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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で
Name: ゴンザブロウ◆2544ab26 ID:914e1f3c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/01 23:54
 マクロスFの世界、エヴァンゲリオンの世界と、二つの異世界を攻略した僕は、それなりに戦力を強化することに成功していた。
 が、実はさりげなく綱渡りをやっていたような気がしてならない。エヴァンゲリオンの世界はともかく、マクロスFの世界は、今振り返ってみればかなり危険だ。何といってもあそこは、アイドルが精神攻撃のための軍事兵器として養成される恐ろしい世界だ。某種ガンダムのヒロインが歌で洗脳がどうこうとか言ってアンチられているが、ぶっちゃけそんなものじゃない、一つ間違えばもっと恐ろしいものの片鱗を味合わされるところだったのだ。
 某スパロボではマクロス系歌手パイロットの歌は普通に敵にダメージを与えるらしいし、洗脳+洗脳解除+広範囲ダメージとか、僕の天敵になりかねない。アリサの歌はしょぼかったが、本物の歌の持ち主がすぐそこにいたのだ。零距離で精神攻撃音波なぞ撃ち込まれたらたまったものじゃない。さっさとデモニアック化しておいて、本当に良かった。
 一方、エヴァンゲリオンの世界に関してだが、地球の人口を丸呑みしたとはいえ、それだけではあまり役には立たない。全部一般人だし。他の世界に不意打ちで侵攻して補完計画どーん、とかやったりすれば別だろうが。むしろ、他人の精神を吸収同化したことによる違和感が不快だったのだが、それも消えつつある。知識や経験情報といったものだけ残して、それら精神が存在したという痕跡が消滅しようとしているのだ。
 有り難いことだ。
 僕は人間が嫌いだ。タバサ以外の他人が嫌いだ。そんな連中と一つになるというのも、今考えてみれば少々ぞっとしない。そのことに気付いた日には、少しタバサに無理をさせてしまった、性的な意味で。


 さて、あのアンリエッタ王女による呼び出しから数日の時が過ぎた。しかし、僕たちを包む状況はいまだ変わっていない。何故か。

 答えは簡単、何も進んでいないからだ。
 ウチの王様の計画はまだアルビオン大陸で準備中だし、ギーシュはまだロマリアの国境を越えた辺りだし、オーバーフロウにも特にこれといった進展も見られない。

 ……と、ああ、『アンピトリテ』の『スキュラ』には一気に進展があった。元々『スキュラ』が基幹としている科学技術は現代地球のものだったのだが、ここに至ってマクロスギャラクシーが捕獲できたため、そこの科学技術を奪い取り、一気に未来技術が使用できるようになった。
 しかも、科学水準が向上したため、いつぞやの増水トラップに引っかかった転生者が所有していたスカリエッティ頭脳由来の技術なんかも使い易くなってきた。リリなのの戦闘機人やガジェットドローンに搭載するような魔導兵器も開発しており、こっちはまだまだ威力不足という弱点があったりするのだが、それでも戦術の幅が広がるに越したことはない。AMFも効く相手には効くだろうし。
 そんなわけで、威力、命中精度、頑強さ、扱いやすさ、浪漫など、色々な見地から装備の選定を進めている。

 一方、『カリュブディス』は非常に頭を悩ませている。
 バジュラのウィルスをどうにかして完全なる支配下に置くことができないか、という話だ。型月魔術や相似魔術の応用でどうにかしたいのだが、上手い手段が思いつかないのだ。ゲートオブバビロンの宝具の中に、何かいいのがないか検索中。
 また一方で、前回のアルビオン殲滅戦においてもう一つの収穫を有効利用する手段として、パピヨンの知識の中にはあったにもかかわらず今までは役立たずと見向きもしなかったホムンクルス調整体の技術を再開発している。

 他に、僕の基本戦力にエヴァンゲリオン軍団が追加された。というか、追加せざるを得なかった、というのが事実か。
 そして、僕の相似魔術、増やすには都合がいいのだが、減らすのは結構難しいのだ。エヴァンゲリオンの世界を侵略した時のラストで、少しばかり調子に乗って超強化量産型エヴァンゲリオンを増やし過ぎてしまった。そういうわけで、死の海と化したエヴァンゲリオンの世界の地球を格納庫代わりに使っているが、収容能力もそろそろ限界である。どうにかして収容能力を増やすべく、エヴァンゲリオンの世界の火星や金星を開拓し、マクロスを増産している真っ最中だ。おかげでセクション『ネレイス』が増え過ぎた仕事に血涙を流している。



 濁流のフェルナン/第二十三段



「と、いうわけで、これが貴方の分の魔導書です。ちゃんと、使いこなせるようになってくださいね」
 ニコニコ笑顔のティファニアから渡された、あからさまな凶気を放つヤバい本こそ、『クタアト・アクアディンゲン』。別名『水神クタアト』。人間の皮膚で装丁され、雨気に反応して水気を纏うという異様な特性を持つ書物だ。
 ついでにタバサの分もある。タバサの分は『金枝篇』だった。『セラエノ断章』の方がタバサの能力的にも合っていると思うのだが、そっちは既に所有者が決まっているらしい。もちろん複製してからタバサに渡した。今のタバサなら使うことはできるだろうし。

 正直、この間のアレで下地ができていなければ、扱うことすら困難だったであろうこれだが、前回のアレと属性も、扱う神性もほぼ同じで、しかも僕と非常に相性がいい以上、魔導書『水神クタアト』といえどもその扱いは決して難しいものではない。前回ので鬼械神────デモンベイン系の魔導書によって召喚される紛い物の神、という名の巨大ロボの扱い方まで確立した僕にとっては、『水神クタアト』の鬼械神クラーケンすら使いこなせるであろうという自信もある。まあ、セラエノ断章で呼び出される鬼械神が二つある辺り、本当にクラーケンが呼び出されるのかは少しだけ微妙な所であるのだが。

 機神召喚の術法が記載されているところから見て、それは間違いなくデモンベイン系統の魔導書だ。ここで僕にお鉢が回ってくる以上、陛下の計画の役者の一人として扱ってもらえるらしい。非常にありがたいことだ。
 そこから判断して、なぜこんなものをジョゼフ王が持っているのかは大体見当がつく。
 確かにデモンベインの原作は愛と勇気で邪神を薙ぎ払うスパロボ系のノリが多分に混ざっているが、それに反してデモンベイン系の魔導書は、クトゥルフ的な要素てんこ盛り、読む者見る者の正気を削りSAN値を削り狂気の坩堝に叩き込む、凄まじく厄介な代物である。
 おそらく、デモンベイン系の魔導書を携えて転生した転生者が、魔導書を読んで狂気に呑み込まれ、自殺でもしたんだろう。でもってその魔導書がジョゼフ王に回収された、と。非常に分かりやすい流れである。
 どこの馬鹿がやらかしたのかは知らないが、まず自分が何の力を扱うことになるのか、冷静に考えてみるべきだったといえるだろう。
 ふざけるな、と声を大にして言いたい。死ねばいいのに、マジで。どうせもう死んでいるんだろうが。一番物騒なヤツに一番物騒なアイテムを渡すとか。無ぇよ。何というか、正直洒落になっていない。
 『水神クタアト』に『金枝篇』なんて端役魔導書が登場している以上、どうせ他の魔導書も全巻揃っているんだろう。おおかた魔導書精霊コンプリートでアルたんエセルたんウハウハ幼女ハーレムライフとか考えていたんだろうが、もう少し考えろ、と。
 まあこれについては考えても仕方がないことではあるのだが、『ナコト写本』や『妖蛆の秘密』辺りには“原作”の世界から這い寄ってくるので有名なあの人を召喚する手段なんかもあるかもしれず、どこぞのうっかりした転生者がそれを発動して……とか有り得る。というか、魔導書の狂気に汚染された転生者が邪教崇拝に目覚めたりとかした挙句、その手の儀式をやり出してハルケギニア終了のお知らせ、とか普通にありそうで困る。というかハルケギニアはもう半分終わっているようなものだが。
 というか、エヴァンゲリオンの世界が存在している以上、デモンベインの世界も存在しているはずで、だ。向こうから侵略してきたら……もはや考えても仕方がない。逃げようにも逃げる手段はないだろうし、対抗しようにも対抗する力はないときている。どうしようもない。単純に強くなるしかないだろう。
 そんなあれこれを考えると、僕の手の中にあるこの『水神クタアト』の存在も素直に喜ぶことはできない。
 何はともあれ、ひとまず、そろそろ鬼械神の慣らし運転もしておくべきなのかもしれない。

 まあそんなわけで、僕の『オーバーフロウ』もまた、陛下の計画に合わせて最終到達目的点をやや変更している。今まで続けてきた計画はそのままに、セクション『ポントス』を運営する“僕”の数を三倍に増やし、増えた分を新たなシナリオへの変更点となる新設ラインのプランに従事させる。
 新たなラインに冠する名を『コイオス』。雷と共に天球運動を司り、航海者に道を示す古代神。

 どの道この身は既に人というカテゴリから完全に外れてしまっているのだ。この前の偽ギアスユーザーやエセ弓兵のように、ただの人間に能力というオプションを追加したものとは違う、完全なる怪物だ。
 ならばこそ、人と同じように結ばれたところで、タバサと添い遂げる事など不可能事、それが世界の理というものだ。ならばこの身に人の要素など不要、世界すら喰い尽くす真性の怪物となり、世界の理など喰い破って、永遠の刻を共にしよう。

 より強く、より絶大に、より別次元に。
 人の届かぬ永劫の高みへと昇りつめるために。




 ロマリア。始祖ブリミルの弟子であるフォルサテが興した、ガリアの南側に存在する都市国家群である。昔は「光の国」とかふざけた名前で呼ばれていたことがあったらしいが、その実態は貧富の差がクソ激しい、砂粒くらいの豪邸の周りにスラム街の団子を作ったような状態であったそうだ。まあ、それも今は昔の話である。

 今現在のロマリアは、言わばハルケギニア最悪の国家。
 ハルケギニア土着の、グールとは名ばかりの操り人形一匹作るのが限界なしょっぱい亜人ではなく、転生者由来、正真正銘の怪物である。
 例外なく高位聖職者を兼ねる貴族達は一人の例外もなく邪悪な吸血鬼、そして平民達はそんな彼らに新鮮な血液と様々な欲望の捌け口を提供する家畜。
 当然ながら、元から激しかった貧富の差はさらに拡大し、平民は喰っていくことすら満足にできないため餓死者も増大し、ロマリアは自領の平民よりもより味わいが深い他国の平民やメイジを求めて、他国への侵略を狙っている。

 吸血鬼の正体が型月なのかジョジョなのかヴェドゴニアなのかHellsingなのかは未だに分からないのだが、少なくとも吸血鬼の基本的な特性、つまり血を吸って仲間を増やす事が可能であることは間違いない。つまり、放っておけば際限なく増殖するし、元を断たなければ意味がない。
 原作ゼロ魔を読んだ時にはゼロ魔世界の吸血鬼の実力の残念さ加減に唖然としてしまったものだが、今の僕にとっては吸血鬼がそんな程度の生き物であった時代が本気で懐かしい。できるなら、永遠に弱っちいままの雑魚でいて欲しかった。
 とりあえず魔界都市の吸血鬼じゃないことを祈ろう。そんなのに来られたら、下手をすれば僕が死ぬ。

 とはいえ、僕にはあまり関係のない話であるのだが。
 単体での性能は吸血鬼よりも内のブラスレイター・ホムンクルスの方が上だし、相手が人間を材料とする吸血鬼である以上、その物量は膨大ではあっても有限、延々と消耗戦を続けてやれば最終的には僕が勝つ。
 従って、吸血鬼が何匹いようと僕にとっては怖くないのだ。……敵が群れである限り。怖いのは数の不利を力づくで引っ繰り返す、最強の個体戦力。


 さて、だ。
 そんなわけで、僕は現在ロマリアに向かっている。

 ギーシュがロマリアに向かったらしいので監視して来いという、陛下からの指令である。もっとも今回は、ガリアと計画の舞台であるアルビオンに実害がなさそうなので、様子見だけしてさっさと帰ってくるようにとのことである。
 何だか、例の計画のために後で渡すものがある、とか。すごく、ものすごく嫌な予感しかしない。正直な話、現在の僕のキャパシティはこの間のアレで既に腹一杯なのだ。主に精神的に。
 まあ、色々とアレとはいえ、やるしかないんだろうな。仕方ない。

 そんなわけで、ロマリアの街道を歩く。こんな場所に連れてくるのは少しばかり心配なのでタバサは置いてきた。護衛として僕の分体も潜ませてあるので大丈夫だろう。
 人里離れた街を歩く分には、ロマリアの自然はトリステインやガリアとさほど変わりない。だが、神経を集中させると、大気の中にどこか血の臭いがするような気がするのは気のせいだろうか。

 道半ばで擦れ違った人々の顔も暗く、体も痩せ衰えているし、衣装も粗末だ。足取りもどこか弱弱しいし、目も空ろ。
 ロマリアは貴族の締め付けがきつく税金も洒落にならないほどに高い。貴族たちの退廃的で絢爛豪華な生活を支えるのは、平民から絞り上げた膨大な血税だ。それを惜しげもなく自らの贅沢のために浪費するだけでなく、たとえば狩りの獲物とするように、面白半分で平民を殺戮する。
 その上でロマリア貴族の大半は困窮した平民を汚物のように扱い、汚物の血液を啜るのを嫌うため、大半の貴族が莫大な私財、というか平民の血税を投じて、血液を啜るためにやたら豪華で成金趣味な人間牧場を運営したりもしており、それもまた経済を圧迫するのだ。
 都市もそのほとんどがスラム街で、その真ん中に立つ聖堂だけがやたら豪華で浮いている。ロマリアという国家の歪さを表しているかのようだ。


 だが、数年前に遷都したロマリアの中心地である宗教庁が存在するその都市、ロマリア首都ヴァティカノはそれ以上に都市として異形だった。
 都市の中心に存在する、今やロマリアの中心そのものである巨大なオベリスク、そして貴族街とスラム街である。その三つ、どれもこれもが例外なく暗澹たるオーラを纏い、呼吸する空気すら瘴気に冒されているように感じられる。
 ヴァティカノという都市には三つの暗黒が存在する。

 遠目に見れば最初に目につくのは、岩石とも金属ともつかない奇怪な鉱物によって構成された、ギザギザと尖った鋭い縁を持つ多角形状の円盤を幾重にも積み重ねたような異形の構造体。それは自然物のようでいて、明らかに地球やハルケギニアという惑星の環境には存在し得ないもの。
 しかし、それでいてそのオベリスクをじっと観察してみれば、その構造には何らかの知性体の意図が感じられるような気さえする。ああ、だがしかし、一体いかなる知性体がこれほどの構造体を建造し得るのだろうか。いや、そもそも、その知性とは果たして、人類と同質の精神や知性の延長線上に存在するものなのか。
 それはまるで人間には理解し得ない宇宙的な奈落を覗いているような気分になってくる。人間の感性では理解できない異形の闇。
 単純な規模や面積から見ても建造物としてはハルケギニア最大級のガリア王宮と比べてすら遥かに巨大、その全高はラ・ロシェールで以前僕が破壊した大桟橋よりもなお高く、目測でも最低三キロメートルを越え、その頂点は上空の雲の中に消えており、どれほどの高度を持つものかすら判然としない。それほどに巨大なのだ。

 その異形のオベリスクの手前に存在するのが貴族街。陽光を遮る魔法障壁である漆黒の霧によって保護されたその下には、煌びやかな純白の聖堂建築や城塞、そして同じように純白の豪邸が建ち並んでいる。
 そこに住まうのは、どれ一人として例外なく高位聖職者を兼任し、そして例外なく吸血鬼であるこの国の貴族たちだ。かつては例外なく肥え太り、豚のように醜怪なその本性を表すように醜く弛んだ腹を誇示していたロマリア貴族であり、今は豪奢な生活と華美な装束が似合う若々しく高貴な美貌を身につけ、夜の貴族などと言い繕ってはいるが、彼らの本性は昔と何も変わらない。
 貴族街が纏う暗黒は、人が同じ人に対してどれほどに残虐になり得るのか、という、人類という生物が先天的に保有する醜悪さの具現だ。見る者に最も嫌悪感を掻き立てるのが、この空間の闇。

 そして、オベリスクと貴族街の周囲を取り囲む、何よりも広大な領域が存在する。
 スラム街である。オベリスクそのものに匹敵するほどの空間を占めるこのスラム街には、あちこちの地方から集まってきた数多くの平民が集まっている。かつて光の国などと呼ばれてはいたものの、当然ながら、それはスラム街だ。人々は痩せ衰えているし、日常的に犯罪は起こる。
 このスラム街の住人たちは、元々日々の暮らしに耐えかねて、教皇に救いを求めて集まってきた人々だ。だが、その結果どうなったのか。救いを求めて伸ばされた手は無慈悲に跳ね除けられ、地面に叩きつけられた。
 だからなのか。
 大気汚染の原因などどこにもないはずなのに、この街の空気は絶望に染まって、黒く澱んで見える。

「……どいつもこいつも、不愉快な街だ」

 思わず舌打ちを漏らす。キャスターの魔術で周囲に認識阻害の魔力を巡らせてはいるものの、吸血鬼の種類によっては魔眼や何かで見通される危険もあり、まことに面倒臭い。
 従って、姿を隠すために使用するのはもっぱら相似大系魔術だ。まず「僕以外の誰にも認識できない空間」を定義し、概念魔術によって周囲の空間をそれに相似させることにより、僕以外の認識を否定する。減衰障壁の応用である。
 基準となる空間は僕の体内に置いてあるので、体内を走査されれば無効化されてしまう危険性があるが、そもそも体内そのものが認識阻害の効果範囲になっているので問題なし。むしろこの弱点は、認識阻害を結界状にして部屋や建造物などに設置した場合に作用する。まあこれも、基準空間を結界内に入れておけば問題のない話ではあるのだが。

 僕が保有する端末は僕自身の肉体や雑兵級、カサブランカ級といった戦闘用の代物だけではない。情報収集用に、水精霊を寄生させたただの昆虫や小動物なんていうものを用意している。
 そういったものは、アンドヴァリの指輪による洗脳情報ネットワークなどよりも時としては有用で、よほど厳重に封鎖された完全無菌の研究施設のようなものでもない限りは大抵が侵入することができる。それはこのロマリアであっても例外ではない。
 それらの知覚端末は、衛星軌道に配置した偵察衛星と共に総力を挙げてギーシュとロマリアを監視している。

 その気になれば、反物質弾頭を搭載したICBMの雨を降らせて飽和攻撃でロマリアそのものを地上から消し去ることも可能なのだが、それで斃せる相手かどうかと言われると正直自身がない。特にギーシュ。超強化スーパーサイヤ人は対消滅程度の熱量でどうこうできるような相手ではない、と思う。


 実際問題、このロマリアにおいても統治体制はトリステインやガリアのそれと大して変わりはなく、生活水準が著しく低い、というのと、トリステインの水準から計算してさえ異常なほどに貴族が横暴である、ということを除けば、平民の暮らし方も大して違わないため、そこらの村ならともかく、ヴァティカノともなれば宿屋の一つくらいは存在する。
 ただ問題は、やたら汚いことなのだが。下手をすれば野宿の方がマシなくらいに。ひどい場合だと宿を取って迂闊に眠れば身包み剥がれて、目を覚ましたら奴隷市場の檻の中、なんてこともあるようで、正直野宿の方がずっとマシだ。
 まあ、野宿も野宿で、都市の外には見たこともない異様な怪物が徘徊しており、マトモな人間が暮らすには少々問題があるのだが、僕にとっては問題あるまい。


 で、一方ギーシュである。
 ギーシュの方には、驚いたことに新たな仲間が加わったようで、この間の偽弓兵のエドガーの他、二人の転生者が同行しているようだ。おそらくはゲルマニアの錬鉄竜騎士団。代わりにマンティコア隊は色々あって全滅したらしい。
 アルビオン総力戦の時には偽一方さん襲撃事件による国際関係の亀裂があったわけだが、現在のゲルマニアは国力がガタ落ちしたトリステインに対して人道的支援と称して軍隊を駐留させており、生き残りのトリステイン貴族の抗議の声を華麗にスルーして、トリステインの国土も半分くらいはゲルマニアの支配下に落ちた形である。もはや、国際関係の欠片もあったもんじゃない。


 ギーシュがロマリアに突撃したことを察知した彼らは、ヤツがラ・ロシェールやアルビオンで見せた圧倒的な戦闘能力を加味して、ギーシュにロマリアが潰される可能性を考慮に入れた上で、その戦闘能力を大いに利用するべく、恩を売りにかかった────って筋書きだろうか。正確なところは分からないのだが、おそらくはそんなものだろう。
 というよりも、ここでゲルマニアが動く理由なぞ、それしか思いつかない。
 ギーシュの戦力がゲルマニアに向けられる可能性は少しでも削っておきたかった、というのもあるのかもしれない。核やBC兵器といった戦略兵器は、存在しているだけでも価値がある。あるいは、ギーシュを止められるだけの戦力が存在しなかった、とか。

 いや、あるいはこうか? 

 トリステインはゲルマニアの監督下に入りつつある。その状態でトリステインの指導者であるギーシュがロマリアの中心部に攻め込むというのは、ゲルマニアの指導下にあるトリステインがロマリアに戦争を仕掛けるに等しい。つまり、ゲルマニアがロマリアを攻めることに等しい、ということだ。
 いくらギーシュの行動がゲルマニアの意図したことではないとはいえ、ロマリアにとっては「よろしい、ならば戦争だ」の一言で片を付けてしまうだろう。
 ゆえにゲルマニアとしてはギーシュを止めたかったが、ギーシュを止められる戦力がゲルマニアには存在しない。そこで、ゲルマニアはギーシュがロマリアを滅ぼす可能性に賭けて、その援護とするべく戦力を派遣した、か?


 ……いや、まさかな。もしギーシュを止めたいのならルイズやアリサ辺りを人質にとればいいだけだ。わざわざそこまでする意味はない。
 いくら何でも、これはないだろう。

 もしかしたら、ラ・ロシェールの時の宣戦布告を真に受けている、とか?


 にしても、ヴァティカノの中央に立っているあのオベリスク、あれは一体何なのだろうか。どうせ転生者関連なんだろうが、正直な話、あんな代物を作り出すような能力に心当たりはない。



 そんなわけで、野宿に決定。あんな街にはできるだけ入りたくない。
 よくよく考えると、あらゆる宝具を内包する神代の蔵たる我がゲートオブバビロンには、屋敷とか要塞、都市、隠れ里なんかの宝具も含まれているのだ。それを宿舎として利用するなら、結構快適に過ごせるのは間違いない。
 もう夜も遅い時刻、闇の中では黒く沈んで見える森の木立の中に、認識阻害の掛かった和風家屋をゲートオブバビロンから展開する。マヨイガと呼ばれるその建物は前世においては某隙間妖怪の巣として有名であったが、実際には民話に登場する“存在しないはずの家”である。
 と、いうわけで、ギルガメッシュの趣味なのか、やたらめったに豪華な装飾のされたキングサイズのベッドに横になって、知覚端末が送り込んでくる情報に集中する。


 僕と同じく野宿を選択したらしいギーシュ一行だが、その様子は僕と比べるとどうしようもなく侘しかった。妙な所に戦力差が出ている。とはいえ、そんな状況ですらハーレム要員に囲まれてキャッキャウフフしているギーシュの様子を見ているとどことなく腹が立ってくる。
 ついイラっときたので、周囲のフクロウを操って、ギーシュの頭の上に糞を落としてやる。ざまぁ。
 ちなみに、そのフクロウは直後に跡形もなく爆破されて消滅した。おのれルイズ、動物虐待とは悪趣味な。

 そんなわけで、しばらく監視に集中する。
 すると、どうも奇妙なものが近づいてくる気配を感じ、僕は監視に使用しているフクロウやネズミを走らせた。何かが来る。酷くおぞましいものが。まあ、僕が抱えている『水神クタアト』ほどではないが。
 そんな風に思いながら、ぞわぞわと不愉快な気配を放ちながら近づいてくる何者かの姿を待ち受ける。隠す様子もなく接近してくるその気配には既にギーシュ達も気が付いており、とうの昔に臨戦態勢を整えている。

 やがて、サイズ的には人間よりも一回り大きい程度か、木々を掻き分けながら出現したそれは、あまりにも異形の怪物であった。
 ぶくぶくと膨らんだ異様な肉塊状の下半身から人に似た上半身を生やし、石膏像のようなエナメルの白色で塗り潰したような、二本の腕を持つ上半身の歪な人型のフォルムは、それが人型をしていること自体が人類という生命種そのものに対する冒涜にも見える。
 上半分がキノコのようにぶくぶくと膨らんだ頭部に顔らしい顔は無く、正面から見ればあるいは視覚器官なのかもしれない黒点が四つ穿たれており、その下には、それだけは人間と同じような方形の歯が生え揃った、人間と同じような口が開いており、知性の欠片もなく半開きにされたそれが人と似付かぬ醜悪な異形に対してなおさら人を連想させ、嫌悪感を掻き立てる。

 しかも一体ではない。無数、というほどではない。しかし数十体。単純戦力でいえば、メイジと一般兵によって構成されたこの世界の軍隊であれば為すすべもなく食い散らかされ、転生者でもそれなりの実力がなければ撤退を余儀なくされるほどのもの。
 だが、あいにくとギーシュはそんなものを一顧だにするようなレベルではないし、同行しているエドガーとて錬鉄竜騎士団の副長を務めるほどの実力者だ。加えて、ルイズの虚無魔法エクスプロージョンは言わば識別型マップ兵器、乱戦状態では何より威力を発揮する。
 そんなわけで、連中は異形の怪物もあっさりと瞬殺してくれた。ギーシュはともかく、ゲルマニア側の連中に一人くらい死者が出るかも、とは思ったものの、そこは副長の腹心として選抜メンバーに当てられるレベルの連中だ。そうそう簡単にやられるはずもない。

 にしても、ゲルマニアにも中々人材が揃っているようだ。偽弓兵の能力を見事に使いこなしているらしきエドガーと、残りの二人も、片方は分身して螺旋丸とか使っていたからおそらくNARUTO、もう片方は真っ赤な大剣を装備して、クロックアップじみた加速能力を発動させていた。
 とりあえず万華鏡写輪眼でNARUTOの技をコピーできたのが収穫である。まあ、NARUTO抜きでも分身できるし、攻撃力もエヌマ・エリシュの方が高いから、手に入れても正直あまり旨味がないのであるが。強いて言うなら、変わり身や変化の術なんかは役に立たないこともなさそうだが。



 まあ、何でもいい。とにかく探索を続けることにする。
 朝が来て昼になったので、ギーシュどもは何だか、ひどい、だの、外道が、だの、色々と悪態をつきながらヴァティカノ巡りを決行しているようだ。どう見ても不審人物です、本当に(ry。まあ気持ちは分からないでもないが、口に出すのはどうかと思う。まあ、口に出しても生きて帰れるだけの自信があるのだろうが。
 そんな光景を意識の端で捉えながら、もうひとつの知覚端末をオベリスクに向かって飛ばし────消滅した。鴉の横腹に奇妙な熱さを感じた直後、知覚端末である鴉は、何の前触れもない理不尽かつ正体不明の攻撃によって撃墜された。

「…………マジ?」

 正直、夜中にギーシュどもが戦っていた異形の攻撃手段が殴る蹴る噛みつくの三択しかなかったため、飛んでいけば大丈夫だろう、という驕りがあったのは事実。
 だが、少なくとも、敵は吸血鬼。蝙蝠や銃弾ならばともかく、まさかこんな攻撃手段を保有しているとは思ってもみなかった。

「……いくらなんでも、アレはないだろ、アレは」

 他の知覚端末の目を通して、撃墜された鴉の姿を確認。円形の穴が開いて腹から背中まで綺麗に貫通した傷口は炭化して塞がり、一滴の血も流れていない。それでも一応僕の本体である水精霊が入っているので動かそうと思えば動かせるのだが、さすがにここまでボロくなった鴉はあまり役に立たない。
 僕はこの傷口を知っている。シナリオ『オーバーフロウ』を計画した際に、兵装開発を担当するライン『スキュラ』によって立案された対転生者兵装の一つが、これと同じものだったのだ。超高速戦闘能力を持つ転生者に対して確実に攻撃を当てるために開発されたレーザー兵器。光速戦闘が可能な連中には当たらないだろうが、それでも十分に有効だと判断していた。

 だが、と思う。
 いくら何でも、吸血鬼にレーザーはない。個人的な感想として、吸血鬼の武器といったら蝙蝠に狼に霧にゾンビ、最低でも眼球から水鉄砲が限度だ。レーザーなんてSF兵器は、明らかに何かが間違っているとしか言いようがない。
 まあ、始めからレーザーを扱える転生者が後に吸血鬼化した、とか、あるいは僕やギーシュと同様の複数能力持ちである可能性だって否定はできないのだが。

 頼むから前者の可能性であってほしい。複数能力持ちの転生者なんて僕一人で十分だ。ギーシュはいらない。さっさと死ね。
 第一、オリオール辺りが言うとおりにこの世界が本当にゼロ魔の二次創作の中であるのなら、作者に当たる存在だって二人も三人も複数能力コンボを考えるのは骨だろうに。
 まあ何でもいい。ともあれ敵の武器の一つはレーザー。ハイパークロックアップであれば回避できるだろうか? どっちにせよ厄介だ。

 あるいは……もしかしたらの話だが、このレーザー、ヴァティカノのオベリスクと何か関係があるのかもしれない。


 赤々と燃える焚火を囲み、ギーシュ達は森の中でようやく横になったところである。ギーシュと取り巻きを除いた一同の間には重苦しい沈黙が落ち、それぞれが別々の思いに耽っているようだ。
「まさか、BETAがこの世界に存在していとはな…………」
 ぽつり、そんなことを呟いたのはエドガーだった。その頬を焚火の光が赤々と照らし、焚火にくべられた薪が弾け、炎の上に一滴の火の粉を舞い上げる。
「……べーた? 何よそれ?」
 怪訝そうな顔で訊き返したのはルイズだ。一方、彼女以外の他の面々はほぼ全員が転生者であり、彼ら全員が思い当ることがあったようだ。
「べーたって、あのBETAか!?」
 しばらく訳が分からないという顔で目をしばたかせてから、おもむろに気がついた様子でギーシュが確認する。エドガーのお付き二人も驚いたような表情をしているし、まあ、僕も同じ気持ちだ。


 BETAといえば、マブラブオルタナティブに登場するモンスター的な何かである。マブラブオルタ────元はマブラブとかいう正統派学園ラブコメ系のギャルゲーの続編だか何かで、地球が謎の宇宙生物に攻め込まれて、戦争の趨勢が決してほぼ人類オワタ状態になった辺りの話だったと思う。元が学園ラブコメであるだけにドギツイ印象を与えたのか、NARUTOやエヴァ、ナデシコなどと並んで二次創作が結構多い。
 マブラブオルタなんて僕にとっては二次小説とMAD画像でしか知らない代物で、BETAの正確な外見など知る由もないのだが、確か物量で押してくる敵だったと思う。あと、レーザー撃ってくる奴がいるらしい、としか。地球を征服できるレベルの戦力はあるらしいのだが。

 と、いうわけで、僕が記憶している限りの、BETAに知識についてまとめ。
 ・何か宇宙から来たらしい。原産地の世界では、宇宙のかなりの部分がBETAに征服されているとか。
 ・とにかく物量で攻めてくる。武器は肉弾戦が基本で、あとレーザー撃ってくる奴もいるらしい。巨大ロボと殴り合える奴と、一般兵の頭をマルカジリできる奴がいるらしいが、よく分からん。もっとデカいのがいたような気もする。
 ・単体での戦力はさほどでもない。バジュラと比べれば武装も貧弱だし、飛行能力もなかった……はず。
 ・ハイブとかいう巣をつくるらしい。ハイブの中にはBETAを統括する個体が存在していたはず。

 そんなわけで、エドガーがBETAについて説明してくれた。どうやら、僕の知識で大体合っていたらしい。あと、BETAの巣はハイブではなくハイヴらしい。


 BETAを召喚し、使役する能力というものがあるのかどうかは分からないが、ともあれこの場にBETAがいる理由は大体理解できる。
 以前、アルビオン動乱においてギーシュは、虚無属性魔法を使用できるルイズの世界扉を利用して、マクロスFの世界にゲートを開き、無数のバジュラを召喚して僕の物量に対抗した。
 そして、教皇ヴィットーリオが健在であるのならロマリアもまたギーシュと同様に虚無の使い手を擁しているだろうし、そうなると当然、ロマリアもまた世界扉を使用できるのは自明の理。あっさりと物量を調達できる手段があるというのなら、真似する奴は当然出てくる。連中はそれでBETAを召喚したのだろう。
 というかそもそも、世界扉は元々教皇ヴィットーリオの技だ。もしかしたらこっちのが先なのかもしれない。

 というか、まああれだ。BETAというのは箒型構造の何とか言って、バジュラ同様蟻や蜂みたいに個ではなく群で生命活動を行う種族だ。従って、頂点さえ押さえてしまえば、下の統率を取るのはさほど難しくない────はずだ。多分。
 というか、二次創作の知識さえはっきり覚えていないのであまりよくは分からないが、何にせよ、洗脳系の能力さえ持っているのなら、さほど難しいことではないだろう。

 にしても、BETAねぇ……BETAか…………。
 僕以外に物量に眼をつけた転生者がいるというのは何となく気に食わないが、とりあえず物量という分野で負ける気はしない。
 ただ、セクション『ネレイス』に関しては雑兵級の増産計画の頭数を増やすようにしておく必要があるかもしれない。一応念のため。


 水精霊の本体でそんなことを考えながらも、肉体に備わった脳髄に割り振った分割思考は手元の古書のページを手繰っている。

 ────魔導書『水神クタアト』。

 ジョゼフ王から僕に渡された、彼の計画における鍵の一つ。そして同時に、おそらくは何がしかの転生者が遺したのであろう、力そのもの。大洋の深淵に潜む水棲の怪異について示された魔導書だ。
 その魔術はクトゥルフやオトゥームを中心とした、水と氷を司る怪異の力を借りて行使する、それも直接破壊系の術が多い。だが、それは決して破壊しかできないということを意味しない。原作における『水神クタアト』の使い手が直接破壊しかやらなかったのはあくまでも使い手の趣味嗜好であって、決してそれに類する術がないというわけではない。
 召喚する鬼械神はクラーケン。分厚い装甲と高い出力を持ち、近接格闘に優れた重戦士型の鬼械神だが、さりげなく腕が伸びるギミックを装備している心憎い部分もある。
 属性的な相性の分も加算して総合すれば、比較的扱い易い魔導書だと思う。

「クトゥルフの魔牙の招来、レレイの霧の創造、忘却の波、深きものへの変容、深海の吐息、オトゥームへの嘆願、大いなるクトゥルフの夢への同化…………」

 一枚一枚、頁に記された呪法のタイトルを指先で手繰り、今の自分にも覚えられそうな、それでいて扱い易そうな術をピックアップしていく。正直な話、利用価値がありそうな術はそれほど存在しないのだが、実際のところ『オーバーフロウ』のためにデモベ的魔術師としてのレベルを上げなければならないため、覚えられそうなのは全部覚えておきたい。
 それに、キャスターのスキルである高速神言スキルはデモベ系魔術に対しても有効なようで、今まであまり役に立ってこなかったスキルが役に立つのは結構嬉しい。


 ああ、でもあれだ。
 どうも致命的な何かが足りないと思ったら、あれだ。タバサだ。徹底的にタバサ分が足りていない。
 タバサのあの細くて柔らかい体を抱きしめたい。清らかなのに妖艶な矛盾を孕んだ瞳が、襟元から覗く白くて細いうなじが、小さくても熱く蕩けるような唇が、さらさらのショートヘアが、慎ましやかなのが余計に背徳感を煽る胸が、細くて幼いのに誘っているとしか思えない腰回りが、とにかくタバサの何もかもが欲しくてたまらない。やばい禁断症状出そうというかもう出てる。
 ……仕方がないので、ギーシュにはさっさと事を終わらせてほしいと思う。


 一晩寝て、肝心なミスに気がついた。
 せっかくゲートオブバビロンの屋敷宝具の中にいて人目がないのだから、転送障壁でタバサの部屋と繋いでおけばよかったのだ。
 ……早い内に気付いておけば、わざわざ錯乱する羽目にならなかったものを。




 転送障壁を抜けた先は見慣れた小部屋だった。質素ながら清掃も行き届き、基本的に家具も少なく質素だが、最近は洒落た小物の類なども増えてきた。トリステイン魔法学院の学生寮の、タバサの個室である。
 ハンガーに掛けられた衣装なども大抵は二人してデートした時に買ったもので、服の一着一着が僕とタバサの二人で選んだものだ。
 珍しい事に、ベッドの上には脱ぎ捨てられた服が丸めて放り出されている。いつもは綺麗にしているのに、珍しいことだ。あるいは、本当はこっちが本性で、僕がいるときだけ見栄張って片づけていたのか。もしそうだったら嬉しい。彼女にとって、僕が特別な存在であるということだから。
 乱雑に放り出されている服を見て片づけておこうかとも思ったが、今はタバサがいないことには耐えられない。早く探しに行こう。

 結局、部屋の中にタバサはいなかった。それだけで、何となく胸の辺りにぽっかりと穴があいたような、何か致命的なものが欠落しているような違和感に襲われる。
 部屋の中に籠る生活感というのは特別なものだ。誰もいない室内に、少女がいたという気配が濃厚に刻まれている。それは、毎日の生活によって刻まれる生活の軌跡であり、その人物がそこで生きていたという事実の堆積だ。
 この空間にタバサがいたという事実が、胸の中にわだかまる虚無感をわずかに埋めてくれる。だが、やはり足りないのは事実だ。


 認識阻害の魔術を展開、空間転移を使って移動する。移動先は図書館、にしようと思ったが、学生寮の僕の部屋だ。転生者がぞろぞろと存在するこの学院でそんな真似はあまりしたくない。
 なら寮ならいいのか、という話だが、タバサの部屋には陣地作成スキルで工房級の防備が敷いてあるし、僕の部屋に至っては神殿級の防衛力を付与している。
 最初は転生者バレするのが怖くて何もやらないことにしていたのだが、既にバレているのが分かったのでしっかりと陣地を敷いた。魔術系スキル持ちの転生者だとバレるだろうから手札を曝す愚は避けたかったが、転生者の拠点に何の防備も敷かずに置いておくのは、特に僕のような戦略性>個人戦力なタイプの転生者にとっては致命的だ。
 リスクとメリットの天秤にはしっかりと手綱をつけておくべきだ。さもないと………………ギーシュみたいになる。

 そんなどうでもいいことを考えながら、僕は久しぶりに自室へと踏み込んだ。
 幕の掛けられた本棚と実験器具、部屋のそこここに置かれた空き箱に適当に放り込まれた衣類や生活雑貨。いつも通りの風景だ。
 その中心に、そこにいることこそ何よりも自然であると言わんばかりに、ベッドの上で一人の少女が眠っていた。ベッドの上に掛けられたシーツをぎゅっと握り締め、どこか寂しそうな寝顔でくぅくぅと寝息を立てる少女の頬をそっと撫でると、少女の顔が少しだけ安らいだ。
「…………ぅん」
 わずかに開いた唇から洩れた声に、どことなく喜びを感じる。久しぶりに聞くタバサの声が、胸の辺りに開いた空隙を満たしていく。
 タバサの声、タバサの肌、タバサの髪、タバサの体温、タバサの息遣い、全てが艶めかしく僕の感覚を埋め尽くして思考を覆い尽くす。
「タバサ」
「……フェルナン」
 細い未成熟な肢体を抱き上げると、少女の瞳が開いた。澄んだ湖のようなアイスブルーの瞳に吸い込まれるような感覚を受けて、僕はその感覚に逆らう事無く、少女の唇に自らのそれを重ねていた。

「……夢?」
 可愛らしく小首をかしげて呟くタバサの頬を軽くつまんでみる。うわ、何というか、やわらかい。
「……痛くない。つまりこれは夢」
 何やら自己完結したらしく頷いたタバサは、こちらを押し倒すように馬乗りになってくる。羽でも乗せたような柔らかい重みが僕の腕の中にある。一日ぶりに味わう充足感に深々と溜息が漏れる。
「夢でも、傍にいてくれて嬉しい」
 僕の首に腕を巻きつけるようにして抱きついてくる少女は、頬擦りというよりは体全体をすり寄せるようにして僕の頬に首筋に口付けを繰り返す。いつになく積極的なのは、現状を夢と勘違いしているせいで、普段は恥ずかしくてできないことができるようになっているからか。いつもはナニのクライマックスでもなければ見られない幸せ一杯の表情を自然に出しているタバサは、もうこれはこれでどうしようもなく可愛らしい。
「ん……フェルナン、フェルナン……好き。大好き。愛してる。……傍にいて。抱きしめて。離れないで。離さないで。フェルナン……フェルナン…………」
 うわごとのように続けながらキスを繰り返すタバサの目の端に涙がにじんでいるのに気がついて、心臓の辺りにどこか重苦しいような感覚が生まれるのを感じた。それすらも苦痛なのか快楽なのか、あるいは純然たる歓喜であるのか、判別がつかない。ただ、その辺りから何か濁流のような衝動が噴き出して、あまりにも暴力的なそれに押し流されるようにしてタバサを抱きしめる腕に力が入る。
 キスを続けようとする少女の頬に手を添えて、唇で触れようとした首筋から引き離すようにしてその顔を持ち上げると、タバサはいやいやをするようにして首を振って僕の手から逃れようとする。その抵抗を捻じ伏せるようにして手にわずかに力を込めると、僕は熱くやわらかい吐息を漏らすタバサの唇に、もう一度自分の唇を重ねていた。
 濡れた音が立て続けに響き、その音に脳裏を埋め尽くされるようにして、舌先で相手の唇に割り込んで、その中に通う息吹を啜り取るようにして口の中を蹂躙する。
 離れまいと力が込められていた少女の腕から、安心したように力が抜けた。タバサの方からも求めるようにして伸ばされてくる舌を絡め取って、唾液を流し込むようにして唇を重ね続けていると、少女の息遣いが少しずつ浅く速いものになっていくのを感じる。その息遣いすら奪い取るように唇を重ね続けていると、やがてその体が震えるようにして硬直し、くたりと脱力する。
 だが、離さない。
 足りない。全然足りない。重ねた唇を離さずに、戻っていこうとする舌を捕らえるように絡め取り、口の中を蹂躙する。薄目を開けて確認すると、タバサの幼くもどこか気品のある顔立ちの中心で、驚いたように見開かれた目の端から一滴の涙が零れ落ちるのが薄っすらと見えた。自然、腕に力がこもる。弱弱しく身をよじって逃れようとするタバサを離さない。少女の意思に反して漏れる嬌声が唇の中でくぐもった声になって、二人ではやや手狭な寮室の中に響く。
 タバサの背中に回した手が、幼さを残した腰のラインを撫でると同時、タバサの下腹部の辺りから全身に震えが走り、タバサは全身で硬直と脱力を繰り返して痙攣を続けている。もうそろそろ離さないとまずいのではないかと思う一方で、足りないまだ足りないと耳元で渇望が絶叫する。僕は時間の感覚もなくすほどにタバサの唇を貪り続けた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
 唇を離すと、つ、と唾液が糸を引いて銀色のアーチを作り上げる。全身から力が抜けて崩れ落ちたタバサをそっと抱きしめると、タバサは朦朧とした表情を浮かべたまま体を寄せてくる。力が抜けた腕で抱き合ったまま、僕たちはしばらく呼吸を整えていた。
「…………」
 そのままでどれだけ時間が流れたのか、ようやく我に返ったタバサが体を離して、キスの合間に流れ落ちた涎でべとべとになった胸元を隠しながら上目遣いでじっと見つめてくる。
「……夢じゃない?」
「ああ。現実だよ」
 それだけ聞くと、タバサは耳元まで真っ赤になってベッドの中に潜り込んでしまう。タバサが潜り込んだ布団の中に手を入れてさらさらしたショートカットの髪を撫でながら、僕はいろいろと事情を説明していた。シャルロットと再会した時と比べて、少しだけ髪が伸びている気がする。どこらへんが恥ずかしかったのか気になるが、多分最初から最後まで何もかもだろう。


 ま、そんなわけで、だ。


『忌まわしい吸血鬼め……お前たちがこの大地に振り撒いてきた悲しみと怒りの数々……今、ここで清算してやる!!』
『面白い! やれるものならやってみろ!! だが、そう簡単に行くと思うなよ!!』

 ハイヴの地下およそ一万二千メートルの地点に存在する大空洞の中心で向かい合っているのは、いつも通りの黄金戦士ギーシュと、そしてもう一人の男が向かい合っている。
 ロマリア枢機卿ヴィルジリオ・ラファエーレ・ガラヴェンタ。このロマリア連合皇国を支配する男の名だ。
 まるで美女のように長く波打った美しい金髪に、白過ぎるほど白い病的な肌。その双眸は、毒々しい程に赤い、海のような鮮血を煮詰めて出来上がった灼熱の恒星のような色をしていた。

 そんな光景を、僕はタバサを膝の上に乗せ、大スクリーンで観賞していた。知覚端末として虫や小動物を這い込ませるのは厳しかったので、水蒸気に変化させた水精霊の一部を空調に紛れ込ませて、相手を監視下に置いている。
 脇に置かれた卓の上にはゲートオブバビロンから取り出した宝具級の酒とつまみが置かれており、自分と相手の立場の差を大いに表している。

「何というか、何とも、あれだな。勝てると思う?」
 ギーシュが、ガラヴェンタに、だ。
「……分からない」
 タバサは首を傾げて答えを返す。妥当な答えだ。ギーシュの能力は強い。圧倒的なスペックと、絶対的な防御力を兼ね備えている。特殊な能力は圧倒的な地力で捻じ伏せ、強大な力はその防御力で弾き返す。
 中でも厄介なのがアヴァロン。六次元までのとにかくありとあらゆる干渉を無力化する、最強の鎧だ。この間の戦いでその守りを破る糸口は見えたものの、それも不完全とは言い難い。
「だからこそここで試しておく必要があるんだろうが……面倒だな」
 それに不安でもある。僕は背後に鎮座している大型の培養槽を見上げる。これこそ今回の作戦の要でもあるのだが、相手に勘付かれないか、少々不安でもある。
 培養槽の中では、巨大な脳髄が何も言わずに佇んでいた。



 言語によって始められた激突は、圧倒的なエネルギーによって本格的に幕を上げられた。
 黄金の閃光が地下空間を駆け抜ける、その一歩上を飛翔して回避したガラヴェンタの頭上、何も存在していないはずの空間に、真紅の大剣を手にしたゲルマニア転生者がいきなり姿を表し、その刃を振り下ろす。ガラヴェンタが顔を上げた時にはもはや回避は不可能、それほどのタイミング。しかし、その程度で斃せるほどにガラヴェンタは弱くない。

「ザ・ワールド!」

 ガラヴェンタの叫びが地下の大空洞に響くと同時、真紅の刃の下にあったその姿が消失し、それを振り上げていた転生者の背後に再びガラヴェンタの姿が出現する。
 だが、彼らとて無為に敗北するだけの噛ませ犬ではないのだ。おそらくは相当に蓄積された戦闘経験から、回避されることすら計算に入れていたのだろう、無数に分身したNARUTO転生者がそれぞれに追撃の一斉攻撃を掛ける。六体の分身が前後左右上下から螺旋丸を構えて飛び掛かり、それを取り囲んだ数十体が一瞬の内に無数の印を結び、無数の風の刃を含んだ竜巻を放つ。さらに飛び込んだ数百体の分身が大型の手裏剣に変化して、高速回転しながら自ら竜巻の中に飛び込んだ。風と鉄の刃を孕んだ竜巻は、あらゆるものを切り刻む弾幕となってガラヴェンタに向かって襲い掛かる。
 それを残さず切り払ったのは、つい先ほど先手を打って刃を振り下ろした真紅の大剣の転生者だった。超高速で振り回される大剣の前に竜巻さえもが切り裂かれ、消滅する。

「マンフレート、貴様血迷ったか!?」

 偽弓兵のバルシュミーデが叫びを上げるが、マンフレートと呼ばれたその転生者はそれを鼻で嗤うと、バルシュミーデに向かって手にした大剣を突き付ける。

「どうかな? もしかしたら、始めから裏切っていたかもしれないぞ? それよりも副団長、アンタもガラヴェンタ様に仕えるつもりはないか!? 世界のあらゆる全てから解き放たれるこの、悦楽!! 人として生まれたからには、一度は味わってみても損はないと思うぞ!?」

 というか、あの偽弓兵も本当によく部下に裏切られるよな。
 とりあえず、ガラヴェンタの能力はザ・ワールド的な意味で時間停止である可能性が高いので、僕とガラヴェンタの間に相似の銀弦を通しておく。これでもし彼が時間の停止した世界の中で動こうとすれば、同時に僕も停止した時間の中での活動が可能になる。一応僕にも時間停止能力はあるが、先手を取って時間を止められたら対抗してこちらも停止時間の中を動く事ができる自信は僕にはない。
 まあ、マンフレートとかいうあの転生者の様子からして、多分ガラヴェンタは洗脳能力を持っているんじゃないだろうか。そうなると、ガラヴェンタの能力はDIO一択ではないかと思う、のだが。ザ・ワールドによる時間停止から肉の芽のコンボで。複数能力でなければ、だが。

「ふざけるな! 何が悦楽だ! 罪のない人たちを傷つけるだけの行為が楽しいだなんて、マンフレート、アンタはそんな人間だったのかよ!!」

 ギーシュが叫んで叩きつけるようにして双剣を振るい、マンフレートはその切っ先を身の丈ほどもある大剣で軽く受け流し、瞬時に背後に回って反撃に転じる。ギーシュの性質上掠り傷を与えることすらできていないが、触れれば断ち切られるどころか一撃で挽肉の塊と変じるような威力を持った斬撃だというのに、それを無傷で受け流すその剣技、ランスロットにすら容易い技巧ではない。

「罪のない? 違うな! 平和に、幸福に生きている事それ自体が、彼らが罰せられるべき最大の罪なのだ!」

 ギーシュの叫びを断ち切るようにして、ガラヴェンタが叫び、呪文を放つ。巨大な真空の大断層が圧倒的な大気の大瀑布を発生させる、その威力は先程のNARUTO転生者の比ではない。

「どうしてだ! 人を笑顔にする事が! 人をしあわせにすることが、罪であるわけがない!!」
「それこそが傲慢だ! かつて、地球でお前たちが何気なく口にしていた食物、身に纏っていた衣服、つまらないオモチャでさえ、お前達の目の届かないところで暮らしていた弱者の生活を圧迫して作られたものだ! そんな事も知らず! 知っても目を向けず! 何もせず!! 平然と平和を貪っていた貴様らに、生きる権利などあるものか!!」

 ギーシュの剣から放たれた黄金の奔流が、ガラヴェンタの手から放たれたドス黒い閃光と激突する。驚いたことに、その威力は完全に互角。ガラヴェンタの使っているのは何らかの魔術、それも核融合を発生させるものだが、これほどの威力を持つものは珍しい。
 にしても、この男は何を言いたいんだ? 日本人の生活事情と、ハルケギニア人の生活事情なんて完全に違うだろうに。そんなことを考えながら、ギーシュの宝具とガラヴェンタの魔術の連続激突をぼーっと観賞する。何とも、派手な光景だ。

「お前は、前世において一度でも、外の世界を見たことがあるか!? 日々の糧を手に入れるために命を賭け、体を売って、ようやくパン一つが一日の食糧になる、そんな人々を知っているのか!? 平和という言葉の意味さえ知らず、聖戦などといって一人でも人を殺して天国に行く、それだけの希望しか持つことができない子供たちを知っているのか!! そんな子供たちの面倒を見て、死のうとする子供たちを必死で引き留めて、泣いていたら抱き締めて、必死で頭を絞って子供たちを慰めて、ようやく笑顔を見ることができた、その瞬間に空爆で全てを消し飛ばされた、そんな経験が一度でもあるのか!! お前は何を知っているんだ、答えろ、ギーシュ・ド・グラモン!!」
「だったら、それを知っているアンタは、何をできるって言うんだ!! だからみんなを傷つけるっていうのか!? 奪われたからまた奪って、罪のない人を踏みにじることが許されるっていうのか!? そっちこそ答えろ、ヴィルジリオ・ラファエーレ・ガラヴェンタ!!」

 ヴィルジリオの両肩と腹部に巨大な鬼神の顔が浮かび、それぞれの顔が独自に魔術を発動、本来のヴィルジリオの魔術行使と併せ、四つの極大呪文を解き放つ。手数は力だ。しかも詠唱抜きで魔力を直接コントロールしているらしく、それを同時に四つ並列で繰り返すため、その攻撃速度は相当のものになる。
 その威力はもはや爆撃に等しく、おそらく高速戦闘能力を持っているのだろうマンフレートを除く、バルシュミーデやNARUTO転生者は足手まといであろうルイズとアリサを守るので精一杯だ。さらにはその隙間を縫ってマンフレートが攻撃を仕掛けてくるため、さらにその難易度は跳ね上がる。
 だが、そんな足元の様子を完全に無視して、ギーシュとヴィルジリオは激突を繰り返す。その衝撃が地下空洞を揺るがし、遠雷のような不吉な唸りとなって響き渡る。

「赦されるとも! 私は全てを、この世界の全てを救済する。この世界からありとあらゆる“戦争”を奪い尽くすことによって! BETAという力によって! ────見ろ!!」

 ラ・ロシェールの宣戦布告と似たようなことを言っている、などと思う暇もなく、地下空洞の天井に開いた、ハイヴの地上構造体の最上部にまで続く縦穴を通して、蒼く輝くハルケギニアの双月の片割れが見える。その月の表面で何かが輝き、おそらくはそこに存在しているであろうハイヴから何かが射出される。巨大な卵のような、隕星のような何かが、合計で五つ。それが膨大な衝撃波を撒き散らしながら、月面ハイヴの主縦坑を砲身として、上空へ、地上に向かって射出されていく。
 邪悪を目一杯に詰め込んだ流星が夜空を走ると同時、ギーシュとガラヴェンタはその輝きすらも引き裂いて激突を繰り返す。

「BETA……こんな力まで使って、何を成し遂げるつもりだ、ガラヴェンタ!」
「決まっている。BETAのハイヴの元となる降着ユニットを射出したのだ。標的はまず、貴様に味方したゲルマニアの各都市、及び首府ヴィンドボナ!! 次の標的はトリステイン、そしてガリア、エルフ領だ。人類はBETAによって管理されることによって、永久に戦争という悲劇から解放される!!」

 ……その発想はなかった。
 確かに、BETAを使って世界を征服すれば、この世界においてこれ以上の戦争は無くなるだろう。だが、その代わりにこのロマリアが世界を支配する。それだけでも、灰色どころか思いきり一直線真っ黒な未来予想図を描くことができるだろう。要するに、全世界が今のロマリアと同じになるということ。
 確かに、これ以上高効率の統治手段はないだろう。
 だが、無駄。
 多分、それが上手くいったとしても、多分こいつは潰される。狂王ジョゼフという怪物に潰される。彼には勝てない。たかだかBETA“ごとき”では。
 まあ、あれだ。好きにしてくれ。興味はない。

「そんなことが許されるものか! たとえ誰が許しても、そんなことは俺が許さない!! どんな大義名分があろうと、罪のない人々を巻き込むような権利は、どこの誰にもありはしないんだ!!」

 そうか? まあどうでもいいが。
 なら、罪がなくて数が揃っていれば、少数派の罪人を踏みにじっていいという理屈になるんだろうか? それに、権利がない程度で諦めがつくような願いであれば、それはその願いがその程度でしかないということだ。まあ、今さらどうでもいいことだが。

 ちなみに、権利ならある。ガラヴェンタが事実上の国家元首である以上、国内であれば平民や下位の貴族を意のままにする権利はロマリアの国法で保障されているし、国外については、ロマリアが軍を保有しており、それがガラヴェンタに掌握されている、ということから、軍を保有するということそれ自体が国益のために国外の人間の生きる権利を侵害することである、ということでもあって、それもまたロマリアの国法で保障された当然の権利である。

「下らん! それが罪であろうとなかろうと、成し遂げると私が決めた!! 全ての罪は私が背負い、全ての咎も私が背負う!! だが、この壮挙だけは絶対に成し遂げる! たとえいかなる障害が立ち塞がろうとだ!! ────魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス)!!」

 全身に地獄の業火を纏いながら、ガラヴェンタがギーシュに向かって突貫する。同時に牽制としていくつもの超魔術を連射しながらの突貫は、ギーシュといえども完全に回避するのは難しい。だが、ギーシュはその回避を完全に捨てた。

「なら、来い! だったら、俺がその痛みと嘆き、全力で受け止めてやる!! おぉおおおおおおおおおおぁああああああああああああああああ!!」
「受け止められるか、私の使命が、大望が!! その身一つで止められるような軽々しいものだと、愚弄する気かぁああああぁあああああああああああああああああああああああっ!!」

 一直線の劫火となって突撃するガラヴェンタに対して、ギーシュは実に纏った黄金のオーラを膨張させて対応した。同時にギーシュの影の中から、ラ・ロシェールとアルビオンで見た漆黒の巨兵が出現し、ギーシュの魔力炉心がその巨兵の中枢と共鳴し、爆発的に魔力を高めていく。

「右手に魔力、左手に気!! うォおおおおおおおおっ!!」

 ギーシュの右腕に、巨兵との共鳴反応によって膨れ上がった魔力が収束していく。同時にその左腕には全身に纏った黄金のオーラが集中していく。その両手を掲げ、組み合わせてギーシュが何かをしようとした刹那、ガラヴェンタが叫んだ。


「ザ・ワールド! 時よ止まれ!!」


 その刹那、世界がモノクロに染まり、全てが静止した。
 激震していた大空洞も今はその震動を止め、バルシュミーデやルイズを圧迫していた爆裂ですら凍りつき、ギーシュもまたその動作を止め、その切り札も発動する直前のままで停止している。全てが凍てついた時間停止の世界の中で動く事が出来るのは、時間を停止させたガラヴェンタと、そして彼と同調していた僕だけだ。
 その凍りついた時間の中で、ガラヴェンタはおそらく最大の威力をもつであろう呪文を発動する。膨大な魔力が荒れ狂い、次元すら揺るがしてその力が解き放たれる。


「────超原子崩壊励起(ジオ=ダ・スプリード)!!」


 好機。そう判断した僕は軽く指を鳴らし、背後に存在した巨大脳髄の機能を起動する。この脳髄こそ、かつて死亡した偽一方通行から採集した細胞サンプルをベースに精製したブラスレイター・ホムンクルスをさらに培養して形成した、いわば一方通行式演算機関。
 生体コンピューターとしても桁外れの性能を持つ上、ホムンクルスは細胞サンプルを採集した素体の記憶を持つため、本来脳開発によって獲得される禁書系超能力であるベクトル操作能力すら保有するが、これが鍵。
 禁書原作において一方通行が学園都市無敵を誇り、全ての超能力者の攻撃を無効化できると豪語され、その中に十一次元に及ぶ時空間の演算がどうたらとかいう話だった空間転移能力者が含まれる以上、一方通行の能力で十一次元のベクトルを操ることができるはずなのだ。
 しかし、アヴァロンの絶対防御を破るための十一次元跳躍のベクトルを記憶することができず、アルビオンにおいては実戦投入することができなかった。
 しかしそれも、鑚心釘の空間跳躍のベクトルを覚えさせることによってもはや完璧に解消された。

 そして、今こそその力を解放する。
 大空洞に漂わせた水精霊の霧の知覚力を通して、ガラヴェンタが発動させた超魔術の持つベクトルに干渉する。ベクトルを捻じ曲げ、束ね、運動量を収束させて有り得ない角度を蛇行させ、十一次元を跳躍させてアヴァロンの守りを突破する。
 対象を原子レベルで分解し、霊的・魔術的なレベルにおける存在すら消滅させる超破壊力の魔術が、黄金のオーラを纏う超戦士に向かって襲い掛かり、そして。


 何の効果も表わさずに霧散した。


 ギーシュの体表に触れた瞬間に、魔術の源である魔力そのものが完全に無効化されたのだ。おそらくはこれもまた、ギーシュの能力。
 まあ予想通りといったら予想通りなんだろうが、魔法無効化能力。空間系効いたっけ?
 始めから予想された結果でしかないとはいえ、さすがに忸怩たるものがある。宝具も魔力を使っているからして、ゲートオブバビロンの宝具すら無効化される恐れもあるし。これで、ギーシュを打倒し得るのは魔力に頼らない科学系の攻撃くらいのものになった。だが、非魔法系でそこまでの威力のある攻撃、そんな能力なんてあっただろうか。また頭の痛い問題だ。

「何……だと……」

 自らの力を完全に無効化された衝撃に放心していたガラヴェンタの前で、さらに衝撃的な光景が現出する。時間停止に巻き込まれて停止していた漆黒の巨兵が、この何物も動くことを許されない凍てついた時間の中で、自ら起動したのだ。
 巨兵の中枢が唸りを上げて魔力を放出し、巨兵から幼い少女とも、老い衰えた老人ともつかない声が、言葉が響く。

『闇より暗き深淵より出でし────其は、科学の光が落とす影!』

 漆黒の装甲を纏った巨兵の全身から漆黒の魔力が噴き出し、それが膨大な重力を撒き散らしながら時空間を捻じ曲げ、時間停止の束縛から自らを解き放つ。超重力の井戸、ブラックホールの奥底は時間が停止した空間だとか言われている。ならば、重力を操るその機兵が停止した時間の中で稼働することも自然の成り行きということか。
 しかし、それはもう一つの致命的な事実を意味していた。巨兵が動く事が出来るのであれば、それと同調しているギーシュもまた動く事が出来るのは自然の理。
 その事実を目にしたガラヴェンタの眼が、再び力を取り戻す。全てを灰に帰す超魔術の術式を編んで、再びギーシュに向かって攻撃を再開する。だが、ギーシュに対して一切の魔術は通じない。

「ギーシュ・ド・グラモン! 貴様は私の使命が間違っていると言った! なら、貴様にこの世界が救えるのか! 誰も傷つけずに、人々を救えるのか!? 戦う力しか持たない貴様が!!」
「救ってみせる! みんなも、世界も!! 確かに俺には力が足りないかもしれない!! だけど、強い仲間がいる────!!」

 ギーシュの右手に集まっていた魔力と、左手に集められていた気、それが融合し、爆発的に膨張して莫大なエネルギーとなり、ギーシュの全身を駆け巡る。それらはギーシュの両手に握られていた双剣に流れ込み、純然たる黄金の破壊エネルギーとなってガラヴェンタに向かって襲い掛かる。あらゆる魔力を無効化するギーシュの能力を上乗せされた黄金の輝きは、ガラヴェンタが幾重にも纏った防御魔術の守りを根こそぎ粉砕し、一瞬で消し飛ばした。


 光が収まった後も、ガラヴェンタはその場に立ち続けていた。その半身は焼け爛れ、左半身は根こそぎ消し飛ばされ、何も存在しないただの穴となっている。
 そんな状態で彼は立ち続けていた。
「ガラヴェンタ……あんたは…………」
 ギーシュが声を掛けると、彼はギーシュに虚ろな目を向けた。
「ギーシュ・ド・グラモン。お前は世界を救うと言った。その心は、変わらないか?」
「ああ。俺は、必ず世界を救ってみせる。誓うよ。俺の、一番大事なものに賭けて」
 その言葉を聞くと、ガラヴェンタはギーシュに残った右手を差し出した。その手の上に乗せられていたのは、鮮血のように赤く輝く七つの宝珠だ。
「俺がこの転生で手に入れたものだ。俺には一つしか使えなかったが…………もしかしたら、お前になら七つ全てを使いこなせるかもしれないな……」
「いいのか?」
「ああ。お前は、お前のやり方で必ず、この世界を救え。俺に出来なかったことをやってみせてくれ。……頼む」
「ああ。あんたの心は、俺が持っていくよ」
 宝珠を受け取ったギーシュの言葉に、ガラヴェンタは満足げに溜息をついて目を閉ざした。
「ああ……良かった。これで、何もかもがきっと上手くいく。ハサン、アフメド…………よかった、迎えに来てくれたのか…………ああ、眠くなってしまったな。悪いな……少し、寝ることに……………………」
 ギーシュは、ガラヴェンタの言葉を最後まで聞くことなく、彼に背を向けて歩き出す。振り返らないギーシュの姿に、ガラヴェンタは気付く事もない。もう二度と、気付くことはない。



 なんて、な。
 アイツのロマリア旅行の結末はまあこんなものだろうが、僕にはまだやることがある。
 たったこれだけでは終わらせない。終わらせてやらない。



 ぱちぱち、とおざなりな拍手が大空洞に響く。それに釣られるように、ギーシュ達一行が振り返ると、そこには分厚い黒のローブを身に纏った人影が立っていた────なんて、要は相似魔術で大気を歪めて映像を作っているだけなんだが。要はラ・ロシェールと同じだ。ついでに音声も付けてやろう。

『さすがだな、ギーシュ・ド・グラモン。人の掌の上で踊るのは愚者の所業だが、舞踏にもまた才能というべきものが存在する。褒めてやろう。まさに貴様はダンスの天才だ』

 わざとらしく鼻で嗤ってやると、ギーシュの顔が面白いように歪む。ざまぁ。

「……何が言いたい!?」
『貴様は踊らされていたに過ぎないということだよ。貴様も、トリステインも、ゲルマニアも、そしてこのロマリア、このヴィルジリオ・ラファエーレ・ガラヴェンタも、な』
「貴様ァああああああああああああ!!」
 激昂して拳を振り上げるギーシュの肩を抑えてバルシュミーデが前に出る。こっちは多少冷静なようだ。
「貴様、何者だ?」
『ガリア北花壇騎士団』
「ガリアだと……!」
 僕の答えを聞いてバルシュミーデが顔色を蒼くする。まさに大暴露。こいつらには、王様のアレを何とかしてもらわなければならないのだ。
『お前達のお陰で、我々はゲルマニアとロマリアを一切の犠牲を出さずに攻略させてもらった。後は、陛下の計画さえ成就すれば、この世界は我々のものになる』
「計画だと!? 何をするつもりだ!?」
 バルシュミーデを押しのけて前に出たギーシュが叫ぶが、そこまで教えてやるつもりはない。というか、さりげなくガラヴェンタの死体を脚で押しのけている。気付いていないのだろうか。だが、まああれだ。これくらいは言ってやろう。
『見ていれば分かる、と言っておこう。もっとも、貴様らがそれまで生きていられればの話なら、な』
「……何が言いたい?」
『我らが陛下は、貴様らとの決戦をお望みだ』
 軽く指を鳴らす音を流すと同時、ローブの男の立体映像の隣に薄灰色に輝く転送障壁が出現する。躊躇なく踏み出そうとするギーシュをバルシュミーデが抑えようとするので、あらかじめ釘を刺しておく。
『ああ、恐ろしいなら、それでも構わんぞ? ここで怖気づいて帰るようなら戦う価値があるとも思えない、と陛下は仰っている』
「ふざけるな! 勇気とは恐怖を克服する心、邪悪を打ち砕く正義の魂だ! お前たちみたいな卑怯者に怯えて逃げ出す事など、絶対にありえない!!」
「そうよ! 私が一番よく知っている! お兄様は今までずっと、お前達の見えない手と戦い続け、そして勝利し続けてきた! あんた達に敗北することなんて、絶対にありえない!!」
 ギーシュの言葉にルイズは深々と頷き、ギーシュの手を差し出した。バルシュミーデの手を振り払ったギーシュがその手を握り締めると、ギーシュとルイズは何のためらいもなく転送障壁へと飛び込んでいった。その後に舌打ちしたバルシュミーデと配下のNARUTO転生者も続く。
 それを確認すると、僕はおもむろに転送障壁を解除した。後は何の用もない。この程度で死んでくれるギーシュとも思えないが、他の仲間たちは別問題だ。

 …………ところで、ギーシュっていつ勝利したっけ?

 まあいい。
 実はこの転送障壁は、決戦場になど繋がってはいない。大量のディエンドライバーを使って召喚した龍騎系のライダー数百人が熱烈歓迎してくれるとはいえ、その行き先はどこにも繋がっていないただのミラーワールドだ。
 ミラーワールドに転送されれば、龍騎系のライダーデッキを装備していない生身の人間は粒子化して死んでしまうのである。防御力とかそういう問題ではなく、物理法則的なアレなので、防御とか回避とか全く意味無し。アヴァロン持っているギーシュは別だとしても、ゲルマン人二人はそうもいくまい。
 さて、戦利品の回収といこう。ガラヴェンタの死体と、いつのまにか岩に叩き潰されていたマンフレートの死体をモット邸地下大神殿へと転送し、その場から立体映像を消去した時、何もない虚空に誰かの声が響いた。年老いた老人のような、あるいは幼い無垢な少女のような、唸りを上げる機械のような異形の声。

『闇より暗き深淵より出でし────其は、科学の光が落とす影!』

 同時、何も存在しない虚空に漆黒の重力塊が出現し、見る見るうちに肥大化して、直径数メートル程度になってから唐突に消滅する。重力球の消滅した後に立っているのは、明らかに衰弱したルイズと気絶したアリサを抱え、漆黒の巨兵を背後に置いたギーシュ一人だ。
 ギーシュが脱出してくるのは予想通りだとして……あれ? ルイズとアリサが生きているのに、ゲルマニア人二人は?
 そんなことを考えながら僕がミラーワールドを確認すると、どうやら置き去りにされているらしい。バルシュミーデだけどうも粒子化のペースが遅いので、何らかの魔術霊装らしき赤コートを引っぺがしてみると、コイツも普通に粒子化を始める。可哀想なので二人ともきっちり止めを刺してから死体を回収。ざまぁ。

 ルイズが体を起こすと同時、ギーシュの背後に置かれていた漆黒の巨大兵器が、ゆっくりと膝をつき、地面に向かって崩れ落ちた。それを見たルイズが顔面を蒼く染める。明らかに電池切れか何かを起こしたようだが、一体何の騒ぎだろうか。
「お兄様、これは…………っ!? モンモランシーは? モンモランシーはどうしたんですか!?」
 慌てて身体を起こし、漆黒の鋼鉄の塊に向かって駆けよるルイズに向かって、ギーシュは感情の読み取れない虚ろな表情で首を振る。
 何となく、話が見えてきた気がする。ギーシュの第三の能力は、アスラクラインの機構魔神“黑鐵”だ。その燃料である副葬処女(ベリアル・ドール)となって封じられていたのが、今まで一度もそれらしい姿を見かけなかった原作キャラにして原作におけるギーシュ・ド・グラモンの幼馴染みことモンモランシー(フルネーム忘れた)なのだろう。で、その魂を、今さっき、ちょうど使い潰した、と。
 まあ、あれだ。ここは幼馴染みを喪って打ちひしがれるギーシュざまぁと言ってやるべきなのだろうが、どうにも違和感が拭えない。何というか、どうも肝心な何かを間違えているような気がしてならない。


 そんなこんなで、僕のロマリア旅行は終わりを告げた。
 何というか、えらく釈然としない終わり方だったような気がする。




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おまけ的なもの:23終了時のキャラクターステータス一覧
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※各能力値解説
 Aが最高でEが最低。Aは最強やそれと渡り合えるほどの格であり、Eは全く役立たず。ランクに+が付いているものは、ランクが低くても条件次第で上位ランクと渡り合えるものを指す。逆に、-が付いている場合は、ランクが高くとも何らかの条件でランクダウン、あるいは全く使えなくなるような場合を示す。(Cランクで平均レベル。Eランクは基本的に完全に役に立たない場合。戦闘能力なら身体障害者レベル、資産なら一文無し。特に戦闘能力の場合、Aランクになると、それ以下の連中では触れることすらできないほどの力の差が出てくる。)
 ・戦闘:文字通りの戦闘能力。特に基本的な攻防力を示す。転生者同士の戦いにおいてある意味一番重要なステータス。転生者にとって最も確実な防衛手段であり、同時に暴力とは相手の拒絶を捻じ伏せるための最も確実な手段である。他の能力値が低くても、手段さえ選ばなければこれ一つでどうとでもなってしまう。
 ・戦術:戦闘能力に含まれるが、直接的な攻防力よりも引き出しの多さ、多様な戦況に対応できる能力の幅の広さを示す。単純な攻防力で突破できない相手にはこの能力が重要になるが、知力が高くなければ使いこなすことは難しい上、あまりにも彼我の格差があり過ぎるともうどうしようもない。
 ・戦略:軍事力。つまり集団戦での動員兵力。戦争の勝敗は量×質だが、どちらかといえば量重視。個人戦力がどれだけ高くても個人の領域を出ない場合は含まれない。この能力で転生者本体を倒すことは難しいが、重要人物の護衛や土地の占領、管理など、大事なものを獲得・保護するためにはきわめて重要といえる。
 ・精神:窮地でも冷静さを保てる胆力、地道な努力を続けることができる持続力、難題に対する決断力、恐怖に立ち向かうための意志力などなど、文字通りの精神の強さ。
 ・知力:知識よりも判断力、発想力、極限状態での冷静さが重要だが、知識量が含まれないわけではない。要するに頭の良さをどこまで武器にできるか。他の能力の運用にも関わる他、下位のチート能力は頭脳だけで捻じ伏せられたりするようなことも。
 ・情報:諜報能力。忍者とかスパイとかを使うような諜報のみならず、表ルートでの情報収集などもこの範疇。また、情報を集めるだけでなく、偽情報を流したりするような行為もこの能力に含む。文明が中世レベルであり情報伝達が遅いハルケギニアにおいては、情報の鮮度と確度の双方が重要になる、はず。
 ・影響:社会的・組織的な影響力。企業や慈善団体、あるいは犯罪結社などの非合法組織のように、政治には直接関わりがなくても強い影響力を持つものも含む。
 ・資産:文字通りの資産。内政能力。土地・組織を豊かにする能力であり、資産を獲得する能力。また、資産そのもの。NAISEIチートなどはこれに含まれる。ただし自分の意志で扱えるもののみを示す。
 ・外交:自分の支配下に無いものを意に従わせる能力。したがって対人交渉能力が主になる他、権力、財力、軍事力その他を盾にとっての交渉なども考慮するが、主にそれを利用した交渉能力を示すパラメーターであるため、本人がそれを使わない、使えない、あるいは使いこなせない場合には考慮しない。




フェルナン・ド・モット

 クラス:転生者
 勢力:フェルナン勢力/ガリア北花壇騎士団/トリステイン王国
 属性:秩序・悪
 能力傾向:超装備型(多数型)/超戦士型(魔力系)/魔術型/技術型/特殊能力型/召喚型

 戦闘:B+/徹底的に選択肢の多さに特化した複数能力持ちであるため、弱点の判明している相手に対しては無類な強さを誇るが、基本的な攻防力は最強クラスをどうこうできるほどのものでもない。
 戦術:A/広範な用途を誇る魔術やゲートオブバビロンによる無数の宝具によって、大半の状況には対応できる。ただしそのスペックを本人が使い切れていないのが残念なところ。
 戦略:A+/作品世界によってはラスボスが務まるほどの単体戦力を持つ雑兵級を無限に投入することができる。また、核や反物質爆弾のような大量破壊兵器の運用も可能。軍事力だけ見ればジョゼフすら上回る。
 精神:C→B/二度の覚醒を経て、怪物の領域に足を突っ込み始めている。どちらも鍵がタバサである辺り、男は女で変わるものなのだろうか。
 知力:B/基本的に正面決戦よりも策を好みそれなりに頭を回すが、人外の天才ではない。
 情報:A/アンドヴァリの指輪量産による民間人諜報網と、モット伯家のエロ方面のコネクション。前者には通信能力があるため、情報の鮮度は最高クラス。
 影響:A/地球征服済み。ハルケギニア全土をまとめて凌駕する高い国力と優れた技術力を持つ。
 資産:A/本人の政治力はさほどではないが、無限の物量生産と黄金律スキルによる資金はチートそのもの。
 外交:D+/やや苦手。フェルナン自身の対人能力の低さに足を引っ張られている。ただし大半のことは他者・他勢力に頼らずどうとでもなる。また、洗脳スキルとその使い込みが半端ではないため、抵抗力がない相手に対しては洗脳を使えばどうとでもなる。ちなみに、モット伯家のエロ関連の人脈は半端ない。

 主人公。
 表にまとめてみると意外なほどにスペックが高い。やはり汎用性に優れたチート能力に加えて、地球征服済みなのが大きいらしい。また、三つの組織を掛け持ちしているのが特徴的。
 なお、ギーシュをも凌ぐカリスマスキルは、フェルナンが人前で活動しないため滅多に効果を発揮しない。マトモに効果を表しているのはタバサ、リーラ、シャーリー、モット伯の四人くらいなものと思われる。



ギーシュ・ド・グラモン

 クラス:転生者/原作キャラ転生
 勢力:トリステイン王国
 属性:混沌・善(?)
 能力傾向:超戦士型(魔力・気系)/特殊能力型(絶対防御系)

 戦闘:A+/単体戦闘能力に特化した複数能力持ち。まさに圧倒的な戦闘能力を持ち、マトモな手段で止めることは不可能。戦略規模の破壊すら可能とする。また、相性が良ければ同クラスの戦闘能力の持ち主ですら一顧だにしないほどの防御力を持つ。
 戦術:D/単純な攻防力こそ高いものの、その能力は基本的に防御とステータス強化一辺倒であり、能力の幅は狭い。だが、自由度は低いとはいえさりげなく空間干渉や時間停止耐性を備えていたりもしたが、今回アスラ・マキーナは失われた。
 戦略:C+→E+/NAISEIチートによってトリステイン軍の練度は高いものの、トリステインの軍事力はハルケギニアにおいては国家として最低クラス。さらにラ・ロシェール戦において、もうどうしようもないほど大きなダメージを受けた。ギーシュ本人は戦略規模の破壊が可能だが、趣味嗜好の問題か滅多に使おうとはしない。
 精神:A+-/怪物の領域。あらゆる現実を無視して“主人公らしい行動を取る”という行動原理を機械的に実行するその精神は多くの場合においてプラスにもマイナスにも傾くが、その戦闘能力と相まって大きな影響力を持つのは間違いない。
 知力:B- /本来決して馬鹿ではないはずなのだが、アレ過ぎる行動原理に足を引っ張られて行動が支離滅裂になる。本当はNAISEIチートができる程度の知力がある。
 情報:B/トリステインの国自体が保有する情報網と、グラモン商会や各種下部組織が保有する情報力。
 影響:A→D-/トリステイン王家、グラモン商会や各種下部組織、及び支援団体であるヴァリエール家の影響力。ただしラ・ロシェール戦の痛手によって大きく低下している。しかも今やフェルナンにほとんど乗っ取られている状態にあるため、信頼性は極度に低い。
 資産:B→B-/トリステインの資産だけでなく、グラモン商会や各種下部組織、及び支援団体であるヴァリエール家の資産までも使用できる。ラ・ロシェール戦によってかなりのダメージを負ったものの、NAISEIチートによる資産はまだ消滅したわけではない。ただしグラモン商会がフェルナンにほぼ乗っ取られているような状態であり、肝心な状況で足を引っ張られる恐れがある。
 外交:E+/最低クラス。交渉能力が完全無比に欠落している。というかむしろ、本人に交渉しようとする意志がない。交渉しているのではなく、交渉するポーズを取っているだけ。下手をすれば逆に敵を作る。ただし後先考えずに資産を切り崩すなどの行動や、セイバーのカリスマスキルによって行動にある程度の説得力を持たせることは可能。

 ライバルポジション。
 こっちも初期スペックはかなり高い。高いのだが、本人の性格と、後はラ・ロシェールのダメージが尾を引いている。



アリサ・テューダー

 クラス:転生者
 勢力:アルビオン王党派→トリステイン
 属性:秩序・善
 能力傾向:特殊能力型

 戦闘:D/メイジとしては一応火のスクエアであり、原作キャラ基準ならそこそこの、キュルケ以上コルベール以下の戦闘能力を発揮するが、転生者の中では最低クラス。
 戦術:E/そもそも戦闘系のチート能力ではなく、さらに火魔法自体が単純な破壊力特化型であるため、搦め手などするような下地そのものがあまり存在しない。
 戦略:B→E+/アルビオン軍が使えなくなり、現在はギーシュに頼り切り。隠し技としてルイズとのコンボでバジュラ召喚が使えたが、今はそれも使用不能に。
 精神:B/比較的マトモな人間の中では強い部類に入る。とはいえ真性の怪物には届かない。
 知力:B/ジョゼフなどの化け物と渡り合えるほどではないが、それなりに高い。仲間と協力し合えばNAISEIチートもできる。ただし現在は他の基礎能力が低過ぎて、知力を生かす事が出来ない。
 情報:B→D/アルビオン王党派の情報網は、アルビオンが潰れると同時に役立たずに。現在はギーシュに頼り切りだが、ギーシュの情報能力自体、現在ではさほどではない。
 影響:B→D/亡国の王女。アルビオンの崩壊と共に王女の身分は役立たずだが、始祖の血筋など、まだ交渉カードは完全に失われたわけではない。
 資産:B→E/アルビオン崩壊と共に身一つでギーシュの元に転がり込んだため、現在はほとんど一文なし。生活費はギーシュの懐から出ている。
 外交:B→D-/本人の交渉能力自体は決して低くないものの、アルビオンが崩壊したため交渉材料が皆無。ギーシュ勢力のブレインとなろうとしても、ギーシュ本人が最大の障害になる。

 薄幸娘。
 直接戦闘以外の基礎スペックは相当高いのだが、レコン・キスタの出現が最大の不幸、その時にギーシュに頼ったことが最大の失敗となった。どっちかというと後者のが哀れだが、前者の時点で既に詰んでいた気がしないでもない。



ヴィルジリオ・ラファエーレ・ガラヴェンタ

 クラス:転生者
 勢力:ロマリア連合皇国
 属性:秩序・悪
 能力傾向:魔術型/特殊能力型

 戦闘:A/時間停止に、異常な破壊力を持つ多彩な魔法と、戦闘能力は非常に高い。ギーシュに渡した七つの宝珠がマトモに使用できればプラス評価が付いていた。
 戦術:A/魔法系転生者の技は基本的に非常に多彩。さらに、一応とはいえ非戦闘系の魔法も存在する。
 戦略:A/多数の吸血鬼を擁するロマリア国軍、膨大な物量を持つBETAと、非常に高い兵力を保有する。全勢力の中でもトップクラスを誇り、その戦力は超大国ゲルマニアすらも凌駕する。
 精神:A/怪物ではない“狂った人間”としての最上級。元々は善性の存在が壊れた結果としての狂人である。
 知力:B/某無能王(笑)のような突き抜けた天才ではないが、ロマリアを掌握しており、政治家・策略家としても非常に高いレベルに存在する。
 情報:C/ロマリア自体の国力や閉鎖的な体質もあり、また吸血鬼やBETA自体が諜報活動には向かないため、情報収集・工作能力はさほど高くない。
 影響:A/ロマリア連合皇国を実質上掌握している。
 資産:A/ロマリアの財力を舐めてはいけない。必要とあらば国内の平民・貴族を問わず異端審問と称していくらでも搾り取れる。ただし国内に限る。
 外交:D/ロマリア自体の閉鎖的な体質もあり、交渉能力は低い。

 今回のゲストキャラ。ロマリアの国家元首である教皇ではないのだが、教皇を吸血鬼化(正確にはゾンビ化だが、元ネタ知らない人には吸血鬼化の方が分かりやすいと思う)して従えていたため、実質上の実権を握っている。
 高い戦闘能力と物量を併せ持ち、他の転生者がいなければ間違いなくハルケギニアを支配していたはず。
 今回は語られなかった裏設定だったが、世界扉→兵力召喚のコンボの実用化はギーシュに先駆けて行っていた。おそらく、この世界に最初に出現した転生者であり、さらにフェルナンを除けば最も大っぴらにチート能力を使い倒した転生者。
 なお、ギーシュの番外編で語られた“有望な転生者”はガラヴェンタのことである。



ヴィルジール・カステルモール

 クラス:転生者
 勢力:ガリア オルレアン公派
 属性:秩序・悪
 能力傾向:特殊能力型
 戦闘
:D+/風メイジとしてもそれなりの実力はあるが、その戦力はマリコルヌ以上タバサ以下。風魔法がスキルとしては比較的戦闘向きなのが救いだが、原作キャラ基準ですらさして強くない。そして転生者相手ではほぼ役に立たない。ただしギアスが効く相手に対してはギアスで一撃必殺するため、格上に勝つこともある。
 戦術:D/ギアス一辺倒。他にできることがないため、正直なところあまり意味がない。遍在が使えれば多少マシだったかもしれない。
 戦略:D+/ジョゼフ王の力が強過ぎて現在のオルレアン公派自体にはあまり表だった力はないが、それでもそれなりの支持者はいる。とはいえ、それをヴィルジールが自由にできるかというとそうでもない。ギアスを使いまくれば話は別。
 精神:D/転生者としては標準程度。つまり力を手に入れて調子に乗っている一般人の域を出ない。ただしギアスの能力活用法次第では、プラス評価が付く可能性があった。
 知力:D/正直、ギアスに頼り過ぎ。というか、不意打ちしようとしているのにギアス発動にわざわざ身振りを入れる辺り、アホの子属性が付いていたのかもしれない。
 情報:C/オルレアン公派の情報収集能力は決して高くないが、低いわけではない。
 影響:D+/オルレアン公派はガリア国内でそれなりの力を持つが、ヴィルジールはオルレアン公派の内側においてさしたる発言力があるわけではない。ギアスを使いまくれば別だが。
 資産:D+/オルレアン公派に金銭的なバックアップを期待してはいけない。基本的にカステルモールの仕送り。ただし本気になればギアスで一般人から搾り取れる。
 外交:D+/ギーシュと比べれば天と地の差だが、交渉能力は決して高くない。ギアスが効く相手に対しては能力が向上する。

 アホの子。
 タバサに負けフェルナンに負けた。タバサに負けた時点で引き下がるか、知恵を絞るかしておけばよかったのに……。
 肝心のチート能力自体が弱く、それをどうにかするために知恵を絞っているのかもしれないが、どうしても間抜けさが抜けない。所詮偽物。多分悪役2Pカラーとかそんなの。元ネタの人もほとんど悪役だけど。
 そもそもギアス自体制限の多い能力なので、使い方が悪いと完全無欠の雑魚に成り下がってしまう。
 あと、オルレアン公派はジョゼフ王を敵に回している時点で最初から終わっている気がしてならない。



エドガー・ブルクハルト・バルシュミーデ

 クラス:転生者
 勢力:ゲルマニア錬鉄竜騎士団
 属性:秩序・中立
 能力傾向:超装備型/魔術師型/超戦士型(魔力系)

 戦闘:C/それなりに強いのだが、転生者としては平均的。
 戦術:A/無限の剣製による多彩な宝具の投影により、大抵の戦況には対応できる。オーソドックスな型月魔術も一応とはいえ使えるため、それなりの応用性もある。
 戦略:B+/ゲルマニア錬鉄竜騎士団から転生者の部下を動員できる。部下の能力の質によっては、格上の勢力にも勝利し得る。
 精神:B/騎士団の幹部が務まるだけあって、真っ当な人間の中では比較的高い領域に存在する。元々の素質だけでなく、豊富な戦闘経験にも裏打ちされており、“普通”の転生者としては最高峰。
 知力:B/凡人の域を出ないとはいえ、頭はいい。統率力もある。戦闘経験は結構あったりする。
 情報:D/ゲルマニアからの情報提供は鮮度が低い。
 影響:B/ゲルマニア錬鉄竜騎士団から転生者の部下を動員できる。
 資産:B/工作費用としてかなりの額をゲルマニア本国から融通できるのだが、国家予算を直接運用する連中と比べるのはやめてあげよう。
 外交:B/まあ判断力はそれなりにあるし、ゲルマニアという国家の国力を背景にした交渉カードの豊富さ、さらには金を積めば貴族になれるという要素は平民出身の転生者に対しては特に有効な切り札となる。

 ゲルマニア錬鉄竜騎士団副団長。部下に裏切られるのが日常と化した苦労人。おそらくこれからさらに苦労することになるだろう……とか思っていたらあっさり死んだ。
 実は他の転生者からコピーしたアイテム(装甲悪鬼の剱冑とか)を使うことができるという切り札があったりしたのだが、それを出す暇もなく死亡した。



マリコルヌ・ド・グランドプレ

 クラス:転生者/原作キャラ転生
 勢力:(一応)トリステイン王国
 属性:混沌・中立
 属性:召喚型/蒐集型

 戦闘:C/転生者としてはそれなり。召喚タイプだが、召喚モンスターの特殊能力によって本人の防御力もある。デス=レックスをちゃんと扱えればもう一ランク上がっていた。
 戦術:A/使えるカードの数だけ能力がある。大半は戦闘向けのカードだが、かなりえげつない能力を持ったカードもかなりの枚数が存在している。
 戦略:D+/グランドプレ家の騎士団も使うことはできない。ただし召喚モンスターの質によってはそれなりのものになったはず。
 精神:E/あまり高いとはいえない。転生者基準としては標準程度だが、生き馬の目を抜くこのハルケギニアでは彼に生き残りの目は無かっただろう……。
 知力:D/正直アホ。愛すべき馬鹿。ギャグキャラが務まるレベル。だからこそのステルス能力だともいえるが。
 情報:E/情報収集能力もないし、そもそも集めようともしていなかった。
 影響:E/あまり役に立たない。せいぜい平民のメイドを怯えさせる程度。
 資産:D/実家は一般的な貧乏貴族程度。だが平民出身者よりもはるかにマシ。
 外交:E/ぶっちゃけた話、役立たず。交渉カードは無し、交渉能力も無し。

 原作キャラ「マリコルヌ」としてほとんど違和感がないという、対転生者用としては最強クラスのステルス能力持ちだったが、それゆえにスペックは低い。



マテウス・クサヴァー・フォン・グデーリアン

 クラス:転生者
 勢力:ゲルマニア錬鉄竜騎士団→ガリア北花壇騎士団
 属性:混沌・悪
 能力傾向:特殊能力型(絶対防御系)

 戦闘:B+-/無敵系の能力である上に攻撃力も兼ね備える一方通行の性能は圧巻。酷い場合には無手の無能力者に殴り殺される恐れもあるため油断はできないが、相性次第では格上の敵も打倒し得る。
 戦術:C/使えるのはベクトル制御だけではあるが、ベクトル制御能力自体、さりげなく応用性が高い。
 戦略:E/完全なる孤立無援。味方皆無。
 精神:C-/血みどろの戦闘経験もあり、転生者の中では比較的マシな部類に入る。ただし自分の能力に過剰な自信を持っている部分もあり、それが破られた時には非常に楽しい事になっただろう。
 知力:D/典型的な頭の軽い転生者。
 情報:E/一介の男爵にどれだけの情報収集力があることか。
 影響:E/皆無。下手をするとマリコルヌ以下。
 資産:D/全部自分の意志で使えるとはいえ、下級貴族程度。自慢できる程ではない。
 外交:E/マリコルヌと大して変わらない。気に入らないものは殴って奪い、殴って従える。

 裏切り者。最後には口封じのために処刑された。典型的な戦闘特化型の転生者。



ジュリアン・レオポルド・オリオール

 クラス:転生者
 勢力:ガリア北花壇騎士団
 属性:秩序・善(?)
 属性:超戦士型(科学系)/召喚型

 戦闘:B+/ディエンド、ディケイド双方の能力による攻防力は、実は使いようによってはかなり高い次元に位置する。使いようによっては、の話だが。
 戦術:A/加速、分身、時間停止などの幅広くまた理不尽な能力を多数保有するディケイドの力と、召喚タイプの能力を持ちながらも本人の防衛力も高いディエンドの力を併せ持つ。ディエンドの力で召喚されるユニットにもかなり理不尽な能力を持つものが多数含まれる。
 戦略:C+/ディエンドの力で理不尽性能な召喚ユニットを操ることができる。ただし頭数はさほどでもない。
 精神:B+/一般的な狂人。論理はでたらめだが、狂人故に、判断力など一部の性能を犠牲にした高度な集中を行うことも可能であった。
 知力:B/北花壇騎士団に所属していながらオルレアン公派と通じていられるだけの実力も持つ。結構頭はいい。
 情報:C/北花壇騎士としてそこそこの情報は手に入る。また、オルレアン公派からの情報提供も存在する。
 影響:D/オルレアン公派に対する情報提供により、ある程度オルレアン公派の動きをコントロールすることも可能。
 資産:D/下級貴族程度。あまり意味はない。
 外交:B/交渉能力は結構高い。また北花壇騎士としての身分を利用した恫喝もできる。

 狂人。
 狂人でありながら、それなりに知性を働かせることもできるため、実は中々有力な存在だった。



ジョゼフ一世

 クラス:原作キャラ/魔改造
 勢力:ガリア王国
 属性:混沌・悪
 能力傾向:不明

 戦闘:???/不明。ただし死ぬほど高くても多分違和感ない。
 戦術:???/不明。原作でできた魔法は基本的に使えるが、それ以外に何ができるのかは現状不明。
 戦略:A+/最強国家ガリアの軍隊、及び複数の転生者を擁する北花壇騎士団を恣意で運用できる。チートを組み合わせることによってその威力はさらに向上する。
 精神:A/真性の怪物の最高峰。もはや論じることすら論外。
 知力:A/論じるのも論外なレベル。怪物。ロマリア教皇が役立たずの今、もはや彼を止められる者は存在しない。多分。
 情報:A/ガリアの情報網を舐めてはいけない。
 影響:A+/最強国家ガリアの国王。その権力はハルケギニア最強クラス。
 資産:A+/最強国家ガリアの資産を恣意で使用できる。チートを組み合わせればさらに威力が向上する。
 外交:A+/本人の知力、反則級の国力による膨大な交渉カード、二つを組み合わせると地獄の化学反応を発生させる。加えてアンドヴァリの指輪による洗脳が加わるため、もうどうしようもない。

 文字通りの怪物。公開されているステータスがオールAという化け物クラスのキャラクター。



ティファニア・オブ・モード(ウェストウッド)

 クラス:原作キャラ/魔改造
 勢力:ガリア北花壇騎士団/レコン・キスタ
 属性:混沌・悪
 能力傾向:不明

 戦闘:???/この作中で彼女が戦闘したことはまだない。
 戦術:???/上に同じ。
 戦略:A→C/レコン・キスタは崩壊したが、アルビオン復興の名の下、指揮下のガリア軍を動員できる。
 精神:A/上司と同じく真性の怪物。
 知力:A/一人でレコン・キスタの運営ができるほど。
 影響:A/火種の塊。人間爆薬庫。元レコンキスタ総司令、現アルビオン復興計画総責任者。
 資産:A/レコン・キスタこそ崩壊したものの、ガリア王ジョゼフの名においてアルビオン復興予算を使用できる。
 外交:A/本人のスキル、ガリアという国家のバックアップによる交渉カード、どちらも一級品である。

 黒化ティファニア。その精神はかなり向こう側に飛んで行ってしまっているらしく、原作の天然巨乳ハーフエルフの面影はもはやその巨乳のみ。
 シェフィールドと並んでジョゼフ王の両腕ともいえる地位にいるらしい。



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後書き的なもの
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 ロマリア編。ギーシュ主役の回だと見せかけて、やっぱりきれいには終われなかった罠。
 なぜか吸血鬼が出せなかった。……あれ?
 あと、タバサのあれこれは少々やりすぎた気も。参考に見て回ったあれこれがまずかったのか、まあ色々と。
 今回は丸ごと一つ番外編みたいな感じ。基本的に、フェルナン以外の視点で進むのが番外編。それと前回加わった多世界蹂躙編も番外編に。

 ダンスの天才(笑)。
 幼馴染みは燃え尽きた。セリフ一つ出せないまま退場のモンモン。
 さりげなく出てこないと思ったらこんなところにいたわけです。マクロスFの世界でデモニアック化されたランカとどっちが酷いのか。モンモンにはギーシュだけじゃなくルイズとも因縁があったりするのですがそれは置いといて。かなり昔から副葬処女やってる上、ギーシュが省エネなどとは無縁の存在であったので、燃え尽きました。ラ・ロシェール、アルビオン、ロマリアと激戦が続いた上で、決戦(笑)のミラーワールドからの脱出の時の消費がトドメになった感じです。

 本当にもうどうしようもないほどに煮詰まってきているギーシュ陣営。さりげなくBETAの降着ユニットを撃ち込まれて青息吐息なゲルマニア陣営。バレバレな気はするけれどアルビオンで何かを建造しているガリア陣営。水面下で着々と力を蓄え続けているフェルナン陣営。
 少しずつ盤面が終わりに向かい始めた今日この頃。

 ガラヴェンタ。願いを託す相手を根本から間違っている気がする今日この頃。本当に御愁傷様です。せめて死後の世界では安らかに。マジ安らかに。化けて出ないで。

 ガラヴェンタの能力はジョジョからDIOと、『BASTARD!!-暗黒の破壊神-』よりダーク・シュナイダー。魔術系転生者の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ上、スタンドによる時間停止能力と肉の芽による洗脳能力までも保有する。とはいえ、ペイン抜きDSにこの評価は少し高過ぎたかも知れない。
 ただしギーシュ相手には相性が悪過ぎた。
 BETAはハイヴの重頭脳級に肉の芽をブッ刺してコントロールしていたので、ガラヴェンタがいなくなったらゲルマニアとロマリアがどうなるのかは推して知るべし。

 数値に直してみると意外とフェルナンの能力値が高い。
 あと数値に直してみると公開されている能力値がオールA、A+をランクしているジョゼフ・ティファニアがすごい。

 ところで、BETAのクリーチャーデザインを考えた人は本当にすごいと思う。イラスト見ているだけで生理的嫌悪感がすごい。




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番外編:タバサ
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「したがって、熱気の物体を膨張させる性質と、冷気の物体を収縮させる性質を応用し、熱と冷気のそれぞれを二つの風の流れに乗せることによって────」
 コツコツと黒板をチョークが叩く音が響く。毎回おなじみの風魔法の講義であるが、今回はやや高度な扱いが必要なスクエアスペルの座学だ。
 トリステイン魔法学院においても生徒の大半がドットかラインであり、トライアングルに届いている生徒などほとんどいない。ましてやスクエアに届くのは一握りの天才のみ。
 そういう意味ではフェルナンも天才の一人といえばいえるのだろう。もう少し自信を持ってもいい、などとタバサは思うのだが、自分も既にスクエアだし、他にもフェルナンの近くにはギーシュ、アリサなど、複数名のスクエアが存在する。それに、裏技を使ったとはいえ別世界の魔術を扱えるようになった今となっては、スクエア、というかこの世界の魔法自体がそれほど強いとは思えない。

(────『金枝篇』の力)

 自分の内側に、異質な魔力と無数の魔術情報が胎動しているのを感じる。つまるところ、異形すら捻じ伏せる異界秩序の塊であり、物理法則すら踏み躙る異形の力の顕現だ。もっとも、それでもフェルナンが擁する『水神クタアト』ともう一冊には劣る程度の力しか持たないのだが。
 とはいえ、だからこそ扱い易いという側面もあり、いかに魔力を扱う資質を持つとはいえ、この力に対してフェルナンほどの適性を持たない上に、この力を使い始めてフェルナン以上に日が浅いタバサが曲がりなりにも鬼械神を呼ぶだけは呼べるほどにこの力を扱えるのも、それが原因であり、良いか悪いかなど一概には言い切れない。



 濁流のフェルナン/段外段



 扱い易いと言えば、この『金枝篇』が召喚する鬼械神『レガシー・オブ・ゴールド』自体もかなり扱い易い代物だ。四肢のような可動部分は最低限に抑え、代わりに巨大な魔術砲を多数備えた、ほぼ浮遊砲台に近い代物だ。
 近接戦闘はほとんど不可能であり、回避能力も皆無に近い代わりにバリアと重厚な装甲で身を守る砲撃戦用の機体。攻撃も固定兵装として備えられた呪法兵葬フレイザー砲によって行えるため、鬼械神の操縦・維持と並行して他の呪法を展開する、という手間を省くことができる。
 そういう意味では、非常に扱い易い機体だ。あるいは元々の持ち主の性質なども関係しているのかもしれない。
 どちらかといえば相手の隙に乗じて一撃で勝負を決める暗殺者タイプであるタバサにとってはあまり合わない機体ではあるのだが、そもそも、今のタバサにとっては鬼械神の召喚それ自体が相応の負担を伴うため、相性の良い軽量級、高機動型の機体であろうが浮遊砲台としての使い道がせいぜいであり、結局レガシー・オブ・ゴールド以外に、マトモに扱える機体は存在しないだろう。

 その一方で、フェルナンはどうなのだろうか? 近接、遠距離とそつなく戦うことができ、搦め手に強い。そういう意味では大抵のことはできるオールラウンダーといってもいいのかもしれないが、正面から戦うことを好まず、影から弱点を探し、徹底的にそこをつけ狙う。暗殺者というよりもどちらかといえば策士タイプであるが、『水神クタアト』の鬼械神クラーケンは重格闘タイプだと聞いている。フェルナンとの相性はいいのだろうか。

 正直な話、タバサとしてはこの魔導書という代物があまり好きではない。術者にかなりの負担を掛ける、というのも理由の一つとしてはあるのだが、一番の問題は、見目麗しい少女の姿をした精霊が付いてくる、ということ。
 フェルナン曰く、それは場合によっては極めて大きなメリットとなる、らしいのだが、フェルナンにとって利点は少ないだろう。信頼関係を構築できれば何よりも強い相棒になる、とかその程度らしいし。
 少女の姿をした精霊、というのは要するに、精霊自体が自我を持っているということ。彼女たちの利益がフェルナンのそれに合致しなければ、魔導書の精霊は簡単にフェルナンに対して牙を剥くだろう。要するに、信用できないのだ。
 無論、それに対して全く対策がないわけではない。例えばタバサの場合は裏技でその精霊の存在を無視することに成功したし、フェルナンの場合は『水神クタアト』の精霊そのものを力づくで捻じ伏せたらしい。ついでに残りのもう一冊は極端に自我が薄いのだそうだ。

 ついでに言えば、タバサの個人的な感情としては、魔導書の精霊達が基本的に幼女である、というのが少し不安だ。タバサも自分自身の体型が年齢に比して幼く見えることは自覚しているし、フェルナンがそれを気に入ってくれているからコンプレックスこそ抱いていないものの、似たような体型をした幼女精霊がフェルナンに気に入られないかどうかは少し心配だ。
 もしそうなったら、魔導書の性質なども考え合わせると、フェルナンの隣、最も近い位置を奪われてしまうかもしれない。
 元々タバサ、というかシャルロットは貴族の娘として育てられた身だ。貴族の妻という立場においては夫自身の趣味や政治的な事情によって夫が妾(しかも複数)を囲うことが多いため、他の女と関係を持つのに対しては比較的寛容(個人差はあるが)だが、正妻の立場だけは死守するべし、という貴族の女性としての価値観が割と根本に叩き込まれている。だからリーラやシャーリーといった存在にも寛容なのだが……魔導書幼女は駄目だ。


 そんなことを考えて、タバサはちらりと少し離れた後方の空席に視線を走らせる。フェルナンは今この場にはいない。ギーシュを追い掛けてロマリアだ。雑兵級なら幾つも手元にあるが、自分が一緒にいたいのはフェルナンである。肉体がいくつもあるのだから、一つくらい自分のところに残しておいてくれてもいいじゃないか、とも思うのだが、自己増殖は最後の切り札であり秘中の秘である、ということくらい理解できないタバサではない。

 とはいえ、フェルナンがいないのはタバサとしては結構きつい。そこだけぽっかりと空いた空白が妙に気になる。
 いつぞやの総力戦にはかなりの数の生徒が参加していたため、ラ・ロシェールの異変に巻き込まれて相当数の生徒が死亡している。したがって教室の椅子もかなり開きが多いのだが、そちらはあまり気にならない。というか、フェルナンがいないことしか見えていない。
 こうして座っていてもちらちらと窓の外に視線を送ってしまう。早く帰ってきてほしい。そうしたらあんなこともしたいし、こんなこともしてみたい。想い人が傍にいないのがこんなにもつらいとは思わなかった。
 フェルナンがロマリアに出立してまだ一日目である。だが、これが一週間ほども続くとなると少し辛い。

(うぅ、フェルナン……)

 会いたい。
 時間が終わると同時に半ば走るような勢いで教室から出て、門のところへと向かう。まだフェルナンは帰ってこない。そういえば食事もとっていない。ぐぅ、と腹が少し間抜けな音を立てる。小柄な体躯に似合わずよく食べるタバサにとっては結構つらい。
 だが、フェルナンがいないのだ。

(……お腹空いた)

 フェルナンを待ち続けるタバサの他にも、似たようなことをしている女生徒は結構いる。
 あの総力戦で出征してラ・ロシェールの壊滅に巻き込まれたのは、大半が男子生徒だ。他家に輿入れすればいくらでも食い扶持が手に入る女と違い、男、それも領地を受け継ぐことができない次男、三男などが貴族として食べていくためには、軍や宮廷に入って年金を獲得する必要がある。それには従軍して軍功を立てるのが一番の早道だった。だが、そんな思惑も、ラ・ロシェールの惨劇に巻き込まれて一切合財が消滅してしまった。
 当然、その中には恋人がいた者もいただろう。タバサと同じように校門で誰かを待ち続けているのは、ラ・ロシェールで恋人を失った女生徒たちだ。
 トリスタニアの方角から馬車が走ってくるたびにその馬車をじっと見つめ、恋人が乗っていないと見るや溜息をつく。あるいは降りてきたのが自分の恋人だったとみて、一目散に駆け寄って抱きついたりする者もいる。

 そんな彼女達と比べれば、自分はずっと幸せなのだろう。彼女たちの恋人のほとんどは絶対に帰ってこない。フェルナンは確実に帰ってくる。
 だが、やはりフェルナンには傍にいてほしい。いや、自分がフェルナンの傍にいたい。

(次は付いていく)

 そんなことを思う。
 それくらいはしてもいいだろう。その頃には、自分もそれなりに『金枝篇』の力を扱えるようになっているだろうし。
 思案を巡らせる。正直、自分にはジョゼフ王のように策謀を巡らせる知力はないし、さりとてギーシュのような圧倒的な武力もない。正直、フェルナンにとっては足手まといではないのだろうかなどと思うのだ。
 ならば、何を以ってフェルナンの役に立てるだろうか。

(夜の……)

 そこまで考えて、ぶんぶんと首を振ってその考えを否定する。どちらかといえばそれは自分の願望だ。それに、毎晩毎晩するよりもされる方が多いので、そっち方面においても自慢するほどの実力はない。
 自分の肉体に使用されている技術もあって戦闘能力はフェルナンの手駒の中ではそれなりに高いとはいえ、その比較対象はあくまでもリーラやシャーリーであり、雑兵級や魔改造エヴァンゲリオンに対しては少しばかり分が悪いことも事実。
 結局、自分にできることをやるしかないのだ、と考えて、ふと一つ、少しばかり馬鹿げた思いつきが脳裏に走る。

(……私にできる事)

 案外、行けるかもしれない。それに、実現できた時のメリットもタバサ的には素晴らしい。というか最高だ。今回のように置いていかれることもなくなるし。
 フェルナンが帰ってきたら、彼に相談してみよう。


「タバサ」
 いきなり背後から呼びかけられたタバサが慌てて振り向くと、そこにはいつも通りの親友が立っていた。
「……キュルケ」
 その表情は一見いつも通りの無表情に見えて、しかし親しい人間が見れば、動揺がにじみ出ていると分かるだろう。
「こんなところで、何をやってるのかしら?」
「フェルナンを待っている」
 その言葉に、キュルケは少しだけ眉をひそめる。確かフェルナンは授業には出ていなかったが、ラ・ロシェールの総力戦には行っていなかったはず。いや学院にいないからといってラ・ロシェールの災厄に巻き込まれたとは限らないから違うのか。
 しかし。
 これではまるで、タバサが置き去りにされているようではないか、などと思う。しかし、タバサはそんなキュルケの内心を見てとったのか、それを否定するようにふるふると首を振った。
「大丈夫。次は付いていく」
「そうね。いつまでも置いていかれる貴女でもないか」
 キュルケの目から見て、タバサは強くなった、と思う。そのことに喜びと、わずかな寂寥感を感じる。

「まだ、食事もしてないんでしょう? 持ってきてあげたから、少しは何か食べなさい」
 言ってキュルケは、手に携えていたバスケットを広げる。中身はその場で食べられるサンドイッチだ。口が乾かないように紅茶のポットも忘れていない。食堂で頼んで作ってきてもらったものだ。
 タバサは恥ずかしそうに頬を染めて頷いた。やはり空腹だったらしい。恋人のことを気にするのもいいが、この少女は少し一途過ぎる。それがタバサのいいところではあるのだが、自分のことを省みないのは欠点といえば欠点だ。

 ここ最近のタバサはかなり変わった。以前のタバサもいつもフェルナンと一緒にいたが、それが顕著になった。し前には落ち込んでいたのか苦しそうな顔をしていたようだが、ラ・ロシェールの災厄と前後するかのようにそれもいつの間にか無くなって、時には同性ですらどきりとするような色気を放つようにもなった。
 男は女で変わるものだというが、そんな親友の姿を見ていると、女もまた、男によって変わるものなのか、とも思えて、キュルケはそれがあながち間違っていないと感じている。フェルナンとて、タバサの変化と時同じくして、少しずつ雰囲気が変わっているのだから。
 何というか、フェルナンには今まで、たとえば杉ばかりが生えた森の中に一本だけ蘇鉄の樹が生えているような奇妙な違和感が存在した。だが、今は蘇鉄の形はそのままに、それが石の模型にでもなってしまったかのような変化を感じる。その変化の理由も正体もキュルケにはよく分からないが、できるならこの親友を信じたいと思っている。

「フェルナンの事は好き?」
「愛している」

 キュルケの問いに、タバサは迷う事無く頷きを返す。いっそ小気味良い程に迷いのない返答に、キュルケはどこか羨望を感じる。“微熱”のキュルケといえど、身も魂も焼き尽くす灼熱の劫火に憧れないわけではない。むしろ、微熱程度の熱しか知らないからこそ、一度くらいそんな熱情に焼かれてみたいと思うことも多い。

「そう、か……。ね、タバサ、フェルナンのどこが好き?」
「全部」
 自分のことが信じられなくて弱いようで諦めが悪いところも、何か起こるたびに必死で頭を捻っているところも、何も起きていない時に何もせず二人で寄り添っている時間も、全部。
 相変わらず躊躇い一つない答えを返されると、どこか楽しくなってくる。恥ずかしくないわけではないのだろう。その証拠に、タバサの頬はわずかに赤く染まっている。
「じゃあ、もっとフェルナンに好かれるようにならなきゃ、ね」
 再び、タバサはこっくりと頷いて、じっと上目遣いにこちらを見上げている。タバサは少し考える素振りを見せてからじっと自分とキュルケを見比べて一言。
「胸?」
「……そうね。男って大抵大きい方が好きなものだけど」
 たまに例外はいるが。キュルケとて敗北の経験はある。このトリステインでかつて誘惑した髭の魔法衛士隊士などには「巨乳か……フッ」などと余裕ありげに鼻で嗤われたことだってある。
「問題ない。フェルナンも、私はない方が綺麗だし可愛いと言ってた」
 自信ありげに言うタバサに返答に詰まるキュルケ。こういう時には、フェルナンの趣味を疑った方がいいのか、それともそれだけタバサにベタ惚れなのだと考えるべきなのだろうか。多分後者か両方だろう。
「それに、フェルナンが大きいのが好きだとしても、いつも揉まれたり吸われたり挟めないからこすりつけたりしているからすぐに大きくなる」
「……そ、そう…………よかったわね」
 この小さな親友は、思ったよりも深い部分に足を突っ込んでいるらしい。自信ありげに胸を張るタバサを見て、キュルケは少しだけ羨ましいと感じる。

 本の虫だったタバサが、本も読まずにじっとフェルナンを待っている。それは良い変化なのか悪い変化なのか分からないが、ただ一つ、フェルナンはそれだけの影響をタバサに与えたのだ、と、それだけはフェルナンとタバサの関係の実態を知らないキュルケにも断言することができる。
 さすがに、二人の関係の実態を知ってしまえば、さすがに危機感は覚えるだろうし、だとしても対処の手段が見つからずに困り果ててしまっただろうが。

 キュルケはこの幼く見える親友を見下ろした。思えば背が伸びたようにも思えるが、しかし実際には身長が伸びたわけではないのだろう。
 おそらく、成長したのだ、と思える。少なくとも、かつての何もかもを諦めたような自暴自棄は消えている。

 正直なところ、それは少々危ういものを含んでいるとも思える。キュルケの目から見て、タバサが抱いている愛情は狂気の域にまで踏み込んでいるようにも見えるのだが、それでも大丈夫だと思っている。
 愛とは常に狂気と紙一重であるものであるし、何より、タバサが変化しているのと同様に、フェルナンもまた変化している。二人で変わっていけるのならば、二人で支え合っていくことだってできるはずだ。

 狂気といえば……と考えて、キュルケはもう一人の少女の事を思い出す。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。桃色がかったブロンドの長髪と鳶色の瞳を持つ、一見可愛らしく見える少女。
 “原作”と呼ばれる在り得たかもしれない可能性に反して、今のキュルケとルイズはさして親しいわけでもない。何というか、あのルイズは下手にからかうと洒落にならない事態になりかねないのだ。自然、付き合いも疎遠になる。まして、キュルケは人の一番大事なものには手を出さない主義だ。そのギーシュにしたところで、その主義を翻すほどに情熱を掻き立てられる対象ではない。
 確かに、愛情がある意味狂気の域に達しているのはタバサも同様だ。だが、違う。
 ギーシュはルイズを見ていないように感じる。何というか、平民のメイドにすら同じ目を向けるというか、それもあるが……まるで出来の悪い役者が演じる恋愛劇でも見ているような気分だ。どうにも、恋人なのではなくて、恋人の演技をしているだけ、というか、どうも嘘臭いのだ。
 だからルイズの行動もどこか空回りしているように見えるのだが……キュルケの目から見ると、ルイズの姿もまた、どこか違和感が付きまとっていた。こちらの違和感はどう表現していいのか分からないのだが、だが、とにかくおかしい。
 空回りしているのは確かだが、空回りしている事自体に全く違和感がないというか、まるで空回りすることそれ自体を作動目的として作られた自動機械のような……。それがどういうことなのか、その違和感の正体を、キュルケは上手く説明することができなかった。


 暗くなってくると、さすがのタバサも寮に戻ることにした。別に暗くなろうがフェルナンを待つのはタバサにとっては別に苦ではないのだが、やることはいくらでも、というわけではないが、決して無いわけではない。途中になっている本も結構あるし、『金枝篇』の扱いとて不完全だからそっちも何とかしておきたい。
 ……などと考えても、いまいちやる気が起きない。どうしてもフェルナンのことで頭がいっぱいになってしまって何も手がつかない。
 寮のベッドに座り込んだタバサはしばらくそのままじっとしてフェルナンを待っていたが、すぐに退屈になってくる。愛しい人を待つにせよいつまで待てばいいのかも分からないし、フェルナンがいない、というだけでも苦痛なのだ。正直待ち切れないので今すぐにでも追いかけたいのだが、あいにくフェルナンは人外魔境ロマリアだ。正確な位置も分からない以上、合流するのはまず不可能。
 退屈、というか寂しい。行き場の分からない感情をやり過ごすようにごろごろとベッドの上を転がる。ごろごろ、ごろごろ、としばらく転がり続けていたが、そのうち飽きた。
 むくり、と体を起こしたタバサの掌の上に金色に輝く光球が生まれる。『金枝篇』の術式によって構築した光熱の魔弾、純然たる破壊力の具現だ。解き放てば、標準的な城壁程度なら一撃で吹き飛ばすほどの爆発を伴う大光柱と化す。現在、タバサが魔導書の力で構築できる魔術の中でも、最大の力を持つ魔術。
 これ一つでトライアングルスペルにも匹敵する威力があるのだから素晴らしい、と思うのだが、『金枝篇』の元の持ち主であれば、この程度の魔弾は一秒間に数千発と放つことができるという話なのだから異世界というのはデタラメなものだ。
 タバサは溜息をついて光球を打ち消すと、ベッドの上に上体を投げ出した。魔術を使った反動で全身にわずかな疲労が溜まっている。一発撃つ程度ならどうということもないが、この威力の攻撃を連発しなければならないような戦闘を行うのはかなり厳しいだろう。ましてや、鬼械神など召喚すれば、その反動はかなり厳しいものになるだろう。

 正直、今の自分の戦闘能力でフェルナンの役に立つのは、不可能とは言わないがかなり厳しいだろう。タバサ自身もギアスユーザーの事件の後にフェルナンに頼んでその肉体を異形の存在に造り変えてはいる。だが、それで足りるのかと言われると正直言葉を濁さずにはいられない。フェルナンによると、例えばタバサが使っている『金枝篇』のようなデモンベイン系の魔導書の術者は、上位の使い手ともなれば軽い攻防を一度行う程度の余波で宇宙が一つ消し飛ぶような無茶苦茶な威力の攻撃を、数万年とかそれくらいありそうな長時間連発し続けるらしい。
 ……ぶっちゃけ想像できない。フェルナンには一度、地球やハルケギニアを衛星軌道から見せてもらったこともあるが、大地が球形をしていることすら信じがたいタバサにとっては、もはや銀河とか宇宙とかそこらへんの次元になってくると、もう想像力が追い付かなくなってしまう。

「……」

 タバサは無言のまま天井を見上げた。
 見慣れた天井。いつも通り……にいつの間にかなっていた部屋。ここはタバサの部屋ではない。フェルナンの部屋だ。過剰なまでの防御力や傍聴能力を持ったこの部屋であるのだが、タバサに対してはそれらの仕掛けは反応しない。
 寝返りを打ってベッドに顔を沈める。顔を押し付けたシーツからは、どこかフェルナンの匂いがするような気がして安心できた。
 フェルナンがいないと落ち着かない。まるで麻薬の禁断症状のように、愛しい人の不在は少女の心を蝕んでいる。
 タバサは部屋を見回すと、木箱の中にまとめて放り込まれている衣類の中から適当に一枚を引っ張り出して、それを抱きしめて布団に潜り込んだ。フェルナンの匂いがする。それだけで、胸の奥に開いた空虚が少しだけ満たされる気がした。

 別に、寂しいから、というだけでここにいるわけではない。実際のところこの部屋は、タバサの部屋以上に厳重な防備が敷かれている。別にタバサの部屋の防御に手抜きをしたわけではなく、表立って色々と運び込めるのがフェルナンの自室だけだったというのと、普段から生活しているためフェルナンが適当に暇つぶしで結界の強化などを行っている、というだけの理由だが。
 したがって、フェルナンがいない間のタバサは、自室ではなくこの部屋で暮らした方が安全、と判断している。無論、フェルナンが帰ってきてもここにいるつもりだが。
 タバサは目を閉じる。ここで眠れば、夢の中ではフェルナンに会えるだろうか?
 転送障壁の存在に気がついてフェルナンが戻ってくるまでには、あと数時間の時が必要だった。





=====
番外編:ティファニア
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 ロマリア。
 この国家の事を、取り立ててティファニアは決して嫌っていない。なぜならば。

(人間誰しも、似たようなものですし)

 ロマリアでなくとも、トリステインだろうがゲルマニアだろうが、同じ状況になれば同じように腐敗するだろう。
 言い換えるなら、どこの国家も均等に嫌いだ、という程度。強いて言うならば自分を拾ってくれたガリアだが、そんな好意もトップのジョゼフ王やその周りの人々に対するものであって、それ以外の臣下や一般市民の事は、相変わらず嫌っている事に変わりはない。
 だが。

「そのロマリアも、もう終わり」
 主戦力として飼っていた大量のBETAがガラヴェンタの制御から解き放たれ、ロマリア首都ヴァティカノに溢れ出した今となっては。
 街は轟々と燃え盛り、白い貴族街に炎の赤が鮮烈に映える。吸血貴族たちが応戦しているようだが、それもおそらくは時間の問題。貴族街がBETAの物量に押されて圧壊すれば、そこから溢れ出したBETAの軍勢が貧民街を喰い尽くし、やがてロマリアのみならず、その戦禍はガリア、トリステイン、ゲルマニア、とハルケギニア全土を喰い尽くすだろう。
 もっとも────

(────その前に、彼が何とかするでしょうけれど)

 そんな風に思う。
 フェルナン・ド・モット。
 別に、彼の善性を信じているわけではない。むしろ悪人だ。だがフェルナンは悪人であっても、目の前に楽に手に入る獲物が存在していればとりあえず手に入れる性格だろう。そして、無闇に破壊を振り撒く性分でもない、とティファニアは判断している。
 ガラヴェンタが容易くBETAを御していたように、高い洗脳能力を持ったフェルナンであれば、BETAもさほど苦労せずに参加におくことができるだろう。それに、実際問題BETAでは自分たちの脅威にはなり得ない。



 濁流のフェルナン/段外段



 北花壇騎士団におけるティファニアの任務は、ギーシュを監視するフェルナンをさらに監視することだ。今現在、北花壇騎士団においても『水神クタアト』を預かり、さらには『金枝篇』を携えたタバサを傘下においているフェルナンの存在の重要度は高い。
 こうも大事な時に叛意を見せられたら困る、ということ。ジョゼフ王にせよティファニアにせよ、フェルナンが自分達に叛くとは思っていないが、さりとて保険は存在しても困りはしない。それに、どちらかといえば緊急時にはフェルナンのバックアップを行うことも任務の内だ。ティファニア自身も、フェルナンが叛くよりも彼がギーシュに見つかって殺害される、という可能性の方が高いと見ている。それは困る。
 使い物になりそうだから『水神クタアト』を渡し、タバサにも『金枝篇』を渡したのだから、両方が潰れてしまえば計画が成り立たない。
 だが、それも問題なく終わりそうだ。だから、個人的な用事の方を先に済ませることにしよう。

 ロマリア首都、ヴァティカノ。その中央、ハイヴのすぐ側に建っている、一際大きな建造物が、ロマリアの行政府を兼ねたソーン大聖堂である。ブリミル教における聖者の名前から取ったその聖堂は、背部と直接大理石の渡り廊下によって接続され、常時ハイヴからの兵力供給を受けられるソーン大聖堂はヴァティカノが外部の侵攻を受けた際には最も高い防衛能力を持つ建物であっただろう。
 だが、今はそれが仇となっていた。
 繋がった渡り廊下から無数のBETAが湧き出してくる。かつては味方であったBETAも、今やその本能に従って人類を駆逐し、あらゆる生命を駆除する災厄でしかない。

 基本的に、BETAの身上は尽きる事無い物量攻撃だ。だが、その基礎能力は一般的な人間のものを遥かに凌駕していることは事実。そして、その上で数に勝っているのだ。
 BETAの群れが進みゆく外縁部でわずかな悲鳴や怒声が上がり、すぐに無数のBETAが這い進むひたひたという足音に取って代わられる。それはこのソーン大聖堂でも例外ではない。
 だが、その中で唯一異なる音が響く一角が存在した。立て続けに響く歓声と怒号、ルーンの詠唱と爆音、すなわち抵抗の音。

(……まだ生きているなら、きっとこっちですね)

 そう判断して、BETAの群れを掻き分けながらそちらに進む。襲ってくるBETAの群れは、軽く腕を振るうだけで消し飛んでいく。ティファニアにとって、BETAなど脅威にもならない。
 飛び散るBETAの体液と体組織の中を悠然と歩みながら、ティファニアは冷たい笑みを浮かべた。


「マルコ、アンタはそろそろ弾切れだろう!? 後ろに下がって補給してきな! ロドリーゴ、アンタはそっち! テオドロはマルコの抜けた穴を埋めときな!」
 矢継ぎ早に部下に指示を下しながら自らも呪文を詠唱し、ゴーレムを操ってBETAの侵入を喰い止めようとしているのは、緑がかった髪の毛が特徴的な一人の女性だった。
「っ、シルヴィオ、避けな!」
 女性が短い叫びを上げると同時にゴーレムが槍を突き出し、人型に似た石膏色のBETAの拳を壁に縫い止める。同時に剣や斧を振るって二人の部下が駆け寄ると、BETAの首や腕を一息に切り落とす。
「ああ糞、大物のゴーレムさえ使えりゃ……!」
 女性が毒づくが、それ以上の事をしている暇はない。崩れ落ちたBETAの後ろにある戸口から新しいBETAが這い出してくる。
 その姿はやはり異形。人肌のような質感の赤銅色の肌をした、蹄を持つ節足動物のような姿。その大きさは、具体的に言って戦車と同じくらいはあるだろうか、知識を持つ者が見れば戦車級と呼んだであろうその巨体は、人に似た首の上に乗った卵型の頭部を傾け、胴体下部に開いた大口から硫黄臭の漂う呼気を吐きながら、ゆっくりと女性に向かって詰め寄っていく。

「な、何であんなの…………」
「来るな、来るなぁ……」
「化物だ……勝てるわけがない……」

 戦車級BETAの巨体を見た部下達が絶望して膝をつくのとは対照的に、女性は杖を振るい、BETAに向かってゴーレムを向かわせる。周囲の砕かれた建材で構成された全長五メートル程度のゴーレム、屋内であるため建物を崩してBETAの群れの只中に落下しないために極力サイズを抑えられたそれは、「錬金」によって石材の拳を鋼鉄に変換しながらBETAの頭部に突き刺さり、胴体部を戦車級BETAの大口に噛み砕かれながらも、戦車級の頭部を砕き散らす。

「さあ、次と行こうじゃないか……テファには指一本触れさせないよ!!」

 再び「錬金」を発動させてゴーレムを出現させる女性に向かって、背後に庇われていた少女が震える声を漏らす。
「姉さん、もう、私なんて守らないでいいから……その、私なら一人で大丈夫だから、だから…………!」
「やかましい、アンタ置いて一人で逃げれるわけないでしょうが!! アンタはそこでおとなしく守られてな!」
 家具を組み合わせて作ったバリケードは数分もしない内に破られて、その残骸は戸口の辺りに転がっている。それでも、身を守る砦を失った上で無尽蔵の物量を持つBETA相手にこれだけの時間を持ちこたえた彼らは、十分に善戦しているといえた。
 だが、それだけ。善戦しているだけ。
 女性の振るう杖に従って、ゴーレムは鋼鉄の拳を振るい、崩れ落ちた戦車級をバラバラに解体していく。既に聖堂はBETAの津波に呑み込まれ、もはやどこにも逃げ場はない。逃げるタイミングを逸した以上、少しでもいい、時間を稼ぐ。少しでもいい、命よりも大切な妹を守る。
 戦車級の残骸を乗り越えて這い寄ってくる人に似た形状の兵士級BETAにゴーレムの拳を叩き込む。手応えが浅い。受け止められた。その相手にもう一撃、拳を当てて跳ね飛ばし、距離を稼ごうとするが、肉塊に似た巨大な下半身を持つ兵士級はサイズの割に体重が重く、ゴーレムの膂力を持ってしても姿勢を崩すことすら難しい。仕方なしに天井から斧を錬金してゴーレムに握らせ、頭から真っ二つに叩き割る。
 息が荒い。疲労も溜まっている。杖を振るい続けた腕も重くなってきている。だが、まだ動く。まだ戦える。自分にそう言い聞かせて魔法を使い続ける。本当は分かっている。もう自分も持たない。部下達は体力も気力も尽き始めている。自分とて、気力はともかく体力はもう心許ない。
「こんな奴らに……」
 腕を持たない胴体から二脚を生やした闘士級BETAが跳躍して飛び掛かるのをゴーレムを盾にして防御、そのゴーレムの表面から無数の針を生やしてそれを仕留めると、もう一度ゴーレムを錬金し、踏み込んできた兵士級に拳を向ける。だが。

 部屋全体に地響きが走り、天井が割れ砕ける。天井に開いた大穴から蒼く晴れた空が覗き、瓦礫の中に紛れて赤銅色の肌を持つ戦車級BETAが落下してくる。
「っ、テファ……!」
 間の悪いことに、戦車級が落下したのは、ゴーレムを操る女性と、そして少女の中間点だ。
 自分自身と、守るべき少女。その選択を強要された女性は、迷うことなく自らが守る少女の命を優先した。一体しかいないゴーレムを、自分の背後に建つ戦車級に向かわせる。
 女性の身体は新たに現れた兵士級BETAに掴み上げられる。喉笛が圧迫され、少しずつ押し潰されていく。それでも、女性はゴーレムを操ることをやめようとはしなかった。二度三度と、女性の操るゴーレムは戦車級BETAの胴体へと拳を撃ち下ろし、鋼鉄の拳に穿たれた戦車級BETAの体は、少しずつその輪郭を歪ませ、砕かれていく。

「姉さん、もうやめて……! いいから、私なんて守らなくていいから、だからもう……!!」
「テファ……」

 霞んでいく視界が涙混じりの叫びを上げる少女の姿を、潰れていく戦車級BETAの向こうに捉える。まだだ。まだ戦える。愛しい妹がそこにいるのだから。
 そんな決意は、最悪の形で叩き潰された。
 轟音を上げて、少女の背後にあった壁が崩れ落ちる。その向こうに広がるのは貴族街の大通り。そして、その中央に屹立する巨大なBETA。要撃級と呼ばれるその怪物は、ハルケギニアの魔法では歯が立たない近代兵器を殴り壊すための存在。
 筍状の岩塊とも見える両腕を振りかざす蟹に酷似した巨大な胴体と、その尻から生えた人に似た頭。目鼻の無いのっぺらぼうの顔面に、そこだけは人間に酷似した口が知性の欠片もなく歯を向き出しているのが生理的嫌悪感を誘う。
 建造物にも匹敵するその巨体が少女に向かって岩塊のような腕を振り上げるのが、酷くのんびりとした速度で見える。ダイヤモンドにも匹敵する硬度とカルボナードにも匹敵する靭性を併せ持つその腕は、女性の操る最大のゴーレムですら受け止め切れないのは、まだBETAが制御されていた時代に何度も試したからよく知っている。
「テファ……!!」
 その叫びすら掠れて意味を為さない。伸ばした手から力が抜けて、手の中から杖が零れ落ちる。それでも、手を伸ばせば届くと、ありもしない可能性に縋るかのように少女に向かって手を差し伸べる。その手は決して届くことはなく、奇蹟など起こらない。起こるはずもない。
 だが。



「ン・カイの闇よ」



 迸った重力結界が、要撃級と呼ばれるその巨大なBETAをドス黒い闇に包み、物理的な圧力を伴って圧し潰す。次いで、同様の重圧が女性を抑える兵士級BETAを抉り飛ばし、さらに崩れ落ちたゴーレムと戦車級の残骸を巻き込んで消し飛ばし、向かいにあった吸血貴族の豪邸に着弾、跡形もなく消し飛ばす。
 続いて放たれた再度の重力結界が、彼女達が隠れていた小部屋に繋がる通廊にひしめいていた無数のBETAを通廊ごと微塵に吹き飛ばして消滅させる。
 重力結界ン・カイの闇。超古代の魔術師エイボンが崇めた邪神ツァトゥグァを始めとする無数の邪神が潜む狂気の地底世界ン・カイ。邪神の瘴気が数億トンにも及ぶ大地の重圧と相まって空間の歪みを生み出し、有り得ない物理法則によって支配された地底異界を構築する。その空間の歪みを召喚し、標的を霊的・魔術的構成ごと粉砕する殲滅呪法。

 飛び散った瓦礫とBETAの血肉の中心に、一人の少女が立っている。
 いっそ朴訥にも見える穏やかな顔立ち。陽光にも近い蜜色の髪。エルフの血を引く証である左右に伸びた尖った耳。普段は浮かべている優しげな笑みの仮面も今は無く、冷徹な無表情の中心で奈落のような瞳が闇のように昏い光を放っている。
「……私?」
 女性に守られていた少女は、目の前の少女の姿を普段鏡の向こうで見ている己自身と見比べて呟いた。
 まさに二人の少女は、服装と身に纏う雰囲気とを除けば、それこそ同一人物であると言っても過言でも無い程に似通っていた。

「何とか間に合ったみたいですね」

 かつての在り方を保ったまま成長した自分ではない己自身と、そしてそれを守る女性の姿を見て、ティファニアは思わず言葉を漏らしていた。
 ガラヴェンタが殺されるのは予想していたが、その結果としてこんな怪物が溢れ出すことまでは予想外だった。やはり転生者は厄介だ。何が飛び出してくるか分かったものではない。
 だが、どうにか間に合った。
 もう一人の自分などどうでもいい。だが、女性の方は生きていて良かったと素直に思う。

 何にせよ、これで一つだけはっきりしたことがある。
 これで、現時点におけるフェルナン・ド・モットを敵視する必要性は消滅したということだ。
 正直、“ティファニア”という存在が量産されたことについて、ティファニア自身は何とも思っていない。むしろ、そうして“数を増やされて”から獲得した要素こそが自分自身の中核だと思っている。
 何より、それに感謝してもいる。ギーシュ・ド・グラモンの行動から推測して、最初にティファニアを確保したのはギーシュであると推測がついている。同時に、異常なほどギーシュを慕っていた使用人たちの存在も調べがついている。そこから判断して、自分が“そう”されずに済んだことに関しては、フェルナンに対しては感謝してもしきれない。
 ただ、姉とも呼んで慕っていた女性の存在だけが気掛かりだった。

「アンタ……何者だい? エルフなのか? その顔……」

 疲労の色を隠せない女性が、それでも警戒心を見せながら少女を庇える位置に立つ。それを悲しげに見つめながらティファニアは、しかしその姿がかつてと変わらない事だけは良かったと思う。吸血鬼にもされていないようだ。手段を選ばない癖に潔癖症であるガラヴェンタは、貴族達を従えるために吸血鬼化させることはあっても、比較的従順であったロマリアのティファニアに手を掛けることはしなかったのだろう。
「あの、助けてくれてありがとうございます。それで……その、あなたは…………?」
「そうですね……それじゃあ、私が何者なのか、当ててみてくれますか?」
 守られていた少女はその答えに不穏なものを感じ取ったのか、居心地悪そうに身をよじらせる。
 仲間の一人に、おそらくどんなものでも複製できる者がいる。他ならない王様の推論だ、自分も目の前の少女もきっと、彼によって生み出された複製の一つに過ぎないのだろう。そのことに何ら感情を抱いているわけではない。他の“ティファニア”がどうあろうと自分は自分だ。
 だが、かつてのままの純真さを保ったままのもう一人の自分の存在は、ティファニアに複雑な感情を抱かせるには十分な爆弾だ。何より、それがかつて生き別れになった姉ともいえる女性に守られているとなれば、だ。

「……でも」
 目的自体は達せられた。
 本当は、別に助ける必要はなかったのだ。ロマリアに匿われているもう一人のティファニアが、マチルダと共にどのような扱いを受けているか。そして、それを見た自分がどのような感情を抱くのか。それが知りたかった。

 等量の侮蔑と憧憬が入り混じった奇妙な視線を向けられて、もう一人のティファニアは居心地悪そうに身を震わせた。
 何だろうか。どうもこの少女からは不穏なものを感じる。それでも、助けられたことだけは理解できる。

「あ、あの……助けてくれて、本当にありがとうございました。その…………」
「テファ、不用意に…………っ!」

 ティファニアを制止して声を上げようとしたマチルダは、しかし自分のその行為こそが不用意な刺激に他ならないと気付き、泡を喰って押し黙り、目前のティファニアによく似た少女の表情を確認する。しかし、少女は張り付けたように柔らかい笑みを浮かべているだけで、だからこそ内心が伺えない。

「貴方達……これから先、行く当てはありますか? これから先、BETAの脅威に怯えず暮らす事の出来る、行く当てが。もし無いのなら……私についてきませんか?」

 狂気の領域に足を踏み入れていたティファニアは、再会した姉ともう一人の自分に向かって天使のような微笑みを浮かべた。



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後書き的なもの
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 番外編。タバサとティファニア。
 相変わらず走りまくりのティファニアさん。某ラスボスの人と同じ技を使うあたり、ヤバさが際立っている様子です。


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