ショッカーの敗因は、実は意外なところにある。すなわち、医療ミスである。あらゆる人体改造に先立って脳改造を先にやっていれば、今頃仮面ライダーは悪の手先だったはずである。面倒臭いからと言って脳改造を後回しにすると、彼らのように破滅する事になるだろう、という良い例だ。「イル・ウォータル・ユル・マインディ……『メモリー・カスタマイズ』『エモーション・カスタマイズ』」 僕は、眼を閉じて苦しげな寝息を立てる少女に対して杖を振るう。これは脳改造ではないが、人格改造である点に変わりはない。 ぶっちゃけ、僕は数あるオリ主のようにカリスマでメイドさんを従える自信はない。僕の目的は、どんな手段を使っても────他者をいくら踏みつけにしても、安楽に暮すこと。そこに正義はなく、信念もない。人を惹きつけるためには目的が────言い換えるなら、何かを成し遂げる強い意志が必要である。僕にはそれがない。故に、僕に従う者がいるとも思えない。 だから、反則技を使う。それが魔法だ。 まず、最初に発動する魔法は『メモリー・カスタマイズ』。彼女が持っているあらゆる感情記憶を全削除。これまで持っていたありとあらゆる「思い出に対する感情」を喪失。知識や経験、出来事に対する記憶は残っているが、それら全てが「どうでもよくなる」。感情的に完全に無垢な状態を作り出す。 次に発動させる魔法は『エモーション・カスタマイズ』。パブロフの犬が持つ回路を一瞬で形成する魔法。特定条件に対する感情発生のプロセスの精製。つまり、言い換えると「こういう時にこんな気持ちになる」プロセスを捏造する魔法。 どちらも、『ギアス』の特化発展型。 まず、僕に仕える事に対して幸福感。僕に従う事に対して充実感。僕に対する信頼感。僕以外の存在に対して嫌悪感。僕に捨てられる事に対して恐怖心。僕に対する警戒心は全削除。全て、本人でも気付かないほどの微弱なものであることが条件。だが、感情的に完全にフラットになった少女の意志を無意識化でコントロールするには十分過ぎるほどの魔法。この領域でのコントロールが難しいのだ。加えて、僕の補佐をする上で邪魔な、罪悪感という感情は全削除しておく。 手応えからすると、どうやら上手くいったようだ。 濁流のフェルナン/第二段 というか、上手くいった。「ご主人さま、朝ですよ。起きてください」 うっすらと目を開いて見上げれば、茫洋と霞む視界に映るのは一人の少女。焼け爛れた半顔は長く伸びた波打つ金髪で隠されている。火傷を治療していないのは、我が父、ジュール・ド・モットに対する対策だ。彼は幼女でも構わず食ってしまう男だからな。彼は『YesロリータNoタッチ』を座右の銘とする自称紳士だ。タッチするだけでは幼女に対して失礼だ、という意味らしい。前世に全く正反対の意味で同じ言葉を聞いたような気がする……まあ、今さら詮のない事ではあるのだが。「んー、あと五分……」「そんなこと言われると困ります。早くしないと、旦那様に言いつけますよ」 ……起きた。またあの執務室に呼び出されるのは勘弁して欲しい。 リーラはそのまま歩いていって、そこそこに広い部屋を横切って、窓のカーテンを元気良く引き開けた。リーラが開いた窓からは、心地よい風が吹き込んでくる。 あれから一年が経過した。リーラは弱冠十二歳ながら、僕の専属メイドとして元気にやっている。……最初は手駒にするつもりだったのだが、いつの間にやらただのメイドだ。「ところでご主人さま、旦那様がお呼びです。書斎に来るようにとおっしゃっておりました」 ……マジでか。やれやれだ。 さて、その後はエロ秘薬の新バージョンの販売状況に関する報告を受け、父の執務室を後にする。僕の後には忠実な家臣のようにリーラが付いてくる。「ご主人さま、以前仰っていた実験体の大量確保の件に関してですが、これは領民を実験体にしない方針がある以上、現時点では難しいと言わざるを得ません」「そうか……」 いまいち、上手くいかないものだ。 大体は盗賊とかの犯罪者を使用しているのだが、この方法だと、上手いこと盗賊団なんかの犯罪集団をまとめて捕獲しない限り、まとまった数が入手できないのだ。せめてスラム街なんかがあれば定期的に実験体の補充が可能なのだが、残念ながらこのモット伯領は父であるモット伯の悪名による半分恐怖政治方式とはいえ結構よく治まっており、そんなものは存在しない。 奴隷市で一括購入という手もあるんだがな。だが、それも輸送手段が面倒、か。黄金律スキルで金だけはあるんだが、輸送用の竜籠を雇うにしても、そこまで大っぴらに動けば、どうしても情報が周囲に漏れる事は避けられまい。 いや、別に問題はない。殺そうが犯そうが問題の無い身分の人間の頭数を揃えればいいのだ。領民でさえなければ、わざわざ買う必要はないわけで…………。 いや、それはむしろ危険だ。大量のホムンクルスを製造すると、その餌である人間の確保が難しい。ホムンクルスの食人衝動に関しては実は抜け道があるのだが、それも多用できるものではないのだ。「それから、カタルーニャ近辺における野盗の出没に関してですが……ご主人さま?」「ああ、いや、聞いている。一つ思いついてな。確か、以前に片づけた獣人をベースにしたホムンクルス素体があったな」 僕は館から伸びる地下通路を歩きながらリーラと言葉を交わす。リーラはただのメイドというだけでなく、僕の秘書のようなポジションを努めてもいるのだ。 他にも、僕はマルチタスクで色々と研究を進めている。例えば家業のメインであるエロ秘薬の精製であり、上手く運用すれば相当に役に立ちそうだが諸刃の剣過ぎてどう使っていいか分からない芥子の花を原料にしたアで始まってンで終わる薬物だったり、オリジナルの核鉄の精製方法であったり、人体の一部だけをホムンクルスにする方法であったりする。 そんな事が可能なのも、キャスターとパピヨンのスキルと知識と技術を受け継いだからである。ついでに“王の財宝”のバックアップも受けている。はっきり言ってチートだ。だが僕の場合、チートがなければ何もできないであろうことは想像に難くない。あまり想像したくない話ではあるのだが。 だが、それでも実験体の頭数を揃えなければどうしようもない。なかなか上手くいかないものである。 今僕が研究しているのは、二つ以上の生物をベースにした、キメラ型ホムンクルスの研究である。この研究が上手くいけば、例えば大鷲+人間のキメラを作って大鷲型ホムンクルスが武装錬金を使用するような事が可能になる。 だが、どうもうまくいかない。「実験体第一号、犬、及び蛙をベースとしたキメラ。素体の製造、及び移植には成功。しかしホムンクルス素体のベースとなった犬と蛙の精神が反発し、精神崩壊を起こす。結果、破棄」 見事な廃人というか、廃ホムンクルスになった。まあ、暴走して暴れられるよりははるかにマシだろう。 一つの肉体に二つ以上の精神を容れられないという事なのか、それとも精神同士の相性さえ良ければ可能なのか。そんな事を考えながら実験を続けてみた。「実験体第二号、犬、及び狼をベースとしたキメラ。一号と同じく素体の製造、及び移植には成功。しかし結果は一号と同じく精神崩壊を起こし、破棄」 諦めきれずにさらに同様の実験を繰り返す。この段階において、二つのベースから素体を生成する技術は既に完成させられていた。「実験体三号、猫、及びライオンをベースとしたキメラ。実験体四号、雀、シジュウガラをベースとしたキメラ。実験体一号と同じく精神崩壊、破棄」 で、ようやく悟ったわけだ。一つの肉体に収められる精神は二つだけ、と。まあ、二重人格みたいな例もあるし一概には言えないのだろうけれど、やはり不安定なよりかは安定していた方がいいに決まっている。「実験体四号、犬、及び薔薇をベースとしたキメラ。水魔法によって犬側の精神を消去し、ほぼ薔薇型ホムンクルスのみの精神構造を構築。精神崩壊を防ぐ事には成功するも、免疫系統の拒絶反応を抑えきれずに約一週間で自壊、破棄」 これに関しては、僕自身の肉体をホムンクルス化した時の事を考えている。僕自身には通常の人型ホムンクルスと何かのキメラにする予定だが、とりあえずどうするかは決めていない。 まあ、とにかく、その後も何度も方針を変えて実験を重ねてみたが、キメラ型の精製はどうしてもうまくいかない。免疫系統をどうにかするブレイクスルーが無ければどうしようもなさそうだ。 にしても、我ながら非道な真似をしていると思う。確かに実験体はそこらへんの山賊とかの犯罪者だが、彼らにだって家族とか恋人なんかがいたのかもしれない。それを考えても何とも思わないのは、それを知識でしか理解していないからか、それとも、僕の人格の方がどこかおかしいからなのか。 どちらにせよ、邪悪な事には変わりないだろう。それを何とも感じない、ということ自体がおかしいのだ。それは、例えばパピヨンやメディアの知識を受け継いでいるからか、それとも、僕自身に最初からそういう素質があったのか。どちらにせよ、あまり考えたくない話である。 石造りの地下通路は足音を高く響かせるが、意味伝達阻害の結界を張った通路において僕たちが交わす言葉は、僕とリーラのみ意志疎通が可能だが、それ以外の人間が聞いても、意味ある言語として聞き取ることができない。 やがて通路も終端に辿り着き、奥の鉄扉を押し開く。そこには、規則正しく立ち並んだ無数のホムンクルス培養器が薄緑色の燐光を放っていた。「何というか、数だけあっても役に立たないよなぁ……」 はぁ、と溜息。 その時。階上から誰かの叫びが聞こえた。 走る。元々あまり運動は得意でもないが、英霊の運動性能をそのまま受け継いだこの肉体の身体能力は人間の領域を超越して高い。不愉快な胸騒ぎがする。何があったのかは分からないが、念のため駆けつけてみる。おそらく、今聞こえたのは女の悲鳴。 階段を一息に駆け上がった僕が見たのは、絞殺死体の口のようにだらしなく半開きになった扉。そしてその中を覗き込み、棒立ちになって震える女性。僕は一瞬で館の中を駆け抜け、その場所へと走り着いた。 嫌な予感がする。胸の、心臓の下辺りに、吐瀉物のような不快感がどろどろと溜まっているような感覚。できるなら見たくない。それでもここまで来てしまったのは、見ずにはいられなかったから。そんな気がしたから。「……何があった?」 僕はドアの前に立っていた女性に声を掛ける。後頭部で濃い色の髪を纏めた、背の高い二十代後半の女性。メイド長のエマだ。「ぼ、坊ちゃま……あ、あれを…………」 彼女が震える声で指差した先には、血塗れになったベッドに沈むように倒れている少女。その少女を僕は知っている。「………………シャーリー」 自分に嫌疑が掛かる事を恐れてか、泡を喰ったように事情を説明するエマの声も、僕には遠い世界のものとしか感じられなかった。 僕とシャーリーの縁は、およそ一年ほど前に遡る。 神童とか言われていても結局色々な意味で能天気な父を除けば恐れられているのには変わらず、僕は孤独なままで、ただ昔から孤独には慣れていたので別に寂しいとは思っておらず、むしろ心地よいくらいだったのだが、そんな僕に唯一話しかけてきたのがシャーリーだった。 最初は、それほど大した事を話した事はない。むしろ鬱陶しいとも思ったくらいだ。それが次第に打ち解けてきて、やがて、ちょっとした世間話くらいならするようになってきた。 それで、家族が借金に困っていると聞いたので親切心とほんの少しの下心をトッピングして気紛れに金を届けてやったら、本当に感謝されたもので、それ以来多少の言葉を交わすようになった。 結構好みの顔だった上に、少しだけ仲が良かったから。それだけだ。別に友達になりたいとか、そんな殊勝な事を考えたわけでもない。僕の善意なんてその程度だ。そして、それがいけなかったのかもしれない。 彼女がこの屋敷で働くようになって、だいたい一月が過ぎた頃だったろうか、彼女は唐突に父に呼び出された。そして、その日からだった。 その次の日、僕は何も考えずにいつも通り話しかけようとした。だが、彼女は僕の顔を見た途端に、顔を蒼くして走って逃げた。それを不審に思いながら僕は彼女を追いかけようとして――――そして、一歩も動けなくなった。理由を悟ったから。 つまり、何の事はない。その日が来たのだ。 元々、この屋敷のメイドの仕事は、当主である父の性処理を仕事の一つとしており、当然ながら彼女も父に抱かれたのだろう。おそらくは、僕が作った秘薬を使われて。 一体どんな風に抱かれたのか。父は彼女をどんな風に抱いたのか。全身の自由を奪われて抵抗すら許されずに処女を奪われたのか、それとも媚薬で無理矢理に発情させられて狂ったように男を求めたのか、あるいは惚れ薬で父を運命の恋人とでも思い込まされたのか。もしかしたら器具で吊るされ鞭で殴られたのかもしれないし、犬や触手生物にでも犯されたのかもしれない。 別にどれでも同じだ。結果は変わらない。彼女と僕の縁が切れたという、たったそれだけの話。 それからは、もう目を合わせてもくれなくなった。同類とでも思われたのだろう。否定はしないが、少しばかりショックだった。僕の感情なんてそんなものだ。人の縁なんて、その程度のものか、と、そう思っただけ。 それでも、たまに思う事がある。もしあの日、あの時、彼女の運命をちゃんと理解していて、それが実現しないように対策の一つでも用意しておけば、と。無駄な話だ。もう僕がどう足掻こうと意味もない事なのに。時間は元に戻らないのだから。 そういえば、なぜ、と思う。 一体、何が楽しくて僕は、こんなところで考え込んでなどいるのだろうか。失ったものはもう永遠に戻ってこない。シャーリーももはや過去の女性に過ぎない。気にするだけ無駄だ。 それに、どっちみち彼女を癒す手段はない。“王の財宝”の反魂香は自分専用だし、探せば他にも回復アイテムはあるのだろうが、反魂香からあるから大丈夫だと思って、一度も確かめた事はないし、今から検索してもどうせ間に合わない。核鉄もエリクサーも作っていない。 いや、一つだけある。だが、それはかなり非人道的な手段。それで彼女が生き返ったとして、元通りの彼女という訳ではない。同じ肉体を持っているだけの、別の存在だ。いや、肉体すら同じではない、か。 それ以前に、そもそも、彼女を癒してどうするのだろうか。僕に彼女が救えるのか? 自分が人を救えると思い上がっているのだろうか? あるいは、これも下心か? 彼女に感謝されて、感謝の印に抱かせて欲しいとでもいうのだろうか? どこまで行っても下種な話だ。下らない。そんなだから、彼女だって顔も合わせてくれなくなったのだ。 第一、彼女は死を望んだのだ。それなら、下らない欲望の槍玉に挙げるような真似をせずに、素直に死なせてやるべきではないか。 ふと、彼女の事を思い出した。「笑わないんですね」「……? 何の話だ?」 そんな話をしたことを思い出す。ちょうど、彼女がこの屋敷に来て三日目の話だったろうか、と思い出す。僕にしては良く覚えている方だ。「坊ちゃまです。村の弟と大して変わらない歳なのに、全然笑顔を見せてくれないんですから」「人前ではそんなものだよ」 そんな風に一言で片づけると、シャーリーは困ったような笑顔を見せた。「もう少し、笑って見せた方がいいと思いますよ」「無理だよ。……笑う時、どんな顔をすればいいのか分からないんだ。鏡を見ても、無表情とイラついた顔以外は全部歪んで見える」「えっと、それなら、私が笑わせて差し上げます」 意気込んだシャーリーの様子からくすぐりでも来るんじゃないかと思って距離を取ると、目標を失って中途半端に伸ばした手を引っ込めた彼女は、頬を膨らませて怒ったような表情を見せる。そうすると、僕よりも三つも年上の癖に、僕よりも幼く見えるのだ。「そんなんじゃ、笑った内には入らないよ。だいたい、そんな事してメイド長に怒られても知らないぞ」 確か、エマさんとか言ったはずだ。エマとシャーリーの組み合わせは名前だけは覚えやすかったので、人の名前を覚えるのが何よりも苦手な僕でも思い出せた。「……坊ちゃま、酷いです」 そんな事で半泣きになる彼女を見て、もしかしたらメイド長の折檻とかが酷いのかもしれない、と判断する。覚えていたら言ってやる事にしよう。「まあ、どっちみち…………」 こんな感じの感情が延々と続くのだろう、と僕は吐き捨てるように溜息をつく。そんな風に考えると同時、僕は頬に痛みを感じて思わずのけぞった。「あ、またそんな顔して! 駄目ですよ。溜息をつくと、それだけ幸せが逃げてくんですから」 頬を引っ張ったのはシャーリーの仕業らしい。あまりいい気分はしない……はずだというのに、かといって止める気にもならなかった。「もう。仕方ないですね坊ちゃまは。じゃあ、こんなのはどうでしょう」「何がだ?」 僕がとりあえずといった風に相槌を打つと、シャーリーは花が開くような笑顔を見せた。それが心臓の下辺りに息苦しいような妙な感覚を与えて、その笑顔はなぜか僕の記憶から消えることもなく、今でも残っている。「今は無理ですけど、でも、きっと、かならず、坊ちゃまを笑わせて差し上げます! 約束です」 それは、ほんの数秒にも満たない言葉のやり取りで、忘れ去られた約束で、でも、なぜか僕の記憶に刻まれて、忘れられない。「僕はまだ、笑っていない」 下らない約束だ、と思う。こんなもの、つまらない口約束ではないか。所詮は契約書もサインもないただの口約束、法的拘束力も何もない、ただの雑談だ。 下らない約束だ、と思う。僕はこの世界では十一歳で、シャーリーも十四歳、守る力も意志もない約束など、何の存在意義もない。 下らない約束だ、と思う。前世で僕がどれだけの約束を価値がないもののように破り捨ててきたものだと思っているのか。どうせ、今回も同じようにいずれ破られるだろう。 下らない約束だ、と思う。シャーリーはともかく、僕が約束した、という時点で何よりも下らない。下らない人間がする約束なんぞ総じて下らないものだと決まっている。 だが、それでも。 僕は最低限の止血だけをすると、シャーリーの体を抱え上げた。重い、と思う。重心が安定していないせいで、抱えにくいことこの上ないが、しかし英霊のポテンシャルを持つこの肉体にとってはそれほどの重量でもない。だというのに、重いと感じる。多分、罪の重さだ。かつて犯した罪。そして、僕が今から犯す罪。そんな気がする。「エマ、この「死体」は実験体として僕が預かる。実験に危険な秘薬を使ったりするから、父には手を出さないように伝えておいてくれないか」 吐き気を堪えるような表情で嫌悪に満ちた顔を見せるエマを無視して、僕はシャーリーの体を抱えて、地下の研究所へと駆け込んだ。鉄扉を押し開けると、立ち並ぶのは無数の培養槽。その中に浮かぶのは、まるで金属製の胎児のような異形、ホムンクルス素体だ。「約束か……下らない。下らない話だ」 下らないというのに、どうして僕はこんな事をしているのか。何度も自問自答を繰り返す。僕は胸のむかつきを吐き出すように、深々と息を吐き捨てた。=====後書き的なもの===== やってしまった……の舌の根も乾かない内にこれだよ。 ああ……本当にやってしまった。