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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート
Name: ゴンザブロウ◆27d0121c ID:3e895f6f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/27 23:19
 浮遊大陸アルビオン。
 かつては純白の雲に包まれた清廉な色合いを保っていたこの大陸も、今では薄黒い雲と濃密な瘴気に包まれ、暗澹とした気配に包まれていた。
 呼吸すれば水爆の放射能にも匹敵する高濃度の瘴気が肺腑を灼き、真っ当な生物であれば数秒で全身を醜く溶け崩れさせて死に至るだろう。そんな大気の中を飛ぶことができるということ自体が、僕とタバサが真っ当な生物では有り得ないということを何よりも明白に示している。
「この大陸に来るのも久々か。アルビオン叛乱以来だな」
「ええ」
 変わり果てた世界を見て呟くと、タバサも僕と同じように頷いた。トリステイン、アルビオン、ロマリア、ゲルマニア、平和だった、いずれ戦禍には巻き込まれても、おそらく予定調和の平和を手にするはずだった穏やかな世界は毒々しく崩れ落ち、今や国家としての体裁を保っているのはガリア一国のみ────いや、それももうすぐ終わる。
 そんな風に思った時、リュティスに潜ませていた知覚端末が急を告げた。大体予想通りの事態が起きたのだ。
「……?」
「ああ、大体予想通りだ。ギーシュとルイズ、アリサがリュティスを消滅させたらしい」
 首を傾げたタバサに向かって、端的に説明。
 ロマリアで、僕が全ての黒幕がジョゼフ王であると囁いたのを真に受けてリュティスに向かったギーシュ一行が、リュティスに向けて盛大に虚無魔法エクスプロージョンを撃ち込んだらしい。
「……!? 何故?」
「ああ。そういえば、タバサは今のリュティスがどうなっているのか知らなかったっけ?」
 うん、なら仕方ない。というわけで解説。
 王城グラン・トロワを発生源とする莫大な瘴気は、何もジョゼフ王の放つ巨大過ぎる気配だけによるものではない。いくら何でも、威圧感だけで空が曇るなどという現象が発生することなど有り得ないのだから。グラン・トロワから放出される膨大な瘴気は、現在のアルビオンに対して行われている呪術・魔術的国家改造の実験として行われていた神性の招来の副次効果として発生したものなのである。
 それをかなりの長期間吸い込んでいたリュティス市民は、一人の例外もなくアンリエッタ王女と同じ深きものと化していたのだ。というか、ジョゼフ王自身、最後にはアンドヴァリの指輪と虚無魔法とデモンベイン系魔術でその効果を後押ししていたような節さえある。
 トリスタニア王城の悪夢と同じものが某バイオハザードのゾンビよろしくわらわらと湧いて出てくるという悪夢的な光景。そりゃ消し飛ばしたくもなるというものだろう。



 濁流のフェルナン/第二十五段



 だが、生憎とギーシュの活動はそこでストップしてしまったようだ。ジョゼフ王は現在アルビオンに向かっている最中であり、ギーシュとは入れ違いになった形である。
 危なかった。ギーシュと王様が鉢合わせする可能性を考えていなかった。王様ならギーシュ相手でもあっさり生還してくれそうな気はするが、世の中に絶対なんてものは存在しないはず。これからのためにも、王様には計画を絶対に成功させてくれないと困るのだ。


 そんなわけで、僕とタバサは王様の計画の最終段階である儀式に参加するべく、雑兵級の背中に乗ってアルビオンに向かっていたのだった。
 儀式の中心点となるのはアルビオンの王都であったロンディニウム。そして、そこから同心円状に存在する六ヶ所。復興作業と銘打って行われた七箇所の巨大な儀式場に、僕やタバサ、そしてティファニアを含む七人の魔術師が、ジョゼフ王と共に儀式を執り行うのだ。
 他の担当者もそれぞれ集合地点であるロンディニウムに向かっているはずで、僕も早いところ到着しておかなければならない。ここまで来る途中で雑兵級の部隊を展開していたこともあって、少しばかり遅くなっている。儀式の間にギーシュやら他の敵に邪魔されては困るので、その防御のためだ。

 雑兵級の速度は戦闘機にも匹敵する、というか戦闘機そのものであるため、トリステインからアルビオンへと飛んでもさしたる時間は掛からない。だが、他のメンバーも同じだろう。
 僕がロンディニウムの王城に辿り着くと、そこには数人のメンバーが集まっていた。見覚えがある相手もいれば、ない相手もいる。ティファニアとシェフィールドの二人と、あともう一人、頑丈な鉄仮面をつけた執事服の男────
「タバサ、どうした?」
「……何でもない」
 タバサはふるふると首を振って、近寄ってきた相手に視線を向ける。僕も釣られて顔を向けると、そこには相変わらずの笑顔を浮かべたティファニアがいた。
「タバサ、フェルナンさん、お待ちしていました。お元気でしたか?」
「ああ。割と時間もあったからな。どうにか使いこなす事もできるようになった」
「私も」
 いつも通りに言葉を交わしていると、まだ来ていなかったメンバーも揃ったようだ。羽帽子をかぶった貴族風の男、虚ろな表情をした蒼い髪の少女、そして。

「おう、皆揃っているな。お前達が一堂に会するのはこれが初めてになるが、うむ、こうして見ると中々に頼もしい顔ぶれではないか」

 ジョゼフ王。我等が王様。存在するだけで世界全てを塗り潰すような膨大な覇気、それでいていつからそこにいたのかも分からないほどに茫洋とした、宇宙を埋め尽くす空間そのもののような存在感。
 その両脇に立つのは黒と白の少女、どちらも魔導書らしく、二人の少女はその身体を無数の頁に分解すると、王様の全身に纏いつき、どこかで見たことがあるような、それでいて誰も見たことがないであろう不可思議なデザインの術衣(マギウス・スタイル)へと変化する。
 それを目にしたシェフィールドと貴族風の男は膝をついて恭しく頭を垂れ、ティファニアは相変わらずの笑顔を浮かべ、鉄仮面の男はただ無言でその後ろに立ち、蒼い髪の少女は虚ろな表情のまま茫洋と立ち尽くし、僕とタバサは特に何の反応も無し。それぞれのスタンスというかスタイルが見事に出ているようだ。

「集まって早々悪いが、こうして話している時間も惜しい。計画の成就が待ち遠しくてならんのだ。だから皆の者、すぐに儀式を始めるとしよう」

 楽しげに嗤いながら言う王様に、集まった魔術師はそれぞれに応えを返す。例外なく肯定、シェフィールド辺りは別としても、情や理想ではなく利害の一致によって集まった面子であれば当然のこと。だから早く、速く、始めるとしよう。

 王様の計画を。



 さて、ここで一つの仮説を口にしよう。
 混沌を破壊するにはどうすればいいのか、という問い掛けに正解は在るのだろうか。たとえばジャンプ系の熱血漫画などではそれ以上のエネルギーをぶつけて消滅させる、などという意味不明がまかり通っているのだろうが、ここではそのような理論外の理論は排除して思考する。
 その問いに解答するためには、まず混沌とは何であろうか、という仮定から始めなければならない。たとえば、天地開闢以前の世界、という解もあるだろうし、絶えず変化し続けて形が定まらない状態、と答えてもいいだろう。あるいは馬鹿の集団、という答えだってあるのかもしれないし、コート一丁全裸男、と答える人間もいるだろう。ネロ教授はコートの下に何も着ていない、絶対。
 だが、この場合の混沌といったら、それが示すのは一つだけ。

 ハルケギニア。

 それも、現在の、転生者が持ち込んだ異界の、異形の、異常の力によって、冒涜され汚染され切ったこの世界。
 トリステインは崩壊し、ロマリアは吸血鬼に蹂躙されBETAの群れに呑み込まれ、ついでゲルマニアも同じ運命を辿った。ガリアの首都は消滅し、アルビオンもこの様。
 この混沌を破壊する為にはどうすればいいのか、という問い掛けだ。
 絶望の中をどうにか生き抜くか? 否。それだけでは何も変わらない。
 この世界を放り出して、新たな世界に旅立つか? 否。その方法では、この混沌の世界は何ら変化しない。
 狂気の世界からどうにか立ち上がり、平和な王国を作り出すか? 否。それだけでは、新たな転生者が持ち込む新しい脅威を防いでいない。結局すぐに次の混沌が世界を埋め尽くす。
 あるいは、全てを諦めて、世界そのものを消滅させるか? 否。それはただ単に、混沌が加速した結果の自爆に過ぎない。混沌をブチ撒けたところで、所詮混沌は混沌のままなのだ。
 なら、どうするのか。これはそういう問い掛けだ。



 『金枝篇』を携えたタバサは僕からやや離れたロサイスが担当地点であるため、『金枝篇』の鬼械神であるレガシーオブゴールドに搭乗してそちらに向かった。僕の担当地点は以前も訪れたサウスゴータだ。
 ご丁寧にも鬼械神のための発着場と思しき広場までが都市計画に組み込まれているらしく、全く至れり尽くせりだなどと考えながら、その発着場に僕は乗っていた雑兵級を着陸させた。
 シティオブサウスゴータの中心に建造されているのは、煉瓦造りの巨大な塔。直立していると同時に捻じ曲がっているようにも見える奇怪な建造物、その頂点にはいくつかに枝分かれした最上部がまるで魔物の爪のように尖った先端を天に向けている。
 あれがサウスゴータの儀式塔。儀式の中核である七つの儀式塔の一つ、僕がこの計画の最終段階である儀式において担うもの。
「壊せ壊せ、聖なる破壊の為に『水神クタアト』よ…………ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うがふなふる、ふたぐん…………」
 儀式塔の頂上に造られた巨大な広場にも似た陣地の上で口ずさむようにして呪文を唱えると、掌の上から浮き上がった水神クタアトが無数の頁に分解して滞空し、僕の魔力を増幅するための「詠唱形態」を取る。
 足元には暗青色に輝く魔法陣が展開され、波紋のように同心円状に広がった魔法陣が、僕の力を増幅してくれる。
 そのまま呪文を唱え続けていれば、暗澹とした空に挑むようにして屹立する儀式塔に向かって、無数の気配が酷くゆったりとした速度で押し寄せてくる。ひたひたと迫る無数の気配は、かつてこのアルビオンの住人だった人々のもの。儀式塔から放出される魔力と瘴気に影響されて、深き者へと肉体を変質させた彼らは、口々に大いなるクトゥルフを讃える祝詞を唱えながら、儀式塔に向かって平伏し拝み、祈りを捧げる。それら全ての力は魔力に供給され、浮遊大陸アルビオンに走る地脈の流れを汚染し、変質させて、アルビオン大陸そのものを霊的・魔術的に儀式に最も適した状態へと変容させる。

 野ざらしになっている儀式塔の屋上から、このサウスゴータの儀式塔を中心に、アルビオン大陸全土に向かって青黒く輝く魔力の波が広がっていくのが見えた。数千にも及ぶ深きものの魔力を結集させ、それを巨大な儀式塔によって増幅させた魔力波が孕む魔術的質量は津波にも匹敵し、七つの儀式塔の力を結集させれば、その力はアルビオン大陸を包む空間それ自体を、蠢く海魔の巣窟へと作り変えるのにも十分過ぎる。
 おそらく、ロサイスの儀式塔にいるタバサの目にも、同じ光景が映っている。そう考えると、どこか嬉しい。これが終わったら、いつか二人だけで同じことをやってみたい。そんな風にも思う。
 そんなことを思っていると、それはまるで────

「────死亡フラグだな」

 そんな風に呟きながら術式を綴り、同時に全ての雑兵級の知覚器官を利用して、このアルビオン大陸に走る莫大な魔力の流れを、複雑精緻にして巨大極まりない術式の構造を、それら全ての構造を解析していく。

 同時、上空へと膨大な魔力の流れが放たれた。
 大半の転生者を軽く凌ぐ絶大な規模で放たれるそれは、どう見てもデモンベイン世界の魔術ではない。この世界────ハルケギニアの魔法だ。それも、虚無属性。
 ティファニアはこの儀式塔によるアルビオンの変成作業に取られているため、このアルビオンにおいて術式を取り行っているのは間違いなく────

「────陛下か」

 ジョゼフ王だ。デモンベインや型月、BUSTURDの世界のもののように精緻な術式によって構築されたものとは違う、放たれる暴力的なまでの魔力の渦によって現実を改変する、ハルケギニアの虚無魔法。それがもたらすのは時空間の改変、このハルケギニアに、大いなる神を降臨させるべく揃った星辰を、力づくで召喚する。
 噴き上がる魔力の渦の中心に何かが浮かぶ。煌めく無数の輝きを散りばめた果て知らない暗黒。それは宇宙────星空だ。
 おそらく転生者以外のこの世界の誰もが知らない星空、そして同時に、この僕がハルケギニアのそれと同じくらいによく知っている星空。それは地球の星空だ。
 星降る夜────しかし、違う。かつて見慣れた夜空には、絢爛たる星座が輝き、しかしその歌は何の変哲もない夜空に誰も見たことのない異形の星座を映し出し、いつも通りの夜景の中に誰も聞いたことのない異言の物語を紡ぎ出し、誰もが感じたことのない異界の感情を惹き起こした。
 この超大儀式に使用される術式に必要とされる星辰は、本来であれば地球から見た星空に並ぶものだ。故に、何時よりも正しく星辰が揃った刹那、何処よりも相応しく星辰の揃う座標に存在する“地球”の星空を、時空を司る虚無魔法によって召喚する。

「始まる。今から。これから。今度こそ、本当に、本格的に」

 儀式の最終段階である次こそが、この儀式の真の目的。今までのは単なる前振り、あくまでも下ごしらえに過ぎない。それら全ての要素を昇華して発動する超儀式、それが、これから始まるのだ。

 ず、とも、ご、ともつかない巨大な地鳴りと共にアルビオンの大地が揺らぐ。その揺らぎの中で七つの儀式塔だけは盤石の地盤に支えられているかのように微動だにしない。大地の上に立っている建造物が、大地が揺らいでいるのにもかかわらず、空間それ自体に磔刑にされているかのように震動一つ起こさない。
 地鳴りは少しずつ大きくなっていき、巨大な浮遊大陸を貫く衝撃と共に爆音が轟き、突き立った釘のように七つの儀式塔がアルビオンの地盤に向かって撃ち込まれる。
 そこから噴き出した呪力が螺旋を描きながらアルビオンの地下深くに浸透し、やがてこのアルビオン大陸自体を浮遊させている巨大風石へと注ぎ込まれ、その存在を変質させていく。空間そのものが捻り潰されるように悲鳴を上げて歪み軋み、空間そのものが変質して、周囲にどこか血液にも似た潮の匂いが漂い始める。

 同時、呪詞が響く。その呪詞に合わせて僕も謳い、眼下の都市では深きものどもも同様に唄い続けている。
「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるふ、るるいえ、うがふなふる、ふたぐん……永久に臥したるもの死することなく、怪異なる永劫の内には死すらも死せん────」
 唄うように呪詞を唱える。深きものどもが唱和する。冒涜的なまでに神聖で、清澄なほどにも邪悪な唄が、宇宙の構造すら揺るがしてこのハルケギニアに響き渡る。
 世界が変質していく。大気が穢れ、海が毒され、大地は融かされ変わっていく。凌辱される処女のように世界が絶叫を上げ、時間と空間が引き裂かれて最も純然たる邪悪は至純の愛に等しい。ならば、この世界を包むのは強壮たるクトゥルーの愛、そのもの。


 アルビオン大陸が爆発した。


 否、爆発ではない。膨張したのだ。
 大地に無数の亀裂が走り、土埃を巻き上げて溢れ出すのは、アルビオン大陸すら上回る巨大な無定形の肉塊だ。ぐじゅぐじゅと生理的嫌悪感を煽る音を立てながら膨張し増殖していくそれらは、アルビオンの大地を覆い、あるいは同化させながら、その体積を増していく。
 大陸を貪婪に喰い尽くしながら同化する肉塊の表面に一筋の線が走り、やがてそれが上下に開く。眼球、だ。矮小な人間の知性では理解できないほどに巨大な宇宙的な悪意と嘲笑を湛えた眼球は、まるで水面に泡が噴き出すようにして分裂増殖しながら、アルビオンを覆う肉の中に拡散していく。
 人間のそれにあまりにもよく似たそれらの表面は、あまりにも異界的であまりにも非人間的でありながら、人間のそれすら遥かに凌駕する明確な知性と理性が浮かんでいた。

『さあ、始めようではないか、我が同胞よ────!!』

 王様の言葉が魔術の力で僕に向かって届けられる。同じ言葉を、シェフィールドが、ティファニアが、タバサが、そして他の誰かが聞いているはず。

『この世界が、知らぬ間に自分たち以外の何物かに支配されていると感じたことはないか? 己の運命が、己以外の何物かに律されていると感じたことはないか!? 己の意志で選択したはずの決断は、本当に己の意志だったのか、そうせざるを得ないように、世界の全てから誘導されているように感じたことはあるか!? ────己を使役する、世界の意志を感じたことはあるか、否か!?』

 世界が歪んでいく。世界が軋んでいく。世界が崩れていく。
 このアルビオン大陸を核として顕現する“神の肉”。周囲を飛翔する雑兵級の視界の中で、アルビオン大陸の輪郭が崩れ、膨張していく。
 膨張を続けるクトゥルーの肉の表面に無数の口が生まれ、それらが大きく開かれ、一斉に絶叫を放つ。矮小なハルケギニアの人類の理解を遥かに超える超宇宙的な言語によって放たれた叫びだった。大気ではなく時空の構造そのものを振動させて放たれるその声はそれだけで膨大な魔力を孕み、矮小な人間など一撫でした程度で根源から砕き散らされる。直接耳にすればまともな人間であれば精神を圧砕されて、ヒトのカタチすら留めない無惨な肉塊になり果てていたことだろう。
 アルビオン大陸の下面が砕け、その内側から無数の触手が伸びて互いに絡み合って融合し、巨大な腫瘍にも似た肉塊を形成し、そこからさらに無数の触手を伸ばしながらさらに膨れ上がっていく。それはさながら、無数の触手を伸ばし、無数の腫瘍に覆われ、無数の悪疫を垂れ流す、世界を壊す致死の猛毒。
 その毒に包まれた世界の中で、一人の男の声が凛然と響き渡る。邪悪を打ち砕く意志は正義から生まれるとは限らない。それは時として邪悪から生まれ、しかし時としてそれは正義よりも強く邪悪に立ち向かうのだ。

『だが、余はあえて宣言しよう。そんなことは関係ないと! そこに至る道程に如何なる意志が介在しようと、決断した己こそが己の意志である。弟を殺害したのも余の意志であるなら、クトゥルーを召喚したのも余の意志だ。それは例え神であろうと冒す事の出来ない────ヒトの尊厳である!!』

 何が言いたい、と呆れた笑いを漏らす一方で、何よりも確かに、その言葉に震えている己の心がある。おそらく、これから先、その一字一句を僕は忘れまい。その言葉は、生温い正義なんかよりも何よりも、魂の奥底に響くのだ。

『ゆえに、我が同盟者達よ、余は断言する。我等が為すべきは、この冒涜的なまでに歪み、狂い、冒された世界を造り直し、我等の世界することだ。この絶望的なまでに捻じれ狂った世界を、我等の故郷とする!!』



 問いの正解を今こそ語ろう。
 絶対的な力で絶対的な秩序を敷く。それによって混沌を制圧し、消滅させる。それこそが正解に至る最短距離だ。




 ゆえに、このクトゥルーを召喚したのだ。C計画を実行したのだ。彼は。
 僕が担う『水神クタアト』の原典である「デモンベイン」の世界において、邪悪なる魔術結社ブラックロッジが行おうとしたのが「C計画」。魔導書『ルルイエ異本』と、最強の魔術師『暴君ネロ』を核として、地球の正統主権者と呼ばれる海棲の邪神、旧支配者クトゥルーを召喚・使役し、その威力を以って世界を支配するのがその計画の正体だ。
 そのC計画の再現こそ、アルビオンを占拠した我等が王様の目的。名前も顔も知らない転生者が遺した『ルルイエ異本』を使い、僕の知らない誰かをネロの役に据え、そして僕とタバサを含む六人の魔術師が、王様と共に儀式を執り行う。
 かつてのアルビオン戦役の際に僕がティファニアとシェフィールドに届けたのが、そのルルイエ異本。計画はその頃から既に始まっていたのだ。
 そのために、わざわざ魔術系転生者を使い捨てにしてまで魔術師の養成プランを確立させた。それでも間に合わなかったからこそ、反則である僕やタバサが存在するのだが。

『貴公等も見ただろう。この世界の外側を。虚無呪文“世界扉”によって召喚されたバジュラ、そしてBETAと呼ばれる怪物を! 貴公等なら知っているだろう。この宇宙の外側を。貴公等に授けられた魔導書に記された、幾多の怪異、邪神どもの存在を! それらに対抗するために、我々は強くならねばならない。そのためには、始祖ブリミルが授けし系統魔法では、到底足りぬと!!』

 つまり、こういうこと。
 世界を破壊する、などというのは、破壊すべき世界が存在している場合にのみ可能なことだ。だが、この修復不可能なまでに醜く冒涜されたこの世界において、もはや破壊すべき部分など存在しない。
 だが、だ。世界を破壊する、というのは、言い換えれば致命的なまでに世界を変えてしまう、ということでもある。どんな転生者にも、あるいはどんな侵略者にも破壊されないくらいに強固に世界を再構築する。そのためにまずはこのクトゥルーの力で、世界を滅ぼしかねない危険物である転生者どもを全排除し、そしてこのアルビオン大陸は王様によって再構築された世界の最強の守り手となる。

 世界を防衛するためにクトゥルーを召喚する。そんなことを考える時点で終わっていると思うが、そもそもこの世界を襲ったのは物量のBETAに進化のバジュラ、そうでもしないと対抗できないような相手ばかりだ。これからも別の転生者が似たような存在を召喚してくる可能性を考えると、案外、理にかなっているのかもしれない。
 それに、ギーシュが召喚したバジュラどもによって証明されたように、この「ゼロの使い魔」の世界以外にも無数の世界が存在するのだ。その中には、この世界に侵略してくる可能性を持つ存在だってかなりの数が存在するし、そのほとんどはハルケギニアだけの力ではどうにもならない。だが、このアルビオンと鬼械神であれば、大半の敵は何とかなる。
 僕としては、どうしようもない相手には目を付けられた時点でどうしようもないので、まずは力をつけなければならない、と考えていたのだが、さすがは王様、考えることが違う。

 原典「デモンベイン」においてクトゥルーの神性を宿す器となったのが、魔術結社ブラックロッジの拠点である移動要塞“夢幻心母”であった。それを代行するのがこのアルビオン大陸。いかに要塞とはいえ、その規模は原典において召喚されたクトゥルーを軽く上回る。だからこそ、七つの巨大な儀式塔を建設し、大陸そのものをクトゥルーの神気に馴染ませる必要があったのだ。

『だが、恐れる必要はない。我等は既に、異界の脅威に対抗するための手段を手にしている。このアルビオン大陸こそが、我等の世界を守護するための砦となり、城壁となり、牙城となるだろう。その力を以って、我等は世界の騎士となる。そのための魔導書、そのための鬼械神だ! 魔導書の狂気に耐え得る貴公等の意志ならば、必ずやそれを成し遂げてくれると、余は確信している────!!』

 何だろうな、本当は目的のものさえ確保したら後はその場の流れに合わせるつもりではあったんだが、いつの間にか、この王様の戦いに付き合うのも悪くないような気もしてくる。実際問題、別に敵対する必要なんてどこにもないし。
 歪んでいる。狂っている。世界の守護にこんなものを使う時点で根本的に間違っている。だが、歪んでいる、狂っている、その程度で諦め切れるなら、その意志はその程度でしかなかったということだ。そして、彼の意志はその程度ではなかった、ということ。


 だからこそ、敵は存在する。
 何があろうと、何が起ころうと、アイツは来ると思っていた。


 ────ギーシュ・ド・グラモン。


 瘴気に汚染された空を駆ける黄金の閃光。
 アイツが現れないなどという可能性は考えなかった。言うまでもなくクトゥルーは途轍もなく目立つ。ゆえに、儀式が終わる前に現れて目一杯の妨害をされることも考えていたからこその雑兵級の配置。空が霞んで見えるほどの物量をアルビオン上空に展開し、アルビオンそのものを覆うバリアを展開することだけに専念させるつもりだった。
 だが、それももう必要ない。
 この場にはクトゥルーと、そこからの膨大な魔力供給を受けた、王様を含めて七人の魔術師が存在する。この布陣なら、ギーシュの絶対的な防御力にも対抗できる。
 僕がクラーケンを召喚するのと時を同じくして、アルビオン大陸の各地に設置された儀式塔から、飛来するギーシュを迎撃すべく鬼械神が出現する。スカボローからは『妖蛆の秘密』の鬼械神ベルゼビュートが。グラスゴーからは『セラエノ断章』の鬼械神ロードビヤーキーが。ノッティンガムからは『屍食経典儀』の鬼械神皇餓が。マンチェスターからはティファニアの『エイボンの書』の鬼械神サイクラノーシュが。
 そして、ロサイスからはタバサの『金枝篇』の鬼械神レガシー・オブ・ゴールドが。

 ……驚いた。タバサまでか。裏技があるとはいえ、随分と早い。
 もっとも、僕とてここまで来るのに、さほどの時間は掛かっていないのだ。おそらく僕以上の精神力を持っているであろうタバサ本人がこれだけできても、全く不思議ではない、のかもしれない。魔力を操る素質であれば、この世界のメイジ全てが持っているわけでもあるし、タバサの素質はその中でも群を抜いている。
 そんな思考は、クラーケンのコクピットに届けられた王様からの通信を受けて断ち切られた。

『皆の者、聞こえているか? そして見えているか? 我等の敵が来た』

 当然だ。聞こえている。見えている。
 狂った邪悪に対抗するには、偽善者こそが相応しい。そう言わんばかりに飛翔する黄金の戦士の姿が。

 ……とは言ったものの。
 あーやだやだ。
 一番近くにいるのは僕だ。つまり、一番最初に攻撃喰らうのも僕だ。


 ……最悪だ。


 クトゥルーの召喚が成った今、クトゥルーからの膨大な魔力バックアップを受けて、僕のクラーケンの性能は段違いに向上している。今なら、アイツに対しても勝算がないわけじゃない。ないったらない。
 だが、嫌なもんは嫌なのだ。

「……この段階で襲ってくるってこと自体が、アイツの異常さ加減をしっかりと教えてくれているわけでもあり」

 実はこのクトゥルー、ただ何もせずにフヨフヨ浮かんでいるだけではないのだ。いや、確かに何もしていないといえばしていないのだが、何もしなくても非常に厄介なのだ。特に転生者にとっては。

 クトゥルーを目にした者は狂気に囚われる。それも、その巨体に魔術的な何らかの効果があるわけではなく、ただ“怖い”だけで、だ。たとえば『クトゥルフの呼び声』などというゲームにおいてはSAN値=正気度などという数値で表現されるその力は、常人の精神を砕き、絶望に膝を折らせるには十分過ぎる。文字通りのSAN値直葬なのだ。何といっても、どこぞの魔を断つ剣も、一度はただの一瞥でその精神を砕き散らされたのだ。
 その視線は眼下のハルケギニアの大地を睨み下ろしているだけではあるのだが、それだけでも地上は壊滅。常人並みの精神しか持たない転生者が、マトモに相手にできる代物ではない。というか、直視すらできやしない。
 それを越えてくるどころか、平然と戦闘行動まで取ってみせる目の前の化け物は、一体どれほどの化け物なのか。
 正面から見たギーシュの姿は、しかしあまりにも異形だった。ガラヴェンタから譲り受けた赤く輝く七つの宝珠を取り込んで、そこから供給される膨大な魔力を身に纏うギーシュの肉体はその魔力の影響で、もはやヒトとしての姿をとどめないほどに変化していた。
 腕が二本に脚が二本で頭が一つ、一応の人の姿は保っている。しかし、上半身からは赤く輝く剛毛が生え揃い、背中からは蝙蝠や猛禽、その他様々の生物を模した無数の翼を備えている。尻というか背中の中心からはサイヤ人のそれが変質したものなのか、獣にも似た長大な尾が伸び、その先端にルイズとアリサの二人を乗せて揺らめいている。もはや人間ではない。猛禽のそれに似た凶悪な鉤爪を有する四肢は、しかし人間そのものの動作で両手に巨大な剣を握り締めている。

「ああ、なるほど。宝珠のダメージを肉体に集中させて、それをアヴァロンの治癒効果で……」

 ガラヴェンタがギーシュに渡した七つの宝珠は、莫大な魔力と引き換えに、使用者の肉体と精神、そして何より魂そのものを浸食し、使用者に凄まじい激痛を与えるのだ。そのため、その力を全力で稼働させれば、わずか数回でその魂は砕け散ってしまう。
 だが、ギーシュは宝珠によるダメージを肉体に集中させ、それをアヴァロンの治癒効果によって相殺することでそれを中和しているようだ。それでも魂自体にもある程度のダメージは入っているようだが、アヴァロンはそれすら癒す。
 さらに、宝珠に浸食されては再生を繰り返すそのプロセスが超回復をもたらし、サイヤ人の超成長性という特性を極限まで引き出している。つまり、今のギーシュは戦えば戦うほど無限に強くなっていく。型月式ステータス表記で行くならば、全ステータスのパラメーターであるAランクのAの後ろに、数秒ごとに+が一つずつ増えていくような感じ。

 どけぇ、とか雑魚その一扱いでど真ん中に叩き込まれた光の斬撃を、クロスさせたクラーケンの両腕で受け止める。オリジナルのそれよりもさらに頑強な装甲に覆われた両腕は、しかしあっさりと半ばまで切り裂かれる。

「っ……クトゥルー!!」

 僕の叫びに応えてラ・ロシェールの大桟橋にも匹敵する巨大な触手が眼下アルビオンの大地を割って伸び、その先端の顎から超新星爆発にも匹敵する爆炎が吐き出される。この儀式に関わった魔術師六人には、クトゥルーの触手や目玉なんかの、割と端にある部分をある程度制御する権限も与えられている。最初は其処までの力を与えて大丈夫なのかと疑ったのだが、どうやらこういう、ギーシュみたいな桁違いのチートと戦うための措置のようだ。

 爆炎に紛れてギーシュと距離を開け、両腕を再生させる。この鬼械神クラーケンの魔道書『水神クタアト』はそもそもがクトゥルフやその配下である水棲の神性の力を借りるため、大いなるクトゥルフの魔力と非常に相性がいい。斬り飛ばされてもいない腕など一瞬で再生できる。

 爆炎の名残を突き破って二度三度と黄金の閃光が飛来する。ギリギリで回避、先程伸ばしたクトゥルーの触手にクラーケンの伸縮腕アナコンダアームを撃ち込んで、アンカーのように自らの機体を振り回す。クトゥルーの触手にその身を振り回すように命令すれば、鈍重なこの機体でもどうにか回避機動は取れる。

「ったく、回避は苦手だってのに……」

 クラーケンのバーニアは基本的に逃走のための加速用だ。直線速度は重量級としてはそこそこであるが、運動性は最低限。クトゥルーの触手を振り回すことで自ら振り回される。アナコンダアームがなければ無様に触手にしがみついている羽目になっていた。

 ────それが幸いしたらしい。

 大いなるクトゥルフの触手を抉り飛ばすとは、どんな破壊力なんだか。どうやら業を煮やしたらしいギーシュは、こっちの回避機動の要であるクトゥルーの触手に狙いを変えたらしい。先程とは桁違いの威力で放たれた黄金の閃光が、龍か大海蛇のようにうねり狂うクトゥルーの触手をこれ以上ない程に斬り飛ばしていた。
 上半分を斬り飛ばされた触手は、その断面から再生し、元の形状へと戻る。だが、こっちの損傷もそれなりだ。クトゥルーの触手が抉り裂かれた拍子に、クラーケンのアナコンダアームが巻き込まれて消し飛んだようだ。伸縮式のアナコンダアームがなければクトゥルーの触手には全身でしがみつくしかないだろうし、そうなったら今の斬撃の巻き添えでクラーケンの全身が消し飛ばされていた。
 さすがにここまで見事に消滅させられれば、再生にはそれなりの時間が掛かる。機能回復までほんの数秒、だがその数秒がこの戦闘には致命的。次に放たれるエクスカリバーだかハマノツルギだかをかわすことができない。サーチライトのように振り回される二条の閃光を、僕は雑兵級の内数千体を転換した水の盾で受け止める。
 だが、それで受け止められるのはここまで。二本の大剣を空中に置き捨てたギーシュが、徒手の両手を腰だめに構え、獣の顎を思わせる構えを形作る。
 まずい。まずい。まずい。あの構えはまずい。

「十倍────か、め、は、め、波ぁあああああああああああああああ!!」

 放たれる閃光、その威力、下手をすれば銀河すら打ち砕く。さすがにあの威力に曝されれば、いくらクラーケンであろうとも一瞬で消し飛ばされるしかない。まずい。このタイミングで僕が退場すれば、タバサがこの場に一人で取り残される。対策はしてあるとはいえ、少々厄介。となれば取るべき手段、緊急空間転移────



 ────その刹那、頭上から吹き荒れた突風が、クラーケンの機体を叩き落とした。



『そこまでだ』
 風の鉄槌に殴られることによってかめはめ波の効果範囲から逃れたクラーケンは、間一髪で消滅を免れていた。助け垂れたことは分かっている。だが。
「っ、……乱暴な助け方だ」
『すまないな。それが一番確実だった』
 気障極まりない発言がどこか神経を逆撫でする。理屈では理解できるのだが、なぜだろうか。風の魔法を操って僕を救ったのは、どこか戦闘機にも似た、緑灰色の鬼械神だった。
 翼と一体化した太刀のような腕。直線的かつ鋭角的でありながらどこか有機的な異形のフォルム。軽量でありながら堅牢な、空力特性に特化した装甲。


 ────鬼械神ロードビヤーキー。


 風の属性を持つ魔導書『セラエノ断章』によって召喚されるその機体は、僕のクラーケンとは対照的に高機動空中戦に特化した、高速戦闘型の機体。
「まあいい。アイツもいつまでも待っていてくれないだろうし、さっさと片をつけよう」
『待ちたまえ。彼の相手は、私にさせてくれないか?』
 言って、ロードビヤーキーの魔術師はその機体をギーシュの正面にまで飛翔させる。名状し難い異形と化したギーシュの正面に立ち、あたかも誇り高い騎士が決闘に臨むようにギーシュと向かい合う。
 その姿を見たギーシュにも、若干の驚愕が見えた。
「その声、まさかワルド……!?」

 ────ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 トリステイン魔法衛士隊の一隊、マンティコア隊に属する隊員であり、風のスクエアメイジ。ルイズの元婚約者。僕が知っている情報は、こんなところだ。原作ゼロ魔では魔法衛士隊グリフォン隊の隊長であり、トリステインを裏切ってレコン・キスタのスパイとして主人公達と敵対した悪役だった。
 ならばこの世界においては、レコン・キスタの黒幕であるジョゼフ王の配下として存在しても、何ら不思議ではない。

「嘘だろ、ワルドはロマリアで死んだはずだ……!」
 ロードビヤーキーは首を振ると、レイピアに似た呪術砲(スペル・ライフル)を剣のように胸の前に構える。その動きは間違いなくトリステインの魔法衛士隊のものだ。
『いいや、あれは偏在さ。一時的にとはいえ死体を残すほどに磨き上げるのには随分と苦労したよ。だが、それだけの価値はあった。今こうして────君達と向かい合えている!!』
 ワルドが呪術砲を構えると、鬼械神の膨大な魔力によって召喚されたハスターの魔風が渦巻き、ドリルのような形を作り上げる。系統魔法エア・ニードル。杖に纏わせた風の渦によって敵の肉体を鎧ごと抉り飛ばす、近接戦闘型の風魔法。
「くっ、操られているのかワルド、目を覚ませ!」
『いいや、これは正真正銘の私の意志さ! こうしてずっと、君に挑みたいと思っていた! 君をこの手で打ち斃したいと思っていた!! ギーシュ・ド・グラモン!!』
 ギーシュは光にも迫るほどの速度でワルドに接敵し、刃を振るう。そんな速度領域での戦闘が可能なギーシュも化け物なら、その速度についてきているワルドも十分に化け物の領域に入るだろう。

「どうして! 貴方は私たちの仲間のはずじゃない、ワルド!」
『いいや、君たちが私の味方であったことなど一度もなかったさ。確かに、君たちは“大隆起”を必ず止めると約束してくれたよ。だが、君達には本当に“大隆起”を止める気はあるのか?』

 いっそ静かとも言える口調で、ワルドは杖代わりのスペル・ライフルを振りかざして飛翔する。光にも近い加速、急角度で旋回、宇宙速度にも等しい巡航速度。だが、絶対的な攻撃力が足りない。
 それもそのはず、鬼械神ロードビヤーキーを擁する魔道書『セラエノ断章』は、クトゥルーの対立神性、風を司るハスターの力を振るう。そのためクトゥルーから受け取れる魔力にも数十倍近い差があるし、さらにクトゥルフから魔力供給を受けている今、僕のクラーケンとは対照的に、クトゥルフの魔力とは酷く相性が悪い。今この瞬間にも、機体を駆け巡るクトゥルフの魔力が内部構造を灼き、ロードビヤーキーの機体と同調したワルドの肉体は、全身の血管を濃硫酸が駆け巡るような激痛に蝕まれているはず。
「当り前だろう! だからそのために俺は仲間を集めて……!」
『なら、その仲間とやらはどこにいる!? マンティコア隊も一人残らず戦死した。ゲルマニアの転生者達も一人残らず死んだ。君の為にだ。私は、君がBETAの足止めの為に一人残ったゼッサール隊長を見捨てて前進した時に、顔色一つ変えていなかったことを忘れていないぞ?』


「おい待て、それは一体どういうことだ? ギーシュに“大隆起”を止める気がないっていうのは……?」
『そのことについては、後で話そう。できれば……この戦いの後で、私が生きていれば、な』
「死ぬ気か!? だったらせめて情報吐いてけ!」


 僕の言葉に応えることもなく、ワルドは無謀なヒットアンドアウェイを繰り返す。その力はギーシュの纏うアヴァロンにことごとく防がれ、マトモなダメージを与えられない。
「ああ糞、本当に忌々しい……!!」
 クラーケンのアナコンダアームを解き放つ。螺旋を描いて襲い掛かるアナコンダアームは一方通行式演算機関によってベクトルを捻じ曲げられ、有り得ないベクトルを纏って複雑に折れ曲がりながら、物理法則を超越した宇宙的な角度からギーシュに向かって牙を剥く。
 ギーシュが紙一重でその攻撃を回避した刹那、アナコンダアームの先端だけを反転させて、クラーケンの指先が鋭利な刃となって伸張し、ギーシュに向かって襲い掛かる。その攻撃が黄金の閃光に打ち払われると同時、もう片方の腕にチェーンソーを構えてギーシュに向かって突撃する。
 肩を押さえてその動きを制したのは、ワルドのロードビヤーキーだった。舌打ちしながら振り返った僕に向かって、ロードビヤーキーは横に首を振る。
『すまないが、彼は私が倒したい。手を出さないでくれないか?』
「いいのか? 貴方の武器じゃ、アイツを傷つけられないぞ」
『ああ……知っているさ』
 通信機越しの声では、ワルドの表情は分からない。だが。
「…………援護くらいなら構わないだろう?」
『すまないな。……助かる』
 ワルドは頷くと、風のランスを構えて再び黄金の戦士に向かって飛翔する。その背後に機体を置きながら、僕は周囲一帯にレレイの霧を展開する。強壮なるクトゥルーの寝所であるルルイエの空間そのものを召喚するその術式は、クトゥルーそのものがこの場に降臨している今、その力を何倍にも強力なものにして発現する。むしろ、ロードビヤーキーに危害を加えないように術式の力を調整する方が難しい。
 加えて、


「クトゥルー!!」


 クトゥルーの触手に命令を送り、弾幕のように無数の触手をギーシュに向かって伸ばさせる。当然のようにギーシュはそれを回避するが、触手に命中など端から期待してはいない。僕の目的はもう一つ。ギーシュに向かって無数の触手が伸びたことにより、この空間は今、まるで触手の森のようになっている。そうすることによって回避のための空間を狭め、敵の動きを制限する。
 触手の森によって動きに枷を嵌められたギーシュの背後から、触手を巧みにかわしながら飛び出したロードビヤーキーが風のランスを突き出すが、ギーシュの直感によって感知された攻撃は、カウンターで振るわれた剣から放たれた斬撃によって消し飛ばされ、ロードビヤーキーの胸板に突き刺さった黄金の閃光が鋼をブチ撒け、装甲を消し飛ばし、その刹那、打ち砕かれたロードビヤーキーが大気の塊と化して分解し消滅する。

『悪いな、偏在だ。吹け、窮極の風よ! エア・カッター!!』

 砕かれた機体を盾に接近したもう一体のロードビヤーキーが、スペル・ライフルを剣のように振るい、魔法による斬撃を繰り出す。僕の一方通行式演算機関によって十一次元的にベクトルを捻じ曲げられたその斬撃は、高速飛行して回避したギーシュの頬をわずかに切り裂いた。

『っ……これは!?』
「僕が貴方の攻撃を“アイツに当たる“ようにしている。貴方はただ、攻撃をかわして攻撃を当てていればそれでいい」
『重ね重ね、すまない……感謝する!!』

 ギーシュの回避機動に合わせて触手の側面に口を開いて爆炎を撃ち込み、あるいはクトゥルーの邪視でルイズやアリサを狙い、さらにはアナコンダアームや雑兵級で牽制し、その隙間からロードビヤーキーが毒針のような一撃を見舞う。即席にしては悪くない連携だ、と思う。
 だが、当たらない。相手の回避は直感によるもの、どうでもいい牽制の一撃にも反射的に回避を取ってしまう分、次の行動は比較的予測しやすく、攻撃も決して当てにくいわけでもない。だが、致命の一撃だけは決して当てられない。
 だが、それは相手も同じこと。ギーシュは全身に黄金の龍のようなオーラを纏うと、触手の壁を力任せに突き破って、距離を取って離れる。

「っ、ワルド、逃がすな! 敵の切り札が来る!!」
『分かっている!』

 既にアナコンダアームは飛ばしている。水の鞭も伸ばしているし、クトゥルフの触手にも命令している。だが、遅い。間に合わない。
 ギーシュの体内に潜む七つの宝珠が膨大な魔力を放出し、一つ目が放出した魔力を二つ目が受け取ってその力を増幅し、より巨大な力を引き出して、三つ目へとその力を送り込む。それを受け取った三つ目も力を増幅して四つ目の宝珠へと送り込み、七つの宝珠は直列に繋がって連鎖的に力を増幅しながら、莫大な力を引き出していく。


「全ペイン、超弦直列励起────!!」


 ギーシュの叫びと共に膨大な魔力が次元の壁を引き裂き、その背後に潜む“何か”を召喚する。
 ギーシュの背後に複雑な機械によって構成された巨大な鋼の十字架が浮かび、その表面から槍穂のように太い無数の棘が突き出してギーシュの脊髄に突き刺さり、神経に接続していく。その背後に刃金によって構築された何かが出現する。
 ギーシュの全身から、気と魔力が入り混じり融合した黄金のオーラが噴き上がり、巨大な黄金の光柱となって屹立する。その中に現れるシルエット、機械とも生命ともつかない巨大なそれは、咆哮する九つの龍頭。オーラが放つ黄金の輝きの中においてすら闇と見紛うほどに昏い強大な気配を放つそれは、黄金の熱量と絡み合い、霊的・超次元的にその機体構造を形成していく。
 龍頭の下から長く伸びた胴体が大きくのたうって長大な尾を形成する。龍頭から伸びた角が展開して翼の骨組を形成し、光の膜がその間に展開して黄金に輝く翼を形成する。三つの龍頭が寄り集まり絡み合い融合し、腹部と肩に龍の顔を持つ巨大な胴体を作り上げる。その下に伸びる二つの龍頭が巨大な鉤爪を伸ばし、分厚い鋼の骨格を展開した頑強な脚となる。最後に残った龍頭が咆哮を上げながら胴体の上に融合し、猛々しく牙を剥き出した頭部へと変貌する。
 龍翼と龍尾を持った鋼の巨人。全身に九つの龍頭を配した、鬼械神すら上回る巨躯を持つ、圧倒的破壊の化身。ただ存在するだけでもその圧倒的な霊的質量が空間を歪め、膨大な魔力が時空そのものを捻じ曲げる絶対暴力。



 ────竜戦士ルシファー。



 その胸板に、ギーシュを張り付けた十字架が格納され、内部機構と一体化する。
 漫画『BUSTARD!!』に登場する最強の兵器であるそれは、ギーシュがガラヴェンタに譲り受けた宝珠によって召喚された対大天使・魔神用決戦兵器。機械でありながら生命、物質でありながら霊質を備える超物理的な装甲の内側を、宝珠の魔力とスーパーサイヤ人の気が駆け巡って咸卦法で増幅され、水の鞭もアナコンダアームもクトゥルーの触手や爆炎ですらも正面から受け止めて弾き返す。

「……冗談じゃない」
 僕は思わず吐き捨てるように呟いた。何てヤツに、何てモノを。
 半分くらい計算通りではあるし、既にクトゥルー召喚の目的は達成されているものの、直接対峙すれば厄介なこと極まりない。
 なら、どうするか。どんなピンチにも対応する方法は一つだけ存在する。訪れるピンチの数の数十、数百、数千倍もの切り札を用意しておくことだ。未だ戦い続けているワルドを援護する傍ら、クラーケンの内部機構に干渉し、ゼオライマーを撃破した時に試した例のシステムを起動する。現状、タバサがいないと役に立たないとはいえ、保険は用意しておくべきだ。
 ガシガシと音を立てて操縦席の内部機構が変形、内壁には無数のジャックが露出し、装甲板がせり上がって棺桶のように僕の肉体を包み込む。
 だが、まだ起動しない。アナコンダアームを縦横に伸ばし、水の鞭を飛ばして援護する。今のギーシュであっても、クトゥルフの触手ならまだ足を引っ張るくらいは可能だ。


「ワルド卿、この鬼械神クラーケンはクトゥルーの魔力と格別に相性がいい。クトゥルーから受け取れる魔力の量も桁が違う。クラーケンの魔力を無理矢理にロードビヤーキーに注ぎ込めば、一瞬くらいならギーシュの機体にもダメージを与えることはできる。その代わり、そっちの機体はバラバラになるが────」
『構わない。やってくれ』
「……そうか。分かった」


 アナコンダアームの片腕をロードビヤーキーの背部に向かって伸ばすと、そこにプラグにも似た器官が展開、伸ばした腕をそのプラグに接続、クトゥルーから供給される津波にも匹敵する巨大な魔力を直接流し込む。
『っ、……がはっ!!』
 通信越しの何かを吐き出すような苦鳴と共に、ロードビヤーキーの機体に絶大な魔力が満ち溢れた。

『ギーシュ・ド・グラモン、私は君の存在が許せない。君はこの世界も、隣にいる人々も、目の前や足元にいる人々すらも見てはいなかった。君が見ているのは“主人公である自分自身”だけだった。私はそれが許せない。だが、何よりも赦せないのは……そんな空虚な存在に敗北した…………私自身だ!!』

 大剣にも似た三角翼と一体化した両腕が大きく広がった。翼に内蔵されたフーン機関が膨大な魔力を孕み、超次元的に魔力を燃焼させて物理法則すら書き換え、ハスターの魔風を吐き出して推進力に変える。


「勝算の無い戦いに命を捨てる? 正直、理解できないな」
『すまない、性分でな。それに勝算はある。陛下かティファニア嬢が来るまでこの場を保たせれば我々の勝ちだ。そうだろう?』
「だが、勝ったとしてもその時には貴方は……」
『言うな。マンティコア隊は既に全滅した。ワルド子爵家はヴァリエール領と一緒にBETAの波に呑み込まれた。挙句、かつてのとはいえ婚約者はあの様だ。正直今の私には未練など…………無い。もはや、な』
 いや、正確には未練はあるのだろう。この先どれだけ長く生きたとしても手の届かない場所にある未練が。……いや、そんなものは未練とは言わないか。


『行くぞ戦友よ。……あの大根役者に、痛烈な批評を下してやろうではないか!』


 ロードビヤーキーは明らかに強かった。
 ハルケギニアの風魔法によってハスターの魔風を自在に操り、偏在によって分身して一撃離脱を繰り返すその力は、許容力を越えた魔力に支えられた一時的なものに過ぎないとはいえ、ギーシュが搭乗する竜戦士ルシファーを速度で凌駕し、戦闘技巧で圧倒する。

 どうやらこれまでの経験からすれば、ギーシュを始めとした大半の戦闘系転生者の中に宿る戦闘技能は、たとえば剣の振るい方、踏み込み方、間合いの取り方、気配の感じ方、あるいは必殺技の撃ち方といったものに限られており、その剣をどんな時に振るうべきか、どんなタイミングで踏み込むべきか、間合いを取ってどうするのか、そもそもどんな時に必殺技を撃つのか、などという、能力の性能に頼らない部分においては本人の戦術思考に完全に委ねられる、らしい。

 要するに、素振りの達人ではあっても戦闘巧者ではない、ということか。あるいは格闘ゲームにおいて理不尽なまでに強力なバグキャラを扱っているだけで、プレイヤー性能は自前のものの場合が多い、ということ。例えば僕やゲルマニアの偽弓兵のような例外もいるのであまり当てにならないが、大半はそんなものだ。
 それでも身体機能などの基礎スペックは高いし、そうでなくとも相手の攻撃や防御に対する脊髄反射レベルでの対応のプロセスが出来上がっているため、それだけで大半の相手には勝利できるものの、今回のように能力が拮抗してしまえば、それは如実な戦闘能力の差となって表れる。

 それはあるいはチート能力を貰う時の転生者達が“こんな武器が欲しい”“こんな必殺技を出したい”などといった思考経路による能力獲得に至るから、という僕の仮説が正しいのかどうかは分からないが、それを抜きにしてもワルドは強かった。

 それを支えているのは鬼械神ロードビヤーキーの限界を越えた自壊必至の魔力のオーバーロードにも起因するし、相性の悪いクトゥルフの魔力をそれだけ取り込んで空中分解や自爆といった結末に陥らないのも、同じ『セラエノ断章』の鬼械神アンブロシウスの変形機構のような脆い機体構造を選択せず、華奢な割に堅牢な一体構造型の機体構造を持つからでもあるのかもしれないが、だが。


 この状況を作り出しているのは間違いなくワルドの戦闘技能だ。



「まったく、いつまでもこんな状況、続けられないぞ?」
『分かっている。私のロードビヤーキーも限界が近い。だから、最後くらい博打に出てみてもいいだろう?』
「ああ……勝手にしろ」
『……感謝する』



『ケリをつけさせてもらう、ギーシュ・ド・グラモン!!』

 翼と一体化した両腕から膨大な魔力が噴き出し、放出されるハスターの魔風が巨大な剣のように広がって、鬼械神ロードビヤーキーの機体を光すら追い付けない領域にまで加速させる。

『っ、重轟場暗黒洞(ギラン=イーラ)……っ!!』

 ギーシュの叫びと共に竜戦士ルシファーの眼前に巨大なブラックホールが出現、ロードビヤーキーの突進を受け止めるべく展開した超重力の塊は、ひとたび接触すれば今のロードビヤーキーといえども数億倍にも及ぶ超重力の檻に囚われ、高次空間に引きずり込まれて魂すら残さずに破壊・消滅する。だが、そのカウンターをロードビヤーキーは蜃気楼のようにすり抜ける。

『これで……終わりだ!』

 不確定性原理理論。すなわち、加速度を持つ物体を表現しようとする際、位置、速度、そのどちらであろうとも、もう片方をより正確に表そうとすればするほど、もう一方の数値が不確定になっていく。今のロードビヤーキーは、その理論を用いて自らの存在を可能性の領域に昇華することにより、あらゆる反撃を無効化する。
 ロードビヤーキーの最終突撃呪法“スクリーミングバード”。“そこに存在しない”以上、無限熱量やら無限重力やらに届かない、ただのブラックホールごときで止められる攻撃ではない。その突撃が止められるとしたらそれはただ一つ────。


『────っぁあああああああああああああああああああ!! 右手に魔力!! 左手に気!!』

 ギーシュの意志に従ってルシファーの左腕に銀河すら崩壊させるスーパーサイヤ人の気が、ルシファーの右腕に次元すら崩壊させる宝珠の魔力が収束。ギーシュはその両腕を組み合わせ、気と魔力との融合によって爆発的に増大したエネルギーがワルドの突進を受け止め、さらに相殺しきれなかった余波が渦を巻いてロードビヤーキーの腹部へと殺到。
 華奢な構造の割に堅牢なロードビヤーキーの機体構造もこれには耐え切れず、荒れ狂う気と魔力の乱流はロードビヤーキーの胴体を貫通し、あまりの熱量がアルビオンの大地へと着弾、クトゥルーの肉を抉り取り、崩落した大地の一部が眼下ハルケギニアの海へと着弾、その衝撃が津波を巻き起こし、発生した津波が沿岸の大地を蹂躙する。

『ワルド、アンタは強かった。だが、人間として信念を貫くことが────』



『誰が、これで終わりだと言った?』



 自らの機体にルシファーの両腕を貫通させながら、ワルドは半壊したロードビヤーキーでルシファーの機体を抑え込む。ギーシュはワルドの意図に気付いたのかその拘束を振りほどこうとするが、甘い。僕はアナコンダアームを伸ばしてギーシュの機体の両腕を掴み、さらにクトゥルーの触手をその機体に幾重にも巻きつける。

『理解しろ……世界は、貴様を中心に回るものではないと!!』

 受けてみろ。これが僕らの全力全開、演算機関をフル稼働させての超次元ベクトル制御。その刹那、五体の偏在による突撃が、ギーシュの機体へと突き刺さった。




『……間に合いませんでしたか』
「いや、これで良かった。良かったんだ、きっと」

 砕け散って鉄屑と化したロードビヤーキーが、濁った爆炎を上げながら地面に向かって落下していく。僕はクトゥルフの触手を操ってその残骸を捕獲すると、丁寧に地面へと下ろした。

 僕の隣に姿を現したのは円盤に四本の脚を取りつけたような、蜘蛛に似た機体。『エイボンの書』の鬼械神サイクラノーシュ。“土星”の名を冠するその機体は、文字通り惑星一つにも匹敵するか、あるいはそれすら上回る威力を秘めているのは間違いない。
 空間転移を繰り返してようやくこの場に辿り着いたのは、サイクラノーシュに搭乗したティファニアだった。魔導書『エイボンの書』の著者である魔術師エイボンが知悉していたン・カイの闇の空間変動を操るティファニアは重力使いだ。
 だからこそ空間転移を得意としていた彼女が、三番目にこの場にたどり着いた。
 幸運だ。僕が知っている内では、王様の存在を除いてしまえば、彼女こそ最強の魔術師だから。

『何でもいいですけど、何があっても貴方は絶対に死んではいけませんよ? タバサが壊れてしまいますから。…………もう壊れているかもしれませんけれど』
「……ああ。肝に銘じておくよ」

 そんな風にやりとりを交わして、僕たちはギーシュに向き直る。

『一人増えた程度で……!』
『状況は変わらない、ですか? お生憎さま、私とワルド子爵とでは、天と地ほども力の差がありますもの。一緒にしてもらっても困ります。それに────』
 ワルドと入れ替わるようにして戦線に現れたティファニアは、その地力だけでギーシュを圧倒していた。天と地ほどの力の差、というのも誇張でも何でもない。クトゥルーから供給される魔力もワルドのロードビヤーキーの受けていたそれと比べると十倍近く、何より。



『────陛下は、私より強いですし』



 アルビオンの大地から突き出した塔のような何かが、ギーシュの竜戦士を殴り飛ばした。一撃で吹き飛んだ竜戦士の機体はその装甲を大きく歪ませ、鋼の破片を撒き散らしながら地平線の彼方へと吹き飛んでいく。
 塔。強靭な鋼の曲面装甲で覆われたそれが握り締めていた五指を開く。あまりに巨大に過ぎて建造物にすら見紛うそれは、刃金で構成された腕だった。


 空をゆく雲を握り締めるほどに巨大な腕を覆う刃金の色は赤。
 傷口から流れ出る原始的な血液の色。時の終焉を示し沈みゆく落日の色。膨張して自らの質量に耐え切れず燃え尽きていく年老いた赤色巨星の色。狂気と熱情の色。破滅の色。




=====
後書き的なもの
=====

 いあいあくとぅるー。

 王様マジパネェ。



 そんなこんなで復活しました。
 お待たせしていた方にはお待たせしました。初めましての方には初めまして、ゴンザブロウでございます。本当に皆さんお久しぶりです。かれこれ連載一周年くらいになるような感じで本当に続いたものだと思います。
 ちなみに後はルートB完結までほぼ更新停止無しで続けられると思います。



 ALI PLOJECTの堕天國宣戦、歌詞が何だかこのSSに少し合っている気がする今日この頃。



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