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今は昔の物語…… 冷泉帝の御世であった頃……
ある大臣の御子息の中に、珠のような男の子が居りました。
生母に瓜二つと噂される美貌が災いしたのでしょうか……
心の無い人々に、悪しき呪いを掛けられてしまったと、語り継がれております。
この侭では、息子の身が危険であると判断した大臣は、決意します。
元服までの間、呪いより息子を守る為に、
この子を女人として育てよう………。
これは、数奇な運命を辿り、
遠き世界の壁を越えて、平安の世に『女装の貴人』として生まれ変わった、
暁の君の半生の物語 ―――――
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ごきげんよう皆様………。何時の間にか、女装が完全定着した暁です。
何時の間にか、『女装をしても!名誉が保たれている様に……』なっていました。
都では、『悲劇の若様』扱いです。 主上まで動いています。
凄く嬉しくねぇぇぇぇぇぇぇ!!!
父上の思考のベクトルが、此処まで予想を斜め上を行くとは、予想していませんでした…。
以前の状況で、『貴方の名誉が守られるように、早急に手を打ちます』なんて、台詞を言われたら、
普通『女装を止められるよう』に手を打ちませんか?
間違っても『女装をしても問題無し!!』で、手を打たないと思う………。
「念の為に言っておきますが、私も『女装を止められるよう』に動いていましたよ……」
其れが何故!?こんな事態になるのですか? 父上!!
「話の詰めの段階で、何処かの誰かさんが、勝手に屋敷を抜け出したせいで
誰かさんの母上が、大層ご立腹でしてね。罰を与えるべきだと…………」
なんてこったい!! 自業自得ですか……。
まぁ母上は、御優しい方ですから、ちゃんと反省していれば………
…
……
………
…………… 一向に、女装解除の通達が出ません。
父上!! その件に関して、何か解決策は無いものなのでしょうか?
「何度も言って居りますが、母上の了解さえ頂けたのなら、私は何時でも元に戻ることに同意しますよ…」
それが難しいから、父上に相談しているのでは無いですか!
「御自分で撒いた種は、自らが刈り取るのが、立派な公達と云うものです……」
正論すぎて、ぐぅの音も出ません………。
母上を説得すれば…ですか?
いや、既にもう何回も…しましたよ!?
――― 回想 ―――>
「お母様! 「ダメですよ!」…………………」
………説得終了。まだ用件すら言ってないじゃん!
「貴方が最近『お母様』と言う時は、私が承服しかねる内容の御願いをする場合だけですから……」
警報! 警報! ……敵は強大です!!
流石に、生みの親です!! 考えている事はバレバレなんでしょう…。
「むぅ…。じゃあ普通に……。母上! お願いしたい事が「ダメですよ!」…………………」
………説得終了。お願の内容すら、言わせて貰えません。
「内容も聞かずに拒否されるのは、親として、人として如何なモノかと、実の息子は思うのですが……」
此処で終わる訳には行きません!! 私の男としての矜持に掛けて!!
「確かにそうですね……。ちゃんと内容を聞かない内に、思い込みだけで返事をしてしまったようです。
いいでしょう…………。それで、私に、何をお願いしたいのですか?」
やっとスタートラインに着けた……。ここは素直に、
「実はですね。いい加減、男の服装に戻り「ダメですよ!」…………………」
………説得終了。
もはや最終手段を使うしか無いのか!?
あれ…正直言ってプライドが、ガタガタに成るからやりたく無いんだよね……。
でも……もう、口で説得できる気配じゃ無いんだよね。はぁ………。
「嫌だ~!嫌だ~!嫌だ~!嫌だ~! 女装は、もうイヤ~!!!」
最終手段…『駄々っ子モード』!!
兎に角、ごねる!喚く!泣きじゃくる! ………大人の矜持なんてポイ捨てです。
嗚呼……。自尊心が痛い………。
涙混じりの視線で、母上を見上げる……。母上は、ちょっと困った様な表情をしてしていた。
よ~し…! 後、一押し!!!
「は~は~う~え~~~」
なるべく甘えるような声で、オネダリ………。 僕、、未だ3歳だもん………。
「は~は~う~え~~~(涙)」
そんな私を宥めるかの様に、母上は溜息を1つ吐くと、私に目線を合わせて、優しく私を抱きしめて来た。
柔らかな感触が、体を包み込んで居る……。
ちょおお………なんか柔らかいのが!当たってる!当たってる!!
「貴方が、嫌がっている事は、良く分かっているつもりです……」
母上が優しく語り掛けてくる……。
あぁ!!なんか梅花香の良い香りがぁぁ!!
「でも、私も父上も、貴方の事を大切に思い………」
やばぁぁ!! 平常心…!! 平常心…!!
「貴方の為を思って、やっている事なのです…………」
ゲッ!! ちょぉぉぉ!! 母上!! 力入れすぎ!!入れすぎ!! 締まる!!締まってる!!
「出来ることなら、どうか……………」
息がーー!! 呼吸がぁぁぁ!! 酸素がぁぁぁぁぁ!!! ギブ!!ギブ!!ギブ!!
「私達を信じて、このままで居て貰えないでしょうか………?」
……………………………… (返事が無い…屍のようだ)
<―――回想終了―――
説得の度に、締め落されます。
前半は天国なのですが、後半の地獄状態のインパクトが大きすぎて、
プラスマイナス0の帳消し所か、トラウマを抱え込む借金状態な気分です。
自分から、口にしたく無い話題です。
もう……いいよ………。半年もすれは、母上も飽きるだろうから………。
格好に関しては、大人しく、お許しが出るまで我慢して居よう……。
―――― 其れよりも問題なのは…
監視が厳しくなって、自由に移動することが出来なくなった事でしょうか。
あれ以来、兄上の居る隣の『二条東の院』へ行く事は勿論ダメになり、ここ二条の院の中ですら
西の対近辺から、出して貰えなくなりました。
「おはようから、おやすみまで…」、私の暮らしを見つめる…母上か姉上がピッタリと張付いています。
最近まで姉上の帯解きの儀とか、来年に予定されている引越しの準備で、忙しかった筈の母上ですが、
育児に専念する事にしたのでしょうか? 殆ど1日中…私の近くに居ます。
家庭教師との勉強時間が増えたはずの姉上も、暇さえ有れば此方に来ています。
つまり…………逃げられません!!
一回だけ抜け出せたのですが、直ぐに、凄い数の家人に囲まれました。
兄上の所に行きたいと言っても、
「兄君は今…勉強で大切な時期だから邪魔をしてはいけません!」
と言われて敢無く撃沈…。まぁその通りなので、我侭は言いませんが、
少し位、自由に外に出して欲しいです。もう何日、家に篭っているのか?……忘れました。
……忘れてましたと言えば、一向に日程が決まらなかった、私の袴着ですが
私の行動で起きた問題への対応の為、色々と忙殺されていたらしく、
『申し訳ありません。忘れてました…』と言われてしまいました。
そこの両親!! 元凶の私が言っちゃいけないかもしれないけど…ちょっと酷いよ!!
そして現在自分は、『悲劇の若様』で注目されているので、年内は難しいとのこと……。
因果応報ですか……。千歳飴食べたかったなぁ……。
あっ、姉上の帯解き祝いがあるじゃん!!
期待せねば!!
…
……
………
そんなモノ(千歳飴)は、この時代に有りませんでした。 俺のワクワクを返せーーー!!
(暁日記:第5巻 「母紫」より抜粋)
あとがき:
感想を書いて下さった諸氏に、感謝の意を……
あれ…? オカシイなぁ…。
今回、ヒロインが登場する予定だったのに。日記の巻数がずれちゃったじゃないか!?
(了)