今回の件について、イアンさんとパケさんとわたしでお話させていただきました。
まず、マクガヴァン達についてです。
「あの9人ですが、別動の者達により連行させていただきます。
ハイローニアスの名に誓いましょう。
これ以上は[ウォウズの村]の方々やノア様にご迷惑はおかけしません」
イアンさん、頭を下げながらおっしゃってくれました。
この方にお願いすれば、きっと、あの人たちも反省してくれると思う。
わたしと違って、本職の僧侶さんだもんね!
また、ナターシャちゃんとゲイルさんが襲われたバグベアーについてだ。
バグベアーの性格はカオティックイービルだったはず。
遭遇したら、ほぼ襲ってくると思って間違いないアライメント(性格)だ。
そんなモンスターが近場にいるとのことで、今回、イアンさんにお話させていただいた。
「バグベアーについては、連れて来たモンク僧の良い修行になるでしょう」
と、イアンさんが胸を張られた。
本当にありがたいことです!
ただ、バグベアーについては徒党を組む習性がある。
そのために3人のモンクの方々お調べされて、手にあまる場合には応援を呼ぶことに落ち着きました。
慎重に対応していただけそうで、こちらもホッと一息つけました!
さすが正義に厳しいハイローニアスです!
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◇バグベアー(Bugbear)
社会構成:部族
食性 :肉食性
知能 :低い
性格 :カオティックイービル
生態
・バグベアーは狩猟生活を営んでおり、殺せるものを総て食べることに対して良心の呵責は全く感じない。
・縄張りを持つ。侵入者は食料と財宝の供給源とバグベアーは見なしている。
・エルフに対して敵対心を持っている。彼らの気まぐれにより人間を奴隷にすることはあっても、エルフはその場で必ず殺す。
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そして、最後に。
マクガヴァンが蓄えたお金や宝石のことについて。
[ウォウズの村]の人達にとって、大切な思い出の品もあるだろうし、生活が厳しい中で支払ったお金もある。
この件に関して、わたしはハッキリと言えました。
「[ウォウズの村]の皆さんに返してくれる……んですよね?」
この件に関しては、すぐに即答をもらえませんでした。
けど、なんだろう?
イアンさんは「困りましたな」と言いながら、どこか嬉しそうな表情に見えたがとても印象的でした。
通常、こういったケースの場合には教会が全てを押さえるとのことだ。
イアンさんが説明してくださった。
ただ、これは納得できない。
イアンさん達も、当然、ここまで来てくださっているので費用がかかっているのは承知している。
けど、なんとか重要な分ぐらいは戻して欲しいとお願いしました。
イアンさんに深々と頭を下げる。
そんなわたしに、イアンさんも微笑されながら、頭を上げるように促してくれた。
「では一度、[城下町エドラス]へお越しいただけないでしょうか?
直接、ノア様からのご説明があれば、全く問題無いことを保証いたします」
「え……? わたしが[城下町エドラス]に、ですか……?」
「ええ、さようでございます」
[城下町エドラス]
[ウォウズの村]から数日離れた場所にある街らしい。
このあたりでは一番栄えている場所と、簡単にパケさんが補足してくれた。
「わ、わたしは全然かまわないんですが、そ、その……
この場合ってイアンさんは大丈夫なのでしょうか……?」
[ウォウズの村]の方々に不法に搾取されたお金が戻ってくるなら、喜んでやりたいと思います!
ただ、そうなると、多分、これってイアンさんは命令違反とかってならないのか心配で……
「伝説の[黒聖処女(ノワール ラ・ピュセル)]に会えるのです。
貴方様の言葉をいただけ、その上で直接世界を救っていただいたお礼を言えるのなら、
我らハイローニアスの人間ならどのようなことも行いますよ」
「そ、そうでしょうか……?」
ゲーム中でしか世界を救っていないから、全く実感がわきません。
……うぅ、罪悪感がものすごいです、ホントに……!
ただ、でも、うん、これはお願いしたい!
ニコライさん一家や、この村のみんなにはすっごくお世話になった。
だから、ちょっとは恩を返したいと思う。
それに……
……
……旅に出る切掛けとしては、ちょうど良い機会なのかもしれない。
[ウォウズの村]はとても過ごしやすい村だった。
だから。
想像以上に滞在させていただくことになった。
けれど日本に戻るためには、[ウィッシュ【願い】]や[ゲイト【魔導門】]などの魔法を使える人や、それに変わるアイテムを探さなきゃいけない。
それには[ウォウズの村]にいては不可能だ。
「……わかりました。
是非、伺わせていただきたいと思います!」
わたしの言葉に、イアンさんは満足げに大きく頷かれた。
対照的に、パケさんは申し訳なさそうな表情をされた。
「ノアさん……
本当に……なんと言ったらいいのか……
何から何まで、頼り切りじゃて……」
「いえいえ! 気になされないでください。
元々旅の身です。
それに、その足でまた旅を続けたいと思います」
「……!
この村に戻っては来てくれんのかのう……?
みんな、みんなが、ノアさんのことは好きじゃと思うんじゃ……」
パケさん……
……
……パケさんの悲しそうな表情。
不謹慎だけれども、どこか嬉しくもあって――
でも、でも、やっぱり、じわじわと何か涙腺を刺激するものがあって――
「パケさん……」
初めての放り込まれた世界。
初めて人に出会えた場所。
本当に[ウォウズの村]でよかった!
心から、そう、心から!
本当にそう思います!!
「大丈夫です!
また旅の途中で絶対に[ウォウズの村]へ寄らせてもらいますから!」
目尻を人差し指で拭わせてもらう。
涙を払うために――
○
「本当に、本当に、みんな大騒ぎだったなあ……」
[森の木陰亭]の一階。
お祭りの後。
片付けられていないお皿やコップ。
食べかけの食料。
誰もいない。
なんだか、耳がキーンとなるぐらいに静かだった。
わたしは扉の出来損ないを押して、お店の外に出る。
「ぎぃ」と、相変わらずの音を扉は鳴らした。
「わあ……!」
外は真っ暗だった。
当たり前だ、深夜なのだから。
でも、とっても明るかった。
空には満点の白い星々がキラキラチカチカと輝いている。
「星がすごいな……」
吸い込まれそうな綺麗な夜だ。
わたしの虚無水晶の嘲笑う死の鎧(ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー)とは違う夜。
安らぎを与えてくれる、そう、そんな黒で――
「最後の、夜、かあ……」
旅に出ること。
パケさんから、あっという間に[ウォウズの村]の方々に伝わった。
そうしたら、急遽、お祝いをしていただくことになりました。
音頭を取ってくださったのは、そう、ゲイルさんだ。
マスターは慌ててたくさんの料理を作ってくださった。
ナターシャちゃんはお眠むの時間だったけど、ニコライさんとソーニャさんも来てくださった。
みんな、みんなが、わたしにいろいろと食べるように勧めてきてくださって。
「あは、もう、お腹ポンポンだあ」
わたしはお腹をさする。
うん、うん。とっても気持ちいい。
やっぱり中でも一番のお気に入りはウサギのスープだ。
きっと、一生忘れないと思う。
初めての出会い。
初めての村。
初めての食事やお酒。
初めての魔法。
初めての戦闘。
そして、初めてのお別れ。
この世界に来てから、本当に、たくさんの初めてを経験させてもらいました。
大切な、大切な宝物。
そんな宝物を胸に、わたしは新しい旅に出る――
○
「うわああああん!!
あーん!!!!」
気持ちが良いぐらいの快晴。
さらさらと流れる風が世界を泳ぐ日だ。
ナターシャちゃんの泣く声が辺りを包む。
「いやだよぉ、いやだよぉ……!!」
出発の時間。
ほとんどの村人の方が、わたしを見送ってくださることになった。
「ほら、もう泣いちゃだめよ。
ノアお姉ちゃん、困っちゃうじゃない、ね、ナターシャ」
「うわああああん!!」
ソーニャさんがナターシャちゃんを抱っこ。
泣き止むように、一生懸命なだめていらっしゃった。
そんな光景の横、ニコライさんがわたし向かって右手を差し出してくださった。
「本当ありがとうございました。
もしあなたが来てくれなければと思うと……
感謝してもしきれないです」
わたしも右手を差し出して、握手させていただきました。
こちらこそ、感謝の気持ちでいっぱいです。
「いえ、わたしもとっても美味しい料理とかたくさんごちそうになっちゃいました!
ここの村のおかげで、すこし太っちゃったくらいです」
冗談めかしてニコライさんに笑いかけます。
ニコライさんも苦笑してくださった。
「いやー、まだまだ足んねえなあ。
ノアさんは、もうちっと、なんつーか、もっと食べて、
女の色気漂う身体に成長しねえとなあ」
ゲイルさんだ。
両手で、何やら数字の8のような動きをする。
……
……きっと、ゲイルさんの理想は「ボン・キュ・ボーン」みたいな人なんだろうなー。
「あと何年後かには、ゲイルさんをびっくりさせてみせますよ~
……
……た、たぶんですけど」
「わはは、んじゃま、それぐらいになったら、
一度は、また[ウォウズの村]にお披露目に来てくれよ」
豪快に笑う。
なんだろう。
ゲイルさんはさっぱりしていて、なんていうのかな。
なんか許せちゃいます。
ちなみにおにいちゃんが、ゲイルさんのようなことを言っていたらグングニルの刑を執行です。
「ノアさん。
是非、またカキゴオリを食べさせて欲しいな」
[森の木陰亭]のマスターだ。
いつも、とっても美味しいご飯を作ってくれるマスター。
口では悪口ばっかりだけど、本当は友達のことを心から大切に想っている人。
「もちろんです!
それと、今度は別の料理も作りますね。
そのときは食べてくれますか?」
「はは、それは楽しみだ。
では、わたしも負けないように、これからも創意工夫しないとな」
マスターが、わたしに特製のお弁当をくださった。
今日のお昼が一気に楽しみになりました!
「いつでも[ウォウズの村]に戻ってきてくだされ。
未来永劫、いつまでも[ウォウズの村]はノアさんを歓迎するでの」
杖をつきながら、パケさんがわたしに歩みよってくださった。
「ありがとうございます!
絶対に戻ってきますので、そのときはよろしくお願いしますね!」
パケさんが村人に何やら指示を出された。
すると、奥からいっぱいの果物や野菜なんかの食べ物を持って来てくださった。
「ノアさんと言えばこれじゃろ?
受け取ってくだされ」
「わ、こんなにいっぱい!」
本当に、本当に、嬉しいです。
……
……
……でも、わたしのキャラって食いしん坊で広まっているのかなあ……?
ちょ、ちょっとだけ気になります。
……ちょ、ちょっとだけですよ!
「のあおねーちゃん……」
泣きすぎて、もう、泣けなくなったのか。
ナターシャちゃんがわたしにテクテク近寄ってくれた。
「……ちょっとだけ出かけるだけだから。
絶対に、またナターシャちゃんに会いに戻ってくるからね!」
わたしはかがんでナターシャと視線を合わせる。
泣きすぎて、目と、鼻とかが真っ赤だった。
「んー!」
ナターシャちゃんが、右手の小指を差し出してきた。
「え……?」
……
……あ、これってば!
「覚えていてくれたんだ……!」
「ぜったいなんだからね、ぜったいなんだからね!」
「うん、うん、絶対にまた会いにくるよ!」
わたしはナターシャちゃんと小指を絡ませる。
「ゆーびきーりげんまーん、
うそついたら、はりせんぼーんのーます。
ゆびきった!」
小指を切りはして、ナターシャちゃんはホッとした顔を見せてくれた。
「これで、おねえちゃんはぜったいにもどってこなきゃいけないんだから!」
「うん! わたし、針なんか飲めないから……
……だから、だから、絶対に会いに来るからね!」
ぎゅっと、ナターシャちゃんを抱きしめる。
やっぱり暖かい。
忘れない、絶対に、また戻ってくるんだから――!
魔法を見つけて!
「ノア様、それではそろそろ……」
脇に控えていたイアンさんが、わたしを促す。
今回、[城下町エドラス]までは、イアンさんの馬車に乗せていただけることになったのだ。
わたしはナターシャちゃんから離れた。
そして、あらためて村の方々の前に立つ。
「本当に……
本当にお世話になりました……!」
わたしはお辞儀をした。
心から、想いをこめて――
「では、最後にわたしからは――」
昨日の夜から考えていた。
今のわたしにできる、せめてものお返しを――!
「ウォウズのみんな、大地、みんなが、みんなが幸せになれるように――」
右手を大空に――
左手は胸に――
精霊のみんな、自然のみんな、生きているみんな、力をちょっとだけ貸して!
「雨風をすべて、
花をかざり、
鳥をやしない、
まもりたもう、
みのる稲穂、
ゆたけき恵みを、
春には生かし、
夏には育て、
秋には足らわせ、
冬やすまする――」
全力で……!
わたしの感謝の思いを力に変える――!
「プラント・グロース【植物巨大化】!!!」
大地が、空気が、木々や、花に力が注ぎ込まれるのがわかりました。
成功だ!!!
「わあ、すごい、のあおねーちゃん!」
「な、なんじゃこりゃあ!?」
「の、ノアさん、こ、これはドルイドの秘術か!?」
「な、なんということじゃて!?」
[ウォウズの村]周辺の植物が急激に生長していきます。
ぐんぐん、ぐんぐんと伸びていって。
果実はたわわに実り、
穀物がぐんぐん生長し、稲穂が首を垂れる。
花達はポンポンポンと、可憐に咲きほこる――。
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・[プラント・グロース【植物巨大化】] LV3スペル
この呪文は2つの使用方法がある。
1つには通常の植物を成長させるもので、茂みややぶ、密林などを作り出すことができる。
この呪文の対象地域には、低木、茂み、茨、つる、ツタ、根、木、落ち葉などが瞬く間に成長して障害
物を形成する。
2つめは対象地域の植物を元気に豊かにさせる。
果実や穀物が実り、植物の生存確率を増してやることができる。
この呪文の効果は冬になると自然に消滅する。
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「こ、こりゃあ、今から収穫せんといかんじゃないか」
「あはは! ノアさん最後のプレゼントは、俺たちに仕事しろってことかあ」
「いくら食べても、今年は食べきれそうにないなあ」
村のあちらこちらから、活気に満ちた声が聞こえてくる。
「みんな、本当にありがとうございました!」
わたしはイアンさんの馬車に向かって歩き始める。
この瞬間からは、後ろは振り向かない。
そう、もうたった今から新しい冒険が始まったのだから――
辛いことも多いかもしれない。
でも。
でも、今のわたしならきっと大丈夫!
さあ、先に進もう! ね、[ノア]――!
★
酷い文章は承知の上で、なんとか一段落です!
これだけで、なんだか嬉しいです~゚.+:。(ノ^∇^)ノ゚.+:。
もっとワクワク感や、恥ずかしい台詞や、かっこいい戦闘シーンが書ければ良かったんですが……
……本当に文章で表現することの難しさを痛感するばかりです。
まずは1話から読み直して、反省大会を開催いたします。
ここまで読んでくれた方々に、心からありがとうです――!