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オイオイ。
ガッカリサセンナヨ、オイ。
コレデ終ワリッテワケジャネエヨナ?
痛クモ痒クモネエヨ。
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「な――!?」
イアンさんの放ったフレイルは、確実に痩せこけたローブの人に命中しています!
けど、全くダメージが与えられていない!
やっぱり、普通の敵じゃないのは間違いない――!
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デモナ、モラッタモンハ返サネエトナ。
俺様ハ義理ガタイ男ナンダ。
サアテ、クソ坊主。
セイゼイ、ハイローニアスニ祈リデモサ捧ゲヤガレ――
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しわくちゃの骨と皮だけと見間違うほど細い右腕が、イアンさんの胸に添えられて――!
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サア。
テメェハドンナ声ヲ出シテクレル?
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「!!!
グアアアアッ……!!!」
あっという間に、イアンさんのチェインメイルが凍り付く――!
絶対零度の、冷気のオーラによるダメージ!?
だとしたら、やっぱりリッチ(Lich)!?
ダメ、いけない――!
「魂も宿らぬ骸、骸、我が許へ――!!!」
イアンさんに向かって走りながら[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)]を身につける!
間に合って――!
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マクガヴァン様ヲ牢屋ナンゾにブチコンダ礼ダ。
クライヤガレ――!
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ローブの男の手に、冷気が、魔力が収束していくのがわかる――!
させない!
絶対に――!
「イアンさんから、離れなさい――!!!」
全力で、本当に掛け値無しの全力で、わたしはローブの男に突っ込んだ。
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ナッ――!?
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アメリカンフットボーラーのように肩からタックルをして、ローブの男をイアンさんから引き離すことに成功しました――!
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カ、グ、ア、アリエネエ……!
ドンナ馬鹿力シテルダ、テメエは。
今ノ、コノ、マクガヴァン様ヲ、フットバスカヨ……
テメエ、本当ニ人間カヨ!?
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え、今、マクガヴァンって――!
あのウォウズの村で偽僧侶だった人!?
な、なんであの人が、こんな姿に――!?
……
でも、今はイアンさんの方を――
「ドーヴェンさん!
今です!
今のうちに、イアンさんとエミールさんを連れて逃げてください!
入り口まで戻れば、多くの僧侶さんがいらっしゃいますから――!」
「な、それじゃノア君は!?」
「わたしはここで――」
わたしの顔はフルヘルムに包まれていたけど。
ドーヴェンさんをじっと見つめました。
「……わかった。
先に戻る。ノア君も必ず……!」
ドーヴェンさんが頷いてくれました。
項垂れているイアンさんを背負い始めてくれました。
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ケッ!
逃ガサネエヨ、逃ガスワケネエダロ――!
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ローブの男(マクガヴァン?)が起き上がり、こちらに向かってくる――!
こっちこそ、負けてられない……!
「石を立てて
めぐみを
捧ぐるいのり
うけいれたまえ――
ストーン・シェイプ【石物変換】!」
地下墳墓(カタコンベ)内の石壁が波打ちはじめる。
わたしは意識する。
わたしとドーヴェンさんの間に『壁ができるように』と――!
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ナ――!?
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「ノア君――!」
ドーヴェンさんの声が一瞬だけ聞き取れました。
石はわたしのお願いを聞いてくれました。
ただ、わたしの撤退通路も塞がってはしまいましたが、これで多少なりとも時間を稼げます。
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コ、コノ、クソ魔女ガァ……!!!
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028 地下墳墓(カタコンベ)04
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「マクガヴァンって――」
先ほど、このローブの男が言った名前。
ふと、出たわたしの言葉に、ローブの男は高笑いをしました。
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カカカ!
アノ時ハ世話ニナッタヨナ、魔女!
マア、モットモ、今ハ感謝シテルゼ!
ナニセ……
ククク。
カカカ。
コンナニ俺ハ強ク、生マレ変ワレタンダカラヨォ――!
楽シクテ、楽シクテ、楽シクテ、仕方ガネエヨ!
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やっぱりウォウズの村で会った偽僧侶のマクガヴァンで間違いは無いようだけど――
なんでこんな姿で……!?
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サスガノ魔女モ、不思議ソウナ面シテヤガンナ。
カカカ。
コリャ、最高ダ!
アノ英雄様ガ、俺様ニ驚イテルンダカラヨ――!!
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「一体何があったんですか――?」
風体。
外見。
冷気による特殊攻撃。
効果が無かったイアンさんのフレイルによる攻撃。
状況から考えて見ると、リッチ(Lich)のように思えて仕方が無いです。
ただ。
リッチ(Lich)は通常、マスタークラスの僧侶か魔術師が自らの生者として身分を放棄して生まれ変わった存在。
偽僧侶とか、そういったレベルの人が成れるような存在じゃ決して無いはず――
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悩メ、悩ミヤガレ。
タダ一ツダケ教エテヤルヨ。
英雄ヤラ伝説ヤラハ、テメエラダケジャネエッテコッタ。
アノ伝説ノ、アノ野郎ハ、俺様ニ『力』クレタ。
条件ハ、タダヒトツ。
エドラスにチョッカイを出スだけ。
コレダケダ!
カカカ、俺ニトッチャ渡リニ船ダ!
アノ、クソ坊主ニ喰ラワセテヤルツモリダッタシナア!
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「伝説? 力って――!?」
マクガヴァンは、誰かの力でこの姿になったっていうこと!?
そんなことができるの!?
出来るとしても、どれだけのレベルの持ち主がそんなことを――!?
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サア、オシャベリハ終メエダ。
前ノ約束、守ロウジャネエカ。
オ前ヲ、犯シツクシテヤル。
オシャベリの続キハ、俺ノ腹ノ下デアエギナガラダ――!
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マクガヴァンから圧倒的な冷気が収束するのがわかります――!
攻撃態勢に入るつもりだ――!
なら、わたしは――
わたしはマクガヴァンをじっと見つめます。
一瞬の隙も見逃すつもりはありません。
幸いな事に、相手を見ても、わたしには「恐怖(フィア―)」は全く感じません。
重苦しい、沈黙の時間が流れて――
マクガヴァンの口元が動く。
詠唱!
なら、わたしは――!
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息ノ氷
天ノ愚カ者
魂
引キ裂カレ
困窮ノ吐息――!
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「見よ、群がる悪の霊
我を巡り攻め来たる
罪に誘うその言葉
大気を身に鎧
打ち砕く――!」
詠唱はほぼ同時に終了――
わたしの全身が、淡い緑色のような光に包まれてくるがわかる――!
けれど、マクガヴァンの右手が、今まで以上に冷気に包まれてもいる――!
あれはウィザードスペルの[チル・タッチ【寒き接触】]だ!
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カカカ。
オ前モ何カ、呪文ヲ唱エテイタナ?
失敗カ? 何モ起キテネエゾ?
俺様ニ恐怖シテ、ミスッタか!?
ザマネエナア!
俺ノ右手、今度ハ、サッキのクソ坊主ニヤッタ攻撃ノ比ジャネエゾ。
耐エラレルノカ、ナア、英雄サンヨ――!
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・[チル・タッチ【寒き接触】] LV1スペル
この呪文はかけると、使い手の手は青い光に包まれる。
その手を接近戦で命中を与えた場合、相手の生物の生命力を失わせることができる。
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「マクガヴァンさん。
わたしは前にも言いましたがプリーストです。
森で会った時以上に、今の貴方に負けることはありません。
貴方の存在自体が、わたしの領域であり領分です――!」
理由はわからないけど、今のマクガヴァンはアンデッドだ。
それも、リッチ(Lich)のような攻撃をしてくる。
なら。
わたしは絶対に負けないし、負けられない――!
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……相変わらずムカツク魔女だ!
ナラ、ソノ身体デ試サセテモラウカラヨ!
泣ケ、叫ベ、許シヲコイヤガレ!!!!
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マクガヴァンが突進してくる。
相手がエネルギードレインの攻撃をしてくるなら、避ける必要すら無い――!
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取ッタァ――!
クソ魔女ガ、泣イテ後悔シヤガレ―――!
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マクガヴァンの手が、わたしの[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)]へ触れた瞬間――
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ガアアアアア――!!?????
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緑の薄い光が、マクガヴァンの右手を包み込む。
ただそれだけ。
けど、この光は普通の光では無いのだから――
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オ、オレ様の手、手ガアア!?
ナ、何ヲシヤガッタシヤガッタ!?
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「ポジティブエネルギーによる攻撃です。
わたしは呪文を失敗していません」
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ナ、ナニィ……!?
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・[ネガティブ・プレーン・プロテクション【負物質界からの防御】] LV3スペル
ネガティブ・マテリアル・プレーンと接触を持つアンデッドの攻撃、
エネルギードレイン攻撃に対する防護力を得る為の呪文。
ポジティブ・マテリアル・プレーンからエネルギーを引き出し、ネガティブ・エネルギーを打ち消す。
さらに攻撃を仕掛けたアンデッドはポジティブエネルギーによりダメージを被る。
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今がチャンス――!
アンデッドや魔法を使い相手には油断できないから――
「葉の影
快い木陰
草そよぐ風
空に
大地に
大気に――」
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ク、クソガァ。
スケルトン達ヲブッ壊シタ呪文カ……!?
ケ!
ソンナモノハ俺様ニハキカネエ!
ハイローニアスのクソ坊主ガ何十人ガカリデモ、何トモナカッタンダカラナア!!
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「父の腕の中へ
母の懐へ
帰ろう
いつか
どこか
遠い彼方へ――」
祈りの言葉が完成する。
完成された言葉は魂を持つ。
魂は力を持って、アンデッドを浄化する――!
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馬鹿ナ、ソンナ、ソンナ馬鹿ナアアアア!!!
オ、コ、今度ハ俺ノ左腕ガァアアアアアアア!?!?
ナニヲ、ナニヲシヤガッタ、魔女、魔女ガア!
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[ターニングアンデッド]に力で、マクガヴァンの左腕が塵と化しました。
「マクガヴァンさん。
貴方がリッチ(Lich)になってしまったとしても、HD(ヒットダイス)は11です。
わたしのレベルでは、ターニングアンデッドが可能なんです」
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ナ、ナニヲ訳ノワカラネエコト、言ッテヤガル!?
俺様ノ、俺ノ腕ガア……
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「教えてください!
誰なんですか、貴方をそんな風にしたのは!?
その人はなんでエドラスを――」
誰がマクガヴァンをこんな姿に――!?
それに、なんでエドラスを混乱させるような事を命じたのだろう!?
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ケッ、魔女ガァア……!
ソンナ事、俺ガ知ルワケネエダロウガ!
化物ハ化物同士、直接聞キヤガレ!
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「誰ですか――!?」
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ケッ!
魔女、テメエノ方ガヨク知ッテルアイツダ!
ソウダ、アノ、魔術師――
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「駄目じゃないの。
戯れで飼ってやっている犬ごときが、勝手にお話なんてしちゃあさ」
「――!?」
いつのまに――!?
豪奢なローブを纏った女性が、マクガヴァンを背後から抱きかかえるような形で口を押さえています!?
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テ、テメエハ、アノ時ニ一緒ニ居た――!?
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「本当に使えないやつ。
[マイナー]クラスのアーティファクト[オーブ・オヴ・アーケイン・ジェネロシティ(寛大な秘術使いのオーブ)]から、
マスターが作ってくださったサークレット与えてくださったのに。
いくら[黒聖処女(ノワール ラ・ピュセル)]相手とは言え、傷一つ追わせられないなんて――」
豪奢なローブを纏った女性はマクガヴァンの額に付けられていたサークレットに手を伸ばす。
「これは返してもらうわね」
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ナ――!?
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マクガヴァンは何も動かない。
いや、動けない、の……!?
ローブの女性は苦々しげに、マクガヴァンからサークレットを取り外す――
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ギャアアアアアア!!!!!
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「え、え……!?」
取った瞬間です。
マクガヴァンの絶叫!
ただでさえ痩せこけていたマクガヴァンですが、あっという間に皮が蕩けるようにそげ落ちて白骨に――!?
い、一体何が、どうなっているの――!?
「汚らわしい。
100万回ぐらい地獄に堕ちればいい。
人形にもなれない駄犬が。
その上、駄犬が我が主の名前を口にしようとするなんて。
汚らわしい。
汚らわしい――
本当に汚らわしい――!」
豪奢なローブを纏った女性は、マクガヴァンだった骨を踏みつぶした。
踏みつぶした骨から、乾いた、まるでコップでも割れるような音が聞こえた。
★
ただでさえ供給過多なのに、いつもより中二病成分を多めに本話を提供いたします。
大好き!
私は末期の中二病患者。