「草、木々、岩、大地、空気、水――」
わたしはそっと目を閉じる。
周囲から、とっても優しい力を感じられた。
木々や草や花からは応援の声が届く。
「本当にありがとう……!」
力を込めて、わたしはシーフたちを見つめるために瞳を開いた。
「自然のみんなが、わたしの大切な仲間です。
ここはわたしのスフィア(領域)。
あなた方は何もできません。
降伏してくれませんか……?」
本気でそう言いました。
シーフたちの身体付きや動作から、[ノア]は相手の強さ(LV的なもの)を教えてくれる。
冒険者LV1~2程度との判断だ。
わたし[ノア]はファイター/クレリックの兼業でレベルは15/20。
真正面の戦いで、決して負ける要素は無い。
その上で、今、わたしの頭の中では[勝つための手段]がいくつも浮かんでいるのだ。
だけど、返答は嘲笑だった。
「聞いたか、聞いたか!? とうとう頭がおかしくなっちまったのか!?」
「まー、頭はどうでもいいけどよ。顔と身体には傷つけんなよ」
「そりゃ、俺たちの台詞じゃないのか、お嬢ちゃん!」
「空想はお家でやりな。まー、お家には二度と帰れないんだけどな」
正直、予想通りの回答だ。
逆に、ここで降伏された方が驚いたかもしれない。
やはり残念であることは変わらないのだけど……
「……そう、ですか……」
なら、わたしも戦おう。
覚悟を決めよう。
[ウォウズの村]のみんなには……
……
……
ずっと笑って過ごして欲しいから――!
「みんな、お願い!
わたしに力を貸して!」
大きな声でお願いをする。
周囲の木々や草花、蔓や根がざわついた。
「ザワザワ」と、一斉に音をあげる。
「な、ちょ、なんだ!?」
「俺の足が!?」
「根っこ? なんだ!?!?」
「う、うわ、足が動かねえ!」
マクガヴァン達の足下から、草や木の根やツタなどがまとわり始める。
下から上へ。
植物は身体を這いずり、腕、首に浸食していく。
「敵を動けないようにして欲しい」
わたしのお願いに、植物たちは嬉々として従ってくれたのだ。
今のわたしは一人じゃない――!
「お、お前達、なにやってやがんだ!?
そんなのナイフで切っちまえ、ただの雑草だ!」
絶対の自信を持っていたマクガヴァン。
自分の考えていたシナリオから外れたからだろうか。
声に狼狽した成分が感じられる。
またマクガヴァンが所持しているメイスはブラジョニングウェポン(叩くタイプの武器)だ。
メイスをいくら振り回しても、草木には効果が薄い現状にあせりが見て取れた。
「木の根っこや蔓は、あなたたちが思っているより丈夫です。
今、所持されてるナイフぐらいでは簡単には切断できません」
ゲイルさんや、[ドルーアダンの森]で仕事されている[ウォウズの村]のみんな。
そんな方々だったら、自然の強さは身を持って知っているだろう。
一生懸命、がんばって生きている人なら――
「ば、ば、馬鹿な!」
「ふ、ふざけやがって!」
「くそ、くそ、こ、この魔女め!」
足に絡みついた木の根を切断することをあきらめた一人のシーフがいた。
叫びながら、わたしにナイフを投げようとしている。
あまりにも緩慢な動作だと思えた。
遅い。
まるでスローモーション映像。
投げられるナイフに、対処方法が何通りも頭をよぎる。
その中で、わたしは何もしないことを選択した。
瞬間、ナイフは何もない空間で弾かれて地面に落ちた。
わたしの1mぐらい前だろう。
それはまるで見えない壁でもあるかのように。
「な、な、なんだ、何がおこった!?」
「わ、わけがわかんねえ!?」
「間違いなく命中すると思ったのに!!」
[プロテクション・フロム・ノーマルミサイルリング【飛び道具防御の指輪】]の効果だ。
今のわたしには、悪意を持って投擲された通常飛び道具は一切効果が無い。
「魔女じゃ無いです。わたし、プリーストです。
……でも、これから魔法は使います。
だから……
魔女になります――」
マクガヴァンを含めた9人は植物に完全に絡め取られた。
それは蜘蛛の巣にかかった昆虫を思わせる。
「ありがとうね、森のみんな」
わたしは適度なサイズの木の枝を拾いはじめる。
これから魔法を使うための触媒に使うためだ。
突然、木の枝を拾い始めたわたしに、マクガヴァンがいらついた声を上げた。
「な、何をする気だ!?」
「触媒を集めています。
あなたの[ナイフを突き立てられた円盤]みたいなものです」
「な!?」
数分で20本ほどの、適度な大きさの木枝を集めた。
さすがに森だと簡単だ。
これをシーフたちの目の前に置いていく。
「な、何をする気だ、ま、魔女め……!」
シーフ達から罵声を浴びせてくる。
だが、もう先ほどまでの嘲笑は感じられなかった。
彼らの叫び声に、わたしは答えない。
頭の中で呪文を構成を開始するためだ。
「露にしめりて
夜を守る業
剣もほのおも
蛇の牙――[スティック・トゥ・スネーク【蛇の杖】]!」
呪文の完成後、シーフの目の前に置かれた木の枝が震え始める。
木目は鱗に。
樹液は滑り。
分れた枝は鎌首へ。
「ひ、ひぃ!!」
枝は巨大な蛇(ジャイアントスネーク)に変身した。
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・[スティック・トゥ・スネーク【蛇の杖】] LV4スペル
この呪文により1d4+使い手のレベルの棒をヘビに変えることができる。
ヘビは使い手の命令に従い、敵を攻撃する。
使い手が希望した場合、ヘビが毒を有している確率は使い手のレベルあたり5%となる。
逆呪文はヘビを木の棒にしてしまうことができる。
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使い手のレベルあたり5%で毒持ち。
つまり、わたしのレベルだと100%で毒をもっている大蛇だ。
毒は致死性。しかるべき処置をしないと30分は持たないだろう。
また締め付けも1d4+1ダメージ×1分。
一般人(ノーマルマン)なら1,2分で絞め殺せる力がある。
身動きが取れないシーフの目の前、大蛇が鎌首をもたげる。
舌をチロチロと出す。
さらには毒液を吐き、威嚇するものもいた。
「あ、うわあああ!!」
「ま、魔女、本物の魔女……!!」
「た、助けて……」
「て、てめえら、早くなんとかしやがれ! 俺を助けだせ!」
マクガヴァン以下、シーフ達が必死に植物たちから逃れようとし始める
いくつかの草は切られるものも、次から次へと植物が絡みついてくる。
「ここはわたしのスフィア(領域)と言いました。
……もう、逃げられません」
シーフ達に絡みついた植物の上から、蛇が這い上がる。
足下から腰へ、首へと、上り絡まる。
「お願いですから、抵抗しないでください……!
この子達、あなた方の骨を砕くなんて簡単なんです。
それに毒も持っていますから……!」
「ま、魔女め!」
悪態をつきながらシーフ達は手に持っていた武器を落とす。
わたしは武器を一カ所にまとめた。
マクガヴァンに、もはや僧侶然とした面持ちは欠片も見られなかった。
■■■
なんなんだ、この女は!?
ありえない、ありえない!
こんな[魔法]見たことねえ!
一流の司祭だって、こんなことできるなんて聞いたことねえ!
ひ、蛇が、蛇が!!!
も、もう、なりふり構ってられねえ!!!
「さ、さっき言ったことに怒ってるのか!?
あ、あんなの冗談にきまってるだろ!?
な、なあ、ちょっと落ち着いてくれよ、な?」
「……」
くそ、なんとか言いやがれ、この女!
か、金か!?
「金、金が欲しいのか!?
そ、それなら俺と手を組まないか!
あんたの[魔法]と、俺の頭が加わりゃいくらでも稼げるぜ!
だ、だから、な!」
今、この瞬間さえ騙くらかせば、どうとでもなる!
所詮、こんな子供だ!
「一生、遊んで暮らせるぜ、なあ、なあ!?」
■■■
「あなたって人は! 本当にどこまで……!」
心から、[ウォウズの村]のみんなに、本当に謝ってくれれば、まだ、まだ――!!
この人は――
この人ってば――!
「魂も宿らぬ骸、骸、我が許へ……!」
わたしは鎧を呼ぶ。
幾多の死闘、血を浴びたであろう鎧。
虚無水晶の嘲笑う死の鎧を――
夜の帳が降りてくる。
わたしの身体に降り注ぐ。
星も見えない空。
暗黒を身に纏おう。
「ひ、ひぃ!?」
わたしは薬草を入れるはずだったバックパックから、槍を引き出す。
アース神の城壁を打ち破った槍。
シグムントの聖剣グラムを破壊した槍。
百発百中、必中の槍。
神々の宝である、このグングニルを――
「そ、その格好!?
黒い鎧、それに槍って言えば……
そ、そんな、お前!?
まさか、まさか……
……あ、あの、[魔術師ビッグバイ]を退治したっていう……!?!?」
一歩、一歩近づく。
「わ、わるかった、おれがわるかった!
だ、だから、だから!」
一歩、一歩近づく。
「お前、あの、あの、ノアなのか!?
し、知らなかったんだ、知らなかったんだ!!
あ、あんたが[黒聖処女(ノワール ラ・ピュセル)]のノアなのか!?」
一歩、一歩近づく。
「た、助けてくれ!! な、なんでもするから!!
た、たのむ、ひ、ひぃー!」
[神槍グングニル]をマクガヴァンに差し向ける。
魔力が高まるのを感じる。
穂先に光が集まる。
「ひ、ば、化け物!」
マクガヴァンはメイスを投げてきた。
手にはツタが絡まっているため、ほとんど力はこもっていない。
わたしは避けない。
避けるまでもないのだ。
メイスが[ヴォイドクリスタル・ラフィング・デス・アーマー(虚無水晶の嘲笑う死の鎧)]に触れる寸前、鉄で出来ているメイスは一気に赤さびに包まれる。
鎧に触れる時には、メイスは衝撃でボロボロと崩れていった。
「ひぃ、ば、魔女、魔女……!」
神槍グングニルに[光輝]が満ちてきた。
LV1や2に冒険者のhp(ヒットポイント)なら、触れるだけで塵となるぐらいの攻撃力だ。
「か、金は全部か、か、かえ、返すから……!
た、たのむ、たのむ、たのむから、命だけは……!」
■■■
な、なんで……!?
なんでこんなところに、あの[英雄]たちの一人が!?
子供でも知っている[魔術師ビッグバイ]を退治した冒険者!!!
あの、ビッグバイを!!
3つの国を瓦解させて、数多の町や村を蹂躙した魔王!!
そんな魔王を、この、この、女が!?
全てを溶かすブラックドラゴン――
鉄の巨人サイクロプス――
魂を吸い取るマインドフレイヤ――
海を制したクラーケン――
酒場や教会に行けば、嫌でも耳にする英雄たちの詩吟。
この、目の前の女が本物の――!?
[黒聖処女ノア]
流れる黒絹の髪、オニキスが如き瞳、新雪の肌の娘。
死する悪霊達が、最も恐れる娘。
灰は灰に、塵は塵に――
神より授けられし槍、貫けぬものは無し。
悪魔より授けられし鎧、娘を愛してやまず。
黒聖処女は愛される。
神に。
悪魔に。
精霊たちに。
じ、実在していたなんて――!?!?
■■■
「あなたって人は――!」
わたしはグングニルを握る手に力を入れた。
穂先はマクガヴァンに向けて――
★
初の戦闘シーンだったはずなのに、まともな戦闘が無い……w
今回は徹底して厨二病的と言われている文章を書くように心がけたつもりです!(大好き!w)
そのために、いつも以上に読みにくい文章かもしれません。
ご指摘やアドバイスなどをいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。