方にはある種の共感すら覚えている。友人だとまで思っている。 だが、ティファニアにとってジョゼフ王の計画は絶対だ。自分が望み、決めたことでもある。 ならば、その最終的な実現に対する障害であるフェルナンは敵以外の何物でもない。ただそれだけのこと。 友が敵に回るなど、さして珍しいことではない。『そうだな。まあ、今、この場に呼び出された時点で終わりといえば終わりだが』 実をいえば、ジョゼフ本人にしてみれば少々期待外れだ。もしかしたら、そう、本当の本当にもしかしてしまったら、あるいはフェルナンが、ジョゼフ自身の考えてもみなかった手段で、自分の裏をかいてくれるのではないか、などと期待していたのだ。 もっとも、あくまでも期待していただけだ。十全に包囲を敷いて、その包囲の中にフェルナンを誘き寄せた段階で、戦術的にも戦略的にも、既に勝利は確定していた。『にしても、少しばかり気になるな』 主の疑問にティファニアはわずかに首を傾げる。一見全知全能にも見えるこの男にも分からないことが存在するのかと、新鮮な驚きを感じる。「……何がですか?」『我が姪のことだ。あの娘が奴の危機に飛び込んで来なかったことだけが不審だが……』 まとめて始末する算段が、少しばかり狂ってしまった。そんな風に呟く。「ああ、それなら簡単です。彼女、妊娠していましたから」 儀式前に行なった通信で、ああも幸せそうに下腹部に手を当てていれば、おそらく誰でも気付く。『……なるほどな。まあいい。追手も出してあるし、追手を下したとしてもあの娘では大したことはできん。そちらは問題あるまい』 あの執事服の男。以前、コンビを組んで戦ったこともあるから、その実力の程は知っている。そして彼が病的なほどにタバサに執着している事も。 おそらく、捕まればロクなことになるまい。とはいえ、フェルナンを喪ったタバサに何ができるのか。……今となっては考えても仕方ないことではあるが、せいぜい逃げ延びて、後は二度と出てこないでくれればいいと祈る。ティファニアに祈る神はいないが、それでも祈る事だけはしておきたい。友人として、ティファニアにできることはそれだけだから。 濁流のフェルナン/段外段 深い、深い森。木々の間からその並びの終わりを見通すことはできず、薄暗い静寂が落ち着いた木の匂いを漂わせながら空間を満たしている。地面には緩やかに傾斜が付いており、東から西へと勾配を形作っていた。 静寂。 静寂とは完全なる無音とは違う。木々の奏でる葉擦れの音、鳥の声、獣の鳴き声、風の音、そんな音が空間を満たしている。ただ、人が作り出す喧騒だけが、その場に存在しない。 山間の森の中を抜ける荒れた街道からもそれなりの距離を保っているその場には、人らしき影は存在しない。 ────否。 一人。 薄暗い静寂の中にうずくまる人影があった。 森の中とはいえこの季節のハルケギニアは冷え込む。だというのに焚火すら付けることなく、小柄な体躯を毛布の中にうずめるようにして体温を保っている。 少女だ。 背は低い。一見、幼くも見える。外見からして、その年の頃は十を一つか二つ過ぎた、その程度。実際にはそれよりも一回りの齢を重ねているのだが、初見でそれを読み取れる者などそうはいないだろう。 誰もいないその場で、脳裏に走った激痛にも似た不快感のノイズに、少女は弾かれるようにして顔を挙げていた。 上げられた顔、蒼い髪に蒼い瞳、白い肌。硝子細工の芸術品のように繊細な、気品のある顔立ち。タバサである。 リベル・レギス=アルビオン内部で人形が操作していたレガシー・オブ・ゴールドが破壊された。そのことに気付いたタバサは、既にアルビオンを立ち去っていた。 想定よりも早く、ジョゼフ王がフェルナンの排除に動いた。『オーバーフロウ』が完成していない状態でこの事態とは、少々都合が悪過ぎる。「フェルナン……」 トリステインとゲルマニアの国境付近、比較的山間部に近いその周辺は、BETAのハイヴ落着地点である大都市の多くが海や大規模な河川の付近に集中していたこともあって、未だBETAの被害には曝されておらず、自然のままの風景が残っている。 暗い緑に染まった深い森の下で、タバサは、己の下腹部、子宮の上にそっと掌を乗せた。外見上こそ何の変化もないが、かつてシャルロットと呼ばれていた少女が一度も意識したこともなかったその臓器の内側には、確かにタバサ自身とは異質な気配が存在していた。 少女の胎内で脈動する魔力の気配を感じ取って、少女はほんのわずかに、嬉しそうに頬を緩め、そして接近してきた気配に再び表情を引き締めて立ち上がった。肩から毛布がずり落ち、着のみ着のトリステイン魔法学院の制服に包まれて、幼さの中にどこか背徳的な色気を漂わせた肢体が露わになる。 タバサは森の中の一点に向かって鋭い視線を向ける。杖は構えない。今さら、杖など必要とするような肉体ではない。「ここにおられましたか、お嬢様」 タバサの視線の先から木々を掻き分けて現れたのは、ジョゼフ王の下でも見かけた鉄仮面の男だった。仕立ての良い最高級の執事服を身に纏い、そこが大貴族の館であるかのように優雅に一礼する。「お久しぶりでございますが、お健やかそうで何よりで御座います────シャルロットお嬢様」 男の言葉にタバサはわずかに目を細めた。「私はシャルロットではない。私はタバサ。フェルナンの人形。シャルロットはもういない。死んだ」 タバサの拒絶に、執事服の男は自らの顔を覆う鉄仮面を外すことによって応えた。半面を火傷に覆われたその顔をタバサは知っている。「ペルスラン……生きていた」 その事実を、喜びも罪悪感も無く、ただ面倒な相手が生きていたことに対するわずかな厭悪感だけを感動として得て、タバサは正体を露わにしたペルスランと向かい合った。「お嬢様、やり直しましょう。貴女と、私と、そして奥様とで。貴方達が手にするべきであった幸福な人生を。今なら、今であるなら、本当に、本当にやり直せます」「シャルロットの母親なら私が殺した」 断言するタバサを制するようにして、ペルスランは大きく手を広げ、刹那、その背後に闇が落ちる。魔術の発動、その気配に反応したタバサは咄嗟に距離を取り、防御魔術を張り巡らせる。攻撃の気配こそ存在せずとも、目の前の相手は自分にとって危険な存在、それくらいは感じ取れる。 しかし、それは一瞬の事。その刹那が経過すれば、闇は空気に溶けるように掻き消えて、後には何も残らない。闇が落ちる前と違うものがあるとすればそれはただ一つ。 そこにはいなかったはずの第三の人影だ。 タバサと────シャルロットと同じ蒼い髪と蒼い瞳。 女だ。 タバサが知っている女。 タバサが殺した女。 シャルロットを壊した女。 ただ、その表情だけがタバサの記憶とは違う。娘を迎え入れるように少女に向かって微笑んで腕を広げる。「シャルロット……ごめんなさい。今まで、貴女にはずっと辛い思いをさせてきてしまいました……。さあ、いらっしゃい……可愛い私の娘」「さあ、お嬢様。奥様もこちらにいらっしゃいます。ですから────」 タバサは無言のまま腕を振る。骨格を杖として契約したその腕の振りに合わせて、鋭い氷槍が発生し、女の心臓を貫いた。「無意味。私はシャルロットではない。ただの人形。フェルナンの孤独を癒すための人の形をした器物。シャルロット・エレーヌ・オルレアンと共通しているのは外見だけ。だからその人は私の母親ではない」 死体となった女が鈍い音を立てて地面に転がった。それを見てもペルスランの表情は変わらない。ただ仮面のように笑顔だけが張り付いている。 タバサの氷槍に貫かれたその死体を覆っていた女の幻影は空気に溶けるようにして消滅し、その下に隠されていた異形が露わになる。 襤褸を纏った人に似た輪郭、肉食獣の体躯を無理矢理引き延ばして人型にしたような姿。緑色の薄黴に包まれた皮膚。そして何より特徴的な、山犬に中途半端に人間らしい印象を与えたかのようなその頭部。 食屍鬼(グール)と呼ばれる怪物。地下に潜む屍肉漁り。瘴気を啜った人間が獣性に目覚め化身するともされる幻夢境の魔物。「……偽物で動揺を誘うにせよ、いくら何でもこれは趣味が悪い」「いえいえ、偽物ではございません。食屍鬼は脳髄を喰らう事によって死者の記憶を、そして時には人格そのものをも得ることができるのです。そう、このように……」 ペルスランは顔面に張り付いた笑みのまま、女だった食屍鬼の頭蓋をぶちぶちと引き抜くと、人体の構造上有り得ないほどにその口を大きく開き、食屍鬼の頭蓋骨を一息に丸呑みにした。「さあ、お嬢様────シャルロット、今から全てをやり直しましょう。もう決して貴女の顔を忘れたりはしないから────お嬢様…………イタダキマぁス……」 女と同じ声で歌うように呟いたペルスランがその顎を大きく開く。口腔の内側に鋭い牙が生え揃い、その奥から血臭と瘴気が漂ってくる。 左右から挟み込むように二刀流の凶刃が襲い掛かり、それに先んじて牙を剥き出したペルスランの顎が突き出され、鉄塊すらも噛み砕く牙はガチリとむなしく噛み合わされる。 ペルスランの肩に手を掛けたタバサはそのままフライを詠唱、翻ったスカートから下着が覗くのも構わずに逆立ちするような体勢で跳躍、上空に逃れつつ氷槍を発射。「残念ですが、届きませんな」 同時、ペルスランの背中が“咲いた”。華のように、翼のように、爆炎のように。緑色の黴に覆われた、人に似た腕が、無数に生え揃い、その全てが掌を突き破って飛び出したレイピアを握り、その先端から射出された炎の砲弾の半数がタバサの氷槍を迎撃し、残りの半数がタバサに向かって迫撃。「残念ながら……私には『屍食経典儀』の本来の使い手ほどの剣技は持ち得ておりませぬもので……腕の本数を限定して、腕の稼働域を維持する必要性がないのですよ」 背中から無数の腕を生やしたペルスランの姿はある種の仏像にも似て、しかし仏像が持つような深沈とした神々しさなどどこにもなく、その姿はただおぞましいのみ。「貴方……もう人間をやめた……」「ええ。ええ。その通りですとも。もう一度……もう一度やり直せるのであれば、人間など何度でも捨ててやりますとも」「そう。でも駄目。貴方にやり直しの機会など渡さない」 タバサの背中から翼が広がる。漆黒の、闇それ自体を凝結させたかのような。否。闇そのもの。次元の裂け目、ブラックホールにも等しいそれが、ペルスランの放った火炎を呑み込んだのだ。 デス=レックス型ホムンクルス。タバサ自身も、既に人間をやめている。全身を変化させないのは、巨体を露わにしてただの大きい的に成り果てないため。本来のハルケギニアであれば圧倒的な猛威を振るったであろうその力も、鬼械神相手には少しばかり心許ない。 だから斃す。この場で、鬼械神を召喚される前に。「ならば仕方がありませんな。穏便に受け取れないのであれば、この手で奪い取るまで」 ペルスランの持つ無数の腕に握られたレイピアは、基本的には『屍食経典儀』のオリジナルの使い手が用いた日本刀と同じものだ。だが、武器としての性質は大きく異なり、その本質はメイジの杖、かつてのトリステイン魔法衛士隊が使用したそれと同じ剣杖だ。 ハリネズミのように剣杖を伸ばすペルスランの特性は、オリジナルとは違い魔法による射撃に偏っている。「さあ、一つになりましょう、シャルロットお嬢様────ユールの炎よ」 無数の剣杖から無数の火弾が撃ち込まれてくる。術としてはワルドと同形式、魔導書によって喚起したエネルギーを、ハルケギニアの系統魔法で制御する。 タバサは紙一重で火弾の射線から身をかわし、火弾は着弾点で燃え上がり、ナパームのように炎上して一帯を炎に包み、回避可能な空間を限定する。 尋常の炎ではない。緑色という有り得ない色の炎。炎に囲まれているというのに熱を感じないどころか、異様な寒気が伝わってくる。 タバサ自身既に人間をやめており、マトモな炎であれば傷つくような肉体ではないが、この炎はまずいと直感する。「っ……!」 追い込まれたことに気がついたタバサが思わず舌打ちを漏らす。少々厄介、というその認識を改める。相手は魔術師、基本的に転生者よりも上の相手だ。 牙を生やし、背中から無数の腕を生やし、炎が灯った無数の腕を伸ばしたペルスランの姿は、もはやそれが人間であったこと自体が冗談のようにも思えてくる。 否、もはやそれは本当にペルスランなのか。狂気に堕ちて食屍鬼に変じたペルスランなのか。ペルスランを喰らいその人格に蝕まれた食屍鬼なのか。そもそも混濁したその人格は、ペルスランのものか、シャルロットの母のものか、それともどちらでもないただの食屍鬼なのか。 その全てを、タバサはどうでもいいと結論。そういう事を考えるのはフェルナンの担当で、自分の役目はフェルナンの葛藤を抱き締めること。 だから。 両掌からレイピアを出現させ、牙を剥き出しにして飛び掛かってくるペルスランすらも根本的に────どうでもいい。 なぜなら。 ずぶり、と濡れた音が響く。 肉を裂いて貫く音だ。 貫かれたのはタバサの腹部。貫いたのはペルスランではない。 別人の腕だ。タバサの下腹部を内側から貫いて伸びた腕が、ペルスランの振るったレイピアの刀身を掴み止めたのだ。 人の腕だ。少なくとも見た目だけは。その手に触れただけで、ペルスランの魔導書が作り出す中でもとりわけ強力な魔術武器であるレイピアの刀身は瞬時に腐り落ちる。 咄嗟にレイピアを捨てて飛び下がったペルスランの顎先寸前で握り締められたその掌が空間それ自体を握り締めて握り潰し、その圧搾の破壊半径から直前で逃れたペルスランは再び掌に双剣のレイピアを生み出して身構える。 タバサの腹に刻まれた傷口と、その内側から伸びる血塗れの腕、その双方から溢れ出す膨大な水妖の気。それら全てが、目の前の事象が明らかに危険なものであると告げている。 やがて、同じように少女の腹部を貫いて、同じようにもう一本の腕が現れる。それぞれ右腕と左腕。だからこそ、次に来るものが容易く予想できる。 全身だ。 少女を形作る血肉が華のように弾け散り、内側から何かが現れる。人だ。人の姿だ。 タバサの中から現れたそれは、紛れもなく人の姿をしていた。「っ、な……な……何なのだそれは、それは!? 答えろ…………フェルナン・ド・モット!!」 ペルスランが悲鳴混じりの叫びを上げる。それに応えることも無く、現れたフェルナンは足元に転がっていたものを愛おしげに持ち上げた。 胴体の中心が内側から弾け飛び、上半身と下半身が引き千切れてなお、タバサは生きていた。激痛に表情を歪めながら、フェルナンに向かって笑顔を浮かべてみせる。「馬鹿な、馬鹿な、貴様さえ、貴様さえ存在しなければやり直せたはずなのに、お嬢様も奥様も、それなのに、それなのに…………貴様は一体何なんだぁあああああああああああああああああ!!!!」 濁流のフェルナン/第二十六段 後篇 別に大したことじゃない。 『オーバーフロウ』の要の一つであり、そして最後のパーツであった、僕自身のバージョンアップが完了しただけ。それに伴って、タバサの護衛と非常用のバックアップを兼ねてタバサの子宮に受精卵の状態で仕込んでおいた端末を起動しただけ。 たったそれだけの話。「馬鹿な、馬鹿な、貴様さえ、貴様さえ存在しなければやり直せたはずなのに、お嬢様も奥様も、それなのに、それなのに…………貴様は一体何なんだぁあああああああああああああああああ!!!!」 すぐ横には叫びを上げる妙な老人がいる。服装から判断して、多分王様のところにいたアンチクロスの一人、鉄仮面の執事服。死体臭い気配からして魔導書は『妖蛆の秘密』か『屍食経典儀』。「貴様が、貴様が余計なことをしなければ、お嬢様は奥様と幸せに生きていくことができたはずなのだ! 全ては貴様が、貴様ガァアアアアアアアアアアアアア!!」 老人の肉体がゴキゴキと音を立てて骨格を組み替え、筋肉を膨張させながら何か別のものに変容していく。いや、正しくは変容では無く変質、今までのように外側だけの変化ではなく、もっと内側の根本的な部分からの変成。その姿はどう見てもクトゥルフ神話の食屍鬼、つまりこいつの魔導書は『屍食経典儀』で決定か。「まあいい、なぜ貴様がこの場にいるのかは気になるが、殺してしまえば大した違いはない。少なくとも、貴様のクラーケンは陛下に破壊されているはずだしなぁ!!」 馬鹿馬鹿しい。スペアの鬼械神が潰された程度で、何を自慢げにしているか。言われて腹が立つことには変わりないが。 しかし。「そうそう、実は僕には、陛下に教えていないことがもう一つだけあってさ」 空を指さす。 巨大なエネルギーが空に溢れる。陛下のリベル・レギス=アルビオンにも匹敵するほどの巨大な熱量が、だ。 色は黄金。 栄光の色にして虚栄の色。正義を示す光の輝き。権威を示す王冠の輝き。汚濁を隠す毒杯の外観。欲望と破滅を引き寄せるラインの黄金。 たとえその中身がキリストの血であろうがこの世全ての悪であろうが、聖杯は黄金であると相場は決まっている。 アイツはそういう存在だ。「馬鹿な……ギーシュ・ド・グラモン……しかもこれほどの力が…………」 超回復という現象がある。多分スポーツ科学だの人間工学だのでよく使われるだろうこの用語は、文字通りのただすごい回復というだけのものを意味しない。 筋肉というものは無数の筋繊維によって構成される。そして、この筋繊維は酷使すればするほど断線し、筋肉にダメージを蓄積させる。その断線は生体組織である以上当然のように回復し、そして断線から回復した筋繊維は本来よりも一回り強靭なものへと変化する。それが超回復だ。 そこから転じて超回復とは、ここでは限界以上に回復し、能力の最大値を押し上げることを意味する。「サイヤ人の最大の能力ってのは、要するにこの超回復だ。一瞬前までボコボコにされていた強敵を、圧倒的な力でボコボコにし返すほどの。そしてその力は、強敵と戦えば戦うほどにより顕著に発現する。ちょうどあんな感じでさ」 以前は一撃で殴り飛ばされていたギーシュの竜機神が、今はリベル・レギス=アルビオンと正面から互角に殴り合っている。正直な話、このまま殴り合いを続けられたらハルケギニアが危険なんじゃなかろうか。 まあ少なくとも、こっちの存在に気がつく余裕があるようにも見えない。だからそのまま頑張ってほしい。そしてできればそのまま相討ちになって欲しい。 僕が指を鳴らすと同時、地面に散らばっていたタバサの肉片と下半身、そして僕が両腕で抱えていた上半身が無数の頁へと変化して舞い上がる。 それらは空中で纏まって一冊の本に変化すると、再び無数の頁へと分解し、渦巻きながら僕の身体に纏いついて蒼黒を基調とする術衣(マギウス・スタイル)へと変容し、掌サイズのタバサの姿がその肩の辺りにふわりと浮かぶ。「……っ、馬鹿な、何だそれは!?」「教えてやる義理はないな。というかお前、さっきから馬鹿な馬鹿なってその台詞ばっかり言ってるだろ」 簡単な理屈だ。 まずタバサがデス=レックス型ホムンクルスになる。そして、タバサが魔導書を喰う。それだけだ。 デモンベイン原作でも、魔導書の精霊を喰ってその力を奪い取り、鬼械神を召喚するに至った人間がいた。喰う事で相手の力を奪うデス=レックスの力を持つホムンクルスならなおのこと。 下地がほとんど存在しないタバサがレガシー・オブ・ゴールドを召喚・操縦できたのも魔術師の技能ではなく魔導書の性能として行使したがため。 今やタバサは魔導書なのだ。当然、魔術師である僕とは契約が結べる。魔導書の精霊という僕にとっての最大のデメリットを最大のメリットへと転換したのは、他ならないタバサの思いつきだ。「フェルナン、来る。おそらく鬼械神」 相手が操る魔力を瞬時に解析したタバサが警告を上げる。無数に生やした腕に一本ずつのレイピアを構え、食屍鬼の牙を剥き出しにした男が咆哮を上げる。 その解析に異論一つ入れずに、僕は対抗策を発動する。「なら、戦場を移す」 相手と自分の足元に転移障壁を発生させ、僕と相手の体を宇宙空間へと放り出す。眼下に広がるのはハルケギニアとはわずかに異なる蒼い惑星。 地球だ。 あんな怪獣大決戦のハルケギニアで戦う気にはとてもなれない。「征くぞ、皇餓!!」 相手が叫びを上げると同時、漆黒の宇宙空間に無数の斬線が走り、空間それ自体が斬り刻まれて飛び散り、舞い飛ぶ空間の断裂の内側から鎧武者にも似た鬼械神が姿を現す。 屍食経典儀の鬼械神『皇餓』だ。一見バリバリの近接格闘機体と見せかけて必殺技が隠し腕という、非常にせこい側面を持つ機体である。「ならば、こっちも対抗、タバサ!!」「了解。機神召喚────!!」 今までとは感覚が違う。魔導書の意志を捻じ伏せるのに力を割きながら、力を抑制された魔道書を使って行使していたのが今までの魔術。何の制限も受けずに全開で力を振るい、さらに魔導書であるタバサのバックアップを受けられるのが今の魔術。 空間それ自体が砕け散り、砕けた空間の向こうから膨大な水が溢れ出す。渦巻く水の塊が空間を洪水で埋め尽くし、その空間それ自体を引き裂いて鋼の塊が現れる。 鬼械神クラーケン。王様に壊されたのはタバサが喰った『水神クタアト』とは別のクラーケン、量産可能なのでいくらでも予備がある。肉体のバージョンアップによる僕自身の器の増大により、単純なスペックも段違いに増大している。『っ────モルディギアンの牙よ!』「甘い!」 皇餓が振るった二刀流のレイピアをアナコンダアームで掴み止め、そのまま相手の腕を押さえながらジャイアントスイング、二度三度振り回してからアナコンダアームを一気に伸ばし、相手を掴んだまま投げ飛ばすという離れ業。 隠し腕でアームを切り落とされて脱出されるが、同時にこちらも相手の腕二本を鉤爪で握り潰す。 皇餓は基本的にバランスの良い機体だが、その特性は基本的に近接格闘機、間合いを離してしまえば中距離戦も得意なこちらが有利。 本来の腕を修復しつつ隠し腕で双剣を振るいカマイタチのような飛び道具を射出してくる皇餓、緑色の業火を纏った斬撃、だがその選択は悪手だと教えてやろう。 既に変形を終えていた内部機構を最大限に稼働させ、全力で魔術を行使する。斬り落とされたアナコンダアームの修復も一瞬。 クラーケンの外装に変化はない。だが、その内に孕む魔力の流れは確実に変化しつつある。やがて、クラーケンの全身に術式が走り、鬼械神クラーケンそのものが全力で呪詞を詠唱し、術式を起動する。「タバサ」「任せて」 呼べば応える、それだけで意志が伝わる。こう言うのを阿吽の呼吸というのだろう。心地のいい感覚だ。 複座式になった鬼械神の中枢の中で、タバサの背中から腕を回す。幼い肢体を魔導書精霊の基本とばかりに露出度の高いドレスに包んだタバサは背中越しに腕を回して僕に向かってしなだれかかってくる。こんな体勢でも操縦に何の問題も起こらないのは、きっと鬼械神に使われている技術がすごいのだろう。 鬼械神クラーケンの全身を走る新たな術式、それこそ「機神召喚」。原典たる「デモンベイン」において主人公の怨敵である魔術師マスターテリオンが邪神クトゥルフそのものを生贄に、より強大な神であるヨグ=ソトースを召喚したように、鬼械神クラーケンを生贄に、より強大な“神”を召喚する。 その術式こそ「機神召喚」。召喚の規模と形態が違えば召喚される鬼械神の規模も違ってくるのは、原作の外伝小説で既に証明済み。 字祷子と呼ばれる極小の魔力素子が渦を巻いて術式を構築し、クラーケンの機体が変形────いや、変容していく。 機体の基礎フレームであるオルハリコンの骨格が機械そのものである直線状から、あらゆる惑星のいかなる進化系統樹にも属さない異形の生命の脊椎を模した曲線状に。頑強な城壁を思わせる平面的な装甲は古生代の甲冑魚を思わせる生物的な曲面装甲に。 伸縮式のクローアームである両腕は先端の鉤爪を肥大させながら骨格から変形しつつ武装としての構造は保ち、コンパクトに畳まれて肩部装甲と一体化して両肩に。 その手に握られていたチェーンソーが複雑に展開し、自重を支える両脚と合体しながら大ぶりの鉤爪を配した両腕に。 背部のバーニアが腰に移動し、基礎部分から回転し展開して変形し、大地に立つことを完全に放棄した水棲恐竜のそれに酷似した鰭状の脚部となる。 脊椎から新たなフレームが分岐し、バーニアが展開して開いた装甲の継ぎ目から伸張し、その上を分厚い刃金の筋肉が覆い、その上に重厚な装甲が展開して、肉食恐竜のそれに似た、長大な尾となって鞭のように振るわれる。 最後に、角ばった頭部が花のように展開し、内側から展開した装甲と組み合わさって、肉食性甲冑魚に似た巨大な頭部へと変形する。 鬼械神が鬼械神を召喚するという奇蹟、長時間のように見えて変化は一瞬。「────『ルルイエ異本』の鬼械神ディノニクティス。鬼械神の二重召喚。これが“今の”僕の、僕たちの切り札だ」 両腕に再び二刀のチェーンソーを召喚し、クトゥルフの魔水を纏わせる。より刺々しく、禍々しくなったチェーンソーを構え、僕は敵機へと刃を向ける。一気に膨れ上がった巨大な魔力が、嵐となって周囲で渦を巻く。 肉食性の甲冑魚を模した、牙の生え揃った顎を持つ頭部。海棲の古生物を思わせる深海色の曲面装甲。巨大な鉤爪を配した両肩のアナコンダアーム。同じく巨大な鉤爪を装備した両腕。海棲恐竜の鰭を思わせる脚部と、恐竜そのものの長大な尾。 藍黒の装甲に包まれた巨獣が、牙を剥き出して咆哮する。「……行こうか、ディノニクティス」 今や『ルルイエ異本』そのものであるタバサによって召喚される鬼械神ディノニクティスは、『ナコト写本』の鬼械神リベル・レギスや『無銘祭祀書』の鬼械神ネームレス・ワンと同様の、規格外の機体。 だがその機体の能力は、リベル・レギスやネームレス・ワンとは違い、ある一点にのみ特化されている。すなわち────水中戦。そしてここは宇宙空間、すなわち空の上の上。 だが、それはこのディノニクティスの不利を意味しない。なぜならば────「────謳え『ルルイエ異本』、いやタバサ!! レレイの霧を呼び給え!」「聖域展開呪法……」 ディノニクティスの全身の装甲の継ぎ目から白く濁った海霧が噴き出し、たちまちの内にこの戦場、直径数百キロメートルの範囲を覆い尽くす。そして、霧の中にいた全ての存在に襲い掛かったのは、あろうことか数万トンにも及ぶ莫大な質量を孕む超高水圧だった。 聖域展開呪法「レレイの霧」。その本質は、クトゥルーが永劫の果てに存在する復活を待ち望みながら眠り続ける聖なる海底都市ルルイエの空間の召喚。ルルイエの空間そのものを召喚し、周囲の空間に重ね合わせることこそが本来の効果であり、視界を遮る霧は空間の歪みから漏れ出すクトゥルフの魔水が変化した副次効果でしかない。 ならば、より強力に「レレイの霧」を展開すれば、物理法則すら越えた深海底に存在する超高水圧を同時に召喚することすら可能。その水は数億年の時を掛けてクトゥルーの神気に曝され、濃厚な瘴気と神気を孕んだ最高純度のクトゥルフの魔水だ。時空間すら歪み撓めるクトゥルフの魔水による超高水圧の中においては、たとえ空間を歪み裂いて飛翔する鬼械神であっても決して自在に動くことは不可能。 当然のようにレレイの霧本来の撹乱効果も働いており、しかしこの技は感覚と機動性の双方を封じただけではない。『貴様が、貴様がお嬢様を……!!』 皇餓の魔術師、原作的に考えて多分カステルモールか誰かだろうが、そいつが叫びながら双剣を振るい、炎を纏ったカマイタチを連射。だが。「弱い。足りない。クトゥルフの魔海はこのディノニクティスの領域だ。それ以外がマトモに戦えると思うなよ?」 クトゥルフの魔水の中を進むにつれ、皇餓が放つ斬撃は減衰し、さらにはクトゥルフの魔水が発生させる空間の歪みに巻き込まれて拡散し、その力を失って消えていく。この水の結界は、動きも感覚も封じ込め、さらには攻撃すらも封じてしまう。もはやこの空間、この海はクトゥルフの領海だ。 だが、その内側であっても僕のディノニクティスはその動きを制限されない。それどころか、得意とする水中戦という事も相まってむしろ運動性を増している。さらに。「タバサ、高速巡航形態(エーテルライダー・モード)!」「了解」 ディノニクティスの装甲が変形し、甲羅のように背中を覆っていた鋼が展開、その全身を覆うようにして造り変わり、甲冑魚と古代鮫と潜水艦を混ぜ合わせたような形状の異界の魚を模した姿に変形する。ディノニクティス・エーテルライダーモード。機体各所に装備されたスラスターからクトゥルフの魔水を噴出しつつ加速し、方向転換は慣性制御と水流制御によって操作、水中限定ならロードビヤーキーすら上回る高機動戦闘が可能。 水中戦特化型のこのディノニクティスを、さらに高速戦闘に対応させるための姿。本来なら水中でしか運用できないこの機体も、周囲の空間を海に変えてしまえば、そんな制約は何の意味もなさないものと成り果てる。『っ、おのれ……!』 カステルモール(仮)が上げる狼狽の声ががこの上なく耳に心地よい。 鬼械神を律するのは異界の理。人界とは異質に位置するもの。故に人の身でそれを御そうとすれば、命と魂を削るか、人間やめて化物に成り果てるかの二択。前者の選択肢が継戦能力や集中力を阻害する以上、合理的に考えて選ぶべきは後者。 相手も自分も同じ選択した者同士であり、その点においては戦力は互角。両者の力を分けるとすれば、それは両者の化け物度合いの差に他ならない。 だから、もっと叩きのめされるといい。巨大な異界魚と化したディノニクティスはその両肩からアナコンダアームを射出。その腕がダゴン&ハイドラを振り回しながら襲い掛かり、続いて両弦に開いた雷管から魚雷を連続発射、トドメに射出された二発は特大の砲弾、アナコンダアーム同様に先端に巨大なチェーンソーを握ったその影は、このディノニクティス本来の両腕だ。切り離して遠隔操作することができるその腕は、クラーケンから引き継いだアナコンダアームとは違ったオールレンジ兵装、その名を「バラクーダアーム」。言わば遠隔操作可能なロケットパンチ、ロケットパンチというよりはガンダムで言うならジオングとかサイコガンダムとかのサイコミュハンドに近い。 身動きの取れない海中に誘い込み、アナコンダアームが相手の退路を封じ、魚雷で防御を誘発し、最後にバラクーダアームのチェーンソーで片を付けるコンビネーション、退路を塞ぎつつ追い詰めて当てるのは某東方の弾幕ごっこに近い発想だが、この弾幕にルールは不要、退路など与えてやらない。「フェルナン、合わせて」「分かった」 弾幕の隙間を縫って浮上しようとした皇餓の動きに合わせ、タバサがその頭上に氷塊を作り出し、皇餓がそこに激突、動きを封じられた皇餓に追いすがった魚雷が一斉に炸裂し、爆圧によって氷塊の天井に叩きつけられた皇餓の機体をチェーンソーを手放したアナコンダアームが捉え、バラクーダアームのチェーンソーで一撃を見舞う。 皇餓は苦し紛れの対応、四刀流の斬撃で空間自体を切り刻み、クトゥルフの魔海を押し返す。こちらの対応、水圧を強め、空間に刻まれた斬線ごと押し潰す。同時、相手が空間斬りに熱中している隙に術式を展開。 水域制圧呪法『忘却の波』、魔海を形作るクトゥルフの魔水をそのまま武器に転じる攻撃呪法。超水圧が壁のように変化しつつ、皇餓を挟み込むようにして押し潰す。音はしない。全てクトゥルフの魔水の超水圧に阻まれて、しかし皇餓の機体を形成していた鋼がよじれ、ひしゃげるのが光学センサーを通して確認できる。「……来る」 皇餓の動きに注視していたタバサが呟きを漏らす。分かっている。まだ終わりじゃない。 皇餓の背中から無数の腕が伸び、その手に握られた無数のレイピアに纏いついた緑色の炎が、クトゥルフの魔海の水圧を腐食させて押し返す。隠し腕。それもオリジナルのものと比べて遥かに多い。 その姿はまるで緑色のイルミネーション。いや、轟々と燃え上がる炎は剣だけでなく、皇餓の装甲の隙間やフレームの隙間からも噴き出し、その姿を緑色に染めている。捻じれたフレームを炎が補強し、千切れた装甲を炎が繋ぎ合せて補完する。 もはやあれは鬼械神ですらない。緑色の炎の源となった邪神の顕現だ。『オ嬢様ヲ、返シテモラウゾ』 無数の腕が炎を纏った杖剣をこちらに向けてくる。 松明のように燃え上がった皇餓の声に意志の気配はなく、言語野に刻まれた言葉がただ無感情に垂れ流されて音声となり、言語の体を為しているだけのようだ。 もう、あの魔術師の形骸は存在しないだろう。肉体もおそらくは燃え滓となり、残った魂の一欠片が今、燃え尽きようとしている。そのくらいの状態だろう。「まーあれだ、邪神に完全に魂売ると、あんな感じになるんだろうかねー……タバサ?」「術者の魂それ自体を燃料として捻り出した出力を邪神への供物に変えて、神それ自体を降霊している。今のあの鬼械神は神の模造品というよりも、神を現世に留め置くための器に近い」 タバサが知覚術式を構成して皇餓の魔術構成をスキャン。僕自身の目にもその程度は見えていたから、今さら確認以外の何物でもないのだが。「術者自体が燃料……か。デメリットは負担の大きさ、メリットは実力に見合わない力すら引き出せるそのお手軽さ。似たような方法で動くやつがいた気がするな」 確か、鬼械神アイオーン。原作デモンベインの主人公の相棒である魔導書『アル・アジフ』が本来召喚する鬼械神である。原作開始前に破壊された代物ではあるが、外伝ではその強さと術者への負担の大きさの双方を余すところなく見せつけていた。 使われる方向性こそ真逆だが、実際のところその原動力となるものはアイオーンも目の前の皇餓も大して変わらないような気がする。何か根源的な、破滅衝動とか、そういう部分が。「僕にはまったく理解できない思考回路だけれどさ。自分燃やすくらいなら、他人燃やして生き残るよ、僕は。タバサ、詳細は?」 どこか不愉快な寒気を感じて、前部座席に座ったタバサの身体を引き寄せる。タバサの体温が無性に恋しい。 ディノニクティスと皇餓との戦力差は歴然。だから対抗したかったら魂売るくらいは当然。そうはいっても、どこか物寂しいものがある。 目の前で燃えていったあの男が何をやり直したかったのは多分タバサが知っていると思うけれど、あんな風になったらもう、やり直すも何もあったもんじゃないと思う。「術式自体はアルビオンやリュティスで使われたものの流用。降霊した神性は外なる神の一柱トゥールスチャ。死と腐敗を司る外なる篝火。神としての格自体もかなり高い」「具体的には?」「クトゥグァと同格程度。這い寄る混沌と同系統の『外なる神』と考えると、下手すれば上」「……聞かない方が良かったか?」 旧支配者クトゥグァ。炎を司る灼熱の神性。デモンベイン原作では主人公が扱う便利な砲弾扱いだが、神としての格は相当に高い。僕が扱うクトゥルーと別属性の同格で、クトゥルーは『旧支配者』と呼ばれる存在の中では多分最高クラス。 そしてそのクトゥルーが、クトゥルー神話の本家たるラブクラフト御大曰く、『外なる神々』の眷族でありそれらを祀る祭司に過ぎないとか何たらかんたら。 宇宙怪獣が限りなく全能に近いレベルにまでレベルアップした『旧支配者』と、本当の本当に神の座にある『外なる神々』というヒエラルキー、と僕は解釈している。もっとも、このヒエラルキーがどこまで正しいのか僕は知らんが、敵が強いということそれ自体には何の変わりもない。 確かにディノニクティスはインチキなまでの性能を持っているが、そのインチキも、某キチガイ王様の乗ってる赤いアレとか、某ダークエルフの乗ってるサイクラノーシュとかと比べると少々見劣りする部分もあるといえばある。 いかに鬼械神が神の模造品であろうとはいえ、目の前のあれは本物の神。神そのものなのだ。 見ているだけで伝わってくる破滅と終焉の気配。このディノニクティスに数倍する圧倒的な魔力。触れただけで焼き尽くされるのが目に見えるその威力。 ……勝てるか?「大丈夫」 ふわりと体が暖かいものに包まれた。 ……タバサ。「私がいる。私が貴方の傍にいる。だから勝てる。だから勝つ」 座席から身を乗り出したタバサが僕の身体を抱き締めていた。 暖かい。 ただそれだけの事実が、僕の心を塗り潰していた。「私は、貴方の為なら何にも負けない。だから、貴方は私がいる限り絶対に何も恐れることはない。私が守る。私が倒す。だから貴方が勝って、貴方が生き残って、貴方が前に進む。簡単なこと」「……そうか。そうだな」 つまり、理屈じゃないのだ。 僕の傍にタバサがいる。要するに、それで十分なのだ。 世界が晴れ渡った。精神と感覚が研ぎ澄まされていく。世界がクリアになるのではない。拡大する感覚が世界それ自体を切り裂いていくという感覚。世界を肌で感じ取るのではなく、拡張される自己の領域で世界それ自体を蹂躙する。「片を付けよう。今目の前にいる哀れな人形、根こそぎ余さず踏み潰してやろう」 軽口ですらない。眼前で燃えながら無数の杖剣を振り上げる皇餓、それがどうしようもなくちっぽけな存在に見える。 それはただ単に精神的な変化に留まらない。 魔術とは精神で扱うものだ。ならば、事実上、精神的な脱皮を経るという事は、魔術師としての階梯が上昇するという事に他ならない。 覚醒。 簡単なことだ。「フェルナン、右から」 涼やかな声に誘導されながら機体を振り回す。周囲に膨大な水流を纏い、風に吹かれる木の葉のようにふわり、ふわり。 二人の世界。 二人きりでワルツでも踊っているかのように。 魔術師と魔導書と鬼械神の三位一体、完全なる合一の境地。 オジョウサマがどうとかいう皇餓の声は聞き流し、ただタバサの声にだけ耳を傾ける。「次は左、それから正面、右、右、上、右」 相手を見る必要はない。タバサの声に導かれて、タバサに手を引かれるように、ゆったりと右へ左へ。超光速の精度と反応速度の暴虐の中で、彼女の声と体温を感じるその部分だけは澄んだ湖水のように静寂。「次弾、左。旋回して避けて」 声に合わせてバレルロール、魚に似た機体を横転させるようにかわし、炎の刃と擦れ違う。光速すら凌駕する超速度で放たれる炎の刃も酷く緩慢に視界の隅を流れていく。「それから上に。引きつけてから撃つ」 掌に彼女の手を感じながらアナコンダアームを振り飛ばす。バレルロールの回転に合わせて放った二本の腕が、螺旋を描いて振り回され、接触した炎の刃を受け流す。 それと同時並行して反撃手段の全力構築。 僕が骨子を形成し、タバサが最適な術式を検索し、僕が構成要素を模索して、二人で新たな自分自身を作り上げる。 それはまるで二人の共同作業。結婚式のケーキカットというよりは新婚初夜に近い。生み出されるのは生命ではなく自分自身。術者と魔導書。夫と妻。主と奴隷。恋人同士。その全てであり、それ以上、そんな関係の運命共同体を産み出そう。「今までやってこなかった、僕自身の『ホムンクルス化』」 雑兵級にせよ、リーラやシャーリーといった側近たちにせよ、僕の陣営の配下に行なってきた肉体改造の基礎は武装錬金世界のホムンクルス技術であり、それを極めて頻繁に行ってきたにもかかわらず、この僕、フェルナン・ド・モットの肉体をホムンクルスに造り変えることを、今まで一度たりともしてこなかった────王様の計画の前までは。「大事に肉体を取っておいた成果があったな。こんな風に……!!」 僕の全身が変化する。変化は一瞬。 まず、両腕が変形する。五指の尖端に凶悪な鉤爪を持つ、生物的でありながら機械的な、蟲と機械と人の要素を併せ持ち、それでいてどれにも似ていない、凶暴な形態。ARMSジャバウォック。 そして、変化はそれだけに留まらない。 全身が破裂するように変貌する。 蒼を基調としたマギウス・スタイルを同化しながら、全身が変容。頑強な鋼の甲殻に覆われ、背中からは無数の触手を生やし、ARMSによって構築された両腕はさらに凶悪に強大に。 ベースとなったのはアルビオンを浸食した『神の肉』から採取した細胞サンプル。そう────「────クトゥルー型ホムンクルス……デス=レックスとかサイヤ人とか混じっているけどさ」 C。 大いなるC。 大いなるクトゥルー。 ブラックロッジのように兵器として使役するのではなく。 ジョゼフ王のように生贄として使い捨てるのではなく。 僕自身が大いなるクトゥルーとなる。 これぞ神。 これぞ鬼械神。 これぞ真なる“神の模造品”。 そして、その肉体の最たる特性。 さっきの一瞬で魔術師としての階梯を一気に駆け上がった僕にとっては、それが笑いが止まらないほどに簡単に理解できる。 そう。さっきも言った。 ラブクラフト御大曰く、「クトゥルーとは『外なる神々』の祭司である」────!! そう、クトゥルー型ホムンクルスとして新生した僕は、外なる神々の力を扱うことに、最大限の適性を発揮する。 ナノマシン『ペイルホース』によってブラスレイターの特性を発動、全身の触手を介して僕の肉体をディノニクティスにダイレクトに結線することによって、その特性はより強大に発現する。神のクローンが神の模造品に接続し、一体化し、同化する。外なる大祭司クトゥルーとしての特性を、より強大に、より鮮明に、より確実に発現する。 そもそも『ペイルホース』自体、元々はナノマシンを媒介に機体に直接融合して肉体の延長として制御する超兵器のパイロットインターフェイスとして開発された代物だ。変身や感染、武器の具現化など、単なる副次作用に過ぎず、そういう意味でこのナノマシンは本来のコンセプト通りに役に立っている。 術式構築。タバサのベースとなっているのは三冊の魔導書、すなわち『ルルイエ異本』『水神クタアト』『金枝篇』。これらの内、先の二冊は水棲の旧支配者とその祭祀儀礼に記述の大半を割き、残る『金枝篇』に至っては至極真っ当な学術書の記述を魔術秘義として勝手に強引に解釈した代物、そこに含まれる外なる神の情報は限りなく少ない。 だが、そんな僕たちであっても、使役できる『外なる神』が一柱。「外なる神『トゥールスチャ』の解析情報を魔導書記述として編纂────完了」 タバサが魔導書としての自分自身を変成しながら記述を自己生成。僕がその記述をベースに、術式を構築。 ディノニクティスの中枢に仕込まれた次元連結システムをフルドライブ、その熱量を供物にして神を召喚────「────神獣弾トゥールスチャ」 レガシー・オブ・ゴールドの固定兵装『フレイザー砲』の砲門を流用、ディノニクティスの装甲内部に形成し、ディノニクティスの装甲を展開。甲冑魚のような形態をしたディノニクティス高速巡航形態(エーテルライダーモード)の頭部が丸ごと巨大な砲身に変形、砲身の前に一瞬浮かんだ『烈』の一文字を、緑の炎が焼き尽くす。 砲弾として放たれるのは大きく翼を広げる緑色の炎の鳥。地獄の業火のエネルギーの権化、負の熱量の化身として解釈された外なる神トゥールスチャ。その姿、不死鳥────否、腐死鳥。触れたもの全てに腐敗と死を与える、不滅にして腐滅の神獣。 現世に顕現する神が行使し得る力の規模が召喚儀式の規模に比例するのであれば、事実上無限大のエネルギーゲインを誇る次元連結システムが発揮する熱量は、人一人が魂捧げて放つ輝きなど容易く凌駕する。だとすれば、同じことを同じようにやって、僕たちが負けるはずがない。 それは事実、当たり前のこと。 だから、異界の炎に焼かれながら融け落ち腐り落ちる皇餓の姿に、異形の姿を曝したまま口づけを交わす僕たちは目もくれることはなかった。 さあ、始めよう。 始めるとしよう。 本当に。 本当の本当に。 隔絶した存在になるために。 『オーバーフロウ』を始めよう。 火星────常と変りなく一面を赤い荒野に覆われたその星は、惑星そのものを覆う巨大な光学迷彩フィールドを抜けると、もはやかつての赤い惑星ではないことは明白だった。 惑星の地表一面を覆うのは、果てのない錆色の荒野ではなく青黒い海。火星には地球の月のように巨大な衛星がないため潮汐力も弱く、その海面には波と呼べるものはほとんど存在しない。 その海上を走る無数のラインが存在する。地球に存在するハイウェイによく似たそれは実際に同じ技術で以って建造されたものであり、しかしその性質は全く違うものであった。見るものが見れば、それは惑星そのものの全体を使用して展開され、火星に存在する地脈そのものをシステムに組み込んで限りなく巨大な積層型立体魔法陣を描いていることが理解できるだろう。 今、それらは一斉に唸りを上げ、膨大な魔力を放射しつつ起動している。魔法陣が地脈に接続してその力を組み出す形で稼働しているのは、地脈の構造が魔法陣の効果に干渉しないためでしかなく、その動力は魔法陣の機構の各所に組み込まれた次元連結システムから供給されるエネルギーによって賄われている。 その力は、今、この時を以って最大限に高められていた。魔法陣の構造体の上を膨大な魔力が流動し、それらが濁流となって荒れ狂い、その唸りは咆哮となって火星の薄い大気を揺るがしている。 そんな光景を、衛星軌道に浮かびながら見下ろしている僕に、タバサは上目遣いで問いかけるような目を向けてきた。「フェルナン?」「……いや、何でもない」 首を振って否定すると、タバサはそっと僕の手を握る。「私は貴方の為に存在するもの。だから、貴方の感情を知りたいと思っている。『オーバーフロウ』がようやく始まろうとしている今、貴方はあまり嬉しそうじゃない。少なくともそう見えない。……なぜ?」「……お見通しか。まあ、仕方ないか」 ぼんやりと頭上を見上げる。衛星軌道に青空はない。あるのは宇宙空間という名の一面の星空。見上げた星空はきっと、地球のものと大して違いはないのだろう。天文学的な話でいえば、地球と火星の間に大した距離は存在しないのだ。「何かさ、寂しいんだよ」 ここまで来るのに、色々なことがあった。 最初は僕しかいなかった。 その内にリーラやシャーリーが付いてきた。 メルセデスに拒絶され、ギーシュに憎悪を抱き、そしてシャルロットに出会った。 王様の影に怯え、ティファニアの変貌に驚き、そしてシャルロットがタバサになって、僕はかけがえのないものを手に入れた。 そして、今。 その歩みに、ひとまずの終止符を打とうとしている。「つらかったことも、苦しかったことも、今になって思い返してみれば、どうしようもなく懐かしくて仕方ない。それもこれも全部、終わりになってしまうと思うと、何だか無性に……そうだな、切ないっていうのかな、この感情は……」「大丈夫。終わりじゃない。続くだけ。これから、ずっと。永遠に。そのための『オーバーフロウ』でしょう?」 握った手からタバサの体温が伝わってくる。暖かい。タバサの目は蒼い湖水のように澄み渡って見えて、思わず抱き寄せてその瞳に唇を当てると、細い少女の身体に震えが走った。「タバサ」「何?」「これからずっと永遠に。付いてきて欲しい」「ええ。貴方とならばどこまでも」 その答えが心に沁み渡る。 ああ、今なら言える。何よりも誇らしく。僕は幸せだ、と。 ハイウェイに似た魔法陣構造体の上に滞空するのは億、兆とも知れぬ無数の雑兵級だ。それらは水精霊の力で以って互いに接続し、完璧な同期を以って魔術を詠唱する。空中に、水中に、あるいはハイウェイ状の構造体そのものと融合し、また大気圏に、衛星軌道に、さらには宇宙空間までにも展開し、互いに連携を取りながら魔法陣の構造を補完し、補強し、その力を増幅していく。 それらを統括し儀式を執行するのは、やはり何万という数にも及ぶフェルナン・ド・モットの肉体。それらが『ルルイエ異本』と『水神クタアト』を左右に浮かべ、数十冊の『螺湮城教本』を円周状に展開し、それぞれに魔力を制御し、術式を手繰って魔術の規模を拡大していく。 目の前の愛しい人に手を差し伸べる。「踊っていただけますか、レディ」「ええ、喜んで」 その手を取って、手の甲に口づけを。 一面の魔海と化した火星を眼下に、ふたり輪を描くように踊る。 音楽も無く、観衆も無く。そんなものは不要だ。 僕と彼女だけでいい。 僕たちにダンスの知識はほとんどない。引きこもりと暗殺者にそんなものがあるわけがない。だが、やはり不要だ。 僕とタバサだけがいればいい。 踊る踊る。 踊るタバサの服が一瞬頁に分解され、衣装となって再構築。幼い裸身が一瞬だけ垣間見え、その姿は薄蒼のウェディングドレスに身を包む。「趣味的だな」 ごつい首輪と鎖を配したウェディングドレス。「嫌い?」「大好きだ。というか、タバサが好きだ」 手を取って細い体を抱き締めながらくるくる回る。 くるくると踊るウェディングドレスの裾から魔導書の頁が舞い飛び、周囲に展開した複製障壁に呑み込まれてその数を増やし、惑星の各地へと広がって、互いに術式をリンクさせながら各地に存在する魔導書へと結合し、デス=レックスの捕食効果によってその魔術構造を浸食していく。 単体の魔導書から、無数の魔導書群を本体とする群体存在へ、タバサの存在を再構築する。無限増殖する流体の魔術師と、無限増殖する群体の魔導書の取り合わせ。 水域を歪めながら、火星全域を包む水面から無数の何かが盛り上がる。 植物だ。 水ではないが、これも僕の肉体そのもの。 「終わりのクロニクル」の世界で手に入れた『木竜ムキチ』、世界の管理システムであり、植物と共生する水そのもの。それを媒介に「緑の王」の世界の植物共感のシステムを取り込んで、テッカマンの世界のラダム樹と、天地無用の世界の皇家の樹の細胞サンプルをベースに精製した異形の森。そして、その森そのものが一方通行式演算機関とI-ブレインのデータを基礎に精製した、超大規模演算機関。 それらも例外なく火星の魔術構造に接続し、融合してその力を拡大していく。「……昔を思い出すな」「何?」「昔を思い出すんだ。こうして踊っているとさ。ダンスパーティーで昔、嫌なことがあってさ」 今頃、メルセデスはどうしているだろうか。死んでいるか、生きているか。いや、どうでもいいか。あの時手にしたワイングラスには何の中身も注がれていなかった。 ならば今度は火星をワイングラスにしよう。注ぐのは満杯の水そのものである僕自身。酒は嫌いだ。昔から。「フェルナン……他の相手のことを考えるなとは言わない。でも、今は私を見てほしい」「ああ、そうだな。ごめん」 そう。 そうとも。 こんなにも愛しい人が傍にいるのに、他の女を思考の端に乗せるなど無粋極まりない。そんなことを思いながら頭上を見上げる。 頭上、一面の闇。その空間は果てのない闇に埋め尽くされていた。 だが、闇にも種類がある。光の存在しない闇、光を拒絶する闇、光と対になる闇、光を呑み込む闇、光に駆逐される闇、光に塗り潰された闇。だが、その闇はそれらいかなる闇とも違っている。 光すら意味を無くす無限の虚空、それこそがその闇、宇宙空間の本質であった。いかに灼熱の恒星が核融合を繰り返しながら燃焼しようとも、照らすものとて存在しない虚空の中にその光は散っていき、やがては燃え尽き消えていく。 その闇の中に、一つの光が現れる。壁だ。赤い光によって形成された、実体を持たない壁。複製障壁と呼ばれるそれは、空間転移と共にありとあらゆる存在を複製し量産する。 だが、その障壁は今まで僕が造り出してきたそれとは、全くといっていいほどに違っていた。 何が違うのか。規模だ。 縦、横、共におよそ三万キロメートルを越える巨大な壁。『オーバーフロウ』のライン『クレイオス』によって開発された、極大規模複製障壁。 その内側から、途轍もない絶大な質量が現れようとしていた。 ハルケギニアと呼ばれる大地を照らす太陽を円周状に取り囲む惑星軌道上に均等に十二枚が展開した複製障壁の内側から、ゆっくりと巨大な球体が出現する。 太陽の光を反射して鈍い蒼黒に輝く巨大なそれは、ネプチューン・フォーミングによって一面を水に覆われた海の惑星と化しており、その惑星からは一様に、空間すら歪曲する歌に似た魔術詠唱が放たれている。 ────火星だ。 やがて、十二の火星が惑星そのものを覆う超巨大立体積層型魔法陣をそれぞれに干渉させ、水精霊の完璧な同期を以って唯一つの呪詞が放たれる。 その呪詞を背景に、僕たちは踊りの手を止めた。 呪詞が鳴り響く世界の中で、そこだけが台風の目のように静かだった。 タバサの手を取って、その手に指輪を嵌める。 とりたてて変わった機能があるわけでもない。 それどころか、魔法的な、あるいは科学的な付与があるわけでもない。芸術的な価値すらない。 何の変哲もない、ただの、銀製の指輪だ。「誓おう、タバサ」「ええ」 呪詞が響く。 ────その健やかなる時も、病める時も。 海に。 ────喜びの時も、悲しみの時も。 大地に。 ────富める時も、貧しい時も。 空に。 ────これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り。 宇宙に。「誓いのくちづけを」 ────死すら断ち得ざる誓いをここに。「フェルナン……嬉しい」「ああ、僕もだ」 指輪の嵌められた手を胸に抱き締めるようにしてタバサは呟いた。 涙を流しながら笑顔を浮かべる愛しい少女を、今までの何時よりも綺麗だと思った。 海を。 大地を。 惑星を。 恒星を。 太陽系を。 その全てを取り込んで、極大規模の魔術が発動する。 その呪法────機神召喚。 召喚される鬼械神────『永劫の深淵よりの恐怖(ディノニクティス・アートレータ・アエテルヌム)』。 それは人のカタチをしていた。 それは魚のカタチをしていた。 それは船のカタチをしていた。 それは鋼のカタチをしていた。 それは鰐のカタチをしていた。 それは海魔のカタチをしていた。 それは悪魔のカタチをしていた。 それは神のカタチをしていた。 それは。 それは。 それは神そのものだった。 蒼い、蒼い鋼。 水を象徴する色、海の色、恐怖の色、闇の色、悲嘆の色、奈落の色、絶望の色。 頑強な曲面装甲。惑星そのものの直径と比べてもなお重厚。 蒼光を放つ視覚センサー。観測範囲────無限を越えてなお無限。 銀河の腕をさらに超えて長くのたうつアナコンダアーム。破壊力────神々の基準で図ってすら超絶無比。 八本の腕が振り上げられる。 怪魚にも海魔にも似た下半身が躍動する。 宇宙空間に衝撃が走る。物理法則を越えた衝撃波が空間を伝って伝播し、空間が歪み、時間が捻じれ、因果が吹き飛んだ。無数の星が飛び散り、無限の銀河が砕け散る。 魔術発動────聖域展開呪法『レレイの霧』。 宇宙それ自体が無限の広がりを持った魔海に包まれる。型月世界の固有結界の概念すら加えたその力は、宇宙そのものを喰らい、破裂させ、無量/無窮/無限の平行世界すら浸食して膨張する。 それら全ての現象は完全無比なる制御化に置かれ、ディノニクティスが上げた再度の咆哮により、時間を越えた超時間ごと巻き戻され、修復され、修正される。 静寂。 宇宙に無限の静寂が落ちる。「終わったな……」 宇宙の中心で僕は呟いた。「まだ終わりじゃない。始まっただけ」 宇宙の中心でタバサは呟いた。「ああ、そうだな、その通りだ」「なら、これからどうする?」「それに、今のディノニクティスは」「分かっている。限りなく不完全に近い。だから」「行こう。全てにケリをつける」 宇宙すら噛み砕く刃金の怪物がその顎を開き、咆哮する。その形を一瞬で組み替え、海棲の邪神を模した高速巡航形態へとその姿を変え、無限に存在する宇宙を果て知れない魔海に埋め尽くしながら、超光速のタキオンすら届かない超無限の速度で──── 目標────ハルケギニア。=====後書き的なもの===== 覚醒その2。ステータス異常:恐怖が完全に消えました。 フェルナンがジョゼフ陣営から離脱。敵対ルートに入りました。 フェルナンが最終形態に進化しました。 発想の転換、魔導書タバサ。サンダルフォン方式です。マギウススタイルに変身するとちびタバサが肩に乗ります。=====おまけ的なもの:26終了時の鬼械神設定覚書=====鬼械神概要 鬼械神。デウス・マキナ。 デモンベイン世界における巨大ロボ的なもの。力ある魔導書によって召喚される。 肝心の魔導書は転生能力として『デモンベインに登場する魔導書全部』を選択した転生者によって持ち込まれ、紆余曲折あってジョゼフ王の手に渡り、わりと組織的に運用されることになった。 神の模造品と呼ばれるが、魔術的な意義はさておいて、魔法的なスーパーロボットのようなものと考えると理解しやすい。 とはいえデモンベイン自体が結構容赦ないクトゥルフ神話世界観であり、その世界で神といえばクトゥルフ神話的なあれやこれやであるため、模造品とはいえ鬼械神自体にも、見た者に正気度判定を強要するようなこの作品的にシビアな能力がついててもたぶんきっと別に驚くには値しない。転生者は総じて精神力が低いため、見ただけでSAN値が減るクトゥルフ系の化け物どもはまさに天敵。存在するだけで死が強要される。 その威力は大半の現代・近未来兵器を圧倒的に凌駕するが、それだけに召喚に際しての術者の負担は絶大なものとなり、術者は命を削るか人間を辞めるかの究極の二択を突き付けられることになる。とはいえ、この作品における魔術師は平然と後者を選ぶような物騒な連中ばかりなのであまり意味はない話。鬼械神クラーケン※魔術師:フェルナン・ド・モット※魔導書:水神クタアト※概要 魔導書『水神クタアト』によって召喚されるクラーケン。 召喚者であるフェルナンの影響により、原作版クラーケンよりも全体的な性能が低い代わりに、装甲と瞬間最大速度、及びアナコンダアームの射程では若干上回る。※主武装・アナコンダアーム:のびーるアーム。絡んで掴むだけでなく、武器を持ったまま伸ばすアクションも可能。・ダゴン&ハイドラ:二刀流チェーンソー。フェルナンクラーケンのメインウェポン。クトゥルフの魔水のエンチャントにより毒と時空間断裂の副次効果を持つ、などというとやたら強そうに聞こえるが、実際には上を見るときりがない。・レレイの霧:聖域展開呪法。ステルス霧。・水魔術:原作で使っていた氷魔術なども含むが、フェルナンはもっぱら水による攻撃を多用する。ハルケギニア系統魔法によって扱いに慣れているため。鬼械神ディノニクティス※魔術師:フェルナン・ド・モット※魔導書:タバサ(特殊)※概要 本来は魔導書『ルルイエ異本』の鬼械神。原作サンダルフォンと同じ要領で三冊の魔導書を喰って魔導書と化したタバサによって召喚される。ルルイエ異本の鬼械神が何だったか思い出せず、というか原作に出てたかどうかも定かではなく、調べても面白い程何も出てこないため苦肉の策のオリ鬼械神。 機体の格で行けばアイオーンやアンブロシウスと同格のスペシャル級。そんな代物を呼べる時点でフェルナンも十分に一流と呼んでいいレベルではあるのだが、比較対象が無能(笑)王にダークエルフといった人外どもであるため、いまいちぱっとしない。事実、一見強そうに見えてデモンベイン、リベル・レギス、ネームレス・ワンといった真性の規格外には届かない程度の格でしかない。二段階覚醒フェルナン+タバサがパイロットでも壮絶厳しい。それでも十分に強いのだが。 完全水中特化型鬼械神という変態的特化性能。いわゆるゴッグとかズゴッグとかの同類。完全なる重装甲・パワー型の機体でありながら、魚ゾイド的な変形機能と魔術で水そのものを操れる事も相まって、水中においては特に圧倒的な速度と運動性能を誇る。 加えて、クラーケンを生贄にパワーアップした事もあり、聖域展開呪法『レレイの霧』は本来の撹乱機能に加え、『戦場を無理矢理海にする』という特性を持ち、地形効果によって大半の敵の機動性の制限、クトゥルフの魔水の毒性と超高水圧による継続ダメージ、さらには敵の攻撃に対する威力減衰効果という厄介にも程がある高性能っぷり。もっとも、これはフェルナン自身の水属性適性とクトゥルー化、魔術師フェルナンと魔導書タバサの相性の高さに加え、次元連結システムの実装によるエネルギー無限という特性が加わってのことなので、マトモな術者なら某アズラッドさん並みかそれ以上の酷使が要求される上、型月的固有結界の技術を使っている裏設定があったりするので、再現は死ぬほど困難。そんなこんなで実はこの時点のフェルナンもかなり強くなっていたりする。 水から出た場合の性能は、飛行性能がクラーケン同様浮遊レベル+脚部がシーラカンスのヒレ同然といった二重苦により、地上戦・空中戦ともに最低レベル。エーテルライダーモードに変形すると本当に魚以外の何物でもないため、さらに悲しいことになる。立てないから。正直レガシー・オブ・ゴールドにも劣る可哀想な性能。宇宙戦闘ならある程度マシだが、やはり水中のが強い。※主武装・アナコンダアーム:伸びーるアーム。クラーケンからの流用。・バラクーダアーム:遠隔操作型ロケットパンチ。サイコミュハンド。ジオングとかみたいなの。・ダゴン&ハイドラ:二刀流チェーンソー。持ったまま腕伸ばしたり飛ばしたりするため、見た目かなり怖い。威力も相当ある。・魚雷発射管:サブウェポン。連射・誘導・(サブにしては)高威力と何気に性能は高いが水中限定。・レレイの霧:便利すぎるジャミング+減衰バリア+地形効果(毒・足止め・ダメージ)。でも無くなると死ぬ。・水魔術:色々。ハルケギニア式系統魔法と水精霊式先住魔法がベースなので、やたらできることが多い。・氷魔術:特に水中で応用が利く。タバサの担当。・フレイザー砲:ビーム。レガシー・オブ・ゴールドからの流用。拡散型や収束型、全方位型など、色々と使い分けられるのだが、結局全部ビームであることには変わりない。タバサの担当。・神獣弾トゥールスチャ:現時点での最終奥義。フレイザー砲に乗せて発射する腐敗ビーム。エターナルフォースブリザードではないが大半の敵は当たると死ぬ。死なないのもたまにいる。・その他:出番がなかった分。グラーキのニードルガンとか巨大ドリル槍オトゥームとか出す予定だったのだが、結局出番がなくてお蔵入り。鬼械神リベル・レギス=アルビオン※魔術師:ジョゼフ一世※魔導書:ナコト写本&アル・アジフ※概要 即効魔法『C計画』! 『アルビオン大陸』を生贄に『クトゥルー』を攻撃表示で召喚! さらに『クトゥルー』と『ネームレス・ワン』の二体が場に揃ったことにより『ネームレス・ワン』の効果を使用、シンクロ召喚が発動して場に召喚された『クトゥルー』を生贄に山札から『リベル・レギス』を直接召喚!! 同時に『リベル・レギス』の効果が発動して あ い て は し ぬ !! 空飛ぶデタラメ。大陸サイズの鬼械神。 原作のC計画でヨグ=ソトースが召喚されるところを、代わりにリベル・レギスを召喚したようなもの。規模で言うならヨグ=ソトース並みというびっくりどっきりメカ。 指輪ゾンビのイザベラによって操られるネームレス・ワンを中枢ユニットとして顕現する。実際の戦闘ではエセルドレーダ(ナコト写本)が機体制御を、アル・アジフが火器管制を担当し、ジョゼフ王が総括する。 戦力的には、惑星そのものを媒介に召喚された軍神強襲バージョンのデモンベインやリベル・レギスと比べればある程度はマシといったレベル。※主武装・ハイパーボリア・ゼロドライブ:リベル・レギスの最終奥義。時空間すら消滅させる負の無限熱量で敵を焼き尽くす手刀。ゴッドフィンガー的なアレ。・他:色々。原作に出てきた主人公とラスボスの武器は大体使える。トラペゾは無理。レムリア・インパクトとアトランティス・ストライクも使えないが、アトランティスストライクに限り似たような蹴りは可能。 鬼械神レガシー・オブ・ゴールド※魔術師:タバサ※魔導書:金枝篇orタバサ(特殊)※概要 魔導書『金枝篇』、もしくはそれを捕食したタバサ本人によって召喚される鬼械神。実際にはフェルナンでも使えるといえば使えるのだが、水属性が付いてないのでフェルナン本人の適性は低い。 クラーケンとは違い、こちらは原作との差異はさほど存在しない。せいぜい、微妙にデザインが変わっている程度。多分顔の辺りがメガネっぽい。 全身に配したフレイザー砲が主武装。というかむしろ全身のほとんどがフレイザー砲。というか、ボディの存在意義自体がフレイザー砲を乗っける為の箱。丸型のボディの蓋を開くと、一面大砲になる。フレイザー砲自体の使い勝手は多分結構いい感じ。 確か原作のパイロットが『金枝篇』でナイフっぽい刃物を出している描写がちらっとあったけれど、機神召喚してもあの外見では多分接近戦は期待できない。 火力にリソースを割き過ぎて低下した他の性能を補うために装甲を厚くした感じであり、タバサの戦闘スタイルには合わないことはなはだしい。※主武装・フレイザー砲:これだけ。とはいえ全方位射撃や拡散射撃ができるので、武装としてはまあそこそこ優秀。鬼械神サイクラノーシュ※魔術師:ティファニア※魔導書:エイボンの書※概要 魔導書『エイボンの書』によって召喚される鬼械神。外見は蜘蛛というか円盤というか。まあ見た目節足動物で、曲がりなりにも人型っぽい体裁を整えているレガシー・オブ・ゴールド以上に異色の外見。 原作では三体の使い魔を使役して、さらにマリオかシューティングゲーム張りに残機が三つという厄介な特性を持っていたが、ティファニアは鬼械神の多重同時召喚という荒業を行っているため、この特性にはあまり意味がない。 ちなみに、鬼械神は結構優秀な術者であっても連続召喚しただけで命を削る代物であり、多重召喚と同時制御などという無茶ぶりを行えば普通は脳味噌がアボンして悲惨死する。その辺考えると、ティファニアの実力はとんでもないと言わざるを得ない。※主武装・ン・カイの闇:原作ラスボスが多用していた重力魔術。砲弾になったり結界になったり。元々はジョゼフ王が使っていた術を、ティファニアが『エイボンの書』の記述をベースに我流で再構築したものだったりする。鬼械神ロードビヤーキー※魔術師:ワルド※魔導書:セラエノ断章※概要 魔導書『セラエノ断章』によって召喚される鬼械神。 高機動高速戦闘型。 ワルド自身の戦闘スタイルが似通っていたこともあり、原作との差異は少ない。多分せいぜい顔がヒゲっぽいくらい。 魔術行使に際して、『セラエノ断章』によって邪神ハスターの魔風を召喚し、それをハルケギニア式風魔法で制御するという形式を踏んでおり、これによってデモベ魔術習得に要する完熟訓練の時間を短縮した。この方法は後のペルスランなどにも受け継がれており、また、フェルナンなども似たような方法でクトゥルフの魔水を操っている事からもこの手法の効率の高さが物語られている……多分。 なお、原作との最大の違いとして、風の系統魔法『遍在』による分身を使いこなす。※主武装・スペル・ライフル:基本的には銃だが、ワルドはほとんど杖として使っており、ブレイドやエア・ニードルの魔法により近接戦にも対応できる便利仕様。とはいえライフルの外見が変わるわけではないので、ライフルを縦横に振り回して敵を切り裂くその姿は、絵的にはきっと、見る者にかなりの違和感を抱かせることだろう。・風魔法:真・主武装。ハスターの風を風魔法で操る。・遍在:ワルドの代名詞ともいえる風の系統魔法の奥義。便利すぎる分身魔法。・スクリーミング・バード:突貫攻撃。ただしそれだけでは地味だったので、量子論的なアレコレで敵の防御を素通りする後付け設定を付加。鬼械神皇餓※魔術師:ペルスラン※魔導書:屍食経典儀※概要 魔導書『屍食経典儀』によって召喚される鬼械神。原作においては一見サムライ風バリバリ近接戦機体と見せかけて、必殺技が隠し腕という割とふざけた機体だったが、皇餓の場合は背中に隠し腕をびっしりと生やし、その全てにメイジの杖を握った超射撃戦仕様。ペルスランにデモンベイン原作のティトゥスほどの剣技がないため、割り切ってバリバリの射撃機体に仕上げられた。 クトゥルフ神話的には皇餓の四本の隠し腕は多分アレなので、『屍食経典儀』で本当に四本以上の腕が出せるのかはかなり怪しいところであり、ペルスランの人体改造は多分相当に無茶な行為。 死と腐敗を司る炎の邪神トゥールスチャの力をハルケギニア式火魔法によって制御する。 また、最後の自爆的な手段として、皇餓の機体それ自体を依代にトゥールスチャそのものを召喚する自滅モードが存在した。※主武装・杖剣:レイピア。ゼロ魔原作でワルドが使っていたような実戦仕様の剣型メイジスタッフ。全部の腕で同時に使える手持ち武装。基本的に原作の使い手が使っていた刀と同じもの。・ガグの腕:隠し腕。ペルスランの場合はやたらたくさん生えてくるのが特徴。外見的にはウニかハリネズミ。・ユールの炎:邪神トゥールスチャの死と腐敗の業火。普通の人間は触ると死ぬ。というか魔術師でも結構ヤバい。鬼械神ディノニクティス・アートレータ・アエテルヌム※魔術師:フェルナン・ド・モット※魔導書:タバサ(特殊)※概要 フェルナンの最終計画『オーバーフロウ』の最終形態。 デモンベインの外伝「軍神強襲」が惑星丸ごと一つを使用しての機神召喚という暴挙を成し遂げたため、それを知っていたフェルナンはそれ以上の規模での機神召喚によって、それ以上の規模での鬼械神の召喚を成し遂げた。星系規模召喚陣による超々大規模召喚。その性質上、召喚には戦闘力や魔力よりも政治力が必要という不思議メカ。 とはいえ、未だ描写されていないがこの機体はまだ限りなく不完全に近く────※武装・アナコンダアーム:色々と天元突破しているらしい。・レレイの霧:威力が明らかにおかしい。・その他:未登場。