「15枚」
自室のテーブル上に置かれたお金。
わたしの全財産だ。
「金貨15枚、銀貨4枚、銅貨13枚。
うう、貧乏は切ないなあ……」
[魔術師ビッグバイ]を倒して、わたしたちのパーティは結構なお金を手に入れることができました。
けど、分配時に、わたしはお金ではなくアイテムをもらうことになりました。
おにいちゃんの[キース・オルセン]が、領主になるために大金が必要だったからです。
で。
色々なアイテムはあるのだけど、現金が無いというわけです。
「マジックアイテムは購入してくれる人が必要だしなー」
それに、変に強力なアイテムを売っても危ない気がします。
一度、アイテムを整理して、問題がなさそうなアイテムを見つける。
それから、それを購入してくれる人を探して交渉しなければならない。
……
……結構、前途多難な気がします……はぅ。
ただ、四次元バックパックを整理していて便利な装備が入っていました!
「ゲーム中では全然意識したことなかったんだけどな」
美しい黒皮に、繊細な金色の装飾が施された手袋です。
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◇[グラヴズ・オブ・ストアリング(物入れの手袋)]
特製
・使用者はこの手袋の中にアイテムを1つしまうことができる。
・手袋の一方ずつにそれぞれ1つのアイテムを入れることができる。
・使用者は手袋の中にしまったアイテムを自分の手の中に物質化させることができる。
・武器に関しては現れた瞬間から使用者がこれを構えているものと見なされる。
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ゲームプレイ中には、正直に言うと武器の出し入れって意識していませんでした。
だからきっと、街中や宿屋の中でもグングニルって出しっぱなしだったと思います。
勿論、街におられる方でも帯刀している人は珍しくないのですが……
さすがに両手武器(ツーハンドウェポン)を所持しながら、例えば食事しているとかはあり得ないですよねえ。
それに急に何かあった時に、すぐに武器を構えているというのは重要です。
「右手にグングニルっと。
で、左手には四次元バックパックで、手ぶらになるのはありがたいかも」
左手にロングボウという選択も考えました。
突然の遠方攻撃に対して、すぐに反撃ができるようにって。
でも、それって、グングニルを投擲すれば補えると今回は判断です。
ちょっと試してみて、何か不便があったらいろいろ考えたいと思います!
さらに言えば、四次元バックパックを盗難から守れるという利点も大きいです!
「あとはコマンドワードを決めないと」
あ、コマンドワードはアイテムの効果を発動させるための詠唱のことです。
わたしの装備している[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)]にもあります。
[魂も宿らぬ骸、骸、我が許へ……]
これで、一瞬で鎧を装着が可能です。
グングニルもそういったワードを決めないといけません。
「ワードが[グングニル]だけだと、普通の会話で出てきちゃいそうだし。
うーん、それでいてわかりやすいものってなると……」
ただ、重々しい言葉にするっていう選択肢もあると思います。
モンスター相手では意味は無いけど、人が相手の場合には十分な恐怖になると思うんです。
重々しい言葉と共に出現するグングニルを見て、人との戦いが避けられればそれに越したことは無いですしね!
ハッタリってやつです!
「[全てを貫く神槍、我が手に――]この辺で試してみよっと。
鎧と似たような韻を踏んでいるし、ダメだったら変えちゃえばいいし」
ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、これで戦いが避けられるなら!
安いモノですよ! ええ!
「じゃ、さっそくと――」
わたしは鏡の前に立ってと。
「魂も宿らぬ骸、骸、我が許へ――」
夜の鎧を装着し、右手を掲げる。
「全てを貫く神槍、我が手に――!」
神槍グングニルが何も無い空間より物質化し、わたしの右手に収まる。
気がつけば、一瞬でわたしは戦闘の姿勢。
「……
……おにいちゃんに見られたら、一生笑われそうだなあ……」
鏡には、戦闘態勢まっくろ鎧のわたし。
なんだか、どんどん変身ヒーローなテレビ番組のキャラクターに近づいている気がします。
……はぅ。
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019 冒険者入門
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「冒険者になるには、ですか……?」
お忙しそうな中、イアンさんに質問させていただきました。
お金を稼げて、日本に帰る情報、仲間の情報を集める。
[ウィッシュ(願い)][ゲイト(魔導門)]の魔法探し。
それらを考えると、やっぱり冒険者しか選択肢が無いとの判断です。
「冒険者組合(ギルド)などへの登録でしょうか?
ノア様の実力でしたら、私共より口添えをさせていただきますが?」
「あ、いえいえ!
そ、その、特別扱いとかじゃなくて、やっぱり最初からというか――」
[ノア]はともかく、[乃愛]には経験が足りないと思うんです。
だから生き残るために、ちょっとずつ経験を積んでいきたい。
しどろもどろのわたしにイアンさんが、微笑みながらおっしゃってくださいました。
「はは、どのようなお考え故かはわかりませぬが……
ならばドーヴェン・ストール殿の元へ向かうとよいでしょう」
「ドーヴェン・ストールさん……ですか?」
「ええ。彼は、この[城下町エドラス]にて冒険者養成講座を開いておられます」
「え! そんなのがあるんですか!」
正直、驚きです!
まさに今のわたしにうってつけかもしれません!
「ドーヴェン殿自身はベテランの冒険者なのですが、
組合公認の元、冒険者を志す若者達に指導されておられるのです」
「ありがとうございます!
わたし、まずはドーヴェン・ストールさんへ伺ってみます!」
「ドーヴェン殿はいつもならば、酒場件宿屋の[ネンティア亭]におられますゆえに」
「わかりました!」
よーし!
まずは冒険者の基本をおさらいからだ!
○
[ネンティア亭]はプレーンラインを通り抜け、マーケット広場沿いにありました。
石と堅い材木で建てられた年期が入った感じです。
看板には、うん。[ネンティア亭]と記載されています、間違いないようです。
「よし、行こう!」
やっぱり初めて入るお店って、すこし緊張します。
木製の扉を押して中に入る。
「し、失礼します……」
中に入ると、至る所のテーブルでは賑やかな食事や会話されている人々が見受けられました。
ただ共通しているのが、ほとんどが冒険者風であること。
傷だらけのレザーアーマーを身につけている人、ローブを深々とかぶっている人、まさに冒険者の酒場って感じです!
また壁にはアクスやソード、シールドなんかが無造作に立てかけられています。
「いらっしゃい。
おや、カワイイ娘さん。ここは初めてかい? 初めての酒場[ネンティア亭]にようこそ」
「あ、いえ、こちらこそです! よ、よろしくお願いします!」
ご主人がニコヤカに応対しくれました。
耳の辺りを見ると、ハーフエルフだと思います。
って、一応、今のわたしもハーフエルフではあるのですが。
「注文いいかい? 何にする?」
「あ、ではミルクをいただけますか?」
[森の木陰亭]と同じように注文したら、周囲から笑い声が起きてしまいました。
いや、結構騒がしかったのに、どうやらわたしの会話などを伺っていたようです。
「ありえねえなあ。お嬢ちゃん、早くけえんなけえんな!」
「それか、俺に酌でもしてくれるのかい?」
「一晩いくらだ、そっちで来たんだろ? 俺が買うぜ?」
うぅ、ちょっと嫌な感じです。
考えてみれば居酒屋行って「牛乳ください」は、確かに無いかもしれない。
でも、何も注文しないっていうのも失礼だし。
今度は適当にハチミツ酒でも頼んで、もったいないけど口をつけないようにでもしないと目立っちゃうかなあ?
「娘さん。気にすることないさ。
あれはいつものことなんだ。初心者と見ると、いつもあいつらはそうさ」
ハーフエルフのご主人が、わたしにコップにナミナミとつがれた牛乳を差し出してくれた。
「娘さん、ドーヴェン・ストールに会いに来たのだろう?」
「え、ええ! よくおわかりになられましたね」
「当たり前さ、そんな新品のローブだ。
一度もクエストなんかやったことないんだろう?
娘さんみたいなやつが、この酒場にはよく来るんだ。
ああ、でも恥じることなんてないんだぞ。誰にだって初めてというものは存在するんだから」
「え、えと、はい。
あ、ありがとうございます」
マスターの言葉に、ちょっとホッとしました。
[ノア]的思考で考えればなんでも無いのですが、それでもやっぱり完全アウェイは気持ちよくないですし。
「ドーヴェンさんなら、あっちのテーブルだ」
マスターがテーブルの1つを指さします。
そこには、確かに年季の入った冒険者の体をされた男性がいらっしゃいました。
「ありがとうございます、マスター!」
「礼なんていらないさ。その代わりというのはなんだが、
しっかりと生き残れる冒険者になるんだよ、娘さん」
わたしはマスターの言葉をしっかりと胸に刻んで、教えられたテーブルに向かいました。
「はは、さっきのやり取り、ここまで筒抜けだったよ。娘さん。
冒険者養成講座の参加希望ということでいいのかい?
これで人数がぴったりになった!
よし、じゃあ、さっそく始めるとしようか!
自己紹介と、特技、それとなぜ冒険者になろうとしているのか教えてくれないか?」
大きなハキハキとした声で、がっしりとした男性が話しかけてきてくれました。
★
1話完成していたのですが、あまりにも出来が酷かった。
で、すべて没にして、全く違う話で書いたのが本話になりました。
今回は[『冒険者入門』 D&D第4版対応 1レベル・キャラクター向け冒険シナリオ]が土台となっています。
また、なんとか週1でのペースでアップしたかったので、文章も短めになってしまいました。
申し訳ありませんでした。
次話は、もうちょっとなんとかしたい!