DQD 12話
休日も明けの練武場で、ヒュンケルは真剣な表情でトールに尋ねた。
「新しい修練に入る前に聞いておく事がある。正直に答えてくれ。実際のところトールは剣術を極めて強くなりたいのか、強くなる方法の一つとして剣を選んだのか、どっちだ?」
「……後者ですね」
少し悩んでからトールは答えた。
トールが剣で戦う事を選んだ理由は、初めに渡されたのがひのきのぼうで、それが剣扱いされていたからだ。その結果、冒険者になったときに既に剣スキルが得られていた状態だったため、そのまま惰性のような感じで使い続けてきた。後、剣が一番買うのに安価で種類も多かったということもある。
例えば初めに渡されたのが竹やりだとしたら、多分槍を使っていたのではないかと思う。
「それなら、このまま剣術の修行を続けるか、強くなるための修行を続けるか、どちらがいい?」
「えっ?」
トールはヒュンケルの言っている事の意味が良く分からなかった。トールは強くなるために剣術の修行を受けに来たつもりだった。それなのに、今は強くなる事と、剣の修行がバラバラにされている。
トールは少し混乱する。
「はっきり言おう。このまま剣術の修行を続けても劇的に強くなる事はない。そもそもこれは長い時間をかけてこつこつと積み重ねていくものだからだ。これは今のお前の望んでいるものじゃないと思った。だからこの話をしている。少し調べさせてもらったが、お前は『自動レベルアップ』持ちだな」
「はい」
「お前が『自動レベルアップ』持ちじゃなかったら、この話はしていない。まず聞くが勝つために必要な事は何だと思う?」
「えっと、弱点を突く」
「それも確かにあるだろうが、もっとシンプルに考えれば良い。相手を倒せる絶対的な攻撃を相手より早く確実に命中させればいい」
「それって当たり前ですよね」
「そうだ。当たり前の事だ。だが、この当たり前の事をいつでも出来る人間がどれだけいる。いつでも、誰にでもとなると、そんな事が出来る人間なんていないだろう」
確かにそうかもしれない、とトールは思う。ヒュンケルの言う事が当たり前に出来れば誰にでも勝てる事になる。
「そのために剣術を学ぶ事は間違いじゃない。ただレベルアップによる能力の上昇は修行による効果を上回る事が多い。俺は剣を振る時に力を抜けとか、斬る時に集中しろとか、言ったが、レベルアップの恩恵はそんなものを吹き飛ばす。はっきり言えば、ただ剣を握って力任せに振るだけでも、レベルさえ上がっていればモンスターを倒す事が出来る。一年の修行より一つのレベルアップのほうが有効な場合があるんだ。大多数の人は、『自動レベルアップ』なんて持ってないからな。だいたいレベル10辺りから拡散してしまう経験値のせいでレベルアップがし辛くなって、レベル15を越える辺りから殆ど上がらなくなって頭打ちになる。だからスキルで能力を上げるためにスキルアップに励む。武器スキルを上げる方法の一つには格上の者に稽古をつけてもらうのもあるからな。だが『自動レベルアップ』のある者は違う。戦えば戦うほど経験値を貯めて、レベルアップをする。それだけで強く成れるんだ」
「それはようするに剣術の修行をするだけ無駄って事ですか」
「無駄じゃない。たださっき言った通り剣術の修行は地味で直ぐには効果も出ずらいと言うことだ。お前が『自動レベルアップ』を持っていないなら、俺はこのまま剣術を教えていた。それが強くなる確実な方法だからだ。ただ、お前はそうじゃない。『自動レベルアップ』があるなら、他にも強くなる方法があるということだ」
「……話は分かりました。非常に興味深いんですけど、何故なんですか。そんな事言わずに、ただ剣術を教えても誰も文句を良いませんよ。元々の契約からしても、これは剣の講座を受ける事になっていたものだし、後でこの事を知ったとしても、これは事前に調べなかった僕の方のミスでしょう。そりゃあ口惜しいとは思うかもしれないけど、元の目的は達するわけだし文句を言うのもお門違いって奴ですね」
「確かにそうだが、元々俺が教えている講座は戦闘技能全般だ。剣も教えられるから剣の講座もしているに過ぎん。ならばもっとも適している事を教えなければ、俺の矜持が許さん。それに多くの冒険者は忘れているかもしれんが、この迷宮のモンスターを倒すって事は、迷宮の奥深くに眠る邪神の力を削ぐ事を意味している。そのためには倒すモンスターは強ければ強いほど良い。とければ強い冒険者も一人でも多い方が良い。そうは思わんか」
トールは神龍に会うことが目的のため忘れがちだが、この迷宮が冒険者に対して解放されているのはモンスターを倒すためだ。
ヒュンケルの言葉には強い責任感が感じられた。
「そうですね。そう思います」
「じゃあ、どうする?」
「お願いします」
トールはヒュンケルに頭を下げた。ヒュンケルも大きく頷いた。
「分かった。それじゃあこれから始めるが、その前にまず聞くが、HPとは何を意味していると思う」
「……生命力……ですか」
トールは答えに自信がもてなかった。
ゲームでよく聞くHPはヒットポイントと言ってはいるが、どういう意味なのかを考える事などなかった。ただ最大値が多ければ多いほど死に難いとしか考えてこなかった。
「その通りだ。だが他にも『オーラ』や『闘気』とも言われている。うちの流派では『闘気』と言っているが、レベルアップでHPが増える事によって死に難くなるが、それは別に身体が特別に頑丈になるわけじゃない。『闘気』をまるで鎧のように纏う事により身体を守ってるんだ。つまりHPが多いという事はこの『闘気』の鎧がどれだけ頑丈かを示していると思えば良い。ここまでは分かるか」
トールは頷く。
「なら続けるぞ。話としてはここからが本番だ。この『闘気』をコントロールする事こそが強くなる方法だ。剣を使うときは剣へと、素早く移動するなら足へと『闘気』を収束させる事により能力を上げる事が可能になる」
言いたい事は分かるが、それが本当にできるのか、トールにはそれが疑問に感じた。
「出来るわけないって顔をしているな。でも初歩の初歩くらいは誰でも一度くらいは使った事があるはずだ」
「えっ?」
「簡単な例をだそう。ちょっと待っていろ」
そう言ってヒュンケルは一度外へ出ると、拳ほどの石を一つ持ってきた。
「例えば俺がこの石を素手で壊そうとしたとする」
ヒュンケルはトールの顔の前でグッと力を込めたかと思うと、「ハァッ!」という気合の掛け声と共に石を殴りつけた。
ゴツッと音を立てて石は真っ二つに割れた。
「今こうして石が割れたわけだが、同じような石を俺の手にぶつけた時、俺の手はどうなると思う」
力の抜け切った手をヒュンケルは見せる。
「答えは手の方が潰れる、だ。この二つの違いは何かといえば、もちろん手に力を込めているかどうかってこともあるし、殴る時に殴るぞって思いながら気合を入れるっていうのもそうだ。この気合を入れるっていうのが、『闘気』の初歩の初歩だ」
何となくだが分かる気がした。重い物を運ぼうとしたりする時に力を出そうとして掛け声を出して気合を入れる事はよくある。その時には確かにただ力を込めるだけでなく、心の中で気合を入れたりもする。
「なるほど」
「まあ、話すより実際にやった方が分かりやすいだろう。始めるぞ」
「分かりました」
こうしてトールは『闘気』の使い方を学ぶ事になった。
初めにヒュンケルはトールに『闘気』の扱い方、ヒュンケルの流派でいう『闘気法』の使い方と見せた。
それはただの木剣で、鉄の棒を斬るというものだった。
ヒュンケルが木剣を振り上げたとき、白く淡い光が刀身を包み込んだ。そしてそのままの状態で振り下ろした。
斬!
何の音も立てずに鉄の棒は切断された。
トールは例え鉄製の剣を使ったとしても同じように出来る自信はなかった。
「見たな。今のが『闘気』だ。最終的には今見た事は出来るようになって貰う。他にも『闘気法』で出来る事と言えばこれだ」
ヒュンケルはその場で膝を軽く曲げて垂直にジャンプする。それだけで3m近くは跳んでいた。決して膝や腰を落として思いっきりジャンプしたわけではない。あくまで軽くジャンプした感じだった。
「今のは足に『闘気』を収束させて跳んだ。こういう風に身体の一部分に収束させる事により能力を上げることもできる。例えば左手に集めて盾の代わりにする事も出来る。まあこれをするなら、普通に盾を持ってそれを更に『闘気』で強化した方が良いと思うがね。これは奥の手でどうしようもない時に使うぐらいだな。まあ、今見せたのは『闘気法』の分かりやすい例でこれを初めからやれとは言わない。まずは身体全体の『闘気』を利用して全体の身体能力の向上をすることろからだな。そうやって『闘気』を感じる事が第一歩だ。まずは見えない強固な鎧を着込んでいるとイメージする事だ。そして出来ると思うこと。これが『闘気法』の初歩の基本になる」
トールはヒュンケルの言ったとおり強固な鎧をイメージする。
多少疑いが残っているのは、元の世界の常識が残っている性だ。こればかりはどうしようもない。時間が解決するのを待つしか仕方がないのかもしれない。
だがそれでも感じる確かな違和感。身体が熱く感じる。
そこにヒュンケルから木剣が手渡される。
「振ってみろ」
トールは頷いてから、一気に木剣を振る。
ヒュン!
ヒュンケルのように無音にはならないが、今までの己の風切り音に比べると明らかに鋭くなっていた。
驚いて集中が途切れると、イメージしていた鎧も拡散してしまう。そして一気に疲労が襲ってきた。
身体がふらついて倒れそうになるのを、木剣を杖のようについて何とか踏ん張って耐えた。
「あれ、なんか、身体が……」
「えらく疲れている、か?」
「そうです」
「まあ、そうだろうな。さっき言ったとおり生命力と『闘気』は同じだ。つまり『闘気』を使えば使うほど生命力を使っているってことだ。つまりHPが減ったってことだな。これは一度身を持って知った方が、後で知るよりいいからな。だから黙っていた。そしてこれこそが『自動レベルアップ』持ちにしか、俺が教えようとしなかった理由でもある。HPが少なくては、効果も少なく自滅する事にもなる。ある程度HPがあって始めて『闘気法』は有効に活用できるんだ」
それだけ言うと、ヒュンケルは『祝福の杖』を使ってトールを回復した。
「結局のところ、『闘気法』も素振りの時と同じだ。必要な時にのみ使えるようになればいいということだ。さて、訓練を続けるぞ」
分かっていたのなら前もって言ってくれ、とも思うが文句はない。
少し体験しただけだが、確かに能力が上がるのを実感できたからだ。この方法なら強くなれるのが分かった。
トールはヒュンケルの声に頷いた。
****
ヒュンケルが行う訓練は実戦形式のものが多い。流石に基礎を疎かにする事はないが、基礎を教えた後は、とにかく実戦の中で教えていくのだ。
『闘気法』にしてもそうだ。
トールに『闘気』の存在と扱い方の基礎を教えた後は、実戦形式で戦いながら指導していった。
勿論ヒュンケルは『闘気』を使って戦いながら指導していく。
剣に『闘気』を纏わせれば、それは真剣と変わらない。それを防ぐにはトールも木剣に『闘気』を纏わせなくてはならなくなる。
そうしなければ、木剣ごと斬られる事になるからだ。
そしてヒュンケルは寸止めなどしない。防げなければ当然のごとくトールを斬る。
しかも即死はしない、絶妙な加減で皮と肉を斬る。
『祝福の杖』で回復するため、死にはしないし痛みも続かないが、自分の肉が斬り裂かれ血が吹き出る様に気が遠くなっても仕方がないだろう。
こうなるともう必死になるしかない。
いくら『祝福の杖』で回復でき、ヒュンケルの腕が一流であろうとも、ミスをする事がないわけじゃない。
『闘気』を使う前と違い、今の稽古はミスがあればそれは即ち死に繋がるように思える。だが、ヒュンケルに言ったとしても止めしないだろう。
ならば、もはやトールが『闘気』を使えるようになるしかない。後はこの訓練自体を止めて逃げるしかないだろうが、これは論外と言って良いだろう。
1回でも逃げ出すと、連鎖的に全ての事から逃げ出してしまいそうで諦めると言う事が出来なかった。実際、暮らしていくだけなら十分生活できる事が、この一月ほどで良く分かった。
だから本当に身の危険があるまでは逃げる事はしたくなかった。
それにミスはあるかもしれないと思いながらも、実際にはそんな事もないだろうと思っている。
そのぐらいはヒュンケルの腕も信じていた。
痛みに関しても、鈍感になってきていた。
普段はそうでもないのだが、戦うと判断した時は、何かスイッチでも切り替わるのか、打撲や切傷などの痛みが前ほど感じなくなっていた。この事が実際に良いことなのか悪い事なのかは分からないが、戦いに専念できる事は有利だとトールは思っている。
とにかく、このようにトールはヒュンケルに稽古をつけられていった。
****
その日は、いつもより早く修練を終えた。
主な理由はトールが血を流しすぎたからだ。
『祝福の杖』などの回復手段は、確かに傷を治すし疲労も癒す。ただ失ったものを取り戻せるわけじゃない。
今回トールは血をなくしすぎたため、所謂貧血状態になってしまったのだ。こうなってはさすがにヒュンケルも無理は出来ない。
よってお開きと成った訳だ。
「肉食って、血を造っておけ」
とりあえずヒュンケルはそれだけをトールに言った。
そういうわけで、多少ふらつきながらもトールは帰る事になった。
学園に内にはまだ生徒の姿がちらほら見えている。いつもは日が暮れるまでは修練を行っているため、帰りに生徒の姿を見る事は少ない。
暗く静まりかえった学園の時は感じなかったが、同世代であろう生徒が過ごしている学園を見ていると、元の世界を思い出させた。
懐かしいと素直に感じた。だが混ざりたいとは不思議と思わなかった。
でもほんの少しだけ羨ましいと思った。
「トール」
漠然と校内を見回していたトールの背後から女性の呼び声が聞こえた。
何となく聞いた声だと思いトールは振り返る。少なくともこの場所で自分のことを呼ばれたとは思える自信は少なかったが、違っていたら笑ってごまかすか知らない振りをするしかないだろう。
だがその考えに反して、振り返った先にいたのはトールが知る人物だった。
「ビアンカ」
小走りに近寄ってきたのは、宿屋の看板娘のビアンカだった。そういえばエルシオン学園の通っている事を聞いたのを思い出した。
「どうしたんだ、一体」
「どうしたのかは、こっちのセリフよ。何でトールがここにいるの?」
「ちょっと、剣を習いに来てたんだ。もう10日くらいは通ってる」
「えっ、そうなの。でも全然会った事ない、っていうか見かけた事もないんだけど」
「朝から夜まで隅の方の練武場に篭りっきりだからね。そりゃあ会わないよ。僕だってここで会っているのはヒュンケルさんぐらいだからね」
「えっ、トールってヒュンケル先生に習ってるの?」
心底驚いたように言う。
「そうだけど」
「だって凄い厳しいって有名よ。途中で逃げ出す人もいるくらいだし。そういえば近頃ヒュンケル先生の講座を受けてる人がいるって聞いたけど、トールの事だったんだ」
「そうなるね。でもヒュンケル先生はそんなに有名かい」
「そりゃあ強さでは一級品で、冒険者としても一流だし、塔に登れる資格もあるって話を聞いたわ。それに美男子。有名になるには十分でしょ」
「なるほどね」
「ああ、後、愛妻家ってことでも有名よ」
この場合のヒュンケルの妻は『ダイの大冒険』のキャラクターの誰かなのだろうか、とトールは思うが、ここでそれを聞くのも変な気がするので気にしない事にする。
「そういえばトールはこれからも鍛錬なの?」
「いや、今日は終わり。ゆっくり休めって言われた。ビアンカの方も終わったの?」
「ええっ、今日はもう終わったわ。それよりトールは今日のもう予定はないのね」
「そうだね」
「ふーん、じゃあ「いた!」」
ビアンカの声に被せる様に女の子の声が聞こえた。
それはビアンカの背後から聞こえてきた。そちらに目をやると、そこにはエメラルドグリーン色の髪がカールしている活発そうな少女とロングの青いストレートヘアをリボンでまとめたお嬢様然とした少女がいた。
「あっ、ソフィア」
「ソフィアじゃないわよ。いきなり走り出して何よ」
「ちょっと、知り合いを見かけたから、つい……、ごめんね」
「ごめんねって……もういいわ。でこっちの子がそうなの?」
ソフィアが探るようにトールを見る。
「うん。そう。うちの宿のお客さんでね、トールっていうの。冒険者をやってて、今はヒュンケル先生に教えを受けてるんだって」
「それでね、トール。こっちがわたしのクラスメイトで友人。騒がしいのがソフィアで、こちらはフローラって言うの」
紹介された二人を見てトールとしては驚くしかない。
何処かで見たことがあるような気はしたが、二人ともゲームでの服装のイメージが強いため、違う服装をされると直ぐには判断出来なかった。
だが改めて見ればトールにとっては見た事がある顔だと分かった。
ソフィアはDQⅣの女勇者の公式であろう名前だし、フローラはビアンカと同じDQⅤの花嫁候補の一人だろう。
エルシオン学園の制服を着ているが間違ってはいないだろう。
こんなところで会う事になるとは全く思っていなかった。
「トールです。よろしく」
驚きはしたが、いつまでも見つめているのも失礼というものだろう。とりあえず自己紹介だけはしておく。
「あっ、ボクはソフィアって言うんだ。よろしく」
「フローラと言います。よろしくお願いします」
三人の自己紹介が終わったところでビアンカは口を開いた。
「そういえばトールはこれから何の予定もないんでしょ」
「そうだね。しいて言えば、帰って休むぐらいだね」
「それじゃあ一緒に帰らない。話したい事とかもあるし」
「えっ、僕の方は構わないけど……」
トールはちらりとソフィアとフローラの方を見る。
「あっ、もちろんボクらもご一緒するよ。迷宮の事とかも聞いてみたいし。そうだよね、フローラ」
「はい。同年代の方がどのように冒険なさているのか、一度お聞きしてみたいと思ってました」
「と言うわけだから問題ないわよね。って今気づいたけど、ちょっと顔色が悪くない?」
ビアンカは一転して心配そうな表情に変わる。
「ああっ、今日の鍛練は厳しかったからね」
流石に斬られて血を流しすぎたとは言えない。
「じゃあ、止めといた方が良いかな」
「確かに多少はふらつくけど……」
『大丈夫だ』と続けようとしたところで、身体が大きくふらついた。一瞬だが意識が遠くなったような気がした。
トールは自分が思っている以上に体調が悪い事を感じた。
「ごめん。ちょっと休んだほうがいいかもしれない」
ビアンカたち三人との話にも心惹かれるものはあったが、明日以降の鍛練の事を考えるとやはり今は休むべきだとトールは思った。
「そうね。それがいいと思うわ。じゃあ、そういうわけだから……」
ビアンカはソフィアとフローラの方を向いた。
「分かってる。こんな時に無理させようなんて思わないよ。でも別の日で会えるセッティングをしてくれると嬉しいな」
「そうですわね。冒険の事をお聞きしたいのは、本当ですし」
「今の修行は後8日程で終わるから、それから後なら時間は自由になるよ。その時で良ければ僕は構わない。というより、僕の方も話をしたいな」
「それじゃあ、その辺の都合は私が調整するわ。それでいいわよね」
ビアンカの声にトールたちは頷いた。
「じゃあ、僕は先に帰らせてもらうよ」
「ちょっと待って」
一歩を踏み出そうとしていたトールをビアンカが呼び止める。
「何?」
「途中で倒れられたらと思うと心配だから一緒に帰るわ。別に構わないでしょ」
「……じゃあお願いするよ」
少し気恥ずかしく感じたが、それ以上に今の体調を考えると途中で倒れるという事もあるのかもしれないし、帰る場所は一緒なのだから、頼れるならば頼った方が良いと思えた。
こうしてトールはビアンカと一緒に帰る事になった。
ソフィアとフローラもビアンカがトールと一緒に帰ることには賛成した。
大きくふらついてからのトールの顔色は、目に見えて悪くなったのだからこの反応も当然なのかもしれなかった。
再会の約束をしてトールはその日ソフィアとフローラと別れたのだった。
――― ステータス ―――
トール おとこ
レベル:12
職:盗賊
HP:65
MP:36
ちから:30
すばやさ:24+10(+10%)
みのまもり:13
きようさ:38+5(+10%)
みりょく:24
こうげき魔力:15
かいふく魔力:18
うん:20
こうげき力:42
しゅび力:26
言語スキル:2(会話、読解、筆記)【熟練度:14】
盗賊スキル:2(索敵能力UP、常時すばやさ+10、ぬすむ)【熟練度:61】
剣スキル:3(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、メタル斬り)【熟練度:78】
ゆうきスキル:2(自動レベルアップ、ホイミ、デイン)【熟練度:46】
経験値:4404
所持金:296G
持ち物:やくそう(18個)、毒けし草(12個)、おもいでのすず(5個)
――― あとがき ―――
なかなか上手く文章を書けません。
今回の修行風景も大きな心で接してくれるとうれしいです。