<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.13866の一覧
[0] 濁流のフェルナン   【ゼロ魔二次・習作・実験作・R-15】【更新再開】[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:36)
[1] 濁流のフェルナン0 転生直前[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:48)
[2] 濁流のフェルナン01 奴隷市場[ゴンザブロウ](2009/11/11 21:54)
[3] 濁流のフェルナン02 約束[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:00)
[4] 濁流のフェルナン03 舞踏会[ゴンザブロウ](2009/11/11 22:42)
[5] 濁流のフェルナン04 長々と考察[ゴンザブロウ](2009/11/12 21:59)
[6] 濁流のフェルナン05 王道に対する邪道の在り方[ゴンザブロウ](2009/11/12 22:04)
[7] 濁流のフェルナン06 悪夢の後に見る悪夢[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:37)
[8] 濁流のフェルナン07 決闘と狂乱[ゴンザブロウ](2010/02/19 16:43)
[9] 07終了時における設定など覚書[ゴンザブロウ](2010/03/17 22:25)
[10] 濁流のフェルナン ルートA08 血塗れの天空【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 13:03)
[11] 濁流のフェルナン ルートA09 激突【仮掲載・前回と同じ】[ゴンザブロウ](2010/02/23 14:55)
[12] 濁流のフェルナン ルートA10 新生[ゴンザブロウ](2010/02/26 12:18)
[13] 濁流のフェルナン ルートB08 ミッション・インヴィジブル【仮掲載】[ゴンザブロウ](2010/02/26 19:07)
[14] 濁流のフェルナン ルートB09 牛鬼とホムンクルスの人間性[ゴンザブロウ](2010/02/26 16:22)
[15] 濁流のフェルナン ルートB10 フェルナンの冒険[ゴンザブロウ](2010/02/28 16:58)
[16] 濁流のフェルナン ルートB11 冒険で彼は何を得たか[ゴンザブロウ](2010/03/03 20:37)
[17] 濁流のフェルナン ルートB12 一つの再会、一つの世界の終焉[ゴンザブロウ](2010/03/09 00:27)
[18] 濁流のフェルナン ルートB13 虚無の敵意と水の再会[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:20)
[19] 濁流のフェルナン ルートB14 同盟者[ゴンザブロウ](2010/03/16 11:24)
[20] 濁流のフェルナン ルートB15 崩れる同盟[ゴンザブロウ](2010/03/21 10:07)
[21] 濁流のフェルナン ルートB16 人形と人間の狭間で[ゴンザブロウ](2010/10/08 11:34)
[22] 濁流のフェルナン ルートB17 狂王の布石[ゴンザブロウ](2010/10/11 20:45)
[23] 濁流のフェルナン ルートB18 不吉の予兆 【番外編追加】[ゴンザブロウ](2010/10/15 23:47)
[24] 濁流のフェルナン ルートB19 我が名はレギオン、大勢なるが故に[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:00)
[25] 濁流のフェルナン ルートB20 瘴気のアルビオン[ゴンザブロウ](2010/11/09 14:28)
[26] 濁流のフェルナン ルートB21 惨劇の後始末[ゴンザブロウ](2010/11/10 13:22)
[27] 濁流のフェルナン ルートB22 ヒトという名のアイデンティティ[ゴンザブロウ](2010/11/20 14:26)
[28] 濁流のフェルナン ルートB23 この冒瀆された世界の中で[ゴンザブロウ](2010/12/01 23:54)
[29] 濁流のフェルナン ルートB24 世界が壊れていく音が聞こえる[ゴンザブロウ](2010/12/18 17:14)
[30] 濁流のフェルナン ルートB25 ロクデナシのライオンハート[ゴンザブロウ](2011/03/27 23:19)
[31] 濁流のフェルナン ルートB26 OVER/Accel→Boost→Clock→Drive→Evolution→[ゴンザブロウ](2011/04/13 13:25)
[32] 濁流のフェルナン ルートB27 決戦前夜 【加筆修正】[ゴンザブロウ](2011/07/09 02:12)
[33] 濁流のフェルナン ルートB28 おわりのはじまり、はじまりのおわり[ゴンザブロウ](2011/07/14 01:31)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[13866] 濁流のフェルナン ルートA10 新生
Name: ゴンザブロウ◆cebfabc8 ID:d73d82b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/26 12:18
 天に城が浮いている。“現実”と呼ばれるとある世界に生活する者たちから見ればはなはだ非現実的な光景ではあるが、しかし、それは現実に存在している光景であった。
 美しい城だ。いや、正確には、だった、というべきか。美しかった城は、降り注ぐ火竜の死骸によってその外観の悉くを穢し尽くされ、無数の血肉で赤く塗り潰されている。
 それはまるで、平和な光景が描かれた一幅の名画を、悪意を持った子供が赤いクレヨンで塗り潰してしまったかのような、どこまでも酷薄で無惨極まりない光景である。
 そして戦闘は未だに続いていた。
 上空から押し寄せる火竜の群れに向かって、城を守る鋼の兵隊が空を舞い、閃光を放って応戦する。
 一頭一頭の火竜は弱い。一体のロボット兵を撃墜するのに、数百の火竜の死が必要だ。だが、敵は無限。そう、無限なのだ。ロボット兵たちがどれだけ奮戦して火竜を撃墜しようとも、火竜の群れはそれ以上の速度で増殖する。
 大地を焼き滅ぼすラピュタの雷が使えれば火竜など一網打尽にできただろうが、あいにくと頭上には射角が取れない。結果、ロボット兵で応戦する以外に手段はないのだ。

 一頭の火竜が吐き出した炎のブレスを、ロボット兵の頭部から放たれた閃光が貫通、火竜の半顔を抉り飛ばし、傷口から沸騰した脳漿が弾け散る。
 だが火竜はまだ動く。脳髄も沸騰して頭部すら半ばまで砕かれていながら、火竜はその傷をものともせずに咆哮を上げ、その身体全てを使ってロボット兵に掴み掛かり、押さえつけたのだ。
 膂力においてもロボット兵は火竜のそれをことごとく上回る。火竜がロボット兵を抑えていられるのはほんの数秒だ。だが、それで十分。動きが鈍ったロボット兵に向かって五体満足な他の火竜が飛び掛かり、一頭では駄目なら二頭で、二頭で駄目なら数十頭がかりでロボット兵を押さえつける。
 そして、押さえつけた竜たちが放つのは疑似聖堂詠唱による極大規模の先住魔法、周囲の大気全てを雷雲に変容させて放つ、特大の雷撃だ。それは仲間も自身も諸共に焼き払う一撃、雷撃は火竜の肉さえ焼き払い、沸騰した血液と肉汁が大気に飛び散り、肉の焼ける生臭い煙が空を満たす。
 その様はまさに肉団子、それは既に、地上最強の生物である竜種の行動ではない。ある種の蜂が行う防衛行動、天敵である雀蜂に襲われた日本蜜蜂は、大勢の仲間と共にその雀蜂に群がって蜂球と呼ばれる球状群を形成し、時間を掛けて自らの体温で蒸し殺すのだ。
 しかし、それでもロボット兵を破壊するには足りない。蛇腹状の腕を振るって火竜の死体を払い飛ばすと、電磁波で思考回路が狂ったか、それとも手痛い一撃を浴びた事への腹いせか、堕ちゆく火竜の死骸に向けて閃光を放つ。連続して光条を受けた火竜は全身の体液を沸騰させて弾け飛び、砕け散る。
 だが、それこそが敗因だ。その行動によって、火竜の群れは新たな攻撃パターンを取得したのだ。

 編隊を組んだ火竜が煤を被ったロボット兵へと突撃する。ロボット兵の放つ閃光による迎撃が一体、二体と火竜を撃ち落としていくが、十体近くが向かってくる全ての火竜を撃墜するには至らない。咆哮を上げた火竜の群れが行うのはこれまでのような組み付きではなく、何の種も仕掛けも存在しない体当たり、それだけではその正体すら知れぬ超科学によって形成されたラピュタのロボット兵を撃墜するには及ばない。だが、それだけでは終わらない。終わるはずもない。
 ロボット兵の機体へと“着弾”した火竜が、次々と爆発する。火竜の体内でその肉体を支配下に置いている水精霊が、その体内の水分を根こそぎ水蒸気へと置換したのだ。結果、発生するのは水蒸気爆発だ。トン単位の血肉が爆薬へと変じ、その直撃は現代世界におけるミサイルさえも凌駕する。
 数百体の火竜を弾薬としてラピュタに、ロボット兵に血肉の爆薬が降り注ぎ、爆炎と血漿の華が蒼い空を汚穢に染めて咲き乱れる。

 やがて、ラピュタの側面が内側から砕かれる。発生したのは竜巻、内側から巻き起こる膨大な大気が発生させる疑似的な次元断層がラピュタの外壁を内部構造を内側から喰い破り、打ち砕く。
 群れなす火竜達にとって、それが意味するところはただ一つ。彼らの主の敗北。
 だが、それにさしたる意味は無し。彼らは自らの最後の使命を実行する。すなわち、その存在そのものを爆薬に変えた突貫。竜巻が喰い破った城壁の穴に向かって飛翔し、その内側からラピュタの内部構造そのものを破壊する。

 同時に、ラピュタの内側からもまた別の危機が発生していた。侵入したフェルナンによってラピュタの内部に設置された複製障壁が、その効果を発揮し始めていたのだ。
 床の構造材の間に挟み込まれた複製障壁は、その床の構成素材そのものを仕込まれた他の複製障壁ごと喰っては複製し、その質量を最初は緩慢に、しかし次第に加速して、高速で増殖し続ける。それはまるで空に浮かぶ要塞の内側で、癌細胞が増殖するかのようにも見えた。
 その効果は単純確実、ラピュタそのものの質量がゆっくりと増大し、ラピュタの構造自体がその自重を支え切れなくなったのだ。エヌマ・エリシュの内部からの解放、そして無数の火竜による特攻は、確実に天に浮かぶ城塞の強度を弱らせていたのだ。

 ラピュタが砕けていく。しかし、完全には砕けきらない。中枢たる飛行石を抱え込んで内部で成長した巨大植物の根が、構造材を繋ぎ止め、それ以上の崩壊を防いでいるのだ。余計な構造物を振り捨てて身軽になった飛行石は、やがて巨大植物を伴って、その浮遊力で空の彼方へと飛び去っていく。



 濁流のフェルナン/第十段



「ぐ……ぷはぁっ!?」
 僕は目を覚ます。周囲を見回すと、僕の体は水の上に浮いていて、辺り一面見渡す限りに水面が広がっている。朝靄が広がっていて岸は見えないが、ここはラグドリアン湖だ。
 負けた。だが。
「……生きてる」
 エクスカリバーの真名解放によって、跡形残さず消滅させられた。保険を掛けていなかったら、本当に死んでいたところだ。いかに型月世界のサーヴァントと準人型ホムンクルスの身体性能を持ち、水の精霊と同化して先住魔法による再生能力を持つとしても、エクスカリバーで跡形もなく焼き尽くされれば、それ以上再生する事は不可能だ。
「はは、あ、あっははははははははははははははは、ははっ……生きてる! 生きてるぞ!! 僕が! この僕がだ! はは、あははははははははははははははははははは!!」
 笑いが込み上げてくる。勝ったと思っているはずのあいつを出し抜いてやった事とか、実験が上手くいった事とか、そんな事はどうでもいい。とにかく、僕は生きている。その事がどうしようもなく、嬉しくてたまらない!!
「どうやら、保険を掛けていて良かったみたいだな……」
 僕の本体はそもそもこのラグドリアン湖の湖水そのものである水の精霊であり、人間としての肉体は、僕が使役する火竜の群と同様に、水の精霊の端末に過ぎない。水の精霊としての肉体はいくらでも分割できるがそこに宿る意識は常に一つであるため、相似魔術で複製したところで、やはり意識は一つである。そのため、火竜もいくらでも複製する事が可能であった。
 そして、火竜を複製できた以上、同じく水の精霊の端末である僕自身の肉体も複製しておくことができるのは当然だろう。故に、今僕が使用している肉体もまた、ラグドリアン湖の湖底に隠していた二つ目の肉体である。
 元々は、自分の肉体を複製するというのは自分自身を複製するという行為なので、いくら複製に複製を重ねたところで、もう一人の自分が無限に生まれるだけで意味がない。水の精霊の特性が無ければ、こんなことはできはしない。
 当然ながら、あの時ブロークンファンタズムで破砕した太陽剣グラムも相似魔術によって僕の肉体ごと複製したものであるので、躊躇なく砕く事が可能。そうでなければ、貧乏性の僕が躊躇なく武器を使い捨てるような真似は不可能だし、そもそもあんなラピュタなんて訳が分からない代物の中に自分から足を運んだりはしない。まあ、もう正面から挑みかかるなんて二度とやりたくないけれど。
 ……やたら人間離れして気がするがどうだろう。


「僕は、何をしているんだろうなあ……」
 無謀であること極まりない。相手がセイバーの能力を持っているのなら、当然アヴァロンを持っているはず。そんな当たり前のことに思い当ることもなく、衝動に突き動かされるままに喧嘩を売った。
 ああ、そうだ。今度こそ、ようやく落ち着いた。だからこそ、考える余裕もある。湖の湖面に浮かびながら、僕は溜息をついた。
 湖の上を漂いながら空を見上げ、ほぅ、と再び溜息をつく。意味もなく溜息をついて目を閉じる。湖面には辺り一帯に靄が掛かっていて、岸がどこにあるのかすら見る事ができない。ラグドリアン湖にいる以上は、水の精霊の本体と繋がった感覚を通して本体の知覚を使えば何もかも見通す事ができるのだが、何となくそんな気分にはならなかった。
 冷え込んだ朝の大気が心地よい。それで体調を崩さなかったのは、肉体が水の精霊と同化していたからだ。
「ってことは、随分と無茶をしていたってことになるのかな……?」
 話す相手がいなければ、自然と独り言を漏らす癖がつく。話し相手がいないという寂しさと退屈、誰かに聞いて欲しいという欲求と同時に、決して答えが返ってこないという大前提が安心感をもたらすから。
 空。青く遠く、深い。白い雲が浮かび、ゆっくりと流れていく。
 前世の僕も、よく空を見上げていた。別に、これといった理由があったわけでもない。ただ、綺麗だと思えたから見ていた。それだけだ。昔から機械の類とは縁が薄くて携帯も持っていなかった僕だが、こういうときだけはカメラ付携帯が羨ましかったのを覚えている。
「あぁ……」
 久しぶりに息をつく事ができたような、そんな気分。焦燥で満たされていた心に生気が戻ってくる。大きく深呼吸すると、新鮮な大気が肺の中に溜まっていた淀んだ呼気を追い出してくれる。
 落ち着いてくると、今までの自分の行動が馬鹿馬鹿しいほどに滑稽だった事が良く分かる。前世の原作知識どころか、現実になるかどうかも分からないような脅威に怯え、挙句の果てにはそれで疲弊して、気絶までしたような有様。肉体的な疲労は水魔法でいくらでも治癒できるが、精神的な疲弊まではどうにもならなかったらしい。
「まあ、それでも完全に得られたものがゼロってわけじゃなかったから良かったものの……」
 そう、確かに得られたものは皆無ではない。敵の能力を知った。確かにそれは収穫だ。だが、僕は理解している。
 負けた。
 敗れ去った。
 完膚なきまでに敗北した。
「はぁ……」
 吐きだした吐息に震えが混じる。息苦しさを感じて鳩尾を押さえる。視界が歪み、霞む。
「ああ……」
 感情が溢れる。そして初めて気がついた。これは涙だ。
「勝ちたい…………」
 泣いた。
 勝ちたい。負けたくない。悔しい。
 そんなどうしようもない事実に、僕はただ涙を流し続けた。

 まったく本当に、やれやれ、だ。何をやっているのだか。
 ともあれ、これで一応落ち着いた。恐怖がなくなったわけではないが、新しい可能性が見えてきた。一つ一つ、落ち着いて進めていこうか。


 水辺に立つと、水の先住魔法で全身を濡らしていた水はすぐに乾ききった。すぐさま火竜を呼び出してその背中に乗り、モット伯領の館を目指す。
 帰った。
 使用人にはお帰りなさいませと頭を下げられたが、さして心配もされていなかったようだ。半分無視するようにおざなりに返事をして自室に向かう。
 廊下を進み、ドアを開ける。そこには。
 掃除の最中だったのだろう、箒を持ったまま、呆然とこちらを見る少女。
「ただいま、シャーリー」
 その途端、少女の顔が歪んだ。ばたん、と音を立てて叩きつけるように箒を床に落として、シャーリーは僕に駆け寄ってきた。
「ご主人さま……ご主人さまご主人さまご主人さまぁっ…………」
 シャーリーは僕に抱きついて泣きじゃくる。いや、今はまだシャーリーの方が僕よりもやや身長が高いから、シャーリーの方が抱き締める形になってしまう。
「本当に、本当に心配したんですよ……心配したのに一人で行ってしまわれて……お怪我はありませんでしたか?」
「ああ。見ての通りだよ」
「…………良かった。本当に、ご主人様が無事でよかった」
 同じように、背後からも駆け足の足音が聞こえてくる。少しずつ速度を落として、そして。
 後ろから抱き締められた。
「お帰りなさいませ、ご主人さま。……言いたい事はたくさんありますけど、今は……何も……言えませんから…………このままで…………」
 僕を背後から抱き締めているリーラの声にも嗚咽が混じっている。どうやら、本当に心配をかけてしまったようだ。

 帰り着いた家では、信頼なのか無関心なのか、父には大して心配もされていなかったようだが、リーラとシャーリーには本当に泣かれた。正直気まずかった。
 だが、帰る場所があるというのは嬉しいものだ。そう思う。


 まず、最初に考えるべき事は一つ。転生者対策だ。
 あれだけ荒れ狂っていた衝動から解放されて冷静になって考えてみても、今の僕は純粋に能力不足だ。
 現状において僕が使役する火竜の群なんぞも、ハルケギニアの軍隊相手なら十分な威力を発揮するだろうが、転生者相手では役者不足だ、というのが、この間の戦闘ではっきりした。量産型のロボット兵一体を撃墜するのに、百頭以上の火竜を犠牲にする必要がある。これは、いかに相似魔術が量産に向いているといっても、少しばかり無理がある。第一、そもそも火竜ってのはゼロ戦にすら劣る程度の能力しかないのだ。どこぞの現代知識持ちのチート転生者にF-22ラプターなどを錬金されたら、もはやどうなるかなど分かり切った話だ。
 故に、早急に能力を強化する必要がある。

 ちなみに、この間の火竜はまだ使いきっていなかったので、現在ではその大半はラグドリアン湖の湖底へと沈めている。ラグドリアン湖の湖水は僕の本体であるので、端末を腐らせずに保管する事など容易いことである。

 にしても、転生者、か。
 僕やギーシュ以外にもいるんだろうか?
 いる、可能性もある。だが、当面の相手は、能力の割れているギーシュと考えた方がいいのではないだろうか。何といっても、ギーシュは既にルイズだけでなくティファニアをも確保している。世界に存在する虚無の内の半数を手中に収めているのだ。

 まあ、ギーシュと戦う必要も、これといって無かったりするのだが。僕は顔を隠していたし、ギーシュは僕の事をジョゼフ配下の転生者だと思っているだろう。
 ちなみに、ジョゼフと言えばオルレアン公暗殺事件は、僕の知っているゼロ魔原作通りに、既に起きてしまっている。そう言えば、あの事件を阻止できた二次創作を、僕は何故かほとんど見た覚えがない。例えジョゼフが正気のまま登場する作品でも、だ。つまり、シャルロットがタバサになったという事。御冥福、南無南無。

 さて、それから、次はギーシュの能力に関して、だ。
 まず、現時点で判明している彼の能力は四つ。
 Fateのセイバー。
 リリカルなのはのシグナム。
 宵闇眩燈草子の長谷川虎蔵。
 スタジオジブリのラピュタ。
 僕の能力が五つである以上、もう一つくらい隠し玉がありそうなものだが、それは分からない。戦闘に使うような能力じゃないのか、それとも使わずに取っておいたのか、どちらかは謎。
 特に、セイバーがまずい。セイバーのアヴァロンは、僕の最大火力である乖離剣エアを含むほぼ全ての攻撃力を無効化してしまう。
 となると、最善の策は使われる前に倒す、という事だが、おそらくこれも難しいだろう。反射速度は多分、セイバーの直感スキルを持つ向こうの方が上だ。



 ああ、そういえばギーシュについてだが。
 僕が前後不覚になって家を飛び出している間、決闘騒ぎのあれこれで何やら謹慎処分になっていたらしい。あとルイズも。ギーシュはなぜか何やら甲鉄艦に乗ってアルビオンにいたけれど。貴族にとっての謹慎処分とは、部屋から出れない軟禁状態ではなく、社交界に出られない事を言うのだ。
 家を飛び出している間の僕も対外的には謹慎扱いになっていたらしいので、向こうの処罰の程度も似たり寄ったりなのだろうが。貴族同士の決闘は禁止されており、しかも神聖な決闘に横槍を入れて一方をボコった、という無茶な状況の割には随分と軽い処罰だが、要は、面子さえ保てればそれでいいのだろう。僕もそれでいい。面倒だしな。
 思えば、決闘騒ぎに関しては随分と人目を惹いてしまったように思える。おかげでギーシュの評価なんかがかなりガタガタと落ちている。ギーシュ自身に関しては特に、そもそもの始めから、彼の功績の派手さに比して貴族社会における評価がやたらと低かったのではあるが。

 とりあえず、もう少ししたら謹慎期間が解けるので謝罪の一つや二つは来てもおかしくない状況ではあるものの、僕としては来て欲しくない。応対するの面倒臭い。

 トリステイン貴族社会におけるギーシュの評価は「膨大な財産を消費して変な事やってる小僧」といった感じだ。今回の件でも、ゴーレム自体にコストが掛かる、ということで、ゴーレムの実用化もかなり見送られてしまったようではあるし。大砲単体にしておけばいいものを。
 そもそもの原因からして、商売なんぞ卑しい商人か金に汚いゲルマニア貴族のやる事、というトリステイン貴族の固定観念もさることながら、駆け出しが悪かったらしい。グラモン家が買い込んでいる美術品、たとえば廊下や階段の隅なんかにさりげなく飾られている絵画とか壺とかそういった代物を景気よく売り払ってしまったから、なんだとか。

 そういった芸術品というのは、現代日本の一般市民の目からすれば無駄の無駄、金に飽かせた贅沢に見えるのだが、甘い。貴族というのは、そういう部分で人を見るのだ。
 どれだけ余計な部分に金を使えるかというのはつまりそいつがどれだけの財力を持つのかに通じる。相手がそういった高級品の価値を見極められるのであれば、それは相手が普段からその手の高級品に日常的に触れている、すなわちそいつが無理して金出して背伸びしていない事を意味する。

 たとえば、前世の地球、それも日本においても戦国大名の間では茶の湯が珍重されたが、狭い茶室の中で戦争の勝敗が決まる事があるというのは伊達ではないし、戦国時代において領地や刀と並んで茶器が褒賞として扱われた。要は茶器というのは刀と同じ、その国家における『財力の象徴』なのだ。
 戦国のボンバーマン松永久秀が織田信長から現代日本人にとっては何の役にも立たない茶釜“平蜘蛛”を停戦条件に要求され、松永久秀がその要求を蹴り飛ばして平蜘蛛に爆薬詰めて自爆ブチかましたのも、ただのうつけものの暴走ではない。松永久秀の財力の象徴である平蜘蛛を、織田信長が所有するという事実、それ自体が信長にとって凶悪な手札になるのだ。

 と、話題がそれた。
 まあ、そんなこんなで、ギーシュ自身にはメイジとしてスクエアクラスの実力があるため神童と言われているが、内政・軍事面でのギーシュの評価はさして高くはないのだ。さもなくば、僕なんぞと並び称されているはずがない。
 僕か? 内政面では外から見ればモット伯領が栄えているのは単なる偶然の積み重なり。軍事面においては、僕の軍隊は人目に見せられないからな。


 にしても、決闘騒ぎといえば、あれからルイズの話を聞かない。まあ、ルイズ自身露出が少ないので不自然ではない、といえばそうなんだろうが……ああ、性的な意味ではなく情報的な意味でな。
 まあ尻叩きくらいはされてても不自然じゃないが、ギーシュの主人公補正からしてルイズが持ち上げられていると面倒だ。まあ、どちらにせよ、謹慎処分くらいが妥当か? まあいいや。どうせルイズなんてどうでもいい、というのが本音ではある。
「念のため、調査だけはしておくか。とりあえず、あまり派手でない程度に」
 まあ、どうせ謹慎処分だけなんだろうが。


「それにしても、火竜の強化、か……さすがに難しいな」
 僕は館のベッドに寝転がりつつ思索を巡らせる。
 強化させるには単純にホムンクルス化させればいいのだろうが、蛇や蛙、薔薇のような一般的なホムンクルスでは、エクスカリバーに一撃で薙ぎ払われる図しか頭に浮かばない。
「……そんな強力な生物なんて、この世にいたっけかなぁ?」
 安直に火竜型ホムンクルスにするという手もある。
 だが、現状、ホムンクルスは、単純にホムンクルス素体の能力を受け継ぐのみならず、ある程度個体差はあるもののホムンクルス素体を寄生させて苗床にした生物の特性をも受け継ぐことが判明しているのだ。例えば、蛇型ホムンクルスの舌や蛙型ホムンクルスの腹部に人間の顔がついていたりするのが良い例である。
 よって、ただのホムンクルスであっても、火竜を苗床にしている時点でそこそこの能力を発揮できることは間違いなく、また、火竜の能力を使用できる可能性は高い。

 ならば、火竜型ではなく、他の生物のホムンクルス素体を使用する事で、より多彩な能力を持つ宝具を使用する事ができるのではないだろうか。
 相似体系魔術は、こと量産という一点に関していえば最大の力を発揮する魔術だ。火竜ベースのホムンクルスに関しては、納得がいくレベルの個体ができるまで試作を続け、十分なレベルの個体ができたら、それを相似魔術を使って増やせばいいだけの事だ。
 ただ問題は、先程にも述べたとおり、火竜に見劣りせず、チート転生者相手に一撃で薙ぎ払われない程度の能力のホムンクルスが作れると期待できる生物がいない事である。
 そんな風に考えていたときである。

「ご主人さま」
 ドアをノックして部屋に入ってきたのは、いつも通りのメイドだった。
「リーラか。ティータイムには少し早いようだが、どうした?」
「ええ、実は、以前から行っていた調査の一つが完了したようで、報告書を持ってきたのですが」
 僕はアンドヴァリの指輪を利用して洗脳した人間を使って、そこそこ広い範囲に情報網を築いている。まあ、情報網といっても、指輪というチートを使ってすらジョゼフや教皇あたりの素チートどもには勝てないだろうが。そんなものである。
「以前の件っていうと?」
「ラルカスという水メイジの足取りについてです。こちらをご覧ください」
 僕はリーラから書類を受け取って目を通す。
 手掛かりがラルカスという名前、主な系統が水である事、重病を患っていた事、所属がガリアかトリステインである事、最後にミノタウロス退治を行っていたこと、この程度しかなかったが、名前が分かっていたため絞り込み自体はそれほど難しくなく、さほど時間を掛けずに見つけ出す事ができたようだ。
「しかし、このラルカスというメイジが、それほど重要なのですか?」
「ああ。今まで行き詰っていた研究の一つを完成させる鍵になるかもしれない」
 僕は書類に目を通しながら簡単に言う。ゼロ魔の原作の外伝に登場した、自らの肉体を捨ててミノタウロスに脳を移植したメイジ。単純な戦闘能力では、ガンダールヴや虚無のようなチートを除けばゼロ魔原作における最強クラスに入るだろう。まあ、タバサに負けたが。
 近くの町では子供の行方不明事件が多発しているようだ。候補地を見つけたらこれも確認させておいた。ゼロ魔の原作においてラルカスはミノタウロスの肉体の衝動を抑えきれずに、近場の町で子供を攫っては喰い、攫っては喰いを繰り返していたのを覚えていたための確認だが、やはり間違いはなかった。
「鍵……ですか?」
「ああ。例の……“キメラ型”だ」
 僕が言うと、リーラは少しばかり考え込む様子を見せた。

「……ご主人さま、その対象の捕獲は、危険が伴うのでしょうか?」
「そうだな。確かに危険があるかもしれない。何しろ、敵は系統魔法を使うミノタウロスだ」
「そうですか……それなら、シャーリーをお連れください」
 リーラは意を決したかのように言う。やはり、この間の事で心配を掛けてしまったらしい。
「シャーリーを?」
「シャーリーは私と違ってホムンクルスですし、武装錬金も強力です。少なくとも足手まといにはならないでしょう」
 そう言われて、もしかしたら自分がまだホムンクルスになっていない事に引け目を感じているのだろうか、と関係ない方に思考を飛ばしながら、少しばかり考える。
「……そうだな。シャーリーの戦闘能力の実地テストもしていなかった事だし、試してみようか」
 僕がそう言うと、リーラは安堵したような笑みを見せた。


「で、ご主人さま、あそこがその鍾乳洞という訳ですね?」
「ああ。そういう事だ」
 僕たちは、数年前までミノタウロスが暴れていたというエズレ村から少し離れたところに存在する洞窟を監視していた。僕の中にあるキャスターの探査魔術で見つけたものだ。
 ちなみに、僕は今まで一度もキャスターの能力を使っていないように見えるのだが、実は結構な頻度で使っていたりする。例えば、地下の工房や実験場などの施設は陣地作成スキルだし、ホムンクルスを作成するときの大型フラスコなんかも道具作成スキルで作ったものだ。ただ、活躍の場面が非常に地味であるため、目立たなかっただけである。

「さて、どうしようかな……」
 ミノタウロスの気配は洞窟の中に存在する。先程、アンドヴァリの指輪で洗脳した盗賊にミノタウロスを攻撃させたら、見事に系統魔法を使っていた。あれがラルカスで間違いは無さそうだ。
 確か、原作ではタバサは、どうやってラルカスを倒したんだったか……いけない。何も覚えていない。まあ、そんなものだ。前世で読んだラノベとかも、能力とかの設定は結構頭に入っているのだが、どんなストーリーだったかとかそこらへんは頭から消し飛んでいる。記憶力の偏りというヤツだね。

 しかし、本当にどうしよう。ラルカス本人の肉体や研究資料が必要なのだ。馬鹿正直に正面から突っ込めばどうにでもなる気もするが、あまり派手な真似をして、中の研究資料が木端微塵になってくれても困る。しかも戦場が狭い洞窟の中では余計に危険だ。どうにかして、敵を誘い出さなければならない。
 もしくは、戦闘に持ち込まずに不意打ちでブチ込むか、だ。こっちにはアンドヴァリの指輪もある。ただ、これだと下手に暴れて戦闘になった時に困る。やはり、大事を取って誘い出すべきか。
 正直言って、有効的な接触はあまり当てにできないんだよな。どういう仕掛けになっているのか分からないが、ミノタウロスの本能に精神を浸食されているから。ニコニコ笑顔で話している最中に不意打ちでオレサマ オマエ マルカジリと来られた日にはたまらない。不意打ちだろうが何だろうがとりあえず勝てない気はしないが、貴重な研究資料を木っ端にされたら洒落にならん。

 ラルカスは単純に魔法が使えるだけのミノタウロスではない。凶暴な亜人であるミノタウロスを打ち倒す人の知性、戦闘技術。多少錆びついているかもしれないが、そんなものが彼の中に宿っているはず。そして、魔法を扱う精神力すらも強化されている。
 それもまた厄介。知性を持たない獣であればただ暴れるか逃げるかの二択、僕とシャーリーが揃っている現状、逃げ道を断ってしまえば正面からの叩き潰し一択で片がつく。
 しかし、人間の知性があるのなら、こちらの想定外の手段で足を掬う事も可能。魔法という汎用性に優れた戦闘技法を保有しているのならなおさらだ。

 総合して、敵の利は、研究資料を置いた狭い洞窟という地の利、そして人間の知性と魔法という戦術的な選択肢の数。
「だったら、その二つが使えない状況に落とし込んでやれば問題は……って、そんな状況作れるのか?」
 考えあぐねながら無為に時間が過ぎる。やがて夜になる。さすがに少しばかり眠くなってきた。
 空を見上げれば、木々の間から月が見えた。ハルケギニアの月、青い方のやつだ。三日月というにも細過ぎる蒼白いアーチが、ゆっくりと梢の間を通り過ぎていく。
 木々の中を通り過ぎる風が静寂の中に葉擦れの音を奏で、その合間に鳥や獣の声が響く。
 その時だ。

「っ────ご主人様!?」
 押し殺したシャーリーの声が、僕の意識を惹き戻した。
「どうした?」
「あれを……」
 シャーリーが指さすのは、洞窟の入り口からのっそりと歩み出てきた巨大な影────ミノタウロスだ。
「こんな時間に、一体どうして……?」
 シャーリーが首を傾げる。僕も僕で似たような疑問を抱いていた。
 僕は元から多数の隠蔽宝具を展開しており、たとえミノタウロスが人間離れした知覚力を保有していたとしても、僕たちを発見するのは不可能に近い。そして、それ以外でラルカスがこんな時間帯に外出するような理由など────否。
「待てよ」
 もはや薄れに薄れている前世の記憶が違和感を告げる。ラルカスの物語。雪風のタバサを主人公とする物語。それは一体どのような粗筋だったのか。
「確か、タバサが盗賊に襲われたところをラルカスに助けられて────」
 それで物語は終わったのだったか? いや、そんなはずがない。ただミノタウロスが無双するだけの物語では、あまりにも盛り上がりに欠けるというものだ。だったら────
「────ああ、思い出した」


 僕とシャーリーは、おそらく街に向かって移動しているのだろうラルカスを尾行していた。
 やがてラルカスはレビテーションか何かの呪文を唱えて街の城壁を乗り越え、街の中に入る。裏通りを身をかがめながら歩くラルカスの様子を、僕たちは教会の鐘楼に潜んで監視していた。
「でもご主人さま、なぜラルカスはわざわざ街なんかに? 軍隊に見つかれば、捕らえられて殺されるかもしれませんよ?」
「ああ、夜食のためさ」
「……? 夜食?」
 僕が言うと、シャーリーは理解できないといった風情に首を傾げた。
「ほら、よく見てみろ。あいつが何をやっているか」
 近場の家に忍び込んだミノタウロスが、やがて何か小さな塊を担いで戻ってくる。そして、来た時と同じようにして城壁を乗り越えて帰っていく。
「あの……塊、もしかして生きています?」
「ああ。もしかしなくても生きている。あのサイズの生き物というと、何だと思う?」
「鹿? それとも犬……まさか!?」
 ああ、そのまさかだ。街中に鹿はいないし、家の中で飼われる犬はメイジの使い魔くらいのものだ。
「……人間、ですか?」
「そう。それも子供だ。アイツはな、ミノタウロスの肉体に精神を喰われかけているのさ」
 その子供が何に使われるのか理解したのだろう、シャーリーは目を丸くしているが、しかし、その表情に嫌悪の色は欠片もない。何となれば彼女はホムンクルス、食人衝動こそ存在しないものの、彼女はもはや人外。人喰いの怪物だ。
「じゃあ、それだけ分かっているのに、どうして彼の後をつけたりしたんですか?」
 そんなことは決まっている。僕は不敵な笑い、と、そんな表情を作ってみせる。
「ここで仕留めるためさ」


 都合よく標的が砦である家を出てくれたということ。これによって、ラルカスの地の利は失われた。
 そして、ラルカスがミノタウロスの食人衝動に衝き動かされているということ。これによって、最後の希望である人間の知性すら失われた。
 後は叩いて潰すのみ。


 ラルカスを取り巻くようにして同心円状に彼我の相対距離数百メイル、それだけの間隔を開き、蒼白い光の壁が展開する。複製障壁。そこから溢れ出すのは膨大な水だ。ラグドリアン湖の湖水を転送し、複製して、周囲一帯にぶちまける。
 たちまちのうちに辺り一帯が水浸しになる。直径数百メイルにも及ぶ深さ半メイル程の水溜り、戦場の優位としては十分過ぎるほど。
 それは全て水精霊の手足だ。泡立ち、逆巻き、波濤を轟かせてミノタウロスの肉体へと絡みつき、その動きを制限する。
 そこに、僕が姿を現した。放つ魔法はアクア・ボム、炸裂水球をその肉体の身で弾き返したミノタウロスは、僕を敵と認識したのかその瞳まで赤く染め、憤怒の吐息を吐き出しながら突進、波濤を蹴散らしながら走り込んだミノタウロスが巨大過ぎる斧を振り下ろす。

 その斬撃を受け止めたのはシャーリーだった。その手に握られているのは、剣とも槍ともつかない異形の刃物。武器にこだわらず例えるのであれば、巨大なステーキナイフにも見える奇怪な武器。
 その全長の半分が柄であり、かつステーキナイフにも似た緩やかに湾曲する刀身の長さは身長ほどという、長大な刃物。長大な片刃の刀身の裏にはスラスターにも似た縦長のノズルが取りつけられている。
 それこそがシャーリーの、斬馬刀(ホースバスター)の武装錬金『ミッドナイト・プラグレス』。全長四メートルにも及ぶ巨大な長巻だ。
 全長二メイル半にも及ぶ巨体から繰り出される斬撃の破壊力が斬馬刀の柄の一点に集約され、集中されたその破壊力は一トンを優に超えるほど、ましてやその巨体による全力の踏み込みによる運動エネルギーはホムンクルスの膂力を以てしても受け止めきれるものではない。いかに人型よりも優れた身体能力を持つ獣人型ホムンクルスとはいえ、シャーリーのウェイトは普通の少女とさして変わりない。しかしその重撃を、シャーリーは軽く片手で指を這わせただけの斬馬刀で微動だにせずに受け止めていた。

 『ミッドナイト・プラグレス』の能力は『エネルギー保存法則の無視』、長大な斬馬刀に加えられる衝撃は斬馬刀に伝わることなく、ただ雲散して消えていく。これにより、斬馬刀の刀身を伝わる膨大な慣性をキャンセルしたのだ。あらゆる攻撃からエネルギーを消去する事によるほぼ絶対的な盾。その力により、シャーリーは戦車砲による砲撃だろうが、アルビオン大陸の崩落だろうが、あるいは核爆弾の直撃だろうが、斬馬刀一本で受け止められる攻撃である限り、あらゆる攻撃を弾き返す。

 少女は長大な斬馬刀を指先で回転させ、踊るようにして体ごと回して振り回す。それは多少のぎこちなさこそあるものの、獣人型ホムンクルスの身体能力を生かして、流れるように刃を舞わし、己の体格を遥かに超えるミノタウロスの斬撃を跳ね飛ばした。
 そも、長巻のみならず、大鎌やグレートアックス、ハルバートのような超重武器を振るうというのは、その重量をどのようにして運動エネルギーに、ひいては破壊力に置換するかという事であり、威力=重量×加速の等式が存在し、重量のある物体を加速するにはそれなりの膂力と溜めが必要である以上、超重武器による攻撃はどうしても鈍足に、かつ大振りになってしまう傾向がある。
 それは、例えば身の丈ほどある大剣をナイフ並みの速度で振るう事ができたとしても同じ事であり、同等の速度であっても斬撃に許される運動力学的な軌道の選択肢はどうしても限定されざるを得ない。
 だが、シャーリーはそんな重量などどこにも存在しないかのように長大な斬馬刀を振り回す。真横に薙ぎ払い、正面に跳躍して振り下ろし、断ち割られた地面に深々と喰い込んだ刃を横に振り、即座に切り返して再び薙ぎ払う。

 その有り得ない機動を可能にするのが斬馬刀の武装錬金『ミッドナイト・プラグレス』の特性『エネルギー保存法則の無視』。単純だが奥が深く、強力な武装錬金だ。現在は相似魔術を利用して、他の道具や生体にその特性を移植できないか研究中である。

 人外の反応速度で以ってシャーリーはミノタウロスの攻撃を受け止め、捌き、弾いていく。依然として効果を上げられない剣戟に業を煮やしたのか、ミノタウロスは魔法でも使おうとしたか後方へと下がろうとする。
 だが甘い。敵は一人ではないのだ。いや、何が敵かといえば、この環境、水に満たされたこの空間こそが、ミノタウロスにとっての最大の敵。後退の一歩を踏もうとしたミノタウロスの体重を支える軸足、その真下の地面が、噴きつける水流によって突き崩されたのだ。
 同時に周囲から押し寄せる水流に足を取られ、巨大なミノタウロスが飛沫を上げて地面へと倒れ込む。ミノタウロスもそれに対して抗いの咆哮を上げるが、無意味。渦巻く水がミノタウロスの口に鼻に押し寄せ、その体内を蹂躙し、制御を乗っ取っていく。


 ラルカスの捕獲作戦、成果は上々である。
 免疫の拒絶反応を無効化する水魔法についても、肉体に水の精霊を浸透させたおかげで、大体の事は理解できた。ミノタウロスの肉体に拒絶反応を起こさせずにメイジの脳髄を移植する手段。水の精霊の力を通して脳味噌の中のデータを読み取り、脳味噌にどんな感じで力が働いているかも分かったので、ほぼ完璧である。これさえ分かれば、前々から行き詰まっているキメラ型ホムンクルスの精製も上手くいきそうだ。

 試しに興味が湧いたので、ミノタウロス型……というか、ラルカス型ホムンクルスを作ってみた。結果として、ミノタウロス型の肉体に、系統魔法を使うホムンクルスが完成した。
 喜び勇んで火竜に使ってみる。キメラ型の試験も兼ねて、火竜型の因子を付与してみた。水の先住魔法で操り人形と化したラルカスの協力もあって、見事に完成。ラルカスは研究者としては中々に優秀なようだ。他の生物の要素も付け加えたかったのだが、初めてでそれは少し難易度が高いのではないかと考えたため、泣く泣く諦める事となった。
 結果、基礎形態である火竜が変形して、ミノタウロスの顔を火竜っぽくして、火竜の爪、牙、角と翼を生やした形の怪物に変形するようになった。無論、ブレス能力も健在。一体どこのデーモンか不死のゾッドやら、といった感じである。まあこれで、何はともあれキメラ型ホムンクルスの実験も大成功である。
 加えて、ベースがミノタウロス、要するに亜人型なので武装錬金も使える。ミノタウロスの肉体で発動させてみると、どうやら鉤爪の武装錬金のようだ。
 ついでに、僕の肉体と同じく腕の骨をメイジとしての杖に加工して、杖を持たずに魔法を使えるようにしてみた。あと、心臓部には核鉄を封入した。核鉄+ミノタウロスの再生能力があるので、再生能力は特にスゴイ事になっている。まさに完璧である。
 なお、火竜はホムンクルス化しても端末として機能するようだった。
 わりと納得のいく試作品が完成したので、ラグドリアン湖の底に沈めてある端末の火竜をほとんど全部、相似魔術の《原型の化身》でこの型のラルカス型ホムンクルスへと改造する。大分戦力が上昇した。これなら、ラピュタのロボット兵と戦っても引けは取らないと思う。



=====
後書き的なもの
=====

 ……やってしまった。
 さりげなくラピュタが轟沈している件。
 フェルナンの生き残るための布石=代わりはいくらでもいるもの方式。こんなネタもできるようになる。

フェルナン「こういう時、どんな顔をすればいいのか、分からないの」
シャーリー「笑えばいいと思うよ」
フェルナン「私の代わりはいくらでもいるもの……」
フェルナン「たぶん私は3人目だと思うから」

 加えて、大敗北と見せかけて、実は情報戦ではほぼ勝っている件。攻めてきたのがフェルナンだってばれてないし。
 それはそれとして、ユニット「ラルカス」がフェルナン陣営に参入。キメラ技術が解禁されました。



前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.025683879852295