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No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
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[13866] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者
Name: ゴンザブロウ◆cebfabc8 ID:d73d82b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/16 11:24
 僕は常々、原作沿い展開のゼロ魔二次がしばしばアンチルイズ的展開に陥る事を致し方ないことであるという考察を抱いていた。
 ルイズにいかなる事情があろうが、ハルケギニア貴族の思考形態がいかなる形であろうが、地球やその他使い魔として異世界から召喚される人間にとっては、いきなり拉致られて、主観的に見れば奴隷に近い扱いをされるのだ。ルイズに逆らうことが可能なほどの力を持つオリ主やクロス主であれば、ルイズの命令を聞かないことくらいは簡単に予想がつく。
 しかし当然ながらルイズにとっても使い魔の事情なんて知ったことではないわけで、力で逆らうのであればルイズの方も力、多くの場合は貴族としての権威によって相手を押さえつけようとするのは自明の理といえる。
 結果として、ルイズと使い魔の不幸な相互理解不足、擦れ違いによって溝は広がり、いずれは破綻に繋がる。まあ仕方ないと言えよう。
 むしろ不自然なのは、魔法の使える使い魔であっても例外なく平民扱いの方が不自然といえば不自然だ。
 駄菓子菓子。
 いや、だがしかし、だ。
「……やれやれ。本当にロクでもないな」
 僕は心の底からルイズの存在を見直したくなっていた────無論、悪い方に、だ。



 濁流のフェルナン/十四段



「つまり、ご主人さま、どういうことなんですか?」
「ああ。あの女は嫌いだ、ってことだよ」
 紅茶のカップがことり、と音を立て、褐色の水面に小さく波紋が揺れる。カップを運んできたのはリーラだ。
 僕のトリステイン魔法学院入学に伴ってモット伯邸地下の大神殿は、ラグドリアン湖底へと転移されていた。本拠地が地球の北の国へと移動した今となってはここの拠点の戦略的な価値は低下しているが、それでもハルケギニアにおける僕の拠点の中枢でもあるのだ。ここが重要であることに変わりはない。
「魔法学院に通っている僕の肉体が事件に巻き込まれてね。あのルイズと決闘することになった」
 ぶっちゃけ、僕はあの女が嫌いだ。多分、魔法が使えないという事からコンプレックスやら何やらでグチャグチャになっている状況でギーシュだけが認めてくれたとかで、ヤンデレに目覚めたのだろう。だが、確かにヤンデレには需要があるかもしれないが、ヤンデレは病んでいるからこそヤンデレというのであって、病んでいるということは周りにとって迷惑であるということに他ならない。
 というか、僕にとって迷惑だ。あの事件で、周りの転生者どもも僕が転生者であると確信しただろう。今さら即排除に掛かってくる奴がいるとは思えないが、だからといって安心できるとも限らない。今までのような秘匿性は失われたと思っていていいだろう。全部ルイズのせいだ。
「あのルイズと? でも、ご主人さまの相手にはならないでしょう?」
「そうでもないよ。速射性に優れた失敗魔法。ギーシュによる援護。決闘であることによる不殺、及び重傷の禁止。さらに、転生者達の監視を意識しての切り札の制限。条件が多過ぎるし全部こちらにばかり不利だ。向こうは基本的にルール無用だし」
 タバサとキュルケに助けられたよ、というと、リーラは意外そうな表情を見せた。

「ところで、そっちの進捗状況はどうだ?」
「現状のところ、サンプルこそ大量に集まりましたが、火竜を越える性能を持った素体はなかなかいませんね。特殊能力の付与には問題ありませんが、系統魔法と虚無魔法、ブラスレイターの能力まで持っている以上、付けても無駄になるような能力ばかりです」
「まあ、転生者関連なら役に立ちそうなのもあったけれどね」
 増水トラップを仕掛けたラグドリアン湖に没した連中の中にも、割と使えそうなものを持った者もいなかったわけではない。万華鏡写輪眼はともかく、起爆粘土あたりは割と便利だ。
 中にはどうやって使うんだ? みたいな能力者もいたが。リリなののジェイル・スカリエッティの能力とか。研究スキルは確かに役に立つが、あの手の能力はある程度以上の文明レベルの設備がなければ基本的に役立たずだろうに。地球の科学と陣地作成や道具作成の能力を使える僕には関係ないことではあるが。
 ちなみに、AMFがハルケギニアの魔法に対して役立たずであったことに気がついて愕然とした今日この頃。地球が《地獄》でなかった悪運の揺り戻しが来ているのかもしれない。

 そういえば、転生者関連といえば、いくつか実験してみた。
 テファ孕ませてみた。
 正確には、転生者の子供にチートが遺伝するのか否か、という話だ。僕の子孫に興味はさらさらないが、チート能力者が子作りで繁殖されたら迷惑だからな。
 で、結果。
 ゲートオブバビロンは遺伝しなかった。魔術などのスキル系の能力も遺伝しなかった。だが、肉体的な能力は遺伝するようで、生まれた子供にはランスロットの半分くらいの身体能力はあるようである。他に、相似大系魔術は素質だけはあるようだが、グレン・アザレイの神技スキルは使えないようだ。
 おそらく、肉体的なチート能力は肉体そのものが遺伝子レベルでどうこうして遺伝するのだろう。つまり、昭和系仮面ライダーのように人体改造とかソッチ系に基づく能力は遺伝しないものと思われる。
 まあ、遺伝しそうな能力を持つような転生者はそんなに存在しないだろうからさしたる問題はあるまい。


 さて、現状説明。転生者によってハルケギニアがどう変わったか、という話だ。割と重要な話である。

 まず、御存知トリステイン。ラグドリアン湖の増水トラップによって国内の転生者が軒並み壊滅状態に陥り、その空隙を衝いて原作補完?派ギーシュによるハーレム形成により、独立勢力が形成されている。
 転生者勢力としては群を抜いて弱小極まりないそれが勢力として成り立っているのは、ひとえにトリステインが“原作”の舞台でありその他の勢力同士の緩衝地帯となりやすかったからであり、また勢力のトップであるギーシュが原作キャラへの転生であるためだ。

 次。アルビオン。一時期はウェールズ王子の妹姫であるアリサ・テューダーの指揮により航空産業と航空貿易で栄えるも、虚無の担い手である総司令官ティファニア・オブ・モード率いる貴族連合レコン・キスタの勃興により崩壊寸前、トリステインによる援助も積極的に行われているものの、成果は上がらず。

 ゲルマニア。原作でも非常に扱いが小さい土地。転生者組織である錬鉄竜騎士団は、金を払えば平民でも貴族になれるというゲルマニアの特殊性を利用して平民生まれの転生者を積極的に貴族として取り立てることにより戦力を増強し、また皇帝のために積極的に働くことで表立っての発言力をも高めている。おそらく、最も現実的な方針で動いている組織。

 ロマリア。悪夢の地だ。原作でも非常に酷い国ではあったのだが、今はもっと酷い。
 どんな代物かはまだ分からないが、吸血鬼系の転生者が関わっている事だけは間違いない。都市や集落は例外なく死都と成り果て、貴族や聖職者は余さず吸血鬼、平民は餌で家畜だ。マトモな人間にとっては、間違いなく地獄だろう。マトモでない僕にとっても、多分。
 おそらくロマリアの教皇すら、既に転生者の手に落ちている。

 そしてガリア。原作からの乖離が最も少なく、それゆえに最も不気味な勢力。
 世界最高の天才ジョゼフ一世によって率いられる最大最強の国家。その下には何人かの転生者を抱え込んだ諜報組織ガリア北花壇騎士団。
 いつかのブラスレイター転生者など、明らかに原作の分を越えた利用法のある能力を持つ転生者だっているはずなのに、原作知識以上の情報が伝わってこない。ゆえに、読めない。ジョゼフが何を考えているのか。何をしたいのか。
 大抵の相手には、こうすれば勝てる、とか、最低でもこれがあれば勝てる、つまりこれこれこうだから勝てない、といったヴィジョンが見える。だが、ジョゼフにはそれが何も見えない。だからこそ恐ろしい。


「……まあ、そんな感じ。群雄割拠だな」
 面倒なのはロマリア。
 ヴィットーリオの敗北は確かに慶事だ。だが、言いかえるならそれは虚無が転生者に取り込まれたことを意味している。それに、敵が教皇の智謀をそのまま使えないとも限らない。
 ロマリアを喰い尽した吸血鬼の正体が、型月系か、ジョジョか、ヴェドゴニアか、それとも他の作品なのかは分からないが、どちらにせよ、相手が欲望のままに暴走していることは間違いない。
「……少なくとも、理想を追っているようには見えない」
 原作ゼロ魔でも底辺に位置していたロマリアの社会情勢が、さらに悪化しているのだ。これがみんなのために頑張った結果です、なんてとてもではないが思えない。

「まあ、分かりやすくて結構だな」
 おおかた欲望のままに暴走した結果だろう。
 現在、国内を完全に掌握し終わったロマリアは、現在、他国の領土を虎視眈々と狙っている。無論、このままのロマリアの国力ではとてもガリアやゲルマニアといった大国には太刀打ちできないため、軍備の増強を欠かしていない。当然、そのための税は国民、それも平民から搾り取っており、極端に増加した税率は国民を圧迫し、ついには餓死者すら出るに至っている。
 その上で、ガリア・ロマリア間の国境には虎の子の聖堂騎士隊を含む大部隊が集結しており、戦争の機運が高まっている。トリステインにも再三の参戦要請が送りつけられているのだが、ギーシュの理想に感化された王室は戦争ダメ絶対とばかりに強硬にそれを突っぱねており、こちらも冷戦状態になりかかっている。
 ロマリアの軍事力は、主戦力が吸血鬼であるため、軍事力は同クラスの国々の中ではダントツに強いが、そもそもの国力がトリステインと同程度にしょぼい上、吸血鬼は基本的に脳内が汚物は消毒だヒャッハー状態なので、頭のいい行動が難しいのだ。無論、それはテストで百点を取るような頭の良さではないのは説明するまでもないだろう。

「一体、そこまでして何がしたかったのか……いや、そんなものは所詮他人の事情」
 つまり、僕が追求する事じゃない。
 どれだけ同情しようが、相手の状況が変わるわけではないし、それで自分の現状が改善されるわけじゃない。行動に反映されないような同情はするべきじゃない。


 だが、一番恐ろしいのはガリアだ。
 ロマリアなど、所詮は単なる転生者だ。吸血鬼などただの歩兵でしかない。



 溜息一つつくと、紅茶を淹れたカップをテーブルに置く。再び意識の中心を魔法学院の肉体に戻してから紅茶を口に含めば、明らかに味が違う。リーラが淹れた紅茶に比べて、明らかにまずいのだ。
 やれやれ、と考えながら窓の外を見る。ヴェストリの広場でルイズが行った破壊活動の犯人は見つかっておらず、噴水は現在土属性の教師の皆さんが補修工事を行っている最中だ。
 そんなことを思いながら今後の方針について考える。
 今日は休日。特に行うべき用事もない。一度色々と見直してみるにはちょうどいい時間だろう。
「一度、ロマリアの現状を見に行ってみようかな」
 それも悪くはないかもしれない。おそらく、今さら大半の原作知識は役に立たない。今後の方針を考える上でも一つの材料となるだろう。

「にしても、方針か……」
 どうしたものだろうか?
 いい加減に、決めるべきだろう。当面の、ではない。今後一切の、だ。僕が何を目指すのか、という、最終的な戦略目標、何を以って勝利とするのか、そういう絶対的な指針だ。

「保身」
 当たり前だ。わざわざ宣言するほどのものでもない。だが、それは同時に永遠に終わりのない道程だ。つまり、そんな目標を設定するというのは、未来永劫終わりのない恐怖に怯え続けるということに他ならない。
「権力」
 権力とは、人を支配する力だ。確かにギーシュとかを跪かせるというのには魅力を感じずにはいられないが、所詮はそれだけ。人を支配する、など、馬鹿馬鹿しい。人なんてものには前世の頃からとうに愛想が尽きている。
「ハーレム」
 そんなものを手に入れてどうするのか。女なんて既にいくらでもいるし、そもそも原作の正ヒロインであるはずのルイズすら別にどうでもいいのだ。わざわざ手に入れるものでもない。
「世界征服」
 それこそ笑止千万。世界なんてものは人間の集合体に過ぎない。人間の集合体であるということは、すなわち無価値な存在の集合体であるということ。そんなものを手に入れてどうするというのだ。
「……本当に何も欲しくないな」
 苦笑。自分から何かをする意志というものが徹底的に欠落しているのだ。つまり、僕はそういう人間だと、そう思う。


 ────ふと、一つ、馬鹿げた考えが脳裏をよぎる。


 だが、その思考を検討に移す前に、ノックの音が僕の思考を停止させた。
「誰だ?」
「私」
 ドアを開くと、そこにいたのは予想外の人物だった。
「シャル……タバサか。一人か?」
 こくりと一つ頷いて少女は部屋に入ってくる。少女はひとしきり部屋を見回し、思案げに首を傾げると、僕の手を取った。
「内密に話したいことがある。来て」
 少しばかり思案を巡らす。ティファニアほどではないとはいえ秘密の塊のようなタバサがわざわざ内密にするような話とは何だろうか。だが、わざわざ断る理由もない。
「……了解した。ここで話すか?」
「ここでは安心できない。来て」



 青髪の少女に導かれて向かう先は、王都トリスタニアであった。
 いい判断だ、と思う。このトリステインは規模の上で最小限であるギーシュのテリトリーであり、諜報・防諜能力は最低ランク、各国、各転生者勢力の諜報機関が跳梁跋扈してこそいるものの、王都全域をカバーするような監視能力を持つ組織は存在しない。
 学園の厩で馬を借り、トリスタニアを目指す。だが、タバサはトリスタニアに着く前に馬を止めた。
「尾行を炙り出すためにここまで来たのか」
「そう。でもまだ安心できないから、監視しづらい場所に向かう」
 馬首を並べて歩くこと数十分。視線の通りづらい森の中へと移動する。
「森は森で遮蔽物が多いから安心できないと思うけれど」
「その分、遠距離からの監視が難しい。遮蔽物があっても少なくとも森の中なら、貴方ならファンガスの森でしたように追跡を読めるはず」

 馬首を並べて道を進む。彼女と二人で森の中、というのは数年前を思い出すが、ここはあのファンガスの森のように狂った生態系に支配されているわけでもない。闇に閉ざされた狂気の森でも何でもない、ひたすら普通の森である。
「僕の知覚を上回る敵がいたら、さすがにどうしようもないぞ」
「その場合は私にもどうしようもない。そして今の私は動くしかない」
「そうか」
 言いながらタバサに合図して、二人して馬腹に拍車をかけて加速。この動きに反応して速度を上げるような気配が存在すれば、その気配が尾行だ。
 広場のように開けた空間に出て、再び速度を落としてその場に停止する。気がつけば、タバサの青い湖水の瞳がこちらをじっと見つめていた。


「一つだけ聞かせてほしい。……貴方は、転生者?」


 ────これは予想外だった。いや、全く想定していなかったケースでは無い。無いが、しかし。

 深々と溜息をつきながら、問いに問いで返す。
「想定したくなかったケースではある、か。まあ仕方がない。僕も一つだけ聞いておこうか。君も転生者か?」
 ふるふると首を振ってタバサは答える。
「違う。貴方を転生者であると判断したのは、あの男に教えられた原作知識に貴方が存在しなかったから。確信したのは前回のキュルケとの決闘事件。それで、貴方は転生者? 答えて」
 あの男。ジョゼフ王か、他の転生者か。ジョゼフ王だとしたら、まったく、上手いことを考える。
 アルビオンの近衛騎士団。ロマリアの聖堂騎士隊。ゲルマニアの錬鉄竜騎士団。現在のトリステイン魔法学院には、各国に存在する転生者組織が折り紙つきの転生者を送り込んできている。そして、同じ転生者組織であるガリア北花壇騎士団から送り込まれてきたのが、このタバサであるということか。
 詳細な原作知識があれば、原作の登場人物はどうしても“そのような”存在だという先入観が先に立って、“それ以上”の存在であることに頭が回らなくなってしまうものだ。無論、転生者が所有するチート能力という絶対的なアドバンテージには欠けるが、それは他の転生者を補佐に着けることによって解消できる。
 無論、その補佐の存在をタバサに知らせる必要はどこにもない。

「さて、どうしたものか…………」
 頭の中がぐるぐると回って混乱して考えがまとまらない。
 とうとう、来るべきものが来た。先日の決闘騒ぎの時点で、転生者の内の誰かが何らかのリアクションを仕掛けてくることは予想できた。だが、まさかそれが一番恐れていたガリアからのアプローチであることは予想外。
 どうするべきか。
 タバサが北花壇騎士団のエージェントである限り隠し通すのは不可能。転生者であることは既にバレている。これは間違いない。ならば、今さら隠しても無駄なはず。
「答えて」
「…………ああ、そうだ。間違いなく僕は転生者だよ」
「そう。なら────」
 なら、何だというのか。最悪のケースを想定して、僕はタバサに分からないようにマントの内側に“王の財宝”のゲートを展開する。しかし、タバサの要求は僕の想定を大きく外れるものであった。


「────私に協力してほしい」


 ぴたり、と思考が停止する。音の連なりを少しずつ咀嚼して、脳内で意味を構築し直して、文法の羅列を分析し直して、ようやく意味の取れる言語へと変換されていく。
 停止した思考を無理矢理動かして考える。協力。それが何を意味するのか。
「それは、北花壇騎士団のシュバリエとしてか? それとも、タバサ────いや、シャルロット・エレーヌ・オルレアン個人として?」
「それは……」
 問いに答えようとするタバサの表情に逡巡が見える。この問いかけは、単純なように見えて複雑。それは、タバサの────シャルロットの立ち位置そのものを決定づける問い掛けで、転生者という力をどのように使いたいのかという、そういう問いだ。
 そして、それは僕にとって、タバサがどのような協力を求めているのか、ということを意味し、つまりそれは、シャルロットのルートからガリアに、ひいてはその背後に控えるジョゼフ王に、どのような情報が伝わるか、ということ。
 ややあって、逡巡したシャルロットは一つの答えを出す。

「両方。北花壇騎士団の七号騎士としての任務を果たすためにも転生者の能力というアドバンテージがどうしても欲しい。でも、転生者の能力であれば、復讐を果たしてその上でお母様を助けられるかもしれない」
「なるほど、ね。……君は全てを手に入れるつもりか」
 こくりと頷く。タバサの眼は湖水のように澄み渡っている。迷いは欠片もない。
「礼はする。必ず。私にできる事なら、何でも」

 思案する。どうする? 
 危険。
 まず考え付いたこととして、協力者の情報はどうしてもジョゼフへと伝わる事になるだろう。僕の正体が転生者だとバレた以上、どうしても情報はジョゼフに伝わってしまう。タバサ自身が知っている、知っていないは別として、タバサにはジョゼフの監視が付いている、おそらくこれは間違いがない。
 利点。
 一つには、転生者派閥に属することになるということ。言い換えるなら、組織の後ろ盾がつくということだ。
 いかに強力な個人であると言っても、強力な個人である事はそもそも転生者としてはごく当たり前のことに過ぎない。だからこそ転生者は数の力に弱い。転生者がいかに強力であっても、同様に強力である他の転生者にとっては単なる個人に過ぎないのだ。故に、最後まで残る転生者は必ず群れる。ギーシュのような存在はむしろ例外と考えていい。
 そしてもう一つ、ジョゼフに接近できるということ。ジョゼフに近づくのはそれだけで鬼門だ。だが、近づくことによって、彼の目的が見えてくるという可能性もある。

 思案する。思案して、腹を括る。どうせ逃げられないのなら、少しでも有利な状況で待ち受けた方がいい。
「……了解した。君に協力しよう」
 タバサの表情に明らかな安堵が拡がるのが見えた。それと同時に、横合いから殴りつけるような悪意が吹きつけてくるのを感じた。

 衝撃、金属音。

 虚空に突き込んだ鮮血色の長槍が甲高い音を立てて弾き返される。“王の財宝”から抜き放った槍を握る手に鈍い手応えが残ると同時に、僕はタバサの身体を抱えて馬上から飛び退っていた。直後、僕の跨っていた馬が横腹に頭を通せるような大穴を開けて崩れ落ちる。
「……来たな尾行者」
 来た道を睨むと同時、羽ばたきの音を上げて僕を襲った見えざる凶器が姿を現す。それは鳥に似ていた。全体的なフォルムは鶏に近く、それでいて各部のパーツは鳩に似て、しかしあらゆる鳥と似ていない異形。そもそも鳥ですらない、一瞥しただけでも地球ハルケギニア問わず地上のあらゆる生物と違う系に属すると判る異形。その姿を、僕は知っている。
「召喚タイプの転生者……」

 僕は異形の魔鳥から注意をそらさずに来た道を見つめる。馬蹄の音と共に、見覚えある人影が姿を現す。
「マリコルヌ……」
 お前も転生者だったか、と溜息をつく。原作と大差ない変態具合だったので転生者だと気付いていなかったし、そもそも重要視すらしていなかったのだが、こんな状況で出てくるとは。
 あそこまで自分を隠し通せた隠蔽能力が計算上であれば褒め称えてやるところだが、おそらくは違う。もしそうであれば、コイツがここで姿を現した意味が分からない。ただのバカか、あるいは、僕など瞬殺できるほどに余裕があるのか。
「タバサ、君はこいつを知っているか?」
「名前だけは知っている。マリコルヌ・ド・グランドプレ」
「つまり、少なくとも君の仲間ではないということか」
「ええ」

 とりあえず、こいつには強者の気配は感じない。そして同時に、自分の力に絶対の自信を持っている者に特有の余裕を感じる。だがそんなもの、転生者ならばごく当たり前に持っていて然るべきものだ。そんなものは判断材料にならない。
 さて、どうしたものか、と考える、それよりも早く、マリコルヌは甲高い声を上げてこちらを威嚇する。


「おまえ、なんで俺のタバサたんに手を出しているんだよ!?」


 はい?
 一瞬、思考が停止。つまり、コイツは馬鹿だと判断。無論、馬鹿だからといって弱いとは限らない。転生者の性能は本人の性質ではなく、転生間際にそいつが何の能力を選んだかに依存する。
「タバサたんは、俺の嫁だぁあああああああああああああああ!!」
 マリコルヌの放つ怒気に反応して、異形の鳥の全身が変形する。脊髄が伸縮して一本の芯となり、翼が変形して空気抵抗を切り裂く戦闘機状のウイングと化し、鳥そのものの脚部は体内に収納されて圧搾空気を噴出する推進筒が展開する。

「まずは小手調べ、ってところかね」
 にやり、わざとらしく唇を吊り上げながら異形の鳥の突進を回避、タバサごめんと囁いて、マリコルヌに見せつけるようにしてタバサの身体を抱き寄せる。
「お前の? 嫁? 馬鹿が。コイツはとうに僕の女だ」
「てめえ、タバサたんに触るんじゃねええええええ!!」
 少女の腹に回した腕から柔らかな太腿を撫で、もう片方の手を少女の襟元から服の内側に這わせ、トドメ、ぺろりとタバサの頬に舌を這わせて見せれば、タバサの頬が真っ赤に染まり、脳天まで血が上ったマリコルヌの怒りに反応するようにして急角度で旋回した異形の鳥が突進してくるのが見える。

「沸点低いな、馬鹿め」
 首を傾けて回避すると、回避しきれなかった風切り羽が頬に一筋の赤い筋を刻む。同時、マリコルヌがいそいそと服のポケットから何かを取り出す。
 カード、と見たそれのこちらから見えない面面から、ずるぅり、と三本の腕が伸びる。剥き出しの骨だけで構成された、鉤爪を持つ腕。それらがマリコルヌの腹部に鉤爪を突き立て、引き裂くように掻き開く。その傷口の奥に広がるのは生々しい血肉ではなく、無機質極まりない底知れない虚空。
 そこから、出てくる。何かが。得体の知れない何かが。

「出ろぉ、“キュラトス”!!」
 相手の能力はカオシックルーンか、と僕が判断するのと、マリコルヌの腹腔に開いた虚空から異様な生物がはい出してくるのはほぼ同時。
 蜥蜴に似た生白い体躯。仮面のようにそこだけが黒い頭部。二の腕の外側から生えた蝙蝠に似た翼。例えるならそれは竜に似ていた。全長二十メイル超過のハルケギニアの火竜と比べてもなお矮小なせいぜい四メイル程度の体躯、しかしそこから放たれる殺気だけは十分に凶悪だ。
「フヒヒ、これでおまえの勝ちは無くなった」
 マリコルヌが乾いた嗤いを漏らす。だが甘い。敵の狙いはおそらく異形の鳥が付けた掠り傷から吸血竜が全身の血を吸い尽くす瞬殺コンボ、だがネタの割れた手品が通じるほどに僕は甘くない。
 マリコルヌの腹腔から這い出した吸血竜キュラトスが口を開くと同時に、その口腔にアクア・ボムをブチ込めば、生物一匹を瞬殺する吸血攻撃は一瞬沈黙。
 その隙に、手にした槍を構え、手首のスナップだけで投げ放つ。解放する真名は一つ。


「────『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』!!」


 手にした真紅の槍が血色の光を放ち、無数に屈曲し物理法則を完全無視した軌道を描きながら吸血竜の心臓を射抜かんと飛翔する。
「っキュラトス避けろ」
 マリコルヌが吸血竜を操って回避行動を取らせるが無駄。ゲイ・ボルグの能力は因果の逆転、初手で『心臓を射抜いた』結果を作製してから放つ一撃は既に結果が出来上がっているがためにいかなる過程をも無視して敵の心臓を撃ち抜く、故にいかなる回避も防御も無意味。
 必死で身を捻り射線軸から身体を逸らし退避したその瞬間には、力学上有り得ない軌道修正を果たした魔槍の切っ先がその胸元へと添えられて、心臓を撃ち抜かれたキュラトスが悲しげな悲鳴を上げて崩れ落ち、マリコルヌの懐から数枚のカードが飛び出して燃え落ちる。

「確か魂をデッキにストックしてあるんだったよな! モンスターのダメージフィードバックがその身に届くまで、そのデッキは何枚まで持つんだ!?」
 お前の弱点は知っている、とばかりに叫べば、マリコルヌは慌てて数枚のカードを抜き出してあらたな怪物を召喚する。
 同時に僕はタバサの小さな体を安全圏に放り落として、地面に突き立った槍へと走り寄る。それを見たマリコルヌが慌てた声を上げ、新たに二枚のカードを取り出して怪物を召喚。
「待て、やらせるな、サイロックス、シーラニクティス!!」
「遅い!」
 分厚い甲殻に覆われたバイソンの角を持つ犀のような異形と、二本の触手を持つ軟体動物のような異形がこちらの進路を塞ぐように立ち塞がるが、その動きはどう見ても鈍重、ランスロットの動きが重装甲タイプと水中戦タイプに遅れを取るはずがないのだ。
 巨獣の角と水棲生物の触手を掻い潜って槍を掴み取り、後ろに向かって振るって触手を斬り飛ばし、真名解放から続く二連撃、二匹の怪物を突き殺す。
「終わりだ」
 水平に槍を構え、マリコルヌの心臓を照準する。同時、慌てたマリコルヌが逡巡するような様子を見せながら一枚のカードを取り出す。

「出ろぉ!! で、でで、デス=レックスぅ!!」
 カードから三本の骨の腕が突き出し、マリコルヌの腹部に掻き開かれた三角形の虚空からこれまでとは比べ物にならない威圧感が噴き出してくる。虚空から突き出すのは虚ろな眼窩に底知れない闇を湛えた髑髏型の貌、そしてその両脇から突き出す、人に似た腕。
 それだけだ。その怪物は、それ以上、こちら側の空間に出てこようとしない。
「なるほどなぁ。つまり、お前は“そいつ”を使役するために必要な生存本能が足りない。飢えがない。要するに、所詮お前は能力だけを写し取った転生者、ヒーローにはなれないってことさマリコルヌ」
「な、な、何だとおおおおお!! 馬鹿にするな、デス=レックスぅうううう!!」
 マリコルヌの叫びに応えるように腕と顔だけのその怪物が拳を振るうが、軽く回避と同時に槍を一閃、その腕を深々と切り裂き、腕に深々と槍を突き立てる。
「化物の力を手に入れて有頂天になったんだろうが、敵もまた化け物だ、とかそれくらい考えなかったのか?」

「ふざけるな! おれは、おれは力を手に入れたんだ! もう誰にも負けない力を! 無敵の力をぉおおおおおおおお!!」
 怪物の腕が大きく振り回され、少々危険と判断、槍を敵の腕に突き刺したまま手放して飛び離れる。
 マリコルヌが手に握ったカードを振りかざすと同時、ずるぅり、とその怪物がマリコルヌの腹に開いた虚空から這い出してくる。全長十五メイル程の巨体、鰐のような鱗に覆われた菱形の体躯。先端には左右に伸びた角を持つ髑髏の貌。その両脇から伸びる人に似た腕と、巨体とはあまりに不釣り合いに矮小な骨格だけの翼。浮遊する巨体を支えるものはなく、後端から伸びた矢印状の尾だけが地面へと垂らされている。
「まあ、そうだな。だけどよく考えてみろよ。無敵なのはお前じゃなくて、お前の能力だ」
「違う、違う、違う!! 俺は無敵なんだぁああああああああああああ!!」
 マリコルヌの手に握られた十数枚のカードが暗い光を放ち、巨竜の姿が変容する。

 両腕がより巨大に、それ自体独立した怪物であるかのように凶暴な形状に。
 下半身もまた巨大に、無数の口を持つ肉塊のような姿に。
 背中の翼は蝙蝠にも似た闇色の翼。その翼が落とす影はどんな闇よりも暗い、まるで奈落。
 尾は渦巻く水飛沫に分解してから再び再結合し、巨大な魚のそれに似た形状に。
 怪物の口となった掌から刃が突き出す。胴体の半分以上を占める巨大な口蓋が開き、その舌の表面から鞭のように細い触手が生え出す。

「……フル装備か」
 僕は溜息をつきながらタバサの隣に後退すると、タバサが物問いたげな顔を向けてくる。
「あれは?」
「死竜王デス=レックス。漫画に登場する怪物。何もかも喰い尽してしまう凶暴な化け物。本当なら尻尾と翼が欠けているんだが、アイツは持っているみたいだな」
 元々のキャラは持っていなかったけど、と付け加えて肩をすくめる。
 僕の視界の中で、肉塊に似た下半身に巨大な口が開き、マリコルヌを呑み込んでしまう。どうやら、制御しきれなかったらしい。
「タバサ、これが転生者の弱点だ。精神力が威力に直結する能力は、完全に使いこなせない」
 僕も含めて、と心の中で自嘲。

「なあ、タバサ。シャルロット。シャルロット・エレーヌ・オルレアン。転生者って何だと思う? 勇者か。魔王か。救世主か。天使か。悪魔か。さあどれだ? 君はどう考える?」
「……? 分からない」
 マリコルヌを呑み込んだ口を何度か咀嚼すると、その動きを止め、今度はこちらへと向き直る。タバサは巨竜の鰐に似た頭部の鼻先に付いた髑髏の貌の、虚ろな眼窩を睨みつける。その口の部分が上半身の半ばまでを引き裂くように展開し、その口蓋の奥に無表情な巨大な単眼が垣間見える。

「転生者っていうのはさ、本当は、物語の主役じゃあない。敵役でもない。脇役にすらなれない。そんな立派なものじゃない。そこに辿り着くために才能があって努力して努力して最後まで努力してそこに辿り着ける選ばれた一人じゃない。そこへ辿り着く前に諦めてしまって適当なものしか手に入れられなかった、あるいは何も手に入れられなかったその他大勢、そういう人間なんだよ」

 思わず身構えたタバサを庇うように前に出るが、戦う気は欠片もない。いつでも逃げ出せるように構えておく。

「だからさ、転生者ってのは、本当にどうしようもない人間ばっかりだ。そういう人間は、本当なら、辿り着いた連中を横目で眺めて見上げて憧れながら、でも溜息をつくことしかしない。できない。でも転生者は違う。力がある。だから、短絡的に手に入れようとする。それができるから。でも、ようするに結局、それだけのものでしかないんだ」
 僕も含めて、と声には出さず、喉の奥だけで呟く。
 召喚者であるマリコルヌを失った怪物は、現世に留まる力を失ったのだろう、その輪郭を急速に薄れさせ、元のカードへと戻る。
 結果、怪物の腕に突き立っていた槍は支えを失って落下し、僕は地面に突き立った槍と投げ出されたカードを回収する。手に入るものは入れておく主義だ。
「優しい世界とか、美しい世界とか、そういうものを作り出せるのは物語の主役だけだ。そういうものはどうしようもなく致命的なほどに奇蹟的な運命の悪戯が積み重なって出来上がるものだ。転生者は世界を変える力こそ持っているが、凡人の魂しか持たない転生者に作り出せるのは変わり果てた世界だけ、出来上がるのは単なるディストピアだ。そんなもの、どうせ期待するだけ無駄だよ」

 ああ、そういえば一つ忘れていたな。
「急に触ったりして、悪かったな。気持ち悪かっただろ」
「……気持ち悪くない」
 どうだかな、と思う。
 答えを聞いても信じられないというのなら、問いに意味はない。要するに、心と心が通じていないということ。相手を信じられないということ。
 僕はタバサから表情を隠すように背を向けた。死んだ馬とか、マリコルヌの死体など、処分しなければならない。

 それでも。それでも、だ。

「とにかく、だ。たった今、この瞬間から、僕と君とは同盟者で共犯者だ。覚悟はいいか?」
 僕は背を向けたままタバサに声をかける。彼女はきっと頷いたのだろう。なぜなら。
「……大丈夫。覚悟はできている」
 なぜなら答えが返ってきたから。言われなければ分からない関係は、きっと信頼とは程遠い。そんな風に思う。それでも。
 背後からそっと手が握られる。タバサの小さな手はひんやりしていて冷たかった。体温の低い人間は心が暖かい、と、脈絡もなくそんな俗説を思い出す。
「大丈夫。気持ち悪くない」
「……ありがとう」
 それでも、だ。信じたい、と思う。

 思ってもきっと届かないと、同時にそんな確信があった。人は決して届かないものにこそ憧れるのだ。



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後書き的なもの
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 転生バレの回。
 立場はタバサの現地協力者。所属、ガリア北花壇騎士団。
 見事にフェルナンに騙されているタバサ。タバサ逃げてー。

 転生者の弱点は精神。精神攻撃に不利な他、意志の力が威力や制御力に直結する能力の場合、転生者本人の意志力がダイレクトに反映されるため場合によっては弱体化します。グレンラガンとかそこらへん。

 ところで、フェルナン軍の主戦力。火竜+ラルカス型ホムンクルス+ブラスレイターその他色々、いつまでもミノタウロス型とかラルカス型では区別が難しいので、現在大絶賛名称思考中。なかなかいい名前が思いつきません。


 そろそろリアルの都合でしばらく更新できなくなるかもしれません。






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