アリサの能力の正体が、そしてギーシュのやったことが、何となく理解できた。 つまりはこういうことだ。 アリサの能力の正体は、要するにマクロスFの歌姫だ。バジュラの存在しないこのハルケギニアではただの歌の上手い少女に過ぎないが、ルイズの虚無魔法で世界扉をマクロスFの世界と繋げてやれば、その歌声は宇宙の彼方のバジュラに届く。「……やってくれる」 やられた。こっちの長所である物量を完全に封じられた。 いくらブラスレイターの特性で強化されているとはいえ、雑兵級の武装はあくまでも現代地球の兵器を基本に製造されている。対して、バジュラの基本兵装は未来技術で造られた宇宙戦闘機と互角に戦えるレベルが基本だ。 攻撃力が違い、運動性が違い、防御力も違う。こちらの売りである物量すらも、一つの戦場においては飽和してしまうという点で完全に互角。 速度のみは内蔵式ディケイドライバーでクロックアップを使用すればどうにかなるものの、敵の出現速度が拮抗していて、倒しても倒しても新手が出てくるので手に負えない。 さっきから雑兵級の大量召喚を続けて徹底的にアリサとルイズを狙わせているが、やはりバジュラが邪魔して上手くいかない。 まさか、世界扉にあんな使い方があるとは。確かにあの手の術の行き先が地球一択、というのもナンセンスな話だとは思っていたが、まさか他の作品世界にまで移動することができるとは。仮説だけは前々から存在していたものの、実現できても実用性はないと思って実証を放置していたツケが回ってきたか。 せめて、現行の兵器が通用する段階であいつらをどうにかしなければ、自己進化が進んで完全に手が付けられなくなる。魔術的な兵装なら対策されない可能性もあるが、可能性は頼りにならない。 濁流のフェルナン/第二十一段 思えば、今回のあれこれには非常に不手際が多かった。 ワームの戦線投入にしたってもう少し時間を掛けて、ゆっくりと完全に敵軍を乗っ取ってから手札を表返してもよかっただろうし、他にも色々やりようはあったはずだ。 慣れない戦争で舞い上がっていたのだろうか。自分はいくらでも逃げられるという危機感の無さが冷静さを奪っていたことも考えられる。 というか、そもそも僕は天才軍師ではないのだ。そんな頭脳を期待されても困る。というか、転生者にそういった頭脳を期待すること自体間違っている。コードギアスとか、某美少女だらけの三国志とか、そういった頭脳チート御用達の世界に生まれなくて本当によかった。 ま、今回は失敗ということで置いておくとして、まずはミスを取り返すためにどうするかを考えた方が建設的だろう。「で、これは一体、どういうことかしら? 貴方はアルビオン軍を完全に崩壊させると言ったわ。それがこのざま?」 僕の背後から現れたシェフィールドは憤りを抑えるようにして嘲笑う。まさに八つ当たりか、とも思い、いら、と腹の中で酸性の毒素が脈打った。「別に大した問題じゃない。切り札はあいつらだけっていうわけでもない」 第一、こっちの切り札こそ潰されたものの、それでこちらが不利になったわけでもない。バジュラと雑兵級はまだ拮抗している。敗北には繋がらない。 それならば、雑兵級・バジュラ以外の純粋な兵力で勝り、またワームやミラーモンスターを戦力に加えているこっちが有利だ。 また、バジュラと雑兵級は、どちらも味方には見えない、という意味で、その戦いを見たアルビオン軍も浮き足立っている。一方、洗脳の支配下にあるレコン・キスタにはその兆候は皆無。 ……ギーシュが動かなければ、の話だが。 さて、どうするか。 もう一枚、切り札を切るか……この女の前でか? せめてコイツが帰ってからならいいのだが、世の中そうそう上手くはいかない。「大した問題じゃないというのなら、あなた自身も動きなさい。でないと、あなたがここにいる意味はないわ」「分かっているよ。全く面倒臭い」 言うだけ言って立ち去っていったシェフィールドに背を向けて毒を吐き出す。……本当に鬱陶しい。 ゲートオブバビロンから射出された宝具が回転し、小気味のいい音を立てながら僕の手に収まった。黄金で造られたトライデントだ。金とは本来柔らかい物質であるにもかかわらず、手に伝わってくる感触はあくまでも硬質。おそらくチタンより頑丈で、ダイヤより硬いはず。 トライデントを肩に担いだまま、僕は思案を巡らせる。 敵はギーシュとアリサとルイズ。ブレインはギーシュだが、作戦の要はルイズとアリサ。ルイズの虚無魔法で宇宙を繋げ、アリサがバジュラに呼び掛ける。 敵の作戦目的はアルビオン軍の救助と、レコン・キスタに対する勝利。 こちらの戦力は僕とタバサとティファニアとシェフィールド。 こちらの主戦力は雑兵級ホムンクルス。しかし敵が召喚したバジュラに邪魔されてその力を振るうことができない。 ティファニア、シェフィールドに関しては戦力的に未知数。だが、こいつらはどうも、僕が敗北したら動くつもりでいるようにも見える。つまり、あまり期待できないということでもある。 そこまで考えて、ふと違和感を感じた。 なぜだ? なぜ、ここまできてギーシュが動かない!? ギーシュの単体戦力は強大だ。たとえレコン・キスタ軍が今の十倍いたとしても、根こそぎまとめて一撃で消し飛ばしかねない怪物だ。 僕の雑兵たちが防ぎとめられている以上、ギーシュは完全にフリーだ。それがレコン・キスタを攻撃しない理由はない。 観察する。 ギーシュは、アイツはどこで何をやっているのか。探せ。視神経に魔力を通し、戦場をくまなく索敵。ゲートオブバビロンから知覚系の宝具を起動、走査を開始。 探せ、探せ、探せ探せ探せ。 アリサとルイズの頭上で黄金の閃光がきらめいた。炎に包まれてバジュラが吹き飛ばされ、墜落する。 ……違う。アレは僕じゃない。僕のホムンクルスの仕業じゃない。 あれは……ギーシュだ。 なるほど。 自分が立てた策でドジを踏んでドツボに嵌っていただけか。アリサを狙って跳びかかるバジュラをギーシュが剣で切り裂き拳で粉砕し、アリサとルイズを守り続けている。以前と同様に漆黒の機動兵器も姿を現しているものの、やはりそれだけでは手が足りていないようだ。 っくく、実に傑作だ。愉快極まりない。 どうやら、バジュラはルイズとアリサのどちらか、あるいは両方を狙ってきているようだ。おそらく、狙いは十中八九アリサだろう。 確か、マクロスFにおける番組序盤のバジュラは、今のアリサと同じ能力を持つ何やらを狙って現れていたはずだ。よく覚えていないが、要するにそういうことなんだろう。 大半のバジュラが雑兵級たちに掛かりきりになっているのは、ただ単に目の前に雑兵級という分かりやすい敵がいるから手が離せないだけ、というようなことだろう。 つまり、今のこの戦闘の現状はアルビオン(バジュラ付)vsレコン・キスタの一対一ではなく、アルビオンvsレコン・キスタvsバジュラの三つ巴ということになる。 なるほど。 ガリアの目的はアルビオン軍の撃破。つまりバジュラは無視していい。 だが、僕の目的は? 無論、ガリア北花壇騎士団のメンバーとして、アルビオン軍の撃破が目的だ。だが、北花壇騎士団と僕は、決してイコールで結ばれる存在ではない。 少々、欲が湧いた。 真の肉体を構成する水精霊の繋がりを通して配下である雑兵級に指示を出す。ルイズやアリサを狙うのを一旦停止、しばらく時間をかけてバジュラに足止めされていろ。戦闘時間を引き延ばせ。「っくく、あれが、あの世界扉がマクロスFの世界に繋がっているというのなら……」 面白いことになる。 少々、大物を狙ってみたい気分なのだ。 全身からどす黒い魔力が噴き出し、手にした三叉槍へと絡み付いていく。狂騎士ランスロットの宝具“騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)”の、あらゆる武装を自らの宝具として使役する能力。 ただの槍ではない。“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”に蔵された宝具の一、ギリシャ神話の海神ポセイドンのトライデント。一説には都市国家アテネの所有権を巡って女神アテナと争った際に使用されたとも言われているそれを、僕は高々と構え、全身の力を込めて投射した。 唸りを上げて飛翔する槍は敵兵を二、三人まとめて貫通、三叉に分かたれた異形の槍穂は骨肉を押し潰しながら突き刺さった人体を、左右に広がった鉤型部分に引っ掛けたまま飛翔、凶鳥が突き立てる鉤爪のように敵陣の中心に突き立った。 激突の地響き、大砲の着弾音に似たそれも、無数の雑音が絡み合う戦場交響曲の中では単なる一音節に過ぎず、戦場に大きな変化を与えるものではない────それが単体であるならば。 着弾から一拍の間をおいて、再びの地響き。次のそれは最初のものとは違ってさらに大地の奥底から響く重低音、断続的に鳴り響くそれはむしろ地鳴りと読んだほうが相応しい。 次いで、トライデントの着弾点から巨大な水柱が吹き上がる。海水。 モーゼの杖や岩に突き立つ剣などと同系の宝具、海神の権威の象徴たるポセイドンのトライデントは、真名解放と共に大地に突き立てることによって、その地を海神の領土、すなわち“海”であると定義する。 槍の着弾と共に発生した水柱も津波も、結局はその副産物に過ぎない。その地が“海である”以上、槍が噴き上げる膨大な魔力はその地の環境を改変し、その場に膨大な海水を出現せしめ続けるのだ。 そうして膨れ上がった大渦潮がアルビオン軍の陣形を薙ぎ払い、前方はレコン・キスタ軍の前線を崩し、そして後方はギーシュの作戦の要たる野外ステージへと到達する。 だが甘い。それすらも僕にとってはブラフに過ぎない。 水魔法は弱い。 ただ存在するだけで圧倒的な熱量が破壊力に変換される炎、絶対的な速度と不可視性によって対人レベルにおいて最高の殺傷力を保有する風、無敵の盾となる巨大な質量と共に戦場そのものを作り変えることによって広範な戦術性を秘める土、それに比べて、こと直接的な破壊力にかけては水魔法は絶対的に劣っている。 何より、質量。いかなる環境においても人が生存可能なら常に無限に存在している風や、そこまでいかなくても大抵の場所にはいくらでも転がっている土、酸素のとの反応でいくらでも発生できる炎とは違い、水メイジが派手な魔法を使用するためには、わざわざ空気中から微量の水蒸気を収束し、あるいは自前の魔力で水を生み出さなければならないのだ。 しかし、その水も、炎や風には届かないにせよ、水の大量に存在する環境においては土に匹敵する威力を発揮する。たとえば、今のように。 それも、単なる水ではない。それこそはシナリオ『オーバーフロウ』の副産物────「発現する海水に水精霊の神経接続────基本骨子、延長完了。構成材質、同化完了。経験情報、憑依完了。肉体化────完了!!」 キャスターの能力として肉体に刻まれた魔術回路を起動すると同時に、僕の知覚可能範囲が爆発的に向上する。既にこの戦場は僕の一部。故に見通せないものなど存在しない。 肉体を濁流と化し、血脈を潮流と化し、骨肉を津波と化し、此処に幻想を願い海と為す。 どこかの弓兵の肉体は剣でできているらしいが、その流れで行くと僕の肉体は水でできているのだろう。人体の六十パーセントは水分らしいから別に珍しいことじゃない。だが、本質そのものが水となった僕にとって、水という現象は既に自己の一部、操るにすら値しない────!! 同時並行して海底に相似の銀弦を結び、遥かラグドリアン湖の湖底から追加でフェルナン・ド・モットの肉体を転送。その肉体と共同してハルケギニアの呪文を唱えながら杖を振るう。 ヘクサゴン・スペル。本家のものとは違ってさほどの効率はよくないからせいぜいペンタゴンスペルといったところだが、三十体以上で同時に唱えればその破壊力は段違い、言い換えるなら擬似聖堂詠唱といったところ。 擬似聖堂詠唱、ウォーター・サイクロン。 直径数十メートルを越える水の竜巻、竜というよりももはや風景の一部に等しいそれが、ギーシュの守るアルビオン軍を直撃する。 これですら真の切り札ではない。強いて言うならその不完全版に過ぎないものでしかないが、それでも威力は十分、何となればこれは陽動。真の武装は全く別のものだ。「なあギーシュ、アンタは知っているか? いや、覚えているか、前世の知識を」 現状判明しているギーシュの能力の中で僕にとって最も厄介なのは、僕のギルガメッシュやランスロットの力と源流を同じくするFateのセイバーの宝具『全て遠き理想郷(アヴァロン)』に他ならない。 その能力は不死の力とされ、所有者の傷を癒し老化を停滞させる効果などもあるのだが、その能力の最たるものは、まさしく絶対的な防衛能力、型月世界における最強最高の守り。その性質はもはや防御ではなく遮断であり、あらゆる物理干渉は勿論の事、五つの魔法ですら例外ではなく、並行世界からのトランスライナー、六次元にも及ぶ多次元からの交信すら完全にシャットアウトする。 擬似聖堂詠唱でいくら水魔法の効果を拡大したからといって、それでダメージを入れることは不可能であるし、僕が操るある意味最大の能力たる相似魔術ですら、相似による魔術的な共鳴関係を遮断されて無効化される。 言い換えるならば、六次元の壁を超越し切れない。「……だからこそ、そこに限界がある」 絶望的な戦力差を前に、不敵に、そう出来るだけ不敵に見えるように嘲笑を浮かべて見せる。別に誰に見られているわけでもない、他者など不要、自分に見せ付けられればそれでいい。 戦場で初めて試す能力に、どくどくと心臓が高鳴る。ここのところずっとこうだ。今まで使おうとも思わなかった、能力の超大規模行使を立て続けに行っている。 僕の視線は巨大な水の竜巻を射抜き、その向こうに立ち塞がる黄金の超人に真っ直ぐに向けられている。 弾丸は釘、一本の釘。僕の手の中にはゲートオブバビロンから取り出した一本の釘が存在した。当然、宝具である。 握り拳から親指を立て、伸ばした人差し指に沿うようにして釘を乗せ、掌を拳銃に見立てて構えれば、先ほどのトライデントと同様に、煤色の魔力が釘に向かって絡み付いてくる。 神経の接続、魔術回路の接続、存在の接続、騎士は徒手にて死せず、その事実を証明するかのように釘が魔力に汚染され、僕の支配物へと変化する。 だから、今なら可能だ。真名解放────「────『鑚心釘(クリティカルショット・ハートブレイカー)』」 まず、最初に対象の定義を確認する。 『全て遠き理想郷(アヴァロン)』の防御力は絶対であるか────否。 再確認。 アヴァロンに防御可能な攻撃とは? 解答。 あらゆる物理干渉、五つの魔法を含む魔術類、並行世界からのトランスライナー、六次元までの多次元交信。 ならば再び問う。 アヴァロンに防御不可能な攻撃とは? 解答。 アヴァロンに防げるのは六次元まで。それ以上は防ぐことが出来ない。 六次元を越える攻撃といえば、たとえば「とある魔術の禁書目録」に登場した空間転移能力がそれに該当する。あれは元々、物語における役割としてはさほどの力はなかったが、十一次元からの干渉を行うそれはアヴァロンでは防ぎ切れない。 それに気付いたからこそ、それと同じことを可能とする宝具を探したのだ。十一次元に達するレベルで敵の心臓に直接空間転移して敵を殺傷する高次元転移宝具『鑚心釘』。 元は中国、明代の小説、殷周易姓革命を舞台にした『封神演義』に登場する道士の一人が扱う宝貝の一つであり、多分型月的にも彼の宝具ということになるのだろうが、僕の場合はゲートオブバビロンの中身といった形でそれを入手した。「────『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!」 その技は、別に必ずしも赤い弓兵の専売特許というわけではない。宝具に秘められた魔力を意図的に暴発させることによって、宝具の自壊前提で本来のランクを上回る一撃を放つ、というだけのこと。 ただ、大切な宝具を使い捨てにしてしまうそれを、リスクを気にせずに撃てるのが贋作者ただ一人というだけで、逆に言うならば相似魔術でいくらでも宝具を複製できる僕にとっては、それは何の意味もない制約に過ぎない。 自壊と引き換えに威力を高めた釘の一撃が、鋭い毒牙となって黄金のオーラに挑みかかる──── 結果として。 僕の手から放たれた一本の小さな釘は、渦巻く巨大な水の竜巻を跳び越えて、飛翔する黄金超人の胸板へと突き刺さっていた。「仕留め損ねた────が、成功か」 僕はわずかに舌打ちしながら、結果を確かめた。 放たれた釘はアヴァロンの絶対防壁の存在を無視してギーシュの体に突き刺さり、そして釘一本分の尖端に等しい、ほんの小さな掠り傷を残して墜落した。その傷さえも一瞬後には再生能力で消失してしまう。 本来は相手の心臓に直接転移するはず。そうならなかったということは、一瞬前のタイミングで咄嗟に身をそらして回避したのだろう。セイバーは確か直感スキル辺りを持っていたはずだ。そう考えると、別に不自然でもなんでもない。空間転移して意表を突く“程度”のたかが釘が、あの怪物に通じるものか。 釘の残骸はとっくに回収済み、こんなつまらない成果でも、成果は成果だ。何といっても、ギーシュに傷を与えられたのだから。 今回は釘一本分の掠り傷だった。 次はもっと強力な武器を用意すればいい。相似魔術で釘と同じ能力を持たせれば、どんなつまらない武器でもアヴァロンを貫通できる。 だからといって、ギーシュが脅威でなくなったわけではないが。 だが。「待っていろよギーシュ・ド・グラモン。お前をその至高の高みから引き摺り下ろしてやる。この、僕が」 握り締めた拳から親指を立て、それを叩き落とすように下に向けて宣言する。そうしてから奇妙な違和感に気がついて、顔に手を触れる。 僕の表情、横倒しにした三日月のような形に口元が大きく吊り上がっている。水鏡に映して確認して初めて理解できた。嗤っているのだ。 なるほど。確かに、こんなノリもなかなか楽しいものだ。これが戦いを楽しむという感覚か。 おそらくその気配に気付いたのだろう、ルイズとアリサを両脇に抱えて空中に浮かぶギーシュがゆっくりとこちらに振り返る。僕たちの間に存在した水の竜巻はギーシュのエネルギー弾一発で砕け散り、地面へと雪崩れ落ちる。 その水の壁を撃ち抜いて、黄金の弾丸となって神速で突貫してくるギーシュ。全身を覆う黄金のオーラが光の龍となって咆哮し、こちらに向かって押し寄せてくる。 だが、甘い。 既に目的は果たした。 アヴァロンの貫通実験すら、僕にとっては真の目的の前フリに過ぎない。その目的が完了した、と言ったのだ。 トライデントの“海”が津波となって押し寄せ、続く水の竜巻がさらに巨大な嵐となる。その過程において、バジュラを呼び込むためにルイズが維持していた「世界扉」に、少なからぬ量の水が流れ込んだ。 僕の一部である水が、だ。 故に、もはや長居は無用。わざわざ付き合ってやる義理はない。「雑兵級全機、次バージョンに移行。撤退戦を開始する。────自分の策に溺れて溺死するといいと思うよ」 僕が空間転移で姿を消すと同時、バジュラと空中戦を演じていた雑兵級が、目の前のバジュラを完全に無視して、水に“変化”する。相似魔術による空間転移の代替物に置換されたのではなく、本当に全く別形態へと移行したのだ。 水の塊へと変化したブラスレイター・ホムンクルスどもは無数の雨となって地面へと墜落していく。それを受け止めるのも、当然僕自身の一部である“海”だ。 そしてその“海”ですら水底に出現した転移障壁に呑み込まれて異次元空間へと姿を消していく。後に残るのは、膨大なる水に蹂躙されて跡形もなくなったアルビオン軍、そしてバジュラの標的を後生大事に抱えたギーシュだけだ。 当然ながら、バジュラどもは一斉にギーシュに向かって襲い掛かり、そして殲滅された。その余波もあって、アルビオン軍は壊滅状態に陥っていたが。「さあ、これで任務達成だ。さっさと終わりにしよう」 アルビオン、ニューカッスル城。 その真下にフネの発着状が存在することは、本来であれば現在のアルビオンにとっては最大級の機密であるはずなのだが、その情報は転生者にとっては常識レベルの原作知識にしか過ぎず、結果として満足に空賊行為すら行えないのが、アルビオンの現状であった。 いかにギーシュの個人戦力が強大であっても、正面から襲ってくる無数の雑兵級たちを殲滅しているギーシュの足元で、別働隊がアルビオン軍を虐殺するのを防ぐことは出来ない。それほどに、数の力というのは大きいのだ。 ゆえに、分かる。もはやアルビオンの滅亡は止められない。 とはいえ、先日の戦闘においてレコン・キスタ軍までが半壊状態に陥り、軍の建て直しまでに一日程度の時間が掛かる。アンドヴァリの指輪による広域洗脳によって完全な掌握が行われてており、また兵の補充もそこらの一般市民を洗脳して引っ張ってくるか死人を黄泉返らせればいいだけのレコン・キスタであったからこその迅速さではあるものの、それでも多少の時間を費やす必要があることは事実。 そして、彼らにとってはそのたった一日こそが唯一の希望であった。何となれば、僕の操る雑兵級、これら全ていつでも出撃が可能なのだ。それをしないのは、もはやアルビオンに再興の余地はないと判断しているに過ぎない。それを向こうも理解しているのだろう、だからこそ、彼らの作戦準備は極めて迅速だった。「ここで我等が斃れても、お前がトリステインにおればアルビオン王家の血筋を遺すことはできる」 そんな手遅れ全開のセリフを言ったのは、その場に集った一同の中でも一際地位の高いらしい老齢の男であった。アルビオン国王、それが彼の地位であったはずだろうが、そんな肩書きはもはや何の役にも立たないことは明白だった。「そんな……お父様、私も一緒に…………!!」「駄目だアリサ!」「……お兄様、何で!?」 父親に縋り付いて泣き叫ぶアリサを制止したのは、その兄であるウェールズ王子だった。「アルビオンという国はもう終わりだ。今、私たちが何をしようとも、この状況は覆らないだろう。だが、我々には王族としての義務があるんだ」「そうだ。我々はここで散る。アルビオンという国家が終わりゆく最後に、この国で生きる人々に、そしてこの世界全てに、アルビオンという国家が存在した証を遺さねばならんのだ」「なら、せめて私も……」 アリサの肩を掴むウェールズ王子の手も震えている。その目じりに光るものが見えた。「ならん。お前は、ここで生き残って、後に戦を免れた者達に道を示さねばならん。だから、お前は生きろ…………生きてくれ、アリサ!」「ああ。私達はここでおしまいだ。だから、君だけはせめて、私達の分までも幸せになって欲しい」「お父様……お兄様…………」 ウェールズがアリサを脇に立っていたギーシュのほうに押しやると、ギーシュはアリサの手を引いて、桟橋に停泊していた船に向かって歩いていく。「ギーシュ・ド・グラモン……アリサを、娘を頼む」「私からも頼む。必ず、アリサを幸せにしてやってくれ」「はい、必ず……!」 最後に王と王子は、アリサを連れていくギーシュに向かって深々と頭を下げた。残った者たちが見守る中で、ギーシュとアリサを乗せたフネはゆっくりと遠ざかっていった──── ────などと締め括ったら綺麗に終わったんだろうがな。残念でした、世の中そうそう上手くは行かない。というか僕が行かせない。 愉快なコントを見せてもらったお礼におざなりに拍手をしながら、僕は空間転移でその場に登場させてもらう。「貴様……何者だ!」「これはこれはウェールズ皇太子。もはや言うまでもないこととは思いますが……初めまして、この戦争を裏から糸引いていた黒幕の部下です」 名前を教えず名乗りを上げると、ウェールズ王子が杖を握り締めてにらみ付けてくる。気迫も殺気も籠もっているが、甘い、と思う。 正直言って、風魔法ごときでどうにかなるほど、今の僕に隙はない。「貴様……貴様がアルビオンを…………」「アルビオンを、何ですか? ぶっちゃけ、僕が音頭を取っていたのは昨日の決戦だけです。まあ、その時には破壊の限りを尽くさせていただきましたがね」 僕が指を鳴らすと同時、王子の周囲に控えていた近衛兵が、王子の体を取り押さえた。手際よく杖を取り上げ、武装解除する。「っ、……お前達、洗脳されて…………」 ウェールズ王子は手足を振り回して暴れるが、当然ながらその程度で解ける拘束でもない。「ああ、別に洗脳したわけではありませんよ。彼らは元々僕の手駒です」 僕が合図すると同時、王子の周囲にいた近衛兵や家臣たちが一斉に本来の姿を取り戻す。緑色の甲羅を背負ったような人型の蟲。 そして、彼の隣にいた最後の忠臣であっただろう大臣と、そして彼の父親であるアルビオン国王が、甲冑に似た人型の蟲の姿を取り戻す。 ワーム。仮面ライダーカブトを原作とする人型の蟲の怪物。超神速のクロックアップと、記憶すら再現する擬態能力を最大の武器とする。 わざわざ手間をかけてギーシュと愉快な仲間達以外のニューカッスル城の人員を全部ワームに入れ替えたはいいのだが、どうもミスが一つ。 そのミスを取り戻すために、わざわざここまで来たのだ。「まったく、まさかカイジンライド使って出したワームが、コピーした記憶に人格呑み込まれるなんて……はあ」「……何のことだ? 何を言っている!? 待て! 待ってくれ!!」 ウェールズ王子の意志が強過ぎたからだろうか、どうにも、原作においても擬態を行ったワームに時として現れる症状が発生してしまったようだ。 ────つまり、本物のウェールズ王子はもういない。 今は、ウェールズ王子に擬態した時に彼の記憶に主体性を飲み込まれ、自分をウェールズ王子だと勘違いしてしまったワームがいるだけだ。 アルビオン王だったものと、ウェールズ王子の頭を相似の銀弦が繋ぐ。「さあ、治療の時間だ」「や、やめろ! やめろ、やめろぉおおおおおおおおおおおお!!」 そうして、ワームは治療された。 更地。 その場所を表すには、その言葉をおいて他にない。少なくとも荒地ではない。 どんな荒野にも植物の一本や二本はあるものだが、膨大な水の質量に洗い流されたその地に、もはやそんなものは存在しない。一面、土の色だ。「土の色って、結構汚いものだったんだな」 召喚されたバジュラの後始末は僕がつけなければならなかった。それどころか、バジュラは変なウィルスをバラ撒く習性だか性質だかがあったらしく、妙な病気が流行っているようだ。僕やタバサは当然無事だし、シェフィールドやティファニアとてそんなものに罹患するような間抜けな真似はしないが、その後始末すらギーシュは考えていなかったようだ。もしこれで王党派が勝っていたとしても、伝染病バラ撒いたらほとんど意味無いと思うんだが。まあ接触感染しかしないようなので予防だけは簡単だが。 というか、世界扉が閉まった時点でバジュラは完全なる野放しになっており、その後始末に大分雑兵級を使用した。単体戦力が同等なら、数が多い方が勝つ。いかにバジュラの数が多くても、世界扉で元の宇宙から切り離されたバジュラは所詮有限、その数が有限である以上、消耗戦を続ければ無限の物量を持つ僕が最終的には勝利する。といっても、完全に掃討を済ませるのには思ったより時間を掛ける羽目になったが。 時折、水に押し流された人の残骸が転がっている。見渡す限り土色に染まった大地に、色彩といえばそんなものだ。それすら、一日も経てば腐臭を上げ始める。普通に考えれば早いところ片付けたほうがいいのだろうが、わざわざ片付けるのも面倒臭い。 僕は思わず、目の前に転がっていた死体を踏み付けた。誰のものかなどわからない。名前も知らない、身元も知らない、腐っているから顔も分からない。 死体に巻きついている服の切れ端が兵士のものよりもはるかに豪華であることからして、おそらくは貴族だろう。薬指に嵌っている銀色は、おそらく結婚指輪か何か。結婚していたのだろうか?「崩れ落ちた彼らに口づけするものは、愛する人ではなく蛆や禿鷹のみ……か」 前世で聞いた歌の一節が頭をよぎる。 当然だ。人の命を食材か何かのように磨り潰すあんな戦場で生き残れるとしたら、それは人ではない、英雄と呼ばれる存在だ。 だからだろうか、この死体に奇妙な共感を覚えるのは。僕は元々、英雄にはなり得ないこちら側の住人だから、か。 そんな風に嘆息した後、僕は近づいてくる気配を感じて振り向いた。「こんなところにいたんですか。少し、探しましたよ」「ティファニアさんか……よくここが分かったな」 僕の見知った顔をした、それでいて何も知らない少女が歩いてくる。この死体が転がった地獄絵図の大地を、穏やかな笑顔を浮かべながら平然と、無数の死体を踏みしめながら。 レコン・キスタ総司令ティファニア・ウェストウッド。もはやそこに、かつての優しい少女の面影はない。「先日の作戦会議の時から、貴方とは一度じっくり話がしたいと思っていました」「そうか……まあ、いいんじゃないか?」 人と話すのは苦手だ、と会話のときに明言しないだけの分別は、まあ、なくもない。「そうですね、それではまず、一つ聞いてもよろしいですか?」「何だ?」 笑顔を崩さずに問い掛けてくるティファニアは、それこそ余計に不気味さを感じさせる。もはやその姿は、ハルケギニア人がエルフと聞いて想像する悪魔の化身そのものだ。 まあ、仕方ないだろう。ジョゼフ王の部下として働いていたのなら、人間の悪意を正面からぶつけられるような仕事などいくらでもあっただろうから。 そんな憶測を顔に出さないように会話しようとするが、ティファニアの質問には心臓が止まり掛けた。「じゃあ単刀直入にお聞きしますけれど、タバサを洗脳でもしましたか?」「それは……もしかしてカマを掛けているのか?」 正直、動揺を押さえ込んだことに関しては自分を褒めてやってもいいかもしれない。だが、その程度の抑制は、少し聡い相手であればあっさり見抜かれる程度のものでしかないだろう。「ええ。でもその反応からすると当たりですか?」「……どうしてそう思う?」「貴方は、洗脳していない相手以外を信用するような人には見えませんでしたから」 私もそうです、とティファニアは笑う。あまりにも日常的なその笑顔が、この地獄絵図の光景にはあまりにも不釣合いで逆に恐ろしい。「……よく分かったな。まあそんなところだよ」 仕方ないので、しぶしぶ容疑を認めることにする。それでもティファニアの態度に全く変わりはない。「ねえフェルナンさん、私はこの世界が嫌いです。貴方は?」「僕もあまり好きじゃないな。転生して手に入れたこの力は気に入っているけれど、正直、こんな世界は滅んでしまえばいいと思う」「そうですか。私達、気が合いますね」 地面に転がっていた死骸の一つ、分厚い鎧を纏ったメイジの成れの果ての豪奢な胸甲にティファニアは腰を下ろす。「そうだな……君はどうしてこの世界が嫌いなんだ?」「だってほら、私はこんなのですし」 そう言って、ティファニアは長く尖った自分の耳をつついてみせる。エルフの血統の証つまるところ悪魔の烙印。「まあ、その……昔に少し、ね。あの頃は、まだ世界っていうものを心のどこかで信じていたんですよ。だから一生懸命努力して、それでも何度やっても拒絶されて、でもほら、アンドヴァリの指輪の力を使えば、どれだけ努力しても手に入らなかったものがあっさり。それで、私はこんな下らないものにこだわっていたのか、って、まあ馬鹿馬鹿しくなっちゃって」 そんなことを言いながら彼女は、足元に転がった兵士の、胴体から千切れたらしい頭をぐりぐりと脚で踏み躙る。「そうか……僕も似たようなものかな。昔から人とノリが合わなくて嫌われて、でも色々と力が足りなくて身を守ることも、生きていくことも出来なかった。今僕が生きていけるのも、転生で手に入れたチートのおかげだ。でも、タバサが教えてくれたんだ。たとえ世界の全てが僕を拒絶しても、自分の場所なんていくらでも作ることができるんだ、ってさ」「そうですか……そういうの、素敵ですね。タバサのこと、人形か何かみたいに思っているのかとも思いましたけど、そればっかりでもないみたいで、少し安心しました」「そうか、君にもそういうものがあるのか」 少し驚いた。この狂った少女にも、友人を思いやるとかそういうものがあるのか、と。 僕のそんな感情も知らぬげに、ティファニアは変わらぬ笑顔で空を見上げ、そして勢いよくこちらに振り返った。「ねえフェルナンさん、ここは一つ、私達、同盟を組みませんか?」「同盟?」 意外な申し出だ、と思う。だが、それでも驚きはなかった。心のどこかで予期していたのかもしれない。 この少女が僕の似姿だと知った時から。「ええ。同盟です。私達、一緒にこの世界を滅ぼしましょう。今なら、同盟相手としてジョゼフ陛下もついてきますよ。というか、この話を貴方にすること自体、私の任務なんですけれど」「その話乗った」 僕は反射的にティファニアの手を取った。願ってもない話である。ジョゼフ王が同盟相手として付いてくるなら、これほど心強いことはない。 いずれ排除するが。 そうしてその日、おそらくこの同盟を切っ掛けに、ハルケギニアの滅亡のカウントダウンが本格的に始まったのだった。=====おまけ的なもの:フェルナン所持、“王の財宝”内のオリ宝具設定まとめ===== 今までに登場した分だけ。あと、存在を覚えている分だけ。 元々ゲートオブバビロン自体四次元ポケット的な宝具でもあるし、中身が原作に登場したものばかりというのも妙な気がするため結構オリ宝具を出しているので。 知名度補正は現代日本準拠。というか、原作型月作品の舞台準拠。やたら高ランクな宝具が多い気がするのはフェルナンが強力なのばかり選んで出しているため。 他にヴィマーナとか太陽剣グラムとか、ゲイジャルグとかゲイボルグとかルルブレとかフラガラックとか、原作で出てきた宝具は大体持っている。持っていないのはエクスカリバーとアヴァロン程度。黒鍵とか短刀七夜とかは入ってない。歓喜剣ジョワイユーズ/A++ランク ルートAに登場。 フランク王国のシャルルマーニュ(カール大帝)が装備していた剣。 何やら三十色のプリズムで輝いたとか逸話があるっぽい。シャルルマーニュ伝説でとても有名。 知名度的にもエクスカリバーに匹敵しそうな気がするくらい有名な剣。 この話の中ではエクスカリバーと同タイプの直接威力ビーム系。ビームは虹色。酒呑童子の仮面/Aランク 酒呑童子の仮面。 某軋間さんとか見ていると鬼自体結構強そうに見えるのと、酒呑童子自体がそこそこ有名ため、ランク高め。それがなかったらもっと低くても良かったかも。 かぶると魔術的に「鬼」になる。 基本的には肉体強化用の宝具であるが、フェルナンは個人識別を潰すために使用。つまり、正体を調べる魔法とか掛けると「フェルナン」ではなく「鬼」と識別される。ポセイドンのトライデント/A++ランク ポセイドンのトライデント。 ギリシャ神話で、ゼウスの雷やハデスの隠れ兜と一緒に製造された代物。要するに、おそらくギリシャ神話最大クラスのアイテムの一つ。従ってランクは最上級。 周囲のフィールドを「海」に変換する。テラフォーミングの一種と考えるとエクストラの某真祖の姫様の宝具と同系列とか考えると、もしかしたらものすごく強いのかもしれない。 津波が発生したりするのは陸地を無理矢理海に変えたせいで水が発生するため。いくら海を作り出したところで、水をその場に止めておく壁がないので、水は効果範囲から溢れて周囲に流れ出す。 でもって水がなくなるとその場は海とはいえないので、結局また海化効果が発動して、水がなくなった傍からまた水が発生する。結果、被害は魔力が続く限りいつまでも拡大する。非常に迷惑。 逆に川とか使用すると川が塩水になるだけで、被害はそれほどでもない。せいぜい淡水魚が全滅するくらい。海の宝具のくせに陸地で使った方が明らかに強いという謎宝具。不思議不思議。 ついでに、海の中で使用するとそれこそほとんど何も起きない。その場がポセイドンの領地になるのでギリシャ系の英霊だと補正が付くかもしれない、という程度。『鑚心釘(クリティカルショット・ハートブレイカー)』/C+ランク テレポート釘。 ちょうど真名解放の描写が欲しかったため、非常に香ばしい厨二的な横文字ネームを付けられてしまった不遇の宝具。 中国の伝奇小説「封神演義」に登場する、必ず心臓に刺さる釘。某ジャンプ漫画では投げナイフ型ビームサーベルとして描かれたが、こっちはただの豪華な釘。 ゲイボルグと同じ系統の発射即殺系だが、ゲイボルグよりは弱い。相手の心臓にテレポートする非常にいやらしい宝具。性的な意味ではなく。 ただし直感スキルとかでかわせるため、キャッチフレーズこそ必中系だが、実質上、死ぬほど回避しにくいだけ。本当の意味で回避不可能なゲイボルグの方が明らかに強い。威力的にもゲイボルグの方が上。 禁書系空間転移と同じく十一次元を越えてテレポートするので、アヴァロンを相手にした場合のみゲイボルグよりも強い。ただし原作のセイバーを相手にした場合、たぶん直感スキルでかわされるのであまり意味なし。 おそらく、対ギーシュの突破口となるであろう宝具。太陽剣グラム/A++ランク 型月原作にも名前だけ出てきたはずの代物。シグルドが竜退治に使用した、エクスカリバー並みに有名な剣。バルムンク、ノートゥングとも。 とりあえず真名解放はエクスカリバーと同タイプの直接威力ビーム型な感じ。炎が出る。=====番外編:ティファニア===== プチ・トロワ小宮殿。 桃色の大理石で建造された、ガリア王宮グラン・トロワに付随する小宮殿であり、ガリア国王であり最強の魔術師であるジョゼフ一世の魔術的拠点である。 見る力を持つ者が見れば気がついただろう。たとえば、高度な先住魔法を使うエルフ、あるいは魔術系の力を持つ転生者。 また、そこまでの鋭敏さを持つ存在でなくとも、人を越えた知覚を持つ幻獣や、生物の領域を越えた感覚を備えた超人系の転生者なら、御伽噺から削り出したような華麗な小宮殿を覆う、濃密な異形の瘴気を感じ取っていたかもしれない。 あるいは、彫刻家や画家、詩人などの優れた感性を持った芸術家や夢想家、そうでなくとも強い感受性を持った人間であれば、捉え所もなく発されている異質な気配を感じ取り、狂気に引きずり込まれることすらあっただろう。 そんな伏魔殿の廊下を、一人の少女が歩いていた。普段は衣装や魔術の力によって幾重にも隠されているはずの本来の姿、エルフ特有の身体的特徴である長い耳を堂々と曝している。 美しい少女だった。 天下に咲き誇るような華はない。だが、素朴で無垢な印象を与える美貌は穏やかに笑顔を形作り、春の陽光を思わせる蜜色の金髪と、翠玉というよりも新緑の輝きに似た透き通ったエメラルドグリーンの瞳が、人を安心させるような雰囲気を醸し出す。それでいて思い切り抱き締めれば折れてしまいそうな細い肢体に比してアンバランスな乳房が揺れる様は見るものの劣情を酷く掻き立てる。 それこそ深い森の中で花でも摘んでいるのが似合いの少女だ。姿も、表情も、立ち居振る舞いも。 それでいて、桃色の大理石が敷き詰められた廊下を歩く少女の足取りは、この毒々しい瘴気に満ちた回廊を進んでいるにもかかわらず、見るものに全く違和感を感じさせない。 それこそが異常。 瘴気はその邪悪さを決して減じてはいない。少女はその穏やかさを決して揺らがせてはいない。 なら、この少女は一体何物であるのか。 ティファニア・ウェストウッド。それが彼女の名乗る名である。 濁流のフェルナン/段外段「おお、帰ったかティファニア。待っていたぞ。何か面白いことでもあったか?」 そう言って少女を出迎えたのは、彼女の上司である男だった。 青い髪に青い瞳は彼が正真正銘のガリア王族の一人であることを現し、その手に嵌められた指輪に輝く褐色の結晶は、「土のルビー」と呼ばれるガリア王家の虚無の秘宝。 その気配は茫洋と滲んで捉え所がなく、この場からではその気配の届く終端を感じられず、それでいてその気配は、まるで大気に重水が満ちているかのような重苦しさを発散させている。 すなわち、彼こそがガリア国王ジョゼフ一世。「で、お前の目から見てあの小僧はどうだった?」「ええ。信頼はできませんが、信用はできると思います。あるいはその逆か。少なくとも、本気でこの世界を嫌っていることだけは間違いないと思っています。まあ、彼の思惑によってはここぞというところで裏切られるかもしれませんけど」「それは素晴らしい。凡庸で臆病な指し手ばかりが相手で、退屈していたところだ。大胆にも俺の足元をすくう気概があるのなら、俺も少しは楽しめるかもしれん」「いえ、大胆というよりも、臆病さを徹底的に極めたからこその彼だと思いますよ? 徹底的に影に回って、相手を刺し殺す機会を狙い続ける────」 王の言葉に少女は笑みを浮かべて答える。彼女は数日前に分かれたばかりの少年の顔を思い出して、どこか愉快な気分になってくるのを感じた。 いい目をしていた、と思う。いつでも世界は自分の敵になろうとする、そんな有り触れた理不尽に縛り付けられた目だ。だが、それだけというわけでもなく────「────裏切られた人間の目ですね」「ふむ、面白い。奴は何に裏切られたのだ?」「現実に……いえ、この場合は“幻想”に、って言ったほうがいいんでしょうか? 私も経験ありますから」 最低にくだらない現実、などと口では言ってみても、その実自分もそれ以上にくだらない存在である、などということを何よりも理解していて、だからこそ幻想に救いを求めるしかなかった人間が、突然幻想の世界に押し込められて、何を感じたのか。 幻想だったはずの世界が所詮単なる現実でしかなかったことを理解してしまった人間が、世界に対して何を思うのか。 その失望こそが、この世界を何よりも現実だと認識させる。 かつて自分が外の世界に出たときのことを思い出し、ティファニアは嗤う。 本当に救いがない。特に幻想にすら逃げられない辺りが、だ。だからこそ現実から逃げて引きこもり、同時に目の前の現実を否定するために必死で力を振るい、頭を巡らせる。まあ、彼自身はそのようなこと、自覚していないのだろうが。 ────タバサの事があったからか、その部分だけは少し変化しているような気がするが。 それ以外を見る目つきは、そのものだ。 その程度は黙っていてやろう。おそらく、タバサこそ彼の最大の弱点だから。自分だけがそれを知っている、というのも、アドバンテージとしてはいいものだ。「なるほど。人間とはその程度のことで壊れるのか。道理で、こうもあっさり世界の流れが狂うはずだな」 男は卓の上に置かれた分厚い一冊の日記帳を手に取った。 ティファニアも見慣れているその日記帳には、数年前に狂死した王の娘の署名と共に、転生者、あるいはそれに関わる存在であれば決して見過ごすことができない題名が書かれていた。 ────すなわち、『原作知識ノート』と。 ティファニアは知っている。ジョゼフ王が所有する原作知識の大半は、そのノートによってもたらされたものだ。 原作の開幕から終劇に至る、三十巻に及ぶ本編と数十巻以上の外伝を含む、詳細な記述。他の転生者からの証言によっておおよその正確さは証明されているものの、世界の大きな動きは、原作と呼ばれる物語の流れから既に大きく外れてしまっている。「ティファニアよ」「はい」 ジョゼフは、自らの使い魔と並んで、己の片腕と呼べる少女に呼び掛ける。「あの小僧には、計画の一端を任せられると思うか?」「ええ、それはもう、十分過ぎるほどに。逆に十分過ぎる可能性もありますけど。というか、陛下の計画の正体にも感付いているように見えましたよ」 ジョゼフはその言葉に満足げに頷くと、椅子から立ち上がり、背後に存在した隠し扉を開け放つ。そこには、彼の使い魔とティファニア、そして最近傘下に入ったもう一人が所持する分を除く、合計八冊の古書が安置されていた。そのどれも、その表題はハルケギニアのものではなく、また、あきらかに強大な狂気と魔力を秘めている。「ならば、ミューズを含めこれで計画の要となる候補者が六人、完全に揃うか。ティファニア、あいつにはどの書を任せるのがいいと思う?」「そうですね……えっと、これなんかどうでしょう?」 ティファニアは少し首を傾げたかと思うと、白い指先を伸ばし、本棚に並ぶ本の中ら頑丈な、それでいて奇妙な湿気を帯びた大冊を指し示す。二人の視線を浴びた大冊は、獰猛な猛獣を中に詰め込まれているかのように身震いにも似た振動を走らせた。「ふむ……妥当な所かもしれんが、少々順当過ぎて面白味に欠けはしないか?」「いえ、扱えないと意味がありませんから。それに、彼の戦い方は、“これ”の本来の方向性とは酷く掛け離れているでしょう? そんな“これ”を彼がどんなふうに歪めていくか……興味が湧いてきませんか?」「……なるほど。そういう考え方もあるか。さすがはティファニア、いつもながらの慧眼だ」 王はティファニアの提案に満足げに頷くと、隠し書棚から一冊を取り出し、頑強な封印と共に鉄の箱に収める。鉄の箱はガタゴトと怪音を上げて揺れ動くと、しばしの時をおいて停止する。「ええ、いい瘴気、そしていい狂気です。今すぐにでも箱を喰い破って出てきそうに」 静止した鉄箱の表面を常と変らない穏やかな笑顔のティファニアがそっとなぞるようにして撫でる。箱はもはや震動せず動かない。それは、箱の内側に収められた本そのものが、少女に対して怯えているかのようであった。=====後書き的なもの===== アルビオン戦役編。 前後分割の後編の方。 フェルナン無双の回。 次はマクロスFにするか、それともキンクリして次行くか。アルビオン終わったらひとまずロマリアの予定。 にしても……最強チートジョゼフ+黒化ティファニア+フェルナン。何というかハルケギニア絶滅のお知らせ? ギーシュはギーシュで引っ掻き回すだろうし。