「と、いうわけでリアル転生ものをやってみようかと思うんだがどうだろう?」 それが、僕の前に立った何者かの第一声であった。それで、何で僕がこんな場所にいるのか。確か僕は死んだはずだと思ったのだが……。「僕を転生させようとでも?」「まあな」「……なんで?」 思わず突っ込んでしまった。「いや、最近、二次創作の感想でよくあるだろ? 憑依転生のテンプレのヒキオタニートみたいなヤツが、転生した瞬間に熱血して努力しまくるとかおかしいとか。けど俺テンプレ好きだからさ。実際にそうなるかどうか試してみようと思って。だからまあ、生前ヒキオタニート直前で、ついでにタイミングよく自殺までしてくれちゃったお前を選んだわけよ」「はあ……。そうですか」 もはや突っ込みを入れる以前の問題だったらしい。 とりあえず拒否権は無さそうだ、と判断。そりゃ、自殺なんてしたくらいだから前の人生に不満なんていくらでもあるし、もしやり直せるなら僕だって……とか思ったりした事もないでもない。それに……少しだけ、憧れてもいた。遠回しな自殺願望……いや、転生願望って奴か。「反応薄いなあ。せっかく転生できるんだから、も少し嬉しそうな顔くらいしろよ。目指せハーレム!とか、原作キャラに会えるZE!とかさあ。別に何やってもいいよ。俺TUEEEE!でも、ハーレムでも、内政チートでも、死亡フラグ回避でも、好きなことしていいんだぜ。別に何もしなくてもいいけどな。そういう実験だから」「いや、悪いけどそういうの趣味じゃないんだわ。まあ確かにハーレムには惹かれるものとかあるけどさ。それに、ゼロ魔世界に転生して、生まれが何の能力もない平民!とか嫌だし」 せっかく転生したのにそれではキツ過ぎる。自分が実際にやるのなら、チート能力とかそういうので俺TUEEEE!みたいのの方がいいに決まっている。「ああ、それは大丈夫。転生するときに能力とかあげるから」「マジで!?」 まあ、どこかの二次創作にちょっと出てきたみたいな、ニコボコ撫でボコみたいな迷惑能力は絶対嫌だし、同じのに出てきたハムスター変身とかも微妙過ぎて勘弁して欲しいものだ。だが、能力。生前は体力の無いモヤシ少年だった僕にとって、スーパーチート能力で俺TUEEEE!には、何か惹かれるものがある。「でもいいのか? 転生時に能力くれるテンプレって、叩かれるお約束だろ?」 言った瞬間、まずいこと言っちゃったかな?みたいな気分になる。能力でも何でも、使えるものはもらえる方がいいに決まっている。下手な事を言って能力が貰えなくなったら困る。「いいか、漢ってのは、胸を張って約束を守り通せるヤツの事を云うのさ。約束を守らねぇヤツなんざ、男たぁ云わねぇ!」「…………なるほど」 思わず勢いで納得してしまった。いや、確かに、それは「お約束」ではなく「約束」だとか、突っ込みどころは多々あるのだがそれは置いといて。「で、能力は何くれるんだ?」「ああ、別に何でもいいよ。好きに決めていいから」 ……それも、どうせテンプレだからとかそういう理由なんだろう。もはや突っ込みとかどうでもよくなってきた。ここから先は多分、読者とかそこら辺が突っ込み入れるんだろう。「となると……これでもかってくらいチートな奴がいいな」 禁書世界の一方通行の能力みたいな。こういうのは、下手に原作キャラに遠慮してバランスとか考えていると後で苦労すると相場は決まっている。そうなると、まずは転生先の情報から欲しい。転生先がアイタタタな最強系転生者で溢れている某二次?小説みたいな事になったら目も当てられない。「ってことで、転生先がどんな世界なのか教えてほしいな」「ああ、それなら……ああ、あったあった、これこれ。ほら」 眼の前のそいつは、ごそごそとどこかを引っ繰り返して、そこから一冊の文庫本を取り出してきた。特徴的な緑色の背表紙は、確かファミ通文庫……で合ってたっけ? 違ったっけ?「ゼロ魔だ。あれならバトルも内政チートもありだからな。ああ、安心しろ。別に無力な平民に転生するような変化球を仕掛けるようなつもりもないぜ。テンプレ通り、ちゃんと貴族だ」 確かに、あれなら、いきなり有り得ない戦闘力を持つ敵が登場してブチ殺される恐れもそんなにない。Z戦士に転生して俺TUEEEE!なんて悦に浸っていたらいきなり全知全能の絶対神なんぞがズゴゴゴとか出てきて一撃瞬殺、みたいなオチは嫌だからな。「ゼロ魔か。じゃあ、何がいいかな……?」 何かいいのはあっただろうか……? 記憶の底を色々と探ってみる。ロマリアとかガリアとかレコン・キスタとかエルフとか、単騎で殲滅できるぐらいのチートがいい。というか、それくらいの力がないと後が怖そうだ。 Z戦士……却下。力は申し分ないが、応用性の幅が狭過ぎる。何よりあまり好みではない。 一方通行……却下。応用性は十分だが、肉体自体の脆弱さがネックだ。 ギルガメッシュ……いいかもしれない。ただ、武装の能力を存分に使えないというのがネック。ひとまず保留。「なあ」「何だ?」「能力って、いくつまでもらえるんだ?」「っておい、一つで満足しないのかよ!?」「テンプレテンプレ」「…………あー、まあ、確かに」 ……今ので納得するのか? まあ、口には出さないが。「まあ、それなら仕方ない。三つまでな」「せめて、もう二つくらい増えないか? 今考えている組み合わせだと、どうしても二つ足りないんだが……」「オリ主自重」「自重しないのもテンプレだろう」「…………二つだけだぞ。もう増やさないからな」「分かった。それじゃあ……」 そうして、僕は転生した。転生した直後、もう少し自重を忘れておけばよかったと後悔したのは秘密だ。「オギャアアアア!!!(知らない天井だ)」 ……おっといけない、間違えた。訂正訂正。「オギャアアアア!!!(なんじゃこりゃあああああ!!!)」 ふむ、お約束は守らないといけない。……まあ、必要に迫られればこっちの都合で破りまくるつもりだが。そんなこんなで、僕────フェルナン・ド・モットは誕生したのであった。 むかしむかしのはなしである。 むかし、あるところに一人の男がいた。男は救い主だった。 さて、救い主の男が通りかかると、墓場から二人の男が出てきた。二人は悪魔憑きだった。悪魔に取り憑かれて苦しむ二人があまりにも暴れるので、誰も近付く事ができず、墓地に押し込めておくしかなかったのだ。 彼らに取り憑いていた悪魔は言った。「貴方が私に何の関係があるというのですか。お願いです。どうか私に関わらないでください」 すると、救い主はこう返した。「確かに私はお前たちとは何のかかわりもない。だが、お前たちはこの人間(セカイ)の中にいるべきではない。御覧、彼らはこんなに苦しんでいるだろう」 悪霊は言った。「ならば、ならばせめて、そこにいる豚の群のなかに入らせて下さい。我々には、もうどこにも受け入れてくれる場所が無いのです」 それならば仕方がないと、救い主の男は彼らに豚の中に入る事を許したので、彼らは豚の中に入っていった。 すると、豚の群は荒れ狂い、二千頭もの豚は前後の見境を失って、我先に水の中へと飛び込んで溺れ死んでいった。 悪霊の名はレギオン。群勢であるが故に。 たまに、そんな感じのヤツがいる。人間の中にいると迷惑ばかりかけるから豚の中に突っ込むしかやりようがない。だけど、さりとて彼らは豚の中ですら生きていけるわけではない。 これは、そんな話である。 はてさて、水底のレギオンはしあわせになれたのだろうか?