■
暁が生まれてから、余り時間の経っていない頃、
暗い部屋の中で、1人の僧が加持を行っている…………。
( 見 え る は 、 天 を 貫 く 石 塔 )
( 不 思 議 な 形 の 車 )
( 異 形 の 姿 の 無 い 大 都 市 )
( 妖 を 駆 逐 し た 人 々 の 魂 )
( 彼 が 手 に 持 つ 物 は 、 日 輪 …)
( 光 の 人 影 ………………… )
( そ し て、 妖 を 否 定 す る 理 ……… )
( くっ!! ――――この辺りが限界か!! )
真言を唱えていた僧が、意識を失い倒れる…………
「僧都!! 確りしてください!! 僧都!!!」
■
「申し訳ありません…。私の力では、若君の未来を見通すことは出来ませんでした……」
先ほどまで、加持をしていた僧は、まだ自力では起き上がれないようであった。
不思議な街の情景は、占いにあった西方浄土の姿でしょうか?
「『日輪』『光の人』………。そこまでなら瑞兆のようですが…」
加持を依頼したと思われる公達の口調は、瑞兆とはかけ離れた色を持っていた。
高名な僧侶の加持が、原因不明の事態で中断される。
それは、尋常でない出来事が、自らの息子に起きている証でもあるのだ。
「はい。そこまで見えた後、何かの力が、私の術を妨げたようです……。恐らくは………」
「それが、あの子の力ですか………。 それで、それは…何か良く無い物なのでしょうか?」
聞くのは怖い………。でも自分は国の重責を担う大臣である。
真偽を明らかにし、最悪の場合には………………。
「少なくとも、悪い気配は感じませんでした……。恐らくは問題無いかと………」
「そうですか………。 とりあえずは安心しました……。
部屋を用意させますので、今夜はこちらにお泊り下さい。ありがとうございました……」
張り詰めていた部屋の空気が、少し緩んだ。
「大臣……。1つだけ御忠告を」
「何でしょうか?」
「善し悪しを問わず、大きな力と云うものは、注目を浴びるものです……。
巨大な力ともなれば、要らぬ関心を買うこともありましょう……」
「隠すことが、この子の…為ですか」
「これほどの力です。何時迄も隠し通せるものでも無いでしょうが、
せめて自らの力で、自分を守れるような御歳になるまでは………」
「今直ぐにでも、力が露見しないような策を、考えた方が良いようですね」
…
……
其れから、私はあの子を守る為に動き始める。
主上や上皇にも相談して、国一番の陰陽師を招き入れて対策を取った。
「誰か良からぬ者が、若君が呪術を掛けると、恐らく術者は違和感に気付くでしょう……」
「何か対策は、無いのでしょうか?」
表の世界では、あの子を守れても、裏にまわれば何と無力な事か……。
飛ぶ鳥すら落とす権勢と言われても、所詮は『井の中の蛙』に過ぎない。
「それに関しては、呪術の対策が堅いと思わせておけば、問題は無いでしょう」
そして、この有能な者を遣わせて頂いた主上には、深く感謝せねばならない……。
「容姿を偽るのは、最も簡単な呪術の備えです……。素性を偽ることで、
術を逸らすことが出来ます。また若君の衣服には、護符を縫い込ませます。
更に、常にお守りを携帯させて置きましょう。これだけの備えであれば
相手は、呪術が効かない・発動しない理由を、恐らくは勘違いするかと…………」
「なるほど…………。ありがとうございました」
…
……
………
…………
■
「如何されましたか? 大臣!?」
不意に呼び掛けられた声に、意識が戻った。
あの子が生まれた日の出来事………。
私と、紫の上、主上、兄上、あの時の僧都、
そして…、目の前に居る男しか知らない、息子の秘密………。
「あの子の生まれた日の夢を…見ていました………」
…出来れば、普通に育ててあげたかった。
「今日、あの子の前での式神召喚………
貴方ほどの者であっても、あの子の近くでは、式神を呼び出せないのです…か」
男は黙って頷く………。
「もはや猶予はありません!!」
あの子の力は、予想以上に…強すぎる………。
それは、このままでは遠くない未来に、誰かが気付くことを意味していた。
「既に、若様の護衛の準備は出来ております。術者の手配も終わっております」
そう…もはや、姿を偽るという行為には、ただの余興以上の意味を持つ所まで来ていた。
万が一の時の為に、時折、あの姿に慣らせて置いたのは、無駄に成らなかったようですね。
心配性の紫の上は、毎日女装させるべきだと言っていましたが、
出来るだけ普通に育てたいが為、今まで、其れを受け入れることはありませんでした。
それも……… 今日まで…です!
「では、予ねての予定通りに始めてください。それと………
これより元服まで、暁の容姿と、彼に関わる儀式の日程を偽装します!」
…
……
この日、源氏の大臣より、御子息『暁の君』に呪術を掛けている不穏な者達の
存在が有ると公表され、彼を呪術的に守る為に、元服まで女人に姿を変える旨の
通達が出された。
ときの冷泉帝は、国の柱石たる大臣の家に降り掛かった災難を悼み、
大臣と子息の名誉を汚すことの無きように詔を出されたのでありました。
冬空に土に塗れて麦を踏む芽に恨まれよふとも実なす日のため
暁………。
これから私がすることは、貴方を傷つけ、大層私を恨まれることになるでしょう……。
ですが、貴方が健やかに成人の日を迎えられる様にする為に
私は遭えて、この身を汚し、貴方を傷つけましょう。
冬に麦を踏む農夫のように……。
あとがき:
本編(暁側)は、軽く……………………
裏話(源氏側)は、シリアス風味………
そんなSSを……
書けたらいいなぁ…。
投稿開始した時、画像認証がある状態でしたので、
外された後の、投稿のし易さにビックリ
(了)