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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる
Name: ゴンザブロウ◆a1f7ca62 ID:e9e052b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/18 17:14
 まあ、そんなわけで、僕のロマリア旅行は終わりを告げた。何というか、色々とものすごくアレな感じだった気がする。が、まあ衰弱したルイズとアリサを抱えてまで持ち帰ることができなかったらしいギーシュの黑鐵をゲットできたのは正直嬉しい。
 というか、ギーシュがヴァティカノのハイヴすら潰していかなかったことがびっくりだ。
 ついでに、正直あまり利用価値のないバルシュミーデはともかくとして、赤い剣の転生者の能力の正体は、前世で読んだラノベ「ウィザーズ・ブレイン」の“原型なる悪魔使い”。脳の構造の内側に存在する超高速演算機関「I-ブレイン」によって現実の情報を書き換えることによって超常現象を発現するSF系の異能力者だそうで、こっちは一方通行式演算機関のスペックアップに非常に役立った。
 で、ギーシュがゲルマニアの協力を得てガラヴェンタを倒し、その際にゲルマニア側の転生者が全滅したこと、ドサクサにまぎれてBETAハイヴの降着ユニットがばら撒かれたことをジョゼフ王に報告すると、ジョゼフ王は何やらやたら楽しそうな顔で大笑いしていた。だからその楽しそうな顔が一番怖いというに。
 とりあえず、ギーシュがアルビオン、ロマリアと、トリステイン国内を完全に放り出して旅行にかまけていた間に、国内のアンチギーシュ派、通称ラ・ロシェール派は完全に一つにまとまり、しっかりと根回しを終えていた。ギーシュは其処らのザコ転生者など及びもつかない圧倒的な能力を持つとはいえ、その力は単なる戦闘能力、ラ・ロシェール派の動きを抑え込むことはできなかったというわけだ。というか、下手するとラ・ロシェール派の存在に気が付いてすらいないのかもしれないが。



 濁流のフェルナン/第二十四段



 と、いうわけで、毎回恒例の現状確認といこうか。


 まず、ロマリアのトップが潰れた。
 そのため、吸血国家ロマリアはガラヴェンタの死によって空席となった国家主席の座を争って、戦国時代へと突入した。その一方で、ガラヴェンタの死によって解放されたBETAが制御を失い、ヴァティカノ以外の場所に置かれていたハイヴから大量のBETAがズンドコ湧き出てきたのである。
 ガラヴェンタという強力過ぎる統治者がいなくなった弊害であり、紛争とBETA、二つの脅威にさらされたロマリアの一般人は、現在非常に危険な立場にある。
 というか、大量のBETAの御膝元でまだ紛争などやっていられるロマリア吸血貴族どもは、神経が太いというか何というか。


 続いてゲルマニアである。
 ロマリアにおける決戦において、ブチ切れたガラヴェンタはさりげなくゲルマニアに向けてハイヴの降着ユニットを射出していた。でもって、ギーシュに同行していたゲルマニア転生者達は全滅していた上に、どうやらギーシュもゲルマニアに対してそのことを報告していないらしく、対応が遅れたらしい。その上、どうもそれがロマリアの仕業だと気付いている様子もない。まあ、気付いたからといって、今さらロマリアに何かしても無駄だろうが。

 とりあえず各都市を降着ユニットに直撃、というか威力的にはむしろ爆撃されたため、都市機能、及び国家機能が壊滅状態に陥っており、有効な対策を練る事もできておらず、有力な転生者を抱える錬鉄竜騎士団が散発的にBETAを倒して回っている程度だ。
 現在、ゲルマニアの主要都市は残らず中心にでっかいクレーターをブチ開けられ、その中央から湧き出してきた大量のBETAに占拠されているので、政治機能どころか、経済活動すらマトモにできやしない。

 そもそもBETAという生物は、リアルロボットの中でも結構弱い部類に入るとはいえ曲がりなりにも巨大ロボの分類に入る戦術機と互角に殴り合うのだ。それが物量で攻めてくるという悪夢。いくら魔法があるとはいえ、中世に毛が生えた程度でしかないこの世界の軍隊では、とてもではないが話にはならない。
 となると、残る戦力は転生者くらいしかないのだが、いくらゲルマニアの転生者がそれなりに数が揃っているとはいえ、元の母数が十数人である。とてもではないがシフトが追い付かない。


 そしてトリステインにも地味に影響が出ている。今まで人道的支援だの何だの言って各地を占領していたゲルマニア軍の帰る場所が潰されてしまったのである。それらゲルマニア軍にもひどく動揺が広がっており、不安を抱え込んだままどうしていいかも分からずひたすら現状維持に徹する者、担当地を放り出してゲルマニアに向かう者、逆に腹を括ってそこの土地を占領し出す者、とにかく色々だが、これら三つのケースが一番多い。全体に対する割合もそれぞれ同じくらいだ。
 現状維持組が一番マシとして、ゲルマニア直帰組の担当地では山賊やらオーク鬼なんぞの凶暴な亜人やらが蔓延り、占領組はトリステインの支配体制に真っ向から喧嘩売っている。ついでにいえば、現状維持組もすぐに物資が尽きて、大抵は素直に占領組に方針転換するか、もっと素直に賊に鞍替えするかの二択である。
 ゲルマニア軍が駐屯している場所というのは基本的に、ラ・ロシェールの戦いで軍や騎士団が壊滅した連中が治めていた地域だったりするため、ゲルマニア軍占領組に領地を奪われた連中は自力で奪われた領地を取り戻すことなど無理なので王軍に泣きつくしかなく、また直帰組の管轄地では領地を守る守備力がないため山賊や亜人が暴れ放題に暴れまくっており、手際良く守備軍を再建できたごく一部の高性能領主の支配地を除けば、自力での統治など不可能。
 であるのにもかかわらず、トリステイン政府が何もしようとしないため、それを代表する立場にあると目されているギーシュに苛立ちが募っている、というわけだ。もっとも、王軍だってラ・ロシェールで壊滅状態になっているため、トリステイン政府にもできる事はほとんどないのだが。

 ちなみに、ラ・ロシェール派が勢いづいている理由の一つは、ギーシュがこの緊急過ぎる緊急事態にロクな対応を取っていないからでもある。衰弱したルイズとアリサを連れて魔法学院に戻って、付きっきりで看病しているらしい。プロのメイドさんと比べると手際は悪いが、そのメイドさん達を追い出してまで看病を強行しているらしい。阿呆か。それとも現実逃避か。


 そういえば、ラ・ロシェールで思い出したのだが、あの近くにはここのところ、妙な流行病が蔓延しているらしい。何かと思って調べてみたら、どうやらマクロスFの世界におけるV型感染症と呼ばれる代物だった。
 アルビオン戦役でギーシュの手によって大量召喚されたバジュラがばら撒く、致死性のウィルスである。ラ・ロシェールがトリステインの国土の中ではアルビオン大陸に最も近かったからこその被害だろうが、まさに泣きっ面に蜂。

 王都トリスタニアの近くに形成された避難所から発生したこの病は、本来体液感染型であるにも関わらず、なぜか少しずつトリスタニア全体に蔓延し、あちこちに感染者を増やしつつある。
 一体何が起きたのかと思って探りを入れてみたが、どうやら、グラモン商会が本来担当するはずの食糧供給が完全に途絶えている事が原因であったようだ。食べ物が供給されない避難民たちは自らの手によって食糧を得るしかなく、しかし元手も商売道具も、酷い場合には手足さえも失った職人や商人にできることはほとんどなく、結果的に、特に女性たちは、自らの身体を売り物にするしかないという状況に転落することになっていた。
 さらには、いくらハルケギニア人の文明レベルが中世レベル、一番有効な治療・防疫手段は魔法の呪文、などという馬鹿馬鹿しい程の衛生観念であり、避難民の女性とナニしたせいで感染した、などという理屈は分からなくても、正体不明の病気が流行り出したのが避難民たちが来てからだ、という程度のことは理解できる。
 結果として元々のトリスタニア住民による避難民に対する迫害や差別が広がり、トリスタニアの治安は非常に悲惨なことになっている。

 では、どうして食糧供給が行われないのか。
 これに関しては、この間の総力戦(笑)に原因があった。結局トリステインがアルビオンに軍を送ることはできなかったのだが、実はあの戦いにおいて、軍事的、戦略的常識を無視して総軍をアルビオンに送り込むための巨大な兵站を維持するため、トリステイン中の余剰作物がラ・ロシェールに集められていたのだ。それこそ、トリステイン全国の生活水準を一段も二段も低下させてしまうほどに。
 そして、それを僕が容赦なく焼き払ったため、避難民に送ることができる食糧などトリステインのどこを探しても存在しない。だからといって他国から食べ物を買おうにも、そのための金などどこにもない。結果、ラ・ロシェール避難民は一旦放置という名の永続的な棚上げを喰らい、飢えたまま放り出されているのである。
 念のため、『水精霊の虜』亭に命令して炊き出しをさせてはいるのだが、所詮は焼け石に水。僕自身も予防薬と治療薬の製法を研究してはいるものの、色々な研究との並行作業なので、なかなか思うようには進まない。


 そんなこんなで、ロマリアやゲルマニアよりは遥かにマシにせよ、トリステインも非常に悲惨である。中央ではラ・ロシェール派によるギーシュ排斥運動によって親ギーシュ派というかハーレム要員である王族はマトモに動きが取れないし、逆に地方ではゲルマニア軍のゴタゴタがトリステインの国家としての体裁を綺麗に崩してくれている。
 それどころかギーシュによって平民に優しくするように意識改革されていた一部の貴族連中は、一連のギーシュの行動による平民に対する被害にブチキレて、続々とラ・ロシェール派に合流していく始末。
 我がモット伯領の軍は完全に無傷であり、ゲルマニア関連の騒ぎには一切巻き込まれていないものの、安全な所から眺めればよく分かる。この国が既に終わっているということが。
 というか、ハルケギニア全般が駄目駄目だ。トリステインはグダグダだし、アルビオンはアレだし、ゲルマニアはメタメタだし、ロマリアはグチャグチャだ。最後に残ったガリアにしたって、ロマリアとゲルマニア双方と国境を接しているため、いつBETAが侵攻してくるか分からない。
 もはやハルケギニアには逃れる場所などどこにもない。


 なんて、な。
 対策は既に取ってある。衛星軌道から偵察衛星によって今存在する全ハイヴの位置を特定、それぞれに水精霊を流し込み、中枢である頭脳級を端末化。要するに、ガラヴェンタのやったことの焼き直しだ。水精霊は前回と同じく空調機能に水蒸気として紛れ込ませてから、中枢近くに潜り込んだところで転送障壁を開いて、産地直送ラグドリアン湖の湖水を流し込んだ。
 二つの月の月面にあるハイヴも全部掌握したから、これで僕の意志によらずにこれ以上ハイヴが増える心配もない。
 ま、そんなわけで、僕の指揮下にあるBETAは全て、BETAらしく適当に周辺地域を襲っては勢力拡大しつつも、トリステインはゲルマニア国境辺りだけを襲うように心掛けている。まあ、まだそこまでBETAの支配領域は届いていないのであまり関係はないのだが。

 さて、とりあえずロマリアにあったBETAのハイヴの内、特に活きのいい一つを地球の月の裏面に移し替えて、じっくり育てることにする。よく育ったハイヴからは降着ユニットを射出して、ハルケギニアの太陽系の各惑星に植えていく。これら全てのBETAは中枢を端末化させてあるので問題なし。
 まあ、普通に雑兵級を増やした方が強いし速いと思うのだが、使えるものは使えるようにしておいた方がいいと思うので。それに、BETAの拠点構築能力には結構見るべきところがあると思う。そんな感じのノウハウも欲しいのだ。もっとも、僕には僕のやり方での拠点構築手段のノウハウを作り上げるべきだとも思うのだが。



 まあ、そんな感じのあれこれで、今現在、僕はトリスタニアに来ていた。ゲルマニア軍関連のゴタゴタで父がトリスタニアに来られないのでその代理である。できれば父にはタバサを紹介しておきたかったのだが、残念だ。
 んで、わざわざトリスタニアくんだりまで何をしにきたのかというと、だ。
 議会に参加するのだ。
 いよいよラ・ロシェール派による盛大なる吊し上げが始まるかと思うと、本当に楽しみでならない。ざまぁ。

 そんなことを思いながらトリスタニアの街を歩く。地球の都市を知っている身としては随分と狭い大通りであるが、それも慣れたのであまり気にならない。
 こうやって街を見渡すと、数か月前とは比べ物にならないほどに市中には活気がない。それはそうだろう。世界じゅうこんな有様では、とてもではないが生きていける気がしないだろう。通りのあちこちで閉店した店が目立ち、代わりに路上生活者の姿があちこちに見られる。街のあちこちにはゴミが転がり、以前タバサと再会した時と比べてもかつてのトリスタニアの姿は見る影もない。
 郊外には廃材などで作られたバラックが建ち並んでスラム街が形成されつつあり、それもあって今のトリスタニアの治安は非常に悪い。ラ・ロシェールの避難民だけでなく、他の地方で生活が立ち行かなくなった難民までが王都トリスタニアに雪崩れ込んでいるのだが、首都に行ったところで生活の伝手があるわけでもなく、そんなあれこれの理由から治安はさらに悪化する。
 しかもさらに間の悪いことに、季節的にはそろそろ冬が近い。トリステインは現代日本の冬と比べても緯度的には北にあるということもあり、トリステインの冬は寒い。この分では大量の凍死者と餓死者が出ることだろう。
 懐に違和感を感じて脇腹を押えると、ちょうどレビテーションを掛けられた財布が懐から飛び去ろうとするタイミング。メイジのスリか、と溜息をついて、裏通りの物陰に向かってアクア・ボムを叩き込む。杖を構えた小汚い泥棒が錐揉みしながら吹き飛ぶのを知覚端末であるネズミの眼を通して確認し、世も末だ、と溜息をついた。

 少なくとも前世の記憶にある限り、ゼロ魔原作でもこれほどに悲惨な状況にはならなかった、はずだ。ハルケギニアに降り立ったのは十数人の転生者。
「転生者には世界を変える力がある、か……」
 その結果がこの変わり果てた世界。優しい世界とか、美しい世界とか、そういうものを作り出せるのは物語の主役だけ、少なくとも、そうなり得る資格の持ち主だけだ。昔自分で言った言葉を思い出す。まさしく、あの言葉の通りになったというわけだ。
 転生者など所詮、主役気取りの大根役者に過ぎない。そんな程度の存在が大手を振って檜舞台に乱入した結果がこれだ。
 いや、自分も同じ穴のムジナか。まあ地球は平和になったが。深々と溜息をついて荒れ果てた街を見渡す。本当に、嫌な景色だ。舌打ちしてまた歩き出す。


 しばらく適当に歩いていれば、その内、王城に着いた。適当に手続きを済まして、大会議場に入る。
 以前、父に連れられて一度、この会議場には入ったことがある。あるのだが、普段であればほぼ満席になっているこの会議場も、その半分程度が空席で、椅子の背もたれの色を露わにしていた。
 だが、それにもかかわらず、今回の会議は常にも増して紛糾していた。

「いつまであのグラモン家の若造をのさばらせておくつもりですか、殿下!」
「そうですぞ! この度のラ・ロシェールの被害も、あの奸臣が招いたものだと言うではないですか!!」
「あの戦いで失われた数多くの前途有望な若者は、我等トリステインの将来を担うはずの者たちでした。儂の息子もその中におりました!」
「若者だけではない! トリステインの現在を担っている、熟練の貴族も大勢死んだ!」
「そのことがなくとも、国家の守り手たる諸侯軍は壊滅状態です! 再建の費用はどこから出るのですか!」
「それ以前に、ゲルマニアの野蛮人どもに占領されたワシの領地はいつ奪還してくれるのですかな!? 我がナベール領は先祖代々続く由緒正しい────」

 あー、うっさい。
 誰も彼も勝手なことをガーガー叫んでいるだけだというのに、見事なくらいに意図が重なっている。利害の一致とはまさにこのことか。
 まあ、あれだ。ギーシュボイコットがそれだけ高まっているということ。しかも、彼らを制止するべき反対勢力が存在しないのだ。
 特に親ギーシュ派の筆頭たるヴァリエール領は国境沿いにあったがために真っ先にBETAに攻撃されて半壊しているし、それがなくともヴァリエール公爵軍はラ・ロシェールで綺麗さっぱり焼け死んでいるため、それを防ぐ力などどこにもない。一度ヴァリエール公爵夫人の偏在→多重カッタートルネードの必殺コンボが炸裂したりとかしたものの、BETAの物量に押されてあえなくあの世行き。今頃はBETA兵士級か何かの材料になっていたりするのかもしれない。
 それ以外の貴族たちも、親ギーシュ派の連中は平民に対する被害にキレて、次々とギーシュから離れていってる。
 そんなわけで、現在のヴァリエール公爵家跡地には、さほど大きなものではないとはいえ割と立派なハイヴが建設されている。

 ちなみに、ヴァリエール領がBETAに蹂躙されているということは、当然、ヴァリエール領と国境挟んでゲルマニア側に存在するツェルプストー領もBETAのお世話になっているということでもある。家族と連絡が取れないということもあってキュルケも結構安否を気にしているものの、どうしようもないものはどうしようもない。
 キュルケとはそれなりに親しく友達付き合いをしていたので少しばかり心が痛むのだが、まあ仕方あるまい。キュルケの家族ばっかりが助かるのは明らかに怪しいし、そこから辿られて僕の存在に気付かれるのも面倒だ。少なくとも王様やティファニア辺りは何に気付いていても不思議ではないが、それ以外に対してなら多少のカムフラージュ程度にはなるはずだ。
 まあ、ツェルプストー家は真っ先にトリステインに兵力を派遣しているため、キュルケの家族の内、少なくとも数人は助かっているのは間違いないのだが。

 まあ、そんな有様なのでマリアンヌ大后は心労からブッ倒れて寝込んでしまっているので、現在議会に出席しているのはアンリエッタ王女だったりするのであって、だ。

「静まれ! 王女殿下の御前だぞ!」
「うるさい、役立たずの鳥の骨は黙っていろ!」
「そうじゃ! そもそも、貴様が始めからあの小僧の増長を抑え込んでいれば……!」
「恐れ多くも宰相の位をいただいておいてこの様か!? 貴様は何をやっていたのだ、この無能が!」
「何より、我等貴族の財源とて限界はある! いくら税率を上げたところで平民にも平民の生活があるのだ! まず軍の再建費用は国庫から出していただかなければ困ります!」
「全くだ!! 民からも貴族からも搾り取りおって、この国を何だと思っているのだ!? 国を支える民も、民を守る貴族も、貴様等の政治ごっこのおかげでもはや疲労の極みにある!」
「そもそも、我がナベール領は先祖代々────」

 やはりうるさい。
 (今の)タバサならカッタートルネードの一発でも飛ばしてからサイレント張って読書を再開しそうなくらいにうるさい。
 その勢いはマザリーニ枢機卿一人がキレたところでどうこうできるような甘っちょろいものではなく、むしろ有象無象の逆ギレを誘発し、さらに会議はロクでもない方向へと白熱する。
 さらには、王女の顔色も悪い。ギーシュが公の場で糾弾されている事が苦しいのか、先程から顔が蒼い。

「今からでも遅くはありません! あのグラモン家の小倅はすぐにでも放逐すべきです!」
「同感だ! あの小僧のせいで国家の財政も国防も民の暮らしも、何もかも破綻してしまっている。今のトリスタニアを見てみよ!」
「あんな小僧を信用して任せたのが間違いの元でした! これ以上の被害を出さぬ間に、早くあの小僧をどうにかするべきです!」
「そもそも、あんな小僧が出しゃばってきた時点で嫌な予感がしていたのじゃ! あのグラモンの小倅のせいで、我がトリステインの優秀な官僚機構が滅茶苦茶ではないか!」
「我がナベール領は始祖ブリミルの────」

 うん、そろそろ限界。
 アンリエッタ王女の顔は青を通り越して土気色、唇は紫色。両脚はがくがくと震え、全身汗まみれ。
 個人的見解から言わせてもらえばタバサの足元にも及ばないとはいえそれなりに自慢できる程度、具体的には同じ神クラスであってもタバサが宇宙の中心にいる盲目白痴のアレ規模だとするならばアンリエッタ王女は便所ガミと同じくらいには美人ではあるのだが、今彼女を目にした人間は、よほどのお人よしでもない限りは惚れるよりもまず先に敬遠するだろうし、そのお人よしであっても普通は心配するとかするはずだ。それくらいに、今の彼女は酷かった。

「意見も出尽くしたことだし、そろそろ議決と致そう。さて、あのグラモン家の小僧を国外追放するのに賛成の方────」
「賛成」
「賛成」
「儂も賛成じゃ」
「同じく賛成」
「賛成」
「反対など出ようはずも無かろうに。賛成」
「右に同じ。賛成」
「賛成」
「賛成です」
「賛成」
「賛成します」
「ところで我がナベール領は────」
「うむ、では、満場一致で賛成でよろしいな? それでは殿下、ご決断を……殿下?」

「う、ぁあ゛、あ゛、あ゛、ぶばばばあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………………!!」

 満足げに頷いて振り返った議長が見たものは、自慢の美貌など適当な道端に放り捨ててきたかのような、明らかな異常を見せつける王女の姿だった。ある種の両生類のように両眼が別々の方向に回転し、顎が外れるほどに大きく開かれた口からぶくぶくと白い泡を垂らし出す。しまいには背中を大きく反り返らせ、意味の分からない言葉を垂れ流しながら絶叫を始める。

「ギ、ギギギギギギギ、ギガガガガキガ、ギーシュさまを侮辱するものははははっはは、許しませぃいくえはくえんふぃ、じふぇいるまうわうふぇぬ……!! はふぉねいうぴでみらふほえ!? ふぉじょぺんせうぇはふぇうえ……いぃーっひっひっひっひっひ!!」

「……ひぃっ!? で、殿下!? 殿下! お、お気を確かに! 典医、典医、何をやっておるか、早く殿下を!」

 そして変容が始まった。
 王女の全身の皮膚を金属質の青黒い鱗が覆い尽くす。筋肉が大きく膨張し、王女の全身を覆っていた清楚なドレスが内側から裂けて千切れ飛ぶ。ゴキゴキと鈍い音を立てながら骨格が成長し、体格も体型も変化していく。

「んふぉえうれんけぁやひゃふうぃ!! ひのえねおぁじゅいっうぃ……ほふぉえけじょしでじゃふぃでぁこ!! いあいあ!! いあいあ!! いあいあくとぅるふ!! ふたぐんっ!!!!」

 先端に水晶をあしらった、今の体型ではマッチ棒のようにしか見えない杖を振り回しながら、ほとんど意味の通じない咆哮を上げるアンリエッタ王女の今の姿は、有体に言えば「半魚巨人」とでも言うべき代物であった。


 あまりにあまりな変容を見て唖然としていた貴族達が我に返ったのは、変身直前に王女に駆け寄った議長の頭が王女(半魚)に鷲掴みにされ、その頭が「ぱきょ」と「ぐちゃ」を半々にミックスさせた音を立てて床に投げ出されたタイミングだった。
 しん、と静まり返った議場の中に、まるでマネキンか何かのように手足を投げ出した、議長だった死体が転がる音が、いやにはっきりと耳に響いた。
 途端、たちまちの内に議会で絶叫が上がり、逃げ出そうとする者、逆に杖を振ろうとする者、王女に駆け寄ろうとする者、呆然と立ち尽くす者、それぞれにそれぞれの本性丸出しに、混乱が議場を支配する。

「な、何が起こっているのだ!? どうして、どうしてこんなことに!?」
「お、王女は、王女殿下は無事なのか?」
「ひいぃっ!? 助けてくれえ!!」
「おお偉大なる始祖ブリミルよ……」
「まっ、待て、落ち着くのだ皆の者、これは何かの間違いぃぎゃぁああああああああああああああああああああ!!」
「うわああああああああ!!」

「グラモンのせいだ」

 ぼそっ、と。
 近くにいた適当な貴族を、最近ご無沙汰のチートアイテムことアンドヴァリの指輪でちょちょいと操り、発言してもらう。たちまちの内に議場のあちこちでそれに同調する叫びが上がり、いつのまにか根拠もないのにギーシュのせいだということになっている。
 それを抑えてくれるかもしれないマザリーニ枢機卿は、さっき元王女に背中から胴体真っ二つに引き裂かれた。
 まあ、あれだ。王女がギーシュのハーレム要員になってギーシュを盲信する→王女が半魚人になる→王女はギーシュの手で半魚人に変えられ洗脳された、という筋書きになるのだろうか。何というか、ちょろい。

「ぉふぇふぇめいえか、ふ!! ふんぐるい! むぐるうなふ! …………ふたぐん、ふたぐんっ!!」

 ずどん、と床を陥没させる程の踏み込みで王女が跳躍、ずしん、と音を立てて着地がてら扉近くで呪文を唱えていた貴族を踏み潰し、議場の中央に汚水のアクア・ボムを撃ち込んでから水の鞭を連射する。劇場の椅子が抉れ、床が砕け、壁が削り飛ばされる。いくらトライアングルとはいえ水魔法の威力ではない。おそらく、体内に植え付けられたクトゥルフの祝福の力を、水魔法を利用して引き出しているのだ。
 それを見て、これまで静観していた貴族達も、無抵抗で殺されてはならんとばかりに反撃を始めた。当然だ。いくら口では忠誠忠誠言っていても実際には結構腐っているのが大抵の貴族だし、いくら脳内に王家は偉いものだと常識レベルで刷り込んであると言っても、目の前の王女Ver.ハンギョドンを普段の美しく可憐なアンリエッタ王女とイコールで結び付けるのは難しい。それに誰だって自分の命は惜しい。


 別にギーシュのせいであるというわけではない。まあバレバレだろうと思うが、つい先日、僕が王女に呼び出しを喰らった時に使用した『水神クタアト』の魔術“深きものへの変容”である。『妖蛆の秘密』や『屍食経典儀』と比べると劣るが、『水神クタアト』にも人体改造系の魔術が無いわけではないのだ。
 これによってインスマウス化した王女は、あらかじめセットしておいた「公の場でギーシュを侮辱される」ことをトリガーに急速に肉体変異を加速、巨大なディープワンと化して暴れ回っているわけだ。元々水メイジだったこともあって、中々に適合率が高かった。
 だが、そんなアンリエッタ王女といえども、所詮は単なるインスマウスメイジに過ぎない。それに何よりこの会議場には熟練のメイジである貴族達が揃っているのだ。しかも恐慌状態に陥って暴走気味なので、元王女がどうとか、そんな躊躇の欠片もない。


 ────などと思っていた時期が僕にもありました。何というかね。王女強い。正直、インスマウス人舐めてた。


 ブレイドを構えた貴族が数人束になって飛び掛かり、先頭にいた運の悪い貴族が王女の青黒い鱗に包まれた頑強な腕の一振りでその頭を粉砕され、内容物を飛び散らせる。その背後にいた二人目が顔面一杯に脳漿をかぶって棒立ちになった瞬間に、青黒い岩のような王女の拳がその顔面に突き刺さり、彼もまた二人目と同じ運命を辿る。
 その背中ごと三人目が突き出したブレイドが、二人目の胴体を貫通して王女の丸太のような腕に突き刺さるが、その腕を力一杯振るうと、跳ね飛ばされた三人目は背後にいた四人目を巻き込んで机に激突、頚骨を砕いて沈黙する。

 その傷口に刺さっていた杖が王女の再生能力に巻き込まれて押し潰され体外に排出されると同時、四人目の真下を掻い潜って懐に飛び込んだ五人目のブレイドが、咄嗟に伸ばされた王女の右腕に刃を突き立てて深々と喰い込んだ。王女が咆哮を上げて再び腕を振り回し、五人目が先程の二人と同じ運命を辿る瞬間、その背後からフレイムボールが叩き込まれ、轟音を上げて炸裂し、五人目を巻き込んで王女の巨体を炎に包む。青黒い巨体が真紅の業火に包まれ、その巨体に纏わりついていた純白のドレスの残骸が、最後に残された人間性の崩壊を示すかのように炎に焼かれて燃え散った。
 炎に巻かれた王女は絶叫を上げながら高々と跳躍すると、水魔法で全身に水をかぶって消火、焼け爛れた腕を振り上げて、先程の火球を飛ばしたメイジへと飛び掛かる。そのメイジに拳を叩き込もうと振り上げた腕にエア・カッターが命中、恐怖の感情によって魔力が増幅された結果としてスクエアクラスの精神力で以って放たれたそれは、鉄よりも硬い鱗を引き裂き、鋼同然の筋肉を切り裂くが、さらに頑強な骨に激突、鈍い音を立てて霧散する。
 その腕に立て続けにストーン・バレットとエア・ハンマーが直撃して骨がへし折れ、その後に放たれた誰かのアクア・ボムがとうとう残った肉を引き裂いて、その腕を根元から引き千切る。

 怒りの咆哮を上げた王女は残った左腕で杖を振るうと、アクア・ボムで呪文を唱えたメイジを吹き飛ばし、水の鞭で落とされた右腕を回収、その傷口の断面同士を押し当ててから水魔法の治癒で傷口を再生、元来の再生能力もあって、その腕は完全に元通りだ。
 完全治癒した腕を誇示するように拳を突き上げ、鉄壁のような胸板を叩いてドラミングする様はゴリラそのものだ。あまりのデタラメさに、先程まで集団の狂気に衝き動かされていた貴族達も腰が引け気味になっている。これは、少しばかり厄介かもしれない。


 そんな風に考えて、僕は自分でも少しばかり手を出してみるべきだろうか、などと思い、しかしその考えを即座に却下する。
 この時点で僕が手を下してしまえば、あの時点で王女を殺害した人間が誰か、などと問い質された時に面倒だ。表向きにも僕は最上位であるスクエアメイジなのだから、嫌疑を掛けられる可能性は高い。凶器が水魔法であるならなおさらに。ギーシュさえいなければ何とでもしてやるのだが、人の話を聞かないあの若年性痴呆症候群患者は、王女が凶暴なハンギョドンと化していたなどという事実には一顧だにもせずに、美しい涙を流しながら復讐に来るだろう。
 なら、やるべきことは決まっている。逃げるのだ。あの程度の相手に徹底抗戦などという冗談のような真似は有り得ない。戦えば、勝っても負けてもロクなことにならない。
 この議場は古代ローマのコロッセオに似て中央が一段下がった半地下構造になっているが、幸いにして僕の居る場所は壁際だ。なら答えは簡単。壁を破って逃げればいいのだ。

「ソーン・ウォータル・イル……」

 呪文を唱え、伸縮式の杖を軽く振り、水の鞭を飛ばして壁を切り裂き、脱出経路を作る。後はとっとと逃げるのみ。それに気付いた一部の貴族たちが僕の作った脱出経路に殺到し、あるいは自ら魔法を使って壁を破って逃げようとする。
 壁から飛び出し様に振り向くと、王女が咆哮して跳躍し、こちらに向かって飛び掛かってくるのが見えた。こんな事もあろうとルーンは詠唱済み、腕だけを背後に降って魔法を飛ばすと、畳大の壁のように展開した水の塊が、点でも線でもない面の打撃となって王女の鱗に包まれた巨体を強烈に打ち据え、その巨体を足止めする。水魔法ウォーター・スプレッド。ドットスペルであるアクア・バレットの上位魔法であり、“波濤”と呼ばれる父が最も得意とする攻撃魔法である。後の時間稼ぎは、バーサークしてまだ戦っている貴族たちがやってくれるようだ。
 僕は、同じようにして逃げ出す他の貴族たちの人混みに紛れて、その場を走って離脱した。最後に振り向いたのは、トリステイン王城がリュティスを包むのとよく似た潮臭い瘴気に包まれて、異界へと変貌していくところだった。


 何とも、微妙な事件だ。
 まあ、何はともあれ、伏せっていたマリアンヌ大后が飛び起きてきた時には時既に遅し、アンリエッタ王女は巨大な半魚人となり、マリアンヌ大后を拳で殴り飛ばし、その頭をトマトのように弾け散らせた。その後、おそらく水魔法であろう何らかの手段で王城の銃士隊や侍女などを自分と同じ深きものに変貌させ、これを以ってトリスタニア王城は巨大な怪物の巣と化した。いくら水メイジといったって、適合率高過ぎだ王女。
 時を遡って貴族達に先んじてマリアンヌ大后が送っていた警告を聞いて、泡を食ったギーシュは変わり果てたトリスタニア王城に向かい、アンリエッタの成れの果てをそれと気付かず殺害し、ダンジョン化したトリスタニア王城から深きものどもを一掃するが、その時には議会どころか、トリステインそのものの国家としての体裁すら完全に失われていた。
 慌てたギーシュはゲルマニアに助けを求めようとするが、前回のロマリアで部下を使い潰された上に、落着したハイヴに対する対応で手一杯であるゲルマニアはこの要請を手酷く拒否。
 権勢を失ったギーシュは、ルイズ、アリサの二人と共に一路、ガリアへ。ウチの王様の計画を止めるためらしいが、まあ有り難いと言えば有り難い。

 もっとも、ヤツが向かっているのはアルビオンではなくガリアなので、あいつらがグラン・トロワを強襲したところであまり意味はないのだが。もう王様もアルビオンに向かっているらしいし。



 さて、そんなわけで、僕もいつまでもギーシュに構っているわけにはいかない。僕にもまた、新しい任務があるのだ。


 青く澄み渡った空はたとえば今のガリアの現状を端的に示す特徴的な曇天とは違い、この国の現状には酷く似つかわしくない、と感じる。今のこの国に即した天候が何かと考えてみれば、それは無論今のような雲ひとつない快晴ではなく、たとえば嵐、それも地上の全てを薙ぎ払うほどの暴風雨こそが相応しいだろう。

 この国の名はゲルマニア。BETAという悪夢に蹂躙された国。


 現在、BETAという脅威に覆われつつあるゲルマニアという国だが、この国の、というよりもこのハルケギニアに存在する全ての軍隊は、基本的にBETAに対抗する術を持たない。それほどにBETAという生き物は強力なのだ。
 その単体戦力を具体的に表現するのであれば以下の等式が成り立つ。


 ・BETA≒戦術機≧戦車&戦闘機>>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>>>>ハルケギニア


 単体戦力で劣っている状態で物量でも負けている。こんな様でどうやってBETAに対抗するというのか。しかし、そんな状態のゲルマニアにもBETAに対抗可能な牙が決して存在しないわけでもない。それこそが、ゲルマニアの抱える転生者であった。
 元々、平民出身の転生者に貴族身分を与えるという他国には真似できない政策によって、他国から頭一つ分引き離して多数の転生者を抱えていたゲルマニアであったのだが、これまで立て続けに発生した、グデーリアンの離反、ロマリア戦における犠牲という二つの事件によって、その数を半数以上に減らしていた。
 しかし逆に言えば、それはこれだけの犠牲を払ってもなお、転生者という高価に過ぎる戦力を保持することができるというだけでも、その政策の有用性を十全に誇示していると言っていい。

 そしてその中には、BETAという災禍に蹂躙されたこの状況であろうと、それを根底から引っ繰り返してしまえるような戦力が存在していた。

 岩石とも金属ともつかない異様な鉱物によって造られた多角星型のプレートを幾重にも積み重ねたような形状の超高層、超大型“非”自然物、それがハイヴだ。
 その上空に、この中世程度の文明しか持たないハルケギニアには似つかわしくない何かが浮遊していた。
 あきらかに現代地球の分際を超越した超科学によって建造されたと思われる、直線を多用した刺々しいデザイン。清冽でありながら豪奢という不可思議な印象を与える、蒼の縁取りを施された純白の超金属装甲。胸部、両掌、顔面と全身の各所に配された黄金に輝く球体。

「これはまた、分かりやすいチートだよな……」

 見上げる僕が溜息をつくと同時、バーニアの噴射炎一つ吹かずに空中に浮遊するロボットが胸の前に両手を掲げ、一直線に並んだ両手と胸の黄金球が膨大な閃光を放ち、その光の中心に一層強烈な光で描かれた「烈」という一文字が浮かぶ。
 そこから導き出された膨大な熱量が弾けた刹那、一瞬前までその場に存在した巨大な構造物は、地盤の上から地底の奥底までを絶大にして暴力的なまでのエネルギーの奔流に焼き尽くされ、跡形もなく消滅していたのだった。


 ────八卦ロボ、烈のグレートゼオライマー。まさか王様は、僕にあんなのを相手にしろと言うつもりなのだろうか。


 まあ、やり方はいくらでもある。
 確かに、スパロボにおいてはイデオンやネオグランゾン辺りと並んでバランスブレイカーと称されるゼオライマーの武装強化型であるあのグレートゼオライマーは、戦力的には十分に強力だ。あの調子で一つ一つハイヴを消し飛ばしていけば、ゲルマニアがBETAの脅威から解放される日もそう遠くはないだろう。
 だが、僕にとってこの手のスパロボ転生者は、デモンベインやシャイニングガンダムなどのようにパイロット自体が非常識な戦闘能力を有しているような一部の例外を除けば、さして恐ろしいものでもない。
 ロボから降りているところを狙えばいいのだから。何なら、ロボを操縦しているパイロット本人をターゲットにしてもいい。
 いかに最強の機体、最高のパイロットであろうと、ロボがなければただの人。狙撃から毒殺、爆殺、ハニートラップに果ては呪殺などというオカルトチックな殺傷手段まで保有する僕にしてみれば、ロボがなければ単なる一般人Aとなんら変わらない能力しか持たないスパロボ使いなど、大した脅威ではないのだから。


 だが、今回はあえて正面からぶつかってみようと思う。それで駄目ならその時に暗殺すればいいわけだし。
 と、いうわけで。

「────クラーケン!! 壊せ壊せ壊せ壊せぇええええええええええええええええええええ!!」

 あまりにも直接的に過ぎる呪詞と共に、僕の身体を中心に敷くように、地面に沿って巨大な魔法陣が出現する。刺々しく禍々しい六芒星を象った魔法陣がゆっくりと回転し、その中心から流れ出た海色の光が星型の頂点それぞれで光を放ち、その尖端から空に向かって、轟音を上げて水柱が立ち上がる。千の岩塊をまとめて擦り合せたような軋みを上げて六本の水柱が絡み合い、一つの巨大な水柱となり、それを内側から爆砕して巨大な影が出現する。


 ────鬼械神クラーケン。


 魔道書『水神クタアト』に封じられた“神の紛い物”。その原典である「機神咆哮デモンベイン」における主役級機体であるデモンベインやラスボス級機体であるリベル・レギス、ネームレス・ワンなどの最高峰の怪物たちと並べれば確実に劣って見えるとはいえ、それがたとえ模造品であるとしても、それ自体が保有する“神としての格”は決して弱いものではないのだ。

 その姿は、しかし原典たる「デモンベイン」に登場したものとは微妙に異なっていた。術者である僕とアンチクロス・カリグラとの差異を忠実に反映し、原作にあったものと比べて全身をさらに頑強な装甲で覆い、背中に大型のバーニアを配したその形状は、性能もかなり異なっている。元々のクラーケンと比べればおそらく基礎スペックでは劣っているだろうが、防御力と逃走能力だけは上回る、生存性に優れた機体である。
 そのコクピットの中で僕は口訣を唱え、呪印を結ぶ。高速神言スキルを保有する僕の術行使は、おそらくカリグラのそれと比べてもさらに高速。加えて補助として使用されているチートはそれだけではない。
 機体を維持し、出力を捻り出すのはエヴァンゲリオンが保有していた永久機関「S2機関」。術式を構築し、超魔術によって構築された機体構造を維持するのはI-ブレインによって強化された一方通行式演算機関。それらを統合し、一つのシステムとして運用するのは宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』。これこそ、僕本来の実力ではどう足掻いても身を削るしかなかった機神召喚の呪法をノーコストで容易く扱えるようになったカラクリ。原典デモンベインにおける主役機体たる鬼械神デモンベインの基本骨子、魔術展開を補助・補強する演算機関、そして術者の魔力に依存しない魔力炉の搭載を参考に製造された、“人間のための鬼械神”の模造品。

「ほう、少しは楽しめそうな機体だが、所詮“水”に“天”から滴る以外に能はない。この烈日たるグレートゼオライマーの相手が務まるとでも思ったか?」

 グレートゼオライマーの通信システムを通して相手からの嘲笑が聞こえてくるのを、苛立ちを押し殺して黙殺する。どうせすぐに殺すのだ。ヤツの自慢の機体性能は、その寿命を数十分延ばす程度にしか役立てられないのだから。
 相手の名前は、確かもともとヘルムート何某とかいったはずだが、今は金に飽かせた改名によってマサキ・フォン・キハラと名乗っているらしいということが事前の情報収集によって判明している。
 ところで、確かゼオライマーにはパイロットの脳味噌に製作者の人格をインストールする外道システムが搭載されていたような気がするのだが……まあいい。
 所詮あいつも単なるチートの犠牲者、ということだろう。
 内心の嘲笑を沈黙に変え、両腕に術式が絡み付き、僕の意志を受け取って『螺湮城教本』が『水神クタアト』の記述を検索し、S2機関から汲み出されたエネルギーを一方通行式演算機関が術式に構築、呪法兵葬を展開する。
 名を「ダゴン&ハイドラ」、クラーケンの両手に一本ずつ握られた、クラーケンの身の丈ほどもある巨大なチェーンソー。大容量の魔力炉を搭載されたそれには少なからず“魔法の杖”としての機能が搭載され、刀身に大いなるクトゥルフの祝福を受けた魔水による高圧のウォータージェットを纏いながら回転する鋸刃は、出力次第では空間や概念といった実体のない存在ですら捻じり切り削り砕くことを可能とする、超宝具級の魔剣だ。

 相手が両掌の黄金球から立て続けに白熱の閃光を連射してくるのを装甲の上に水の盾を展開して弾きながら、僕は次の術式を展開。周囲の空間が滲むように白い霧に包まれ、数メートル先の空間すら通常の視覚では見通せない。
 ────聖域展開呪法「レレイの霧」。
 大いなるクトゥルフが眠る海底都市ルルイエの空間そのものを周囲の空間に重ね合わせることによりルルイエの霧を発生させ、また展開されるルルイエの空間の位相をわずかにずらすことによって科学的にも魔術・呪術的にも自らの存在を完璧に隠蔽することが可能。
 その中を見通すことができるのはクトゥルフの加護を受けたこのクラーケンの呪術的感覚のみ、そうでなくとも全ての水は僕の感覚器官だ。それは霧であっても例外ではなく、だからこそ、この霧の中で僕の知覚から逃れることは不可能。まさに完全なるワンサイドゲームだ。

 今僕が使用している『水神クタアト』に記載された飛翔術式はたとえば同じデモンベイン系統の魔導書である『アル・アジフ』の鬼械神アイオーンに装備された飛行呪法シャンタクのように高い次元での操作性と運動性を両立しているわけではないし、あるいは『セラエノ断章』の鬼械神アンブロシウスが有する飛翔機巧フーン機関のように圧倒的な速度と機動力を保有するわけではない。
 そもそも水属性の魔導書に機動力など望む方が論外と言わんばかりの、ただ浮かんで移動するだけのものだ。大型のスラスターを装備した今のクラーケンの瞬間的な加速力だけはそれなりにあるものの、それはあくまでも戦場から離脱するために存在するものであり、戦闘における絶対的なアドバンテージにはなり得ない。
 だが、レレイの霧を展開して姿を消した今のクラーケンには、それでも十分過ぎるほどだ。霧を透かせばグレートゼオライマーが先程クラーケンが浮かんでいた場所に向かって掌の黄金球から白熱の閃光を連射しているが、既にそこに僕はいない。
 相手の知覚を根こそぎ潰し、相手の死角に身をひそめ、まるで潜水艦のように姿を潜め、そして僕はクラーケンの両腕に仕込まれたギミックを解き放つ。
 ────アナコンダアーム。
 伸縮自在の両腕を利用したオールレンジ攻撃、その射程はオリジナルたる魔術師カリグラのそれよりもやや長い。しかも、その両腕には今や巨大なチェーンソーが握られているのだ。しかも、相手の目はほぼ完全に潰されており、その状態で姿を現さずに攻撃が可能という事実は、敵を確実に嬲り殺しにするという宣言に等しい。

「っ、小癪な! 小物風情が……小賢しい真似を!」

 轟音に等しい唸りを上げて背後から襲い掛かるチェーンソーを、咄嗟に気付いて振り向いたグレートゼオライマーがバリアを展開して受け止めるが、膨大な魔力を消費しながら回転するチェーンソーの鋸刃は、触れるだけでバリアを少しずつ削り取り、消耗を誘う。永久機関である次元連結システムを保有しているグレートゼオライマーだからこそ耐えられるものの、さもなければバリアシステムを消耗させられて突破されるか、バリア出力にエネルギーを搾り取られて疲弊するかの二択。

 だが、そもそもこの不可視の空間で、わざわざ音を立てて敵に察知されるチェーンソーなどという獲物を使う理由はそれだけではない。チェーンソーは囮なのだ。
 クラーケンの胴体から、ミサイルを放つかのように無数の水の鞭が射出される。本来であればハルケギニアの魔法に属するその術であるが、しかし鞭を構成する水は膨大な瘴気を孕んだクトゥルフの魔水。さらにランスロットの魔力によって宝具化されたナノマシンを大量に含んで煤色に濁った鞭は、まさに無数の作品世界から切り取った能力を継ぎ接ぎした術式のキメラ。
 それぞれが異なる軌道を描いて四方八方に飛翔し、空間そのものに溶け込むようにして消え失せ、次の刹那、射出された水の鞭はグレートゼオライマーが展開したバリアの内側で、グレートゼオライマーを囲うように出現し、その純白の装甲にその牙を突き立てていた。
 ────ベクトル制御。
 この鬼械神クラーケンに搭載された一方通行式演算機関は、当然ながらあらゆるベクトルを操る一方通行の能力を扱うことができる。そして、今の一方通行式にはアヴァロン対策に記憶させた十一次元のベクトルがある。禁書世界において十一次元のベクトルを演算するということは、空間転移に近い力を扱うということでもある。水の鞭を投射する時にベクトルを捻じ曲げ、水の鞭の存在する空間位相を軽くずらしたのだ。能力の射程そのものが短いため決して万能な能力というわけでもないが、バリアを透過する程度は何とでもなる。
 空間干渉能力を持つゼオライマーのバリアを抜くのにはそれなりに大きくベクトルを曲げなければならないのだが、その程度は演算装置自体を増やして並列演算すれば何とでもなる。

「っ、おのれ…………そこまでして“烈”の本気が見たいか。面白い。ならば、天が晴れる様を目にするがいい!!」
 グレートゼオライマーがハイヴを消し飛ばした時と同様に両拳を胸の前に構え、一列に並んだ三つの黄金球の上に“烈”の光文字が浮かぶ。再び生まれた膨大な輝きが何もかもを、周囲を囲む霧を消し飛ばしていく。同時に、フル稼働する次元連結システムによって並行世界から取り寄せられたパーツがグレートゼオライマーの損傷部位を補填し、元の無傷の純白の装甲へと戻していく。

 その光景を見て、僕は思わず安堵の溜息を漏らしていた。
 危なかった。直撃していれば霧と一緒に消し飛ばされていたところだった。
 クラーケンの周囲に滞空する膨大な水の塊。それが盾となってグレートゼオライマーが放ったメイオウ攻撃を受け止めたのだ。役割を終えた水の塊は無数に飛び散って分散し、それらはそれぞれに渦を巻いて大型の爬虫類にも似た形を作り出し、その中にマゼンタの色彩が生まれ、無数の雑兵級へと変化する。
 デス=レックス型ホムンクルス。それこそが、雑兵級が圧倒的な威力を誇るメイオウ攻撃を受け止めた力の源であった。マリコルヌとの戦いで手に入れたデス=レックス完全体の細胞サンプル、それを雑兵級の基礎能力に反映させたのは、ディケイドライバーを獲得してその機能を組み込むよりもさらに前だ。しかし、その能力を大々的に使用する機会が無かったというだけの話。
 影の中に潜むとか水に変化するとかそういう小技ではない、デス=レックスの奥義────『構成粉砕(ゲシュタルト=グラインド)』。人間一人の生命を消費して周囲の何もかもを喰い尽くすその技は、雑兵級一体ではせいぜいオリジナルの八割程度の力しか絞り出せないとはいえ、数万体の雑兵級が数万人の量産型ティファニアを消費しての同時使用は、クラーケンへと向かうグレートゼオライマーのメイオウ攻撃の熱量を喰い尽くすには十分過ぎた。


「じゃあ、そちらも切り札を使ったことだし、僕が使っても問題はないよな?」


 クラーケンの重厚な装甲に覆われた操縦席の内側で、ぽつり、僕は呟いた。続いて、口訣を唱え、印を結ぶ。
 同時、ガシガシと音を立てて、そっけないデザインの、あちこちに装甲と同じ刃金が露出した操縦席が変形していく。巨大な鋼の棒杭が突き出し、無数のプラグが展開し、操縦席の上をフレームが走り、装甲板が開閉する。全天周モニターを模した大型霊視鏡が中心で分割され、その内側から捻じ曲がった魔杖とも長銃とも操縦桿ともつかないパーツがせり上がってくる。
 陽子砲や核ミサイルの連射を受けながらそれを水の盾で防ぎ続けるクラーケンの外装に変化はない。だが、その内に孕む魔力の流れは確実に変化しつつある。やがて、クラーケンの全身に術式が走り、鬼械神クラーケンそのものが全力で呪詞を詠唱し、術式を起動する。


 クラーケンを包んでいた水の盾がさらに膨張し、荒れ狂う水の渦は空中に深海にも匹敵する高水圧の“海”を形成する。その海の中でクラーケンの影が大きく膨張し、虚空に存在する“海”の胎内で膨大な瘴気がその水を闇色に染め上げ、それを砕き割りながら、クラーケンよりも巨大な影が出現する。
 あまりにも膨大な魔力を撒き散らすそれは、ゲルマニアの蒼天を深海色に染め上げながら、空間そのものすら揺るがせる巨大な咆哮を上げる。
 その腕に再び召喚された巨大な二刀のチェーンソーが握られ、グレートゼオライマーに向かって振り下ろされる。その一撃はグレートゼオライマーの放った烈メイオウ攻撃を正面から迎え討ち、真っ二つに切り裂いてその装甲を深々と斬り裂いた。
 それに気を取られたグレートゼオライマーが再び烈メイオウ攻撃を発動しようとしたところで、蟻が集るようにその純白の装甲に融合、その動きを封じ、機体そのものを融合同化する。もはやグレートゼオライマーは、僕にとって単なる餌にしか過ぎない。
 その事実に唇の端を吊り上げながら、僕はさらに巨大化したチェーンソーの刀身を振り下ろした。




 一面の大地。切り立った崖が続く巨大な峡谷が、大地を縦横に切り裂いている。
 グランドキャニオン。ここはそう呼ばれる大地だ。乾燥した大気が荒野の上を吹き抜けていく様は壮観にして絶景。絶大な質量を持つ大地をコロラド河の流れが気の遠くなるほどの年月をかけて削り取った岩壁の表面には、それが重ねた年月を示す地層の文様が刻まれている。
 震、と静まり返った世界の中にただ果てしない程の時間の堆積だけが膨大な質量で以って刻まれている。誰の声も聞こえない。聞こえるのはただ、自分の呼吸音と風の音、そして耳が痛い程の静寂のみ。

 そんな世界の中に僕は立っていた。

 さて、こんな場所まで来て僕が何をやっているかというと、だ。発掘作業だ。とはいえ、こんな場所に何やらとんでもない遺跡でも眠っていたかというと、実はそうでもない。
 ここは地球、そしてアメリカ、グランドキャニオン。ハルケギニアではない。そして、僕が支配する『ゼロの使い魔』の世界における地球ですらなかった。
 では、どこの世界なのか。

「おお、あったあった。こんなところに埋まっていたよ」

 コロラド川の谷底に無造作に転がっていたそれは、その形を一言で表現するのであれば『腕』であった。だが、一体どうしてそれが、真っ当な生物学的進化によって発生した生物のものだと言えようか。
 指の長さの半ばを占める巨大な鉤爪。甲羅というよりは盾に近い、頑強な甲殻に覆われた前腕。何より、その構成材質。

 いかに有機的なデザインであろうが、細胞自体が金属で構成されている生物など存在しない。

 第一、前腕の盾の下に砲門が仕込まれているとあっては、もはや言い訳などつこうものか。明らかな異形、破壊の為に発生し戦闘の為に進化した金属生命。

 ARMSジャバウォックと呼ばれる、この世界最強の存在の片腕。ちょうど一日前にこの場で行われた戦闘において、空間の断裂をぶつけられて断ち落とされた右腕だ。
 原作において、この戦闘で切り落とされた指は便利なナイフやビームサーベルの代わりとして度々登場しているものの、この右腕は一度も再登場しなかった。
 だが、切り落とされた指単体でもビームサーベルのように使うどころか、空間の断裂という、どう考えても切断できるはずの無い代物をさらに切り裂いてみせるインチキ能力が使えるのだ。ならば、腕まるごとの方がもっと強いに決まっている。
 そんなことを考えて、二次小説か何かに使えると思ってずっと頭の片隅に残っていたのだが────

「────まさか、こんなところで役に立つとはね」

 僕の手に掴まれた巨大な怪物の腕が、あらゆる武器を従える『騎士は徒手にて死せず』によって強化されたナノマシン『ペイルホース』によって浸食されていく。いや、正確には融合同化されていくのだ。やがて巨大な腕はドス黒い魔力に染まり、ナノマシンに分解しながらずぶずぶと僕の右腕へと吸収されていく。


 ここはARMSの世界。最強のナノマシン兵器にして金属生命体であるARMSと呼ばれる存在を移植された少年少女たちの戦いを描いた漫画の世界。


 一通り吸収が完了すると、僕は体内の機能を起動して、腕を巨大な怪物のものへと変化させる。巨大な鉤爪、甲殻の下に砲門を仕込んだ前腕────ARMSジャバウォック。
 割と問題なく操れる。おそらくは大本のジャバウォックの意志から切り離されている事が最大の要因だろう。その部分を僕自身の精神で上書きしてナノマシンの支配権を確立し、新たなるARMSとして成立させる。

 この世界で一番欲しかったものの片方がこれだ。ARMSジャバウォック。正確にはジャバウォックが保有するARMS殺しの爪。あらゆるものを切り裂くはずの空間の断裂を逆に切り裂いてしまう謎兵器。そもそも空間の断裂というのは物体ですらなく、そこに空間がないからこそ断裂というわけで、それを切り裂くというのは……とか考えるのも面倒だが、アヴァロンを突破し得る手段の一つとして考えていたものの一つ。


「後はもう一つのアレを回収して────」


 そう思った直後だった。


 背後に気配。


「待ちたまえ」
 あまりにも自然にそこに立っていたのは、山高帽に仕立ての良いスーツを纏った一人の男だった。見た目からすれば年齢は中年くらいなのだろうが、あまりにも自然体なその姿には奇妙な若々しさというか活力が感じられ、加齢が衰退というマイナスではなく、成熟というプラスとして印象付けられる。
 それなりに原作知識を持つ僕にとっては、その正体は姿を見ただけで見当がつく。この世界の住人、その中でもARMSの担い手たちを遥かに上回る危険度を持つ存在。表面上は穏やかな笑みを見せているが、その気配はまるで澄んだ湖水のように澄み渡り微動だにしない。
 はっきり分かる。強い。

「作業中のところすまないが、一つ聞いてもいいかね?」
「それは、僕が誰かとか、所属はどこかとか、そういった話ですか?」

 男は相変わらずの笑みを見せながら鷹揚に頷いた。

「まあ、そういうことになるな。そのついでに、君の人柄も少しなりとも開帳してくれればありがたい」
「残念ながら予定が立て込んでおりまして。電車の時間に間に合わなくなってしまう」

 僕も相変わらず余裕を装ったまま肩をすくめてみせる。相手がARMS以外では最強の武装であるジャバウォックの爪を携えている可能性を頭に入れると、正直あまり油断はできない。少なくとも、警戒しておくに越したことはない。

「何、知っての通りアメリカの列車のダイヤ運行はかなりいい加減だ。この辺りなら、一、二時間程度の遅れは珍しい事じゃない。話す時間程度、あってもいいと思うのだがね」
「いえいえ、この世界の電車じゃありませんので」

 にやり、と笑いながら僕はぱちんと指を鳴らした。こうも上手く指が鳴らせるのも、実はギルガメッシュの持っていた技術の一つである。転生前の僕は指を鳴らすのが苦手だったりなんかして。


『Attack-Ride. Ga-Oh-Liner!!』


 指を鳴らすと同時に無愛想な合成音声が響き、空の一角が発光してその光の中から、足元に自ら線路を形成しながら、一両の列車が出現する。
 巨大な鰐か恐竜に似た頭部を持つその列車は、甲高い咆哮を上げながら僕と男の間を隔てるように停車する。列車型タイムマシン、時の列車ガオウライナー。
 ディケイドの力で召喚されたそれに悠々と乗り込むと、僕はその時間を後にする。あの厄介なおっさんとの付き合いは、これっきりにしておきたいものだ。
 僕が呼び出したガオウライナーの車内は基本的には新幹線などと同じように細長い車両に等列に座席を配した、基本的な列車のものだ。だが、明らかな高級感を漂わせるこの車両の内装は、並みの新幹線とは一線を画する。


 で、さて、次は何を回収すればよかったか。
 ガオウライナーの豪奢な座席に腰掛けると、僕はポケットから一冊のメモ帳を取り出し、ARMSの世界の項目に書かれた「ジャバウォックの腕」の欄に横線を引いて消す。その下に書かれているのは「ARMSハンプティ・ダンプティ」の名前だ。次はこれが目標だ。

 次の目標物が終わったら、今度は「とある魔術の禁書目録」の世界で天使を狩って、それから次は「∀ガンダム」と「機動武闘伝Gガンダム」だ。僕のこの肉体は「プランA」と呼ばれるラインに沿って行動している。主に特殊能力の蒐集を目的とするチート能力強化プランだ。
 今もこうしている間に、他の肉体は他のプランを実行するため、他の世界で獲物を探して回っている。たとえばプランBでは「終わりのクロニクル」「緑の王」「天地無用」と回ってから「テッカマン」の世界に向かい、その後は「戯言シリーズ」だ。プランCでは「ドラゴンボール」の世界に行った後、一旦本拠である『ゼロの使い魔』世界の地球に戻ってブラスレイター・ホムンクルスの素体強化計画に従事する。正直、自分でもプランBはかなり無理ゲー入っていると思う。目標物さえ手に入れてさっさと逃げられればいいのだが。
 ちなみに最後のヤツは目標物のハードルを目一杯に低くするため、ZやGTなどといった余分な文字は付かない。

 にしてもあの標的、どうやって取ったものだろうか。何といっても絶対防御とラーニング、最強ものに付きものの最強能力を二つも併せ持つ最強のラスボスだ。正直、ハンプティ・ダンプティはハードルが高過ぎると思う。

「ま、何でもいいさ」

 王様の計画もそろそろ大詰めだ。それまでには一通りの強化を終えておきたいと思う。
 僕はガオウライナーの車窓の外に広がる異界の砂漠を横目で見ながら、座席の背もたれを倒して横になった。



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番外編:アリサ
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 暗い。
 光の一欠片もない、闇一色の世界。その中でまどろみに沈もうとしていた少女は、ふと、誰かの声を聞いた。

『駄目だアリサ!』

 闇の中を光のように切り裂くのは、どこかで聞いた誰かの声。懐かしい声。今では絶対に聞く事の出来ない、過去の声。

 声に呼ばれるようにして、記憶が蘇ってくる。
 過去。前世。家族。仲間。別離。戦争。無力。そして、永遠の別れに至るまで。それがもはや帰ることのできない過去のものになってしまったことを少女は理解していたが、それでも届かない過去の映像に、もう少しだけ、懐かしい人々の思い出を見せてくれと願っていた。

『そうだ。我々はここで散る。アルビオンという国家が終わりゆく最後に、この国で生きる人々に、そしてこの世界全てに、アルビオンという国家が存在した証を遺さねばならんのだ』
『ならん。お前は、ここで生き残って、後に戦を免れた者達に道を示さねばならん。だから、お前は生きろ…………生きてくれ、アリサ!』

 今の自分を見て、彼らは何を思うだろうか。死者が何も思わないということは自分も知っている。ブリミル教の観念に死後の世界が存在している事は理解しているが、自分はどうしてもそれを信じられない。
 だが、いないはずの彼らに“その後”が存在するというのなら、それが本当であってほしいと、そんな風にも思う。

『ああ。私達はここでおしまいだ。だから、君だけはせめて、私達の分までも幸せになって欲しい』

 別れ際の兄の声が少女に懇願する。
 応えを返そうにも届かない場所に遠のいてしまったその声に、少女は泣きそうな表情で答えを返す。



 ────幸福など、なれるはずもない。



 濁流のフェルナン/段外段



「夢、か」
 跳ね起きた少女は、思わず呟いた。呟いたことでそれが本当に夢になってしまう気がして、その夢が現実では有り得ないことを理解していて、それでも少女はその手が自らの口を押さえるのを止める気にはならなかった。
 もう少し、夢を見ていたかった。

 体を起こす。
 造りこそしっかりしているが、それでいて調度の一つも置いていない客室は、一面が白い漆喰の壁に囲まれて、少しばかり病的なものすら感じさせる。少女が体を預けているベッドもまた、来客用であるにもかかわらず無愛想な白いシーツを置いただけの粗末なものであり、一般的なハルケギニアの平民が使う藁布団でこそないとはいえ、腐っても一流どころの貴族が使うものでもない。
 ベッドの上から窓を見てみれば、赤と青の双月が落とす月明かりが皓々と大地を照らし出していた。そこから見える農村の風景は一見かつてと変わらないように見えるが、その実、少し見ない間にグラモン領も随分と荒れ果ててしまった。そして、その領民が向ける視線も、恐ろしい程に冷たくなった。今の自分が彼らにとってどう映っているのかも、決して理解できないわけではない。

 ────聡明だった領主を誑かした女狐。

 それが今のアリサ・テューダーに与えられた評価だ。自分でも妥当な評価だと思う。もう後戻りはできないのだ。
 アルビオンを救うためにギーシュに呼び掛け、アルビオンが滅んでからはその復讐のため、ギーシュの背中を後押ししてロマリアに向かわせ、結果としてロマリアとゲルマニア、そしてトリステイン、三つにも及ぶ国家を荒廃させた魔女。

 事ここに至ってみれば、ギーシュが最初自分が思っていたような善人ではないということはとっくに理解している。驚くほど無欲で清廉だと思っていた相手の精神も、裏を返せば欲望のベクトルが違うだけ。
 要するにギーシュ・ド・グラモンという男は、明文化した目的がなければ何もできない人間なのだ。それが転生という形で前世という存在基盤から引き剥がされて、失った存在原理を分かりやすい“オリ主”という在り方で補填しただけ。
 だから、彼が自分に向ける感情は、下卑た性欲ではなく、薄汚れた支配欲でもなく、ただ“オリ主”という存在を装飾するための“ハーレム要員”という器物に過ぎない。
 指針がなければ生きられない、というその存在は、酷くアンバランスで脆い。そして禍々しいまでに純粋で強靭だ。
 ほとんどの人間は、明確な生きる目的も考えることもなく、死にたくないから、というそれだけで生存の道を選択することができる。それができない、というのは酷く哀れで、その一方で少しだけ羨ましいとも────思っていた。

 だが、結局のところ、今の自分も大して変わりはしない。家族を失った空洞を復讐という炎で埋めてかろうじて人格の形を保っているのが今の自分だ。
 その憎悪に数知れない人々を巻き込んで、結果として出来上がったのが今の世界だ。その手を散々血に染めてしまった今の自分は、もはや家族や仲間と笑い合った過去の自分には戻れない。
 復讐が何も生み出さないことなど理解している。復讐を成し遂げたところで、失った人々は帰ってこないし、今は跡形もなくなってしまったあの暖かい日々が戻ってくることもない。それくらいは知っている。理解している。

 だが、復讐を放棄したからといって、やはり失われたものを取り戻せるわけではないのだ。

 つまり、そういうこと。
 愛情も幸福も、十分に享受した。ギーシュに囁いている上っ面だけの愛の言葉などとは比べ物にならないほどに重いものが、自分の心の中にある。だから、これ以上は必要ない。これ以外は必要ない。あと必要なのは、そうやって享受した愛情に幸福に報いるための手段だけ。それ以外は全て、どうなろうと知ったことではない。



 同じベッドの上で眠る二人を見て、その二人が見ているものが自分とあまりにも異なっていることに思わず苦い嗤いが込み上げてくる。
 ギーシュとルイズ。アリサが上体を起こしたことでシーツがはだけ、裸の上半身を曝して眠るギーシュは、少し寒そうにルイズの身体を抱き寄せる。華奢な裸身をさらしたルイズは、その動きに幸福そうにギーシュに向かって身を擦り寄せた。
 その胸板の中心には、無理矢理抉り取られたような傷跡が刻まれている。思えば、アリサがギーシュに対して抱いていた違和感が完全に輪郭を明らかにしたのもその傷がついた時だ。
 戦闘で負った傷ではない。自傷痕だ。
 機巧魔神(アスラ・マキーナ)の燃料である副葬処女(ベリアル・ドール)の魂を使い切り、機巧魔神を操る資格を失った演操者の体には、炎のような紋章が浮かび上がる。演操者の体内に存在する制御用ナノマシンが副葬処女を失うことにより体表に凝結、紋章の形となって周囲の魔力を拒絶する電波妨害的な働きを為し、結果としてあらゆる魔力を受け付けない「魔法無効化能力」を身につける。そして同時に、その紋章は愛する者の魂と引き換えに悪魔の能力を行使した呪われた罪人の烙印である。
 だが、ギーシュはその紋章が自らの最大の能力の一つである宝具『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の能力を阻害するとみるや、何の躊躇いを見せずに刃を抜いて、胸の中心に刻まれた紋章を自ら抉り取ったのだ。
 まったく、悩みが無さそうなのは結構なことだ。この二人は、今のゲルマニアとロマリアの状況を見てどう考えるのだろうか。ガラヴェンタに引鉄を引かせた責任が自分たちの上に存在しない、などと自信を持って言える人間が、善人のはずがない。
 自分の苦悩など知らぬげに眠る二人を見ていると、どこか冷たいものが込み上げてくるのを感じて、あまりいい気はしない。


「アリサ、起きてたの?」
 アリサが振り向くと、そこには同じベッドに眠っていた少女が体を起こしたところだった。少女の姿がアリサの目に映ると同時に、アリサの心臓の辺りに、どこか重苦しい感触が蘇った。罪悪感と、嫉妬と、そして憧憬。自分の中に宿る感覚を、アリサはそのように分析する。
「ルイズ……ええ。少し寝苦しくて。貴女もですか?」
「え? ……あ、そ、そうね。ええ、私もよ」
 どこか戸惑った様子のルイズに、アリサは逆にどこか安堵したような感覚を抱いた。
「ねえルイズ、何か悩みがあるのなら、話しておいた方がいいわ。たとえ何の解決にもならなくても、少なくとも心の整理くらいは付けられるから。今ならギーシュも寝ているし、同じ女同士なら話しやすいことだってあるでしょう?」
 そんなことを言う自分自身に、どの口がそう言うのかと自嘲を抱く。そんなアリサを余所にルイズは少し迷った様子を見せてから、誰に言うともなく話し始めた。

「モンモランシーの事なんだけど…………あれでいいのかなって、どうしてもそう思っちゃって……。確かに、ギーシュお兄様の言う通り、モンモランシーがあそこで犠牲になってくれたからこそ、私たちは生きていられるのよ。それは分かっているわ。でも……どうしても、どうしても納得できなくって。他に何か方法があったんじゃないかって、どうしてもそんな風に思っちゃって、だから……!」
「それは、きっと誰だって思うことよ。私だって、あのレコン・キスタとの戦争が終わってから、同じことばっかり考えている。本当に、私には何もできなかったのか。何か出来ることがあったんじゃないか。あそこでああしていれば、もしかしたら……って」

 あるいは、あそこで最初に頼る相手を変えていたら、などと。たとえばゲルマニア、たとえばガリア、そしてたとえばギーシュではないもう一人、同じトリステインの────そんなことを考えながら、アリサは少しだけ過去に思いを馳せる。
 今も忘れてなどいない。軽く目を閉じれば、彼女の愛した人々の笑顔はすぐにでも思い出せる。

「そうじゃないの! そんなのじゃなくて、そういうことじゃなくて、そんなことは分かってて……! 本当にこのままでいいのか、って思ってしまうのよ! …………迷っちゃいけないって、本当は分かっているのよ。こんなことじゃ、ギーシュお兄様の役に立つなんて絶対無理だって。お兄様の役に立たないと、でないと、私、私……!!」
 ルイズは震える体を抱きしめるようにしてベッドの上にうずくまる。そのルイズを、アリサは何も言わずに後ろから抱き締めた。

 羨ましい、と思う。
 迷うことができるということが。

 自己陶酔の暴走に世界丸ごとを巻き込もうとするギーシュも、そんな代物を利用してまで復讐を遂げようとする自分自身も、揃いも揃って外道の所業。それは理解している。理解した上で、自分は欠片の躊躇もなくそれを実行に移している。外道の所業を躊躇わずに行うのであれば、それは正真正銘の外道そのもの。

 だからこそルイズが羨ましい。
 外道の行いに迷いを抱くことができるのだ。


 だが。
 どんなものでも利用してみせる。たとえそれがルイズでも。
 自分の家族にこの理不尽を押し付けた原因を根こそぎ滅ぼし復讐するまでは、いけ好かないこの男だって利用して利用して利用し倒して、骨の芯まで使い倒してやる。
 そのためには、たとえ娼婦のように股を開いてでも構わない。精液だろうが大便だろうがいくらでも呑み下してやる。首輪に繋がれ引き摺り回されようが、奴隷宣言させられようが構わない。
 それでいい。それで十分だ。今の自分はそんな程度がお似合いの咎人だ。そんな程度で復讐が遂げられるのであれば、自分は何も要らない。アリサは心中で嗤いを漏らし、ルイズを抱き締める腕に力を込めた。

「アリサ……っ、む……!?」
「ん、ちゅ……んむっ…………」

 アリサの様子の変化に気がついたのか、慌てて振り向いたルイズの口を、自らの唇で塞ぐ。先程までギーシュを含めた三人で交わっていたせいか、抵抗はさほど激しくもない。

「ん……ふむ…………ぷはっ……、アリサ、何を……!?」
「考えてはいけないのでしょう? なら、考えずに済むようにしてあげる。それとも、嫌?」

 ルイズは少しだけ迷うような仕草を見せて、しかしさほど時間をかけずにすぐさま頷いた。

「…………嫌じゃない、けど」

 その言葉に頷いて、アリサはルイズに唇を重ねながら、その身体を押し倒す。今度はルイズも、抗わずに舌を絡ませてくる。

「ねえルイズ、もしもこれから貴女が迷いを忘れられなくなったなら……」
「うん、その時は…………その、お願い」

 窓の外に浮かぶ蒼と紅の月の上に雲が流れ、月光が遮られる。唇を重ね、白い肌をまさぐりながら、アリサとルイズは闇に沈んだ。



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後書き的なもの
=====

 王女様ご乱心ver.インスマウス。
 後ゼオライマー。ハイヴを一撃で消し飛ばすことが可能な超威力な能力を色々考えた末、ちょうど以前考えたネタがあったのでこれにしました。

 前回のガラヴェンタにもまして悲惨なアンリエッタ。アンチ対象ですらないのにこの扱いの悲惨さ。いや確かに前回のアレは結構アンチ気味だったけど。

 ゼオライマー転生者は、ゼオライマーに装備されている人格上書きシステムで書き換えられて、木原マサキになっていました。まあ、元々の原作の主人公も「木原マサキになった気分な原作主人公」でしかなかったらしいので、この木原マサキも「木原マサキになった気分な転生者」に過ぎないはず。そう考えると、雑魚でも問題はないのか……?
 ……書き始めた頃から考えていたネタですが、何というか途轍もなく間抜けな存在に見えたりしますが、よくよく考えると転生者としてはこれ以上ないほどに有り触れた存在のようにも思えます。


 鬼械神クラーケン、フェルナン版。
 オリジナルよりも全体的なスペックは劣っているが、装甲と瞬間的な加速力、アナコンダアームの射程の三つのみ、オリジナルに勝る。
 一見巨大なチェーンソー二刀流な分かりやすい重戦士タイプの機体に見えるのだが、実態は「レレイの霧」で姿を隠しアナコンダアームによるオールレンジ攻撃でチクチクと攻める非常にチキンな機体。でもチェーンソー持った腕が伸びてオールレンジ攻撃掛けてくるのは、見た目的にかなり怖いと思う。


 マクロス、ゼオライマーと続くと、ブラスレイターは超科学系の敵に対しては滅法強いような気がする今日この頃。というか、フェルナンも随分と強くなってきた気がします。


 番外編はアリサ。
 最初はアリサの独白だけで終わるつもりだったのが、それだと少し短いなと思っていたら、最後の最後で大暴走。何が起きた?
 まあそんなわけで今回は少しNTR風味。
 まさかあのアリサがここまでするとは。本当にびびりました。

 アリサの薄幸属性も大概ですが、ますます酷くなってきた気がします。愛の欠片もない。ギーシュどうにかしろ。
 でも、下手をすればタバサも辿っていた道かもしれないとか考えると結構複雑だったり。ギーシュが本当に主人公だったとしたらタバサがいたかもしれないポジションにアリサがいるわけで。アリサは犠牲になったのだ?……みたいな。今のタバサは本当に幸せ。少なくとも、きっと本人は。


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