さて。
森を抜ける方法だけど、実は簡単にわかりました。
改めて自分の能力の高さに、安堵と、そして、なんだか苦笑してしまいます。
植物に道を聞きました。
[ノア]は[方向感覚]の技能を持っています。
[方向感覚]は、木の年輪などから、簡単に東西南北の情報なんかを理解できるスキルです。
けど今回は、そういった意味で植物から聞いたのではなくて。
文字通り、植物にお話を聞いたんです。
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・[スピーク・ウィズ・プランツ【植物との会話】] LV4スペル
生きている植物(キノコやカビ、植物性モンスターを含む)と単純な会話をかわすことができる。
この呪文は限定的なコントロール能力をも獲得する。
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おかげで、このあたりの情報には全く困らないです!
「みんな、本当にありがとうね!」
呪文の効果が切れるまで、わたしはお礼を言った。
植物たちの会話は助詞がない、片言の単語レベルでしかなかったけれど。
一生懸命、わたしに教えてくれたことが嬉しかった。
[スピーク・ウィズ・プランツ【植物との会話】]はLV4呪文です。
高レベルな呪文だけれど、疲労を感じるといったこともなかった。
さすがレベル20のクレリックと言ったところかもしれません!
○
ここは[ドルーアダンの森]。
現在地から[ドルーアダンの森]を抜けるには、北に向うのが一番近いとのことでした。
森を抜けた直後に、街道というか小道があると教えてくれました。
小道は[ウォウズの道]と、人々には呼ばれているようです。
[ウォウズの道]は、森を沿うように西から東へと続いているみたい。
ちなみに木々たちが言うには、[ウォウズの道]までは「2,3日」かかるらしいです。
「でも2,3日って、人間の足準拠なのかなあ?」
なんて疑問も浮かんだけど。
北に向かえば、とりあえず森は抜けられるのだ。
慌てても仕方がないし、のんびりと行くとしましょうか。
……
……
と、気軽に考えていました。
しかし思わぬ存在が、わたしの初クエスト[森からの脱出]を邪魔することに!?
○
「あー、また見つけた!」
慌てていて、わたしはかがみ込む。
地面に生えている雑草をよけ、お目当てのものに手を触れる。
「オトギリソウ! ちょうど果実が成熟しきってる!
いまなら乾燥させて、止血や鎮痛剤にできるじゃない!
あ、ツルナ! これ胃にいいんだよね~」
そう、歩くたびに目について仕方がない。
薬草だ。
わたしは技能で「薬草学」と「治療」を持っている。
これが原因なのか、なんだか薬草集めが楽しくて仕方がない。
「わたしの意志が入る前に、きっと[ノア]は薬草集めに来ていたのかな?」
そう考えれば、こんな森の中に一人でいるのも納得ができた。
というか、それ以外には考えられない。
「あ、オオバヤシャブシ!」
やばい、わたしこの森から脱出できる自信がなくなってきちゃいました。
はじめてのクエスト[森の脱出]は存外レベルの高いクエストのようでした。
……
……
あ、なんか、身体に薬草の香りが染みついてきちゃった気がするー!
○
食べ物にも困ることはありませんでした。
出口に向かって歩いているだけで、木の実などの群生地がわかったからです。
キイチゴやブルーベリーなど、簡単に入手することができました。
「むふふ、この魔法は試してみたかったんだよね~!」
わたしは柊のホーリーシンボルを取り出した。
キイチゴに向けて、詠唱の言葉を捧げる。
「さあ、美味しくなって!
えい、[グッドベリー【おいしい果物】]~!」
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・[グッドベリー【おいしい果物】] LV2スペル
木の実にかけると2~8個が魔法の木の実になる。
食べると、空腹だった者は、腹一杯食べた時と同じぐらいに元気になる。
空腹で無い場合には、1ポイント分のダメージが治る。
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[グッドベリー【おいしい果物】] はゲームプレイ中に大活躍の呪文でした。
魔法をかけた果物を食べると、空腹時に、なんとお腹いっぱい食べた時と同じぐらい元気になるんです!
空腹時じゃないときには、なんとヒットポイントも回復!
これは他のゲームじゃ、なかなか無い魔法だよねえ。
「わ、これはすごいや……!」
口に入れたキイチゴはものすごいものでした!
果汁がものすごい!
甘くて、ジューシーで、すっきりして、香りが口の中に広かがって!
あ~、こんな時は芸能人のグルメレポーターの[技能]がほしい!
この呪文の効果は1日+1日×レベルだ。
だから、今のわたしのレベルだったら21日間は持続するのか。
「これでお店でも出したらヒット商品になるかな?」
実はわたし、武器防具やアイテムと比較すると、あんまりお金を所持していませんでした。
まあ、マジックアイテムの一つでも売れば、一気にお金は入ると思います。
けど、それは買ってくれる人がいる場合になってしまいます。
[ウォウズの村]についたら、ちょっと試してみようと思います。
原価0円だから、どんなに安くても売れたら全額が純利益だしね!
宿屋の代金ぐらいは作れるかな?
○
「さて、寝るところを考えないと」
太陽の位置から、たぶん、14時から15時ぐらいだと思う。
暗くなる前には落ち着きたい。
4次元バックパックの中を確認してみる。
防寒着や毛布はある。
けれど考えてみたら[エンデュア・コールド/ヒート【寒さと暑さからの加護】] を使えば必要ない。
となると、後は、雨露を凌ぐ方法だ。
それにどう猛な動物とか、まだ会ってないけどモンスターなんかに見つかりにくい場所。
「うーん、山小屋なんてあるわけでもないし……
洞窟探すなんて都合よく見つかるわけないし、逆にモンスターいそうだし。
となると、ゲーム中でもやってた方法を試してみようかな」
周囲を散策して、大きな岩石を探すことにした。
切り立った崖のような場所でもいい。
今、必要なものは、ただの大きな石だ。
「ん、これぐらいの石なら大丈夫かな?」
わたしは目についた石をピタピタと触ってみる。
石はひんやりとしていた。
必要な物がなければ、どうすればよいのか。
答えは簡単だよね。そう、作ればいいだけ!
石に手を置きながら、わたしは魔法の言葉を詠唱し、念じて、捧げる。
「ストーン・シェイプ【石物変換】!」
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・[ストーン・シェイプ【石物変換】] LV3スペル
石の姿を思いの通りに変える呪文。
石製の武器や石像、石の扉などを作製することも可能。
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「いやー、うんうん、よくできた!」
石の扉と空気穴付きの家を造っちゃいました!
家って言っても、ただの正方形な石に扉がついているだけって感じなんだけど。
わたしは扉をあけて、中に入ってみる。
ガランとした空間。
石の扉をしっかり閉めて、一緒に作ったかんぬき錠を下ろした。
扉はがっちりと全く動かなくなった。
「いやー、良い仕事をしました」
大満足の出来です!
これなら普通の動物は絶対に進入できない。
モンスターでも、よほど筋力 (Strength)が無いと破壊は不可能と思う。
「さて、後はっと――」
もう一度、[ストーン・シェイプ【石物変換】] を唱える。
うにょんうにょんと石が動いて、室内に石の浴槽が完成!
「[クリエイト・ウォーター【水を作る】] !」
ぷかぷか浮いている水を浴槽に入れる。
なみなみと水が浴槽に収まった。
「石けん、石けんっと~」
わたしはバックパックから石けんを取り出す。
やっぱり日本人なら、シャワーじゃなくて浴槽は必須ですよね!
汗を流すために、疲れをとるために、わたしはローブを脱ぎすてた。
「ゲームでは攻撃呪文が主体だけど、実際はこんな呪文の方が大活躍だよね」
わたしは少しだけやってみたドラゴンクエストとかのコンピューターゲームを思い出す。
あれは回復呪文と移動呪文と攻撃呪文しかなかったような気がする。
「ホントによかった、[D&D]の魔法が使えて~」
思わず、安堵のため息が漏れてしまいました。
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今回、出させていただいた地名は[指輪物語]からお借りしました。
それにしても、まだノア以外のキャラクターが出てこないw