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No.13727の一覧
[0] 【習作】 英雄たちのその後って? 【現実→AD&Dっぽい異世界】【チート能力】[ぽんぽん](2013/07/06 08:18)
[1] 01 TRPG[ぽんぽん](2011/01/03 07:02)
[2] 02 現状の確認[ぽんぽん](2011/01/08 18:19)
[3] 03 準備[ぽんぽん](2011/01/15 10:10)
[4] 04 森からの脱出[ぽんぽん](2011/01/30 10:42)
[5] 05 森からの脱出02[ぽんぽん](2011/02/11 08:35)
[6] 06 ウォウズの村[ぽんぽん](2011/03/05 18:23)
[7] 07 夜の酒場[ぽんぽん](2011/03/19 18:09)
[8] 08 魔法[ぽんぽん](2011/03/26 15:54)
[9] 09 治療[ぽんぽん](2009/12/13 09:46)
[10] 10 想い[ぽんぽん](2009/12/13 09:55)
[11] 11 正体[ぽんぽん](2009/12/19 14:04)
[12] 12 黒聖処女[ぽんぽん](2010/02/28 09:03)
[13] 13 葛藤[ぽんぽん](2009/12/27 09:16)
[14] 14 来訪[ぽんぽん](2009/12/30 11:51)
[15] 15 引き渡し[ぽんぽん](2010/01/02 14:51)
[16] 16 旅立ち[ぽんぽん](2010/01/11 12:04)
[17] 17 城下町エドラス[ぽんぽん](2010/01/16 14:11)
[18] 18 戦乙女[ぽんぽん](2010/01/23 16:57)
[19] 19 冒険初心者[ぽんぽん](2010/01/31 11:59)
[20] 20 見極め[ぽんぽん](2010/02/28 09:01)
[21] 21 戦闘[ぽんぽん](2010/02/19 06:00)
[22] 22 ただいま勉強中[ぽんぽん](2010/02/28 11:38)
[23] 23 ハイローニアスの使い[ぽんぽん](2010/03/14 11:45)
[24] 24 依頼[ぽんぽん](2010/04/11 07:59)
[25] 25 地下墳墓(カタコンベ)[ぽんぽん](2010/04/17 09:01)
[26] 26 地下墳墓(カタコンベ)02[ぽんぽん](2010/04/25 18:01)
[27] 27 地下墳墓(カタコンベ)03[ぽんぽん](2010/05/09 10:22)
[28] 28 地下墳墓(カタコンベ)04[ぽんぽん](2010/05/23 10:00)
[29] 29 地下墳墓(カタコンベ)05[ぽんぽん](2010/06/06 10:06)
[30] 30 地下墳墓(カタコンベ)06[ぽんぽん](2010/06/27 17:24)
[31] 31 タエ[ぽんぽん](2011/02/26 04:35)
[32] 32 思い[ぽんぽん](2010/07/18 12:09)
[33] 33 海沿いの街・セーフトン[ぽんぽん](2010/08/01 11:10)
[34] 34 海沿いの街・セーフトン02[ぽんぽん](2010/08/15 12:04)
[35] 35 海沿いの街・セーフトン03[ぽんぽん](2010/08/29 11:00)
[36] 36 戦乙女(ヴァルキュリア)[ぽんぽん](2010/09/26 16:41)
[37] 37 戦乙女(ヴァルキュリア)02[ぽんぽん](2010/10/03 11:24)
[38] 38 戦乙女(ヴァルキュリア)03[ぽんぽん](2010/10/16 20:28)
[39] 39 告白[ぽんぽん](2010/10/31 10:40)
[40] 40 またね[ぽんぽん](2010/11/14 10:23)
[41] 41 白蛇(ホワイトスネイク)[ぽんぽん](2010/11/27 18:26)
[42] 42 サーペンスアルバス[ぽんぽん](2010/12/11 19:27)
[43] 43 日常[ぽんぽん](2011/02/26 04:36)
[44] 44 日常02[ぽんぽん](2011/01/08 18:22)
[45] 45 3ヶ月[ぽんぽん](2011/01/22 18:11)
[46] 46 イル・ベルリオーネ[ぽんぽん](2011/02/26 04:41)
[47] 47 顔合わせ[ぽんぽん](2011/03/19 14:08)
[48] 48 旅の準備[ぽんぽん](2011/03/19 14:09)
[49] 49 ケア・パラベルへ[ぽんぽん](2011/04/09 10:28)
[50] 50 ケア・パラベルへ02[ぽんぽん](2011/04/02 18:00)
[51] 51 ケア・パラベルへ03_カスピアン[ぽんぽん](2011/04/23 17:48)
[52] 52 ケア・パラベルへ04_ソランジュ[ぽんぽん](2011/05/03 17:57)
[53] 53 ラクリモーサ[ぽんぽん](2011/05/14 17:56)
[54] 54 ケア・パラベルへ05_待ち伏せ[ぽんぽん](2011/05/28 17:51)
[55] 55 ケア・パラベルへ06_芽生え[ぽんぽん](2011/06/11 20:15)
[56] 56 旅の少女[ぽんぽん](2011/06/26 07:08)
[57] 57 確信[ぽんぽん](2011/07/16 18:51)
[58] 58 痴漢[ぽんぽん](2011/08/06 07:42)
[59] 59 兄妹[ぽんぽん](2011/08/15 04:15)
[60] 60 強くなるために[ぽんぽん](2011/08/27 16:49)
[61] 61 蠢動[ぽんぽん](2011/09/10 17:52)
[62] 62 開幕[ぽんぽん](2011/10/01 15:44)
[63] 63 前哨戦[ぽんぽん](2011/10/15 17:36)
[64] 64 決意[ぽんぽん](2013/03/02 06:41)
[65] 65 回顧[ぽんぽん](2011/11/19 17:17)
[66] 66 一騎当千[ぽんぽん](2011/12/10 16:57)
[67] 67 一騎当千02[ぽんぽん](2011/12/29 15:53)
[68] 68 想い交錯[ぽんぽん](2012/01/15 12:40)
[69] 69 英雄への想い[ぽんぽん](2012/02/26 07:14)
[70] 70 急転[ぽんぽん](2012/02/26 08:43)
[71] 71 防衛[ぽんぽん](2012/03/10 11:33)
[72] 72 反撃[ぽんぽん](2012/03/31 19:58)
[73] 73 魔王[ぽんぽん](2012/04/21 11:33)
[74] 74 魔王と白蛇[ぽんぽん](2012/05/20 12:37)
[75] 75 チート[ぽんぽん](2012/08/17 11:06)
[76] 76 決着[ぽんぽん](2012/08/17 11:09)
[77] 77 黒い悪魔[ぽんぽん](2012/08/17 11:09)
[78] 78 黒い悪魔02[ぽんぽん](2013/03/02 06:50)
[79] 79 黒い悪魔03[ぽんぽん](2013/03/02 06:51)
[80] 80 黒い悪魔、白い騎士[ぽんぽん](2012/11/03 10:19)
[81] 81 悪を討つ一撃[ぽんぽん](2013/03/02 06:55)
[82] 82 援軍到着[ぽんぽん](2013/03/02 06:57)
[83] 83 妙子と勇希[ぽんぽん](2013/03/02 06:58)
[84] 84 愛しさ切なさ悲しさ[ぽんぽん](2013/04/29 12:19)
[85] 85 異様過ぎる何かとの遭遇[ぽんぽん](2013/06/23 09:03)
[86] 86 異様過ぎる何かとの遭遇02[ぽんぽん](2013/06/23 09:10)
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[13727] 39 告白
Name: ぽんぽん◆d1396e89 ID:9fc8f5b1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/31 10:40

「あなた!」
「お父さん~」

「バーバラ、バド……!」


ミッチェルの存在に気がついたバーバラとバド。
ハイローニアスの僧兵達一団の元から、二人はミッチェルの元に走り寄って行った。


「服とかボロボロじゃない……!
 け、怪我とかない?
 酷い事はされなかった!?」


バーバラは慌てて、夫であるミッチェルの身体を確認する。
一目見て、ミッチェルの服などがズダズダになっていた為だ。


「あはは。落ち着いて、落ち着いて。
 見た目は酷いけど、今はもうすっかり大丈夫さ」


ミッチェルは腕に力こぶを作り、問題が無いことをバーバラにアピールする。
夫の言葉通りだった事を確認できたバーバラは、大きく安堵の息を吐いた。


「もう……
 本当に……
 し、心配したんですから……」

「うん。
 ごめんね、心配かけた」


胸にバーバラを抱きかかえながら、ミッチェルはそっと髪を撫でた。
そんな両親をみたバドは、やはり勢いよく父であるミッチェルの元に飛び込んだ。


「お父さん、海はー?」


息子の開口一番の言葉に、ミッチェルは苦笑する。
だが、ミッチェルは暖かい気持ちでいっぱいでもあった。


「ああ、そうだね。
 バドにも謝らないといけないな。
 ごめん。
 ちょっと遅くなったけど、もちろん、泳ぎに行くに決まってるじゃないか」

「やったー!」


バドはミッチェルの言葉を聞いて、ピョンピョン跳ねて喜んでいる。
夫と息子の様子に、バーバラも安堵と笑みが押さえきれない。


「あらあら、あなたったら」


ただ、ふとバーバラは気になった事があった。
先程の会話についてだ。


「あなた、さっき身体は大丈夫って聞いた時、
 『今は』って言ってたけど、それって……?」

「ああ。
 実は結構やばかったんだよ、これが」

「えっ!」

「でも、もうなんともないだろ?
 これって、実はタエが治してくれたんだ」

「タ、タエ、が……?」


力のある僧侶が[神の奇跡]で怪我を一瞬で治すことができる、とはバーバラも聞いたことがある。
だが、タエは剣を使う[戦士]ではないのか?
と、考え込むバーバラに、ミッチェルは微笑んで――


「ああ、そうさ。
 あの時のタエはまるで……
 ……
 そうだね。
 僕には[英雄]に見えた、よ――」


バーバラを強く抱きしめた。





-----------------------------------
039 告白
-----------------------------------


タエは大きく、深く、体内の息を吐き出した。
遠目に、ミッチェル達のハッピーエンドの光景が確認できたからだ。


「やっぱりこうでなきゃ、ね」


タエが[ファースレイヤー・ホーリーブレード(彼方狩る聖なる剣)]を鞘に収めた、その時だ。
タイミングを見計らうように、タエの前にはチェインメイルと法衣を身にまとった男が跪く。


「お疲れのところ、誠に申し訳ございません。
 我らが英雄である[戦乙女(ヴァルキュリア)]に、
 感謝の言葉を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」


男は恭しく頭を垂れた。
タエが確認したところ、彼は[クリステン]と名乗った。
クリステンは先程のハイローニアスの集団を率いる僧兵との事だった。


「んーん。
 それはこっちの台詞。
 ありがとうございます、今回は助かりました」


土下座しかねないほど恐縮しているクリステンに、タエは片膝を付き起こすように促した。


「そ、そ、そのような、
 も、勿体ないお言葉でございます……!!」


タエの言葉に対して、クリステンはますます恐縮することになった。
そんなクリステンに対して、タエは苦笑しながら頭を上げるようにお願いをする。


「とにかく、まずは街の人をどうにかしないといけないわね。
 今回、私、かなり迷惑かけちゃったからー」


クリステンに今後の事を提案することによって、タエは今の状況を打破する作戦を決行することにした。
ハイローニアスの僧であるクリステンに、この作戦は見事に功を奏した。
引き締まった表情をタエに向け、クリステンは直立不動の姿勢を取る。


「今回の件ですが我らが早急に動くべき事態でした。
 感謝こそすれ、[戦乙女(ヴァルキュリア)]が気にされることではございませぬ」

「早急に動く事態……?
 どういうこと?」

「我らはレンブランの関係各所に赴いたのですが――」


レンブランの屋敷。
そこは地獄絵図だったとのことだ。
至る所に、使用人と思われる者達の遺体の散乱。
両手両足が無い、などはまだ良い方に属するほどだったらしい。
あまりの惨たらしさ、腐臭により、修行した僧も何人かは嘔吐する有様。


「それに加えて――」


また、[魔法]関連の道具や触媒も多く発見されたとのこと。
引き下げてきたので、これらに関しては今後の調査に回されるとのことだった。


「商人組合長(ギルドマスター)のレンブラン。
 状況から、彼は魔力に魅入られてしまったのではないでしょうか?
 故に、己を失っての凶行だったのではないかと考えます」


クリステンは以上のように状況を説明した。
説明を一通り聞いたタエは、ほんの少しだけ俯いた。
そしてタエにしては小さめな声で呟いた。


「[魔法]絡みなのは間違いないと思う。
 ただ、魅入られたんじゃない。
 えと、レンブラン……さん、か。
 この人は被害者――」

「え、ひ、被害者ですか……?」


**************************************

『ああ、全てが、ひひひ、全てが愛おしい。
 のう、[戦乙女(ヴァルキュリア)]ブリュンヒルデ・ヴォルズング』

『ずっと、ワシからは見ていたので、初対面という感じがしなくてのう』

『[本当の姿]で、誰も邪魔の無い所でヌシとは会いたいから』

**************************************


タエの脳内に浮かぶのは、レンブランの言葉の数々――


「本当は……
 ……
 ……
 ……私の……
 せいなのかも、ね……」


戦闘中に、決して吐くことが無かった『疲れた声』だった。
タエはそっと呟き、力強く拳を握りしめた。


「[戦乙女(ヴァルキュリア)]……?」


タエの様子に、クリステンは何かを感じ取ったのか。
しばらく二人の間には奇妙な沈黙が流れた。





[今回のレンブランの暴走について]
セーフトンの住民に対しては、ハイローニアス寺院から現在も調査中であることが伝えられた。
「何もわからない」ことに対して、いくらかは不平の声も上がったが、大きな問題にはならなかった。
それよりも、セーフトンの人々にとっては安堵の気持ちが勝ったからに違いない。

[今後のセーフトンの商業について]
セーフトンの商人組合長(ギルドマスター)だったレンブランの抜けた穴は大きい。
これは残された商人組合(ギルド)のメンバーの合議制によって、立て直しを図ることになった。
ミッチェルも商人組合(ギルド)のメンバーとして、セーフトンの復興に向けて協力する予定になっている。

最後に、セーフトンの人々の中で一番話題になったこと。
謎の、あの[美しい[女騎士]の事]だ。
これに対しては、ハイローニアスより[ハイローニアスのパラディン(聖騎士)]とだけ伝えられた。
伝説とも言えるパラディン(聖騎士)知った人々からは、詳細を求める声が上がった。
だがハイローニアスより、これ以上の情報は伝えられることは無かった。
これには裏話がある。
ハイローニアス側は、むしろ大きな声で伝えたかったのだ。
「[戦乙女(ヴァルキュリア)]であるブリュンヒルデ・ヴォルズングが救ってくれたのだ」と。
だが、タエが必死にそれだけはやめて欲しいと懇願したのだ。
それでハイローニアス側が折れたということで落ち着いた。

何はともあれ。
海沿いの街・セーフトンは次第に落ち着きを取り戻しつつあった。





海が好きなセーフトンの人々の中で、もっとも人気のスポット[セーフトネータ]。
天気が良い日には、日光浴や海で泳ぐ人などで賑わっている場所だ。
今日も多くの人々が、各々で楽しんでいる。


「いくわよ、っせーのっとぉ!」

「わー!」

「どう? バド?」

「うん!うん、しょっぱい!
 ホントにしょっぱいんだね、タエ~」

「だから言ったでしょ」


そんな人気のビーチ。
タエとバドが浅瀬の海に入って水の掛け合いをしていた。
ミッチェルとバーバラの砂場で横になりながら、そんな二人の様子を眺めている。

バドとの約束を守るために、今日、ミッチェル達は海に遊びに来ていたのだ。


「お父さんも、こっち、こっちー!」

「あはは。
 わかった、わかったよ」


テンションが高いバドは、ミッチェルに向けて一生懸命手を振った。


「よし、今日はとことん遊ぶとしようか!」


ミッチェルは立ち上がり、バドとタエに向かって走り出した。


「あらあら。
 まるで手のかかる子供が3人いるみたい、ね」


夫と息子、そしてタエがはしゃぎ合っている姿を見て、バーバラは楽しそうに微笑んだ。





[セーフトネータ]の海に落ちかけている夕日――

それは人々に安らぎを与えてくれるような、暖かいオレンジ色だった。
また潮騒の音も、心地良いリズムで人々の耳に飛び込んでくる。
時折、合いの手のように入ってくる鳥の鳴き声は、どこか郷愁をさそうものだった。


「ん~」


バドがタエの背中で身をよじる。


「タエ、重くないかしら?
 私、代わるわよ?」


海で一日中遊んだ帰り道。
遊び疲れてしまったのだろう。
途中でバドは眠ってしまったのだ。
バドをおんぶしているタエに対して、バーバラが声をかける。


「ありがと、大丈夫よ」


実際、タエには余裕があったので全く問題がなかった。
それよりも、タエが心配しているのは――


「それよりも、この髪の毛よ~
 もう海水と潮風でパリパリ!」


いつもは流れるような黄金色の髪だが、今は少しウェーブがかかったようになっていた。
タエは頻りに気にしていたが、美しさには全く影は指していない。
それどころか、違った一面の違った魅力が見られるぐらいだった。


「えー、タエ。
 そんな状態で文句を言ったら、世の女性に恨まれるよ~」


率直な感想をミッチェルは告げる。
が、丁度、波の音とかぶってしまったのだろう。
タエにはよく聞き取れなかったようだ。


「え、ごめん、聞こえなかった。
 何が恨まれるって??」

「いや、なんでもないよ」


ミッチェルの言葉を聞き逃したタエが聞き直してきたが、ミッチェルはスルーすることにした。


「え、気になるじゃない。
 なになに??」

「はは。
 何でもないったら」

「もう、なんなのよ~」


それは、旅の間からいつもいつも繰り返してきた日常。
たわいのない会話だ。
二人の様子を見ているバーバラも、いつものように微笑み見守っている。

静かな砂浜脇の道。

ふと、会話が途切れて静かな時間が訪れる。
穏やかで心地良い瞬間。

しばらく歩いて、静寂を破ったのはミッチェルだった。


「タエ、今まで……
 ……本当にありがとう」


バドが起きないように、ミッチェルは小さめにタエに声をかける。


「……どうしたの、急に?」

「いや……
 ……なんとなく、かな?」


言いよどむミッチェル。
ミッチェルの表情は、どこか真剣なものだった。
タエは黙って、ミッチェルの言葉を待った。


「タエ、君は……」

「……」

「もうすぐ、僕達は……」


ミッチェルの足が止まる。
併せてタエも歩みを止めた。
ミッチェルの一歩後ろに控えていたバーバラも、ミッチェルの横につく。

オレンジ色から、赤紫へと世界が変わりかけて――


「あと少しの時間で――」
「ねえ、ミッチェル」


ミッチェルが何かを言いかけた時、タエが遮るようにミッチェルに呼びかけた。


「え、な、なんだい……?」


不意をつかれたミッチェルは少しどもってしまう。


「私のね。
 本当の名前を聞いて欲しいの」

「え、タエ……
 きゅ、急にどうしたんだい……?」

「私ね――」


少しだけ強い風がながれた。
海添えに植えられた港町特有の木々の葉がこすれ合う。
サワサワとした音が響く。
誰にとっても心地良さを感じる風――


「タエコっていうのよ」

「……へ?」


ミッチェルは思わず、おかしな返答をしてしまう。
そんなミッチェルの様子を見たタエは、可笑しそうに微笑した。


「タエコがホントの名前。
 ハラガサキ・タエコ。
 こっちだと、タエコ・ハラガサキになるのかな。
 タエっていうのは愛称、あだ名なの」

「そ、そうなんだ
 へ、へえ。
 やっぱり珍しい発音なんだね、はは」


たわいもない会話の筈なのに、ミッチェルは大きく安堵の息をつく。
一息ついたのを確認してから、タエは言葉を続けた。


「でね、もう一つあだ名があるのよ。
 それがブリュンヒルデ。
 ブリュンヒルデ・ヴォルズング――」

「え――!」
「タ、タエ……!?」


さらりとタエが告げた言葉。
ミッチェルとバーバラの動きが一瞬止まってしまう。
そして今聞いた名前を、脳内で何回も反芻している。
タエは[ブリュンヒルデ・ヴォルズング]と言ったことを――


「あはは、ごめん。
 正直、あんまり言いたくないんだ、これって。
 私が私じゃなくなるみたいで。
 でも、ミッチェル、バーバラ。
 貴方たちには……
 なんていうのかな、隠し事が嫌だったっていうか……
 ……
 そう、それでも言っておきたかった――」


珍しくタエが言いよどむ形で沈黙が訪れる。
風と鳥の鳴き声、そして潮騒の音がしばらく辺りを包んだ。





-----------------------------------

[戦乙女(ヴァルキュリア)・ブリュンヒルデ・ヴォルズング]

天翔る馬を友として、
輝く甲冑を身に纏い、
鋭き聖なる剣を友として戦場を疾駆する戦乙女(ヴァルキュリア)。

不名誉の前に死を
無垢なるものが汚される前に不名誉を
全ての挑戦には名誉を
相手を敬い、病を癒し、悩みを救う美しき乙女――

-----------------------------------

ミッチェルの頭には、一瞬で、酒場の詩人が歌っている[英雄譚]の一説が頭によぎった。
それはこの国の人間なら、老若男女全てが知っている内容。

だが、それを上書きするように――

[タエ]と一緒に安いお酒を飲んだり、馬鹿な話をしたり、モンスターから助けてもらったり――
そんな光景が在り在りと浮かんでいった。


「そっかあ……」


ミッチェルは大きく一つだけ息を吐き出した。
そしてタエに向き合って――


「タエコ。
 今日はありがとう」


はっきりと告げた。
ただ、いつもと違って[タエコ]という発音が、かなり強調されていた。


「ミッチェル……?」


タエの呼びかけを無視して、ミッチェルは歩き始めた。


「さあ、さあ!
 [タエ]、早く帰って今日はめいっぱい飲むよ!
 一日、海で遊んでたから喉がカラカラだ。
 バドと遊んでくれたし、今日は僕がおごるよ」


さっぱりした表情のミッチェルに、バーバラも同様の笑みで――


「あらあら。
 後でお小遣いが足りなくなっても知りませんよ?」

「かまうもんか、なあタエ?」


ミッチェルはタエに振り返った。
「ぽけっ」とした表情で、タエはミッチェルを見返す。
するとミッチェルからは、どうしようもなくへたくそなウィンクが返ってきた。


「ふふ、ふふ。
 あは……!」


タエは思わず吹き出してしまった。

そして、今までの様々な出来事が思い返される。
この世界に来てしまって。
そして、ここに至るまでに、本当にいろいろな事があった。
特に[ブリュンヒルデ・ヴォルズング]。
当初、妙子は、この名前に相当振り回された。

主に悪い意味で――

最近では、[ブリュンヒルデ・ヴォルズング]とも上手く付き合えるようになったと思う。
ただ、それでも、今までのことを思うと――

ただ、今日は違う。
今日は違った。
上手く説明はできない。
けど、けど、タエはなんだか嬉しくて仕方がなかった――


「上等じゃない!
 今日は本当にお小遣い分を飲み尽くしてあげるわ!」

「そうこなくっちゃ、なあ、タエ――!」


タエは心からお礼が言いたかった。
だが、ここで「ありがとう」などと言ったら、ミッチェルの心遣いが無駄になる。
だから。
タエは旅の時と同じように接する事で、ミッチェルへのお礼の言葉にすることに決めた。







上手く書けない、後半が酷すぎる!(T-T)
いつもと比べてちょっと弱気なお姉ちゃんを書きたかったのに。
ああ、頭の中の理想をテキスト化するアプリを誰か作ってください。

またもや難産なお話の回になりました。
しかも、お姉ちゃん編が終わっていません。
次回こそお姉ちゃん編は終了の予定です。


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