「やったぞ、逃げ出しやがった!!」
「ざまあ、二度とくんな!」
「サーペンスアルバスに手出すなんて、100万年はええよ!」
汗、埃、傷に被われた迎撃隊の面々から、勝ち鬨の声があがった。
へたり込む者。
肩を抱き合い喜びあう者。
笑顔のまま、傷の痛みに顔をしかめる者。
皆、安堵の顔をしていた。
それは突然だった。
キースが出立した直後、サーペンスアルバスにホブゴブリンが急襲してきたのである。
それをアートゥロ率いる迎撃隊の面々が、サーペンスアルバスに入るための大橋の前に陣を引いて防いだのだが――
「……気にくわねえな」
浮かない顔をしている男が1人いた。
迎撃隊をキースから任されている、隊長のアートゥロである。
撤退していくホブゴブリン達から、アートゥロは目を離さない。
「アロルド、どう考える?」
静かに横に控えている男に、アートゥロは声をかけた。
彼はアロルド。
直情的な思考のアートゥロを支える、迎撃隊の副隊長を務めている男だ。
「このまま終われば、これ以上楽なことはないんですが――」
そこまで出して、アロルドは口を閉じる。
そんなアロルドに対して、アートゥロは小さく頷くしかなかった。
「だな。
となると、クソむかつくホブゴブ共がやりそうなことは?」
「はい。
あいつ等、興奮しきって襲ってきたくせに、今は急に統率が取れています。
おそらくですが、魔法とか、そんなのが係わってのことだと思います。
突然の規則正しい撤退、いくらなんでも不自然すぎます。
まあ、魔法なんて良く知りませんが」
ガシガシと音が聞こえんばかりに、アートゥロは髪の毛をかく。
「最悪だな。
魔法使いでもいるってのか、ええ?」
アートゥロの吐き捨てる口調に動じず、アロルドは頷いた。
「推測ですが、今回の敵さん達の大将がその辺りなんじゃないかと。
魔物を統率するのって、おとぎ話でも魔法使いが鉄板じゃないですか」
「ケッ、ビックバイかってーの」
「そう推測すると、魔法使いはホブゴブリンとは違って馬鹿ということはないでしょう。
しっかりと隊列や陣形、武器なんかを調えてから、再攻撃。
十中八九、こんな所でしょうか。
しかも今度はもしかしたら、その魔法使いやらなんやらが出てくる可能性だってあります」
少し疲れたように、アロルドは肩を落とした。
その仕草を見て、アートゥロは大きく息を吸い込んだ。
「よぉおし!
てめぇら、今のうちだ、重症のやつを俺達のサーペンアルバスにさげろ!
軽いやつらは治療と、できるかぎり休んどけ!
1班から3班は、俺と一緒に土嚢を積みなおす!」
気合を入れた声で、アートゥロは部下に指示を飛ばした。
さすがは迎撃隊の面々である。
浮かれていた気持ちは一瞬で押さえ込まれた。
そして、各々が迅速に行動を開始し始めた。
迎撃隊の面々が動く姿を見て、改めて、アロルドも背筋を伸ばした。
「でも、正直な話、キツイですね。
うちらの2、3倍、ホブゴブリン達はいそうでしたから。
しかも、突然。
ホワイトスネイクの読みがなかったらと思うと、恐ろしくてどうなっていたことやら」
「ああ、まったくだ。
うちの大将はさすがだな」
アートゥロは大空を見上げる。
重く。
灰色で。
今にも雨が降りそう、そんな空だった。
そんなアートゥロに、アロルドはそっと肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ、あのホワイトスネイクですよ?
うちら2人、前にチンチンにいわされたじゃないですか。
あんな強い人です。
いつものように、「わりぃわりぃ、遅刻した」とかいいながら戻ってきますよ」
アロルドの言葉に、アートゥロは何も言わなかった。
ただ、ただ、空を見ていた。
静かに。
妻と子供と、ホワイトスネイクの無事を祈りながら――
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071 防衛
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「フン、結構骨がある」
曇天の空。
豪奢な紫色のローブに身を包んだ女性が、30メートル程の高さの位置で浮いていた。
[狂乱双子(クレイジーツイン)]の異名を持つ魔術師ローレンである。
ローレンは、眼下で行われていたホブゴブリンと迎撃隊による戦いを、
腕組みをしつつ、全てを空から見ていた。
「こっちは100程度やられたか。
相手は、対して減ってないな。
さすがはホワイトスネイクの部下というべきか」
今行われた戦闘について、ローレンは腕組みをしつつ思考する。
どうやって冷静に考えても、彼女の考えでは負けるビジョンは見えなかった。
ホブゴブリンなどいくら死んでもかまわないし、足りなければ、またどこからか見繕えば良いだけなのだから。
「が、つまらん。
こんなのでは、マスターに楽しんでいただけないではないか。
それに、このままじゃロレインに何を言われるか――」
ローレンは弟のことを思い出して、なんとも微妙な表情を浮かべる。
すると、ローレンの頭の中身はロレインので一杯になってしまう。
と、ますます、ローレンの表情が渋くなっていった。
「そ、そろそろ突破口を開くとするか……」
ローレンは小さくぼやいた。
○
「ほ、報告します!!」
アートゥロの元へ、迎撃隊員が慌てた体で駆け寄ってくる。
内心、アートゥロは「ついに来やがったか」と舌打ちをしたい気分になる。
だが、それを部下に見せるような真似はしない。
冷静な声で、駆け寄ってきた隊員に対して返答した。
「どうした?」
「は、はい!!
ホ、ホブゴブリン共が再度進行!!」
「……来ましたか」
アートゥロに続き、横に控えていたアロルドも落ち着いた様子で答えてから腕組みをする。
隊員数や武器残量、士気、いろいろ考えをまとめようとしたが――
「そ、それに、あの時の牛がまた来やがってるんです!!」
「な!?」
「なんだって!?」
アートゥロ、アロルドも、一瞬、声を失ってしまう。
「あの牛って、ティモシーでやったあれか!?」
「は、はい!
あの3メートルぐらいの、馬鹿でかい斧もったアイツです!!」
「ここで、かよ……!」
アートゥロは、アロルドに視線を向ける。
さすがにアロルドも険しい顔になっている。
「あれは今にして思えば、この時の前フリだったのかもしれません。
正直キツイが、正直ヤバイにランクアップです。
今の状況からだと撤退が――」
アロルドの言葉に、アートゥロは手のひらを向けて喋らせなかった。
「冗談に付き合ってる程、今の俺は暇じゃねえぞ。
撤退って、どこに撤退するんだっつーの。
それに、街のやつらに被害なんて絶対ださせたくねえ」
力強く、アートゥロは言い切った。
そんなアートゥロの言葉に、アロルドは穏やかな笑顔を見せた。
「私にも最後まで言わせてくださいよ。
でも、まあ、そう言ってくれるとは予想してましたけど」
「相変わらずだなあ。
で、どうするか。
前と同じように、どっかにトラップに引っ掛けられるか?」
アートゥロの言に、アロルドは首を横にふる。
「あの大物を抱きこめそうなやつが、近場にはもうありません。
ホブゴブリン相手になら使えそうなやつはまだありますが、
牛相手だと上って来るでしょう」
「そうか……」
信頼する副隊長の言葉に、アートゥロは目を瞑る。
どれぐらい沈黙が続いただろうか。
しばらくして――
「わりぃ」
アロルドにだけ聞こえる大きさで、アートゥロは呟いた。
それに対して、アロルドは静かにうなずいた。
「お前ら!
1度勝ってる牛がリベンジに来やがってるようだ!
軽く捻ってやろうじゃねえか!!」
アートゥロは陣にいる全ての迎撃隊員に聞こえるように、力強く、雄々しく猛った。
○
「健気なものだ」
唇の端を上げて、失笑、冷笑、嘲弄。
楽しげで残酷な面持ちを、ローレンは浮かべる。
ミノタウロスを投入して、誰がどうみてもわかるぐらいに戦況が変化したからだ。
先程までホブゴブリンに善戦していた迎撃隊の面々が、ミノタウロスの前では雑魚のような扱いである。
「にしても、ホワイトスネイクに見捨てられたとか考えないのがすごいな。
こいつらの特筆すべきは、ホワイトスネイクがいなくても士気を維持することか」
他者を認める言葉をローレンが言うのは珍しい。
それぐらいに、迎撃隊員は勇敢(無謀)にも、ミノタウロスへと立ち向かっていった。
傷ついて、吹き飛ばされても立ち上がった。
サーペンスアルバスへ近寄せないように、立ちふさがっていたのだ。
「ま、だからって結果は変わらないけどな」
戦場を空から見下し、ローレンは満悦の様子だった。
「あいつ等が片付いたら、ミノタウロスは殺すか。
その後、あえて、ホブゴブリン達に暴れさせるとしよう」
ローレンは、突然、大きく笑いはじめた。
瞳孔が限界までに開かれ、大きな声を上げて、両手を大きく広げて――
「せいぜい楽しませろ!
お前らは、それぐらいでしか我が主を楽しませることができねえんだからな!!
役立たず共が!!!」
○
アートゥロは、自分自身のふがいなさが悔しかった。
泣きたくなる位だ。いや、実際に泣いていたかもしれない。
それが、アートゥロが、ミノタウロスと対峙した瞬間に思わされたことだ。
足の震え、手の振るえ、全身から流れる奇妙に冷たい汗が止まらない。
前回の時にはホワイトスネイクがいた。
だが、今、頼れる英雄はいない。
その役目を、アートゥロ自身がやらなければならない。
だが、そんなのは無理だ。
ただただ、その圧倒的な力。
力だけ。
その力によって振るわれるダブルブレードアックスは、まるで暴風雨のようだった。
ミノタウロスは理不尽なまでの力を押し付けてくるのだから――
「ちくしょう、ちくしょう……!!」
アートゥロは身体に残っている勇気の欠片を全て振り絞って、愛用の剣を握り締める。
すでにホブゴブリンの血で刀身は真っ赤だ。
また、身体も返り血と自分の血で満身相違。
「隊長ぉぉぉお!!」
後方でホブゴブリンを抑えているアロルドの声が耳に入る。
だが、それは半分悲鳴が混じるものだ。
あと数分も持たないだろう。
「させるか、させるか、させるかよぉ!
やっと、やっと、やっと出来た俺達の故郷なんだ!
てめえら、てめえらみていな化け物なんぞに、土足で踏み入らせりゃしねえぇ!」
ここまで来るだけでも、多くの部下が傷ついた。
サーペンスアルバスへと引き下げさせたが、多くの部下が死んだだろう。
その上に成り立っているこの状況。
だからこそ。
怖くても、泣きたくても、死にたくなくても、アートゥロには下がる選択肢は思いつかない――
「ああああああ!!」
アートゥロはミノタウロスに突っ込んでいく。
大きく振りかぶり、剣を振り下ろす。
乾坤一擲。
アートゥロの正真正銘全力の一撃。
それがミノタウロスの命へ――
「Buxuraaaaa!!」
届くことはなかった。
ミノタウロスの皮膚に薄い赤い線がついただけ。
ただ、それだけ。
「ニエヴェス……
……
……!」
アートゥロは膝から崩れ落ちそうになる。
だが、それだけはよしとしなかった。
「まだまだ――」
1回でダメなら、何度もやればいい。
続けて、アートゥロが剣を掲げた時だ。
「!?!?!」
ミノタウロスの大木のような腕が、アートゥロに襲い掛かった。
単純明快な攻撃。
腕で振り払っただけ。
「ぐあああああ!!?!」
たったそれだけで、アートゥロは10メートル程吹き飛ばされた。
無理も無い。
大木のような腕のフルスイングを食らったのだ。
「いてえ、いてえ……!」
痛みのあまりバラバラになりそうな身体に鞭を入れて、ゆっくりと身体を起こそうとしたが――
「Buraaaa……!」
「!!?!?」
目前に、真っ赤なぎらついた目、おそろしく涎をたらしたミノタウロスが立っていたのだ。
しかも、巨大なアックスを掲げて、だ。
巨体でありながら、恐るべき速さと言えた。
「クソ、クソ、クソ……!!」
アートゥロの身体は言うことを聞かない。
今、出来るのはミノタウロスをにらむことぐらいだった。
「BUAAAAA!!!」
ミノタウロスのダブルブレードアックスが轟音を立てて振り下ろされた。
「え――!?」
だが、その瞬間。
アートゥロの身体は硬直した。
一気に身体の底から冷えた。
「Buxuaa――!?!?」
最も驚いたのはミノタウロスだったろう。
いつの間にか、自身の身体の中心に大穴が開いているのだから――
「Byuua、Byuuaa……!!」
ミノタウロスの力の無い咆哮が響き渡る。
さらにアートゥロは衝撃を覚えた。
なんとミノタウロスの身体が光に包まれていったのだ。
眩しくて、暖かくて、けど冷たさを感じさせる、そんな光に、アートゥロは背筋を振るわせた。
「な、な、なんだ、こりゃ……
お、おい、どうしってんだ……!?」
光は空へと上っていく。
そしてミノタウロスは消えていった。
まるでシャボン玉のように。
後には何も残らなかった。
「な、何が起こって――」
突然の出来事に、アートゥロには、今の状況が把握できない。
自分の命が助かったのは確かだが、それ以外には全く理解ができなかった。
アートゥロが呟いた時だった。
「ガシャン、ガシャン」と重々しい鎧の音が近づいてくるのがわかった。
「え――」
音の方へ視線を向けて、アートゥロは尻餅を着いてしまった。
「あ、あ、あ……!?」
そこにいたのは「死」を顕現した存在だった。
一部の隙も見えない、全身真っ黒な、恐ろしく禍々しい鎧。
その邪悪な造形の鎧からは、禍々しい雰囲気の力が発散させられているのが目に見て取れた程だ。
さらに、この邪悪な動く鎧が手にしている槍が恐ろしかった。
問答無用で頭を下げたくなるほど、圧倒的な、何やら荘厳な力が押し付けられてくる。
この理不尽なまでの存在の登場に、アートゥロは動けなくなってしまったのだ。
「あ、あ、あ――」
アートゥロは明確に死を覚悟した。
いや、覚悟させられたという方が正しい。
「し、死神……!」
真っ黒な死神は、しっかりとした足取りでアートゥロに近づいてくる。
アートゥロは、全身の痛みも忘れて震えることししかできなかった。
逆らう気力など起きなかった。
そして死神はアートゥロの前までやって来て――
「ごめんなさい、皆さんの治療で遅くなりました!
でも安心してください。
みんな、元気ですから!」
まだどこか少しだけあどけなさを残した、柔らかい、優しさを感じる少女と思われる声。
それが邪悪な鎧の隙間から、アートゥロの耳へと飛び込んできた。
「……へ?」
アートゥロは一気に全身の力が抜けていった。
理不尽な死神からの言葉に、アートゥロは「ぽかーん」と見上げるしかできなかった。
○
「何が起こった?」
突然消えてしまったミノタウロスに、さすがにローレンは首を傾げる。
「マジックユーザーでもいたのか……?
ロレインのやつ、だとしたら情報収集が雑――」
と、ローレンが舌打ちをした時だ。
「――!!!!!」
ローレンの視界に、あの憎々しげな存在が目に入る。
「あああああん!?
また、また、まああた、あのクソ売女かああ!」
一瞬で、ローレンの身体が動き始める。
「鳴動
空気
鋼
空から降りろ、我が剣ぃ――!」
ローレンはものすごい勢いで詠唱を開始する。
今、彼女は何も考えられなかった。
この呪文が最も効果を発する最適な距離、戦闘の作戦、巻き添えになるだろうホブゴブリン達。
そんな些細なもの、今の彼女の頭には何も無い。
ただあるのは、敬愛するべき主人が気にかけている女に対する敵意のみ、だ。
「ふざけんのもいい加減にしろ、この売女がぁあ!」
「バリバリ」と音を立てる雷が、ローレンの右腕に現れる。
「ライトニングボルトぉ!!」
ローレンの右腕から、まさしく落雷の如く雷が振り下ろされた。
○
「大丈夫ですか、立てますか?」
「あ、ああ……わ、悪りぃ」
ノアがアートゥロへ右手を差し出し、その手をアートゥロが取ろうとした時だ。
「――!?」
[ノア]がノアに警告を発したのだ。
空を警戒するように告げられたため、ノアは曇天の空に目を向ける。
(何かくる――!?)
瞬間、ノアの行動は早かった。
「ウィズドロー【時間支配】!」
まず、ノアは自身の体感時間の流れを変える呪文を唱える。
特訓してきた結果、考えることが大切だとわかったノアが一番気に入っている呪文である。
これにより、どんな場合でも一息落ち着いて考えることができるのだから。
(ディティクト・イービル!)
(ディティクト・マジック!)
ノアは、[ウィズドロー【時間支配】]の効果中でも詠唱が可能な探知系呪文を唱える。
(上から魔法!?
マジックユーザーがいるっていうの!?
強い、マスターレベル、これは雷。
ライトニング系の呪文――!)
-----------------------------------
・[ウィズドロー【時間支配】] LV2スペル
使い手自身に対してのみ、時間の流れを変える呪文。
周囲で1分過ぎる間に使い手は2分+レベル×1分の時間を過ごすことが出来る。
緊急時に物を考える時間、または、自分自身に対してのみ[治療][探知]の呪文が使える。
-----------------------------------
-----------------------------------
・[ディティクト・イービル【邪悪探知】] LV1スペル
物体や空間から発散する邪悪な気配を探知することができる。
邪悪の度合いも判別可能。
-----------------------------------
-----------------------------------
・[ディティクト・マジック【魔法探知】] LV1スペル
使い手のLVに応じた距離内で、魔力を探知することができる。
魔法の強度の度合い判別可能。
-----------------------------------
(今、重症の兵士さん達に回復呪文を使ったから、もう、あまり魔法がない――!
……でも、逃げたら兵士の人たちが……
なら、これしかない、もう出し惜しみはしない……!
全力でいくんだ……!)
「お兄ちゃんに頼まれんだから――!」
ノアは[ウィズドロー【時間支配】]の効果を消す。
そして――
「全てはφ(ファイ)から0(ゼロ)へ――!
ディスペル・マジック!」
落ちてくる雷に向かって、[ディスペル・マジック【魔法解除】]を発動させた。
-----------------------------------
・[ディスペル・マジック【魔法解除】] LV3スペル
魔法の効果を消去したり、中和したりすることができる呪文。
第一にクリーチャーや物体から呪文の効果を取り除く。
第二に呪文をかけていたものを妨害することができる。
成功の可否については、使い手のレベルと相手の呪文のレベル差によって判断される。
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ガラスが割れるような音が響き渡った。
それは[ライトニング・ボルト【電撃】]を[ディスペル・マジック【魔法解除】]で解除した音だった。
「クソむかつくが、相変わらずやるじゃねえか」
解除と同時だった。
空からローブの女性が急降下で降りてきた。
地面に着地する際に、両手両足を使った姿は蜘蛛を思わせるものだった。
「あ、あなた――!?」
「ひさしぶりだねえ。売女。
あいからず、男にゃいい顔見せるじゃねえか!」
ゆっくりと、緩慢にも思えるような動作でローレンは立ち上がる。
「地下墳墓の時の!
貴方が今回のことを――!?」
地下墳墓で会ったマスターレベルのマジックユーザーに対して、ノアは神槍グングニルを構えなおす。
あの時も、そして今もだが、相変わらずこのマジックユーザーはとても友好的では無いからだ。
「売女にゃ、答える義理はねえよ。
あんたはせいぜい苦しむ姿を晒して、我が主を楽しませる、それだけでいいんだよ!」
「我が主を楽しませるって……!?
な、何それ!?
それだけでこんなことを――」
「ああ、ゴチャゴチャ売るせぇなあ。
そんな売女にはお仕置きだよ。
素っ裸にして、オークの群れに放り込んでやる」
充血せんばかりに見開いた目でノアを睨み付けながら、ローレンは会話を一方的に打ち切った。
そしてローブの懐からワンド(小杖)を取り出す。
魔術師がワンドやスタッフを取り出す行為は、兵士が剣を抜く行為と同様である。
その姿を見て、ノアは悲しげな面持ちを浮かべた。
「そっか……」
ノアは兄の姿を思い出す。
「頼む――」という言葉を思い出す。
「おにいちゃん……」
そして、ゆっくりと神槍グングニルの穂先をローレンへと向けた。
★
キースvsロレイン
ノアvsローレン
兄妹(姉弟)対決! 今回はこれを書いてみたかったのですよ~!
これに何話かけているのやら。
あと数話で一段落つけたいと思っています!
○
二重人格気味にローレンは書いているのですが、これがまた楽しくて難しいです。
言葉の言い回し的なイメージは格闘ゲーム『スーパーストリートファイター4』のジュリを、なんとなくイメージしております。
○
本日、天野こずえさんのコミック「あまんちゅ!」4巻が発売。
私の勝手なノアの外観イメージは、「あまんちゅ!」の「てこ」に近いかもしれません!
大木双葉で検索をしてみてくださいませ。
○
[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)]のイメージは、
コンピューターゲーム、ファイナルファンタジーの暗黒騎士です。