まず、わたしはこの森を出ることを目標とした。
一人でずっとここにいるのも嫌だし、まずは人に出会ってこの世界の情報を集めたい。
それから少し落ち着いた場所で、所持道具と使用できる魔法の確認もしなければならない。
また、今の自分の身体がどのぐらい動けるか確認しておくのも重要だと思う。
やらなければならないことがたくさんだ。
ここは平和で安全な現代日本ではないんだ。
様々な凶悪モンスターがはびこる[D&D]の世界。
まずは自分を知って、自分の身を守れるようにしたいと思う。
日本に帰る方法はその後だ。
「はあ。
前途多難だなあ……」
わたしは、思わず大きなため息を付いてしまいました。
-----------------------------------
003 準備
-----------------------------------
まず、この白神山地(仮)を抜ける方法を考える。
道も何もわからないのだけど、不思議と不安はありません。
それは[ノア]が覚えている[技能]のためだと思います。
「ホントによかった。
ハーフエルフだからって、森での生活中心の[技能]を覚えていて――」
[D&D]にはキャラクターに[技能]という能力をつけることができます。
[技能]は[占い]や[ゲーム]、または[古代の知識]とかなりの種類から選択が可能でした。
この[技能]によって、キャラクターに特徴がでたり、また、ゲームプレイに幅が広がったりします。
わたしは[ノア]のレベルが上がるたびに、生き残るための[技能]を中心に覚えていきました。
プレイ中、[ノア]を[一人で生きているハーフエルフ]って感じのキャラにしたかったからなんですけどね。
「えと、わたしのスキルは――」
頭の中で、生き残るために自分が行えることを考えてみる。
それは久しぶりに、かけ算の九九を1の段から9の段まで言う感覚に近いものがありました。
-----------------------------------
■一般技能
・騎乗(馬)
・狩猟
・サバイバル(森)
・読み書き
・動物の知識
・動物の扱い方
・天候の予測
・水泳
・方向感覚
・治療
・薬草学
-----------------------------------
わたしは少しホッとしました。
森においては[ノア]には敵はいないと思えたからです。
木々が覆い茂っているこの場所は、[ノア]に得意な領域(フィールド)と言えます。
本当によかった。
これが地下迷宮のど真ん中とかだったら、さすがに目も当てられません。
さらに、今使えそうな魔法も考えてみる。
さっき唱えた[クリエイト・ウォーター【水を作る】]は間違いなく役に立つ。
えと、他には――
-----------------------------------
・[エンデュア・コールド/ヒート【寒さと暑さからの加護】] LV1スペル
この呪文の効果を受けたクリーチャーは、通常の寒さや暑さの影響から逃れられる。
エンデュア・コールドはマイナス34度まで、エンデュア・ヒートは54度まで何の支障も無く行動可能となる。
-----------------------------------
-----------------------------------
・[ピュリファイ・フード&ドリンク【飲食物聖浄】] LV1スペル
使い手は痛んだり、腐ったり、毒を盛られたりした食料や飲料を清めて食用に使うことができる。
使い手のレベル×1立方フィートの量まで可能。
-----------------------------------
このあたりは絶対に役にたつと思う。
[エンデュア・コールド/ヒート【寒さと暑さからの加護】]は気温が-34度から+54度まで、全く支障なく行動できる呪文。
[ピュリファイ・フード&ドリンク【飲食物聖浄】]は痛んだり、腐ったり、毒を盛られたりといった、
食用に耐えられなくなったものを、再び食べられるようにすることが可能だし。
「よーし、わたしの最初のクエストは『森からの脱出』だ!」
気合いを入れるために、わたしは近くに生えていた雑草の[オオバコ]を手にした。
これはわりと茎が丈夫だったりする。
長い髪の毛が邪魔にならないように、茎を紐代わりにしてポニーテールにまとめました。
○
まずわたしは、真っ黒な禍々しい雰囲気に包まれているプレートメイルを脱ぐことにした。
個人的には、これを身につけていても、さほど行動の邪魔にはなりません。
ただ、今は、道中で食べ物なども探す必要があったりします。
食べられる野草や薬草、果物の収集などの時には、さすがに鎧はありえないと思う。
もしも狩猟などを行う必要が出た際に、鎧の音がしていたら獲物は絶対に逃げるだろうし。
そんな理由から、真っ黒なプレートメイルを4次元バックパックにしまい込みました。
次にグングニル。これもバックパックに入れることにする。
はっきりって森の中を歩くのには、大きすぎて邪魔になってしまうからです。
代わりに身につけたのが、バックパックから取り出したワンピース形式のローブ。
真っ白な絹製。肌触りもすべすべ。
緑色の縁取りがとってもかわいいものだった。
それでいて清潔感も感じられるデザインに仕上がっている。
このローブは精霊信仰を掲げる旅のクレリックに主に愛用されているものだ。
[D&D]をプレイしていたときには、装備の外観とかわからないためになんだか感慨深いものがあります。
ただこれは通常のローブではなくて、魔法による付属効果付き。
こんな薄々なローブなのにもかかわらず、防御力にかなりの+がついている。
確か、普通のチェインメイルは圧倒しているぐらいにAC(アーマークラス)はあった。
これはクレリックのレベルが9に達して[大司教(パトリアーチ)]の称号になった時に入手した一品だ。
次に4次元バックパックから取り出したのは指輪と腕輪だ。
当然、これもただのアクセサリではない。
防御力向上のアイテムだ。
-----------------------------------
・[リング・オブ・プロテクション【防御の指輪】]
・[ブレイサー・オブ・デフレクション【偏向の腕輪】]
・[プロテクション・フロム・ノーマルミサイルリング【飛び道具防御の指輪】]
-----------------------------------
[リング・オブ・プロテクション【防御の指輪】]は言葉通りに守備力アップ!
[ブレイサー・オブ・デフレクション【偏向の腕輪】]は、さらにすごい。
防御力はもちろんなのだけど、敵の攻撃に対して防御に専念(パリ―)すると、さらに防御力が向上してくれます。
[プロテクション・フロム・ノーマルミサイルリング【飛び道具防御の指輪】]もかなりお気に入り!
これがあれば飛び道具の攻撃も自動的にはじいてくれる優れものだ。
4次元バックパックをのぞくと、まだまだ多くのアイテムがありそうでした。
5年間も行っていたシナリオのために、入手したアイテムが膨大になっているのだ。
「キャラクターシートが手元にあれば、アイテム整理なんかは楽だったのにな」
最近独り言が多くなったな-、と思いつつ、わたしはネックレスチェーンに指輪を通す。
それを首にかけて、胸元にしまい込みました。
あんまり人の目に付くところに、指輪を幾つも身につけるのもどうかと思ったからです。
「見た目からは考えられない防御力っぽいな、今」
不意打ちの遠距離攻撃対策もばっちり。
外見からは想像できないほど防御力にもなった。
ただ油断はできないし、しません。
ここは武器や魔法に代表されるファンタジーの世界なのだから――
○
武器に関してはダガーを腰に身につけてみました。
背中には特注のコンポジットロングボウと矢筒を背負うことに。
っていっても、実は、これ以外に選択肢がないんですが。
今、[ノア]が使用できる武器の記憶をたどってみることにする。
-----------------------------------
■武器技能
・スピア [専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]
・コンポジットロングボウ [専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]
・マーシャルアーツ(素手) [専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]
・ダガー [通常]
-----------------------------------
[D&D]には武器にも「上手く使える」「普通に使える」「使えない」があります。
わたしは武器の習熟に関しては徹底的に同じものにポイントを振りました。
おかげで[専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]という[技能]を身につけました。
本来[専門武器]はファイターのみに適用されるルールなのですが、マスターはわたしにも適用してくれたものです。
武器は「使える」と「上手に使える」では大分違います。
[専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]とは武器を「上手に使える」ようになったことを意味します。
これにより、命中率とダメージに大幅なボーナスがプラスされるんです。
けど[専門武器(ウェポンスペシャリゼーション)]を身につけるには、ゲーム中で結構な[技能ポイント]が必要でした。
[ノア]は同じ武器にポイントをつぎ込んだ為に、他の武器はほとんど使えないキャラクターになりました、はい。
あ、ダガーはマイナスのペナルティがつかない程度に使えるって状態です。